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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W0305
審判 全部無効 外観類似 無効としない W0305
管理番号 1298285 
審判番号 無効2014-890043 
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-29 
確定日 2015-02-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5660038号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5660038号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成25年11月14日に登録出願、第3類「化粧品,養毛料,せっけん類,コンディショナー」及び第5類「薬剤」を指定商品として、同26年3月5日に登録査定、同月28日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は、以下の2件の登録商標(以下、これら2件の登録商標をまとめて「引用商標」という。)である。
1 登録第5211525号商標
登録第5211525号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成20年7月4日に登録出願、第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」及び第5類「薬剤」を指定商品として、同21年3月6日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。
2 登録第5445959号商標
登録第5445959号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成23年5月23日に登録出願、第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,医療用腕環,失禁用おしめ,食餌療法用食品,食餌療法用飲料」を指定商品として、同年10月21日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第17号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の利益について
請求人は、引用商標を有し、当該引用商標を、その指定商品「薬剤」に含まれる「毛髪用剤」等について使用を継続して周知・著名となっているところ、本件商標は、引用商標と類似する後願の商標であり、また、その登録出願時及び登録査定時において請求人に係る商品「毛髪用剤」と出所の混同のおそれがあったものであり、その状態は現在も継続している。
したがって、請求人は本件商標の登録を無効とすることについて法律上の利益を有するものである。
2 商標法第4条第1項第11号の無効理由について
請求人は、引用商標の商標権者である(甲第2号証及び甲第3号証)であるところ、本件商標は、以下のとおり、引用商標と類似し、かつ、その指定商品も類似するものであり、しかも、引用商標の後願に係るものであるから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(1)指定商品の同一性・類似性
本件商標の指定商品である第3類「化粧品,せっけん類」は、引用商標1の指定商品に含まれており、本件商標の指定商品である第3類「養毛料,コンディショナー」は、引用商標1の指定商品「化粧品」に類似するものである。また、本件商標の指定商品である第5類「薬剤」は、引用商標の指定商品に含まれている。
(2)商標の類似性
ア 本件商標について
本件商標は、濃紺色に塗りつぶした縦長長方形図形の中心やや下寄りに、毛髪形状の図形を配置してなるものである。毛髪形状図形は、中央から右上方に向かって湾曲しゆるやかに伸びており、先端に向かって細まった形状である。当該毛髪形状図形は、全体的に青白く光り輝いている描写がされており、特にその毛根にあたる部分は、ハレーションを起こしたかのように光がほとばしっている。毛髪形状図形の周囲には、うっすらと風が渦巻いているような描写がされ、また、粉が舞っている。
イ 引用商標1について
引用商標1は、濃紺色に塗りつぶした縦長長方形図形の下寄りに、毛髪形状の図形を配置してなるものである。毛髪形状図形もまた、中央から右上方に向かって湾曲しゆるやかに伸びており、先端に向かって細まった形状である。当該毛髪形状図形は濃紺色を基調としているが、その周囲は光で包まれたかのように白く覆われており、さらに、その周りは風が渦巻いた描写がされている。毛根にあたる部分は、ハレーションを起こしたかのように光がほとばしっている。背景には、青色の化学式も描かれている。
ウ 引用商標2について
引用商標2は、グラデーションがかった水色と群青色とが斜めに交錯した縦長長方形図形からなり、その左下部から右上部にかけて、ゆるやかに湾曲した毛髪形状図形が配置されている。当該毛髪形状図形は薄青色を基調としているが、その周囲は光で包まれたかのように白く覆われている。中央やや右寄りには、噴射口を下にした青色の容器が描かれ、噴射口からは水色と白色が放射線状に広がった様子が描かれている。
エ 外観における商標の類否
本件商標と引用商標は、上記アないしウのとおりの構成からなる図形商標であるところ、いずれも、濃紺色を基調とする縦長長方形図形からなり、右に湾曲した毛髪形状図形が中心部に配置され、際立っているという基本的構成態様において共通する。また、毛髪が光に包まれた描写がされている点、毛根部分がいずれも、特に強い光を放っている点も共通する。さらに、本件商標と引用商標1とは、毛髪形状図形の外周を風が渦巻いている描写がされている点も共通する。
本件商標と引用商標は、「濃紺色で塗りつぶした縦長長方形図形」、とその中に描かれた「毛髪形状図形」とを基本的構成態様とする極めてシンプルな構成から成り、両商標(本件商標と特に引用商標1)には、強い共通性が認められる。これらの共通性は、時と所を異にして離隔的に各商標に接した場合に、一見して看者の目を引く両商標の構成上の基本的な要素に係るものであって、それぞれ看者に強く印象付けられるものである。
この共通性ゆえに、本件商標と引用商標の外観全体から直ちに受ける視覚的印象は、著しく紛らわしいものとなっている。両商標における差異点は、本件商標と引用商標に、同時に接した場合には看取できるとしても、離隔的に接した場合には明瞭に把握することができない程度の微差でしかない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上類似する商標である。
加えて、後述のとおり、引用商標は、商品「毛髪用剤」に含まれる「発毛剤」に使用され、請求人の積極的な宣伝、広告活動の結果、少なくとも、本件商標の登録出願時において、医薬品及び化粧品業界並びにその取引者・需要者間において、周知・著名性を獲得していたものであり、本件商標の査定時においても継続しているものである。商標法第4条第1項第11号類否判断においても、引用商標の周知・著名性は、具体的な取引状況の下では、出所の混同のおそれを増すものである。
オ 称呼及び観念における商標の類否
本件商標と引用商標は、図形のみで構成される商標ゆえ、特定の称呼は生じないが、その観念は、いずれも「光る毛髪」程度の観念を看者に想起させるものであり、観念上も類似の商標である。
(3)小括
本件商標と引用商標は、以上のとおり、外観はもとより、観念においても類似の商標である。
加えて、引用商標は、商品「発毛剤」に使用され、請求人の積極的な宣伝・広告活動の結果、少なくとも、本件商標の登録出願時において、医薬品及び化粧品業界、及びその取引者・需要者間において、周知・著名性を獲得したものであり、本件商標の登録査定時においても継続しているものである。
そうとすれば、本件商標と引用商標においては、両者の外観はもとより、観念における相紛らわしさが一層増幅されるものであるから、これらの商標は、類似の商標というべきものである。そして、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は、上記(1)のとおり、同一又は類似の商品である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
3 商標法第4条第1項第15号の無効理由について
本件商標と引用商標とは、非常に強い共通性を有し、類似するものであるが、仮に、本件商標と引用商標とが類似しないとしても、極めて近似し、出所の混同のおそれがあるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(1)引用商標の周知・著名性
ア 請求人について
請求人は、OTC医薬品(薬局・ドラッグストアなどで販売される一般用医薬品)と医療用医薬品(主に医師が処方する医薬品)の双方を製造・販売する製薬会社であり、「リポビタンD」などのドリンク剤をはじめ、総合感冒薬「パブロン」、胃腸薬「大正漢方胃腸薬」、便秘薬「コーラック」等の治療薬から、引用商標に係る発毛剤「RiUP(リアップ)」などの生活改善薬、特定保健用食品等の「Livita」シリーズまで、生活者の健康に関するありとあらゆる分野で商品を提供している(甲第5号証の1ないし甲第5号証の3)。
イ 引用商標の使用および市場における評価について
引用商標は、商品「毛髪用剤」に含まれる発毛剤に係る商標「RiUP(リアップ)」のパッケージにおいて、使用しているものであるところ、「RiUP(リアップ)」(以下、「RiUP(リアップ)」の商標を使用した請求人の商品を「請求人商品」という場合がある。)は、「日本で唯一発毛効果が認められた」発毛剤であり、1999年6月3日の発売以来、爆発的にヒットしてきたものである。その売れ行きは、6月3日時点で65万本の製品を出荷したにもかかわらず、即日完売、品切れの薬局が続出し、請求人は、テレビCMを中止し、ニュースリリースにて、「今後の出荷計画と対策」を発表するほどであった(甲第6号証の1ないし甲第6号証の3)。
請求人は、その後、請求人商品の生産体制を整え、2000年よりテレビCMを再開し、また、雑誌、駅広告等において、膨大な量の宣伝・広告活動を行い、引用商標に係る商品のさらなる周知に努め、認知度を高めてきた。その際、看者への記憶の定着を目的として、視覚から訴えるために、積極的に引用商標を使用してきた。その結果、請求人商品の年間売上目標を60億円から300億円へと、実に5倍に上方修正をするに至ったほどであり、請求人商品の発売後1年で毛髪用剤のシェア1位(32.4%)を獲得するに至った(甲第6号証の3)。
男性用発毛剤「RiUP(リアップ)」の発売後も、請求人は、女性用発毛剤「RiUP Lady(リアップレディ)」(2005年3月)、成分配合を改良した「RiUPX5(リアップX5)」(2009年6月)などの改良商品を発売するとともに、需要者の多様なニーズを満たすべく、発毛剤のみならず、シャンプー、コンディショナー、頭皮のクレンジング剤、マッサージトニックなど、様々な発毛・育毛関連商品を幅広くラインナップし、「RiUP(リアップ)」シリーズとして、商品を展開し、育毛剤市場をけん引してきた(甲第7号証の1ないし甲第7号証の16)。
このため、登録商標「リアップ」(登録第4484522号商標)については、2002年10月25日に防護標章登録が認められている(甲第8号証)。
引用商標1については、2009年6月1日から男性用発毛剤「RiUP X5(リアップX5)」のパッケージデザインとして、引用商標2については、2012年12月3日から、同じく男性用発毛剤「RiUP JET(リアップジェット)」のパッケージデザインとして、現在まで継続して使用しており、後述のテレビCMや雑誌広告のとおり、引用商標に係る商品こそが、「RiUP(リアップ)」ブランドの中核を担う主力商品となっている(甲第9号証の1及び甲第9号証の2)。
ウ 宣伝広告について
(ア)テレビ広告
請求人は、請求人商品の発売と並行して、有名タレントを起用したテレビコマーシャル放映を継続してきた。2009年6月1日に引用商標1をパッケージに使用した「RiUP X5(リアップX5)」を発売した際には、商品の対象が、成人男性であることから、20代から60代までの各世代の代表として、俳優などの有名芸能人を広告キャラクターとして起用し、男性のヘアケアに対する親しみやすさを与えるとともに、「RiUP(リアップ)」商品の効能、効果をよりわかりやすく伝え、請求人商品の更なる周知に努めてきた(甲第10号証ないし甲第12号証)。株式会社ビデオリサーチ調べによる出稿量は、引用商標1が、2009年に5440回、2010年に4837回、2011年に6982回、2012年に4032回、2013年に5283回、引用商標2が2012年に2951回、2013年に35回である。なお、「RiUP(リアップ)」シリーズ全体では、2003年に5354回、2004年に5746回、2005年に7654回、2006年に5784回、2007年に7582回、2008年に3516回、2009年に5440回、2010年に7875回、2011年に10087回、2012年に8224回、2013年に5319回もの広告を出稿しており、請求人が、「RiUP」シリーズについて、いかに積極的に広告活動を行ってきたかがわかる(甲第13号証の1及び甲第13号証の2)。
(イ)雑誌
請求人は、テレビ広告のみならず、各種雑誌を通じて「RiUP(リアップ)」シリーズ商品の宣伝、広告に努めてきた。
本件商標の出願日2013年11月14日前後に発行された雑誌広告の主なもの(現段階で立証可能なもの)をあげると、週刊現代、週刊ポスト、週刊新潮、週刊文春、週刊SPA!などの一般週刊誌、FRIDAYといった写真週刊誌、MEN’S NON・NO、smartといった男性ファッション誌、Tarzanなどのライフスタイル情報誌、Get Navi、Begin、日経TRENDY、Mono MAX、DIMEなどのトレンド情報誌、週刊パーゴルフ(現Weekly Par golf)などのゴルフ情報誌、週刊ヤングジャンプ、週刊ビッグコミックスピリッツなどの男性向けコミック誌など、きわめて多様な種類の雑誌で宣伝、広告を行ってきた(甲第14号証の1ないし甲第14号証の23)。
各雑誌の発行部数は、週刊現代が424,909部、週刊ポストが318,147部、週刊新潮が365,355部、週刊文春480,846部、週刊SPA!が64,919部、FRIDAYが165,681部、MEN’S NON・NOが89,022部、smartが204,302部、Tarzanが116,496部、Get Naviが72,386部、Beginが89,866部、日経TRENDYが130,535部、Mono MAXが113,582部、DIMEが56,993部、週刊パーゴルフ(現Weekly Par golf)が200,000部、週刊ヤングジャンプが656,250部、週刊ビッグコミックスピリッツが228,042部であり、いずれも日本全国で幅広く購読されている周知・著名な雑誌である(甲第14号証の24)。
(ウ)雑誌における特集記事
請求人商品は、その画期的な商品性と、確かな効果から、様々な雑誌において、特集が組まれ、紹介されてきた。その一例を挙げると、週刊SPA!などの一般週刊誌、smart、MENS’ NON・NOなどのファッション誌、Tarzanなどのライフスタイル情報誌、Sports Graphic Numberなどのスポーツエンターテインメント誌、DIME、Mono MAXなどのトレンド情報誌などである(甲第15号証の1ないし甲第15号証の8)。Sports Graphic Numberの発行部数は、112,511部であり、その他の雑誌の発行部数は、上記(イ)のとおりである。これらの記事も、自社広告と相まって、「RiUP(リアップ)」商標の周知・著名性の維持・向上に資している。
エ 請求人の使用による周知・著名性の獲得について
引用商標は、商品「発毛剤」に使用して、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、周知・著名性を獲得していたものである。男性用発毛剤「RiUP(リアップ)」は、1999年に発売されて以来、膨大な量のテレビCMが出稿され、雑誌や駅広告などにおいても、積極的な宣伝・広告活動がなされてきた(甲第10号証ないし甲第14号証の23)。
また、請求人商品の優れた効果から、各種雑誌において、引用商標を用いた請求人商品を紹介する特集記事も多数組まれ、高い評価を得るに至った(甲第15号証の1ないし甲第15号証の8)。
上記イのとおり、請求人は、請求人商品の発売後1年で毛髪用剤のシェア1位(32.4%)を獲得するに至ったが、その後も多種多様な広告媒体を活用し、大量、広範囲にしかも間断なく「RiUP(リアップ)」シリーズの宣伝広告活動を行った結果、請求人は「毛髪用剤・育毛剤」におけるシェアを着実に拡大させることに成功した。株式会社インテージの調査によれば、2006年から2013年における「毛髪用剤・育毛剤」分野におけるシェア比率は、2006年に37.2%、2007年に38.2%、2008年に41.8%、2009年に48.4%、2010年に55.3%、2011年に53.9%、2012年に53.2%、2013年に56.2%と、年々そのシェアを拡大させ、直近の4年間においては、50%を超えるシェアを維持し続けている(甲第16号証)。
そうとすれば、引用商標は、商品「発毛剤」について使用した結果、本件商標の登録出願時(2013年11月14日)以前に、周知・著名であったことは疑う余地はないものであり、その周知・著名性は、その登録査定時(2014年3月5日)においても継続していたものである。
(2)本件商標と引用商標の類似性について
本件商標と引用商標は、上記2(2)のとおり、いずれも、濃紺色を基調とする縦長長方形図形からなっている点、右に湾曲した毛髪形状図形が中央付近に配置され、際立っている点、さらには、毛髪が光に包まれた描写がされている点、毛根部分がいずれも、特に強い光を発している点が共通する。特に、毛髪形状図形は、引用商標では濃紺色を基調とした毛髪の周囲が光っているのに対し、本件商標は毛髪自体が強く光っており、本件商標と引用商標とは紛らわしい描写となっている。このような描写は、看者に対して、毛髪への用剤の強い浸透効果を想起させ、さらに高い効果が期待できる「RiUP(リアップ)」シリーズの新製品又は関連商品であるかのように誤認される蓋然性が極めて高いといわざるを得ない。
(3)本件商標が請求人商品と何らかの関係があるシリーズ商品であるかの如く誤認されることについて
本件商標と引用商標とは、上記2(2)及び3(2)のとおり、基本的構成態様が共通し、その類似性の程度は極めて高く、また、その差異点は、互いに紛らわしい描写ですらある。また、上記3(1)のとおり、引用商標の周知著名性もまた高いものであり、上記2(1)のとおり、本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似であることから、その取引者及び需要者は共通する。また、「取引者及び需要者において普通に払われる注意力」は、必ずしも高くない。なぜなら、薄毛の問題については、極めてプライベートな問題であるため、店頭での商品選択においては他人の目が気になり、商品パッケージを選定するのに十分な時間をかけられない、あるいは、緊張して通常有している注意力が発揮できない、という状況が少なからず想定されるためである。
したがって、本件商標に接した需要者が、商品選定の際に誤認・混同する危険性は極めて高い。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件商標は、少なくとも、その指定商品中の「毛髪用剤」、「養毛料」等について使用したときは、引用商標を想起、連想して出所の混同のおそれがあり、また、本来、請求人とは組織的にも経済的にも何らの関係がないにもかかわらず、あたかも請求人と関連性がある者の商品であるかの如く混同されるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
4 むすび
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してなされたものである。仮に、同法第4条第1項第11号に違反したものではないとしても、本件商標の登録は、同法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により無効にすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第34号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号の非該当性について
本件商標は、引用商標とは外観において顕著な差異を有し、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、請求人の各主張は失当である。
(1)本件商標の構成について
本件商標は、少なくとも以下の各特徴を有する(乙第1号証)。
ア 黒色の縦長長方形を背景として、下から4分の1程度の位置に、地平線ないし水面を表したが如き水色の水平線が表されている。
この点、請求人は、当該水平線の存在を捨象しているが、次のイ(ウ)の特徴と相俟って、当該水平線は、本件商標の構成において特徴的な図形要素のひとつである。
イ 上記縦長長方形の中央やや下方に、以下の各特徴((ア)ないし(ケ))を有する縦長の棒状の図形部分(請求人が「毛髪図形」と表現している部分。以下、「棒状図形」という。)を表してなる。
(ア)棒状図形の全体が網目のように白色のポリゴンで描かれており、内側が水色の網目状となっている。
(イ)上記(ア)の白色のポリゴンの線の内側は水色であり、かつ、棒状図形の輪郭が水色で縁取られているため、棒状図形の全面が青白く光輝いているように視認される。
(ウ)棒状図形の下4分の1が、上記アの水平線に垂直にのめり込むように表されている。
(エ)棒状図形の上記アの水平線より上方には、あたかも棒状図形が水面に飛び込んだかのような水しぶき様の図形が表され、シズル感のある描画手法となっている。
(オ)棒状図形下半分は、上記アの水平線に対して垂直であり、上半分のみが湾曲して表されてなる。
(カ)上記アの水平線にのめり込んだ棒状図形の下4分の1に相当する部分からは、あたかも水中にほとばしるような光が描かれている。
(キ)上記光の線は、水平方向一杯かつ広範囲に拡がっている。
(ク)上記光は、棒状図形が前記水平線にのめり込んだ部分の小さな範囲のみが水色と白色とを混ぜ合わせて表されてなるが、当該光の大半は水色で表されるとともに、当該水色の部分には、ランダムに水泡の如き白色粒状の図形が表されている。
(ケ)棒状図形は、縦長長方形図形の高さに対して約半分程度の全長であり、上端は当該縦長長方形図形の辺に達していない。
ウ 願書に記載された棒状図形は、以上のとおりの特徴を有しており、とりわけ、一般に毛髪を表すために用いられる黒色ではなく、棒状図形の全面が青白く輝くように表現されていることや、毛髪の組成図とは異なるポリゴンにより表現されていることからすれば、本件商標における棒状図形は、結果的に、看者が直ちに「毛髪」と認識するとはいえない程度にまで独特かつ高度なデザイン処理が施されているものといえる。また、水平線に垂直にのめり込むように表された構成や水しぶき様の図形が表されていることを踏まえれば、ポリゴンラインが鱗のようにも認識され、まるで、川魚が水面に飛び込んで水しぶきが上がっているかのような印象すら与えるものである。
本件商標は、以上のとおりの図形要素より構成されるものであるから、請求人による本件商標の記述は、本件商標を特定するための正確な記述とはいえない。
(2)引用商標1について(乙第2号証)
引用商標1について、請求人は、縦長長方形図形は濃紺色に塗りつぶしたものであって、その内側に表された図形について、毛髪を表したもの(「毛髪形状図形」)であるとする。
当該毛髪形状図形とする部分についてみると、毛髪を表す場合に一般に用いられる黒色で表されるとともに、その下端の10分の1程度が「毛根にあたる部分」として太く表され、これより上端に至るまでが徐々に細まって表されてなる構成から、一見して明らかに毛髪形状図形と認識でき、引用商標1における当該部分が毛髪を表したものと看取される。
当該毛髪形状図形は、下端から上端にいたるまで、その全体が湾曲して表されるとともに、その輪郭のみが白色の縁取りが施されている。また、当該毛髪形状図形の全長は、白色の縁取りを含めて前記縦長長方形図形の7割以上を占める長さで大きく表され、その上端は、縦長長方形図形の右辺に至っている。
さらに、引用商標1では、毛髪形状図形の周囲に、勢いよく回転する強烈な竜巻(トルネード)の図形が表されている点並びに当該竜巻の図形とつながるように、かつ、当該毛髪形状図形に接して、ミノキシジルと思しき化学式が描かれている点に顕著な特徴的部分がある。
また、竜巻の下方の頂点がピンポイントで毛根に直撃して、毛根に当たる部分(縦方向で毛髪形状図形全体の約10分の1程度、水平方向で縦長長方形図形の横幅の3分の1程度)の直近の周囲のみが輝くように、小さな放射線状の光が描かれている。
引用商標1は、以上の構成より、ミノキシジルを竜巻に見立てて、ミノキシジルが、竜巻のような強烈な勢いで、ピンポイントで毛根に吸い込まれていくかのような印象を与える構成よりなるものといえる。
(3)引用商標2について(乙第3号証)
引用商標2は、縦長長方形図形の中央よりやや下方に左上がりの斜線を境として、その上方は、上方にいくにつれて濃くなるグラデーションがかった青緑色よりなり、下方は、鮮やかな青色で表されてなる。また、上記縦長長方形図形の内側には、請求人が認めるとおり、毛髪形状図形が表されている。
請求人は、当該毛髪形状図形について「薄青色を基調」としているが、引用商標2は、全体的には黒色に近い濃紺の比率が多いものと認識され、下端に毛根にあたる部分が表されてなるとともに、下端から上端にいたるまで、その全体が緩やかに湾曲して表され、輪郭のみ白色の縁取りが施されている。
また、当該毛髪形状図形は、白色の縁取りを含めて、縦長長方形図形の左下端側から、右上端へ至るように、当該縦長長方形図形の対角線略一杯に大きく表され、その上端は、当該縦長長方形図形の右辺を飛び出すがごとく接するに至っている。
さらに、毛根に当たる部分の周囲(白色縁取りを含めた毛髪形状図形全体の約10分の1程度、水平方向で縦長長方形図形の幅3分の1程度)には、白色で、回転する勢力の強い台風状の図形が描かれている。
加えて、前記左上がりの斜線やや右側には、薬剤のスプレー容器が描かれ、その噴射口から薬剤が噴霧されたかのように、当該斜線の左右及び下方に向かう放射状の数本の線が描かれ、また、前記スプレー容器が斜線に接した部分の周囲であって、前記放射状の数本の線の後ろ側は青緑色となっている点において極めて特徴的である。
そして、噴射口付近から、放射状に広がる線の部分を介して、前記台風状の図形を有する毛根にあたる部分につながるように、ミノキシジルと思しき化学式が描かれている点でも、極めて特徴的である。
したがって、引用商標2は、あたかも、スプレー容器から噴射されたミノキシジルを主成分とする薬剤が、強烈な台風の如き勢いで毛根に吸い込まれていく印象を与える構成よりなるものといえる。
(4)外観における商標の類否
ア 本件商標と引用商標1との対比
本件商標と引用商標1とは、特に以下の点において相違する。
引用商標1は、本件商標の特徴のひとつである、下から4分の1程度の位置に、地平線ないし水面を表したが如き水色の水平線を有しておらず、本件商標のように、棒状図形部分が当該水平線にのめり込んだが如き構成を有していないほか、本件商標の棒状図形が、縦長長方形図形の高さの半分程度の全長で、上端が当該縦長長方形図形の辺に到達しておらず、かつ、ポリゴンで網目状に表されるとともに周囲が水色で縁取られていることで、全面が光輝くように描かれている点で、輪郭のみが白色で縁取られ、当該辺に到達して大きく毛髪形状部分が表される引用商標1の毛髪形状部分とは、主たる印象において顕著に相違する。その他、引用商標1の毛髪形状図形は、棒状図形部分について上記(1)イ(ア)ないし(ケ)の特徴を有していない。
また、引用商標1では、毛根に当たる部分のみが輝くように放射線状の光が小さく描かれているが(縦方向で毛髪形状図形全体の約10分の1程度、水平方向で長方形図形の3分の1程度)、本件商標においては、水平線にのめりこんだ棒状図形部分の下4分の1に相当する部分から、水平方向一杯かつ水中にほとばしるように広範囲に光が描かれている点で、両商標の外観上の主たる印象は著しく相違する。
さらに、本件商標は、引用商標1における毛髪形状図形の周囲に強烈な竜巻の図形が顕著に表されている点、当該竜巻の図形とつながるように、かつ、当該「毛髪形状図形」に接して、ミノキシジルと思しき化学式が描かれているという点の特徴を有しない。
そして、引用商標1は、あたかも竜巻に見立てたミノキシジルの成分が、強烈な竜巻のような勢いで毛根に浸み込むかのような強い印象を与える構成よりなるものであるのに対して、本件商標は、一般に毛髪を表すために用いられる黒色ではなく、棒状図形部分のすべてが青白く輝くように表現されていることや、毛髪の組成図とは異なるポリゴンにより表現されていることから、本件商標における棒状図形部分は、これに接する看者が、直ちに「毛髪」と認識するとはいえない程度にまで独特かつ高度なデザイン処理が施されているものといえ、また、水平線に垂直にのめり込むように表された構成や水しぶき様の図形が表されていることを踏まえれば、ポリゴンラインが鱗のようにも認識され、まるで、川魚が水面に飛び込んで水しぶきが上がっているかのような印象すら与えるものである。
よって、両商標の外観全体における主たる印象は著しく相違しており、互いに外観上相紛れるおそれのない非類似の商標であるといわざるを得ない。
イ 本件商標と引用商標2との対比
本件商標と引用商標2とは、特に以下の点において相違する。
引用商標2は、縦長長方形図形の中央よりやや下方に左上がりの斜線を境として、その上方は、上方にいくにつれて濃くなるグラデーションがかった青緑色よりなり、下方は、鮮やかな青色で表されてなるが、本件商標は、そのような特徴を有していない。
また、引用商標2における「毛髪形状図形」は、縦長長方形図形の左下端側から、右上端へ至るように、当該縦長長方形図形の対角線略一杯に大きく表され、上端はその辺に到達しているが、本件商標の棒状図形は、縦長長方形図形全体の高さの半分程度の長さで表され、上端は縦長長方形図形の辺には到達していない。
当該毛髪形状図形は、その外周等の一部のみが白色で縁取られているのに対して、本件商標における棒状図形は、全面が白のポリゴンで網目状に表され、輪郭が水色に縁取られ、全面が光り輝くように表されている。
引用商標2では、毛根に当たる部分の周囲に勢力の強い台風状の図形が描かれているが(縦方向でいえば、白色縁取りを含めた「毛髪形状図形」の全体の約10分の1程度、水平方向で、長方形図形の3分の1程度)、本件商標においては、水平線にのめりこんだ棒状図形の下4分の1に相当する部分から水中にほとばしるように、水平方向一杯かつ広範囲に光が描かれており、両商標の外観上の主たる印象は著しく相違する。その他、引用商標2の毛髪形状図形は、棒状図形部分について上記(1)イ(ア)ないし(ケ)の特徴を有していない。
また、引用商標2のスプレー容器の図形部分は、その構成態様に相応して、「薬剤」等が噴射口から放出されている状態を表したものと認識され、特に、噴射口から放射線状に白色の複数の線が広がる図形部分は特に特徴的部分であり、また、噴射口付近から、放射状に広がる線の部分を解して、前記台風状の図形を有する毛根にあたる部分につながるように、ミノキシジルと思しき化学式が描かれている点で極めて特徴的であるところ、本件商標は、当該特徴をも有しない。
上記各特徴により、引用商標2は、あたかも、スプレー容器から噴射されたミノキシジルを主成分とする薬剤が、強烈な台風の如き勢いで毛根に吸い込まれていく印象を与える構成よりなるのに対して、本件商標は、一般に毛髪を表すために用いられる黒色ではなく、棒状図形部分のすべてが青白く輝くように表現されていることや、毛髪の組成図とは異なるポリゴンにより表現されていることからすれば、本件商標における棒状図形部分は、結果的に、これに接する看者が、直ちに「毛髪」と認識するとはいえない程度にまで独特かつ高度なデザイン処理が施されているものといえ、また、水平線に垂直にのめり込むように表された構成や水しぶき様の図形が表されていることを踏まえれば、ポリゴンラインが鱗のようにも認識され、まるで、川魚が水面に飛び込んで水しぶきが上がっているかのような印象すら与えるものである。
よって、両商標の外観全体における主たる印象は著しく相違しており、互いに外観上相紛れるおそれのない非類似の商標であるといわざるを得ない。
ウ 請求人の主張に対する反論
(ア)請求人は、「濃紺色を基調とする縦長長方形図形からなり、右に湾曲した毛髪形状図形が中心部に配置され、際立っているという基本的構成態様において共通する」と主張するが、縦長長方形図形において、右に湾曲した毛髪形状図形は中心部に配置するという基本的構成態様は、むしろ請求人よりも、被請求人の方が先に、毛髪に係る商品に使用する図案として考案し、複数の商標登録(乙第4号証及び乙第5号証)を所有しているものであり、その他にも、株式会社加美乃素本舗の所有する登録商標(乙第6号証及び乙第7号証)、株式会社アデランスの所有する登録商標(乙第8号証及び乙第9号証)等が現に存続している(いずれも引用商標よりも先登録)。
そして、実際に、これらの商標が使用されていたことからすれば、上記基本的構成態様は、既に、永年に渡って毛髪に関わる商品に用いる図形として、普通一般に用いられていた表現にすぎないのであるから、仮に上記基本的構成態様が共通するとしても、本件商標を引用商標と類似するとする理由となるものではない。
まして、本件商標は、前述のとおり、これに接する看者が、必ずしも、直ちに「毛髪」と認識するとはいえない程度にまで独特かつ高度なデザイン処理が施されているものといえるものであり、上記基本的構成態様において共通するとは言い難いものである。
(イ)請求人は、「毛髪が光に包まれた描写がされている点、毛根部分がいずれも、特に強い光を放っている点も共通する」と主張する。
しかし、「毛髪が光に包まれた描写」及び「毛根部分がいずれも、特に強い光を放っている点」についても、むしろ請求人よりも、被請求人の方が先に、毛髪に係る商品に使用する図案として考案し、商標登録していたものであり(乙第11号証ないし乙第14号証)、前掲の株式会社アデランスの所有する登録商標(乙第15号証乙第16号証)等にも採用されている描画手法である。
したがって、請求人が主張する構成が共通しているとの点は、毛髪に関わる商品に使用する商標同士の類否判断においては、決定的な意味を持つものではなく、むしろ、その他の具体的な図形要素が異なれば、互いに十分に区別し得ることを意味する。
(ウ)引用商標に表される毛髪形状図形自体は、一見して、髪の毛を抽象化して表す際に普通一般に用いられる毛髪形状図形と同じ描画手法よりなるものであることは、例えば、乙第17号証ないし乙第24号証からも明らかである。
この点、被請求人の製品「カロヤン(KAROYAN)」は、請求人商品の発売よりも、はるか以前である1973年に販売が開始され、例えば乙第25号証に明らかな通り、少なくとも1997年7月の時点で既に、毛髪をパッケージの中央に大きく表してなる態様を採用していた。
したがって、毛髪形状図形をパッケージの中央に大きく表してなる態様を特徴的とするのであれば、請求人は、被請求人製品のデザインを模して自身の製品パッケージに採用したことを自認することにもなり得る。
また、乙第26号証においても、請求人商品の発売以前である1998年頃の毛髪用薬剤に関する事情が記載されているが、既に、この時点で、ライオン株式会社の「毛髪力」のように毛髪図形を用いた商品容器が市場に存在し(乙第27号証)、また、乙第26号証の本文中には、「ロゲイン」(乙第28号証)は、我が国において未承認であるが、国内で高い関心を集めていたことが示されている。
その後も、被請求人は、毛髪形状図形を被請求人の製品「カロヤン(KAROYAN)」に継続的に使用しており(乙第29号証、乙第30号証(枝番号を含む。))、1999年時点では、既に、「毛根が光に包まれた描写」も採用している(乙第29号証)。
したがって、「毛根が光に包まれた描写」が特徴的であるとするならば、これよりはるかに時を経てデザインされた引用商標は、被請求人製品のデザインを模して採用されたものであることを自認することにもなり得る。
その他、実際に、毛髪形状図形が、指定商品の分野において、極めて広く、普通一般に使用されている事実及びその他にも多数の商標登録において採用されている事実を補足するため、乙第31号証(枝番号を含む。)を提出する。
(エ)請求人は、「本件商標と引用商標1は、毛髪形状図形の外周を風が渦巻いている描写がされている点も共通する」と主張する。
しかし、本件商標には、そもそも「うっすらと風が渦巻いているような描写」は存在しないので、いずれの箇所をもって、そのような描写が存すると主張しているのか理解し難い。
もっとも、引用商標1の毛髪形状図形の外周における図形は、単なる風ではなく、強烈な印象を与える竜巻状の図形であり、当該竜巻状の図形が引用商標1の外観全体に与える影響は決して少ないといえるものではなく、このような構成を有しない本件商標とは、いずれにしても相紛れるおそれはないものといわざるを得ない。
なお、「毛髪形状図形の外周を風が渦巻いている描写」については、引用商標は、株式会社加美乃素本舗の所有する登録商標(乙第6号証及び乙第7号証)と極めて類似した構成ということができる。仮に、「毛髪形状図形の外周を風が渦巻いている描写」が共通することをもって類似とするならば、引用商標は、一部無効理由の除斥期間は経過しているものの、上記各先登録の存在により拒絶されるべき過誤登録であった事実が存在したことを自認することにすらなり得る。
(オ)請求人は、「『濃紺色で塗りつぶした縦長長方形』とその中に描かれた『毛髪形状図形』とを基本的構成態様とする極めてシンプルな構成から成り、両商標(本件商標と特に引用商標1)には、非常に強い共通性が認められる」と結論付けているが、特定の一色で塗りつぶした縦長長方形を背景とすることは、縦長長方形の包装用箱を採用する商品においては、ごく一般的に用いられる手法であり、その色彩は、当業者が適宜任意に選択しうる事項であって、また、そのうちに「毛髪形状図形」を配することも、毛髪用の商品について普通一般に行われていること前述の通りである。
また、その一方で、請求人は、商標法第4条第1項第15号の主張の中で、「本件商標は毛髪自体が強く光っている」ため、「仰々しい描写」として看者をして強い印象を与えるとも主張している。
当該主張は、上記基本的構成態様が共通しても、本件商標の「毛髪自体が強く光っている」態様は、看者をして強い印象を与えるものであって、「濃紺色を基調とした毛髪の周囲が光っている」のみで「仰々しさ」のない引用商標とは、互いに十分に区別ができていることの証左にほかならない。
そして、このような本件商標と引用商標における差異が、両商標の外観全体の主たる印象に与える影響は、著しく相違することが明らかであり、到底「微差」ということはできない。
(5)称呼及び観念における商標の類否
請求人は、「本件商標と引用商標は、図形のみで構成される商標ゆえ、特定の称呼は生じないが、その観念は、いずれも『光る毛髪』程度の観念を看者に想起させるものであり、観念上も類似の商標である」とする。
しかし、本件商標における棒状図形は、上記(1)イ(ア)ないし(ケ)のとおりの多数の特徴を有しており、特に、一般に毛髪を表すために用いられる黒色ではなく、棒状図形全体が青白く輝くように表現されていることや、毛髪の組成図とは異なるポリゴンにより表現されていることからすれば、本件商標における棒状図形は、これに接する看者が、必ずしも、直ちに「毛髪」と認識するとはいえない程度にまで高度にデザイン処理が行われているものといえる。
また、上述のとおり、上記水平線に垂直にのめり込むように表された構成や水しぶき様の図形が表されていることを踏まえれば、ポリゴンラインが鱗のようにも認識され、まるで、川魚が水面に飛び込んで水しぶきが上がっているかのような印象すら与えるものである。
一方で、「毛髪」の観念が生じたとすれば、毛髪に関わる指定商品との関係においては、直ちにその用途、効能等の品質を表すこととなるのであるから、商標の類否判断において対比すべき観念ということはできない。
さらにいえば、引用商標からは、ミノキシジルの化学式が大きく表されていることから、「ミノキシジル」ないし「ミノキシジルが毛根に作用する」旨の称呼及び観念を生じ得るが、本件商標からはそのような観念は生じる余地がない。
また、引用商標2からは、「スプレー式の容器」の称呼及び観念ないし「スプレー式の容器による薬剤の噴霧」との観念を生じうるが、本件商標からはそのような観念は生じる余地がない。
(6)小括
以上より、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるとする請求人の主張並びにその理由は、いずれも失当であるといわざるを得ない。
なお、請求人は、引用商標が周知・著名性を獲得しているため、両者の外観はもとより、観念における相紛らわしさを一層増幅すると主張している。
しかし、請求人商品が、「RiUP(リアップ)」という名称について周知・著名性を有するとしても、請求人自身が示すとおり、引用商標以外の図形を使用した様々なラインナップが存在することからすれば、引用商標のみを長年に渡って使用しているということもできず、需要者において最も注意を惹く「RiUP(リアップ)」という名称によって取捨選択されているといえるから、引用商標自体が自他商品識別標識として高い機能を発揮してきたとは言えない。しかも、本件商標と引用商標とは、そもそも外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であることのほか、毛髪に関わる商品との関係では、毛髪形状図形それ自体が識別力を発揮するものではないことからすれば、増幅されるべき外観及び観念の相紛らわしさはもとより存在しないのであるから、当該主張は失当である。
2 商標法第4条第1項第15号の非該当性について
本件商標は、引用商標とは互いに相紛れるおそれのない非類似の商標であり、本件商標を付した商品が、請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の製造・販売に係る商品であると認識されるおそれはない。
しかも、請求人が提出する証拠のみによっては、引用商標が需要者間で広く認識されているとはいえない。
また、被請求人の製品「カロヤン(KAROYAN)」は、請求人商品よりもはるか以前である1973年に販売され(乙第32号証)、請求人商品が発売されるまで、毛髪用薬剤分野の市場の9割以上を独占してきた経緯があり(乙第33号証)、多数の商標登録のほか、防護標章登録を受ける等、独自にその著名性を獲得しているものであり(乙第34号証(枝番号を含む。))、請求人商品の発売開始後も、「RiUP(リアップ)」とは、現に明確に区別され、市場において互いに棲み分けがなされてきた取引の実情に鑑みても、本件商標の使用が、類似性の程度が顕著に低い引用商標と出所の混同を生ずるおそれはない。
(1)引用商標の周知・著名性等に関する主張について
請求人が提出した各証拠によれば、引用商標は、すべて「RiUP(リアップ)」の文字とともに使用されており、引用商標(図形)が、「RiUP(リアップ)」の文字から離れて需要者の間で広く認識されていたとすべき客観的な証拠は何ら提出されていない。
また、前述のとおり、引用商標は、ミノキシジルの成分が毛根に作用するかのような強い印象を与える構成よりなるものであり、引用商標に係る商品の効能・効果を暗示させるものであるから、「RiUP(リアップ)」の文字と比べて自他商品識別力が弱いことは明らかであり、かつ、前述のとおり、毛髪形状図形を縦長長方形のパッケージに表してなる図形は、毛髪用の商品について普通一般に用いられているものであるから、その基本的構成自体が独創的とは言えず、需要者の注意は専ら識別力の高い「RiUP(リアップ)」の文字部分に向けられ、引用商標に向けられる注意は高いものとはいえない。
よって、実際の使用商標と異なり、「RiUP(リアップ)」の文字から離れた引用商標は、未だ需要者の間において広く認識された商標であるということはできない。
なお、引用商標の使用実績についての請求人の主張のなかには、引用商標ではない文字商標「RiUP(リアップ)」の使用実績が含まれている。
すなわち、請求人は、引用商標1が2009年6月1日から、引用商標2が2012年12月3日から、それぞれ使用が開始されたとしつつも、「『RiUP(リアップ)』は、『日本で唯一発毛効果が認められた』発毛剤であり、1999年6月3日の発売以来、爆発的にヒットしてきた」として、「『RiUP(リアップ)』発売後1年で毛髪用剤のシェア1位(32.4%)を獲得するに至った」等と縷々経緯を述べている。
しかしながら、これらの経緯は、いずれも発毛剤「RiUP(リアップ)」(文字商標)についての周知・著名性を立証するための根拠とはなり得ても、発毛剤の発売から10?13年を経てから使用が開始された引用商標の周知・著名性を立証するための根拠とは何らなり得ないものである。
また、請求人は、請求人商品には、発毛・育毛関連商品を幅広くラインナップを設け、その具体例を挙げ、甲第7号証の1ないし甲第7号証の16を提出しているが、引用商標が使用されているのは、引用商標1が「リアップX5」、引用商標2が「リアップジェット」のみであり、その他の商品は、引用商標とは無関係の商品である。加えて、「化粧品」についての引用商標の使用もない。
さらに、請求人は、宣伝広告活動を挙げたうえで、「引用商標は、商品『発毛剤』に使用して、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、周知・著名性を獲得していたものである。すなわち、男性用発毛剤『RiUP(リアップ)』は、1999年に発売されて以来、膨大な量のテレビCMが出稿され、雑誌や駅広告などにおいても、積極的な宣伝・広告活動がなされてきた」とも主張するが、これも、「RiUP(リアップ)」(文字商標)の使用を示すものであり、引用商標がこれらの時期から使用されてきたものではないことは明らかである。
加えて、請求人は、2006年から2013年における「毛髪用剤・育毛剤」分野におけるシェア比率を挙げ、引用商標の「発毛剤」についての周知・著名性を主張するが、引用商標1は2009年6月1日から、引用商標2は2012年12月3日から、それぞれ使用が開始されたものである。
請求人がこれらの主張のために提出した各証拠は、すべて「リアップ(RiUP)」の文字とともに使用されているものであることからすれば、効能を暗示する引用商標よりも、専ら、識別力の高い「RiUP(リアップ)」の文字に需要者の注意が向くことは明らかであり、引用商標(図形)が、「RiUP(リアップ)」の文字から離れて需要者の間で広く認識されていたとすべき客観的な証拠となるものではない。
(2)混同のおそれの有無について
ア 本件商標と引用商標との類似性の程度は顕著に低く非類似であり、また、「RiUP(リアップ)」の文字と離れた引用商標が需要者の間に広く認識されているとは言えず、しかも、毛髪形状図形自体は、毛髪関連商品について普通一般に用いられ独創性の程度が低いものであること、それゆえ需要者は、専ら、効能を暗示させる引用商標(図形)よりも、識別力の高い「RiUP(リアップ)」の文字部分に注意を払うこと等を総合的に勘案すれば、本件商標は、引用商標と混同を生ずるおそれがないことが明らかである。
イ 請求人は、「取引者および需要者において普通に払われる注意力」は、必ずしも高くない」と主張し、その理由として、「薄毛の問題については、極めてプライベートな問題であるため、店頭での商品選択においては他人の目が気になり、商品パッケージを選定するのに十分な時間をかけられない、あるいは、緊張して通常有している注意力が発揮できない、という状況が少なからず想定されるためである。したがって、本件商標に接した需要者が、商品選定の際に誤認・混同する危険性は極めて高い。」と主張する。
「商品パッケージを選定するのに十分な時間をかけられない、あるいは、緊張して通常有している注意力が発揮できない」との主張からすれば、請求人商品は、商品の効能を暗示させ識別性の低い引用商標(図形)よりも、むしろ、識別力の高い「RiUP(リアップ)」という名称によってのみ選定されていることを自認していることになり、やはり、「RiUP(リアップ)」という名称を離れた引用商標(図形)が需要者間で広く認識されていたとはいえないことになる。
もっとも、医薬品の分野において、その販売名(文字)による識別はより重要であり、販売名に対しては、需要者は、より高度な注意力を有している。すなわち、副作用や取り違えを防止する必要のある薬剤の分野においては、通常、他の日用品等に比べて、その販売名に対する取引者及び需要者の注意力は、相当程度に高度なものである。まして、引用商標の使用商品「RiUP(リアップ)」は、「発毛剤」であるところ、OTC医薬品の中では最も効果が高いがゆえに、副作用等のリスク管理も厳重に行われる「第一類医薬品」に属する。
被請求人の製品「カロヤン(KAROYAN)」等の「第三類医薬品」は、薬局、ドラッグストア等において、通常は、陳列棚に陳列されているが、請求人の引用商標に係る「発毛剤」は、「第一類医薬品」に属するため、薬剤師による書面を用いた情報提供が義務付けられており、陳列棚には陳列されておらず、薬剤師に申し出たうえで、薬剤師がカウンター内の保管場所から取り出して購入者に手渡さなければならない。
すなわち、需要者は請求人商品の購入を薬剤師に申し出て、薬剤師は「RiUP(リアップ)」の販売名を確認したうえで、これを需要者に提供しなければならないことは、請求人において否定し得ない事実であると思料されるから、引用商標の使用商品については、パッケージの図形よりも販売名によって識別される機会が多いというのが取引の実際である。
しかも、育毛関係の薬剤は高価であることが多く、例えば、引用商標1の使用される「RiUP(リアップ)X5」(60ml)は7000円代の定価であり、高価な商品であるから、販売名やその成分及び効能等を吟味して慎重に購入するのが常である。したがって、引用商標の使用商品は、高度な注意力をもって販売ないし購入することが前提の商品であるから、その販売名に対する「取引者及び需要者において普通に払われる注意力は、必ずしも高くない」とは言い得ず、他の販売名が付された商品と間違えて購入することはあり得ないといっても過言ではない。まして、請求人商品(発毛剤)と異なり、「育毛剤」であって、かつ、同じく著名商標と認定されている「カロヤン(KAROYAN)」を販売名とする商品等と取り違えて購入するおそれはないといわざるを得ない。
ウ 以上よりすれば、本件商標は、商品の性質や取引の実情に鑑みても、引用商標とは混同を生ずるおそれはないものといわざるを得ない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件商標は、引用商標とは、商品の出所について混同を生ずるおそれはないものといわざるを得ず、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

第5 当審の判断
請求人は、本件審判を請求することについての法律上の利益があると主張しているところ、その主張に対して、被請求人は争っていないので、以下、本件について検討する。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおりの構成からなるものであり、特定の称呼及び観念は生じないものである。
しかして、本件商標は、黒色に近い濃紺色(本件商標の色彩について、請求人は「濃紺色」と、被請求人は「黒色」と主張をしているが、その違いは本件における商標の類否を左右する争点とはいえない。)の縦長矩形図形内に、両端部を上下方向に長尺状に引き伸ばし、その上部を右側にやや湾曲させ、外周部分を水色で縁取り、その内部を斜め網目状模様で表してなる略水滴状図形(以下、この図形部分を「本件商標長尺水滴状図形」という。)を表しているものである。そして、該縦長矩形図形内の下から4分の1程度の位置には、水色の横線が縦長矩形図形を横切るように描かれており、本件商標長尺水滴状図形は、その下部の4分の1程度が、この横線を垂直に突き抜けるように表され、その接触部分は周辺に拡散するように白色図形をもって放射状に描かれており、さらに、この左右上部には、水しぶきが上がっているような図形が表されているものである。
(2)引用商標について
ア 引用商標1について
引用商標1は、別掲2のとおりの構成からなるものであり、特定の称呼及び観念は生じないものである。
しかして、引用商標1は、濃紺色の縦長矩形図形の下辺よりやや上部に、両端部を上下方向に長尺状に引き伸ばし、全体を右側にやや湾曲させ、外周部分を白く縁取り、その内部を黒色で表してなる略水滴状図形(以下、この図形部分を「引用商標1長尺水滴状図形」という。)を表しているものである。そして、その下端部周囲には、白色の放射状図形が描かれ、その上方には渦巻き状の図形が上方に広がるように表され、さらに、引用商標1長尺水滴状図形の中間部分の左側には、化学式と思しき図形が描かれているものである。
イ 引用商標2について
引用商標2は、別掲3のとおりの構成からなるものであり、特定の称呼及び観念は生じないものである。
しかして、引用商標2は、上部をグラデーションが施された青緑とし、下部を青色として、その接触面を斜線とした縦長矩形図形の下辺やや上部に、両端部を上下方向に長尺状に引き伸ばし、全体を右側にやや傾け、外周部分を白く縁取り、その内部を濃紺色で表してなる略水滴状図形(以下、この図形部分を「引用商標2長尺水滴状図形」という。)を表しているものである。そして、その下端部周囲には、白色の渦巻き状図形が描かれ、その下端部から右上方には、化学式と思しき図形が描かれ、さらに、その上部には、先端部から内容物が周囲に噴出しているような状態の容器状の物品が描かれているものである。
(3)本件商標と引用商標1との類否について
ア 本件商標と引用商標1における称呼及び観念の対比
本件商標と引用商標1とは、上記(1)及び(2)アのとおり、ともに特定の称呼及び観念を生じさせるとはいえないものであるから、称呼及び観念において相紛れるおそれがあるということはできないものである。
イ 本件商標と引用商標1おける外観の対比
本件商標は、黒色に近い濃紺色の縦長矩形図形内に、上記(1)のとおり、本件商標長尺水滴状図形を表し、その周囲には上記したような態様の各種図形を配してなるものであり、全体としてバランス良く配置された構成のものであって、その構成中の特定の部分が強く印象づけられ、あるいは捨象されるものではなく、その全体をもって認識、把握されるとみるのが相当である。
他方、引用商標1は、上記(2)アのとおり、濃紺色の縦長矩形図形内に、引用商標1長尺水滴状図形を表し、その周囲には上記したような態様の各種図形を配してなるものであり、全体としてバランス良く配置された構成のものであって、その構成中の特定の部分が強く印象づけられ、あるいは捨象されるものではなく、その全体をもって認識、把握されるとみるのが相当である。
そして、両商標の長尺水滴状図形部分は、その形状が右側に湾曲し(傾い)ている点では共通するものの、本件商標のそれは、外周部分を水色で縁取り、その内部を斜め網目状模様で表してなるのに対して、引用商標1のそれは、外周部分を白く縁取り、その内部を黒色で表してなるものであって、両者は、この部分の描かれ方や色彩において差異があり、互いに異なる印象を与えるものである。
しかも、両商標の長尺水滴状図形の周囲に配置された図形については、本件商標においては、下から4分の1程度の位置に水色の横線が描かれ、そこに垂直に突き抜けるように描かれた長尺水滴状図形部分からは周辺に拡散するように白色図形が放射状に表され、加えて、この左右上部には水しぶきが上がっているような図形が表されているものであるのに対して、引用商標1長尺水滴状図形の下端部には白色の放射状図形が描かれ、その上方には渦巻き状の図形が上方に広がるように表され、さらに、引用商標1長尺水滴状図形の中間部分の左側には化学式と思しき図形が描かれているものである。
してみれば、本件商標と引用商標1は、黒色又はそれに近い色彩に着色がされた、縦長矩形図形内に、右側に湾曲した形状の長尺水滴状図形が表されている点では共通するものの、当該長尺水滴状図形の構成は、描かれ方や色彩が顕著に相違し、また、その他の部分においても、両者は、前記したように顕著な差異を有するものであるから、両商標に時と所を異にして接しても、その構成の違いにより相紛れるおそれはないとみるのが相当である。
ウ 小括
したがって、本件商標と引用商標1とは、称呼、観念及び外観のいずれにおいても、相紛れるおそれがない非類似の商標ということができる。
(4)本件商標と引用商標2との類否について
ア 本件商標と引用商標2における称呼及び観念の対比
本件商標と引用商標2とは、上記(1)及び(2)イのとおり、ともに特定の称呼及び観念を生じさせるとはいえないものであるから、称呼及び観念において相紛れるおそれがあるということはできないものである。
イ 本件商標と引用商標2における外観の対比
本件商標は、上記(3)イのとおり、その構成上、全体をもって認識、把握されるとみるのが相当である。
他方、引用商標2は、上記(2)イのとおり、縦長矩形図形内に、引用商標2長尺水滴状図形を表し、その周囲には上記したような態様の各種図形を配してなるものであり、全体としてバランス良く配置された構成のものであって、その構成中の特定の部分が強く印象づけられ、あるいは捨象されるとみるべき態様ということはできず、その全体をもって認識把握されるとみるのが相当である。
そして、両商標の長尺水滴状図形部分は、その形状が右側に湾曲し(傾い)ている点では共通するものの、本件商標のそれは、外周部分を水色で縁取り、その内部を斜め網目状模様で表してなるのに対して、引用商標2のそれは、外周部分を白く縁取り、その内部を濃紺色で表してなるものであって、両者は、この部分の描かれ方や色彩において差異があり、互いに異なる印象を与えるものである。
しかも、両商標の長尺水滴状図形の周囲に配置された図形については、本件商標においては、下から4分の1程度の位置に水色の横線が描かれ、そこに垂直に突き抜けるように描かれた長尺水滴状図形部分からは周辺に拡散するように白色図形が放射状に表され、加えて、この左右上部には水しぶきが上がっているような図形が表されているものであるのに対して、引用商標2長尺水滴状図形の下端部周囲には白色の渦巻き状図形が描かれ、その右上方には化学式と思しき図形が描かれ、さらにその上部には、先端部から内容物が周囲に噴出しているような状態の容器状の物品が描かれているものである。
してみれば、本件商標と引用商標2は、縦長矩形図形内に、右側に湾曲し(傾い)た形状の長尺水滴状図形が表されている点では共通しているものの、両者は、縦長矩形図形である背景部分の構成を異にし、また、両者の長尺水滴状図形の構成は、描かれ方や色彩が顕著に相違し、さらに、その他の部分においても、両者には顕著な差異があるから、両商標に時と所を異にして接しても、その構成の違いにより相紛れるおそれはないとみるのが相当である。
ウ 小括
したがって、本件商標と引用商標2とは、称呼、観念及び外観のいずれにおいても、相紛れるおそれがない非類似の商標ということができる。
(5)請求人の主張について、
請求人は、「本件商標と引用商標は、いずれも、濃紺色を基調とする縦長長方形図形からなり、右に湾曲した毛髪形状図形が中心部に配置され、際立っているという基本的構成態様において共通する。また、毛髪が光に包まれた描写がされている点、毛根部分がいずれも、特に強い光を放っている点も共通する。さらに、本件商標と引用商標1は、毛髪形状図形の外周を風が渦巻いている描写がされている点も共通する。」と主張している。
しかしながら、仮に、請求人が「毛髪形状図形」というとおり、それぞれの縦長長方形図形(上記(1)及び(2)においては「?長尺水滴状図形」(「?」には、「本件商標」、「引用商標1」又は「引用商標2」が入る。)とした図形部分)が毛髪を表した図形と認識されるものならば、「発毛剤」や「育毛剤」等の毛髪に係る商品との関係では、毛髪が商品の用途に当たるものであり、毛髪を表した図形が種々商標登録又は使用されている状況(例えば、乙第4号証ないし乙第16号証の商標登録の情報。そのほか、請求人においては甲第7号証の1ないし甲第7号証の3、甲第7号証の7、甲第7号証の8、甲第7号証の12、甲第7号証の13ないし甲第7号証の15などに、被請求人においては乙第29号証や乙第30号証(枝番を含む。)などに、両当事者以外の取扱者においては乙第17号証ないし乙第24号証及び乙第31号証(枝番を含む。)などに示されている商品において使用している。)もあることから、自他商品の識別標識としては強力に機能するとはいい難く、その共通性をもって商標が類似するということはできないこととなる。
まして、該「毛髪」とされる長尺水滴状図形は、前記したように、本件商標のそれは、外周部分を水色で縁取り、その内部を斜め網目状模様で表してなるのに対して、引用商標1のそれは、外周部分を白く縁取り、その内部を黒色で表してなるものであり、また、引用商標2のそれは、外周部分を白く縁取り、その内部を濃紺色で表してなるものであって、本件商標と引用商標とは、この部分の描かれ方や色彩において差異があり、互いに異なる印象を与えるものであるから、基本的構成態様において共通するということはできないものである。
また、「毛根部分」の周囲の描かれ方は、本件商標の場合は、周囲に拡散するように描かれ、引用商標1は、その部分にとどまるように描かれており、周囲に拡散するような描かれ方はされておらず、また、引用商標2においては、当該部分は白色の渦巻き状図形が描かれており、この点、本件商標のそれと構成を異にするものである。
さらに、本件商標と引用商標1は、毛髪形状図形の外周を風が渦巻いている描写がされているとの主張についても、引用商標1及び引用商標2には渦巻き状の図形が表されているということができても、その渦巻き状の図形の位置や形状は異なり、本件商標には渦巻き状の図形が描かれているとはいえない。
したがって、請求人の前記主張は、採用することはできない。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれがない非類似の商標であるから、その指定商品が同一又は類似のものであっても、本件商標が商標第4条第1項第11号に該当するということはできない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の周知著名性について
請求人が提出した甲各号証によれば、引用商標は、商品「発毛剤」に使用されてきたということができるものであるが、以下のとおり、使用された結果、本件商標の登録出願前に周知著名となっていたとまでは認めることはできない。
ア 引用商標の使用態様及び使用状況について
(ア)請求の趣旨及び甲各号証によれば、請求人は、発毛剤のみならず、発毛・育毛関連商品について幅広くラインナップし、「RiUP(リアップ)」シリーズとして、種々の商品を展開し、育毛剤市場をけん引してきたと主張しているところ(甲第7号証の1ないし甲第7号証の16)、引用商標1が使用されているのは商品「RiUP X5(リアップX5)」について(甲第7号証の1、甲第7号証の5、甲第9号証の1、甲第10号証、甲第11号証、甲第14号証の1ないし甲第14号証の8、甲第14号証の20及び甲第14号証の21)、また、引用商標2が使用されているのは商品「RiUP JET(リアップジェット)」について(甲第7号証の6、甲第9号証の2、第14号証の9ないし甲第14号証の19、甲第14号証の22ないし甲第14号証の23、甲第15号証の1及び甲第15号証の3ないし甲第15号証の7)であり、その他の製品には引用商標は使用されていない。
(イ)これら甲号証においては、引用商標1は、常に「RiUP」及び「X5」(又は「リアップX5」)の商標とともに使用され、引用商標2は、常に「RiUP」及び「JET」(又は「リアップジェット」)の商標とともに使用され、それ単独で表示されてはおらず、かえって包装箱に背景図形のように表されているものである。他方、文字の「RiUP」「X5」や「RiUP」「JET」は、包装箱の正面上部に、矩形図形内に二段で目立つように大書きされているものである。
このような表示に接する取引者、需要者は、引用商標の図形部分に強く印象付けられるというより、むしろ、包装箱の正面上部の矩形図形内に二段で目立つ態様により表示され、かつ、文字であることにより記憶しやすいといえる「RiUP」及び「X5」の文字部分や「RiUP」及び「JET」の文字部分に強い印象を受け、記憶するというのが相当である。
(ウ)請求人は「『RiUP(リアップ)』が1999年発売以来爆発的にヒットしてきた」などと主張しているが、引用商標1が使用されている「RiUP X5(リアップX5)」は2009年6月1日に発売されたものであり、また、引用商標2が使用されている「RiUP JET(リアップジェット)」は2012年12月3日に発売されたものであり、引用商標はそれらの発売時以降に使用が開始されたものであり、1999年から使用されているものではない。このため、引用商標2については、本件商標の登録出願日である平成25年(2013年)11月14日までには、1年にも満たない期間しかないものである。
イ 引用商標を使用した商品の売上高やシェア率について
請求人は、「『RiUP(リアップ)』発売後1年で毛髪用剤のシェア1位(32.4%)を獲得するに至った」と主張して、甲第6号証の3を提出している。
しかし、同号証は、平成11年(1999年)の毛髪用剤シェア(冨士経済データ)をもとに2000年7月17日に発表されたものであるから、2009年6月1日から使用された引用商標1及び2012年12月3日から使用された引用商標2の周知性を示す証拠とは必ずしもいうことができないものである。
また、甲第16号証に示されたシェア率には、引用商標が使用されたものが含まれるということはできても、引用商標が使用された商品のみのシェア率は示されてはいないから、同号証をもって、引用商標の周知性を認めることもできないものである。
ウ 小括
以上によれば、提出された甲各号証によっては、「RiUP(リアップ)」に係る一連の商品の市場シェア等は明らかになっているとしても、引用商標自体が使用されている商品の状況は必ずしも明確でなく、しかも、その使用態様も、取引者、需要者に強い印象をもって認識されるものとは考え難いものであるから、引用商標が、使用された結果、本件商標の登録出願前には周知著名になっていたとまでは認めることができない。
したがって、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で広く認識されて周知著名になっていたと認めることはできない。
(2)出所の混同のおそれ
本件商標と引用商標とは、上記1(3)及び(4)のとおり、相紛れるおそれがない非類似の商標であり、しかも、引用商標が、上記(1)のとおり、高い周知著名性を獲得しているともいえないことから、本件商標は、その指定商品に使用しても、その取引者、需要者に、その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるということはできないものである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するということはできない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)
(色彩は原本参照)


別掲2(引用商標1)
(色彩は原本参照)


別掲3(引用商標2)
(色彩は原本参照)



審理終結日 2014-12-05 
結審通知日 2014-12-09 
審決日 2014-12-26 
出願番号 商願2013-89286(T2013-89286) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (W0305)
T 1 11・ 261- Y (W0305)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鴨田 里果大井手 正雄 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 梶原 良子
林 栄二
登録日 2014-03-28 
登録番号 商標登録第5660038号(T5660038) 
代理人 大房 孝次 
代理人 魚路 将央 
代理人 工藤 莞司 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 谷山 尚史 
代理人 小暮 君平 

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