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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2012890075 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商15条1項2号条約違反など 無効としない Y03
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y03
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない Y03
管理番号 1284306 
審判番号 無効2012-890092 
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-10-30 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第4776699号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4776699号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおり,黒色で不揃いな大きさの略四角形を4つ横に並べ,この略四角形の内部にそれぞれ「三」「相」「乳」「化」と手書き風の白抜き文字を1字ずつ記して成るものであり,平成15年9月25日に登録出願,第3類「せっけん類,化粧品,香料類」を指定商品として,平成16年5月14日に登録査定,同年6月4日に設定登録されたものである。

第2 審理事項通知書
本件審判の請求について,被請求人から「本件審判の請求は,請求人適格に欠けているものであり,請求人が請求人適格を有する者であることを明らかにしないかぎり,特許法第135条の規定により,不適法なものとして却下されるべきである」旨の主張がなされていることから,審判長は,当該答弁書を請求人に送付すると共に,平成25年1月28日付審理事項通知書により,平成25年3月8日の口頭審理期日(口頭審理陳述要領書)において請求人の利害関係を明らかにする機会を与えた。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書,口頭審理陳述要領書(口頭審理における陳述を含む。),弁駁書(平成25年4月5日及び同年8月23日付け)において,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲1ないし70を提出した。
1 請求人適格について
請求人は,学校法人神奈川大学(以下「神奈川大学」という。)と共同で,平成25年3月7日,「三相乳化」の文字を含む商標を,第1類「三相乳化を利用した化学品」及び第3類「三相乳化を利用した化粧品・せっけん類」を指定商品として,商標登録出願を提出した(商願2013-16188号,甲66)。この出願は,本件商標が引用され拒絶理由通知を受けるものと思料する。
よって,請求人は,本件審判の請求について利害関係を有していることは明らかである。
なお,利害関係の有無について,被請求人は,無効審判の請求前に請求人の出願が存在しなければならないと主張するが,民事訴訟法の原則に従い,無効審判の請求について利害関係が必要と解するならば,その利害関係の判断時も口頭弁論終結時,すなわち,無効審判にあっては審理終結時である。
とするならば,請求人の商標出願は,無効審判の審理終結時に存在すればよく,審判請求前から出願されていなければならない合理的理由はない。
2 商標法第4条第1項第16号について
本件商標は,商品の品質の誤認を生ずるおそれのある商標であって,商標法第4条第1項第16号に該当するにもかかわらず登録されたものであり,その登録は同法第46条第1項の規定により無効とされるべきである。
(1)「三相乳化」の概念
本件商標は,その構成態様から「三相乳化」の観念及び「サンソウニュウカ」の称呼を自然に生じさせるものである。
「乳化」とは,「乳濁液に界面活性剤を加えてかきまぜ,これを安定に保つ操作」を意味する化学技術用語として知られている。そして,「三相」の「相」は,『物質系の一部がその内部で物理的・化学的に全く同一性質を示すとき,その部分は,同じ「相」にある』と表現されるようにこれも化学技術用語である。
よって,「三相乳化」は,全体として,「三つの相に乳化したもの」といった特定の化学的観念を容易に想起させる化学用語である。より具体的にいえば,互いまじりあわない「水,油,乳化剤の三つの相からなり,それらを,安定させ,乳状としたもの」との観念を想起させるものである。
「三相乳化」の概念・用語は,例えば,以下のとおり,本件商標の出願日前,遅くとも,1999年には,すでに学会等において,化学技術用語として,現実に使用され,紹介されている。
ア 田嶋和夫(神奈川大学)著「熱力学的に可能なリン脂質の三相乳化系」(甲2)は,「界面活性剤を用いた通常の二相乳化と,固体微粒子を用いた三相乳化における乳化機構の差異について考えてみる」と述べて,「エマルションの二相乳化と三相乳化の実験的証明」として,水-油-乳化剤系においていろいろな「乳化剤相」によって定義される三相乳化系の代表的な例を示す。
イ 日本油化学会 創立50周年記念大会 講演要旨集(甲3)は,「本研究は,…水相?自己組織乳化剤相?油相による三相乳化の可能性について検討することを目的とした。」と述べ,「三相乳化」技術を説明し,講演している。
以上のとおり,「三相乳化」の概念は,「水-油-乳化剤相」の「三相」が「乳化」した状態を意味する化学技術用語として,かつ,「水-油-界面活性剤」という「二相乳化」に対立する概念として,本件商標の出願日の遅くとも,4年以上前より,学会等で広く紹介されてきた化学技術用語(名称)である。
(2)「三相乳化」と指定商品「せっけん類,化粧品」との関係
本件商標は,「せっけん類,化粧品」等を指定するものであるところ,通常,せっけん類や化粧品には,油分及び水分を乳化するため,「界面活性剤」が使用されている(甲7)。すなわち,化学技術的には,「せっけん類,化粧品等」は,「二相乳化」と呼ばれる状態となっているものが多く占めているのに対して,三相乳化という乳化技術は,界面活性剤を使用しない技術として,「二相乳化」に対比されるより改善された化学技術であって(甲3),「せっけん類,化粧品等」にも応用できるものであり,事実「せっけん類,化粧品等」に「三相乳化」の製造技術は利用されている(甲5,6)。
甲6は,「界面活性剤」による乳化と「三相乳化法による乳化」を対比して紹介し,「三相乳化法」を「界面活性剤を必要としない,新しい乳化テクノロジー」,「この技術は広範囲の産業分野に活かして,」と説明する。
甲5は,「三相乳化」技術による化粧品の効果を説明している。
このように,「三相乳化」の技術は,界面活性剤を使用した「二相乳化」の技術に対比する技術として学会等で紹介されてきており,「二相乳化」技術を使用した典型的製品である「せっけん類,化粧品」等の品質改良にも,実際に利用されてきているものであり,「三相乳化」による「化粧品」として,市場において,実際に広告・宣伝され,販売されてきている。
(3)本件商標に係る異議申立事件の決定(乙2)及び不使用取消審判事件おける知的財産高等裁判所の判決(乙3)について
被請求人は,当該異議申立事件の決定及び知的財産高等裁判所の判決を根拠に,本件商標は商標法第4条第1項第16号に該当するものではないと反論するが,同異議決定は,提出された証拠の範囲での判断にすぎない。また,判決は,不使用取消審判の審決取消請求事件に係るものであり,識別性が争点となったものではなく,その理由中で「この記載や原告が提出する他の文献等(甲36?38)の存在を考慮しても」と述べるとおり,提出された証拠の範囲での判断にすぎない。
(4)「三相乳化」が「化学技術用語」として,本件商標の査定日前から現在に至るまで広く普及していること
請求人は,「三相乳化」が「化学技術用語」として,本件商標の査定日前から現在に至るまで広く普及しているという事実を立証するため,甲10?64を提出する。甲10?64は,書籍,専門雑誌,大学の報告書,学会誌,講演要旨集,新聞記事等であり,「三相乳化」法を紹介,記述するものである。そのうち,甲10,11,26?33,45,46,54?58は,本件商標の査定時前に発行等されているものである。以下,証拠のいくつかについて,説明する。
ア 甲25は,1999年発行の専門雑誌であり,「三相乳化」法の発見者,研究・開発者である神奈川大学の田嶋教授がその内容を詳細に論述している。また,「三相乳化」法は,神奈川大学工学部報告(甲26,32),専門書籍(甲27),日本油化学会雑誌,講演(甲28?31)等によって広く発表されている。
田嶋教授らの研究・開発者らは,この研究等によって,2002年には,日本油化学会の「学会賞」「エディター賞」等を受賞している(甲28?31)。甲30に掲載された論文において,同教授は,「この状態のエマルジョンに対して,我々は「三相エマルジョン構造」と呼び,その乳化過程を『三相乳化』と命名した」と説明している。
「三相乳化」法は,遅くとも2002年には,日本化学会(現,公益社団法人日本化学会)の年会等においても,発表されている(甲10,11)。
甲33は,2004年5月発行の専門業界誌であるが,田嶋教授らによる「三相乳化」に関する論文が掲載されている。そこでは,「三相乳化の特徴及び応用」として,「化粧品,食品,医薬品,農薬,燃料エマルション等」が挙げられている。
甲44?46,54,55に示されるように,田嶋教授らは,「三相乳化」法を,本件商標の査定日及び出願日前より,日本油化学会,日本化学会等で継続的に発表してきていることがわかる。
以上のとおり,「三相乳化」の概念は,「水-油-乳化剤相」の「三相」が「乳化」した状態を意味する化学技術用語として,かつ,「水-油-界面活性剤」という通常の「二相乳化」に対立する概念として,本件商標の出願日の遅くとも,4年以上前より,その研究者,開発者によって,命名され,学会等で広く紹介されてきた化学技術用語(名称)であることは明らかである。
また,残余の証拠に示されるように,「三相乳化」法の命名後も継続して現在に至るまで,この技術は,研究,開発,発表等されつづけている。
このように,「三相乳化」が技術用語として使用され,特に,請求人の「界面活性剤」を使用しない乳化概念として使用され,かつ,公表されてきた事実及び,「乳化」の言葉と「化粧品」との密接な繋がりに照らせば,「三相乳化」が,「化粧品」に使用された場合,特定の意味を有しない造語と,取引者・需要者に認識させるようなことはあり得ない。
イ さらに,出願日及び査定日の15年以上前に出願された特許出願においても,「三相乳化」の用語が技術用語として使用されている。請求人作成の当該特許出願の書誌事項及び明細書等記載の該当部分を抽出した一覧表(甲67)及びそのうちの特願昭61-20949号に関する特許公報(甲68),特願平2-177665号に関する特許公報(甲69)を提出する。 ここでは,「水・油・水」の「三相」の乳化剤を「三相乳化物」,「三相乳化剤方法」と紹介しており,特に,甲69では,「本発明の製剤は三相乳化剤方法を用いて製造することもできる。」「それによって三相(W/O/W)乳濁液の連続的生成が生じる。」「三相乳化剤方法は米国特許第4652441号により公知である。」などの説明がある。これらの特許出願は,「薬剤」に関する発明であるが,ここでは「三相乳化」の用語は,「水・油・水」の三相に乳化した状態を示す技術用語として使用されている。このような「三相乳化」の概念は,被請求人が上記各乙で述べている「三相乳化」の概念と同一のものと解され,「三相乳化」が具体的意味をもった技術用語として用いられていることに疑いはない。
(5)「三相乳化」に関する神奈川大学の取り組みについて
ア 田嶋教授が属する神奈川大学では,2000年4月に産官学連携推進室を設けた。「2011年3月神奈川県発行『かながわの知的資源』,『神奈川大学における産官学連携の取組み,神奈川大学 研究支援部次長 田口澄也』(甲23)」の記事において,田口氏は,神奈川大学での産官学連携事業の特徴や,「本学での,産官学連携の研究成果として,田嶋和夫特別招聘教授が研究・開発した『三相乳化』技術が挙げられ,この技術開発のために学内に『三相乳化技術研究開発プロジェクト』を立ち上げ,研究支援部が管理・運営の支援をしています。」との説明をしている。このように,同大学は,その産官学連携プロジェクトとして,「三相乳化」技術を目玉のひとつとしている。
さらに,田口氏は,同記事において,「この(三相乳化)の技術は,乳化技術を必要とする食品,香粧品,化粧品,潤滑剤など広い分野での応用が可能」,「このほかにも企業と共同で加工食品,化粧品の開発に成功している」と述べ,また,「神奈川大学が2007年8月に『未来環境テクノロジー株式会社』を設立したこと」と述べている。
「未来環境テクノロジー株式会社」は,神奈川大学が100%出資し,「三相乳化技術の研究,開発,実用化(香粧品・化粧品,食品他),三相乳化技術の指導,コンサルティング,共同研究,委託研究等」を事業内容とするものである(甲63,64)。
また,神奈川大学作成の「学校法人神奈川大学/産官学連携プロジェクト/りそな中小企業振興財団(2008年5月9日)/ナノ粒子による新しい技術開発/三相乳化技術の開発」には,三相乳化法の応用例として,1)石油系油剤の乳化,2)化粧品,3)農薬,4)食物油の乳化が挙げられている(甲18)。
このように,「三相乳化」技術は,その発見,開発後から,現在に至るまで,神奈川大学によって,産官学連携プロジェクトの対象として,その活用が推進されつづけている。
イ 「三相乳化」技術についての産官学連携プロジェクトについては,甲34の「朝日新聞,日本経済新聞等の記事」及び甲17の「(財)川崎市産業振興財団発行の『かわさき産学連携ニュースレター』」のほか,甲19?21,23,24にも示されている。
ウ 「三相乳化」に関する技術は,学校法人神奈川大学によって,特許及び特許出願等もされている(甲60,61)。
これら特許には,技術用語として,「三相乳化」が使用されている。また,特許第3855203号の特許公報に(56),参考文献として,甲25,31,11で提出した文献が引用されたことが示されている。
(6)商標法第4条第1項第16号について
同法は,「おそれ」があれば足り,現実の誤認の必要なく,その蓋然性で足りる。また,誤認の主体は需要者であるが,「取引者」も含まれると解するのが通説である(甲70)。さらに,判例は,「その商標によって表されるような品質の商品が現実に製造,販売されていることを必要とするものではなく,一般需要者が,その商標を付した商品に接したならば,その商品の品質効能等の特性を誤認するおそれがあれば足りるものというべき」と判示している(東京高昭和63(行ケ)113号)。
このような解釈,規範に照らしても,本件商標は,少なくとも,通常の単に「乳化」を性質とする化粧品であることを,ないしは,請求人の使用に基づく「三相に乳化した」すなわち「界面活性剤による乳化でない化粧品」と認識させるものというべきである。
(7)以上のとおり,「三相乳化」の乳化技術は,本件商標の出願前より,学会等で紹介され,かつ,その典型的な利用例として,「せっけん類,化粧品」等の製造にも利用されているものである。
このような状況下で,本件商標は,「三相乳化」の漢字のみを白抜きの肉太文字で黒い矩形の中に個々に表現してなるにすぎないものであり,容易に,その指定商品「化粧品,せっけん類」の生産方法が「三相乳化」によるものであることを表示していると認識できるものであるが,本件商標の指定商品は,「三相乳化」技術を使用したものに限定されていない。
よって,本件商標が「界面活性剤を使用した二相乳化」の「せっけん類,化粧品等」に使用されれば,取引者・需要者に,商品の生産方法,ひいてはその品質を誤認させることは必定である。
3 商標法46条1項5号の事後的無効理由該当について
本件商標は,登録がなされた後においても,その商品の品質を誤認させるものと評価でき,商標法46条1項5号の事後的無効理由にも該当する。
この点,被請求人は,「被請求人は,請求人が示す研究グループとは別に,日本大学工学部教授であった佐藤氏とともに三十余年の歳月をかけて人間の皮脂の組成に近づけた化粧品の研究を行い,三相乳化の技術を用いた製品の製造・販売を行うものである」と主張するが,当該三相乳化技術がどのような技術であるか,全く説明がなく,かつ,何故,これを「三相乳化」などと名付けたかも全く不明である。「三相乳化」が被請求人の命名した技術名というのであれば,その正当な理由が示されるべきである。
また,田嶋教授らは,1999年に「三相乳化」を命名後,本件商標の出願日前後において,多数の学会等の発表を行っている。何故,被請求人が主張する30年の歳月をかけて研究された「三相乳化」が,この出願日に出願されるに至ったのか,その合理的理由も説明されるべきである。
4 商標法第4条第1項第7号について
上述のとおり,「三相乳化」は,本件商標の出願日前より,学会等で広く紹介された化学技術用語であり,かつ,その指定商品「化粧品,せっけん類」等の生産方法・品質を意味するものである。これに対して,本件商標権者は,当該方法の発見,研究には,何ら,関与するものでもない。
このような商標権者が,当該化学技術用語を,単に黒塗りの矩形の中に白抜きの肉太文字に書しただけの態様で「化粧品,せっけん類」等について商標登録しようとすることは,当該技術の創作者,研究者を含め,当該「三相乳化」の生産方法による「せっけん類,化粧品」等に,「三相乳化」と取引者らが表示・使用することを躊躇・制約させ,これら利用者の利益を害するものである。このような化学技術用語は,広く開放されるべきである。
先例においても,他人が創案して普及した問題解決の方法の名称について,それらの事実を知りながら商標登録を受けることは剽窃的で信義則に反すると判断されている(東京高平成14年(行ケ)第94号)。
また,「三相乳化」は,神奈川大学の田嶋教授らによって,発見,研究,開発されてきた乳化技術であり,同大学の産官学連携プロジェクトの対象技術として,広報され,実際に活用されてきている技術である。
以上のとおり,本件商標を商標登録しようとする行為は,明らかに,当該技術用語の使用を独占し,公正な商品取引秩序を害するおそれのあるものである。また,本件商標の存在は,公益性のある産官学共同プロジェクトともなる「三相乳化」法の普及の妨げとなるものといわざるをえない。
よって,本件商標は,公序良俗に反する商標であり,商標法第4条第1項第7号にも該当するものである。
5 結語
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第16号及び同第7号に違反してなされたものであり,商標法第46条第1項の規定により無効にされるべきである。
また,本件商標の登録は,登録後に商標法第4条第1項第16号該当するものとなったから,同法同5号により無効にすべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,答弁書(平成24年12月28日,平成25年4月5日及び同年6月3日付け)及び口頭審理陳述要領書(口頭審理における陳述を含む。)において,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙1ないし14を提出した。
1 本件商標の概要
本件商標は,平成16年6月4日に商標登録され,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号該当を理由に異議申立がなされたが,「指定商品の品質を具体的に表示したものではなく,商品の品質について誤認を生ずるおそれもない」としてその登録を維持された(乙2)。
さらに,2度にわたり商標法第50条第1項の規定に基づく不使用取消審判請求がなされたが,いずれも「請求不成立」と審決され,そのうちの1件については,審決取消訴訟も提訴されたが原告の主張は棄却され,その上告の提起もその理由は民訴法312条1項又は2項所定の場合に該当しないとして棄却されている(乙3?5)。
2 請求人の請求適格について
(1)審判便覧によると,「審判請求において,請求人は,…当事者適格を有するものであることが求められている」とされており,「商標登録の無効審判についても,…民訴法の場合と同じく『利益なければ訴権なし』の原則が適用されるという解釈をとるものとする。」とされている(乙6)ところ,本件の審判請求書中には,利害関係についての記載がない。
そして,請求人は,弁理士業を営む者であり,本件審判を請求することについて利害関係を有しているとは思料し難い(乙7)。
また,請求人は,本件商標に対する不使用取消審判事件に関する審決取消請求事件の判決に対する上告人の訴訟代理人となっているが(乙4,5),上記事件の上告訴訟代理人は,利害関係人に該当しない。
そうとすると,本件審判の請求は,請求人適格に欠けているものであり,請求人が請求人適格を有する者であることを明らかにしないかぎり,商標法第56条第1項の規定により準用される特許法第135条の規定により,不適法なものとして却下されるべきと考える。
(2)口頭審理において,請求人は,「神奈川大学と共同で平成25年3月7日に『三相乳化』なる商標を出願した。その出願により請求人は本件商標の存在によって直接の不利益を受ける利害関係人となり,本審判請求は当事者適格を有するものである。」と陳述した。
しかしながら,口頭審理陳述要領書によると,請求人は,学校法人神奈川大学が取得した特許第3855203号(乙8)において同大学が「三相乳化法」と称する技術について,同大学と当該技術の使用を望む第三者との間の仲介業務を行っているとのことである。また,口頭審理においても,請求人は,第三者の依頼により,同大学の三相乳化について技術ライセンスの仲介を行っている旨陳述している。
そこで,口頭審理において,被請求人は,仲介であるならば仲介を依頼した人は誰であるか尋ねたところ,明白な答えはなかった。
そうとすると,本件審判の請求は「自己の行う仲介業務のため」に行われたものと言わざるを得ず,このような本審判請求を維持するために,形式的に商標登録出願を行い,利害関係を得ることは商標法の本質に反するものであり,そのように不当に作り出された利害関係を振りかざして,社会的信用を有する本件商標に対し無効審判を請求することは権利の濫用ともいうべきものである。
なお,請求人は,口頭審理において,自らが経営する会社の事業の一環として「化粧品の製造販売を行うことにした」と述べており,商標登録出願を行ったことを正当化しているが,一方で技術ライセンスの仲介業務を行いながら,自らも当該技術を使用した製品を製造するなどということは考えがたく,詭弁にすぎない。
したがって,本審判請求について請求人適格は存しない。
2 商標法第4条第1項第16号について
(1)商標法第4条第1項第16号に該当するか否かは,その商標を構成する文字等が,特定の商品の品質を直接的・具体的に表示するものであるか否かを判断してなされるべきである。
この点について,本件商標に係る異議申立事件において,特許庁は,「本件商標は,『三相乳化の技術を用いた商品』を間接的に暗示させる程度のものであって,指定商品の品質を具体的に表示したものとは認められず,また,本件商標をその指定商品に使用しても,商品の品質について誤認を生ずるおそれはない」との判断を示している(乙2)。また,知的財産高等裁判所の判決も,「学術論文の記載,その他の文献等の存在を考慮しても,『三相乳化』の語は未だ一般的な用語になっているものではなく,油化学ないし脂質の化学的性質の知識に疎い一般の需要者も上記論文にあるような『三相乳化』の技術的な意味を理解して本件パンフレット等の記載に接するとはいえない。そうすると,上記のような一般の需要者は,「三相乳化」の語から特定の製造法を連想し得るものではなく,原告の提出する論文等の存在によって『三相乳化』の記載の出所識別機能等に係る前記結論が左右されるものではない。」(乙3)として,本件商標に商標としての自他商品の識別機能を認めている。
このように,本件商標は,特定の商品の製造方法,品質等を直接的・具体的に表したものとはいえないから,商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
(2)請求人は,「三相乳化」の語は,「三つの相に乳化したもの」といった特定の化学的観念を容易に想起させる化学用語であると主張するが,「三つの相に乳化したもの」すなわち「乳化して生成されたエマルションが三つの相になったもの」といわれても,それがどのような商品であるか,一般的な需要者・取引者が特定の商品を想起することは到底できるものではない。
また,請求人は,「三相乳化」の語は,本件商標の出願日前より,学会等で広く紹介されてきた化学技術用語であり,かつ,その化学技術は,本件商標の指定商品「せっけん類,化粧品」等の製造にも利用されているとも主張する。
しかしながら,乳化方法については様々な技術が存在する中,神奈川大学は,その一つの乳化方法について,請求人が特許第3855203号(乙8)を取得し,その技術を自らが「三相乳化法」と称しているにすぎないのである。
被請求人は,請求人が示す研究グループとは別に,日本大学工学部教授であった佐藤氏とともに三十余年の歳月をかけて人間の皮脂の組成に近づけた化粧品の研究を行い,「人間の皮脂が,水・油・水の三相で乳化をしている」ことに着目して,人間の皮脂腺の組成に限りなく近い素材で,人の肌になじみ,浸透する化粧品を完成させたのである。この化粧品を「三相乳化」と称し,これを自らが製造する商品の商標として採択・使用して,その製造・販売を昭和59年の会社を設立以来ひとすじに行うものである(乙9)。
このように,「三相乳化」の商標は,特定の意味内容を有する学術用語ではなく,一般の取引者・需要者において特定の観念を有しない所謂造語商標である。被請求人は,「三相乳化」の語を田嶋氏の論文発表の1999年以前,少なくとも平成10(1998)年以前より「三相乳化」の語を使用していた(乙10?12)。
さらに,被請求人は,「三相乳化」の文字よりなる商標を,田嶋氏の論文に先立って平成10年2月26日に出願している(乙4)。当該出願は,商標法第3条第1項第3号を理由として拒絶査定されたが,被請求人はその理由を承伏したわけではない。また,神奈川大学出願の商標「KU三相乳化」の拒絶理由通知書においても,「三相乳化」の語に商標としての自他商品の識別機能を認めている(乙14)。
(3)以上のとおり,「三相乳化」の語は,被請求人が独自に創作し採択した造語商標であり,様々な乳化方法が存するなか,「三相乳化」の語を使用した学術論文があるとしても,それをもって直ちに「三相乳化」という一義的な意味合いを一般の需要者・取引者が認識するものではなく,現在においても自他商品の識別標識として機能している。
したがって,本件商標は,特定の商品の製造方法,品質等を直接的・具体的に表示したものとは到底いえないものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当するものではない。
(4)請求人は,弁駁書において,「三相乳化」が科学技術用語として,査定日前から現在に至るまで広く普及していることを立証するとして多数の文献を提出しているが,その多くは登録査定時以降近年までに発表された論文他の資料であり,登録査定時の実情を示すものとして有効なものは少ない。
ア 田嶋氏が,1999年以降,登録査定されるまでの間に「三相乳化」法と称してして各種論文等に発表されていたのは,「界面化学」分野における「新しい乳化技術方法」に関するものであり,掲載文献も極めて専門的なもののみである。
したがって,田嶋教授の「新しい乳化技術」が「三相乳化」であると認識している者は,「界面化学」や「乳化技術」に関心のある分野における研究者等,特殊な者に限られ,一般の取引者・需要者は,田嶋教授の「三相乳化」法といったものを知る由もないのである。
イ 田嶋教授の乳化技術は,「化粧品」についても応用可能なものであるとしても,弁駁書に「2007年に三相乳化技術の実用化を事業内容として,未来環境テクノロジー株式会社を設立した」とあることからも明らかなように,本件商標が登録査定された当時,田嶋教授の「三相乳化」法を利用した「化粧品等」,本件商標の指定商品に係る製品は,田嶋教授若しくは神奈川大学の関係者において製造・販売されてはいない。そして,当該乳化方法は特許された技術であることから,神奈川大学以外の第三者がこれを用いた商品の製品化を行っているとは考えがたい。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものではない。
3 商標法第46条第1項第5号の事後的無効理由について
請求人は,弁駁書において商標法第46条第1項第5号の後発的無効事由を新たに主張しているが,審判請求書に記載のない根拠法条に基づく無効理由を追加的に主張することは,請求の理由についての要旨の変更であり,認められるべきものではない。
したがって,上記主張について被請求人が反論すべきものではないと考えるが,本件商標が後発的無効理由に該当しないことを明らかにすることは,本件商標が商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものではないことをより明瞭にするとともに,本件商標の権利を早期に安定させることが寧ろ公共の利益に供すると考え,意見を述べる。
(1)「三相乳化」の語が一般的な化学技術用語であるとは到底いえるものではない。
「マグローヒル科学技術用語大辞典」等の各種の化学語辞典や「化粧品辞典」をみても,「三相乳化」の項目は掲載されていないことからしても,「三相乳化」の文字が特定した技術あるいは生産方法等を表すものとして定着し使用されている「一般的な」学術用語でないことは明らかである。
(2)「乳化技術」というのは極めて専門的な化学分野であるところ,社会一般的な者は,専門的・化学的知識を有しない,若しくは疎い者がその大多数である。
例えば,甲34のような新聞記事についても,その技術的な意味合いまでを理解してその記事に接していると言うことはできないから,たとえ4大新聞等に神奈川大学が産官学連携プロジェクトの一つとして,この田嶋教授の新しい乳化技術の研究・開発・実用化を支援しているといった記事が記載されたとしても,これのみをもって,「三相乳化」の語が「一般的な用語」となっているということはできるものではない。
(3)「化粧品等」についてインターネット情報をみると,神奈川大学と関係を有する思われる企業による「『三相乳化技術』の語が新しい乳化技術である」旨の記事が一部見受けられるが,「三相乳化」の語自体が商品の生産方法・品質を表すものとして普通一般的に使用されている事実を見いだすことはできない。
(4)取引市場の実態をみると,「化粧品,せっけん類」は日用品であり,その取引者・需要者は専門的・化学的知識に比較的疎い社会一般人である。
一般的な需要者は,「クリームや乳液などは乳化された化粧品である。」程度のことは理解しているが,「二相乳化」をはじめとするその乳化技術(方法)についてはほとんど知らないし,またそれほどの興味も持ってもいないのが現実である。
(5)以上のような実情を踏まえると,「化粧品等」の商品について付された「三相乳化」の文字に接した一般的取引者・需要者は,これが商品の生産方法等,商品の品質を表示したものとは認識し得ず,商品の出所を表す商標として認識するものといえる。
してみれば,「三相乳化」の文字は,現在においても,商標としての自他商品の識別標識としての機能を果たすものといえるから,これを本件商標の指定商品のいずれに使用したとして,商品の品質の誤認を生じさせるおそれは全くない。
したがって,本件商標は,後発的無効理由はない。
4 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人は,『被請求人は,「三相乳化」の技術の研究には何ら関与するものではない』としている。
しかし,被請求人は,請求人が示す研究グループとは別に,日本大学工学部教授であった佐藤氏とともに三十余年の歳月をかけて人間の皮脂の組成に近づけた化粧品の研究を行い,三相乳化の技術を用いた製品の製造・販売を行うものである。
また,「三相乳化」といってもその技術内容はさまざまであり,かつ,「三相乳化」の語は取引市場において普通に使用・認識されているものではなく,一般的には造語と理解されるものであることから,被請求人は,商品名として「三相乳化」の語を採択・使用して商品の販売を始め28年を経過して現在に至っている。
そして,現在においても,「三相乳化」の文字に接した一般の需要者は,学術用語として特定の製造方法等を想起するものではなく,本件指定商品に関する自他商品の識別標識として認識・理解するものである。
(2)前記のとおり,「三相乳化」の語は,被請求人が独自に創作し採択した造語商標であり,また,乳化方法は様々あって,神奈川大学の研究グループとは別に,乳化方法について研究・開発している者は多数いるところ,被請求人もその一人である。加えて,日本大学工学部教授であった佐藤氏とともに,神奈川大学の田嶋氏の論文発表に先立ち,三十余年の歳月をかけて人間の皮脂の組成に近づけた化粧品の研究を行い,三相乳化の技術を用いた製品の製造・販売を行って現在に至るものである。
したがって,本件商標を公序良俗に反する商標とし,「他人が創案して普及した問題解決の方法の名称について,それらの事実を知りながら商標登録を受けることは剽窃的で信義則に反する」とした商標「野外科学KJ法」事件を引き合いに出し,本件商標を公序良俗違反とするのは失当であり,誠に遺憾である。
(3)請求人は「本件商標の存在は,公益性のある産官学共同プロジェクトともなる『三相乳化』法の普及の妨げとなるものである。」と主張するが,「三相乳化」の語は,指定商品との関係において,特定の技術内容を表す「一般的」な「化学技術用語」であると位置づけた上でなされた上記請求人の主張は,前記のとおり,その前提において失当と言わざるを得ない。
さらに,自他商品の識別標識としての機能を本質とする商標において,本件商標に基づく使用の制限が,学術論文等における「化学技術用語」に及ぶものではないので,上記請求人の主張は妥当性を欠くものである。
また,本件商標は,その構成事態が,きょう激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるようなものではなく,そして,前記のとおり,一般的な取引者・需要者に特定の意味合い想起させることのない「三相乳化」の文字を「化粧品等」の指定商品について使用することが社会公共の利益や社会の一般的道徳観念に反するものでもないばかりか,出願の経緯において社会的妥当性を欠いたという事情も全くない。
したがって,本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえないのである。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第16号,同第7号に違反して登録されたものでないことは明らかであり,よって,本件商標は,商標法第46条第1項の規定に該当しないものである。
そもそも,請求人には利害関係がない。かかる審判請求は濫訴にも属するものであるから,本件審判は不適法なものとして速やかに却下されるべきものである。

第4 当審の判断
請求人は,本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同第16号に違反して登録されたものであることを理由に,同法第46条第1項第1号に基づく商標登録の無効の審判を請求するとともに,本件商標は,商標登録がされた後において,同法第4条第1項第16号に掲げる商標に該当するものとなっていることを理由に,同法第46条第1項第5号に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
1 訴えの利益について
本件審判の請求について,被請求人から「本件審判の請求は,請求人適格に欠けているものである」旨の主張がなされたので,当合議体は,職権によりその利害関係を調査したが,請求人の利害関係が明らかでないため,答弁書を請求人に送付すると共に,平成25年1月28日付審理事項通知書により,平成25年3月8日の口頭審理期日において請求人の利害関係を明らかにする機会を与えた。
これに対し,請求人は,神奈川大学と共同で,平成25年3月7日に「三相乳化」の文字を含む商標を,第1類「三相乳化を利用した化学品」及び第3類「三相乳化を利用した化粧品・せっけん類」を指定商品として,商標登録を出願した(甲66)。
そして,その商標登録出願に係る商標は,本件商標を含む7件の商標を引用し商標法第4条第1項第11号該当を理由とする平成25年7月3日付けの拒絶理由通知を受けた。
そうすると,請求人は,本件商標の商標権の存否によって,その権利に対する法律的地位に直接の影響を受けることは明らかであるから,本件審判の請求について利害関係を有する者というべきである。
これに対し,被請求人は,「本件審判の請求は『自己の行う仲介業務のため』に行われたものであって,このような請求を維持するために形式的に商標登録出願を行い,利害関係を得ることは商標法の本質に反するものであり,そのように不当に作り出された利害関係を振りかざして,平成16年の登録から約9年にわたり築かれた社会的信用を有する本件商標に対し無効審判を請求することは権利の濫用ともいうべきものである」旨主張する。
しかしながら,「…審判請求の利益の有無について,…請求の時に利益を有しなくても,審決の時までに利益を有するに至つたときは,審判請求を却下することなく,特許権の範囲について審決すべきものと解するのが相当である。」(最高裁昭36(オ)465号)と判示されているとおり,審判請求の利益は,審決時に存在することをもつて足りると解されるところであるから,前記のとおり,請求人が「三相乳化」の文字を含む商標を出願し,拒絶の理由が通知されている以上,請求人は,本件審判の請求をすることについて法律上の利益を有するものと解するのが相当である。
したがって,本件審判の請求は,その請求を不適法なものとして却下することはできない。
2 商標法第4条第1項第16号該当性(商標法第46条第1項第1号)について
請求人は,本件商標が商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである旨主張しているところ,その理由を「『三相乳化』の乳化技術は,本件商標の出願前より学会等で紹介され,『せっけん類,化粧品』等の製造にも利用されているものであるから,本件商標はその指定商品の生産方法が「三相乳化」によるものであることを表示していると認識できるものである。これに対し,本件商標の指定商品中の『せっけん類,化粧品』は,『三相乳化』技術を使用したものに限定されていないから,本件商標が『界面活性剤を使用した二相乳化』の『せっけん類,化粧品等』に使用されればその品質を誤認させる。」とするものである。
ところで,商標法第4条第1項第16号にいう「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは,「指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において,当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すもの」と解される(「知財高裁平成20年(行ケ)第100086号判決」参照)。
そこで,本件商標の商標法第4条第1項第16号該当性について,以下判断する。
(1)事実認定
ア 請求人提出の甲各のうち,まず,商標法第4条第1項第16号該当性の判断時期である本件商標の登録査定(2004年5月14日)前の発行が確認できる甲2,3,10,11,25?33,44,45,54?58,67?69について検討する。
(ア)論文における記載
「熱力学的に可能なリン脂質の三相乳化系」と題する論文(1999年11月1日,田嶋和夫著)(甲2,25))には,「…興味深いことは三相乳化という新しい乳化現象が起こることである。」「三相エマルションは乳化剤が一つのバルク相として独立の性質を示し,エマルション表面で水相-乳化剤相-油相の構造を作り,油滴を安定化していると考えられる。」「本研究により,熱力学的に可能な三相乳化はリン脂質…温度の領域に存在することを示した。」との記載がある。
また,「両親媒性物質が形成する自己組織体に関する研究」と題する論文(2002年,田島和夫著)(甲30,31)には,「…この状態のエマルションに対して,我々は『三相エマルション構造』と呼び,その乳化過程を『三相乳化』と命名した。」との記載がある。
その他,「神奈川大学工学部報告(2000年3月)」(甲26),「オレオサイエンス(2002年)」(甲28?30),「日本油化学年会講演要旨集(2002年9月)」(甲31),「コンバーテック(2004年)」(甲33)に掲載された田嶋和夫氏著作による論文には,「…この現象は三相乳化現象として全く新しい知見であり,乳化に関する分野での工業的応用および界面化学の基礎分野においても興味深い現象であることを本論文で初めて明らかにすることができた。」「…水相?自己組織乳化剤相?油相による三相乳化の可能性について検討することを目的とした。」「HCO-10による乳化系は,非常に安定なエマルションである三相乳化を形成することがわかった。」などとして,文中に「三相乳化」の文字が使用されている。
しかし,その他の日本油化学年会講演要旨集及び日本化学会予稿集等の論文(甲44,45,54?58)においては,「三相エマルション」の文字は確認できるものの「三相乳化」の文字は確認できない。
これらの論文の記載によれば,「三相乳化」は,神奈川大学工学部教授の田嶋和夫氏が関わった研究において発見した「エマルション表面で水相-乳化剤相-油相の構造を作る」といった乳化技術において,その乳化過程を示すものとして,その研究グループが命名し,1999年11月1日の論文において公表したものであること,そして,その論文への掲載以降,日本油化学年会,日本化学会の講演集や油化学ないし油質に関連する化学分野の専門誌に掲載された複数の論文に,その「三相乳化」の文字が使用されていることが認められる。
そうすると,「三相乳化」は,油化学ないし油質に関連する化学分野においては,前記の内容を示す化学技術用語の一であることが認められる。
しかしながら,これらの論文等は,いずれも前記の乳化技術の紹介やリン脂質やひまし油等の乳化状態を起こす物質の紹介等の研究結果を報告するものであり,当該乳化技術が「せっけん類,化粧品」を含め,市場で流通する商品に実用化されている事実を示すものはなく,当然に,「三相乳化」の文字が「せっけん類,化粧品」の品質等を表示するものとして使用されている事実を示すものはない。
(イ)特許公報における記載
請求人作成の特許公開公報の特許明細書の抜粋リスト(甲67)及び特許公報によれば(甲67?69),以下のとおり,「水・油・水」の三相の乳化剤が「三相乳化物」「三相乳化剤方法」と紹介されている。
そして,昭和61(1986)年1月31日出願の発明の名称を「マイクロカプセルの製造方法」とする公開公報の特許明細書に「水溶性薬物の除放性製剤を開発するため,鋭意研究したところ,三相乳化物を形成し水中乾燥法によってマイクロカプセル化する過程において,W/O/W型三相乳化物をつくる際…(昭和61(1986)年1月31日出願の「マイクロカプセルの製造方法」)との記載があり,また,平成2(1990)年7月6日の「水性ペプチドの除放性製剤」を発明の名称とする公開公報の特許明細書に「本発明の製剤は三相乳化剤方法を用いて製造することができる。」などとして,「水・油・水」の三相の乳化剤を「三相乳化物」「三相乳化剤方法」との記載がある。
これらの記載から,「三相乳化」は,前記の油化学ないし油質に関連する化学分野において,田嶋和夫氏とその研究グループが使用する前から,薬剤の分野において,「水・油・水」の三相に乳化した状態を示す技術用語として使用されていたことが認められる。
しかしながら,その使用は,薬剤の分野に限られるものであって,これらの使用をもって,「三相乳化」が「せっけん類,化粧品」の特定の品質を表示するものであることを立証するものということはできない。
イ 前記アの(ア)(イ)のほか,請求人提出のいずれの証拠をみても,その記載の中に「三相乳化」の文字が登録査定前に「せっけん類,化粧品」の品質等を表示するものとして使用されていた事実を示すものはない。
(2)商標法第4条第1項第16号該当性について
本件商標は,別掲のとおり,黒色で不揃いな大きさの略四角形を4つ横に並べ,この略四角形の内部にそれぞれ「三」「相」「乳」「化」と手書き風の白抜き文字を1字ずつ記してなるものである。
そして,前記(1)のとおり,「三相乳化」の文字が油化学ないし油質に関連する化学分野や薬剤の分野において,化学技術用語として使用されていることは認められるものの,これが「せっけん類,化粧品」について,その商品の品質等を表示するものとして使用されている事実はない。
また,「せっけん類,化粧品」の需要者は,一般消費者であるところ,これらの需要者が,油化学ないし油質に関連する化学分野又は薬剤の分野における「三相乳化」の技術的意味を理解しているということはできない。
以上の状況からすれば,「三相乳化」は,これを「せっけん類,化粧品」に使用しても,これに接する需要者が,その商品の製造方法や特定の品質を表すものとして認識するものとはいえず,前記判決にいう当該商標が表示していると通常理解される品質がいかなるものなのかを特定することはできないものというのが相当である。
そうである以上,「三相乳化」は,商品(「せっけん類,化粧品」)の品質の誤認を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第16号に違反してされたものということはできない。
(3)請求人の主張について
請求人は,「『せっけん類,化粧品等』に『三相乳化』の製造技術が利用され(甲5,6)。また,2004年5月発行の専門業界誌に掲載された論文に『三相乳化の特徴及び応用』として,『化粧品,食品,医薬品,農薬,燃料エマルション等』が挙げられている(甲33)。」などと主張する。
しかしながら,甲5の「伯東株式会社 化学事業部」発行の「Characteristic Note」なる文書に,「試作品説明書」「超自然派化粧品シリーズ」として「…これまでとは全く違う乳化システム(三相乳化)を,アルカリゲネス産生多糖類体を利用することで実現した安全性が高い化粧品です。」との記載はあるものの,これは,試作品の説明文書である上に,文書の末尾に(2004/11/22作成)とあるように,本件商標の登録査定日以降のものである。また,甲33の「ナノ粒子による乳化・分散技術-三相乳化を中心として」と題する論文の記載は,「『三相乳化の特徴及び応用』の項に『化粧品,食品,医薬品,農薬,燃料エマルション等』と例示されているだけで,実用化を示す記載ではない。
よって,本件商標の登録査定時おいて,「せっけん類,化粧品」に「三相乳化」の製造技術が利用されているとの請求人の主張は採用することができない。
3 登録がなされた後における商標法第4条第1項第16号該当性(商標法第46条第1項第5号)について
請求人は,弁駁書において,「本件商標は,登録がなされた後においても,その商品の品質を誤認させるものと評価でき,商標法第46条第1項第5号の事後的無効理由にも該当する。」旨主張した。
しかしながら,当該主張は,審判請求書に記載がなく,弁駁書において新たに主張されたものである。
そして,新たな主張を追加することは,請求の理由の要旨を変更するものであるから,商標法第56条第1項で準用する特許法第131条の2第1項の規定により認められるものではない。
4 商標法第4条第1項第7号について
請求人は,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして,
ア)『三相乳化』は,本件商標の出願日前より学会等で広く紹介された化学技術用語であり,『せっけん類,化粧品』等の生産方法・品質を意味するものであるから,当該方法の発見,研究に何ら関与しない商標権者がこれを本件商標の指定商品について商標登録することは,当該技術の創作者,研究者及び『三相乳化』の生産方法による『せっけん類,化粧品』等の取引者,利用者の利益を害するものであり,公正な商品取引秩序を害するおそれのあるものである。先例においても,他人が創案して普及した問題解決の方法の名称について,それらの事実を知りながら商標登録を受けることは剽窃的で信義則に反すると判断されている(東京高平成14年(行ケ)第94号)。
イ)『三相乳化』は,神奈川大学の産官学連携プロジェクトの対象技術として,広報され活用されている技術であるから,公益性のある産官学共同プロジェクトともなる『三相乳化』法の普及の妨げとなる。
旨主張する。
(1)ところで,商標登録を受けることができない商標として,商標法第4条第1項第7号において規定されているのは,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」である。そして,この規定に該当する商標としては,商標の構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合などがこれに当たるものと解されている(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号判決)。
(2)そこで,商標法第4条第1項第7号該当性の有無について判断するに,まず,本件商標が同号に該当するとして請求人が主張する理由自体の当否について判断する。
ア 前記のとおり,本件商標は,その登録査定時において,「せっけん類,化粧品」の製造方法や特定の品質を表すものとして認識されるものとはいえない。また,「三相乳化」が油化学ないし油質に関連する化学分野や薬剤の分野において,化学技術用語として使用されていたことは認められるものの,本件商標の登録による使用の制限が油化学ないし油質に関連する化学分野や薬剤の分野における化学技術用語の使用に及ぶものとはいえない。
したがって,商標権者が本件商標をその指定商品について商標登録することが「せっけん類,化粧品」の取引者,需要者及び油化学ないし油質に関連する化学分野や薬剤の分野の研究者などの利益を害し,公正な商品取引秩序を害するおそれがあるとはいうことはできない。
また,本件が剽窃的な出願に当たる旨の主張について,請求人は,何ら具体的な事実の立証をしていない。そして,商標権者は,田嶋和夫氏とその研究グループが論文において公表する前の平成10年2月26日に「三相乳化」の文字からなる商標を出願していることからしても(甲4),この点についての請求人の主張は的を得たものということはできない。
イ 請求人は,本件商標の登録が公益性のある神奈川大学の産官学連携プロジェクトの妨げとなる旨主張するが,神奈川大学が産学官連携を担当する部署として,本件商標の登録査定前である2004年4月に産学官連携推進室を発足したことは認められるものの(甲23),本件商標の登録査定前において,神奈川大学の産官学連携プロジェクトが発足し,その活動が行われていた事実を確認することができないし,当然に,当該プロジェクトが三相乳化なる技術を利用して「せっけん類,化粧品」の製造をしていたなどとする具体的な事実は認められない。
したがって,本件商標の登録査定時において,請求人のいう神奈川大学の産官学連携プロジェクトの妨げとなる事情は存しなかったとみるのが相当である。
ウ 以上のとおり,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして請求人が主張する理由は,いずれも妥当ではなく採用することはできない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
以上のとおり,商標法第4条第1項第7号適用の理由として,請求人が主張するア)及びイ)は,いずれもその主張自体理由のないものといわなければならない。
そして,本件商標は,前記したとおり,黒色で不揃いな大きさの略四角形を4つ横に並べ,この略四角形の内部にそれぞれ「三」「相」「乳」「化」と手書き風の白抜き文字を1字ずつ記してなるものであるから,その構成態様からみて,きょう激,卑わいな商標,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような商標に当たらないことは明らかなところである。
また,本件商標をその指定商品について使用することが社会公共の利益や一般的道徳観念に反することとなるものとは認められず,他の法律によってその使用等が禁止されている商標,特定の国若しくはその国民を侮辱するような商標又は一般に国際信義に反する商標に当たるものとも認められない。 さらに,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないようなことを認めるに足る証拠もないから,本件商標は,公正な取引秩序を乱し,ひいては公序良俗を害することとなるような商標にも該当しないものといわなければならない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものということはできない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第16号及び同第7号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項により,無効にすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)





審理終結日 2013-10-30 
結審通知日 2013-11-06 
審決日 2013-11-27 
出願番号 商願2003-83100(T2003-83100) 
審決分類 T 1 11・ 6- Y (Y03)
T 1 11・ 272- Y (Y03)
T 1 11・ 22- Y (Y03)
最終処分 不成立 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 前山 るり子
渡邉 健司
登録日 2004-06-04 
登録番号 商標登録第4776699号(T4776699) 
商標の称呼 サンソーニューカ 
代理人 東谷 幸浩 
代理人 高野 芳徳 
代理人 川崎 隆夫 
代理人 今井 貴子 
代理人 江成 文恵 
代理人 青山 なつ子 
代理人 瀧野 文雄 
代理人 瀧野 秀雄 
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