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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W04
審判 全部申立て  登録を維持 W04
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審判 全部申立て  登録を維持 W04
管理番号 1310891 
異議申立番号 異議2015-900219 
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-06-26 
確定日 2016-01-29 
異議申立件数
事件の表示 登録第5752502号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5752502号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5752502号商標(以下「本件商標」という。)は、「TOTALNANO」の欧文字を標準文字で表してなり、平成26年9月10日登録出願、第4類「機械設備の可動金属部品の潤滑に使用される液体潤滑剤,その他の液体潤滑剤,固形潤滑剤,潤滑油,その他の工業用油」を指定商品として、同27年1月14日に登録査定、同年3月27日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が本件登録異議の申立ての理由において引用する登録商標は、以下の6件(以下、これらの登録商標を総称して「引用商標」という場合がある。)であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第463852号商標(以下「引用商標1」という。)は、「TOTAL」の欧文字を横書きしてなり、昭和29年6月14日に登録出願、第55類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和30年3月31日に設定登録、その後、平成18年8月23日には、指定商品を第4類「石油,工業用グリース,ろう,ろうそく」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第527037号商標(以下「引用商標2」という。)は、「TOTAL」の欧文字を横書きしてなり、昭和29年6月14日に登録出願、第70類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和33年9月16日に設定登録、その後、平成22年3月17日には、指定商品を第1類「アスフアルト・コールタール・ピツチ・天然及び人造ゴムを主材として成る道路舗設用固着剤・接合接着剤」とする指定商品の書換登録がされたものである。
3 登録第1367054号商標(以下「引用商標3」という。)は、「TOTAL」の欧文字を赤色で横書きしてなり、1973年4月25日にフランス共和国にした商標の登録出願に基づきパリ条約第4条の規定による優先権を主張して、昭和48年6月4日に登録出願、第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和53年12月22日に設定登録、その後、平成21年12月16日には、指定商品を第1類「化学品,のり及び接着剤(事務用又は家庭用のものを除く。)」とする指定商品の書換登録がされたものである。
4 登録第1394455号商標(以下「引用商標4」という。)は、「TOTAL」の欧文字を赤色で横書きしてなり、1973年4月25日にフランス共和国にした商標の登録出願に基づきパリ条約第4条の規定による優先権を主張して、昭和48年6月4日に登録出願、第5類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和54年9月28日に設定登録、その後、平成22年2月10日には、指定商品を第4類「燃料,工業用油,工業用油脂,ろう」とする指定商品の書換登録がされたものである。
5 登録第1822202号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲1のとおり、赤色で横書きした「TOTAL」の欧文字に図形を結合させた構成からなり、1982年10月8日にフランス共和国にした商標の登録出願に基づきパリ条約第4条の規定による優先権を主張して、昭和58年4月6日に登録出願、第5類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和60年11月29日に設定登録、その後、平成18年9月20日には、指定商品を第4類「燃料,工業用油,工業用油脂,ろう」とする指定商品の書換登録がされたものである。
6 国際登録第813234号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲2のとおり、赤色で横書きした「TOTAL」の欧文字の上部に図形を結合させた構成からなり、2003年4月17日にFranceにした商標の登録出願に基づきパリ条約第4条の規定による優先権を主張して、2003年9月2日に国際商標登録出願、第1類「Chemicals used in industry, science, agriculture, horticulture, forestry and aquaculture; unprocessed plastics in all forms; rubber in liquid form; artificial and synthetic resins; polymers used in industry; adhesive substances for industrial use; chemical additives for carburants, fuels and lubricants; drilling muds and chemical additives for drilling muds; chemical additives and admixtures for insecticides, herbicides and fungicides; solvents; antifreeze; fluid for hydraulic and transmission circuits; brake fluid; materials for absorbing petroleum, oils and greases; dispersants for petroleum.」、第4類「Petroleum (crude or refined), petroleum jelly for industrial purposes; solid, liquid and gaseous fuels; carburants; gas and liquefied petroleum gas; lubricants; industrial oils and greases; paraffins and waxes; lighting fuel; non-chemical additives for carburants, fuels and lubricants.」、第5類「Insecticides, herbicides, fungicides; disinfectants; oils, greases, jellies for medical, veterinary or pharmaceutical purposes.」、そのほか、第17類、第19類、第35類、第37類、第39類、第40類、第42類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成17年8月12日に設定登録されたものである。

第3 登録異議の申立ての理由(要旨)
申立人は、本件商標について、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものであり、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申し立て、その証拠方法として甲第1号証ないし甲第99号証を提出した。
1 申立人について
(1)申立人は国際的に著名な企業であること
申立人の「トタル エス アー」(Total S.A.)」は、フランスの総合石油会社であり、石油と天然ガスの開発、精製、輸送、販売を一貫して行うスーパーメジャー(国際石油資本)6社の1社である(甲8)。また、申立人は、世界150ヶ国以上で事業を展開しているところ、アメリカの有力経済紙フォーチュン誌の統計による世界企業番付では、世界の全業種・分野の中で10位前後に位置しており、2013年及び2014年の統計でも、総合11位に入る大企業である(甲9及び甲10)。
(2)申立人の事業内容及び事業規模
申立人の事業内容は、石油、天然ガスなどの採掘から精製・販売まで多岐にわたり、石油、ガスはもとより、石油・化学の研究・開発でも世界屈指のリーディングカンパニーとして有名である(甲11及び甲12)。特に、潤滑油の分野では、国際的な自動車メーカーと共同開発をしながら、市場の最先端を行く高性能オイルを長年にわたり提供してきた(甲13)。現在、申立人は世界45拠点で合計年200万トンの潤滑油を生産しているところ、アジア事業が成長しており、その域内売上高は世界全体の25%に至っている(甲14)。そして、申立人のハウスマーク「TOTAL」のもとに潤滑油は、現在世界150ヶ国以上のユーザーに支持され、世界的な名声を得ている(甲15)。
(3)我が国における申立人の事業活動及び広告活動
我が国においては、1985年に大森商事と自動車用潤滑油の輸入販売をする日本総代理店契約を結び、7年間で年間500トン以上の潤滑油を販売し、1992年にはフランス製品の知名度とイメージアップに貢献した企業に贈られるフランス貿易振興財団の賞を受賞した(甲16及び甲17)。現在は、1999年に100%子会社として設立したトタル・ルブリカンツ・ジャパン株式会社(以下「トタル・ルブリカンツ社」という。)が、自動車用潤滑油、工業用潤滑油を含む様々な潤滑油関連製品を日本市場向けに販売している(甲18ないし甲20)。
トタル・ルブリカンツ社は、テレビ広告や自動車専門各誌を通じて、潤滑油関連製品の積極的な広告宣伝活動を行ってきた(甲21ないし甲39)。また、申立人は、モータースポーツへの積極的なテクニカルサポートを通じて広告宣伝活動をしている(甲第40及び甲41)。さらに、2010年には、今までエンジンオイルに興味のなかった潜在顧客をも掘り起こす狙いで、アニメ「エヴァンゲリオン」とコラボレーションするなどの幅広い営業活動を行い、「TOTAL」ブランドの訴求に努めてきた(甲42)。
申立人は、1957年以来、日本での事業を拡大し、日本のエネルギー産業においても様々な形態で活発な事業を展開してきた(甲43)。申立人は、日本で消費される天然ガスの供給プロジェクトにも従事しており、国内最大手の一つに数えられる。また、申立人は、日本の多くの企業と探鉱開発・生産分野で共同事業を行っており、さらに、日本企業と提携し、次世代のガソリンとされるジメチルエーテル(DME)の開発にも携わっており、こうした様々な形態での事業展開を通して日本国内でも重要な位置を占めている(甲44)。
(4)申立人についての他者における認知
申立人については、日本大百科全書や経済用語集などにも掲載されているほか、全国紙や化学専門誌の中でも日常的に記事にされている(甲45ないし甲62)。
「化学工業日報」紙は、日刊で13万部発行されている化学工業に関する業界唯一の日刊専門紙であり、多くの化学工業界の取引者、需要者が購読しているところ(甲63)、申立人の潤滑油事業の動向が相当高い頻度で記事にされている。
2 「TOTAL」ブランドについて
申立人のグループ名である「TOTAL」は、申立人の代表的ブランド名(ハウスマーク)であり、1954年に登場して以来、申立人の社名の一部に「TOTAL」の表示が使用され、その取扱商品、とりわけ日本では「潤滑油関連製品」について長年にわたって使用されている(甲65)。
以上に照らせば、「TOTAL」は、申立人の業務に係る商品に使用される商標として、本件商標の出願時及び登録査定時には、日本国内及び全世界的に周知著名である。
3 小括
以上のとおり、申立人は、世界的に著名な企業であり、我が国においても、石油、潤滑油関連商品を取り扱っている企業として相当程度知られている。また、その商号の略称であり、かつ代表的出所表示標識といえる「TOTAL」の表示もまた、各種媒体を通じて長年にわたり大々的に広告宣伝し、使用してきた結果、本件商標の出願日より前から、申立人の略称及び業務に係る商品に使用される商標として、周知・著名となっており、その状態は現在においても継続している。
4 商標法第4条第1項第8号の該当性について
本件商標は、英語の「TOTAL」と「NANO」を結合した構成よりなるところ、それ全体が成語を表したということもできず、申立人の著名な略称を含む商標であり、申立人が本件商標権者に対して「TOTAL」を含む本件商標の登録ないし使用について承諾したという事実はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
5 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)他人の標章の周知度、独創性、ハウスマークであるかどうか
申立人の商標「TOTAL」は、「ハウスマーク」として、日本国内及び全世界において広く認識されるに至っており、周知・著名である。「TOTAL」については、一般に「合計、総計」を意味し、「トータル」の称呼を生じる語として知られている語ではあるが(甲71)、潤滑油関連製品の分野では、既成の英単語としての「TOTAL」の意味を凌駕するほどに、申立人のブランドとして認知されていることから、「TOTAL」の商標の独自性は高いというべきである。
(2)企業における多角経営の可能性
申立人は、多岐にわたる事業を営んでおり、石油、ガスはもとより、石油・化学の研究・開発を行っており、また、潤滑油の供給業者としてもよく知られている。
(3)商品間の関連性
申立人は、自動車用潤滑油のほか、工業用潤滑油の製造販売も積極的に行っているところ、本件商標の指定商品に含まれる「潤滑油,その他の工業用油」は、申立人が自動車メーカーと共同開発しながら、アジア市場において事業を強化してきた商品そのものである(甲72及び甲50)。それ以外の本件商標の指定商品「機械設備の可動金属部品の潤滑に使用される液体潤滑剤,その他の液体潤滑剤,固形潤滑剤」に関しても、申立人の提供に係る潤滑油が化学・エネルギー・鉄鋼・金属加工・自動車・機器装置製造・セメント・建築・製紙・食品加工・繊維など広範囲の工業分野に用いられていることを考慮すれば(甲19)、申立人の業務と取引者及び需要者層・流通経路等について高い共通性を有していることは明らかであり、申立人が多角経営の一環として、進出する可能性が十分にある。
(4)組織的、経済的に何等かの関係性があると誤認させるおそれがあるか
申立人は、「TOTAL」ブランドの訴求に務めてきたが、その他にも、「TOTALGAZ」、「TOTAL PREMIER」など、「TOTAL」の語を含む商品名の製品を、過去、現在にわたって販売してきたという事情がある(甲73ないし甲87)。したがって、本件商標「TOTALNANO」がその指定商品に使用されれば、当該商品は、あたかも申立人の業務にかかわる商品であるかの如く商品の出所を誤認混同させるおそれがある。少なくとも、本件商標が使用された商品が申立人と組織的、経済的に何等かの関係性があると誤認させるおそれがある。
(5)フリーライド及びダイリューションのおそれ
申立人が調べたところ、商標権者は、本件商標を「TOTAL」部分が独立して目立つ態様で、かつ、申立人のコーポレートロゴと酷似する態様で使用している(甲88及び甲89)。申立人のハウスマーク「TOTAL」は世界中で周知・著名なものであり、とりわけ申立人が世界屈指のメーカーとして位置する潤滑油関連製品の分野においては「合計、全体的」という意味合いを凌駕し、トタル・グループの出所識別標識として認識されるものである。したがって、万が一、本件商標が登録を維持され、申立人の業務そのものである潤滑油関連製品に使用される事態が生じれば、周知・著名商標「TOTAL」の有する自他識別機能へのただ乗り(フリーライト)のおそれがあるだけでなく、当該商標の希釈化(ダイリューション)の危機にさらされることにもなる。一度希釈化された信用や識別力を回復するのは極めて困難であり、その結果、申立人の営業・広告努力の成果、つまり、周知・著名商標「TOTAL」が獲得した顧客吸引力は著しく弱められてしまうことは明らかである。
(6)小括
以上に照らせば、本件商標は、周知・著名商標「TOTAL」との関係において、商標法第4条第1項第15号に該当する。
6 商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)商標の類否
本件商標の構成中「TOTAL」は、一般に「合計、総計」を意味し、「トータル」の称呼を生じる語として知られている語ではあるが(甲71)、潤滑油関連製品の分野では、既成の英単語としての「TOTAL」の意味を凌駕するほどに、申立人のブランドとして認知されており、申立人が想起される。
他方、同構成中「NANO」は、「10億分の1を表す単位の接頭語」を意味し、「ナノ粒子」(超微細粒子)、「ナノテクノロジー」(超微細技術)などのように、超微細なものを表す接頭語として親しまれ、多数用いられている(甲90ないし甲93)。本件商標の指定商品の業界でも、例えば、「nano技術の潤滑油」、「ナノ潤滑油添加剤」、「ナノレベル皮膜」の如く使用されており、せいぜいナノテクノロジー(超微細技術)を応用した商品といった品質を想起させるものである(甲94ないし甲96)。さらに、本件商標は、全体として一連一体の親しまれた観念を有する成語を表したということもできない。
そうとすると、本件商標をその指定商品に使用した場合には、著名商標「TOTAL」とナノテクノロジーを応用した商品であることを想起させる「NANO」の結合商標であると容易に把握される。したがって、本件商標は、その指定商品について使用されたときには、その構成中「TOTAL」の部分が独立して出所識別機能を果たす場合があり、「TOTAL」からなる又は「TOTAL」を含む引用商標と、称呼・観念及び外観において類似するものである。
(2)商品の類否
本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品は同一又は類似である(類似群コード:01A01,05B0l)。
(3)取引の実情
氷山事件最高裁判決の中で挙げられる「取引の実情」には、引用商標の(先行商標)の周知著名性も含まれるとされ、過去多くの判決でもそのように判断されている(最近の判決例甲99)。本件についてみると、「TOTAL」商標は、潤滑油関連製品について日本国内及び世界中で60年以上使用されてきたものであり、また、申立人が本件商標の登録査定時には世界企業ランキングでトップ11位に位置付けられたことなどの事情を踏まえれば、「合計、全体的」という一般的意味を凌駕するに十分なほど、トタル・グループを表示する商標として周知著名となっている。かかる取引の実情に照らせば、本件商標は、その構成中「TOTAL」が支配的な印象を与える部分として捉えられ、引用商標と称呼・観念及び外観上類似するというべきである。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標と同一又は類似であって、それら商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
7 商標法第4条第1項第10号の該当性について
本件商標は、潤滑油関連製品の需要者の間で広く知られている著名商標「TOTAL」と類似するものであって、「潤滑油」そのもの及びそれと類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標及び「TOTAL」の標章の周知・著名性について
申立人は、自社(トタル・ルブリカンツ社を含む。以下同じ。)の諸活動を述べ、引用商標(「TOTAL」の文字を含む。以下同じ。)が我が国及び全世界で周知・著名であると主張し、その証拠方法として、新聞、雑誌、インターネット情報等を提出している。
しかしながら、申立人がメジャー(国際石油資本)の1社であるとしても、申立人は、我が国において、引用商標を具体的にいかなる商品に使用して、その商品がどの程度の生産量や販売量、シェアを獲得するに至っているのかなどを明らかにするところがない。申立人が引用商標を我が国において長年にわたって使用しているとする「潤滑油関連製品」についても、我が国におけるそれらの具体的な取引の規模等を明らかにするところはない。
しかも、申立人の商品の広告について、まず、甲各号証のうちの新聞をみるに、その多くはいわゆる一般紙や全国紙とはいえないものである。さらに、そのうちの毎日新聞(甲9)、日刊油業報知新聞(甲11)、化学工業日報(甲14、甲50ないし甲54)、日刊工業新聞(甲55及び甲56、)、時事通信アジアビジネス(甲57)、NNAアジア経済情報(甲58及び甲59)に記載されているのは、片仮名の「トタル」又は「トタール」であって、欧文字の「TOTAL」ではないところ、欧文字の「TOTAL」は、「全部の、全体的な」を意味し、我が国では「トータル」と読まれる英語として広く親しまれている事情を勘案するならば、需要者をして、「トタル」又は「トタール」の片仮名が「TOTAL」の欧文字からなる申立人の標章に直ちに結びつけて認識されるとは考え難い。加えて、上記新聞記事をみても、日刊工業新聞の記事では「トタール」と記載され、一方で他の新聞の記事では「トタル」と記載されており、申立人の表示が一致していないことをみても、申立人の名称が我が国において広く知られているとまではいえないことをうかがわせるものである。
また、「モーターファン・イラストレーテッド」、「90年代国産車のすべて」、「オートスポーツ」、「プジョー208のすべて(モーターファンの別冊)」、「F1速報」、「THE 911 & PORSCHE MAGAGINE」、「2013 SUPER GT OFFICIAL GUIDE BOOK」、「ドライバー」、「ル・マン24時間 2013」、「オープンカーのすべて」、「レーシングオン」、「TOYOTA 86 & SUBARU BRZ」、「SUBIE!」といった提出された雑誌には、例えば、申立人の自動車用潤滑油についての広告や記事が掲載されているが、これらの雑誌の多くは、モータースポーツ等に関連するものと思しき雑誌であるから、その申立人の自動車用潤滑油についての広告の範囲も限定的であって、本件商標の指定商品の全般にわたるものとはいえないものである。
次に、テレビ広告をみても、甲第21号証には、録画日の記載はあるものの、この広告がいかなる期間に、いかなる頻度で、いかなる種類のテレビ放送で放送されたのかは一切明らかにされていない。また、甲第22号証及び甲第23号証には、いずれにも、「Media type」の欄に「Paid TV aired by CS(Communication satellite) and cable TV」、「Channel」の欄に「j-sport3-Motorsport channel」と記載され、CS(衛星放送)及びケーブルテレビによる有料放送のモータースポーツチャンネルでのテレビ広告とされていることを勘案するならば、やはり、その広告の範囲は限定的であって、本件商標の指定商品の全般にわたるものとはいえないものである。
さらに、職権をもって調査するも、我が国において、引用商標を具体的にいかなる商品に使用して、その商品がどの程度の生産量や販売量、シェアを獲得するに至っているのか、引用商標を使用した広告はどの程度の期間、いかなる規模で行っているかなど、引用商標の周知、著名性をはかる上で必要な事情を他に見いだすことができない。
しかも、引用商標を構成する「TOTAL」の欧文字は、上述のとおり、「全部の、全体的な」を意味し、我が国では「トータル」と読まれる英語として広く親しまれているものであり、申立人を表すものとして、創造性や独創性を備えたものということはできないものである。
そうすると、甲各号証によって、申立人が、フランスの石油・ガス関連企業であって、我が国において、引用商標を使用して潤滑油などの商品を販売していることが認められるとしても、引用商標は、自動車用潤滑油等の商品について、我が国では、モータースポーツ等の限られた分野に興味がある人の間で知られているにとどまるというべきであって、その範囲を超えて、本件指定商品の取引者、需要者の間で広く認識されているとまではいうことができない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、上記第1のとおり、「TOTALNANO」の欧文字を標準文字で横書きしてなるところ、外観上、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔をもってまとまりよく一連に表されているものである。
そして、本件商標の構成中の前半部の「TOTAL」の文字部分は、上記1のとおり、申立人の標章として周知・著名であるとはいい難い一方で、「全部の、全体的な」などの意味を有する既成の英語として我が国において広く知られたものであり、後半部の「NANO」の文字部分も、「10億分の1、極小」などの意味を有する英語として我が国において広く知られたものである。
そうすると、本件商標は、その構成文字全体をもって一体不可分に把握、理解され、「トータルナノ」の一連の称呼のみが生じるものであり、特定の観念を生じない一種の造語として認識されるというのが相当である。
(2)引用商標
引用商標は、上記第2のとおり、いずれも、その構成中に「TOTAL」の欧文字を有するものであるから、該文字に相応して「トータル」の称呼、「全部の、全体的な」の観念を生じるものである。
なお、引用商標5及び6は、「TOTAL」の欧文字と図形からなるところ、該図形部分は特定の物を表したものとは把握、理解されるものではないので、該図形部分から特定の称呼及び観念を生じるものではない。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標を比較するに、外観においては、両者は、図形又は「NANO」の欧文字の有無などにおいて、顕著な差異を有するものであるから、明らかに区別し得るものである。
次に、称呼においては、本件商標から生じる「トータルナノ」の称呼と引用商標から生じる「トータル」の称呼とを比較するに、両者は、「ナノ」の音の有無に顕著な差異を有するものであるから、明らかに聴別し得るものである。
さらに、観念においては、本件商標が特定の観念を生じない造語として認識されるものであり、本件商標と引用商標とを観念において比較することはできないから、両者は、観念において相紛れるおそれはないものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(4)小括
本件商標と引用商標とは、上記(3)のとおり、非類似の商標であるから、たとえ、その指定商品が同一又は類似のものであったとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
引用商標は、上記1のとおり、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間で広く認識されているとはいえないものであり、しかも、本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号の該当性について
引用商標は、上記1のとおり、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間で広く認識されているとはいえないものであり、しかも、本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、非類似の商標である。
そうすると、本件商標は、その指定商品に使用されても、取引者・需要者において、申立人や引用商標を連想、想起するということができないから、その商品が申立人あるいは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第8号該当性について
商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」に該当するか否かの判断基準については、「人の名称等の略称が8号にいう『著名な略称』に該当するか否かを判断するについても、常に、問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきもの」と解される(最高裁平成16(行ヒ)343、平成17年7月22日第二小法廷判決参照)。
そこで、上記解釈を踏まえ、「TOTAL」の文字が申立人の著名な略称といえるかについてみるに、「TOTAL」の文字を含めた引用商標は、上記1のとおり、我が国において、申立人又は申立人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の指定商品の需要者の間で広く認識されているとまでいうことはできないものであり、まして、指定商品の需要者にとどまらず、特定人を指し示す略称として一般に受け入れられている著名性を要するとされる商標法第4条第1項第8号の著名性を有しているということはできない。
したがって、本件商標は、その構成中に「TOTAL」の欧文字を含んでいるとしても、「TOTAL」の文字を申立人の著名な略称とまではいうことができないから、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同項第10号、同項第11号及び同項第15号に違反してされたものでないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(引用商標5)(色彩は原本参照)


別掲2(引用商標6)(色彩は原本参照)



異議決定日 2016-01-19 
出願番号 商願2014-76690(T2014-76690) 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W04)
T 1 651・ 263- Y (W04)
T 1 651・ 271- Y (W04)
T 1 651・ 262- Y (W04)
T 1 651・ 253- Y (W04)
T 1 651・ 252- Y (W04)
T 1 651・ 251- Y (W04)
T 1 651・ 23- Y (W04)
T 1 651・ 255- Y (W04)
最終処分 維持  
前審関与審査官 箕輪 秀人 
特許庁審判長 大森 健司
特許庁審判官 林 栄二
田中 亨子
登録日 2015-03-27 
登録番号 商標登録第5752502号(T5752502) 
権利者 キリル シカルブル
商標の称呼 トータルナノ 
代理人 魚路 将央 
代理人 小暮 君平 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 工藤 莞司 
代理人 鈴木 礼至 

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