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審決分類 審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W28
審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W28
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W28
管理番号 1311964 
審判番号 無効2015-890037 
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-04-23 
確定日 2016-02-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第5706123号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5706123号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5706123号商標(以下「本件商標」という。)は,「SHELL BEAR」の欧文字を標準文字により表してなり,平成26年4月18日に登録出願され,第28類「ぬいぐるみ人形」を指定商品として,同年8月11日に登録査定,同年10月3日に設定登録された。

第2 引用商標
請求人の引用する登録商標2件は,次のとおりであって,当該商標権は現に有効に存続している。
1 引用商標1
登録第2571096号商標(以下「引用商標1」という。)は,「Shell」の欧文字を横書きしてなり,平成3年9月27日に登録出願,第24類「おもちや、その他本類に属する商品」を指定商品として,同5年8月31日に設定登録され,その後,2回にわたる商標権の存続期間の更新登録がなされ,同16年9月22日に指定商品を第28類「おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具」とする書換登録がなされた。
2 引用商標2
国際登録第977610号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,2008年3月11日にスイス国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して,同年(平成20年)5月14日に国際登録出願,第28類「Games, playthings; toys; jigsaw puzzles; decorations for Christmas trees.」を含む第1類,第4類,第6類,第8類,第9類,第11類,第14類,第16類,第18類,第19類,第21類,第24類,第25類,第26類,第27類,第28類及び第37類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,平成22年3月19日に設定登録された。
(以下,これらをまとめていうときは,「引用商標」という場合がある。)

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨,次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第302号証(枝番を含む。)を提出した。
1 「Shell」商標の著名性
(1)シェル・グループについて
「Shell」の文字は,「ロイヤル・ダッチ・シェル社(Royal Dutch Shell plc)」及び同社を中核とする石油エネルギー・化学関連企業グループ「ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ」(以下「シェル・グループ」という。)の略称並びに同グループの商品・サービスの代表的出所標識(いわゆるハウスマーク)として,本件商標の出願日前から現在にかけて、日本国内はもとより世界中で広く知られている商標である。
シェル・グループは,現在70を超える国において活動する事業体と94,000人の従業員で構成されており(甲7),請求人「シェル ブランズ インターナショナル アクチェンゲゼルシャフト(Shell Brands International AG)」は,同グループの一員として「Shell」商標を管理する役割を担っている。
シェル・グループは,主としてエネルギー事業活動を世界各国で行い,世界規模で化学事業活動を行っている。シェル・グループ全体の規模は世界最大級であり,「Shell」商標はエネルギー事業について100年以上使用されてきたものであるから,世界で最も著名な商標のひとつと評することができる。
「Shell」商標は,すでに「J-PlatPat」の「日本国周知・著名商標検索」において周知・著名商標として挙げられているものであり(甲297,298),同商標が周知・著名であることは顕著な事実である。
(2)「Shell」の歴史
ア 世界における「Shell」
「Shell」商標の起源は,1833年に,マーカス・サミュエルが,ロンドンで古美術品や東洋産の貝殻を扱う商店を開業した時に遡り,この商店が人気を得て,サミュエルは,サミュエル商会を設立し,1897年にシェル・トランスポート&トレーディング社を設立した(甲8ないし10)。
1907年,シェル・トランスポート&トレーディング社は,ボルネオの石油開発を手がけていたオランダのロイヤル・ダッチ・ペトロリアム社(1890年設立)と,原油生産から石油製品販売までの一貫操業に関する協約を結び,「ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ」が誕生した(甲10,52)。
20世紀に入り,シェル・グループはエネルギー事業で実績を上げ,エクソン社等とともに,世界の主要石油会社7社の一角となり,その後は,石油の探鉱・開発・輸送・精製・販売のすべてを世界的規模で一貫操業する超大手の石油会社,いわゆるスーパーメジャーの一つとして(甲11,13),エネルギー事業において世界的に揺るぎない地位と名声を獲得するに至っている。
現在,「Shell」のサービス・ステーション(以下「ガソリン・スタンド」という。)が世界に44,000か所もあり,一日1,000万人が利用しているといわれ(甲7),「Shell」は,世界中の人々にとって最も身近で有名な商標の一つと評しても過言ではない。
アメリカ有力経済誌「Fortune」の統計によれば,シェル・グループは,1987年に世界全企業の中で総合2位の業績(売上高783億ドル)を上げ(甲10),それ以降も常に上位,2007年に3位(売上高3188億ドル:甲14),2010・2011年に2位(売上高2851億ドル及び3781億ドル:甲15,16),そして2012年にはついに世界1位(売上高4844億ドル/約58兆円)の座を獲得し(甲17),翌2013年も世界1位(4817億ドル/約57兆円),2014年は世界2位(4595億ドル/約55兆円)の座を堅持している(甲18,19)。つまり,シェル・グループは,現在,世界全ての業種・分野の中で最大の売上業績を誇る世界で最も有名な企業の一つであって,そのハウスマーク「Shell」が,業種・分野を超え,世界で最も著名な商標の一つであることは疑いない。
イ 日本国内における「Shell」
日本国内において,サミュエル商会は,1876年(明治33年)にはすでに横浜で貿易業を開始しており(甲8),1900年には石油部門を独立させ,シェル石油の前身であるライジングサン石油株式会社を設立している(甲11,20)。このように,シェル・グループの日本における事業は,明治・大正期という極めて早い時期から始まっていた。
1948年,ライジングサン石油株式会社は,その商号をシェル石油株式会社に変更し,1980年代,同社は国内石油業で売上高6位にまで成長した(甲90)。1985年,同社は,シェル・グループと資本関係を有していた昭和石油株式会社と合併し,昭和シェル石油株式会社(以下「昭和シェル石油」という。)として現在に至っている。
昭和シェル石油は,シェル・グループの一員として,現在,日本国内約4,300か所のガソリン・スタンドを通じ(甲20),日本全国の消費者にガソリン・灯油等の販売を行い,また,自動車等の整備その他サービスの提供を行っている(甲11,12,20ないし50)。昭和シェル石油は,2005ないし2010年まで国内ガソリン事業3位のシェアを有し(甲294),2011年以降も4位のシェアを堅持しており(甲299),民間のブランド調査でも高い認知度を有している(甲295)。昭和シェル石油は,日本国内の連結売上高で,直近10年間は毎年2ないし3兆円という甚大な数字を記録している(甲20,32ないし39ほか)。
なお,昭和シェル石油が,日本国内におけるシェル・グループのエネルギー事業につき主導的役割を果たす一方で,同グループのもう一つの柱である化学事業については,シェルケミカルズジャパン株式会社が,天然ガス事業についてはシェルジャパン株式会社が,それぞれ担っている(甲51ないし53)。
シェル・グループは,ライジングサン石油株式会社の頃からすでに日本国内で,石油缶や自動車用ガソリンのラベルに「SHELL」,「SHELL MINERAL TURPENTINE」,「SHELL POWER OIL」,「SHELL MOTOR SPIRIT」などの商標を使用しており,大正期には早くも「Shell」商標の下で,ガソリン・スタンドを展開している。そして現在でも変わらず,シェル・グループは,日本全国約4,300か所のガソリン・スタンド及びその販売に係る商品はもとより,会社案内,パンフレット,各地を走るガソリンタンク車,公式ウェブサイト,その他様々な媒体に「Shell」商標を使用しており(甲7,8,21ないし50,54ないし63ほか),同商標が日本において長年にわたり需要者に広く親しまれ,認知されていることは多言を要しない。
(3)シェル・グループによる宣伝広告・社会貢献活動
ア ガソリン・スタンドにおけるキャンペーン等
シェル・グループは,日本全国のガソリン・スタンドにおいて,ガソリンその他オイル関連商品を販売し,自動車整備等のサービスその他様々なサービスを提供している。そして,新製品の販売時や新サービスの提供開始の際には,各ガソリン・スタンドを通じて新製品・新サービスのパンフレットやリーフレットを配布したり,幟を立てたり,ポスターを貼付したりして,大々的な宣伝広告を実施しており,それら広告媒体には「Shell」商標が使用されている(甲54ないし73)。また,昭和シェル石油は,ガソリン・スタンドにおいて提供される商品・サービスにつき優遇を受けられるクレジットカード「Shell Starlex Card(シェル スターレックス カード)」を発行しており,現在,その会員数は120万人にものぼる(甲64,65)。
イ マスコット・キャラクターを利用した販売促進活動
昭和シェル石油は,2010年に,共通ポイントプログラム「Ponta(ポンタ)」に参画し(甲66),当該プログラムを介したキャンペーンを頻繁に実施している。そして,同社は,「Ponta(ポンタ)」のマスコット・キャラクターに,「Shell」のガソリン・スタンドのユニフォームを着せ,これをガソリン・スタンドのマスコット・キャラクターに準じて使用しており,当該キャラクターは「シェルPonta」の愛称で広く需要者の間で親しまれている(甲67ないし74)。
昭和シェル石油は,当該「シェルPonta」を前面に表したクレジットカードサービスを提供し,また,キャンペーン実施の都度,各ガソリン・スタンドを通じて「シェルPonta」を前面に表したパンフレットやリーフレットを配布したり,幟を立てたり,ポスターを貼付したり,あるいは,公式ウェブサイトを介して,大々的な宣伝広告を実施している(甲67ないし73)。また,同社は,ノベルティ・販促品として「シェルPonta」のぬいぐるみ人形やその他のキャラクター関連グッズを提供しており(甲70,73,74),シェル・グループの商品・サービスの販売促進活動を行っている。
ウ シェル・ミュージアム及びシェル・グッズの展開
昭和シェル石油は,1998年に,その本社ビル(東京都港区台場)内1階に,「Shell」のブランドイメージを向上させることを目的として,シェル・グループの歴史や企業活動を紹介する「シェル・ミュージアム」をオープンさせた(甲75,77,78)。同ミュージアム内には,展示コーナー,販売コーナー,飲食コーナーなどが設けられており(甲75),2013年には年間45,000人以上が,2014年にも約44,000人が,当該ミュージアムを訪れている(甲76)。販売コーナーでは,今日まで,様々なシェル・グッズが販売されてきており(甲75,79ないし81),それらの中でも特に変わらず人気を博しているのは,おもちゃ・被服・食器・文房具類・キーホルダーといったグッズであり,それぞれに「Shell」商標が使用されている(甲81)。とりわけ,本件商標の指定商品「第28類 ぬいぐるみ人形」と類似関係にある「おもちゃ」に関しては,株式会社タカラの人気商品「チョロQ」とのコラボレーション商品が人気であり,商品自体にはもちろん,そのパッケージにも「Shell」商標が使用されている(甲82)。また,当該販売コーナーにおいては,商品包装用の紙袋やビニル袋にも「Shell」商標が使用されている(甲83)。
エ スポーツ興行におけるスポンサー活動
シェル・グループが,その企業活動ないしスポンサー活動として力を入れているものの一つに,「F1(Formula One)」(Formula One Licensing BVの商標)がある(甲84)。F1は,オリンピック,FIFAワールドカップと共に「世界三大スポーツイベント」の一つと称されるほど,世界的に人気の高いモータースポーツである。
F1グランプリにおける常勝チームといえば「フェラーリ(Ferrari)」が有名であるが,シェル・グループは,フェラーリ・チームの一員として,燃料とオイルの面からチームをサポートしている。シェル・グループでは,40人ものプロフェッショナル達が,フェラーリのために日々燃料とオイルの研究開発をし,チームの勝利に貢献している。毎年鈴鹿で行われているF1日本グランプリをはじめ,年間二十回近く開催されるF1グランプリの度に「Shell」商標は大々的に会場に掲示されており(甲84),F1グランプリでの広告活動を通じても全世界・日本あまねく認知されている。
なお,シェル・グループが参画するF1チームをモチーフとした「熊のぬいぐるみ」が全世界で販売されており,当該ぬいぐるみには,シェル・グループが使用を許諾した「貝印」商標が付されている(甲296)。
オ シェル・グループによる社会貢献活動
シェル・グループは,時代を担う若手作家を発掘することを目的として,1956年ないし1981年まで「シェル美術賞」の名称で,1996年ないし2001年まで「昭和シェル現代美術賞」の名称で,コンテストを開催しており,これらは「画壇の登竜門」として評価され,芸術界に大きな影響を与えてきた。2003年からは,再び「シェル美術賞」の名称で,毎年コンテストを開催している(甲85,86)。
また,昭和シェル石油は,社会貢献活動の一つとして,環境フォト・コンテストを毎年開催しており,昨年のコンテストで10回目を数えている(甲87,88)。
上記のほかにも,昭和シェル石油は,様々な社会貢献活動に力を入れており(甲45ないし50),「Shell」商標は,こうした社会貢献活動を通じても広く認知されている。
カ 新聞・雑誌における広告等
シェル・グループの事業活動については,全国紙,専門誌の中で日常的に記事にされており,当該記事等への露出を通じても,「Shell」商標は,著名ブランドとして,広く日本国民に認知されている(甲90ないし212)。また,シェル・グループは,主に昭和シェル石油を介して,全国紙・業界紙・一般雑誌などあらゆる媒体に,高頻度で広告を出稿しており(甲213ないし293),これらを通じても「Shell」商標は,著名ブランドとして,広く日本国民に認知されている。
(4)小括
以上のとおり,シェル・グループによる事業の世界的規模,日本国内におけるシェル・グループの事業の実績及び歴史,並びに「Shell」商標の使用実績・状況等に照らせば,本件商標の出願日前から現在にかけて,「Shell」商標が,シェル・グループの商品・サービスの出所を示すハウスマークとして,日本国民において極めて高い著名性を有していることは明らかである。
2 商標法第4条第1項第11号の該当性
本件商標は,以下のとおり,引用商標と類似するものであって,それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(1)商標の類似性
本件商標の構成中「SHELL」の文字は,上記のとおり,シェル・グループの略称ないしハウスマークとして世界的に著名であり,当該著名性は日本全国の一般消費者にあまねく浸透している。また,請求人は,上記のとおり,昭和シェル石油を介して,シェル・ミュージアムを運営したり,ノベルティ・販促品としておもちゃ及びぬいぐるみ人形を提供したり,「Shell」商標を付したシェル・グッズを販売したり,スポーツ興行におけるスポンサー活動や社会貢献活動を行ったりしているから,「SHELL」の文字は,シェル・グループのガソリン・スタンドの利用者であるか否かにかかわらず,請求人のハウスマークとして,日本全国の需要者に広く親しまれ,認知されている。
他方,同構成中の「BEAR」の文字は,「熊(広辞苑)」の意で一般的に使用・認識されている語であり,また,本件商標の指定商品「第28類 ぬいぐるみ人形」の分野においては,「テディベア」に代表されるように「熊」をモチーフにしたぬいぐるみ人形が,古くから最も定番かつ親しまれたものであることは顕著な事実である。例えば,上記のとおり,シェル・グループが参画するF1のユニフォーム(シェル・グループの「貝印」商標が付されているもの)を着たぬいぐるみ人形が販売されているところ,当該ぬいぐるみ人形もまた「熊」をモチーフにしているものである(甲296)。
つまり,本件商標は,「第28類 ぬいぐるみ人形」について使用される場合には,「SHELL」と「BEAR」の間に特段観念的な繋がりもないことから,著名商標「SHELL」と商品の品質等につき記述的・一般的な「BEAR」の語を結合した商標であると容易かつ直ちに把握されるものであり,当該「SHELL」の部分が,需要者の注意を特に強く惹き,商標の支配的な要部として取られる可能性は極めて大である。
したがって,本件商標は,称呼・観念及び外観いずれについても引用商標と類似するものであり,需要者が,本件商標の付された指定商品を,シェル・グループの出所に係るものであると誤信してしまう可能性は極めて高いといわざるを得ない。
(2)商品の類似性
本件商標は,上記のとおり,「第28類 ぬいぐるみ人形」を指定して登録されている。一方,引用商標1は「第28類 おもちゃ,人形」等を指定して,引用商標2は「第28類 Toys」等を指定して,それぞれ登録されているものである。
したがって,本件商標の指定商品と,引用商標の指定商品は,同一又は類似の関係であることが明らかである。
(3)取引の実情
一般企業が,その本業に係る商品又はサービスの販売促進や宣伝広告として,様々な活動を行っており,そのような活動の中で,ノベルティや販促品(文房具類,印刷物,おもちゃ,被服)を販売したり,それらをキャンペーン等で無償配布したりすることが,ごく一般的に行われていることは顕著な事実である。また,ゆるきゃらブームといわれて久しい昨今では,大手企業の多くが,自社のマスコット・キャラクターを作製し,それを使ったノベルティ・販促品の提供,テレビコマーシャルの放映,イベントの開催などに力を入れている。しかして,それらマスコット・キャラクターの名称には,例えば,「ドコモダケ(「DOCOMO」と「茸」を掛け合わせたキャラクター名/甲300),「エネゴリ」(「ENEOS」と「ゴリラ」を掛け合わせたキャラクター名/甲301),「ノバうさぎ」(「NOVA」と「うさぎ」を掛け合わせたキャラクター名/甲302)などのように,「企業の名称」と「動物や物の一般名称」を掛け合わせた愛称が用いられることが少なくなく,こうしたキャラクターについても様々な関連グッズが販売されている実情が存在する。
しかるところ,上記のとおり,請求人も,おもちゃ,文房具類,食器類,被服などのシェル・グッズを販売したり,「Ponta(ポンタ)」のマスコット・キャラクターに,ガソリン・スタンドのユニフォームを着せ,これを同ガソリン・スタンドのマスコット(愛称:「シェルPonta」)として使用したりしている。また,昭和シェル石油は,実際に,そのノベルティとして「シェルPonta」のぬいぐるみ人形を配布している(甲70,71,74)。
以上のような一般企業の販売促進における一般的・恒常的な取引実情を踏まえれば,本件商標「SHELL BEAR」が指定商品に使用された場合に,引用商標との間で出所の混同が生じる可能性は大であり,引用商標と類似するものであることは明らかである。
(4)小括
以上より,本件商標は,引用商標と同一又は類似であって,それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号の該当性
本件商標は,商標法第4条第1項第15号に規定される「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当し,商標登録を受けることができないものである。
(1)当該商標と他人の表示との類似性
本件商標「SHELL BEAR」と請求人が引用する商標「Shell」との類似性については,商標法第4条第1項第11号の主張の中ですでに考察したとおり,「Shell」商標の著名性に照らせば,両商標は出所混同のおそれが認められ,称呼・観念及び観念において類似するものである。
(2)他人の表示の周知著名性
上記のとおり,「Shell」商標は,シェル・グループの営業を示すものとして,日本国内及び全世界において著名である。
(3)他人の表示の独創性
「Shell」商標は,「貝」を意味する言葉であるが,もともとはマーカス・サミュエル氏がロンドンにおいて東洋の貝殻を扱う商店を開業したことに由来するものであって,シェル・グループが販売・提供する商品・サービスの品質等をなんら表すものでもない。したがって,「Shell」商標の独自性・独創性は高いというべきである。
また,「Shell」商標は,特定の商品のみに使用されているペットネームではなく,営業主自体を表示するいわゆるハウスマークとして100年以上使用され続けてきたものであり,その混同を生じる範囲は一般的に広いものと解されるべきである。
(4)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定商品「第28類 ぬいぐるみ人形」の需要者は一般消費者である。他方,「Shell」商標の使用に係るガソリン・スタンドにおいて提供される各種役務,「Shell」商標の使用に係るオイル関連商品,上記したノベルティ・販促品その他いわゆるシェル・グッズは,いずれも主として一般消費者に提供・販売されているものであり,特にそれらノベルティ・販促品の中に「第28類 ぬいぐるみ人形」と同一又は類似のおもちゃやぬいぐるみ人形が含まれていることは上記したとおりである。したがって,本件商標の指定商品と,請求人の業務に係る商品・サービスの需要者の共通性は高いというべきである。
(5)その他取引の実情
一般企業が,その本業に係る商品又はサービスの販売促進や宣伝広告として,様々な活動を行っており,そのような活動の中で,ノベルティや販促品(文房具類,印刷物,おもちゃ,被服)を販売したり,それらをキャンペーン等で無償配布したりすることが,ごく一般的に行われていることは顕著な事実である。また,ゆるきゃらブームといわれて久しい昨今では,大手企業の多くが,自社のマスコット・キャラクターを作製し,それを使ったノベルティ・販促品の提供,テレビコマーシャルの放映,イベントの開催などに力を入れている。しかして,それらマスコット・キャラクターの名称には,例えば,「ドコモダケ(「DOCOMO」と「茸」を掛け合わせたキャラクター名/甲300),「エネゴリ」(「ENEOS」と「ゴリラ」を掛け合わせたキャラクター名/甲301),「ノバうさぎ」(「NOVA」と「うさぎ」を掛け合わせたキャラクター名/甲302)などのように,「企業の名称」と「動物や物の一般名称」を掛け合わせた愛称が用いられることが少なくなく,こうしたキャラクターについても様々な関連グッズが販売されている実情が存在する。
しかるところ,上記のとおり,請求人も,おもちゃ,文房具類,食器類,被服などのシェル・グッズを販売したり,「Ponta(ポンタ)」のマスコット・キャラクターに,ガソリン・スタンドのユニフォームを着せ,これを同ガソリン・スタンドのマスコット(愛称:「シェルPonta」)として使用したりしている。また,昭和シェル石油は,実際に,そのノベルティとして「シェルPonta」のぬいぐるみ人形を配布している(甲70,71,74)。
(6)まとめ
以上(1)ないし(5)を総合的に斟酌して検討するに,本件商標が指定商品「第28類 ぬいぐるみ人形」について使用された場合には,同商品はあたかも,シェル・グループの販売促進活動において提供・販売されるキャラクター関連商品であるかのように,あるいは,「シェルPonta」のようにシェル・グループとコラボレーション又はタイアップしたキャラクター商品であるかのような印象を与え,その結果,需要者に対して,本件商標の使用に係る商品がシェル・グループと経済的・組織的に関連性があるような誤認・混同を与えてしまうことは必至である。
(7)フリーライド及びダイリューション
商標法第4条第1項第15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の稀釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものである。
しかして,上記のとおり,シェル・グループの「Shell」商標は世界中で長年著名なものであり,シェル・グループの出所識別標識として直ちに認識されるものである。
万が一,本件商標が登録を維持され,シェル・グループの販売促進活動と密接な関わりを有する「第28類 ぬいぐるみ人形」について使用される事態が生じれば,著名商標「Shell」の有する自他識別機能は稀釈化(ダイリューション)の危機にさらされることとなる。一度稀釈化された信用や識別力を回復することは極めて困難であり,その結果,請求人を含むシェル・グループの営業・広告努力の成果,つまり,著名商標「Shell」が獲得した顧客吸引力は著しく弱められてしまうことは火を見るより明らかである。
(8)小括
以上のとおり,本件商標「SHELL BEAR」は,著名商標「Shell」との関係でいわゆる広義の混同を生じさせるおそれがあるものであり,商標法第4条第1項第15号に該当することが明らかである。
4 商標法第4条第1項第8号の該当性
本件商標は,他人すなわち請求人の著名な略称を含む商標であるから,商標法第4条第1項第8号に該当するものである。
本件商標の構成中「SHELL」の文字は,シェル・グループ又はその多数の子会社の略称として100年以上使用され,一般に受け入れられているものであって,本件商標の出願日前から現在にかけて,我が国において著名であったことは上記のとおりである。そして,本件商標は,「SHELL」と「BEAR」の結合からなるものであることが明らかであるところ,他人すなわち請求人又はそのグループの名称の著名な略称を含む商標であり,請求人が本件商標権者に対して「SHELL」を含む本件商標の登録ないし使用について承諾したという事実はない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。
5 結語
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同第15号及び同第8号に違反して登録されたものであり,その登録は,同法第46条第1項の規定により無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張
審判長は,請求書の副本を被請求人に送達し,相当の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが,被請求人は何ら応答していない。

第5 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「SHELL BEAR」の文字を標準文字で表してなるものである。「SHELL」と「BEAR」との間には1文字分の空白があることから,各部分に着目した観察と認識が生じ得るところ,「SHELL」及び「BEAR」の各文字は,それぞれ,「殻,貝殻」及び「クマ」の意味を有する平易な英語(いずれも株式会社大修館書店発行「ジーニアス英和辞典第5版」)であることから,各文字部分から上記観念が生じるものの,相互に格別の関連性を有する語ではなく,結合することによって一体のまとまった観念が生じるものとはいえない。
ところで,本件商標の指定商品である「ぬいぐるみ人形」を取り扱う業界においては,本件商標の登録査定日前から,「クマ」は,ぬいぐるみ人形の形において非常にポピュラーな題材であり,クマを模したぬいぐるみ人形が多種,多数販売されている状況にあることは公知の事実である。このことからすれば,本件商標の構成中の「BEAR」の文字部分は,その指定商品との関係では,商品の出所識別標識としての機能は極めて弱いといわざるを得ない。
これに対して,職権をもって調査したところ,本件商標の登録査定時において,「貝殻(殻)」が,上記クマと同様に,ぬいぐるみ人形の形として非常にポピュラーな題材であると認めるに足りる事実や,「SHELL」の文字(同じつづりからなる文字を含む。)が商品の品質等を表すものとして普通に使用されていたと認めるに足りる事実は,発見し得なかった。
そうすると,本件商標の構成のうち,商品の出所識別標識としての機能の強い部分は「SHELL」の文字部分であるから,当該「SHELL」の文字部分が強く支配的な印象を与える,本件商標の要部をなすものというべきである。
したがって,本件商標は,その構成文字全体に相応する「シェルベア」の称呼及び「貝殻(殻),クマ」程の観念を生ずるほか,その構成中の要部たり得る「SHELL」の文字部分に相応して,「シェル」の称呼及び「貝殻(殻)」の観念をも生じるものである。
(2)引用商標
引用商標1は,前記第2の1のとおり,「Shell」の欧文字からなるものである。また,引用商標2は,別掲のとおり,「SHELL」の欧文字と貝殻の図形とからなる結合商標であるところ,図形部分から「SHELL」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから,当該文字部分だけを本件商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
したがって,引用商標は,いずれもその構成文字に相応して,「シェル」の称呼及び「貝殻(殻)」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標の要部である「SHELL」の文字部分と,引用商標1及び引用商標2の要部である「SHELL」の文字部分とを比較するに,両者は,そのつづりが同じであることから,外観上近似した印象を与えるものであり,また,「シェル」の称呼及び「貝殻(殻)」の観念も同一である。
そうすると,本件商標の要部である「SHELL」の文字部分と,引用商標1及び引用商標2の要部である「SHELL」の文字部分とは,互いに類似する商標であると認められるから,本件商標と引用商標とは,類似の商標であるといえる。
(4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否
本件商標の指定商品は,第28類「ぬいぐるみ人形」であることから,引用商標1の指定商品中の第28類「おもちゃ,人形」及び引用商標2の指定商品中の第28類「Games, playthings; toys; jigsaw puzzles; decorations for Christmas trees.」とは,同一又は類似する商品と認められる。
(5)小括
以上によれば,本件商標は,引用商標と類似する商標であって,かつ,その指定商品も同一又は類似するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 結語
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから,その余の無効理由について論及するまでもなく,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 引用商標2(国際登録第977610号商標)




審理終結日 2015-12-02 
結審通知日 2015-12-07 
審決日 2016-01-06 
出願番号 商願2014-35412(T2014-35412) 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (W28)
T 1 11・ 262- Z (W28)
T 1 11・ 263- Z (W28)
最終処分 成立  
前審関与審査官 浦崎 直之 
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 冨澤 武志
田村 正明
登録日 2014-10-03 
登録番号 商標登録第5706123号(T5706123) 
商標の称呼 シェルベア、シェル、ベア 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 藤倉 大作 
代理人 辻居 幸一 
代理人 松尾 和子 
代理人 苫米地 正啓 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 中村 稔 

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