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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W41
審判 全部申立て  登録を維持 W41
管理番号 1313257 
異議申立番号 異議2015-900339 
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-25 
確定日 2016-03-19 
異議申立件数
事件の表示 登録第5781750号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5781750号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5781750号商標(以下「本件商標」という。)は,「心形刀流剣術」の文字を標準文字で表してなり,平成25年7月3日に登録出願,第41類「剣術の教授,剣術に関するセミナーの企画・運営又は開催,剣術に関する書籍の制作,剣術に関するビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),剣術の興行の企画・運営又は開催」を指定役務として,同27年6月26日登録査定がされ,同年7月31日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標は,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証を提出した。(以下「甲第○号証」の表示は,「甲○」と簡略する。)
1 申立理由の要点
(1)「心形刀流」とは,伊庭秀明が,本心刀流をもとに開いた江戸時代より続く剣術の著名な一流派の名称であり,江戸時代に全国的な知名度を獲得するに至ったものである。
本件商標は,「心形刀流剣術」の漢字を,普通に用いられる方法で表示したにすぎないから,上記の事情より,「剣術の教授」や,「剣術」に関する役務に使用しても,役務の質(内容)を表示するにすぎず,自他商品・役務の識別標識としての機能を果たし得ない。
(2)また,本件商標は,商標法第3条第2項の適用を受け,特定の個人(商標権者)に付与されたものである。しかし,「心形刀流」や「心形刀流剣術」の名称が,全国的な知名度を獲得するに至ったのは,昭和や平成ではなく,江戸時代である。「心形刀流」や「心形刀流剣術」の名称の全国的な知名度の獲得に何らの貢献もなかった特定の個人が,商標法第3条第2項の適用を受けることはできないというべきである。
加えて,上記全国的な知名度を獲得した時期に,「心形刀流」の宗家(家元)であった伊庭家は,既に明治期に断絶しており,現在,「心形刀流」の宗家(家元)は存在しない。
上記の事情より,「心形刀流」の宗家(家元)であった伊庭家と,何らの血縁関係等もなく,「心形刀流」の全国的な知名度の獲得に何らの貢献もなかった第三者たる特定の個人が,「心形刀流」の宗家(家元)が存在しない事を奇貨として,江戸時代からの著名な流派の名称について,「自己等の使用により業務に係る役務として全国的な知名度を得た」と主張して,商標法第3条第2項の適用を受けることは許されないというべきである。
(3)本件商標は,全国に伝承された「心形刀流」の系統のうち,三重県亀山の伝承を根拠として,商標法第3条第2項の適用を受け,付与されたものである。しかし,「心形刀流」についての三重県亀山の伝承は,「心形刀流」の皆伝者を経由しておらず,江戸時代における「心形刀流」のほんの一部を今に伝えるものでしかない。
また,上記著名性を獲得し,宗家(家元)がまだ存在していた,江戸時代における「心形刀流」の形等の多くを,三重県亀山の伝承は失伝している。
さらに,三重県亀山の伝承よりも,長崎県平戸の伝承の方が,膨大な資料類が保存されており,かつ,昭和や平成の時代において,一般の需要者等に認知されている「心形刀流」とは,長崎県平戸藩に伝承した「心形刀流」であるといえる。
上記の事情より,全国に伝承された「心形刀流」の系統のうち,三重県亀山の伝承を根拠として,商標登録を受ける場合に適切なのは,出願に係る商標を「亀山藩御流儀心形刀流」,「心形刀流赤心会」,「心形刀流保存赤心会」等とすべきであって,出願に係る商標を「心形刀流剣術」とするのは,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる商標」には該当せず,商標法第3条第2項の適用を受けることができないというべきである(主体の不一致・商標の不一致)。
(4)また,上記の事情より,現在の需要者等が認識する「心形刀流」・「心形刀流剣術」とは,全国的な知名度を獲得するに至った江戸時代の「心形刀流」であり,「心形刀流」の皆伝者を経由しておらず,江戸時代の「心形刀流」の形等の多くを失伝した三重県亀山の伝承を,江戸時代の「心形刀流」そのものであるとして,現在の需要者等が学び,接したりするとすれば,役務の質の誤認を生じさせるおそれがある。
すなわち,三重県亀山の伝承は,「心形刀流亀山派」,あるいは「心形刀流保存赤心会(という,心形刀流の流れをくむ一流派・団体)」であって,江戸時代の「心形刀流」そのものや,江戸時代の「心形刀流」から現代まで,宗家(家元)が現存し,引き継がれてきたものではない。
さらに,「心形刀流保存赤心会」が,三重県亀山の伝承を伝えていると主張しているが,「心形刀流保存赤心会」はそもそも「法人格なき社団」であって,当該「法人格なき社団」が法的に許諾をすることはできないし,相続等の商標権の移転の問題を考慮すると,「心形刀流」の宗家(家元)であった伊庭家と何らの血縁関係等もない個人が,「心形刀流」という文字商標について商標権を取得することは,団体商標制度や地域団体商標制度との法的バランスを考慮した場合に,商標法が予定していない事態であるといえる。
2 具体的理由及び事実関係
(1)「心形刀流」について
「心形刀流」は,別の流派である「本心刀流」をもとにして生まれた剣術の流派であり,「心形刀流」が全国的な知名度を獲得したのは,江戸時代であり,現代における「心形刀流」の知名度も,江戸時代に名をはせた剣術の著名な一流派の名称として認識されていたことによるものである。
初代の「伊庭秀明(伊庭是水軒秀明)」から,第10代の伊庭想太郎までは,血縁,養子等により,「伊庭家」が宗家(家元)として「心形刀流」を維持,発展させてきたが,伊庭想太郎の後,「伊庭家」と「心形刀流」の関係性はなくなり,宗家(家元)が存在しなくなった。
「心形刀流」の門人が各藩の剣術指南等として,日本全国各地に流派を伝え,各地域に独自の「心形刀流」が根付いたが,江戸時代に「心形刀流」といえば,宗家(家元)たる「伊庭家」の「心形刀流」を表していた(免状の発行も宗家(家元)が行っていた)。
(2)「心形刀流宗家(家元)(伊庭家)」と「貞源寺」との関係について
貞源寺には,「伊庭家」が宗家(家元)として「心形刀流」を維持,発展させてきた時代の,初代の「伊庭秀明(伊庭是水軒秀明)」から,第10代の伊庭想太郎までの墓がある。すなわち,貞源寺は,江戸時代から続く,「伊庭家」の菩提寺であり,「心形刀流」そのものの菩提寺ともいえる。
幕末の頃に生きた,第8代の子で,第10代の兄,伊庭八郎秀穎も有名であり,伊庭八郎秀穎を慕って,「伊庭八郎の会」が伊庭八郎の菩提寺である貞源寺を中心に結成され,命日に法要「朝涼忌」の運営が定期的に行われている(甲3,甲4)。
(3)宗家(家元)が存在しなくなった時代(昭和)の「心形刀流」について
江戸時代の「心形刀流」の門人が日本全国に流派を伝え,各地域に独自の「心形刀流」が根付いていたため,独自に,各地城ごとに伝承等がなされていた。例えば,平戸藩に伝わった「心形刀流」を通じ江戸よりはるか遠い,長崎県の五島列島に独自の「心形刀流」の伝承が残っている事実が存在する(甲5?甲8)。
その他にも,伊勢亀山藩に伝わった伝承を伝え,本件商標の商標権者が所属する「心形刀流赤心会」や,平戸藩に伝わった「心形刀流」等の全国各地に伝承した「心形刀流」を継承し(甲7?甲9),申立人が所属する「心形刀流風心会」等の団体が,各々独自の活動を行っている。
申立人が所属する「心形刀流風心会」は,上記江戸時代からの「伊庭家」の菩提寺であり,「心形刀流」そのものの菩提寺ともいえる「貞源寺」において,毎年,「心形刀流」,「心形刀流剣術」を代表する団体として招かれ,伊庭八郎秀穎の命日の法要「朝涼忌」において「心形刀流」演武を行ってきたという実績もある(甲10)。すなわち,「朝涼忌」において,「心形刀流」「心形刀流剣術」の代表として,毎回,「心形刀流剣術」の演武を行っているのは,商標権者でもなく,商標権者が所属する「心形刀流保存赤心会」でもない。
また,「心形刀流風心会」の活動内容が定期的に紹介されており,かなりの知名度を有している(甲11)。
(4)長崎平戸藩に伝わった「心形刀流」・伊勢亀山藩に伝わった「心形刀流」について
ア 長崎平戸藩に伝わった「心形刀流」の系統
長崎県平戸藩に伝承した系統(甲7)については,膨大な資料類が保存されており,その技芸の手順及び理念,当時の稽古方法などについて詳細に知ることができる。
これは,平戸藩藩主にして江戸時代最大の随筆である「甲子余話」を記した松浦静山公により,心形刀流に関する調査が行われ,収集整理されているため,松浦史料博物館に100点以上の文献が残ったものであり,多くの研究者たちがその調査に訪れ,数々の書籍に取り上げられている(甲12)。上記宗家(家元)が絶えた後,一般に知られる心形刀流の技術はこの文献によって認知されていることがほとんどで,そのような点で,現在,一般に認知されている「心形刀流」とは,長崎県平戸藩に伝承した心形刀流の系統であるといって過言ではない。
現代の一般の方,研究者・武芸関係者の認識を基準とした場合,「心形刀流」とは,上記宗家(家元)が存在していた江戸時代の(宗家(家元)の)「心形刀流」であり,長崎県平戸藩に伝承した系統の「心形刀流」である。
イ 伊勢亀山藩に伝わった「心形刀流」の系統
伊勢亀山藩に伝わった「心形刀流」の系統(商標権者が所属する「心形刀流赤心会」の系統)は,長崎県平戸藩に伝承した系統とは,全く別の系統である(「心形刀流」が伝わったルート・時期が全く異なる)。
文政11年(1828年)に亀山藩江戸藩邸で生まれた山崎利右衛門(雪柳軒)が,江戸詰めを解かれ亀山藩に戻り自藩の剣士育成を始めたのが元治元年(1864年)頃であり,長崎県平戸藩に伝承した系統に比べ歴史が浅く,約100年(1世紀)ほど歴史が短い。
そのため,「心形刀流」の系統としては,歴史が浅く,研究が十分でなかったことにより,資料にまとめられる機会がほとんどなかったため,上記長崎県平戸藩に伝承した系統とは異なり,伊勢亀山には「心形刀流」関連の伝書類がほとんど残っていない。
また,亀山伝承の心形刀流は失伝が多く,江戸時代の本来の「心形刀流」,すなわち宗家(家元)が存在していた頃の「心形刀流」の形や,その技法について知ることが十分にできない。つまり,「心形刀流」の使い手のうち,現代の人にとって歴史的に著名な人物(初代・伊庭是水軒秀明,平戸藩主・松浦静山公,幕末の剣客・伊庭八郎など)は,宗家(家元)の「心形刀流」や,平戸伝承の系統の「心形刀流」で,「心形刀流」の形や,その技法を学んだ者であって,元治元年(1864年)頃に伝承した亀山の心形刀流で学んだ者はいない。
ウ 伊勢亀山藩に伝わった「心形刀流」の系統と「文化財」について
伊勢亀山藩に伝わった「心形刀流」の系統は,「文化財」として三重県の認定を受けている。
しかしながら,「文化財」として,三重県の認定を受けているのは,「亀山藩御流儀 心形刀流武芸形」(甲14)としてであり,その概要の記載において,「元治元年(1864年)亀山に武道場を開設し,藩主に認められて剣術指南役となり,柳生新陰流に代わって御流儀となった,亀山演武場で伝えられている」という点を評価している。すなわち,三重県の認定を受け,無形文化財(芸能)として評価されているのは,「心形刀流の流れをくむ一流派として,江戸時代末期(幕末)に,三重県亀山という限られた地域で亀山藩御流儀となった技芸・伝承」についてであって,「江戸時代に隆盛を極め,全国に影響を及ぼした宗家(家元)の『心形刀流』そのもの」ではない。
つまり,特定の地域(三重県亀山)における民間伝承について評価されているのみであって,江戸時代の宗家(家元)の「心形刀流」そのままを伝承している根拠とはいえない。
エ 亀山伝承の「心形刀流」で,本来の「心形刀流」のうち失伝等している点について
江戸時代の宗家(家元)の「心形刀流」は,剣術だけでなく,居合・柔術・杖術・長刀術・槍術の形を学ぶカリキュラムとなっていたが,これらは亀山には伝承されておらず,途中で失伝したか,あるいは,そもそも,免許皆伝者が,亀山に近年存在していない。それどころか,肝心の,剣術の形さえ,かなり多くを失伝ないし伝承していない。
さらに長刀術については平戸で長刀として図面も残っているものを「枕刀術」と改称し,近年独自な形を創始して行っている点で,心形刀流とは無関係,かつ皆伝者もいないながら,それを混同させるような形がなされている点で,本来の心形刀流とはいえない継承がなされている。また,亀山においては元々伝承していた技芸がほんの一部に過ぎなかったこともあり,新しく形を創始して付け加えたりして,学んだ時期や人によって解釈が異なり,それぞれ独自なスタイルの教授を行うようになっており,現在の亀山の伝承のみをもってすら,亀山に伝わっていた心形刀流ということはできない。
すなわち,「心形刀流保存赤心会」の「心形刀流」は,本来の心形刀流(江戸時代の宗家(家元)の心形刀流)とも異なるし,世間一般に認知されている心形刀流(長崎県平戸の心形刀流)とも異なるし,さらには,もはや亀山伝来の心形刀流(元治元年(1864年)に山崎利右衛門(雪柳軒)が伝えた心形刀流)とも異なるものである。
オ 本件商標登録の審査(出願経過)における,事実と異なる主張について
(ア)「昭和中期以降は,宗家(家元)からの継承を証明できるものは,三重県亀山市に伝わるもののみとなっています。」と主張しているが,三重県亀山市の伝承よりも歴史があり,知名度も高い.長崎県平戸藩に伝承した系統の「心形刀流」が,複数,現存しており(甲5?甲11),肝心の,剣術の形さえ,かなり多くを失伝ないし伝承していない。
(イ)「又,心形刀流保存赤心会は,各流派の代表のみが加盟できる全国的な組織である『日本古武道協会』や『日本古武道振興会』等に加盟しており」と主張しているが,「日本古武道協会」や「日本古武道振興会」は,かつてはきちんとした審査もなく,推薦や申請をすれば比較的容易に入会できた組織で,入会した団体への伝承についての調査・審査もなく,さらに,実際に加盟・入会している団体は,実在する古武道に関する団体のごく一部にすぎない。
(ウ)「このような活動の結果,心形刀流といえば,心形刀流保存赤心会という団体が教授する剣術であると広く認識されるに至っております。」と主張しているが,江戸時代の「伊庭家」の菩提寺であり,「心形刀流」そのものの菩提寺ともいえる「貞源寺」において,申立人が所属する「心形刀流風心会」が「心形刀流」を代表する団体として招かれ,上記の伊庭八郎秀穎の命日の法要「朝涼忌」において,「心形刀流」演武を行ってきたという実積があり(甲10),漫画・各種雑誌・DVD等において,「心形刀流風心会」の活動内容等が定期的に紹介されており,かなりの知名度を有している(甲11)。
(エ)「心形刀流は,昭和中期以降,亀山のみに伝承されている旨が記録されていることは前述のとおりであり,三重県の無形文化財にも認定されています。」と主張しているが,国の法制度(文化財保護法)に基づく,「重要無形文化財」の指定を受けておらず 三重県(地方自治体)の無形文化財(芸能)の認定を受けている。また,認定を受けているのは,「亀山藩御流儀 心形刀流武芸形」(甲14)としてであり,「心形刀流」の流れをくむ一流派として,江戸時代末期(幕末)に,三重県亀山という限られた地域で亀山藩御流儀となった技芸・伝承(特定の地域での民間伝承としての価値)についてである。
(オ)「又,心形刀流保存赤心会の関係者以外の者が,心形刀流を名乗り,大会や演武会等に参加したという記録は確認されておりません。」と主張しているが,申立人が所属する「心形刀流風心会」が「心形刀流」を代表する団体として招かれ,上記伊庭八郎秀穎の命日の法要「朝涼忌」において,「心形刀流」演武を行ってきたという実積がある(甲10)。
3 商標法第3条第1項第3号の該当性
(1)本件商標について
本件商標は,「心形刀流剣術」の漢字を普通に用いられる方法で横書してなる標準文字商標であって,第41類「剣術の教授」や,「剣術」に関する役務を指定役務とするものである。
「心形刀流」とは,伊庭秀明が,本心刀流をもとに開いた江戸時より続く剣術の著名な一流派の名称であり,江戸時代に全国的な知名度を獲得するに至ったものであり,「心形刀流剣術」とは,「心形刀流」の「剣術」であるという意味である。
そうすると,本件商標は,「心形刀流剣術」の漢字を標準文字により普通に用いられる方法で表示したにすぎないから,指定役務「剣術の教授」や,「剣術」に関する役務に使用しても,これに接する取引者,需要者は,単に役務の質(内容)を表示した語と認識するにとどまるから,該文字は自他役務等識別標識としての機能を果たし得ないものというべきである。
(2)商標法第3条第2項の該当性
本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当すると判断されながらも,商標法第3条第2項の適用を受けて,商標登録がなされたものである。
しかしながら,当該商標法第3条第2項の解釈・適用について,重大な過誤があった。本件商標は,特定の個人(商標権者)に付与されたものであるが,本件商標登録の審査の過程においても,当該特定の個人(商標権者)が,自らの出所表示として,「心形刀流」を使用していた事を表す証拠は全く存在せず,商標法第3条第2項の適用を受ける事はできない。
また,仮に,特定の者の出所表示という(商標の使用主体)の点について,本件の出願人ではなく,出願人の所属する法人格なき団体(心形刀流保存赤心会)を基準に認定,判断したとしても,出願された商標「心形刀流」と使用された商標「亀山藩御流儀 心形刀流武芸形」,「心形刀流保存赤心会」とは,同一ではなく,商標法第3条第2項の適用を受けることはできない。
なお,「心形刀流」について,江戸時代に全国的な知名度を獲得するに至ったのは,「心形刀流」の宗家(家元)であった伊庭家による使用によるものである。
「心形刀流」の宗家(家元)であった伊庭家とは何らの関係もなく,設立自体が昭和50年(1975年)で,歴史を遡ったとしても元治元年(1864年)頃が限界である法人格なき団体(心形刀流保存赤心会)には,「心形刀流剣術」そのものの文字商標について商標法第3条第2項の適用を受ける事ができるという理由・根拠が全く存在しない。
上記の事情より,「心形刀流」の宗家(家元)であった伊庭家と,何らの血縁関係等もなく,「心形刀流」の全国的な知名度の獲得に何らの貢献もなかった第三者たる特定の個人が,「心形刀流」の宗家(家元)が存在しない事を奇貨として,江戸時代からの著名な流派の名称について,「自己等の使用により業務に係る役務として全国的な知名度を得た」と主張して,商標法第3条第2項の適用を受けることは許されないというべきである。
全国に伝承された「心形刀流」の系統のうち,三重県亀山の伝承を根拠として,商標登録を受ける場合に適切なのは,出願に係る商標を「亀山藩御流儀心形刀流」,「心形刀流赤心会」,「心形刀流保存赤心会」等とすべきであって,出願に係る商標を「心形刀流」や「心形刀流剣術」等とするのは,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる商標」には該当せず,商標法第3条第2項の適用を受けることができないというべきである。
4 商標法第4条第1項第16号の該当性
また,現在の需要者が認識する「心形刀流剣術」とは,全国的な知名度を獲得するに至った江戸時代の「心形刀流」であり,「心形刀流」の皆伝者を経由しておらず,江戸時代の「心形刀流」の形等多くを失伝した三重県亀山の伝承を江戸時代の「心形刀流」そのものであるとして,現在の需要者等が学び,接したりするとすれば,役務の質の誤認を生じさせるおそれがある。
5 むすび
したがって,本件商標登録に係る商標は,商標法第3条第1項第3号及び商標法第4条第1項第16号に該当し商標登録を受けることができないものであるから,本件商標登録は商標法第43条の2第1号により取り消されるべきものである。

第3 当審の判断
1 「心形刀流」に関する一般的な認識について
(1)申立人の提出に係る証拠によれば,「心形刀流」の語及びその伝承等について,以下の事実が認められる。
ア 「心形刀流」とは,伊庭秀明が,本心刀流をもとに天和2年(1682年)に開いた剣術の流派の名称である。また,幕末期には,第8代伊庭秀業が開いた道場「練武館」が幕末江戸四大道場に数えられるほどに隆盛したが,第10代伊庭想太郎で伊庭家は途絶えた(甲2)。
イ 伊庭八郎の菩提寺である浄土宗貞源寺に伊庭一族の墓があり,第8代伊庭秀業の子である伊庭八郎を偲ぶ「伊庭八郎の会」が結成され,命日に法要「朝涼忌」が行われている(甲3,甲4)。
また,「朝涼忌」の第1回(平成20年6月15日)ないし第8回(平成27年5月31日)において,記念行事として「心形刀流風心会演武」が行われた(甲10)。
ウ 平成19年1月3日開催の「第一回 長崎奉行所初稽古『剣道演武大会』」において,心形刀流の演武が行われた(甲5)。
エ 「心形刀流」が米沢藩,村松藩,新発田藩,龍野藩,紀州藩,徳島藩,人吉藩などに伝えられ,また,多くの藩主が伊庭家の門人に名を連ね,浅尾藩主・蒔田家,村松藩主・堀家,鳥羽藩主・稲垣家,唐津藩主・小笠原家の他,米沢藩主の上杉斉憲,沼津藩主の水野忠邦なども門人であったという記録が残っている(甲2)。
オ 心形刀流の長崎・平戸藩への伝承については,創始者(伊庭秀明)から申立人(心形刀流風心会)までの伝系図がある(甲7)。
カ 心形刀流の三重・亀山藩の伝承については,第8代伊庭秀業の弟子山崎雪柳軒光宇により伝承された旨の記載がある(甲15)。また,「亀山藩御流儀心形刀流武芸形」が,1975年3月27日に三重県無形文化財(芸能)の指定を受けている(甲14)。
(2)上記(1)の事実に基づいて判断するに,「心形刀流」とは,伊庭秀明(伊庭是水軒秀明)が,本心刀流をもとに天和2年(1682年)に開いた剣術の一流派の名称を表示するものとして記録が残され,かつ,宗家である伊庭家も第10代で途絶えた事実や弟子達により各地に伝承されたとの記述はうかがえるものの,現在において,「心形刀流」が伝承され,実際に稽古や鍛錬(演武)を行っている者(団体)は,亀山藩(商標権者及び心形刀流赤心会)及び平戸藩(申立人及び心形刀流風心会)に伝承された心形刀流の系統であり,これ以外の者(団体)が,日本各地において「流派」を「心形刀流」とし,「稽古」を「剣術」として紹介し,日本各地の道場等で教授している事実を認めるに足りる証拠はなく,また,「心形刀流」に係る流派に属する者の人数も不明であって,提出された証拠をもってしても,「心形刀流」が本件商標の指定役務の質を表すものとして,かつ,出所識別標識の機能を果たし得ない商標として使用されている事実は認められない。
そうとすると,我が国の取引者,需要者において,「心形刀流」が江戸時代から伝承された剣術の一流派の名称として,一般的に広く知られているとは認められない。
2 商標法第3条第1項第3号の該当性について
「心形刀流」は,江戸時代より続く剣術の一流派であり,亀山藩と平戸藩に伝承された系統が現存していることは事実として認められるものである。 そして,本件商標の「心形刀流剣術」の文字は,「心形刀流」の文字に「刀剣を手にして敵に当たる技術,剣法」を意味する「剣術」の文字を連結し,「心形刀流の技術,心形刀流の剣法」の意味合いを認識させるものである。
ところで,該「心形刀流剣術」の文字については,申立人の提出した証拠からは,その登録査定時において,「心形刀流剣術」の語が,例えば,本件商標の指定役務中「剣術の教授」等の役務についての取引者,需要者の間に浸透したことをうかがわせる証拠はなく,該語が指定役務の質として,取引者,需要者に広く認識されている特段の事情もみいだし得ない。
そうすると,「心形刀流剣術」の文字は,剣術の流派の名称であるという程の意味合いを理解させる場合があるとしても,本件商標に係る指定役務について,役務の質を表示するものということはできず,自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものであるというべきである。
なお,申立人は,「心形刀流」とは,伊庭秀明が,本心刀流をもとに開いた江戸期より続く著名な剣術の一流派であり,江戸時代に全国的な知名度を獲得するに至ったものであって,「心形刀流剣術」とは,心形刀流の剣術であるという意味の役務の質(内容)を示すものとして認識するから,同号に該当する旨を主張している。
しかしながら,該「心形刀流剣術」の文字が,指定役務の質として取引者,需要者に広く認識されていないことは,上記のとおりであり,役務の質として理解されるものではないというべきである。
よって,申立人の主張は,採用することができない。
その他,本件商標が,具体的な役務の質を表示するものとして,取引者,需要者間に理解されているものとの事情を認めるに足りる証拠は提出されていない。
してみれば,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
商標法第4条第1項第16号に規定されている「役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは,指定役務に係る取引の実情の下で,公益性を担保するという観点から,取引者又は需要者において,当該商標が表示していると通常理解される質と指定役務が有する質とが異なるため,商標を付した役務の質の誤認を生じさせるおそれがある商標をいうものと解される。そして,同号でいう役務の質とは,抽象的な内容のものを指すのではなく,取引者又は需要者が当該商標から看取する具体的な役務の質をいうものとみるのが相当である。
これを本件についてみれば,前記2において認定したとおり,「心形刀流剣術」の文字は,例えば,一般名称というように,本件商標の指定役務の質として取引者,需要者に認識されていない以上,本件商標をその指定役務に使用したとしても,これに接した取引者,需要者が,具体的に江戸時代から伝承された「心形刀流の剣術」であると理解し,認識することはできず,該「心形刀流の剣術」以外の剣術であると誤解して,その質を誤認することはないというべきである。
なお,申立人は,本件商標が,「心形刀流」の皆伝者を経由しておらず,江戸時代の「心形刀流」の形等多くを失伝した三重県亀山の伝承を江戸時代の「心形刀流」そのものであるとして,需要者等が本件商標に接したりするとすれば,役務の質の誤認が生ずる旨を主張している。
しかしながら,「心形刀流」が江戸時代から続く剣術の一流派という事実があるとしても,本件商標に係る指定役務の取引者,需要者間において,該事実が一般的に広く知られているとは認められないことは,前記1のとおりであり,これに加えて,該「心形刀流」が,三重県亀山に伝承したものと長崎県平戸に伝承したものとがあり、そのどちらか一方が江戸時代の「心形刀流」そのものであるといった観点における役務の質の誤認は生じ得ないといわざるを得ない。
よって,上記申立人の主張は採用できない。
そうとすれば,本件商標をその指定役務について使用しても,需要者をして,役務の質について誤認を生じさせるおそれはないものである。
してみれば,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 商標法第3条第2項該当性の主張について
申立人は,本件商標が商標法第3条第2項の適用を受けて登録されたものである旨主張しているが,本件商標は,審査の経緯において,同項の適用を受けて登録されたものではないから,申立人の主張は,その前提において失当であり,仮に,本件商標が,使用をされた結果識別力を獲得したことを否定する趣旨であるとしても,本件商標が,識別力を有するものであることは,前記2のとおりであるから,この点に関する申立人の主張は,採用できない。
5 まとめ
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2016-03-11 
出願番号 商願2013-55583(T2013-55583) 
審決分類 T 1 651・ 272- Y (W41)
T 1 651・ 13- Y (W41)
最終処分 維持 
前審関与審査官 橋本 浩子 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
山田 正樹
登録日 2015-07-31 
登録番号 商標登録第5781750号(T5781750) 
権利者 上田 功穂
商標の称呼 シンケートーリューケンジュツ、シンギョートーリューケンジュツ、シンケートーリュー、シンギョートーリュー 
代理人 古志 達也 
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