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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W35
管理番号 1304171 
審判番号 無効2014-890098 
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-11 
確定日 2015-08-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5678253号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5678253号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5678253号商標(以下「本件商標」という。)は,「三井建物」の漢字を横書きしてなり,平成25年12月3日に登録出願され,第35類「不動産事業の管理」を指定役務として,同26年5月16日に登録査定,同年6月20日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由要旨を次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第48号証(枝番を含む。)を提出している。
2 請求の理由要旨
(1)本件商標について
本件商標の指定役務「不動産事業の管理」は,不動産事業経営のノウハウを提供したり,人材や経営面において,不動産に関する事業の管理を請け負う業務であると考えられ,第36類「建物の管理,建物の貸与,建物の貸借の代理又は媒介,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の有効活用に関する助言又は情報の提供,建物又は土地の情報の提供」の役務とは区分や類似群コードは異なっても,業務内容において,かなり密接な関連性を有するものである。
(2)請求人及び「三井グループ」について
三井不動産株式会社(以下「請求人」という。)は,我が国の不動産業界のリーディングカンパニーであって,我が国の周知・著名な企業グループである「三井グループ」の一員である(甲1及び甲2)。
「三井グループ」は,1673年(延宝元年)に,三井高利が伊勢松坂から江戸に出て,家業として呉服業,両替業を営んだことに始まる。三井高利の子孫は,これを承継し,元禄年間には徳川幕府の御用商人となるなどして,江戸時代を通じて大いに繁栄した。
明治時代になると,三井一族は,1876年(明治9年)に我が国で初めて民間銀行である三井銀行を設立し,これと並行して,同年,三井物産を創立した。三井一族は,我が国の富国強兵,殖産興業の国策に協力して資本を蓄積し,1909年(明治42年)には,銀行,物産,鉱山の三基幹企業を株式会社組織にあらためるとともに,三井家一族の同族会の管理部を法人化して三井合名会社を設立し,三井一族が株式を通じて傘下の企業を支配するという財閥の体制を整えた。三井財閥の傘下の企業のうち主要な企業10社を直系会社,これらに次いで重要な企業12社を準直系会社と称していた。ちなみに,請求人は,1941年(昭和16年)7月,三井合名会社の不動産部門を分離し,全株三井一族所有のもとに設立された会社である。
三井財閥の事業は,明治時代から大正時代を経て,戦後の財閥解体に至るまで,国策と歩調を合わせて事業を拡大し,傘下の企業を増やし,我が国最大の財閥として繁栄を続けた。三井財閥の持株会社は,三井合名会社から1940年(昭和15年)には三井物産株式会社へ,1944年(昭和19年)には株式会社三井本社へと変遷し,株式会社三井本社の株式投資の対象となっていた企業は200社を超えていた。三井財閥が1946年(昭和21年)の財閥解体により消滅すると,その傘下にあった多数の会社は三井一族の支配から独立することとなったが,これら三井系企業は,1950年(昭和25年)頃になると次第に接近して相互の親睦,情報交換等を図るようになり,やがて前記直系会社,準直系会社が中心となって,「三井グループ」と称される企業集団が形成されるに至った。三井系企業は,グループ内で相互に系列融資や株式の持合いをしたり,その他の事業協力をしたりし,また,共同で研究機関,広報基幹,親睦施設を設置するなどして結束し,現在に至っている。
三井一族の事業においては,創業以来,「丸の中に井桁三」を配した標章を商号商標として使用してきたところ,これが,三井財閥,三井グループの時代にも引き継がれ,三井系企業は,三井財閥の傘下にあったときも,財閥解体後も「三井」の文字からなる標章,あるいは「丸の中に井桁三」の標章を商号若しくは商標として営業活動に使用し,名声と信用を築き上げてきている。そして,三井系企業はその業種にかかわらず,また,設立時期に相違があるものの,三井財閥の傘下にあった時代以来,「三井」の文字からなる標章を自己の商品若しくは役務であることを示す標章として使用して,永年にわたり営業活動を続け,三井系企業としての名声と信用を築き上げてきたものであって,三井系企業の全体としての事業規模の大きさ,営業活動の期間の長さを考慮すると,「三井」の文字からなる標章は,三井系企業の商品若しくは役務を表示するものとして本件商標の登録時はもとより,出願の日前に,需要者・取引者間で広く認識され,全国的に著名となっていた。
(3)商標法第3条第1項第6号の該当性について
本件商標は,ありふれた氏「三井」と,指定役務「不動産事業の管理」の役務の提供の際に用いられる「建物」の語を組み合わせて構成されるものであるから,その指定役務について使用されるときには,商標全体として自他役務識別標識としての機能を果たし得るとはいえず,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に違反して登録されたものである。
(4)商標法第4条第1項第11号の該当性について
本件商標は,「三井建物」の文字を横書された商標であり,その指定役務に使用されるときには,その構成中の「建物」の語が,役務の提供の用に供するものを表し,識別性を有しないものであるから,「ミツイタテモノ」の称呼のほか,「ミツイ」の称呼も生じるものである。
引用登録第3143898号商標,登録第3035201号商標及び登録第4956281号商標は,「ミツイ」の称呼が生じることから,本件商標とは称呼上同一である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(5)商標法第4条第1項第15号の該当性について
請求人は,不動産分野における我が国のリーディングカンパニーであり,不動産分野において「三井」といえば,請求人及び同グループ企業の社標を表すものであることは,需要者・取引者間において広く知られている。
ア 「三井」及び「三井不動産」の周知性について
請求人は,1941年(昭和16年)の設立以来,時代のパイオニアとして,不動産のあらゆる分野において,日本経済の発展を支えてきた(甲2,甲4及び甲5)。そして,三井不動産グループとして,多くのグループ企業を立ち上げ,住宅,商業施設,オフィスビル,物流施設,宿泊施設,リゾート施設,娯楽施設,駐車場等のあらゆる不動産の開発,販売,建設,賃貸,管理,清掃,施設の運営等,様々な形で相互に関わりを持ちながら発展してきた(甲2,甲4ないし甲19)。
本件商標を構成している「建物」と請求人の名称中の「不動産」とは,非常に関連性のある語であり,指定役務「不動産事業の管理」と第36類の不動産取引に関する役務においても密接な関係を有するものである。三井不動産グループは,多くの関連企業を有しており,「三井」ブランドの下,不動産を中心としたサービスの提供を広く行っている(甲4ないし甲24)。そして,これらサービスの提供を行うにあたり,「三井」ブランドを前面に出した広告宣伝・営業活動を行ってきた。このような全国規模の広告宣伝活動は,広くテレビ,ラジオ,全国版の新聞等が中心であるが(甲25),例えば,2013年度のテレビの30秒CMの放映回数は,年間約650回(提供番組:約530回,スポット:約120回)にも及ぶ。その他,サッカー場内,電車の中吊り,首都圏の駅の看板など,あらゆる媒体を利用して宣伝広告に励んでいる(甲26)。その広告宣伝費は,少なくとも年間170億円?200億円に上る(甲27)。ちなみに,本件商標が出願,登録された平成25年の前年,平成24年から平成26年にかけて現在までの広告例を甲第28号証ないし甲第30号証として提出する。その中で,請求人の「日本橋再生計画」に関する広告が,第32回新聞広告賞優秀賞を受賞しており(甲31),請求人の知名度を高めている。また,各種不動産物件(分譲,賃貸を含む。)には,「三井の賃貸,三井のマンション,三井のすまい,三井のオフィスビルディング」と表示するように,「三井」ブランドを強調した広告宣伝活動を行ってきた(甲21,甲22及び甲32)。さらに,三井不動産グループでは,インターネットサイトを通じて,不動産を中心とした各種の会員向けのサービスを提供している。注目すべきは,その会員登録数であり(甲33),「三井ハウジングメイト」32.2万人(平成26年12月現在),「三井のリハウス・MyリハウスFile」22万人以上(平成26年10月現在),「三井のすまいLOOP」12.4万人(平成26年12月現在)である。これらの全国各地からの会員は,不動産等に関する情報の提供を受けるたびに「三井の?」といった「三井ブランド」に接していることになる。この事実からも,不動産に関する役務について,「三井」といえば請求人及び「三井不動産グループ」といった周知性はかなり高いといえる。
このような広告宣伝活動,営業活動の結果,請求人は,売上高,認知度ともに,不動産業界においては,トップクラスを誇っており,リーディングカンパニーとしての地位を確立し,不動のものとしている(甲34ないし甲38)。
したがって,永年にわたる「三井」ブランドの使用により,需要者・取引者は,「三井」といえば,請求人又は請求人のグループ企業の「建物」を中心とした不動産事業を想起,連想するようになっている。
特許庁においても,現に,請求人は,第36類の不動産取引に関する役務について,商標法第3条第2項の適用により,商標「三井」(登録第3287295号)の登録を受けており(甲39),商標「三井不動産」(登録第3047727号)に基づく防護標章登録も全37区分の指定商品及び指定役務について所有している(甲40)。
以上のとおり,「三井」及び「三井不動産」は,本件商標の出願時及び査定時において,周知・著名であった。
イ 「三井グループ」と「三井商号商標保全会」について
請求人は,我が国でも周知の「三井グループ」に属している(甲1及び甲2)。「三井グループ」には,26社の中核企業を中心として,これら中核企業の国内グループ会社総数約3400社以上が所属しており,中核企業の社長会「二木会」や各社役員(78社)の親睦会「月曜会」のほか,グループ広報活動の中心「三井広報委員会」や情報処理・通信を共同研究する「三井情報システム協議会」等の運営がなされている(甲1)。その中でも「三井広報委員会」では,グループ各社がまとまり,様々な文化活動,広報活動を通じて,社会の繁栄と福祉に寄与する三井グループのイメージ向上を目指している(甲41)。例えば,プロ野球の第三者公式表彰として守備のスペシャリストを表彰する「三井ゴールデン・グラブ賞」の提供や三井グループコミュニケーション誌「MITSUI Field」等を発刊し(甲42),グループ内外での広報活動を行っている。「三井広報委員会」は,その活動を通じ,「三井グループ」のグループ企業の意識向上のみならず,「三井」ブランドを日本全国はもとより,世界各国へ普及させてきたのである。
また,「三井商号商標保全会」は,1956年(昭和31年),「三井グループ」を代表する「三井」,「MITSUI」あるいは「丸の中に井桁三」マークの商号の濫用防止を目的に設立され,請求人がその幹事会社となっている。
特許庁における「三井」又は「MITSUI」の文字を構成中に含む登録商標のほとんどが,「三井商号商標保全会」の承認を得た「三井グループ」に属する者の登録であり(甲43),三井グループ全体で「三井」ブランドの管理・保護の徹底を図っているのである。
請求人は,その幹事会社として,これまでに,「三井グループ」に所属する各企業の業務と出所混同の生じるおそれのある商標の使用,登録を排除してきた(甲44及び甲45)。
ウ 出所の混同について
本件商標「三井建物」の「建物」と「不動産」は,関連性のある語であり,指定役務「不動産事業の管理」と第36類の不動産取引に関する役務においても密接な関係を有するものである。
請求人の三井不動産グループは,多くの関連企業を有しており,例えば「三井の?」,「MITSUI?」というように「三井」ブランドを意識して,「三井グループ」の一員であることを誇りに,不動産を中心としたサービスの提供を広く行ってきた。そして,「三井グループ」には,多岐分野にわたるグループ企業が所属しており,同様に,「三井グループ」の一員であることを誇りに「三井」ブランドを意識して広告宣伝活動,営業活動を行っている。そして,請求人及び請求人のグループ企業は,第35類及び第36類の役務について,「三井」あるいは「MITSUI」を構成中に含む登録商標を多数所有している(甲46)。ちなみに,「三井建物」をインターネット検索エンジンで検索すると,その結果のほとんどが請求人及び三井グループの企業のサイトである(甲47)。そして,一般に広く利用されているインターネットフリー百科事典「ウィキペディア」においても,「三井グループ」及び「三井不動産」の記事において,「三井グループ」は,戦前の三井財閥の流れをくむ日本の企業グループの一つであること,また,請求人はその中核企業の一つであって,日本の不動産業界の最大手であること等が紹介されている(甲48)。
したがって,本件商標がその指定役務に使用されるときには,恰も請求人又は請求人のグループ企業若しくは「三井グループ」の関連企業が提供する役務であるかの如く,役務について出所の混同の生ずるおそれがある。即ち,本件商標がその指定役務について使用されると,需要者・取引者は,「三井不動産」あるいは「三井グループ」の「建物」に関する役務であると誤認・混同するということである。
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(6)商標法第4条第1項第19号の該当性について
請求人及び「三井グループ」の「三井」ブランドは,本件商標の出願時及び登録査定時において,需要者・取引者の間で周知・著名であることは明白であるから,本件商標は,その周知・著名性にフリーライドする不正の目的で出願されたものであることが容易に推認できる。また,被請求人によるこのような周知・著名な「三井」ブランドへの便乗使用により,請求人及び「三井グループ」の「三井」ブランドの価値が薄れ,希釈化されることになる。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
(7)結び
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第6号,同第4条第1項第11号,同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから,その登録は,無効にすべきものである。

第3 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,答弁の理由を次のように述べている。
2 答弁の理由
(1)商標「三井」登録第3047727号,商標「三井不動産」登録第3035201号,商標「三井不動産/MITUI FUDOUSAN」は特許庁が定める,「登録を受けることのできない商標のありふれた氏名または名称のみを表示する商標」(商標法第3条第1項第4号)(例)山田,WATANABE,佐藤商店に該当するため,それをもとに無効の請求はできない。
(2)三井によって三井高利を起源とする三井不動産とは容易につながらない。なぜ三井高利不動産との名称としなかったのか。また,三井グループと主張するグループはなぜ三井高利グループとの名称としなかったのか。また,現在では三井というより三井住友という言葉によって世間一般に認識される傾向にあると考えられる。
(3)建物と不動産が同じとみられるとのことは建物と不動産という言葉は三井不動産の造語や所有する言葉ではなく,国語辞典に載っている世間一般的な言葉であり,不動産管理をするにあたって建物という言葉を使うのは一般的な考えである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)「三井不動産」及び「三井」標章の著名性の程度について
ア 事実認定
甲各号証及び請求の理由によれば,次の事実が認められる。
三井系企業の事業は,江戸時代の延宝元年(1673年)に,三井高利が伊勢松坂から江戸に出て家業として呉服業,両替業を営んだことに始まる。
明治9年に,我が国で初めて民間銀行である三井銀行を設立し,これと並行して,同年,三井物産を創立した。日清戦争,日露戦争後の好景気により,三井傘下の各企業はいずれも急成長し,明治42年に,三井合名会社を設立し,三井一族が株式を通じて傘下の企業を支配するという財閥の体制を整えた。請求人会社は,昭和16年に三井合名会社の不動産部門を分離し,全株三井一族所有の下に設立された。
しかし,第二次世界大戦後の1946年(昭和21年)に三井財閥は解体され消滅した。その後,三井財閥傘下にあった多数の会社は,「三井グループ」として,企業グループを形成し,現在に至っている。
三井一族は,創業以来,「丸の中に井桁三」のマークを配した標章を商号,商標として使用してきたところ,三井系企業の多くは,三井財閥の傘下にあった時代,その後の三井グループを形成した現在を通じて,「三井」の文字を含む商号,「丸の中に井桁三」のマーク,「三井」の文字からなる商標を使用し,広範な分野において事業,営業活動等を行っている。
請求人は,不動産の分野において,三井不動産グループとして多くのグループ企業を立ち上げ,住宅,商業施設,オフィスビル,物流施設,宿泊施設,リゾート施設,娯楽施設,駐車場等のあらゆる不動産の開発,販売,建設,賃貸,管理,清掃,施設の運営等相互に関わりを持ちながら全国で事業活動を行っており,不動産の分野におけるリーディングカンパニーとなっている。
そして,これら三井グループに属する企業は,上記商号,商標の使用によって築き上げられてきた名声及び信用を保護し,これらの有する出所識別機能を維持するために,三井商号商標保全会という組織を開設し,請求人が三井商号商標保全会の幹事会社となっている。
イ 認定事実の評価
上記アによれば,三井グループに属する企業は,三井財閥の傘下にあった時代以来,「三井」の文字からなる商標を自己の業務に係る商品又は役務について永年にわたり使用して,三井系企業としての名声と信用を築き上げてきたものであって,三井グループに属する企業全体としての事業規模の大きさ,営業活動の期間の長さを考慮すると,「三井」の文字からなる商標は,本件商標の登録出願前より,三井グループに属する企業の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,取引者,需要者間に広く認識され,全国的に著名となっていたと認められる。
加えて,請求人の使用する「三井不動産」の商標は,本件商標の登録出願前より,不動産分野における取引者,需要者の間に広く認識され,全国的に著名となっていたと認められる。
(2)本件商標の構成について
本件商標は,「三井建設」の文字を書してなるところ,その構成文字は特定の意味合いを有する語として知られているものではなく,その構成中の「三井」の文字部分は,三井グループに属する企業の使用に係る著名な商標と同一文字よりなり,強い識別性を有する部分であるのに対し,「建物」の文字部分は,その指定役務「不動産事業の管理」との関係において,「不動産」事業に包含されるその対象物や一つの業種又は業態等を表し,役務の質等を表わすものと理解されるから,自他役務の識別標識としての機能を有しない部分であると解される。
(3)混同を生ずるおそれについて
本件商標は,上記した三井不動産グループに属する企業の使用に係る著名な商標「三井不動産」の構成中の「不動産」の文字部分を同文字に包含されるその対象物や業種又は業態等の一つである「建物」に変更したにすぎないものであるから,これに接する需要者は,三井不動産グループに属する企業の使用に係る商標を連想するばかりでなく,また,三井グループに属する企業の使用に係る著名な商標「三井」の文字と同一の文字をその構成中に含むので「三井」の文字部分が強く印象づけられ,これを本件商標中の要部として三井グループに属する企業の使用に係る商標を連想するというのが相当である。
したがって,本件商標は,商標権者がこれをその指定役務について使用するときは,需要者をして,該役務が三井不動産グループ若しくは三井不動産グループを含む三井グループに属する企業の業務に係る役務又はこれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,役務の出所について混同を生じさせるおそれのあるものといわざるを得ないものである。
(4)被請求人の主張について
被請求人の主張は,答弁書の記載によっては,必ずしも明確なものでないが,前記第3の2(1)ありふれた氏(三井)又は名称(三井不動産)からなる他人の商標を引用して本件商標を無効とすることができない,同(2)本件商標構成中の「三井」の文字部分から「三井不動産」の商標を想起,連想することはない,同(3)「建物」及び「不動産」の語はいずれも国語辞典に載録されている一般的な語であるから,本件の指定役務「不動産事業の管理」について「建物」の語を使用できると考えられる,に主張の要点があると解される。
そこで,これらの点について検討する。
ア 上記(1)について
「三井」の文字はありふれた氏であり,また「三井不動産」の文字はありふれた氏「三井」を表す文字と業種名「不動産」を表す文字とを結合したものであり,このような商標は一般に自他役務の識別機能を有しないとして理解されているが,三井グループに属する企業が使用する「三井」の文字からなる商標及び請求人又は三井不動産グループに属する企業が使用する「三井不動産」の文字からなる商標は,いずれも三井財閥の傘下にあった時代以来,自己の業務に係る商品又は役務について永年にわたり使用してきたものであって,このような取引の実情を考慮すれば,自他商品の識別機能を獲得していることはもとより,取引者,需要者の間に広く認識され,全国的に高い著名性を獲得しているものであり,三井不動産グループ又は三井グループに属さない者がこれらの商標と商品又は役務の出所の混同を生じさせるおそれのある商標の登録出願をしたときはその登録を防ぎ,保護されるべきものといえるから,この点に関する被請求人の主張は理由がない。
イ 上記(2)について
本件商標構成中の「三井」の文字部分から直ちに「三井不動産」の商標を想起,連想することがないことは請求人の主張するとおりであるとしても,本件商標は「三井建物」の文字からなるものであり,請求人の使用する「三井不動産」の商標は,不動産を取り扱う業界においては著名な商標であることに加え,「建物」の文字は当業界においては「土地」とともに「不動産」の概念に包括されて理解されるものであって「不動産」とは密接な関係にあるから,商標権者が本件商標「三井建物」の文字を指定役務に使用するときは,取引者,需要者において,その役務が請求人あるいは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるというべきであるから,この点に関する被請求人の主張も理由がない。
ウ 上記(3)について
「建物」及び「不動産」の語はいずれも国語辞典に載録されている一般的な語であるとしても,商標権者が,「建物」の文字を含む本件商標「三井建物」の文字をその指定役務「不動産事業の管理」について使用するときは,該役務が三井不動産グループ若しくは三井不動産グループを含む三井グループに属する企業の業務に係る役務又はこれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,役務の出所について混同を生じさせるおそれがあり,商標権者による本件商標の使用は許されないというべきであるから,この点に関する被請求人の主張も理由がない。
そうすると,被請求人の主張はいずれも理由がない。
(5)小括
したがって,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。

2 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから,その余の請求人の主張について論及するまでもなく,無効とされるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-06-04 
結審通知日 2015-06-10 
審決日 2015-06-23 
出願番号 商願2013-98181(T2013-98181) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W35)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 敏 
特許庁審判長 金子 尚人
特許庁審判官 井出 英一郎
榎本 政実
登録日 2014-06-20 
登録番号 商標登録第5678253号(T5678253) 
商標の称呼 ミツイタテモノ、ミツイ 
代理人 特許業務法人きさ特許商標事務所 

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