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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X12
管理番号 1278947 
審判番号 無効2012-890108 
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-21 
確定日 2013-08-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5100467号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5100467号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5100467号商標(以下「本件商標」という。)は、「NANKANG NS-2」(なお、「2」はローマ数字。以下同じ。)及び「ナンカンエヌエスツー」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成19年3月30日に登録出願され、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」を指定商品として平成19年12月21日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第61号証(枝番を含む。)を提出している。
1 無効事由
本件商標は、その出願以前から請求人が自己の商標(ハウスマーク)として請求人の本国である台湾(並びに、その他の国において)数十年に亘り自動車用タイヤに使用し、取引者・需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似であり、また、本件商標の権利者は、請求人と一定の取引関係がありながら請求人に無断で本件商標を出願・登録を得たものであるから、不正の目的に基づく行為であることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当し、登録されるべきではない。
2 請求人について
請求人「ナンカン ラバー タイヤ コーポレーション リミテッド」(漢字名称「南港輪胎股○(←にんべんに分)有限公司」;欧文字名称「NANKANG RUBBER TIRE CORP.,LTD.」)は、自動車用タイヤの製造販売を業として1959年に設立された台湾の法人(有限公司)であり、台北に本社と工場を置き、1973年には第二工場を台湾・新竹の新豊地区に新設する等、事業を急速に拡大させてきた。また、自動車用タイヤの技術を応用して、1973年にはヘリコプター用タイヤ、1976年には飛行機用タイヤにも業務分野を広げている。自動車用タイヤについては、1974年にはラジアルタイヤの製造技術を確立、さらに、1980年には同技術を利用して普通車ばかりでなくトラックやバス用のラジアルタイヤを開発、1997年には輸出向けにスタッドレスタイヤの製造を開始する等、製品ラインアップの拡大に努めてきた(甲2)。
現在、スポーツタイヤからスタッドレスタイヤに至るまで様々なタイヤを製造しているが、これらの製品全てに、請求人名称「NANKANG RUBBER TIRE CORP.,LTD.」に由来する商標「NANKANG」が使用されてきた。これらの製品は、日本にも輸入され、「ナンカン」(NANKANG)ブランドにて販売されており、価格競争力の優位性を活かした低価格によるコストパフォーマンスの高さから愛用されている。また、軽自動車用の18インチなど極端なインチアップサイズのタイヤも製造していることで著名である。日本の他、アメリカやヨーロッパ、オセアニア、アフリカ等世界中の各国にタイヤを輸出している(甲2)。
3 引用商標とその周知性について
(1)請求人は、様々なタイプの自動車用タイヤを製造しており、これらの製品に商標「NANKANG」を付して販売する他、自動車用タイヤの需要者に人気がある自動車専用雑誌を介した宣伝広告その他のプロモーション活動あるいは自己のウェブサイトを介した製品紹介等の際に、「NANKANG」の文字からなる商標(以下「引用商標1」という。)、並びに、別掲(A)及び(B)のとおり、「NANKANG」の頭文字「N」をモチーフとする図形と文字「NANKANG」との結合からなる2種類の商標(以下、別掲(A)の商標を「引用商標2」といい、別掲(B)の商標を「引用商標3」という。また、これらをまとめて「引用商標」という場合がある。)を使用している(甲3?甲15)。
(2)請求人の自動車用タイヤの台湾における年間販売額(新台湾ドル)は、2000年はNT$1,103,066,000、2001年はNT$662,788,000、2002年はNT$721,668,000、2003年はNT$656,637,000、2004年はNT$499,794,000、2005年はNT$506,172,000、2006年はNT$427,459,000、2007年はNT$351,432,000(甲16?甲23、甲33)。
(3)請求人は、この間(2001年1月1日?2007年12月31日)、台湾において、引用商標の使用に係る自動車用タイヤに関する宣伝広告をしており、同期間中における宣伝広告活動の内訳及びその所用費用は、甲第25号証の一覧表に示すとおりである。
宣伝広告活動は、例えば、雑誌「超越車訊(TW MOTOR)」、「MOTOR MAGAZINE」、「OPTION」、「specR」等によるものであるが、これらの雑誌は自動車購買層(すなわち、自動車用タイヤの購買層)がよく閲覧するものであり、低費用のわりに極めて効率の高いものとなっている。
請求人の自動車用タイヤは、特許により守られ(甲30)、また、同製品に使用する商標も登録により保護されている(甲31)。
(4)甲第33ないし第41号証は、引用商標が本件商標の出願・登録の時点において台湾国内で周知性を有していたことに関する宣誓書である。請求人の代表者をはじめ、台湾国内の自動車用タイヤ業界をよく知る人物が、当該周知性を認めている。
甲第42ないし第58号証は、2002年から2005年にかけて、台湾国内で人気の各種自動車雑誌に掲載された請求人の広告の一部である。上記請求人代表者による宣誓書(甲33)によれば、2005年の年間発行部数は「超越車訊(TW MOTOR)」誌が70万部、「改装車訊(Option)」誌が54万部、「汽車性能情報(SPEC R)」誌が45万部であり、かなり多くの読者が請求人の広告を目にしていることになる。
甲第59ないし第61号証は、台湾国内で見られる請求人の看板の写真等である。請求人代表者による宣誓書(甲33)によれば、2007年1月1日の時点では、台湾国内の150か所の自動車修理工場・自動車部品販売店に請求人の看板が設置されており、自動車ドライバーをはじめとする多くの台湾国民に認識されていたものと思料する。
(5)請求人は、「台北市」「台北県」「桃竹苗」「中部」「南部」「東部」の各地区に多くの販売拠点を設置し、台湾全土で請求人製品を供給できる体制を整え、また、台湾のタイヤ販売業者に対するセールス活動を積極的に行っている。
台湾の総人口は約2000万人であり、また、国土も比較的狭いものであるので、請求人の行うプロモーション活動により、自国のタイヤメーカーである請求人の自動車用タイヤの全てについて使用される請求人の引用商標1ないし3は、本件商標の出願・登録の時点において、自動車用タイヤに関する専門知識を有する自動車用タイヤ販売業者はもちろんのこと、自動車の購入予定者及び保有者、そして、タイヤ交換を控え自動車用タイヤに関心を有する需要者層に広く知られていた。
4 商標の類否について
引用商標1は、欧文字「NANKANG」から構成され、「ナンカン」の称呼を生ずる。
他方、本件商標は、欧文字「NANKANG」と「NS-2」を並べたものと片仮名「ナンカンエヌエスツー」とを上下二段に構成したものであり、その全体構成から「ナンカン」の称呼を生ずる。また、本件商標を構成する欧文字「NANKANG NS-2」と片仮名「ナンカンエヌエスツー」は分離して観察されるべきものであり、それぞれ、欧文字「NANKANG NS-2」と片仮名「ナンカンエヌエスツー」のそれぞれから「ナンカン」の称呼を生ずる。ちなみに、本件商標中の「NS-2」及び「エヌエスツー」の文字は、請求人の自動車用タイヤの数あるラインナップについて、特定の製品を示す型番に相当する。
また、引用商標2及び3は、その全体構成から「ナンカン」の称呼を生ずるほか、その構成要素である「N」図形と欧文字「NANKANG」は分離して観察されるべきものであるところ、欧文字「NANKANG」から「ナンカン」の称呼を生じ、他方、本件商標は、上記のとおりである。
このような次第につき、本件商標は、その外観及び称呼において、引用商標と極めて紛らわしく、出所の混同を生ずるおそれがある類似の商標である。
5 不正の目的について
(1)被請求人(商標権者)は、自動車用タイヤの卸売・小売を業とする法人であり、日本のタイヤメーカーの製品を取り扱うばかりでなく、台湾・韓国その他の諸外国のタイヤメーカーの製品を輸入し日本国内において販売している。
被請求人は、2002年や2005年に請求人が製造する各種の自動車用タイヤを輸入し、既に、本件商標の出願日以前から請求人と商取引関係にあった。また、被請求人が輸入した自動車用タイヤの中には、需要者に極めて人気が高く、請求人の主力商品の1つである製品(NS-2)も含まれている。本件商標を構成する「NS-2」「エヌエスツー」はこれに相当する。また、「NS-2」ばかりでなく、請求人の製品の中には多くの型番を含む「NANKANG」シリーズがあり、被請求人が輸入した自動車用タイヤの中には数多く含まれている(甲26、甲27)。
ちなみに、請求人は、被請求人以外の日本の自動車用タイヤ輸入販売業者とも商取引がある。この中には、需要者に極めて人気が高く、請求人の主力商品の1つである上記製品(NS-2)をはじめとする「NANKANG」シリーズも多く含まれている(甲26、甲28、甲29)。そして、請求人とこれ以外の輸入販売業者は、商業上の競合関係にある。
(2)被請求人は、国内外で製造された自動車用タイヤを日本において販売することを業としているので、同様の業務に従事する数多くの当業者と同じように、国内外の自動車用タイヤメーカーを十分に認識する立場にある。そして、被請求人は、上記のように、自動車用タイヤの世界的メーカーの1つである請求人の製品(すなわち、引用商標1の使用に係る自動車用タイヤ)を繰り返し輸入しており、請求人と一定の安定した商取引関係にあった。
しかるに、被請求人は、2007年に、請求人に無断で請求人の商標と同一又は類似関係にある本件商標を出願し登録を得た。すなわち、被請求人は、請求人の商標であることを明白に認識しながら、請求人に何の断りもなく、こっそりと、本件商標の日本登録を図った。
(3)請求人と被請求人は一定のビジネス関係にあった。そもそも、ビジネスは両者間の商業上の信頼関係・信義則を基礎に成り立つ。商取引の対象となる商品について使用される商標の登録に危惧があれば、相手方に商標登録の有無を確認し出願を勧めるのが極めて一般的な商業上の常識である。
しかるに、被請求人は、請求人に対して日本登録を勧めたわけでもなく、また、請求人に代わって被請求人が商標登録を得ることを請求人に対して相談したわけでもなく、無断で、こっそりと、本件商標の登録を得た次第である。仮に、被請求人が、請求人商標の使用に係る請求人自動車用タイヤの日本への輸入販売に強い危惧を抱いていたのであれば、無断で出願・登録するのではなく、請求人による出願の勧め、あるいは、被請求人による出願についても事前相談をすればよいことである。そのようなことをすることなく、請求人に無断で出願・登録したのは、請求人商標を取得することにより、将来起こり得るであろう請求人とのさまざまな交渉の場において有利な立場に立つために利用できるかもしれない、あるいは、同じ製品を輸入販売する競合他社との間で優位に立てるかもしれないといった意図(すなわち、本来的な商業行為によって実現すべきことを、他人の商標の無断登録によって実現できるとの期待)に基づくと解することができる。
被請求人は、現在も、本件商標が請求人の商標であることを認識しながら、これを請求人に返還(すなわち、譲渡)していない。
(4)これらの事情を総合的に勘案するに、請求人は、本件商標を不正の目的をもって出願・登録したと認定すべきである。
このように解することが、商標法第4条第1項第19号の立法趣旨に合致する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第13号証(枝番を含む。)を提出している。
1 商標法第4条第1項第19号について
商標法第4条第1項第19号は、ア)本件商標が、他人の業務に係る商品又は役務を表示する商標と同一又は類似であること、イ)その他人の商標が日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されていること、ウ)本件商標が不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用をするものであること、を必須の要件としている。
よって、これらの要件を個別に検討し、本件商標が商標法第4条第1項第19号に違反してなされたものではないことを以下に証明する。
2 本件商標と引用商標の類否について
(1)日本国内で本件商標の出願時又は査定時に、文字列「NANKANG」が周知であったという事実はなく、また、特定のものを示す単語でもなかったから、文字列「NANKANG」が、特定の観念、称呼をもって親しまれていなかったのは明らかである。そうすると、本件商標と引用商標の類否を判断するに当たっては、文字列「NANKANG」を本件商標の要部として扱うことができないのは明白である。
そして、本件商標中の「NANKANG」を除く部分、即ち、「NS-2」や「ナンカンエヌエスツー」それぞれについても、日本国内で本件商標の出願時又は査定時に特定の観念、称呼をもって親しまれていなかったのであるから、本件商標は、全体観察によって引用商標との類否を判断すべきことは疑う余地もない。
(2)まず、観念の点について、本件商標と引用商標を比較すると、本件商標には、上述したように、特定の観念が存在せず、さらに、引用商標にも、特定の観念が存在しない。したがって、観念の点について両商標は類否の判断すら行えず、本件商標と引用商標とは、同一でなく、かつ、類似でもないことは明らかである。
(3)次に、称呼の点について検討すると、本件商標は、「NANKANG NS-2」と「ナンカンエヌエスツー」を二段に書してなり、上段中の「NANKANG」部分は、上述したように、本件商標の出願時又は査定時に日本において親しまれていた語ともいえないから、本件商標はその構成全体を一体不可分のものとし認識し把握されるとみるのが自然である。
また、「NS-2」についても、本件商標の出願時又は査定時に日本において親しまれていた語でない。
そうすると、上段の「NANKANG NS-2」は特定の称呼、観念をもって親しまれていた語ではなかったから、下段に「ナンカンエヌエスツー」の読み方を表記する本件商標は、「ナンカンエヌエスツー」の称呼のみが生じるというのが相当である。
一方、引用商標1からは、「ナンカング」あるいは「ナンカン」の称呼が生じ、引用商標2及び3からは、「エヌナンカング」又は「エヌナンカン」の称呼が生じる。
そこで、本件商標から生じる「ナンカンエヌエスツー」の称呼と、引用商標から生じる「ナンカング」、「ナンカン」、「エヌナンカング」及び「エヌナンカン」の称呼とをそれぞれ比較すると、その全てが非類似の関係にあるのは疑う余地がない。
なお、請求人は、本件商標がその全体構成から「ナンカン」の称呼を生じる旨主張しているが、その根拠が全く記されておらず、その主張は到底受け入れられるものではない。
(4)そして、外観の点について検討すると、本件商標は、上下段にそれぞれ「NANKANG NS-2」及び「ナンカンエヌエスツー」を並べた全体として一つの外観を備えるのであって、ここから上段のみを取り出し、更に、上段の「NANKANG NS-2」の中で「NANKANG」部分のみに着目して、外観において、本件商標と引用商標の類否を判断することは到底許されることではない。
仮に、そのように、本件商標中の「NANKANG」部分のみを特別視して本件商標と引用商標の類否を判断するのであれば、それなりの理由があってしかるべきであるが、請求人の主張にはその正当な理由が皆無である。
したがって、本件商標が、引用商標にはない「NS-2」や「ナンカンエヌエスツー」の文字を備えていることを考慮すると、本件商標と引用商標とは、外観において非類似であることは明白である。
さらに、引用商標2及び3においては、「N」をモチーフにする図形の部分が極度に装飾されているのであるから、この極度な装飾を伴った部分を備える引用商標2及び3と本件商標とは似ても似つかない非類似の関係にあることは疑う余地がない。
(5)上記(1)ないし(4)より、本件商標と引用商標が非類似であることは明らかである。
3 仮に本件商標と引用商標が類似するものであっても、引用商標が商標法第4条第1項第19号周知性を備えていたことは認められないこと
(1)請求人は、ア)台湾における請求人の自動車用タイヤの年間販売額、イ)宣伝広告に関する一覧表(甲25)、ウ)台湾特許証(甲30)、エ)台湾商標登録証(甲31)等を挙げて、引用商標が、本件商標の出願時及び査定時において台湾で周知であった旨を主張する。しかしながら、そのような請求人の主張は到底受け入れることができない。
(2)まず、請求人が主張する内容及び請求人から提出された証拠を基に、引用商標が本件商標の出願時及び査定時において台湾で周知であったか否かを検討する。
ア 台湾における請求人の自動車用タイヤの年間売上額について
(ア)2000年ないし2007年の台湾での自動車用タイヤの年間販売額は、大半が前年より減少し、全体として2007年に近づくにつれ、台湾での自動車用タイヤの売上が減少傾向にあることが分かる。また、その各年における請求人の台湾での自動車用タイヤの年間販売額自体、それぞれの額が、本件商標の出願時又は査定時に引用商標が台湾で周知であったことを推認させ得る程度に大きい額ともいえない。これに加え、請求人が台湾国内市場向けに販売した自動車用タイヤ全てに引用商標が付されていたかどうかは不明であり、さらに、請求人が台湾国内市場向けに販売した自動車用タイヤが台湾の輸出業者を通して海外に輸出され得ることも考えられることから、2000年ないし2007年の各年における請求人の台湾での自動車用タイヤの年間販売額として請求人が上申書に示すそれぞれの額の全てを、引用商標が台湾で周知であったことを示すための証拠として扱うことはできない。
したがって、2000年ないし2007年の各年における請求人の台湾での自動車用タイヤの年間販売額から、引用商標が本件商標の出願時又は査定時に台湾で周知であったとは決していえず、全体として2007年に近づくにつれ台湾での自動車用タイヤの売上が減少していることに着目すると、むしろ、引用商標が本件商標の出願及び査定がなされた2007年には台湾で周知でなかったことを窺い知ることができる。
(イ)また、甲第23号証の第47頁の上段の表から請求人の2007年(96年度)の台湾市場向けの自動車用タイヤの年間販売数が分かるため、これを基に、2007年における台湾での請求人のタイヤのシェアを換算して、以下に、引用商標の周知性の有無を検証する。
一般財団法人自動車検査登録情報協会の資料によると、2012年の日本国内における乗用車の保有台数は58、729、343台であり(乙1)、1台の乗用車が4本のタイヤを装着するので、日本の乗用車全体では、234、917、372本のタイヤが装着されていることになる。また、一般社団法人日本自動車タイヤ協会の資料によると、2012年の日本国内における乗用車用タイヤの出荷実績は90、496、000本である(乙2)。ここで、日本の乗用車全体で装着されているタイヤの本数を日本国内の年間の乗用車用タイヤの出荷実績で割ると、タイヤの平均的な使用期間の参考値を得ることができ、234、917、372を90、496、000で除算して、タイヤの平均使用期間は約2.6年となる。日本と台湾でタイヤの平均使用期間は大きく異ならないと考えられるため、ここでは台湾でのタイヤの平均使用期間も2.6年とする。
そして、福岡県のホームページに掲載されている「台湾の自動車産業について」のレポートの記載から2011年5月時点での台湾における乗用車の自動車登録台数は約590万台であることが分かるため(乙3)、1台の乗用車が4本のタイヤを装着し、平均2.6年間使用されるとすると、(5、900、000×4)÷2.6≒9、076、923より、台湾市場全体では、年間9、076、923本の乗用車用のタイヤが販売されていると類推される。
ここで、甲第23号証の第47頁の上段の表から請求人の2007年の国内市場向けの自動車用タイヤの年間販売数が253、000本であることが分かるので、253、000本の9、076、923本に対する比率である約2.8%が請求人の台湾での自動車用タイヤのシェアを示す参考値であることが分かる。しかも、上記表から読み取れる請求人の2007年の台湾市場向けの自動車用タイヤは乗用車以外のバスやトラック用のタイヤが含まれていると考えるのが自然であり、また、請求人が台湾国内市場向けに販売された自動車用タイヤ全てに引用商標が付されていたかどうかは不明であり、さらに、請求人が台湾国内市場向けに販売した自動車用タイヤが台湾の輸出業者を通して海外に輸出されることも考えられることから、引用商標が付された自動車用タイヤの台湾市場でのシェアは2.8%より低いと類推される。
したがって、引用商標が付された自動車用タイヤの台湾市場でのシェアを参酌すると、本件商標の出願時及び査定時、即ち2007年に、引用商標が台湾で周知であったとは到底考えられない。
イ 宣伝広告に関する一覧表(甲25)について
甲第25号証は、請求人が作成した資料であると推認されるが、本事案に関係する当事者が作成する資料の信憑性は極めて低く、これをもって引用商標が周知であることを示し得ないのは明らかである。
また、甲第25号証に記載された個々の宣伝広告活動の全てが、自動車用タイヤに使用する引用商標に関連するか否かは不明である。
そして、請求人は、甲第25号証に示された「超越車訊」、「MOTOR MAGAZINE」、「OPTION」、「specR」の各雑誌は、自動車購買層がよく閲覧するものであると主張した上で、さらに、甲第33号証を示し、2005年の年間発行部数は、「超越車訊」が70万部、「OPTION」が54万部、「specR」が45万部である旨述べているが、そもそも甲第33号証は、請求人の代表者による宣誓書であってその信憑性は著しく乏しく、請求人の主張は到底受け入れられない。
したがって、甲第25号証は、引用商標が周知であったことを示す証拠たり得ない。
ウ 特許証(甲30)及び商標登録証(甲31)について
まず、請求人がタイヤの特許権又は商標権を取得していることと、引用商標の台湾での周知性とは全く関係がない。
また、台湾の商標法は登録主義を採用しており、商標の周知性に関係なく登録される。よって、甲第31号証により請求人が台湾で引用商標の商標権を有していることを示したとしても、そのことによって登録された商標が周知であったことを示し得ないのは明らかである。
エ 請求人が、審判請求書において引用商標の周知性の主張に引用していない甲第1ないし第15、第26ないし第29及び第32号証についても、これらが、本件商標の出願時又は査定時に引用商標が周知であったことを示し得るかを検証し、加えて、上申書に添付されていた甲第33ないし第61号証についても同様の検証を行う。
なお、上申書にて述べられた事項及び上申書に添付された甲第33ないし第61号証については、商標法第56条第1項において準用する特許法第131条の2第1項第1号から、その内容自体、本件審判事件において有効でないことはいうまでもない。
(ア)甲第1号証は、本件商標の出願及び登録に関する資料であり、引用商標とは関係のないものであり、甲第2号証は請求人の会社の概要等を示しているにすぎない。
(イ)甲第3ないし第6号証の1は、引用商標が表示された請求人のウェブサイトの存在を示すのみであり、そもそも、これらは全て本件商標の査定後の資料であって、本件商標の出願時又は査定時の引用商標の周知性を示し得ない。
(ウ)甲第6号証の2ないし4のタイヤの写真に至っては、それらのタイヤの存在が示されているのみであり、いつ撮影されたものか全く確認できず、引用商標の周知性を示す資料になり得ない。
(エ)甲第7ないし第14及び第42ないし第58号証は、引用商標が雑誌「超越車訊(TW MOTOR)」、雑誌「MOTOR MAGAZINE」、雑誌「specR」、雑誌「OPTION」及び雑誌「汽車百科」にそれぞれ掲載されたことを示しているが、これらの雑誌の実際の販売部数が不明であるし、自動車購買層にどの程度閲覧されていたものかが全く示されていない以上、これらをもって、引用商標の周知性を明らかにすることはできない。
(オ)甲第15号証は、その書籍名「NANKANG periodical」から請求人の定期刊行物で、社会に出回る一般的な書籍ではないと推認される。さらに、その発行部数やその配布先等も不明であり、これが引用商標の周知性に関与するとは到底考えられない。
(カ)甲第26ないし第29及び第32号証は、台湾以外の国についての資料であり、引用商標の台湾での周知性を示し得ない。
(キ)甲第33号証は、前述したように、請求人の代表者による宣誓書であってその信憑性は著しく乏しく、証拠として有効ではない。
(ク)甲第34ないし第41号証の宣誓書からは、周知性を示すには極めて少人数である8人がナンカンタイヤを知っていたということのみが読み取れる。そして、この8人のうち、甲第35ないし第41号証の宣誓書に署名している7人は、タイヤを取り扱うディーラーであり、自動車用タイヤの製造販売会社である請求人とディーラーの関係から、ディーラーが真実に反してこのような宣誓書に署名をすることも考え得る。
(ケ)甲第59ないし第61号証については、これらの撮影時と本件商標の出願時及び査定時との時間的な関係が全く不明であり、引用商標が本件商標の出願時又は査定時に周知であったことを示す証拠にはなり得ない。
以上より、甲第1ないし第15、第26ないし第29及び第32ないし第61号証についても、本件商標の出願時又は査定時において引用商標が台湾で周知であったことを示す根拠になり得ないのは明らかである。
オ その他、請求人は、審判請求書において、請求人が台湾の各地区に多くの販売拠点を設定し、台湾全土で請求人製品を供給できる体制を整えている旨や、台湾のタイヤ販売業者に対するセールス活動を積極的に行っている旨、あるいは、台湾のタイヤ購買者層に対しては、雑誌等により効果的に広告を行い自社製品の浸透を図っている旨を主張するが、これらは請求人の主観的な内容にすぎず、それらを単に主張することによって、引用商標の周知性を証明し得ない。
カ 上記アないしオを総合的に検討すると、本件商標の出願時又は査定時において、引用商標が台湾において周知であったといえないのは疑う余地もない。
(3)上記(2)で述べたように、本件商標の出願時又は査定時において、引用商標が台湾で周知であったとは考えられないが、当該商標が台湾である程度知られていたと仮定して、それが商標法第4条第1項第19号で規定されている「外国における需要者の間に広く認識されている」の条件を満たすかを以下に検証する。
ア 請求人は、審判請求書で「台湾の総人口は約2000万人であり、また、国土も比較的狭いものであるので、請求人の行うプロモーション活動により、・・・広く知られていた」とし、自ら台湾は人口が少ない国であると認めている。そして、日本国の商標法が、先願登録主義(商標法第8条第1項)を採用する中で、商標法第4条第1項第19号をあえて設けている制度趣旨を鑑みると、同号が求める周知性(以下「19号の周知性」ということがある。)について、人口が少ない国と、人口が多い国とを同列に扱えないのがごく自然である。
イ 商標審査基準には、商標法第4条第1項第19号について、「外国における需要者の間に広く認識されている商標は、当該国において周知なことは必要であるが、必ずしも複数の国において周知であることを要しないものとする。」と記載され、如何なる国であっても、その国のみでの周知性を証明することによって必ず19号の周知性を満たすとは記されていない。言い換えると、19号の周知性を満たすためには、国によっては複数の国での周知性が必要であると解される。
したがって、台湾が請求人が認めるように人口が少ない国であるなら、台湾で周知であったと主張するのみでは、19号の周知性を満たしていることにはなり難いと考えられる。
ウ この点、審判請求書及び上申書においては、台湾以外の外国で引用商標が周知であったことを示す証拠や主張は皆無である。よって、そもそも請求人の主張や請求人が示す証拠によって、本件商標の出願時又は査定時に引用商標が19号の周知性を備えていたとするのは無理があると考える。
(4)上記(1)ないし(3)から、本件商標の出願時又は査定時において引用商標が19号の周知性を備えていたことは認められる余地がない。したがって、当然のことながら、引用商標と異なる本件商標「NANKANG NS-2 / ナンカンエヌエスツー」は、周知ではない。
4 不正の目的について
仮に本件商標と引用商標が類似するものであって、引用商標の周知性が認められるとしても、被請求人は本件商標を不正の目的で取得したものでないことを以下に証明する。
(1)請求人は、甲第26及び第27号証を示し、本件商標の商標権者(被請求人)が、2002年や2005年に請求人が製造する自動車用タイヤを輸入していることから、本件商標の出願日以前から被請求人と請求人は、一定の安定した商取引関係にあった旨述べている。
しかしながら、請求人と被請求人との間に製品の製造販売元と顧客という通常の取引関係を超えた特別な取引関係があったことはなく、安定した商取引関係にあったという請求人の主張は失当である。
(2)また、請求人は、請求人が被請求人以外の日本の輸入販売業者とも商取引があることや、被請求人は国内外の自動車用タイヤメーカーを十分に認識する立場にあること等を述べ、さらに、ビジネス関係にある両者間においては相手方に商標登録の有無を確認し出願を進めるのが極めて一般的な商業上の常識という持論を展開した上で、被請求人は、請求人に対して商標の日本登録を勧めたわけでもなく、また、請求人に対して相談したわけでもなく、無断で、こっそりと、本件商標の登録を得たと述べている。
しかしながら、請求人と被請求人との間には、法律上の関係や、あるいは、輸入総代理店等の日本における請求人の製品の販売について特別な契約上の関係は全くなく、製品の製造販売元と顧客という範囲を超えた商取引関係が一切存在していない。これは、請求人が甲第26、第28及び第29号証を挙げて述べているように、請求人は被請求人以外の複数の日本の輸入販売業者に対して自動車用タイヤを輸出しており、被請求人がこれらの業者の一つにすぎないことからも明白である。
しかも、請求人は、被請求人からすると、異国である台湾に所在する企業であって、そのような請求人に対し、請求人とは何ら特別な関係にない被請求人が、事前に相談できる立場になかったのは火を見るより明らかである。
(3)さらに、請求人は、被請求人が請求人商標を取得することにより、将来起こり得るであろう請求人との様々な交渉の場において有利な立場に立つために利用できるかもしれない、あるいは、同じ製品を輸入販売する競合他社との間で優位に立てるかもしれないといった意図に基づくと解することができると述べている。
しかしながら、本件商標が登録されてから5年以上が経過した現在においても、被請求人が、請求人に対して、本件商標の商標権を有していることを理由に、輸入総代理店等の契約を強要した事実もなければ、被請求人の競合他社に対して、商標権を行使したという事実も全くない。
被請求人は、請求人から自動車用タイヤを日本に輸入し日本国内で販売する一業者であり、日本の商標法が先願登録主義を採用している中、請求人が日本で商標登録出願をしていない状況で、自らの自動車用タイヤの販売業を継続していくために、本件商標の登録出願を行ったのであり、そこに、不正の目的が入り込む余地はない。これと同趣旨の判断が、無効2011-890026の審決においてもなされていることから、この考えは一般的であると解される。
(4)そして、請求人は、現在も、本件商標が請求人の商標であることを認識しながら、これを請求人に返還していないことを述べている。
しかしながら、日本国において請求人が本件商標の商標権者でもなければ、引用商標の商標権者でもなく、請求人がここで述べている「請求人の商標」が何を意味するのか全くもって不明である。
さらに、日本で商標権を取得した者が、その商標に何らかの関係がある他者に対し、日本で取得した商標権を譲渡しなければならない等の規定は、少なくとも日本の商標法には皆無であるから、これをもって、請求人が不正の目的を持っているとする請求人の主張は到底受け入れられない。
(5)請求人は、台湾において、「南港/NanKang」について1978年頃に、「N NANKANG」について1996年頃に、「NANKANG」について1998年頃に、それぞれ商標登録を受けている(甲31の1ないし4)。
そして、甲第32号証によると、請求人は、引用商標2又は3について、オーストラリアにおいて1994年7月頃に、ニュージーランドにおいて1999年3月頃に、同様に香港、シンガポール、ヨルダン、シリア、英国、アメリカ合衆国、カナダ、南アフリカ、ドイツ、フランス、サウジアラビアにおいて商標登録の権利を得ているが、これらは全て本件商標の出願前である。
したがって、請求人は、本件商標の出願日以前から商標について十分な知識を有し、請求人がタイヤを販売しようとする国及び販売していた国に対して十分に前から商標の出願をしていることになる。
しかしながら、台湾の隣国にあって自動車用タイヤの市場が大きい日本に対しては、本件商標が出願された2007年までに商標登録の出願を行っていない。その理由として、日本には、ブリヂストン、住友ゴム、横浜ゴム、東洋ゴム、日本ミッシュランなどの世界的に有名な自動車用タイヤの製造会社が存在し、請求人の自動車用タイヤを各自動車メーカが採用する見込みが薄く、さらに日本の品質に対する要求が高い等により、日本市場への進出は考えていなかったと推測される。日本市場への進出を考えていなかったことは、請求人が本件商標の出願前に日本において自社製品の広告宣伝をしていないことからも明らかである。
そして、甲第26号証に示すとおり、2002年頃から日本の複数の業者(例えば、「AUTOWAY」、「M.L.J」、「ACCESSINC」、「T&T」、「WIN」、「AS IAN AKINDO」、「ADEL」等)が請求人の製品を請求人から日本に輸入し始めた。このような状況下において、本件商標の出願前後に、本件商標の商標権者「オートウェイ」は、乙第4ないし第7号証に示すように、自前で「N NANKANG」の名前を付した商品の本格的な広告宣伝等を行い金銭的及び人為的な負担をし、「N NANKANG」の付された自動車用タイヤを日本国内に広めようとしていた。その結果、現在、被請求人は、日本における請求人商品の半数以上を取り扱う業者となった。2007年3月頃の時点で、被請求人は、今後も大きな負担を伴った宣伝広告活動等をし、販売を継続できる状況を確保すべく、自己防衛を目的として商標登録出願を行った。
これに対し、請求人は、被請求人による広告宣伝等が本格的になされた後に、登録第5111437号商標「NANKANG」の権利を取消すべく、平成20年に取消審判(取消2008-301387)を請求し、平成23年に無効審判(無効2011-890026号)を請求し、今回、本件商標について無効審判を請求した。
これらの経緯を鑑みると、請求人は被請求人の努力によって商標「N NANKANG」や商標「NANKANG」が日本で広く知られるようになる可能性が生じてきたのに目を付け、被請求人の正当な努力により芽が出ようとしている成果を摘み取る、あるいは、横取りしようとしているように考えられる。
なお、被請求人が本件商標の権利を保有していても、被請求人が販売している本件商標の付された製品は、請求人が製造した製品のみであるので、特に、請求人に不利益を与えることはないと考える。即ち、請求人が他の業者を通じて日本に請求人商品を販売しても、被請求人が販売している商品と同一である限りは、品質の誤認を起こすものではなく、商標法の理念に反することはない。
(6)乙第8ないし第11号証に示すように、被請求人は、本件商標の出願日(2007年3月30日)以前から、現在に至るまで、引例の1及び2を使用して、請求人製造のタイヤの宣伝広告を日本で行っている。そして、これらの宣伝広告は、被請求人の自由意思で行っており、宣伝広告を行うための費用は、全部被請求人が負担している。さらに、乙第12及び第13号証に示すように、被請求人は、自社カタログの最先端に請求人商品を掲載し、自社主力商品として販売に力を注いできた。
これによって、被請求人が販売する、請求人製造のタイヤの販売本数は、2006年度は約10万本程度だったのが、2012年までは年々増えて、2012年度は、約74万本程度の売上げになっている。これに伴い、被請求人は、請求人から継続的にタイヤの輸入を行っており、2012年度決算では、約79万本のタイヤを請求人から輸入している。この数字は、被請求人が同年時に輸入したタイヤ数210万本の約38%に当たる。
このように日本国内で引用商標1、2を使用した請求人製造のタイヤの販売本数を増加させたのは、被請求人の努力のたまものであり、前記のとおり、全部被請求人の費用で、日本国内で宣伝・広告し、請求人製造のタイヤの販売本数を増加させている。
付言するに、請求人が本件商標を有した場合には、被請求人は、本件商標並びに本件商標に類似する商標を使用した商品の広告等を制限されるあるいは自粛するおそれがあり、これは請求人にとっても利益にならない。したがって、被請求人が本件商標の登録を不正の目的で得たものでないことは明らかである。
日本において、前記したとおりのビジネス展開をし、計画していた被請求人は、前記(5)でも述べたとおり、今後のビジネスの防衛を目的として、2007年3月に本件商標登録出願を行ったものであり、請求人が引用商標1及び2をの商標を出願していないことを奇貨として不正な利益を得るために行ったものではない。
さらに、被請求人は商標登録を得たことで、他の輸入業者に取引制限をしたり、請求人に買い取らせたり、使用料を要求することは一切行っていない。このことからも、被請求人が不正の目的をもって本件商標を使用していないことは明白である。
(7)結び
本件商標と引用商標が非類似であると思慮されるが、仮に類似である場合においても、さらに引用商標が19号の周知性が認められる場合においても、本件商標は、上記(1)ないし(6)のとおり、不正の目的をもって出願されたものではなく、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にするべきではない。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人は、1959年に設立された台湾のタイヤメーカーであり、現在ではスポーツタイヤからスタッドレスタイヤに至るまで様々なタイヤを製造していること、請求人のタイヤは、日本にも「ナンカン」(Nankang)ブランドで輸入・販売されており、低価格によるコストパフォーマンスの高さから愛用する者もいること、軽自動車用の18インチなど極端なインチアップサイズのタイヤも製造していることで有名であること、他にもアメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、アフリカ等の各国にタイヤを輸出していること、などがフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」に掲載されている(甲2)。
なお、請求人会社の沿革については、上記「ウィキペディア(Wikipedia)」のほか、請求人の1999ないし2007年における各年度の財務・会計報告書(甲16?甲23)に詳細に記載されており、例えば、1963年に株式会社への上場開始、1973年にヘリコプター用タイヤ開発、1975年に台湾初のスチールラジアルタイヤ発売、2005年にSUV車用大サイズタイヤ開発等について記述されている。
イ 請求人のウェブサイトには、トップページをはじめ、各ページの上部に引用商標2が表示されているほか、請求人会社の紹介、自動車用タイヤ製品の紹介、台湾各地の販売店、自動車用タイヤの知識、新聞記事等が掲載されている(甲3?甲5)。また、請求人の自動車用タイヤには、引用商標1又は2が刻印されている(甲6の1?4)。
もっとも、上記ウェブサイトの写し(甲3?甲5)は、2012年12月18日にプリントアウトされたものであり、また、自動車用タイヤの写真(甲6の1?4)は、その撮影日、撮影場所、撮影者等が不明である。しかしながら、取引の経験則上、自動車用タイヤには製造企業の商標等が刻印されることが多いことからすれば、請求人の自動車用タイヤのほとんどに引用商標1又は2が刻印されていたとみても不自然ではない。
ウ 請求人の自動車用タイヤの台湾における年間販売額は、次のとおり(なお、括弧内の円表示は、2012年12月20日現在の為替(1NT$(台湾通貨(新台湾ドル))=2.90円(甲24)で換算したもの。)となっている(甲20?甲23、甲33)。
2000年 NT$1,103,066,000(3,198,891,000円)
2001年 NT$662,788,000(1,922,085,000円)
2002年 NT$721,668,000(2,092,837,000円)
2003年 NT$656,637,000(1,904,247,000円)
2004年 NT$499,794,000(1,449,402,000円)
2005年 NT$506,172,000(1,467,898,000円)
2006年 NT$427,459,000(1,239,631,000円)
2007年 NT$351,432,000(1,019,152,000円)
また、請求人の市場シェアは、「Tire Business誌ランキング」のグローバルランキングにおいて2003年が第45位、2004年が第43位、2005年が第40位、2006年が第41位となっている(甲20?甲23)。
エ 引用商標を使用した自動車用タイヤについては、2000年ないし2007年の間に看板、ステッカー、ラベル、雑誌等様々な媒体による宣伝広告が行われた(甲25)。例えば、雑誌では、本件商標の登録出願前に発行された自動車関連雑誌「汽車性能情報(SPEC R)」の2002年8月号、2003年2月号及び同年5月号、「改装車訊(Option)」の2003年2月号、同年5月号、同年7月号、同年9月号、同年12月号及び2005年9月号、「超越車訊(TW MOTOR)」の2003年7月号、同年9月号、同年11月号、同年12月号、2004年8月号、同年10月号、同年11月号及び2006年12月号に請求人の自動車用タイヤの写真と共に引用商標2又は3が表示された広告が掲載されている(甲7、甲42?甲58)。本件商標の登録出願後に発行された雑誌「改装車訊(Option)」の2007年4月号、同年6月号、同年8月号、同年10月号及び同年12月号、同じく「汽車性能情報(SPEC R)」の2007年5月号においても同様の広告が掲載されている(甲8?甲14)。
また、撮影日、撮影場所、撮影者等は必ずしも明らかでないが、引用商標2又は3を表示した看板が設置されている状態を示す写真、車体に引用商標2を表示したトラック及びバスを撮影した写真等が提出されている(甲59?甲61)。
なお、上記雑誌の2005年の年間発行部数は、「超越車訊(TW MOTOR)」が70万部、「改装車訊(Option)」が54万部、「汽車性能情報(SPEC R)」が45万部とされている(甲33)。
オ 請求人会社は台湾のタイヤメーカーの老舗であり、同社のタイヤは台湾製タイヤの中でも最も人気のあるブランドの一つである旨が台湾区車両工業同業組合の上級職員により宣誓されているほか、ナンカンタイヤが台湾製タイヤの中では市場シェアが高いブランドである旨が台湾国内ディーラーによって宣誓されている(甲34、甲41)。
カ なお、被請求人は、請求人の示す自動車用タイヤの販売額は大きな額ではないこと、被請求人独自の計算式により算出した数値によれば請求人の台湾自動車用タイヤ市場におけるシェアは高くないこと、雑誌の販売部数が明らかでなく自動車購買層による閲覧程度も不明であること、請求人代表者及びディーラーによる宣誓書は信憑性が乏しいこと、外国での商標の周知性については人口の少ない国と多い国とを同列に扱うべきでなく、台湾国内のみでの周知性では足りないこと、など縷々主張している。
しかしながら、請求人の自動車用タイヤの販売額は決して少ない額ではないこと、請求人の自動車用タイヤには、引用商標1又は2が刻印されているとみるのが自然であること、請求人はタイヤの世界市場においてある程度の地位を占めていること、台湾国内の複数の自動車関連雑誌に繰り返し宣伝広告されているほか、各種媒体を用いて広告されていることが推認されること、宣誓書の内容が不実であると断定することまではできず、むしろ請求人の財務・会計報告書により裏付けられること、台湾は人口が少ないとはいえ、我が国の隣国としてよく知られ、相互の経済交流も活発であるばかりでなく、商標法第4条第1項第19号にいう外国における周知性は複数国ではなく一の国で足りること、などからすれば、被請求人の主張はいずれも採用することができない。
(2)以上を総合すると、引用商標は、いずれも本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係る自動車用タイヤを表示する商標として台湾国内において取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
2 本件商標と引用商標との類否について
(1)本件商標は、上記第1のとおりの構成からなるところ、「NANKANG」の文字と「NS-2」の文字との間に半文字分程の間隙があり、両者が視覚上分離して看取されること、「NS-2」の文字は、商品の型式、規格、型番、品番等を表示するための記号、符合としてしばしば類型的に採択・使用される欧文字の2字及びローマ数字をハイフンを介して結合したものと認識されるものであって、自他商品の識別力がないか極めて弱いものであること、「エヌエスツー」の文字は上記欧文字の表音を示し、やはり識別力がないか極めて弱いものであること、「NANKANG」及び「ナンカン」の文字と「NS-2」及び「エヌエスツー」の文字とを結合して成句として親しまれている等の両者を常に不可分一体のものとして認識されるべき格別の理由を見いだせないこと、などからすると、「NANKANG」及び「ナンカン」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす要部というべきである。
そうすると、本件商標は、「ナンカンエヌエスツー」の一連の称呼のほか、単に「ナンカン」又は「ナンカング」の称呼をも生ずるものといわなければならない。
(2)他方、引用商標1は、その構成文字に相応して「ナンカン」又は「ナンカング」の称呼を生ずること明らかである。
引用商標2及び3は、別掲(A)及び(B)のとおり、「N」を図案化した如き図形と「NANKANG」の文字とからなるところ、それぞれの構成に照らし、上記図形と文字とが常に不可分一体のものとして認識されるべき格別の理由は見出し難く、簡易迅速を尊ぶ取引場裏においては、読み易い文字部分を捉え、これより生ずる称呼をもって取引に資される場合が少なくないというべきであるから、「ナンカン」又は「ナンカング」の称呼を生ずるものとみるのが自然である。
(3)そうすると、本件商標と引用商標とは、「ナンカン」及び「ナンカング」の称呼を共通にするばかりでなく、外観上少なくとも「NANKANG」の文字を共通にするものであって、彼此相紛らわしい類似の商標というべきである。
本件商標と引用商標は、いずれも親しまれた観念を有する成語とは認められないこと、本件商標が引用商標にはない片仮名を有していることを考慮したとしても、これらは上記称呼及び外観における類似性を凌駕するものではない。
3 不正の目的について
(1)乙第4ないし第8及び第11号証によれば、被請求人は、本件商標の出願時前に自動車用タイヤについて、日本メーカー製のものを始め、諸外国のメーカー製品を輸入し国内で販売しており、その中には請求人の製品も多く含まれ、引用商標2を表示して宣伝・広告していることが認められる。
なお、甲第28号証によれば、被請求人は、2002年に請求人のタイヤを輸入し、2005年以降は継続して輸入したことが認められ、被請求人の主張によれば、被請求人が販売する、請求人製造のタイヤの販売本数は、2006年度は約10万本程度であり、2012年までは年々増えて、2012年度は、約74万本程度であり、被請求人は、請求人から継続的にタイヤの輸入を行っている。
しかしながら、請求人と被請求人とは、他の輸入業者と同様、自動車用タイヤの製造販売元と顧客の関係に止まるものであり、輸入総代理店というような特別な取引関係にあるものではなく、この点については被請求人も自認している。
また、被請求人は、我が国において本件商標を登録出願することにつき、事前に請求人と相談、協議等したことはなく、この点についても被請求人は自認している。
(2)以上によれば、被請求人は、請求人及び引用商標の存在を熟知していたものというべきであり、請求人の一顧客にすぎない被請求人が、製造販売元たる請求人の引用商標に類似する本件商標を請求人に無断で先取り的に登録出願することは商道徳的にも許されることではなく、国際信義上も好ましくない。
結局、被請求人は、引用商標が我が国で登録されていないことを奇貨として請求人に無断で剽窃的に引用商標に類似する本件商標を登録出願したものといわざるを得ず、本件商標は、請求人の日本市場への参入を阻止し又は請求人との交渉を優位に進める等、不正な利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものというべきである。
(3)被請求人は、日本国内で引用商標1、2を使用した請求人製造のタイヤの販売本数を増加させたのは、被請求人の努力のたまものであり、全部被請求人の費用で、日本国内で宣伝・広告し、請求人製造のタイヤの販売本数を増加させている、したがって、被請求人が本件商標の登録を不正の目的で得たものでないことは明らかである、と主張し、また、そのビジネスの防衛を目的として、2007年3月に本件商標登録出願を行ったものであり、請求人が引用商標1及び2を出願していないことを奇貨として不正な利益を得るために行ったものではない、と主張し、さらに、被請求人は商標登録を得たことで、他の輸入業者に取引制限をしたり、請求人に買い取らせたり、使用料を要求することは一切行っていない。このことからも、被請求人が不正の目的をもって本件商標を使用していないことは明白である、などと主張している。
しかしながら、被請求人が、請求人製造のタイヤの宣伝広告を行い、その販売数量が増加している事実があるとしても、それは、被請求人の経営戦略上の問題であり、そのことにより、被請求人が本件商標登録を取得することを正当化することはできない。むしろ、2005年頃から、日本の複数の業者が請求人の商品を輸入し始め、そのような状況下で、本件商標について登録出願したことからすると、前記(2)のとおり判断するのが相当であるから、被請求人の主張は採用することができない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(A)引用商標2

(色彩は原本参照)

(B)引用商標3

(色彩は原本参照)

審理終結日 2013-06-26 
結審通知日 2013-07-01 
審決日 2013-07-16 
出願番号 商願2007-28829(T2007-28829) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (X12)
最終処分 成立 
特許庁審判長 内山 進
特許庁審判官 井出 英一郎
小川 きみえ
登録日 2007-12-21 
登録番号 商標登録第5100467号(T5100467) 
商標の称呼 ナンカンエヌエスツー、ナンカンエヌエスニ、ナンカンエヌエス、ナンカン、ナンカング 
代理人 藤本 勝誠 
代理人 村上 健次 
代理人 大村 昇 
代理人 高梨 範夫 
代理人 小林 久夫 
代理人 清井 洋平 
代理人 安島 清 
代理人 中前 富士男 
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