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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服201221126 | 審決 | 商標 |
無効2017890011 | 審決 | 商標 |
無効2015890035 | 審決 | 商標 |
無効2019890045 | 審決 | 商標 |
異議2014900326 | 審決 | 商標 |
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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X141825 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X141825 審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X141825 審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X141825 |
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管理番号 | 1314412 |
審判番号 | 無効2015-890052 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2015-06-12 |
確定日 | 2016-04-11 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5475323号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5475323号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5475323号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成23年9月30日に登録出願,第14類「貴金属,キーホルダー,宝石箱,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計」,第18類「皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,皮革」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,同24年1月31日に登録査定され,同年3月2日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第89号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号によって無効とされるべきである。 2 具体的な理由 (1)請求人が引用する商標 請求人が引用する商標は,次のとおり(以下,それらをまとめて「引用商標」という。)であり,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。 ア 国際登録第734686A号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の態様 別掲2のとおり 指定商品 第25類「Clothing,footwear,headwear;sportswear,sports footwear,football boots and studs therefor,non-slip devices for footwear,corsets,textile nappies.」並びに第32類及び第33類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載の商品 国際商標登録出願日 2000年(平成12年)4月19日 優先権主張 オーストリア 2000年3月17日 設定登録日 平成13年8月31日 イ 登録第3173791号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の態様 別掲3のとおり 指定商品 第32類に属する商標登録原簿に記載の商品 出願日 平成5年3月11日 設定登録日 平成8年7月31日 ウ 登録第5009806号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の態様 別掲4のとおり 指定商品 第32類に属する商標登録原簿に記載の商品 出願日 平成17年3月31日 設定登録日 平成18年12月8日 (2)商標法第4条第1項第11号該当性 本件商標は,引用商標1に類似する商標であって,引用商標1に係る指定商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。以下,詳述する。 ア 指定商品の類否 本件商標に係る第25類の指定商品中「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」は,引用商標1の第25類の指定商品中「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」など同一又は類似するものを含んでいる。したがって,本件商標の指定商品は,引用商標の指定商品と同一又は類似するものである。 イ 本件商標と引用商標1の類否 (ア)本件商標及び引用商標1の構成 本件商標及び引用商標1は,背をくの字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する雄牛を,左側面方向からシルエット風に表したものという外観を呈し,これを基本的構成とする図形商標として共通するものであり,また,称呼及び観念についても同様と考えられるものである。 一方,両商標を仔細に比較すると,本件商標の雄牛は角がやや大きく白抜きで表されているのに対し,引用商標1の雄牛の角はやや小さく黒く塗りつぶされている点,本件商標の雄牛は角と(左)目以外はすべて黒く塗り潰されているのに対し,引用商標1の雄牛はところどころに筋肉の隆起を表現した白抜き部分がある点,及び,尾のなびき方が若干異なる点が相違しており,両商標にはかかる具体的構成において差異がみられる。 しかしながら,上記した両商標における基本的構成は,両商標の基調をなす共通点であって,a)背をくの字状に曲げて頭部を低くしている,b)顎を引いて前方に角を突き出している,c)胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出している,d)尾を略S字状になびかせている,e)突進する雄牛を左側面方向から表しているといった5点もの主要な特徴がすべて共通している。さらに,両商標は,f)シルエット風に表すという描法においても共通することから,こうした多数の主要な特徴が共通している両商標は,その基本的構成が一見したときに最初に認識しうる特徴であり,これによって看者の印象に強く影響を与えるといえるものであるから,互いに構成の軌を同一にするものというべきである。 したがって,両商標は,構成の軌を同一にするものとして,外観上,近似した印象を有するものであり,称呼及び観念においても同様であるから,商標全体として考察した場合において,互いに類似する商標といわざるを得ないものである。 (イ)指定商品の分野における取引の実情 両商標の指定商品が分類されるファッション関連商品の分野においては,商品の出所を識別するべき代表的な商標が,被服等にワンポイントマークや襟ネームとして縫いつけられたり刺繍されたりするなど,小さく表示されることが普通に行われている。こうした使用において,当該商標における細部における微差は,当該商標が有する特徴的な基本的構成に埋没してほとんどわからないものとなるから,商標の具体的構成における差異は,現実の取引の場において,商品の出所を識別する上で大きな意味をなさない。 また,ファッション関連商品の分野においては,需要者及び取引者は,図形商標が付された商品については,当該図形商標の特徴的な基本的構成に最も強く印象付けられ,その印象や過去に購買した際の記憶に基づいてその商品を選択ないし購買するという取引の実情がある。 さらに,被服を中心とするファッション関連商品は,消費者一般を需要者としており,その購入者には必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持たない者も多数含まれることからすれば,商品購入時に払われる注意力は必ずしも高いものとはいえない(甲7)。 そうすると,ファッション関連商品に関する商標の使用態様や,取引者及び需要者の商標に対する理解度ないし認識度は,一般的・恒常的な「取引の実情」といえる。 また,後述するとおり,引用商標は,エナジードリンクをはじめとして,請求人,レッドブル・ゲーエムベーハー(RED BULL GmbH)及びそれらの関連会社(以下,これらをまとめて「レッドブル社」という。)の提供に係る多種多様な商品及び役務について,世界各国で広範囲に使用されている「RED BULL」(レッドブル)の文字からなる商標,後述するシングル・ブル図形又はダブル・ブル図形からなる商標(以下,これらをまとめて「レッドブル商標」という。)の一類型であり,世界的に極めて高い著名性を獲得しているものであるところ,判決が述べる「取引の実情」に関し,先願権を有する他人の商標の著名性を考慮することは許されるとされている(甲8,甲9)。引用商標をはじめとするレッドブル商標が獲得している高度な著名性は,具体的な取引状況の下では,出所の混同のおそれを一層増幅させるものとなるのであるから,この点は,本件商標の類否判断における「取引の実情」として,十分に参酌されなければならない。 (ウ)過去の裁判例及び審決 図形商標の類否について判断した過去の判決及び審決(甲10の1?12)は,対比する図形商標の基本的構成が共通し,細部の具体的構成における相違が微差である商標は,看者に与える印象が近似したものになりやすい傾向があること,商標の類否判断は離隔的観察に基づくべきであること,ファッション関連商品の分野においては,ワンポイントマークなどとして使用される場合などの取引の実情を十分に考慮すべきであることなどを明確に述べているから,こうした先例は,本件無効審判において参酌されなければならない。 (エ)本件商標と引用商標1の対比 以上のとおり,本件商標と引用商標1は,基本的構成が共通し,構成の軌を同一にする外観上互いに類似するものであり,称呼及び観念についても同様と考えられるものであるから,商標全体として互いに類似する商標である。 ウ 小括 以上により,本件商標と引用商標1は,外観,称呼,観念が同一又は類似である類似商標であって,その指定商品も引用商標1に係る指定商品と同一又は類似するものである。また,引用商標1は,本件商標の先願に係る他人(請求人)の国際登録商標である。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号該当性 ア レッドブル商標の著名性について (ア)レッドブル・ゲーエムベーハーの創業 レッドブル・ゲーエムベーハー(RED BULL GmbH)は,清涼飲料(エナジードリンク)(以下「請求人商品」という。)の販売を中心的な業務として,1984年(昭和59年)にオーストリアで設立された会社である(甲19)。そして,創業者は,タイで見出した栄養ドリンクに独自に改良を重ねた配合で従来にないドリンクを開発して,これを新規なコンセプトに基づくエナジードリンクとし,2頭の赤い雄牛(Red Bull)が互いに角を突き合わせるように突進している図形(ダブル・ブル図形)に「Red Bull」ないし「RED BULL」(レッドブル)の名称を冠した商標(レッドブル商標)を使用して,レッドブル・エナジードリンクとして1987年(昭和57年)5月22日にオーストリアで販売を開始した(甲18,甲19,甲20)。 なお,請求人は,レッドブル商標を世界的に管理保有しているレッドブル商標の正当権利者である。請求人は,世界中の192の商標法域でダブル・ブル図形からなる商標を保有しており,また,世界中の112の商標法域において,右向き又は左向きの雄牛の図形からなる商標(シングル・ブル図形)を保有している(甲18)。 (イ)オーストリアにおける爆発的人気 請求人商品は,エナジードリンクの製品としての魅力や,欧米市場でスポーツドリンクが注目を集め出した時期と重なったこともさることながら,そのユニークで斬新なマーケティング戦略が奏功して,オーストリアにおける消費量は,その発売後急激に増加した。 (ウ)請求人商品の国際的ロールアウト 請求人商品は,1989年(平成元年)にシンガポール,1992年(平成4年)にハンガリー,1993年(平成5年)にイギリス,スロヴェニア,マルタといった国々で販売が開始された。ドイツにおいても,1994年(平成6年)に販売が開始された(甲18)。 (エ)ドイツ以後の国際的ロールアウト ドイツにおける販売開始後,請求人商品は,1994年(平成6年)にスイスで,1995年(平成7年)にポーランド,クロアチア,アンドラ公国,スペイン,オランダ,ロシア,チェコ共和国及びスロヴァキアなどで販売が開始された。さらに,1996年(平成8年)に米国で販売が開始されるといったように,欧米を中心に,次々と国際的な販路拡大(ロールアウト)が実施された。こうした国際的ロールアウトは現在でも継続されており,請求人商品は,現在では世界162ヶ国で販売されており,流通は,レッドブル社の完全子会社又は流通パートナーが行っている。請求人商品は,日本国では,日本法人のレッドブル・ジャパン株式会社を通じて,2005年(平成17年)9月21日に販売が開始された。(甲18) (オ)レッドブル社のマーケティング展開と本件商標の出願時及び登録査定時におけるレッドブル商標の周知著名性 以上のとおり,請求人商品は,遅くとも1994年(平成6年)頃には,欧州で大ヒットし,レッドブル商標は,欧州を中心に広く知られるところとなっていた。請求人商品の最初の販売から僅か数年でこのような周知著名性を獲得し得たのは,創業者による極めてユニークで斬新なマーケティング戦略があったからにほかならない。 a 宣伝広告活動 かかるマーケティング戦略のもとで,レッドブル社は,各種スポーツや文化的なイベントのスポンサーや斬新な宣伝広告などを積極的に行っている。 例えば,レッドブル社は,1988年(昭和63年)には,オーストリア国内で「ドロミテマン」(Dolomitenmann)を開催し(甲28),現在も「レッドブル・ドロミテマン」のタイトルで行われている(甲29)。 また,1989年(平成元年)には,F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーのスポンサーとなった(甲28)。代表的なモータースポーツF1に関して,レッドブル社は,2004年(平成16年)末に,レッドブル・レーシングチームを創設,2005年(平成17年)末には,チーム・ミナルディ(Team Minardi)を買収,再編成し,イタリア語で「チーム・レッドブル」を意味する,スクーデリア・トロ・ロッソと改名された。レッドブル・レーシング・チームは,2010年(平成22年)から2013年(平成25年)には,ワールド・コンストラクターズ・チャンピオンシップ及びドライバーズ・チャンピオンシップの両方のタイトルを獲得した(甲18)。 文化的イベントの一例として,レッドブル社は,1998年(平成10年)から毎年,レッドブル・ミュージック・アカデミーを開催している(甲30)。同アカデミーは,ベルリン,ケープタウン,サンパウロ,ロンドン,トロントなど世界各地の都市で,2週間にわたって,著名な音楽関係者の講義を聴いたり,共同で楽曲に取り組んだり,音楽の実演をするといった活動を実施しており,2013年(平成25年)には,ニューヨークで開催された(甲28)。 レッドブル社は,2013年(平成25年)度だけでも,世界中の95ヶ国で,1,385回ものイベントを主催した。当年度では,29.8万名の参加者が上記イベントに関与し,イベントの観客は450万名を超えた(甲18)。 その他,1994年(平成6年)12月のドイツの「ポリツァイ・レポルト」誌の広告に記載されているように,レッドブル社は,請求人商品の容器(缶)の巨大なオブジェを搭載した宣伝車(レッドブルミニ)を街中に走らせて,請求人商品を配布するといったような宣伝広告活動を行うなどしている(甲31)。 b 売上本数 請求人商品の欧州における売上げは,1987年(昭和62年)に年間100万本を超え,1994年(平成6年)には,1.13億本を超えた。そして,2013年(平成25年)には,全世界で54億本へと増加し,同年の日本国での売上本数は,1.76億本を超えた(甲18)。 c 宣伝広告費 レッドブル社の欧州におけるメディア費用を含むマーケティング費用総額は,2013年(平成25年)だけでも全世界で17.7億ユーロ(1ユーロ140円換算(以下同じ。)で約2,479億円)を超える支出があった。1987年(昭和62年)から2013年(平成25年)までは,40億ユーロを超えるマーケティング費用が欧州内のマーケティング活動において支出され,2008年(平成20年)には,日本国を含むアジア地域全体において,マーケティング目的の支出が約4,900万ユーロ(約68億円)あり,2013年(平成25年)には1.26億ユーロ(約176億円)を超える支出があった(甲18)。 d 雑誌における紹介等 ドイツでの本格的販売を前にして,「レッドブル,翼を授ける・・・これからドイツにも登場」のタイトルで出された「プレスリリース」(甲32)によると,「現在,レッドブルのオーストリアでの売上高に基づくマーケット・シェアは90%に及ぶ。オーストリアだけの売り上げからしても,例のエナジードリンクは全ヨーロッパの第6位を占める。」と記載されており,請求人商品が当時から既に大ヒット商品となっていた事実が紹介されている。 e アンケート調査 以上のほか,1992年(平成4年)11月10日から同年12月3日にかけ,14歳以上の男女を調査対象者としてオーストリア全土で実施された請求人商品の認識度及び使用度に関するアンケート調査(甲34)によると,当時,請求人商品の自発的認識度は41%であり,オーストリアで最も市場占有率が高い清涼飲料であった「ISOSTAR(イゾスタール)」に既に近づいており,また,認識度の増加率については既にレッドブルの方がイゾスタールよりはるかに大きいこと,5人に1人はレッドブルを飲んでいたこと,レッドブルを消費する青少年・中年による消費率も首位に肩を並べたこと,などが報告されている。 さらに,1994年(平成6年)10月から11月にかけてドイツ全土で実施されたスポーツ飲料の調査(第2調査)(甲35)では,ドイツでの正式な販売開始から数ヶ月の時点において既に,全回答者(2,600人)の18%,14歳から20歳までの若者の43%が,スポーツ及びエナジードリンクですぐに思い浮かぶブランドとして,請求人商品を挙げ,また,リストを提示した上で知っているブランドを回答してもらった質問では,全回答者の41%,14歳から20歳までの若者の77%が,請求人商品を知っていると回答した結果が報告されている。 f レッドブル社の現在の宣伝広告活動 レッドブル社は,世界中で,レッドブル商標を,テレビコマーシャルをはじめとする宣伝広告のほか,モーターレースやアクティブスポーツその他スポーツへの参画・参戦,各種エンターテイメントイベントの開催等極めて多彩・多様な宣伝広告活動において,極めて広範囲かつ活発に行っている。 レッドブル社が関与するスポーツイベントについて一例を挙げれば,ワールドスポーツとしては,F1のほか,全米自動車競争協会,ダカール・ラリー,世界ラリー選手権,モトグランプリ,サッカー,アイスホッケー,フリースタイル・モトクロス,エア・レース,フルクターグなどがある。サッカーにおいては,オーストリア・ブンデスリーガの「レッドブル・ザルツブルグ」は,レッドブル社の所有するクラブである(甲37,甲38)。 また,レッドブル社は,日本国において,国内及び世界的に活躍する様々な分野の日本人アスリートのスポンサーとなっている(甲39?甲49,甲18等)。 さらに,日本国において開催されたスポーツイベントとしては,2012年(平成24年)だけでも,スノーボード,ブレイクダンスをはじめ枚挙に暇がない(甲52?甲56)。 こうしたスポーツイベントの例のほか,ゲームイベントやミュージックイベント等の様々な分野にも参画しており(甲18,甲57?甲60),それぞれの活動において,レッドブル商標を表示して,極めて印象的かつ効果的な宣伝広告を行っているものである。 そして,現在に至っては,レッドブル社におけるその広告費は,2013年(平成25年)において,全世界で,約5.4億ユーロ(約754億円)を超える投資を行い,欧州のみでも1.1億ユーロ(約176億円)を支出した。2008年(平成25年)には,日本国を含むアジア地域全体において,メディア費用として約1,300万ユーロ(約18.2億円)を投資し,2013年(平成25年)には,約3,800万ユーロ(約53.2億円)を超える支出をした(甲18)。 その結果,請求人商品は,新聞,雑誌及びウェブサイト上の記事において,日本のエナジードリンク市場を牽引する商品として広く取り上げられるようになっている(甲61?甲78)。 (カ)レッドブル社のマーチャンダイジング レッドブル社は,1999年(平成11年)以降,レッドブル商標の使用について,460を超えるライセンスを様々な分野における企業に対して許諾してきた。レッドブル社が受けた多種多様な商品に関するライセンス申請は,1995年(平成7年)以降,630を超えており,許諾したマーチャンダイズ商品は,模型自動車,模型飛行機,ビデオゲーム,サングラス,事務用品,旅行かばん,被服,スキー用ヘルメット及び携帯電話カバー等,多岐の種類にのぼるが,レッドブル社は,レッドブル・ブランドの高品質な価値を維持するため,ライセンスは厳選した商品についてのみ許諾している(甲18)。 本件商標は,第14類,第18類及び第25類の商品を指定商品としているが,レッドブル社がライセンスしたマーチャンダイズ商品には,それら各類に分類される商品が含まれる(甲18)。また,これらの商品には,シングル・ブル図形からなる商標が付されたものも多く含まれており(甲18),いずれの商品も,日本国を含む世界中で人気の高い商品となっている。 (キ)小括 以上のとおり,「RED BULL(レッドブル)」の名称とともに,レッドブル商標は,請求人商品をはじめ,レッドブル社の提供に係る多様な商品及び役務について,世界各国で広範囲に使用されており,その販売実績や宣伝広告活動実績は,極めて高いものである。こうしたレッドブル社による販売活動や宣伝広告活動の結果,日本国においても,突進しようとする雄牛の図形をみれば,直ちにレッドブル商標を想起するとの認識が確立されている。 このように,レッドブル商標は,本件商標の出願時には,日本国を含む世界各国ですでに周知著名となっていたことは明らかであり,その周知著名性は登録査定時はもとより,現在においても継続しているのである。 イ 本件商標と引用商標の類否について 上記(2)イ(ア)で述べたように,本件商標は,引用商標1とは構成の軌を同一にするものとして,外観上,近似した印象を有するものであり,商標全体として互いに類似するものであるから,当然ながら,区分及び指定商品のみが異なる同一商標である引用商標3とも,商標全体として互いに類似する。 一方,引用商標2は,レッドブル商標が著名性を獲得した請求人商品に使用されてきたダブル・ブル図形であり,また,レッドブル社が世界中で実施しているスポーツイベント等における宣伝広告活動においても,主体的に使用されているものであるが,引用商標1及び3は,レッドブル商標の一類型に含まれるシングル・ブル図形の一つであり,これを一対にしてシンメトリーに表したダブル・ブル図形は,シングル・ブル図形とは,外観構成上の諸要素が共通するだけでなく,称呼及び観念も同一であることは明らかである。 したがって,本件商標は,引用商標1ないし3との類似性の程度が相当程度高いものである。 ウ 引用商標の独創性の程度 引用商標の独創性の程度について,請求人商品が日本国で最初に販売されたのは,2005年(平成17年)9月21日であったが(甲2),当時,清涼飲料の分野において,商標のモチーフとして雄牛が採用されることは珍しく,特に,引用商標2は,モチーフとして雄牛が採用されたこともさることながら,2頭の赤い雄牛が互いに角を突き合わせるように突進しているという基本的構成において,他に類をみない斬新なデザインであった。 したがって,請求人の引用商標は,独創性にあふれた極めて斬新なものである。 エ 商品間の関連性,取引者・需要者の共通性 本件商標の指定商品は,ファッション関連分野に属するものであって,これらは,一般には,引用商標を含むレッドブル商標が著名性を獲得したエナジードリンクとの関連性はさほど高いものではないとされている。 しかしながら,上記ア(オ)で詳述したとおり,レッドブル商標の著名性は,その積極果敢な宣伝広告活動を通じて世界中に浸透し,既存のマーケットから外れたところで「かっこいい感じ」「クールな感じ」というブランドイメージが作り上げられたことで確立されたことによるものにほかならない。そのようにして確立されたブランドイメージは,当然ながら,極めて高い顧客吸引力を有するものとなり,上記ア(カ)で述べたとおり,レッドブル社は,様々な分野における企業からオファーを受け,スポンサーとなったり,あるいは,模型,ビデオゲーム,サングラス,事務用品,かばん類,被服等,極めて多種多様な商品にライセンスを付与しており(甲18),これらの中には,「時計」「被服」「かばん類」「履物」等,本件商標の指定商品に該当する商品も多数含まれている。 このように,レッドブル社の取り扱いに係る商品はエナジードリンクにとどまらず,ファッション関連分野に属する商品が多数含まれているのであるから,これらのレッドブル商標のライセンス商品を製造販売する企業は取引者として,同商品を購入する顧客は需要者として,いずれも本件商標の取引者及び需要者と高い共通性を有する。 したがって,本件商標と引用商標は,商品間の関連性,並びに取引者及び需要者の共通性が極めて高いものである。 オ 本件商標の指定商品の需要者において普通に払われる注意力その他取引の実情 上記(2)イ(イ)で述べたとおり,本件商標の指定商品が分類される商品の分野においては,商標の細部における微差は,当該商標が有する特徴的な基本的構成に埋没してほとんどわからないものとなるから,商標の具体的構成における差異は,現実の取引の場において,商品の出所を識別する上で大きな意味をなさない。また,一般に,需要者及び取引者は,図形商標が付された商品については,当該図形商標の特徴的な基本的構成に最も強く印象付けられ,その印象や過去に購買した際の記憶に基づいてその商品を選択ないし購買するという取引の実情がある(甲6)。 さらに,本件商標の指定商品は,消費者一般を需要者としており,その購入者には必ずしも商標やブランドについて詳細な知識を持たない者も多数含まれることからすれば,商品購入時に払われる注意力は必ずしも高いものとはいえない(甲7)。 したがって,上記(2)イ(イ)で述べた取引の実情は,本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性における,本件商標の指定商品の需要者において普通に払われる注意力その他取引の実情にも当然に妥当する。 カ 考慮すべきその他の実情 請求人の調査によると,被請求人は通信販売を主たる事業とする持株会社であり,事業子会社(株式会社ニッセン。以下「ニッセン」という。)を通じて,衣料品,インテリア雑貨,和装品などのインターネット・カタログ通信販売を行っている(甲80)。そして,ニッセンは,本件商標をトレーナー,ブルゾン,ティーシャツ等の男性用衣料品に付し,これを自社の通信販売カタログやインターネットショッピングサイトで販売している(甲81)。 しかしながら,ニッセンが販売する衣料品は,本件商標の雄牛の図形が単なるワンポイントマークとして使用されているものでなく,右胸と左胸の当たりに各1頭ずつを配し,2頭の雄牛が互いに角を突き合わせようと突進している構図となっている(甲81)。かかる構図は,レッドブル商標における最も著名なダブル・ブル図形の基本的構図にほかならない。 また,当該衣料品は,網目の大きなニットブルゾンであり,当該図形や模様を細部に至るまで明瞭に表現することはできず,基本的構図を除いた具体的な細部はつぶれて明確に視認することができない(甲81)。しかも,当該衣料品は,店頭で陳列販売される商品と異なり,カタログの紙面上やインターネットの画面上で表示されるものであるから,実際に柄や細部がどのようになっているのか,すなわち,そこに表されている牛がアメリカバイソンなのか否か等を手にとって確認することもできない。 さらに,既述のとおり,レッドブル商標は,被服,履物,かばん類や時計,各種スポーツイベントの運営・開催等,およそレッドブル商標の洗練されたブランドイメージが見合う極めて広範囲の商品及び役務についてライセンスされており,請求人は,果敢な宣伝広告活動を行って,こうした商品及び役務についてレッドブル商標を積極的に使用しているのであるから,需要者にとって,レッドブル商標に接する機会は極めて多く,突進しようとする雄牛の図形をレッドブル商標として記憶にとどめる者は少なくない。 そうすると,被請求人の当該衣料品に接した者としては,まず,2頭の雄牛が互いに角を突き合わせようと突進している基本的構図に注意が惹かれ,そこに表されている雄牛の種類や印象に残りにくい不明瞭な細部には気を取られることなく,当該基本的構図に基づく外観全体から,周知著名なダブル・ブル図形のレッドブル商標との共通性ないし関連性を感得して,当該衣料品が請求人からライセンスを受けたものと考えるであろうことは想像に難くない。このことは,被請求人が通信販売を主たる事業とする持株会社であり,ニッセンがその事業子会社であって,通信販売事業では,一般に他社ブランドの商品が多く取り扱われるという取引の実情からもより強く首肯される。 商標法第4条第1項第15号は,周知表示又は著名表示へのただ乗り及び当該表示の希釈化を防止し,商標の自他商品識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものとされている。そして,少なくとも,被請求人には,左向きの雄牛1頭からなる本件商標を,使用において左右一対のシンメトリーな構図において使用しなければならない必然的な理由はないはずであるから,当該衣料品にみられる本件商標の使用は,レッドブル商標に対する被請求人の「周知表示又は著名表示へのただ乗り」ないし「当該表示の希釈化」の意思に基づくものといわざるを得ない。 最高裁判決(甲11)が,同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある商標を含むものと解するのが相当であると述べているように,同号該当性は,商標の一般的な類否を超えた具体的な使用ないし取引の実情を考慮して判断すべきものであるから,当該衣料品にみられる本件商標の使用は,本件商標の同号該当性の判断において大いに参酌されなければならない。 キ 過去の裁判例 動物や猛禽類をシルエット風に表した図形商標等に関する商標法第4条第1項第15号該当性について判断した裁判例は数多く存在するが,甲第12号証(枝番を含む)に示す裁判例は,本件商標と請求人の引用商標ないしレッドブル商標の混同可能性を肯定する判断に通じる説示を含んでいる。 ク 特許庁の審決 裁判例と同様に,動物又は猛禽類をモチーフにした他人の著名商標が存在する状況において,当該著名商標と基本的構成において共通する商標につき,混同を生じるおそれがあると判断した特許庁の審決は数多く存在する(甲13の1ないし22。上記キにおいて示した裁判例と重複する事案は除いている。)。 ケ 諸外国において認められたレッドブル商標の著名性に基づく法的判断 上記アで詳述したとおり,レッドブル商標の著名性は,世界各国の裁判や商標局において認められており,チリ,コロンビア,アラブ首長国連邦,カタール,トルコ,米国,欧州連合,ペルー,ハンガリー,フランス等において,本件商標と同様に,突進しようとする雄牛1頭の図形からなる商標は,レッドブル商標と混同を生じるおそれがあると判断されており(甲18,甲82の1?3),牛1頭の図形からなる商標に対しても,レッドブル商標の著名性が及ぶことが認められている。 コ 小括 以上のとおり,a)引用商標をはじめとするレッドブル商標が,エナジードリンクをはじめとして,請求人を含むレッドブル社の業務に係る商品及び役務であることを表す世界的な著名商標であること,b)引用商標は,レッドブル商標の一類型に含まれるものであって,本件商標は,引用商標をはじめとするレッドブル商標とは,雄牛の図形からなるものとして高い類似性を有すること,c)レッドブル商標が極めて斬新かつ独創的な商標であること,d)レッドブル商標が,多種多様な商品及び役務について世界各国で使用され,本件商標の指定商品と同一又は類似する商品についても数多くのライセンスがされていることから,本件商標は取引者・需要者にとってレッドブル商標と強い関連性を持って認識されること,e)被請求人が,関連会社を通じ,本件商標をレッドブル商標のダブル・ブル図形と基本的構図において同じ態様で使用していること等を総合して考慮すると,本件商標をその指定商品に使用するときは,これに接する取引者・需要者は,世界的に著名なレッドブル商標を想起・連想し,恰もレッドブル社が取り扱う業務に係る商品又は役務であるかのように認識して取引にあたると考えられるため,その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 (4)商標法第4条第1項第19号該当性 ア 被請求人の「不正の目的」 商標法第4条第1項第19号に定める「不正の目的」に該当するかは,当該商標の出願から登録に至るまでの一連の経緯のみならず,登録後における当該商標を巡る商標権者の一連の行為等の諸般の事情を総合的に勘案して判断すべきものである。 この点,上記(3)カで述べたように,被請求人は,事業子会社のニッセンを通じて,網目の大きなニットブルゾンに,本件商標を,レッドブル商標のダブル・ブル図形と同じ基本的構図のもとで使用している(甲81)。左向きの雄牛1頭からなる本件商標の使用において,ニッセンが,特異な特徴を有するダブル・ブル図形の基本的構図と共通する構図のものとして偶然に採用したとは,到底考え難い。 さらに,特許庁の商標登録をみても,本件商標と同一又は類似する商品(役務)を指定商品(役務)とし,日本国で請求人商品の販売が開始された2005年(平成17年)9月21日以降に出願された商標であって,ウシ科の動物のウィーン図形分類コードが付与されている商標は,請求人のレッドブル商標及び失効した商標を除くと141件がヒットするが,これらは,牛の頭部を様式化した商標などが大半で,レッドブル商標のように,突進する攻撃的な(雄)牛をシルエット風に表した商標は極めて少なく(甲14),この検索結果からみても,被請求人が本件商標を偶然に採択したとは考えられない。 上記のような本件商標の使用態様や牛の図形商標の出願登録状況に照らせば,本件商標の取得には,レッドブル商標の著名性に便乗して,ニッセンを通じて利益を得ようとする被請求人の不正の目的があったといわざるを得ない。 したがって,本件商標は,被請求人の不正の目的によって出願されたものである。 イ 小括 以上のとおり,レッドブル商標が本件商標の出願時において世界的な著名性を獲得していたものであり,その著名性は登録査定時以降,現在も維持継続されているものである。また,本件商標は,レッドブル商標の著名性に便乗して,ニッセンを通じて利益を得ようとする被請求人の不正の目的に基づいて出願し登録されたものである。さらに,本件商標が引用商標1をはじめとするレッドブル商標のシングル・ブル図形に類似するものであることは,既述のとおりである。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 (5)商標法第4条第1項第7号該当性 本号に係る裁判例(甲12の5,甲16,甲17)においては,商取引を通じて他人の商標の存在を知悉した商標権者が,自己の業務を有利に展開しようとする意図のもとに登録出願した商標は,当該他人と接点を有すると否とにかかわらず,商標法第4条第1項第7号にいう「公序良俗を害するおそれのある商標」にあたると判断されている。 上述のとおり,被請求人は,事業子会社のニッセンを通じ,通販事業において,2頭の雄牛が互いに角を突き合わせようと突進している基本的構図とする図形商標を表したニットブルゾンを販売している事実に照らせば,本件商標は,取引者,需要者にレッドブル商標を連想,想起させ,レッドブル商標に化体した高度な信用,名声及び顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で採択・出願し登録を受けたもの,又はシングル・ブル図形による利益の独占を図る意図で採択・出願し登録を受けたものであることが自然に導き出される。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。 (6)結び 以上の次第により,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するから,同法第46条第1項第1号に基づき,その登録を無効とすべきものである。 3 答弁書に対する弁駁 (1)商標法第4条第1項第11号について 被請求人は,アメリカバイソンの特徴を左向き黒塗りで真横から強調して描いた図形商標であるのに対し,引用商標1は,角突きをしようとする闘牛を描いた図形商標であり,両商標は,その根底となる牛の種類(バイソンと闘牛用牛)が明らかに異なり,その構図や図形全体から受ける視覚的印象が全く異なるものであるから,一目瞭然に区別できるものであって,外観上相紛れるおそれはないものであると主張する。 しかしながら,上記2(2)イ(ア)のとおり,両商標は,両商標の基調をなす基本的構成において,主要な特徴が共通しており,さらに,描法においても共通しているから,外観構成上,両商標は類似するというべきである。 (2)商標法第4条第1項第15号について ア 被請求人は,「本件商標と引用各商標とは,いずれも外観において互いに相紛れるおそれのない非類似の商標である」と述べている。 しかしながら,本件商標と引用商標の類似性の程度について,上記(1)で述べたとおり,本件商標と引用商標1は,一般的類否判断においても外観上互いに類似するものであるから,その類似性の程度は高いものであることは当然である。また,本件商標と引用商標2及び3の類似性の程度についても,被請求人自らが,「引用商標2が,闘牛を行う一対の牛を描いてなり,この闘牛を行う牛が引用商標1と同じ態様からなることよりも明らかである。」と述べているとおり,その類似性の程度が高いことを自認している。 したがって,本件商標と引用商標の類似性の程度は高いものである。 イ 被請求人は,引用商標の周知著名性について,主にオーストリアを中心とする欧州でのものであって,また,主として文字商標並びに円内を着色したダブル・ブル図形についてのものである,請求人商品の日本国での売上本数が1.76億本を超えたのは2013年であるなどと主張し,本件商標の出願時及び登録査定時において,需要者の間で広く認識されるに至っているものと認めることはできないと論難する。 しかしながら,上記2(3)アのとおり,レッドブルの著名性はオーストリアを発祥にしたものというにすぎず,国際的ロールアウトを経て,全世界に拡大していったことは明らかである。また,請求人商品の日本国での売上本数についても,本件商標の出願当時の2011(平成23年)においては,すでに8,800万本を超えており,日本国における著名性が十分にうかがえる売上実績であって,その著名性は・日本国でも年々拡大している。 (3)商標法第4条第1項第19号について 被請求人は,請求人が,突進する攻撃的な(雄)牛をシルエット風に表した商標が極めて少なく,被請求人が本件商標を偶然に採択したとは考えられないとして提出した商標の検索結果一覧表(甲14)について,牛のシルエット状図形として,都合良く例示しているとこれを非難し,本件商標と請求人所有の商標を除いて選択した493件を抽出したとする証拠(乙26の2)を提出する。 しかしながら,請求人の提出した甲第14号証は,本件商標と同一又は類似する商品を指定商品とし,日本国で請求人商品の販売が開始された2005年(平成17年)9月21日以降に出願された商標であって,被請求人が抽出したとする493件は,2005年(平成17年)9月21日日前に出願されたものが多数含まれており,検索範囲も本件商標と同一又は類似する商品を指定商品に限ったものではないから,ここでの被請求人の主張は,その前提において失当である。 なお,被請求人は,ニッセンによる商品デザイン点について,「被服の左右の前身頃に図形をあしらうことは通常行われており,デザイン的処理として,中心部に視点が集まるように,一対の図形を相対向するように配することは通常行われているところである。」と述べるが,そのような事実や慣行があるのか甚だ不明であり,これを立証する証拠もなんら提出していない。ニッセンによる本件商標の使用方法がレッドブルのダブル・ブル図形を容易に想起させるものであることは誰の目にも明らかであるから,かかる使用態様こそ,引用商標に化体した著名性に便乗しようとするフリーライドの意思,すなわち被請求人の不正の目的を推認させるといわざるを得ないものである。 (4)商標法第4条第1項第7号について 被請求人は,本件商標は引用商標とは類似しない別異のものであり,これらを模倣したものではない,引用商標の信用力・顧客吸引力にフリーライドすることを意図して出願したものでもなく,かつ,その出所表示機能を希釈化するものでもない,被請求人の販売する商品デザインは一般的に行われてデザイン的処理をしたものであって,フリーライドする意思は微塵もないものであるなどと述べ,本件商標をその指定商品について使用することが,公序良俗に反するおそれはないと主張する。 しかしながら,被請求人のここでの主張は,これを総じれば,本件商標と引用商標は互いに非類似であるとか,本件商標の出願に引用商標に対する不正の意思はないとかのこれまでの繰り返しにすぎない。 (5)その他の弁駁 請求人は,審判請求書において,レッドブル商標の著名性は世界各国の裁判所や商標局において認められていることを述べた。 しかるところ,台湾において,盾様図形を背景に,赤系統の色彩を付した突進しようとする雄牛1頭の図形からなる商標に対し請求人のレッドブル商標に類似する,またはレッドブル商標と混同を生じるおそれがあるとして,異議決定が下された(甲86)。また,これと同一の名義人による同一商標については,韓国の商標登録を基礎とする国際登録商標あるところ,モンゴル,ベトナムの各指定国において,請求人のレッドブル商標に類似する,またはレッドブル商標と混同を生じるおそれがあるとして,それぞれ暫定拒絶通報が出されている(甲第87ないし甲89)。 第3 被請求人の答弁 被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第27号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標 本件商標は,基本的には,俗にバッファローともいわれるアメリカバイソンを,左向き黒塗りで真横から特徴を強調的に描いた図形よりなる。 そして,具体的には,本件商標は,アメリカバイソンの特徴である,最大50cmにもなる湾曲した角を目立つように白抜き及び輪郭線でJ字型に1本描き,大きい頭部と盛り上がった肩部を大きく強調するとともに尻を小さく描いて,肩部を頂点に頭部と尻までの長さがほぼ同じになるように描き,このアメリカバイソンが突進する様を,顎を引き,1本の前脚をL字型に曲げ,1本の後ろ脚を伸展させ,尾がS字状に後ろに流れるように描いた構成よりなる。 (2)引用商標1について 引用商標1は,基本的には,角突きをしようとする牛を,左向き黒塗りでやや具象的に描いた図形よりなる。 そして,具体的には,引用商標1は,闘牛を行う牛を特徴的に描いたものであって,比較的短い2本の角を左斜め下に突き出し,顎を引き,背を丸め,肩部を頂点に頭部と尻までの長さが1対2になるように描き,前両脚は蹄を上部に向けて曲げ,後ろ両脚を伸展させて,正に闘わんとする牛の様を描くとともに,威嚇を表すために尾をS字状に立て,闘わんとする牛の躍動感を増すため,首,肩,前脚,腹,後ろ脚に,太線状の白抜き部を描いた構成よりなる。 (3)本件商標と引用商標1の類否について ア 本件商標は,湾曲した大きな1本のJ字型の角(白抜きで強調),大きい頭部,大きく盛り上がった肩部,小さな腰部というアメリカバイソンの特徴を,左向き黒塗りで真横から強調して描いた図形よりなる。 これに対して,引用商標1は,比較的短い2本の角を左斜め下に突き出し,顎を引いて,角突きをしようとする牛を,躍動的に左向き黒塗りでやや具象的に描いた図形よりなる。なお,引用商標1が角突きをしようとする牛を描いた図形であることは,引用商標2が,闘牛を行う一対の牛を描いてなり,この闘牛を行う牛が引用商標1と同じ態様からなることよりも明らかである。 このように,本件商標と引用商標1は,その根底となる牛の種類(バイソンと闘牛用牛)が明らかに異なるものであって,広く知られているアメリカバイソンと闘牛の牛とをそれぞれ特徴的に描いてなるものであり,その構図も相違し,図形全体から受ける視覚的印象が全く異なるものであるから,一目瞭然に区別できるものであって,外観上相紛れるおそれはないものである。 イ また,走行する牛の図形を有する登録商標(乙2),アメリカバイソンの図形を有する登録商標(乙3,乙4)が,それぞれ引用商標1と併存して商標登録されている。 さらに,請求人は,過去の裁判例及び審決で示された判断を挙げて(甲10の1?12),本件商標と引用商標1の類否にも当てはまると主張するが,これらはいずれも特徴が酷似する同種の動物についてのものであって,アメリカバイソンと闘牛用牛という明らかに特徴を異にする本件については,事例が異なり当てはまらないものである。 また,同方向を向いた同種の動物のシルエット状の図形であっても,全体的な印象が異なれば非類似とされる例は多数存在する(乙5?乙11)。 したがって,本件商標と引用商標1は,その根底となる牛の種類(バイソンと闘牛用牛)が大きく異なるものであって,アメリカバイソンと闘牛の牛とをそれぞれ特徴的に描いてなるものであって,その構成態様において十分区別し得る差異を有しており,この差異は,比較的簡潔な構成からなるこれら図形の外観に与える影響は大きく,外観上明瞭に区別できるものであり,相紛れるおそれはないものである。 なお,称呼や観念については,両商標は明らかに相紛れるおそれはない。 (4)小括 以上のとおり,本件商標と引用商標1とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない,互いに非類似の商標であるとするのが相当である。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。 2 商標法第4条第1項第15号について (1)本件商標と引用商標との類否について 引用商標1及び3は,同一の構成からなるものであり,前記1で述べたとおり,本件商標とはなんら相紛れるおそれのない非類似の商標である。 また,引用商標2は,引用商標1及び3と同様の闘牛を行う牛の特徴を有する黒塗りの牛2頭が対峙するように,かつ,頭部が円内に入るように描いてなるものであることから,引用商標1及び3と同様に,闘牛を行う牛の特徴を有する部分において非類似のものであって,全体の構成も明らかに相違するものである。 したがって,本件商標と引用商標とは,いずれも外観において互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるとするのが相当である。 (2)引用商標の周知性について 請求人は,引用商標1ないし3(レッドブル商標を含む。)について,著名性を有すると主張している。 しかしながら,請求人の主張は,要するに,主にオーストリアを中心とする欧州でのものであって,また,主として文字商標「Red Bull」並びに円内を着色したダブル・ブル図形についてのものである。 そして,請求人商品の日本国での売上本数が1.76億本を超えたのは2013年であり(甲18),日本国において開催されたスポーツイベント(甲52?甲56)も2012年のものであり,本件商標の出願日以降のことである。 また,インターネット情報(甲79の1?3)は,2015年の情報である。 さらに,請求人提出の証拠によっては,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標が請求人の商品を表示する商標として需要者の間で広く認識されるに至っていると認めることはできない。 また,請求人は,引用商標が独創性にあふれた極めて斬新なものであると主張するが,牛の図形の登録例(乙26の2)のように,引用商標2が登録される以前に突進する牛の図形は多数商標登録されており,しかも,互いに角を突き合わせる牛の図形が,引用商標2の登録日以前に商標登録されており(乙12),引用商標は何ら斬新なものではない。 なお,請求人は,被請求人の販売する商品デザイン(甲81)を非難するが,被服の左右の前身頃に図形をあしらうことは通常行われており,デザイン的処理として,中心部に視点が集まるように,一対の図形を相対向するように配することは通常行われているところである。 また,2頭が対峙する図形商標として,商標登録(乙12,乙13)等が存在しており,動物が相対向するように配することは一般的なものであり,上記被請求人の販売する商品デザインは何ら引用商標2を真似るものではない。 引用商標2は,あくまでも牛が対峙するように頭部が円内に入るように構成してなるものであり,それ以上のものではない。それゆえ,請求人が使用するダブル・ブル図形は,その円内を特別に着色して描いているものと思料する。 (3)過去の事例について 請求人は,過去の裁判例,審決例で示された判断を挙げて,本件商標と引用商標との混同可能性にも当てはまると主張するが,いずれも本件とは事例を異にするものである。 さらに,諸外国での著名性の判断(甲18,甲82)も,文字商標「Red Bull」並びにダブル・ブル図形についてのものであり,台湾(甲84),中国(甲85)についても,外国における事情に基づく判断によるものである。 ところで,特許庁においても引用商標とは何ら関係なく,牛に関するシルエット状図形が登録されている(乙14?乙22)。 したがって,本件商標は,これをその指定商品に使用しても,これに接する取引者・需要者が引用商標を連想,想起することはなく,その商品が請求人又は同人と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれはないものである。 (4)小括 以上のとおり,たとえ,外国で文字商標「Red Bull」並びに円内を着色したダブル・ブル図形が請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとしても,本件商標と引用商標(レッドブル商標を含む。)は,非類似の商標であって別異の商標というべきものであるから,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,これに接する取引者・需要者が引用商標を想起又は連想するものとはいえないから,その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。 3 商標法第4条第1項第19号について (1)牛のシルエット状図形について 請求人は,牛のシルエット状図形として,甲第14号証を例示している。 しかしながら,牛のシルエット状図形として,被請求人は上記1,2で例示した(乙2?乙4,乙12?乙22)が,それ以外にも多数存在する(乙26の2)。 乙第26号証の1及び2は,引用商標3の図形に対し付与されているウィーン分類に基づき(乙27),トムソン・ロイター・プロフェッショナル株式会社が提供する図形商標集で権利存続のみ出力した商標数(1,250件)の中から,本件商標と請求人所有の商標を除いて選択した493件を抽出したものである。 このように,牛のシルエット状図形は,枚挙にいとまがないほど存在するものである。 したがって,牛に関係する図形を商標として採択することについては何ら問題のないところであって,しかも,本件商標は,引用商標と非類似の商標であって別異の商標というべきものであり,被請求人が本件商標を採択したことについて不正の目的を有してはいない。 なお,請求人は,被請求人の販売する商品デザイン(甲81)を非難するが,上記2で述べたとおり,被服の左右の前身頃に図形をあしらい,視点が中心部に集まるように,一対の図形を相対向するよう配することは通常行われているデザイン的処理であり,上記被請求人の販売する商品デザインは何ら引用商標2を真似るものではない。 なお,請求人が提出する審決(甲15)は,本件とは事例を異にするものである。 (2)小括 本件商標は,引用商標(レッドブル商標を含む。)と非類似の商標であって別異の商標というべきものであり,引用商標を想起又は連想させるものではないから,不正の目的をもって使用するものではない。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。 4 商標法第4条第1項第7号について 請求人が商標法第4条第1項第7号の判断として挙げる事例(甲12の5)は,これに関して他の事例(乙25)もあり,本件とは事例を異にするものである。 そして,本件商標は,上記2のとおり,引用商標と類似しない別異のものであり,引用商標(レッドブル商標を含む。)を模倣したものではない。 また,本件商標は,引用商標の信用力・顧客吸引力にフリーライドすることを意図して出願したものでもなく,かつ,その出所表示機能を希釈化するものでもない。 さらに,被請求人が非難する被請求人の販売する商品デザイン(甲81)は,上記のとおり,一般的に行われてデザイン的処理をしたものであって,引用商標2にフリーライドする意思は微塵もないものである。 そして,本件商標をその指定商品について使用することが,社会公共の利益及び社会の一般的道徳観念に反するものでもなく,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれもないものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。 5 むすび 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号のいずれにも該当するものではない。 第4 当審の判断 1 引用商標及び請求人の使用する商標の周知性について (1)請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,次の事実を認めることができる。 ア オーストリア所在のレッドブル・ゲーエムベーハー(RED BULL GmbH)は,清涼飲料(エナジードリンク)(請求人商品)を,1987年にオーストリアで販売を開始した(甲18,甲19)。 そして,レッドブル・ゲーエムベーハーが販売する請求人商品には,その容器に別掲5のとおり,頭を低く下げS字状の尾を上げ向かい合って突進する2頭の赤い雄牛と中央の黄色い円からなる商標(以下「使用商標1」という。)が,遅くとも1993年頃から表示され(甲22),現在まで継続して表示されていると推認できる。 また,請求人は,レッドブル商標を世界的に管理保有している法人である(甲2?甲4,甲18,請求人主張)。 なお,レッドブル・ゲーエムベーハー及び請求人をまとめて,以下「請求人等」という。 イ 請求人商品は,1989年にシンガポール,1993年にイギリス,1994年にドイツ,1995年にスペイン,ロシア,1996年に米国などと市場を拡大し(甲18,甲19),現在(2015年)では世界160以上の国で販売され,全世界での売上本数は,本件商標の登録出願前である2008年が約40億本,2009年が約39億本,2010年が約42億本であり,その後も2011年が約47億本,2012年が約53億本,2013年が約54億本であった(甲18,甲19)。 ウ また,請求人商品は,我が国では2005年に販売が開始され,売上本数は,2008年が約1,476万本,2009年が約3,038万本,2010年が約5,465万本,2011年が約8,849万本,2012年が約1.3億本,2013年が約1.8億本であった(甲18)。 エ 請求人等は,本件商標の登録出願前から,F1(フォーミュラ1),世界ラリー選手権,ダカール・ラリー,サッカー,アイスホッケー,フリースタイル・モトクロス,エア・レースなどの各種スポーツイベント,音楽ワークショップ及びフェスティバルなどのミュージックイベント,及びダンスイベントなどの参戦,開催等を行い,請求人商品の広告宣伝等を行っている(甲18,甲28,甲29)。 オ そして,それらイベントにおいては,会場や参加者のユニフォーム,マシン,器具などに使用商標1が表示され,さらに,ユニフォーム,マシン,器具などには表示される位置によって,別掲6のとおり,肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する1頭の赤い雄牛と黄色い円からなる商標(以下「使用商標2」という。),別掲7のとおり,同様の体勢で右方向に突進する1頭の赤い雄牛と黄色い円からなる商標(以下「使用商標3」という。)が表示されている(表示される位置によって黄色の円の形状が異なるものを含む。甲28,甲41,甲45,甲51,甲54)。 カ 請求人等は,1999年以降,使用商標1などの商標の使用について,様々な分野における企業に対して多岐の商品についてライセンス許諾するとともに,時計,キーホルダー,バッグ,傘,Tシャツ,靴,帽子など各種商品の製造,販売に関与し,2006年4月からはそれら商品をオンラインで入手できるようにした。そして,それら商品には,使用商標1ないし3が表示されている(甲18)。 キ 請求人等の広告宣伝費は,全世界で,本件商標の登録出願前である2008年が約2.2億ユーロ(約262億円(約1ユーロ=120円で換算(以下同じ)。),2009年が約2.5億ユーロ(約295億円),2010年が約3.4億ユーロ(約408億円)であり,その後も2011年が約4.2億ユーロ,2012年が約5.3億ユーロ,2013年が約5.4億ユーロであった。また,我が国では,2008年が約586万ユーロ(約7億円),2009年が約658万ユーロ(約7.9億円),2010年が約661万ユーロ(約7.9億円)であり,その後も2011年が約979万ユーロ,2012年が約1,646万ユーロ,2013年が約1,604万ユーロであった(甲18)。 ク なお,引用商標が明確に表示されている証拠は,確認できない。 (2)上記1によれば,次のとおり判断できる。 ア 使用商標1は,本件商標の登録出願の日前から請求人商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識され,その認識は本件商標の登録査定の日はもとより,現在まで継続していると認められる(上記(1)ア?オ)。 そして,請求人商品の販売量,及び広告宣伝の状況を考慮すれば,その認識の程度は高いものといえる。 イ さらに,使用商標2及び3については,世界的なイベントや人気のイベントは相当数の観客がいるばかりでなく,テレビ,雑誌さらにはインターネットなどで中継,紹介等されるのが一般的であり,それらを通じて各イベントの様子を目にする者を考慮すれば,これらも使用商標1と同様に認識されていると判断するのが相当である(上記1イ?オ)。 ウ しかしながら,引用商標はいずれも,請求人商品について使用されていることが確認できないから,請求人商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものといえない(上記(1)ク)。 2 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標 本件商標は,別掲1のとおり,肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する雄牛をシルエット風に描いてなるものであり,特定の称呼及び観念は生じないものというのが自然である。 なお,被請求人は,本件商標はアメリカバイソン(バッファロー)の特徴を強調して描いたものであると主張し,本件商標に係る異議決定(乙1)を提出しているが,たとえ,被請求人がそのように描いたとしても,我が国におけるアメリカバイソンの認識度からすれば,本件商標がアメリカバイソンを描いたものと認識する者は決して多くはなく,一般的には上記のように突進する雄牛を描いたものと認識するものと判断するのが相当である。 したがって,被請求人の主張は採用できない。 (2)引用商標1 引用商標1は,別掲2のとおり,肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する雄牛をシルエット風に描いてなるものであり,特定の称呼及び観念は生じないものというのが自然である。 (3)本件商標と引用商標1の類否 本件商標と引用商標1を比較すると,両者は上記(1)及び(2)のとおり,いずれも肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する雄牛をシルエット風に描いてなるものであり,かかる基本的な構成を共通にするものである。 そして,本件商標と引用商標1とを対比してみれば,前者が後者と比べ角が白抜きで大きく,頭部も大きく,前脚は前者が1本で後者が2本で描かれ,また後者には身体の部位を表す白抜き部分があり前者にはそれがないといった差異があるものの,これらの差異は両者の共通する上記基本的な構成を凌駕し,両商標全体から受ける視覚的印象を異にする程のものとはいえないと判断するのが相当である。 そうとすれば,両商標は,肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する雄牛をシルエット風に描いてなる点において構成の軌を一にするものであって,時と所を異にして離隔的に観察した場合,相紛れるおそれのある外観上類似の商標というべきである。 また,両商標は,いずれも特定の称呼及び観念を生じないものであるから,これらによって区別することはできない。 したがって,本件商標と引用商標1は,外観において相紛らわしく,称呼及び観念において区別し得ないものであるから,両者の外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すれば,両者は相紛れるおそれのある類似の商標というべきものである。 (4)両商標の指定商品の類否 本件商標の指定商品中第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」は,引用商標1の指定商品中第25類「Clothing,footwear,headwear;sportswear,sports footwear,football boots and studs therefor,non-slip devices for footwear,corsets,textile nappies.」と同一又は類似するものである。 しかしながら,本件商標の指定商品中上記以外の指定商品は,引用商標1の指定商品のいずれとも同一又は類似するものとは認められない。 (5)小括 以上のとおり,本件商標は引用商標1と類似する商標であって,かつ,本件商標の指定商品中第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」は引用商標1の指定商品と同一又は類似するものであるから,本件商標は,その指定商品中第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」(以下,「11号抵触商品」という。)について商標法第4条第1項第11号に該当するものである。 また,本件商標は,その指定商品中第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」以外の商品については,引用商標1の指定商品のいずれとも同一又は類似するものとは認められないから,商標法第4条第1項第11号に該当するものといえない。 3 商標法第4条第1項第15号について (1)商標法第4条第1項第15号の判断 本号における「混同を生ずるおそれ」の有無は,ア)当該商標と他人の表示との類似性の程度,イ)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,ウ)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,エ)並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,オ)当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(前掲最高裁第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号)。 (2)使用商標2 使用商標2は,別掲6のとおり肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する1頭の赤い雄牛と黄色い円からなるものであり,上記1(2)ア及びイのとおり,本件商標の登録出願の日前から登録査定の日まで継続して,請求人商品を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものであって,その認識の程度は高いものである。 そして,使用商標2は,その構成中黄色の円は色彩が施されているものの形状がありふれた円であって,赤い牛の背景のように描かれているのに対し,赤い牛は頭を低く下げて突進する特徴的な体勢で描かれていることから,これに接する取引者,需要者をして特徴的な体勢の赤い牛に着目し記憶することが少なくないと判断するのが相当であって,該赤い牛(以下「牛部分」という。)が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということができる。 また,当該牛部分は特定の称呼及び観念を生じないものである。 (3)本件商標 本件商標は,上記2(1)のとおり,肩部を頂点に身体をくの字状に曲げ,頭を低く下げ角を前方に突き出し,S字状の尾を上げ左方向に突進する雄牛をシルエット風に描いてなるものであり,特定の称呼及び観念は生じないものである。 (4)商標法第4条第1項第15号の該当性 ア 当該商標(本件商標)と他人の表示(使用商標2)との類似性の程度 使用商標2の構成中牛部分は,色彩は異なるものの,引用商標1と同一の構成からなるといい得るものである。 そして,上記2(3)のとおり,本件商標と引用商標1は相紛れるおそれのある類似の商標であって,いわゆる狭義の混同(商標法第4条1項第11号に該当)を生じさせるおそれがあるものであるから,両者の類似の程度は高いといえる。 そうすると,本件商標と,引用商標1と同様の構成からなるといい得る使用商標2の構成中牛部分についても,同様のことがいえる。 イ 他人の表示の周知著名性及び独創性の程度 使用商標2は,上記1(2)ア及びイのとおり我が国の需要者の間に広く認識されている程度は高いものといえ,また,その構成中牛部分は頭を低く下げ突進する特徴的な体勢を描いてなるものであるから,独創性は高いといえる。 ウ 本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との関連性 本件商標の指定商品は,上記第1のとおり,「キーホルダー,身飾品,時計,かばん類,袋物,傘,被服,履物」等である。 他方,請求人が,使用商標1ないし3を使用する商品は,請求人商品以外にもライセンス商品として,時計,キーホルダー,バッグ,傘,Tシャツ,靴,帽子などにも使用されている実情がある。 そうすると,本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品は,その需要者を共通にし,関連性を有するというべきである。 (5)小活 上記アないしウの事情に照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,これをその指定商品中の11号抵触商品以外の商品について使用するときは,これに接する取引者,需要者が請求人等の使用商標2を連想又は想起することが少なくないものと判断するのが相当である。 してみれば,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,商標権者がこれをその指定商品について使用した場合,取引者,需要者をして請求人等の使用商標2を連想又は想起させ,その商品が請求人等あるいはそれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 4 むすび 以上のとおり,本件商標は,11号抵触商品については,商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであり,かつ,その余の指定商品については,同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。 したがって,本件商標は,他の無効理由について判断するまでもなく,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効にすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標1) 別掲3(引用商標2) 別掲4(引用商標3) 別掲5(使用商標1) (色彩は原本参照) 別掲6(使用商標2) (色彩は原本参照) 別掲7(使用商標3) (色彩は原本参照) |
審理終結日 | 2016-02-10 |
結審通知日 | 2016-02-16 |
審決日 | 2016-03-02 |
出願番号 | 商願2011-70025(T2011-70025) |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Z
(X141825)
T 1 11・ 262- Z (X141825) T 1 11・ 271- Z (X141825) T 1 11・ 263- Z (X141825) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 泉田 智宏 |
特許庁審判長 |
早川 文宏 |
特許庁審判官 |
田村 正明 田中 幸一 |
登録日 | 2012-03-02 |
登録番号 | 商標登録第5475323号(T5475323) |
代理人 | 関川 淳子 |
代理人 | 佐藤 俊司 |
代理人 | 中村 勝彦 |
代理人 | 福井 陽一 |
代理人 | 阪田 至彦 |
代理人 | 佐藤 力哉 |