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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X37
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X37
管理番号 1286611 
審判番号 無効2012-890064 
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-07-31 
確定日 2014-03-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5433369号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5433369号商標(以下「本件商標」という。)は、「SPCW」の文字を横書きしてなり、平成22年11月8日に登録出願され、第37類「建設工事,土木一式工事,建設工事に関する助言,土木一式工事に関する助言」を指定役務として同23年8月3日に登録査定、同月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第102号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由の要旨
(1)本件商標は、平成11年から平成22年まで、建築土木工事である「軽量盛土工事」に使用されていた商標「S.P.C.W工法」(以下「引用商標1」という。)及び同じく「軽量盛土工事」に同18年6月から現在まで使用されている商標「N-S.P.C.W工法」(以下「引用商標2」という。)に類似するものであり、指定役務も同一又は類似するものであるから、商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に違反して登録されたものである。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。
(2)被請求人は、旧日本S.P.Cウォール工法研究会から変更した「N-S.P.C工法構造研究会」には加入せず、独自に業務を行うことにして「日本S.P.C工法研究会」の名称を使用しているが、そのことは、互いに任意の団体である以上仕方がないと考えてきた。
しかし、請求人が被請求人の行為を不正なものとして問題にするのは、被請求人が自社の技術である「SPCW工法」(特許を有しているとしている)を使用するとしながら、内容は「SP.Cウォール工法」そのままに、自ら実績を積み上げてきたかのように記載し、カタログもSP.C工法研究会のカタログをほぼそのまま引用しており、更に悪質なのは、請求人が旧NETIS登録は消滅して存在していないと告知しているにも関わらず、そのNETIS登録番号を掲載して営業を行い、業界が誤認混同するような取引行為をしていたからにほかならない。
2 「S.P.Cウォール工法」の開発及び名称の命名について
山岳部が多い我が国では、地域間を結ぶ道路の整備に経済的制約や地形的制約が大きく、山間部や河川に沿う道路構造物の建設や維持管理の面で斜面や法面の安定化対策が大きな問題となっていた。
業界では、斜面の切土を少なく施工することができ、かつ、極力、既存構造物を撤去することなく施工できる軽量盛土工法に着目し、急峻で狭隘な地形、また、脆弱な地盤での盛土を安全で経済的に築造するための技術開発が行われてきた。
その結果、平成11年3月には、落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として「S.P.Cウォール工法」が開発され、その工法研究会として、同年10月に「熊本S.P.C工法研究会」が正式に発足した。
同時に、「熊本エス・ピー・シー株式会社」が設立され、国土交通省技術事務所に「NETIS」(新技術情報システム)登録を行い、研究会会員の会社によって、各地で「S.P.Cウォール工法」(略称「S.P.C.W工法」)による多くの工事が行われた。
「S.P.Cウォール工法」とは、工場製作によるプレキャストコンクリート版をPC鋼棒により順次積み上げて、気泡混合軽量材の自立型枠を形成する方法であり、従来の落石覆工及び道路構築工法に比べて、大幅なコスト縮減と工期短縮の著しい効果が確認されて以来、国土交通省や地方自治体からの発注が増え施工事例も拡大し、急速に普及した工法である。
すなわち、「S.P.C.W工法」は、正式名称である「S.P.Cウォール工法」の略称であり、この略称をもって「軽量盛土工法」の商標として、国土交通省を始め、地方自治体や業界団体などに広く知られていたのである。
甲第3号証は、「S.P.C.W工法」の用途と実施工例であり、既設道路の防護、トンネルの防護、民家の防護など、実際に工事が行われた10例の用途が示されている(甲第3号証の1ないし4)。
また、平成11年6月から同18年10月までの「S.P.C.W工法」の施工実績を同19年10月現在でまとめた「S.P.C.W工法工事実績一覧表」によると、全国で168件の工事が行われている(甲第4号証)。
3 「S.P.C.W工法」の周知性について
(1)平成11年3月に、「軽量盛土工法」として開発された「S.P.Cウォール工法」は、当初、九州地方で工事が行なわれていたが、全九州への工法普及と会の発展を図るために活動していくことになり、「日本S.P.C工法研究会九州本部」が設立されたことは、甲第5号証のとおりである。甲第5号証には被請求人も研究会の理事のー人として名前を連ねている。
「S.P.Cウォール工法」については、国土交通省や地方自治体からの発注が増え、工事事例も拡大し急速に普及したことに伴い、設計・施工の手引きをまとめて公表するようにとの要望が多く寄せられたので、2004年(平成16年)4月15日に書籍「S.P.C.ウォール工法」の初版(約300頁)が理工図書株式会社から発行された(甲第21号証)。甲第21号証は抜粋であるが、第277頁には《参考資料》として、平成16年2月現在でまとめられた「S.P.C.ウォール工法工事実績一覧表」が掲載されている。甲第21号証の編集委員会の委員長は、現在の請求人代表者であり、被請求人も委員のー人となっていた。
(2)「S.P.Cウォール工法」は、当初から「S.P.C.W工法」の略称も使用されており、披請求人はその事実を知っていた(甲第22号証)。
すなわち、甲第22号証は、被請求人のホームページからダウンロードした被請求人のカタログ「SPCW工法(旧名称:S.P.C.ウォール工法)」である。その1葉目冒頭には「SPCW工法の用途と特徴」とあり、6行目には「SPCW工法(旧S.P.C.ウォール工法)は、平成12年3月国土交通省のパイロット事業に採用されて以来220件の施工実績を重ねることができた。」と説明しているとおり、当初から「SPCW工法」と略称されていたことを認めている。続けて、「平成22年11月SPCW工法と改称し、」とあるが、これは被請求人が本件商標を登録出願した年月であり、10年以上も使用されていた略称を勝手に出願して登録を得て、被請求人が受注する工法に使用開始したのであり、被請求人は平成19年以降、請求人の研究会とは袂を分かち、独自に工事を受注している。
さらに、6葉目には、「平成13年、島根県木次土木建築事務所より発注された松江木次線の災害防除工事として、軽量盛土工法を利用したSPCW工法落石覆工方式が完成した。」と記載しており、この記載からも当初より略称が使用されていた事実を認めている。その他、カタログでは、以前に工事が行なわれた施工例についてもすべて「SPCW工法」として説明している。
このように、甲第22号証によって、平成12年あるいは平成13年の工事から「S.P.Cウォール工法」は、「SPCW工法」の略称も使用されていたという事実が明らかにされている。
(3)平成11年3月に開発された「S.P.Cウォール工法」について同年9月、熊本S.P.C.工法研究会がまとめて配布した説明書では、その表紙に「S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)」として略称も記載されている(甲第23号証)。
また、平成13年11月に、熊本S.P.C.工法研究会と熊本KTB橋梁工法研究会がまとめて配布した「S.P.C.工法、KTB工法の施工例集/S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)/KTB工法(S.P.C橋梁)」の説明書にも、はっきりと「(S.P.C.W工法)」が記載されている(甲第24号証)。
このように、「S.P.Cウォール工法」は、開発された直後から作成され、各方面に配布された説明書にはっきりと「S.P.C.W工法」の略称が使用されていたのである。
(4)商標法第4条第1項第10号にいう、いわゆる周知商標は、最終消費者に周知されている必要はなく、取引者の間でのみ周知であることを含み、かつ、必ずしも全国的に周知でなくともよく、ある一地方で周知な商標であれば足りるのである。
「S.P.Cウォール工法」は、新しく開発されて以来、急速に拡大した工法であり、工事の発注者である国土交通省の担当者、地方自治体における建築工事事務所を始めとして、工事設計事務所、工事の受注者、元請建設会社、下請建設会社、作業員など工事に関わる者は数多くいるのである。
甲第23号証及び甲第24号証のとおり、「S.P.Cウォール工法」の略称である「S.P.C.W工法」も当初から使用されていたのであり、工事関係者に「S.P.Cウォール工法」が画期的な工法であることが広く知られるようになったのと併せて略称も広く知られていたのである。
甲第25号証ないし甲第52号証及び甲第56号証は、「S.P.Cウォール工法」及び「N-S.P.Cウォール工法」に長年携わってきている建設会社などによる「証明書」である。
その多くは、九州、四国、中国・近畿地方の会社であり、特に、九州及び四国地方における工事関係者の間では、「S.P.Cウォール工法」及びその略称である「S.P.C.W工法」は本件商標の登録出願前の平成15年頃には広く知られていたのである。
すなわち、工事における工法の名称の略称という性質、主に取引の迅速を旨として略称を使用することが多いという事情、書類上は正式名称を使用するという建前から、略称の周知性については、関係者による証明書が最も有効な立証手段となるのである。
(5)被請求人は、「S.P.C.ウォール工法」及びその略称が広く知られ、業界で評価が高い工法であり、かつ、自らも長年携わってきた工法であることから、請求人の研究会とは別に自ら同種の業務を行なうに当たり、略称が広く知られていたからこそ、周知性ただ乗りする形で、「S.P.C.W工法」の文字中、「.(ピリオド)」を取り、実質的に同一の商標を出願し登録を得たのである。
したがって、「S.P.C.ウォール工法」「S.P.C.W工法」に長年接してきた業界の間からは、被請求人の本件商標の無断取得を非難しているのであり、被請求人の「SPCW工法」について、請求人(会員を含む。)に係る工事であるかのように出所の混同を生じているのである。
(6)「N-S.P.C.W工法」について
請求人及び研究会会員は、新たに開発したプレキャスト版を使用する「N-S.P.Cウォール工法」の工事を開始したが、この工法は九州や四国・近畿地方にとどまらず全国的に工事が行なわれるようになり、それに伴って工法名が広く知られるようになった。
甲第53号証は、平成18年10月6日に、国土交通省九州地方整備局/新技術活用評価会議事務局から請求人あてに送付された「NETIS(新技術情報提供システム)に登録されている技術のNETIS掲載期間に関するご案内」であるが、別紙に請求人の技術名称として「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」として記載されている。
同号証の平成18年6月8日付け「評価試行方式」申請書にも技術名称として「S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)」と記載され、平成18年8月25日付けの「新技術情報提供システム(NETIS)登録申請書」及び平成18年9月21日付けの「実施規約 同意書」には、技術名称として「N-S.P.Cウォール工法(N-S.P.C.W工法)」と記載されている。
このことは、NETIS登録に係る技術名称が略称とともに登録されていることを示しており、従前から国土交通省九州地方整備局にも知られていることを示しているのである。
また、甲第54号証及び甲第55号証は、建設工業調査会(東京、横浜、大阪の3ヶ所に所在)の発行に係るインターネット発信の総合ガイドブック「ベース設計資料」であり、「N-S.P.Cウォール工法」、「N-S.P.Cウォール工法落石覆工方式 略称N-S.P.C-W工法」が掲載されている。このガイドブックは、商品名・企業データ等無料で見ることができ、リンク数約8,100件(甲第54号証)及び約8,200件(甲第55号証)となっており、記事や広告の掲載によって全国に知られるようになるのである。
(7)被請求人の答弁に対して
ア 被請求人は、請求人が甲第4号証を提出し「S.P.C.W工法」が使用されていたというが、表紙1枚に記載されているだけで(請求人の)主張の証拠になるのかなどと主張しているが、請求人は甲第3号証を提出しており、被請求人はこれを無視している。
また、甲第22号証を提出して説明したとおり、被請求人自ら平成12年ないし同13年から「SPCW工法」が使用されていたことを認めているのであり、答弁書の主張とは全く矛盾することになる。
甲第4号証にしても、工法工事実績表には正式名称を記載するのは当然であり、それをまとめて指称する表紙に略称を記載することは至極当然のことであり、表紙を一瞥しただけでインパクトを与えることになるのである。
イ 被請求人は、かかる工法の名称が、特定の者の出所表示としての商標として認識されていたとの証拠とはならないと主張している。
商標法第4条第1項第10号にいう「他人の業務にかかる・・・」にいう「他人」とは、特定の者である必要はないのであり、本件については、請求人を始め研究会会員が長年使用してきた工法の名称であり、かつ、その略称であり、引用各商標の使用の主体はそれで十分である。
そうでなければ、公共工事などは一社のみでできるものではなく大勢の関係者がいるため、たとえば、Aという会社に特定しなければならないとすれば、引用商標のような周知商標の保護は取り残されてしまうということになる。
4 「日本S.P.C工法研究会九州本部」の設立及び「N-S.P.C.工法構造研究会」の発足等について
(1)「熊本エス・ピー・シー株式会社」は、平成12年3月28日、「九州エス・ピー・シー株式会社」に名称変更し、さらに、同16年1月1日付けで「九州エス・ピー・シー株式会社」から「株式会社シビコン」ヘと名称変更された。
この間、「S.P.C工法研究会」は、九州各県で独自に活動していたが、平成16年9月3日、「日本S.P.C工法研究会九州本部」を設立して、全九州の工法普及と会の発展を図るために活動していくことになった(甲第5号証)。
被請求人は、土木建築工事一式の請負を主な業務とする会社であり、平成11年10月に「熊本エス・ピー・シー株式会社」が設立されたときからの研究会員であり、各地の工事に携わってきたものである。そして、請求人は、「熊本エス・ピー・シー株式会社」設立者の一人であり、工法の技術的な面及び営業についての統括者として、各地の工事に関わってきた。
なお、平成16年9月3日に開催された日本S.P.C工法研究会九州本部の「平成16年度 第1回総会、設立式 S.P.Cウォール工法出版記念祝賀会」資料(甲第73号証の1)における、役員名簿によれば、被請求人は理事の一人であり(同号証の2)、「議事録」(同号証の3)に添付されている出席者名簿にも名前を連ねている。また、「『日本S.P.C工法研究会』九州本部」の「会則」には当時の会員名簿が添付され(同号証の4)、総会設立式のパーティ費用の振込みの案内(同号証の5)、会員各位への年会費の振込みの案内が出されている(同号証の6)。そして、「S.P.Cウォール工法出版記念祝賀会」とは、研究会の事業の一つとして理工図書株式会社から出版された「S.P.Cウォール工法」の書籍(甲第21号証)のことであり、研究会編著の出版物として祝賀したものである。
(2)2004年(平成16年)7月16日に最終更新した「S.P.Cウォール工法」についての「NETIS」(新技術概要説明情報)(甲第74号証の1)において、開発会社としては、請求人が記載され、技術担当は請求人代表者の山田文男であり、被請求人は東京の自社住所に研究会の「総本部」を置き、営業を担当していた。研究会は、12箇所に支部などを設け、被請求人は、「日本S.P.C工法研究会総本部」を東京の自社内に置き、また、熊本支社において「熊本SPC工法研究会」を管理していた(同号証の2)。
(3)日本S.P.C工法研究会九州本部「平成17年度 第2回理事会」(資料:甲第75号証の1)は、第2回総会(平成17年9月16日)に先立って平成17年7月7日に開催された理事会であり、議事録によれば、被請求人代表取締役専務の長岡龍二氏が新副会長になっている(同号証の2)。
また、甲第76号証の1ないし3は、日本S.P.C工法研究会九州本部「平成17年度 第2回総会」(平成17年9月16日開催)資料、議事録及び平成17年9月改定の「会則」であり、第2回総会の出欠も兼ねた平成17年5月現在の「S.P.C工法研究会 九州本部会員名簿」によれば、被請求人も出席している(甲第76号証の4)。
第2回総会の「第3号議案 平成17年度事業計画」において、「官公庁へのPR」「各コンサルタントの対応」が立案されたが、その実行として各官公庁、各県庁及びコンサルタント各社などへ、甲第3号証として提出した「S.P.Cウォール工法の実施工例」を配布している。すなわち、研究会は、各官公庁、各県庁などPR活動が必要な個所には「S.P.Cウォール工法の実施工例」を配布しており、あらためてその配布場所、日時及び範囲を特定することは困難である。
そして、平成17年9月22日付け日本S.P.C工法研究会九州支部の会員あての第2回総会報告(甲第77号証)には、九州支部の活動範囲は、被請求人が管理する熊本支部を除く全域とすることなど、熊本支部との関係が記載されている。
なお、「日本S.P.C工法研究会九州本部」の新聞広告については、「九建日報」に2005年(平成17年)1月7日付け、2005年(平成17年)8月5日付け及び2006年(平成18年)1月13日付けで掲載しており(甲第78号証ないし甲第80号証)、2005年1月7日付け新聞広告には、被請求人の社長長岡信玄氏が会長として記載されている。すなわち、被請求人は、研究会会員として協力関係にあったのであり、一時は被請求人社長が会長にもなっていた。
(4)「日本S.P.C工法研究会九州本部」は、平成18年12月25日、名称を変更し、新たに「N-S.P.C工法構造研究会」が発足し、平成19年9月28日開催の「N-S.P.C工法構造研究会」の「平成19年度第3回総会」において、「当研究会は、下記2つの工法を統合して、1つの研究会として発足させました。また、統合により日本S.P.C工法研究会を廃止し、『N-S.P.C工法構造研究会』と名称変更し、新しい研究会として再出発を行います。」と明記している(甲第6号証)。
なお、甲第89号証は、「平成18年度研究会理事会」の資料であり、平成18年12月25日、被請求人を除き、全理事出席の理事会を開き、(a)今後は、「N-S.P.C工法構造研究会」に変更すること、(b)新NETIS登録については、事務局である請求人が行なうこと、(c)被請求人については、これまで、専用実施権、通常実施権、製造実施権を与え、全国のS P.C.ウォール工法の営業と技術をある程度まかせる形で研究会の運営費などを賄ってきたが、各地区のクレーム事故処理に研究会が振り回され、本来の研究会活動が行なわれていないことなどから、「日本S.P.C工法研究会」「S.P.Cウォール工法」の名称は、新NETIS登録後は使用せず、「N-S.P.Cウォール工法」「N-S.P.C工法構造研究会」とすること、(d)平成19年度3回研究会は、新NETIS登録後に開催することなどが決定された。
また、甲第90号証の1は、「平成19年度 第3回理事会・総会」議事録であり、「第19年度 第3回総会」と同時に開催された理事会と併せての議事録である。該総会においては、第19年度の役員改選(甲第90号証の2)、被請求人が研究会を退会したこと及び通常実施権の解消を研究会会長から直達したことの承認、第20年度決算報告並びに甲第3号証として提出した「S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)の用途と実施工例その1ないしその4」がこれまでの実績の例として配布された(同号証の3)。
「日本S.P.C工法研究会」は、発足以来長年、「S.P.C.W工法」の研究会として業界に定着していたが、その研究会の名称を変更しなければならなくなった理由の一つは、平成13年から同17年にかけて、パネル版の転倒事故などが起きたため、パネル版の構造の見直しと版の変更及びそれに伴う載荷実験の開始が迫られていたからであった。
「S.P.C.W工法」による工事は、各地域で数多く施工されたが、この工法に関し、各地区において事故が発生した。例えば、国土交通省九州地方整備局管内や四国地方整備局管内のパネル版の転倒事故やエアーモルタルの強度不足などによる事故であった。事故の原因は、いずれも施工時の問題であり、「施工マニュアル」を熟知していなかったため発生した事故であった。
事故の発生を受けて、国土交通省九州地方整備局内に委員会を設立して事故原因の追究と対応策、改善策などについて協議を行い、方針を決定した(甲第7号証)。
このような事故は、施工業者であった被請求人が管理する研究会員の工事によって、倒壊事故や異物混入によるクレームが発生したのであるが、被請求人は事故処理を怠ったため、請求人を始めとする研究会員は、管轄する国土交通省九州地方整備局管内あるいは国土交通省四国地方整備局管内の工事事務所に対して時間と費用を費やして事故処理をしなければならなかったという経緯があった。
また、「N-S.P.C工法構造研究会」は、被請求人あてに、平成19年10月18日付けで「平成19年8月6日の関東地方整備局湯西川ダム工事事務所に対するクレーム処理について」とする書面を送付した(甲第8号証)。すなわち、研究会及び請求人によるクレーム処理が5回目となり、多大な時間と費用をかけて対応したことを伝えたが、被請求人からの協力は全くなかった。
このクレーム処理に関して、施工業者であるライト工業株式会社と被請求人は、湯西川ダム工事事務所から出入り禁止を通達されたとのことであった。このように、被請求人が関わった工事による事故によって、「S.P.C.W工法」に対する信頼が揺らいだのは否めず、信用回復のための対策を取ることが喫緊の課題であった。
(5)新しく発足した「N-S.P.C工法構造研究会」では、新しい工法の名称を「N-S.P.Cウォール工法」(略称:N-S.P.C.W工法)に変更し、工法に使用する「擁壁用パネル」を「N-S.P.C.ウォール版」として工事を開始した。
すなわち、熊本県阿蘇地域振興局の発注に係る「国道442号道路改築(黒川3号橋下部工)工事」が平成16年11月から同17年3月末まで行われたが、既に「N-S.P.C.ウォール工法」の名称によって工事が行われた(甲第9号証)。
工事に先立って、平成16年1月15日及び同年2月13日に載荷試験である「SPCウォール実物大強度試験」が行われたが、この試験の報告書には、試験の目的として、「当実物大試験は、S.P.Cウォール工法の設計時点及び現地施工による問題点を改善し、S.P.Cウォール版の軽量化と作業時における転倒防止を目的として、新しいプレキャスト版を開発した。」と説明し、「N-S.P.C.ウォール版」と称することにして新しいウォール版を公にした(甲第10号証)。
その後、請求人は、平成16年7月16日に、「N-S.P.C工法構造研究会」による「新NETIS」登録手続を開始したのであり(甲第11号証)、請求人は当研究会の事務局を担当している。
「NETIS(ネティス)」とは、国土交通省が、新技術活用のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として整備した新技術情報システム(New Technology Information System=NETIS)のことであり、新技術はインターネットで一般に公開されている。
(6)上記のとおり、新たに開発したプレキャスト版である「N-S.P.C.ウォール版」を使用した工法である「N-S.P.C.ウォール工法」は実質的には、平成16年の工事から使用しており、かつ、「N-S.P.C.W工法」の略称も使用していたのであるが、平成19年6月8日に新しいNETIS登録が完了し、正式に「N-S.P.Cウォール工法 NETIS No.QS-000001-A」とされた。
甲第7号証の報告書は、国土交通省九州交通整備局九州事務所あての控であるが、旧NETIS登録(QS-000001)を廃止し、新NETIS(QS-000001-A)を登録したこと、平成13年度から各地区において発生したS.P.C.W工法による事故の原因を検証し、その後の対応策・改善策によって決定した事項を報告し、かつ、「日本S.P.C工法研究会」を「N-S.P.C工法構造研究会」に変更したことを報告しているのである。
請求人は、「N-S.P.C工法構造研究会」の事務局を務めており、平成19年10月4日には、被請求人あてに、「日本S.P.C工法研究会」を廃止して新しい研究会としたこと、及び、国土交通省九州技術事務所に新NETIS登録をした旨の通知をし、かつ、「旧日本S.P.C工法研究会」のNETIS登録は廃棄したため存在していないことも通知している(甲第12号証)。
平成19年10月29日には、「N-S.P.C.工法構造研究会」は会員各位あてに、倒壊事故に使用されたSPC版の制作中止を通知し(甲第13号証)、同年12月19日には、請求人は会員各位あてに、研究会の名称変更を行い、それに伴いNETIS登録番号が「QS-000001-A」に変更されたこと、かつ、工法名も「N-S.P.C.ウォール工法」に変更した旨を改めて通知している(甲第14号証)。
しかし、被請求人は、新たに発足した「N-S.P.C.工法構造研究会」には加入しなかった。
(7)その他、上記(4)ないし(6)に至った状況
ア 請求人から被請求人に対して、以下の書面等が送付されている。
(ア)平成15年10月20日、営業及び技術協定書の作成について、S.P.Cウォール工法を『日本S.P.C工法研究会』(総代理店フリー工業株式会社)に統一統合し、全国へ早期普及を行なうことを前提にしていること、本の出版(甲第21号証の書籍)に際しての費用について言及し、また、今後は基本協定書の作成が必要である旨などを通知している(甲第81号証)。
(イ)平成17年5月16日、実施料の支払いについて契約上の確認の書面を出している(甲第82号証)。
(ウ)平成17年11月1日、現在の「S.P.Cウォール工法」に対し、新しい考え方を取り入れた工法にする必要があること、工法の利点、欠点をよく理解して長期工法の計画と実行を行うこと、開発については、(被請求人も)参加されることを期待しております、などの内容の書面を出している(甲第83号証)。
(エ)平成17年12月14日、国土交通省八代河川国道事務所発注(熊本県)の、芋側地区下流水防災低水護岸工事における「S.P.Cウォール工法」について発生した異物混入事件についての書面(甲第84号証の1)。
「九州S.P.C工法研究会」は、被請求人が管理する熊本は管理外であり、被請求人へ事件の全容と今後の管理体制、管理基準の作成を依頼した。また、これまで国土交通省の全面的支援を受けて発注しただけに事件の発生が残念である旨述べている。
また、同日付け書面で(甲第84号証の2)、熊本県における「S.P.Cウォール工法」に関する異物混入事件について、事件対策の委員が任命されること、国交省から書類などの提出について通達があったことを通知し、熊本の件は被請求人が管理する「熊本S.P.C工法研究会」に依頼していること、この件も「熊本S.P.C工法研究会」が処理すべきことである。請求人側で対応するのであれば、「熊本S.P.C工法研究会」は今後、九州支部へ統合して管理の強化を図ることを通知している。
すなわち、「熊本S.P.C工法研究会」は、被請求人が管理するとされていたが、対外的には日本S.P.C工法研究会の支部のひとつであり、クレームは、請求人が事務局を務める日本S.P.C工法研究会へ通知されるのである。
イ 甲第85号証は、球磨川水系芋側護岸における建設資材などの存在についての資料であり、該事件について、その内容及び技術検討委員会の設置、緊急調査メモである。被請求人は、自己が管理する研究会に関する上記のような事件を生じさせたにもかかわらず、責任と誠意をもって対応していないため、請求人からの信頼性が失われつつあった。
ウ 甲第86号証の1及び2は、「N-S.P.C工法構造研究会」から被請求人あての平成18年4月1日付けの書面及び添付の会員名簿であり、平成17年度第2回理事会議事録(甲第76号の2)のとおり、被請求人を交えた専用実施権契約書の根拠となっていた特許出願が全て拒絶されたことなどで特許が成立しなかったため、契約の見直しと工法の改良に伴う新NETIS登録の申請に関して、「日本S.P.C工法研究会」の会員は研究会を退会するという手順を取り、かつ、通常実施権の契約を解消することを報告し、第18年度の総会は、新NETIS登録完了後、再開することを通知している。
なお、「N-S.P.C工法構造研究会」の正式な設立は、平成19年9月であるが、すでに設立準備をしていたので、差出人名が「N-S.P.C工法構造研究会」となっている。
エ 甲第87号証の1及び2は、平成18年8月1日付けの被請求人から基礎地盤コンサルタンツ株式会社及び山田文男あての書面であり、平成16年1月1日の専用実施権契約の解約の通知及びその後の通常実施権者の権利存続について「覚書」が送付されてきた。
これに対して、平成18年10月6日、請求人は、取締役会において被請求人との契約は取り交わさないことにした旨の回答を出した(甲第87号証の3)。その理由は、書面に挙げられており、今後は設計を行なった会社が実施に関係をしないと設計時点のいきさつが十分理解できないと考えられ、技術指導の充実、S.P.C工法の理解力の推進などの理由により、請求人は自社の設計に関係したところを実施することにする旨を通知している。
オ 甲第88号証は、平成18年11月15日付けの被請求人から「日本S.P.C工法 製造権契約者各位」あての書面(写し)であり、被請求人は、平成16年1月1日に基礎地盤コンサルタンツ株式会社、山田文男と締結した専用実施権契約は平成18年12月31日付けで消滅した旨を通知するとともに、「日本S.P.C工法研究会は、維持ならびに継続して行きます。」としており、独自に活動することを宣言している。
すなわち、被請求人は、「日本S.P.C工法研究会」が準備をしていた新しい研究会の研究会員として協力して業務を行うことができないことを覚り、同研究会から離れることを決めたものと思われ、かつ、解消した「日本S.P.C工法研究会」の名称をそのまま使用することにしたものと思われた。
(8)「N-S.P.C工法構造研究会」の発足時以降の状況
ア 甲第91号証の1及び2は、平成19年7月12日、香川県県民ホールにおいて開催された〔平成19年度〕建設新技術活用促進フォーラムの資料であり、このフォーラムは、国土交通省四国地方整備局の主催であり(甲第91号証の1)、四国の地域特性を活かした新技術の活用と普及促進、更なる発展をめざすというメインテーマに関して、請求人代表者の山田文男はパネルディスカッションのパネリストとして出席した。山田は、「N-S.P.Cウォール工法」について、パワーポイントを用いて説明を行い、7頁ないし9頁に、甲第3号証として提出した実施工例を挿入して説明を行った(甲第91号証の2)。フォーラムには約620名の参加者があり、パワーポイントの印刷物はすべての参加者にテキストとして配布された。
イ 甲第92号証は、平成19年11月吉日付けの「N-S.P.C工法構造研究会」及び請求人から会員各位あての書面であり、「N-S.P.C工法構造研究会」発足後の会員あての通知である。フリー工業株式会社、基礎地盤コンサルタンツ株式会社及び請求人の3社による実施契約は破棄したこと、新NETIS登録に伴い、工法名を「N-S.P.C工法」とし、「日本S.P.C工法研究会」を廃し、「N-S.P.C工法構造研究会」と変更したことなどを通知している。
ウ 甲第93号証は、平成20年1月22日付けの請求人から被請求人への書面であり、その内容は、被請求人から費用の負担金の支払いが滞っていることについて(後に清算された)、被請求人に対しては、本の製作(甲第21号証の書籍)、第1回目のNETIS登録にかかる事務処理、営業、設計に対しては側面から十分に応援してきたつもりであること、請求人は基礎地盤コンサルタンツ株式会社と共同でS.P.Cウォール工法の開発に携わっており 被請求人を迎えたのは全国へ普及できるパートナートして信頼できると評価したこと、しかしながら、この工法が全国へ普及することを期待したにもかかわらず、被請求人の管理下であまりにも事故処理が続いたこと、関東地方整備局湯西川ダムからクレーム(甲第8号証)が入ってくるとは思いもよらなかったことなどを述べており、被請求人に対する信頼性が揺らいでいることがわかる。
エ 平成20年2月28日、請求人は、「N-S.P.C工法構造研究会」の事務局として、「N-S.P.C工法構造研究会」に入会していない株式会社シビコン及び株式会社哲建設の2社に対し書面を送った(甲第94号証)。
すなわち、「S.P.Cウォール工法」を「N-S.P.Cウォール工法」と名称変更したこと、新NETISを登録したこと及び研究会を「N-S.P.C工法構造研究会」としたことを通知し、その理由を挙げている。
また、被請求人について、単独で「SPCW工法」と名称を変更して再出発されているが、それにはNETIS登録はないこと、研究外での名称の使用についての注意を与えている。
オ 被請求人は、請求人の筆頭株主である株式会社矢野興業へ、平成20年7月付けの「覚書」を送り、代表取締役矢野文昭氏との覚書締結を迫った(甲第95号証の1及び2)。
その中に、第6条として、「西日本SPC株式会社はSPC工法規格等を統一するため、出来るだけ速やかに現在のNETIS登録の名義人をフリー工業株式会社に変更する。」としており、全くあきれた申し出をした。
このことは、NETIS登録の名義人は請求人であることを重々承知のうえで、このような手段を取ったものと思われる。
これに対して、株式会社矢野興業の矢野会長は、請求人の弁護士と請求人あてにいきさつを説明し、当社を愚弄する様な書面であったため、放置していたこと、覚書の契約はしていないことの報告書が届いた(甲第95号証の3)
カ 「N-S.P.Cウォール工法」の新聞「九建日報」(株式会社九建日報社発行)への掲載広告を次のとおり行った。
(ア)2007年(平成19年)10月14日掲載(甲第96号証)
日本S.P.C工法研究会を解散し、新たにスタートしたN-S.P.C工法構造研究会の「平成19年度第3回総会」の開催と役員改選により、丸昭建設(株)社長の松村陽一郎氏が新会長に選出されたこと、事務局長の請求人代表者山田は、NETIS登録を行っているN-S.P.Cウォール工法とN-S.P.C合成橋工法の二つの工法を一つの研究会として普及活動を推進してまいりたい、などの挨拶を行っている。
(イ)2008年(平成20年)1月11日掲載(甲第97号証)
(ウ)2008年(平成20年)8月11日掲載(甲第98号証)
(エ)2009円(平成21年)1月14日掲載(甲第99号証)
(オ)2010年(平成22年)8月2日掲載(甲第100号証)
(カ)2010年(平成22年)1月13日掲載(甲第101号証)
キ 甲第102号証は、「N-S.P.C工法構造研究会(旧.日本S.P.C工法研究会)」のカタログであり、平成19年5月に作成したものである。表紙下方に、「N-S.P.C工法構造研究会」は「旧.日本S.P.C工法研究会」であったことを明示している。
5 本件商標と引用各商標の類否について
本件商標は、「SPCW」の欧文字4字を横一連に書してなり、第37類「建設工事、土木一式工事、建設工事に関する助言、土木一式工事に関する助言」を指定役務としており、本件商標からは「エスピイシイダブリュウ」の称呼が生ずるものとなっている。
引用商標1「S.P.C.W工法」は、「S.P.C.W」の欧文字4字と「工法」の漢字との結合商標であるが、工事の方法を意味する「工法」の文字のみには識別性がなく、引用商標1の要部は、「SPCW」の4文字であり、「エスピイシイダブリュウ」の一連の称呼が生ずる。そうすると、本件商標は、引用商標1に極めて類似する商標といわざるを得ず、役務においても、同一又は類似するものとなっている。
また、引用商標2「N-S.P.C.W工法」は、引用商標1の語頭に「N-」が結合したものであり、「N-」はNew(新しい)の意味を有するところから、識別性が希薄であり、引用商標2の要部は、引用商標1と同じく「SPCW」の4文字となる。
よって、本件商標は引用商標2にも極めて類似するものである。
6 被請求人の不正行為について
(1)被請求人は、先に説明したとおり、平成11年10月7日に「熊本エスピーシー株式会社」が設立されたときからの会員であり、請求人とともに、「日本S.P.C工法研究会」の理事の地位にあって、当時は、お互いに協力関係にあった。
しかし、被請求人は、平成19年9月28日に発足した「N-S.P.C.工法構造研究会」には加入せず、「日本S.P.C工法研究会」は廃止したとの決定を無視して、依然として、「S.P.C工法研究会」あるいは「日本S.P.C工法研究会」の名称を使用して工事をしているばかりか、2009年(平成21年)10月26日に検索したホームページには、「S.P.C.ウォール工法」の名称とそのNETISについて、「NETIS登録番号QS-000001」及び「NETIS登録番号QS-000001-A」を記載していたのである(甲第15号証)。
請求人は、「N-S.P.C工法構造研究会」の事務局として研究会の総意のもと、平成20年2月26日に、第37類「建設工事、建築工事に関する助言」を指定役務とする「N-S.P.C.ウォール工法」の商標登録出願をし、平成21年2月20日に商標登録第5205234号として設定登録された(甲第16号証)。
この商標登録に対して、被請求人は、平成22年2月15日付けで「商標登録第5205234号無効審判事件」の審判請求書を提出した。
しかしながら、無効2010-890010として審理された結果は、平成22年9月30日の審決(平成22年10月8日送達)において、「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論が下された。
この審決に対して、被請求人は、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起したが(平成22年(行ケ)第10342号)、平成23年3月17日に「原告の請求を棄却する。」旨の判決が下された。
(2)このような経緯を受けて、被請求人は、自己が管理する研究会の会員各位あて(会員は、被請求人を含めて7?8社にすぎないと思われる。)、平成23年3月16日付けの「日本S.P.C工法研究会とN-S.P.C.との諸事項の説明書」と題する書面を送り、その中で、商標登録について「山田氏側のN-SPCウォール工法の商標登録が完了したことに対して、査定取り消し審判請求中でありますが、山田氏側から商標権侵害と言われる恐れがある為、対策としまして、名称をSPCW工法(エスピーシーダブリュー工法)と変更しました。『日本S.P.C工法研究会』の名称はそのまま継続します。」と伝えている(甲第17号証)。
このことから、被請求人は、「S.P.C.ウォール工法」が本件商標を侵害するおそれがあることを自覚していたといえるのである。
(3)請求人は、被請求人が上記の商標登録無効審判を請求したことに伴い、「N-S.P.C.ウォール工法」(N-S.P.C.W工法)のNETIS登録番号(QS-000001-A)の記載を中断せざるを得なかった。
その理由は、NETIS登録の申請をする者が遵守すべき事項等を定めた国土交通省の「実施規約」において、(活用の中止若しくは中断等)の項58.[3](「○の中に3」を表す。)に、「申請技術に関して、法律に基づく処罰等を受けたときまたは係争が生じたとき」の「係争が生じたときに」該当することから、中断することになったのである(甲第18号証)。
一方、被請求人は、上記審決後の平成22年11月8日に、本件商標を出願しているのであり、かつ、上記判決が出たことから「SPCウォール工法」の商標を使用できないことを悟り、長年業界で使用されてきたことは被請求人も重々承知の「S.P.C.W工法」の名称から「SPCW」の商標を出願して登録を得たのであり、当然、業界には無断の行為であり、「N-S.P.C.W工法」を使用している業者から非難の声が挙がった。
また、被請求人のホームページによると、「軽量盛土工法」を「SPCW工法」としており、NETIS登録:QS-000001-Aが掲載されている(甲第19号証)。
このNETIS登録番号は、先に説明のとおり、「N-S.P.C工法構造研究会」を設立したときの番号であり、被請求人は研究会の会員ではないため使用できないにもかかわらず、工事を受注せんがためのものであり、勝手に利用して、工事の営業主体を誤認混同せしめるものである。
(4)NETIS(新技術情報システム)と工事発注の運用フローについては、次のとおりであり、「N-S.P.Cウォール工法QS-000001-A」の営業主体は、請求人及びN-S.P.C工法構造研究会の会員となっている各工事会社だけしかあり得ない。
ア 新技術にふさわしい特許等を中心に「NETIS」の登録申請を国土交通省に対して行なう。国土交通省では一定の新技術と判断して登録を受け付けた場合は、各整備局へ通達及び各県、各市へ通達すると共にネット上に掲載する。
イ 公共団体で工事発注の必要が生じた場合、設計会社へ公共工事の設計を各コンサルタント会社へ発注する。コンサルト会社は、当該公共工事の設計業務を受注して工法を比較検討し、使用工法を決定する。この段階=設計検討でも、NETIS登録申請の附属研究会組織が設計検討等に関与することもある。決定は安全性、経済性を含めて検討される。
ウ 使用工法が決定されると当該工法の研究会各支部、及び各会員へ連絡がある。各会員が独自の判断で入札に参加する。そこで注文主からの受注者の決定が行われ入札者が決まる。その際は、当然ながら、工事発注書の特記仕様書には、新工法新技術として「N-S.P.Cウォール工法QS-000001-A」を使用することが指定される。
(5)平成23年6月30日付けの「*フリー工業(株)工事実績表より」としてまとめられた一覧表(甲第20号証)は、その表題が「N-S.P.Cウォール工法(N-S.P.C.W)工事実績一覧」「旧S.P.Cウォール工法(旧S.P.C.W)」となっており、明らかに偽りの表示である。これらの工事は、被請求人が、入札時に指定された「N-S.P.Cウォール工法QS-000001-A」の営業主体であると偽って入札に参加して受注したものであり、本来は研究会員である工事会社が受注してしかるべきところ、被請求人の行為は、営業主体を偽り本来の営業主体へ損害を与えたものといわざるを得ない。
また、このNETIS登録番号は、先に説明のとおり、被請求人が請求人の商標権に対して商標登録無効審判を請求した後に、番号掲載を中断したものであり、かつ、平成22年6月4日以降消滅し、存在しないものである。
そして、「N-S.P.C工法構造研究会」は、被請求人からの無効審判請求及び訴訟に係る事件が終了したので、再度、NETIS登録を申請し、平成23年8月31日に、新NETIS登録No.QS-110020-Aを取得した。
しかるに、被請求人の「SPCW工法」には、NETIS登録はされていない。工事発注書の特記仕様書には、工法名とNETIS登録番号が記載され、その工法を使用することが指定されるため、自らのNETIS登録を有しない被請求人は、工事を受注せんがため、すでに消滅して存在しない「N-S.P.Cウォール工法」のNETIS登録を掲載しているのである。
そして、受注した後に、実際の工事は自らの工法である「SPCW工法」を使用しているのである。
被請求人の「SPCW工法」にNETIS登録がなされていないということは、それが新技術として活用されるべき技術には該当しないということであり、被請求人は「N-S.P.Cウォール工法」(N-SPCW工法)が業界で広く知られていることに「ただ乗り」をして、あたかも「N-S.P.Cウォール工法」を使用しているかの如く偽っているのであり、不公正な取引であるといわざるを得ない。
7 結論
以上のとおり、本件商標は、平成11年から平成22年までの間、「軽量盛土工法」に使用された「S.P.Cウォール工法」の略称として業界内では広く知られていた商標である「S.P.C.W工法」及び平成18年6月から現在まで使用されている「N-S.P.C.W工法」に類似するものであり、本件商標の指定役務も同一又は類似するものとして商標法第4条第1項第10号に該当する。
また、被請求人は、本件商標に、上記「N-S.P.C.W工法」の旧NETIS登録番号であって、すでに消滅して存在しないNETIS登録番号を無断で使用していることにより、「N-S.P.C.W工法」を使用して工事をしているかの如く虚偽の表示をしているのである。
よって、本件商標は、「N-S.P.C.W工法」にただ乗りをするという不正の目的をもって使用していることは明らかであり、商標法第4条第1項第19号に該当する。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号により、その商標登録は無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第18号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第10号について
(1)周知商標の保護
商標法第4条第1項第10号(以下、単に「第10号」ということがある。)は、いわゆる周知商標に関するものである。
立法趣旨は、商品又は役務の出所の混同防止とともに、一定の信用を蓄積した未登録有名商標の既得権の利益を保護するところにもある。すなわち、商標の使用をして「自己」の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識される程度に信用を形成したときは、「その者」は不正競争防止法による場合は別として、積極的に他人の使用を差し止めるなどの権利はないけれど、他人の商標登録を阻止することができる、とする規定であり、さらに、(その者は)、本号違反によって他の商標が登録されても、その商標権について第32条のいわゆる先使用権が認められる(特許庁編「工業所有権法逐条解説」)。
この解説に明記されているように、第10号でいう「周知商標」とは、ただ有名になった名称を言っているのではない。そうではなく、「周知商標」とは、その商標を使用した結果、(誰かの表示としてではなく)「自己」の業務に係る役務等を表示して需要者の間に広く認識されたときは、「その者」(その者だけ)が他人の商標登録を阻止できる、そのような商標のことなのである。
そして、この「自己」とは、現実にそれが何人であるかまで明確にされることは必ずしも必要はないが、一定の何人かの商品等の識別標識であるという点において周知でなければならない、のである(例:平成13年(ネ)第5748号 第3 当裁判所の判断1(2):乙第10号証(12頁3?4行))。
このように、第10号は、「自己」の業務に係る役務等を表示して需要者の間に広く認識されたときは、「その者だけ」が他人の商標登録を阻止できる、と規定しているのである。
(2)「S.P.C.W工法」の使用
請求人は、「S.P.C.W工法」は平成11年から22年まで使用されていた、と主張している。
その証拠として甲4号証を提出しているが、なぜそれが「S.P.C.W工法」が平成11年から使用されたという証拠になるのか不明である。
確かに、実績一覧では「番号」欄に1から168までが並んでいるが、しかしその一覧の「工法」欄には、「S.P.C.W工法」とはどこにも記載していないからである。
工法欄の記載は、すべて「S.P.C.ウォール工法」あるいは「S.P.C.フレーム工法」であって、「S.P.C.W工法」の記載は1件も存在しない。
一覧の表紙には「S.P.C.W工法」との記載があるが、表紙1枚に記載されているだけで、「平成11年から平成22年まで、使用されていた『S.P.C.W工法』(引用商標1)」との主張の証拠になるとはいえない。
実際に施工された工法は、「S.P.C.ウォール工法」あるいは「S.P.C.フレーム工法」でありながら、表紙1枚に記載された「S.P.C.W工法」が、未登録周知商標として後願を排除できる効力を備え、先使用の主張ができる立場を確保できるとはいえない。その上、甲4号証の記録は平成19年までのものであるところ、それがなぜ平成22年まで使用されたという証拠になるのか明らかでない。
(3)他人の業務
次に、第10号及び商標法第4条第1項第19号(以下、単に「第19号」ということがある。)にいう「他人の業務に係る役務」の「他人」について検討する。
前述のように、「工業所有権法逐条解説」によれば、第10号にいう「他人」とは、商標登録権利者からみた「他人」であり、その他人は、商標の使用をして「自己」の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識される程度に信用を形成したときは、「その者」は不正競争防止法による場合は別として、積極的に他人の使用を差し止めるなどの権利はないが、他人の商標登録を阻止することができ、さらに、(その者は)第10号違反によって他の商標が登録されても、その商標権について第32条のいわゆる先使用権が認められるという強い立場も与えられているのである。
本件の場合には、前記のように、まず「S.P.C.W工法」が使用されたという証拠が存在しないことを明らかにした。
次に、念のために、「S.P.C.W工法」が「自己」の業務に係る役務を表示するものとして使用されたか否か、「自己」の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識される程度に信用を形成しているか否かについて検討する。
すなわち、請求人は、「S.P.C.W工法」が「自己」の業務に係る役務を表示するものであることを立証し、「その者」が他人の商標登録を阻止することができる、と立証しているか、あるいは、請求人は、本件商標が登録されても先使用権が認められるほどの地位を備えた「その者」に該当すると立証しているかが論点である。
(4)施工実績と請求人との関係
甲第4号証によれば、「S.P.C.ウォール工法」は、平成11年6月から18年10月までの間に、少なくとも168件の施工実績があるとされる。
しかし、その受注者(施工会社)には多数の不特定な企業名が列挙されてはいるが、特定人、あるいは請求人の名称は一切、見いだすことができない。
そうすると、かかる工法の名称が、特定の者の出所表示としての商標と認識されていたとの証拠とはならない。
その上、請求人が、「『S.P.C.W工法』による工事は、各地域で数多く施工されたが、・・・」、あるいは「『S.P.C.ウォール工法』の略称として業界内では広く知られていた商標である『S.P.C.W工法』・・・」と述べているところからしても、この工法名が「特定の者」の業務を表す商標として使用され機能していると考えることはできない。
付言するに、請求人は、ここでなにげなく「『S.P.C.W工法』による工事は、各地域で数多く施工されたが、・・・」と述べ、甲第4号証に示された実際の多数の工事名称は「S.P.C.ウォール工法」であったにもかかわらず、その名称を「S.P.C.W工法」とすり替えているのである。
また、「『S.P.C.ウォール工法』の略称として業界内では広く知られていた商標である『S.P.C.W工法』・・・」と述べ、実際の工事名称は「S.P.C.ウォール工法」であっただけであるものを、客観的な証拠を一つも示さずに、簡単に「略称」と位置付けているのである。あるいは、甲第4号証の表紙1枚の記載がその証拠とでもいうのだろうか。
(5)「特定の者」の表示としての周知性
ア そうすると、もし「S.P.C.W工法」の名称が周知であったとしても(甲第4号証に示された実際の施工名は「S.P.C.ウォール工法」である。)、それが「S.P.C.ウォール工法」の略称であることの意味合いを凌駕するほどにかかる役務の取引指標として使用されているとする証左は示されておらず、そのような取引の実態を示す証拠も存在しないのであるから、「特定の者」の出所標識としての周知な商標とは到底いい得ないところであり、特定の者の商標として使用されていたものではないから、その使用によって商標としての周知性を確立していたということはできない。
イ 甲第21号証には60件の工事実績、甲第3号証には10件の工事実績、そして、甲第4号証には168件の工事実績が記戟されているが、その発注者名、施工者名をみると、ほぼ全件が別々の施工者であり、しかも請求人の名称は存在しない。
それ以外の証拠のいずれをみても、請求人が主張する工法名を使用した「発注者」や「受注者」、すなわち周知にしたという「自己」は、請求人の主張のとおりに全国的に広く入り乱れている。
ウ また、請求人は、「S.P.Cウォール工法」及び「N-S.P.Cウォール工法」に長年携わってきている建設会社などによる「証明書」(甲第25号証ないし甲第52号証及び甲第56号証)を提出し、その提出の趣旨として、「その多くは、九州、四国、中国、近畿地方の会社であり、特に九州及び四国地方における工事関係者の間では、『S.P.Cウォール工法』及びその略称である『S.P.C.W工法』は本件商標の登録出願前の平成15年頃には広く知られていたのである。」とある。この記載から明らかなように「S.P.C.W工法」にしろ、「N-S.P.C.ウォール工法」にしろ、上記証拠によれば、「九州、四国、中国、近畿地方の会社」、特に九州及び四国地方における工事関係者の間では、「S.P.Cウォール工法」及びその略称である「S.P.C.W工法」は本件商標の登録出願前の平成15年頃には、別々の法人が広く使用する名称として知られていたのである(証明書によれば約30の別々の法人である)。
そして、この証明願には、第10号に関する証明としては、肝心の点の証明が抜けている。すなわち、第10号でいう「他人」の名称が一切記載されていないのである。
そうすると、この証明は、全国で多数の業者が「S.P.Cウォール工法」という工法の名称をばらばらに入り乱れて使用していたという証明でしかない。
したがって、すべての証明書は、請求人の「自己」、「その者だけ」の使用としての立証とならない。
エ 請求人は、「S.P.C.ウォール工法」の略称として「S.P.C.W工法」が使用されていたから、「この略称の周知性については関係者による証明書が最も有効な立証手段となるのである。」と主張している。
この点、「略称」に該当するか否かはさておき、約30の別々の法人が証明した証明書によって、いったいどのようにして「略称」が第10号でいう「自己」や「その者」の「周知な商標」に該当することを証明しようというのか。
前記のケースと同様に、約30の別々の企業が「略称」と称する工法の名称を日本全国で入り乱れて使用していたと証明しているが、証明願のどこにも第10号でいう「他人」についての記載がない。
しかし、「略称」を周知にした「他人」が存在しないのだから、それは証明ができないはずである。
オ 請求人は、甲第22号証として、被請求人のホームページからダウンロードした被請求人のカタログ「SPCW工法(旧名称S.P.C.ウオール工法)」を提出した。
その提出の趣旨は、「S.P.C.W工法」という名称は本件商標の出願前から被請求人が使用したということのようである。
しかし、この名称を、被請求人が主催する「日本S.P.C.工法研究会」が、自己の役務を表示するものとして使用していた、とカタログに記載して、-体なにが問題なのか。
カ このように、「S.P.C.W工法」や「S.P.Cウォール工法」などの工法の名称が第10号で規定する「周知商標」として立証されていないのであれば、まず第10号の周知性の要件が発生しないことは明らかである。
以上のとおり、本件審判請求における多数の証拠によっても、本件商標は、特定の者の出所表示として需要者の問で広く認識されているということはできず、特定の者の業務を表す商標として使用され機能しているということもできない。
それよりもかえって、証拠記載の工法の名称が、請求人以外の多数の発注者、受注者によって知られていたことから、かかる工法名が特定の者の出所標識としての商標と認識されていないということになる。
(6)類否の対象が立証されていない
第10号は、「他人の周知の商標又はこれと類似する商標」であることが要件となっている。
その論点の請求人の主張は、本件商標は、平成11年から平成22年まで使用されていた「S.P.C.W工法」(引用商標1)に類似するというものである。
しかし、既に詳細に述べたように、甲第4号証において立証された平成11年から使用されていた工法名は、「S.P.C.W工法」ではなく、「S.P.C.ウォール工法」(以下「使用商標」という。)である。
このように、請求人は、立証されていない仮定の商標「S.P.C.W工法」を根拠に本件商標は「類似するものであり」と結論付けているので、その点の検討、答弁はできないから、甲第4号証として証拠が提出された使用商標「S.P.C.ウォール工法」と本件商標「SPCW」とが類似するか否かについて検討する。
(7)商標の類否
本件商標と使用商標とを対比すると、本件商標「SPCW」は、全体として外観上でまとまりよく?体として構成された、観念の生じない造語であり、全体の文字より生ずると認められる称呼「エスピーシーダブリュー」も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
それに対して、使用商標は、ローマ字、片仮名、漢字を含めてまとまりなく構成されており、その称呼は「エスピーシーウォールコウホウ」である。
このように比較すれば、両者が称呼、外観及び観念の上で混同する可能性がないこと、両者が類似しないことは明らかである。
(8)小括
このように、請求人の主張及び提出された証拠によっても、「S.P.C.W工法」が、「他人」たる請求人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めることは到底できず、さらに、本件商標と甲第4号証に示された使用商標とが類似しないことも明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第19号について
(1)第19号は「類似」が前提
本件商標が第19号に違反して登録されたものであるとする請求人の主張は、本件商標と「N-S.P.C.W工法」(引用商標2)が類似するという要件が成立することが前提である。
そして、両者が類似するとする請求人の主張は、以下のとおりである。
「引用商標2『N-S.P.C.W工法』は、引用商標1(「S.P.C.W工法」)の語頭に『N-』が結合したものであり、『N-』はNew(新しい)の意味を有するところから、識別性が希薄であり、引用商標2の要部は引用商標1と同じく『SPCW』の4文字となる。よって、本件商標は引用商標2にもきわめて類似するものである。」
しかし、この主張が、これまでの多くの審決例から判断して誤りであることは明らかである。
(2)過去の審決例
本件商標は「SPCW」であり、引用商標2は「N-S.P.C.W工法」である。「工法」やピリオドの有無はさておき、両者の相違の一つは「N-」の有無である。
ところが、過去のほとんどの審決例では、ハイフォンで結合した商標は、ハイフォンを使用することによって、全体をもって一体不可分の商標であると判断している。
特に、欧文字1字と識別性を有する語を結合させた結合商標は、当該識別性を有する語と非類似であると判断されており、欧文字1字にハイフォンを付した商標とそれが存在しない商標と比較して両者を「非類似」とした審決は無数にある(乙第1号証)。
(3)小括
以上の審決例から明らかなように、引用商標2「N-S.P.C.W工法」と、本件商標「SPCW」が「きわめて類似する」とする主張は、特許庁の査定、審決の傾向を全く無視した請求人の独断的な見解であって到底肯定できるものではない。
そうであれば、請求人の第19号に関する主張は、その前提条件を誤ったものである。
3 不正行為について
(1)請求人の主張について
請求人の主張の要旨は、(a)本件商標は、平成11年から22年までの間に使用された「S.P.C.ウォール工法」の略称として業界内では広く知られた商標である「S.P.C.W工法」に類似し、また、平成18年6月から現在まで使用されている「N-S.P.C.ウォール工法」に類似するから、第10号に該当する、(b)被請求人は、本件商標に既に消滅しているNETIS登録番号を無断で使用することにより、「N-S.P.C.W工法」を使用して工事をしている如く虚偽の表示をしており、本件商標は、「N-S.P.C.W工法」にただ乗りするという不正の目的をもって使用していることは明らかであるから第19号に該当する、というものである。
(2)第10号について
第10号は、「不正の目的」とは無関係である。したがって、なぜここに第10号が出てくるのか分からない。そして、本件商標が第10号に該当しないことは既に詳細に説明したとおりである。
(3)第19号について
ア 前記のように、本件商標「SPCW」は、「N-S.P.C.W工法」と同一でないことはもちろん、類似もしないのであるから、第19号の前提を欠くものである。
次に、本件商標が第19号に該当するとの請求人の主張を検討するが、その経緯として名称の変更の主張が前提となっている。
請求人の主張は、「S.P.C.W工法」の事故の発生によって「S.P.C.W工法」に対する信頼が揺らいだので、新しい工法の名称を「N-S.P.C.ウォール工法」と変更して工事を開始した、という経緯のようである。
そこには事故と名称変更との経緯が詳細に説明してあるが、その説明によれば、請求人の工法が事故を起こした工法である「S.P.C.W工法」と同?視されてはかなわないということから新たに開発したと称するプレキャスト版を使用し、新たな名称「N-S.P.C.ウォール工法」を選択した、というものである。
イ 請求人は、名称変更の理由として、繰り返し事故の重大性を強調している。しかし、自動車のリコール問題をみるまでもなく、製造業では残念ながら事故は付き物であり、そうした事故を乗り越え、ノウハウを蓄積して産業は発展しているのである。現に請求人の工法でも多くの事故が発生している。
その一例を示すと、高知県の「安満地福良線道路改良工事」において「N-S.P.C工法構造研究会」の会員である株式会社ジオテックによってなされた工事にみられるとおりである(乙第2号証)。しかし、乙第2号証にみられるような事故を起こしたからといって請求人が「N-S.P.C.ウォール工法」の名称を廃止して、更に新たな工法、新たな名称を選択したとは聞いていない。
このように、製造業において、その原因(本件の場合はパネル自体の欠陥ではなく施工技術の未熟が原因)を究明して乗り越えてノウハウを蓄積して行かねばならないものなのである。
ウ 請求人が認めているように、問題の事故は、パネル版がバリッと破壊したとか、土圧の理論が基本的に誤っていたということでは全くなく、請求人のいうように「事故の原因はいずれも施工時の問題であり、施工マニュアルを熟知していなかったために発生した事故であった。」(甲第7号証)。
被請求人は、この事故でも「施工マニュアル」の周知と徹底を図って乗り越えることができたし、その経験、ノウハウを蓄積して従来のまま営業を続け、発注者からは従来と同様に継続して受注していた。
このように、被請求人は、請求人が繰り返して指摘する事故の影響を全く受けることなく、業務を継続していたことから、「SPCウォール工法」を「廃止する」理由、名称を変更する理由など全くなかったことを明確にしておく。
エ しかし、請求人は、被請求人が関わった工事による事故によって「S.P.C.ウォール工法」に対する信頼が揺らいだと判断し、信用回復のための対策を取ることが喫緊の課題であるとした。その結果、「N-SPC工法研究会と名称変更し、新しい研究会として再出発を行います。」と宣言して「再出発」した。
その際、「日本SPC工法研究会を廃止し」と主張していたが、被請求人としては、マニュアルの順守を徹底することで従来と同様の工法で順調に受注を続けていたから、なんらの動揺もせず、請求人の「再出発」について妨害する必要もなかった。
それよりも、競合する技術が並存することは、発注者にとって選択の余地が増えて公平担保の見地から好ましい状況であり、被請求人にとっても営業活動が容易になると判断した。
オ 製造業で事故は付き物であり、自らも事故を起こした経験を持つ請求人は、当該事故だけを原因としたように繰り返し公言してなぜ「再出発」したのか。理由は単純である。被請求人と利益の分配することなく、自分が中心となった新たな組織からの利益を独占するためである。
請求人は、多くの参加企業を得て「S.P.C.ウォール工法」の知名度が上がり、施工実績が向上したことをみてライセンス事業展開の妙味を知り、この事故を幸いに、これを理由として自らが中心となった組織「N-S.P.C.工法構造研究会」なる組織を作り、商標「N-S.P.Cウォール工法」を登録して利益を独占しようと試みたのである。
しかし、このような行為は、ここまでであれば、自由競争の社会で自由に選択できる行為なのであって、なんら攻撃されるものではなかった。
カ 「N-S.P.C.ウォール工法」と称して別のタイトルをつけてみても、その製品、施工法は特別に新しいものではなく実態は従来の工法と変わりはなかった。
請求人は、「新たに開発したプレキャスト版である『N-S.P.C.ウォール版』を使用した工法」と称しているが、請求人が自ら認めているように「事故の原因はいずれも施工時の問題であり『施工マニュアル』を熟知していなかったため発生した事故」なのであって、プレキャスト版が折れたとか破損したことではなかったのであるから、事故の再発防止としても何ら新たな開発の余地がなかったのである。
しかし、それでは請求人の「再出発」にならないので、プレキャスト版の試験を行ったり、NETIS登録(この登録には新規性の審査はない)を行ったりして、それらしく装ったのが「N-S.P.C.ウォール工法」なのである。
内容がどうあれ、新型、再出発と自称してビジネスを始めることは自由競争社会で誰にでも当然認められることであって、それを非難、妨害するものではない。
キ ところで、「新型」の位置付けであるが、カメラやテレビのように手に取れる製品であれば「新型」の発売によって「旧型」の販売量が激減するのが一般的である。しかし、発注時にはまだ商品の存在しない「建設サービス」ではそうではない。実績が全くない「新型」の工事を発注して事故が起きたら発注者がその責任を負うことになるからである。誰もそのような責任を負いたくないから「N-S.P.C.ウォール工法」と名称変更するのは自由であったが、実績のない「N?S.P.C.ウォール工法」では発注がなく受注につながらなかった。
一方、「S.P.C工法」の方はといえば、被請求人が運営し、請求人からは「廃止した」などと宣言された「日本S.P.C工法研究会」の方にはこの技術分野では著名な企業がそろっていた。例えば、東京証券取引所1部上場会社である、日特建設株式会社、ライト工業株式会社、その他、麻生フォームリート株式会社、共和コンクリート株式会社などの著名企業で構成され、被請求人もいわゆる「フリーフレーム工法」を開発して日本全国、東南アジアに普及させた著名企業として知られていた。
これらの企業群が、請求人の指摘する事故の再発を防止することで、そのノウハウを実績に変えて売上を伸ばしていた。
このような著名企業が名を連ねた「日本S.P.C工法研究会」と、「再出発」したばかりの「N?S.P.C.工法構造研究会」とではその信用力では到底比較にならなかった。
ク そうはいっても「再出発を行います」、「新たに開発したプレキャスト版」などと宣言した以上、今さら「これまで膨大な実績のある『S.P.C.工法』と実は同じ工法です」と宣伝することはできない。
せっかく「再出発」したのに受注につながらない原因は何か。それは、被請求人が過去の事故を乗り越えて、その後も「SPC工法」として順調に受注を続けているからである。
このように「再出発」をしてみたものの、「S.P.C.工法」の方では、被請求人は「N?S.P.C.工法構造研究会」には加入せず、「廃止」の決定を無視して「S.P.C.工法研究会」などの名称を使用して工事を続けて行っているし、請求人の「再出発」後も被請求人は順調に受注を続けている。
それに対して、請求人の「N?S.P.C.ウォール工法」の方には仕事が回ってこない。これは何とかしなければ・・・、と請求人は考えた。
ケ ところで、請求人のいう「廃止の通知」、すなわち請求人の「再出発」に際して「日本S.P.C工法研究会」を廃止したと被請求人らに通知したという主張の問題を検討しておきたい。
(ア)請求人は、民間のー組織がいままで在籍していた組織に対して「廃止の通知」をすればその通知に法的な強制力があり、在籍していた組織は消滅しなければならない、と本気で考えているのか。
自由競争の社会で唯一の例外が知的所有権であるが、その権利行使を除いては営業の自由は憲法で認められている行為である。その例外としての知的財産権を検討する。
まず、特許権の有無については、請求人は、「特許権について(工法) 従来のSPCウォール工法については成立しておりません。N-SPC単独で登録されております工法特許・・・は、N-SPC独自のもので、従来施工しているものは、N-SPCの特許を一切侵害致しておりません。」(甲第17号証)として、被請求人らが施工を続けている当該技術に関しては、特許権が存在しないことを認めている。
商標権については、請求人が自らいう「平成11年から平成22年まで建築土木工事である『軽量盛土工事』に使用されていた『S.P.C.W工法』」(実際に使用されていたのは甲第4号証に示すように「S.P.C.ウォール工法」である。)を、被請求人らは従来のまま平穏に使用を続けているのである。
このように、特許権は存在しないし、商標は未登録であるが平成11年以来使用を続けた名称であり、そのような条件下で、「再出発」した者が、他人の組織を一体何の根拠があって「廃止」できるのか。自由競争の社会で請求人は、なぜ他人の営業の自由を奪うことができるのか。
(イ)請求人は、甲第6号証を根拠として、繰り返し「統合により日本S.P.C工法研究会を廃止した。」旨主張している。
しかし、(a)甲第6号証における「総会」は、「日本SPC工法研究会」とは別の組織である「N-S.P.C工法構造研究会」の総会であり、その組織が他の組織である「日本SPC工法研究会」を廃止することができるはずがないこと、(b)甲第6号証における総会が「日本SPC工法研究会」の総会であるとすると、その会則(乙第11号証)に則るべき「廃止」「閉鎖」の手続きが一切なされていないこと、また、その財産の処分に一切触れられておらず、財産の行方が極めて不明朗であること、(c)「S.P.Cウォール工法」と、それとは全く異質の「合成橋」という2つの工法を統合して、1つの研究会、すなわち「N-S.P.C工法構造研究会」として発足させたこと、(d)「N-S.P.C工法構造研究会」は、それまでの「日本SPC工法研究会」の土木工事専門の一般会員では建設業法からも手が出せない「桁合成橋」「箱桁橋」「合成斜張橋」といった全く異なる異分野への進出のために名称を変更したものであること、がいえる。
このような経過から判断すれば、「日本SPC工法研究会」が廃止されたという根拠が一切ないこと、したがって「N-S.P.C工法構造研究会」は、従来の「日本SPC工法研究会」の延長線上にある組織ではないこと、従来の組織が取り扱う業務の範囲を超えて、従来の会員では手が出せない新たな「合成橋」という技術分野に進出するために、「日本SPC工法研究会」から分離して独立したものであることが明らかである。
コ 再出発したのに仕事が回ってこない、その原因が「廃止の通知」をしたはずの被請求人の順調な受注にあるとすれば、それを自由競争などとして許しておくことはできない。そのための妨害行為の一環が、本件の無効審判の請求なのである。
請求人が順調に受注していれば、競合する技術がお互いに刺激しあい、それが技術改良や価格の競争となって産業の発達に寄与するはずである。それは、更に公共工事において、より良い物が早く、安く、迅速に納入できることになって、最終的には納税者である国民の利益になるはずである。
しかるに、請求人が勧誘してもその組織に加入せず、あたかも「談合破り」のような被請求人は許せないとして、繰り返しその営業の妨害を続けてきているのである。
過去に被請求人が請求人の商標の無効審判を請求した理由も、請求人からの妨害行為を排除するためであった。
本件審判における、被請求人の営業活動を「不正行為」とする主張も、上記のように、請求人の受注の不振の原因が被請求人の順調な競合する活動にある、との逆恨みを原因として、知的財産権の名を借りた自由競争への干渉であることが明らかである。
これは、ひいては産業の発達の妨害、国民の利益享受への妨害そのものであって、到底許されるものではない。
サ 請求人による嫌がらせや圧力、妨害の例は無数にあるが、最近も続いている例を数点挙げる。
(ア)岡部シビルエンジ株式会社あて警告書(乙第3号証)
乙第3号証は、平成23年1月12日に、岡部シビルエンジ株式会社あてに、請求人から送られた警告書である。この警告書の記載の問題は、以下のとおりである。
a 「特許拒絶によりすべて当社が工業所有権を有しています。」として、あたかも該当する工法の「すべて」を請求人が独占しているような記載である。
しかし、請求人と被請求人の共同出願が拒絶されたことから明らかなように、請求人の所有する特許が「S.P.Cウォール工法」の基本特許であるわけがなく、「すべて」独占できるわけがない。それをあたかも「すべて」独占しているがごとき通知を多数の企業に発送して、請求人の研究会への加入の圧力をかける意図で発送されたものである。
b 「平板式ロックボルト(支圧板2枚使用)の工法は当社の特許工法である。」として、あたかも支圧板2枚を使用したら全て請求人の特許に抵触するような記載である。
しかし、該当する出願は、多くの補正がなされており、支圧板2枚を使用したら全て請求人の特許に抵触するものではない。それにもかかわらず平気でこのような圧力をかけているのである。
c 「貴社に対しても工業所有権侵害として現在検討中です。」として、いわれなき恐怖感を与える文言を使用している。
侵害訴訟の提起は自由であるとしても、侵害訴訟では実施している製品や施工方法を特定し、請求人の発明特定事項を分析して、請求人の技術的範囲に属するか否か、具体的に検討してなされなければならないところ、それらを一切無視した警告は単なるいやがらせであり、施工業者の被請求人から離反を狙う脅迫といわざるを得ない。
d 最後に「PCW工法も同様です。」という文章も意味不明であるが、何となく「訴えられたら面倒だな」と思わせる圧力を与えるものであって、到底正当な権利の行使ということはできない。
(イ)弘和産業株式会社あて警告書(乙第4号証)
乙第4号証は、弘和産業株式会社あてに発送された警告書である。これも乙第3号証と同様の記載があるが、それに加えて「永久アンカー使用工法は当社の特許工法である。」との記載がある。
しかし、「永久アンカーエ法」は、数十年前から公知の工法であり、請求人が独占できるはずがないが、やはり「訴えられたら面倒だ」と思わせる圧力を与えるものであって、到底正当な権利の行使ということはできない。
同様の警告書は、西田興産株式会社あてにも発送されている(乙第5号証)。
(ウ)ライトエ業株式会社あて警告書(乙第6号証)
乙第6号証は、ライト工業株式会社への「支払い金の調査」についての警告書である。
特許権の侵害訴訟において、被告が請求人の特許権を侵害したことが確定し、かつ侵害行為と損害発生との因果関係が明らかになった場合に損害額が検討される。
しかるに乙第6号証のような、なんらの根拠もない状態で、貴社から取引先への金銭の動きを報告せよ、とするような驚くべき主張は、知的財産の権利行使の範囲を明らかに逸脱した行為である。
同様の警告は株式会社北岡組にも発送されている(乙第7号証)。
(エ)最近の日本経済新聞(平成24年10月1日)の「経済教室」の頁に「特許は技術革新を促すか」という長い論文が掲載されている(乙第8号証)。
その論文によれば、歴史的にみるといずれの国でも特許制度がスムーズに導入されたわけではなく「なぜ特許成立にこうした紆余曲折があったのか。」と指摘してあるとおり、特許制度が技術革新、産業の発達を完全に補完する制度とはいえないという議論や主張が多数存在するのである。
例えば、「特許が社会的利益にならないケース」を数例挙げて、「その知識を自由に(対価なしで)使う場合と比べて社会全体の便益を低下させる効果を生むとも指摘できる。」のであり、「経済理論の立場から、特許や著作権がなくとも発明や創作が行われてきたことを実証する研究書も出ている。」と指摘されている。
その上、この論文は、知的財産権の「適正な権利行使」を前提に論述したものであり、そのような適正な権利行使でさえも、「社会全体の便益を低下させる可能性がある。」との指摘が存在しているのである。
まして、上記乙第3号証ないし乙第7号証に示すような、何らの法的根拠を示さずになされる警告書がビジネスの世界で乱れ飛んだらどうなるか。せっかくの国家戦略としての知的財産の保護が、その健全な育成どころか、「特許制度不要論」にもつながるではないか。
本件の審判を含めて、被請求人は、このような請求人からの無法な挑戦、取引先へのいやがらせを受け続け、火の粉を払い続けていることを明確にしたい。
(4)被請求人の商標出願
請求人は、「被請求人が『S.P.Cウオールエ法』が本件商標を侵害するおそれがあることを自覚していたといえる」との根拠(甲第17号証)を示している。
それによると、被請求人が「山田氏側から商標侵害と言われる恐れがあるため、対策としまして名称をSPCW工法(エスピーシーダブリュー工法)と変更しました。」と伝えたからであるという。
両者が非類似である点はさておき、被請求人がこのような通知をしたのは上記の「請求人による妨害の具体例」を見ればわかるとおり、従来とおりの営業活動を円滑に、かつ長期間にわたって継続している被請求人としては、「再出発」した請求人とはかかわりたくなかった、という大きな原因によるものである。
乙第3号証ないし乙第7号証に示したような、被請求人の取引先に、自由競争の社会で例外的に独占が許されている知的財産を、その範囲を明らかに逸脱して脅迫まがいの手を出し続ける請求人とは一切かかわりたくないと被請求人が考えるのが当然であろう。そこで、上記のような通知をし、本件商標を出願したのである。
なお、乙第3号証ないし乙第7号証はほんの一例であって、請求人による同様の妨害行為は、請求人の「再出発」以降、繰り返してなされていたのである。
(5)NETIS登録
商標登録の無効の理由に何ら関係のないNETIS登録であるが、請求人が繰り返しその登録について言及するので答弁する。
NETIS登録とは、国土交通省の技術事務所に登録するものであり、一定の要件を満たせば登録される(「公共工事等における新技術活用の促進について」(平成18年7月5日付国官技第86号、国官総第237号))。
この制度は、「新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として、新技術情報提供システム」となっている。
しかし、「新技術」とはいっても、安全性・耐久性等の技術的事項及び経済性等の事項に関する確認を関係研究機関に対して依頼することがあっても、「新規性」「進歩性」の有無の判断が行われることはない制度である。
それとは反対に、競合する技術でも自由な競争を促進する立場から積極的に登録をさせ、発注者、コンサルタントなどが類似する技術を簡単に検索できる、という利益を提供している。
請求人が、被請求人のNETIS登録を不正な行為だと繰り返して攻撃するのは、似たような技術の存在は許し難く、類似する工法を排除して請求人で独占したいからにほかならない。
請求人は、NETIS登録にからめて、「本件商標は『N-S.P.C.W工法』にただ乗りするという不正の目的をもって使用していることは明らか」と主張する。
しかし、上記のように「再出発」した請求人は、被請求人とは別に「New(新しい)」と自認する技術を「N-S.P.C.W工法」と称して自由に活用して被請求人の技術と自由な競争をすればよいのであり、一方、被請求人は実績のある自らの工法をいままでどおり行っているにすぎない。
そうすると、被請求人は、請求人の商標「N-S.P.C.W工法」に「ただ乗り」する必要が全くない。
このように、NETISに関する請求人の主張も、知的財産やNETIS登録に名を借りてオープンな市場でなされるべき自由な競争を妨害しようとする一つの手段にすぎないのである。
5 結論
以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に該当するという本件審判請求の理由はいずれも成り立たない。

第4 当審の判断
1 「S.P.C.ウォール工法」及び「N?S.P.C.ウォール工法」並びにそれらに係る事項について
(1)「S.P.C.ウォール工法」及び「日本S.P.C工法研究会」について
「S.P.C.ウォール工法」における「S.P.C.」の部分について、当事者の主張及び各証拠においては、「S.P.C.」、「S.P.C」、「S・P・C」、「SPC」等のように、様々な表記がされているが、工法名に類する表記の場合は、原則、以下「S.P.C.」とする。
ア 「S.P.C.ウォール工法」とは、「スロープバンケット・プレキャストコンクリート・ウォール工法」の略称であり、工場製作によるプレキャストコンクリート版をPC鋼棒により順次積み上げて、気泡混合軽量材の自立型枠を形成する落石覆工・道路構築の土木工法の一種である(甲第21号証)。
イ 平成11年3月より落石覆工に使用する「軽量盛土工法」として検討開始し、「S.P.C.ウォール工法」が開発され、同年10月、その工法研究会として「S.P.Cウォール研究会」が発足した。同時に、「熊本エス・ピーシー株式会社」が設立されている。「S.P.C.ウォール工法」に使用する「S.P.C版」の開発は、基礎地盤コンサルタンツ株式会社熊本支店長の福田泰英と山田文男(現在、本件請求人代表者)の両名で企画立案をし、基本的事項については、福田が担当し、構造と意匠に関しては、山田が考案開発した。(甲第57号証の1ないし3)
「S.P.Cウォール研究会」の名称は、平成11年10月8日に研究会が発足したとして提出の資料(甲第59号証の1及び2)では、「SPCウォール工法研究会」となっている。また、平成12年4月13日に開催されたとする研究会の平成12年度第1回総会資料(甲第66号証)においては、「SPC工法研究会」となっている。そして、それらに添付の会員名簿には、被請求人の名称が理事の氏名とともに記載されている。
ウ 平成12年4月1日をもって「熊本エス・ピーシー株式会社」を「九州エス・ピーシー株式会社」に社名変更したものであり、山田文男が常務取締役として記載されている(甲第66号証:第3号議案・第5号議案)。
被請求人(A甲)と山田文男(A乙)及び「九州エス・ピーシー株式会社」(A丙)は、平成12年4月1日、A甲とA乙が所有する工業所有権(特願平9-299584,特願平11-274123)に係る工法に関する専用実施権をA丙に対して許諾する旨の契約を締結した(甲第67号証)。同契約には、上記工法 について、「SPCフレーム工法」又は「SPC橋梁工法」という名称をA丙が使用する旨の条項がある。
また、基礎地盤コンサルタンツ株式会社(B甲)、山田文男(B乙)及び被請求人(B丙)並びに被請求人(丁)は、平成11年10月1日に締結した「SPC工法」の専用実施権を解除、破棄し、同16年1月1日、新たにB甲、B乙及びB丙が所有する工業所有権(特願平11-121586,特願2001-038831,特願2001-285491)に係る工法に関する専用実施権を丁に対して許諾する旨の契約を締結した(甲第71号証)。同契約には、上記工法 について、「SPC工法」、「SPCウォール工法(覆工工法)」、「SPC擁壁工法」又は「SPC道路拡幅工法」という名称を丁が使用する旨の条項がある。
エ 平成16年9月3日、九州各地において、県単位でSPC工法に係る複数の研究会が活動していたことを踏まえ、これを統合して研究会を「日本S.P.C工法研究会 九州本部」として設立され、当時、正会員が37社など、会員数は合計53社であり、請求人及び被請求人も正会員であって、事務局を請求人(代表取締役は山田文男である。)が務めていた(甲第5号証,甲第73号証の1ないし4)。
また、「日本S.P.C.工法研究会」は、平成16年2月29日、「S.P.C.ウォール工法」に関する解説書を編集・完成し、これを理工図書株式会社より、同年4月15日に発行させた(甲第21号証)。巻末の「S.P.C.ウォール工法編集委員会」名簿には、「委員長 山田文男」(請求人代表取締役専務)、委員として、被請求人の代表取締役、九州支社長及び技術課長並びに請求人の取締役の各氏の氏名等の記載がある。
(2)「N?S.P.C.ウォール工法」及び「N?S.P.C工法構造研究会」について
ア 日本S.P.C工法研究会九州本部は、平成13年以降、九州等において、S.P.C.工法に係る工事が施工された現場においてパネルの転倒事故が発生したため、パネルの改良などを行い、N-S.P.Cウォール工法を開発した(甲第7号証)。N-S.P.Cウォール工法は、平成16年11月ないし17年3月までの間に施工された、熊本県内における国道工事において採用された(甲第9号証)。請求人及び日本S.P.C工法研究会九州本部は、平成17年2月、N-S.P.Cウォール工法に係るパネルの実物大強度試験を行うなどした(甲第10号証)。
イ 平成19年9月28日付け国土交通省九州交通整備局九州事務所あての報告書(写し)は、旧NETIS登録を廃止し、新NETIS登録をしたこと、同13年度から各地区において発生したS.P.C.ウォール工法による事故の原因を検証し、その後の対応策・改善策によって決定した事項を報告し、かつ、「日本S.P.C工法研究会」を「N?S.P.C工法構造研究会」に変更したことを報告している(甲第7号証)。
ウ 平成19年9月28日開催のN-S.P.C工法構造研究会の平成19年度第3回総会において、「N-S.P.Cウォール工法」及び「N-S.P.C合成橋工法」を統合して1つの研究会として発足させ、日本S.P.C研究会を廃止し、「N-S.P.C工法構造研究会」と名称変更した上で、新研究会として再出発する旨が定められた。なお、同総会の議題には、平成19年度(第3期)役員改選に関する件(九州N-S.P.C.工法構造研究会会則による)があり、平成18年度(第2期)役員(副会長)として、被請求人の代表取締役専務の氏名が記載されていることからすると、被請求人は、それまで「九州N-S.P.C工法構造研究会」に関与していたようである。また、N-S.P.C工法構造研究会の事務局は、請求人が担当するものとされた。(甲第6号証,甲第90号証の1及び2)
エ N-S.P.C工法構造研究会は、平成19年10月4日、被請求人に対し、以下の内容の通知をした(甲第12号証)。なお、同通知には、被請求人がN-S.P.C工法構造研究会への入会を希望する場合の相談先が付記されていた。
(ア)基礎地盤コンサルタンツ株式会社及び山田文男は、平成17年度まで、被請求人と専用実施権設定契約を締結し、S.P.Cウォール工法を拡大することで合意をしてきたが、施工ミスなどが続き、信用が低下し、事故処理対策費用が必要となったことなどから、平成18年度以降は、同契約を破棄し、別途に事業を行うこととした。
(イ)今般、請求人、基礎地盤コンサルタンツ株式会社及び黒沢建設株式会社は、工法に係る構造や橋梁関係の工事についても重要視することとして日本S.P.C工法研究会を廃止し、N-S.P.C工法構造研究会を発足させ、S.P.Cウォール工法に係るNETIS登録を廃止し、N-S.P.Cウォール工法について新たにNETIS登録した。
(ウ)請求人及び基礎地盤コンサルタンツ株式会社は、被請求人がN-S.P.C工法構造研究会に入会することを希望している。
オ N-S.P.C工法構造研究会は、平成19年10月29日、研究会会員各位あて、倒壊事故に使用されたSPC版の製作中止を通知し(甲第13号証)、同年12月19日には、請求人から研究会会員各位あて、研究会の名称変更を行い、それに伴いNETIS登録番号が変わり、かつ、工法名も「N?S.P.Cウォール工法」に変更した旨を改めて通知した(甲第14号証)。
そして、請求人は、「N?S.P.C工法構造研究会」の事務局として、平成20年2月26日に、第37類「建設工事、建築工事に関する助言」を指定役務とする商標「N-S.P.C.ウォール工法」の登録出願を行い、その出願は、平成21年2月20日に商標登録第5205234号として設定登録された(甲第16号証)。
カ 請求人が提出した甲第17号証は、被請求人が自己の管理する研究会会員各位あて送付したとする書面であるところ、それは、平成23年3月16日付けの「日本S.P.C工法研究会とN-S.P.C.との諸事項の説明書」と題する書面であると認められ、そこには、商標登録について「山田氏側のN-SPCウォール工法の商標登録が完了したことに対して、査定取り消し審判請求中でありますが、山田氏側から商標権侵害と言われる恐れがある為、対策としまして、名称をSPCW工法(エスピーシーダブリュー工法)と変更しました。『日本S.P.C工法研究会』の名称はそのまま継続します。」と記載されている。
なお、「SPCW」の文字からなる本件商標は、前記第1のとおり、平成22年11月8日に登録出願され、同23年8月19日に設定登録された。
キ 平成22年8月現在のN-S.P.C工法構造研究会の会員数は、約50社と推定される(甲第100号証)。会員の中には、平成12年度第1回SPC工法研究会開催時(甲第66号証)や、平成16年9月3日の日本S.P.C研究会九州本部設立時(甲第73号証の4)において、研究会の会員であり、平成19年9月28日開催のN-SPC研究会の平成19年度第3回総会(甲第6号証)におけるN-S.P.C工法構造研究会会員を経て、継続して会員として参加している会社が複数存在する。
(3)上記(1)及び(2)によれば、山間部や河川に沿う道路構築物の建設や維持管理のために、斜面の切土を少なくし、極力既存構築物を撤去することなく、施工できる軽量盛土工法として「S.P.Cウォール工法」の名称が使用され、同工法による工事が平成11年6月頃から建築・土木関係の各企業によって実施されていたものといえる。上記工法に関しては、「S.P.C工法研究会」が組織され、本件において、請求人及び被請求人は、いずれも同研究会(後の「日本S.P.C工法研究会」及びこれと実質的に同一とみてよい他の名称も含む。)に参加し、S.P.C.ウォール工法を採用して工事を行っていたところ、パネルの倒壊事故などを契機として、請求人の積極的関与によってN-S.P.C.ウォール工法が開発されるとともに、日本S.P.C工法研究会が廃止され、N-S.P.C工法構造研究会が設立されるに至っているものである。
そして、N-S.P.C工法構造研究会が、日本S.P.C工法研究会九州本部を名称変更したものであり、N-S.P.C.ウォール工法を採用して活動していることは、N-S.P.C工法構造研究会の第3回総会議事録の各記載や、新研究会の複数の会員が、SPC工法研究会発足当時から日本S.P.C工法研究会九州本部を経て、継続して会員として参加していることからも明らかである。
以上からすると、請求人と被請求人との間において、被請求人が関係したS.P.C.ウォール工法に係る工事において生じた倒壊事故などを契機として、次第に従前の協力関係が解消され、日本S.P.C工法研究会は、平成19年の遅くない時期に、実質的に組織が分裂に至ったとみるのが相当である。
(4)ところで、一般に、建設工事において使用される工法の名称は、各社(複数社を含む。)が独自に考案した工法に名付けられることも多く、それにより工事が識別されていることもあるとみるのが相当である。
本件に係る「S.P.C.ウォール工法」の場合、上記のとおり、その工法が開発され、その工法研究会として「S.P.Cウォール研究会」が発足し、該研究会(後に「日本S.P.C工法研究会」となる。)により維持管理され、相当程度周知になっていたと認められ、上記工法について実質的に組織が分裂に至った後において、「N-S.P.C工法構造研究会」に属する者あるいはそれに属さない「日本S.P.C工法研究会」に会員であった者のいずれかが「S.P.C.ウォール工法」の名称を自由に使用できるとみるのは相当ではない。
2 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
請求人は、本件商標は、平成11年から同22年までの間、「軽量盛土工法」に使用された「S.P.C.ウォール工法」の略称として業界内で広く知られていた「S.P.C.W工法」(引用商標1)及び平成18年6月から現在まで使用されている「N-S.P.C.W工法」(引用商標2)に類似するものであり、その指定役務も引用商標1及び2が使用されている役務と同一又は類似するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する旨主張している。
(1)そこで、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものであるか否かについて検討するに、請求人の提出に係る証拠によれば、上記1のほか、以下の事実が認められる。
ア 甲第3号証の1ないし4は、「S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)の用途と実施工例」と題する書面の写しと認められ、請求人が平成15年8月に作成したものであると主張するところ、該書面は、山間部や河川に沿う道路構築物等に係る工事について、「設計タイプ」、「概念図」、「現地施工完了写真」、「仕様」、「地形地質状況」及び「対策の概要」を、それぞれ項目ごとに図面及び写真付きで説明したものであり、熊本県人吉土木事務所等の発注により丸昭建設株式会社等の企業が受注し、上記工法による工事が平成11年9月頃から同17年3月頃にかけて熊本県各地で行われたことを示すものといえる。そして、「対策の概要」欄には、「・・・民家や交通規制のできない道路では常に危険を伴う転石浮石を除去することは困難である。このような危険を伴う斜面に転石、浮石を除去しないで巻き込み一体化するS.P.C.ウォール工法(覆工方式)で施工したものである。」等の説明がされている。
そして、平成19年7月12日に開催された「平成19年度建設新技術活用促進フォーラム」(主催:国土交通省四国地方整備局)(甲第91号証の1)において、請求人代表者が甲第3号証として提出した実施工例を挿入して説明を行ったとする資料は、甲第3号証の1ないし4とほぼ同じデータが使用されていると認められるが、4枚ともその表題が「S.P.Cウォール工法の用途と実施工例」であって、「S.P.C.W工法」の括弧書きの文字がない。
イ 甲第4号証は、「S.P.C.W工法工事実績一覧表(S.P.Cウォール工法・落石覆工方式・道路構築方式)」、「平成19年10月現在」と題する書面の写しと認められるところ、その表紙には、右上に「平成19年10月」、「(旧Qs-000001)」及び「(Qs-000001-A)」の文字が三段に記載され、上記表題の下方に「N.-S.P.C工法構造研究会(旧 S.P.C工法研究会)」と記載されている。また、2枚目以降には、「N-S.P.C.W工法(旧S.P.C.W工法)工事実績一覧」との表題の下に、「番号」、「工事件名」、「発注者」、「受注者」、「工法」、「工期」及び「工事規模」の各欄が設けられ、それぞれに対応した内容が記載されており、「工法」欄には、「S.P.C.ウォール工法」のほか、「S.P.C.フレーム工法」、「S.P.C.ウッド工法」の記載はあるが、「S.P.C.W工法」又は「N-S.P.C.W工法」の記載はなく、「工期」欄には、平成11年6月頃から同19年12月頃にかけて工事が行われたことが記載されている。
ウ 甲第22号証は、請求人が提出した「被請求人のホームページより入手した被請求人のカタログ『SPCW工法』(日本S.P.C.工法研究会)」とするものであり、表紙には、「SPCW工法(旧名称:S.P.C.ウォール工法)」とあり、「SPCW工法の用途と特徴」の項に、「SPCW工法(旧称S.P.C.ウォール工法)は、平成12年3月国土交通省のパイロット事業に採用されて以来220件の施工実績を重ねることができた。平成22年11月SPCW工法と改称し、道路・橋梁・擁壁の整備、改修に更なる寄与を目指すものである。」との記載がある。これは、被請求人が作成したものと認められるところ、作成日は不明であるが、その記載内容からすれば、本件商標の登録出願日(平成22年11月8日)頃以降に作成されたものと推認される。
エ 甲第23号証は、平成11年9月付け「熊本S.P.C.工法研究会」作成に係る「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」と題する書面(表紙と本文10ページ)であると認められるところ、表紙における上記括弧書きの「S.P.C.W工法」以外に該記載はなく、本文中では、全て「S.P.C.ウォール工法」の名称が使用されている。
オ 甲第24号証は、平成13年11月付け「熊本S.P.C.工法研究会」及び「熊本KTB橋梁工法研究会」の作成に係る「S.P.C.工法,KTB工法の施工例集/S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)/KTB工法(S.P.C橋梁)」と題する表紙に、「S.P.C.W工法工事実績一覧」(平成13年4月25日現在)及び「S.P.C.ウォール工法」の説明等を内容とする書面が添付されたものであると認められるところ、表紙における上記括弧書き及び「工事実績一覧」の表題以外に「S.P.C.W工法」の記載はなく、「工事実績一覧」の工法名欄には「S.P.Cウォール工法」、「S.P.Cフレーム工法」、「S.C橋梁(KTB工法)」の記載がある。
カ 甲第53号証は、平成18年10月6日に、国土交通省九州地方整備局新技術活用評価会議事務局から請求人あてに送付された「NETIS(新技術情報提供システム)に登録されている技術のNETIS掲載期間に関するご案内」とするものであるが、別紙に請求人の技術名称として「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」、同年6月8日付け「評価試行方式」申請書に技術名称として「軽量盛土工法及び永久型枠工、(道路構築様式、落式覆工方式、河川嵩上方式、永久型枠方式)S.P.Cウォール工法(S.P.C.W工法)」並びに同年8月25日付け「新技術情報提供システム(NETIS)登録申請書」及び同年9月21日付け「実施規約 同意書」に技術名称として「N-S.P.Cウォール工法(N-S.P.C.W工法)覆工方式・道路構築方式・気泡混合軽量盛土」とそれぞれ記載されている。
また、甲第54号証及び甲第55号証は、建設工業調査会発行に係るインターネット発信の総合ガイドブック「ベース設計資料」の「No.144土木編前、2010年3月20日発行」「No.146土木編後、2010年9月20日発行」であるところ、「工法特徴と採用実績」欄に「N-S.P.Cウォール工法」、「N-S.P.C工法シリーズ」の表題の下、「軽量盛土工法 N-S.P.Cウォール工法落石覆工方式 略称N-S.P.C-W工法」の記載がある。
キ 株式会社九建日報社発行の新聞「九建日報」(甲第5号証,甲第78号証ないし甲第80号証,甲第96号証ないし甲第101号証)の「日本S.P.C工法研究会九州本部」、「日本S.P.C工法研究会九州斯支部」又は「N-S.P.C工法構造研究会」の広告又はそれに関連の記事において、平成22年8月2日発行の新聞広告に、「N-S.P.C工法シリーズ」の表題の下、「軽量盛土工法 N-S.P.Cウォール工法落石石覆工方式 略称N-S.P.C-W工法」の記載があることのほか、それ以前の新聞において、「S.P.C.W工法」又は「N-S.P.C.W工法」の単独の記載はもちろん、「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」、「N-S.P.Cウォール工法(N-S.P.C.W工法)」等の括弧書きの記載も見いだせない。
ク 上記のほか、請求人及び被請求人の提出に係る証拠を徴するに、総会等の内部資料といえるものにおいて、「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」又は「N-S.P.Cウォール工法(N-S.P.C.W工法)」の記載は見受けられるものの、「S.P.C.W工法」又は「N-S.P.C.W工法」の記載は見いだせない。
そして、請求人及び被請求人並びにそれらの関係団体、関係者等により、発行された「S.P.Cウォール工法」を題号とする書籍(甲第21号証:理工図書株式会社、2004年4月15日初版発行)においても「S.P.C.W工法」の単独の記載はもちろん、「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」等の括弧書きの記載も見いだせない。
ケ その他、引用商標1及び引用商標2が特定の者の業務に係る役務を表示する商標として具体的に使用されている事実をはじめ、上記商標について又は上記商標を使用した役務について宣伝広告等が行われた事実を具体的に示す証拠は見いだせない。
なお、甲第25号証ないし甲第52号証及び甲第56号証は、請求人から建設業界の各社あての「『S.P.C.W工法』は『S.P.Cウォール工法』の略称として、また、『N-S.P.C.W工法』は『N-S.P.Cウォール工法』の略称として、それぞれ当業界では広く知られていることについて、相違ないことを証明願います。」旨を内容とする平成25年2月4日付け証明願及びそれに対する「上記相違ありません。」を内容とする各社の署名・捺印を1枚にした証明書とするものであるが、請求人が用意した定型の文章よりなる証明願に各社が同月5日ないし13日付けで署名・捺印したものであって、該証明内容に上記事実を併せみれば、その証明をにわかに採用することはできないものであり、しかも、29社にすぎないものである。
(2)上記(1)のとおり、引用商標1「S.P.C.W工法」及び引用商標2「N-S.P.C.W工法」の単独での使用は皆無であり、これらを併記した「S.P.C.ウォール工法(S.P.C.W工法)」、「N-S.P.Cウォール工法(N-S.P.C.W工法)」等の使用でさえも、さほど多いものともいえず、請求人がいうところのそれぞれの略称が取引者、需要者に対して積極的に知らしめる状況にあったとはいうことができない。
また、「S.P.C.ウォール工法」の名称についても、上記1(4)のとおり、請求人の業務に係る役務を表示する商標であると必ずしもいうことはできない。
そうとすれば、引用商標1及び2は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(3)本件商標は、前記第1のとおり、「SPCW」のローマ字4字からなるものであり、「エスピーシーダブリュー」の称呼が生じるものであり、特定の観念が生じるものではない。
他方、引用商標1は、「S.P.C.W工法」の構成からなり、特定の観念が生じるものではないところ、その構成中の「工法」の文字が工事の方法を意味し識別力を有しないことから、「S.P.C.W」の文字部分が自他役務識別標識としての要部であるとすれば、「エスピーシーダブリューコーホー」の称呼のほかに「エスピーシーダブリュー」の称呼をも生じるものである。
また、引用商標2は、「N-S.P.C.W工法」の構成からなるところ、その構成中の「S.P.C.W工法」あるいは「S.P.C.W」の名称が著名である等の特段の事情があればともかく、上記のとおり、特段の事情を有するものではないから、その構成全体をもって理解、把握されるとみるのが自然であり、「エヌエスピーシーダブリューコーホー」の称呼のみが生じ、特定の観念は生じないとみるのが相当である。
してみれば、本願商標と引用商標1とは、「エスピーシーダブリュー」の称呼を共通にする類似の商標である余地があり、本願商標と引用商標2とは、類似する商標ということはできない。
(4)以上を総合すると、上記(2)のとおり、引用商標1及び2は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
そうすると、上記(3)のとおり、たとえ、本件商標と引用商標1とが類似するとみる余地があるとしても、本件商標については、商標法第4条第1項第10号に定める要件を欠くことが明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人は、本件商標が「N-S.P.C.W工法」(引用商標2)にただ乗りをするという不正の目的をもって使用するものであるとして、被請求人の不正行為について縷々述べ、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する旨主張している。
しかしながら、上記2(2)のとおり、引用商標1及び2は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る役務を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認められないから、たとえ、本件商標が引用商標1と類似するものであるとしても、本件商標については、商標法第4条第1項第19号に定める要件を欠くことが明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。
4 請求人の主張について
請求人は、請求人が被請求人の行為を不正なものとして問題にするのは、被請求人が自社の技術である「SPCW工法」を使用するとしながら、内容は「S.P.Cウォール工法」そのままに、自ら実績を積み上げてきたかのように記載し、カタログもS.P.C工法研究会のカタログをほぼそのまま引用しており、さらに、請求人が旧NETIS登録は消滅して存在していないと告知しているにも関わらず、そのNETIS登録番号を掲載して営業を行い、業界が誤認混同するような取引行為をしていたからにほかならない旨主張する。
しかしながら、本件無効審判は、商標法第46条第1項の規定に基づき、「SPCW」のローマ字4字のみを構成態様とする本件商標の登録の有効性について判断するものであるところ、請求人が主張する被請求人の行為は、どのようにして本件商標の使用をしているかに関するものであり、仮に、それが事実であるとしても、商標法の他の条項、あるいは商標法以外の法律による適用があるか否かはともかく、本件無効審判における請求の理由としては、その前提において失当であり、上記請求人の主張は採用できない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第19号のいずれにも違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべき限りではない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-10-25 
結審通知日 2013-10-29 
審決日 2014-02-12 
出願番号 商願2010-86812(T2010-86812) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (X37)
T 1 11・ 25- Y (X37)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 椎名 実 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 手塚 義明
原田 信彦
登録日 2011-08-19 
登録番号 商標登録第5433369号(T5433369) 
商標の称呼 エスピイシイダブリュウ 
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所 
代理人 大島 信之 
代理人 山口 朔生 
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