• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) X0942
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) X0942
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) X0942
管理番号 1301632 
審判番号 無効2014-890059 
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-08-01 
確定日 2015-05-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第5485895号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5485895号の指定商品及び指定役務中、第9類「電子部品及び半導体の内部の非破壊検査をする工業用検査機,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究」についての登録を無効とする。 その余の指定商品及び指定役務についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5485895号商標(以下「本件商標」という。)は、「X線ステレオ方式」の文字を標準文字で表してなり、平成23年7月21日に登録出願、第9類「電子部品及び半導体の内部の非破壊検査をする工業用検査機,理化学機械器具,測定機械器具,制御用の機械器具,電気磁気測定器,光学機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム」及び第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究,計測器の貸与,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,理化学機械器具の貸与」を指定商品及び指定役務として、平成24年4月13日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第29号証を提出した。
(1)利害関係について
請求人は、平成16年10月1日に設立された、X線撮像センサーを用いた装置の研究、開発、製造、販売、レンタル、リースを主な事業とする会社であり(甲1)、発明の名称を「X線ステレオ透視装置及びそれを用いたステレオ観察方法」とする特許第4739803号(甲2)を所有しており、現在、商品の研究・開発・製造及び販売を行っている(甲3)。
(2)請求の理由
本件商標は、以下のとおり、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
ア 本件審判の請求に係る指定商品及び指定役務について
本件審判の請求に係る指定商品及び指定役務(以下「請求に係る指定商品及び指定役務」という。)は、いずれも非破壊検査等ある程度専門的な知識を要する分野のものである。
したがって、請求に係る指定商品及び指定役務の取引者、需要者は、その商品の購入や役務の提供を受けるに当たり、商標等について常に注意深く確認するものと思料される。
イ 本件商標の意味について
(ア)本件商標は、「X線」、「ステレオ」、「方式」の各部分の書体がそれぞれ相違し、視覚上、分離して看取し得るものであり、これらの語を結合したものであることは明らかである。
そして、本件商標の構成中、「X線」の部分は、「電磁波の一種。ふつう波長が0.01?10ナノメートルの間。結晶構造の研究、スペクトル分析、医療などに応用」(甲4)とされるものであって、非破壊検査にも使用されているもの(甲5)、「ステレオ」の部分は、「立体的な」を意味する語であって(甲6)、日本国内において周知の英単語であり、「ステレオカメラ」、「ステレオ受信機」、「ステレオクローム」、「ステレオ顕微鏡」、「ステレオ効果」等、様々な商品の品質として普通に用いられているもの(甲6?甲10)、「方式」の部分は、「一定の形式または手続」(甲11)を意味するものである。
なお、「方式」の語に関して、知財高裁平成25年(行ケ)10113号判決には、「・・・構成後半の『方式』の文字は、『一定の形式または手続』(広辞苑第6版)、『〔何かをする上での〕決まった形式・やり方』を意味する日常語で、何人も容易に意味を理解でき、コンピュータ関連分野では他の語と組み合わせた複合語が多く用いられ、複合語を形成した場合に『方式』の文字を省略してもよい場合もあること・・・からすると、構成前半の『CST』の欧文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるのに対し、構成後半の『方式』の文字部分は、自他商品の識別標識としての機能を果たさないか、又はその機能が極めて弱く、引用商標の取引者・需要者は、構成前半の『CST』の欧文字部分に着目し、当該文字部分をもって取引する場合も少なくないものということができる。」(甲12)と説示するように、本件商標においても、「方式」の部分は、識別力がないか又は非常に弱いものであり、「X線ステレオ」の部分が取引者、需要者の注意をひく部分となる。
(イ)本件商標の構成中の「X線」の部分は、請求に係る指定商品及び指定役務の分野においては、「放射線透過検査ではX線の透過像により、超音波探傷検査では、超音波のパルス波を物体に向け発射し、その反射波を検出することによって内部に存在している欠陥の検出ができ」(甲5)、非破壊検査の方法の1つとされている。
また、本件商標の構成中の「ステレオ」の部分は、上記のとおり、「立体的な」を意味する語であるところ、X線を用いた非破壊検査の分野においては、「X線ステレオ」の語が、「X線ステレオ画像」(甲13?甲15)、「X線ステレオ撮影」(甲16)、「X線ステレオイメージング」(甲17)、「X線ステレオによる3次元画像解析装置」(甲18)、「X線ステレオガイドマンモトーム生検(甲19)、「X線ステレオ写真」(甲20)のように様々な語と組み合わせて使用されており、これらの語に関して、例えば、「X線ステレオ撮影法は2つの焦点位置でX線撮影を行い、得られた2枚の画像を観察することによって体内の3次元構造を診断する検査方法である。」(甲13)、「X線ステレオ画像を形成するために、被検体を2つの異なる焦点位置から透過照射することが公知である。この方法で、(省略)1組のステレオ画像が形成される。」(甲14)、「放射光X線を用いて微細流路内の3次元流れを計測する技術の開発」(甲16)、「少なくとも異なった2方向からの情報があれば、3次元的な解釈が得られるということになる。」(甲17)、「ステレオ撮影方式の3次元計測処理」(甲18)とあることからすれば、請求に係る指定商品及び指定役務の分野において、「ステレオ」の語を「X線」の語とともに使用した場合、それが「2点以上の異なる点からX線撮影された画像を用いることで得られる立体的な又は3次元的な(ステレオ)像」を意味するものであることは取引者・需要者にとって明白である。そして、本件商標の構成中の「ステレオ」の部分は、「ステレオ方式」(甲21、甲22)、「ステレオ法」(甲23)、「ステレオ式」(甲24)と呼ばれ、「2つ若しくはそれ以上の画像を組み合わせることによって得られる3次元形状若しくは空間での観察方法」として周知であり、また、X線を用いた「ステレオ方式」の利用の歴史は古く(甲25)、「1930年ころの文献には、ステレオX線写真の利点はあまりにも明らかなのでステレオ撮影しない方がおかしい、と書かれる状況にまでなりました。」(甲26)との記載もある。
したがって、本件商標は、その構成全体をして、「非破壊検査においてX線を使用して撮影されたステレオ(立体的な)像を用いた、内部構造等を観察する形式」との観念を生ずるものであることは明らかである。
ウ 商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標の構成中の「X線」、「ステレオ」、「方式」の部分は、上記のとおり、非破壊検査の分野において、それぞれが多く使用され、しばしば、「X線ステレオ」や「ステレオ方式」としても使用される周知の語である。このような事情を総合すると、本件商標は、その構成全体として、「非破壊検査においてX線を使用して撮影されたステレオ画像を用いた内部構造等を観察する形式」程の意味合いを容易に看取させるものであるから、これを、請求に係る指定商品及び指定役務に使用するときは、単に商品の品質、役務の質を表示するにすぎないものと認めるのが相当である。また、本件商標は、標準文字として登録された商標であるため、普通に用いられる方法で表示する標章からなるといえる。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
なお、本件商標の商標権者のホームページにおいて、「株式会社アイビットの『X線画像ステレオ方式を用いた電子回路基板検査装置』が九都県市首脳会議において『平成24年 九都県市のきらりと光る産業技術』として表彰されました。」と記載されていること(甲27)、その表彰企業一覧において、「X線を複数の傾斜方向から照射し、画像処理で任意の深さの面の画像を得る『X線ステレオ方式』により、」と説明されていること(甲28)、Gichoビジネスコミュニケーションズ株式会社が発行している「エレクロトニクス実装技術」において、「同社の独自技術である『X線ステレオ方式』を採用(搭載)したことで、」としばしば記載されていること(甲29)からすれば、本件商標の商標権者も「X線ステレオ方式」の語を自己の商品の商標としてではなく、商品の機能・用途を説明するものとして用いているといえ、このことからも、「X線ステレオ方式」という語が、需要者、取引者の間において容易に意味を理解し得るものであり、単に請求に係る指定商品及び指定役務の商品の品質又は役務の質を表すものであることは明らかである。
エ 商標法第3条第1項第6号該当性について
上記のとおり、本件商標の構成中の「X線」、「ステレオ」、「方式」の各部分は、請求に係る指定商品及び指定役務との関係では、いずれも自他商品・自他役務の識別力を欠くものである。そして、それらが結合された場合、「立体的にX線を照射して検査をするもの」程度の意味合いを表したものと理解させるにすぎず、請求に係る指定商品及び指定役務との関係では、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものと認められる。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。
オ 商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は、需要者、取引者の間において容易に意味を理解し得るものであり、単に請求に係る指定商品及び指定役務の商品の品質又は役務の質を表すものであることから、非破壊検査に使用する器具及び装置並びにそれらに関する役務に本件商標が使用された場合には、必然的に商品の品質又は役務の質を誤認させることとなる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。

3 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べた。
(1)本件商標について
本件商標は、特許庁審査官が商標審査基準に則って正しく審査した結果、拒絶理由が存在しないものと認定され、登録されたものである。
請求人の主張は、商標審査基準を無視し、かつ、特許庁審査官による審査実務を真っ向から否定するものであり、到底容認できるものではない。
(2)商標法第3条第1項第3号について
請求人は、本件商標について、「非破壊検査においてX線を使用して撮影されたステレオ(立体的な)像を用いた、内部構造等を観察する方式」との観念が生ずるから、商品の品質、役務の質を表示するものにすぎないと主張する。
しかし、請求人は、本件商標について、「X線」、「ステレオ」、「方式」と分離して観念する「分離観察」のみに偏った主張をしており、「X線ステレオ方式」という商標全体を一連のものとして観念する「全体観察」をあえて避け、「方式」の部分の識別力が弱いとの理由から、「X線ステレオ」のみについて主張している。このような主張は、本件商標全体を正しく観察したものとはいえず、失当である。
また、「?方式」との商標が登録されている例は、証拠を挙げるまでもなく多数に及んでいることは明白であるから、「方式」の語を含むことをもって、商品の品質、役務の質を表示するとはいえない。
そして、仮に、本件商標から請求人が主張するような「方式」が取引者、需要者に観念されるとしても、そもそも、本件商標は、商品の品質、役務の質を表示するものではない。請求人は、本件商標の商標権者が「X線ステレオ方式」の語を「商品の機能・用途を説明するもの」として使用したことがあると主張し、さらに、この「機能・用途」を「商品の品質、役務の質」と巧みに言い換えた主張をしており、失当である。
なお、本件商標の商標権者が「X線ステレオ方式」の語を「商品の機能の説明」として使用した事実があったとしても、このことは、本件商標が登録要件を具備することに影響しないし、その使用が、取引者、需要者に「商品の用途の説明」として認識されることもない。そして、商標審査基準では、「指定商品の『品質』、『効能』、『用途』等又は指定役務の『質』、『効能』、『用途』等を間接的に表示する商標は、本号の規定に該当しない」としているから、「指定商品の『品質』等又は指定役務の『質』等を直接的に表示する商標」でなければ本号に該当しないところ、少なくとも、本件商標は「指定商品の『品質』等又は指定役務の『質』等を直接的に表示する商標」ではないから、この点からも、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しない。
(3)商標法第3条第1項第6号について
本件商標は、上記のように、商標全体として「指定商品の『品質』等又は指定役務の『質』等を表示する商標」ではなく、また、商標法第3条第1項第6号に該当する理由もない。
請求人は、本件商標を分離観察し、その構成中の各部分について自他商品又は自他役務の識別力がないと主張し、もって、その構成全体として商標法第3条第1項第6号に該当すると主張するが、単に自他商品又は自他役務の識別力がないと決めつけているにすぎず、理由が不明である。
(4)商標法第4条第1項第16号について
本件商標は、上記のように、商標全体として「指定商品の『品質』等又は指定役務の『質』等を表示する商標」ではないから、商標法第4条第1項第16号に該当する理由もない。
請求人は、本件商標が「指定商品の『品質』等又は指定役務の『質』等を表示する商標」であると主張し、もって、商標法第4条第1項第16号に該当すると主張するが、その前提に誤りがあり、失当である。
(5)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号に該当するものではなく、その登録は、無効とされるべきものではない。

4 当審の判断
(1)本件商標について
本件商標は、前記1のとおり、「X線ステレオ方式」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、その構成中の「X線」の文字部分は、「電磁波の一種。ふつう波長が0.01?10ナノメートルの間。物質透過能力・電離作用・写真感光作用・化学作用・生理作用などが強く、干渉・回折などの現象を生じるので、結晶構造の研究、スペクトル分析、医療などに応用。」(甲4)を意味するものとして、また、「ステレオ」の文字部分は、「ステレオカメラ」(立体写真用のカメラ)、「ステレオ受信機」(2つ以上の音声チャンネルを備え、ステレオ放送(音声放送の受信側で、2つ以上の独立したスピーカーを用いて立体感のある音声を再現する放送)を受信できる機器)、「ステレオスコープ」(立体鏡)などのように、「立体的な」(甲6?甲10)を意味するものとして、さらに、「方式」の文字部分は、「一定の形式または手続」(甲11)を意味するものとして、我が国において、いずれも一般によく知られている語であるから、本件商標は、これらの3語を結合したものとして理解されるといえる。
(2)本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
上記構成からなる本件商標が請求に係る指定商品及び指定役務について使用された場合、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を有するものであるかについて検討する。
ア 証拠(各項の括弧内に掲記)によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)理工学辞典(1996年3月28日、株式会社日刊工業新聞社発行)の「非破壊検査」の項目には、「放射線透過検査ではX線の透過像により、超音波探傷検査では、超音波のパルス波を物体に向け発射し、その反射波を検出することによって内部に存在している欠陥の検出ができる。」と記載されている(甲5)。
(イ)発明の名称を「X線ステレオ透視装置及びそれを用いたステレオ観察方法」とする特許第4739803号(出願日:平成17年4月21日、登録日:平成23年5月13日)に係る特許公報の「発明の詳細な説明/技術分野」には、「本発明は、非破壊検査などで被検体を立体視するためのX線ステレオ透視装置及びそれを用いたステレオ観察方法に関するものである。」と記載され、「発明が解決しようとする課題/0004」には、「本発明は・・・X線を用いることにより被検体の寸法や形状によらず内部構造の観察や内部欠陥等を検出することができ、被検体を回転させる簡素な構造で装置を小型化することができる汎用性、取扱い性に優れるX線ステレオ透視装置の提供、及びそれを用いた短時間で正確な画像処理を行うことができ、立体認識が容易で簡便に三次元情報を得ることができ実用性に優れるステレオ観察方法の提供を目的とする。」と記載されている(甲2)。
(ウ)請求人の「スマートレントゲン」なる商品のカタログの2枚目には、「最新のコンピュータ画像技術を使って、X線画像をより使い易くするX線透視装置・システムです。」、「特徴的な3種の撮影方法での見易さへの挑戦/1.従来型通常撮影の高機能化(2次元画像)/2.ステレオ型透過撮影による高機能化(2.5次元画像)/3.3次元断層撮影による高機能化(3次元画像)」と記載され、同4枚目の「ステレオ撮影による機能化」の項目には、「X線では2方向からの透過画像で物体内部の3D立体構造を認識出来ます。」などと記載されている(甲3)。
(エ)CiNii論文「X線ステレオ画像からの3次元再構成のための基礎的検討」(電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集1995年)の「抄録」には、「X線ステレオ撮影法は2つの焦点位置でX線撮影を行い,得られた2枚の画像を観察することによって体内の3次元構造を診断する検査方法である。多方向からの投影データにより3次元再構成するCTなどに比べ奥行き情報が乏しいが空間分解能が優れていること,高速度撮影が可能で経時的変化を観察できる特長から血管などの検査方法として有用である。」と記載されている(甲13)。
(オ)発明の名称を「X線ステレオ画像形成方法」とする公開特許公報(特開平9-10192)には、「発明の詳細な説明/0001/発明の属する技術分野」に、「X線ステレオ画像を形成するために、被検体を2つの異なる焦点位置から透過照射することが公知である。この方法で、身体領域又は器官の空間的位置に関する情報を含む1組のステレオ画像が形成される。」と記載され、「0002/発明が解決しようとする課題」に、「本発明の課題は、ただ1つの装置を用いてステレオサブストラクション画像を形成できるX線ステレオ画像形成方法を提供することである。」と記載されている(甲14)。
(カ)「文献情報 J-GLOBAL科学技術総合リンクセンター」のサイトには、「単純X線ステレオ画像における立体認識に関する研究」が紹介された(甲15)。
(キ)「KAKEN-研究課題検索結果」のサイトの「X線ステレオ撮影による3次元マイクロPIV手法の開発」には、「本研究は放射光X線を用いて微細流路内の3次元流れを計測する技術の開発を目的としている。流れに追従するだけではなくX線で明瞭な像が得られる粒子状の微小トレーサを選出して、それを混入した流れをステレオ撮影できた。中空状の像になるトレーサを検出してそのステレオ解析できるアルゴリズムの開発に少々時間を要したが、撮影したステレオ画像からトレーサの3次元位置を決定して3次元速度の分布をPTV計測できた」と記載され、また、同サイトの「軟X線を用いた土壌の間隙構造・透水現象の可視化システム開発に関する研究」には、「本研究は、土壌中の水や物質の移動を支配すると思われる粗間隙に注目し、間隙構造の把握とそれが水の透水性や保水性に及ぼす影響の定量的評価を目的として進めた。とくに、従来、十分な知見が得られていなかった土壌内部の間隙構造を、軟X線を用いた非破壊検査技術を応用して写真撮影し、ステレオ撮影及び画像処理によって、その3次元構造を可視化し、またその3次元座標を同定し構造を定量評価するシステムを開発した。」と記載されている(甲16)。
(ク)「大型放射光施設の現状と高度化/医学・イメージング」の「2.X線ステレオイメージング光学系の開発」には、「3次元非破壊測定法として知られるX線トモグラフィー(CT)の原理からもわかるように、X線の透過イメージングにおいて試料の3次元的な情報を得るためには、試料に対して複数方向からの投影情報が必要となる。・・・つまり、試料に対して、少なくとも異なった2方向からの情報があれば、3次元的な解釈が得られるということになる。そこで本手法では、試料を進行方向の異なる2つのX線ビームで同時投影し、その透過画像を得ることを目的としたX線ステレオイメージング光学系の開発を行った。」と記載されている(甲17)。
(ケ)株式会社アプライド・ビジョン・システムズのホームページには、「X線ステレオによる3次元画像解析装置」に関し、「ステレオ撮影方式の3次元計測処理を実装した2層プリント基板の回路パターンを層ごとに図化するシステムです。プリント基板メーカーが製造時に実施する検査業務において、品質管理向上や検査工程の短縮が見込まれます。」と記載されている(甲18)。
(コ)「ステレオ方式三次元形状計測法を併用したデジタル画像相関法による鉄筋コンクリート構造物のひび割れ発生検知手法の研究」(日本機械学会論文集78巻794号(2012-10))には、「デジタル画像相関法を用いたステレオ方式三次元形状計測法による面外変位・ひずみ計測の概要」等が記載されている(甲21)。
(サ)「ステレオ方式による3次元計測の理論」(株式会社アイディール)の「3次元画像処理とは」の項目には、「1台のカメラで画像を撮像して2次元の画像計測を行うことはごく普通のことですが、2台以上のカメラを使用して同じ場所を違った角度で撮像することによって撮像対象の3次元上の座標位置が2枚の画像から求められます。これは人の2つの眼が3次元空間を認識している方法である『両眼立体視』と基本的に同じもので、人は同じものを2つの眼で見ることによって生じる視差で瞬時に3次元空間上の位置を判断しています。人の目ではその位置を精度良く計測することは出来ませんが、カメラ間の位置関係が固定された撮像角度が異なる2台のカメラで同じ対象画像を捕捉し、コンピュータ処理することによって3次元座標を計測することができます。」と記載されている(甲22)。
(シ)学位論文題目を「ステレオ法による奥行き情報の獲得とそれに基づく3次元画像表示に関する研究」(平成8年)とする「論文の要旨」には、「本論文では、ステレオ法を用いた高精度3次元情報の獲得手法と、それに基づいた3次元画像表示の実現方法について述べている。・・・ステレオ法は情景の3次元情報を獲得するための手段であり、使用条件に制約が少ない受動的センシング法であることから、様々な分野での応用が期待されている。」と記載されている(甲23)。
(ス)株式会社マイクロ・テクニカのホームページの「ステレオカメラ方式 三次元画像処理システム」には、「人の目線に近い3次元認識。時代は3次元視覚認識の世界へ。」と記載され、その特長として、「(1)多機能、(2)各種視覚センサとの組合せ、(3)高精度、高速処理、(4)ステレオ式3次元認識技術、(5)ステレオカメラ」と記載されている(甲24)。
(セ)「医用画像の三次元表示」(健康文化7号、1993年9月発行)には、「映像を立体視するには、眼が2つ横に並んであることにより生ずる視角の差(パララックス)を利用する方法と、ホログラム(レンチキュラー・レンズで画像が浮かんで見える絵はがきの原理もこの一種)を利用する方法がある。何れも医学的に応用されている。パララックスを用いる方法は、左右それぞれの視線に合わせた2枚の画像を用意すればよいので、X線撮影ではX線立体撮影と称して古くから用いられてきた。」と記載されている(甲25)。
(ソ)「eITEM2011国際医用画像総合展」のサイトにおける「ステレオ撮影とデジタルマンモグラフィ」には、「・・・2方向から撮影するステレオ写真の歴史を考えてみますと、レントゲン博士がX線を発見したのは116年前の1895年になりますが、発見当初から三次元的位置関係を観察できるステレオX線写真の利点に多くの人が注目し、普及していきました。1930年ころの文献には、ステレオX線写真の利点はあまりにも明らかなのでステレオ撮影しない方がおかしい、と書かれる状況にまでなりました。」と記載されている(甲26)。
(タ)本件商標の商標権者のホームページには、「2012年11月13日、株式会社アイビットの『X線画像ステレオ方式を用いた電子回路基板検査装置』が九都県市首脳会議において『平成24年 九都県市のきらりと光る産業技術』として表彰されました。」と記載されている(甲27)。そして、九都県市首脳会議のサイトにおいて、「『平成24年 九都県市きらりと光る産業技術』表彰企業一覧」表中に、商標権者の「『X線ステレオ方式』を用いた電子回路基板検査装置」が「製品・技術の概要」として「X線を複数の傾斜方向から照射し、画像処理で任意の深さの面の画像を得る『X線ステレオ方式』により、従来のX線透過画像では検査が困難な多層の電子回路基板を効率よく検査できる装置」と説明されている(甲28)。
イ 上記アで認定した事実によれば、請求に係る指定商品及び指定役務、とりわけ、非破壊検査等に関連する商品及び役務を取り扱う分野においては、従来より、X線を用いて被検体の検査、測定等が行われていたところ、X線を1方向から被検体に照射する場合には、2次元的な画像しか得られなかったが、X線を2方向又はそれ以上の方向より被検体に照射する場合には、3次元的な画像を得ることが可能であり、このような撮影法等を「ステレオ撮影」、「ステレオ方式三次元形状計測法」、「X線ステレオ撮影」などと称し、当該方法により得られた立体画像を「ステレオ画像」等と、また、X線を2方向又はそれ以上の方向より被検体に照射することができるX線発生装置や画像処理装置等を「X線ステレオ透視装置」、「X線ステレオによる3次元画像解析装置」等と、それぞれ称している事実を認めることができる。
してみると、上記(1)で認定したとおり、「X線」、「ステレオ」及び「方式」の3語を結合してなる本件商標は、その構成全体として、「X線を2方向又はそれ以上の方向より被検体に照射して得られた画像を組み合わせることによって被検体の立体形状を認識し、内部構造を観察できる方式」なる意味合いを表したと理解、認識されるにとどまるものと認められる。
そうとすれば、本件商標を請求に係る指定商品及び指定役務中の第9類「電子部品及び半導体の内部の非破壊検査をする工業用検査機,電子応用機械器具及びその部品」について使用しても、該商品が「X線を2方向又はそれ以上の方向より被検体に照射して得られた画像を組み合わせることによって被検体の立体形状を認識し、内部構造を観察できる機能を搭載した商品」の意味合いをもって商品の品質を表示したものと、同じく、第42類「電子計算機その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究」について使用しても、該役務が「X線を2方向若しくはそれ以上の方向より被検体に照射して得られた画像を組み合わせることによって被検体の立体形状を認識し、内部構造を観察できる方式に関する役務」の意味合いをもって役務の質を表示したものと、それぞれ認識されるにとどまり、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものと認められる。
したがって、本件商標は、請求に係る指定商品及び指定役務中の第9類「電子部品及び半導体の内部の非破壊検査をする工業用検査機,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究」について、商標法第3条第1項第3号に該当するというべきである。
ウ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は、本件商標は、特許庁審査官が商標審査基準に則って正しく審査した結果、拒絶理由が存在しないと認定され、登録されたものであるから、請求人の主張は、商標審査基準を無視し、かつ、特許庁審査官による審査実務を真っ向から否定するものである旨主張する。
しかし、商標登録の無効審判の制度は、過誤による商標登録を存続させておくことは本来権利として存在することができないものに排他独占的な権利の行使を認める結果となるので妥当ではないという点にあるものと解される(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕参照)。そして、本件商標は、上記認定のとおり、非破壊検査等に関連する商品及び役務を取り扱う分野において、商品又は役務の品質・質、性能、特性、検査等の方法などを表示するものとして普通に使用されている「X線」、「ステレオ」、「方式」の3語を結合したにすぎず、特別顕著なものとはいえないものであり、その取引分野において必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるというべきである。
したがって、被請求人の上記主張は理由がない。
(イ)被請求人は、本件商標について、「X線」、「ステレオ」、「方式」の3語を分離して観察することなく、全体として観察すべき旨を主張する。
しかし、本件商標は、上記認定のとおり、非破壊検査等に関連する商品及び役務を取り扱う分野において、商品又は役務の品質・質、性能、特性、検査等の方法などを表示するものとして普通に使用されている「X線」、「ステレオ」、「方式」の3語を結合したものと、その分野の取引者、需要者に直ちに理解させるばかりでなく、仮にこれを全体として観察したとしても、上記認定の「X線を2方向又はそれ以上の方向より被検体に照射して得られた画像を組み合わせることによって被検体の立体形状を認識し、内部構造を観察できる方式」なる意味合いをもって、商品の品質、性能等及び役務の質を表したと理解、認識される以上に、特別に顕著なところは見いだせない。
したがって、本件商標は、これを分離観察又は全体観察のいかんに関わらず、自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものというべきであるから、被請求人の上記主張は理由がない。
(ウ)その他、被請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当する商標ではないとして、るる述べているが、いずれも上記認定を左右するものではなく、理由がない。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標は、その指定商品及び指定役務中の第9類「電子部品及び半導体の内部の非破壊検査をする工業用検査機,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究」についての登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項に基づき、無効とすべきものである。
しかし、本件商標は、その指定商品及び指定役務中の第9類「電子部品及び半導体の内部の非破壊検査をする工業用検査機,電子応用機械器具及びその部品」以外の商品及び第42類「電子計算機その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究」以外の役務について使用しても、商品の品質等又は役務の質等を表示するものではなく、また、その他、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができないものでもなく、さらに、商品の品質又は役務の質について誤認を生ずるおそれがあるものでもないから、それらの指定商品及び指定役務についての登録は、商標法第3条第1項第3号及び同項第6号並びに同法第4条第1項第16号に違反してされたものとはいえず、同法第46条第1項に基づき、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-12-22 
結審通知日 2015-01-05 
審決日 2015-04-02 
出願番号 商願2011-51581(T2011-51581) 
審決分類 T 1 11・ 16- ZC (X0942)
T 1 11・ 13- ZC (X0942)
T 1 11・ 272- ZC (X0942)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 小松 孝 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 手塚 義明
田中 敬規
登録日 2012-04-13 
登録番号 商標登録第5485895号(T5485895) 
商標の称呼 エックスセンステレオホーシキ 
代理人 榎本 一郎 
代理人 山崎 高明 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ