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審決分類 審判 全部無効 商品(役務)の類否 無効としない X29
審判 全部無効 称呼類似 無効としない X29
審判 全部無効 観念類似 無効としない X29
審判 全部無効 外観類似 無効としない X29
管理番号 1281533 
審判番号 無効2012-890101 
総通号数 168 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-12-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-11-20 
確定日 2013-10-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第5480453号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標登録の無効の審判
1 本件商標
本件商標登録の無効の審判に係る、登録第5480453号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成23年8月2日に登録出願、第29類「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」を指定商品として、同24年2月29日に登録査定、同年3月23日に設定登録されたものである。
2 本件商標登録の無効の審判
本件商標登録の無効の審判は、本件商標が商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるとして、同法第46条第1項により本件商標の登録を無効にすることを請求するものであり、その予告登録が平成24年12月13日になされているものである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、本件商標の登録の無効の理由として引用する登録第2448697号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲(2)に示すとおり、「ギョロッケ」の文字を上段に、「魚ロッケ」の文字を下段に、それぞれ横書きしてなり、平成1年11月13日に登録出願、第32類(昭和35年3月8日に昭和35年政令第19号をもって改正、同年4月1日より施行された商標法施行令第1条に基づく商品の区分。)「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品」を指定商品として、同4年3月19日に登録査定、同年8月31日に設定登録され、その後、同14年3月12日に商標権の存続期間の更新登録がされ、また、同年5月1日に、第29類「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」、第30類「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」及び第31類「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,野菜,糖料作物,果実,コプラ,麦芽」として、商標権の指定商品の書換の登録がなされ、さらに、同24年5月15日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1 本件商標と引用商標との類否
(1)両商標の類否
ア 本件商標構成中の「青い丸の図形」について
(ア)青い丸の図形内に書かれた文字のうち、「快席」の文字は、広辞苑第6版(甲第5号証)に掲載されていないことから造語と考えられる。
そして、同円内中央に書かれた「吉前」の文字に比して極端に小さく書き表されていることから、付記的な表示として理解される。
(イ)青い丸の図形内に書かれた文字のうち、「吉前」及び「よしざき」の両文字は、愛知県豊橋市吉前町を示していると思われる。
「吉前」の文字は青い丸の図形の中央に大きく書かれているのに対し、「よしざき」の文字は「吉前」の文字に比して極端に小さく書かれていることから、両文字は一見して視覚的に分離して看取されるといえ、「よしざき」の文字は付記的な表示として理解される。
そうすると、青い丸の図形においては、「吉前」の文字が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るといえる。
しかし、「吉前」の文字は常用漢字の組み合わせであるが、「前」の文字を「ザキ」と読むことは一般的ではなく、「ザキ」の読み方も含めると、「吉前」の文字からは「ヨシマエ」、「キチマエ」、「ヨシゼン」、「キチゼン」、「ヨシザキ」及び「キチザキ」の称呼を生ずることとなり、「よしざき」の文字で付記的に読み方を表記していても、「ヨシザキ」の称呼が生じるとは言い難いし、他方、豊橋市の地名を示しているに過ぎないので、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。
よって、本件商標構成中の青い丸の図形は、特定の観念、称呼を生じない部分といえる。
イ 本件商標構成中の「赤鬼の子供の絵の図形」について
本件商標構成中の赤鬼の子供の絵の図形は、鬼を想起するものの、特定の観念、称呼を生じない部分といえる(甲第6号証)。
また、平成23年8月11日のブログの写真(甲第7号証)によれば、青い丸の図形とその中の文字が青、白反転し、「よしざき」の文字の位置も変わっており、赤鬼の子供の絵の図形も1体ではなく3体であることは、本件商標権者もこれらを重視していないことを示している。
ウ 本件商標構成中の「きょロッケ」の文字について
「きょロッケ」の文字は、特定の意味合いの生じることのない造語として淀みなく一連に称呼されることから、「キョロッケ」の称呼を生じるといえる。
エ 本件商標構成中の「角に丸みを帯びた茶色の三角形を擬人化して描いた図形」について
角に丸みを帯びた茶色の三角形を擬人化して描いた図形は、きのこ又はおにぎりのように三角形の形状をしたものを擬人化したように看取され、多様な見方ができるため、特定の観念、称呼の生じない部分といえる。
また、前出のブログの写真によれば、単なる角に丸みを帯びた茶色の三角形の絵であることから、本件商標権者もこれを重視していないことを示している。
オ 以上をまとめると、本件商標は、構成全体としては特定の観念を生じるとは認められず、文字部分と図形部分を常に一体のものとして認識、把握しなければならない格別の理由も見当たらないので、一見して視覚的に分離して看取されるというのが相当である。
そうすると、本件商標は、その構成中の中央部に極めて明瞭に書かれた「きょロッケ」の文字部分が、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし、簡易迅速を尊ぶ取引の実際に用いられるものというのが相当である。
カ よって、本件商標は、「きょロッケ」の文字部分に相応して「キョロッケ」の称呼を生じるものであり、一種の造語として認識され、特定の観念を生じないものというのが相当である。
キ 一方、引用商標は、「ギョロッケ」の片仮名文字及び「魚ロッケ」の漢字及び片仮名文字を上下二段に横書きしてなるところ、「魚」の漢字より魚を想起させるが、造語として認識されるといえる。
よって、引用商標は、特定の観念を生じず、「ギョロッケ」の称呼を生じるものである。
ク 本件商標と引用商標の比較
本件商標から生ずる「キョロッケ」の称呼と、引用商標から生ずる「ギョロッケ」の称呼を比較すると、両称呼は共に促音を伴った同数音からなり、第2音以下の「ロッケ」の音及び配列を同じくし、第1音における「キョ」と「ギョ」の音の差異に過ぎないものである。
その差異音とて、「キョ」は舌の後部を口蓋の奥の部分(軟口蓋)に押し当て一旦閉鎖した上で破裂させることで発する無声(声帯振動なし)軟口蓋破裂音であるのに対し、「ギョ」は有声(声帯振動あり)軟口蓋破裂音であり、その調音方法、発声方法が近似する清音と濁音の相違に過ぎないものである(甲第8号証)。
また、後半の「ロッ」の音にアクセントがかかり、第1音にはアクセントがかからないのが自然であるから、「キョ」と「ギョ」の音の差異は、たとえ頭語に位置するものであるとしても、両称呼を一連に称呼するときは音感が近似し、聴き誤るおそれが十分あるものと言わなければならない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観は相違するが、称呼において類似している。
(2)指定商品について
本件商標の指定商品第29類「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」は、引用商標の指定商品のうち第29類「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」と同一又は類似の商品である。
(3)結論
本件商標と引用商標とは、外観が相違するとしても、称呼の類似する商標であり、その指定商品も同一又は類似する商品である。
2 むすび
したがって、本件商標登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 指定商品の類否について
本件商標の指定商品「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」は、請求人が列挙した上記商品のいずれとも非類似である。
本件商標の指定商品「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」は、請求人提出の甲第1号証に記載される通り、類似群コード「32F06」に分類されるものである。
一方、請求人が主張する各商品のいずれも類似群コード「32F06」に分類されない。このことを示す証拠として、乙第1号証を提出する。
2 商標の類否について
本件商標と引用商標は類似しない。
(1)本件商標の構成
本件商標は、「図形+図形+文字+図形」が結合されたものであり、文字のみからなるものではない。
甲第1号証の【称呼(参考情報)】の欄に「キョロッケ」の称呼も記載されているが、「カイセキヨシザキ」「カイセキヨシマエ」「カイセキキチマエ」「カイセキ」「ヨシザキ」「ヨシマエ」「キチマエ」と、「快席 吉前 よしざき」の三段書きの文字付き図形の部分から多くの称呼が抽出されていることが分かる。
このことは、本件商標が「きょロッケ」の文字のみからなるものではなく、「『快席 吉前 よしざき』の三段書きの文字付き図形」、「『子鬼』の図形」、「『きょロッケ』の文字」及び「『おにぎり形の人形』の図形」を横方向に並べた一連一体のものとして把握すべきことによるといえる。
(2)引用商標の構成
引用商標は、「ギョロッケ」「魚ロッケ」と同書同大一連横書きの文字列を二段併記の態様とした文字のみによって構成される。
(3)外観の対比
本件商標と引用商標を比較したとき、外観は著しく異なり、外観非類似であることは明らかといえる。
(4)観念の対比
本件商標は、「店名」「地名」「子鬼」「子供」といった観念を奏し得るとしても「きょロッケ」は全くの造語であり、引用商標とは観念においても非類似である。
なお、引用商標における「魚ロッケ」は、「佐賀県・大分県・山口県内の各地で広く普及」していることがウィキペディアに紹介されると共に(乙第2号証)、唐津観光協会が「”唐津の元祖B級グルメ”?魚(ぎょ)ロッケ?」と紹介し(乙第3号証)、唐津蒲鉾協業組合へのクチコミとして「唐津のローカルフード”魚ロッケ”でご当地バーガー」が紹介され(乙第4号証)、イトーヨーカドー アオリア橋本店の「佐賀フェア」のチラシには「・・・魚ロッケといえば、九州ではもちろん「馬郡のミンチ天」!・・・」と紹介され(乙第5号証)、47NEWSでは「金賞は佐賀県の『魚(ぎょ)ロッケ』アンテナショップフェス」と紹介されるなど(乙第6号証)、公的な団体等においても「魚ロッケ」は特定の総菜商品の一般的な名称として普及し、そのことは関東地区のショッピングセンターやアンテナショップでも広く使われていることが分かる。
また、佐賀県唐津市の「ふじ川蒲鉾本店」は「魚ロッケの紹介」というページを開設し(乙第7号証)、大分県津久見市の「太田商店」も「ぎょろっけとは?」というページを開設し(乙第8号証)、さらには、「魚ロッケ レシピ」を紹介するページには、「野菜たっぷり♪噂のギョロッケ♪(乙第9号証)」、「魚ロッケ(乙第10号証)」、「お弁当に!『エビ魚ロッケのお好み風』♪♪(乙第11号証)」、「魚ロッケdeホットサンドトースト(乙第12号証)」、「全国の郷土料理>魚ろっけ郷土料理[山口県](乙第13号証)」など多数のウェブページが存在している。
この様に、「魚ロッケ」は、「佐賀県唐津市で藤川蒲鉾本店が昭和初年代に商品化し、いつしか『魚ロッケ』と呼ばれるようになった」商品であり、「魚肉のすり身(ミンチ)にタマネギ、ニンジンなどの野菜をみじん切りにしたものを混ぜ、カツレツの手法を応用して、パン粉を付けて揚げたもので、中身が魚で寸法や外見がコロッケに類似しているところからその名が付けられた」とのウィキペディアの紹介内容は、取引者、需用者、さらには業界団体等の公的な立場の者においても、九州地区だけでなく全国的にも、ある種の総菜の一般的な普通名称とし広く認識されていることが分かる。
一方、本件商標の文字部分「きょロッケ」は、造語であって特定の商品を表す用語ではない。
また、その余の図形は、「子鬼」「子供」などの観念を奏し得るとしても、何らかの特定の一つの観念を奏するものではない。
なお、「子鬼」の表情や「子供」の表情から「剽軽」「きょロきょロしている」といった観念を抽出できないことはない。
いずれにしても、本件商標は、商標だけを見て、「ギョロッケ/魚ロッケ」が与える観念を直ちに意識させるものではない。
よって、本件商標と引用商標は、観念においても非類似といえる。
(5)称呼の対比
引用商標からは「ギョロッケ」の称呼が生じるが、乙第2号証ないし乙第13号証に示す通り、当該称呼は、本件商標の指定商品である「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」について用いるときは「普通名称」というべきである。
商標登録における無効理由を論ずる場合、指定商品を考慮すべきことは審査実務その他において確立されており、称呼の類否は、指定商品との関係において識別力を有する部分を対比すべき問題である。
そうして見ると、指定商品を「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」とする本件商標との類否判断をするに当たっては、二段書きから「ギョロッケギョロッケ」と繰り返す称呼をもって称呼の類否を比較するならばまだしも、普通名称と言うべき「ギョロッケ」の称呼だけを切り出して、本件商標との称呼の類否を論ずることは、判断手法として不適切というべきである。
よって、本件商標と引用商標とは、指定商品を考慮し、称呼も非類似と結論すべきである。
なお、「キンカク」と「ギンカク」、「キンメダル」と「ギンメダル」、「キョロキョロ」と「ギョロギョロ」など、「キ」と「ギ」の清音と濁音の相違は、意味や印象が異なるものとして明確に区別して認識されることが多いというべきである。
(6)まとめ
以上の通り、請求人の主張は、いずれも失当である。
3 その他
請求人は、甲第7号証に掲載された写真の中の看板の表記が本件商標と異なる点を有すること等も主張しているが、甲第7号証は、本件商標の出願日(平成24(2012)年4月24日よりも前の2011年8月11日の「ダイニング佐久ブログ」である。
したがって、写真中の看板の表記と本件商標の構成の相違点について縷々主張することには、何ら意味がないというべきである。
なお、甲第7号証は、本件商標は、出願前から形成しようとしていたイメージを活かしつつ、より洗練された商標にして商標登録出願を行ったものであることを示す資料としての意味はある。
また、「快席」は造語である等を広辞苑を引用して主張しているが、造語であるからこそ特徴部分として把握され、その結果、甲第1号証の【称呼(参考情報)】の欄に「カイセキヨシザキ」「カイセキヨシマエ」「カイセキキチマエ」「カイセキ」と、「快席」に関する称呼が多数抽出されたものともいえる。
いずれにしても本件商標は、商標登録要件を判断する上で引用商標とは非類似であって、商標法第4条第1項第11号に違反することなく商標登録されたものであることが明らかである。
4 むすび
よって、請求人が縷々主張する無効理由はいずれも失当であるから、本件審判請求は成り立たない。

第5 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであると主張しているので、以下、本件商標と引用商標の類否について検討する。
1 本件商標について
(1)外観
本件商標の構成は、別掲(1)に示すとおり、青色の略円形図形内に白抜きで、「快席」の文字を小さく、その下部に「吉前」の文字を大きく書し、その下部に小さく「よしざき」の文字を書してなり、その右側に鬼の子供と思しき図形を描き、その右に橙色で大きく「きょロッケ」の文字を配し、さらにその右側には略おにぎり形状の頭部を有する擬人化した人形の図形を描いてなるものである。
(2)称呼
本件商標を構成する各図形及び文字部分は視覚上自ずと分離して看取し得るものであり、かつ、意味上においてそれぞれが、主従・軽重の差もなく、また、本件商標を常に一体のものとして把握しなければならないような特段の事由も見いだせない。
かかる構成からなる本件商標の構成中、比較的大きく表された「きょロッケ」の文字部分は、看者の印象に強く残る部分というべきであり、この部分が独立して自他商品の識別機能を発揮することもあるというべきである。
してみれば、本件商標は、構成中の「きょロッケ」の文字部分に相応して、「キョロッケ」の称呼をもって取引に資されることも決して少なくないと判断するのが相当である。
(3)観念
本件商標は、全体として特定の観念を生じるとはいえず、また、構成中の「きょロッケ」の文字は造語と判断されるから、ここからも特定の観念は生じないというべきである。
2 引用商標について
引用商標の構成は、別掲(2)に示すとおり、「ギョロッケ」の文字を上段に、「魚ロッケ」の文字を下段に、それぞれ横書きしてなるものである。
したがって、引用商標は、この外観をもって取引に資され、「ギョロッケ」の称呼が生じるとみるのが相当である。
また、この語は、次項「3」で述べるとおり、特定の意味合いを有する語として、取引者、需要者一般に広く認識されているとは認められないというべきであって、商標の類否判断を行う上で、特定の観念は生じないものと判断される。
3 「魚ロッケ」、「ギョロッケ」の語に関する被請求人の主張及び取引の実情について
(1)被請求人は、「『魚ロッケ』は、『佐賀県唐津市で藤川蒲鉾本店が昭和初年代に商品化し、いつしか『魚ロッケ』と呼ばれるようになった』商品であり、『魚肉のすり身(ミンチ)にタマネギ、ニンジンなどの野菜をみじん切りにしたものを混ぜ、カツレツの手法を応用して、パン粉を付けて揚げたもので、中身が魚で寸法や外見がコロッケに類似しているところからその名が付けられた』とのウィキペディアの紹介内容は、取引者、需要者、さらには業界団体等の公的な立場の者においても、九州地区だけでなく全国的にも、ある種の総菜の一般的な普通名称とし広く認識されていることが分かる。」と主張し、また、「『ギョロッケ』の称呼は、本件商標の指定商品である『魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物』について用いるときは『普通名称』というべきである。」と主張しているので、その主張及び取引の実情について、以下検討する。
(2)被請求人が提出した各乙号証によれば以下の事実が認められる。
ア 「魚ロッケ」について、「魚ロッケ(ぎょロッケ)またはぎょろっけとは、揚げかまぼこの一種(魚肉練り製品)。佐賀県・大分県・山口県内の各地で散見される。」との記載のもと、「概要」として、「魚肉のすり身(ミンチ)にタマネギ、ニンジンなどの野菜をみじん切りにしたものを混ぜ、カツレツの手法を応用して、パン粉を付けて揚げたもので、中身が魚で寸法や外見がコロッケに類似しているところからその名が付けられた。」とあり、「なお『魚ロッケ』『ギョロッケ』という名称は、山口県萩市の荒川かまぼこ店の登録商標となっている(第2448697号、1992年8月31日登録)。」との記載があることが認められる。
次いで、「佐賀県唐津市の『魚ロッケ』」として、「佐賀県唐津市では藤川蒲鉾本店が昭和初年代に商品化した。当初は『ハイカラ天』や『カレー天』や『パン粉天』等と呼ばれたが、いつしか『魚ロッケ』と呼ばれるようになった。テレビ局の取材を受けた人が“魚ロッケ無くして唐津は語れません”と言ったほど、地元庶民に愛される食べ物である。現在藤川蒲鉾本店では、『カレー風味』と『あっさり塩味』の二種類の味で一日20,000個以上を製造し、県内のみならず全国で販売している。」との記載が、さらに、「大分県津久見市の『ぎょろっけ』」として、「大分県津久見市では『ぎょろっけ』と呼ばれる。ぎょろっけは、魚のすり身に野菜と少量の唐辛子を加え、パン粉をまぶしてコロッケ状に揚げたもので、ピリ辛味である。1940年代に開発されたもので、地元では毎日の食卓に欠かせない惣菜である。"gyorokke.co.jp"のドメインも持つ太田商店では一日8,000個以上を販売している。」との記載があることが認められる(以上、乙第2号証)。
イ 乙第3号証の社団法人唐津観光協会のホームページ、乙第4号証の唐津蒲鉾協業組合のホームページ、乙第5号証の2012年3月のものと思われる「佐賀フェア」のチラシ、乙第6号証の「47news」のインターネット情報、乙第10号証の「cookpad.com」のインターネット情報には、「魚(ギョ)ロッケ」、「魚ロッケ」の語に関して、上記「ア」の「概要」で説明されているものとほぼ同じ内容の商品説明がなされていることが認められる。
このほか、乙第7号証には「魚ロッケの里」として(佐賀県唐津市)、乙第8号証には「ぎょろっけ」として(大分県津久見市)、乙第9号証には「噂のギョロッケ」として(「cookpad.com」のインターネット情報)、乙第11号証には「エビ魚ロッケのお好み風」として(「recipi.rakuten.co.jp」のインターネット情報)、乙第12号証には「魚ロッケdeホットサンドトースト」として(「cookpad.com」のインターネット情報)、乙第13号証には「魚ろっけ」として(「piconet.co.jp」における山口県の郷土料理のインターネット情報)、それぞれ、料理の内容ないしレシピが紹介されていることが認められる。
(3)以上によれば、魚肉のすり身にタマネギ、ニンジンなどの野菜のみじん切りを混ぜて形成し、これにパン粉を付けて揚げたものが、佐賀県唐津市を中心とする地域おいて、「魚ロッケ」と称されていることが認められるところである。
しかしながら、同時に、乙第2号証には、「なお『魚ロッケ』『ギョロッケ』という名称は、山口県萩市の荒川かまぼこ店の登録商標となっている(第2448697号、1992年8月31日登録)。」との記載があることが認められ、また、上記の各乙号証によっては、「魚ロッケ」の語が、佐賀県唐津市を中心とする地域以外の地域において、当該商品の普通名称あるいは一般的な用語として広く使用され認識されていると認定するに充分な取引上の実情があると認めることはできないものである。
また、上記各乙号証には、同様の商品に関連して、「魚ロッケの里」、「ぎょろっけ」、「噂のギョロッケ」、「エビ魚ロッケのお好み風」、「魚ロッケdeホットサンドトースト」、「魚ろっけ」などの使用例があることが認められるが、これらは、「魚ロッケ」とは異なる文字による事例であるから、同語が普通名称であるとの被請求人の主張を裏付ける証拠としては採用することはできない。
(4)してみれば、被請求人の提出した、各乙号証によっては、「『魚ロッケ』は、・・・九州地区だけでなく全国的にも、ある種の総菜の一般的な普通名称とし広く認識されている」、「『ギョロッケ』の称呼は、本件商標の指定商品である『魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物』について用いるときは『普通名称』というべきである。」旨の被請求人の主張は、採用することはできない。
4 類否の検討
(1)商標について
本件商標と引用商標の構成は、それぞれ、前記したものであるところ、両者は、外観上顕著な差異があることから、互いに充分区別し得るものである。
また、本件商標構成中の「きょロッケ」の文字及び引用商標は、ともに特定の観念を生ずることがないものであるから、両者は観念上類似するということはできないものである。
さらに、称呼の類否について検討するに、上記「1」及び「2」で判断したように、本件商標からは、「キョロッケ」の称呼が、引用商標からは、「ギョロッケ」の称呼が生ずるものである。
しかして、両称呼は、後半部の「ロッケ」の音を共通にするものの、前半部において、「キョ」と「ギョ」の音の差異を有するところ、前者は声帯の振動を伴わずに発せられる無声の破裂音であり、後者は声帯の振動を伴って発せられる有声の破裂音であり、ともに明瞭に発音され、かつ、これらの語が称呼上重要な位置を占める語頭部分にあることで比較的強く発音され、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときには、互いに聞き分けることができる音として聴取されるものと判断される。
したがって、両商標から生ずる「キョロッケ」の称呼と「ギョロッケ」の称呼は類似するということはできないものである。
よって、本件商標と引用商標とは、その外観、観念及び称呼のいずれの点においても類似しないというべきである。
(2)指定商品について
本件商標の指定商品は、「魚のすり身と野菜を主材とする揚げ物」であり、引用商標の指定商品中には、第29類「肉製品(例えば、コロッケ),加工水産物(例えば、揚げかまぼこ、さつま揚げ)」、第30類「ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,べんとう,ラビオリ」が含まれているところ、これらの商品は、調理済みの食品や総菜としての用途を有する点で一致しているものである。
してみれば、本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品中の第29類「肉製品(例えば、コロッケ),加工水産物(例えば、揚げかまぼこ、さつま揚げ)」、第30類「ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,べんとう,ラビオリ」とは、同一の商品ということはできないものの、互いに類似する商品であるというべきものである。
(3)類否判断
以上から、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは互いに類似するものの、本件商標と引用商標とが類似するものとはいえないから、両商標をその指定商品に使用しても、互いの商品の出所について誤認、混同を生ずるということはできないものである。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) (本件商標)(色彩は原本を参照)



別掲(2) (引用商標)



審理終結日 2013-03-14 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 商願2011-54776(T2011-54776) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (X29)
T 1 11・ 261- Y (X29)
T 1 11・ 264- Y (X29)
T 1 11・ 263- Y (X29)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安達 輝幸石井 亮 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
谷村 浩幸
登録日 2012-03-23 
登録番号 商標登録第5480453号(T5480453) 
商標の称呼 カイセキヨシザキ、カイセキヨシマエ、カイセキキチマエ、カイセキ、ヨシザキ、ヨシマエ、キチマエ、キョロッケ 
代理人 森 泰比古 
代理人 吉元 徹也 

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