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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2013900096 審決 商標
無効2012890099 審決 商標
異議2013900255 審決 商標
異議2013900259 審決 商標
異議2014900275 審決 商標

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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X32
審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) X32
管理番号 1279025 
異議申立番号 異議2011-900380 
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2013-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2011-10-21 
確定日 2013-09-11 
異議申立件数
事件の表示 登録第5427470号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5427470号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5427470号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成21年12月1日に登録出願され、第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」を指定商品として、平成23年6月27日に登録査定、同年7月22日に設定登録されたものである。

第2 登録異議申立人「サントリーホールディングス株式会社」(以下「申立人A」という。)の登録異議申立ての理由
本件商標は、指定商品との関係において、単にホットレモン飲料ほどの意味合いしか感得させない「ほっとレモン」の文字を、ありふれた標章の域を出ない枠線で囲ったにすぎないものであって、商標全体として観察しても、自他商品識別標識としての機能を果たし得ないものである。
また、取引者のみならず、需要者たる一消費者も、平仮名の「ほっと」を、安心感や休息感等を暗示させる「ほっと」とホット飲料の「ホット(HOT)」をかけて普通に用いている実情があるため、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない商標に該当する。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同第6号に違反して登録されたものである。

第3 登録異議申立人「キリンホールディングス株式会社」(以下「申立人B」という。)の登録異議申立ての理由
本件商標は、極めて簡単かつありふれた輪郭内に、「ほっとレモン」の文字を普通に用いられる方法で表示したにすぎないから、その指定商品に使用しても単に商品の品質(熱いレモン飲料)を表示するにすぎず、自他商品識別標識としての機能を果たし得ない。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し商標登録を受けることができないものである。

第4 本件商標に対する取消理由
当審において、商標権者に対して、平成24年3月27日付けで通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
1 申立人A及び申立人Bの提出に係る証拠及び職権により調査した証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)「ホットレモン」「ほっとレモン」の文字が飲料業界において使用されていること
ア 「The Archive of Softdrinks」と題するウェブページの「ホットレモン」のページに「清涼飲料業界も冬季向けアイテムとして、ホットレモン飲料を販売している。」として、2000年冬季発売までの商品について、カネボウフーズが「ベルミー ほっとレモン」を1994年及び1995年に、「ほっとレモン」を1996年に発売したこと、ダイドードリンコが「ホットれもん」を1991年に、「Hot Lemon/ホットレモン」を1993年に、「ホット レモン&カリン」を1994年に、「イタリアンHOT LEMON/ホットレモン」を1997年に発売したこと、山崎製パンが「ほっとレモン」を1996年及び1999年に発売したこと、宝酒造が「ホットレモン」を1996年に発売したこと、日本たばこ産業が「ハーフタイム ほっとはちみつレモン」を1997年に発売したこと、三国フーズが「アクアマリン ホットレモン」を1997年に発売したこと、ユーシーシー上島珈琲が「ホットレモン」を1999年に発売したことが記載され、上記それぞれの商標(「Belmieほっとレモン」など)が付されている商品(缶飲料)の写真が掲載されている(申立人A提出の甲第5号証の21及び申立人B提出の甲第5号証。なお、以下申立人A及び申立人B提出の証拠については、「A甲第○号証」「B甲第○号証」のように記載する。)。
イ 「もぐナビホーム」と題するウェブページの「大塚食品 ホットレモン 缶290ml」のページに大塚食品の「Hotレモン」が紹介され、当該商品の評価の書き込みが2009年1月24日を投稿日として記載されている(B甲第11号証)。
ウ 1997年7月9日付け日本食糧新聞に「森永製菓(株)(4)温飲料品揃え強化として缶ウォーマーで回転率の高いホットレモン『あったかレモン』を発売。」と記載されている(A甲第5号証の3)。
エ 2001年11月26日付け日本食糧新聞に「ポーラフーズ・・・ビタミンCタブレットの『シーズケース』シリーズに、湯に溶かす粉末飲料(ホットレモン)をラインアップしたもの。」と記載されている(A甲第5号証の7)。
オ 2002年11月11日付け日本食糧新聞に「2002年ネスレジャパングループ歳暮ギフト:新ファミリーギフト」の見出しの下、「『ワールドドリンク ギフトセット』は・・・『ネスティー ミルクティー』『同フルーツティー』『ネスレ ココア』『同ホットレモン』の六種類のセット。」と記載されている(A甲第5号証の8)。
カ 2003年9月30日付け日本食糧新聞に「(株)ポッカコーポレーション・・・レモン果汁が入ったホットレモン飲料『ぽっかぽかレモン』・・・の合計五品を9日から新発売した。」と記載されている(A甲第5号証の10)。
キ 2004年12月1日付け日本食糧新聞に「冬場におけるホットレモン飲料の拡大を目指す」と記載されている(A甲第5号証の11)。
ク 2004年12月22日付け化学工業日報に「武田食品、PET容器入りホットレモン飲料を発売」と見出しとして記載されている(A甲第5号証の12)。
ケ 2008年10月23日付け伊藤園のプレスリリースに「■『ビタミンレモン』ホットペット280gリニューアル」の見出しの下、「秋冬季に好まれるホットレモンです。」と記載されている(A甲第5号証の14)。
コ 2009年8月25日付け毎日新聞に「永谷園は、お湯や水で薄めるタイプのショウガ入りホットレモン飲料『つよいぞ!ジンジャーくん』を、9月14日から関東や関西地区で発売する。」と記載されている(A甲第5号証の15)。
サ 2009年10月28日付け日本食糧新聞に「『ホットレモン』発売(キリンビバレッジ)」の見出しの下、「レモン4.5個分のビタミンCが取れる甘酸っぱいホットレモン飲料。」と記載されている(A甲第5号証の16)。
シ 2010年9月16日付けダイドードリンコのプレスリリースに「ビタミンCやクエン酸を配合することで健康にも配慮したホットレモンに着目。2010年秋冬の新商品として『あったまレモン』を発売します。」と記載されている(A甲第5号証の17)。
ス 2010年11月12日付け日本食糧新聞に「『ホットレモン』発売(日本たばこ産業)」の見出しの下、「飲みやすいホットレモン飲料。・・・パッケージはレモンの色と湯気のモチーフを背景に暖かみのある赤色のロゴを組み合わせ、ホットレモンであることをストレートに表現した。」と記載されている(A甲第5号証の18)(B甲第8号証のウェブページ掲載商品と照応)。
セ 2010年11月15日付け日本食糧新聞に「『キリン ホットレモン』発売(キリンビバレッジ)」の見出しの下、「レモン4.5個分のビタミンCが取れる甘酸っぱいホットレモン飲料。」と記載されている(A甲第5号証の19)。
ソ 2010年12月20日付け日本食糧新聞に「『ポッカ 300 ぽっかぽかレモン』発売(ポッカコーポレーション)」との見出しの下「◆商品特徴=嗜好飲料。シリーズ新アイテム。・・・レモンとはちみつで甘酸っぱく仕上げ、ビタミンCをたっぷり入れたホットレモン。」と記載されている(A甲第5号証の20)。
(2)「ほっと」の文字が飲料業界及び飲食店業界で「温かいもの(ホット)」を意味する語として使用されていること
ア サントリーのウェブページに「ほっと(HOT)ドリンク」と記載されている(http://www.suntory.co.jp/softdrink/hot/index.html)。
イ サークルKサンクスのウェブページに「今だけお得!ほっとドリンク」として、飲料が紹介されている(http://www.circleksunkus.jp/cs/sale/hot-in/)。
ウ マルカイフーズ株式会社のウェブページにお湯をくわえて作る粉末飲料について「ほっとドリンクゆず」と記載されている(http://www.marukaifoods.co.jp/funmatsu_05hotyuzu.htm)。
エ 「料理作り-自宅で作れる料理」と題するウェブページに「れもん&はちみつのほっとドリンク★」の見出しの下、レモンとはちみつ入りの温かい飲みもののレシピが紹介されている(http://www.ryouri.hk.vg/plus/view.php?aid=80806)。
オ 「蔵 オビハチ 『灯蔵』」のウェブページのメニューに「ほっとジュース」として「ほっとゆずドリンク」「ほっと梅ドリンク」と記載されている(http://www.hotpepper.jp/strJ000237821/drink/)。
カ 「ピンベリーカフェ」のウェブページに「今、お出ししている冬限定ほっとドリンクの紹介です。」として、「すだちほっと」等と記載されている(http://pinberry.exblog.jp/15331588/)。
キ 「和歌山の喫茶店 小手穂」のウェブページに飲みもののメニューとして「ほっとレモン」「ほっとオレンジ」と記載されている(http://otebo.com/menue.html)。
ク 「海鮮料理 みたらい脇坂屋」のウェブページに飲みもののメニューとして「ほっとこーひー」「ほっとはちみつれもん」が「あいすこーひー」などと共に記載されている(http://www.wakisakaya.com/ryouri.php)。
ケ 「おやつの時間 楽や」のウェブページに飲みもののメニューとして「ほっとこーひー」が「あいすこーひー」などと共に記載されている(http://a-himeji.com/shops/31030/menus/7)。

2 商標法第3条第1項第3号の該当性について
本件商標は、別掲のとおり「ほっと」と「レモン」の平仮名と片仮名とを上下二段に横書きし、これを上辺中央に弓形の膨らみと4隅を丸くした四角形状(以下「上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形」という。)の輪郭線で囲んだ構成からなり、これら文字と輪郭線とを同じ赤系色で色彩したものである。
そして、「ほっと」は、「精神的な緊張が解けて、安心したり心が休まったりするさま」(広辞苑第6版)を意味する語であり、「レモン」は、果物の一種であって飲料の原材料として用いられるものである。
他方、「ホット(hot)」は「熱いさま」(同)を意味する語であり、前記1(1)の事実が示すとおり、飲料業界では、「温かいレモン飲料」は「ホットレモン」と一般に称されているものであり、また、前記1(2)の事実が示すとおり、飲料業界や飲食店業界では、上記「ホット」の語や「アイス」の語などを平仮名で「ほっと」「あいす」のように表すことが普通に行われ、「ホットレモン」についても「ほっとレモン」「ほっとれもん」と表している場合も認められる。
そうとすると、本件商標中の「ほっとレモン」の文字部分は、上記飲料業界等の取引の実情からすると、「レモンを原材料とする温かい(ホット)飲料」を理解、認識させるものというべきである。
そして、本件商標の上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形の輪郭線内に二段書きした構成や「ほっと」及び「レモン」の両文字の字形、及び全体の彩色が格別な態様というのは困難であって、商品取引上において普通に使用される構成、態様からなるものと判断できる。
してみれば、本件商標をその指定商品に使用するときは、自然に「レモンを原材料とするホット飲料」程の商品の原材料、品質を端的に表したものと把握し理解するにすぎないというのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。

第5 商標権者の意見
1 本件商標の本来的識別力
(1)本件商標の構成
本件商標の構成中「ほっと」及び「レモン」は、上下二段に表されているが、各文字が同じ独特の丸みを帯びたやわらかい印象を与える同一の書体で、かつ、同じ太さ及び同じ大きさで書かれている。また、これらの文字の外側に配されている外枠の上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形も同様にやわらかい感じを与える形状で、かつ文字部分と同じ色彩で書されている。しかも、当該文字部分は上記枠形状の中に密接して併記され、枠の図形の輪郭線と文字との間にはとくに広い余白がないことから、枠の図形と文字が一体的に全体としてバランスよくひとまとまりにデザインされ、視覚上何ら違和感なく全体として一体の商標として認識されるものである。したがって、本件商標を、「格別な態様ではなく、商品取引上普通に使用される構成、態様からなる」ものということは不合理である。
また、本件商標の文字部分は、「ほっと」という日本語と英語の「LEMON」の片仮名書きの「レモン」を組み合わせた、掛け合わせによる造語であって、特定かつ具体の意味を有するものではない。また、平仮名書きの日本語である「ほっと」の文字は「精神的な緊張が解けて、安心したり心が休まったりするさま」を意味することから(乙17)、「ほっとレモン」は、指定商品との関係において「人をほっとさせるレモン飲料、人がほっとしたときに飲むレモン飲料、人がほっとしたいときに飲むレモン飲料」の如き観念・イメージを、間接的に需要者に与えるものである。
したがって、かかる日本語の平仮名書きの「ほっと」の語感を強調しつつ、片仮名書きの「レモン」と二段書きにした「ほっとレモン」が、「ホットレモン(温かいレモン飲料)」の内容を表示するものとして一般化しているとは到底いえず、商品の一般的な品質等表示と認定されることは、不合理であるといわざるをえない。
(2)本件商標の構成(「ほっとレモン」を赤色の二段横書きとし、上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形の同色の枠で囲んだ構成)の独創性及び識別力
本件商標の構成中「ほっと」の文字が、英単語「HOT(ホット)」と音を共通にすることは、商標権者も否定するものではない。しかしそうであるからといって、上記平仮名及び片仮名の二段横書きの「ほっとレモン」が、「ホットレモン(温かいレモン飲料)」を記述的又は説明的に表すものとして、商標法第3条第1項第3号にいう「普通に用いられる方法で表示する標章」に該当するものとはいえない。
すなわち、英単語を欧文字でなく、日本語で表す場合には、その音読みを片仮名で表示するのが一般かつ常識の用法であり、飲料品を購入する需要者が同様の認識を有していることは疑いない。したがって、「HOT LEMON」を、「普通に用いられる方法」で表示する場合とは、当該欧文字又は片仮名「ホットレモン」で表記する場合に限られるというべきである。一方、「ほっとレモン」が飲料業界において「温かいレモン飲料」を表す一般の用法として確立し、記述的・説明的に広く使用されている事実は存在しないというべきであるから、「ほっとレモン」、とりわけ本件商標の構成(赤色の二段書きとし、同色の枠で囲んだ構成)に係る標章が、商標法第3条第1項第3号にいう「普通に用いられる方法で表示する標章」に該当しないことは明らかである。
なお、「HOT(ホット)」と「ほっと」が、同音であることから、本件商標から「温かいレモン飲料」が想起されることがあったとしても、それは単に、「ほっとレモン」から間接的に連想される作用にすぎない。つまり、平仮名「ほっと」は歴とした日本語であり、「ほっとレモン」に接する場合、日本人であれば、まずその「ほっと」を日本語としての語感で捉え、その意味から、本件商標を「人をほっとさせるレモン飲料、人がほっとしたときに飲むレモン果汁入り飲料、人がほっとしたいときに飲むレモン果汁入り飲料」の如きイメージで第一義的に捉えるのが自然であり、その後、指定商品との関係で副次的に「ホットレモン」を連想するにすぎないというべきである。すなわち、本件商標においては、平仮名「ほっと」の部分の日本語としての上記語感を強調するために、「ほっとレモン」の文字を横一連に表示するのではなく、あえて「ほっと」と「レモン」とを二段書きにしており、その点に、商標権者が意図するブランドイメージを表現する工夫が凝らされているものである。
「ほっとレモン」は、「温かいレモン飲料」を間接的・副次的に暗示することがあるにせよ、いわゆる飲料名としての「ホットレモン」とは別異の表現といわなければならない。
(3)本件商標に対する商標権者の保護努力
ア 披請求人の「ほっとレモン」の使用の経緯
「ほっとレモン」は、前記のとおり、商標権者が、「ほっと」というやわらかな、また、安心した心理状況をあらわす日本語を、「ホットレモン」に掛けて創作・採択したもので、1992年に発売されて以降、本件商標の登録査定がなされた2011年までの20年の長期間にわたり継続して製造・販売されている商標権者のヒット商品名である。
その間に使用されてきた「ほっとレモン」の容器及び商標の構成の変遷は、乙第1号証の別紙2に記載のとおりである。
なお、商標権者は、1992年から2000年までは、レモン果汁入り飲料を「ほっとレモン」の標章で缶入りの商品として販売していたが、1992年から1995年までの4年間のみは、緑色の文字で「ほっとレモン」と一行横書きで表示していた。しかし、1997年には早くも赤色の文字で「ほっと」と「レモン」を二段書きとし、同色の枠で囲む構成が採用されるに至った(ただし、2000年のみは、一部商品に例外的に「ほっと」と「レモン」を赤色文字の縦書きで二行書きとし、同色の枠で囲っていた)。このように、1992年から「ほっとレモン」という表示は使用されていたが、本件商標に関しては、ペットボトルの容器が自動販売機及びコンビニ等の店頭での加熱器により販売が可能となった後の2003年に、本件商標の字体と色彩が同一のものを同色の上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形で囲った構成の標章を採用し、それ以来本件商標の登録査定時に至るまで、長期にわたり商標権者のペットボトルによるレモン果汁入り飲料に本件商標を継続的に使用してきたものである。
また、2004年以降は希釈用(いわゆるコンク)のレモン果汁入り飲料を紙パックで販売しているが、このコンクタイプの容器にも同一の標章が表示されてきた(乙1、別紙4)。
これら商品の販売の事実及び容器と標章の推移については、商標権者の主要製品パンフレットの関連頁でより明確に確認できる(乙2、本件商標については15ないし32)。加えて、商標権者は、小売店等の販売店でのトップボード、販売什器、POP等にも必ず上記標章を表示して多数の販売店に供給してきている(乙1、別紙5)。
なおその後、商標権者は、「ほっとレモン」に続き、「ほっとしょうが」「ほっともも」「ほっとゆず」「ほっとかりん」など、「ほっと」の文字と商品の原材料名を組み合わせることによって、「人をほっとさせる○○飲料、人がほっとしたときに飲む○○飲料、人がほっとしたいときに飲む○○飲料」というイメージを持つ商品群を次々と発売し、今日に至るまでに「ほっとシリーズ」というひとつの飲料品ブランドを確立してきた(乙13ないし16、19、20)。
イ 販売数量の経緯
上記の各製品の販売数量は、「ほっとレモン」一行書きの1992年から1996年までは4146万本、本件商標と同様に赤色で二段書きした1997年から2002年までについては1億3254万本、本件商標を使用した2003年から2011年までについては5億8080万本、希釈タイプの紙パックについては2011年までに900万本の巨大な数に達している(乙1、別紙1、別紙3)。
その結果、例えば、第三者(総合企画センター大阪)が市場一般を調査し作成した2010年のコンシューマーレポートによれば、商標権者の「ほっとレモン」は、缶コーヒーの「ジョージア」、「ワンダ」、紅茶の「午後の紅茶」、緑茶の「おーいお茶」等に肩を並べて、ホットドリンクの果汁飲料として最も高い出現率(その冬に消費者が飲んだと回答した比率)を示しており、特に加熱果汁飲料では他を引き離して購買されていることが示されている(乙10)。ちなみに、このレポートの23頁において、商標権者の「ほっとレモン」以外のレモン果汁入り飲料として掲載されているものに、平仮名の「ほっと」と片仮名の「レモン」を組み合わせた「ほっとレモン」という構成の商標ないし表示は使用されていない。また、同頁の説明部分でも「ほっとレモン」(カルピス)という名称を商標権者カルピスの商標として当然のごとく記載している。
ウ 商標権者の販売促進活動及びマスコミによる報道
商標権者の上記商品の極めて多数の販売及び認識度の達成は、商標権者が実施してきた極めて広範な販売促進活動によるものでもある。また、本件商品はマスコミによってもしばしば報道されている。その例を挙げれば、次のとおりである。
(ア)主要製品パンフレットの作成配布(乙2、別紙1、添付1?32)
乙第2号証の別紙1及びその添付資料が示すように、商標権者は毎年自社の主要商品のパンフレットを多数部作成し(発行部数について別紙1参照)、全国の卸業者、小売店等に配布し、商品を紹介している。
そのパンフレットには、1993年以来「ほっとレモン」が掲載され、1997年(ペットボトルは2001年)以降、赤色の文字で二段書きし同色の枠で囲った表示を使用し、2003年以降は本件商標を使用して販売とその促進に供していたものである。
(イ)飲料商品ガイド(乙3)
「飲料商品ガイド」は、サンケイ新聞社系列の企業が毎年発行している各社飲料商品の紹介であり、乙第3号証は、その1995年から2011年の間に発行された各社の飲料のリストであり、商標権者の商品は、常に「ほっと」と「レモン」の二段書きで、かつ同色の外枠で囲んだ商標で使用され、2003年からは本件商標が使用されていることが示されている。
(ウ)新聞雑誌による報道(乙4)
商標権者の「ほっとレモン」の商品は、しばしば、新聞や雑誌で報道されているが、乙第4号証は、2005年以降の一部を提出するものであり、添付の一覧表に示されるように、これだけでも200件に上っている。その媒体は、日本経済新聞・読売新聞等の発行部数の多い日刊紙から、各種産業誌その他の多くの印刷媒体に及んでいる。
(エ)ウェブサイト(乙5)
2009年以降のウェブサイト記事の検索では、乙第5号証の一覧表に記載のとおり、商標権者のイベント等販促活動の記事や口コミの記事が見出される。これらの多くにおいても、商標権者の「ほっとレモン」の商品が示されている。
(オ)ニュースリリース(乙6)
商標権者は、1992年以来、「ほっとレモン」に関するニュースリリースを多数回行っている。それらのニュースリリースには、各年の「ほっとレモン」及び「ほっとシリーズ」の各商品やそのキャンペーン活動について、商品の写真と共に紹介されている。
(カ)会社案内(乙7)
会社案内は、来客、就職希望者、取引先、その他多くの機会に配布され、各回約1万部印刷され配布されるものであるが、商標権者の会社案内には、その時々の主要製品が写真により示されており、当然ながら「ほっとレモン」についても掲載されている。
(キ)交通広告及び屋外広告(乙8)
商標権者は、2006年以降、特に冬季に、東京・大阪・名古屋・福岡等において多くのJR各線、私鉄各線に、ドア横、ステッカー、駅貼り広告を実施してきた。乙第8号証別紙5ないし7は、2009年、2010年、2011年の各年の冬季4ヶ月間に行った「アトレ恵比寿」の壁面における大型の幕広告であり、多くの人の注目を集めたものである。
(ク)プロモーション活動(乙9)
商標権者は、様々なプロモーション活動を行っており、その例として、2009年度?2011年度にかけて、各年2?3日間に亘り、新宿駅前「新宿ステーションスクエア」において無料の自動販売機を特設し、「ほっとレモン」を試供するというプロモーションイベントを行った。また、2010年にはオンラインを使用したイベントを、2011年にはフェイスブックページを開設してのイベントを行い、いずれも極めて多数の消費者に認識されたイベントであり、本件商標の認識度を高めている。
(ケ)「ほっとレモン」の表示の保護
商標権者は、当該確立された「ほっとシリーズ」ブランドに化体した信用を保護するために、また、「ほっとシリーズ」ブランドを強化・発展させるために、例えば、「ほっとゆず」「ほっと紅茶」「ほっと番茶」「ほっと緑茶」(乙13?16)、また「ほっとサプリメント」「ほっとカルピス」(乙19及び20)をすでに登録し、とくに「ほっとシリーズ」の元祖といえる「ほっとレモン」の保護については注意を払い、平仮名「ほっと」と片仮名「レモン」の組合せが、商標権者以外において使用されぬよう市場を監視している。特に、商標権者は、他社が、「ほっと」という平仮名と「レモン」という片仮名を使用したり、赤色の文字で二段書きに表示したり、赤文字に赤枠で表示したりする場合について、商標権者の周知表示との混同を生ずるものとして表示の変更を要請してきた。この結果、現在において、他者が「ほっとレモン」なる商品名でソフトドリンク商品を販売している事実、並びに、当該表示が一般化しているという事実は存しない。一例として、審判官が指摘したダイドードリンコ株式会社も、商標権者との協議の結果、「平成21年12月1日までに、本件商品(ダイドードリンコ株式会社が販売した商品「ほっとレモン」)の製造及び出荷を完了し、同日以降、本件商品の製造及び出荷を行わないこと」、「同社は、今後、レモン果汁を用いたホット飲料について、平仮名書きの『ほっと』と片仮名書きの『レモン』の文字から成る、『ほっとレモン』を商品名として使用しないこと」を確認しており(乙12及び18)、少なくとも今日まで「ほっとレモン」という造語及び本件商標の構成の稀釈化を阻止・防止することに成功している。
エ 小括
以上のとおり、「ほっとレモン」は、その文字自体が本来的に有する独自性と商標権者による不断のブランドの保護努力によって、商標権者のレモン飲料を指し示す以外には存しない、唯一の商標として市場で使用されているものである。なお、取消理由通知が異なる指摘をしている点については、後に詳述する。
(4)本件商標全体のデザインについて
本件商標の構成中「ほっとレモン」の文字は、前記のとおり、当該文字自体が自他商品識別力を有するものであるが、その文字の書体や全体のデザインにも高い独自性が認められるものである。よって、本件商標は、ロゴデザイン全体としてより強い自他商品識別力が認められるものである。
ア 一般に、ソフトドリンクの飲料業界においては、同種の商品が多数販売され、それに付される商品名も似通うことが少なくない。「レモン」を使用した飲料を例にとっても、「レモン」の文字をその商品名に含めるものは多いといえる。したがって、一般の需要者及び取引者は、ソフトドリンク類の取引に際して、その商標を、言語(商品名)という観点のみからでなく、商標の外観(に含まれる図形や色彩等)と一体的に認識・記憶し、区別することが多いといえる。つまり、需要者は、ソフトドリンクの商標のロゴデザインや商標の色彩などのイメージと商品名とを意識的に結び付けて、その商品及びその出所を識別することが珍しくない。例えば、コーラ飲料についていえば、赤色と「コカコーラ」、青色と「ペプシコーラ」といった色彩のイメージと商品名を一体的に認識して、商品を識別することがあることは経験則の示すところである。
翻って本件商標についてみると、「ほっと」と「レモン」は同一の書体でかつ赤色の彩色で表されているところ、この書体の特徴として、丸みの多い平仮名「ほっと」はその丸みが強調され、一方、「レモン」の部分は、本来直線や文字の払いが多い片仮名であるのにかかわらず、「ほっと」の平仮名の丸みに適合するような書体で表示されている(例えば、平仮名の「ほ」の字の左側上部の横方向の二本線と片仮名の「モ」の字の上部の横方向の二本線は近似した表示になっている)。かかる書体の効果により、平仮名「ほっと」が持つ柔和なイメージや、「レモン」の持つイメージが鮮明に表されている。この点で、当該書体は、一目見ただけで印象的に映る非常に特異なものであるといえる。
また、「ほっとレモン」が「ほっと」と「ホットレモン」を掛けた造語ということで、そこから連想される「安心感」「温かさ」等のイメージから、「ほっとレモン」の文字やそれを囲う独自の形状の枠の色はすべて暖色の赤で統一されており、さらに、同枠は緩やかな曲線で表されている。これら一つ一つのデザインや色彩を全体としてみると非常によく調和されており、「ほっとレモン」という言葉が与える解放感、安心感という良質なイメージを引き立たせている。
以上のように、本件商標のロゴデザインには、全体として、需要者が記憶の指標・道標とするブランドイメージがはっきりと構築されており、また、需要者の購買意欲を高める顧客吸引力も備わっているものといえる。よって、本件商標はそのロゴデザイン全体として、充分な自他商品識別力を備えていると確信するものである。
イ 本件商標のロゴデザイン全体に商標としての識別機能があることについての認識は、前述の商標権者とダイドードリンコ株式会社との間で交わされた確認書にも示されている(乙12)。当該確認書の別紙には、当時ダイドードリンコ株式会社が販売していた商品の写真が掲載されている。この事例は、平仮名「ほっと」と片仮名「レモン」を組み合わせたという点はもちろん、当該「ほっとレモン」の書体やそれを囲う枠の感じなど、本件商標のロゴデザインと酷似しているということが、混同を引き起こすと問題となったものである。
ソフトドリンクは、高価な商品とは違い、日常的頻繁に購入されるもので、簡易迅速を尊ぶ取引の場面においては、安価であるがゆえに曖昧な記憶や印象だけに基づいて安易かつ瞬間的に選択されがちな性質をもっていることが、経験上明らかである。それ故、ソフトドリンクの商標は、前記したように、商品名、ロゴデザイン、色彩などの要素すべてが一体的に結び付いて商品のイメージとなり、需要者に記憶され、識別されることが少なくない。そのような商品の性質上、仮に、ダイドードリンコ株式会社が販売した商品の如き、本件商標の全体のロゴデザインと酷似するような商品が販売されてしまえば、ロゴデザイン全体のイメージや印象だけを頼り、細かい注意を払わずに商品を購入することのある需要者が、これを商標権者の商品と混同することは自明である。
また、2009年には登録異議申立人の一人サントリー株式会社が、「とろーり/ホット/レモン」を赤枠で囲った表示を使用していたが、商標権者が同社に申し入れをおこなったところ、同社は当該表示から赤枠を外した表示に変更したという経緯がある。
つまり、ソフトドリンクの取引分野においては、商品名の文字部分と同色の独自形状の枠があるというだけで、あるいは書体のデザインだけで、商標の印象というのが一変し、混同のおそれを左右するものであり、その意味で、ロゴデザインに組み込まれる枠や書体の特徴もソフトドリンク商標の重要な一部となり得るのである。したがって、本件商標はその枠部分や書体の特徴も含めたロゴデザイン全体で、出所識別機能を発揮しているのであり、ダイドードリンコ株式会社もサントリー株式会社もその点を充分認識して、商標の使用を中止し、又は、枠部分を外したということができる。
以上のとおり、本件商標は、需要者の記憶の指標・道標として、識別機能・出所表示機能を果たし得るものであり、ダイドードリンコ株式会社の商品の如きものが将来出現するような事態を効果的に防止するためには、本件商標の全体としての識別性を認め、商標権を通じて保護しなければならない。
したがって、本件商標のデザイン(独特の書体や上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形)の存在や意義を平易である又は格別ではない等の理由で捨象することは、ソフトドリンクという商品の性質や取引の実情に反し、また上記のような将来的に生じうる混同のおそれ、ひいては需要者の取引の安全性を顧慮しない危険があり、妥当でないといわざるを得ない。

2 取消理由通知に対する反論
(1)「ホットレモン」「ほっとレモン」の文字が飲料業界において使用されているとの指摘について
取消理由通知について、まず指摘しなければならないのは、本件商標は平仮名書きの「ほっと」と片仮名書きの「レモン」という文字から構成されるものであり、「ホットレモン」ではないということである。既に述べたとおり、本件商標は日本語の「ほっと」という語感と英語の「ホットレモン」を掛け合わせ、「ほっと」と「レモン」を二段書きにして表示した点に商標としての独創性ならびに識別力があるものである。
したがって、「ホットレモン」という使用例があるからといって、本件商標が「普通に用いられる方法で表示する標章」になるということにはならない。この点から取消理由を検討すると、少なくとも審判官の引例アからソの内、アを除くすべて(すなわち、イ?ソ)については、「ホットレモン」という表示に関するものであり、これをもって本件商標が識別力を欠くことの事実とならないことが明らかである。
引例アにおいて挙げられる認定事実については、ペットボトルのソフトドリンクが登場する以前の1990年代に、商標権者が発売を開始した商品に追従したと見られる「ほっとレモン」という商品名の缶入り飲料が2社により発売されたが、これらは短期間のうちに販売を終了している。とりわけ、ペットボトルがソフトドリンクの容器として主流となってからは、他社が、ペットボトルのソフトドリンクにつき「ほっとレモン」を商品名としてあるいは品質等表示として使用したという例は存在しない(乙18)。
したがって、審判官が引用された缶入り果汁について過去に使用された例があるからといって、本件商標の「ほっとレモン」の文字部分自体が商品の品質等を記述的又は説明的に表す言葉として一般化していたということにはならないから、当該例は、本件商標が、指定商品の品質等表示を「普通に用いられる方法で表す標章」であるということを示す証左にはなり得ないといえる。
(2)平仮名書きの「ほっと」の文字が飲料業界及び飲食店業界で「温かい(ホット)」を意味する語として使用されているとの指摘について
前記1で詳述してきたとおり、本件商標中の「ほっとレモン」は、「ほっと」と「ホットレモン」とを掛け合わせた点に独創性があり、商標権者が20年前に創作し、現在まで継続して使用し続けている商品名である。そして、商標権者は、少なくとも「ほっとレモン」という造語商標に関しては他社の使用を排除し、その稀釈化を防止することに努めてきたものであるから、少なくとも「ほっとレモン」という言葉がすでに一般化しているという事実はないというべきである。そして、「ほっと」が「温かい(ホット)」を意味するものとして使用されている例が10件程度あるからといって、「ほっとレモン」という前記したとおり創作性に富む造語が直ちに、識別力を欠くものであると認定される理由にはならない。
また、「ほっとレモン」は、「ほっと」と「原材料名」を組み合わせた造語であり、それを見ただけで飲料を直ちに想起させるような文字構成ではない。このほか、商標権者は、「ほっとゆず」「ほっともも」なども発売して、「ほっとシーズ」ブランドを展開しているが、いずれも「ほっと+原材料名」という構成をとっており、この点に商標権者が展開するブランドの一つの特徴がある。
しかし、取消理由通知の1(2)項における引例アないしカは、いずれも現在のウェブサイトを検索されたものであり、本件商標の登録査定時の使用例ではないが、いずれにしてもこれらは「ほっとドリンク」などの「ほっと」と、「飲料」を直接意味する「ドリンク」とを結合した例であって、「ホット(温かい)」という意味が観念されやすいような態様で「ほっと」を使用しているものであり、当該例を「ほっとレモン」という構成をとる本件商標の識別力の問題と同列に扱うべきではない。
また、そもそも取消理由通知に挙げられるような例があるとしても、せいぜい10件程度であり、そのうち「ほっとレモン」の使用例は(2)キのわずか1件しか挙げられていない。この(2)キは、和歌山の喫茶店の飲みもののメニュー中の「ほっとレモン」という表示であるが、その前後には「カルピス」、「カルピスコーラ」などの具体的な商標名をメニューに掲げているところから見て、「ほっとレモン」は商標権者の商品を提供しているか、商標権者の商標に追従したものと考えるべきであって、「ほっとレモン」を普通名称として使用しているとすることには合理的な根拠はなく、20年以上も商標権者が使用し続けてきた「ほっとレモン」の識別力を否定する根拠としては、地方の喫茶店1件による使用はあまりに不十分といわざるを得ない。
なお、当該引例において「ほっと」なる語が使用されているのも結局のところ、商標権者の「ほっとシリーズ」に着想を得ているとしかいえず、20年前に商標権者が独自に創作した「ほっと」という掛け言葉を利用した商標の独創性を、稀釈化するものに他ならない。前述のとおり「ほっと」シリーズは、商標権者のブランドとして確立しつつあり、「ほっと」が飲料ブランドして稀釈化されぬよう、本件商標は商標権を通じて適切な保護が与えられるべきである。
よって、前述した構成からなる本件商標は、「レモンを原料とするホット飲料」の商品の原材料、品質を端的に表現したものではなく、それ自体識別力を有するものである。

3 使用による識別力の獲得について
仮に、百歩を譲って、平仮名書きの「ほっと」と片仮名書きの「レモン」を二段書きとし、赤色に彩色し、同色の上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形で囲んだ標章に、自他商品の識別力がないと仮定した場合でも、本件商標の上記構成は、商標権者の長期間かつ広範な使用により、加熱用レモン果汁飲料に関して自他商品識別機能を獲得するに至ったものである。
商標権者の使用の経緯及び範囲については、前述のとおりであり、商標権者が創作・採択した「ほっとレモン」商標は、1992年に販売されて以降、本件商標の登録査定がなされた2011年までの20年の長期間にわたり継続して製造・販売されている商標権者のヒット商品名である。本件商標と同一の構成の標章を、2003年以降、長期にわたりペットボトルならびに希釈用(コンク)のレモン果汁入り飲料に継続的に使用し、膨大な数量の販売及び広告宣伝活動をおこなってきた結果、本件商標は、商標権者が製造・販売する加熱用レモン果汁飲料を表示するものとして自他商品識別機能を獲得したものであるから、商標法第3条第2項により登録が維持されるべきである。

4 結論
以上のとおりであるから、第1に本件商標の構成はそれ自体で自他商品の識別力を有するものと認められるから、その登録を維持されるべきであり、第2に仮にそうでないとしても、長期かつ広範な使用(販売実績及び宣伝広告活動)により自他商品識別力を獲得したものであるから、やはり登録を維持すべきである。

第6 当審の判断
1 商標権者は、本件商標は商標法第第3条第1項第3号に該当するものではなく、仮に該当するものであるとしても同法第3条第2項の要件を満たすものであるから、その登録を維持されるべきであると主張している。しかしながら、本件商標は、前記第4で述べたとおり、商標法第3条第1項第3号に該当するとした判断は、妥当なものであって、これについて述べる商標権者の意見は、以下の理由により、採用することができない。

2 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)商標権者は、本件商標は、各文字が同じ独特の丸みを帯びたやわらかい印象を与える同一の書体で、かつ、同じ太さ及び同じ大きさで書かれている。また、これらの文字の外側に配されている外枠の上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形も同様にやわらかい感じを与える形状で、かつ文字部分と同じ色彩で書されている。しかも、当該文字部分は上記枠形状の中に密接して併記されているから、全体としてバランスよくひとまとまりにデザインされ、視覚上何ら違和感なく全体として一体の商標として認識されるものである。したがって、本件商標を、商品取引上普通に使用される構成、態様からなるものということは不合理である。と主張している。
しかしながら、商品において、当該商品の特徴的な品質をアピールするためにそれを包装に表示する場合には、その特徴点が目立つようにし、かつ、包装全体の印象が良くなるようなデザインを施すことは普通一般に行われているものであるから、それがまとまりよくデザインされているとしても、特異な態様と認められないものであれば、普通に用いられる態様というべきである。そして、本件商標構成中の「ほっとレモン」の文字の態様は、さほど特徴のあるものではなく、通常用いられる程度の書体といえるものであり、また、上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形輪郭部についても、例えばA甲9の4ないし16及びB甲41ないしB甲76のようにホット飲料を含む清涼飲料や果実飲料等のラベルとして、本件商標同様上辺中央を湾曲させた輪郭線が普通に用いられていることからすれば、特に強い特徴があるものとはいえず、本件商標は、構成全体としてみても「普通に用いられる方法」の域を脱するものとはいえない。
(2)商標権者は、英単語を日本語で表す場合は、その音読みを片仮名で表示するのが一般かつ常識の用法であり、「HOT LEMON」を「普通に用いられる方法」で表示する場合とは、欧文字又は片仮名で表記する場合に限られるというべきであり、「ほっと」の文字が英単語「HOT(ホット)」と音を共通にするからといって、本件商標が「普通に用いられる方法で表示する標章」になるということにはならないし、「ほっとレモン」が飲料業界において「温かいレモン飲料」を表す一般の用法として確立し、記述的・説明的に広く使用されている事実は存在しないというべきであるから、「ほっとレモン」が、商標法第3条第1項第3号にいう「普通に用いられる方法で表示する標章」に該当するものではないと主張し、また、「ほっとレモン」は、「ほっと」という日本語と英語「LEMON」の片仮名書き「レモン」を組み合わせた、掛け合わせによる語であって、特定かつ具体の意味を有するものではなく、これに接する場合、「ほっと」を日本語としての語感で捉え、指定商品との関係において「人をほっとさせるレモン飲料」「人がほっとしたときに飲むレモン飲料」「人がほっとしたいときに飲むレモン飲料」の如き観念・イメージを間接的に需要者に与えるものであると主張している。
しかしながら、本件指定商品に係る清涼飲料等の商品は嗜好品であって、気持ちの安らぎ等を求めて飲用する場合も少なくないが、このような分野においては、一般に片仮名で表記する外来語などを平仮名で表記する場合も少なくなく(この点は、「第4 本件に対する取消理由」1(2)の「れもん」「ほっとこーひー」などの事例からも明らかである。)、また、2つの外来語からなる場合に、その片方を平仮名書きにすること(例えば、「あっぷるジュース」)も普通に行われている。したがって、本来は片仮名表記をすべき品質表示の語が平仮名表記されているとしても、そのことにより、需要者が自他商品の識別標識として認識するものとはいえない。そして、「ほっとレモン」の文字についての請求人の採択の意図が日本語の「ほっと」と英語「LEMON」の片仮名書き「レモン」を掛け合わせたもので、「人をほっとさせるレモン飲料」等をイメージしたものであるとしても、「ホットレモン」の文字(語)が、「温かいレモン飲料」を表すものとして一般に理解されているものであって、また、清涼飲料等の商品の選択の際には、その商品が温かいか冷たいかは重要な品質といえるものであるから、たとえ「ほっと」の文字が平仮名で表されているとしても、当該文字はその商品が「温かいもの」であることを容易に理解させるものであり、「ほっとレモン」は、その表記が本件指定商品に係る分野で使用されているか否かにかかわらず、本件商標に接する需要者は、「ホットレモン(温かいレモン飲料)」を認識するというべきである。
(3)商標権者は、「ほっとレモン」の文字部分は、その書体の効果により、平仮名「ほっと」が持つ柔和なイメージや、「レモン」の持つイメージが鮮明に表され、当該書体は、一目見ただけで印象的に映る非常に特異なものであり、また、本件商標は、「安心感」や「温かさ」等のイメージから、文字及びそれを囲う独自の形状の枠の色を暖色の赤にし、同枠は緩やかな曲線で表されていると主張し、さらに、本件商標のロゴデザインには、全体として、需要者が記憶の指標・道標とするブランドイメージがはっきりと構築されており、充分な自他商品識別力を備えていると主張している。
しかしながら、一般に標章が何らかのイメージ・コンセプトを具象化するものとしてデザインされることも少なくないが、必ずしもそのイメージ・コンセプトのとおりに需要者が理解・認識するものとはいえない。そして、本件商標の「ほっとレモン」の文字の書体が一般に用いられる書体と比べて特異なものとはいえないし、それを囲うように表されている図形にしてもありふれた形状にすぎず、さらに「温かさ」を特徴とする商品に暖色を使用することは自然であり、一般に行われているものであるから、本件商標は、その態様が特異ということはできない。なお、温かい清涼飲料の購買動機として、精神的な安らぎを得られることや商品が温かいことなどがあるが、該商品に暖色系の色を使用することにより購買意欲が高まり、その意味では顧客吸引力があるといえるとしても、他人の商品と比較し商品の出所を識別するものではないから、このような顧客吸引力があったとしても自他商品の識別力を備えているものとはいえない。
(4)商標権者は、「ほっとレモン」の保護については注意を払い、「ほっと」と「レモン」の組合せが、商標権者以外において使用されぬよう市場を監視している。特に、商標権者は、他社が、「ほっと」という平仮名と「レモン」という片仮名を使用したり、赤色の文字で二段書きに表示したり、赤文字に赤枠で表示したりする場合について、商標権者の周知表示との混同を生ずるものとして表示の変更を要請してきた。この結果、現在において、他者が「ほっとレモン」なる商品名でソフトドリンク商品を販売している事実、並びに、当該表示が一般化しているという事実は存しない。「ほっと」が「温かい(ホット)」を意味するものとして使用されている例が10件程度あるからといって、「ほっとレモン」という創作性に富む造語が直ちに、識別力を欠くものであると認定される理由にはならないし、「ほっとレモン」は、「ほっと」と「原材料名」を組み合わせた造語であり、それを見ただけで飲料を直ちに想起させるような文字構成ではないと主張している。
しかしながら、果物を原材料としている温かい清涼飲料について、「ホット」と果物名を組み合わせて表すことが普通に行われ、温かいレモン入りの清涼飲料についても「ホットレモン」というようにして使用されていること、温かい飲料を示す場合に「ホット」を平仮名書きした「ほっと」の文字が一般に使用され、さらに、乙第10号証の「コンシュマーレポート」(2010年3月調査)によれば、「この冬飲んだホットドリンクのブランド【MA】」において、商標権者以外でも「ほっとゆずれもん(ダイドウドリンコ)」が9.6%であるほか、「ほっとあっぷる(伊藤園)」の使用例が認められるところであり、使用開始時点は明らかでないが、申立人Bの提出するB甲第6号証によれば、アシードホールディングスが現在でも「ほっとレモン」の商標により清涼飲料を販売している事実があることからすると、「ほっとレモン」については、温かいレモン飲料を認識するというべきである。
そして、商標権者との話し合いにより、同業他社がその取扱いにかかるデザインを変更した事実があったとしても、それぞれの企業の経営戦略上の変更ともいえるものであり、そのことをもって、本件商標が本来的に自他商品の識別力を有するものであるということはできない。
(5)以上のとおりであるから、請求人の上記主張はいずれも採用できない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものである。

3 商標法第3条第2項該当性について
商標権者は、商標権者の長期間かつ広範な使用により、本件商標は加熱用レモン飲料に関して自他商品識別機能を獲得するに至っているものであると主張し、乙第1号証ないし乙第20号証を提出しているので、以下検討する。
(1)商標権者の提出した証拠によれば以下の事実が認められる。
ア 請求人は、1992年に「ほっとレモン」の商標を使用したレモン果汁入り飲料(以下「本件商品」という。)の販売を開始し、以後継続して販売していることが認められるが、その間の商標の態様は、「ほっとレモン」の文字が一列に横書きされたものや「ほっと」と「レモン」が二列に縦書きされたもの、二段に横書きされたものがあり、その文字を囲むように表されている図形も一定ではないものの、2003年から現在までは、おおむね別掲の「2 使用商標」のとおり、上辺中央を弓状に脹らませた四角形状(上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形)の輪郭(なお、当該四角形状の左上部や右下部などにレモンの図形や「はちみつ入り」等の品質表示の語が記載された図形等が配置され、当該四角形状の輪郭全体が表されているものではない。)内の最上段に「CALPIS」の文字をやや小さい文字で配し、その下に黄色とオレンジのグラデーションをもって表した2つの円を背景図形として、「ほっと」と「レモン」の平仮名と片仮名とを上下二段に横書きした構成からなり、これらの文字と輪郭線とを同じ赤系色で彩色したものである。
イ 商標権者の「ほっとレモン」販売数量推移報告書(乙1)によれば、2002年が5112万本であり、以降2011年まで2008年の2808万本を除き、毎年6?7000万本である。また、希釈タイプは、9月から翌年2月までの季節商品として2004年に販売が開始され、2010年9月から翌年2月の間の販売数量は144万本である。
ウ 本件商品は、1993年から2011年2月までの間に商標権者のカタログ「全製品パンフレット」に30回掲載されたほか、商標権者の会社案内に掲載され、また、新聞、雑誌等において多数紹介され、さらに交通機関の車内広告、ビル等の看板広告、販促活動を行ったことが認められる(乙2?乙9)
(2)しかしながら、「ほっとレモン」の文字は、「ホットレモン」が温かいレモン飲料を表すものとして広く一般に使用されている語であること、そして、本来片仮名書きの語を平仮名で表すことが普通に行われ、「温かい」を意味する「ホット」を「ほっと」と表すことも一般に行われているものであること、さらに、本件商品に表示する商標は、いずれも「ほっとレモン」の文字と同一の輪郭内に当該文字に近接して商標権者の代表的出所標識である「CALPIS」の文字を表記してなるものであり、本件商品の掲載記事等において、「ほっとレモン」の文字が使用されているとしても、商標権者の商品であることを明確に示した上で使用されているものであって、商標権者の宣伝広告も同様に行われていることが認められることから、「CALPIS」の文字部分が強く支配的な印象を与える部分であること、さらに、提出された証拠を見ても、上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形の輪郭と「ほっとレモン」の文字のみからなる本件商標と同一態様の商標の使用の事実を確認することができないものである(使用商標は前記のとおりいずれも「CALPIS」の文字を有し、そのほか、2つの背景円図形や輪郭線上のレモン図形等の有無において、本件商標とは明らかに相違している。)ことからすると、たとえ、商標権者が、1992年から「ほっとレモン」の文字を使用した商品を販売し、その間、上記のようにカタログ等による、広告宣伝や販売促進を行い、新聞等に紹介記事等が掲載された事実があったとしても、別掲のとおり、上辺中央を湾曲させた隅丸横長四角形の輪郭内に「ほっとレモン」を表示してなる本件商標について、需要者が商標権者の業務に係る商品であることを認識できるものになっているということができない。
以上のとおり、本件商標について、その使用により、自他商品識別力を獲得したものであるとする商標権者の主張は採用できない。
(3)してみると、本件商標が、その指定商品について使用された結果、登録査定時に請求人の業務に係る商品であることが取引者、需要者間に広く認識されているに至ったものと認めることはできない。

4 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、上記第3の取消理由のとおり、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであって、かつ、本件商標が、使用された結果、需要者が商標権者の業務に係る商品であることを認識するに至っていたとの商標権者の主張も上記のとおり採用することができないから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1(本件商標)(色彩は原本参照)




別掲2(使用商標)(色彩は原本参照)



異議決定日 2012-09-04 
出願番号 商願2009-90724(T2009-90724) 
審決分類 T 1 651・ 17- Z (X32)
T 1 651・ 13- Z (X32)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小田 明目黒 潤 
特許庁審判長 野口 美代子
特許庁審判官 内山 進
豊瀬 京太郎
登録日 2011-07-22 
登録番号 商標登録第5427470号(T5427470) 
権利者 カルピス株式会社
商標の称呼 ホットレモン 
代理人 中村 勝彦 
代理人 辻居 幸一 
代理人 中村 稔 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 飯島 紳行 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 藤倉 大作 
復代理人 阪田 至彦 
代理人 田中 克郎 
代理人 松尾 和子 
代理人 熊倉 禎男 

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