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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W41
管理番号 1284334 
審判番号 無効2013-890020 
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-14 
確定日 2014-01-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第5504984号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5504984号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5504984号商標(以下「本件商標」という。)は,「R-Map」の文字を横書きしてなり,平成24年1月20日に登録出願,同年5月31日に登録査定,第41類「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」を指定役務として,同年7月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由並びに答弁に対する弁駁及び上申書における理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第62号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 請求の理由
(1)請求人について
請求人は,科学技術ならびに経営管理技術の振興に必要な諸事業を総合的に推進し,人材の育成を図り,もって産業と学術・文化の発展に寄与することを目的として,昭和21年に設立された団体で,昭和37年4月5日に,当時の科学技術庁(現在の文部科学省)所管の公益財団法人として認可され,公益法人制度改革に対応し,平成24年4月1日に一般財団法人に移行したものである(甲2)。
(2)被請求人について
被請求人は,株式会社イトーキを退職後,NPO法人品質安全機構を設立する一方,請求人の主催する研究会に参加し,また請求人が開催するセミナーの指導講師等をしていた者である。
(3)商標法第4条第1項10号(他人の周知商標)
ア 請求人の商標「R-Map」について
請求人は,平成11年に製品事故の発生リスクを評価するための手法として,本件商標と同一名称かつ同一表記の「R-Map」を開発し,以降,研究会やセミナーを主催するなどして,その「R-Map」という商標(以下「請求人商標」という場合がある。)を使用してきた。
なお,「R-Map」とは,「Risk Map」(リスクマップ)の略称表記で,「リスクマップ」,「アールマップ」と呼称される。
「R-Map」手法は,縦軸を6段階に分けて発生頻度の高低を示し,横軸を5段階に分けて危害の程度の大小を示したマトリックス表を用いて,製品に潜む安全リスクの大小を目に見える形で表現し,開発設計等の段階で評価するための手法である(甲3)。
イ 請求人による「R-Map」商標の開発
請求人は,製品安全(PS:Product Safety)に関する研究活動に積極的に取り組み,昭和49年には,製造物責任(PL:Product Liability)を研究する「PL研究会」を発足させた。その後,同研究会は平成7年に「PS研究会」(プロダクト・セイフティ研究会。略称ピーエス研究会)に改称された。
請求人のPS研究会は,遅くとも平成11年ころまでには,製品安全評価手法としての「R-Map」を開発し,対外的に研究発表を行っていた(甲4)。
請求人は,その後,PS研究会において継続的にR-Mapの研究及び発表を行っていたが(甲5及び甲6),平成15年6月にPS研究会を休止し,自主研究会としてR-Map研究会を発足した。
ウ 請求人商標の周知性?請求人の普及活動?
上記の活動を経て,請求人は,産官学の境界を超えて,製品などに潜む危険の大きさを評価する「リスクアセスメント」に特化した実践的な研究を実施するために,平成17年に「R-Map実践研究会」を発足させた。そして,以降現在に至るまで,研究会活動を主催するとともに,R-Mapセミナーを毎年継続して開催している(甲8)。
R-Map実践研究会においては,参加者が,請求人の認定したR-Map実践技術者の中から選任された講師による指導を受け,異業種の企業から参加したメンバー(研究員)との情報交流を行うことにより,R-Map手法を実践的に活用し,リスク対策を向上させる活動を行っている。具体的には,参加者は,分科会に分かれて研究を行い,外部の専門家を招いて特別講演会が開かれ,年度末に成果発表会が開かれるなどしている。
請求人は,平成17年から毎年,R-Map手法の説明,研究会,セミナー,書籍の案内等を行う「R-Map実践研究会」,「日科技連セミナーガイド」等の案内状を発行し,官公庁,企業,セミナー参加者等に配布するなどして(甲8及び甲9),R-Mapの普及及び請求人のR-Map関連活動の周知に努めてきた。その結果,これまでの約9年間で,R-Map事業においては,企業の製品開発担当者を中心に,研究会には延べ495人,セミナーには延べ1156人が参加し,国内でリスク判断の方法としてR-Map手法を導入する企業が増加している。
エ 請求人商標の周知性?官公庁による承認・推奨?
平成19年に消費生活用製品安全法などのいわゆる製品安全4法が改正されたことを受け,経済産業省は,平成20年に,重大事故情報の報告・公開制度を求め,企業に対しリスクアセスメント実施を促す方針を打ち出した。
そこで,さまざまな製品に汎用的に通用するリスク評価手法の必要性が高まり,経済産業省所管の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)において,平成20年4月に製品事故のリスク評価を開始し,R-Map評価結果をリコール判断時の参考情報として活用するようになり,約4年半で約2万件を分析している(甲8の9)。
このように,請求人の活動実績やR-Mapの有効性が広く認められ,請求人は,平成22年10月19日に,経済産業省より,R-Mapセミナーに対する経済産業省後援名義の使用について承認を受けている(甲11)。
そして,平成23年2月1日に内閣府消費者委員会において開催された第6回消費者安全専門調査会において,NITE製品安全センター事故リスク情報分析室により,「R-Map分析手法を用いた製品事故のリスクアセスメントについて」と題する発表がなされた(甲12の1及び2)。
さらに,平成23年6月には,経済産業省が発行した「リスクアセスメント・ハンドブック実務編」の中でも,「リスクアセスメントでは,リスクの見積もり,リスクの評価,リスクの低減を必要に応じて反復」,「これらを合理的かつ効果的に実現する手法の一つが,マトリックスを活用したR-Map手法」,「*1 R-Map手法は,(財)日科技連の『R-Map実践研究会』で開発されたリスクアセスメント手法」等と記載され,紹介されている(甲10及び甲13の1)。
オ 請求人商標の周知性?マスコミによる報道・告知?
このような請求人の活動により,請求人のR-Map手法が,請求人の名称とともにマスコミに報道されるようになり,日経BP社の「日経ものづくり」2005年(平成17年)11月号には,請求人のR-Map手法を紹介する記事が掲載された(甲19の1及び2)。
日刊工業新聞においては,平成22年7月27日・28日の連載記事で,「日本科学技術連盟(日科技連)が運営する『R-Map実践研究会』が注目されている。発足6年目を迎え,(中略)リスクアセスメントの手法を学ぼうという企業の会員が前年度比2割増加」,「メンバーは家電,精密機器,医療機器,損害保険会社など大企業中心で,部門は製品安全,技術管理,品質保証・管理など多岐にわたる。」,「(R-Mapの)実践的な活用成果に海外の関心も高い。」等と報じられている(甲20)。
カ 請求人商標の周知性?まとめ?
以上のとおり,平成11年の開発後の毎年の研究発表,平成16年の書籍出版,平成17年の実践研究会スタート,その後のマスコミ報道,NITEのR-Mapを用いたリスク評価,経済産業省の後援名義・推奨などを経て,遅くとも平成20年から平成23年までの間には,官公庁においても,民間企業,指導講師・研究生等R-Map関連事業参加者,その他製品等のリスクアセスメントに関心を抱く人々の間においても,請求人が,R-Mapの開発者として長年にわたりその名称を使用していることが認知されていた。
キ 被請求人と請求人及び請求人商標との関係
一方,被請求人は,平成14年から請求人が主催するPS研究会に参加した。被請求人は,R-Mapをテーマにした,PS研究会の平成15年6月13日付の研究成果発表会資料の中に,複数の研究会メンバー(受講生)の一人として名を連ねているものの(甲6),前述のとおり,R-Map手法は,平成11年に請求人において開発され,被請求人の参加前に確立されたものであって(甲4,5),被請求人はその確立された手法を用いて研究に参加したにすぎない。
被請求人は,平成17年5月開始の請求人主催のR-Map実践研究会に,研究員(受講生)として参加し,必要な受講回数等の要件を満たしたため,R-Map実践技術者として,平成18年3月に請求人から認定証の発行を受けた。そして,平成22年度の途中で講師の欠員が生じたため,年度途中の平成22年6月から平成25年1月まで,請求人の主催するR-Map実践研究会のセミナーの委員,指導講師を勤めることとなった(甲8の7及び8)。
以上述べてきたような関係にあったが,請求人の指導講師の一人である被請求人は,平成24年1月20日に特許庁に,R-Mapに関する請求人の業務内容と同一の「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」を指定役務として,請求人商標と同一の本件商標を出願し,同年7月6日付けで商標登録を受けたものである。
この登録申請は,請求人に無断で秘密裏に行われたものであり,登録後4ヶ月以上も経過した平成24年11月26日になってはじめて,被請求人は,自身がR-Mapの商標権者であるとして指定役務についての登録商標の専用使用権を主張し,商標法を引用し各種請求権を行使する権利を有しているとして請求人に対し,「対処」と「回答」を求めてきた(甲14)。
請求人は,平成25年2月6日付けで,被請求人に対し,R-Map関係の研究会,セミナーの委員,指導講師の委任契約を解除し,平成25年度の請求人主催事業への委嘱も行わないなどの意向を表明した(甲15)。
ク まとめ
前述のとおり,請求人商標は,被請求人の本件商標の登録よりも前の時点で,請求人が主催するセミナーや研究会等の役務を表すものとして広く認識され,周知されていた。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」と認められるので,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)
ア 被請求人の本件商標の登録の意図・目的
被請求人は,請求人の主催するR-Map実践研究会のメンバーの一人であり,請求人の認定・委嘱を受けて,R-Mapを使用した役務として,請求人が主催する研究会の委員やセミナーの指導講師を務めていた人物である(甲8の7及び8)。
被請求人は,既に請求人において平成11年以降長年にわたり使用されており,周知性を有していた請求人商標を,その事実を十分認識しながら,請求人が登録しないことを奇貨として,請求人に無断で抜け駆け的に登録出願し,その後,請求人に対し,業務遂行上,本件商標を使用する場合に,被請求人の許諾が必要であるとして,使用の停止又は中止,損害賠償,通常使用権設定の場合のロイヤルティ徴収などを突如として求めてきたのである。
かかる被請求人の行為は,まさに反道徳的,反社会的な行為といえるものであり,以上の被請求人の一連の言動に鑑みれば,被請求人が,請求人に対し金銭を請求する目的で,請求人に無断で抜け駆け的に,既に周知性を有していた請求人商標と同一の本件商標の登録を行ったことは明白である。
イ 本件商標登録後の被請求人の行動(異議申立機会の喪失)
被請求人は,登録がなされた後,4ヶ月以上もの間,請求人に対し本件商標の登録の事実を告知せず,何らの権利行使も行わなかった。
被請求人は,平成24年1月の出願時も同年7月の登録後も従前と変わらず,請求人の主催する研究会の講師や委員として,請求人のR-Mapの名称使用を認識しながら活動に参加していたことになる。
そして,平成24年11月28日付けで請求人に権利行使に関する書面を送付した後,請求人の理事らと面談した被請求人は,請求人より本件商標の登録について争う旨の告知を受けた際,商標登録を争うことはできないという趣旨の反論を行った。これらを総合的に考えると,被請求人は,商標登録の異議申立期間の経過を待って,請求人ないし広く第三者が,異議中立により簡易迅速に本件商標の登録の取消を求める手段を封じ,自己の商標登録を確実なものとさせる意図があったのではないかと推察できる。
ウ まとめ
以上のとおりであるから,被請求人の本件商標の登録が是認されるとすれば,社会公共の利益や社会の一般的道徳観念に著しく反することは明白である。
したがって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害する」と認められ,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)
R-Map手法に関するセミナーを受ける需要者としては,R-Mapが,平成24年4月1日に一般財団法人に移行するまで文部科学省所管の公益財団法人であった請求人の努力により普及したものであり,経済産業省等のいわばお墨付きを受け,推奨された手法(甲11ないし甲13)というところに信用を抱き,請求人が開催するR-Mapセミナー等に参加するのであって,請求人商標の顧客誘引力は強度なものであったといえる。
以上の事情の下,被請求人が,請求人商標と全く同一の本件商標を,第41類「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」の役務に使用すると,需要者は,請求人が開催・運営するセミナーであると誤認し,また,請求人の許諾に基づき被請求人がセミナー等を開催している等と誤認することが明らかである。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある」と認められ,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号(他人の周知商標の不正目的使用)
被請求人は,既に請求人において長年にわたり使用されている周知商標を,請求人が商標登録していないことを奇貨として,請求人に無断で抜け駆け的に登録出願し,その後,請求人に対し,業務遂行上,本件商標を使用する場合に,被請求人の許諾が必要であるとして,使用の停止又は中止,損害賠償,通常使用権設定の場合のロイヤルティ徴収などの要望を突如通告し(甲14),高額での商標権の買取りを求めるなどしている。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国において需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を与える目的その他の不正の目的)をもって使用されているもの」と認められ,商標法第4条第1項第19号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)答弁に対する反論
ア 請求人と被請求人との関係について
被請求人は,被請求人が「請求人とは契約関係になく,報告,連絡,相談の義務もない。何ら拘束されることのないボランティアである。」旨述べるが,否認する。
請求人は,平成22年6月に,被請求人に対し,研究会,セミナー等の委員,講師を委任し,被請求人はそれを受任した。合意に基づき,請求人より,被請求人には日当が支払われており,両者間には委任契約が存在した。
請求人のR-Map実践研究会の指導講師・委員は,請求人の委嘱を受けて,広くR-Mapの普及に努めることを目的として,研究会内外において活動していたため,R-Mapに関する権利が請求人に帰属する前提で,請求人その他の権利者の権利・利益を侵害しない範囲で活動することは委任の趣旨から当然のことであった。
したがって,請求人より委任を受けてR-Map実践研究会の指導講師・委員を務める被請求人が,請求人のR-Mapの商標権を侵害する形で,本件商標の登録を行ったことは,委任の趣旨に著しく反し,到底許されるものではない。
また,請求人のR-Map実践研究会においては,研究会の講師等が,自身の所属する企業や外部のその他の場所等において,勉強会を開く際などに,資料の使用等について,通常,事前に承諾を受けるようになっていたが,請求人は,被請求人が今般提出した資料にある記事やセミナー等の大半を把握していない。
講師等が対外的にR-Mapに関するセミナーや記事執筆等の活動をする場合,依頼者側から講師が直接依頼を受けることもあれば,請求人宛に講師の紹介依頼が来ることもあるが(甲21),いずれの場合も,依頼者側は,請求人がR-Mapを開発し,セミナー等の活動を行っている文部科学省所管の公益財団法人であることから,請求人を信頼し,その請求人より委嘱された指導講師であるとか,請求人において正式に認定されたR-Map実践技術者であるということを前提に,依頼をしているのが実情である。
そうであるからこそ,依頼を受けた講師も,セミナーの資料や記事の中の肩書やプロフィール欄に,「日本科学技術連盟R-Map実践研究会指導講師」,「日本科学技術連盟認定R-Map実践技術者」等という記載をするのが通常であって,被請求人も,同様にそのような肩書や表記を行っていた。
イ 第42類の「R-マップ」商標について
被請求人は,「R-マップ」という商標につき,「第42類 電子計算機のプログラムの作成」を指定役務として,平成14年7月4日に出願し,平成15年5月9日に登録された(以下「42類商標」という。)等と主張するが,請求人は,被請求人から出願時に同意を求められておらず,無断でなされたものである。
請求人が松本氏に当時の状況を確認したところ,被請求人は,平成14年6月に,R-Map実践研究会の前身であるPS研究会の活動に初参加したが,その直後の平成14年7月4日に,請求人に無断で42類商標の登録出願を行ったようである。
しかし,被請求人にソフトウェアプログラム開発の実態がなかったため,特許庁より資料提出を求められ,平成15年になって,被請求人より,松本・河村講師に対し資料の提供依頼があり,その際,被請求人は,松本・河村両氏に対し,商標申請の理由について,「R-マップ」の商標を他社が取得した場合に,請求人や研究会メンバーが使用できなくなるので防衛的に申請した方がよい,と何度も強く求めてきたようである。そこで,両氏は被請求人に対し,あくまでも商標を防衛する目的であり,被請求人個人に権利が帰属するものでないことを確認した上で,申請費用については被請求人と松本氏・河村氏とで折半し,登録手続については被請求人が代表することになったそうである。
ちなみに,このときに,松本氏と河村氏が被請求人に提供したものは「R-Map支援システム」というソフトウェアに関する資料である(甲22)。そして,被請求人が,松本・河村氏より提供を受けた資料を特許庁に送付して審査を受け,平成15年5月に42類商標の登録がなされた模様である。
被請求人は,R-Mapの開発,商標の命名,公表,R-Mapの内容確立,ソフトウェアの作成のいずれの段階にも参加していない。
上記のような42類商標の登録経緯・実質があるからこそ,42類商標登録後,請求人は,製品安全セミナーや研究会等で,「R-Map支援システム」ソフトを使用してきたが,被請求人より商標権に基づくクレームや権利行使を受けたことはなかった。
被請求人が運営するNPO法人の公式サイトを見ると,被請求人は,42類商標登録の経緯・実質を無視して,商標を被請求人自身(個人)に帰属しているように表示し,R-Mapに関する営業活動に利用しているようである(乙5)。
松本氏としては,商標防衛の趣旨で被請求人の申出を容認したものの,「R-Map」手法自体については広く普及させたいと考えていたため,被請求人がセミナーやその他の役務に関し商標登録することは認められないと判断したとのことである。
ウ 請求人のR-Map商標の周知性について
(ア)商標法における周知性判断について
R-Mapは製品のリスクアセスメント(安全評価)手法であるから,請求人商標が,メーカー企業の製品開発担当者(安全部門)や,製品リスクアセスメントを企業に対し指導・統括する立場の経済産業省,同省所管の独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)等において周知されていたということは,リスク評価に関する需要者の間に広く認識されていたことを意味するのである。
(イ)請求人のR-Map周知活動
既述のとおり,請求人PS研究会は,当時株式会社東芝に所属していた松本氏らを中心とするメンバーの研究により,遅くとも平成10年ころまでには,製品安全評価手法としての「R-Map」を開発し,平成11年6月に請求人が主催した,第25年度(平成10年度)プロダクト・セイフティ研究会研究成果発表会において,確立されたR-Map手法がその名称とともに公表された(甲4)。
それとともに,請求人PS研究会メンバーを代表して,旭化成工業株式会社所属の古野氏が,上記発表会資料の要約版を執筆し,平成11年9月に,企業の製品安全担当者,省庁の製品安全専門者等の間に広く購読されている専門誌「品質管理」に記事が掲載された(甲23)。
R-Map研究を開始した平成10年から平成14年までのPS研究会の参加者は延べ182名,R-Mapを教授するようになった平成12年以降平成15年までの請求人製品安全(PS)講座の受講者は延べ218名であり,この期間のR-Map関連事業参加人数を合計すると述べ400名となる(甲27)。
そして,請求人はPS研究会を発展的に解消し,平成16年の「R-Map実践ガイダンス」出版を経て(甲7),それ以降,R-Map実践研究会をR-Map普及活動の中心として,毎年,研究会・セミナー等を開催してきた(甲8及び甲9等)。
平成25年8月1日現在の累計書籍販売数は2704冊(甲28),資料のダウンロード数は2377名である(甲29)。資料(甲10)のダウンロード先は,大手企業の製品安全担当者が多数を占めており(甲29),ダウンロードした資料がその企業内で回覧され,また研修の資料となるなどして,さらに多数の人物に閲覧されていることが容易に推測できる。
なお,被請求人自身も,平成23年5月のダウンロード開始後初期の時点で,かつ,本件商標出願前の時期に,請求人WEBサイトより当該資料をダウンロードしているようである(甲29)。要するに,被請求人が「周知」しているとする「R-Map」の図表,内容や解説などには独自性がなく,いずれも請求人から得た情報に基づくものである。
請求人は,教育・人材育成を活動の中核に位置付けている関係から,良好な研究成果が得られた場合には,研究会メンバーが外部において研究成果を発表する機会を積極的に設け,自主的な発表を支援するなどしていた(甲21等)。その際,講演・発表を行う者もその聴衆も,請求人が開発し普及活動を行っているR-Mapがテーマとなっていることを認識している。
平成17年以降のR-Map実践研究会と平成16年以降のセミナー参加者は,それぞれ延べ573名と1366名の合計1939名であり,R-Mapについて発表したシンポジウム(甲30),セミナー(甲31),単発の研究会(甲32),請求人が研究会メンバーの活動として把握している社内セミナー・講演会などの参加者も加えると,合計で延べ3580名となる(いずれも平成25年8月6日現在。甲33)。
これに前述の平成10年から15年までのPS研究会時代の参加実績400名を加えると,現時点で請求人が参加人数を把握しているだけで,合計で延べ3,980名が,請求人のR-Map関連事業に参加している(甲27及び甲33)。
ちなみに,かかる普及活動は日本国内にとどまらず,平成15年に韓国,平成20年に中国,平成25年にはタイにおいて,請求人の紹介により,実践研究会主査の松本氏らが派遣され,R-Mapセミナーが実施されている。
以上のとおり,請求人は,R-Mapの周知活動を行ってきた。
(ウ)インターネット検索における状況
インターネットの検索サイト・グーグルで「R-Map」を入力して検索すると,請求人の公式WEBサイトが一番目に登場し,画面末尾の検索数の多い関連キーワード候補の中に「日科技連 r map」,「r map実践研究会」があり,請求人と「R-Map」が関連付けられて検索されている模様であるが,R-Mapの関連キーワードの中に被請求人及びそのNPO法人の名称は登場しない(甲41)。
なお,上記検索でヒットした,被請求人に関連するページについては,いずれも被請求人のNPO法人や被請求人自身が著者としてR-Mapについて記述したものであり,第三者が「村田一郎氏のR-Map」等という形で紹介したものは見あたらない。
以上のとおり,自ら請求人のR-Mapを紹介している官公庁や,一般の検索者においても,被請求人ではなく,請求人と関連付けてR-Mapを認識していることが窺われる。
エ 被請求人の出願登録した本件商標の周知力(周知性)の主張について
(ア)被請求人がこれまでセミナー運営会社に登録するなどして行ってきたR-Mapに関する活動は,すべて被請求人固有の「R-Map」の普及活動ではなく,請求人の実践研究会の講師・委員の一員,請求人の認定を受けた実践技術者,または請求人研究会において指導を受けた一員として,「R-Map」の普及を行っていたにすぎない。
(イ)セミナーについて
被請求人は,既に製品安全の専門家等の需要者において周知であった,請求人の「R-Map」手法を,大部分のセミナーにおいて,著作者,著作権者の同意を得ることなく請求人R-Map実践研究会において使用された資料等を用い,又はそれに改変を加えたものを用いて紹介していたものと思われる。そして,その際の自身の肩書には必ず「財団法人日本科学技術連盟認定R-Map実践技術者」,「財団法人日本科学技術連盟認定R-Map指導講師」(後者は平成22年以降)等と記載し,経歴欄には必ず「2005年(財)日本科学技術連盟認定R-Map実践技術者」,「2010年同((財)日本科学技術連盟)実践技術者指導講師」等の記載がなされていたのである。
(ウ)消費者庁主催のイベントについて
平成23年に開催された消費者庁主催の意見交換会は,平成23年1月と2月に開催されたものであるから,平成20年4月からNITEが請求人の開発したR-Mapを使用し始めて約3年が経過し,平成22年10月19日に請求人のR-Mapセミナーが経済産業省後援名義の使用について承認を受けるなど,請求人の「R-Map」手法が周知され,需要者の間で普及した後に企画されたものである。
しかも,2回のイベントのうち1回(前節)はR-Mapをテーマとしたものではなく,2回目(後節)に「R-Map」について講演したのは,請求人「R-Map実践研究会主査」の松本氏である(乙4の1)。さらに,その際のパネリスト2人のうち1人もNITE製品安全センター参事官であったが,NITEは,請求人のR-Mapを推奨し,メンバーを請求人実践研究会に参加させ(甲12の2),請求人とともにR-Mapの研究・普及を目指している独立行政法人であり,意見交換会で議論の対象となっていたのは,請求人のR-Mapに関する取り組みを中心としたものである。
(エ)その他の調査報告等について
被請求人は,「本件商標の周知度を調査報告」したと述べるが,根拠資料が乏しく,いかなることを示しているのか不明である。
財団法人製品安全協会の「ものづくりの安全・品質に関する社会文化の変化と企業経営の在り方等の調査」に係る報告書(乙4-4ないし8),財団法人国際交流財団,財団法人製品安全協会の「消費生活用製品の製品安全に係る欧州におけるリスクアセスメントに関する調査研究報告書」(乙4-9及び10)のいずれについても,被請求人は「(財)日本科学技術連盟認定R-Map実践技術者」の肩書を第1に付して,被請求人がR-Map手法による分析等を行っている模様である。
被請求人が乙証4-9及び10として一部を提出している「消費生活用製品の製品安全に係る欧州におけるリスクアセスメントに関する調査研究報告書」(甲46)は,被請求人が単独で作成したものではなく,調査員の一人として参加したものにすぎない。そして,被請求人が担当した記載内容も,大半が請求人の研究会成果発表会資料(甲6,甲47ないし甲49)を,若干の表現の変更はあるものの,ほぼそのまま転載している模様である(対応関係については甲50)。
これらの被請求人のR-Mapにまつわる活動はすべて,請求人の活動及び請求人のR-Mapに全面的に依拠したものであり,結果として,請求人のR-Map商標を周知していたにすぎない。
(オ)「R-Map自動描画プログラム」について
被請求人が,WEBで無料公開しているという「R-Map自動描画プログラム」なるもののアクセス数などについては不知であり,本件商標の登録以前から公開されていたのかは不明である。
(カ)日刊工業新聞について
被請求人は,新聞や雑誌の記事に関して,周知力を計算し,請求人の周知力を比較するなどしているが,記事を見ても,合計13回のうち,R-Mapについて記述があるのは3回にすぎず(乙6-4,11及び14),計算根拠等も不明確である。
なおかつ,被請求人の記事はいずれも,請求人においてR-Mapの周知がなされた後に,請求人の実践技術者または講師として,請求人のR-Mapの活動を紹介したにすぎず,請求人の周知性確立を補強したにすぎない。
日刊工業新聞は,平成22年7月の時点で,請求人が開発し普及活動を行っていたR-Map手法を請求人の名称とともに取り上げるなどしている(甲20の1及び2)。同社も,同年10月に請求人実践研究会のメンバーで,指導講師である被請求人に記事執筆を依頼したのであって,請求人と被請求人との関係性や指導講師の肩書を抜きにして依頼されたものではない。実際,被請求人の記事13回分のうち,本件商標が登録された後の平成25年1月31日までの合計12回分には,すべて,前記の肩書が記載してある(乙6-3ないし14)。
被請求人がR-Mapに関する記事を執筆しても,日刊工業新聞社は,既に周知されている請求人のR-Mapの紹介と認識するだけであり,被請求人に商標権が帰属することになるR-Mapを紹介してもらったという認識はないはずである。
仮に被請求人の連載記事に効果があったとすれば,それにより,請求人の「R-Map」商標の周知性がさらに高まっただけのことである。
(キ)雑誌記事について
雑誌の記事に関する被請求人の周知力計算についても,計算の前提となるR-Map記事の掲載回数や計算根拠等が不明確であり,比較として適切ではない。
その他の雑誌についても,R-Map記事掲載に関する根拠がなく不明であるが,仮にR-Mapに関する記述がなされていたとした場合でも,請求人により公表周知された「R-Map」について,請求人の講師,認定実践技術者等として被請求人が紹介を行ったものと考えられる。
(ク)まとめ
以上のとおり,被請求人の本件商標の登録よりも前の時点で,官公庁,日本全国の企業の製品安全担当者,その他において,請求人商標が,請求人が主催するセミナーや研究会等の役務を表すものとして広く認識され,周知されていたことは明白である。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用するもの」と認められるので,商標法第4条第1項第10号に該当する。
公序良俗違反について
(ア)被請求人は,商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」の解釈につき,限定的に解釈すべきとしている。
しかし,本件のように,被請求人は,請求人と本件商標の登録出願当時,委任関係にあり,請求人の普及活動や企業,日本政府,国際社会等において,請求人のR-Mapが浸透し,商標の周知性がさらに高度になり,世界標準になりつつある状況につき,平成22年6月以降講師・委員として身近で情報を得ていたのであるから,そのような被請求人が,委任者たる請求人商標と全く同一の本件商標の出願を行い,セミナーの名称として使用することは,著しく社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するといえる。
(イ)被請求人は,請求人が虚偽の事実を主張し,被請求人の「『強い悪意と不正目的』の演出」をしている旨主張するが,請求人は虚偽の事実を述べておらず,被請求人の行為・発言等の外形事実に基づく主張を展開しているので,「演出」云々の主張についても争う。
(ウ)研究実績について
被請求人は,平成14年6月から15年6月までR-Mapの研究を行っていたPS研究会のPSR(製品安全審査)グループに在籍したが,その後約2年間研究活動に参加せず,平成17年5月から平成18年3月まで受講生として実践研究会に参加し,実践技術者認定を受けた後に研究会を退会し,その後約4年間研究会に参加しなかった。
被請求人において,R-Map指導講師として採用されるために本来必要とされる研究実績が乏しいのは明らかである。
(エ)ロイヤルティ支払及び買取り請求について
登録後4ヶ月以上も経過してから,被請求人は,平成24年11月26日付けの書面で,自身がR-Mapの商標権者であり,請求人に対し,商標法を引用し各種請求権を行使する権利を有しているとして「対処」と「回答」を求めてきた(甲14)。
一方,請求人担当者から被請求人による本件商標の登録等の知らせを受けた,松本氏が平成24年12月11日に被請求人にメールを送っているが,本審判において,被請求人側から提出されたメール(乙9)は,被請求人が,自身に不利となる途中の重要な部分を大幅に削除したものである。
本来のメール文面(甲52)には,被請求人が請求人担当者に対し金銭的な請求をしてきた旨松本氏が報告を受けたこと,被請求人の商標登録行為が活動母体である請求人の研究会に対する礼儀を失した行為であること,被請求人がR-Mapの本家である請求人に対して紛争モードで仕掛けてきた行為につき,松本氏が理解に苦しんでいること,請求人のR-Map商標の周知性,かつて松本氏が河村氏の開発したソフトの商標登録については了承したが,本体(請求人のR-Map手法,セミナー等のR-Map活動全般)の方の商標登録には反対したことなどが記載されている(甲52)。その上で,被請求人が本件商標に関しどのようにしたいのか,その真意を尋ねる趣旨で,松本氏において被請求人の意向として考え得るものを5つ箇条書きにして尋ねたということである。
このように,被請求人は,証拠まで改ざんしてしまったようである。
被請求人は,松本氏に対し,R-Map発展を願って請求人の代わりに被請求人が防御的に本件商標を登録したものである,被請求人が防御的に獲得した権利を請求人に譲渡するという方向で話し合いたい等の話をしたようである。これに対し,松本氏から,譲渡金額が出願費用相当程度の10万円くらいならよいのではないかという話をしたが,被請求人はこれを拒絶し,結果として505万円なら譲渡をするとして,松本氏に仲介を求めたようである。
請求人が公益的な団体で,日本における品質管理や製品安全等について様々な技法等を開発しており,それらを広く普及させて産業界に貢献することが請求人の使命であることから,それらの技法等について商標権等を取得しているとしていないとに関わらず,正当な目的での利用についてロイヤルティ等を徴収したことがないという事実に照らし,松本氏としては,被請求人が505万円という多額の金員を請求人に求めることは不適切と考え,被請求人の意向を請求人に仲介することを断ったとのことである。
その後,請求人は,被請求人から事情を聴くため被請求人と面談の機会を設けた。このときのやり取りについて,被請求人は乙10-1ないし4を提出するが,これらは被請求人が部分的にやり取りを切り取って,都合のよい解釈を加筆したものにすぎず,信用できない。
被請求人は,「R-Map」が請求人の重要なブランドであることを認めた上で,それを普及させるために請求人の助けになるよう本件商標を登録したという趣旨の説明を行った(甲53)。請求人が,なぜ請求人に相談もなく出願したのか聞くと,以前別の提案をしたがすべて却下されたので,今回の場合もどうせ却下されると思ったのが,出願について請求人に言わなかった理由であるなどと述べた(甲53)。
被請求人より請求人宛に,平成25年2月22日付の内容証明郵便が届いたが,その文書の中で被請求人は,「当方文書2012年11月26日『首題:R-Mapに関して』に記したとおり貴財団に対して,(中略)当方の商標権者の権利を具現化して頂く様,お願い申し上げます。」と記載している(甲54)。
すなわち,被請求人は,上記書面(甲14)に記載されている要求を再度通告してきたということである。
(オ)無断の抜け駆け的登録について
請求人は,被請求人が請求人の主催するR-Map実践研究会に所属し,講師・委員を委嘱され,請求人において活動をしていたにもかかわらず,請求人に無断で本件商標の登録を行ったことをもって,実質的な意味で「抜け駆け的」な登録と評しているのであって,形式的に正当というだけでは何らの反論にもなっていない。
請求人は,財団法人(平成24年4月以降は一般財団法人)として,品質管理や製品安全等の技術を開発し,普及活動を行っていたので,必ずしも全ての技術等について商標登録してきたわけではないが,これまでも事情により防御的な意味で商標を取得したものもあり,第三者の登録を容認するものではない。
ちなみに,本件商標の登録問題が発生したことに鑑み,本無効審判が認められた後は,請求人において,他社の商標登録を防ぐ趣旨で,R-Map商標を登録する意向である。
いずれにしても,被請求人が請求人に無断で,抜け駆け的に本件商標を登録したことは明白である。
(カ)本件商標の登録を容認した場合の効果について
請求人が会談の際に「R-Mapの事業は私どもの事業としては収入の0.3?0.4%のウエート」等と発言したが,このパーセンテージは,請求人が,R-Mapに関し,普及を目的としてロイヤルティ徴収など経済的利益を追求しなかったからこその数字である。
いずれにしても,本件商標の登録が無効とならなければ,全国の企業や政府の信用を得て,毎年研究会やセミナーを開催するなどして活動している請求人のR-Map関連業務の遂行に支障をきたすことは明らかである。
請求人は,公益的な団体としてR-Mapの周知を図っており,請求人のR-Mapは,セミナーの後援名義だけでなく,所管のNITEでのアセスメント実績,ハンドブック掲載,政府代表による国際会議での請求人文献の発表等,経済産業省により相当高度に推奨されている(甲11ないし甲13,甲18,甲38)。これまで,官民一体となって請求人の開発したR-Map技術を製品のリスクアセスメントに採用し,被請求人の本件商標出願よりも前の時点で,R-Mapの普及が高度に進んだ伏況であったのであるから,被請求人が本件商標使用のロイヤルティを求めることは,請求人の業務遂行に重大な支障を来すばかりか,ひいては,日本企業の製品安全対策が立ち遅れ,産業界全体の発展や消費者の安全が阻害されることにもつながるのである。
カ 本件商標取得に関連した事項について
被請求人は,平成25年1月31日付の日刊工業新聞に記事を掲載するに際し,プロフィール欄に「(財)日本科学技術連盟R-Map指導講師」,肩書欄に「R-Map実践技術者」と,請求人との関係性を明示しながら,本件商標の登録についても記載をしていた。
松本氏が日刊工業新聞に,被請求人の本件商標の登録について請求人が無効審判請求を行う予定であること等を伝えたようであるが,これに対して,日刊工業新聞が自社の判断に基づき,中立性を理由に行った掲載中止は,権利帰属に関して紛争が生じた場合の報道機関の対応として当然のことである。
既述のとおり,本件商標の登録は無効とされるべきものであるから,請求人は被請求人の活動を妨害などしていない。
キ 答弁書の「2)結び」について
請求人がR-Map商標を未登録であった事実は認めるが,請求人が,R-Mapについて,平成10年度(第25年度)の研究成果発表会(平成11年開催)で研究発表したこと(甲4)や,平成11年に,上記発表会資料の要約版を企業の製品安全担当者,省庁の製品安全専門者等の間に広く購読されている専門誌「品質管理」(甲23)に掲載されたことからも明らかなように,その使用開始時期はどのように遅く見積もっても当該年度の平成10年に遡る。したがって,請求人の「R-Map」名称使用開始時期は,被請求人のそれと同時期などではない。
しかも,被請求人が古くより42類商標を使用していたことは,根拠資料がなく,本件商標の使用を開始したのも,請求人に権利帰属するR-Map商標が周知性を有してからである。
(2)結語
以上のとおり,請求人は,長年にわたりR-Mapの開発,普及活動に取り組んできたが,これは団体の経済的利益を重視せずに産業界の発展と消費者の安全確保という公益的見地に立って行っていたものである。そうであるからこそ,経済産業省や同省所管のNITEが請求人開発の「R-Map」を活用し,製造業を中心とする多数の著名な企業が,請求人のセミナー,書籍,資料の無償ダウンロード,経済産業省のハンドブックのダウンロード等を通じて,リスクマネジメント手法として採用し,請求人のR-Mapが浸透してきたのである。
被請求人による本件商標の登録は,すでに需要者にとって請求人との関係での周知性が確立された商標の登録であり,公益的な目的で普及活動に努めている請求人の活動と被請求人の業務の混同を図り,請求人に対して不当なロイヤルテイまたは買取りを求める不正な目的で取得したと認められ,請求人がその商標を使用することは社会公共の利益や社会の一般的道徳観念に反するものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件商標の登録は有効である,審判費用は請求人が負担する旨の審決を求めると答弁し,その理由並びに弁駁書及び上申書における理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙証1ないし乙証18(枝番号を含む。)を提出している。
1 答弁の理由
(1)被請求人について
被請求人は,平成17年10月17日に設立した「特定非営利活動法人品質安全機構」を主催し,現在,協力団体・法人267社と,本件商標を基にNPO活動中である。被請求人は,請求人とは契約関係になく,報告,連絡,相談の義務もない。何ら拘束されることのないボランティアである。被請求人は,本件商標に先行して,42類商標も取得している。
被請求人は,この既得商標を基に,NPO法人設立以前から品質安全の活動をしている。これは,請求人も既知である(乙1-1,1-2,2-1及び2-2)。
(2)商標法第4条第1項第10号(他人の周知商標)について
ア 需要者の間に広く認識されている商標ではない。
請求人は,本件商標に関して「開発者として認知されていた。広く認識され周知性を有していた,また,周知活動に努めてきた」として,実績の数字をいくつか挙げているが,いずれの数字も根拠資料の添付がなく,答弁の対象にならない。
(ア)開発要件は,商標登録の要件ではない。
(イ)書籍は,全国の書店やネット販売で入手できるものであり,年間に販売された冊数は,37億5千万冊である(平成17年?平成21年の5年間のデータを使用)(乙3-1)。データが5年間のため,請求人データの9年間に揃えると,67億5千万冊となり,請求人が9年間に販売した2,631冊の販売シェアは,0.00003%である。
講座・セミナーについて,この業界の集客数は,被請求人が講師登録されているセミナー運営会社11社に取材したところ(乙3-2ないし乙3-12),1回あたりの集客数は,10数人?千人を超えるものまであるため,ボリュームゾーンの1回50人とすると,最大手1社は,1年間5千回で計25万人,準大手1社は,1年間3千回で計15万人,中堅8社は,各々1年間1千回で計3万5千人,小規模1社は,1年間7百回で計3万1千5百人,11社計は,1年間1万6千7百回で計83万5千人であり,9年累計(データを揃えると)すると,計751万5千人である。
請求人の9年間の集客実績1,651人は,11社合計集客のシェア0.02%であり,セミナー会社は,この11社以外に多数あり,正確にはより少ないシェアとなる。
以上から,請求人の周知実績の業界シェアは,出版業界0.00003%,セミナー業界11社計の0.02%である。このシェアを需要者に置き換えれば,出版は需要者1千万人に3冊を販売,セミナーは1万人に2人を集客したことになり,社会通念上,この実績で「需要者の間に広く認識されている商標」ということはできない。
イ 周知力に関しては,被請求人が優っている。
被請求人は,既登録商標と本件商標を,被請求人が講師登録されているセミナー運営会社と協働して周知してきた。日本各地で法人対象にセミナーを開き,周知に努めてきた実績がある(乙3-13)。
被請求人のセミナーの参加者数は,1,294人であり(新潟,埼玉,神奈川,東京,大阪,奈良,熊本,香港で開催),請求人の参加者数は,1,156人である(東京で開催,大阪は催行人員に至らず中止)。
ウ 周知手段の公共性とメディアミックスの広告効果で被請求人が優っている。
(ア)消費者庁委託事業「リスクコミュニケーション意見交換会×2回」を開催し,263人に周知した。開催報告書は国会図書館に納入した(乙4-1ないし乙4-3-2)。
(イ)財団法人と協働し,日本のものづくり業界で本件商標の周知度を調査報告し,全国で本件商標のセミナーを開催し周知した。調査報告書及び開催報告書は,国会図書館に納入した(乙4-4ないし乙4-11)。
(ウ)「R-Map○(←○にR)(以下「R-Map」と記載する。)自動描画プログラム」と,その取扱説明書をWEBで無料公開している。さらに,希望者には個別指導をしている。アクセス数は,503,000回を越えている(乙5-2-1ないし乙5-2-3)。
(エ)新聞雑誌など印刷メディアの周知力(メディア効果)の評価は,記事のサイズ×頁数×発行部数で算出し,周知効果は,広告効果といい換えることができ,広告効果は広告料金で算出する。新聞は,記事の大きさを1段単価(29万円)で乗じて算出する(乙6-1及び乙6-2)。
被請求人と請求人の周知力の比較を,被請求人が本件商標の周知活動で使い,かつ,双方が証拠提出している日刊工業新聞で比較する(乙6-3ないし乙6-15)と,被請求人の周知力は,請求人の6倍(本来は11倍)である。
その他メディア(発行部数で対比)(乙7-1ないし乙7-25)の被請求人の周知力指数は,請求人の26.8倍である。
エ 結論
以上が,被請求人が周知に努めてきた実績であるが,請求人に優るとはいえ,社会的に見れば,請求人と大同小異といえる。
本件商標は,全国の需要者が対象であるから,今まで需要者に及ぼした周知効果は,被請求人と請求人を合算しても,コンマ・パーセントの周知度である。セミナーの集客は,被請求人が登録されている小規模事業者1社にも遥かに及ばない。
よって,本件商標は,「広く認識され周知性を有していた」とはいえない。
(3)商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)に答弁
公序良俗違反には,「強い不正目的」が必要であり,商標法第4条第1項第7号は,請求人の請求根拠とは本来異なるものである。
公の秩序,善良な風俗に反する商標とは,商標自体(図柄,文字,称呼など)が矯激,卑わい,差別的もしくは他人に不快な印象を与えるもの,また使用方法で社会に反するものであり,いわば商標に接した需要者が不快な感情を持つもので,本件商標は,第7号に該当しない。
イ 判例の中の,他人の商標の剽窃行為にあたるか否かの判断は,出願人の主観(悪意,出願動機)に係る問題であり,通常は客観的に「把握することが困難」である。
そして,この「把握することが困難」を逆手にとり,相手を悪性に仕立てて悪意を持って無効審判を請求する,という逆のケースも多く見られる。
以下,本法の識者たちが公開している意見を引用する。
「商標ブローカー対策としても機能する7号ですが,同じ機能の19号と異なり,商標の周知性は求められていません。この物証不要のハードルが低い分,法のバランスをとるために,19号の『不正の目的』よりも強い悪意を立証することが不可欠です。無制限に公序良俗の概念を適用したのでは,法的バランス,法的安定性を失することになります。7号の拡大的取扱いはあくまで例外的なものであることは忘れてはなりません。」
ウ 請求人は,被請求人を7号違反にするため,「強い悪意と不正目的」を演出し,事実と異なる数々の不実証言をしているが,被請求人は,請求人が述べた一切を行っていない。
エ 請求書の記述に対し,反論する。
(ア)請求書9頁下から3行「i受講費用のかからない?ii研究実績が乏しく?」について
iについては,講師採用の要請はしていない。請求人からの要請メールで講師を引受けた。
iiについては,請求書9頁下から3行?10頁1行で,被請求人の研究実績は,請求人自らが認定している。請求人の研究会の卒業認定条件は,1年間の研究成果の論文発表である。被請求人は,平成15年度に,グループ9名を代表して,論文を書き,発表し,そして全員が卒業した(乙8-1及び乙8-2)。
(イ)請求書11頁3行「ロイヤルティーを支払うよう?」及び12頁下から9行「(被請求人が)?商標の使用の停止,ロイヤルティーを求めきた」について
被請求人の主張は,請求人に提出した文書,「首題;R-Mapに関して」2012年12月26日付が全てである(甲14)。
請求人には,文書の趣旨を伝え,これに対する請求人の対処,回答を待つことのみを伝えている。
(ウ)請求書12頁下から6行「?松本氏に聞いた話によると『被請求人が』?500万円で買取りを求めるよう?」について
松本氏は,本件商標に関して自ら数字を示してメールを被請求人に配信してきた(乙9)。この証拠で明らかなように,金額を示唆しているのは彼で,被請求人は一切金額を求めていない。当然,買取りの仲介依頼もしていない。
(エ)請求書13頁8行「i 関連資料を有料で公開する提案をし?ii講師会で却下?自らが利益を得ることを考えていた」について
iについては,有料提案は請求人の利益になる企画として提案した。
iiについては,講師会は,単なる勉強会で,講師全員が他企業社員の外部講師であるから,請求人の経営に関与する興味も権限もない。
(オ)請求書13頁13行「請求人に無断で抜け駆け的に登録した」について
この「抜け駆け的に」という語句は,請求人が被請求人に「強い悪性」を演出するため,本件に関係するほかの文書でも煩雑に使っている。しかし,商標権は申請の有・無だけであって,手続に正邪はない。
請求人には,本件商標の登録意思がないことは,議事録で明らかである(乙10,3頁30行?4頁3行及び同11行?)。
請求人は,このセミナー事業を開始後8年間,本件商標の登録に否定的で不作為であった。つまり,請求人は,本件商標の登録の「同じ目標のスタートラインに立つ者」ではない。
(カ)請求書13頁16行「4ヵ月以上も事実を告知せず?」について
出願は,法が定める商標登録の手順を遵守している。出願情報が官報で広報されていて,取得後の通知時期は,被請求人のNPO活動のスケジュールに基づいている。
(キ)請求書13頁下から3行「商標登録を争うことはできないと反論を行った」は,意味不明のため答弁不能である。
(ク)請求書14頁下から11行「請求人の業務に多大な支障をきたす」について
請求人は,被請求人との会談で「R-Map」は(請求人事業の),売上の0.38%に過ぎず,なくなってもビクともしない。」と発言しており,この発言事実に反している(乙10,2頁6行?)。逆に,この発言に対して本件商標の社会的価値を,被請求人が述べている(乙10,4頁16行?)。
(ケ)請求書14頁下から10行「経産省の後援名義の趣旨に反する」について
経産省が承認しているのは,承認書の標題で明らかなように,「R-Mapセミナーに対する経済産業省後援名義の使用の承認について」である(甲11の1)。承認は,請求人の事業「R-Mapセミナー」に対してであって,本件商標に対する後援ではない。請求人も承知していて,「R-Mapセミナーパンフレットの左上」に,「経済産業省後援」のクレジットを表示している(甲11の2)。
よって,本件商標の出処がどこかは,経産省の後援趣旨と無関係である。
その証左に,経産省は,旧来から行っている請求人の同様事業,「R-Map実践研究会」には,後援を承認していない。そのため,請求人は,「R-Map実践研究会パンフレット」には,上記クレジットを表示できない(甲8の8及び甲8の9)。
(4)商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出処の混同)に答弁
需要者の混同を招くには,周知されていることが必要であるが,請求人の周知力は,前記のとおり,シェアでコンマ・パーセントであることを証明した。さらに,被請求人の周知力も同様であることを記している。
本件商標の役務は,日本全国の需要者を対象としたものであるから,社会通念上,本件商標が,「需要者の間に広く認識されている」ということはなく,相互を混同することはない。
(5)商標法第4条第1項第19号(他人の周知商標の不正目的使用)に答弁
本件商標が周知性を有するものでないことは,立証済みである。
請求人の証言は,すべて被請求人に悪意を演出した不実証言である。
商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」とは,商標ブローカー等による剽窃的出願や,既存商標に対して,悪性を持って使用することであり,被請求人は,先述したとおり,本件商標は,自分の既得商標と対をなす使用のために商標権を取得した。請求人が演出するような,「不正の目的」をもって取得したのではない。
被請求人は,品質安全に関するNPO活動をとおして,既得商標の周知を十数年間続けている。そして,いま市場では,本件商標の著名性がないため様々な業種が膨大に使用している。本件商標の取得は,異業種の先願を本件商標の出処を明らかにし,防御することが目的である。このことは,請求人との会談でも述べている(乙10,1頁23行,同2頁22行,同3頁3行,同4頁16行)。
(6)本件商標取得に関連した事項
請求人は,本件商標の周知活動を妨害した。本件は,平成25年3月14日に審判請求されたが,請求人は,その45日前の同年1月31日,「審判手続きの予定」を理由に,被請求人が当時執筆中の日刊工業新聞社に,被請求人の記事の掲載中止を申入れた。
これは,「審判手続き」という公共ルールを,悪意をもって利用した行為ある。
未だ審決が出ていない時点,請求人は手続も未決の時点で,「審判手続きの予定」という「未然の理由」で,被請求人のみならず第三者である新聞社にも多大な損害を与えたことは,公序良俗を乱す不当な競争行為である。この申入れにより,被請求人は,記事の連載10回が2回で休載になるという実害を受けた。
同紙は,42万部を発行する日本でトップの工業紙で,請求人は,被請求人の記事8回分,部数で336万部の本件商標の周知効果を無にした。
さらに,同社の意思として,審判に中立的立場から,今後,本件商標に関する記事が紙面に載ることはなく,請求人は,自らの主張する「R-MapRの周知」を自ら妨害して,大きな周知手段を失った。
被請求人は,「原稿休載の説明文書」を2月8日付けで受領した(乙11)。
(7)結び
請求人は,商標制度に否定的で,本件商標を未登録のまま,十数年使用し,現在に至った。被請求人は,同時期から既得商標を使い周知してきたが,最近になり,本件商標はWEBで同名のヒット数が多くなった(約3,270,000,000件)。
これは,本件商標に著名性がないための証である。そこで,被請求人は,需要者の混同,異業種の参入を防ぐ目的で,本件商標の出所を明らかにする登録をし,登録後は出処を表示して,混同を防ぐ活動もしてきた(乙2,22行)。
被請求人は,これからも需要者の品質安全を守るため,二つの既得商標をフラッグ・シップとしてNPO活動をおこなう。
2 弁駁書に対する答弁
(1)この審判事件の弁駁書(以下「本弁駁書」という。)は,請求人の部外者の証言を基に,そのまま真贋を検証せずに構成された文書である。
本弁駁書及び審判請求書とも,請求人の本件に関する取材源は限定されている。取材源は,請求人の構成員ではない,部外者の松本氏ひとりであり,本書の本文2頁から25頁までの中で35回,彼の名前が登場する。そして,それ以外の請求人が実績としている記述も,彼の個人としての実績が主体の内容である。
そのため,本弁駁書の対峙関係は,「請求人が(財)日本科学技術連盟,被請求人は被請求人」であるが,実態は,「請求人が松本氏,被請求人は被請求人」の様相を呈している。
これは,審判請求書にも通じる特徴で,請求人の「部外者に丸投げ審判請求文書」となっている。松本氏からの聞き書きであることを示すため,その文節の文頭と文末は必ず,「松本氏?になったそうである」,「松本氏?とのことである」などで記述されていて,請求人が,聞き書きをそのまま引用し,事実の検証はしていないことを表明している。その結果,松本氏個人の記憶違い,誤解,捏造そして自己防衛などが,そのままの文書になっている。
(2)請求人は,本件商標を取得する妥当性がない。
請求人は,「R-Mapの普及,周知活動をしてきた」と述べるが,請求人が「R-Map商標の先使用を始めた」としている平成11年から今日まで一貫して,請求人の構成員には,「R-Mapの知識の教授,セミナーの開催」ができる構成員は存在しない。今までの周知活動は全て他人まかせの丸投げ方式で,本件審判もその流れを踏襲している。
請求人は,松本氏の肩書きを,「(財)日本科学技術連盟R-Map研究会統括主査」と称しているが,これは,請求人組織の職務名でありの職位名ではない。彼は,請求人の部外者で,フリーのPSコンサルタントと称している。それゆえ,請求人の課長職が,課長職から記載している組織図にない(乙12)。
商標の使用権は,登録した組織や人(本件は被請求人)にあるから,部外者である松本氏は,仮に,請求人が商標登録をしても使用権はない。しかし,そのような権利を持たない松本氏の聞き書きだけで,本件の審判請求を行わざるを得ないのが請求人の現状である。
請求人が,この審判請求の証言を部外者の松本氏に丸投げしていることがなによりの証左で,請求人に本件商標を取得する妥当性はない。
(3)被請求人は,松本氏に本件の仲介を頼むことはない。
被請求人は,松本氏とは15年の付き合いであり,被請求人が,平成11年6月,現在の「R-Map研究会」の前身である「PS研究会」に入会時から彼との付き合いが始まったが,この15年の間に今回の審判事件を含め,彼は,今まで被請求人に3回の不実行為をしている。
本件に対する一連の行動を見ると,今回の商標登録で,いちばん利益を侵害されると思ったのは松本氏で,被請求人へのメールの書き出しにそれが良く表れている(甲52)。また,本弁駁書17頁9行「多額の経済的利益を得ていたのではないか」の言質もその証左である。
平成12年12月13日,被請求人は,当機構のR-Mapセミナーの講師として大阪に出張していた際,松本氏と会合をしたが,被請求人は,本件は防御的に取ったことを説明したまでで,本件の「買い取り仲介の依頼」をしたことはない。
本件で唯一の証言者である,松本氏の発言と行動は,常に自分の利益確保が規範となっていて,それが今回の不実証言の下敷きにあることを証言する。
(4)各指摘事項に対する答弁
ア 「はじめに」について否定する。先回答弁書で否定又は立証済みの事実を再度繰り返すものである。「請求人のR-Map手法及び?周知性を獲得するに至っていた。」は,先回答弁書で反証済みである。
2頁7行?21行「審判請求書においても述べたとおり?」について及びこの項の,13行?21行「ちなみに?R-Mapのプロセスに関与していない」を否定する。
被請求人は,請求人もあげているとおり,R-Map研究会に在籍した卒業生である。毎月の研究活動の一環として,種々のプロセスに直接関与した成果がある。さらに,ほかの研究生は,別法人の構成員のため,関心を持たない,請求人の業務である「R-Mapの普及と支援」をNPO活動の一環として実施してきた。
請求人から,「R-Mapの成果発表会用資料のコストを下げたい」との要望を受け,1冊2,000円もする社会常識を逸脱した,現行の日科技連価格を,半額以下の900円に是正し,また,被請求人が主催するNPOで受託した事業,消費者庁セミナー(乙4-1)の会場で,これも請求人の要望を受け,消費者庁と交渉の上,R-Mapのパンフレット250冊を配布した。
このように,被請求人とそのNPO組織で「R-Map」の普及に成果をあげている。
2頁16行?21行「かかる立場の被請求人が?」を,「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの。」及び「先回答弁書で否定が立証済みの事実を再度繰り返すもの。」として否定する。
答弁書5頁34行?「請求書12頁(法4条1項7号公序良俗違反)に答弁」で反証済みであり,さらに,新たに下記の判例をあげて反証する。
「スーパーDCデオドラントクリーン」事件(東京高判平成10.11.26平成9年(行ケ)第276号)では,複数の会社が共同で採択した商標について,うち一社が単独で商標登録をおこなった場合に公序良俗違反になるか否かが争われているが,公序良俗違反にはあたらないとの判断がなされている。
判例要旨は,「本件商標の登録を受ける権利が,原告の代表者と被告代表者の共有に係るものであったとしても,被告代表者が単独でした登録出願の当否は,私的な権利の調整の問題であって,公的な秩序の維持を図る商標法第4条第1項第7号の規定に関わる問題と解することはできず,これは特許法,実用新案法及び意匠法において,権利が共有に係る場合と公序良俗を害する場合とを別個の事項としていることからも明らかであるから,本件商標は商標法第4条第1項第7号の規定に該当する旨の原告の主張は採用できない。」である。
判例では,当該商標は複数の会社が共同で採択したとなっているが,それに比べ,本件商標は,被請求人は請求人と共同で採択したものではなく,請求人とは契約関係にもない。
この判例は,強い悪性ではなく,公序良俗を害することはないとして取消審判は却下された。まして,被請求人に悪性はなく,本件R-Mapを無縁の者から守るため,防御的に取得したものである。よって,この判例に照らしても,本件は公序良俗を害することはない。
イ 「答弁書に対する反論」の反論の2頁31行?3頁1行「被請求人は?存在した。」に反論する(以下の頁記載は,弁駁書の頁である。)。
請求人は,被請求人にR-Map指導講師の依頼時,構成員でない松本氏がメールを発信してきた。それにはR-Map研究会の講師契約書はもとより,会則,規約など,契約締結に不可欠の文書は添付されていなかった。
金額は,被請求人が研究生でいた8年前と同じであるが,多寡を云々するレベル以前のものであり,契約締結に値するものではない。被請求人は寸志として受領している。セミナー講演の21,100円も,被請求人の講演料に比べればご笑納レベルで,PPT制作の実費として受領している。
請求人が,契約関係があると主張するならば,被請求人が請求人と締結したR-Map研究会の契約関係文書(契約書,会則,規約,講師の責任と権限,忌避事項などを明記したもの)の提出を求める。
(ア)3頁11行「R-Mapの権利が請求人に帰属する」及び3頁16行「商標権を侵害する形で」は,事実と異なる詐称であり,商標権者は被請求人である。
(イ)3頁13行「委任の趣旨から当然のこと」,3頁20行「事前に承諾を受けるようになっていた」及び3頁24行「記事やセミナーを把握していない」については,不実証言であり,契約条項を明示すべきである。
(ウ)3頁25行「講師が対外的にR-Mapセミナーや?」は,「上から目線」の推測であり,お客様のセミナー依頼内容はずっと多様である。
42類の「知識の教授?」は,お客様の満足(CS)を得なければ果たせない。セミナーのお客様の評価を添付する。(乙13及び乙14)
(エ)3頁33行?末尾「そうであるからこそ?行っていた」は,文脈が整わず理解不能で答弁できない。
ウ 第42類の「R-Map」商標について,反論し否定する。
(ア)4頁14行「請求人に無断で?」は,被請求人の活動の一環であり,請求人の許可を得る必要はない。また,松本氏,河村氏は登録の事前,事後とも周知している。この時の松本氏は請求人の指導講師である。松本氏から請求人に情報が伝わるか否かは被請求人の埓外である。
(イ)4頁17行?18行「特許庁より資料提出を求められ?」,4頁33行「そして,被請求人が,松本氏?」及び4頁36行「ソフトウエア作成のいずれの?」は,特許庁から資料提出を求められたことはない。登録申請書以外,文書提出はない。
(ウ)4頁21行「他社が取得した場合に?」は,42類に登録申請は10数年前である。この発言は記憶の時間的風化か,敢えて「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」を演出する目的である。当時はWEB情報も今ほど充実しておらず,この発言のような危機感を持ったことはない。また,当時は単なる一研究生である被請求人,河村氏が請求人事業に危機感を持つ必要もない。河村氏の実績を3人で事業化する計画の一環として登録し,松本氏も賛同して権利を3分割とした。
(エ)4頁24行「松本氏,河村氏とで折半し?」は,被請求人,松本氏,河村氏の3人で,登録費用も3分割である。
(オ)4頁26行「ちなみに,このときに?提供した?」は,R-Map自動プラグラムは,研究会分科会のテーマとして,月次で研鑽している。分科会研究生の全員が個人PC内に共有している。被請求人が敢えて彼らに資料請求をする必要はない。
(カ)5頁1行「ソフトを使用してきたが?」及び5頁6行「帰属しているように?」は,「R-マップ」の42類は,被請求人が商標権者である。
(キ)5頁18行「容認したものの?」は,容認という消極的なものではなく,登録費用を3分割する積極的な参加である。
エ 「請求人のR-Map商標の周知性について」への答弁
(ア)「請求人のR-Map周知活動」について
a 6頁4行「PS研究会は当時(株)東芝に所属?」は,正確には,(株)東芝ではなく,東芝医用システムエンジニアリング株式会社である。松本氏は,メールで「そもそもR-Mapは被請求人が発案し,東芝内で育むとともに」としている(甲52)。であれば,R-Mapは,東芝医用システムエンジニアリング株式会社の業務時間内の成果物であるから,同社の開発した知財である。請求人の開発ではない。
b 6頁10行?7頁1行「それとともに,請求人PS研メンバー?推測できる。」について
この項も「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」であり否定する。旭化成の業績であり,請求人の業績ではない。
c 7頁2行?6行「なお,請求人自身も?」について
請求人は,被請求人のR-Map周知活動のために,松本氏のファイルをDL(ダウンロード)しているとするが,被請求人が松本氏の著作権を侵害することはない。当該ファイルは,研究会で流布されていて,DLをしなくても既に研究生全員のPCにあるものである。そのアクセスは,最初の100回の内,LIXIL4回,山武(株)5回,三洋電機8回,日立アプライアンスは22回アクセスしていて,その他ヤマハ発動機,コニカミノルタエムジー,東芝テックなどで半数以上を占めている。総アクセス2,377にしてもこの傾向である。アクセス日時を表示していないが,本件及び42類商標の登録以降のアクセスは,被請求人の周知活動と不可分である。また,このファイルの初版は,松本氏個人が経産省委託事業の報告書に執筆したものの転載で,請求人の著作物ではない。
d 7頁7行?7頁37行「請求人は,教育・人材育成を活動の?」について
9年間の集客力3,980人(年442人)をしもって,社会通念上,周知したとはいえない。小規模セミナー会社の60%に過ぎない。
e 7頁38行?8頁3行「ちなみに,かかる普及活動は日本国内にとどまらず?行ってきた。」について
本件商標は日本国内でのみ有効であり,海外活動は無縁である。
(イ)「消費者庁主催のイベントについて」について
この意見交換会は,2節で完成する企画で,両説を通して日本の安全施策が理解できる構成である。R-Mapもその一部として取扱いる。当セミナーは,立案から集客,広報,決済まで当機構が一切を取り仕切った事業である。パネラーの人選も同様で,また,当セミナーの周知活動として,すべての広報ツール,消費者庁のHP,当機構のHP,メールでの案内などに当機構名が同時に掲載された。2節の修了時に当機構のHPに全国からお礼のメールが多数入り,当機構の企画であることは全国で周知されている。
(ウ)「その他の調査報告書等について」について
13頁26行?14頁35行「(財)製品安全協会のものづくりの安全?」を否定する。
請求人は調査報告書の2文書につき,被請求人が調査員に過ぎないとしているが,目次,本文の表出だけから見た「外形的事実」の反論である。
「ものづくりの品質と安全に?」事業は,立案から運営,出版まで当機構で完成した。セミナーのあるものは企画,人選,運営,集客,広報までで,当該セミナーすべての広報ツール,(財)製品安全協会のHPなどで当機構名が掲載された。また,調査報告書だけの事業も,企画から出版まで,当機構の企画,取材,編集で完成させている。論文は,被請求人のオリジナル論文で,新しい事象に照らして表現を更新した著作物である。
調査告書に収録されたR-Map関連資料は,それぞれの作者個人の著作物として掲載している。著作者の了解のもと,匿名希望者を含め著作料を発生して掲載した。
(エ)「『R-Map自動描画プログラム』について」を否定する。42類商標は本件と無縁である。
(オ)「日刊工業新聞について」について
請求人は,「13回掲載中,R-Mapの記述が3回であるから計算根拠が不明確」とするが,被請求人の連載シリーズの執筆は,シリーズテーマを決め,それを読者が通読する企画である。よって,ひとつのシリーズが一意のものであり,シリーズ全体でひとつの作品である。途中回の記事を抜き出して反論することに意味はない。重要なことは,最初の11回シリーズと次の2回は別のシリーズで,最初のシリーズは企画どおり完結した。次の10回シリーズを日刊工行新聞社と契約し,執筆を始めた。その直後,請求人が「(財)日本科学技術連盟R-Map研究会統括主査松本浩二」の肩書きで,日刊工に掲載中止を申し入れ,2回の掲載後,シリーズは未完成のまま,中断となる実害を被請求人と日刊に与えた。
請求人は,「R-Mapを社会に周知させる」と言いつつ,周知の機会を潰し,かつ,日刊工から,この審判請求が解決まで双方のR-Map記事の掲載を拒否という,本件の周知活動に重大な痛手となる,事態を起こしている。
請求人は,被請求人の周知活動に反論するが,反論を口実に周知活動を妨害した。
15頁14行?28行「日刊工業新聞は?ことである。」について,請求人は,15頁19行「指導講師の肩書き抜きにして依頼されたものではない」と述べるが,指導講師は被請求人の職務の表示であり,肩書きは職位である「NPO法人品質安全機構理事長」である。この肩書きで,職務であるR-Map周知の記事が掲載された。
また,15頁10行「なおかつ?請求人周知知性を補強」,15頁23行「被請求人が?記事を執筆しても?」の反論も同様で,この言い回しは,このほかの随所で散見される。全て「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」として否定する。また,請求人がほかの項でも再度使っている同様の言い回しを否定する。この言い回しの効果が事実ならば,請求人と被請求人の周知活動は消費者レベルで不可分であり,双方で被請求人の登録商標の周知に寄与していることになる。
(カ)「雑誌記事について」について
「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」と「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」として否定する。
「鶏卵肉情報の目次・同37行」の誤植に関して,執筆者は目次に関与ない。
16頁7行?10行「その他の雑誌についても?」について,この部分も反証したとおり,本弁駁書の随所に出てくる言い回しのひとつである。「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」として否定する。
(キ)「まとめ」を否定する。
既に答弁書で反証ずみであり,「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」及び「先回答弁書で否定が立証済みの事実を再度繰り返すもの」として否定する。
公序良俗違反について
(ア)「研究実績について」について,「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」と,「先回答弁書で否定が立証済みの事実を再度繰り返すもの」として否定する。研究生の代表として被請求人が書いた著作物である。
18頁2行?11行「被請求人は,平成14年6月から?明らかである。」について,「先回答弁書で否定が立証済みの事実を再度繰り返すもの」として否定する。被請求人の実績は,請求人が認めたものである。
(イ)「ロイヤリティ支払及び買取請求について」については,「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」であるが,演出以上であり,「事実にない発言の捏造」として否定する。被請求人は,請求人を訪問した時,甲証14を手渡して,商標権者の権利の説明をした。被請求人が「(505万円の)ロイヤリティーを支払うよう求めた」とする,客観的証明を求める。証明が不能の場合は,この証言の取消を求める。
a 18頁31行?19頁26行「一方,請求人担当者から」については,「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」として否定する。 この項の18頁34行「大幅に削除した?改ざん」を否定する。
甲証52号の全文を見れば明らかなように,このメールの構成は,文中の【ご質問】を境に前段と後段に分かれている。前段と後段の脈絡はなく,前段は松本氏が旧来から主張している「R-Mapは著作物」という誤認の再録であり,後段が当該メールの本文である。この文節末の行で「交渉仲介を依頼してきたそうである」を否定する。
b 19頁27行?20頁12行「その後,請求人は,被請求人から?説明を行った。」については,「被請求人の悪性を推造し演出し,自分が被害者であるとするもの」として否定する。
c 20頁13行?「請求人が,請求人に相談もなく?」について,被請求人がR-Mapの普及企画を請求人に提案したものは4件である。勿論,企画提案であるから採択される保証はないが,問題は却下理由が不実であることと併せて,請求人の場合,提案してから決済までの時間が月単位で掛かることである。今回の商標登録も,仮に請求人と協働すると,月単位で回答を先延ばしすると判断した。また,WEB上でR-Mapの名称は3,140,000,000件ヒットするから,このうちのどこかが先願するという切迫感もあり,この2点の判断で登録を完成し,商標権の安全化を完成した。
d 20頁20行?21行「すると,被請求人より請求人宛てに?郵便が届いた」については,「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」として否定する。事実は,先ず,請求人から文書が届き(甲15),R-Mapは「請求人の著作権で保護されているから使用を禁じる」という内容の事実誤認の文書である。この誤認は,松本氏が常々述べていて,先のメール,甲証52の前半で開陳している。被請求人がその反証として請求人に送付したものが甲証54である。
被請求人は,今までに当初の甲証54以上の要求をしていない。文中の「具現化」は商標権者の権利全般の具現化を指していて,甲証54と同じである。買い取りの1点に焦点化したのは請求人である。商標権者の権利の取捨選択は,お互いに納得する着地点があると思っている。
(ウ)「商標登録を4ヵ月以上告知せず?」について,「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」及び,「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」として否定する。
法では,登録情報の提供は,「(後発の者に)登録することができないものである旨の情報を提供することができる。(商標法施行規則第十9条情報の提供)」とあるとおり,出願人の義務ではなく権利である。権利行使をするか否かは,被請求人の権利であり義務ではない。
(エ)「本件商標を容認した場合?」について,「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」として否定する。
経産省の後援は「R-Mapセミナー」に対してであり,R-Map商標に対してではない。その証左に,請求人の同様事業「R-Map研究会」は,後援されていない。
被請求人は甲証14の文書を発行し,請求人に商標権者の権利の説明をして以来,請求人に対して保有する権利の行使していない。「ロイヤリティーの請求をした」は請求人の捏造である。請求人は,今も業務を平常に遂行し,記述されているような「多大な支障をきたしている」ことは確認できない。また,請求人もR-Map事業は,期待していない旨の発言を議事録で記録している(乙18・4頁29行?5頁32行,甲53)。
被請求人が持つ商標権者の権利は種々あるが,請求人は,「被請求人が買い取りを請求」という,捏造した1点を焦点化して,不実証言を繰り返してしている。本件商標の周知度は,答弁書で証明したように,甲乙を合わせても消費者の周知レベルで見ればコンマ・パーセントである。
a 22頁36行?23頁5行「まず請求人が会談の」について,「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」として否定する。この釈明は詭弁である。会見時の請求人の商標制度への評価と,R-Mapの事業性についての評価は,議事録の文言で明らかであるし,その発言時の声の調子や大小,態度などからR-Map事業に肯定的でないことを確認している。
b 23頁5行?32行「いずれにしても,本件商標の登録が無効にならなければ?」について,「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」として否定する。
(オ)「役務の出所の混同」について,「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」として否定する。出処の混同を防ぐため,法で商標権者の表示をするという方法が定められている。
(カ)「他人の周知商標と同一で?」について,「被請求人の悪性を捏造し演出し,自分が被害者であるとするもの」,「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」及び「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」の不実証言として否定する。
(キ)「本件商標の登録に関連した事項」の「被請求人は,平成25年?日刊工業新聞に?」について,プロフィールの被請求人の経歴は詐称ではなく,当時の被請求人の現役職務の表示で,肩書きはNPO法人品質安全機構理事長である。執筆は,この肩書きの実績である。そして,NPOの肩書きで執筆中,請求人から経済的損失の実害を受けた事実がある。
「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」及び「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」として否定する。
(ク)「答弁書の2)結びについて」については,「他人の業績を自分の業績にし,自分の優位性を誇張するもの」として否定する。15行目に個人名の業績を上げ,請求人の実績としているが,彼は,請求人の顧客企業,旭化成の構成員であるから,顧客企業の業績である。請求人の業績ではない。
カ 25頁26行「第3 結語」について,「答弁書で立証済みの事実を再度繰り返し,肯定化を図るもの」としての不実証言として否定する。
3 上申書に対する答弁書(以下「本書」という。)の趣旨
(1)請求人の上申書(以下「甲上申書」という。)の内容は,全て被請求人が反証済みである。
甲上申書は,内容に新事実がなく,請求人の審判請求書,審判事件弁駁書と同じ内容を,文体を替え,作成者名を変えて(松本陳述書,安随陳述書の2文書),請求人が繰り返し述べている文書類である。
また,その記述と添付の証拠は,本件審判の対象商標(41類登録第5504984号)とは異なる商標(42類登録4669291号)に係るもので,反論も商標権に係るものではなく,プログラムの著作権に係るものである。
(2)陳述書への反論
前回の被請求人の指摘に対する是正として,この甲上申書は,陳述書を添付する形式を取っているが,請求人が松本氏,安随氏両名の名で書いたものである。その証左として,甲上申書,及び請求人が作成した弁駁書と,2つの陳述書の文章は,構成,文体,用語に多くの同一性が見られる。
この目的は,被請求人の「丸投げ審判請求」という指摘を逆手に利用し,請求人の「見立て」で捏造した主張を,他人名で重複して主張し,公な論であるかのごとく印象付けようという手法である。
この件以外にも請求人の証言は,事実の捏造,虚偽の創作,被請求人への悪意の演出などを繰り返している。都度,被請求人が反論しているが,真に信頼に値しない請求人である。
(3)2つの陳述書の内容は,反証済みである。
松本陳述書は,本件審判の対象である商標(登録第5504984号)と,異なる商標(登録4669291号)に係る指摘が混在している。
ア 1頁9行「R-Map手法の原型は?東芝で作成した」について,松本氏の証言が事実であれば,彼が東芝在籍中の成果物は,東芝が権利を主張すべき案件である。松本氏と請求人が東芝の代理人でない限り,被請求人に権利を主張することは不当である。また,開発行為は商標の登録要件ではない。
イ 2頁5行「?当時,被請求人はこの事実を知らず,?」は,不実証言であり,登録時の企画から申請内容まで,3名で何度も面談している。
ウ 2頁9行「?被請求人も費用の一部を負担することとし,?」について,松本氏が,費用,利益とも河村氏,被請求人と3等分で合意している証言である。松本氏は,個人の利益を期待して参画している。彼は当時,請求人の指導講師で,請求人への情報共有は被請求人の埓外であり,また,42類商標に係ることで,本件と無縁である。
エ 3頁25行「1000万円と10万円の間を取って505万円?」について,先ず,大阪で松本氏との会食時,本件商標の話は一切ない。第二に,前述のような「間を取って?」など,児戯に類する発言はしていない。松本氏が,自らのメール(甲52・2頁25行?)に記した金額をなぞって,被請求人に悪意の演出をしている不実証言である。
オ 3頁6行「ソフトウェアの実態は被請求人と河村氏に著作権。?」について,R-Map手法そのものが著作物の要件に該当せず,著作権の対象にならない。
(4)安隋陳述書に対する反論
ア 2頁13行?「3 村田氏の商標登録・ロイヤルティー?」について,先ず,被請求人は安隋氏を本件商標の交渉人とは考えていない。被請求人の意向を請求人に伝達するのが,請求人組織図の末尾に記載される1課長の職務である(乙12)。
イ 3頁7行「そう考えてもらってよい。?」について,この陳述書2頁30行?34行に安隋氏が自ら記している,商標権者の権利のひとつであるとして伝えている。
ウ 4頁4行「委員の趣旨に反し」について,具体的な契約条項を提示する要求をしているが,提示がなく,反証済みである。
エ 5頁12行「争うことはできない?」について,このフレーズは請求人の3つの文書に必ず出て来るが,議事録(甲53)にない。請求人が何を意図して反復して,議事録にないことを証言しているのか,意味不明である。
オ 5頁21行?6頁24行「村田氏名義のソフト?」について,以降,6頁24行までの約2頁文章は,本件審判の対象である商標(登録第5504984号)とは異なる商標(登録4669291号)に係るものである。かつ,請求人の主張は,本件審判の商標権についてではなく,プログラムの著作権に係るものであり,著作権は,文化庁の管轄である。
(5)「R-Map」は,上記のごとく,需要者が混同するほど認識されていない。また,表示も被請求人は通常文字の英文のみで,「アアルマップ」と読み,請求人はロゴタイプに「リスクマップ」を付記している。「アアル」と「リスク」は混同しない(甲1及び甲8の1?甲8の9)。
被請求人は,商標ブローカーのごとく不正の目的の登録ではなく,自分の役務で正統に使用中である。(甲14,甲17,甲22,甲44,甲45の1の1,甲45の2の1,甲45の3,甲46,甲51,甲55)。
4 その他の上申
(1)本件商標の周知度は,彼我を合わせてもコンマ・パーセントであり,このような低レベルのシェアで,相互に主張を繰り返すことは意味がなく,被請求人は,商標権者として「他人に商標権を許諾する権利」がある。
(2)本件商標は,その「知識の教授」の役務のひとつに,被請求人や先使用をしている請求人が使っているジャンルがある,という構想であり,秘匿よりも拡大,多くの関連組織協働で「R-Map」という名称を使うサークルを形成することが,本件の周知に最適な方法である。
(3)被請求人は,請求人に,商標権者としての権利を全て提示し,「先使用」や「専用使用権」など,現実的でビジネスライクな選択肢も記してあるが,請求人は,その選択肢ではなく,本件の起因を,被請求人を商標ブローカーと見立てた一点に絞って請求を進めている。請求人の文書は,回を経るごとに,被請求人への悪意の演出,事実の捏造に特化し過激となっている。
しかし,その指摘は,今まで反論したとおりであり,したがって,請求人による「本件審判の請求理由」そのこと自体が,「請求人による請求人のための,自己の存在を示すもの」と結論する。

第4 当審の判断
1 請求人及びその使用に係る「R-Map」の周知性等について
(1)請求人は,科学技術ならびに経営管理技術の振興に必要な諸事業を総合的に推進し,人材の育成を図り,もって産業と学術・文化の発展に寄与することを目的として,1946年(昭和21年)に創立された法人である(甲2)。
(2)そして,「R-Map」の文字の使用については,以下の事実が認められる。
ア 甲第3号証は,請求人のウェブサイト(写し)であり,「R-Map関連事業のご案内」には,「日科技連が開発したR-Map手法は,リスクを『見える化』する手法としてその有効性が認識され,国内で導入する企業が急速に増加し,経済産業省では2008年4月より,報告された製品事故に対してR-Mapによるリスク評価を実施し,リコールの必要性判断にも活用しています。」の記載,及び,「R-Map手法とは?」には,「R-Map(Risk Map:リスクマップ)とは,縦軸に『発生頻度』,横軸に『危害の程度』のマトリックスを使用して,リスクの大きさを表現する手法です。」の記載と,「R-Mapリスク・マップで表現する安全の概念」及びマトリクス表が掲載されている。
イ 甲第4号証は,請求人名による平成11年6月11日付けの「第25年度プロダクト・セイフティ研究会 研究成果発表会資料 第1部会」(写し)であり,「リスクマップ(R-Map)手法の検討」として,「日本科学技術連盟 PS研究会 PSRグループ」のメンバーにより,「2.リスクマップ(R-Map)手法の実施手順及び内容」について「リスクアナリシスの実施」,「リスクマップの作成」等が記載されている(他,平成12年ないし同15年:甲24,甲25,甲5及び甲6)。
そして,甲第6号証は,同じく,平成15年6月13日付けの第29年度の研究成果発表会資料であり,該資料によれば,「R-Map手法とは 製品の使用状況に応じたリスクを『危険の程度』と『発生頻度』よりマップ上で評価した後,その評価レベルに応じた対策を実施し,リスクを許容範囲内に落とす手法である。」と記載されている。
甲第6号証の11葉目は,「S-H検討法からR-Mapへの展開(事務用イスの信頼性・安全性の解析と評価)」の表題の書面(写し)であり,「日本科学技術連盟 PS研究会 PSRグループ」及びそのメンバーに,「(株)イトーキ 村田一郎」の記載がある。
また,該書面には「S-H検討法とR-Map法を組み合わせてリスク評価を試みた」,「通常R-Map法では危険分析表を用いてハザードと使用状況・形態から危険事象を見つけだしているが,・・・」,「スクリーニングされた危害状況をR-Map法によってそのリスクを評価し,対策し,対策後のリスクを再度評価・・・」の記載がある。
ウ 甲第8号証の1は,請求人による,2005年5月ないし2006年3月に開催された,「第1年度 R-Map リスク・マップ実践研究会」の開催案内のパンフレット(写し)であり,「R-Map リスク・マップで表現する安全の概念」に関する記述があり,「参加のおすすめ」,「第1研究分科会」ないし「第3分科会」の活動紹介,「R-Map実践研究会 参考書籍のご案内」,「研究会指導講師」等が記載されている。同号証の2ないし9は,2006年度(第2年度)ないし2013年度(第9年度)のものである。
そして,上記2011年度(第7年度)及び2012年度(第8年度)の,第3研究分科会の項目には,「副主査 村田一郎(NPO法人 品質安全機構)」の記載がある。
エ 甲第11号証の1は,平成22年10月19日付けの,経済産業大臣から,請求人あての,「R-Mapセミナーに対する経済産業省後援名義の使用の承認について」と題する書面であり,甲第11号証の2によれば,請求人は,「R-Map リスク・マップセミナー」の案内の左上に「経済産業省後援」の文字を表示しているものである。
オ 甲第12号証の1は,内閣府の2011年2月1日に開催された「第6回消費者安全専門調査会」に関する情報であり,「R-Map分析手法を用いた製品事故のリスクアセスメントについて」と題する書面が,資料2として配布されたものである。
そして,甲第12号証の2は,平成23年2月1日付けの「NITE 製品安全センター 事故リスク情報分析室」による「R-Map分析手法を用いた製品事故のリスクアセスメントについて」と題する上記書面(写し)であり,その「R-Mapの概要」には,「R-Map(リスクマップorアールマップ)は,リスクを6×5のマトリックスで表現するリスクアセスメント手法」,「文部科学省所管の(財)日本科学技術連盟が開発」の記載がある。
カ 甲第13号証の1は,2011年6月の経済産業省名の「リスクアセスメント・ハンドブック実務編」(写し,抜粋)であり,「R-Map手法」について「R-Map手法は,(財)日科技連の『R-Map実践研究会』で開発されたリスクアセスメント手法。」の記載がある。
キ 甲第14号証は,被請求人から請求人に宛てた,2012年11月26日付けの「首題:R-Mapに関して」と題する書面であり,「R-Map」の登録第4669291号及び登録第5504984号商標について,商標権者である旨,商標法の条文に基づいて商標権を行使する権利を有している旨等が記載されている。
ク 甲第30号証の1は,2006年6月29日及び30日に請求人が主催した「信頼性・保全性シンポジウム」の「発表報文集」(写し,抜粋)であり,その285頁には,「リスク定量評価手法とセイフティ・モジュール」として,「R-Map」及びその利用方法が記載されている。同号証の2は,2008年7月に,同号証の3は,2009年7月に,同号証の4は,20011年7月に,同号証の5は,2012年7月に,それぞれ開催された上記「シンポジウム」の「発表報文集」であり,「R-Map」に関する記載がある。
(3)以上によれば,「R-Map」の文字は,文部科学省所管の請求人に関連するPS研究会が,平成11年頃までに開発した,縦軸に「発生頻度」,横軸に「危害の程度」のマトリクスを使用して,リスクの大きさを表現する,製品のリスクアセスメント(安全評価)手法を表すものであって,請求人は,「R-Map リスク・マップ実践研究会」の文字を使用して,「R-Map」に関する研究会活動を主催し,「R-Map」に関するセミナーを2005年から現在まで継続して開催しているものである。
加えて,R-Mapセミナーに対する経済産業省後援名義の使用について承認されていること,内閣府の「消費者安全専門調査会」においても「R-Map」に関する資料が配布されたこと,2006年から継続して開催している「信頼性・保全性シンポジウム」において発表されていることからすれば,「R-Map」の文字は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人が開催する「R-Map」に関するセミナー等を表示するものとして,我が国における様々な製品・システム・装置等に携わる企業や,その消費者の安全に関わる者を中心に相当程度知られているものと認められる。
一方,甲第6号証によれば,被請求人は,平成15年に請求人が開催した「第29年度プロダクト・セイフティ研究会」に参加したこと,「R-Map法」は,その資料によれば,危険分析表を用いてハザードと使用状況・形態から危険事象を見つけ出す手法であることを知っていること,さらに,甲第8号証の7及び8によれば,被請求人は,請求人が継続して主催する「R-Map リスク・マップ実践研究会」について,2011年度及び2012年度の「第3研究分科会」に,「副主査」として参加していることが認められる。
2 被請求人及び同人による「R-Map」の使用等について
(1)被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 乙証3-2ないし12は,セミナー運営会社11社のホームページ(写し)であり,いずれも被請求人に関するプロフィール,経歴,専門分野,実績,等が記載されている。そして,例えば,「主な著書」の紹介中には,マトリクス様の図形とともに「R-Mapでリスクの見える化」の記載(乙3-2)のほか,「R-Map実践技術者」(乙3-4及び5),「経産省御用達のR-Mapで『見える化』を講演」(乙3-5及び10),「R-Map指導講師」(乙3-5及び11),「(財)日本科学技術連盟認定R-Map実践技術者指導講師」(乙3-8及び12)等の記載がある。
また,乙証3-13は,「商標周知実績」の表題の一覧表であり,被請求人は,平成16年(2004年)にセミナーを2回,平成17年(2005年)にセミナーを1回開催し,平成18年(2006年)に3種の雑誌に連載を掲載したことが認められる。
イ 乙証4-5は,平成19年(2007年)12月19日付けの「平成19年度調査研究事業の委託公募について」と題する「(財)地球産業文化研究所」名の書面(写し,抜粋)であり,「平成19年度委託調査」の目次の「4.2.11 R-Map分析による自転車の安全性評価」には,「村田一郎」の記載と,その内容(一部)が記載されている頁には,「(財)日本科学技術連盟認定 R-Map実践技術者」と「村田一郎」の記載がある(乙4-6ないし8)。
乙証4-9は,平成21年3月,「財団法人国際経済交流財団」及び「財団法人製品安全協会」連名の「消費生活製品の製品安全に係る欧州におけるリスクアセスメントに関する調査研究報告書」と題する書面(表紙)であり,その229頁(乙4-10)には,「S-H検討法からR-Mapへの展開?事務用イスのリスクアセスメント」の表題及び「(財)日本科学技術連盟認定R-Map実践技術者」及び「NPO法人品質安全機構 理事長 村田一郎」及びその内容が記載されている。
ウ 乙証5は,被請求人が主催するNPO法人のホームページ(写し)であり,セミナーの案内,R-Mapのプログラムのダウンロード等が掲載されている。また,乙証6-3ないし15は,日刊工業新聞,乙証7-2ないし5は,近代家具,及び,乙証7-6ないし17は,雑誌「鶏卵」に掲載された,被請求人による記事(いずれも写し)である。
エ 乙証8-1は,「S-H検討法からR-Mapへの展開(事務用イスの信頼性・安全性の解析と評価)」の表題の書面(写し,抜粋)であり,「日本科学技術連盟 PS研究会 PSRグループ」の記載及びそのメンバーに,「(株)イトーキ 村田一郎」の記載がある。
被請求人の主張によれば,乙証8-1及び2は,平成15年度PS研究生9名を代表して書いた卒業論文であり,該書面には「S-H検討法とR-Map法を組み合わせてリスク評価を試みた」,「通常R-Map法では危険分析表を用いてハザードと使用状況・形態から危険事象を見つけ出しているが,・・・」,「スクリーニングされた危害状況をR-Map法によってそのリスクを評価し,対策し,対策後のリスクを再度評価・・・」の記載がある。同様の内容は,請求人が提出した甲第6号証からも確認できる。
(2)以上によれば,被請求人は,セミナー運営会社11社のホームページにおいて,自身のプロフィール,経歴等において,「R-Map実践技術者」,「R-Map指導講師」等と記載しており,「R-Map」に関するセミナーの講師として,同人が主催する(又は行う)セミナーや,新聞,雑誌などの記事において,請求人が使用する「R-Map」と同じ意味合いのもと使用していることが認められる。
また,前記1(2)によれば,請求人が主催する「R-Map リスク・マップ実践研究会」において,2011年度及び2012年度の「第3研究分科会」に,「副主査」として参加していることからすれば,被請求人は,「R-Map」の文字が請求人の開発した製品安全評価手法を表すものであること,請求人が「R-Map リスク・マップ実践研究会」の表示の下で,「R-Map」に関する研究会活動を主催し,セミナーを2005年から現在まで継続して開催していることを熟知していたものと認められる。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)請求人の「R-Map」商標と本件商標について
ア 請求人の「R-Map」商標の周知性について
前記1(3)に記載のとおり,「R-Map」の文字は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人が開催する「R-Map」に関するセミナー等を表示するものとして,我が国における様々な製品・システム・装置等の製品に携わる企業や,その消費者の安全に関わる者を中心に相当程度知られているものと認められる。
イ 「R-Map」商標と本件商標との類似性等について
本件商標は,前記第1のとおり,「R-Map」の文字からなるところ,該文字は,請求人が開催する「R-Map」に関するセミナー等を表示する「R-Map」の文字と同一のものである。
(2)不正の目的について
被請求人(商標権者)は,請求人が主催する,平成15年の「第29年度プロダクト・セイフティ研究会」に参加した者であって,また,請求人が主催するセミナーである「R-Map リスク・マップ実践研究会」に,副主査として参加した者であることからすれば,「R-Map」の文字が,請求人が平成11年頃の開発した製品安全評価手法を表すものであることをよく知る者であり,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,該文字が,請求人によって本件指定役務について使用されていることを熟知していたものと認められる。
そして,被請求人(商標権者)は,請求人が主催する2005年5月ないし2006年3月に開催された「R-Map実践研究会」に参加し,「R-Map実践技術者」として認定されている(甲45の1の2)としても,「R-Map」の文字は,請求人が開催する「R-Map」に関するセミナー等を表示する商標として使用され,その業界において相当程度知られているものであるから,該文字と同一の文字からなる本件商標を,被請求人(商標権者)がその指定役務について出願し,登録を受けるべき合理的理由は,見いだし難いものである。
また,被請求人(商標権者)は,2012年11月26日付けの文書(首題:R-Mapに関して)において,「R-Map」の商標権者として,商標権の行使が可能であることを前提に,その対処と回答を求める通知をしており,交渉を持ちかけているところである。
そうとすれば,被請求人(商標権者)は,請求人が使用する「R-Map」の商標を熟知しており,これが登録されていないことを奇貨として先取り的に登録出願し,登録を得たものであって,不正の目的をもって本件商標を使用するものというべきである。
(3)まとめ
したがって,「R-Map」の周知性及び本件商標の登録出願の経緯等を総合して判断すれば,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当するものと認められる。
4 結語
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第19号に違反してされたものであるから,その余の請求の理由について論及するまでもなく,同法第46条第1項の規定により,無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-12-02 
結審通知日 2013-12-05 
審決日 2013-12-19 
出願番号 商願2012-6395(T2012-6395) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (W41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橋本 浩子 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 田中 亨子
谷村 浩幸
登録日 2012-07-06 
登録番号 商標登録第5504984号(T5504984) 
商標の称呼 アアルマップ、マップ、エムエイピイ 
代理人 原 水脈子 
代理人 角田 伸一 

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