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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W43
審判 全部申立て  登録を維持 W43
審判 全部申立て  登録を維持 W43
審判 全部申立て  登録を維持 W43
管理番号 1303141 
異議申立番号 異議2013-900328 
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2015-08-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2013-09-27 
確定日 2015-06-26 
異議申立件数
事件の表示 登録第5594585号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5594585号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件商標は、「味の大西」の文字を標準文字で表してなり、平成25年1月28日に登録出願され、第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与,加熱器の貸与,食器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,おしぼりの貸与,タオルの貸与」を指定役務として、同年6月4日に登録査定、同月28日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由
本件登録異議の申立人は、日夏義孝(以下「第1申立人」という。)、力石弘美(以下「第2申立人」という。)、日夏廣美(以下「第3申立人」という。)、中里鉄也(以下「第4申立人」という。)及び川畑礼子(以下「第5申立人」という。)(これらをまとめていうときは、以下「申立人ら」という。)であり、本件商標の登録はその全指定役務について商標法第43条の2の規定により取り消されるべきものであると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第38号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 申立人らと商標「味の大西」の使用について
(ア)第1申立人は、ラーメンを主とする飲食物を提供する店舗を経営する「有限会社味の大西」(所在地:神奈川県足柄下郡湯河原町土肥1-9-14)(以下「有限会社」という。)に勤務しており、有限会社が経営する店舗(以下「本店」という。)は「味の大西」(以下「引用商標」という。)を屋号として用いている(甲2)。
本店は、1930年代に故日夏義信氏によって創業され、故日夏義信氏の三男にあたる故日夏義治氏が二代目店主として引き継ぎ、日夏義治氏は昭和39年(1964年)に有限会社を設立し代表を務めていたが、平成24年(2012年)9月1日に死去し、現在有限会社は代表者が不在の状況である。第1申立人は、故日夏義治氏の長男であり、本店の三代目として、主に業務の遂行にあたっている(甲7?10)。
本店では、創業以来、引用商標を屋号として一貫して使用しており、店舗の看板、メニュー、コースター等に、屋号である「味の大西」の商標を使用している(甲11?13)。
(イ)ラーメンを主とする飲食店「味の大西」は、本店からののれん分けにより店舗数が増加している。第2申立人は、昭和45年から昭和60年頃まで「味の大西」本店に勤務し、昭和60年頃にのれん分けにより独立し、ラーメンを主とする飲食店「味の大西 真鶴店」を経営している(甲3)。真鶴店においても、引用商標と同一の文字構成である「味の大西」の屋号を看板やメニュー等に用いている(甲14,15)。
(ウ)「第3申立人」は、創業者故日夏義信氏の四男であり、本店で勤務した後にのれん分けにより独立し、現在、神奈川県中郡大磯町に「有限会社味の大西」を設立し、ラーメンを主とする飲食店を経営している(甲4)。該店舗においても、引用商標と同一の文字構成である「味の大西」の屋号を店舗やのれんに用いている(甲16)。
(エ)「第4申立人」は、創業者の孫にあたり、本店で勤務した後、のれん分けにより独立し、神奈川県小田原市荻窪にて、屋号を「ラーメン味の大西」とし、ラーメンを主とする飲食店を経営している(甲5)。該店舗においても、引用商標と同一の文字構成である「味の大西」を含む屋号を店舗や看板に用いている(甲17)。
(オ)「第5申立人」は、本店で勤務した後にのれん分けにより独立し、静岡県伊東市にてラーメンを主とする飲食物を提供する店舗「味の大西伊豆店」を経営している(甲6)。該店舗においても、引用商標と同一の文字構成である「味の大西」の屋号を、店舗や看板、料理を提供する丼等に用いている(甲18,19)。また、該店舗は、少なくとも平成18年から営業していた(甲20の1・2)。
イ 引用商標の周知性について
有限会社及び申立人らが経営するラーメンを主とする飲食店の屋号として使用する引用商標は、以下のとおり、飲食物の提供に関し、本件商標の登録出願日である平成25年1月28日から現在に至るまで、継続して需要者の間に広く認識されている。
(ア)使用開始時期及び雑誌・インターネットの掲載について
有限会社が経営する本店は、1930年代に創業され、創業から約80年が経つ老舗のラーメン店である。同店は「小田原系ラーメン」の元祖として知られ、数々の雑誌やガイドブックにも掲載され広く知られている(甲21?29)。
(イ)店舗数及び使用地域について
「味の大西」を屋号とする飲食店の店舗は、本店からののれん分けにより店舗数が増加し、本件商標の登録出願時において、本店に加え以下の6店舗が営業している(甲3ないし6,35,37)。
・真鶴店(所在地:神奈川県足柄下郡真鶴町1370-3)(甲3,15,30,31)
・高麗店(所在地:神奈川県中郡大磯町高麗3-1-15)(甲4,16,32,33)
・荻窪店(所在地:神奈川県小田原市荻窪299-14)(甲5,17,34)
・伊豆店(所在地:静岡県伊東市吉田747の120)(甲6,18,20の1)
・小田原店(所在地:神奈川県小田原市栄町3-9-21)(甲35)
・茅ヶ崎店(所在地:神奈川県茅ヶ崎市美住町2-2)(甲36?38)
いずれの店舗も、本店の創業者の親族や、本店での修行経験者がのれん分けにより独立したことによって、店舗数が増加したものである。本来、飲食店の経営者は自由に屋号を決められるところ、本店から独立した上述の6店舗が、いずれものれん分けとして「味の大西」の屋号を使用することを選択し営業している事実は、引用商標が老舗のラーメン店としての周知性を有し、引用商標に業務上の信用が化体しブランドとしての価値があることを示している。
ウ 商標及び役務の類否について
本件商標は、「味の大西」を標準文字にして表したものである(甲1)。一方、有限会社が屋号として使用する引用商標は、「味の大西」の文字からなるものである(甲2)。
本件商標と引用商標とは、「アジノオオニシ」の称呼を同じくし、外観もほぼ同一であって、共に造語であるため特定の観念は生じないから、称呼及び外観において互いに類似する商標である。
有限会社が実際に店舗やメニュー等に表示している態様を見ても、いずれも「味の大西」の文字を表示しており、本件商標と「アジノオオニシ」の称呼と同じくするものであって、本件商標と有限会社が実際に使用する商標は類似する(甲11,12)。
また、のれん分けされた6店舗においても、「味の大西」の文字を店舗等に用いており(甲14,16?18,35,36)、該店舗で用いる商標と本件商標についても、「アジノオオニシ」の称呼を同じくすることから、互いに類似する商標である。
さらに、引用商標は、有限会社及び申立人らが「ラーメンを主とする飲食物の提供」について使用し広く知られた商標であり、本件商標の指定役務中の「飲食物の提供」と役務が類似している。
エ まとめ
以上のとおり、本件商標は、その登録出願時及び登録時の両時点において、既に有限会社及び申立人らが経営する店の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた引用商標と類似する商標であって、引用商標が使用されている「ラーメンを主とする飲食物の提供」と類似する役務について使用するものである。
したがって、本件商標は、その指定役務中の「飲食物の提供」について、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
本件商標の登録出願時及び登録時の両時点において、有限会社及び申立人らが経営する店で使用する引用商標「味の大西」は、上記のとおり、約80年前から継続して使用しており、ラーメンを主とする飲食物を提供する店舗の屋号として広く一般に認識されていたものである。
本件商標は、引用商標と同一の文字構成からなるものである。
したがって、本件商標は、これがその指定役務に使用された場合、取引者、需要者は有限会社及び申立人らの経営する店舗の業務にかかる役務であると誤認し、又は有限会社及び申立人らが経営する店と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であると誤認して、需要者・取引者が役務の出所について混同するおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第8号について
有限会社は、商号を「有限会社味の大西」とし、神奈川県足柄下郡湯河原町でラーメンを主とする飲食物を提供する店舗を「味の大西」なる屋号で経営している(甲2,7)。上記で述べたとおり、有限会社が経営する本店はガイドブックやラーメンを紹介する雑誌に度々掲載される有名店であり、掲載される際は、「有限会社味の大西」の名称ではなく、屋号として使用する「味の大西」の略称が用いられている。また、上記で述べたとおり、のれん分けにより独立した店舗でも「味の大西」の屋号が用いられている。のれん分けした各店舗の元となった店としても、「味の大西」本店の屋号は周知されている。
以上のとおり、本件商標の登録出願時及び登録時の両時点において、引用商標は、「有限会社味の大西」の略称として需要者に広く知られたものであり、また、本件商標は有限会社の承諾を得ずに登録されたものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
ア 本件商標及び引用商標
本件商標は、第1申立人が三代目として業務を遂行している本店で使用する引用商標と文字構成を同一とする商標であり、引用商標は、上述のとおり、本件商標の登録出願時には、少なくとも神奈川県を中心とした周辺の数県にまたがる地域において、ラーメンを主とする飲食物を提供する役務を表示するものとして、需要者に広く認識されていたものである。
イ 第1申立人と本件商標権者の関係について
本件商標の商標権者は、甲第7号証及び甲8号証に示すように、有限会社の元代表者で本店の二代目店主であった日夏義治氏の次男であり、第1申立人と同一の世帯員である。そのため、本件商標の商標権者が、有限会社や申立人らが経営する店が引用商標を創業以来約80年にわたりラーメンを主とする飲食店の屋号として使用していることを、本件商標の登録出願時に認識していたことは明らかである。
ウ 本件商標の出願経緯及び不正の目的について
有限会社の元代表者であり本店の二代目店主であった日夏義治氏は、平成24年(2012年)9月1日に死去した(甲7)。その後、有限会社の次の代表者が定まらぬうちに、平成25年1月28日に、本件商標の商標権者は、有限会社の名義ではなく一個人の名義で本件商標の登録出願をした。本件商標の登録出願は、本店の三代目として業務を遂行する第1申立人や、本店から独立し「味の大西」の屋号で飲食店を経営する第2申立人ないし第5申立人ら、いずれの申立人にも無断で行われた。なお、本件商標の設定登録後、第1申立人が本件商標の商標権者に、本件商標に係る商標権を有限会社に移転することを提案したが、本件商標の商標権者はその提案を拒否した。本件商標は、「味の大西」の屋号の使用に関する交渉を自己に有利に進めることや、有限会社や申立人らによる商標登録出願や登録を妨害することを目的に、引用商標と文字構成を同じくする商標について出願されたものである。
「味の大西」本店は、老舗のラーメン店として度々雑誌等に取り上げられる有名店であり、引用商標に信用が化体しブランド価値があるからこそ、のれん分けにより同一の屋号を使用する店舗が増加している。引用商標に化体した信用は、創業以来約80年にわたり営業してきた「味の大西」本店の代々の経営者や、のれん分けにより独立し「味の大西」の屋号で営業してきた店舗の経営者らの長年の努力によって蓄積されたものである。引用商標が老舗のラーメン店の屋号として周知となったのは、本件商標の商標権者個人の成果によるものではないことは明らかであり、また引用商標が商標権者の個人の業務に係る役務を示すものとして需要者に認識されていないことも明らかである。本件商標の商標権者は、引用商標が商標登録されていないことを奇貨として、なんら権利の継承もなく申立人らに無断で、引用商標と同一の文字構成からなる商標を、引用商標の使用に係る役務を含む役務を指定して剽窃的に登録出願した。
エ まとめ
商標法第4条第1項第7号については、「特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が、その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど、当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認しえない場合も、この規定に該当するのが相当である」と判示されている(東京高裁平成16年(行ケ)第7号平成16年12月21日判決)。
したがって、上記のとおり、不正な目的で他人の標章を剽窃し本件商標を出願した行為は、公正な取引秩序を乱すものであり、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(5)結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、第15号、第8号及び第7号に違反してなされたものであるから、その登録は取り消されるべきものである。

3 当審の判断
(1)引用商標の周知性等について
申立人らの提出に係る証拠方法及びその主張によれば、以下のことがいえる。
ア 申立人らと商標「味の大西」の使用について
(ア)第1申立人は、ラーメンを主とする飲食物を提供する店舗を経営する「有限会社味の大西」(有限会社)に勤務する者であり、有限会社が経営する店舗(本店)は「味の大西」(引用商標)を屋号として用いている(甲2,7)。
本店は、1930年代に故日夏義信氏によって創業され、故日夏義信氏の三男にあたる故日夏義治氏が二代目店主として引き継ぎ、昭和39年(1964年)に有限会社を設立し代表を務めていたが、平成24年(2012年)9月1日に死去し、現在有限会社は代表者が不在の状況である(甲7?10)。
本店では、引用商標を屋号として使用するとともに、店舗の看板、メニュー、コースター等に、屋号である「味の大西」の商標を使用している(甲11?13)。
(イ)第2申立人ないし第5申立人は、いずれも、「味の大西」本店に勤務した後、のれん分けにより独立し、ラーメンを主とする飲食店を神奈川県下又は静岡県下において経営している者であり、「味の大西」又は該標章を含む屋号を店舗の看板等に用いている(甲3?6,14?19)。
イ 引用商標の周知性に係る証拠方法について
(ア)有限会社が経営する本店は、1930年代に創業され、創業から約80年が経つ老舗のラーメン店であり、同店は「小田原系ラーメン」の元祖であることが、雑誌やガイドブックに掲載された(甲9,10,21,24)ことは認められるが、神奈川県における多数のラーメン店の一つとして紹介されているにすぎないこと、又は記事がさほど新しいものともいえないこと、並びに雑誌等の掲載回数がさほど多いものとはいえないこと等から、これらによって引用商標の周知性が高いということはできない。
(イ)有限会社が経営する本店に関する記事がウェブサイトに口コミ等の記載が掲載されていること(甲25?27)が認められるが、関東地区におけるラーメン店の店舗数を考慮すると、この程度の掲載の量をもってしては引用商標が周知となっていたということはできない。
(ウ)検索エンジン「Yahoo!」を使用して「味の大西」を検索キーとして抽出すると、約270万件が検出され(甲28)、また、検索エンジン「Google」を使用して「味の大西」を検索キーとして抽出すると、約270万件が検出された(甲29)ことが示されているが、検索方法の妥当性も明確ではなく、このことをもって引用商標の周知性を判断することはできない。
(エ)その他、引用商標の周知性を裏付ける証拠は見いだせない。
ウ 小括
以上によれば、商標「味の大西」は、神奈川県内に所在する有限会社及びのれん分けされた申立人らを含む者により、神奈川県下又は静岡県下において経営するラーメンを主とする飲食店の屋号として、本件商標の登録出願の時より前から継続的に使用されていることが認められるが、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、有限会社又は申立人らの業務に係る役務を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されていると認めるに足りる証拠はない。まして、引用商標が、有限会社又は申立人らの著名な略称として一般に受け入れられていると認めるに足りる証拠もない。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標及び引用商標は、共に「味の大西」の文字からなる又は該文字を有するものであり、両者は、同一又は類似するといえるものである。
そして、本件商標は、引用商標が使用されている「ラーメンを主とする飲食物の提供」と同一又は類似する役務である「飲食物の提供」をその指定役務に含むものである。
しかしながら、上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
したがって、本件商標と引用商標とが同一又は類似するものであり、その指定役務と使用する役務が同一又は類似するものであるとしても、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものではない。
(3)本件商標の商標法第4条第1項第8号該当性について
申立人らは、引用商標が「有限会社味の大西」の略称として需要者に広く知られたものであり、また、本件商標は有限会社の承諾を得ずに登録されたものである旨述べているが、申立人らの提出に係る証拠によれば、上記(1)のとおり、「味の大西」の文字からなる引用商標が、本件商標の登録出願時に我が国において、第1申立人が経営する「有限会社味の大西」の著名な略称を指し示すものとして一般に受け入れられていたとの事実は、これを認めるに足りる証拠はない。
してみれば、本件商標が「有限会社味の大西」の著名な略称である引用商標を含むものであるとする申立人らの主張は、その前提を欠くものであり、採用することはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものとはいえない。
(4)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号は、公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある商標は、商標登録を受けることができない旨規定しているところ、同規定の趣旨からすれば、(a)当該商標の構成自体が矯激、卑猥、差別的な文字、図形である場合など、その商標を使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する場合、(b)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(c)当該商標ないしその使用が特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国際信義に反するものである場合がこの規定に該当することは明らかであるが、それ以外にも、(d)特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が、その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど、当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も、この規定に該当すると解するのが相当である(知財高裁平成16年(行ケ)第7号平成16年12月21日判決参照)。
そして、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、法第4条各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。また、当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。(知財高裁平成19年(行ケ)第10391号・同第10392号平成20年6月26日判決参照)
以下、上記の観点から、本件について検討する。
引用商標が使用されている「有限会社味の大西」(有限会社)が経営する店舗(本店)は、1930年代に故日夏義信氏によって創業され、故日夏義信氏の三男にあたる故日夏義治氏が二代目店主として引き継ぎ、昭和39年(1964年)に有限会社を設立し代表を務めていたが、平成24年9月1日に死去し、現在有限会社は代表者が不在の状況であって、その二代目店主であった故日夏義治氏の長男が第1申立人、同じく次男が本件商標の商標権者である。そして、第1申立人、商標権者及び両者の母親は、同一の住所に居住する者であり(甲8)、3人が居住する住所は、本店を経営する有限会社の住所と同一である(甲7)。さらに、当審における職権調査によれば、これら3人が有限会社本店において一緒に働いていることが認められ、その状態は、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても同様であったことが推認される。
申立人らは、「本件商標の商標権者は、引用商標が商標登録されていないことを奇貨として、なんら権利の継承もなく申立人らに無断で、引用商標と同一の文字構成からなる商標を、引用商標の使用に係る役務を含む役務を指定して剽窃的に登録出願した。」旨主張しているところ、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、有限会社又は申立人らの業務に係る役務を表示するものとして、日本国内における需要者の間に広く認識されているとは認められないこと、上記(1)のとおりであり、また、上記の事情を考慮すれば、本件商標(引用商標)の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるとみるのが相当であり、本件商標の商標権者が該商標を剽窃的に登録出願したとまでは断定し得ないから、申立人らの上記主張は採用することができない。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標といえないから、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえない。
(5)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
申立人らは、引用商標が、有限会社及び申立人らが経営する店で使用され、ラーメンを主とする飲食物を提供する店舗の屋号として広く一般に認識されていることを前提に、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する旨主張している。
しかしながら、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、上記(1)のとおり、引用商標は、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められないこと、また、上記(4)のとおり、商標権者は有限会社本店において働いていること等が推認され、商標権者が引用商標を使用する者と他人の関係にあるとまでは断定できないことから、申立人らの上記主張は採用することができない。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれのある商標といえないから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとはいえない。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
異議決定日 2015-06-18 
出願番号 商願2013-5024(T2013-5024) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (W43)
T 1 651・ 23- Y (W43)
T 1 651・ 25- Y (W43)
T 1 651・ 22- Y (W43)
最終処分 維持  
前審関与審査官 橋本 浩子 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 酒井 福造
手塚 義明
登録日 2013-06-28 
登録番号 商標登録第5594585号(T5594585) 
権利者 日夏 幸治
商標の称呼 アジノオーニシ、オーニシ 
代理人 木下 茂 
代理人 平野 泰弘 
代理人 杉本 明子 
代理人 木下 茂 
代理人 横川 聡子 
代理人 木下 茂 
代理人 木下 茂 
代理人 横川 聡子 
代理人 横川 聡子 
代理人 横川 聡子 
代理人 横川 聡子 
代理人 木下 茂 

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