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審決分類 |
審判 一部無効 称呼類似 無効としない W1825 審判 一部無効 外観類似 無効としない W1825 審判 一部無効 観念類似 無効としない W1825 |
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管理番号 | 1310830 |
審判番号 | 無効2015-890047 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2015-05-26 |
確定日 | 2016-01-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5697801号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5697801号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおり,灰色で「Amb」の欧文字を表してなり,平成26年3月7日に登録出願,同年7月2日に登録査定,第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」を指定商品として,同年8月29日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が,本件商標の登録の無効の理由において引用する登録商標(以下「引用商標」という。)は,以下のとおりであり,いずれも現に有効に存続しているものである。 1 登録第5298208号商標(以下「引用商標1」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,平成21年4月30日に登録出願,第18類「愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,毛皮」を指定商品として,同22年1月29日に設定登録されたものである。 2 登録第5298209号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,平成21年4月30日に登録出願,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,防暑用ヘルメット,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」を指定商品として,同22年1月29日に設定登録されたものである。 第3 請求人の主張 請求人は,本件商標について,その指定商品中,第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第36号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 本件商標について 本件商標は,ローマ文字「Amb」よりなり,「エイエムビイ」の称呼を生ずる。 2 引用商標について (1)引用商標は,ともに,ローマ文字「AMB」をレタリング文字化した態様からなり,「エイエムビイ」の称呼を生ずる。 引用商標は,下段にレタリング文字化した2つの文字を並べ,上段に同じく1つの文字を配した構成よりなり,この場合,引用商標を単なる模様と見るか,それともレタリング文字の集合と見るかが問題となる。 いうまでもなく,称呼は文字より生じる。この場合,文字は活字体で表示される他,近年では目立ちやすくし指標力を高めるために商標を図案化したレタリング文字で記すことがごく当たり前に行われており,こちらの比率の方が高い。 引用商標は,文字自体が自他商品識別の土俵に上がることができる3文字から構成されるものであり,これを観察した場合,それが漢字や平仮名,片仮名を表したと考える余地はなく,英文字を表したと考えるのが自然であり,上段の文字は三角を黒塗りした形状からなるが,アルファベット26文字中,三角形の輪郭を有しているのは大文字の「A」以外に無く,上段の文字は英文字の「A」を図案化したレタリング文字であると解するのが自然である。 次に,下段の左方の文字は黒塗りした四角形の上辺をV字形に切り欠いた形状からなるが,アルファベット26文字中,四角形の上辺をV字形に切り欠いた輪郭を有しているのは大文字の「M」以外に無く,左方の文字は英文字の「M」を図案化したレタリング文字であると解するのが自然である。 また,下段の右方の文字は黒塗りした四角形の右辺をふたこぶ状に隆起させた形状からなるが,アルファベット26文字中,四角形の右辺をふたこぶ状に隆起させたのは大文字の「B」以外に無く,右方の文字は英文字の「B」を図案化したレタリング文字であると解するのが自然である。 そして,ある文字列を読むに際し,先ず上にある文字を読み,次いで左から右に読むことが経験則上自然であり,これを引用商標に当てはめた場合,引用商標は,上段に「A」の文字が,下段に左から順に「M」の文字,「B」の文字が配されているのだから,「AMB」と記載されたと考えるのが自然である。 (2)引用商標は,ローマ文字「AMB」をレタリング文字化した態様からなるが,そう解することの客観性を以下例証する。 ア 引用商標の商標公報の【検索用文字商標(参考情報)】には「A,MB」と記されて(甲1の1及び甲2の1)おり,法的な覊束力はないが,文字の解釈に関する第三者の客観的な見解が示されている。 イ 引用商標を構成する各レタリング文字と同一の「A」の文字,「M」の文字,「B」の文字に続けて「U」のレタリング文字,「S」のレタリング文字,「H」のレタリング文字を配した構成よりなる請求人保有の登録商標の商標公報には,それらの【検索用文字商標(参考情報)】として「AMBUSH」と記されている(甲3ないし甲10)。 ウ 片仮名で「アンブッシュ」と書した構成よりなる商願2013-002019の審査経過を記したファイル記録事項の拒絶理由通知書には,「AMBUSH」商標を引用している(甲11)。 これはとりもなおさず,引用商標を構成する各レタリング文字と同一の「A」の文字,「M」の文字,「B」の文字を,それぞれ「A」,「M」,「B」と認識したことに他ならない。 エ 本件商標の出願以前から公表されている甲第12号証には,引用商標とともに「【AMBUSH/アンブッシュ】SKULL AMB BONES RINGスカルリング ブラック M メンズ」の記載,甲第13号証には,引用商標とともに「ナップサックには,アンブッシュの今シーズンの特徴でもあったデニムを採用。ライトデニムに装飾された“AMB”の文字が洗練されたデザインに,フリンジがアクセントを奏でている。」の記載,甲第14号証には,引用商標とともに「今回AMBUSHRとuslu airlinesが創り出したカラーはクリアブルーにファイバーラメ(AMB)そして磨りガラスの様なホワイトクリアにオーロラの細かいファイバー(USH)を混ぜ,・・・」の記載,甲第15号証には,引用商標とともに「今回はエムフローのバーバルさんのブランドAMBの撮影」の記載,甲第16号証には,引用商標とともに「AMBUSH presents “SKULL‘AMB’BONES”Collection」,「待ってました。・・・『AMBUSH』の新作『SKULL‘AMB’BONES』コレクションが遂に登場する。」の記載があり,第三者が引用商標を「AMB」と認識していることが窺い知れる。 (3)具体的事情 引用商標の権利者である請求人は,著名なミュージシャン,デザイナーであるm-flo(エムーフロウ)のVERBALこと柳榮起が代表者を務め,同人が「AMBUSH DESIGN」を標榜してデザインした商品を製造,販売している(甲17)。 これらの商品においては「AMBUSH」を略した「AMB」をレタリング文字化した態様(以下「AMBロゴ」という。)からなる引用商標が,「AMBUSH」のレタリング文字(以下「AMBUSHロゴ」という。)とともに付され,広告,販売においても使用されている。 また,同人は,著名なスポーツ靴メーカーであるリーボック社と提携し,「AMBロゴ」が付されるスポーツ靴も販売されている(甲18)。 請求人は,平成22年7月から公表されている「AMBUSH DESIGN」のホームページにおいて,「AMBロゴ」を付した商品を「AMBUSHオリジナル『エイ・エム・ビイ』のロゴが刻印されたスカルをモチーフにしたリング」の説明,同25年6月から公表されている「AMBUSH DESIGN」のホームページにおいて,「AMBロゴ」を付した商品を「AMBUSH オリジナル『エイ・エム・ビイ』のロゴ刻印入り,南京錠をモチーフしにした大振りのチェーンネックレス」の説明とともに販売している(甲19及び甲20)。 平成25年10月24日から公表されている著名な雑誌「ELLEgirl」のホームページにおいて,「AMBUSHロゴ」を「アンブッシュ」の文字と対応付けて記載している(甲21)。 扶桑社発行に係る雑誌「NUMERO TOKYO」2013年12月号(甲22),平成22年11月18日に公表された請求人のホームページ(甲33)には,「AMBロゴ」と「AMBUSHロゴ」を関連付けて記載している。 日販アイ・ピー・エスの平成25年5月24日発行に係る書籍「WHAT’S A FANTASISTA UTAMARO by“QUOTATION”」(甲23)には,「AMBロゴ」と「AMBUSHロゴ」と活字体の「AMBUSH」と片仮名の「アンブッシュ」を関連付けて記載している。 平成25年4月25日に公表されたRESTORATIONのホームページ(甲24),同年4月9日に公表された請求人のホームページ(甲26),同年2月13日に公表された請求人のホームページ(甲27),同24年11月2日に公表されたhoneyyeのホームページ(甲28),同25年8月25日に公表された請求人のホームページ(甲29),同年6月30日に公表された請求人のホームページ(甲30),INFASパブリケーションズ発行に係る雑誌「FASHIONNEWS」2012年4月号(甲31),La MJC発行に係る書籍「ALL GONE THE FINEST OF STREET CULTURE 2009」(甲36)には,「AMBロゴ」と「AMBUSHロゴ」と活字体の「AMBUSH」を関連付けて記載している。 La MJC発行に係る書籍「ALL GONE THE FINEST OF STREET CULTURE 2012」(甲25),株式会社ミディアム発行に係る雑誌「Ollie」2011年6月号(甲32),同22年3月17日に公表された請求人のホームページ(甲35)には,「AMBロゴ」と活字体の「AMBUSH」を関連付けて記載している。 トランスワールドジャパン発行に係る雑誌「warp」2010年10月号(甲34)には,「AMBロゴ」と活字体の「AMBUSH」と活字体の「AMB」を関連付けて記載している。 以上のように,引用商標は,決して単独で使用されているものではなく,「AMBUSHロゴ」や活字体の「AMBUSH」と関連付けて使用されている事実が存する。 (4)観念について 本件商標と引用商標は,ともに「AMB」の文字からなるが,これに対応した既存の単語は存しない。 「AMB」は,それを構成する英文字を一文字ずつ,「エイ」,「エム」,「ビイ」と読むしか読みようがなく,いわゆるローマ字読みはできない。 ところで,例えば「BMW」,「HIS」,「JCB」,「IBM」,「AKB」など,ローマ字読みができない英文字3文字からなる多数のブランドは,既存の単語に対応する観念はないものの,それぞれが特定の英文字を一文字ずつ読ませるという点において特有の観念の有するものと考えられる。 よって,本件商標と引用商標は,前記の意味での観念を共通にする。 (5)外観について 本件商標と引用商標の外観は,異なる。 商標の類似に関しての定説は,称呼,観念,外観のうちの一つでも類似すれば類似するというものである。 これに対し,外観や観念の顕著な相違をもって,例え称呼が共通しても非類似であるという異説も出現しているが,これは過渡期の考えといわざるを得ない。 すなわち,前記したように,インターネットによる商品の売買が普及している現代においては,対面販売や,陳列棚から自ら商品を取り出すセルフサービスの場面のように,需要者,取引者が目で見た商標の印象だけで商標を識別する場面に対し,自ら商標名をキーボードから入力して取引する場面の比率がますます増大しているので,商標の識別において称呼の果たす役割は過去とは比べ物のないほど増大しており,これは従前決まり文句のように言われた「電話での口頭の取引が増大している・・・」の比ではない。 さきほどの異説を「過渡期の考え」と断じた理由はここにある。 よって,本件の場合,外観の違いをもって商標を非類似であると断じることはできない。 3 商品の類似について 本件商標の指定商品中,第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」は,引用商標1の第18類「愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,毛皮」と同一又は類似のものである。 また,本件商標の指定商品中,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ナイトキャップ,帽子,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。」は,引用商標2の第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,防暑用ヘルメット,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),げた,草履類」と同一又は類似のものである。 4 結論 以上のとおり,本件商標と引用商標は,称呼「エイエムビイ」を共通にし,観念も共通にし,指定商品も抵触する類似商標である。 5 むすび したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから,商標法第46条第1項第1号により無効とすべきである。 第4 被請求人の主張 被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第40号証を提出した。 1 被請求人の会社概要及び本件商標の採択経緯 被請求人は,イタリアの著名なブランド「BUTTERO」や「FABIO RUSCONI/ファビオルスコーニ」の日本における代理店として,同各社の製品を日本に輸入し,それらの製品を全国に存在する小売店舗に卸売りし,また自ら運営する直営店舗やインターネット上のオンラインショップにおいて販売を行っている。 被請求人は,昨年,被服,靴,バッグ等のブランドとして,本件商標を採択するに至った。採択した商標に関しては,事前に商標調査を特許電子図書館において実施し,調査結果の下,本件商標の出願に至った(乙1及び乙2)。 よって,被請求人は,本件商標の出願を昨年3月7日に行うと共に,本件商標の使用を開始し,また海外にも本件商標の出願を行い,既に登録を受けている国も存在する(乙3)。 被請求人が本件商標を採択した理由としては,従来,靴やサンダルにおいて被請求人が使用していた「Ambassadors by Verginia」が冗長で需要者,取引者においてブランド浸透度が今一つ低かったため,これを簡略化し,そのネーミングを行ったところである。 そうしたブランド選定に関するいきさつに関しては,被請求人が頒布している小冊子に記載されている(乙4)。 被請求人の本件商標に係るブランドに関しては,既にインターネット上の検索エンジン(例えばYahoo,グーグル,楽天等)で「AMB」や「エーエムビー」の語を人力し検索すれば明らかなように,オンライン商品販売サイトをはじめ,被請求人の商品に関するものしかヒットせず,請求人の商品に関する事項は一切ヒットしない(乙5)。 2 本件商標と引用商標の非類似性について 請求人が主張する,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似のものであること,本件商標がローマ文字「Amb」よりなり,「エイエムビイ」の称呼が生じることについては,争わない。 3 引用商標の構成について 引用商標は,請求人がローマ文字「A」,「M」,「B」をレタリング化したと主張する3つの図形構成部を全体三角形となるよう配置して構成されるものである。仮に,これら3つの図形構成部がそれぞれローマ文字「A」,「M」,「B」をデフォルメし,構成されたものであったとしても,請求人が主張するように全体三角形をなす3つの図形構成部において「A」→「M」→「B」の順に判読されるべき法則や必然性を,需要者,取引者において見出すことができない。 さらに,引用商標の構成において,請求人がローマ文字「A」,「M」,「B」をレタリング化したと主張する3つの図形構成部のそれぞれを注視すれば,全体三角形をなす頂点部分に配置される図形構成部は,およそローマ文字「A」として認識することはできず,単なる黒の塗りつぶしからなる▲の図形に他ならない。 また,全体三角形をなす左下方部分に配置される図形構成部については,およそ簡易迅速な取引の現場で,需要者等がアルファベット「M」と称呼して認識できないことはもちろん,「M」をデザインソースとした図形としても認識できないところである。すなわち,この図形構成部については,せいぜい2つの黒塗りの直角三角形を重ね合わせて構成される図形としか認識することができない。 さらに,全体三角形をなす右下方部分に配置される図形構成部についても,需要者等がアルファベット「B」と称呼して認識できないことはもちろん,「B」をデザインソースとした図形としても認識できないところである。 すなわち,この図形構成部については,せいぜい黒塗りの正方形の右側辺部において上下2つ湾曲した凸部を備えた図形としか認識することができない。 加えて,請求人は,甲第11号証に示す「アンブッシュ」の片仮名で構成される登録第5591101号商標が,その出願段階で請求人の登録商標(甲4等)を引例として拒絶理由を受け,拒絶理由を回避すべく指定商品の減縮手続を実施したことを根拠に請求人の保有に係る各登録商標(甲3ないし甲10)が当然にアルファベット「AMBUSH」と判読され,引用商標の構成においても,当然にローマ文字「A」,「M」,「B」が順序良く判読され,全体として「エイエムビイ」の称呼を生ずるかのような主張を行っている。 しかし,請求人の保有に係る甲第3号証ないし甲第10号証の登録商標については,左から右に順序良く各図形構成部が等間隔で配置され,その中で末尾が比較的アルファベットの原形「S」や「H」を留め,全体としての図形的構成がそれぞれ「A」,「M」,「B」,「U」,「S」,「H」をデフォルメして構成されたものとして推認したにすぎないものである。こうした認識の下に,引用商標の構成においても,当然にローマ文字「A」,「M」,「B」が判読され,「エイエムビイ」の称呼が生ずるとする請求人の主張には飛躍がある。 4 請求人が主張する具体的事情について 請求人は,引用商標に係るロゴが,本件商標の出願前から様々な場面において既に使用され,その証拠として甲第12号証ないし甲第35号証に示すインターネット上の記載や雑誌上の記載を証拠として掲げている。 しかし,これらの各証拠はミュージシャンであり,デザイナーである請求人の代表者が引用商標からなる図形を様々な場面において,ロゴとして使用していたことを示しているにすぎない。 すなわち,これらの証拠は,引用商標が請求人代表者をシンボライズした図形マークとしての使用例にすぎない。増してこれら各証拠は,例えば需要者・取引者が,引用商標を「AMB」と判読していたり,「エイエムビイ」と称呼されていた実態を示すものでもない。 5 被請求人が主張する具体的事情について 本件商標を使用した被請求人の商品に関しては,既に様々な雑誌やインターネット上においても取り上げられ,注目を集めている(乙6ないし乙29)。すなわち,各雑誌中には,本件商標やその称呼「エイエムビー」の表記をもって被請求人の商品が紹介されている。 インターネット上の検索エンジンにおいて,本件商標に係るアルファベット「AMB」,あるいはその称呼「エイエムビー」を入力し検索すれば明らかなように,本件商標に関しては検索結果の上位1位から50位において,被請求人の商品に関するサイトがヒットすることが確認できる(乙35ないし乙40)。 こうした事情からも,請求人の具体的事情については,根拠に乏しく,むしろ本件商標に関しては被請求人の商標として周知となるに至っており,現段階でこれを無効にするべき積極的理由も存在しない。 6 過去の審決例等からの考察 本件商標については,全体判読可能な文字商標「Amb」として需要者・取引者に認識され,「エイエムビー」の称呼が自然に生ずる商標として認識することができる。 一方,請求人の主張は,引用商標を,ローマ文字「A」,「M」,「B」の文字をデザインソースとして,需要者・取引者が当然にそのことを認識できること前提に,「エイエムビイ」の称呼が生じるとした法的根拠に乏しい主張であり,過去の審決例等に照らしてみても失当である(乙30ないし乙34)。 第5 当審の判断 1 本件商標について 本件商標は,別掲1のとおり,薄い灰色で「Amb」の欧文字を表してなるところ,これからは,「エイエムビイ」の称呼を生ずるものであり,また,該文字は,特定の意味合いを有しない一種の造語といえるものであるから,特定の観念を生じないものである。 2 引用商標について 引用商標は,別掲2のとおりの構成態様からなるところ,その構成は,黒塗りした正三角形を表し,その左下には,黒塗りした四角形の上辺をV字状に切り欠いた図形を表し,その右には,黒塗りした四角形の右辺を円弧様に表した図形を表し,その構成全体として,三角形様にデザイン化して表示したものである。 そして,本件商標に係る構成においては,その構成各部分が,これに接する者に,直ちにいかなる文字を表したものであるかを理解,把握させるものということができない。 そうとすれば,引用商標は,構成全体をもって一種の図形を表したものとみるのが自然であって,これからは,特定の称呼及び観念を生ずるものということができない。 なお,請求人は,引用商標について,「第三者が引用商標を『AMB』と認識している」旨主張し,甲第12号証ないし甲第36号証を提出している。 そして,これらの証拠によれば,引用商標が商品に表示されている小袋(甲12),ネイルポリッシュ(甲14),Tシャツ,スニーカー等(甲35),引用商標とAMBUSHロゴが表示されているアクセサリー(甲13,甲22,甲33),小袋(甲30),引用商標と「AMBUSH DESIGN」の文字が表示されている帽子,アクセサリー等(甲17),引用商標とAMBUSHロゴが表示され,「AMBUSH/アンブッシュ」の文字が記載されているリング(甲23),引用商標と「AMBUSH」の文字が記載されている携帯電話ケース(甲28)があるものの,これらにおいて表示されている引用商標を,「AMB」又は「エイエムビイ」と記載されているものは見受けられない。 また,請求人が提出した証拠において,引用商標がAMBUSHロゴとともに表示され,「AMBUSH/アンブッシュ」の文字が記載されているとしても,その実情をもって,需要者が,引用商標を「AMB」の欧文字を表したものと理解,認識するとまではいうことができない。 そうとすれば,引用商標が表示された上記商品に接したる取引者,需要者は,引用商標を,3つの図形的要素を組み合わせて三角形様にデザイン化して表示した図形からなる商標と理解,認識するものというのが相当である。 3 本件商標と引用商標の類否について 本件商標は,薄い灰色で「Amb」の欧文字を表してなるのに対し,引用商標は,別掲2のとおり,黒塗りで3つの図形的要素をデザイン化し三角形様に表示した態様からなるものであるから,その構成態様及びデザイン化の程度において相違し,外観上,相紛れるおそれはない。 そして,本件商標は,「エーエムビー」の称呼を生ずるものであるのに対し,引用商標は,特定の称呼を生ずるものではないから,両商標は,称呼上,相紛れるおそれはない。 また,本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念を生ずることのないものであるから,観念上,これらを比較することができない。 そうとすれば,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 上記のとおり,本件商標と引用商標は非類似の商標であるから,たとえ,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが同一又は類似のものであるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 4 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効にすることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1 (本件商標,色彩の詳細は原本参照。) 別掲2 (引用商標) |
審理終結日 | 2015-11-27 |
結審通知日 | 2015-12-01 |
審決日 | 2015-12-15 |
出願番号 | 商願2014-17546(T2014-17546) |
審決分類 |
T
1
12・
263-
Y
(W1825)
T 1 12・ 261- Y (W1825) T 1 12・ 262- Y (W1825) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齋藤 貴博 |
特許庁審判長 |
林 栄二 |
特許庁審判官 |
田中 亨子 平澤 芳行 |
登録日 | 2014-08-29 |
登録番号 | 商標登録第5697801号(T5697801) |
商標の称呼 | エイエムビイ |
代理人 | 山田 克巳 |
代理人 | 神保 欣正 |
代理人 | 山田 智重 |
代理人 | 山田 勝重 |
代理人 | 山田 博重 |