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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X36
管理番号 1271202 
審判番号 無効2012-890061 
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-07-30 
確定日 2013-02-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5443187号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5443187号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5443187号商標(以下「本件商標」という。)は、「レコード・キーピング・ネットワーク」の文字を標準文字で表してなり、平成23年3月24日に登録出願、第36類「確定拠出年金に関する運用管理の受託,確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け,確定拠出年金に関する運用管理の受託に関する情報の提供,確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報の提供」を指定役務として、同年9月8日に登録査定、同年10月7日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。
2 請求の理由
(1)商標法第3条第1項柱書き違反について
ア 本件商標の指定役務(以下「本件指定役務」という。)に係る業務についてみると、確定拠出年金に関する業務(確定拠出年金運営管理業)は、「主務大臣の登録を受けた法人でなければ、営んではならない。」(確定拠出年金法第88条第1項:甲2)と規定され、主務大臣(厚生労働大臣及び内閣総理大臣)の登録を受けた法人のみ(なお、同第2項には、「銀行その他政令で定める金融機関は、他の法律の規定にかかわらず、前項の登録を受けて確定拠出年金運営管理業を営むことができる。」との規定がある。)が確定拠出年金運営管理に関する業務を業として営むことができるとされており、本件商標権者は、主務大臣の登録を受けた法人ではなく、個人(自然人)であるところ、「自己の業務」として、本件指定役務に係る業務を行うことが法令上許されていない者といえるから、本件商標権者が「自己の業務」として前記業務を行うことはできない。
したがって、本件商標は、本件商標権者において「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」ではない。
イ さらに、本件指定役務中の「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け、確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報の提供」に係る業務についてみると、確定拠出年金法は「事業主は、政令で定めるところにより、給付に充てるべき積立金について、次の各号のいずれかに掲げる契約を締結しなければならない」(第8条第1項:甲2)と規定し、事業主と資産管理機関との資産管理契約の締結を義務づけている。ここで、資産管理機関は、企業型年金では信託会社(信託業法(平成16年法律第154号)第3条又は第53条第1項の免許を受けたものに限る。)(確定拠出年金法第8条第1項第1号)、信託業務を営む金融機関、生命保険会社(保険業法(平成7年法律第105号)第2条第3項に規定する生命保険会社及び同条第8項に規定する外国生命保険会社等をいう。)(確定拠出年金法第8条第1項第2号)、農業協同組合連合会(全国を地区とし、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第10条第1項第10号の事業のうち生命共済の事業を行うものに限る。)(確定拠出年金法第8条第1項第3号)、損害保険会社(保険業法第2条第4項に規定する損害保険会社及び同条第9項に規定する外国損害保険会社等をいう。)(確定拠出年金法第8条第1項第4号)が担当する。
本件商標権者は、前記アのとおり、個人(自然人)であって、信託業法によって認められた信託会社や信託業務を営む金融機関、保険業法によって認められた生命保険会社、農業協同組合法によって認められた農業協同組合連合会、保険業法によって認められた損害保険会社ではなく、「自己の業務」として、上記指定役務に係る業務を行うことが法令上許されていない者といえるから、本件商標権者が「自己の業務」として前記業務を行うことはできない。
したがって、本件商標が本件商標権者において「自己の業務に係る商品又は役務について使用する商標」ではない。
ウ 商標法第1条が「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定していることなどに鑑みると、商標法は、商標の使用を通じてそれに化体された業務上の信用が保護対象であることを前提とした上で、出願人が現に商標を使用していることを登録要件としない法制(いわゆる登録主義)を採用したものであり、その上で、同法第3条第1項柱書きが、出願人において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件とした趣旨は、上記のような法制の下において、他者からの許諾料や譲渡対価の取得のみを目的として行われる、いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録を排除し、登録商標制度の健全な運営を確保するという点にある。そして、このような法の趣旨に鑑みれば、同法第3条第1項柱書きの「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、出願人が自己の業務に現に使用する商標又は近い将来において自己の業務に使用する意思がある商標であることを要し、また、ここでいう「自己の業務に使用する意思がある」といえるためには、単に出願人が主観的に使用の意図を有しているというのみでは足りず、自己の業務での使用を開始する具体的な予定が存在するなど、客観的にみて、近い将来における使用の蓋然性が認められることを要するものと解されている(平成22年(ワ)第11604号:甲3)。
エ 商標法第3条第1項柱書きの趣旨を念頭におきつつ、本件指定役務に係る業務を行うことができる主体についての確定拠出年金法第88条第1項の規定の内容からすれば、本件商標の登録がされた当時(平成23年10月7日)から、個人である本件商標権者が自ら確定拠出年金法第88条第1項の登録を受けることは実際上不可能であったものと認められ、さらに、「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け,確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報の提供」に係る業務を行うことができる主体についての確定拠出年金法第8条第1項各号の規定の内容からすれば、本件商標の登録がされた当時から、個人である本件商標権者が確定拠出年金法第8条第1項の資産管理契約の締結を行うことは実際上不可能であったものと認められるとともに、確定拠出年金法第8条第1項第1号?第4号の資産管理機関の主体となることは実際上不可能であったものと認められる。
したがって、本件商標の登録時に、本件商標権者が本件指定役務の業務主体としてその役務に係る業務を行うことができなかったことは明らかである。
よって、本件商標の登録出願は、商標法第3条第1項柱書きが定める登録要件を欠くものである。
オ 確定拠出年金法の概要等
(ア)確定拠出年金運営管理機関
a.確定拠出年金法第88条第1項において、確定拠出年金運営管理業を行う者を主務大臣の登録を受けた法人等に限る趣旨は、(a)「確定拠出年金が日本の年金制度において、各加入者等(審決注:確定拠出年金法第2条第7項において特定された『加入者等』と同じものと解する。以下同じ。)が自己の責任により運用し、その運用結果によって給付金額が決定される初めての制度であるところ、確定拠出年金が適切に運営され、老後の所得確保を図るための年金制度として国民に受け入れら、定着していくためには、何よりも増して加入者等が適切な資産運用を行うことができるだけの情報・知識を有していることが重要であり、そのため確定拠出年金法第22条の規定等に基づき、資産の運用に関する情報提供に係る業務を行うこととなる確定拠出年金を実施する事業主、国民年金基金連合会及びそれらから委託を受けて当該情報提供業務行う確定拠出年金運営管理機関等(審決注:この項目においてのみ、以下『事業主等』という。)は、極めて重い責務を負っており、制度への加入時はもちろん、加入後においても、個々の加入者等の知識水準やニーズ等を踏まえつつ、加入者等が十分理解できるよう、必要かつ適切な情報提供を行わなければならず」、(b)「資産の運用に関する情報提供に係る業務を行う事業主等は、常時前記(a)に記した責務を十分認識した上で、加入者等の利益が図られるよう、当該業務を行う必要がある」からである(甲4)。
b.確定拠出年金法において、「確定拠出年金運営管理業」とは、「運営管理業務」の全部又は一部を行う事業をいい、その「運営管理業務」については、確定拠出年金法第2条第7項において定められている(甲2)。
c.確定拠出年金運営管理機関の行為準則が、確定拠出年金法第99条第1項(甲2)に定められ、その内容を「別紙」の「確定拠出年金運営管理機関の行為準則」として明示している(甲5)。
なお、確定拠出年金運営管理機関は、確定拠出年金制度を運営する機関であり、企業型年金の場合、企業(事業主)が選任する。業務内容には、加入者の運用関連業務及び記録関連業務があり、運営管理機関になる者は、業務の全部、又は、一部が適切に実施できる体制が整っている等の一定の適格要件が必要である。運営管理機関には、「個人情報の保護」や「利益相反行為の禁止」といった禁止行為が定められ、自己の名義をもって、他人に確定拠出年金運営管理業を営ませてはならず(確定拠出年金法第95条:甲2)、加入者のために忠実に業務を遂行し、加入者の利益を保護する受託者責任が課せられているとともに、その他、損失補償、特別の利益提供、損失補てん、故意の不事実告知・不実告知、運用商品の推奨行為が禁止されている。
d.本件指定役務の「確定拠出年金に関する運用管理の受託」は、確定拠出年金に関する運用の管理を業として行うものであり、確定拠出年金法第2条第7項第2号に規定する運営管理業務の運用関連業務に該当する。また、本件指定役務の「確定拠出年金に関する運用管理の受託に関する情報の提供」は、確定拠出年金に関する運用管理に関する情報を業として提供するものであり、確定拠出年金法第2条第7項第2号に規定する運営管理業務の運用関連業務に該当する。したがって、個人である本件商標権者は、確定拠出年金運営管理機関のみが行うことができる前記本件指定役務に関する業務を行うことはできない。
確定拠出年金法では、「前条第1項の登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した登録申請書を主務大臣に提出しなければならない」と規定しているとともに(第89条第1項:甲2)、「主務大臣は、登録申請者が次の各号のいずれかに該当するとき、又は登録申請書若しくはその添付書類のうちに虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、その登録を拒否しなければならない。」と規定している(第91条第1項:甲2)。ここで、登録拒否事由の一例として、法人でない者(同項第1号)、他に営んでいる事業が公益に反すると認められる法人又は当該事業に係る損失の危険の管理が困難であるために確定拠出年金管理業の遂行に支障を生ずると認められる法人(同項第4号)があり、その登録要件を厳格に規定している。
(イ)資産管理機関
a.資産管理機関は、確定拠出年金制度の実施にあたり、加入者の年金資産の管理や運営管理機関がとりまとめた運用指示に基づいて運用商品の売買、年金・一時金の支払いなどを行う機関であり、信託会社、信託業務を営む金融機関、生命保険会社、農業協同組合連合会、損害保険会社が受け持つ。資産管理機関は、受託者であり、忠実義務が課せられている。企業型年金を導入する事業主は、積立金の資産管理のために資産管理機関を選任し、資産管理機関と資産管理契約を締結しなければならない(確定拠出年金法第8条第1項:甲2)。その趣旨は、確定拠出年金の掛金を企業自体の資産から切り離して管理するとともに、その掛金を運用する銀行や証券会社などの金融機関からも掛金を切り離して給付までの長期間にわたって安全に管理する必要があるからである。
b.本件指定役務の「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け」は、確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けを業として行うものであり、資産管理機関が行う加入者の年金資産の管理の一態様に該当する。また、本件指定役務の「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報の提供」は、確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報を業として提供するものであり、資産管理機関が行う加入者の年金資産の管理の一態様に該当する。したがって、個人である本件商標権者は、確定拠出年金の資産管理機関のみが行うことができる前記本件指定役務に関する業務を行うことはできない。
(2)利害関係について
請求人は、被請求人から本件商標に係る商標権を侵害する旨の警告を内容証明郵便にて受けており(甲8?甲11)、被請求人に対して利害関係を有する利害関係人である。
(3)結論
以上のとおり、被請求人による本件商標の登録出願は、同法第3条第1項柱書きが定める商標登録要件を欠くものであり、本件商標には同項柱書きに違反する無効理由(商標法第46条第1項)が存在することは明白である。

第3 被請求人の主張
被請求人は、前記第2の請求人の主張に対し、何ら答弁していない。

第4 当審の判断
2 商標法第3条第1項柱書きについて
(1)本件指定役務
商標法第3条第1項柱書きは、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定し、登録出願に係る商標が、その出願人において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを商標の登録要件の一つとして定めているところ、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは、現に行っている業務に係る商品又は役務について、現に使用している場合に限らず、将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解される。
本件指定役務は、前記第1のとおり、「確定拠出年金に関する運用管理の受託,確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け,確定拠出年金に関する運用管理の受託に関する情報の提供,確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報の提供」とするものである。そこで、本件商標が、その登録査定時において、本件商標権者が、現に行っている業務に係る役務について、現に使用している商標に該当するか否か、あるいは、将来行う意思がある業務に係る役務について将来使用する意思を有する商標に該当するか否かについて、以下検討する。
(2)確定拠出年金法について
確定拠出年金法は、その目的を、少子高齢化の進展、高齢期の生活の多様化等の社会経済情勢の変化にかんがみ、個人又は事業主が拠出した資金を個人が自己の責任において運用の指図を行い、高齢期においてその結果に基づいた給付を受けることができるようにするため、確定拠出年金について必要な事項を定め、国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することにある(第1条)ところ、本件審判に関連する主な規定を挙げると、以下のとおりである。
ア 確定拠出年金とは、企業型年金と個人型年金をいい(同法第2条第1項)、企業型年金とは、厚生年金適用事業所(厚生年金保険法(昭和29年法律第105号)第6条第1項の適用事業所及び同条第3項の認可を受けた適用事業所)の事業主(以下「事業主」という。)が、単独又は共同して実施する年金制度をいう(同条第2項、第4項)。また、個人型年金とは、連合会(国民年金基金連合会であって、個人型年金を実施する者として厚生労働大臣が全国を通じて一個に限り指定したもの)が、第3章の規定に基づいて実施する年金制度をいう(同条第3項、第5項)。
さらに、「確定拠出年金運営管理業」とは、次の(ア)及び(イ)に掲げる業務(以下「運営管理業務」という。)の全部又は一部を行う事業をいう(同条第7項)。
(ア)確定拠出年金における次のa.からc.までに掲げる業務(連合会が行う個人型年金加入者の資格の確認に係る業務その他の厚生労働省令で定める業務を除く。以下「記録関連業務」という。)
a.企業型年金加入者及び企業型年金運用指図者並びに個人型年金加入者及び個人型年金運用指図者(以下「加入者等」と総称する。)の氏名、住所、個人別管理資産額その他の加入者等に関する事項の記録、保存及び通知
b.加入者等が行った運用の指図の取りまとめ及びその内容の資産管理機関(企業型年金を実施する事業主が第8条第1項の規定により締結した契約の相手方をいう。以下同じ。)又は連合会への通知
c.給付を受ける権利の裁定
(イ)確定拠出年金における運用の方法の選定及び加入者等に対する提示並びに当該運用の方法に係る情報の提供(以下「運用関連業務」という。)
イ 事業主は、政令で定めるところにより、運営管理業務の全部又は一部を確定拠出年金運営管理機関に委託することができる(同法第7条第1項)。確定拠出年金運営管理機関は、政令で定めるところにより、前項の規定により委託を受けた運営管理業務の一部を他の確定拠出年金運営管理機関に再委託することができる(同条第2項)。運営管理業務の全部又は一部を行う確定拠出年金運営管理機関が欠けることとなるときは、事業主は、当該全部若しくは一部の運営管理業務を自ら行い、又は当該運営管理業務を承継すべき確定拠出年金運営管理機関を定めて当該運営管理業務を委託しなければならない(同条第3項)。
ウ 事業主は、政令で定めるところにより、給付に充てるべき積立金について、次のいずれかに掲げる契約を締結しなければならない(同法第8条第1項)。
(ア)信託会社(信託業務を営む金融機関を含む。)又は厚生年金基金を相手方とする運用の方法を特定する信託の契約
(イ)生命保険会社(保険業法(平成7年法律第105号)第2条第3項に規定する生命保険会社及び同条第8項に規定する外国生命保険会社等をいう。)を相手方とする生命保険の契約
(ウ)農業協同組合連合会(全国を地区とし、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第10条第1項第8号の事業のうち生命共済の事業を行うものに限る。)を相手方とする生命共済の契約
(エ)損害保険会社(保険業法第2条第4項に規定する損害保険会社及び同条第9項に規定する外国損害保険会社等をいう。)を相手方とする損害保険の契約
エ 連合会は、政令で定めるところにより、運営管理業務を確定拠出年金運営管理機関に委託しなければならない(同法第60条第1項)。
オ 確定拠出年金運営管理機関の登録について、確定拠出年金運営管理業は、主務大臣(厚生労働大臣及び内閣総理大臣:確定拠出年金法施行令第55条第1項)の登録を受けた法人でなければ、営んではならない(同法第88条第1項)。銀行その他の政令で定める金融機関は、他の法律の規定にかかわらず、前項の登録を受けて確定拠出年金運営管理業を営むことができる(同条第2項)。
カ 事業主は、その実施する企業型年金の企業型年金加入者等に対し、これらの者が行う第25条第1項の運用の指図に資するため、資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない(第22条)。そして、厚生労働省のウェブページ(甲4)からすると、「法第22条の規定に基づき加入者等に情報提供すべき具体的な内容」とは、資産の運用に関する情報提供に係る業務を行う事業主等は、少なくとも、 確定拠出年金制度等の具体的な内容、金融商品の仕組みと特徴、資産の運用の基礎知識などを、制度への加入時及び加入後の個々の加入者等の必要性に応じて加入者等に情報提供することと、解釈されている。
(3)前記(2)によれば、本件指定役務について、以下のとおり認定するのが相当である。
ア 「確定拠出年金に関する運用管理の受託」及び「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け」について
(ア)本件指定役務中の「確定拠出年金に関する運用管理の受託」は、確定拠出年金運営管理業が行う業務に属する役務と解される(確定拠出年金法第2条第7項)。そして、当該確定拠出年金運営管理業は、厚生労働大臣及び内閣総理大臣の登録を受けた法人でなければ、営んではならない(確定拠出年金法第88条第1項)ところ、本件商標権者は、自然人であると認められる。
してみると、本件指定役務中の「確定拠出年金に関する運用管理の受託」は、自然人である出願人が、業として行うことが法令上禁止されている役務といわなければならない。
(イ)本件指定役務中の「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け」は、確定拠出年金運営管理業が行う業務に属しない役務であり、確定拠出年金法第8条第1項に規定する信託会社(信託業務を営む金融機関を含む。)又は厚生年金基金、生命保険会社、農業協同組合連合会、損害保険会社が、事業主との間で給付に充てるべき積立金についての契約を締結することにより担う業務と解される(確定拠出年金法第2条第7項及び同法第8条第1項)。
一方、本件指定役務中の「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け」との関係から、信託会社、厚生年金基金、生命保険会社、損害保険会社農業協同組合連合会の業務等を定めた法律によれば、以下のとおりである。
a.信託業法によれば、「信託業」とは、信託の引受けを行う営業をいい(第2条第1項)、信託業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができない(第3条)、と規定され、さらに、内閣総理大臣は、第3条の免許の申請があった場合、申請者が株式会社でない者に該当するときは、免許を与えてならない(第5条第2項)、と規定されている。
b.厚生年金保険法によれば、厚生年金基金は、法人とする(第108条)、と規定されている。
c.保険業法によれば、保険業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、行うことができない(第3条)と規定され、この法律において「保険会社」とは、第3条第1項の内閣総理大臣の免許を受けて保険業を行う者をいい(第2条第2項)、保険会社は、株式会社又は相互会社である(第5条の2)旨規定されている。そして、この法律において「生命保険会社」とは、保険会社のうち第3条第4項の生命保険業免許を受けた者をいい(第2条第3項)、また、この法律において「損害保険会社」とは、保険会社のうち第3条第5項の損害保険業免許を受けた者をいう(第2条第4項)、と規定されている。
d.農業協同組合法によれば、農業協同組合又は農業協同組合連合会の名称中には、農業協同組合又は農業協同組合連合会なる文字を用いなければならない(第4条)。農業協同組合及び農業協同組合連合会は、法人とする(第5条)。農業協同組合を設立するには、十五人以上の農業者が、農業協同組合連合会を設立するには、二以上の組合が発起人となることを必要とする(第55条)、と規定されている。
以上a.?d.によれば、確定拠出年金法第8条第1項で規定する事業主が給付に充てるべき積立金について締結した契約の相手方のうち、信託会社は「株式会社」でなければならないこと、厚生年金基金は「法人」であること、生命保険会社及び損害保険会社の保険会社は、株式会社又は相互会社であること、農業協同組合及び農業協同組合連合会は「法人」であることが認められるから、本件指定役務中の「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け」は、自然人である出願人が、業として行うことが法令上禁止されている役務といわなければならない。
(ウ)以上によれば、本件商標権者は、その登録査定時において、その指定役務中の「確定拠出年金に関する運用管理の受託」及び「確定拠出年金に関する資産管理契約の引受け」について、法人でない本件商標権者が当該役務を営むことができない以上、本件商標は、その登録査定時において、出願人が現に自己の業務に係る役務に使用をしている商標に該当しないのみならず、将来に自己の業務に係る役務に使用することも認める余地はないものである。
イ 「確定拠出年金に関する運用管理の受託に関する情報の提供,確定拠出年金に関する資産管理契約の引受けに関する情報の提供」について
確定拠出年金法第2条7項、同法第22条の規定によれば、上記役務についても、資産の運用に関する情報提供に係る業務を行うこととなる確定拠出年金を実施する事業主や運営管理機関が行う役務であって、自然人である出願人が営むことができない役務と解される。また、たとえ、同法第22条の規定等に基づかない指定役務に係る情報の提供があるとしても、被請求人は、本件商標をその指定役務についての使用に関し、現に業として行っていること、又は、将来業として行う予定にあることについて、立証責任を負っているところ、その事実を裏付ける証拠を何ら提出していない。
そうすると、本件商標は、その登録査定時において出願人が現に自己の業務に係る役務に使用をしている商標に該当しないといわなければならないし、また、将来に自己の業務に係る役務に使用する意思があったとも認める余地はないものである。
ウ したがって、本件商標は、その登録査定時において、本件商標権者が現に自己の業務に係る役務に使用している商標に該当しないばかりか、将来自己の業務に係る役務について使用する商標にも該当しないから、本件商標の登録は、「自己の業務に係る役務について使用をする商標」についてされたものと認めることはできない。
(4)以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書きに違反してされたものというべきであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-12-21 
結審通知日 2012-12-26 
審決日 2013-01-15 
出願番号 商願2011-20825(T2011-20825) 
審決分類 T 1 11・ 18- Z (X36)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平澤 芳行 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 鈴木 修
小川 きみえ
登録日 2011-10-07 
登録番号 商標登録第5443187号(T5443187) 
商標の称呼 レコードキーピングネットワーク、レコード、キーピング、ネットワーク、レコードキーピング、キーピングネットワーク 
代理人 小林 義孝 

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