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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013890073 審決 商標

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審決分類 審判 一部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W05
審判 一部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W05
審判 一部無効 商標の周知 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W05
審判 一部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W05
管理番号 1287600 
審判番号 無効2013-890072 
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-10-15 
確定日 2014-04-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第5577267号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5577267号の指定商品中、第5類「医療用腕環」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5577267号商標(以下「本件商標」という。)は、「アスリートエイド」の片仮名を標準文字で表してなり、平成24年5月17日に登録出願、第5類「医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,医療用腕環,患部矯正用テープ」及び第44類「あん摩,マッサージ及び指圧,鍼,灸,カイロプラクティック,整体,エステティック美容,柔道整復,医業,医療情報の提供,健康診断」を指定商品又は指定役務として、平成25年3月25日に登録査定、同年4月26日に設定登録されたものである。

2 引用商標
請求人が商標法第4条第1項第11号に関して引用する登録第4422102号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成10年3月12日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同12年10月6日に設定登録されたものであり、当該商標権は、同22年10月26日に存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続している。
同じく登録第4441402号商標(以下「引用商標2」という。)は、「アスリート」の片仮名を横書きしてなり、平成10年3月12日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同12年12月22日に設定登録されたものであり、当該商標権は、同23年1月11日に存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続している。
同じく登録第5134553号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ATHLETE」の欧文字を標準文字で表してなり、また、同じく登録第5134554号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなるものであり、共に平成19年9月7日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同20年5月16日に設定登録され、現に有効に存続している。
なお、これらを併せて、以下「引用商標」という場合がある。

3 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第65号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第3条第1項柱書違反について
ア 商標法第3条第1項柱書は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標については、・・・商標登録を受けることができる」と規定している。当該規定は、第一に、登録を受けられる商標は、「使用をする商標」として、現に使用している商標だけでなく、将来使用する商標も含まれることを述べている。ただし、当該規定が、将来においても使用されることのない商標までも登録して保護するもので無いことは明らかである。これは、商標法第1条に規定される「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を・・・目的とする」との商標法の目的の趣旨及び同法第50条の商標登録の取消しの審判の制度趣旨等に鑑みても当然のことである。
また、当該規定は、第二に、登録を受けられる商標は、「出願人の自己の業務」に係る商品又は役務について使用する商標であることを述べている。
すなわち、近い将来開始の業務を含む自己の業務が存在しない場合には、「自己の業務」に係る商品又は役務について、その商標を使用することは有り得ないものというべきである。
そうすると、本件商標は、指定商品中、第5類「医療用腕環」については、「自己の業務に係る商品について使用」をしていないものである。
イ 具体的な理由
(ア)甲第2号証は、本件商標の商標権者(以下「被請求人」という。)が運営していると認められるウェブサイトの写しである。当該ウェブサイトからは、被請求人の主な事業内容が、整骨院・治療院の経営等であることが認められる。
ここで、請求人は、当該ウェブサイトのすべてのページ内容を隈無く見てみたが、当該ウェブサイトにおいて、「医療用腕環」に相当する商品に関する記載を発見することはできなかった。また、インターネットにおける複数の検索エンジンを利用した調査によっても、被請求人が、「医療用腕環」に相当する商品を取り扱っている事実や、これを近い将来において製造・販売等するような記載も、一切発見することができなかった。
ちなみに、特許庁商標課編の「商品及び役務の区分解説[国際分類第9版対応]」によると、「医療用腕環」とは、磁気を利用した治療用腕環等、専ら医療用のものに限られる、と解説されている。
このような医療用機械器具の範躊の製品ともいうべき「医療用腕環」を、医療用機械器具メーカーは別として、整骨院・治療院の経営等を主な業務とする被請求人が、近い将来において製造・販売等するとは到底考えられない。
なお、第5類「医療用腕環」及び第10類「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」は、薬事法上の承認が必要とされる商品であるため、類似商品とされている。
そして、これらの指定商品を製造・販売するには、医療機器の製造販売業等の免許を取得した上で、薬事法上の承認を受けなくてはならず、その承認を受けるまでには、相当の準備期間が必要とされている。
しかし、被請求人により「医療用腕環」が使用されている事実が、現段階において一切発見されないということは、「医療用腕環」について、近い将来使用する意思がないといわざるを得ない。
また、被請求人は、薬事法上の承認が必要となる医療機器について、「アスリートエイド」という名称の登録を一切受けていない。
薬事法上の承認を受けている医療機器の名称等を検索するため、一般財団法人医療情報システム開発センターが提供している「医療機器データベース」において、「アスリートエイド」という名称を検索しても、被請求人が承認を受けている医療機器は、一件もヒットしない。
当該データベースを利用して、「アスリート」の文字を含む名称を検索しても、ヒットするのは、甲第3号証で示すように、請求人が使用している「アスリート」や「ATHLETE」の文字を冠した医療機器のみとなっている。
したがって、本件商標に係る指定商品中の「医療用腕環」については、本件商標は、現に使用していないばかりでなく、将来使用するとは到底考えられない。
すなわち、本件商標は、指定商品中の「医療用腕環」については、まさしく「自己の業務(近い将来開始の業務を含む。)が存在しないところに、自己の業務に係る商品について、その商標を使用することはあり得ない。」そのものであるといわなければならない。
(イ)甲第4号証(特許庁審査業務部商標課編纂の審査基準第1の「二、第3条第1項柱書」)には、「1.「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をしないことが明らかであるときは、原則として、第3条第1項柱書により登録を受けることができる商標に該当しないものとする。」とあり、その例として、(a)出願人の業務の範囲が法令上制限されているために、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合、(b)指定商品又は指定役務に係る業務を行うことができる者が法令上制限されているため、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合、が示されている。
前述のとおり、「医療用腕環」を製造・販売するには、医療機器の製造販売業等の免許を取得した上で、薬事法上の承認を受けなくてはならないが、被請求人は、「医療用腕環」について、この薬事法上の承認を受けているとは認められない。そのため、被請求人は、上記の例(b)における者に該当すると認められる。
したがって、この点からも、本件商標は、その指定商品中の「医療用腕環」について、商標法第3条第1項柱書の要件を具備していないと認められる。
以上のことから、本件商標に係る指定商品中の「医療用腕環」については、「自己の業務に係る商品」について使用しないことが明らかであって、商標法第3条第1項柱書の規定に違反してなされたものであり、「医療用腕環」についての本件商標の登録は、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
(2)商標法第4条第1項第10号について
ア 請求人の商標の周知性
(ア)請求人が使用をする商標のうち、「ATHLETE」、「アスリート」及びこれらを冠する商標は、請求人が製造販売する「ガイドワイヤー」の商標として、周知性を有しているとの判断が、すでに裁判及び審判において示されている(甲5の1?4)。
そして、その裁判及び審判においては、下記(a)ないし(e)の事実を認定することによって、請求人の商標が周知性を有しているとの判断を下しているものであり、また、遅くとも平成19年2月には、請求人の商標が周知性を獲得し、その後も、周知性が維持されているとの判断が下されている。
(a)請求人の営業
請求人は、昭和56年(1981年)に医療用機器の輸入、製造並びに国内販売を主な事業内容として設立された会社である。請求人は、循環器系分野の医療用機器を提供しているところ、心臓ペースメーカやEPカテーテル等のほか、ガイドワイヤーを取り扱っている(甲6)。
(b)ガイドワイヤーの取引状況
ガイドワイヤーとは、PCI(経皮的冠動脈形成術)と呼ばれる心臓カテーテル治療に用いられる医療機器である。PCIとは、腕や脚の血管からガイドワイヤーを心臓まで引き通して、そのガイドワイヤーをガイドとしてバルーンカテーテルを心臓の冠動脈まで押し込み、バルーンを膨らますことで冠動脈の塞栓等を解消する手術方法である(甲6)。
ガイドワイヤーは、薬事法上、製造販売には独立行政法人医薬品医療機器総合機構への申請及び厚生労働大臣の承認が必要な医療機器であり、PCIを行う病院に直接販売する方法と、販売代理店経由で販売する方法とがある。請求人は、全国に20か所以上の営業拠点を有し、代理店経由の場合を含め、請求人の営業担当者が直接病院施設を訪問し、製品の紹介・販売・サポートを行っている。
(c)請求人の有する商標
請求人は、「ATHLETE」及び「アスリート」のほか、「アスリートマーカー/ATHLETEMARKER」、「アスリートコンクエスト/ATHLETECONQUEST」、「アスリートミラクル/ATHLETEMIRACLE」、「アスリートゴールド/ATHLETEGOLD」等、「ATHLETE」、「アスリート」を冠する合計17の商標について、指定商品を「第10類 医療用機械器具」として登録を受けている。
(d)請求人商品の販売状況
請求人は、平成7年頃から、ガイドワイヤーに「ATHLETE」、「アスリート」を冠した上記(c)の商標を付し、これを「ATHLETE」、「アスリート」シリーズとして製造販売しており、平成7年度以降の請求人のカタログ等にも、「ATHLETE」、「アスリート」を冠した商標を付したガイドワイヤーが掲載されている(甲7?甲11)。
株式会社矢野経済研究所京都支社生命科学産業調査本部ヘルスケア部の調査資料や、株式会社アールアンドディ作成の「医療機器・用品年鑑」の各年度毎の市場分析によれば、請求人は、ガイドワイヤーの販売本数で、平成8年から平成12年まで約15%ないし25%を占めていた。その後、独占販売契約の打切りによる自社製品への切替えのため、平成13年は販売本数が減少したが、その後平成14年以降平成19年まで、約5%ないし8%のシェアを占めてきた。請求人は、ガイドワイヤーの販売本数ベースで、平成8年以降、平成13年を除き、毎年上位5社以内にランキングされている。上記市場分析においても、請求人が「ATHLETE」、「アスリート」シリーズのガイドワイヤーを市場展開されていることが記載されている(甲12?甲24)。
請求人は、平成18年4月から1年間の決算期及び平成19年4月から1年間の決算期において、ガイドワイヤーを用いる病院施設数が全国で約1000程度といわれているうちの、約750病院施設にガイドワイヤーを納品した。なお、納品実績の有無に関わらず、主要な病院施設のほとんどに営業活動も行なってきた。また、地域的にも全国47都道府県のそれぞれにある病院への納品実績がある。
(e)「Athlete GT SOFT」、「Athlete GT SOFT Type-S」、「Athlete GT Power SOFT」、「Athlete GT Intermediate」等、「ATHLETE」、「アスリート」が冠された商標が付された請求人のガイドワイヤーは、平成13年日本心血管カテーテル治療学会等の学会誌に掲載されたのをはじめ、学会予稿集や医学雑誌に多数回掲載されている(甲25?甲33)。
(イ)上記(ア)の裁判及び審判の審理終結日のうち、直近のものは、平成22年7月9日である。したがって、以上の裁判及び審判によって、請求人の商標について、少なくとも平成22年7月までは、「ガイドワイヤー」の商標としての周知性が維持されていることが、客観的に示されていると認められる。
以下では、さらに、平成22年以降においても、請求人の商標が「ガイドワイヤー」の商標として使用され、かつ周知性を維持していることを明らかにする。
請求人は、現在も、「ATHLETE」及び「アスリート」のほか、「ATHLETE」や「アスリート」を冠する合計21の商標について、第10類「医療用機械器具」を指定商品として登録を受けている(甲34)。
また、請求人は、平成22年以降においても、ガイドワイヤーに「ATHLETE」、「アスリート」を冠した商標を付し、これを「ATHLETE」、「アスリート」シリーズとして製造販売している(甲35?甲54,甲65)。
さらに、請求人が製造販売するガイドワイヤーは、平成22年以降においても、5%以上の販売シェアを占めており、前述の裁判や審判において、請求人の商標の周知性が認められた時点と同様のシェアを維持している。また、販売本数に関しても、平成22年以降、毎年上位4社以内にランキングされており、これも、前述の裁判や審判において、請求人の商標の周知性が認められた時点と同様の高い順位を維持している(甲55?甲61)。
なお、ガイドワイヤー市場において、このように、長期にわたって一定のシェアを維持して販売を継続している企業は、請求人のみであるといえる。ガイドワイヤー市場は、供給元企業の入れ替わりが激しく、長期にわたって一定のシェアを維持し、さらに同じブランドを継続的に使用し続けたことによって蓄積された業務上の信用(請求人の商標「ATHLETE」、「アスリート」を冠した商標に化体した信用)を保護することこそ、商標法の趣旨に合致する。
加えて、「ATHLETE」や「アスリート」が冠された商標が付された請求人のガイドワイヤーは、平成22年以降においても、医学雑誌等に複数回掲載されている(甲62?甲64)。
また、商標法第4条第1項第10号にいう「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」については、我が国において、全国民的に認識されていることを必要とするものではなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りるものである。そして、ガイドワイヤーは、前述の裁判や審判でも認定されているとおり、一般に市販されている商品ではなく、特定の医療関係者に販売元から直接又は問屋を通して売買されるものであって、その需要者は、医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に限定されると認められる。
以上に述べた事実から、「ATHLETE」、「アスリート」及びこれらを冠する商標は、請求人がガイドワイヤーについて使用する商標として、本件商標の出願前から、すでに日本国内の取引者・需要者において広く認識されるに至っており、また、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
イ 本件商標と請求人の使用商標との類否
本件商標は、「アスリートエイド」の片仮名からなる結合商標である。本件商標を構成する「アスリート」は「運動選手、競技者」等、「エイド」は「助力、補佐、補助器具」等を意味する普通名詞である。
そして、上記の認定のとおり、本件商標の一部を構成する「アスリート」の部分が、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し、請求人の商品を示すものとして周知性を獲得し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから、本件商標のうち「アスリート」の部分だけを、請求人の使用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものというべきである。
そうすると、本件商標からは、「アスリートエイド」全体としてのみならず、「アスリート」の部分からも称呼、観念が生じるということができる。
そして、後者の「アスリート」は、請求人の使用商標のうち「アスリート」と同一の片仮名からなるものであり、両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ、「運動選手、競技者」という同一の観念が生じるから、その外観を考慮しても、両者は類似する。
したがって、本件商標が医療用腕環に使用されるときは、本件商標中の「アスリート」は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において、周知の請求人の使用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。
しかるところ、1個の商標から2個以上の呼称、観念を生じる場合には、その1つの称呼、観念が登録商標と類似するときは、それぞれの商標は類似すると解すべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決参照)。
よって、本件商標から生じる称呼、観念の1つである「アスリート」と請求人の使用商標とが類似する以上、本件商標は、請求人の使用商標と類似するものである。
ウ 商品の類否
本件商標の指定商品のうち、無効審判請求に係る指定商品は、第5類「医療用腕環」であるところ、請求人が「ATHLETE」、「アスリート」及びこれらを冠する商標を付して周知性を獲得したのは、ガイドワイヤーである。両者は、医療という用途に使用され、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者が共通することから、類似の関係にある。
エ むすび
以上のとおり、本件商標は、請求人がガイドワイヤーに使用して周知性を獲得した「ATHLETE」、「アスリート」及びこれらを冠する商標と類似し、商品においても類似するから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(3)商標法第4条第1項第11号について
ア 引用商標
引用商標1ないし4は、前記2に記載のとおりである。
イ 本件商標と引用商標との類否
上記(2)で述べたことと同様に、本件商標のうち「アスリート」の部分だけを、引用商標1ないし4と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものというべきであるから、本件商標からは、「アスリートエイド」全体としてのみならず、「アスリート」の部分からも称呼、観念が生じるということができる。
他方、引用商標1ないし4からは「アスリート」の称呼が生じる。そして、引用商標1ないし4からは、「運動選手、競技者」等の観念が生じる。
そうすると、本件商標のうち「アスリート」の部分は、引用商標1ないし4と同一の「アスリート」という称呼が生じ、「運動選手、競技者」という同一の観念が生じるから、両者は類似する。さらに、引用商標2については、「アスリート」と片仮名で構成されることから、本件商標と外観も類似している。
そして、「アスリートエイド」が医療用機械器具に使用されるときは、本件商標中の「アスリート」は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において、引用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。
よって、本件商標から生じる称呼、観念の1つである「アスリート」と引用商標1ないし4とが類似する以上、本件商標は、引用商標1ないし4と類似するものである。
ウ 商品の類否
本件商標の指定商品のうち、無効審判請求に係る指定商品は、第5類「医療用腕環」であるところ、引用商標の指定商品は、第10類「医療用機械器具」である。医療用腕環も医療用機械器具も、いずれも医療という用途に使用され、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者が共通することから、類似の関係にある。
エ むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似し、指定商品においても類似するから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中、第5類「医療用腕環」について、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しておらず、また、同法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当するため、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。

4 被請求人の主張
被請求人は、答弁していない。

5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 請求人の使用商標
(ア)請求人は、昭和56年に医療用機器の輸入、製造並びに国内販売を主な事業内容として設立された会社であり、循環器系分野の医療用機器を提供しており、心臓ペースメーカやEPカテーテル等のほか、ガイドワイヤーを取り扱っている(甲6)。
(イ)ガイドワイヤーとは、PCI(経皮的冠動脈形成術)と呼ばれる心臓カテーテル治療に用いられる医療機器である。ガイドワイヤーは、製造販売について薬事法上所定の申請及び承認が必要な医療機器であり、PCIを行う病院に直接販売する方法と、販売代理店経由で販売する方法がある。
請求人は、全国に26か所の営業拠点を有し、販売代理店経由を含め、PCIを行う病院に対し、製品の紹介・販売・サポートを行っている。そして、全国に亘る大学の付属病院等を主要な納入先としている(甲5,甲6,甲65)。
(ウ)請求人は、引用商標1ないし4のほか、「ATHLETEPLUS」、「アスリートマジック/ATHLETEMAGIC」、「アスリートジーティ/ATHLETEGT」、「ATHLETEEEL/アスリートイール」など、計21件の商標について、指定商品を第10類「医療用機械器具」として登録を受けている(甲34の1?21)。
(エ)請求人は、平成7年頃から、ガイドワイヤーに「ATHLETE」、「ATHLETEPLUS」、「ATHLETE eel」、「ATHLETE GT」、「ATHLETE Wizard」、「アスリートプラス」、「アスリート スレンダー」、「アスリート GT」、「アスリート WIZARD」など、「ATHLETE」、「アスリート」を冠した商標を付し、これを「ATHLETE」、「アスリート」シリーズとして製造販売しており、平成7年以降継続して、これら商品についてのカタログ等を発行している(甲7の1?11,甲11,甲35?甲54)。
(オ)株式会社矢野経済研究所の調査資料や、株式会社アールアンドディ作成の「医療機器・用品年鑑」の年度毎の市場分析によれば、請求人は、ガイドワイヤーの販売本数で、平成8年から平成12年まで約15%ないし25%のシェアを占めていたこと、独占販売契約の打ち切りによる自社製品への切り替えのため、平成13年には販売が減少したが、平成14年以降平成19年まで約5%ないし8%のシェアを占め、その後平成24年に至る間も約5%ないし7%のシェアを占めてきたこと、請求人は、平成8年以降、平成13年を除き、ガイドワイヤーの販売本数で、毎年上位5位以内にランキングされていること、が認められる(甲12?甲24,甲55?甲61)。
(カ)「ATHLETE」、「アスリート」が冠された商標を付した請求人のガイドワイヤーは、平成13年日本心血管カテーテル治療学会等の学会誌に掲載されたのをはじめ、学会予稿集や医学雑誌に多数回掲載されている(甲25?甲32,甲62?甲64)。
イ 請求人の使用商標の周知性
商標法第4条第1項第10号にいう、いわゆる周知商標については、全国民的に認識されていることを要せず、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りると解される。
そして、上記アのとおり、(a)ガイドワイヤーが一般に市販されているものでなく、特定の医療関係者に売買されるものであること、(b)「ATHLETE」、「アスリート」及びこれを冠する商標を付したガイドワイヤーの販売本数が、平成8年以降ほぼ毎年上位5位以内にランキングされていること、(c)「ATHLETE」、「アスリート」シリーズのガイドワイヤーが、全国の大学病院等医療機関に納入されたと推認し得ること、(d)商品カタログ等への掲載のみならず、医療関係者が購読する雑誌等にも、たびたび、「ATHLETE」、「アスリート」シリーズのガイドワイヤーが掲載されていることなどが認められ、これらを総合すれば、本件商標の登録出願時において、既に、「ATHLETE」、「アスリート」及びこれを冠する商標は、請求人に係る商品(ガイドワイヤー)を表示する商標として、その需要者の間で広く認識されるに至っていたと認められ、その登録査定時においても周知性を維持していたと優に推認し得るものである。
ウ 本件商標と請求人の使用商標との類否
請求人の使用商標は、「ATHLETE」、「アスリート」あるいはこれらを冠した商標であるから、「ATHLETE」「アスリート」の文字に相応して「アスリート」(運動選手、競技者)の称呼・観念を生じるものである。
一方、本件商標は、「アスリートエイド」と表してなるものであるところ、「アスリート」が「運動選手、競技者」を意味する語であり、「エイド」が 「助力、補佐、補助器具」等を意味する語であって、両語を結合した標章からなるものとして看取されるものである。また、両語が不離に融合し、本件商標を常に不可分一体のものとして観察しなければ不自然であるとすべき格別の理由も見いだせない。
そして、上記イ認定のとおり、本件商標の一部を構成する「アスリート」が、医療関係者や医療用機械器具の取引者に対し、請求人の商品を示すものとして周知性を獲得し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから、本件商標について「アスリート」の部分をもって商標の類否を判断することも許されるというべきである。
そうとすれば、本件商標は、「アスリートエイド」全体としてのみならず、語頭に位置する「アスリート」の部分からも「アスリート」の称呼、「運動選手、競技者」の観念が生じるということができる。
してみると、本件商標と請求人の使用商標「アスリート」とは、外観の全体構成が異なるとはいえ、「アスリート」の片仮名部分において共通にする上、同一の称呼「アスリート」及び同一の観念「運動選手、競技者」を生じるものであるから、これらを同一又は類似の商品に使用するときには、同一事業者の業務に係る商品であるかのように誤認混同されるおそれがあるというべきであり、両者は類似の商標と判断するのが相当である。
エ 商品の類否
本件において、無効審判請求に係る指定商品は、「医療用腕環」であるところ、上記イ認定のとおり、周知性を獲得した商標が使用された商品は、「ガイドワイヤー」である。しかして、「医療用腕環」及び「ガイドワイヤー」の両商品は、共に医療の用途に供され、需要者・取引者を共通にするものであるから、類似の関係にあるといわざるを得ない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標は、ガイドワイヤーに使用されて需要者の間で広く認識されるに至った商標「アスリート」及びこれを冠する商標と類似し、商品についても類似するものであるから、指定商品「医療用腕環」について、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標及び引用商標2
本件商標は、「アスリートエイド」と表してなるものであるところ、「アスリート」が「運動選手、競技者」を意味する語であり、「エイド」が 「助力、補佐、補助器具」等を意味する語であって、両語を結合した標章からなるものとして看取されるものである。また、両語が不離に融合し、本件商標を常に不可分一体のものとして観察しなければ不自然であるとすべき格別の理由もみいだせない。
そして、上記(1)ウ認定のとおり、本件商標の一部を構成する「アスリート」が、医療関係者や医療用機械器具の取引者に対し、請求人の商品を示すものとして周知性を獲得し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから、本件商標について「アスリート」の部分をもって商標の類否を判断することも許されるというべきである。
そうとすれば、本件商標は、「アスリートエイド」全体としてのみならず、語頭に位置する「アスリート」の部分からも「アスリート」の称呼、「運動選手、競技者」の観念が生じるということができる。
一方、引用商標2は、「アスリート」の片仮名からなるものであり、構成文字に相応して「アスリート」の称呼、「運動選手、競技者」の観念を生じるものである。
イ 本件商標及び引用商標2との類否
本件商標と引用商標2とは、外観の全体構成が異なるとはいえ、「アスリート」の片仮名部分において共通にする上、同一の称呼「アスリート」、観念「運動選手、競技者」を生じるものであるから、これらを同一又は類似の商品に使用するときには、同一事業者の業務に係る商品であるかの如く誤認混同されるおそれがあるというべきであり、両者は類似の商標と判断するのが相当である。
ウ 指定商品の類否
本件商標の指定商品中、本件において無効審判請求に係る指定商品は、「医療用腕環」である。一方、引用商標2の指定商品は、「医療用機械器具」である。
しかして、医療用腕環も医療用機械器具も、共に医療の用途に供される商品であり、その需要者・取引者を共通にするものであるから、類似の関係にあるといわざるを得ない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、引用商標2に類似するものであり、かつ、その指定商品についても相抵触するものであるから、指定商品「医療用腕環」について、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、指定商品「医療用腕環」について、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)引用商標1


(2)引用商標4


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審理終結日 2014-02-20 
結審通知日 2014-02-25 
審決日 2014-03-20 
出願番号 商願2012-43365(T2012-43365) 
審決分類 T 1 12・ 26- Z (W05)
T 1 12・ 252- Z (W05)
T 1 12・ 255- Z (W05)
T 1 12・ 253- Z (W05)
最終処分 成立  
前審関与審査官 津金 純子 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 原田 信彦
酒井 福造
登録日 2013-04-26 
登録番号 商標登録第5577267号(T5577267) 
商標の称呼 アスリートエイド 
代理人 猪狩 充 

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