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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効としない X16
管理番号 1269517 
審判番号 取消2012-300285 
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-04-06 
確定日 2013-01-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第5339612号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5339612号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成22年1月21日に登録出願、第16類「雑誌,新聞,その他の印刷物」を指定商品として、同年7月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第51条第1項の規定により、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第45号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)被請求人の使用する商標について
ア 被請求人は、昭和57年12月24日、株式会社キャドテックスとして設立され、平成10年1月5日、株式会社医学出版に商号が変更され、雑誌及び書籍の出版等を事業目的としている(甲第2号証)。
被請求人は、本件商標を平成22年1月に登録出願し、平成22年7月に登録を受けた後、平成23年8月頃より、「HEART」なる題号の月刊誌(以下「被請求人雑誌」という。)について、別掲2の態様からなる商標(以下「本件使用商標1」という。)の使用を開始した(甲第3号証)。
イ なお、被請求人は、平成23年12月1日発行の被請求人雑誌2011年12月号では、本件使用商標1に登録商標であることを示す「●」(「○の中にR」の記号。以下「[R]」という。)を付した別掲3の態様からなる商標(以下「本件使用商標2」という。)も使用している(甲第4号証)。
以下、本件使用商標1及び2をまとめて「本件使用商標」という。
(2)請求人の使用する商標について
ア 請求人は、昭和56年に設立された株式会社であり、医療分野の学術用書籍・専門誌の出版及びDVDの制作並びに各種セミナー及び研究会の開催等を事業目的とし、医学・看護などの医療系分野を専門とする出版社である(甲第5号証)。
請求人は、循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象読者として、昭和62年11月1日に看護雑誌「HEART nursing」(以下「請求人雑誌」という。)を創刊し、当該創刊時から平成16年3月頃に至るまで、16年以上の長きにわたり、別掲4の態様からなる商標(以下「旧請求人商標」という。)を使用してきた(甲第6号証及び甲第7号証)。
イ 請求人は、上記「旧請求人商標」の使用に引き続き、平成16年4月頃から現在に至るまで、請求人雑誌について、別掲5の態様からなる商標(以下「現請求人商標」という。)を使用している(甲第7号証及び甲第8号証)。
ウ 旧請求人商標と現請求人商標の周知性
旧請求人商標と現請求人商標(以下、これらをまとめて「請求人商標」という。)は、請求人雑誌の商標として20年以上の長期にわたり継続的に使用されてきた結果、その主な対象読者層である循環器疾患医療に関わる看護師において、十分な周知性を獲得するに至っている。
(ア)販売実績
請求人商標が付された請求人雑誌は、昭和62年11月1日に創刊され、現在に至るまで24年の長期にわたり継続的に発行されている。創刊当初は隔月発行であったものの、昭和64年1月号より毎月発行となり、これ以降、現在に至るまで間断なく、毎月1回の出版及び発売を重ねている。
また、平成元年からは、毎月の月刊に加え、年に2回、特定のテーマを設けた増刊号を発行しているが、特に好評な増刊号については、バックナンバー販売の形態にて版を重ね、ロングセラーとなっている。
請求人雑誌の発行部数は、平成3年頃には年間5万8000部を数え、平成10年に6万5000部を越えてからは、現在に至るまで、常に6万後半から7万前半の発行部数を維持している(甲第9号証及び甲第10号証)。
(イ)需要者
請求人雑誌は、主に循環器疾患領域の看護師が購買者あるいは読者(予定)層として想定されている専門的な雑誌である。したがって、その性質上、当該分野に関心を有する需要者数は自ずと限定される。
(ウ)需要者等における認識
請求人雑誌の主な需要者は看護師であるところ、現に、看護師らが「職場の先輩方に読むことを勧められる雑誌のひとつ」「当院では長期にわたって読まれている雑誌」「(請求人雑誌に)掲載されている記事は循環器疾患をもつ患者の看護を受け持つ看護師にとって有用な内容が多い」「(請求人雑誌は)循環器領域の看護に関心が高く、知識・経験のある読者が読む雑誌として定評がある」等と陳述するように、請求人雑誌は、循環器医療に従事する者にとって注目すべき存在の雑誌である(甲第14号証ないし甲第21号証)。
(エ)宣伝広告実績
請求人は、請求人商標を付した請求人雑誌の表紙を掲載し、または請求人商標をそのまま掲載する形で、看護学会のプログラムや学会誌等において継続して広告活動を行ってきた(甲第22号証各枝番ないし甲第25号証)。
また、請求人は、学会誌等への広告掲載のみならず、学術集会において請求人商標を掲げたセミナーを開催(甲第26号証及び甲第27号証各枝番)するなどして、請求人商標の周知化に務めてきた。なお、日本循環器看護学会からは、このような請求人の貢献に対し、感謝状を受けるまでに至っている(甲第28号証)。
(オ)特許庁における周知性認定の事実
請求人商標が、請求人の業務に係る商品「雑誌」を表示するものとして周知性を獲得するに至っていることは、特許庁においても既に認定されているところである。即ち、被請求人は、請求人商標をそのまま構成中に包含した態様からなる商標「ハートナース/HEART nursing」を出願したところ(甲第29号証:商願2009-53018)、周知な請求人商標に類似することをもって、商標法第4条第1項第10号により拒絶されている(甲第30号証)。
(カ)小括
以上により、請求人商標が付された請求人雑誌の販売年数や発行部数、医療誌の取引に関する特段の事情、看護師や医師といった需要者等における認識、広告宣伝実績等からすれば、平成23年8月に被請求人雑誌が発刊された時点において、既に請求人商標は主たる対象読者層である循環器疾患医療に関わる看護師を中心に周知となっていたものとみるべきである。
(3)出所混同について
ア 請求人商標と本件使用商標の類似性
請求人商標と本件使用商標とは、上述のとおりの態様からなるところ、請求人商標では「HEART」の文字が特徴的に大きく書されていることからすると、構成文字全体から生ずる観念及び称呼の他、大きく書された「HEART」の文字部分に相応して、「ハート」の称呼及び「心」「愛情」の観念が生じ得る。一方、本件使用商標は、単に「HEART」の文字からなるため、請求人商標と同じく「ハート」の称呼及び「心」「愛情」の観念が生じるものである。
加えて、請求人商標における「HEART」の文字部分が、いわゆる「Times New Roman」と同等の書体にて大きく書されているのに対し、本件使用商標も、いわゆる「Times New Roman」と同等の書体にて「HEART」の文字を大きく書されていることから、両者は外観においても、これに接する需要者等をして近似した印象を生じさせるものである。
なお、請求人商標は大きく書された「HEART」の文字部分と、小さく書された「nursing」の文字からなる商標であるところ、これから「HEART」の文字部分のみが抽出し取引に資されることのある点は、該部分が視覚的に注目され易い態様で大きく書されていることに加え、現に、請求人雑誌が「HEART」と略称されて取引等されている事実(甲第31号証及び甲第32号証)や、社内的にも「ハート」と略称されている事実(甲第33号証)からみて取ることができる。さらに、請求人雑誌が、読者及び・又は執筆者である看護師や医師らにおいて、通常、「ハート」と称呼されていることの証左として、陳述書及び報告書(甲第16号証、甲第18号証ないし甲第20号証、甲第34号証及び甲第35号証)を提出する。
以上より、請求人商標と本件使用商標とは、称呼と観念において同一であり、外観においても近似した印象を与えるものであるから、両者は互いに相紛らわしい類似の商標といえる。
イ 商品の出所混同について
被請求人は、本件使用商標を請求人雑誌と同一の商品、即ち、循環器疾患医療に関わる看護師を対象とした月刊誌について使用している。また、上記(2)のとおり、請求人商標は、相当長期間にわたって継続的に使用されてきた結果、請求人雑誌に係る商標として周知性を獲得するに至っていることからすれば、需要者が、本件使用商標の付された被請求人雑誌を、請求人雑誌であると混同するおそれは極めて高い。
また、需要者が実際に商品を手に取る書店店頭では、いわゆる面だしと呼ばれるやり方で雑誌が並べられることも多く、かかる場合、需要者は、表紙上部に書された文字を手がかりに商品を手に取ることとなるため、表紙に書された題号の外観(書体や大きさ等)が似通っていると、出所の混同が生じ易い事情が認められる(甲第36号証)。
加えて、上記陳述書並びに報告書によれば、請求人雑誌と被請求人雑誌との混同が現実にも生じていることがみて取れる。
ウ 小括
以上より、商品の同一性や販売方法、請求人商標の周知性や本件使用商標との類似性に加えて、現実に誤認事例が生じている点や両誌を勘違いした読者等も複数存在する点をあわせて考慮すると、本件使用商標の使用は、商品の出所の混同を生じさせるおそれのあるものである。
(4)本件商標と本件使用商標の類似性について
本件商標は、「ハートナース」「HEARTCARE」「HEART NURSE」及び「ハートケア」の各文字を四段に配した構成からなるところ、これらは一段目と二段目、又は、三段目と四段目が称呼と観念を同じくする文字の組み合わせとなっておらず、「互い違い」に書されてなるため、看者をして構成が散漫で希薄な印象を与えるものである。
また、四段に書された各文字部分のうち、それぞれ「ハート」又は「HEART」の文字がいずれも共通の語として使用されているため、互い違いに書された四段の各文字の印象が希薄であることも相まって、かかる「ハート」又は「HEART」の共通した文字こそが、本件商標のうち看者をして最も強く印象せしめる部分であるといえる。
つまり、本件商標は、各文字の前半部に共通に書された「ハート」及び「HEART」の文字部分のみでも独立して取引に資され得るものであって、該部分に相応して「ハート」の称呼が生ずるのに加え、看者をして「心」や「愛情」といった観念・印象を想起せしめるものである。
一方、本件使用商標は、「HEART」の文字から構成されるところ、当該文字は、本件商標の2段目「HEARTCARE」の1語目の「HEART」と3段目の「HEART NURSE」の1語目の「HEART」の各文字と同一の書体で書してなり、また、本件商標から該部分のみが独立して取引に資され得るのは上述のとおりであるから、両商標は外観において類似する。また、本件使用商標からはその構成に即して「ハート」の称呼と「心」や「愛情」といった観念が生ずるため、本件商標と称呼及び観念においても類似する。
以上より、本件商標と本件使用商標は、外観、称呼、観念において相紛らわしく、類似の商標である。
(5)被請求人の故意について
ア 被請求人雑誌と請求人雑誌
被請求人は、本件使用商標を、請求人雑誌と同一の商品、即ち、循環器疾患医療に関わる看護師を対象とした月刊誌について使用している。ここで、同医療分野を対象とした看護師を主な対象とする定期刊行物としては、株式会社日総研出版の発行する隔月誌「呼吸器・循環器 急性期ケア」が存在する程度であって、他には見当たらない。このような状況の下、当該分野における主要雑誌として、請求人雑誌が長年継続して販売されてきたのであるから、被請求人が、請求人雑誌の存在を知らなかったとするのは明らかに不自然である。
イ 被請求人による類似商標出願行為
被請求人は、請求人商標に酷似した商標「ハートナース/HEART nursing」を過去において出願し、周知な請求人商標に類似することを理由に登録を拒絶された経緯がある(甲第29号証及び甲第30号証)。このことからしても、被請求人は、請求人商標の存在を十分に認識し、かつ、当該請求人商標が周知であることを把握していたことは明らかである。
ウ 被請求人雑誌等に付された本件使用商標への[R]の表示
被請求人は、被請求人雑誌2011年12月号の表紙において、本件使用商標の末尾に[R]の表示を付している(甲第4号証)。また、被請求人雑誌の創刊にあたっての執筆や編集企画の依頼にあたっても、本件使用商標に[R]の表示を付すことで、関係者に「HEART」の文字自体が登録商標であるかのような誤導を与えている(甲第38号証)。
加えて、被請求人雑誌やその他の雑誌における被請求人雑誌の宣伝広告においても、本件使用商標が[R]の表示と共に使用されている(甲第39号証各枝番)。この[R]の表示は、登録商標であることを示す慣用表示として広く一般に馴染まれているものであるため、本来は、本件商標の構成文字である「HEART」の文字単体を使用する際に付すべきものではなく、本件商標そのものを使用する際に付すべきものであることはいうまでもない。
エ 被請求人による請求人雑誌の認識
被請求人が、請求人の販売する周知な雑誌群の存在を十分に認識しながら、あえてこれらと似通った名称からなる雑誌の創刊を画策してきたことは、例えば、被請求人による「呼吸ケア」なる月刊誌の企画編集依頼の追伸において、「『呼吸ケア』の創刊計画及び先生に上記の『特集企画』の依頼の件は、他社(特にメディカ出版)には洩らさないようお願い致します。」とあえて注記していることからもみて取れる(甲第41号証)。
オ 代替表現の可能性
そもそも、循環器疾患領域の分野に関する雑誌であるからといって、あえて周知な請求人商標と混同を生ぜしめるような文字構成や書体を採択せねばならない必要性は全くないはずである。例えば、「ナース循環器」や「循環器疾患」「心臓ケア」など、代替可能な雑誌名は枚挙にいとまがないほど存在するにもかかわらず、本件商標からあえて「HEART」の文字部分のみを抽出し、これを請求人商標と同じ「Times New Roman」と同等の書体で書して本件使用商標を使用しているところに、請求人雑誌と混同を生ぜしめんとする被請求人の故意がみて取れる。
カ 小括
以上より、被請求人は、本件使用商標の使用開始当初より、周知な請求人商標を十分に熟知しており、本件使用商標を付した被請求人雑誌を販売することで、請求人雑誌と混同を生ずるとの認識があったと推認されることから、被請求人には故意があったというのが相当である。
2 上申の内容
(1)平成24年6月15日付け上申書
請求人は、被請求人に対し、本件使用商標の付された被請求人雑誌の販売行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当することを理由として差止等の訴えを提起していたところ(大阪地方裁判所第26民事部/平成23年(ワ)第12681号 不正競争行為差止等請求事件)、その判決がなされた(甲第42号証)。
判決文に記載のとおり、請求人が主張した(ア)請求人商標の周知性、(イ)請求人商標と本件使用商標との類似性、(ウ)請求人雑誌との混同惹起性はいずれも肯定され、請求人の訴えをほぼ全面的に認める内容となっている。
(2)平成24年8月24日付け上申書
ア 被請求人の故意について
「平成23年(ワ)第12681号 不正競争行為差止等請求事件」において、被請求人に対し標章「HEART」を雑誌に使用してはならない旨の判決が言い渡された。しかしながら、被請求人はその後も当該標章を付した雑誌の販売を中止しなかったことから、請求人は、不作為を目的とする債務の強制執行を求めて間接強制の申立(平成24年(ヲ)第940号 間接強制申立事件)を行い、請求人の主張が全面的に認められた(甲第43号証)。
イ 被請求人による新たな表記等の使用について
(ア)使用にかかる商標
被請求人は、被請求人雑誌(2012年8月号)において、表紙の月号表示の上に小さく片仮名の「ハートケア」なる表記の付記使用を開始した(甲第44号証)。同雑誌の表紙上部には、従前の「HEART」に替えて「Heart」なる商標が用いられているが、依然、各頁下部には本件使用商標が使用されている(甲第45号証)。
(イ)本件商標との類似
本件商標は、別掲1のとおりの構成からなり、「HEARTCARE」及び「ハートケア」の各文字部分に相応して「ハートケア」の称呼及び「心のケア」や「愛情のケア」の観念が生じるところ、新たに表紙の月号表示の上に片仮名で付記使用を開始した「ハートケア」の表記からも「ハートケア」の称呼及び「心のケア」や「愛情のケア」の観念が生じるため、被請求人が使用する「ハートケア」なる表記は、外観を論ずるまでもなく、本件商標と称呼及び観念において相紛らわしく類似するものである。
(ウ)請求人商標との類似及び混同
請求人商標と本件使用商標との類似性や混同性については、上記(1)の判決において認容されているとおりである。被請求人は「Heart」の文字を新たに使用しているが、係る文字も請求人商標に類似するものであり、被請求人雑誌への使用は請求人雑誌との関係において商品の出所の混同を生じさせるおそれがあることに変わりはない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標の商標権者である被請求人は、故意に、本件商標に係る指定商品「雑誌」について、本件商標に類似する本件使用商標を使用し、請求人の業務に係る商品「雑誌」と混同を生ずるものをしたのであるから、本件商標は、商標法第51条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第15号証を提出した。
そして、被請求人は答弁の理由を種々述べているが、商標法第51条第1項の規定に係る主張は次のとおりと認められる。
1 請求人の使用する商標について
請求人の使用する商標は、「HEART」ではなく、請求人の雑誌の題号である「ハートナーシング」又は「HEART nursing」である(乙第1号証ないし乙第8号証、乙第11号証ないし乙第13号証)。
2 本件商標と本件使用商標について
本件使用商標(別掲2及び別掲3)は、本件商標(別掲1)と外観、称呼及び観念において類似性がなく、何らの関係のない別異の商標である。なお、本件商標はまだ使用されていない。
3 出所の混同について
(1)雑誌の販売実績
我が国最大規模のネット書店「富士山マガジン」の2012年7月現在の「医学・医療・看護」雑誌の「売上上位ランキング」によれば、被請求人雑誌は28位であり、36位の請求人雑誌を上回っている。
(2)雑誌の取引
雑誌は、何よりも「コンテンツ」で選ばれるものであり、読者が毎号同じ雑誌を購入していれば雑誌題号を間違えるはずがない。類似する雑誌の題号の例は市場では非常に多いが、何ら市場(書店店頭・流通)段階で混乱は起きていない(乙第9号証及び乙第10号証)。
(3)陳述書
請求人提出の陳述書は、いずれも「ハートナーシング(HEART nursing)」誌と「HEART」誌の商標が似ているとは陳述しておらず、表紙のデザイン部分において太字の「HEART」部分の文字が似ているとの印象を述べたにすぎない。
また、陳述書には、いわば身内(請求人雑誌の編集委員、請求人の執行役員)による証言もあり、その証拠能力は低く、客観的な証言ではない。
(4)被請求人雑誌と請求人雑誌を間違えた注文は1件もない。
(5)したがって、請求人商標と本件使用商標とは出所の混同を生じていないし、本件商標は出所の混同など生じない。
4 故意について
本件商標と本件使用商標は全く別異の商標であり何らの関連性もないこと、本件商標はまだ使用されていないことから、故意に請求人雑誌と混同を生じさせている事実もない。
5 まとめ
以上のとおりであるから、本件商標は商標法第51条第1項の規定に該当しない。

第4 当審の判断
商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と定めている。
すなわち、本規定は、登録商標と同一又はこれに類似する商標の使用についてのみ適用されるものである。
そこで、本件商標と被請求人の使用する商標(本件使用商標)との類否について検討する。
1 本件商標は、別掲1のとおり、「ハートナース」「HEARTCARE」「HEART NURSE」「ハートケア」の各文字を四段に表してなるものであり、各段の文字はまとまりよく一体的に表されているものである。 そして、本件商標は、その構成文字に相応し「ハートナースハートケアハートナースハートケア」の一連の称呼を生じるほか、この称呼が22音にも及ぶ冗長な称呼であること、及び「ハートナースハートケア」の称呼が繰り返していることから、単に「ハートナースハートケア」と称呼される場合も少なくないものと判断するのが相当である。
また、上段部の片仮名「ハートナース」と欧文字「HEARTCARE」の部分及び下段部の欧文字「HEART NURSE」と片仮名「ハートケア」の部分はともにまとまり良く表されていることから、それぞれの構成文字部分からも「ハートナースハートケア」の称呼が生じるものといえる。
そうすると、本件商標は、その構成及び称呼からすれば、その構成中上二段の「ハートナース」と「HEARTCARE」の部分及び下二段の「HEART NURSE」と「ハートケア」の各部分がそれぞれ出所識別標識として機能するものと認め得るとしても、その構成中「ハート」又は「HEART」の文字部分が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるもの、又はそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないものと認めるに足る事情は見いだせない。
してみれば、本件商標は、その構成中の「ハート」又は「HEART」の文字部分を抽出し、該部分だけを他の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されないものというべきである。
したがって、本件商標は、その構成文字に相応し、「ハートナースハートケアハートナースハートケア」及び「ハートナースハートケア」の称呼を生じるものといわなければならず、特定の観念を生じないものである。
2 本件使用商標は、別掲2及び3に示すとおりの構成からなり、その構成文字「HEART」に相応し「ハート」の称呼を生じ、「ハート、心」の観念を生じるものである。
3 本件商標と本件使用商標とを比較すると、両者は、それぞれの構成上記1及び2のとおりであるから、同一でないこと明らかである。
また、両者は外観においては、その構成、態様が明らかに相違し、称呼においては、本件商標から生じる「ハートナースハートケアハートナースハートケア」及び「ハートナースハートケア」の称呼と本件使用商標から生じる「ハート」の称呼の比較において、その構成音及び音数が明らかに異なり十分聴別し得るものである。さらに、観念においては、本件商標は特定の観念を生じないから、両者は相紛れるおそれのないものである。
そうとすれば、本件商標と本件使用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似のものというべきである。
したがって、本件使用商標は、本件商標と同一又はこれに類似するものということはできない。
4 請求人は、本件商標のうち「ハート」又は「HEART」の文字がいずれも共通の語として使用されているため、かかる共通した文字こそが本件商標のうち看者をして最も強く印象せしめる部分である旨主張している。
しかしながら、本件商標は、上記1のとおり、その構成中「ハート」又は「HEART」の文字部分のみが商品の出所識別標識として認識されるものということはできないから、請求人の主張は採用することができない。
5 結び
以上のとおり、本件使用商標は本件商標と同一又はこれに類似する商標とは認められない。
したがって、被請求人(商標権者)による本件使用商標の使用は、他の要件を検討するまでもなく、商標法第51条第1項の要件を欠くものであるから、本件商標の登録は、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)





別掲2(本件使用商標1)





別掲3(本件使用商標2)





別掲4(旧請求人商標)





別掲5(現請求人商標)







審理終結日 2012-11-14 
結審通知日 2012-11-16 
審決日 2012-11-29 
出願番号 商願2010-7226(T2010-7226) 
審決分類 T 1 31・ 3- Y (X16)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 尚人 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 梶原 良子
堀内 仁子
登録日 2010-07-23 
登録番号 商標登録第5339612号(T5339612) 
商標の称呼 ハートナースハートケア、ハートケアハートナース、ハートナース、ハートケア 
代理人 木村 広行 
代理人 松田 誠司 
代理人 齊藤 整 
代理人 井上 周一 
代理人 三山 峻司 

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