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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 118
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 118
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 118
管理番号 1275309 
審判番号 無効2012-890046 
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-05-31 
確定日 2013-06-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第1517958号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第1517958号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成よりなり、昭和53年12月25日に登録出願、第21類「かばん類、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、同56年11月13日に登録査定、同57年6月29日に設定登録され、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされたものである。そして、指定商品については、平成16年7月14日に第18類「かばん類,袋物」を指定商品とする書換登録がなされたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第33号証を提出している。
1 請求の理由
(1)請求人について
請求人であるEMI(IP)LIMITEDは、イギリスのレコード会社であるEMI(GROUP)LIMITEDの関係会社であり、EMIグループの知的財産権を管理する会社である。
EMIグループは、1931年に英コロムビアと英グラモフォン(HMV)が合併し、Electric and Musical Industries Ltdとして設立された。設立以来、EMIレーベルの他、アップル・レコード、キャピトル・レコード、ブルーノート・レコード、ヴァージン・レコードなどの数々の著名なレーベルを展開しており、マリア・カラス、プラシド・ドミンゴ、クリフ・リチャード、ザ・ビートルズ、ビースティー・ボーイズ、アイアン・メイデン、ピンク・フロイド、クイーン、デュランデュラン、カイリー・ミノーグ、ノラ・ジョーンズ、などの楽曲を提供してきたものであり、これらの楽曲は発売当初のみならず、現在に至るまで、TV番組やCMで使用されるなど、我が国において広く知れ渡っているものである(甲2)。
請求人とザ・ビートルズとの関係については、ザ・ビートルズは、「アップル・レコード」の他に、アメリカでの契約レーベルが「キャピトル・レコード」であり、「アップル・レコード」設立まではパーロフォンと契約していたなど密接な関係にあったものであり、EMIはビートルズの音源の所有権を保有しており、近時においても、EMIグループによってデジタルリマスター版が2009年9月9日に世界同時発売されたことがニュースとして大々的に取り上げられている(甲3)。
請求人がザ・ビートルズと密接な関係にあることは、既に、請求人が平成22年2月23日に請求した商標法51条1項に基づく取消審判請求事件(取消2010-300213号事件:以下「第三審判事件」という。)においても認定されている事実であり、特許庁においても顕著な事実である(甲4)。
(2)ABBEY ROAD(アビイ・ロード)について
アビイ・ロードは、ロンドン郊外のセント・ジョンズ・ウッドに所在する通りの名前である。
アビイ・ロードには、EMIグループが1931年11月以来録音スタジオを構えており、当該スタジオは、1970年代にアビイ・ロード・スタジオと改称された。
当該スタジオにおいては、時代やジャンルを超え、多くのミュージシャンがその楽曲を録音してきたことが知られている(甲5)。
なかでも、1962年6月6日に初めて録音を行ったザ・ビートルズとの関係は密接なものであり、ザ・ビートルズは、その楽曲のほとんどを、当該スタジオで録音したことで知られている(甲6)。
(3)ザ・ビートルズについて
ザ・ビートルズは、1962年10月にレコードデビューし、1970年4月に解散した、世界中で最も広く知られているイギリス出身のロックバンドであり、解散後もその知名度・人気は衰えることはなく、上記のとおり、デジタルリマスター版が2009年9月9日に世界同時発売されたことがニュースとして大々的に取り上げられたこと(甲4)や、2011年にiTunesにおいて、ザ・ビートルズの楽曲が配信されることを宣伝広告するテレビCMが連日放送されて話題になったことも記憶に新しいところである(甲7ないし甲9)。
日本における知名度・人気も依然として高く、2010年には、「『ビートルズを知らない世代』がついに現れた」という逆説的な記事がニュースになるほど、ザ・ビートルズは、日本においても幅広い世代に認識されている音楽グループである(甲10)。
(4)ザ・ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」について
ザ・ビートルズとしての最後のスタジオ録音アルバムとして知られているのが、本件商標と同一のタイトルである「ABBEY ROAD」(甲11)であるが、このタイトルは、同アルバムのレコーディングが行われたEMI所有のスタジオの前にある通りの名称に因んで名づけられたものであることは、広く知れ渡っている事実である(甲12)。
アルバム「ABBEY ROAD」は、イギリスでは1969年9月26日に発売され、その後日本でも1969年(昭和44年)10月21日にリリースされており、全世界で、2、900万枚以上のセールスを記録している。
アルバム「ABBEY ROAD」は、そこに収録されている「COME TOGETHER」「GOLDEN SLUMBERS」などの楽曲のみならず、アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道で撮影されたジャケット写真についても、一般に広く知られており、この横断歩道は、毎年数千人が訪れるロンドンの観光スポットとなっている。このように、アビイ・ロードの名称は音楽愛好家のみならず、広く公衆に知れ渡っているものである。
(5)歴史的遺産としてのアビイ・ロードについて
アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道は、2010年12月に英国の重要文化財にも指定されている。当時の英国担当大臣は、その理由について、「当該歩道は、ザ・ビートルズと1969年に行われたわずか10分間の写真撮影のおかげで、他の文化遺産と同様の価値を持っている」との説明を行っている(甲14)。
また、アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道に先立ち、請求人の保有するアビイ・ロード・スタジオについても、2010年2月に英国政府は英国の重要文化財に指定している。当時の英国担当大臣は、指定の理由について、「このスタジオの中で、20世紀を代表する数多くの楽曲が作られてきた。現代音楽の歴史において記念碑的な、世界中で最も著名なスタジオであり、その文化的な貢献を認めざるを得ない。」との説明を行っている(甲15)。
(6)被請求人の商標について
本件商標は、図案化された「ABBEY ROAD」及び「アビーロード」の文字からなるものである(甲1)。しかし、請求人が平成21年11月12日に請求した商標法50条1項に基づく取消審判請求事件(第二審判事件)において被請求人が証拠として提出した実際の使用標章は、「ABBEY ROAD」の文字のみからなるものであり、当該使用標章が用いられているタグの下には「SINCE 1962」の文字が記載され、さらにその下には、「The Beatles Saved The World.」から始まるキャッチコピーが5行に渡って印字されている(甲17)。この1962年は、(3)で述べたとおり、ザ・ビートルズのデビューの年であり、当該キャッチコピーの内容からも、被請求人は、単にロンドンのとある道路の名称を商標として採択したものではなく、ザ・ビートルズの著名性に依拠して商標を採択したものであることは明らかである。
(7)請求人の「ABBEY ROAD」関連商品について
請求人は、本国である英国において、「ABBEY ROAD」や「ABBEY ROAD STUDIO」に関連する商品を多様な分野において販売しており、それらの商品の中には、本件商標の指定商品である第18類の「かばん類 袋物」に含まれる商品も含まれている(甲23)。
(8)ザ・ビートルズのオフィシャル・グッズについて
ザ・ビートルズの日本におけるオフィシャル・サイトは、請求人の日本法人であるEMIミュージック・ジャパンが開設している(甲24)。
当該サイトからリンクが設定されているザ・ビートルズのオフィシャル・グッズ・ストアにおいては、アルバムのタイトルに関連づけた商品を含め、多種多様なザ・ビートルズに関連するグッズが販売されている(甲25)。その中には、ザ・ビートルズの楽曲やアルバムのタイトルを商標的に使用した商品や、商標的とは言えないが意匠的に使用した商品が多数販売されており、本件商標と同様に「ABBEY ROAD(アビイ・ロード)」の文字からなる標章を、様々な商品・役務に使用している(甲26ないし甲29)。
なお、第三審判事件の審決(及びこれに係る審決取消訴訟の判決)においては、請求人(原告)の提出に係る証拠からは、「ザ・ビートルズ又は請求人が、『ABBEY ROAD(アビイ・ロード)』の文字からなる標章を、アルバムのタイトル以外の商品・役務について使用している事実は認められない」との認定がなされているが、上記のとおり、ザ・ビートルズは、例えば日本においては当該ショップにおいて、オフィシャル・グッズを販売しているものであり、この認定は明らかに誤りである。
(9)本件商標の出願時期について
本件商標の出願時期は、昭和53年12月25日であり、登録日は昭和57年6月29日である。ザ・ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」がリリースされたのは、昭和44年10月21日である。
本件商標の出願は、ザ・ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」が発売されてから9年以上経過して行われており、本件商標が出願された時点においては、ザ・ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」は、ザ・ビートルズの最後のスタジオ録音アルバムであるということもあって、既に十分に著名なものであったといえる。
(10)商標法4条1項15号について
上記のとおり、請求人はザ・ビートルズの音源を管理し、請求人の日本法人である株式会社EMIミュージック・ジャパンのホームページ上において、ザ・ビートルズのオフィシャル・サイトを展開して、ビートルズ関連商品を販売している。
このような状況のもとで、被請求人のように、ザ・ビートルズとは関係のない者が、ザ・ビートルズの名称を使用し、関連商品を販売する行為は、ザ・ビートルズの著名性を剽窃する行為であり、需要者から見た場合、被請求人の取り扱う商品が、例えば上記の株式会社EMIミュージック・ジャパンのようなザ・ビートルズに関連する者から、何らかの許諾を得たものであるかのような出所の誤認混同を与える行為である。
被請求人は、自ら「ザ・ビートルズ(The Beatles)」の名称をその商品タグにおいて引用しているのであるから、これらの出所混同が生じることについては意図的に、すなわち不正の目的をもって、行っているものというべきである。
ザ・ビートルズに限らず、著名なアーティストの関連商品がファンや音楽愛好家によって収集されることは珍しくなく、被請求人の販売している商品は、あたかもザ・ビートルズの関連商品であるかのような誤認・混同を需要者に生じさせるものであり、商標の重要な機能である出所表示機能を著しく阻害するものである。
アビイ・ロード自体はロンドン郊外の地名ではあるが、アビイ・ロードが所在するセント・ジョンズ・ウッド地域はいわゆる高級住宅街であり、当該地域そのものは本来決して著名な観光地などではない(甲20)。しかしながら、それにもかかわらず、アビイ・ロードという地名を世界中の多くの人々が知っているのは、まさに上記の英国の担当大臣の説明にもあるように、「ザ・ビートルズと1969年に行われたわずか10分間の写真撮影のおかげで、他の文化遺産と同様の価値を持つ」に至ったからに他ならないものである。
レコード会社が、アーティストの関連グッズとして、被服やかばん等のファッション関連グッズを、アーティストやアルバム、楽曲名などを表示して、ウェブサイトやコンサート会場などで販売することは普通に行われていることである。また、請求人は、実際に、被服やかばん等のファッション関連商品の商品化事業を行っている。
そして、音楽に関心を持つ者が、かばん等のファッション関連商品の一般需要者でもあることについては、無効審判2009-890042号事件においても、認定されている(甲32)。
以上のように、「ABBEY ROAD」若しくは「アビイ・ロード」の名称は、請求人若しくはザ・ビートルズの業務に係る標章として、本件商標の登録出願前には既に需要者、取引者の間に広く認識されていたものいえる。
よって、本件商標をその指定商品について使用した場合、これに接する需要者、取引者は、広く認識されている上記請求人若しくはザ・ビートルズを連想、想起し、請求人又は請求人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものといえる。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものである。
(11)商標法4条1項19号について
審査基準においては、4条1項19号に当たる事例として、例えば、外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したものについては、4条1項19号の規定に該当するものとされている。
実際、請求人は、「アビイ・ロード」に関連する標章を付した商品を日本でも販売しようと計画しているが、被請求人の本件商標が登録されていたため、商標法50条1項に基づく取消審判事件を請求したところ、被請求人が本件商標と類似する商標をザ・ビートルズの著名性に便乗する態様で使用している証拠を提出した(甲17)ため、第三審判事件を請求したものである。
すでに述べたとおり、請求人は、ザ・ビートルズと強い関係を有しており、英国において「アビイ・ロード・スタジオ」を保有し、「ABBEY ROAD」商標を使用した関連商品を販売しているものであり、いわば「ABBEY ROAD」の正当な使用者であって、請求人の商標「ABBEY ROAD」は広く知られているものであるから、これとは無関係の被請求人による本件商標の使用は、このような周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあるものといえる。
また、請求人が被請求人から具体的に商標の買取りを求められた事実はないが、第三審判事件に係る審決取消訴訟においては、請求人が「ABBEY ROAD」関連の多様な商品を販売していると主張したのに対して、被請求人は「第18類の商品として日本国内に販売する場合は、関連商標権を保有する関係者間にて調整。協議する必要がある」と答弁し、交渉を示唆する主張をしている。
上記のとおり、その商品タグの記載を見る限り、被請求人は、明らかに「アビイ・ロード」が請求人又はザ・ビートルズに関連する周知標章であることを知りながら本件商標の登録を受けたものであり、ザ・ビートルズの著名性にフリーライドしようとするものであることは明らかなのであって、このような行為は、外国で周知な他人の商標と同一又は類似の商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したものの一例であるというべきである。
仮に被請求人にはそのような意図はなかったというのであれば、本件商標を採択するに至った他の理由が存在するはずであるが、被請求人の提出した商品タグを見る限り、ザ・ビートルズの著名性に依拠しようということ以外に本件商標を採択するに至った正当かつ合理的な理由が存在するとは到底思われない。
以上より、本件商標は、商標法4条1項19号に該当するものである。
(12)商標法4条1項7号について
ア 登録査定時における無効理由について
本件商標出願は、日本において他人の業務に関わる名称や当該他人の名声を利用して不正な利益を得るために使用する目的をもってなされたものと認められ、商取引の秩序を乱すものであり、ひいては国際信義に反するものであって、公序良俗を害する行為というべきである
異議2008-900044号事件においては、その構成中に「ElviS」の文字を含む商標が、第25類「普段着、帽子、その他の被服、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」を指定商品として登録された後、商標法4条1項7号に該当するとして、その登録を取り消されている(甲33)。
本件商標についても、世界的に著名なザ・ビートルズのアルバム「ABBEY ROAD」の名声に便乗しようとするものであり、同じように公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであるから、商標法4条1項7号に違反して登録されたものであることに変わりはないというべきである。
イ 後発的無効理由について
上述したとおり、請求人の所有する「アビイ・ロード・スタジオ」及び「アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道」は、現在では英国政府の認定する歴史的遺産である。
そして、「アビイ・ロード」は地名ではあるが、英国政府の説明のとおり、「ザ・ビートルズと1969年に行われたわずか10分間の写真撮影のおかげで、他の文化遺産と同等の価値を有することになったもの」であり、同じく英国政府の説明に従えば、「20世紀を代表する数多くの楽曲が作られてきた。現代音楽の歴史において記念碑的な、世界中で最も著名で、その文化的な貢献を認めざるを得ない」請求人の保有するスタジオの存在によって、その名声が形成されてきたものである。
これらの事実は、「アビイ・ロード」という標章は、請求人とザ・ビートルズ他のアーティストによる長年の努力により築き上げられた英国の重要な文化的遺産を表す名称と言え、少なくとも、その標章に化体する名声の形成に何ら貢献していない無関係な第三者が、この「アビイ・ロード」という標章を、その業務に係る商品の商標として採択し独占するということは、当該名称に係る建物や場所を国の歴史的遺産として保護しようとする英国政府の意向にも反する行為であり、近時さかんに問題となっている先取り的な模倣商標の登録と同様に、国際信義に反し、我が国の国際的な信頼を損なうおそれもある行為であって、公序良俗を害する行為というべきである。
したがって、アビイ・ロード・スタジオが歴史的遺産に認定された2010年2月、あるいは、アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道が歴史的遺産に認定された2010年12月の時点においては、本件商標は、商標法4条1項7号に違反する後発的無効理由を有するものとなったと言える。
以上より、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであり、商標法4条1項7号に該当する。
(13)むすび
したがって、商標法4条1項7号、同15号及び同19号に違反して登録されたものであり、商標法46条1項1号及び同5号の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
被請求人の主張は、若干その趣旨を捉えにくい部分があるが、別件である知的高等裁判所判決の存在、本件商標と類似する商標に係る他の商標登録の存在、商標法における属地主義を、その主張の根拠としているものと思われる。
しかしながら、被請求人の主張する判決や他の商標登録の存在は、いずれも本件での請求人の主張とは関係がないものである。また、請求人が審判請求書で行った主張は、何ら商標法の属地主義に反するものではない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論と同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出している。
1 平成24年2月28日の知的高等裁判所の判決において請求人の主張は、既に精査されている。
(1)判決文中に争いのない事実として被請求人を商標権者として認めている。
(2)商標の混同についても判決文中にて精査されている。証拠書類も同じである。
(3)商標法4条1項19号について
請求人の前段部分においては判決文にて精査されている。審議の余地はない。
しかし、「又は高額で買い取らせるために先取り的に出願したものの典型的な例である。」については、請求人が「請求人が被請求人から具体的に商標の買取を求められた事実はない。」と主張している点、当該主張は、請求人自身がその主張を否認したものであるから審議の対象にはならない。
また、被請求人は「第18類の商品として日本国内に販売する場合は、関連商標を保有する関係者間にて調整。協議する必要がある」と答弁し、交渉を示唆する主張をしていると請求人は主張するが、訴訟上での調整・協議とは、法的対抗処置を意味するものであることは当然である。
しかし、この点ついても判決文中にて考察されているため必要がない。
2 結論
請求人の主張は、却下されるされるべきである。
乙1は、平成24年7月12日に検索したアビーロードの商標者リストである。
分類別に多数の同一商標が存在している。商標間の分類は本来混同の恐れがないことを前提としている。このことは分類間において法的優劣を認めていないことは当然のことである。
このように多数の分類の異なる同じ商標が存在できるのは、厳然たる法的秩序があるからである。
商標法の適用には国際的にそれぞれの国の言語・習慣・宗教等を尊重することが前提にあり、請求人の主張する英国での活動・事情がすべて認められるものではない。
請求人の主張する公序・良俗に違反についても、法的に保護される権利を否定することは法的秩序を無視するものであり、良俗とは善良な風俗習慣のことであり、請求人の主張は、自己的であり到底認められるものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号について
本件商標の設定登録日は、昭和57年6月29日であり、本件審判請求日は、平成24年5月31日であって、設定登録から5年以上を経過した時期に本件審判請求がなされたものであることは、本件商標に係る商標登録原簿及び本件審判請求書に照らして明らかである。
ところで、商標法第4条第1項第15号違反を理由とする無効審判は、当該登録商標の設定登録の日から5年を経過した後には、不正の目的で商標登録を受けた場合を除き、請求することができない(商標法47条1項)。
そして、「不正の目的」とは、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的等であって、図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的をいうものと解される(工業所有権法逐条解説〔第19版〕:商標法4条の〔趣旨〕参照)。
(1)不正の目的について
本件商標が不正の目的で商標登録を受けたものに該当するか否かについて検討する。
ア 「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」について
請求人は、1931年に英コロンビアと英グラモフォンが合併して設立された英国のレコード会社である。また、ザ・ビートルズは、1962年(昭和37年)にレコードデビューし、1970年(昭和45年)4月に解散した世界的に著名な英国出身のロックバンドであり、請求人は、ザ・ビートルズのレコードの制作販売を行っていた(甲2)。
そして、「ABBEY ROAD」は、英国のロンドンにある通りの名称である。その「ABBEY ROAD」沿いには、EMIレコーディングスタジオがあり、同スタジオでは、ザ・ビートルズの楽曲のほとんどの収録が行われた(甲5、甲6及び甲12)。
1969年に収録されたザ・ビートルズのアルバムのジャケットには、「ABBEY ROAD」の文字が表示されたこと、当該名称の道をザ・ビートルズのメンバーが横断している写真が同ジャケットに採用されたことが認められ(甲11)、これによって、「ABBEY ROAD」は、当時において、通りの名称として世界中に知られることになった。また、アルバムのタイトルとしても、ザ・ビートルズの最後のアルバムとして、ザ・ビートルズの愛好家をはじめとして、広く認識されていたと推認し得るものである。
また、前記EMIレコーディングスタジオは、1970年代に「Abbey Road Studios」と名称を変更したことが認められる(甲12)。
しかしながら、全証拠によるも、「ABBEY ROAD」の文字がザ・ビートルズのアルバムのタイトルに採用されていることを除き、本件商標の出願前において、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が請求人あるいはザ・ビートルズに係る商品・役務について使用されたことの使用実績等について具体的に把握することはできない(請求人が示す商品「Tシャツ等」についての使用の事例は、いずれも、本件商標の査定日以降に係るものか、あるいは、時期が明確には把握できないものである。)から、本件商標の出願時及び査定時において、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が、請求人あるいはザ・ビートルズに係る商品又は役務を表示する商標として、需要者の間で広く認識されるに至っていたと認めることはできないものである。
そして、「ABBEY ROAD(アビイ・ロード)」は、ザ・ビートルズのアルバムの発売前から現に存在する通りの名称であり、ザ・ビートルズのアルバムのタイトルだけを観念させるものではない。しかして、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が、請求人らの独創に係る造語でないことは明らかである。
不正の目的の有無について
前記アのとおり、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」は、唯一請求人に由来する標章、あるいは唯一ザ・ビートルズのアルバムのタイトルに由来する標章とはいい得ないから、本件商標が請求人あるいはザ・ビートルズに係る標章に依拠して剽窃的に採択し出願されたものと断ずることはできないし、また、我が国で登録がされていないことを奇貨として、被請求人が先取りして本件商標を出願し登録を得たとみるべき客観的事情はみいだせない。
そして、本件商標の出願時及び査定時において、請求人(そのグループ企業を含む。)やザ・ビートルズが、本件商標の指定商品等に関連して我が国で事業を展開する計画を有していたとの具体的な証拠はなく、さらに、被請求人が請求人等に対して、本件商標について買い取りを持ちかけたことや、代理店契約締結等の交渉を行った形跡を示す証左もない。他に、本件商標の出願、登録に関して、信義則に反するものがあったことを窺わせる事情もみいだせない。
してみると、本件商標は、別掲に示すとおり、「ABBEY ROAD」及び「アビーロード」の文字を籠文字風に表してなるものではあるが、被請求人が、本件商標について、不正の利益を得る目的、他人(請求人ほか)に損害を加える目的等不正の目的をもって商標登録を受けたと認めることはできないものである。
ウ 請求人の主張について
請求人は、不使用取消審判事件において被請求人が示した証拠資料を引用して、当該資料の「使用標章は、『ABBEY ROAD』の文字のみからなるものであるが、使用標章が用いられているタグの下には『SINCE 1962』の文字が記載され、その下には、『The Beatles Saved The World.』から始まるキャッチコピーが5行に渡って印字されている。1962年は、ザ・ビートルズのデビューの年であり、当該キャッチコピーの内容からも、被請求人が、単にロンドンのとある道路の名称を商標として採択したものではなく、ザ・ビートルズの著名性に依拠して商標を採択したものであることは明らかである」という。
しかしながら、当該取消審判事件の資料(甲17)は、本件商標の設定登録後における登録商標の使用情況を示すものである上、当該キャッチコピー等は、本件商標の構成態様とは異なる部分に係るものである。加えて、当該表記は、使用商標である「ABBEY ROAD」がザ・ビートルズに関連ある道路に由来する旨を説明したと理解されるものというべきである。
してみれば、かかる証拠資料における説明記載をもって、直ちに、本件商標がザ・ビートルズの著名性に依拠して採択され出願されたとまで断ずることはできないというのが相当であり、それを前提として、本件商標が不正の目的で登録を受けたものであるとすることはできない。
(2)小括
以上によれば、本件商標は、不正の目的で登録を受けたものには該当しないというべきである。そして、本件において、商標法4条1項15号違反を理由とする審判の請求は、同法47条1項のいわゆる5年の除斥期間を徒過した後のものであることが明らかであり、その補正をすることができないものであるから、上記の同法4条1項15号を理由とする請求については、これを却下すべきものである。
そこで、当該請求については、却下することとし、その上で、上記以外の理由につき本案に入り審理し、以下のとおり判断する。
2 商標法4条1項19号について
「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」については、前記1(1)に記載のとおりであるが、本件の全証拠に徴しても、本件商標の出願時及び査定時において、「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が、ザ・ビートルズのアルバムのタイトルとして広く認識されていたと推認されることを除き、国内外で、他人の業務に係る商品又は役務を表示する商標として、需要者の間で広く認識されるに至っていたものであると認めるに充分な証拠はみいだせない。
請求人が示す商品「Tシャツ等」についての使用の事例(甲22、甲23、甲25ないし甲29)は、いずれも、本件商標の査定時以降に係るものか、あるいは、時期が明確ではないものであり、これらによっては、本件商標の出願時及び査定時における使用の実績を把握することはできないものである。
また、本件商標の出願時及び査定時において、請求人あるいはザ・ビートルズが、本件商標の指定商品に関連して我が国で事業を展開する計画を有していたことを窺わせる具体的な証拠はない。さらに、被請求人が請求人等に対して、本件商標について買い取りを持ちかけたことや、代理店契約締結等の交渉を行った形跡を示す証左もないから、本件商標をして、被請求人が不正の利益を得る目的、他人(請求人ほか)に損害を加える目的等不正の目的をもって使用をするものに該当するということはできない。
なお、請求人は、第三審判事件に係る審決取消訴訟における被請求人の答弁において、被請求人が交渉を示唆する主張をしているという。
しかし、請求人が指摘する被請求人の主張は、本件商標の登録査定時から遙か後の訴訟における主張である上、当該主張は、商標権に抵触する商標の使用に関する法的処置を示唆したものと理解されるものであり、本件商標の登録に関連して代理店契約締結等の交渉を示唆したものと評するのは相当ではない。これをもって、上記の判断を左右するものではない。
したがって、本件商標は、「ABBEY ROAD」が、ザ・ビートルズのアルバムのタイトルとして広く認識されていたことを参酌しても、商標法4条1項19号に違反して登録されたものとはいえない。
3 商標法4条1項7号について
(1)登録査定時における該当性の有無
ア 商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)商標の構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)商標の構成自体が前記のものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、その使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するとして到底容認し得ないような場合、などが含まれると解される。
イ 本件において、「ABBEY ROAD(アビイ・ロード)」は、前記1(1)のとおり、ザ・ビートルズのアルバムの発売前から現に存在する通りの名称であり、ザ・ビートルズのアルバムのタイトルだけを観念させるものではない。しかして、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が、請求人の独創に係る造語でないことは明らかである。
また、前記のとおり、本件商標の出願時において、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が、請求人(グループ企業を含む。)やザ・ビートルズの業務に係る標章として需要者の間に広く認識されるに至っていたとは認められないものものである。
してみれば、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」は、唯一請求人に由来する標章、あるいは唯一ザ・ビートルズのアルバムのタイトルに由来する標章とはいい得ないから、本件商標が請求人あるいはザ・ビートルズに係る標章に依拠して剽窃的に採択し出願されたものと断ずることはできないし、また、我が国で登録がされていないことを奇貨として、被請求人が先取りして本件商標を出願し登録を得たとみるべき客観的事情はみいだせない。
以上からすれば、本件商標は、その登録に至る出願の経緯において著しく社会的相当性を欠くものがあったとはいえず、また、ザ・ビートルズの名声に便乗し、指定商品について使用の独占を図る結果を招来し公正な取引秩序を乱すものとなるなど、その登録を是認することが商標法の予定する秩序に反し到底容認し得ないものであるとみることはできない。
また、本件商標を指定商品について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するとの理由はみいだせず、他の法令等に反するとの事由や、国際信義にもとる行為であるとみるべき事情も認められない。
そしてもとより、本件商標が、その構成自体において、きょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような商標に該当しないことは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に違反して登録されたものということはできない。
(2)商標登録後における商標法4条1項7号の該当性
本件商標の設定登録後の事情として、請求人は、アビイ・ロード・スタジオが歴史的遺産に認定された2010年2月、あるいは、アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道が歴史的遺産に認定された2010年12月の時点において、本件商標は、商標法4条1項7号に違反する後発的無効理由を有するものとなったと主張する。
確かに、証拠(甲14及び甲15)によれば、2010年に英国において、「アビイ・ロード・スタジオ」や同スタジオの前の横断歩道(ABBEY ROAD)がザ・ビートルズに所縁のある歴史的構造物(名所)として位置付けられていることを窺い知ることができる。
しかしながら、仮令、前記スタジオや横断歩道が歴史的名所として指定され保護、保存すべきものとされているとしても、「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が標章として公的に管理されているものであるとか、その使用等が公的に制限されているといった事情があるとすべき証拠はない。
しかして、標章「ABBEY ROAD」あるいは「アビイ・ロード」が、上記の「アビイ・ロード・スタジオ」や同スタジオ前の横断歩道との関連性を想起させることがあり得るとしても、本件商標の登録が存続し、本件商標が被請求人により指定商品について使用を継続されることによって、2010年以前と異なり、英国をはじめ、我が国を含めた一般世上におけるザ・ビートルズの名声や尊厳を傷つけることになったり、あるいは公平な取引秩序を乱すことや国際信義にもとることになったとは到底認め難いものである。
したがって、本件商標は、その設定登録後において、上記の英国における事情により、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当するものとなったとは認められないものである。
(3)小括
以上によれば、本件商標は、商標法4条1項7号に違反して登録されたものには該当せず、また、設定登録後において、同7号(同46条1項5号)に該当することになったとも認められないものである。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法4条1項7号、同15号及び同19号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項1号及び同5号に基づき、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)




審理終結日 2013-01-10 
結審通知日 2013-01-16 
審決日 2013-01-29 
出願番号 商願昭53-95930 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (118)
T 1 11・ 271- Y (118)
T 1 11・ 222- Y (118)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 渡邉 健司
井出 英一郎
登録日 1982-06-29 
登録番号 商標登録第1517958号(T1517958) 
商標の称呼 アビーロード 
代理人 杉山 直人 

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