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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X1037
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X1037
管理番号 1297384 
異議申立番号 異議2012-900364 
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2015-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2012-12-20 
確定日 2015-02-16 
異議申立件数
事件の表示 登録第5524118号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5524118号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5524118号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成からなり、平成23年12月19日に登録出願、第10類「医療用機械器具」及び第37類「医療用機械器具の修理又は保守」を指定商品及び指定役務として、同24年8月2日に登録査定、同年9月28日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標の登録は取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第37号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号について
木村医科器械株式会社(以下「木村医科器械」という。)の元従業員であった木村和人は、同社の退職時に木村医科器械との競合行為をしないことを誓約しておきながら、それに違反して株式会社キムラメド(以下「キムラメド」という。)を設立し、木村医科器械によって長年使用されてきた別掲(B)のとおりの構成からなる商標(以下「木村商標1」という。)と実質同一の本件商標を、木村医科器械に破産手続開始決定が言い渡され、かつ、木村商標1が未登録のままであったことを奇貨として、木村医科器械の事業を継承したのは申立人でありキムラメドは何ら資産譲渡を受けていないにもかかわらず、破産管財人に無断で登録出願し、登録を受けたものであるから、かかる出願は剽窃的な出願に当たる。
また、キムラメドは、本件商標の出願を行い、使用を開始し、その後、そのことを知った破産管財人から本件商標を買い取る(入札に参加する)のか中止するのかを求められたときにも、買取りに応じる(入札に参加する)ことをしなかったにもかかわらず、本件商標の出願の取下げをせず、そのまま出願を維持して本件商標を登録しているのであるから、かかる経緯に照らせば、本件商標の登録は、公正な競争秩序を害するものといえる。
さらに、木村和人は、木村医科器械の元従業員であり、本件商標が、木村医科器械が長年にわたって医療機器等の表示として使用し、需要者間に広く認識されてきたものであることを熟知していたのであるから、その木村和人が設立したキムラメドによる本件商標の出願及び登録は、不正競争防止法上の不正競争を(混同惹起行為)を目的として行われたものともいえる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
2 商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、木村医科器械の医療機器及びその修理等の表示として需要者間に広く認識されていた木村商標1と実質的に同一であり、商品及び役務も同一である。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものである。
3 商標法第4条第1項第15号について
木村商標1は、木村医科器械が長年にわたって商品等表示として使用し、需要者間に広く認識されてきたものであるから、本件商標に接した需要者が、木村医科器械又は同社の事業継承会社の業務に係る商品又は役務であると誤認し、商品又は役務の需要者がその出所について混同するおそれがある。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
4 商標法第4条第1項第19号について
上記1の事実関係に照らせば、本件商標の出願及び登録は、不正の利益を得る目的その他取引上の信義則に反するような目的(不正の目的)でなされたものといえる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してされたものである。

第3 本件商標に対する取消理由
当審において、平成25年5月2日付け及び同年12月17日付けで商標権者に対し通知した取消理由は、次のとおりである。
1 木村商標1等の周知性
(1)申立人の提出した証拠によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 木村医科器械の破産後の経緯
木村医科器械は、「医療用具の製造販売並びに輸出入、医療用具の修理並びに賃貸」等を目的として、昭和41年5月21日に設立されたが、平成23年4月25日に、東京地方裁判所により破産手続が開始され、平成24年3月12日に、費用不足による破産手続廃止の決定が確定した(甲5)。
木村医科器械は、上記に先立つ平成22年9月29日に、取締役会議において、その業務に係る製品の修理メンテナンス業務の移管及び医療機器の製造販売承認の承継をクロス・メディカルサービス株式会社(申立人。以下「クロス・メディカルサービス」という。)に行う旨の承認可決をし(甲9)、同日に、木村医科器械の代表取締役とクロス・メディカルサービスの代表取締役との間で、承継日を平成23年1月5日とする上記医療機器の製造販売承認の承継に関する契約を締結した(甲12)。ついで、両社の代表取締役は、平成22年11月1日に、木村医科器械の有していた商品の売買契約の締結をした(甲13)。また、クロス・メディカルサービスの代表取締役と木村医科器械の破産管財人であるみずき総合法律事務所の弁護士内藤平は、平成23年6月9日に、木村医科器械の有していた在庫品に関する動産売買契約を締結し(甲14)、さらに、両者は、平成24年3月12日に、木村商標1等に関する商標譲渡契約を締結した(甲2)。これを受け、クロス・メディカルサービスは、平成24年8月31日に、木村商標1を、第10類「医療用機械器具」及び第37類「医療用機械器具の修理又は保守」を指定商品及び指定役務として登録出願をした(甲3)。
イ 木村医科器械の破産前の営業活動
(ア)木村医科器械は、平成17年3月から同年4月にかけて、平成17年4月1日から同23年3月31日までを有効期間とする「高度管理医療機器等販売業・賃貸業許可証」を東京、名古屋、札幌の各営業所で取得した(甲15の1・3・7)のをはじめ、同許可証については、福岡(有効期間:平成18年10月10日?平成24年9月30日)、仙台(有効期間:平成21年2月4日?平成27年2月3日)、大阪(有効期間:平成21年6月29日?平成27年6月28日)の各営業所で取得した(甲15の4?6)。さらに、平成22年2月15日から同27年2月14日までを有効期間とする「第一種医療機器製造販売業許可証」並びに平成21年12月16日から平成26年12月15日までを有効期間とする「医療機器製造業許可証」及び「医療機器修理業許可証」を取得した(甲15の2)。
(イ)木村医科器械は、会社案内(作成日又は発行日は明らかではないが、2007年(平成19年)までの会社経歴やその他の事柄が記載されているところから、遅くとも2008年(平成20年)には発行されたものと推認することができる。甲16)、カタログ(甲17,甲18:これらは、作成日又は発行日が明らかではないが、木村医科器械の本店や各営業所の郵便番号が3桁で表示されているところから、平成10年2月以前に作成されたものと推認することができる。)、納品書・物品受領書(いずれも2010年(平成22年)9月29日付け)・作業報告書(2007年(平成19年)9月11日完了日)などの取引書類(甲22の1?7)、2007年(平成19年)11月17日に開催された大阪動物学会の商品展示コーナー(甲24)、2002年(平成14年)から2005年(平成17年)にかけて、「医理産業新聞」なる業界紙に掲載した広告(甲25)に、それぞれ木村商標1(色彩を同一にするものとすれば、木村商標1と同一の商標を含む。以下同じ。)や本件商標と同一の構成よりなる商標に、横書きにした「MEDICAL INSTRUMENT」の文字を下部に付加した構成よりなる商標(以下「木村商標2」という。)を表示した。その他、社員の名刺(甲19)、封筒・包装箱(甲20)、カタログ表紙(甲21)等にも木村商標1ないし木村商標2を表示した。
(ウ)木村医科器械は、その営業期間中、多用途ベンチレーター、長期人工呼吸器、ポータブル麻酔用人工呼吸器、電動式人工呼吸器、麻酔剤気化器等を販売し、その主な納入先は、東京大学医学部附属病院、東京医科歯科大学病院、帝京大学医学部附属病院、日本大学医学部附属病院、日本医科大学附属病院、NTT東日本関東病院、群馬大学医学部附属病院、東邦大学医学部附属病院等の大学の医学部附属病院やその他国公立病院、民間の病院などであった(甲23の1?6,甲16)。
(エ)2002年(平成14年)9月1日付け医理産業新聞において、「木村医科器械 ISO9001/13485 東京本社・全営業所で認証を取得」の見出しの下、「木村医科器械・・・は、製造技術部・営業部門(本社及び全営業所)において高圧ガス保安協会ISO審査センターを通じ、『ISO9001』『ISO13485』の認証を取得した・・・。認証範囲は、麻酔器、人工呼吸器及び麻酔ガス気化器の設計・開発・製造・据え付け及び付帯サービスとなっている。同社は、昭和40年創業以来、麻酔科領域を中心に研究開発に取り組んでき、学術的にも数多くの医学・理学・工学等の研究者、専門医の指導や支援を受け、高品質で独創的な製品を供給し続けている。優秀性と安全性も高く評価され、エンドユーザーの信頼を得ている。」(甲26の1)との記載があり、他の業界紙においても同旨の記事が記載されている(甲26の2・3)。そして、同社の「ISO取得祝賀会」が開催されたことが業界紙によって紹介されている(甲26の4・5)
(オ)2003年(平成15年)3月21日付け日本医科器械新聞において、「木村医科器械が札幌営業所開設」の見出しの下、「麻酔器・人工呼吸器並びに関連機器メーカーの木村医科器械株式会社・・・は、このたび北海道内での業務が拡大したことに伴い、サービス体制強化を図るため四月一日より札幌営業所・・・を開設する。」(甲27の1)との記載があり、他の業界紙にも同旨の記事が記載されている(甲27の2)。
(カ)2004年(平成16年)3月21日付け日本医科器械新聞において、「新時代の電気治療器を輸入 独製 水平治療・WaDit-12 木村医科器械から新発売」の見出しの下、「麻酔器、呼吸関連機器を提供する木村医科器械株式会社・・・は疼痛緩和が得られるドイツ生まれの電気治療器『WaDiT-12』(ワディット-12)の薬事承認が取れたことから全国一斉に発売を開始した。」(甲28の1)の記載があり、これに関連して、同年10月21日付け同新聞において、「従来の電気治療器の概念を根底から覆した全く新しいドイツ生まれの“WaDiT-12”を本年四月より発売以来、麻酔科、整形外科、内科をはじめ理学療法、リハビリ関連の医師(士)から大きな反響を得ている木村医科器械株式会社・・・では、商品の理解と拡販を目的に十月二日午後より文京区本郷のホテル機山館において、ワディット水平治療と近未来の展望をテーマに『WaDiTセミナー』を首都圏のディーラーを対象に開催、経営者はじめ中堅営業マンら五○余名が出席した。」の記載等(甲28の2?4)がある。
(2)上記(1)で認定した事実によれば、木村医科器械は、遅くとも平成10年2月には、その業務に係る商品「医療用機械器具」について、木村商標1ないし木村商標2を表示していたものであり、また、該商標の下でその業務に係る役務「医療用機械器具の修理及び保守」の提供も行っていたといえるものであって、平成22年9月29日に、その事業を事実上クロス・メディカルサービスに承継するまでの間、継続して、その業務に係る商品に木村商標1ないし木村商標2を表示し、及び該商標の下で役務の提供をして、全国の主要都市に設けた営業所を拠点に営業活動を行ってきたことが認められ、木村商標1ないし木村商標2は、本件商標が登録出願された平成23年12月19日の時点においては、木村医科器械の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして、少なくとも医療用機械器具の取引者や主な納入先である大学の医学部附属病院等の需要者の間には広く認識されていたものと認めることができ、営業活動が長期に及ぶことなどから、その周知性は、本件商標の登録査定日(平成24年8月2日)においても継続していたものと推認することができる。
2 商標法第4条第1項第10号について
(1)木村商標1ないし木村商標2の周知性
上記1認定のとおり、木村商標1ないし木村商標2は、木村医科器械の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくとも医療用機械器具の取引者や主な納入先である大学の医学部附属病院等の需要者の間には広く認識されていたものと認めることができる。
(2)本件商標と木村商標1及び木村商標2との類似性
本件商標は、別掲(A)のとおり、青色で表したローマ字「K」と、その右に、青色で塗られた横長長方形内に、「KIMURA」のローマ字を白抜きで表した構成よりなるものである。
これに対し、木村商標1は、別掲(B)のとおり、黒色で表したローマ字「K」と、その右に、黒色で塗られた横長長方形内に、「KIMURA」のローマ字を白抜きで表し、全体を横長長方形の細い輪郭で囲んだ構成よりなるものである。
してみると、本件商標と木村商標1とは、色彩が青色であるか黒色であるかの差異、横長長方形の細い輪郭の有無の差異を有するのみで、商標の主要部といえるローマ字「K」と、その右の横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」のローマ字において同じくするものであるから、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合は、外観上相紛れるおそれがあるばかりでなく、「KIMURA」の文字より生ずる「キムラ」の称呼が生ずる点において共通し、また、そのことから氏である「木村」を想起させる点においても共通するものである。したがって、本件商標と木村商標1とは、外観、称呼及び観念のいずれの点についても互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
また、木村商標2は、本件商標と同一の構成よりなる商標に、横書きにした「MEDICAL INSTRUMENT」の文字を下部に付加した構成よりなるものであるところ、その構成中の「MEDICAL INSTRUMENT」の文字部分は、「医療器具」の意味を有するものであり、木村商標2が使用される医療用機械器具との関係からみると、自他商品の識別機能を有しない部分といえるから、その要部は、ローマ字「K」と、その右の横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」のローマ字の部分であるといえる。
してみると、本件商標と木村商標2とは、実質的に同一の商標というべきものである。
したがって、本件商標と木村商標1及び木村商標2とは、同一又は類似の商標といわなければならない。
(3)本件商標の指定商品及び指定役務と木村商標1ないし木村商標2の使用に係る商品及び役務の類似性
本件商標の指定商品及び指定役務と木村商標1ないし木村商標2の使用に係る商品及び役務は、共に「医療用機械器具,医療用機械器具の修理及び保守」である。
したがって、本件商標の指定商品及び指定役務と木村商標1ないし木村商標2の使用に係る商品及び役務は、同一の商品又は役務ということができる。
(4)以上によれば、本件商標は、他人(木村医科器械)の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似する商標であって、その商品又は役務と同一の商品又は役務について使用する商標というべきであるから、商標法第4条第1項第10号に該当するものといわなければならない。
3 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標権者による本件商標の商標登録に至る経緯等について
申立人及び商標権者の提出した証拠等によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 平成22年8月18日付け木村医科器械あての木村和人(現商標権者代表取締役)の「秘密保持に関する誓約書」(甲8)には、「私は、貴社を退職するにあたり、下記の事項を遵守することを誓約致します。1.在職中に知り得た以下に示される貴社の技術上または営業上の秘密・・・を開示し、漏洩若しくは使用致しません。・・・木村医科器械(株)の製品開発、技術資料に関する情報・・・2.退職後3年間は、以下に示される競合的あるいは競業的行為は行いません。貴社と競合関係に立つ事業者に就職または役員に就任すること。貴社と競合関係に立つ事業者の提携先企業に就職または役員に就任すること。貴社と競合関係に立つ事業を自ら開業または設立すること。」旨の記載がある。
イ 木村和人は、木村医科器械の破産手続開始決定(平成23年4月25日)がされる以前である平成23年1月21日に、医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする「株式会社キムラメド」(商標権者)を設立した(甲7)。
ウ 平成24年2月下旬、申立人が商標権者のサイトを閲覧したところ、トップページには、商標権者を表示するロゴマークとして本件商標が使用されており、また、「保守点検」のページには木村医科器械製品の保守点検を承るとして木村医科器械の製品カタログが数点掲載されていることを確認したため、そのことを破産管財人に報告した。
その報告を受けた破産管財人(弁護士内藤平)から弁護士田端聡朗氏あての平成24年2月24日付けのメール(写し)には、「お伝えしたい点は、キムラメド社の使用しているトレードマークとカタログの件である。木村医科器械の商標をそのまま使用しているので誤認混同を起こすことになる。関係者の設立した会社とはいえ、商標の譲渡がない以上、不正競争(法2条1項1号)に該当すると考えられる。また、木村医科器械が作成したカタログをホームページでそのまま使用しているが、カタログは木村医科器械の著作物であるので無断に使用はできないと考える。解決方法としては、使用をやめていただくか、有償での譲渡になろうかと存じる。次回債権者集会が迫っているので、後者を希望される場合は至急譲渡金額の御提示をお願い申し上げる。」旨記載されている(甲29の1)。
上記メールに関する田端弁護士と破産管財人とのやり取りの平成24年3月5日付けメール(写し)には、田端弁護士から破産管財人あての「木村さんには、先生の意見を伝えました。買取という話はありませんでした。」旨記載があり、それに対する破産管財人から田端弁護士あての「それでは、使用を中止するようお願いする。」旨記載がある(甲29の2)。
商標権者は、同社のサイトにおける本件商標の使用を遅くとも同月12日までには中止したが、該サイトにおける木村医科器械の製品カタログの掲載については、現在に至るまで継続している(甲36,甲37の1?8)。
エ 平成24年3月8日、申立人の山口薫氏が破産管財人事務所を訪問し、木村商標1の買取りの申出を行った。
破産管財人は、申立人の申出を受けることにした。そこで、破産管財人が、念のため、木村商標1の商標登録の有無を確認したところ、商標権者が本件商標を登録出願している事実を特許庁のインタネットサービスで発見した(甲29の3の2)。
そのため、破産管財人が田端弁護士に対し、同日メールにて、上記経緯及び「このまま実体的権利である商標をクロス社に譲渡することも法的には可能だと思いますが、その場合には同社とキムラメド社が登録の可否について争うことになる。当職としては、申請されたキムラメド社がこのまま取得するのが穏便だと思うが、買取りにお考えがないのであれば、クロス社に譲渡するほかない。また、木村医科器械の商標が未登録であることを知って、当職に断ることなく出願申請された行為は道義上非難されるべきと考える。キムラメド社も買い取りたいということであれば、明日9日の正午までに買取希望価格を御提示下さるようよろしくお願い申し上げる。」旨通知している(甲29の3の1)。
これに対し、田端弁護士から破産管財人に同月9日付けのメールがあり、「先生の方針でご対応いただければと考えております。」などの記載の回答のみで、買取りの意向を示すことなく、買取希望価格を提示することもなかった(甲29の4)。
オ 平成24年3月12日、破産管財人と申立人との間で、破産管財人が申立人に対し、木村商標1を譲渡する旨の商標譲渡契約書が締結された(甲2)。
カ 平成24年3月16日、破産管財人と申立人が連名で、特許庁長官あてに本件商標出願の拒絶査定を求める刊行物等提出書を提出した(甲10)。
キ 本件商標に係る登録出願は、平成24年8月2日付けで登録査定がされた。
ク 本件商標について登録査定がなされたことを受けて、申立人代理人の片山史英弁護士(以下「片山弁護士」という。)が商標権者に対し、本件商標出願の設定登録をしないとともに今後もその使用を行わないことを要請する通知書を平成24年8月16日付けで発送した(甲30)。
ケ 平成24年8月28日付けファクシミリの書面(写し)には、キムラメドの木村氏から片山弁護士あてで「平成24年8月18日付の貴職からの通知書を拝見しました。・・・通知人は当社の本件ロゴマークの商標登録申請に対して平成24年3月16日に刊行物等提出書を提出し、今回の貴職の通知書と同様の内容を特許庁に主張されています。しかしながら、特段、特許庁から拒絶査定を受けておりませんので当社は正当な権利を有しているものと理解しており、登録を9月上旬までにすることになっております。」などと記載されており、また、木村商標1に係る権限についての質問が記載されている(甲31)。
コ その後、木村商標1に係る権限についての回答及び質問が木村氏と片山弁護士との間でファクシミリ等により行われた(甲32?甲35)。
サ 平成24年9月28日、本件商標が設定登録された。
(2)上記1(1)で認定した事実によれば、木村医科器械は、「医療用具の製造販売並びに輸出入、医療用具の修理並びに賃貸」等を目的として、昭和41年5月21日に設立されたが、平成23年4月25日に、東京地方裁判所により破産手続が開始され、同24年3月12日に、費用不足による破産手続廃止の決定が確定したものであり、木村医科器械は、上記に先立つ同22年9月29日に、取締役会議において、その業務に係る製品の修理メンテナンス業務の移管及び医療機器の製造販売承認の承継を申立人に行う旨の承認可決をし、同日に、木村医科器械の代表取締役と申立人の代表取締役との間で、承継日を平成23年1月5日とする上記医療機器の製造販売承認の承継に関する契約を締結した。
ついで、両社の代表取締役は、平成22年11月1日に、木村医科器械の有していた商品の売買契約の締結をし、申立人の代表取締役と木村医科器械の破産管財人であるみずき総合法律事務所の弁護士内藤平は、同23年6月9日に、木村医科器械の有していた在庫品に関する動産売買契約を締結し、さらに、両者は、同24年3月12日に、木村商標1等に関する商標譲渡契約を締結した。
これを受け、申立人は、平成24年8月31日に、木村商標1と同一といい得る態様の商標を、第10類「医療用機械器具」及び第37類「医療用機械器具の修理又は保守」を指定商品及び指定役務として登録出願をした。
なお、木村商標1は、遅くとも平成10年2月以降、木村医科器械の主たる商標として使用されてきたものである。
(3)他方、上記(1)を総合すると、以下のことがいえる。
木村和人(現商標権者代表取締役)は、平成22年7月15日に木村医科器械を退職し、同年8月18日付けで木村医科器械あての「秘密保持に関する誓約書」を記載していた。
その後、木村和人は、平成23年1月21日に、医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする「株式会社キムラメド」(商標権者)を設立した。
そして、商標権者は、本件商標を平成23年12月19日に登録出願し、同24年8月2日付けの登録査定を得、登録料の納付により同年9月28日に設定登録を受けた。
また、遅くとも平成24年2月下旬以降、商標権者のサイトのトップページに、商標権者を表示するロゴマークとして本件商標が使用され、また、「保守点検」のページには木村医科器械製品の保守点検を承るとして木村医科器械の製品カタログが数点掲載されており、その行為は、商標権者のサイトにおける本件商標の使用を遅くとも同年3月12日までには中止したが、同サイトにおける木村医科器械の製品カタログの掲載については、現在(平成25年9月24日)に至るまで継続している。
(4)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字、図形、又は、該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標、(b)特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標、(c)特許法以外の法律によって、その使用等が禁止されている商標等が含まれる、と解すべきであり、そして、上記「社会の一般道徳観念に反するような」場合には、ある商標をその指定商品又は指定役務について登録し、これを排他的に使用することが、該商標をなす用語等につき該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し、剽窃的行為であると評することのできる場合も含まれ、このような商標を出願し登録する行為は、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第94号、同年7月16日判決参照)。
イ 本件商標は、別掲(A)のとおりの構成からなるものであり、また、木村医科器械が使用していた木村商標1は、別掲(B)のとおりの構成からなるものであるところ、両商標は、共に「K」の欧文字のやや図案化した部分とべた塗りの横長矩形内に白抜きで「KIMURA」の文字を表した部分を主たる構成要素としたものであり、実質的に同一といい得るほど酷似している商標といえるものである。
そして、木村商標1は、遅くとも平成10年2月以降、木村医科器械の主たる商標として継続的に使用されてきたものであり、木村医科器械については、平成23年4月25日に東京地方裁判所により破産手続が開始され、同24年3月12日に費用不足による破産手続廃止の決定が確定したものであるが、そのことにより一定の信用が蓄積された財産としての木村商標1が消滅するものではなく、申立人と木村医科器械の破産管財人であるみずき総合法律事務所の弁護士内藤平による同23年6月9日の木村医科器械の有していた在庫品に関する動産売買契約の締結及び同24年3月12日の木村商標1等に関する商標譲渡契約の締結により、申立人に譲渡されたとみるのが相当である。
他方、本件商標に係る商標権者は、木村医科器械を平成22年7月15日に退職した木村和人が同23年1月21日に、医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社として設立されたものであり、その代表取締役である木村和人は、木村医科器械及び同社が使用していた木村商標1の存在について熟知していたといえるものである。
してみると、本件商標権者は、本件商標の登録出願前から、木村医科器械の破産手続開始決定やその後の経緯について知り得ることができたものであって、木村医科器械の在庫売買等に当たって木村商標1が使用されることを十分に知っていながら、木村商標1が商標登録されていないことを奇貨として、これと実質的に同一といい得るほど酷似している本件商標を木村医科器械の破産管財人の承諾を得ずに先取り的に商標登録出願し、登録を得たものであって、本件商標権者が医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社である事実に照らせば、本件商標権者の行為は、木村医科器械及びその事業の譲受人の事業の遂行を阻止し、木村商標1による利益の独占を図る意図でしたものであって、剽窃的なものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録出願の経緯には、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、その商標登録を認めることは、公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反するものである。
ウ 以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、その登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
4 まとめ
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反してされたものである。

第4 本件商標権者の意見
前記第3の取消理由に対して、商標権者は、次のように意見を述べている。
1 商標法第4条第1項第10号について
(1)理由に対する認否
ア 木村医科器械の設立目的、木村医科器械が破産手続開始決定を受けたこと、同手続きが廃止となったこと、木村医科器械の破産管財人がクロス・メディカルサービスに対し木村医科器械の有していた在庫品を売却したこと、木村医科器械の破産管財人が、木村商標1等に関する商標譲渡契約を締結したこと(但し、効力はない)は認める。その余は否認ないし不知。
また、破産管財人は、商標権を登録しているわけではないことから、商標譲渡契約によって、クロス・メディカルサービスに何らの権利も移転していない。
イ 木村医科器械が、「医療用機械器具」及び「医療用機械器具の修理及び保守」で、使用していたことは認める。ただし、木村医科器械もすべての製品やパンフレット等に木村商標1又は木村商標2を使用していたわけではなく、限られた範囲であり、木村医科器械株式会社という商号と相まって意味があったにすぎず、本件商標をみて、木村医科器械を想起するものではない。
また、木村医科器械が事業を停止した以後に、木村商標1又は木村商標2が木村医科器械又はクロス・メディカルサービスの商標として周知性を有していたことはない。
さらに、木村医科器械の事業がクロス・メディカルサービスに承継されたという点も大きな誤りである。
ウ 木村商標1ないし木村商標2の周知性について
医療用機械器具の取引者や主な納入先である大学の医学部附属病院等の需要者(以下「本件関係者」という。)の間において、木村医科器械が事業を継続していた段階においても、木村商標1ないし木村商標2が木村医科器械を表示するものとして、広く認識されていたことはなく、そもそも、木村商標1ないし木村商標2に周知性はなかったと考えるが、ましてや事業を停止した平成22年9月29日以降において、周知性は全くなく、本件商標の登録出願時及び登録査定時においても同様に周知性はない。
エ 本件商標と木村商標1及び木村商標2との類似性について
本件商標と木村商標1及び木村商標2との間に類似性はない。
本件商標の「KIMURA」は、商標権者の社名である株式会社キムラメドそしてその代表者である木村和人の氏をその由来としている。木村医科器械との混同を企図したものではない。
本件商標と木村商標1は、「KIMURA」部分の文字形状が異なっており、また本件商標はもっぱらブルーを使用するのに対して、木村商標1は黒か赤を使用している。さらに、木村商標1は、「KKIMURA」の文字を縁取る四角が特徴的であるのに対し、本件商標にはその四角がない。よって、これら2つの商標から受け取れる印象は一見して異なるものになっている。
また、木村商標2には、「MEDICAL INSTRUMENT」の文字が下部にあるため、本件商標と同一でないことは一見してわかる。木村商標2は、平成20年に当時の木村医科器械の管理部責任者であった商標権者の代表者が制作したものであり、木村商標2が使用されたのは平成20年から同22年9月までの短い期間である。しかも、木村医科器械は、当該期間においても木村商標1と木村商標2を併用して使用していた。このようなことからも木村商標2に関しては周知性があったとはいえない。(甲22の1を参照)。
(2)商標権者の具体的な意見
ア 木村医科器械は、平成22年9月29日に事業を停止し、その旨を広く広報していることから、当該商標をもって、木村医科器械の商品又は役務と誤認混同をあたえることはない。特に、本件は通常の事業と異なり、薬事法に基づく許認可等が必要となる事業であるという特殊性がある。
(ア)商品について
医療機器を市場に出荷するためには、発売元はまず薬事法に基づく「医療機器製造販売業」を取得しなければならない。そして、出荷したい商品ごとに、同じく薬事法に基づく「医療機器製造販売承認」を得る必要がある。
特に、商品ごとに承認を得なければならない「医療機器製造販売承認」の取得には一般的に一品目あたり1年から2年の期間を有し、さらに、費用は一品目あたり300万円をくだらない(木村医科器械製品の場合)。また、「医療機器製造販売承認」には商品の製造所をあらかじめ登録申請しなければならない。
このように、本件に関する医療機器を売却するには、「医療機器製造販売業」及び「医療機器製造販売承認」を取得することが必要であり、また、あらかじめ製造所を登録する必要があるが、法律上、事業を停止した会社、又は破産手続開始決定を受けた会社(あるいは破産手続が異時廃止となった会社)は、事実上、当該販売業のライセンスと個別商品の販売承認の資格を喪失することから、本件商標が使用されていようとも、木村医科器械が商品の売却等をすることができないことは、本件商品を購入する必要のある本件関係者においては当然の認識とされている。
医療機器の包装表示方法については薬事法によって具体的かつ厳密なルール付けがなされており、製造販売業者の名称や住所、製造業者の氏名や住所などを商品や添付文書に明示しなくてはならない(薬事法第63条,薬事法第63条の2,薬事法施行規則第222条)。
特に、木村医科器械の商品には薬事法上、製造所の存在と表記が必要となるところ、倒産状態となった会社は当然のことながら製造所としては認めらない。
この点からも、本件商品を購入する本件関係者が、たとえ、本件商標がついていたとしても、木村医科器械が売却した器械であると混同することはありえない。このような薬事法上の規定などを、医療機関等である本件関係者は当然知っていることから、本件商標をもって、木村医科器械が販売しているなどの出所混同が生じることはありえない。
(イ)役務について
医療機器の修理を業として営もうとするものは薬事法に基づく「医療機器修理業許可」を取得しなければならない(薬事法第40条の2第1項)。
倒産状態にある会社は、当該修理業を行うことができないことは、修理等を受ける医療機関等にとって周知の事実であり、本件商標を用いようとも、出所混同が生じることはありえない。
そして、「医療機器修理業許可」を取得したものは、それぞれの登録された許可番号等が存在し、その上で修理業を行うことになるのであり、このことは当然修理等を受ける医療機関等が認識し、さらに、医療機関自身確認を取る事項であることから、この点からも出所混同することはありえない(乙5:医療法第15条の2及び同施行令第4条の7)。
さらに、商標権者が本件商標を表示していたとしても、木村医科器械自体が事業を停止していることを知っている本件関係者は(ほとんどすべての取引先であるが)、商標権者が新たに「医療機器修理業許可」を取得して事業を行っていることを認識しており、木村医科器械が役務の提供を行っているものと混同することない。したがって、特定人の業務とのつながりにおいて認識されるものではないのであるから、周知性はない。
上記については、以下のとおりの事実があり、医療機関等が、木村医科の破産等を認識していたことから、本件商標を使用したとしても、役務における出所混同が生じることはありえない。
(a)申立代理人弁護士が、各債権者(医療機関等)に対し、事業を停止する旨のFAX等の通知を行ったこと(乙6)。
(b)従業員が全て解雇されており、木村医科器械の取引先等から元従業員宛に連絡があるなど、木村医科器械が事業を継続していないことは周知の状況であった。すなわち、平成22年9月29日夕刻、木村医科器械は、事業停止を理由に全社員を即時解雇したうえで屋外退去を命じた。社員退去後、事業所のシヤッターは固く閉ざされ、それ以降、人の出入りは排された。翌日の9月30日に1回目の不渡手形が発生し事実上の倒産となった。
ユーザーである病院においては、使用する機器のアフターサービスへの懸念から混乱はより大きいものとなった。商標権者には、木村医科器械の元社員が在籍しているが、それらの多くが離職後しばらく病院をはじめとする関係者への対応で奔走しなくてはならなかった。倒産の報は、それほどに各方面において影響が大きく、瞬く間に全国に知れわたることになった。
(c)本件商標が登録出願された平成23年12月19日の時点で、木村医科器械が事実上倒産したことはすでに全国的な周知事項であったこと、ましてや、本件商標に対し登録査定された同24年8月2日時点では、商標権者による木村医科器械製品を対象とする修理業が開始しており、商標権者は全国の病院機関、取扱業者、仕入業者にその旨を通知している。その通知において、商標権者は、木村医科器械が事実上倒産したこと、木村医科器械と商標権者が異なる法人であること、商標権者が新たに「医療機器修理業許可」を取得して修理業務を営んでいることを明確かつ積極的にアナウンスしている(乙7?乙9)。
医療機器の修理業を営むには然るべき要件を満たした人材の配置と設備・環境の整備が薬事法の条件であり、倒産状態にある木村医科器械がもはやその資格がないことは同じく薬事法に支配される医療従事者や関係者にとっては自明のことであった。
(d)破産手続開始決定によって、木村医科器械が事業を継続できないことは、債権者に対する債権届出又は官報公告などで明らかになっている。
(e)百歩譲って、破産管財人において、事業を行うことができることをもって、役務について、混同可能性があるとしても、破産手続において事業の継続は裁判所の許可事項であるが許可を受けていない。したがって、他人の「業務」といえない。
(f)破産手続きは、平成24年3月12日に異時廃止となっていることから、その点からも「業務」を行う主体がなく、事業の混同可能性はない。
イ クロス・メディカルサービスへの事業譲渡ではないこと
本件取消理由通知書は、木村医科器械との出所混同を指摘しているものと理解しているが、念のため、クロス・メディカルサービスが木村医科器械の事業を承継しておらず、クロス・メディカルサービスとの間でも、出所混同がないことについて付言しておく。
平成22年9月29日の取締役会決議でもって「医療用機械器具の修理及び保守」事業(以下「修理業」という。)をクロス・メディカルサービスに承継させたことにはならない。
医療機器の修理業を営もうとする者は自らの手で「医療機器修理業許可」を取得する必要があり、他者からの承継は認められていない。クロス・メディカルサービスが「医療機器修理業許可」を取得するのは平成22年11月15日であったから、取締役会決議のあった平成22年9月29日時点において同社は修理業を営むことはできず、また将来、許可を取得できるかどうかも不確定な状況であった(乙10)。クロス・メディカルサービスは、木村医科器械の「医療機器修理業許可」を継続したのではなく、自ら申請をおこなって取得しているのであり、またその時点から修理業を開始している。
ちなみに、商標権者であるキムラメドは、平成23年4月18日に同許可(許可番号13BS200593)を取得し、木村医科器械製品を対象とした修理業を今日まで営んでいる。
平成22年10月と同年11月にクロス・メディカルサービスは、修理メンテナンス開始に関する通知を各方面に発しているが、そこにも木村医科器械からの移管あるいは承継に関する記載は一切なく、木村医科器械とは関係のない、あくまでクロス・メディカルサービスの単独的・自発的行為であるという内容になっている(乙10,乙11)。
このように、修理業については事業の承継ということは薬事法律上ありえず、仮に、クロス・メディカルサービスが修理業を行っていたとしても、本件商標1の混同可能性は全くない。
(3)よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではない。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項7号適用に係る基本的な考え方
知的財産高等裁判所平成22年5月27日判決(平成22年(行ケ)第10032号)において、以下の判示がある。
商標法4条1項7号は、本来、商標を構成する「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に、そのような商標について、登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反)。
ところで、法4条1項7号は、上記のような場合ばかりではなく、商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても、商標保護を目的とする商標法の精神にもとり、商品流通社会の秩序を害し、公の秩序又は善良な風俗に反することになるから、そのような者から出願された商標について、登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。 ・・・(中略)・・・
しかし、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、法4条1項各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであえるといえる。すなわち、商標法は、商標登録を受けることができない商標について、同項8号で「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定し、同項10号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・・・」と規定し、同項15号で「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同生ずるおそれのある商標・・・」と規定し、同項19号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」と規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば、少なくとも、これらの条項(上記の法4条1項8号、10号、15号、19号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については、専ら、当該条項の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。
また、当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法4条1項19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば、出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して、・・・(中略)・・・出願人と本来商標登録を受けるべきと主張するものとの商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
(2)商標法第4条第1項第7号の取消理由がないこと
取消理由通知は、東京高等裁判所平成14年7月16日判決(平成14年(行ケ)第94号)にて、判断されている「剽窃的行為」なる考え方をもって、本件商標は、商標法4条1項7号に該当するとしているが、この点については、知的財産高等裁判所平成20年6月26日判決(平成19年(行ケ)第10391号・同第10392号)において、上記の趣旨を理由に排斥されている。同様の趣旨の裁判例として、知的財産高等裁判所平成24年6月27日判決(平成23年(行ケ)第10399号)がある。
上記のとおり、私的領域にまで拡大して、本号が適用されることは、特段の事情のある例外的な場合を除き、許されない。
この点については、東京高裁裁判所平成13年5月30日判決(平成12年(行ケ)第386号・同第387号)において、「そもそも、商標法4条1項7号に規定する公序良俗違反の事由は、一般の登録拒絶及び無効の事由と異なり、公益的理由に基づくものとして、同項1号ないし3号の事由等と共に後発的無効事由としても規定されているものであるから、このような同項7号の趣旨にかんがみると、同号に規定する公序良俗違反とは、社会公共の利益、社会の一般道徳観念、国際信義又は公正な取引秩序に反することをいうものと解するのが相当である。・・・単にその使用が不正競争防止法違反にあたるようなものは含まれない」のような判断もある。
また、前述した知的財産高等裁判所平成20年6月26日判決でも、「原告と被告との間の紛争は、本来、当事者間における契約や交渉等によって解決、調整が図られるべき事項であって、一般国民に影響を与える公益とは、関係がない事項である」と判示している。
本件は、商標権者と異議ある者の私的領域の問題であり、本件商標の使用が不正競争防止法違反にさえも該当するものではないことから、同号が適用されることは明らかな誤りである。
なお、特段の事情がないことも明らかである。
(3)その他、御庁の事実認定の誤りについて
ア 御庁は、「そのことにより一定の信用が蓄積された財産としての木村商標1が消滅するものではなく、申立人と木村医科器械の破産管財人であるみずき総合法律事務所の弁護士内藤平による同23年6月9日の木村医科器械の有していた在庫品に関する動産売買契約の締結及び同24年3月12日の木村商標1等に関する商標譲渡契約の締結により、申立人に譲渡されたとみるのが相当である」と記載している。
そもそも、信用がどのように譲渡されるのか不可思議な内容であることはさておき、さらに、破産管財人の上記在庫品である動産の譲渡は、オークション方式で行われたものであり、より高額を示したものが誰でも買い受けることができるにすぎないのであるから、この買受人による購入をもって、木村医科器械が持つ一定の信用を取得するということはありえない話である。
また、同様に、商標を買い受けることで、過去の木村医科器械の一定の信用を取得したり、また、木村医科器械との何らかの継続性を持つようなことが生じることもありえない。
したがって、当該記載は失当である。
イ 「本件商標権者の行為は、木村医科器械及びその事業の譲受人の事業の遂行を阻止し、」との記載があるが、唐突に理由なく、木村医科器械の「事業の譲受人」などの認定をしている点は明らかに失当であり、さらに、木村医科の事業の譲受人などは存在しないから、その点からも失当である。
事業譲渡とは、「一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うもの」をいい、単なる事業用財産または権利義務の集合の譲渡はこれにあたらないし、単に承継動産・不動産等を用いて同種の事業が行われるだけでは足りない。
本件では、単にオークションされた在庫品と商標が売却されたにすぎず、有機的一体として機能する財産の譲り受けではない。
ウ 御庁が、「剽窃的行為」と考える点についても、以下のとおり付言しておく。
(ア)「秘密保持に関する誓約書」については、平成25年4月22日付け上申書において説明したとおり、木村和人が木村医科器械から強制されたものである。木村和人は平成22年7月15日に退職しているが、本人の再三の求めにも応じず、木村医科器械は、退職証明書の交付、離職票の交付、社会保険脱退手続き、外部積立退職金支給などの退職手続などを放置し対応しなかった。また、当時、木村和人は、木村医科器械に対して150万円の貸付と遅滞している3か月の給与未払いがあったが、木村医科器械は貸金の返金や給与の支給はおろか借用書と給与明細書の交付さえも応じることはなかった。退職後1か月が経過しても、木村医科器械は退職手続きに応じることはなく、木村和人は、失業保険の交付申請や国民健康保険への加入もできず、経済的にも困窮し、見通しの立たない不安定な状況に追い込まれていた。そのような中、木村医科器械は、退職手続の開始を引き換えにして、誓約書の提出を木村和人に求めてきたのである。当時の木村和人には、もはや選択の余地がなく、やむなく提出したというのが事実である。
そもそも、木村医科器械には、従業員の退職後の競業避止を禁じる規定や規則はなく、就業規則にもその記載はなかった。従業員の退職後の進路を大きく制限するような重要事項であるに関わらず、従業員との間に事前の合意は一切なく、退職時にいきなり一方的な競業避止を義務付けるのは、社会的に不安定な状況にある退職者と会社の力関係に照らしたとき、公平であるとはいえない。
ましてや、今般のように、退職後1か月以上にわたり、会社が当たりまえにすべき退職手続を放置(これは労働基準法、雇用保険法違反である。)して、それと引き換えに誓約書の提出を求める行為は強制以外の何物でもなく、極めて卑劣であり、もとよりこれは違法である。
本来、退職後の競業避止に関しては、本人の職業選択の自由を侵害し得るものであり、相当の合理性や妥当性を持ちながら、より慎重に運用されるべきでものである。
もっとも、木村医科器械は、商標権者が事業を開始する以前に事業停止しており、また管財人も事業をしてないので、そもそも競合関係にもあたらない。
さらに、申立人が木村医科器械の事業を承継したわけではない点は前述したとおりである。同社から競業避止の誹りをいわれる理由もない。
(イ)御庁が何をもって、申立人に木村医科器械の事業の譲り受けがあったと考えているか、不明であるが、本件商標の申請時点において、申立人は動産を譲り受けも、木村商標1の譲り受けもしていない。木村商標1は、木村医科器械との関係では、商品名として使用されていたものではなく、会社名として使用されていたものであり、別の会社名である申立人が当該商標を必要とするなどということは想像できるものではない。
なお、申立人が破産管財人から在庫品として購入した本件ロゴを用いた動産を売却する行為が、本件商標の登録によって、阻害される関係にあるのか、検証がされてもいない。
(ウ)木村医科器械の製品カタログをサイトで使用しているとあるが、本サイトを実際に閲覧すれば明らかなとおり、あくまで本件商標権者の保守点検サービスの対象品として、木村医科器械の製品を案内しているにすぎないのであって、なんらかの混同を生じさせる目的でないことは明らかである。
また、一般的な商慣習として、あるメーカーの製品カタログを、その製品を扱う代理店や販売店が本来の目的でもって転用する行為は、日常的な商行為であり、一般的社会通念に照らしても道徳に反するとは到底いえないものである。
(4)よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第7号及び同項第10号該当性について
本件商標の取消理由は、前記第3のとおりであり、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反して登録されたものであるとした認定、判断は、妥当なものである。
2 商標権者の意見について
本件商標権者は、前記第3の取消理由に対して、前記第4のとおり、意見を述べているが、以下の理由により採用することができない。
(1)商標権者は、木村医科器械が平成22年9月29日に事業を停止し、その旨を広く広報していることから、また、特に、本件は通常の事業と異なり、薬事法に基づく許認可等が必要となる事業であるという特殊性があることから、本件商標をもって、木村医科器械の商品又は役務と誤認混同をあたえることはない旨主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項第10号は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれと類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」については、商標登録を受けることができない旨規定し、商品又は役務の出所の混同防止とともに、一定の信用を蓄積した未登録の周知商標の既得の利益を保護するところをその趣旨とするところ、本件についてみれば、前記第3の2認定のとおり、(a)木村商標1及び木村商標2は、商標権者とは「他人」である木村医科器械の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている商標」であること、(b)本件商標と木村商標1及び同2とは、類似の商標であること、(c)本件商標の指定商品及び指定役務と木村商標1及び同2の使用に係る商品及び役務とが同一のものであること、が認められる旨判断したものであって、木村医科器械の事業の停止により木村商標1及び同2の周知性が直ちに消滅するものであるとはいえないものであり、木村医科器械の事業の停止が広報されていることや該商標を使用する商品又は役務に係る事業の許認可の特殊性は、本件商標の本号該当性の要件に直接関係するものではなく、木村商標1及び同2が周知商標であることが認められる以上、商標権者の上記主張は失当である。
(2)商標権者は、商標法第4条第1項第7号が私的領域にまで拡大して適用されることは特段の事情のある例外的な場合を除き許されないものであり、また、本件商標について、特段の事情がないことも明らかである旨主張する。
しかしながら、前記第3の3(4)認定のとおり、本件商標に係る商標権者は、木村医科器械を退職した木村和人が医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社として設立したものであり、本件商標の登録出願前から、木村医科器械の破産手続開始決定やその後の経緯について知り得ることができたものであって、木村医科器械の在庫売買等に当たって木村商標1が使用されることを十分に知っていながら、木村商標1が商標登録されていないことを奇貨として、これと実質的に同一といい得るほど酷似している本件商標を木村医科器械の破産管財人の承諾を得ずに先取り的に商標登録出願し、登録を得たものであって、本件商標権者が医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社である事実に照らせば、本件商標権者の行為は、木村医科器械及びその事業の譲受人の事業の遂行を阻止し、木村商標1による利益の独占を図る意図でしたものであって、剽窃的なものといわなければならないものであり、本件商標の登録出願の経緯には、著しく社会的妥当性を欠くものがあるといわなければならないものであり、その商標登録を認めることは、商取引の秩序を乱すものであって、到底容認し得ないものとなっているのであり、商標権者が主張するような単なる私益的事情によるものということはできない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第10号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定に基づき、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲
(A)本件商標

(色彩については、原本を参照のこと。)

(B)木村商標1



異議決定日 2014-05-13 
出願番号 商願2011-94879(T2011-94879) 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (X1037)
T 1 651・ 25- Z (X1037)
最終処分 取消 
前審関与審査官 飯田 亜紀 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
手塚 義明
登録日 2012-09-28 
登録番号 商標登録第5524118号(T5524118) 
権利者 株式会社キムラメド
商標の称呼 キムラ、ケイ 
代理人 風祭 靖之 
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