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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X30 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X30 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X30 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X30 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X30 |
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管理番号 | 1278972 |
審判番号 | 無効2012-890039 |
総通号数 | 166 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2013-10-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2012-05-11 |
確定日 | 2013-09-26 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5415157号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5415157号商標(以下「本件商標」という。)は、「御用邸の月」の文字を標準文字で表してなり、平成22年11月29日に登録出願、平成23年4月12日に登録査定がなされ、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同年5月27日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が本件商標の無効の理由に引用する登録第3161363号商標(以下「引用商標」という。)は、「御用邸」の文字を縦書きしてなり、平成5年9月21日に登録出願、第30類「菓子およびパン」を指定商品として、同8年5月31日に設定登録され、現に有効に存続されているものである。 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由(請求理由補充及び答弁に対する弁駁を内容とする平成24年9月7日付け手続補正書を含む。)を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第51号証(枝番を含む。)を提出した。 1 請求人 請求人は、菓子製造業・食品卸売業を業とする法人であり、主として栃木県那須地方において、同社の代表者である手塚清が所有する引用商標を付したチーズケーキ等の菓子の販売を行っている。 2 本件審判を請求する実情 被請求人は、請求人と同じ那須の地で平成元年ころから「那須の月」の商標を付した菓子の販売を相当手広く手掛けて営業を展開している会社である。因みに「那須の月」は、合資会社庄助製菓本舗の登録商標であり、被請求人は、その専用使用権を取得して使用してきたものであり、平成23年8月25日に、同年4月24日より引き続き5年間の専用使用権を設定登録している。その被請求人が平成23年7月ころ、突然上記した「那須の月」の商標に代えて本件商標の「御用邸の月」を毛書体で表記した商標に改め、この商標を付した菓子を販売し始めた。請求人の商標「御用邸」について知り抜いている地元の同業者である被請求人が請求人のメイン商標である「御用邸」を含む商標を被請求人の商品に付する商標として使用されたのでは、請求人のこれまでの努力を無に帰し、他方、被請求人がフリーライドの不法な利を得るところであるので、被請求人の社長に「那須の月」の商標を「御用邸の月」の商標に変更した理由を質問した。しかるところ、被請求人の社長からは、「御用邸の月」の商標については、被請求人側において正当な手続きを経て登録を得たので被請求人が使用することは法律上何ら問題がないとの返事であった。 このことから、やむを得ず、本件商標は、先登録商標と類似するので登録されるべきでないとする登録異議の申立て(異議2011-900308)を行ったが、特許庁は、請求人の提起した前記登録異議の申立てを退け、その登録商標の登録を維持する決定を行った。 しかし、前記決定は、単純に外観、観念及び称呼によっての対比(対比観察)のみでの類否の判断を下している。 一般取引の実情下で、10年以上も前から実際に使用されている先登録商標を記憶していた人が、時と場所を変えて本件商標に接したとき、一般需要者は、取引に際して両商標を見たとき、両商標は、誤認、混同するおそれが十分にある。 請求人は、対比観察のみによる類否判断に基づく前記決定は、承服できないので、本件審判請求を行った。 3 無効理由 本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効にされるべきである。 4 具体的理由 (1)商標「御用邸」の周知著名性について ア 請求人は、平成5年ごろ、那須土産に適した商標名について検討を重ね、那須土産であることが認識でき、かつ重厚及び高貴なイメージが生じる「御用邸」なる商標を採択し、請求人の現社長である手塚清の出願人名義で第30類の「菓子及びパン」を指定商品として出願するに至ったものである(甲2、甲3)。 そして、請求人は、地元の乳製品が利用でき、誰にでも好まれるチーズケーキが那須土産に最適であると考えて商品開発を行い、「御用邸」の商標を付したチーズケーキを平成6年8月より販売を開始した(甲4)。 以来、17年の長きにわたり販売が継続されることで、このチーズケーキは、「御用邸チーズケーキ」として那須地方の旅行者に好評を博し、チーズケーキのパッケージに表記された商標「御用邸」は、請求人の周知商標として広く認識されて今日に至っている。 さらに、請求人は、百貨店や2012年に開業予定のスカイツリーにチーズケーキの店を出店及び出店計画することで、那須周辺地域を超えた広い範囲での「御用邸」チーズケーキの知名度を高めるための努力を継続して行っているものである(甲5、甲6)。 その間、「御用邸」の商標を付したチーズケーキは、しばしば雑誌にも紹介される(甲7?甲13)とともに、請求人による雑誌への広告(甲7、甲8、甲14)も積極的に行い、那須周辺道路に設置した看板による広告(甲15)、東京駅の京浜東北線及び山の手線のホームに上がる階段及びエスカレータ部分での広告(甲16)を行うことで、那須旅行の土産人気商品として関東周辺地域で認知されているものである。 商標「御用邸」を付したチーズケーキは、自社ホームページで販売するとともに、下記の場所においても販売されている。 チーズガーデン五峰館(栃木県那須郡那須町)、菓寮 林檎庵(栃木県那須塩原市)、チーズガーデンクレア(栃木県那須塩原市)、チーズガーデン東武大田原店(栃木県大田原市)、チーズガーデン ザ オーブン(栃木県那須塩原市)、JR那須塩原駅、JR宇都宮駅、JR上野駅、東北自動車道 那須高原サービスエリア下り、同 上河内サービスエリア下り、同 上河内サービスエリア上り、同 佐野サービスエリア上り、道の駅 どまんなか田沼、ホテル サンバレー那須、ホテル ラフォーレ那須、ホテル東急ハーヴェスト那須、ホテルエビナール那須、大丸百貨店 東京店、阪急百貨店 梅田本店、同 大井食品館、新宿京王百貨店、東武百貨店 宇都宮店、同 船橋店、同 池袋店、福田屋百貨店 宇都宮店、ショッピングモール ベルモール。 「御用邸チーズケーキ」は、上述した複数箇所で販売されることで、近年では、年間80万個弱の販売実績を誇る商品となっている。年間70万個を超える値は、売上ベースで年間約8億円にもなり、一地方の土産の販売数として突出した値である。 請求人の主要な店舗であるチーズガーデン五峰館では、「御用邸」チーズケーキの販売コーナーを設置(甲17)し、常時試食品を供している。 「御用邸」チーズケーキは、発売以来、那須土産の販売数ランキングの第1位を維持し、例えば、佐野サービスエリアでの土産ランキング(平成23年8月19日撮影)においても第1位であることが告知されている(甲18)。 甲第19号証に示す那須町がまとめた那須来訪者(宿泊以外の観光客込み)の推移によれば、チーズガーデン五峰館がオープンした平成6年以降、年間約500万人辺りで推移しているのに対して、請求人の主要店舗であるチーズガーデン五峰館の来訪者は、甲第20号証に示すように、年々増加し、平成21年には、100万人を超えた。それに応じて「御用邸」チーズケーキの販売量も増加し、平成21年には、50万個を超え、前述したように平成22年には80万個に迫る販売数となった。この数値は、那須への旅行者の1割を優に超え2割に迫る数であり、相当数の旅行者が商標「御用邸」が付されたチーズケーキを購入していることがわかる。 また、一度購入した客が観光地の情報サイトや自身のブログで「御用邸チーズケーキ」をクチコミで紹介することも広く行われている。甲第21号証の情報サイトには、「ここのチーズケーキは本当に美味しい!!試食もできるし、味の割にリーズナブル」「絶品『御用邸チーズケーキ』は外せません!!」、「チーズケーキといえばここ!」、「一番人気の御用邸チーズケーキ」、「メインのお目当ては御用邸チーズケーキ」、「クチコミ参考に利用させていただきました。御用邸チーズケーキほんとに美味しい」、「那須に行ったら必ず購入するのが、この御用邸チーズケーキ」、「チーズケーキは絶品です」、「定番の御用邸チーズケーキ」等のクチコミ情報が紹介され、那須へ旅行される観光客には、旅行当初から土産として「御用邸」のチーズケーキを購入することを決めている客も珍しくない。したがって、チーズケーキのブランド名である「御用邸」には、高品質イメージ及び顧客吸引力が備わっている。 また、前記したチーズガーデン五峰館は、カーナビでも表示される観光スポットでもある(甲22、甲23)。また、新幹線の「那須塩原」駅前でタクシーに乗車する際に、「御用邸チーズケーキを売っている場所」と行く先を告げればチーズガーデン五峰館に連れて行ってくれるほど「御用邸」のチーズケーキは、地元の人にも広く認知されている。 このような状況の中、「御用邸」は、那須地域で販売されるチーズケーキのブランド名として需要者の間で広く浸透し周知商標となっているものである。 請求人は、「御用邸」がブランドとして確立されていることに伴い、平成18年頃から、チーズケーキ以外の他の商品について「御用邸」ブランドの展開を始めるに至った。 すなわち、甲第24号証ないし甲第30号証に示すように、「御用邸シリーズ」として、「あっぷるちーずけーき」、「チーズクッキー」、「バームクーヘン」、「カステラ」、「キャラメルショコラ」、「ショコラ&ショコラ」、「クッキーショコラ」、「ホワイトショコラ」、「紫花豆」の各商品について、それぞれ「御用邸」の商標を付した商品が販売されている。 そして、平成22年には、チーズケーキを含む「御用邸」を付した菓子全体の販売量は、年間100万個以上となっている(甲20)。 その結果、本件指定商品である菓子の分野における需要者は、「御用邸」の文字からなる商標について、請求人及びそのグループの販売する商品(菓子)のブランド名として広く認識しているものであり、商標「御用邸」には、請求人が長年の営業努力により培ってきた商品の高品質イメージ及び顧客吸引力が化体しているものである。 イ 請求人は、本件商標が登録となった際に、上述した事情を説明して登録異議申立を行ったが「御用邸の商標は、ある程度知られていることは認めることができるものの、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、栃木県及びその周辺を超えて需要者の間に広く認識されているということができない」との判断をなされた。その理由として、(1)「販売地域が那須を中心としている」、(2)「広告、宣伝回数がそれほど多いものとはいえない」、(3)「広告が、那須地方若しくは那須地方の旅行情報誌等を中心にして行われている」等と述べているが、この判断は、主として土産として販売されている商品(チーズケーキ)の特殊性を全く考慮していない認識不足の思い込みであると指摘せざるを得ない。 すなわち、(1)の「那須を中心として?」、及び、(3)の「那須地方の旅行雑誌を中心に?」については、「御用邸のチーズケーキ」が主として那須を訪れた旅行者の土産用として販売されているのであるから当たり前のことであり、土産としてどの程度旅行者に認識されているかが周知著名性を判断する重要な要因となることは明らかである。 また、(2)については、ネットから情報を入手する昨今においては、雑誌による広告、宣伝の回数より、実際にどのくらいの人に知られているのかが問題となるはずである。「御用邸チーズケーキ」は、多数の個人のブログにおいても頻繁に取り上げられており、例えば、甲第33号証に示すように、ヤフー検索において「御用邸チーズケーキ ブログ」を入力した場合には、多数件数のブログがヒットし、各ブログにおいては、「御用邸チーズケーキ」に関する情報が配信されている。 また、「御用邸チーズケーキ」は、東京をキー局とするテレビ番組においても2004年ごろよりしばしば取り上げられている。例えば、甲第34号証に示すように、テレビ東京系における長寿番組である「アド街ック天国」の2004年7月17日放送分において、番組中のコーナーである「薬丸印の新名物」で紹介された。「アド街ック天国」は、15年以上継続して放送されている人気番組であり、テレビ東京系の全国放送でもあることから、「御用邸チーズケーキ」は、少なくとも、関東周辺地においては、十分に告知されたものである。 さらに、2006年以降についても、下記情報番組で那須土産の人気商品として「御用邸チーズケーキ」がしばしば取り上げられている。 2006年7月26日テレビ新潟 夕方ワイド新潟一番、2006年8月10日テレビ東京 レディス4、2008年7月16日日本テレビ アナ☆パラ、2008年8月2日フジテレビ めざましどようび、2008年8月28日日本テレビ リアルタイム、2008年9月16日テレビ東京 ガイアの夜明け、2009年2月2日日本テレビ ラジかるッ、2010年2月5日フジテレビ VVV6、2010年8月19日日本テレビ news every、2010年12月26日日本テレビ 誰だって波瀾爆笑。 したがって、「御用邸チーズケーキ」は、那須地方の土産ものとして那須地方を観光する者又は観光を予定する者に広く認識されているのであるから、合議体の「栃木県及びその周辺を超えて需要者の間に広く認識されているということができない」との判断は失当である。 (2)商標法第4条第1項第10号について 本件商標は、「御用邸の月」の漢字及び平仮名5文字からなり、「ゴヨウテイノツキ」の称呼が発生する。 本件商標の「御用邸」部分は、請求人の周知商標として認識されているため、「御用邸の月」が付された商品に接した需要者は、当該商品について、請求人が販売する「御用邸」シリーズの一種であるかの印象を持ち、「御用邸の月」なる商標から「御用邸」部分を抽出して商品の出所識別機能を有する商標の要部と判断するため、「ゴヨウテイ」の称呼も生じることになる。 したがって、本件商標は、要部の文字が全く同一となる周知商標「御用邸」と類似するものである。 そして、本件商標の指定商品と周知商標が使用される商品とは、同一又は類似のものである。 (3)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標は、「御用邸の月」の漢字及び平仮名5文字から構成される。 これに対し、引用商標は、請求人の社長である手塚清が所有し、「御用邸」の漢字3文字からなるものである(甲2、甲3)。そして、商標「御用邸」は、請求人の周知商標として認識され、請求人が販売する菓子のブランド名として周知となっている。 イ 出願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するかどうかの判断を行うに当たっては、誤認混同のおそれの有無が主眼である以上、離隔観察に重きを置くべきであるとされており、そのためには、登録出願された商標の要部を見つけ出し、この要部と先登録に係る商標を需要者の立場から時と場所を異にしたり各観察を行うことによって両商標を対比して両商標の類似を判断すべきであるとされている。 (ア)「御用邸」が本件商標の要部に当たることについて a 「鶴ヶ城の月」「姫路城の月」「黒部の月」等のたくさんの登録商標があるが、これら商標の、その月に係る対象物である物、名所、旧跡の記載は、指定商品の出所表示機能の役割を果たす事項として需要者にそれをうかがい知られるような仕方で記載されている。本件商標中の「御用邸」の記載や、前記登録商標中の「鶴ヶ城」等の記載は、上記した機能を果たすことを意図して記載され、その記載は、本件商標や前記登録商標の要部として記載されたことになる。 b 「繭の月」「金の月」「小袖の月」等の、本件商標と同じような字配りからなる登録商標が数え切れないくらいあるが、これらの登録商標は、例えば、「繭から見える月」という解釈はできない。「御用邸の月」という結合商標は、「御用邸」に無関係な月ではなく、御用邸と何らかの関わりのある情景を思い起こさせる表現ということになる。また、「御用邸の月」は、「御用邸」の文字、言葉、あるいは観念を度外視して「月」にだけ着目することはできないものである。さらに、取引に際して「御用邸の月」の商標に接した需要者の目には、その商標を構成する「御用邸」の文字の配列が必ず入る。そして、その文字に注目することになる。 そうすると、本件商標には、先登録商標である「御用邸」と同じ文字が使われており、その商標が使用された商品は、請求人のシリーズ商品の一つであるとか、あるいは請求人と関連企業の商品であることを連想することは間違いない。 c 仙台の銘菓として宮城県推奨品に認定され、同業者間で著名商標の部類に属するといわれている「萩の月」は、宮城県の県花である萩の花をイメージして名付けられたと考えられる。「萩の月」と語調を同じくする、商標を構成する言葉に名所、旧跡等の対象物を照らす月、月に照らされる名所、旧跡等の対象物を記載した語からなる商標は、200件以上登録されている(甲35)。 これらの商標中には、月に係る対象物、場所等を記載することによって、その記載は、上記した対象物が商標の指定商品と何らかの関わりがある物、あるいは場所であることを暗に示し、その記載によってその記載が需要者の側で、あるいは需要者の側に上記した記載が商品供給者の供給する商品の自他識別記号としての役割を果たす標識であることは誰でも気がつく。 d 「萩の月」等の結合文字中の「の月」の意味について 被請求人が本件商標を販売する商品、それ以前に「那須の月」なる商標を付して販売していた商品については、需要者側から「萩の月」をそっくり真似た商品として認識されていた(甲38、甲39)。例えば、甲第38号証によれば、箱外観、商品外観、重さ、切断面等を比較し、両者が極めて似ていることが報告されている。 全国各地の土産品販売業者は、著名になった「萩の月」にあやかろうと、全国各地の観光地で「萩の月」の商標を付けた商品と同種同形の菓子がそれぞれ名所、旧跡の名を表記した「○○の月」というように、月に照らされる対象物たる物、名所、旧跡を表記した商品名(商標)を付して販売することが普通に行われている(甲41?甲43)。 このような状況下において、商標「○○の月」の「の月」の部分は、「萩の月」の商標を付した商品に代表される菓子の代名詞として使われることで、「菓子について慣用されている文字」として使用されていることは明らかである。 したがって、このことからも、「の月」を含む商標中に記載された月にかかる対象物の記載は、その商品と何らかの関わりのあることを表現した商標の要部となる。 e 以上の観察から、本件商標や著名商標と考えられる「萩の月」の商標と同じような語調で表記された商標中に記載されている月にかかる対象物の記載は、その商標の自他商品の識別記号としての役割を果たす部分として登録されたのであるから、その商標中に記載されている月にかかる対象物である地名等の記載は、その商標の要部ということになる。 このような考え方を念頭において本件商標をみると、本件商標中の「御用邸」の記載は、本件商標の要部となることは明らかである。 (イ)商標の類否の判断をするに当たっては、形式的に外観、称呼、観念を対比して判断するばかりでなく、取引の実情に即してあくまで需要者の立場に立って時と場所を変えた状況下を想定して行わなければならない。その際、「御用邸」の文字が菓子について長い期間現実に使用されたことにより需要者側に与える影響、例えば、過去に那須地方で「御用邸」と付された商品を購入した者が同じ地域で「御用邸の月」に接した場合、両者の間に関連性がある商品であると感じるかどうかについても考慮するべきものである。 したがって、本件商標の構成文字中に使われる「の月」の文字の記載を除いた月に照らされる対象物、場所等の記載である「御用邸」の文字は、本件商標の先に登録された引用商標を構成する「御用邸」の文言を使ったことになり、本件商標と引用商標とは需要者が離隔観察したとき、両者は指定商品を同じくするものであり、需要者からみたとき、両者は類似している商標とみることになるのは間違いない。 ウ また、「御用邸」の文字を含む商標を菓子について使用しているのは、引用商標が登録商標として存在することから、請求人会社のみであり、請求人以外の者が菓子について「御用邸の○○」なる商標を使用していた事実はなく、請求人は「御用邸」の文字を請求人のブランドとして周知させる努力を行うとともに、17年の長期間にわたり独占的に使用してきた。 このような諸般事情を考慮して商標「御用邸の月」を観察した場合、需要者は、「の月」部分については、商標「御用邸の月」が付された菓子が丸型菓子であることを認識するにすぎず、「御用邸」部分のみを商標の要部として抽出して商品の出所表示機能を有する部分と判断するものである。その結果、商標「御用邸の月」からは、「御用邸」部分より略称としての「ゴヨウテイ」の称呼が生ずるものである。 エ したがって、本件商標「御用邸の月」の出所表示機能を発揮する「御用邸」部分と引用商標「御用邸」は同じであり、要部を共通として同一の称呼が生じるため、本件商標「御用邸の月」と引用商標「御用邸」は、類似する商標である。 そして、本件商標と引用商標の指定商品は、同一又は類似のものである。 オ 被請求人は、請求人の主たる商品であるチーズケーキが195mm×195mm×60mmの外箱に収納され、被請求人の商品である蒸生菓子と比較した場合、上記両商品は、商品そのものの形状、外観及びその包装の形状が明らかに異なっていると主張する。 しかし、被請求人の「御用邸の月」と大きく記載されたパンフレットの中に略正方形の箱に収納されて販売されるチーズケーキも存在することが記載され(乙8)、方形状の外箱に小さい丸形チーズケーキを複数収納して販売されているものであり、また、被請求人の店舗である「お菓子の城」内では、「御用邸の月」の文字が目に付くように大々的に表示し、「御用邸の月」を載置している場所にほど近い棚において、前記した方形状外箱のチーズケーキが載置されている。すなわち、「御用邸の月」の文字が表示された近くにチーズケーキが置かれ、「御用邸」の文字に関連付けてチーズケーキが販売されている。また、外箱に収納して販売する必要がないにもかかわらず、似たような形状の外箱を使用している。このような販売行為は、「御用邸」と付された商品を購入しようと思って店を訪れた需要者に対して、混乱を生じさせる販売行為ではないだろうか? 被請求人の商品である「御用邸の月」は、仙台銘菓「萩の月」と区別できないほど似ている。ほかにも伊勢銘菓として有名な「赤福」にそっくりな「那寿福」、北海道の六花亭「マルセイバターサンド」に類似する「レーズンバターサンドクッキー」も販売している。これらの行為から請求人は、「被請求人は他人の商品を何のためらいもなくそっくり真似ることを日常的に行っている」と感じている。請求人の感じ方は請求人だけのものではない(甲38、甲39、甲48ないし甲51)。 オ 登録異議申立てにおいては、本件商標と引用商標とでは、「の月」の有無により明らかな差があるとの指摘を受けた。「御用邸」は、「皇室の別邸」を意味する語として我が国において広く知られているので、「御用邸の月」のように「御用邸」を含む商標であっても一連の称呼で区別できれば両者は類似しないとの判断かもしれない。 「御用邸」の文言を含む多数の商標が既に並存して使用されている状況であれば、上記判断が受け入れられる余地もあるが、上述したように、17年(引用商標が登録されてから15年)の長期間にわたり「御用邸」の文字を含む商標を菓子について請求人が独占的に使用してきた実情を考慮すると上記判断には、納得できない。 本件商標と引用商標とが類似しないのであれば、「御用邸の○○」という商標は、ほぼ全て「御用邸」とは非類似となり、今後「御用邸」を含む多数の商標が第30類(菓子等)において乱立することが予想されるものである。平成24年5月2日現在の電子図書館での検索によれば、類似商品群「30A01」において「御用邸」の文字を含む登録及び出願中の商標は、引用商標のほかに6件ある。 しかしながら、「御用邸」を含む多数の商標が乱立することは、請求人の長年の営業努力により得られた商標「御用邸」の高品質なイメージの希釈化を招くものである。 また、需要者側においては、特に那須地方で販売される菓子について、「御用邸」を含む商標から請求人が商標「御用邸」を長年使用してきたことで獲得した高品質な商品であることを期待するものである。 請求人は、引用商標が登録されたことで、特許庁により商標「御用邸」が保護されることを信じ、企業努力をして商標価値を高めるとともに長期間継続して使用しているわけであるから、請求人が使用する「御用邸」には、高品質なイメージに代表される業務上の信用が化体しているものである。 もとより、商標法の目的は、第1条に明記されているように、「商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図る」ものであるので、長期間の継続使用により商標「御用邸」が少なくとも那須地方でお菓子のブランドとして周知著名であるという実情を考慮すれば、「御用邸」の文字の選択機会を広く第三者に与えることより、商標「御用邸」に既に現実に化体している信用の維持を図ることが、ひいては需要者の利益の保護に通じ、法目的に沿ったものである。 (4)商標法第4条第1項第15号ついて 請求人は、平成6年8月以来、商品「チーズケーキ」について、商標「御用邸」を表示した商品の販売を継続することで、「御用邸」なる商標を広く使用し、今日に至っているものである。また、「御用邸」なる商標を付した菓子は、数種類に及び、御用邸シリーズとして展開していることは既に説明した。 その結果、本件指定商品の分野の需要者は、「御用邸」の文字からなる商標について、請求人の販売する商品(菓子)のブランド名として広く認識されている。 すなわち、商標「御用邸」が一企業の出所を表示するブランド名として周知であるという実情が考慮された場合、「御用邸」を含む「御用邸の月」なる商標は、同一又は類似の商品に使用された場合、周知商標である「御用邸」と出所混同するおそれがあることは明らかである。これは、例えば、菓子の商標として周知な商標「とらや」に対して、「とらやの月」なる商標が登録できないのと同様であり、周知商標「御用邸」に対して「御用邸の月」なる商標は、出所混同するおそれがあるため登録できないものである。 したがって、本件指定商品の分野の需要者は、「御用邸」の文字を含む本件商標が、本件指定商品について使用された場合には、請求人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。 (5)商標法第4条第1項第19号ついて 請求人は、平成6年8月以来、商品「チーズケーキ」について、商標「御用邸」を表示した商品の販売を継続することで、「御用邸」なる商標を広く使用し今日に至っているものである。また、「御用邸」なる商標を付した菓子は、数種類に及び御用邸シリーズとして展開していることは、既に説明した。 そして、上述したように、本件商標「御用邸の月」の出所表示機能を発揮する「御用邸」部分と、周知商標「御用邸」は同じであり、要部を共通として同一の称呼が生じるため、本件商標「御用邸の月」と周知商標「御用邸」は、類似する商標である。 一方、請求人の主要店舗であるチーズガーデン五峰館は、本件商標の権利者である株式会社いずみやの店舗と同じ地域に存在するものである。すなわち、東北自動車道の那須ICで降り県道17号(那須街道)を那須岳方面に移動した場合、先ず右手に株式会社いずみやの店舗である「お菓子の城那須ハートランド」が存在し、更に約1.5キロ進むと右手にチーズガーデン五峰館が位置している。すなわち、本件商標「御用邸の月」は、周知商標「御用邸」と極めて近い場所、若しくは、駅や高速道路のサービスエリアの売り場では同じ場所で販売されることを予定するものである。 このように、請求人の商標使用地域である那須周辺に極めて近い場所において周知商標「御用邸」を含む本件商標「御用邸の月」が使用された場合、需要者は、周知商標である「御用邸」のイメージを頭に残して本件商標「御用邸の月」に接することになり、その結果、本件商標「御用邸の月」が付された商品についても、周知商標「御用邸」が有する高品質イメージを惹起させることになる。したがって、那須周辺で本件商標「御用邸の月」を使用する行為は、請求人が長年の営業努力により培ってきた周知商標「御用邸」が有する高品質イメージ及び顧客吸引力を利用して営業を行うことを意図するものであり、不正の目的をもった使用に該当するものである。 また、本件商標の権利者が販売する「御用邸の月」は、請求人の調査によると、以前は「那須の月」として販売されていたものであり、同じ商品について商品名を変えての販売は、請求人の「御用邸チーズケーキ」の顧客吸引力を利用して「御用邸の月」を販売することを企画したものといわざるを得ない。 また、請求人の周知商標「御用邸」は、特に商品「チーズケーキ」について、周知なものとなっている。本件商標の商標権者のホームページでは、甲第32号証に示すように、「御用邸の月」が掲載されている。この菓子は、このページに記載されているように、「ソフトカステラの中にカスタードクリームを入れたもので」あり、チーズケーキではないが、同じページの「御用邸の月」の文字のすぐ下には、「一口サイズのチーズケーキ」の商品が掲載されている。この一口サイズのチーズケーキは、ホームページ全体を詳しく観れば「那須に恋して・・・。」という商標名のようであるが、このページにおいては、「那須に恋して・・・。」という文字は、記載されてはいるものの商標であることが明示されておらず、あたかも本件商標「御用邸の月」に関係ある商品のような印象を受ける態様で掲載されている。すなわち、「一口サイズのチーズケーキ」が「御用邸」の文字に関連づけて表示されており、請求人の周知商標「御用邸」がチーズケーキに有する高品質イメージ及び顧客吸引力を利用する意図が読み取れるものであり、本件商標「御用邸の月」が不正の目的をもって使用されているものである。 (6)商標法第4条第1項第7号について 請求人は、平成6年8月以来、商品「チーズケーキ」について、商標「御用邸」を表示した商品の販売を継続することで、「御用邸」なる商標を広く使用し、今日に至っているものである。また、「御用邸」なる商標を付した菓子は、数種類に及び、御用邸シリーズとして展開していることは、既に説明した。 したがって、周知商標「御用邸」を含む本件商標「御用邸の月」を自己の商品(菓子)に無断で使用することは、請求人が長年の営業努力により培ってきた周知商標が有する高品質イメージ及び顧客吸引力を無断で利用することになり、請求人の業務上の信用を害し、更には、商標の希釈化を生じさせ、商標に化体した業務上の信用維持の保護を目的とする商標法の精神により維持される商品流通社会の秩序を侵害するものである。 よって、本件商標は、第4条第1項第7号に該当する公の秩序を害する商標である。 (7)結び 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第11号、同第15号、同第19号及び同第7号に違反してなされたものであるから、無効にされるべきである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。 答弁の理由 請求人は、被請求人が所有の本件商標に対して、商標法第4条第1項第7号、第10号、第11号、第15号及び第19号に違反する無効事由が存在すると主張している。 しかしながら、その主張を根拠づける事実としては、本件商標と請求人の代表者が所有の引用商標の類似性を主張し、更に取引の実情を主張するにとどまるものであり、被請求人としては、到底請求人の主張を認めることはできない。 1 商標法第4条第1項第7号について 請求人は、審判請求書において甲第1号証ないし甲第34号証を示し、請求人の所有に係る登録商標「御用邸」の周知性を主張しようとし、更に当該周知性をもって、被請求人所有の登録商標「御用邸の月」の使用が請求人の業務上の信用を害し、商品流通社会の秩序を侵害するものであるので、公の秩序を害するものであると結論づけている。 ここで思料するに、商標法第4条第1項第7号の規定は、公益的観点から、公序良俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない旨を規定するものであり、その立法趣旨から見て、その時代に相応する社会通念に照らし、当該商標をその指定商品に使用することが社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳観念に反するような場合を想定しているのであり、請求人がいう「商品流通社会の秩序を侵害するものである」こと、更には、その事によって「公の秩序を害する」ものとする論拠が審判請求書には、全く見当たらず、被請求人所有の登録商標に商標法第4条第1項第7号に関する登録無効が存在するとする主張が理解しかねる。 2 商標法第4条第1項第10号について (1)請求人の代表者が所有の登録商標は、「御用邸」の文字を縦書きしてなるものである。 「御用邸」とは、「皇室の別邸」を意味する言葉であり(乙2)、現在、我が国においては、栃木県の那須郡那須町にある「那須御用邸」、神奈川県三浦郡葉山町にある「葉山御用邸」及び静岡県下田市にある「須崎御用邸」の三か所に存在するが(乙3)、かつては、日本の十数か所の地域に、例えば栃木県日光市田母沢にあった「日光田母沢御用邸」等のように所在地の名称を付した「御用邸」が日本各地に存在していた(乙5)。 現在、栃木県那須郡那須町にある「那須御用邸」は、大正15年に建てられた皇室の別邸として、我が国において、戦前より現在に至るまで広く知られているものである(乙3)。特に、栃木県那須地方を中心とする地域においては、長年にわたり、当該皇室の別邸の存在が人々の生活に根差していたことから、「御用邸」と言えば、那須町に現存する皇室の別邸たる、具体的な建物及びその所在地を意味しており、それ以外の固有の商品及び商品の出所等を表示するものとして、一般的には認識されておらず、今日においてもそのことに変わりはない。 (2)よって、請求人の代表者が所有の登録商標は、請求人の商品の出所を表示する機能を獲得するには至っておらず、周知性検討の前提を欠くものである。 (3)周知性の要件 東京高判昭和58年6月16日(無体財産権関係民事・行政裁判例集15巻2号)は、全国的に流通するコーヒー豆を扱う業者の商標に関する事案において、周知性の要件について「商標法第4条第1項第10号が規定する『需要者間に広く認識されている商標』といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実にかんがみ、後に出願される商標を排除し、また、需要者における誤認混同のおそれがないものとして、保護を受けるものであること及び今日における商品流通の実態及び広告、宣伝媒体の現況などを考慮」し、「商標登録出願の時において全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、狭くとも県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要すものと解すべき」旨述べている。 (4)以上のような観点から考察するに、請求人が商品として扱うのは、主としてベイクドチーズケーキであり、これらは、現在の我が国の流通条件下では、全国に流通させることが可能であり、特定の地域でのみ嗜好・消費されるようなものではないことから、上記裁判例で扱われた商品たるコーヒー豆と同様の流通上の性質を有している。請求人は、そのような性質の商品を栃木県那須地方の土産品として流通させていることから、上記裁判例を踏まえると、請求人の使用に係る商標が周知性を獲得したというためには、少なくとも、被請求人に係る商標登録出願時である平成22年当時において、栃木県とその隣接数県の相当範囲の地域にわたって、同種商品取扱業者の半ば程度の層に認識されていたことを要すものである。 もっとも、請求人の主張によれば、請求人の商品であるベイクドチーズケーキは、取扱業者を通じて販売していたものではなく、請求人の経営する土産店において、関東の一地方である那須地方の土産として販売しているとのことであるので、販売対象となる需要者は、東京を中心とする関東圏に居住する者がそのほとんどであろうことからすれば、対象となる地域は狭く見積もっても関東1都6県とするのが妥当であり、周知性が獲得されたとするには、当該地域に居住する需要者の過半に知られていることを要するというべきである。 (5)請求人の宣伝広告及び販売 請求人は、「御用邸」の商標を表示したチーズケーキ等の商品を販売し、宣伝広告等もしているものの、その主たる販売拠点は請求人の土産店であり、その宣伝対象も栃木県の那須地方を中心とするものである。また、請求人が平成22年頃行った旨を主張する同商品の宣伝広告とは、栃木県の地方新聞(甲5、甲6)、全体又は一部に那須地方の観光情報が掲載された雑誌(甲7?甲14)、いずれも読者が限定されている媒体においてのみなされているものであり、その上、宣伝広告した総数もそれほど多くはないと判断される。 (6)販売数量 仮に請求人の主張のように「御用邸」の商標を付したチーズケーキが那須地方の土産品として、平成22年に年間約70万個販売されていたとしても、同チーズケーキの販売単価が1150円であること、平成22年の日本国内の洋生菓子の小売金額総額が約4530億円であること(乙5)、日本の人口が約1億2800万人であり、請求人の商品の主たる需要者が居住する関東1都6県の人口が約4260万人(乙6)であり、日本の総人口の約3分の1が居住していることからすれば、平成22年の売上をもって、請求人の当該商品に付された商標が周知性を獲得したものとは認められない。そもそも、請求人の主張においても、請求人がチーズケーキを年間70万個販売したのは、平成22年になってからであり、平成20年になる前は、長年にわたり、年間10万個から30万個程度しか販売できなかったのである(甲20)。したがって、請求人に係る商品の販売実績においても、平成22年当時において、請求人の代表者が所有する登録商標が周知性を獲得していたと認める事情は、一切存在しない。 (7)加えて、請求人の商品は、「御用邸チーズケーキ」として宣伝されており、「御用邸」が単独で請求人の商品を示すものとして認識されていたことを認めるに足る証拠はない。 (8)請求人の代表者の所有に係る登録商標「御用邸」と被請求人の所有に係る登録商標「御用邸の月」は、後掲に述べるとおり、類似しない。 (9)小括 以上のとおり、請求人の代表者の所有に係る登録商標は、請求人の商品を示すものとして周知ではなく、また、請求人の代表者の所有に係る登録商標と本件商標は、類似しないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号違反の登録無効事由はない。 3 商標法第4条第1項第11号について (1)要部観察に関する請求人主張の誤り 請求人は、被請求人に係る登録商標構成中の「の月」の部分が、指定商品との関係では頻繁に使用され、「『の月』の部分は、丸型の饅頭やケーキ菓子等をイメージさせるために従来より広く用いられているものであります。・・・(中略)・・・したがって、本件商標『御用邸の月』は、『御用邸』部分が存在することによって初めてその商標の識別機能が認められというべきであり・・・」旨を述べ、被請求人の所有に係る登録商標における要部は「御用邸」であると主張する。 しかしながら、商標において、出所識別機能を有しないと判断されるのは、当該商標中のある部分が当該商標の指定商品の内容や属性を示す普通名称に該当する場合や、当該部分が品質又は役務の質を表示する場合である。 本件商標の指定商品は、「菓子,パン」である。「月」という語は、辞書によるまでもなく「地球の衛星」や「暦の単位」等を意味するから、「の月」という表現が、菓子やパンに分類される商品の内容、属性又は品質を示しているとは、到底言えない。確かに、「月」という語は、満月の形状から「丸い」、「黄色」等のイメージを想起させるものであるが、だからといって、菓子・食品業界において「月」という語が「丸い菓子」や「黄色の菓子」を示す一般的名称として認識されているという事実はない。 菓子(和菓子及び洋菓子)、パンのほかにもシュウマイ、たこやき、にくまんじゅう等多くの丸い形状の食品が多い商品・役務区分第30類においても「?の月」という表現を含む商標は、たかだか200件程度しか登録されていないこと(甲31)、一方、第30類においては、「?の里」という表現を含む商標が700件程度登録されており(乙7)、このことからも「?の月」という表現を含む商標登録数が多いものではない。 以上より、「の月」という表現は、菓子やパンの内容、属性又は品質等を示す普通名称ではないことが明らかである。 よって、「の月」の部分が出所識別機能を有しないとする請求人の主張は、誤りである。したがって、被請求人に係る商標の要部を「御用邸」として類似判断を行おうとする請求人の主張は、前提段階からして誤りである。 (2)本件商標は、「御用邸の月」の文字よりなり、これらの文字は同書、同大、等間隔で一連一体のものとして表現されている。また、これらの文字から生ずる「ゴヨウテイノツキ」の称呼は、格別冗長ではなく、よどむことなく一連に称呼し得るものである。後述のように、これらの文字から生ずる観念は、「皇室の別邸から見える月」、「皇室の別邸にのぼる月」というような風景を想起させるものである。 以上からすれば、被請求人に係る商標はその構成全体をもって不可分一体の商標と認められる。 (3)外観について 引用商標は、「御用邸」の文字からなり、本件商標は、「御用邸の月」の文字からなるため、後半部分において「の月」の有無により、両商標は、明らかな差異を有していることから、外観において十分に識別し得るものである。 (4)観念について 引用商標からは、「皇室の御用邸」という建物、場所についての観念が生ずる。他方、本件商標からは、前述のように「皇室の御用邸から見える月」又は「皇室の御用邸にのぼる月」というような観念が感得され、月が見える風景についての観念が生じる。したがって、両商標は、観念上、決して紛れることのない非類似商標である。 (5)称呼について 引用商標から生ずる称呼は、5音から呼称される「ゴヨウテイ」であるのに対して、本件商標から得られる称呼は、8音からなる「ゴヨウテイノツキ」であることが明白であり、両者の称呼上の相違は、「ノツキ」の有無であり、明らかな称呼上の差異が認められるものであるから、両商標は、称呼上も非類似の商標である。 (6)商取引の具体的状況について 請求人の主たる商品はチーズケーキであり、195×195×60mmの外箱に、直径約150mm、高さ約30mmの商品一個が入っているものである。その外箱は、無地であり、大きく黒文字で縦書きに「御用邸」と表示され、そのすぐ横に当該「御用邸」の文字に比して小さな黒文字により縦に「チーズケーキ」と表示されている(甲7、甲8)。 一方、被請求人の商品は、カステラでクリームを包み、蒸して作られる蒸生菓子であり、その形状は直径約60mm、高さが約30mmの半球状の物である。また、被請求人の商品は、内側にセロハンで外側にビニールという二重の包装がなされており、内側のセロハン包装紙に朱色文字の縦書きで「御用邸の月」と表示されている。また、被請求人の商品は、ばら売りされているほか、4ないし6個、8個、10個及び15個入りの化粧箱にて販売に供されている。これらの化粧箱の包装紙には、いずれも黄色い満月の絵が描かれ、その横に大きく茶色文字の縦書きにより「御用邸の月」との表示がなされている(乙8)。 以上のように、両商品は、商品そのものの形状、外観及びその包装の形状が明らかに異なっており、各商品の外箱又はその包装紙においては、外観上において明確に識別し得る各商標が大きく表示されているのである。 (7)各商品の内容 上記両商品の内容を比較すると、請求人に係る商品は、焼いて作られるチーズの風味の強いケーキ(ベイクドチーズケーキ)であるのに対して、被請求人に係る商品は、カスタードクリームが中心となる蒸生菓子であり(乙9)、嗜好の異なる菓子であることが明らかである。そのため、対象となる需要者にも当然に相違が生ずる。 (8)販売態様 各々の商品は、主として各当事者がそれぞれ経営、設置する販売店舗において個別に販売されている。それに加え、被請求人が商品を卸している高速道路のサービスエリア内、JRの駅構内及びホテル内にある小売店では、請求人の商品と被請求人の商品が、明確に区別されたそれぞれの商品販売用のブースにおいて販売されている。さらに、被請求人としては、平成23年7月の被請求人に係る「御用邸の月」発売以後、現在に至るまで、販売店及び需要者から「商品を混同した。」等のクレームを受けたことは、1件もないことを付言する。 以上のように、実際に各商品が販売されている実情においても、上記両商品が隣接して並べられ、混在して販売されるといった事実は存在せず、両商品は、明らかに区別され、混同される要素はない。 (9)小括 以上のように、上記両商標を外観、観念、称呼及び取引の具体的状況について検討した結果、そもそも両商標は、外観、観念、称呼のいずれにおいても類似しておらず、実際の商標を付した各商品取引の具体的状況においても明確に区別可能であることから、両商標の使用がそれぞれの商品の出所について誤認・混同を生じさせるおそれは、皆無であると思料される。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の登録無効事由は存在しない。 4 商標法第4条第1項第15号について 商標法第4条第1項第15号は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標を登録阻害事由として定めるものであるが、前述のとおり本件商標と引用商標とは、類似するものではないから、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人に係る商品と混同を生ずるおそれはないから、商標法第4条第1項第15号の登録無効事由も存在しない。 5 商標法第4条第1項第19号について 本号の趣旨は、国内外の著名商標の希釈化防止にあるところ、そもそも、引用商標には周知性が認められないことは、前述のとおりである。また、本件商標についても、既述のとおり、請求人の代表者所有に係る登録商標とは類似していない。したがって、被請求人に係る登録商標が本号に該当することはないが、さらに、被請求人に「不正の目的」、すなわち不正の利益を得る目的も、他人に損害を加える目的もないことを付言する。 (1)引用商標は、皇室の別邸として広く知られている「御用邸」の文字をそのまま使用したものであり、請求人に係る造語でもなく、構成上顕著な特徴を有するものでもない。加えて、引用商標は、請求人の商品の出所を示すものとして、日本国内において周知なものではない。請求人は、「御用邸チーズケーキ」との表示を使用しているのであって、仮に何らかの需要者の認識が認められるとしても、「御用邸」としてではなく、あくまで「御用邸チーズケーキ」としての認識にとどまるものである。 (2)那須地方に在住する需要者、旅行者として訪れる需要者にとって「御用邸」とは、那須の御用邸という那須にある皇室の別邸を意味するものであって、特定の商品の出所を示すものとの認識が得られるものではない。 したがって、引用商標とは類似しない商標の使用に、引用商標の著名性にただ乗りするというような意図を読み取ることは、到底できないのである。 以上より、被請求人には、不正の目的もないため、商標法第4条第1項第19号の登録無効事由も存在しない。 6 結論 以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号、同第19号のいずれにも違反してされたものでない。 第5 当審の判断 1 請求人の使用に係る商標「御用邸」の周知・著名性及び「御用邸」の語の独創性について (1)「御用邸」の語について 「御用邸」とは、「皇室の別邸」を意味する語である(乙2)。そして、「御用邸」は、現在、栃木県の那須郡那須町、神奈川県三浦郡葉山町及び静岡県下田市の三か所に存在し、これら御用邸は、天皇皇后両陛下・皇太子同妃両殿下・皇族方がご静養に使用される場である(乙3)ことが知られていることから、上記各地域にある御用邸は、一般に広く知られているものということができる。 (2)請求人の使用に係る商標「御用邸」の周知・著名性について 請求人は、「菓子製造と販売」を主たる業務とする製造会社(甲3)であり、請求人会社の代表者である手塚清は、「御用邸」の文字よりなる商標を平成5年9月21日に第30類「菓子及びパン」を指定商品として特許庁に登録出願し(甲2)、請求人は、平成6年よりチーズケーキに本件商標を使用した「御用邸チーズケーキ」の販売を開始した(甲20) 「御用邸チーズケーキ」は、平成12年にオープンした請求人が経営する「チーズガーデン五峰館」で販売している(甲5)ほか、請求人の主張によれば、請求人のホームページをはじめ、JR宇都宮駅、JR上野駅、東北自動車道 那須高原サービスエリア下り、同 上河内サービスエリア下り、同 上河内サービスエリア上り、同 佐野サービスエリア上り、道の駅 どまんなか田沼、ホテル サンバレー那須、ホテル ラフォーレ那須、ホテル東急ハーヴェスト那須、ホテルエビナール那須、大丸百貨店 東京店、阪急百貨店 梅田本店、同 大井食品館、新宿京王百貨店、東武百貨店 宇都宮店、同 船橋店、同 池袋店、福田屋百貨店 宇都宮店、ショッピングモール ベルモールで販売され、平成22年には、約77万個が販売されている(甲20)。 なお、「チーズガーデン五峰館」の入館数は、平成21年ころには、年間100万人を超え(甲20)、那須への旅行客が訪れることが多い人気スポットとなっている。 また、「御用邸チーズケーキ」について、旅行雑誌など、那須地方に関する雑誌等に掲載されているほか(甲4?甲14)、那須周辺道路への看板(甲15)、東京駅での広告(甲16)などが行われたことが認められ、また、東京をキー局とするテレビ局を中心に番組に取り上げられたことがあることが認められる。 そして、平成18年ころから、チーズケーキ以外の菓子に「御用邸」の商標を使用して販売していることが認められる。 請求人の使用する商標「御用邸チーズケーキ」は、商品の包装や広告には「御用邸」の文字を特徴のある書体で大きく表し、「チーズケーキ」の文字を一般的な書体で小さく表して使用されているが、新聞、雑誌あるいは個人のブログでは、「御用邸チーズケーキ」のように使用され、「御用邸」の文字のみにより使用された事実は見当たらない。 以上によれば、本件商標の登録出願時及び査定時において、「御用邸チーズケーキ」は、那須を訪れる旅行客を中心に請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く知られているものということができ、「御用邸」についても、商品や広告において、当該文字部分が顕著に表されていることから、特にチーズケーキを中心に請求人の業務に係る商品を表示するものとして、ある程度知られていたものということができる。 2 商標法第4条第1項第11号について 本件商標は、「御用邸の月」の文字よりなるものであるところ、これよりは、「ゴヨウテイノツキ」の称呼を生じ、「皇室の別邸より見る月」又は「皇室の別邸に昇る月」ほどの一体的観念の生ずる造語よりなるものである。 請求人は、本件商標「御用邸の月」における「の月」部分は、菓子について慣用されている文字であること、本件商標と同じような字配りからなる商標にあっては、その月に係る対象物である物、名所等が商品の出所表示機能の役割を果たす事項として認識されることなどから、本件商標の「御用邸」の文字部分がその要部であると主張している。 しかしながら、「の月」の文字が、本件商標の指定商品において商品の形状や品質を表すものとして慣用されているとはいえないし、本件商標の構成中、「御用邸」の文字は、前記のとおり、「皇室の別邸」を意味する語として広く知られている語であり、「月」の文字は、夜空に輝く天体(月)を意味する語として広く知られている語であって、本件商標は、その構成全体として前記のとおりの観念を生ずるものであるから、請求人の使用する「御用邸チーズケーキ」若しくは「御用邸」の商標が需要者に広く認識されていることを考慮しても、「御用邸の月」の文字からなる本件商標に接する需要者は、その「御用邸」の文字部分について「皇室の別邸」である「御用邸」を認識するというべきであり、請求人の業務に係る商品及び使用する商標を想起するものとはいえず、本件商標は、前記観念を生ずる一体不可分の商標というべきである。したがって、本件商標は、その構成文字より、「御用邸」の文字部分のみを抽出して認識されるものではなく、当該文字部分が本件商標の要部ということはできない。 そこで、本件商標と引用商標とを比較するに、外観においては、「の月」の存否によって、外観上明瞭に区別でき、称呼においては、本件商標の称呼が「ゴヨウテイノツキ」であるのに対し、引用商標の称呼は、「ゴヨウテイ」であるから、両称呼は、その構成音及び構成音数が明らかに相違し、これらを一連に称呼した場合であっても、十分に聴別し得るものである。 また、観念においては、本件商標の観念が「皇室の別邸より見る月」又は「皇室の別邸に昇る月」ほどの観念であるのに対し、引用商標は、「皇室の別邸」の観念を生じ、相違する。 してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれからみても、何ら相紛れるおそれのない、非類似の商標である。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第10号及び同第19号について 本件商標は、請求人の使用する「御用邸」の商標とは、前記のとおり、非類似であり、同様に「御用邸チーズケーキ」の商標と非類似である。 してみれば、その余の点について論及するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号又は同第19号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第15号について 請求人の業務に係るチーズケーキ等の菓子を表示するものとして「御用邸チーズケーキ」あるいは「御用邸」が需要者に広く認識されているとしても、当該「御用邸」が、一般に広く知られている「皇室の別邸」の観念を凌駕するほどに請求人の商品の取引指標として、周知、著名であるとは認められないばかりでなく、前記2及び3の認定のとおり、本件商標と「御用邸」又は「御用邸チーズケーキ」とは、何ら相紛れるおそれのない別異の商標であるから、これをその指定商品について使用しても、これに接する取引者・需要者が請求人又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第7号について 請求人は、被請求人が本件商標を自己の商品(菓子)に使用することは、請求人が長年の営業努力により培ってきた周知商標が有する高品質イメージ及び顧客吸引力を無断で利用することになり、請求人の業務上の信用を害し、更には、商標の希釈化を生じさせ、商標に化体した業務上の信用維持の保護を目的とする商標法の精神により維持される商品流通社会の秩序を侵害するものであるとして、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する旨主張しているが、本件商標は、「御用邸の月」の文字よりなるものであるところ、申立人提出の証拠によっては、商標権者に本件商標の出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く等の事実は認められず、本件商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」ということはできない。 してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当しない。 6 結び 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-27 |
結審通知日 | 2012-11-29 |
審決日 | 2012-12-18 |
出願番号 | 商願2010-92300(T2010-92300) |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Y
(X30)
T 1 11・ 252- Y (X30) T 1 11・ 271- Y (X30) T 1 11・ 262- Y (X30) T 1 11・ 222- Y (X30) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小田 明 |
特許庁審判長 |
野口 美代子 |
特許庁審判官 |
内山 進 前山 るり子 |
登録日 | 2011-05-27 |
登録番号 | 商標登録第5415157号(T5415157) |
商標の称呼 | ゴヨーテーノツキ |
代理人 | 阪本 清孝 |
代理人 | 矢野 義宏 |
代理人 | 本名 昭 |