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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない X36
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X36
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X36
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X36
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X36
管理番号 1299554 
審判番号 無効2013-890011 
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-02-28 
確定日 2015-04-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第5459425号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5459425号商標(以下「本件商標」という。)は,「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」の文字(標準文字による。)を横書きしてなり(「ぐるなびギフトカード」の文字と「全国共通お食事券」の間には1文字分の余白(スペース)がある。),平成23年7月12日に登録出願,第36類「食事券の発行」を指定役務として,同年11月30日に登録査定,同年12月22日に設定登録されたものである。
本件審判は,本件商標が,商標法第4条第1項第15号,同第10号,同第16号,同第19号及び同第7号に違反して登録されたものであるとして,同法第46条第1項により,本件商標の登録を無効にすることを請求するものであり,その予告登録が平成25年3月19日になされているものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は,役務「ギフトカード(前払式証票)の発行」について使用している,「全国共通お食事券」の文字からなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第84号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,引用商標との関係において,商標法第4条第1項第15号,同第10号,同第16号,同第19号又は同第7号の規定に違反して登録されたものであり,その登録は無効とされるべきである。
(1)商標法第4条第1項第15号違反について
商標法第4条第1項第15号は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について,その登録を認めないとする規定であるが,本件商標は,請求人会社が使用する引用商標「全国共通お食事券」との関係で「混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものであるので,この点を以下に述べる。
ア 請求人会社について
請求人会社は,社団法人日本フードサービス協会の加盟社である主要外食事業者と金融機関の出資により,外食産業界が共同して行う初の事業として,全国的に使える極めて利便性の高い信頼できるギフト券の発行事業を行う目的で設立された会社である(甲2,3)。請求人会社は,平成4年の設立以降,「ジェフグルメカード」という自己の会社名の略称の下,「全国共通お食事券」という名称のギフトカード(前払式証票)を発行・販売している(甲4)。
イ 請求人会社の「全国共通お食事券」に係るギフトカード事業について
請求人会社によりギフトカードの発行が開始されたのは平成4年(1992年)12月1日であり,請求人会社の「全国共通お食事券」に係るギフトカード事業は,日本フードサービス協会及びその会員66社,銀行・生保等の金融機関17社の出資を得て,同年8月21日に請求人会社が設立され,同年12月1日に請求人会社の「全国共通お食事券」というグルメカード(事業開始時の加盟社は85社)の発行・販売が開始されるに至ったが,請求人会社のグルメカードの販売は日本フードサービス協会を中心に同協会が母体となり,同協会の連帯を進化させつつ,外食産業初の全国共通の食事券を発行する取り組みとして位置付けられていた(甲5?11)。
請求人会社及びその母体となる日本フードサービス協会にあっては消費者保護の視点に立って,各業界において「全国共通●●券」の名称が用いられているギフト券は,その業界で特定かつ単一の発行主体で行われているという実情も考慮し,さらには,自らの追求すべき理念を端的に体現できる名称にしたいとの深い思いを込めて,「全国共通お食事券」という名称を採択したのである。
加えて,顧客ニーズが最大限に図られるようなギフトカードでなければならないとの理念から,贈られた側が「ここでは使えません」,「今は使えません」というような経験をして顧客の意図に反したネガティブな贈答行為とならないよう,
(a)ギフトカードの利用に際し,有効期限を設けず(「いつでも」),
(b)フランチャイズ店を含め同一ブランドの店舗ではすべて利用可能とし(「どこでも」),
(c)加盟店における全商品について利用可能として制限(例えば,繁忙期であるランチ商品を除外するなど)を設けない(「何にでも」),ことにより,使い勝手の良さが最大限に確保されたものであった。
そして,この「いつでも,どこでも,何にでも」というフレーズは,請求人会社の発行する「全国共通お食事券」というグルメカードに込められた思いを端的に表すスローガンとなっており,「全国共通お食事券」とは,「いつでも,どこでも,何にでも」使用できるグルメカードの意味であることを顧客たる消費者に十分に浸透させ,外食産業全体の普及に役立たせることにしたのである。
ウ 引用商標に係る「全国共通お食事券」の認知度について
請求人会社にあっては,自らの追求すべき理念を端的に体現した「全国共通お食事券」という名称について,その後においても,ギフトカードの発行者として,テレビ,新聞広告,各店舗における広告等,多様な媒体を介して,その名称の周知化を図ってきた(甲12の1?甲13の6)。特に,インターネットという広告手段が普及していない時代において,「全国共通お食事券」という請求人会社のギフトカードを浸透させるためには,新聞広告・TV・各店舗での広告などの媒体を利用する必要があり,これらの広報活動に莫大な経費が掛かっていることは上記各書証より窺い知れるところであり,実際,請求人会社設立から5年間の宣伝広告費の名目での支出を合計したのみでも4億3500万円を超えるものであった。
このような宣伝広告活動と相まって,ジェフグルメカード(「全国共通お食事券」)という請求人会社のギフトカードは,平成10年(1998年)7月の時点で,ブランド認知度は,47.9パーセントと「NICOS GIFT CARD」や「ucギフトカード」と拮抗する程度に達しており,また,プレゼント希望でも「NICOS GIFT CARD」を上回る希望者を得ており,高い認知度を得,人気を博している(甲14)。加えて,請求人会社のギフトカードは,最近では,エコポイントとの交換商品としても選定されたほか,各企業が展開するキャンペーンの賞品として選定されており(甲15,16),今日においても依然として高い認知度を得,人気を博していることは明らかである。
次に,請求人会社がその略称(ジェフグルメカード)の下に発行する「全国共通お食事券」というギフトカードについてみると,当該ギフトカードは,券面額500円の商品券で(甲17),全国・全都道府県に所在する3万5294(平成23年6月現在)の加盟飲食店舗で飲食代金等の支払いに利用でき,平成4年の販売開始以来の年々発行枚数は増加しており,昨年度は約1390万枚を発行し,総発行枚数は約1億4413万枚(平成23年10月現在)に達している(甲18)。因みに,加盟飲食店の中で店舗数が多いものを例として挙げると,ガスト,モスバーガー,吉野家,CoCo壱番屋,KFC(ケンタッキーフライドチキン),サーティーワンアイスクリーム,小僧寿し,和民,オリジン弁当,木曽路などである。
また,請求人会社のギフトカードには,「全国共通お食事券」の文字が表示され,その上部に「ジェフグルメカード」と通常の書体で請求人会社の名称が記載されているものである。さらに,全加盟店において,赤色で周辺部を囲った楕円形の中央部に赤地に白字抜きで大きく「全国共通お食事券」の文字が目立つ態様で表示され,その下部にやや小さい文字の2段組で赤字を以て「ジェフグルメカード 加盟店」の文字が,その上部にはデザイン化された態様で「§Gourmet\Card」の文字が表されたステッカー(甲19)が店舗の出入口付近に掲出されているほか,販売を取り扱う加盟店の多くに販売店用告知スタンドも設置されている(甲20)。
これらの点からすると,請求人会社が発行するギフトカード(前払式証票)は,引用商標に係る「全国共通お食事券」という名称を以て,需要者の間において広く認識され,周知著名なものとなっているといえる。
エ ギフトカード分野における「全国共通お食事券」の認知度について
引用商標は請求人会社が発行するギフトカードの名称として使用されており,本件商標に係る指定役務「第36類 お食事券の発行」も「ギフトカード(前払式証票)」の分野に属する役務であることから,この分野における「取引の実情」に照らした上での,引用商標に係る「全国共通お食事券」という名称の認知度についても,以下に触れておく。
請求人会社の加盟店リストのリーフレット中における「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」の表示(甲21)についてみると,両者は容易に分離して認識し得る態様で表示され,その一方で,両者のうちのいずれかの表示を目にするときには,他の表示も必然的に目に入るものであり,このような実態に照らしたときには,請求人会社の「ジェフグルメカード」の認知度(甲14)は「全国共通お食事券」の認知度そのものであると考えられて然るべきものである。つまり,需要者・取引者がこのリーフレットに接したときには,「ジェフグルメカード」は請求人会社を指称するハウスマークであり,そのハウスマークの下,「全国共通お食事券」というグルメカードを発行しているという認識が生ずるのである。
加えて,請求人会社にあっては,「全国共通お食事券」という名称以外のグルメカードは発行していないことから(甲18),「ジェフグルメカード」を贈物にしようとするときには,「全国共通お食事券」を贈物にすることを意味するに他ならず,「全国共通お食事券」を贈物にしようとするときには,「ジェフグルメカード」を贈物にすることを意味するに他ならない。
上述の点からすると,「ジェフグルメカード」は請求人会社(株式会社ジェフグルメカード)が発行する「全国共通お食事券」というギフトカード(前払式証票)を指し,「全国共通お食事券」というギフトカード(前払式証票)は株式会社ジェフグルメカードが発行するグルメカード(「ジェフグルメカード」)を指すという認識が確立されており,「ジェフグルメカード」の認知度は「全国共通お食事券」の認知度そのものである。
以上の諸点を総合すると,引用商標に係る「全国共通お食事券」という名称は,今日は勿論のこと,本件商標の出願時(平成23年7月12日)において既に請求人会社の業務(前払式証票の発行)に係る商標として広く認識されるに至っているものであり,故に,本件商標登録の妥当性の判断にあっては,この点を踏まえた上で,なされなければならないものである。
オ 引用商標「全国共通お食事券」との出所の混同について
本件商標は,引用商標に係る「全国共通お食事券」の文字を含む形で,標準文字を以て,「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」と表されてなることから,「全国共通●●券」というギフトカードの使用実態の観点より「出所の混同のおそれ」についてみることとする。
前述のように,「全国共通●●券」なるものは,各業界において特定かつ単一の発行主体により発行されているとみるのが通常であり,「全国共通●●券」となれば,各業界において特定かつ単一の発行主体しかないものと需要者・取引者も当然に認識すると考えられるところである。因みに,「全国共通図書券」「全国共通図書カード」は日本図書普及株式会社が,「全国共通すし券」は全国すし商生活衛生同業組合連合会が,「全国共通おこめ券」は全国米穀販売事業共済協同組合が,「全国共通ゆうえんち券」は株式会社文化放送開発センターが,「全国共通たまごギフト券」は全国たまご商業協同組合が,「全国共通文具券」は日本文具振興株式会社が,「全国共通スポーツ券」は日本スポーツ券株式会社が,「全国共通フラワーカード」は株式会社日比谷花壇と株式会社イーフローラ(両者はグループ企業と解される)が,それぞれ発行主体となっている。
このように,対象商品(役務)を「●●」と特定した「全国共通●●券」の存在が各業界で一種類しか存在せず,それに接する需要者・取引者もそのように認識するという状況にあること,さらには,引用商標に係る「全国共通お食事券」という名称は本件商標の出願時に既に請求人会社の業務(前払式証票の発行)に係る商標として広く認識されているという状況にあることを踏まえれば,「ぐるなびギフトカード」の文字の有無に拘わらず,本件商標は請求人会社の周知著名な引用商標「全国共通お食事券」と出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
上記より,本件商標は引用商標との関係において商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであり,その登録は無効にされるべきであるが,本件商標登録が認められ,それが存在する結果,実際の商取引において,どのような状況になっているか,という点についても以下に付言しておく。
まず,インターネットの普及した今日において,「全国共通お食事券」というグルメカードを購入しようとする場合,検索サイトでこれを検索し,そこで得られた情報をもとに,購入するという手法が採られることは容易に想定されるところである。このような手法を採った場合,例えば,ヤフーの検索サイトを用いて「全国共通お食事券」を検索した場合,請求人会社のグルメカードに関連する「全国共通お食事券 ジェフグルメカード」,「全国共通お食事券ジェフグルメカード公式携帯サイト」,「全国共通お食事券楽天市場店」,「全国共通お食事券Yahoo!ショップ」等が表示され,その一方で,被請求人会社のグルメカードに関連する「全国共通お食事券【ぐるなびギフトカード】」,「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券ベネフィット・ステーション」等も表示されることになる(甲22)。このような形で請求人会社のグルメカード以外に被請求人会社のグルメカードも検出されること自体,請求人会社が20年の年月をかけて築き上げた「全国共通お食事券」(引用商標)に化体した信用への「ただ乗り」であり,許されるべきものではないが,上述のように,「全国共通●●券」という表示が用いられているギフトカードにあっては,各業界において特定かつ単一の発行主体しかないと需要者・取引者も当然に認識するという性質に鑑みると,利用可能な店舗や利用条件が異なるギフトカードについて,異なる主体による発行を商標登録という行政処分を以て容認することは,出所の混同を生ずる蓋然性が高いものの登録を容認したことを意味するに他ならない。特に,商標法でいう「役務」は,他人のためにする便益であり,これをギフトカードの発行という役務に照らした場合,その対象となるのが自家発行型のギフトカードではなく,第三者発行型のギフトカード(前払式証票)であることからすると,商標登録はされていないものの,請求人会社が発行する「全国共通お食事券」という周知著名なギフトカードが既に市場に存在する状況において,本件商標の登録を容認するということは,被請求人会社の「ただ乗り」を許すのみならず,具体的出所の混同が生ずるおそれが極めて高い商標,即ち,健全な商品流通秩序の維持を阻害する要因となり得る商標について,登録という行政処分を行ったことを物語るものである。
上記に加え,被請求人会社のギフトカードの名称において,「全国共通お食事券」という名称が用いられていることから,店員が被請求人会社のギフトカードを周知著名な請求人会社のギフトカードであると誤解している事例や500円券のみしか発行していない請求人会社のギフトカードと4種類の券種からなる被請求人会社のギフトカードとを混同している事例も発生している。
また,金券ショップにおいても,被請求人会社のギフトカードに関して,わざわざ「ジェフグルメと似た券ですが使える店が異なります」とか「お釣りは出ませんので額面以上でご利用くださいませ」という表示をして,自衛策を講じないといけない位に混乱が起きかねない状態に至っている(甲23)。
したがって,本件商標は,引用商標との関係において第4条第1項第15号に該当する商標であるにも拘わらず,それに違反して登録されたものであることは明らかであり,その登録は無効にされて然るべきである。
(2)商標法第4条第1項第10号違反について
上述のように,本件商標は引用商標との関係において,商標法第4条第1項第15号の規定により無効とされるべきものであるが,今日の商標審査基準では,第4条第1項第10号の基準の一つに,「他人の未登録商標と他の文字又は図形等とを結合した商標は,その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め,原則として,その未登録商標と類似するものとする」ということが明記されており(甲24),その結果,周知著名な引用商標に係る「全国共通お食事券」の文字をその構成要素の一部に含む本件商標にあっては,この規定の適用もあり得ることから,本件商標は,第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第16号違反について
被請求人会社が本件商標の下に発行・販売しているグルメカードは,「全国共通お食事券」という表示を含むものの,全国での使用という実態を伴っていない上に,同一ブランドの店舗でも取扱店と非取扱店とが混在しているという状況にある。
加えて,被請求人会社のグルメカードは,利用店舗に対して利用できないサービスの有無の確認を需要者に求めることをその約款上想定しているものであり(甲25),これらの諸状況は,外食産業の分野において請求人会社によって既に確立されている「いつでも,どこでも,何にでも」使用できるというグルメカードの「役務の質の誤認」を生じさせるものである。
したがって,本件商標は,第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものであり,仮に本件商標の設定登録時にそのような違反はないとしても,その後に第4条第1項第16号の規定に違反するものとなっていることから,その登録は無効にされるべきものである。
(4)商標法第4条第1項第19号違反について
商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」について,その登録を認めないとする規定であるが,被請求人による本件商標の採択及び登録の取得は「不正の目的」の下になされたものである。
ア 被請求人会社について
被請求人会社は,インターネット及びコンピューターを利用した情報処理サービス業務並びに情報提供サービス,前払式支払手段の発行及び販売等を目的として,平成元年10月2日に設立された会社であり(甲26),本件商標の出願後の平成23年9月頃から本件商標に係る「ギフトカード」を発行・販売している。
イ 引用商標との関係における「不正の目的」での使用について
被請求人会社は,もともとは「ぐるなび」名のサイト等の運営を行っていたが,平成23年4月から自社の会員が貯めたポイントの交換対象として「ぐるなびスーパーポイントご利用券」(以下,「ポイントご利用券」ともいう。)の取扱いを開始し,その取扱店舗を募るなどしていたところ,平成23年8月頃,ポイントご利用券取扱店舗に対し,同年9月15日以降はポイントご利用券に加え,被請求人会社の「ギフトカード」をお取扱いいただくことになり,どちらか一方の取扱いに限定することはできないなどの旨を通告し,本件商標に係る「ギフトカード」の発行販売を開始した(甲27)。被請求人会社のギフトカードには,500円,1,000円,5,000円及び10,000円券の4種類の券種があり,各券面の表面に「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」と表示されている(甲28)。この表示は,楕円形の中に「ぐるなびギフトカード」と2段組で記載し,その下部に小さく「GURUNAVI GIFTCARD」と記載し,楕円形の下側に「全国共通お食事券」と記載したもので,請求人会社が使用している加盟店ステッカー(甲19)の形態と構成の軌を同じくする形態であることは明らかである。
また,上記被請求人会社の「ギフトカード」は,そもそも3年間の有効期限が設定されており,同一ブランドの店舗でも取扱店と非取扱店とが混在しているという状況もあり,加盟店であることさえ確認できれば,「いつでも,どこでも,何にでも」使用できる請求人会社の「ギフトカード」とは「役務の質」を全く異にするものである。したがって,このような状況を容認し,請求人会社の発行する「全国共通お食事券」というグルメカードに対する認識が,被請求人会社のそれのように需要者に認識されることは,明らかに請求人会社のギフト券としての価値を低下させるものであり,請求人会社が積み上げてきた営業上の信用が減殺され,希釈化される状況にあることも明らかであるから,被請求人会社の本件商標は,「不正の目的をもって使用する」に当たるものである。
ウ 「不正の目的での使用」と本件商標の採択行為について
本件商標の採択の観点から「不正の目的」での商標登録の取得である(甲29?42(枝番を含む。))。
被請求人は請求人会社が20年の年月をかけて築き上げた「全国共通お食事券」(引用商標)に化体した信用にただ乗りしてこれを利用し,その反面,請求人会社のそれに化体した信用を減殺させる意図の下,即ち,「不正の目的」の下,本件商標を採択したことは明らかと言うべきである。
また,被請求人は,「全国共通お食事券」という名称それ自体及び「全国共通お食事券」の文字を含む名称が商標登録されていないことを奇貨として,「不正の目的」の下,本件商標を採択し,「不正の目的をもって使用する」ものであることは,上述の通りである。
したがって,本件商標は引用商標との関係において,第4条第1項第19号に該当する商標であるにも拘わらず,それに違反して登録されたものであることは明らかであり,その登録は無効にされて然るべきである。
(5)商標法第4条第1項第7号違反について
請求人会社が前払式支払手段(第三者型)発行者登録したのは,前払式証票の規制等に関する法律が廃止され,それに代わる資金決済に関する法律が施行された以降の平成22年9月30日である(甲43)。この資金決済法においては,払戻しの手続規定が設けられたことで,払戻手続を行えば発行者は供託の義務を免れることとされ,発行業務からの撤退が容易になったという点で,旧来の前払式証票規制法時代よりも発行者の義務は緩和されており,被請求人はこのようなことをも念頭において,ギフトカードの発売に及んだとも考えられる。
請求人においては,被請求会社のギフトカードヘの参入を拒むものではなく,また,拒むこともできないが,なぜ,「全国共通お食事券」(引用商標)という名称を用いて外食産業におけるグルメカード分野に参入してきたのかということを問題としているのであり,これは,単に請求人会社の一企業としての問題としてではなく,外食産業全体に影響を及ぼす大きな問題として捉えている(甲44)。
つまり,各業界とも,「全国共通●●券」という名称を使用する場合には業界秩序を優先し,節度をもって対応してきている事実から,消費者又は需要者は「全国共通●●券」は特定の発行主体のものであることを認識し,安心して利用することができる環境を作っており,外食産業の分野では,加盟店であることさえ確認できれば,「いつでも,どこでも,何にでも」使用できるという環境が作られているにも拘わらず,利用可能な店舗や利用条件が異なる「全国共通お食事券」という名称のギフトカードについて,異なる主体による発行を許したときには迷惑を被るのはその利用者であり,それが広がれば,外食産業の分野におけるギフトカードの衰退に繋がりかねないことを業異界最大規模の団体である日本フードサービス協会を含め,最も危惧しているのである。
このような状況の下,「全国共通お食事券」という名称それ自体及び「全国共通お食事券」の文字を含む名称が商標登録されていないことを奇貨として,「不正の目的」の目的を以て,請求人により採択された本件商標は,社会的相当性を欠くものであり,その登録を許すことは,健全な商品流通の維持を図らんことを目的とする商標法の趣旨に反する登録を容認することを意味するに他ならない。
したがって,仮に,本件商標が第4条第1項第15号,同第10号,同第19号に該当する商標ではないとしたときであっても,本件商標は,第4条第1項第7号に規程する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものであり,その登録は無効にされるべきものである。
(6)総括
本件審判請求人は,引用商標に係る「全国共通お食事券」という名称のギフトカード(前払式証票)を発行・販売しており,このような状況であるにも拘わらず,「全国共通お食事券」の文字をその構成要素の一部に含む本件商標について,その登録が認められたものであるから,本件審判請求人が本件審判請求について利害関係を有していることは明らかである。
また,本件商標が引用商標との関係において,商標法第4条第1項第7号,同第10号,同第15号,同第16号又は同第19号の規定に違反して登録されたものであることは,上記の無効事由で述べたとおりである。
以上詳述したように,本件商標は引用商標との関係において,商標法第4条第1項第15号若しくは同第10号,同第16号,同第19号,又は同第7号の規定に違反して登録されたものであるから,その登録は無効とされるべきである。
2 弁駁
(1)「全国共通お食事券」という表示の出所識別機能について
ア 「全国共通お食事券」に関する取引の実態について
被請求人は,答弁書において,「全国共通お食事券」の表示は単独では識別表示として機能していない旨主張するが,商標法における関連各条項が求めているのは,「全国共通お食事券」の表示が単独で識別標識として機能しているかということではなく,「全国共通お食事券」の表示が請求人の出所識別標識として機能しているか,ということである。
また,被請求人は,需要者は請求人商品を「ジェフグルメカード」,被請求人商品を「ぐるなびギフトカード」という表示により識別することから,何らの混同も発生しないとの主張もしているが,実際の取引の現場では,両者を取り違える事態が生じている(甲45?52)。このような取り違えが生じたのは,両者の商品名が「全国共通お食事券」という名称で同じだからである。
この点は,両者が酷似していると指摘されていること(甲48),「各店舗へは『ぐるなびカードは使えません』ということで周知徹底を図っておりますが,『全国共通お食事券』の呼称のため,現場ではジェフグルメカードと混同しやすいようでなかなか徹底されません。」(甲52)と指摘されていること,からも分かるところである。
つまり,実際の現場では,「全国共通お食事券」の表示を単なる説明的な文字として捉えるのではなく,商品の識別に際して最も重要となる商品名という位置付けで捉えているのである。
実際の取引の現場においては,「ジェフグルメカード」や「ぐるなびギフトカード」という表示は,ギフトカードの発行主体(加盟店にあっては加盟カードの主体)を認識させるに過ぎず,ギフトカードの識別に際し,最も重要なものとして位置付けられるのは,「全国共通お食事券」の表示(商品名)にあるということである。
このような取引の実態は,「浮動的・一過的」なものでなく,この種の分野における「普遍的・恒常的」な取引の実情として考慮されるべきものである。
イ 請求人・被請求人発行のギフトカードと「全国共通お食事券」の認知度について
請求人の「グルメカード」と被請求人の「ギフトカード」との取り違えの事態が発生したのは請求人のグルメカードの加盟社の店舗においてである。請求人は,このようなミスや誤認が生じることがないよう,平成23年10月に加盟社に対して,「『ぐるなびギフトカード全国共通お食事券』の情報提供」というタイトルの通知をしていた(甲53)。
さらに,この通知には,注意喚起を促す文書も添付して,この文書の活用を加盟社に要請し,加盟社は各店舗やフランチャイズ店への周知徹底を図っていた(甲54?58)。
このような中で,取り違えるという事態が発生したのは,請求人のグルメカードの加盟社やその従業員にあっては,「全国共通お食事券」という名称(商品名)のギフトカードに接したときには,ジェフグルメカードを指すという認識が既に出来あがっていたからである。
この点に関連し,被請求人は,請求人商品と被請求人商品とを直接対比して観察したり,両者に関するステッカーについてもそのような観察手法を採っているが,実際の取引というのは,間接離隔観察の視点から捉えなければいけないのである(甲59)。
この視点で捉えた場合,被請求人のギフトカードを請求人のグルメカードと取り違えるという事態は,請求人のグルメカードの加盟社の従業員や被請求人のギフトカード利用者(取引者・需要者)にあっては,「全国共通お食事券」という名称(商品名)のギフトカードは,請求人のグルメカードを指すという記憶やイメージがあり,それが一つの固定観念を生み出し,この固定観念こそが,「全国共通お食事券=ジェフグルメカード」の認知度を示すに他ならない。
ウ 請求人のグルメカードの加盟社における「全国共通お食事券」に対する認識について
請求人は,請求人のグルメカードの加盟社のうちの107社(109名)の署名をもって(甲60の3),平成25年9月2日付けで被請求人会社の代表取締役会長宛てに抗議文を送付している(甲60の1?14)。
この抗議文には,請求人の発行に係る「全国共通お食事券」について,「?20年以上に及んでお客様にご好評をいただき,『全国共通お食事券』といえば『ジェフグルメカード』と認識されるほど,法人,個人を問わず多くのお客様に利用されています。」との記述がある(甲60の4?14)。この記述は,「全国共通お食事券」に対する認識の程度を端的に表すものである。そして,この抗議文に署名・捺印していることは,少なくとも請求人のグルメカードの加盟107社(22,089店舗)及びその従業員にあっては,「全国共通お食事券=ジェフグルメカード」という認識であることを示すものであり,取引者間において,このような「認識の構図」が確立されていることを裏付けるものである。
エ 請求人による「全国共通お食事券」の使用実態についての補足
甲第61号証は,請求人会社社長の陳述書であり,訴訟(乙5)において提出したものである。この陳述書の中には,第8代日本フードサービス協会会長の大河原氏の発言に関する部分があり,甲第62号証は,この発言部分が事実に相違ないことを確認する大河原氏の確認書である。さらに,甲第63号証は,日本フードサービス協会(JF)会長の陳述書である。
これらの陳述は,請求人の長年の地道な努力の結果を踏まえ上でなされていると思われるが,そのような努力の結果,請求人会社が発行した「全国共通お食事券」の総数は1億5000万枚以上にのぼり,使用可能なブランドは1000以上,加盟店舗数は全国で約3万5000店にのぼっている(甲64,65)。
請求人は,既に,請求人会社の加盟店リストのリーフレット(甲21)を提出しているが,これらのリーフレットや請求人発行のグルメカードの券面,その利用可能店舗を示すステッカー等について,以下に述べる。
(ア)加盟店リストについて
リーフレットは,「全国共通お食事券」発行当初から用意されていた。甲第66号証の1は,発行当初の1993年前期・後期,1994前期のリスト(加盟店一覧表)の表紙を示すものである。この小冊子タイプの加盟店一覧表はその後も作成されていたが,1995年9月と1999年12月作成のものの表紙の写しを提出する(甲66の2及び3)。
また,リーフレットタイプの加盟店リストも発行当初から今日に至るまで作成されているが,加盟店数の増加等により,1年に2回又は3回の割合で刷り直しを行うため,手元に残っているものの写しを提出する(甲67の1?20)。
これらの小冊子の表紙,リーフレットから言えることは,そこには必ず,「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」という2つが表示されているということである。そして,両者の表示は,文字の大きさや色を異にしたり,両者間にスペースを配したりして,両者が容易に分離して認識し得る態様の表示となっており,その一方で,両者のうちのいずれかの表示を目にするときには,他の表示も必然的に目に入るという表示形態となっている。
このような表示形態こそが,前記陳述書(甲61)で述べているところの「?『全国共通お食事券』と『ジェフグルメカード』とが市場において一体的に認知されるよう,事業展開を進めてきました」ということを指し示すところである。
(イ)請求人発行のグルメカードの券面について
請求人の発行に係るグルメカード(甲17)の表示形態も「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」とが市場において同時に認知されるための態様となっている。
この券面には,発行主体を示す「株式会社ジェフグルメカード」が明記されていることから,この記載と相侯って,この券面からは,株式会社ジェフグルメカードが発行する「ジェフグルメカード」すなわち「全国共通お食事券」という認識,若しくは,株式会社ジェフグルメカードが発行する「全国共通お食事券」すなわち「ジェフグルメカード」という認識が看取できるのである。
加えて,需要者が請求人の業務に係る役務を表示するものと認識するか否かの重要なポイントは,発行主体(使用者)の表示とその対象となる表示(商標)が,一体として結び付く態様の表示形態を採っているということであり,この券面がそのような形態を採っていることは,発行主体として「株式会社ジェフグルメカード」の記載より,明らかである。
(ウ)請求人発行のグルメカードの利用可能店舗を示すステッカーについて
請求人発行のグルメカードの利用可能店舗(ジェフグルメカード加盟店)を示すステッカー(甲19)には,「全国共通お食事券」の文字が目立つ態様で表示されている。このステッカーは,ジェフグルメカード加盟店と「全国共通お食事券」とを結び付ける目印となるものであり,「ジェフグルメカード」が使えるお店は,「全国共通お食事券」が使えるお店であるとの認識に結び付くのである。
このステッカーの表示は,1995年7月の加盟店リスト(甲67の1)に掲載して以来,リーフレット(甲67の2?20)にも必ず掲載されている。このステッカーの表示から「全国共通お食事券」の表示のみ抽出できるのか,という指摘もあろうが,抽出できるかということが問題ではなく,如何に「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」とが結び付くような表示形態であるか,という点を捉えれば足りることである。
(エ)請求人発行のグルメカードに関する宣伝広告について
被請求人は,答弁書において,請求人の宣伝広告に関し,「全国共通お食事券」単体で使用されていない点を云々述べているが,これらのメディア媒体には,請求人が発行するグルメカードの券面や「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」の表示がなされている。これらの表示態様も,「全国共通お食事券」といえば「ジェフグルメカード」,「ジェフグルメカード」といえば「全国共通お食事券」というブランド構築のための一環としてなされた宣伝広告なのである。特に,新聞への広告掲出は,知名度が出始めた頃の平成7年?8年に掛けてのものであり,テレビ番組における宣伝広告は,知名度を一気にアップさせることを狙った平成10年の後半のものであるため,各甲号証に示すような宣伝広告の形態となったのである。
オ 小括
以上より,引用商標に係る「全国共通お食事券」の表示は,知名度ゼロからスタートし,請求人の長年の地道な努力の結果,外食産業のギフトカードの分野において,請求人の発行するジェフグルメカードを指称する出所識別標識として機能するに至っており,被請求人の「ぐるなびギフトカード全国共通お食事券」の出現は,その確立された出所識別機能を阻害するものである。
したがって,請求人が挙げた無効理由のうち,役務の出所識別標識としての機能に関連する条項の適用に当たって,上記主張は「考慮されるべき取引の実情」として十分な評価を受けなければならないものである。
(2)本件商標の出願の経緯と登録後の使用について
ア 本件商標の出願の経緯について
被請求人は,本件商標を被請求人商品の名称として選択したとしているが,本件商標は標準文字で構成されており,その構成中の「全国共通お食事券」の文字は普通名称であるならば,敢えて費用を掛けてまで本件商標について登録を取得する意義などないとの判断ができたはずである。
商標登録の取得は,被請求人においては,商標権者としての正当使用義務(甲69)が発生することも十分認識しているはずである。
イ 本件商標の登録後の使用について
被請求人の使用各商標の態様は,本件商標中の「全国共通お食事券」という要素に変更を加えることなく,それを前面に押し出す形の態様となっている。
これらの態様への変更は,請求人の発行に係るギフトカードの名称たる「全国共通お食事券」という名称への「すり寄り行為」に他ならず,これらの態様での被請求人の使用は,請求人の引用商標に係る「全国共通お食事券」という名称のギフトカード等との関係で「不正使用」に当たるものである。
請求人は,本件商標に係る商標登録に対して,商標権者の登録商標の正当使用義務違反を追求すべく,商標法第51条第1項に規定する不正使用取消審判を請求しているところである。
ウ 商標登録第5464311号に係る商標の登録後の使用について
被請求人は,本件商標のほかに商標登録第5464311号に係る商標を所有しており,当該商標登録に対して,自己が発行するギフトカードの券面,当該カードを入れる封筒やギフトボックス等では甲第28号証に示す態様の商標を使用している。
この態様での被請求人の使用は,引用商標に係る「全国共通お食事券」というギフトカード等の関係で「不正使用」に当たるものである。
したがって,請求人においては,前記のように,請求人の発行に係る「グルメカード」と被請求人の発行に係る「ギフトカード」との取り違え事態の発生と相侯って,ロゴ登録商標に係る商標権に対して,商標権者の登録商標の正当使用義務違反を追求すべく,商標法第51条第1項に規定する不正使用取消審判を請求しているところである。
エ 小括
上記における各不正使用取消審判と本件無効審判とは,それぞれの事由が異なるため,各審判は関連しないとも言えるが,本件無効審判の無効事由として商標法第4条第1項第19号違反,同第7号違反を挙げており,審判官にも,被請求人の「全国共通お食事券」の表示に関する使用の状況を把握した上での判断を求めるべく,敢えて,上記で指摘した次第である。
(3)商標法第4条第1項第7号違反についての補足
商標法の法目的の一つは,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図ることであり,もう一つは,需要者の利益を保護することである。そして,ここで言う商標は,登録・未登録を問わないものである。
被請求人は,「全国共通お食事券」という名称それ自体及び「全国共通お食事券」の文字を含む名称が商標登録されていないことを奇貨として,本件商標についての登録を取得し,それを契機として,「全国共通お食事券」の表示は説明的な表示に過ぎないというスタンスの下に,この表示を思いのまま,好き勝手に使用している。
前記の抗議文(甲60の1?14)の被請求人への送付は,本件商標の登録をはじめとして,「全国共通お食事券」に関する一連の行為が公正な競争に反し,その登録をそのまま認め,「全国共通お食事券」の名称の使用を容認することは,商標の使用をする者の業務上の信用の維持の観点,需要者利益の保護の観点に照らして許されるべきものではない,との立場からなされたものである。
この抗議文の送付に先立ち,被請求人への対応については,平成25年5月14日に開催された請求人会社の取締役会で協議され(甲76),その後,平成25年7月11日に開催された日本フードサービス協会の理事会(甲77)の審議を経て,全員異議なく承認されたことを以って(甲78),送付したものである。
これらの経緯からも分かるように,本件無効審判請求事件は,請求人と被請求人との間おける「全国共通お食事券」の名称についての争い,という形式となっているが,ギフトカードの発行主体として,株式会社ジェフグルメカードが請求人となっているのであって,実態的には,請求人会社の母体であり,外食産業関連で最大規模の団体である日本フードサービス協会と被請求人との間おける「全国共通お食事券」の名称についての争い,という構図になるのである。
したがって,請求人における商標法第4条第1項第7号違反についての主張は,単に,請求人の利益のみを追求するためのものではなく,需要者利益の保護の観点に照らして,外食産業界の全体を消費者の立場で捉えてのものである。
3 平成25年12月27日付 上申書
(1)「全国共通お食事券」という表示の出所識別機能についての主張についての補足
被請求人は,「全国共通お食事券」という表示について「サービスの抽象的な質」を示す表示として認識している。これを特許庁でとられている商品・役務の識別性の判断に照らしてみるならば,それ自体で,「生来的な自他商品・役務識別機能」「出所識別機能」が備わっているという結論にいたらければならないはずであり,このような被請求人の主張こそが,「全国共通お食事券」という表示についての「識別性を肯定」する主張に他ならない。(2)「全国共通お食事券」の表示に対する特許庁審判部の認識
被請求人は,被請求人所有の「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」という登録商標に対してなされた異議申立事件における維持決定を指摘している(甲41)。
しかし,この異議決定は,「全国共通お食事券」という文字は,「役務の質」を表示するものと認識されるものではなく,「役務の質」に該当しない以上,「役務の質の誤認」という事態が生ずることはないことを示しているのである。審判部において,行政処分に求められる信頼の原則に照らして判断したときには,異議決定における判断を無視できないはずであり,さらには,被請求人もいうように,「全国共通お食事券」の字義からは,「サービスの抽象的な質」しか看取されないということであれば,請求人における当該表示と相俟って,「全国共通お食事券」という表示(引用商標)については,「自他商品・役務識別機能」「出所表示機能」が備わっているという結論にならざるを得ない。
(3)不正使用取消審判における被請求人の主張について
請求人は,被請求人が所有する「ぐるなびギフトカード」のロゴ態様の登録商標に対して不正使用取消審判(取消2013-300519)を請求しているが,この取消審判での答弁書における主張は,被請求人が「全国共通お食事券」の表示を使用することについての認識が顕著に表れているので,この答弁書を書証として提出する(甲79)。
(4)書証の追加について
平成25年10月9日付けの抗議文(甲80の1ないし7)のほか,被請求人発行のグルメカードの広告がなされていた事実を示す書証を提出する(甲81ないし83)。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第15号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)本審判請求に至る経緯(特許庁における引用商標の拒絶査定及び本件商標の登録維持決定,並びに東京地裁における差止仮処分申立の取下げ等)
本審判請求における請求人の主張は,いずれも既に特許庁において実質的に否定され,かつ裁判所においても取り下げられた主張の単なる蒸し返しにすぎない(乙1?5)。
(2)被請求人について
被請求人は,日本最大級の飲食店情報検索サイト「ぐるなび」(以下「被請求人サイト」という。http://www.gnavi.co.jp/)の運営をその主たる事業とする,東証一部上場企業であり,その売上高は連結で約243億円(平成24年3月期)に達し(乙6・2頁),平成24年3月31日時点における被請求人サイトの総掲載店舗数は約50万店(乙6・5頁),同年末日時点における同総加盟店舗数は約11万5000店,月間アクセス数は約9.3億ページビュー,平成25年1月1日時点における会員数は約1004万人という巨大なウェブサイトに成長している(いずれも乙7・3頁)。
このため,被請求人商号及びその主たる事業において使用されている「ぐるなび」は,日本全国にわたり,極めて高い知名度を誇っている。
(3)本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない
請求人は,本件商標が,請求人が使用する「全国共通お食事券」なる表示との関係で,「混同を生ずるおそれがある商標」に該当するなどと主張する(審判請求書3頁以下)。
しかし,以下に述べるとおり,本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれはないから,請求人の主張には理由がない。
ア 「全国共通お食事券」は,請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識ではない
請求人は,本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるという主張の前提として,「全国共通お食事券」という表示が,それ単独で請求人の業務に係る商品の識別標識としての機能を有し,かつ周知著名である旨主張する。
しかし,「全国共通お食事券」のみが,それ単独で請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有することはなく,これが周知著名であるはずもない(乙1,2)。
(ア)「全国共通お食事券」のみが,それ単独で請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有するという請求人の主張は,特許庁における商標登録出願手続において,既に否定されている。
(イ)「全国共通お食事券」という表示には,サービスの抽象的な質等を普通に用いられる方法で表示することを超えて,自他識別機能又は出所表示機能が備わることはない。
(ウ)実際に,「全国共通●●券」という同一の表現を,複数の事業者が用いている事例も存在しており,単一事業者により独占的には使用されていない。
また,ごく一例を挙げるだけでも,複数の異なる事業者が「全国共通ギフトカード」という同一の名称を同時に使用している実態も存在している(乙8)。
よって,需要者は,「全国共通お食事券」という表現についても同様に,これが単一の事業者の出所を示す表現であるとは考えないのであって,これに自他識別機能又は出所表示機能が備わることはない。
(エ)「全国共通お食事券」が自他識別機能及び出所表示機能を備えていないことは,請求人商品の券面からも明らかである。
請求人による「全国共通お食事券」の表示態様をみると,これを単独で使用するのではなく,むしろ「ジェフグルメカード」等の文字と併せて表記してきたことが窺われる(甲17)。
(オ)請求人の会社案内等においても,請求人商品は「ジェフグルメカード」として紹介されるに留まり,「全国共通お食事券」という表現すら使用していなかった。
請求人は,平成4年11月ころに製作された自身の会社案内を証拠として提出している(甲3)。しかし,この会社案内には,請求人が請求人商品の「商品等表示」として主張しているはずの,「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」及び「全国共通お食事券」の表現は一切存在していない。請求人はむしろ,請求人商品を終始「ジェフグルメカード」単独で表記している。このことは,請求人が,請求人商品の名称のうち自他識別機能又は出所表示機能を備えている部分が「ジェフグルメカード」の部分のみであることを自認していたことを意味する。
また,請求人商品の販売開始のころの各種資料(いずれも請求人の提出にかかるものである。)も,請求人商品が「全国共通お食事券」ではなく「ジェフグルメカード」の表示によって需要者に識別されるという被請求人の主張を裏付けるものである(甲4?11)。
さらに,現在の請求人のウェブサイト(http://www.jfcard.co.jp/index.html)を参照すると,そのトップページを見ただけでも,請求人商品を「ジェフグルメカード」とのみ表記する箇所が散見される(乙9の1)。
のみならず,同ページに設定されているページタイトル自体も「全国35,000店舗で使える便利な食事券 ジェフグルメカード」とされている。また,同ウェブサイト中の「住宅エコポイント交換申請に関するQ&A」ページにおいては,「『全国共通お食事券』との事ですが,どのくらいの店舗で使えるのですか?」との質問を自ら置いているが(乙9の2),これはまさに,請求人が「全国共通お食事券」の表現が単なる説明的記載にすぎないことを自認するものである。
このほか,請求人が請求人商品の販売の際に用いている子袋も,その封印シールも含めて「ジェフグルメカード」としか表示していない(乙10)。
上記の諸点によれば,請求人が,その当初から現在に至るまで,「全国共通お食事券」を自己の商品の自他識別表示として用いていないことは自明である。
(カ)請求人による広告宣伝においても,請求人商品は「ジェフグルメカード」,「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」又は「全国共通お食事券 ジェフグルメカード」と表示されており,「全国共通お食事券」単体での表示はなされていない(甲12の1?4,甲13の1?6,甲18の2,4,5)。
(キ)請求人の提出に係る調査結果報告書等も,「全国共通お食事券」が単独では識別標識として機能していないという被請求人の主張を裏付ける。
請求人がその根拠として示す証拠はいずれも,「全国共通お食事券」が請求人商品の表示として周知著名であることを示していない。むしろ,以下のとおり,却って「全国共通お食事券」が単独では識別標識として機能していないという被請求人の主張を裏付けている。
A 請求人はまず,請求人商品のブランド認知度が,平成10年7月の時点で47.9%に達したこと等を主張する(審判請求書8?9頁)。
しかし,請求人の提出に係る調査結果報告書(甲14)の集計対象はわずか1,000通にすぎない。
また,当該調査は,甲第22号証の1頁目に記載されているとおり,1998年6月18日(土)付日本経済新聞夕刊に掲載された「ギフト券特集」に応募があったハガキから集計された結果であるところ(乙8),ここには,当該広告企画に参加した広告主のギフト券(9種類)だけが限定的に掲載されている。そして,アンケートの方法は,新聞読者に対し,抽選でギフト券がもらえることを誘引として,「この紙面に掲載されたギフト券」(当該広告企画に参加して広告料を支払った企業又は団体のギフト券のみ)から,知っているギフト券,もらいたいギフト券を挙げるよう求めるものである(問4を参照)。そのため,このアンケートでは,広告料を支払った企業又は団体のギフト券のみ(9種類)が選択肢として示されており,それ以外のギフト券との関係で公平なアンケートが行なわれたということはできない。また,このアンケートの結果として作成された調査結果報告書は,日本経済新聞の夕刊の読者であって,もともとギフト券に興味を有していて,アンケートに応募する労を厭わない性質の応募者に限定した傾向が示されているにとどまり,一般的な需要者の傾向を示すものではない。このように,当該調査結果報告書の内容は,請求人商品の一般需要者からの認知度を表すものとしては,到底信用に足りないものである。
さらに,同報告書の内容をみても,請求人が指摘する「ギフト券ブランド認知度」及び「第一希望プレゼント」の項目において,請求人商品は単に「ジェフグルメカード」として表示されているにとどまっており,「全国共通お食事券」という表示は一切存在していない。このことは,請求人商品はせいぜい「ジェフグルメカード」として認知されているにとどまり,「全国共通お食事券」が単独では識別標識として機能していない,という被請求人の主張をむしろ裏付けている。
のみならず,ギフト券の認知度に関する他のアンケート結果を参照すると,そもそも「知っているギフトカード」や「使用したことのあるギフトカード」として請求人商品がランクインすらしていないアンケート結果も存在している(乙11)。そのため,請求人の提出に係る調査結果報告書を,請求人商品の認知度が高いことの根拠とすることはできない。
B 請求人は,請求人商品がエコポイントとの交換商品として選定された事実を指摘する(審判請求書9頁)。
しかし,この点は,「全国共通お食事券」が周知であることを何ら基礎付けない。すなわち,その選定は商品の認知度に基づき行なわれたわけではないし,交換できる商品数は200点以上にのぼるから,そのうちの1つに選定されたことをもって認知度を獲得したということもできないからである。
また,請求人の提出に係る一覧(甲15)中の表示は「ジェフグルメカード(全国共通お食事券)」であって,「(全国共通お食事券)」の部分は明らかに「ジェフグルメカード」の従たるものとして説明的に付加された記載にすぎない。そして,他の商品にはわざわざ「全国共通おこめ券」「全国共有たまごギフト券」「全国共通すし券」と単独で表記されていることと比較すれば,この点は,識別標識として機能しているのはむしろ「ジェフグルメカード」の部分であって「(全国共通お食事券)」の部分ではない,という被請求人の主張をむしろ裏付けている。
C 請求人は,このほか,請求人商品がキャンペーンの商品として選定された事実を指摘する(審判請求書9頁)。
しかし,このようなキャンペーンは無数に存在するのであるところ,そのうち1つの商品として選定された事実が,被請求人商品が「依然として高い認知度を得,人気を博している」ことの根拠となるのかは不明である。
以上のように,請求人の主張に係る事実は,「全国共通お食事券」が請求人商品を指すものとして周知著名であることを何ら基礎付けず,むしろ,これ単独では識別表示として機能していない,という被請求人の主張をむしろ積極的に裏付けるものである。
(ク)小括
以上のとおりであるから,「全国共通お食事券」は自他識別機能又は出所表示機能を備えておらず,請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有することはない。
そのため,本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがないことは明らかである。
イ 本件商標のうち,識別性を有する部分は「ぐるなびギフトカード」であるし,被請求人商品の表示と比較しても,請求人商品の表示との間で混同を生じる余地はない
本件商標は,「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」の標準文字からなるものである。請求人はこれに対し,請求人商品の表示が「全国共通お食事券」であることを前提として,本件商標が,「ぐるなびギフトカード」の文字の有無に拘らず,出所の混同を生ずるおそれがあると主張する(審判請求書13頁)。
このうち,「全国共通お食事券」が,それ単独で請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有しないことは前記のとおりである。
また,本件商標のうち,識別性を有している部分はあくまで「ぐるなびギフトカード」であって,「全国共通お食事券」は単にサービスの質等を普通に用いられる方法で記述的に説明する部分にすぎない。この点は,前記のとおり,請求人による商標登録出願に対する特許庁の判断においても明確に指摘されているとおりである(乙2)。そのため,本件商標のうちの一部に「全国共通お食事券」が含まれていても,請求人商品の表示と同一又は類似の表示を使用していることにはならず,出所の混同は生じない。
ウ 本件商標の使用実態に鑑みても,本件商標の使用により「混同」を生ずるおそれはない
(ア)請求人商品と被請求人商品のコンセプトは大きく異なり,また,その結果として,重複する加盟店舗は著しく少ない
被請求人商品と請求人商品は根本的にコンセプトが異なっている(乙13?15(枝番を含む。))。
すなわち,請求人商品は特定の大規模なチェーン店での利用を基本方針としているのに対し,被請求人商品のコンセプトは,プレミアムな高級店から個性的な個人経営店に至るまでバラエテイ豊かな飲食店で利用できることにあり,ユーザーに対し,利用可能店舗をチェーンのブランド名で訴求するのではなく,むしろ「ぐるなび」の強みである検索機能等を通じてユーザーの好みで選べる形にしている。このように,被請求人商品は,そもそもの商品企画において請求人商品とは完全に差別化した商品なのである。
(イ)請求人商品と被請求人商品とが混同されている実態はない
被請求人においては,被請求人商品の加盟店において,請求人商品を被請求人商品と取り違えて受領されたような事例はこれまで一切報告されていないし,そのような混同について苦情がなされたこともない。請求人は,「店員が被請求人会社のギフトカードを周知著名な請求人会社のギフトカードであると誤解している事例や500円券のみしか発行していない請求人会社のギフトカードと4種類の券種からなる被請求人会社のギフトカードとを混同している事例も発生している。」などと主張するが(審判請求書15頁),その証拠は,何ら提出されていない。
需要者は専ら,請求人商品を「ジェフグルメカード」,被請求人商品を「ぐるなびギフトカード」という表示により識別するのであって,需要者が「全国共通お食事券」のキーワード検索を行うことがあるとしても,何らの混同も発生しないのである。
エ 小括
以上のとおり,本件商標の使用によっても,請求人商品との間に「混同」のおそれが生じないことは明らかであるから,本件商標は,請求人が使用する「全国共通お食事券」なる表示との関係で「混同を生ずるおそれがある商標」,すなわち商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない
請求人の主張(審判請求書15?16頁)は,「全国共通お食事券」という表示が,請求人商品を示す周知著名な商標であることを前提とするものである。
しかし,「全国共通お食事券」という表示が,それ単独で請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有することはなく,また,当該表示が請求人商品を示すものとして周知著名でないことは前記のとおりであるから,そもそも「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」に該当せず,請求人の主張には何ら理由がない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(5)本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しない
請求人は,被請求人による本件商標の採択及び登録の取得が「不正の目的」の下になされたものであるなどと主張する(審判請求書17頁以下)。
しかし,以下に述べるとおり,請求人の主張には何ら理由がない。
ア 本件商標は「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」でない
本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するためには,まず,当該商標が「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」であることを要する。しかし,本件商標がこれに該当しないことは,既に述べた点から明らかである。
すなわち,まず,「全国共通お食事券」の表示が,それ単独では自他識別機能又は出所表示機能を備えておらず,請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有しないことは,前記のとおりである。
また,そうであれば,「全国共通お食事券」が,それ単独で請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして広く認識されているともいえない。
そのため,本件商標は「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」に該当しない。
イ 本件商標は「不正の目的」をもって使用するものではない
被請求人は,被請求人商品の加盟店舗数を平成27年3月までに5万店舗とすることを目指しており(乙13),全国規模で利用可能な食事券であることをわかりやすく伝えるための名称として,「全国共通お食事券」という説明的記述を含む本件商標を被請求人商品の名称として選択したのである。次に請求人は,被請求人が「全国共通お食事券」について商標出願しなかった事実を指摘するが(審判請求書25頁),被請求人は,当該標章は単独では普通名称にすぎないと考えたため,その出願をしなかったというだけである。このことは,特許庁による引用商標の前記拒絶査定においても,全体として「全国共通の取扱店で利用できるお食事券」ほどの意味合いを容易に理解,認識させるにすぎず,これに接する取引者,需要者は,単に役務の質を表示したものと理解するにとどまり,自他役務の識別標識としては認識し得ないものである(乙2)と正しく判示されているとおりであり,被請求人が当該出願を行わなかったことは,極めて常識的な判断といえる。
よって,被請求人が本件商標を登録した経緯によっても,本件商標は「不正の目的」をもって使用するものではなく,請求人の主張には理由がない。
ウ 小括
以上のとおり,本件商標は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」ではなく,「不正の目的」をもって使用するものでもないから,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(6)本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当しない
ア 請求人の主張は,既に特許庁において否定されている
請求人は,本件商標が,その構成要素の一部に含まれる「全国共通お食事券」の文字との関係で,「役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するなどと主張する(審判請求書16?17頁)。
しかし,本件商標について,請求人代理人弁理士と同一の事務所に所属する弁理士が商標法4条1項16号等を根拠に異議を申立てた事件において,特許庁が品質等誤認のおそれはないとして被請求人の商標登録を維持する旨の決定を下していることは,前記のとおりである(甲41)。このように,当該主張は,請求人による蒸し返しに他ならない。
イ 請求人が主張する「全国共通」の具体的意味内容は,請求人独自の偏狭な解釈にすぎない
請求人が主張する要素のうち,とりわけ「いつでも」や「何にでも」といった点が,「全国共通」という表現とは全く無関係かつ別次元の問題であることは明らかである。また,請求人は「どこでも」に関して,平成25年2月19日の時点の加盟店舗数が前記のとおり約1万4000店舗に達しており,かつ加盟店の分布も全都道府県に及んでいる被請求人商品が(乙15の2),「全国での使用という実態を伴っていない」などと論難するが,請求人自身が遅くとも,請求人商品の加盟店舗が1万950店舗であった平成6年当時において,既に「全国共通お食事券」という表示を用いていたこと(甲5・122頁)と,自己矛盾を来している。
ウ 小括
以上のとおりであるから,本件商標は「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」ではなく,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(7)本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当しない
請求人は,本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し,具体的には「その出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を詰めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない」ものであるなどと主張する(審判請求書27?29頁)。
しかし,本件商標が商標法第4条第1項第15号,第10号,第19号,第16号のいずれにも該当しないことは既に明らかにしたとおりであり,その他の点においても「出願の経緯に社会的相当性を欠く」ような事情は一切存在しない。同第7号に基づく請求人の主張も,既に特許庁の先行判断(甲41)において否定されている。
請求人は,「出願の経緯に社会的相当性を欠く」ことの根拠として,「各業界とも,『全国共通●●券』という名称を使用する場合には業界秩序を優先し,節度をもって対応してきている事実」があるなどと主張するが(審判請求書28頁),当該「事実」の根拠は何ら提示されていない。
請求人主張は要するに,「全国共通お食事券」のように,それ自体識別性のない表示であっても,ある業界でギフトカード発行者として先行する者が,その使用を独占すべきだというものであるが,このような帰結こそ,先行する事業者に法によらない独占権を与え,却って公正な競争を阻害するものであるというべきである。
よって,本件商標は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」ではなく,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(8)結論
以上のとおりであるから,本件商標には請求人が主張するような無効理由は一切存在せず,よって請求には何ら理由がない。

第5 当審の判断
1 「全国共通お食事券」の語の自他役務の識別機能について
請求人は,「引用商標に係る『全国共通お食事券』という名称は,今日は勿論のこと,本件商標の出願時において既に請求人会社の業務(前払式証票の発行)に係る商標として広く認識されるに至っている。」と主張している(審判請求書「商標法第4条第1項第15号について」の「エ」(12頁))。
これに対して,被請求人は,「全国共通お食事券」の語は,自他役務の識別機能又は出所表示機能を備えていない旨主張している(被請求人の答弁中の「1(3)」(5頁)における,「『全国共通お食事券』のみが,それ単独で請求人の業務に係る商品又は役務の識別標識としての機能を有することはなく,これが周知著名であるはずもない」との主張,ほか主張の趣旨。)。
そこで,まず,本件商標が,請求人主張の条項に違反して登録されたものであるか否かを判断するに当たって,引用商標であり,かつ,本件商標の構成中の語でもある「全国共通お食事券」の語が,自他役務の識別機能を有するものであるか否かについて検討する。
(1)「全国共通お食事券」の語について
「全国共通お食事券」の語を構成する「全国共通」の語は,「我が国内どれにも(どこでも)通じる」ほどの意味を有し,「お食事券」の語は,「食事の提供を受けることができる券」を丁寧語で表したものであるから,「全国共通お食事券」の語は,「我が国内のどこでも食事の提供を受けることができる券」ほどの意味を有する語というべきものである。
この点に関して,「全国共通・・・券(カード)」の語について,インターネット検索をしたところによれば,「全国共通ギフト券」(近畿日本ツーリスト取扱い http://www.knt.co.jp/kanren/gift/),「全国共通おこめ券」(全国米穀販売事業共済協同組合取扱い http://www.zenbeihan.com/okomeken/about/),「全国共通ゆうえんち券」(文化放送開発センター取扱い http://joqr-bkc.ecsv.jp/front/bin/home.phtml),「全国共通たまごギフト券」(全国たまご商業協同組合取扱い http://www.tamagoken.or.jp/),「全国共通すし券」(全国すし商生活衛生同業組合連合会取扱い http://www.sushi-all-japan.or.jp/),「全国百貨店共通商品券」(日本百貨店協会取扱い http://www.depart.or.jp/common_item_ticket/show),「全国共通フラワーギフトカード」(イーフローラ&日比谷花壇取扱い http://www.flowergiftcard.jp/)との名称で,それぞれの証票に表示されている商品ないし役務を対象とする各種証票が発行されていることが認められるところである。
(2)判断
以上によれば,本件「全国共通お食事券」の語に接する,取引者,需要者は,ここから,「我が国内のどこでも食事の提供を受けることができる券」であることを認識するとしても,これが自他役務を識別する標識としての商標を表示したものとは認識しないというのが相当である(なお,この点,参考ではあるが,前記(1)のインターネット検索による各証票に用いられている語は,現時点において,その語のみで商標登録されているものはない。また,前記とは別に,「全国共通図書券」の語が,第36類「図書の前払式証票の発行」を指定役務として商標登録されているが,これは,商標法第3条第2項が適用されて登録されたものである。)。
そして,甲各号証及び乙各号証並びに請求及び答弁の全趣旨によれば,本件における「全国共通お食事券」の語が使用されている役務は,「加盟契約をしている全国の飲食店において食事の提供を受けることができる前払式証票の発行」(以下「本件役務」という。)ということができるものである(なお,本件役務は,本件商標の指定役務である,第36類「食事券の発行」に含まれるといえるものである。)。
そうすると,「全国共通お食事券」の語は,加盟契約をしている全国の飲食店における飲食物の提供役務の代金の支払に充当することができる前払式証票としての食事券であること,すなわち,そのような価値を有する前払式証票を発行するという,本件役務の質を記述的に表示した語であるというのが相当である。
したがって,「全国共通お食事券」の語は,本件役務との関係で,自他役務の識別機能を果たし得ない語というべきである。それゆえ,本件商標の構成中の「全国共通お食事券」の語についても,被請求人が主張するように,自他役務を識別する機能を果たし得ないものである。
2 「全国共通お食事券」の語の使用による識別力の獲得について
以上,「全国共通お食事券」の語は,本件役務との関係で,自他役務の識別機能を果たし得ないというべきであって,この語を,請求人が最初に採択使用したからといって,特段の事情がない限り,他者による商標登録を阻却する理由にはならないものである。
ただし,「全国共通お食事券」の語が使用された結果,請求人の取扱いに係る本件役務を表すものとして一般に広く認識されているなどの事情が認められるのであれば,本件商標が,商標法第4条第1項第15号や同10号等に違反して登録されたといえることもあり得るので,以下,この点について検討する。
(1)請求人が提出した甲各号証によれば,以下のことが指摘できる。
ア 請求人は,平成4年8月21日に設立された,ギフト券(商品券・プリペイドカード)の発行事業等を行う会社であること(甲2)。
イ 請求人設立当初のものと推測される,請求人会社の会社案内(写し)には,全国12,000の店舗で利用できる食事券を「ジェフグルメカード」として紹介していること(甲3)。なお,ここでは「全国共通お食事券」との語が使用されていることは確認できない。
ウ 請求人が,平成6年8月当時のものと主張する(審判請求書30頁「7.(5)」),請求人会社のリーフレット(写し)には,表紙に,「全国共通お食事券」の表示が「ジェフグルメカード」の語とともに二段書きで表示され,「全国共通お食事券ジェフグルメカードは 北海道から沖縄まで,自由に楽しくご利用いただけます。」,「全国共通お食事券『ジェフグルメカード』は,外食産業最大のお食事券です。」との記載がされていること(甲4)。
エ 平成6年12月に発行された「外食の未来を見つめて」「外食産業とJFの20年」との出版物(写し)には,請求人による食事券発行についての経緯が記載され,「1992年(平成3年(合議体注記:これは,平成4年の誤記と認められる。))12月1日,(株)ジェフグルメカードを発行母体とする全国共通お食事券『ジェフグルメカード』(500円券)の発行が開始された。」との記載があること(同出版物122頁),同日の「日本経済新聞」には「『ジェフグルメカード』12月1日,新発売。」との告知広告が掲載されたこと,そして,この新聞では,「全国共通お食事券」の語は使用されていることが確認できないこと(中段部,下段部の文字は,不鮮明であり判読できない。)(同出版物124頁),同出版物の同頁及び125頁に掲載されている「ジェフグルメカード」との食事券には「全国共通お食事券」の語は使用されていないこと(甲5)。なお,同出版物124頁の下段に示された,店頭ステッカーの左側のものには「全国共通お食事券」の語が表示されているところ,ここには,「ジェフグルメカード」の語も表示されており,また,このステッカーがいつ作成され,いつから使用されたのかは,ここからは確認することはできない。
オ 請求人の現在の会社案内(写し)には,表紙に「全国共通お食事券」の語が使用されているところ,その下部にこれと併行して「ジェフグルメカード」の語が表示されていること。また,掲載されている食事券にも,「全国共通お食事券」の語が使用されているところ,その上部には,大きく,「ジェフグルメカード」の語が表示されていること(甲6)。
カ 甲第11号証は,平成4年7月24日に発行されたとする,全国一般紙の記事の切り抜きの写しであるところ,これによれば,「共通食事券の発行会社設立」との見出しのもと,「日本フードサービス協会は23日,全国のレストランやファストフード店で共通して使える食事券『ジェフグルメカード』を発行する株式会社,ジェフグルメカードを設立したと発表した。」との記事(読売新聞)が,「全国共通の食事券」との見出しのもと,「日本フードサービス協会は11月から,全国共通の食事券『ジェフグルメカード』を発行する。・・・ジェフグルメカードは『図書券』や『おこめ券』の飲食店版。」との記事(日本経済新聞)が,「全国の外食店共通の食事券」との見出しのもと,「全国の外食店で使える共通食事券を発行するため,日本フードサービス協会が23日,発行母体になる株式会社ジェフグルメカードを設立した。食事券は,『ジェフグルメカード』の名称で,・・・」との記事(毎日新聞)が掲載されたこと。上記と同旨の朝日新聞の報道記事があること。これらの新聞記事には,「全国共通お食事券」の語は使用されてはいないこと。
キ 甲第12号証(枝番を含む。)の,平成10年11月30日から同年12月23日の間に全国的に放映されたテレビ映像の,「『ジェフグルメカード』TVパブリシティ報告書」によれば,「全国共通お食事券をプレゼント」との画面表示がされていること(甲12の1),「ジェフグルメカード 全国共通お食事券 ¥20,000円プレゼント」との画面表示がされていること(甲12の2),「全国共通お食事券『ジェフグルメカード』10万円」との画面表示がされていること(甲12の3,4)。
ク 甲第13号証(枝番を含む。)は,表示が不鮮明ではあるが,新聞広告であって,「全国共通お食事券」の語が使用されていることが認められ,ここには同時に,「ジェフグルメカード」の語も併記されていること。
ケ 甲第14号証の「広告企画『ギフト券アンケート』調査結果報告書」には,「4.ギフト券ブランド認知度」として,請求人のギフト券のブランド名が「ジェフグルメカード」とされていること。なお,この点に関して,乙第8号証によれば,1998年(平成10年)6月18日付の「日本経済新聞(夕刊)」に,このアンケートが掲載されたところ,ここでは,請求人のギフト券について,「全国共通お食事券 ジェフグルメカード」と表示されているところ,この甲第14号証のアンケート結果には,「全国共通お食事券」の語は,ブランド認知度の対象語として表示されてはいないこと。
コ 甲第17号証の請求人の「ギフトカード」,甲第19号証の「加盟店用ステッカー」及び甲第20号証の「販売店用告知スタンド」には,「全国共通お食事券」の語が使用されていることが認められ,同時に,「ジェフグルメカード」の語も併記されていること。
また,甲第66号証の1ないし3及び甲第67号証の1ないし20の「1993年前期・後期,1994年前期」等の加盟店リストには,いずれも,「全国共通お食事券」と「ジェフグルメカード」が併記されて掲載されていること。
サ 甲第21号証の「2011年.11月現在」とする加盟店リスト及び甲第65号証の「JF MONTHLY OCTOBER 2012」によれば,請求人の本件ギフト券を使用できる加盟店は,全国で35,000店舗であること。
シ インターネットの検索サイトによる「全国共通お食事券」の語の検索によれば,請求人及び被請求人双方のグルメカードが検索されること(甲22)。
ス その他の甲各号証において,請求人の取扱いに係る本件役務を表すものとして,「全国共通お食事券」の語が単独で使用されていたと認め得る記載は確認できないこと。
(2)被請求人が提出した乙各号証によれば,以下のことが確認できる。
ア 乙第8号証は,甲第14号証のアンケートの応募用の紙面(広告)であり,ここには「全国共通お食事券 ジェフグルメカード」,「『ジェフグルメカード』は,全国の有名なファミリーレストラン,・・・,百貨店レストラン街など一万三千の加盟店で共通してご飲食が楽しめるお食事券です。・・・」との表示のもと,当該のアンケートが実施されたこと。
イ 請求人のウェブサイト(http://www.jfcard.co.jp/index.html)においては,「全国共通お食事券」の語は,「ジェフグルメカード」の語とともに表示されており,また,「全国35,000店舗で使える便利な食事券ジェフグルメカード」,「東日本復興支援ジェフグルメカード」,「携帯サイトでジェフグルメカードのご購入・加盟店検索ができるようになりました。」,「東京マンスリー21では,・・・ジェフグルメカードを最大10,000円分プレゼント・・・」,「ジェフグルメカードと季節のお花がセットになったギフト商品ができました。」との表示により,「ジェフグルメカード」の語が使用されていること(乙9の1)。
ウ 「ジェフグルメカード」の語によって,請求人のギフトカードの説明がされていること(乙9の2)。
エ 請求人が,請求人商品の販売の際に用いている子袋には,その封印シールも含めて「ジェフグルメカード」の語が表示されてはいるものの,「全国共通お食事券」の語は表示されていないこと(乙10)。
(3)判断
以上によれば,請求人は,「全国共通お食事券」の語を,1993年(平成5年)頃から使用をしてきていることが認められるものの,「全国共通お食事券」の語は,その使用開始当初から,本件役務を識別するための標識として使用されてきたということはできず,それゆえ,取引者,需要者もそのような認識をすることはないものと判断される。その理由は以下のとおりである。
ア 請求人は,他者に先駆けて,全国共通で使用することができる食事ギフト券を1992年12月1日に発行したといえるところ,発行当初の会社案内,発行当日の「日本経済新聞」における告知広告,発行当初の食事券の券面,平成4年7月24日に発行された,読売,日本経済,毎日,朝日の各新聞記事においては,「全国共通お食事券」の語は使用されはいないことから,請求人は,本件役務について,その提供開始時には,「全国共通お食事券」の語を使用してはいなかったといえること(甲3,5,11)。
イ 乙第8号証及び甲第14号証によれば,請求人及び被請求人とは利害関係がない第三者である「日本経済新聞社」は,同各号証の記事を掲載し,アンケート調査を行うに当たり,「全国共通お食事券」の語を請求人のブランド(自他役務の識別標識)とは認識してはおらず,「ジェフグルメカード」の語を請求人のブランドとして認識し,標記していたといえること。
ウ 証拠上,請求人が「全国共通お食事券」の語を本件役務との関係で使用したことを確認することができるのは,(a)平成6年8月頃に発行されたとする甲第4号証のリーフレット,(b)平成6年12月に発行された甲第5号証の出版物の122頁2行目の記載,(c)同出版物124頁における下段の「店頭ステッカー」(ただし,その掲載日は確認できない。),(d)甲第6号証の請求人の現在の会社案内,(e)「『ジェフグルメカード』TVパブリシティ報告書」に示された,テレビの放映画面(甲12の1?4),(f)甲第13号証の1ないし6の新聞広告,(g)甲第15号証のカタログ,(h)甲第16号証のチラシ,(i)甲第17号証のギフトカード,(j)甲第19号証の加盟店用のステッカー,(k)甲第20号証の加盟店用告知スタンド及び(l)甲第21号証,甲第66号証の1ないし3及び甲第67号証の1ないし20の加盟店リストにおいてである。
しかしながら,上記の,(a)には,「ジェフグルメカード」の語が併記され,また,「全国共通お食事券ジェフグルメカードは 北海道から沖縄まで,自由に楽しくご利用いただけます。」,「全国共通お食事券『ジェフグルメカード』は,外食産業最大のお食事券です。」との表示がされ,ここにおける「全国共通お食事券」の語は,「ジェフグルメカード」の内容を説明する記述的な表示として使用されているというのが相当である。
同じく,(b)には,「1992年(平成3年)12月1日,(株)ジェフグルメカードを発行母体とする全国共通お食事券『ジェフグルメカード』(500円券)の発行が開始された。」と記載されており,ここにおける「全国共通お食事券」の語は,それに続く「ジェフグルメカード」の内容を説明する記述的な表示として使用されているというべきである。
(c)及び(d)は,「全国共通お食事券」の語とともに,「ジェフグルメカード」の語が併記されており,「全国共通お食事券」の語が単独で,自他役務を識別するための表示として使用されているとは認められない表示方法のものである。
(e)における,甲第12号証の1の画面の「全国共通お食事券をプレゼント」の表示は,全体としてプレゼントの内容を説明した表示にすぎず,また,甲第12号証の2ないし4には「ジェフグルメカード」の語が併用されており,ここにおける「全国共通お食事券」の表示も,記述的,説明的な表示であって,自他役務を識別するものとして表示されているとすることはできないものである。
また,(f)の甲第13号証(枝番を含む)においても,「ジェフグルメカード」の語が併記されており,「全国共通お食事券」の語が単独で,自他役務を識別するための表示として使用されているということはできない。
さらに,上記(g)ないし(l)における「全国共通お食事券」の表示も,「ジェフグルメカード」の語と併記されているものであり,ここにおける「全国共通お食事券」の表示も,記述的,説明的な表示であって,自他役務を識別するものとして表示されているとすることはできないものである。
この点について,請求人は,「請求人会社にあっては,自らの追求すべき理念を端的に体現した『全国共通お食事券』という名称について,ギフトカードの発行者として,テレビ,新聞広告,各店舗における広告等,多様な媒体を介して,その名称の周知化を図ってきた。」と主張している。
しかしながら,前記「1(2)」で判断したように,甲各号証における「全国共通お食事券」の語は,自他役務を識別するものとして表示されているものではなく,「全国共通の取扱店で利用することができる食事券」ほどの意味合いを認識させる,役務の質ないし内容を説明する記述的な表示であって,自他役務を識別する部分は,同時に表示されている「ジェフグルメカード」の部分にあるとみるのが相当である。
また,請求人は,「請求人会社の『ジェフグルメカード』認知度(甲14)は『全国共通お食事券』の認知度そのものであると考えられて然るべきものである。」と主張しているが,上記したように,甲第14号証における,ギフト券アンケートの請求人ブランドは,「ジェフグルメカード」であって,「全国共通お食事券」ということはできないから,上記請求人の主張は主観的見解であり,失当である。
(4)小括
以上のとおり,「全国共通お食事券」の語は,本件役務との関係で,自他役務の識別機能を果たし得ないものであって,この語を,請求人が使用したことにより,これが,請求人の取扱いに係る本件役務を表すものとして一般に広く認識されているとの事情は認められないものである。
3 商標法第4条第1項第15号違反について
(1)「全国共通お食事券」の語が,我が国において使用された結果,これが,請求人の取扱いに係る本件役務を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び査定時において,取引者,需要者の間において著名となっていたと認めることはできないことは,前記したとおりであり,被請求人が,本件商標をその指定役務に使用しても,これに接する取引者,需要者が,その出所が請求人のものであると誤認し,その出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
(2)請求人の主張について
請求人は,「『全国共通●●券』なるものは,各業界において特定かつ単一の発行主体により発行されているとみるのが通常であり,『全国共通●●券』となれば,各業界において特定かつ単一の発行主体しかないものと需要者・取引者も当然に認識すると考えられるところである。」から,「本件商標は請求人会社の周知著名な引用商標『全国共通お食事券』と出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。」旨主張している。
しかしながら,「全国共通●●券」との前払式証票が,単一の発行主体(事業者)による管理のもとで発行されていることがあるとしても,その種証票の名称は,商品・役務の内容や質を表示するものとして商取引において必要な表示であり,一般に使用されている語であるから,請求人の主張するような,上記取引の実情があるとしても,当該証票の名称が特定の者の取扱いに係るものとして広く知られているのであれば格別,請求人が主張するような取引の実情の存在のみをもって,これと類似する名称の,他者による証票が,当該発行主体(事業者)により発行されている証票と混同を生ずるということはできないものである。
また,請求人は,「全国共通お食事券」に関する取引の実態として,請求人が注意喚起の文書を送付するなどの対処をしているにもかかわらず,請求人のグルメカードの加盟社の店舗において,請求人の「グルメカード」と被請求人の「ギフトカード」との間で取り違えの事態が発生していると主張し,取り違えが生じたとする業務報告書(甲45?52,54?58),請求人作成の被請求人宛の抗議文とその証明書(甲60の1から14,80の4?7)等を提出している。
しかしながら,その主張の根拠とするところは,「全国共通お食事券」の語に着目した主張であって,「全国共通お食事券」の語が請求人の出所識別標識として機能していることを前提とするものである。
前記のとおり,「全国共通お食事券」の語は,自他役務の識別機能を有しないものであって,主張自体失当である。
また,請求人がたとえ加盟店に注意文を送付して注意喚起を図る等の対応をしていたとしも,これらの取り違いは,従業員の錯誤から生じたものであって,使用者の監督が不十分であったことに起因するものといわざるを得ない。
よって,これらの点についての請求人の主張は採用することはできない。
(3)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたということはできない。
4 商標法第4条第1項第10号違反について
この点についても,前記「2(4)」で判断したとおりであり,「全国共通お食事券」の語が,請求人の取扱いに係る本件役務を表すものとして一般に広く認識されているということはできないから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたということはできない。
5 商標法第4条第1項第16号違反について
請求人は,本件商標が,商標法第4条第1項第16号に違反する理由として,「外食産業の分野において請求人会社によって既に確立されている『いつでも,どこでも,何にでも』使用できるというグルメカードの『役務の質の誤認』を生じさせる」と主張している。
しかしながら,「食事券の発行」という役務の質には,請求人がいうような,「いつでも,どこでも,何にでも」使用できるという質が必須の条件であるとすべき理由はなく,かえって,使用できる店舗が加盟店に限定されていることは当然のことであり,請求人においても,「ジェフグルメカード 加盟店」(甲19),「全国共通お食事券 ジェフグルメカード このステッカーの貼ってあるお店でご利用いただけます。」(甲21)と表示していることから,上記の請求人の主張は,矛盾するものであって,失当というべきである。
したがって,本件商標は,これを指定役務に使用しても,役務の質の誤認を生じさせるということはできない。
また,請求人は,「仮に本件商標の設定登録時にそのような違反はないとしても,その後に第4条第1項第16号の規定に違反するものとなっていることから,その登録は無効にされるべきものである。」とも主張している。
しかしながら,請求人は,この点の理由を述べず,証拠も提出していない。仮に,その主張が,上記の,「いつでも,どこでも,何にでも使用できるというグルメカードの役務の質」をいうのであれば,上記した理由により,それは失当というべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたということはできない。
6 商標法第4条第1項第19号違反について
(1)商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」について,その登録を認めないとしているところ,「全国共通お食事券」の語が,自他役務の識別機能を有しないこと,及び,この語が請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者間に広く認識されているということができないことは,前記したとおりであって,本件商標は,そもそも本号の該当要件を備えていないものである。
(2)請求人の主張について
請求人は,「被請求人会社の『ギフトカード』は,そもそも3年間の有効期限が設定されており,同一ブランドの店舗でも取扱店と非取扱店とが混在しているという状況もあり,・・・このような状況を容認し,請求人会社の発行する『全国共通お食事券』というグルメカードに対する認識が,被請求人会社のそれのように需要者に認識されることは,明らかに請求人会社のギフト券としての価値を低下させるものであり,請求人会社が積み上げてきた営業上の信用が減殺され,希釈化される状況にあることも明らかであるから,被請求人会社の本件商標は,『不正の目的をもって使用する』に当たるものである。」と主張している。
しかしながら,被請求人の役務「食事券の発行」の内容が,請求人のそれと異なっているからといって,そのことをもって「不正の目的をもって使用する」とすることは,請求人独自の見解であって,これを採用することはできない。
また,請求人は,甲第29号証ないし甲第42号証(枝番を含む。)をもって,「被請求人は請求人会社が20年の年月をかけて築き上げた『全国共通お食事券』(引用商標)に化体した信用にただ乗りしてこれを利用し,その反面,請求人会社のそれに化体した信用を減殺させる意図の下,即ち,『不正の目的』の下,本件商標を採択したことは明らかと言うべきである。」と主張している。
しかしながら,甲各号証を総合してみれば,請求人の「ジェフグルメカード」の語には請求人の信用が化体されているといえるとしても,「全国共通お食事券」の語は,既述のように自他役務の識別機能を果たし得ない語であって,この語に請求人の信用が化体しているということもできないから,本件商標の採択が,請求人の信用を減殺させる意図を有していたということはできないものである。
さらに,「被請求人は,『全国共通お食事券』という名称それ自体及び『全国共通お食事券』の文字を含む名称が商標登録されていないことを奇貨として,『不正の目的』の下,本件商標を採択した」と主張している。
しかしながら,「全国共通お食事券」との商標が,本件商標の登録出願時に登録されていなかったことは事実の問題であり,本件商標は,これを奇貨として登録出願したとの主張は当たらないものである。
そして,請求人は,本件商標の登録出願前である,平成23年10月13日に,役務「前払式証票の発行」外について,商標「ジェフグルメカード 全国共通お食事券」を登録出願して,本件審判請求前である平成24年4月27日に商標登録を得ており,この自己の行為を置いて,被請求人の本件商標の登録出願行為について「不正の目的」との主張をすることは,当たらないものである。
(3)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたということはできない。
7 商標法第4条第1項第7号違反について
請求人は,「『全国共通お食事券』という名称それ自体及び『全国共通お食事券』の文字を含む名称が商標登録されていないことを奇貨として,『不正の目的』の目的を以て,請求人により採択された本件商標は,社会的相当性を欠くものであり,その登録を許すことは,健全な商品流通の維持を図らんことを目的とする商標法の趣旨に反する登録を容認することを意味するに他ならない。また,商標の使用をする者の業務上の信用の維持の観点,需要者利益の保護の観点に照らして許されるべきものではない」,「本件商標は,第4条第1項第7号に規程する『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』に該当するものであり,その登録は無効にされるべきものである。」と主張している。
この点,前段の主張は,前記した「商標法第4条第1項第19号違反」の主張の一つと同趣旨であり,本件商標の登録出願の経緯に不正の目的があったといえないこと前記のとおりであり,請求人の主張は採用することはできない。
次に,後段の主張についてみるに,登録出願された商標又は商標登録された商標が,商標法第4条第1項第7号に該当するものであるか否かについて判断するに際しては,以下の基準に則して判断するのが相当である。
すなわち,(a)当該商標の構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁 平成18年9月20日判決 平成17年(行ケ)第10349号)。
これを本件商標についてみると,請求人提出の証拠によっては,本件商標が,上記の(a)ないし(e)のいずれかに該当するというべき事情は見いだせず,かつ,他に本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる証拠はない。
そうとすれば,本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めることはできないといわなければならない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたということはできない。
8 その他の請求人の主張について
その他,請求人は,本件商標及び被請求人の所有する商標登録第5464311号に関し,登録後における被請求人によるこれら商標の使用態様が「不正使用」に当たる旨主張するが,これは商標法51条において判断すべきものであって,本件商標の無効理由に該当するものではない。
よって,この点に関する請求人の主張も採用することはできない。
9 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同第10号,同第16号,同第19号及び同第7号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-12-25 
結審通知日 2014-01-06 
審決日 2014-02-07 
出願番号 商願2011-48739(T2011-48739) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X36)
T 1 11・ 222- Y (X36)
T 1 11・ 272- Y (X36)
T 1 11・ 22- Y (X36)
T 1 11・ 25- Y (X36)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 健司 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 前山 るり子
渡邉 健司
登録日 2011-12-22 
登録番号 商標登録第5459425号(T5459425) 
商標の称呼 グルナビギフトカードゼンコクキョーツーオショクジケン、グルナビギフトカード、グルナビギフト、グルナビ、ギフトカード、ギフト、ゼンコクキョーツーオショクジケン 
代理人 上山 浩 
代理人 飯田 昭夫 
代理人 増田 雅史 
代理人 本宮 照久 
代理人 藤原 総一郎 
代理人 岡田 淳 

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