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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X03
管理番号 1272579 
審判番号 無効2012-890057 
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-07-05 
確定日 2013-03-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第5481081号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5481081号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5481081号商標(以下「本件商標」という。)は、「KAOM」の欧文字を標準文字で表してなり、平成22年4月15日に登録出願、第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類(薫料を除く。)」を指定商品として、同24年2月28日に登録査定、同年3月23日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標を無効にすべきものとして引用する登録商標は、以下の(1)ないし(4)のとおりである。
(1)登録第526157号商標(以下「引用商標1」という。)は、「KAO」の欧文字を書してなり、昭和32年9月28日に登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同33年8月21日に設定登録され、その後、平成21年1月7日に第3類「せっけん(日本薬局方の薬用せっけんを除く。)」及び第5類「日本薬局方の薬用せっけん」を指定商品とする書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
なお、引用商標1は、商標登録原簿に記載のとおり防護標章登録1ないし35を有していたが、いずれも存続期間の満了により抹消登録がなされている。
(2)登録第3027307号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成4年9月28日に登録出願、第3類「せっけん類,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料,化粧品,つけづめ,つけまつ毛,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,歯磨き,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用漂白剤,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布,靴クリ?ム,靴墨,塗料用剥離剤」を指定商品として、同7年2月28日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
なお、引用商標2は、商標登録原簿に記載のとおり防護標章登録第1号(第1類ないし第42類)を有している。
(3)登録第1522795号商標(以下「引用商標3」という。)は、「KAO」の欧文字と「花王」の漢字を二段に書してなり、昭和53年3月14日に登録出願、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同57年6月29日に設定登録され、その後、平成14年2月20日に第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」を指定商品とする書換登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
(4)登録第5300448号商標(以下「引用商標4」という。)は、「KAO」の欧文字を標準文字で表してなり、平成21年6月10日に登録出願、第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き,つけづめ,つけまつ毛,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,つけまつげ用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり」及び第1類、第5類、第10類、第11類、第16類、第21類、第29類、第30類、第31類、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同22年2月12日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
以下、引用商標1ないし引用商標4を一括していうときは、単に「引用各商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第206号証を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号、同第15号、同第19号及び同第8号に該当するものであるから、商標法第46条第1項第1号により無効にされるべきである。
2 具体的理由
(1)請求人の名称の略称「花王」の著名性について
ア 請求人について
請求人は、1940年(昭和15年)5月に設立された、せっけん、洗剤、シャンプーなど家庭用品製品、化粧品、産業用化学製品の製造・販売とこれらに付帯するサービス業務を行う株式会社であり、従業員数5,924名(連結対象会社合計34,743人)、資本金854億円、日本国内に事業場3か所、工場8か所、研究所3か所、国内グループ会社11社を有し、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等海外にも子会社・関連会社を多数有する大企業である(甲11及び甲12)。請求人の英文社名は「KAO CORPORATION」である。また、海外子会社・関連会社の名称には、「Kao(China)Holdings Co.,Ltd.」、「Kao(Hong Kong)Ltd.」、「Kao USA Inc.」、「Kao Denmark A/S」、「Kao Germany GmbH」等、ほとんどにハウスマークである「KAO」の文字が含まれている(甲15ないし甲20)。
イ 引用各商標の独創性及び請求人の継続使用
請求人が自己の営業表示及び自己の業務に係る商品・役務に使用する商標「花王」は、請求人が1890年(明治23年)に発売を開始したせっけんに付した名称である。これは、請求人の創業者である長瀬富郎の創案によるもので、「花王」の発音が「顔」に通じることに加えて、洗顔に用いると皮膚を痛めることもあった当時の国産せっけんと違って、請求人商品が「顔洗い」すなわち顔の洗える国産の優良せっけんである、という点を強調したいとの同人の思いが込められたものであった(甲12ないし甲14)。このように、請求人の商標「花王」は、請求人の創業者の独創によるものであり、それ以降、「花王」という言葉が請求人以外の何者かを意味する名称として一般的に使用されることはなく、「花王」商標の独創性の高さは現在でも維持されている。
また、請求人は、花王石鹸の発売後、1925年(大正14年)に、「花王石鹸株式会社長瀬商会」を設立し、その後「花王石鹸株式会社」の名称を経て現在の名称である「花王株式会社」に名称を変更して、かかる商号で営業を継続して行っている。
以上のとおり、請求人は、1890年以降現在に至るまでの約1世紀以上もの長きに亘り、「花王」を自己の商号の一部として、自己の営業表示及び自己の業務に係る商品・役務に使用する商標として、一貫して使用し続けている。
そして、「花王」の英文表記である「KAO」についても、請求人は「花王」と同様に自己の営業表示及び自己の業務に係る商品・役務に使用するハウスマークとして継続して広く使用してきたものであり、「KAO」についての商標登録も多数有しているものである(甲21及び甲23)。なお、請求人は、事業ブランドロゴとして「花王及び月のマーク」を長年使用してきたが、2009年6月に「KAO及び月のマーク」に変更し、以降同ロゴマークを、広範に使用している(甲24)。
ウ 請求人の引用各商標の周知・著名性
(ア)請求人の広告宣伝活動について
請求人は、創業時より広告宣伝を非常に重視してきた企業であり(甲25)、莫大な広告宣伝費をかけて、全国紙やテレビ・ラジオ等による積極的な広告宣伝活動を行い(甲26ないし甲56)、「花王」及び「KAO」ブランドの認知度やイメージのアップに長期間努めてきている。
(イ)請求人の引用各商標が広く世人に浸透している
請求人の活動の結果、日経新聞等様々なメディアが行うブランドランキング等で、請求人の名称「花王株式会社」の略称である「花王」及び「KAO CORPORATION」の略称である「KAO」は、常に上位の位置を占めている(甲57ないし甲100)。請求人の略称である「花王」及び「KAO」は、テレビ、雑誌、新聞等のコマーシャルを通じて、その文字「花王」及び「KAO」やその称呼「カオー」が多くの世人に伝達され、浸透している(甲101及び甲102)。
実際に、テレビに写し出されるコマーシャルメッセージにおいて、「花王」及び「KAO」の文字や、「カオー」又は「カオウ」の称呼をもって請求人を指称するものであると理解しないものは、皆無と言っても良いほどである。
特に商標「KAO」は主に、請求人の主力製品である商品「せっけん」や化粧品全般に使用されており、請求人の出所を表すものとして「花王」と同様に広く知られてきたものである(甲117ないし甲159)。また、「KAO」は、請求人の英文名称「KAO CORPORATION」の略称でもあり、請求人の業務に係る出所標識としてだけでなく、グローバルに展開をする請求人の略称として、世界的にも広く知られているものである。
さらに、上述のとおり請求人は、2009年6月に事業ブランドロゴを「KAO及び月のマーク」に変更し、以降、広範に同ロゴマークを使用している。
以上のように、請求人の商標「花王」は言うまでもなく、その英文表記である「KAO」についても同様に著名に至っているものである。
(ウ)引用各商標は、「せっけん類、化粧品」について著名である
請求人は、1887年に創業されて以来、日本各地はもちろんのこと、世界各地に支店や支社、関連会社等を数多く有し、多角化経営を行なう代表的な企業として知られている(甲11)。具体的には、請求人は、せっけん、シャンプー、歯磨き、歯ブラシ、入浴剤、衣料用洗剤・住居用洗剤等の各種洗剤、生理用品、各種おむつといった「家庭用品」、洗顔、基礎化粧品、ファンデーションといった「化粧品」、調理油やヘルスケアオイル、緑茶飲料といった「食品」などの消費者用の製品のみならず、業務用に様々な「化学品」をも製造・販売し、様々な商品を製造・販売し、様々な分野に進出してきた。しかしながら、そのような多角化されたビジネスを展開しているといってもなお、本件商標の指定商品が属する、せっけん類及び化粧品等の商品分野が、請求人の事業のコア・ビジネスとして位置づけられている。請求人が最も長く、かつ精力的に扱う商品は、「せっけん、化粧品」であり、現在でも、これら商品が日本国内外を問わず、「花王の製品」として、最も著名であることは言うまでもない。
したがって、「せっけん類、化粧品」等を指定商品に含む引用各商標は、請求人の商品を表示する商標として、著名であるといえる。
(エ)請求人の登録商標・防護標章登録例
請求人は、創設以来、経営の多角化に伴い、広い区分にわたって、数多くの「花王」「KAO」についての商標登録を行い、その商標の保護に努めてきた。その結果、日本国内においては155件、日本国外においては678件もの標章が請求人の商標として登録されるに至っており、しかも、かかる請求人の商標の登録は、防護標章も含め、1商標につき、全ての類の商品及び役務の区分においてなされているものも多い(甲21ないし甲23)。かかる事実は、数多くの商品又は役務の分野において、「花王」「KAO」が請求人の独創的な商標として高い識別力を有していることを顕著に示している。特に、「花王」のローマ字読みである「KAO」については、引用商標1(登録第526157号商標)について防護標章登録第1号ないし第35号、引用商標2(登録第3027307号商標)について防護標章登録第1号が、それぞれ登録されていることから、引用商標1及び2が、その指定商品について著名性を獲得しているということは特許庁において顕著な事実である(甲3ないし甲6)。さらに、商標「花王」及び「KAO」を含む商標登録は、「Famous Trademarks in Japan(日本有名商標集)第3版」においても掲載されている(甲103)。
(オ)請求人による過去の異議決定・審決例
引用各商標の著名性については、異議決定・審決例において、「KAO」及び「花王」が請求人に係る商標として著名であることについて認められている(甲104ないし甲107)。
(カ)小括
以上によれば、本件商標の登録出願時である平成22年4月15日にはもちろん、本件商標の登録査定時である平成24年3月5日においても、引用各商標は、請求人の商号の一部として、請求人の営業表示及びその業務に係る商品・役務に使用されるハウスマークとして、周知・著名なものであることは明らかである。
(2)本件商標と引用各商標の類否及び商品の類否について
ア 外観・称呼・観念における類似性
(ア)本件商標について
本件商標は、欧文字の「KAOM」を標準文字で書してなるものである。その構成においては、最初の3文字が請求人の略称及び請求人の業務に係る化粧品・せっけん類等の商標として著名な引用各商標である「KAO」と同一の外観であり、同一の称呼を生じる文字である「KAO」である。
そして、本件商標からは、その全体から「カオム」との全体の称呼が生じるほか、「カオーエム」の称呼をも生ずるといえる。また、最初の3文字「KAO」部分は、請求人の略称及び請求人の業務に係る化粧品・せっけん類等の商標として著名な「花王」及び「Kao」と同一の称呼を生じる文字のため、当該部分より、請求人である「花王株式会社」、あるいは、請求人の業務に係る化粧品・せっけん類等の周知・著名なブランドである「花王」「KAO」の観念が生じる。
(イ)引用各商標の称呼・観念・外観について
一方、引用商標1は、「KAO」の欧文字、引用商標2は、別掲(1)のとおりの「Kao」の欧文字、引用商標4は、「KAO」の欧文字からなるものであり、引用商標3は、「KAO」の文字と「花王」の文字とを二段書きにした構成からなるものである。引用各商標からは、その構成に含まれる「KAO」の文字に相応して、いずれも「カオー」の称呼が生じ、請求人である「花王株式会社」、或いは請求人が化粧品・せっけん類等に使用して周知・著名なブランドである「花王」「KAO」との観念が生じる。
(ウ)本件商標と引用各商標の称呼・観念・外観の類否
本件商標のうち最初の3文字「KAO」の部分は、上述のとおり、請求人の独創に係り、請求人の名称の略称及び請求人の化粧品・せっけん類の商標として周知・著名な引用各商標と同一の称呼を生じるため、取引者、需要者に対し、請求人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるので、その点だけからしても当該「KAO」を本件商標の要部として抽出し、請求人の略称及び引用各商標との類否判断を行うべきものといえる。この点を踏まえて、本件商標と請求人の名称の略称及び引用各商標の称呼・観念・外観の類否判断を行う。
a 外観上の類似
本件商標は、欧文字「KAOM」よりなり、最初の3文字が、引用各商標の欧文字「KAO」と同一であり、末尾に、「M」の文字を有する点でのみ異なる。本件商標と引用各商標は、看者の注意を最も惹く最初の3文字が共通しており、本件商標は、引用各商標と外観上において類似するというべきである。
b 称呼上の類似
本件商標の称呼である「カオム」においては、最初の2音が、引用各商標の称呼「カオー」と同一である。また、「ム」の音は、くぐもって発音され、聴別が困難であることから、本件商標と引用各商標とは、聞き誤るおそれが高く、称呼上互いに類似するというべきである。さらに、本件商標からは「カオーエム」の称呼を生ずるが、この場合、最初の3音が引用各商標の称呼と同一となる。
c 観念上の類似
引用各商標は、請求人の英文社名の略称であり、上述のとおり、請求人の業務に係る商品・役務を表示する商標として著名性を獲得していることから、請求人である「花王株式会社」及び請求人の業務に係る化粧品・せっけん類の著名な商標である「花王」「KAO」の観念が生じるものである。
一方、本件商標「KAOM」は、辞書に意味が記載された語句ではなく、特定の観念を生じない造語であるが、上述のとおり要部といえる最初の3文字より、請求人である「花王株式会社」及び請求人の業務に係る化粧品・せっけん類の著名な商標である「花王」「KAO」の観念が生じることに加えて、「M」等のアルファベット1文字は、商品の規格や品番を表示する文字として多用されている実情に照らせば、本件商標は、「KAO」の業務に係る商品の「エム」というシリーズであるとの観念も生じ得ると考えられる。
d 商品・役務の同一・類似
本件商標の指定商品は、「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類(薫料を除く。)」であるところ、「せっけん類」は、引用各商標に係る指定商品の一部「せっけん類」と同一である。また、「歯磨き,化粧品,香料類(薫料を除く。)」は、引用商標2ないし4に係る指定商品の一部と同一である。
イ 本件商標全体から請求人の著名な略称及び引用各商標が連想・想起されること
上記アに述べたとおり、本件商標と引用各商標は外観・称呼・観念上類似することが明らかであるが、類否判断の際に考慮すべき具体的取引の実情として他人の商標の著名性を考慮すべきである(甲114ないし甲116)。上述の引用各商標の著名性も考慮するならば、本件商標と引用各商標間における出所の混同のおそれは高く、本件商標と引用各商標との類似性はより高くなるというべきである。この点においても、両商標は類似するというべきである。
さらに、審判決において、二語以上からなる商標の構成部分のうち、周知・著名な商標部分が独立して取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部であって、そこから周知・著名商標部分のみの称呼をも生ずることを前提として、かかる要部たる周知・著名商標部分を抽出して他の商標との類否判断をし、両商標が類似するとされている(甲160ないし甲168)。これらの審判決例に鑑みるならば、本件商標「KAOM」は、周知・著名な前半の「KAO」部分をその要部として引用各商標「KAO」等との類否判断を行うべきであり、その場合、両者は称呼上類似するものであることは明らかである。
本件商標と引用各商標とは、称呼及び外観において類似すること、また、引用各商標の著名性を考慮すれば、本件商標に接した取引者・需要者は、著名な「Kao」ブランドを連想するというべきであるから、本件商標がその指定商品に使用された場合には、花王株式会社に係る商品であるかのように誤認・混同する可能性が高いというべきである。
ウ 小括
以上に述べたとおり、本件商標の最初の3文字の「KAO」部分については、前述のとおり、請求人の名称の略称及び、請求人が「化粧品、せっけん」等に使用して周知・著名な引用各商標と同一の称呼を生じる文字からなり、本件商標においては、「KAO」部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部であるといえる。したがって、本件商標は、請求人の著名な略称及び引用各商標と外観・称呼・観念の何れにおいても類似する。
(3)商標法第4条第1項第10号該当性について
本件商標は、請求人が使用する著名な商標「KAO」と類似する商標であり、当該著名な商標「KAO」が使用される「せっけん類、化粧品」等を指定商品とするものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第11号該当性について
上述のとおり本件商標は、本件商標の登録出願日前の商標登録出願に係る請求人の先行登録商標である引用各商標と類似する商標である。さらに、上記のとおり、本件商標は引用各商標に係る指定商品と同一又は類似の商品について使用する商標である。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 本件商標と引用各商標の類似性の程度
請求人の略称は、「花王」及び「KAO」の文字よりなり、引用各商標も「花王」又は「KAO」の文字からなるか、または、「KAO」の文字をその構成の一部に含んでなるため、その構成文字に相応して「カオー」の称呼が生じ、請求人である「花王株式会社」あるいは請求人の業務に係る化粧品等についての著名なブランドである「花王」又は「KAO」との観念が生じる。
他方、本件商標は、「KAOM」の文字よりなるが、「KAO」の部分は、請求人が自己の名称の一部に使用して周知・著名な請求人の略称及び請求人が「化粧品」等に使用して周知・著名な引用各商標と同一の称呼が生じる文字からなる。4文字からなる商標においては、最初の3文字が類否判断の上で観るものの注意を最も引くことに加えて、本件商標の称呼において語尾の「ム」は軽く発音されることから、最初の3文字である「KAO」の部分を要部として類否判断すべきである。そして、かかる本件商標の要部「KAO」からは、「カオー」の称呼が生じ、観念上も、「花王株式会社」、あるいは、請求人の業務に係る化粧品等の著名な商標である「花王」「KAO」との観念が生じる。
したがって、本件商標は、請求人の略称及び引用各商標と外観・称呼・観念において類似するというべきである。よって、本件商標は、請求人の著名な略称及び請求人が化粧品等に使用して周知・著名な引用各商標と類似することは明らかである。
イ 引用各商標の周知著名性の程度
引用各商標は、上述のとおり、請求人の営業表示及びその業務に係る商品・役務に使用される商標として、周知・著名なハウスマークであり、「KAO」は、請求人の創業者である長瀬富郎の独創によるものであって、請求人以外の第三者により商標として採択される可能性の低い創造標章であることは明白である。「混同のおそれ」の判断においては、係る引用各商標の独創性の高さは、十分に考慮されるべきである。
ウ 本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
上述のとおり請求人は、「家庭用品」、「化粧品」、「食品」、「化学品」を製造・販売し、いわゆる企業の多角化経営を行なっているといってもなお、せっけん類、化粧品等の商品分野は、請求人にとって最も重要であり、かつ、請求人の「花王」及び「KAO」ブランドが最も著名である商品分野である。したがって、本件商標の指定商品と、請求人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的は同一であり、商品の取引者及び需要者の共通性の程度は極めて高いことは明らかである。
エ 請求人による過去の異議決定・審決例
過去の異議決定・審決例からも、「KAO」及び「花王」の文字を含む本件商標が使用された場合、引用各商標との間で商品の出所混同のおそれが高いことは明らかである(甲105ないし甲107)。また、周知・著名商標をその構成中に含む商標についての異議決定・審判決においても、周知・著名な商標をその構成中に含む商標については、商標法第4条第1項第15号に該当するとの判断が定着している(甲169ないし甲206)。
カ 小括
以上述べたとおり、本件商標「KAOM」と引用各商標「KAO」との外観及び称呼上の類似性、請求人の引用各商標が周知・著名性を獲得していること、「花王」「KAO」標章の独創性の高さ、請求人が最も高く著名性を獲得している化粧品分野の商品を、本件商標が指定商品としている点などの取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断した場合、本件商標に接した取引者・需要者は、恰も請求人若しくは請求人と何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、その構成中に請求人の営業表示及び請求人の業務に係る商品・役務に使用される商標として周知・著名な引用各商標を構成する欧文字の「KAO」を含むものであり、引用各商標と類似する商標である。
また、引用各商標は、前述のように本件商標の登録出願時には、すでに請求人の営業表示及びその業務に係る商品・役務に使用する商標として極めて広く知られていたのであるから、本件商標の出願人が偶然に著名な引用各商標を含む本件商標を登録出願したとは考え難く、引用各商標の有する高い名声・信用・評判にフリーライドする目的でもって出願、使用されているものと推認される。すなわち、著名な引用各商標と類似する本件商標は、著名な引用各商標の持つ名声・信用・評判を毀損させる目的をもって出願したものというべきであり、その出所についての混同のおそれを有し、また著名な引用各商標の出所表示機能を希釈化させるおそれのあるものというべきであり、このような本件商標は信義則に反する不正の目的でなされた出願というべきであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(7)本件商標は商標法第4条第1項第8号について
請求人の略称「花王」及び「KAO」の著名性は上述したとおりである。本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において日本国内の需要者の間に広く知られていた請求人の略称「KAO」を含み、請求人の承諾を得ることなく出願、登録されたものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。
3 まとめ
以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号、同第15号、同第19号及び同第8号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 認定事実
(1)請求人について
請求人「花王株式会社」(Kao Corporation)は、1887年(明治20年)6月創業、1940年(昭和15年)5月に設立され、資本金854億円、従業員数5,924名(連結対象会社合計34,743人)、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等海外に子会社・関連会社有する企業で、「化粧品、せっけん、洗剤、シャンプー、歯磨き」などの家庭用品、香料、産業用化学製品等の製造・販売を業としており、2011年3月期には、連結売上高が11,868億円である(甲11)。
そして、請求人の海外子会社・関連会社の名称には、「Kao(China)Holdings Co.,Ltd.」、「Kao(Hong Kong)Ltd.」、「Kao(Taiwan)Corporation」、「Kao Brands Australia Pty. Limited」、「Kao USA Inc.」、「Kao Denmark A/S」、「Kao Germany GmbH」、「Kao(UK)Limited」等、名称に「Kao」の欧文字が冠されている(甲15ないし20)。
請求人は、1890年に「花王」の商標を付してせっけんを発売し、その後、請求人の名称は、「花王石鹸株式会社長瀬商会」(甲27)、花王石鹸株式会社(甲31)、現社名である「花王株式会社」というように社名の一部に「花王」が使用され、また、「花王」が請求人の略称として新聞紙上等において頻繁に使用されている(甲41、甲42、甲57ほか)。
(2)「Kao」又は「KAO」商標について
ア 請求人は、「Kao」の文字からなる商標を昭和62年から、せっけんに使用し(甲126)、当該せっけんについて、ギフトカタログ、販売店向け広告物、新聞広告により宣伝された(甲118ないし甲144)。
また、上記ギフトカタログには、その表紙に「KAO」の商標が記載されている(甲118、甲119、甲122、甲123)。
さらに、「Kao」の商標は、1982年10月ないし1985年11月に発行された「花王化学品事業のご案内」と題するパンフレットに使用されている(甲150ないし甲153)
イ 請求人は、「花王」の文字と月の図からなる商標をハウスマークとして使用してきた(甲37)。そして、2009年10月から別掲(2)の書体による「Kao」の文字と月の図からなる商標を事業ブランドロゴとし、請求人及び請求人グループ全体を表すロゴとして「Kao」を使用することにした(甲24)。
ウ 請求人の広告宣伝費は、昭和43年度は約56億8800万円であり(甲56)、本件商標の出願時前の2006年度から2010年度は、810億円から990億円であり、そして、上記5年間の売上高に占める広告宣伝費の比率は、6.8%ないし7.9%である(甲49ないし甲54)。
エ 日本経済新聞社が行った、一般個人を対象にした「日経企業イメージ調査」によれば、広告接触度の企業ランキングは、1993年が18位、1994年が14位、1995年が26位、1996年が15位、1997年が11位、1998年が14位、1999年が13位、2000年が17位、2001年が11位、2002年が12位、2003年が15位、2004年が13位、2005年が21位、2006年が12位、2007年が13位、2008年が22位、2009年が13位、2010年が25位である(甲58ないし甲74)。
2 混同を生ずるおそれについて
(1)引用商標(「Kao」及び「KAO」の商標)の著名性
前記1によれば、「Kao」及び「KAO」は、請求人の略称である「花王」の英語表記として使用されているものであり、また、請求人は、遅くとも昭和62年には、「Kao」の商標をせっけんに使用し、さらに「KAO」の商標を使用したことが認められ、また、請求人は、「Kao」の文字と月の図からなる商標を2009年10月より請求人の事業ブランドロゴとして使用していることが認められ、提出された証拠中には、具体的な広告は少ないものの、毎年多額の広告費を投じていること、一般個人の広告接触度が高いこと、「Kao」「KAO」は、請求人の代表的出所標識であり、特に「Kao」は、上記ハウスマークの一部として常に使用されていることからすると、「Kao」及び「KAO」の商標(以下「引用商標」という。)は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、我が国の取引者、需要者の間において周知・著名になっていたというべきである。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度
ア 本件商標
本件商標は、「KAOM」の欧文字からなるものであり、「カオム」の称呼を生じるものと認められる。また、特定の意味合いを有するとは認められないから、観念を生じるものではない。
イ 引用商標について
引用商標は、上記のとおり、「KAO」及び「Kao」の文字からなるものであり、請求人の略称であり長年ハウスマークとして使用している「花王」が「カオー」と称呼され、広く知られているものであり、「KAO」及び「Kao」が「花王」を欧文字で表したものと認識されることからすると、「カオー」の称呼を生じると認められ、また、その文字自体から独自の観念を生じるものではない。
ウ 本件商標と引用商標の対比
(ア)外観について
本件商標は、前記のとおり、「KAOM」の欧文字4字からなるものであるが、引用商標の「KAO」とは、語頭部の3字を共通にするものであり、また、「Kao」についても上記のとおり、「花王」を欧文字で表したものと認識され、大文字と小文字の違いはそれほど重視されないことからすると、末尾の「M」の文字の有無の相違にすぎないものである。そして、「KAOM」の文字が何らかの意味を有するものとして、構成全体が一体のものとして強く印象付けられるものではないことからすると、本件商標と引用商標は、外観上近似した印象を受けるものである。
(イ)称呼について
本件商標から生ずる「カオム」の称呼と引用商標より生ずる「カオー」の称呼を比較すると、両者はいずれも3音構成からなり、「ム」音と長音「ー」の差異を有するものであるが、本件商標の「ム」音は鼻音であって、特に語尾音においては弱音となり、明確に聴取し難いものである。
他方、引用商標より生ずる「カオー」の語尾の長音「ー」も、中間音「オ」の母音(o)に吸収されるよう発音、称呼されるといえるものであり、本件商標の場合と同じく語尾に位置するものであるから、長音「ー」が明確に聴取し難いといえるものである。
そうすると、本件商標と引用商標をそれぞれ一連に称呼すると、相紛れるおそれがあるものというべきである。
(ウ)観念について
本件商標と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じるものでなく、比較することができないものであるから、観念において区別するというべき明確な差異を有するものということはできない。
(エ)小括
以上よりすると、本件商標と引用商標は、その称呼、外観及び観念を総合してみるならば、類似の商標といえないまでも類似性の程度が高い商標であるというべきである。
(3)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品について
上記のとおり、引用商標は、請求人のハウスマークとして使用されている
ものであり、請求人は、せっけん、歯磨き、化粧品、香料を含め、家庭用品、食品、化学品を取り扱っているものである。
そして、本件指定商品は、「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類(薫料を除く。)」であるから、請求人の業務に係る商品と共通しているものと認められる。
(4)以上のとおり、引用商標は、我が国において、商品「せっけん」等に使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、需要者の間に広く知られているものであること、本件商標と引用商標とは類似の程度が高いものであること、さらに本件商標の指定商品と引用商標が使用される商品とは共通するものであることなどを併せ考慮すると、本件商標をその指定商品に使用した場合、その取引者・需要者において、当該商品が請求人又は請求人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると混同を生ずるおそれがあるというべきである。
なお、被請求人は、上記第4のとおり、何ら答弁していない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について検討するまでもなく、同法第46条第1項第1号に該当し、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)引用商標2


(2)請求人がハウスマークに使用する「Kao」


審理終結日 2013-01-16 
結審通知日 2013-01-21 
審決日 2013-02-04 
出願番号 商願2010-30245(T2010-30245) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X03)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前山 るり子山田 正樹 
特許庁審判長 野口 美代子
特許庁審判官 内山 進
梶原 良子
登録日 2012-03-23 
登録番号 商標登録第5481081号(T5481081) 
商標の称呼 カオン、カオム 
代理人 中田 和博 
代理人 山田 薫 
代理人 田中 克郎 
代理人 佐藤 力哉 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 青木 博通 
代理人 中村 勝彦 
代理人 柳生 征男 

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