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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X16
管理番号 1285551 
審判番号 無効2013-890061 
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-08-30 
確定日 2014-02-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第5340086号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5340086号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5340086号商標(以下「本件商標」という。)は、「PASTE-IT」の文字を標準文字で表してなり、平成20年7月4日に登録出願、第16類「文房具類」を指定商品として、平成22年6月17日に登録査定、同年7月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
1 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次の2のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証(枝番を含む。)を提出した。
2 請求の理由
本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号及び同第19号に違反してされたものであるから、無効とされるべきである。
(1)請求人の著名性
請求人は、1902年(明治35年)に米国にて設立され、1929年(昭和4年)以来米国外でビジネスを展開しており、現在では、60か国以上に139の工場を有するとともに系列会社を有し、189か国以上に販売拠点を有し、200か国以上で活動しており、その従業員数は7万9千人以上に及び、これらの系列会社では、3Mの名称を冠し、3Mのマークを使用してその製品を販売している。また、請求人は、5万種類以上の商品を取り扱っており、その分野は、電気電子・電力・通信関連、建築・サイン・ディスプレイ関連、ヘルスケア関連、セーフティ・セキュリティ関連、自動車・交通関連、産業関連、オフィス関連にわたっている。
請求人は、ニューヨーク証券取引所に上場しており、該市場ではMMMで指標されている。また、請求人は、上場会社中、主要な優良株の会社で構成されているダウジョーンズ工業株30種平均の一社となっている。さらに、請求人は、アメリカ合衆国の投資情報会社であるスタンダード・アンド・プアーズ社が算出しているアメリカの代表的な株価指数であり、ニューヨーク証券取引所、アメリカン証券取引所、NASDAQに上場している銘柄から代表的な500銘柄の株価を基に算出される時価総額加重平均型株価指数で、機関投資家の運用実績を測定するベンチマークとして利用されているS&P500を構成する一社となっている。
また、請求人は、様々な主要な国際ビジネス誌においてランキングされている。
このように、請求人は、日本において、また、国際的にも名声を有する著名な企業である。
(2)「Post-it/ポスト・イット」商標の著名性
請求人所有の商標「Post-it」、「ポスト・イット」(以下、便宜的に「『Post-it/ポスト・イット』商標」という。)は、文房具との関係で、以下述べるように著名商標である。
ア 「Post-it/ポスト・イット」商標を付した商品は、1970年代に米国の3M本社で開発され、1980年(昭和55年)に販売され、日本市場でも1981年(昭和56年)に住友スリーエム株式会社(以下「住友スリーエム」という。)を介して販売が開始されたいわゆるパイオニア商品である。
そのユニークな機能は今までにないものであり、世界150か国以上で使用され、発売以来30年以上経過した現在では、オフィスでの仕事や勉強での必需品として揺るぎない地位を確立しており、「Post-it/ポスト・イット」商標も、日本において、また、国際的にも名声を有する著名な企業である請求人のフラッグシップ商品の商標として位置付けられるものである。
イ 「Post-it/ポスト・イット」商標を付した商品の日本での売上高は、2000年(平成12年)が約55億円、2001年(平成13年)が約51億円、2002年(平成14年)が約49億円、2003年(平成15年)が約50億円と2005年(平成17年)までほぼ50億円代を推移していたが、2006年(平成18年)には約60億円となり、2007年(平成19年)は約63億円、2008年(平成20年)は約62億円であった。
ウ 請求人は、世界中で「Post-it/ポスト・イット」商標を付した商品について広告宣伝活動を行っており、その媒体は新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、ダイレクトメール、トレードショー等多肢にわたる(甲1、甲2)。
エ 以上より、「Post-it/ポスト・イット」商標が日本国内外で著名であることは明らかである。
(3)商標法第4条第1項第11号
ア 請求人の引用する登録商標は、以下のとおりである。
(ア)登録第2081504号商標(以下「引用商標1」という。)は、「POST-IT」の文字を横書きしてなり、昭和54年10月15日に登録出願、第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和63年9月30日に設定登録され、その後、平成10年5月12日及び平成20年9月9日に商標権存続期間の更新登録がされ、さらに、平成20年10月8日に、指定商品を第16類「文房具類,紙類」とする指定商品の書換登録がされたものである。
(イ)登録第3200996号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ポスト・イット」の文字を横書きしてなり、平成5年6月3日に登録出願、第16類「一部には接着剤を有してなる付箋,その他の文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤」を指定商品として、平成8年9月30日に設定登録され、その後、平成18年4月25日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
(ウ)登録第3251867号商標(以下「引用商標3」という。)は、「POST-IT」の文字を横書きしてなり、平成5年12月10日に登録出願、第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,回転変流機,調相機,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気式ワックス磨き機,電気掃除機,電気ブザー,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,火災報知器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,盗難警報器,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,電極,溶接マスク,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮き袋,エアタンク,水泳用浮き板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,犬笛,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置,メトロノーム」を指定商品として、平成9年1月31日に設定登録され、その後、平成19年1月16日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
(エ)登録第3338554号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成7年5月25日に登録出願、第16類「紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,型紙,紙製テーブルクロス,紙製タオル,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製ブラインド,紙製幼児用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品」を指定商品として、平成9年8月8日に設定登録され、その後、平成19年2月27日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
(オ)登録第4206827号商標(以下「引用商標5」という。)は、「ポスト・イット」の文字を標準文字で表してなり、平成9年6月27日に登録出願、第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,眼鏡,加工ガラス(建築用のものを除く),救命用具,電気通信機械器具,レコード,電子応用機械器具及びその部品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,スロットマシン,運動技能訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シミュレーター,回転変流機,調相機,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,火災報知器,ガス漏れ警報器,事故防護用手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,スプリンクラー消火装置,盗難警報器,保安用ヘルメット,防火被服,防じんマスク,防毒マスク,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,電極,溶接マスク,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,潜水用機械器具,レギュレーター,アーク溶接機,家庭用テレビゲームおもちゃ,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電動式扉自動開閉装置,メトロノーム」を指定商品として、平成10年10月30日に設定登録され、その後、平成20年7月29日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
(カ)登録第4505271号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成12年11月13日に登録出願、第16類「紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,型紙,紙製タオル,紙製テーブルクロス,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製ブラインド,紙製幼児用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品」を指定商品として、平成13年9月7日に設定登録され、その後、平成23年4月12日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
イ 本件商標は、その構成文字より「ペーストイット」の称呼が生じる(甲3)。
これに対して、引用各商標のいずれからも「ポストイット」の称呼が生じる。
そこで、本件商標から生じる称呼「ペーストイット」と引用各商標から生じる称呼「ポストイット」とを比較すると、共に6音からなるものであり、語頭の「ペー」と「ポ」の差異が存するにすぎない。しかも、「ぺ」と「ポ」とは子音(p)を同じくするものである。
よって、本件商標は、引用各商標と称呼において類似する。
また、本件商標の「PASTE」も引用各商標の「POST」、「ポスト」も、いずれも英語において「貼る」という観念を想起させるものである。
したがって、本件商標は、引用各商標と観念においても類似する。
さらに、外観においても、本件商標と引用商標1及び2とは、いずれも前半部と後半部とをハイフン等で結合し、後半部は同一の欧文字「IT」で構成され、前半部も欧文字「P」「S」「T」を共通にするものであり、相紛らわしい。
よって、本件商標は、引用商標1及び2と外観においても類似する。
さらに、前記のように、引用各商標は、本件商標の指定商品である文房具との関係において著名なものである。
ウ したがって、本件商標は、引用各商標と類似するものであり、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第10号
前記(2)のとおり、引用各商標は、商品「文房具」との関係で著名な商標である。
また、前記(3)のとおり、本件商標と引用各商標は、称呼上類似する商標であり、また、「貼る」という同一の観念が生じる。さらに、本件商標は、引用商標1及び2と外観上類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号
ア 商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある(狭義の混同)商標、及び当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化グループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある(広義の混同)商標を含むというべきである。そして、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、需要者及び取引者の共通性その他取引の実情などに照らし、右指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決)。以下、上記観点から判断する。
イ 本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標の類似性については、前記(3)と同様の理由により、本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標は、称呼上類似する商標であり、また、「貼る」という同一の観念が生じる。また、外観においても、本件商標は、「Post-it/ポスト・イット」商標と類似するものである。
ウ 請求人は、前記(1)のとおり、多岐にわたる商品を製造販売していることで有名な企業であり、その分野は、電気電子・電力・通信関連、建築・サイン・ディスプレイ関連、ヘルスケア関連、セーフティ・セキュリティ関連、自動車・交通関連、産業関連、オフィス関連にわたっている。
このような取引の実情を考慮すれば、本件商標をその指定商品について使用すると、取引者及び需要者において、同商品が請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の提供する商品であると混同するおそれがあるというべきである。
したがって、「Post-it/ポスト・イット」商標の著名性、本件商標との類似性、請求人の多角経営という取引の実情等を斟酌すれば、少なくとも広義の混同のおそれが生じるものであることは明らかである。
エ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号
「Post-it/ポスト・イット」商標の著名性に鑑みれば、本件商標に接した需要者は、「Post-it/ポスト・イット」商標を想起するものであり、商標権者は、明らかに「Post-it/ポスト・イット」商標の顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する目的で本件商標を使用するものであるといえる。かかる不正の目的は、本件商標が著名な「Post-it/ポスト・イット」商標と類似する構成からなることからも明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第10号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求人の著名性について
(1)商標権者は、請求人が著名な企業であるかどうか不知であるし、また、請求人が所有する「ポスト・イット/Post-it」商標が著名であるかどうかなど不知である。
商標権者の調査によると、請求人は、化学・電気素材メーカーであって2002年(平成14年)まで、Minnesota Mining & Manufacturing Co.の社名を使用していたが、その後略称である、3Mを使用した「3M Company」に変更した。すなわち、「スリーエムカンパニー」なる社名の企業は、わずか10年ほどしか経過していない企業である(乙1)にもかかわらず、請求の理由において、2002年(平成14年)までの社名、「スリーエムカンパニー」の社名になってからわずか10年ほどしか経過していないことを隠匿し、請求人が1902年に米国にて設立され、1929年(昭和4年)以来米国外でビジネスを展開する著名な企業であると主張しており、信義則に反しかねない主張であるといわざるを得ない。
(2)商標権者は、インクジェット記録装置に使用されるインク、インクカートリッジのリサクル製品及び汎用カートリッジの製造販売を主たる事業とする企業であり、中小企業ではあるが、コンプライアンスを重んじる企業であって、かつ、組織的な管理体制をとっている企業である。また、商標権者の事業は、請求人とは全く異なる事業を主とする企業であり、取り扱う商品も全く異なる企業であるから、競合関係にない企業である。
そして、本件商標は、請求人が無効理由とする、商標法第4条第1項第10号、同第11号、同第15号及び同第19号について、審査官の厳正なる審査を経て商標登録の査定がなされたものである。
以下、本件商標に、請求人の主張する無効理由がないことを詳述する。
2 商標法第4条第1項第11号に対する反論
(1)本件商標と引用商標1及び2の類否
引用商標1及び2は、請求人の主張によれば、「ポストイット」と呼称するようであり、その構成中の「POST」、「ポスト」は、英語で郵便、郵便箱等を意味し(乙2)、日本では、古くから赤色のポストとして認知されている(乙3)。
一方、本件商標中の「IT」は、コンピュータ、通信、情報分野の略称として使用されるのが一般的であり、「アイティー」と呼称される。
したがって、本件商標は、「ペーストアイティー」と呼称されるものであるが、「PASTE」の文字は、英語で生地、糊などを意味する(乙4)ものであり、引用商標1及び2と本件商標とは、呼称及び観念の点において、誤認・混同を生じさせるものではない。
また、引用商標1と本件商標は、ともにアルファベット文字と符号を標準文字として横書きしてなるものであるが、「IT」を除く文字と記号は、引用商標1は「POST」であって、本件商標は「PASTE」であり、引用商標1は「A、E」の文字を含まず、外観的にも相違することは一目瞭然である。
したがって、引用商標1及び2と本件商標は、外観、呼称、観念を全体的に時と所を異にして隔離的に観察して判断すると、非類似の商標である。
(2)本件商標と引用商標3及び5の類否
引用商標3及び5と本件商標の類否は、前記(1)と同様である。
また、引用商標3及び5は、第9類に属する商品を指定商品とするものであり、本件商標は、第16類「文房具類」を指定商品とするものであるから、両商品は、その用途や販売形態が全く異なり、出所の混同は生じない。
したがって、引用商標3及び5と本件商標は、商標及び商品において類似しないものである。
(3)引用商標4及び6と本件商標との類否
引用商標4及び6は、「Post-it」と図形を組み合わせた商標である。
これに対して、本件商標は、標準文字からなる「PASTE-IT」である。
したがって、引用商標4及び6と本件商標は、外観及び観念において全く異なる。
引用商標4及び6と本件商標の類否の判断は、前述の理由と同様である。
(4)以上のとおり、引用各商標と本件商標とは、外観、呼称、観念のいずれの点からみても類似しないものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第10号に対する反論
(1)請求人は、引用各商標は、商品「文房具」との関係で著名な商標であり、本件商標が引用各商標と呼称、観念、外観において類似すると主張する。
そして、当該引用各商標とは、引用商標2、4、5及び6に該当するものであるが、前記2のとおり、引用商標2、4、5及び6は、本件商標とは、外観、呼称、観念のいずれの点からみても類似しないものである。
(2)商標権者の調査によれば、引用商標2、4、5及び6は、その著名性を見出すことができない。
ア 特許電子図書館(IPDL)による、日本国周知・著名商標検索の結果によれば、0件であり(乙5)、引用商標2、4、5及び6は日本国周知・著名商標として認識されていない。なお、商標出願・登録情報検索よる、呼称検索を行った結果、「ポストイット」の呼称検索では、引用各商標と他の1件(検索結果7件)が検索された(乙6)。
イ カタログ販売会社アスクル株式会社の付せんのカタログ268頁?275頁(乙7)によれば、付せんに使用されている商標は、引用商標6に類似する商標のみである。
しかしながら、上記カタログに掲載された付せんは、住友スリーエム製以外の製品も多種掲載(270頁、271頁、274頁)されており、このカタログを見て引用商標6が著名商標といえるかどうか疑わしい。
ウ 請求人は、著名という点に関して、合計200頁以上のちらし、広告宣伝と称する資料(甲1、甲2)を提出しているが、これらは、住友スリーエムのものであり、また、出展が不明なものや同一のもの、さらに、いつ、どこで、だれに、どのように配布、開示等されたものか不明なものが非常に多い。
エ ところで、世界的に著名であるソニー株式会社(乙9)の商号、ロゴ及び商標である「ソニー」と1字違いの「サニー」について、IPDLによる商標出願・登録情報検索の結果(乙8)によれば、75件であり(2013年10月22日検索)、そのうち、登録第4868121号「ソニー」の商標は、第1類から第45類までの区分で登録された商標であるが、出願人が異なる「サニー」の商標7件が登録第4868121号と同一商品区分かつ同一指定商品に登録されている。
このような著名な「ソニー」の商号、名称、企業略称、商標の存在下でも、上記のとおり「サニー」なる商標が登録されている現状である。このことは、「サニー」と「ソニー」とは、片仮名を標準文字として横書きしてなる商標であり、その相違点は3文字中1文字の外観及び呼称が「サ」と「ソ」の母音の違いだけであるが、外観、呼称、観念を全体的に時と所を異にして隔離的に観察して、非類似の商標であると判断され、登録となったものと思われる。
このように、著名な商標、商号、企業略称の存在があっても、商標の類似判断が外観、呼称、観念を全体的に時と所を異にして隔離的に観察して、非類似の商標であると判断され登録されている事実があることに鑑みれば、請求人が主張する著名商標であるからという理由は成り立たない。
(3)以上のとおり、引用商標2、4、5及び6が著名商標であるとの請求人の主張は疑わしいが、仮に著名商標であるとしても、引用商標2、4、5及び6と本件商標とは、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号に対する反論
(1)被請求人が、平成25年10月22日に購入した商品「付せん」の写真(乙10)には、引用商標6に類似する商標がその包装箱に印刷されているが、請求人が主張する「Post-it/ポスト・イット」商標は使用されていない。
上記写真中、「ポスト・イット/見出し」の文字は、請求人が引用する商標ではないし、「見出し」の文字が大きく、かつ、下列に記載されており、需要者が当該「見出し」に注目する表記でもある。
また、写真中の「3M」の文字は、通常、需要者は「サンエム」と呼称し、請求人である「スリーエムカンパニー」の呼称など連想するはずがないし、全く異なる呼称でもある。むしろ、需要者から見れば、「3M」の文字は、付せんのサイズを示したものと理解する。
さらに、包装箱の裏面に記載された「住友スリーエム株式会社」なる企業名は、三大財閥の一つとして事業者、需要者には著名である住友グループを連想させ、「スリーエムカンパニー」なる企業名など連想されるはずがない。
(2)請求人は、「Post-it/ポスト・イット」商標は著名な商標であり、これと類似する本件商標をその指定商品について使用すると、出所の混同を生ずるおそれがある旨主張するが、以下のとおり、その主張は理由がない。
なお、請求人が引用する「Post-it/ポスト・イット」商標は、引用商標2、4、5及び6に該当するものである。
ア 前記1(2)のとおり、商標権者は、請求人の事業とは、全く異なる事業を主とする企業であるので、請求人が製造し、請求人ほか住友スリーエムが販売している商品である「付せん」など製造も販売もしておらず、請求人の業務に係る商品と混同など生じるはずがない。
イ 前記のとおり、引用商標2、4、5及び6は、本件商標とは、非類似の商標であり、かつ、引用商標2、4、5及び6の著名性を見出すことができないので、本件商標は、引用商標2、4、5及び6に対して混同を生ずるおそれなど全くない。
(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号に対する反論
引用各商標と本件商標とは全く類似しないし、引用各商標は、日本国周知・著名商標として認識されていないのである。
また、商標権者は、請求人とは全く異なる事業を主とする企業であり、かつ、取り扱う商品も全く異なる企業であるから、競合関係にない企業である。
このような状況下で、商標権者が本件商標を不正の目的もって、使用するために本件商標を登録するなど、全くあり得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 引用各商標には無効理由が存在すること
請求人は、指定商品「文房具類」として使用している商標は「付せん」の包装箱に付した引用商標6の類似商標を使用しているにすぎず(甲1、甲2)、また、引用商標1、2及び4については、使用の実態が見られない。
したがって、被請求人は、引用各商標には無効理由が存在する、と考えている。
7 むすび
以上のとおり、本件商標は、いずれの無効理由にも該当せず、その登録は有効である。

第4 当審の判断
1 請求人及びその業務に係る商品「粘着剤付き付せん」に使用される商標の著名性について
(1)証拠(各項の括弧内に掲記)及び請求の理由(当事者間に争いのない事実)によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 請求人について
請求人は、1902年(明治35年)に米国ミネソタ州に設立された企業であり、2002年(平成14年)までMinnesota Mining & Manufacturing Co.の社名であったが、その後、社名を「3M Company」(以下「3M社」という場合がある。)に変更した。「3M」は、Minnesota Mining & Manufacturing Co.の社名に由来する。
請求人は、世界有数のコングロマリット(相互に関連のない異業種企業を合併などにより吸収して、複数の種類の事業を多角経営する大企業)であり、日本での事業展開は、3M社が75%、住友電気工業株式会社が25%出資の合弁会社である住友スリーエムが行っている。
請求人の取扱いに係る商品及び役務は、多岐にわたり、電気・電子分野(主に素材)、医療・保健・ヘルスケア分野、交通安全用品(道路標識など)、安全・セキュリティ技術分野、工業用品、各種接着剤、(接着用)テープ(セロハンテープを発明、Scotchブランド)・(貼付)フィルム、その他文房具(付せん紙のPost Itブランドなど)、家庭用補修・清掃用具(スポンジのScotch-Briteブランド)・フィルター類などがある。
請求人の2007年(平成19年)度の売上高は、244億6200万ドルであり、2007年(平成19年)12月31日現在の従業員数は、76239人であった。(以上、乙1)
また、請求人は、本件商標の登録出願前である2008年(平成20年)4月に発行された「Forbes」に、世界上位2000のリーディングカンパニーのうち、209位にランキングしたことが掲載され、また、2009年(平成21年)4月に発行された「Forbes」に、世界上位2000のリーディングカンパニーのうち、189位にランキングしたことが掲載された(請求の理由4頁)。
イ 請求人の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」に使用される商標について
請求人の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」は、1970年代に請求人が開発した商品であり、我が国で発売された1981年(昭和56年)(請求の理由5頁)以降は、すぐに貼ることができ、また、はがせる付せんであって、色彩も様々なものがあり、従来よりのり付けをして使用していた付せんのイメージを払拭した画期的な商品として話題に上ったことは周知の事実である(このことは、乙1(Wikipedia「3M/スリーエム カンパニー/3M Company」)の「製品とサービス」の項目において、前記アのとおり、「その他文房具(付せん紙のPost Itブランドなど)」と記載されていることからも認めることができる。)。
その後、請求人及び我が国における請求人の子会社である住友スリーエム(以下「請求人等」という。)は、いわゆるオリジナルの粘着剤付き付せんをもとに、メモ帳型の粘着剤付き付せんなどサイズの異なるものや著名なキャラクターが印刷されたものなど様々な粘着剤付き付せん、あるいは、付せん用ディスペンサーなどの商品展開をし、これらの商品について、2000年(平成12年)ころには既に、多数のちらしの頒布、キャンペーンの実施、様々な雑誌における広告などを行い、それ以降も積極的な広告宣伝活動を継続した。これらの広告物の目立つ位置には、主として、色彩を同一のものとすれば、引用商標6と同一の構成からなる商標(以下「色付き引用商標6」という。)や、色付き引用商標6中の「Post-it」の文字部分の下に「ポスト・イット」の文字又は「Brand」の文字を小さく表した商標も多く表示され、また、粘着剤付き付せんの包装袋や包装箱には、色付き引用商標6や引用商標6が目立つように表示されている。さらに、上記広告物や包装袋・包装箱等には、上記商標とともに、「3M」及び「住友スリーエム株式会社」の文字も表示されている。(以上、甲1、甲2、乙10)
色付き引用商標6や引用商標6など「Post-it」の文字を使用した商標及びその片仮名表記である「ポスト・イット」の文字からなる商標を付した商品の日本での売上高は、2000年(平成12年)が約55億円、2001年(平成13年)が約51億円、2002年(平成14年)が約49億円であったが、その後、徐々に売上高を伸ばし、2006年(平成18年)には約60億円に達し、本件商標が登録出願された2008年(平成20年)は約62億円であった(請求の理由5頁)。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、請求人は、世界有数のコングロマリットであり、「3M Company」及びその略称である「3M」は、「スリーエムカンパニー」、「スリーエム」と称呼され、本件商標の登録出願日(平成20年7月4日)以前より現在に至るまで、米国においてはいうまでもなく、我が国においても、各種商品の取引者、需要者の間に広く認識されていたというべきである。
また、色付き引用商標6や引用商標6など「Post-it」の文字を使用した商標及びその片仮名表記である「ポスト・イット」の文字からなる商標は、「ポストイット」と称呼され、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を表示するものとして、本件商標の登録出願日前には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものであって、その著名性は、本件商標の登録査定時(平成22年6月17日)においても、継続していたものといえる。
なお、被請求人は、請求人が引用する「Post-it/ポスト・イット」商標は、引用商標2、4、5及び6に該当するものである、と主張するが、引用各商標は、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用された商標であり、請求人が引用する「Post-it/ポスト・イット」商標は、引用各商標に限定されるものではなく、上記のとおり、色付き引用商標6や引用商標6など「Post-it」の文字を使用した商標及びその片仮名表記である「ポスト・イット」の文字からなる商標全般を指すものとみるのが相当である。したがって、その意味からすれば、「Post-it/ポスト・イット」商標は、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」について使用する商標の総称とみるべきであるから、請求人等の使用する色付き引用商標6や引用商標6など「Post-it」の文字を使用した商標及びその片仮名表記である「ポスト・イット」の文字からなる商標を総称して、以下、改めて「Post-it/ポスト・イット」商標という。
2 出所の混同のおそれについて
(1)本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標との類似性
ア 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであって、綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、したがって、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もある(最高裁平成3年(オ)第1805号、平成4年9月22日第三小法廷判決)。
イ 前記アの判決の説示を踏まえ、本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標との類似性について判断する。
(ア)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「PASTE-IT」の文字を標準文字で表してなるものであり、その構成中の「PASTE」の文字部分は、「のり(糊)、ペースト状のもの」などを意味する英単語(乙4)として、また、パソコン操作において、コピーした文章やデータなどを別の場所へ「貼り付ける」ことを意味するものとして、日常的に使用され、よく知られている語であるといえる(乙4)。また、本件商標の構成中「IT」の文字部分は、「それは(が)、それを」などを意味し、我が国の義務教育課程において習得する基本的英単語「it」を大文字で表したと理解されるほか、「情報技術」を意味する「imformation technology」の略語として使用されているものであるから、該略語を表したと理解される場合もあることは否定できない。
ところで、本件商標は、その指定商品を「文房具類」とするものであり、文房具類には、「付せん」が含まれるものと解される。そして、前記1(2)認定のとおり、「Post-it/ポスト・イット」商標は、請求人等の製造、販売に係る商品「粘着剤付き付せん」を表示するものとして、本件商標の登録出願日には既に、「ポストイット」と称呼され、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものである。
してみると、本件商標を、「付せん」が含まれる指定商品「文房具類」について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、本件商標の構成中「IT」の文字部分について、著名な「Post-it/ポスト・イット」商標中の「Post-it」と同様に、その前にハイフンが配されていることも相俟って、「imformation technology」の略語を表したと理解するというより、むしろ、「Post-it/ポスト・イット」商標を想起、連想し、その影響を強く受けて、「イット」と称呼する場合が多いというのが相当である。
そうすると、本件商標は、その指定商品との関係からみると、構成文字全体から生ずる自然の称呼は、「ペーストイット」というべきである。
次に、本件商標の観念についてみると、上記のとおり、本件商標は、「付せん」が含まれる「文房具類」について使用されるものであって、「付せん」の分野においては、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」の発売以後、多数の同業他社が「粘着剤付き付せん」の製造、販売を行っている実情にあり(乙7)、「付せん」といえば、今やすぐに貼ることができ、かつ、はがせる商品であることが取引者、需要者の間に定着しているといえる。このような状況において、「PASTE-IT」の文字からなる本件商標に接する取引者、需要者は、「それを貼り付ける」などの意味合いを直ちに想起するとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、その指定商品との関係から考察すると、「それを貼り付ける」の観念を生ずる場合が多いということができる。
(イ)「Post-it/ポスト・イット」商標
「Post-it/ポスト・イット」商標は、前記1(2)認定のとおり、「ポストイット」と称呼され、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものである。
そうとすれば、「Post-it/ポスト・イット」商標からは、「ポストイット」の称呼を生ずるものということができる。
次に、「Post-it/ポスト・イット」商標の観念についてみると、その構成中の「Post/ポスト」の文字部分は、「郵便受け」を意味するほか、「部署、支柱」などの意味を有する英単語として、我が国の国民に知られているものであり、これらの語がハイフン又は中黒を介して「it/イット」と結合したものが、我が国において、よく知られた熟語ないし慣用句であると認めるに足りる証拠は見いだせないから、「Post-it/ポスト・イット」商標からは、特段の観念を生ずるものでない。しかし、上記のとおり、「Post-it/ポスト・イット」商標は、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されている商標であることからすると、これに接する取引者、需要者は、直ちに請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を想起、連想するというべきである。
(ウ)本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標との対比
本件商標から生ずる「ペーストイット」の称呼と「Post-it/ポスト・イット」商標から生ずる「ポストイット」の称呼とは、語頭部において、「ペー」の音と「ポ」の音の差異を有するものであり、「ぺ」と「ポ」は、帯有する母音「e」と「o」の差異を有するものの、両唇を合わせて破裂させる無声子音「p」を共通にし、発音の方法や音感等において近似するものである。また、「ペ」の音が長音を伴うことから、それぞれの称呼を一連に称呼するときには、称呼全体の音調、音感がやや相違したものとなることは否定し得ないが、上記語頭部における差異音以外の「ストイット」の音を共通するにするものであるから、両称呼をそれぞれ全体として称呼するときは、明らかに相違する称呼であるということはできず、称呼上相紛れるおそれがないとはいい切れない。
また、前記(ア)及び(イ)認定のとおり、本件商標は、その指定商品との関係からみると、「それを貼り付ける」の観念を生ずるものである。一方、「Post-it/ポスト・イット」商標は、一義的には、特段の観念を生ずるものではないが、その著名性ゆえに、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を想起、連想させるというべきである。そうすると、両者は、商品「粘着剤付き付せん」に関連した観念を想起、連想させる点において、観念上近似するものといえる。
さらに、「PASTE-IT」の文字からなる本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標における「Post-it」の文字からなる商標とは、前者が全て大文字からなるものであるのに対し、後者は語頭の「P」の文字部分のみが大文字で、これに続く他の文字は、小文字で表されている点、第2文字が「A」であるか「o」であるかの差異及び「T」の後の「E」の文字の有無の差異がある点において相違する。しかし、両者は、語頭の「P」、「ST」と「st」、末尾の「IT」と「it」をハイフンで結合した点において共通し、「Post-it」の文字からなる商標が、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を表示するものとして、本件商標の登録出願日には、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたものであることを併せ考慮すれば、上記共通点、特に、「P」で始まり、末尾の「IT」ないし「it」をハイフンで結合した共通点は、上記相違点を優に凌駕するものといえる。
したがって、本件商標と「Post-it」の文字からなる商標とは、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合には、外観上互いに紛れるおそれがある程度に類似するものということができる。
以上のとおり、本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標とは、外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、「文房具類」における「Post-it/ポスト・イット」商標の著名性を併せ考慮すると、その類似性は相当程度高いものというべきである。
(2)「Post-it/ポスト・イット」商標の独創性
「Post-it/ポスト・イット」商標は、その構成中「Post/ポスト」及び「it/イット」の各語が我が国の国民に知られているとしても、上記のとおり、それぞれをハイフン又は中黒を介して結合したものが、我が国において、よく知られた熟語ないし慣用句であるとは認められないから、その構成において、高い独創性を有するものといえる。
(3)商品の関連性及びその取引者、需要者
上記のとおり、本件商標は、その指定商品を「文房具類」とするものであり、「Post-it/ポスト・イット」商標が使用される商品「粘着剤付き付せん」と同一又は類似の商品について使用されるものである。そして、これらの商品は、その取引者、需要者を共通にすることは明らかであり、その主たる需要者といえる一般の消費者は、広く老若男女を問わないものであり、商品を選択するに当たり、必ずしも当該商品に付された標章を注意深く観察する者ばかりでないことは、経験則に照らして明らかである。
(4)以上(1)ないし(3)及び前記1認定のとおり、(ア)「Post-it/ポスト・イット」商標が、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を表示するものとして、本件商標の登録出願日には、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたこと、(イ)本件商標と「Post-it/ポスト・イット」商標との類似性が相当程度高いこと、(ウ)「Post-it/ポスト・イット」商標の独創性が高いこと、(エ)本件商標の指定商品と「Post-it/ポスト・イット」商標が使用される商品とは同一又は類似の商品であり、また、これらの商品の取引者、需要者は、商品を選択するに当たり、必ずしも当該商品に付された標章を注意深く観察する者ばかりでないことを総合的に判断すれば、本件商標をその指定商品について使用した場合は、その取引者、需要者をして、「Post-it/ポスト・イット」商標ないしこれを使用した商品「粘着剤付き付せん」を強く連想させ、該商品が請求人等又は請求人等と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について誤認、混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」であるといわなければならない。
3 商標法第4条第1項第15号に関連する被請求人の主張について
(1)請求人等に関する主張
ア 被請求人は、請求人が著名であることは不知であるとした上で、請求人は、2002年(平成14年)までの社名、及び「スリーエムカンパニー」の社名になってからわずか10年ほどしか経過していないことを隠匿し、請求人が1902年(明治35年)に米国にて設立され、1929年(昭和4年)以来米国外でビジネスを展開する著名な企業であると主張することは、信義則に反しかねない主張である旨主張する。
しかし、請求人が1902年(明治35年)に米国ミネソタ州で設立された企業であることは、乙第1号証から明らかであり、2002年(平成14年)に社名を、旧名称のMinnesota Mining & Manufacturing Co.に由来する「3M Company」に変更したとしても、その事業内容が大きく変更されたと認めるに足りる証拠の提出はなく、乙第1号証によれば、社名変更後においても、世界的化学・電気素材メーカーであることに何ら変わりがないことが認められる。そして、請求人は、前記1(2)認定のとおり、「スリーエムカンパニー」と称呼され、また、その略称である「3M」は、「スリーエム」と称呼されて、本件商標の登録出願日には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたというべきである。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
イ 被請求人は、商標権者の主たる事業は、インクジェット記録装置に使用されるインク、インクカートリッジのリサクル製品及び汎用カートリッジの製造販売であり、請求人とは全く異なる事業を主とする企業であり、取り扱う商品も全く異なる企業であるから、競合関係にない企業である旨主張する。
しかし、上記被請求人の主張を客観的に認めるに足りる証拠の提出はない。仮に商標権者の業務が被請求人主張のとおりであったとしても、そもそも本件商標の指定商品は「文房具類」であり、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」とは、同一又は類似の商品であることからすれば、商標権者の業務が請求人の業務と競合関係にないということはできない。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
ウ 被請求人は、平成25年10月22日に購入した請求人の業務に係る商品「付せん」の包装箱の表面には、引用商標6に類似する商標(審決注:色付き引用商標6)が表示されているが、「Post-it/ポスト・イット」商標は使用されていない旨主張し、さらに、同表面及び同裏面に表示された「3M」及び「住友スリーエム株式会社」の文字に接する需要者は、請求人である「スリーエムカンパニー」の呼称及び企業名を連想しない旨主張する。
しかし、上記のとおり、色付き引用商標6等「Post-it」の文字を使用した商標及びその片仮名表記である「ポスト・イット」の文字からなる商標は、「Post-it/ポスト・イット」商標の一つである。また、「3M」は、「スリーエム」と称呼されて、請求人の略称等を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されているものであり、また、「住友スリーエム株式会社」は、我が国における請求人の子会社であって、その名称中の「スリーエム」の文字部分から、これに接する我が国の取引者、需要者は、直ちに請求人を想起するというべきである。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
(2)「Post-it/ポスト・イット」商標の著名性等に関する主張
ア 被請求人は、引用商標2、4、5及び6は、本件商標とは、非類似の商標であり、かつ、引用商標2、4、5及び6の著名性を見出すことができないので、本件商標は、引用商標2、4、5及び6に対して混同を生ずるおそれなど全くない旨を主張する。
しかし、前記1(2)認定のとおり、請求人が著名商標であるとして引用する商標(「Post-it/ポスト・イット」商標)は、引用商標2、4、5及び6など引用各商標に限定されるものではない。そして、「Post-it/ポスト・イット」商標は、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を表示するものとして、本件商標の登録出願日前には既に、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていた商標であって、本件商標は、「Post-it/ポスト・イット」商標とは類似の程度が高い商標であり、請求人等の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」を含む「文房具類」に使用される商標であるから、本件商標をその指定商品について使用するときは、請求人等の業務に係る商品との間に出所の混同を生じさせるおそれがある商標といわなければならない。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
イ 被請求人は、特許電子図書館(IPDL)による、日本国周知・著名商標検索の結果によれば、引用各商標は0件であり(乙5)、引用商標2、4、5及び6は日本国周知・著名商標として認識されていない旨主張する。
しかし、ある商標が著名であるか否かは事実認定の問題であり、当該事実を証明するために用いることができる証拠方法は、日本国周知・著名商標検索に限定されるものではない。したがって、上記被請求人の主張は採用することができない。
ウ 被請求人は、アスクル株式会社の付せんのカタログ(乙7)を提出し、このカタログには、他社の付せんが多数掲載されているから、これによって、引用商標6が著名商標といえるか疑わしい旨主張する。
しかし、上記カタログは、付せんに関するカタログであり、その性質上様々な企業の製品が掲載されることは当然といえることであり、上記カタログのみをもってして、「Post-it/ポスト・イット」商標が著名でないと速断することはできない。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
エ 被請求人は、請求人の提出したちらし、広告宣伝の資料(甲1、甲2)について、これらは、住友スリーエムのものであり、また、出展が不明なものや同一のもの、さらに、いつ、どこで、だれに、どのように配布、開示等されたものか不明なものが非常に多い旨主張する。
しかし、住友スリーエムは、上記のとおり、請求人の日本における子会社であり、社名中の「スリーエム」の表示から、我が国の取引者、需要者は、請求人を想起するものといえる。また、ちらし(甲1)の発行日や他の広告に関する活動(甲2)の実施日等については、請求の理由中に記載されている(6?17頁)。仮に被請求人主張のように、例えば、ちらしが、どこで、だれに、どのように配布されたかなどを明確に把握することができないとしても、前記1認定のとおり、請求人の業務に係る商品「粘着剤付き付せん」が、我が国で発売された1981年(昭和56年)以降、画期的な商品として話題に上ったことは周知の事実であって、「Post-it/ポスト・イット」商標の著名性に関する前記認定を左右するものではない。したがって、上記に関する被請求人の主張は理由がない。
オ 被請求人は、著名な「ソニー」商標とこれと出願人を異にする「サニー」商標が同一の指定商品について併存登録されているから、請求人が主張する著名商標であるからという理由は成り立たない旨主張する。
被請求人が挙げる「ソニー」及び「サニー」の各商標は、被請求人主張のとおり、商標において別異のものであるから、たとえ「ソニー」商標が著名であるとしても、両商標を同一又は類似の商品又は役務について使用した場合は、商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものとして、併存して登録が認められたものといえる。一方、本件においては、本件商標が、著名な「Post-it/ポスト・イット」商標と高い類似性を有することは、前記認定のとおりであって、被請求人の挙げた上記事例とは異なるものであるから、該事例の存在により、出所の混同のおそれの前記認定が左右されるものではない。したがって、上記に関する被請求人の主張は失当である。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものと認めることができるから、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 引用商標4


別掲2 引用商標6




審理終結日 2013-12-13 
結審通知日 2013-12-17 
審決日 2014-01-07 
出願番号 商願2008-53948(T2008-53948) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X16)
最終処分 成立 
前審関与審査官 山田 正樹 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 渡邉 健司
山田 啓之
登録日 2010-07-23 
登録番号 商標登録第5340086号(T5340086) 
商標の称呼 ペーストイット、ペーストアイテイ 
代理人 中山 健一 
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