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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X05
管理番号 1268463 
審判番号 無効2011-890112 
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-19 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5333204号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5333204号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、第5類「カプセル状の鎮痛剤,その他のカプセル状の薬剤」を指定商品とし、2008年11月11日アメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成21年5月11日に登録出願され、同22年5月26日に登録査定、同年6月25日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第95号証を提出した。
1 請求の理由
(1)請求人の引用する登録商標(商標法第4条第1項第15号)
ア 登録第3124429号商標(以下「引用商標1」という。)は、「OXYCONTIN」の欧文字を横書きしてなり、平成5年3月26日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同8年2月29日に設定登録され、その後、同18年3月14日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
イ 登録第3167162号商標(以下「引用商標2」という。)は、「オキシコンチン」の片仮名を横書きしてなり、平成5年7月8日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同8年6月28日に設定登録され、その後、同18年3月14日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
ウ 登録第4502485号商標(以下「引用商標3」という。)は、「OxyContin」の欧文字を標準文字により表してなり、平成12年9月11日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同13年8月31日に設定登録され、その後、同23年5月10日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
エ 登録第4503914号商標(以下「引用商標4」という。)は、「オキシコンチン」の片仮名を標準文字により表してなり、平成12年9月11日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同13年9月7日に設定登録され、その後、同23年5月10日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。
以下、上記引用商標1ないし引用商標4をまとめて「引用商標」という場合がある。
(2)引用商標に関連する歴史的背景及びその著名性について
ア 請求人及び引用商標の使用権者の事業について
請求人は、1957年にスイス国バーゼルで設立された後、その活動範囲を広げ、ムンディファーマ ラボラトリーズ社とムンディファーマ メディカル社とともに、独立関連企業であるパーデューファーマ(米国、カナダ)/ムンディファーマ(ドイツ)/ナップ・ファーマシティカル(英国)を含む、慢性疼痛、呼吸器疾患の治療薬、消毒薬等を専門領域とする製薬企業グループのための国際貿易とライセンス関連の業務を行う会社である。そして、請求人は、100カ国以上にわたり、各国の有力企業と業務提携を行い、提携企業に対する特許・商標に関するライセンスの供与を通じて製品の販売のビジネスモデルを推進し、世界規模のライセンス・物流ネットワークを有するまでになった。
日本においては、1998年にムンディファーマ・ファーマシューティカルズGmbHが日本事業所を開設し、2002年には、日本法人のムンディファーマ株式会社(以下「ムンディファーマ」という。)を発足させ、臨床開発・承認申請・マーケティングまでを独自に一貫して行う体制を構築し、ムンディファーマは、我が国の有力な製薬会社と業務提携を行い、企業間の協力関係において、慢性疼痛治療薬等の主力商品の製造・販売を行っている。
例えば、ムンディファーマ発足前の1989年より、塩野義製薬株式会社(以下「塩野義製薬」という。)との業務提携を通じて、持続性癌疼痛治療薬(硫酸モルヒネ除放錠「MSコンチン」)を長年にわたって製造・販売をおこなっており、当該商品は、その当時における日本の疼痛治療のスタンダードとなった。
その後、2003年には、塩野義製薬を通じて持続性癌疼痛治療剤(塩酸オキシコドン除放錠)(以下「引用使用商品」という。)の製造・販売を開始し、モルヒネ以外で初の経口除放製剤という画期的な商品であり、鎮痛剤(医療用麻薬)としての効能はそのままに、副作用が比較的軽い等のすぐれた効果があることも手伝って、売り上げも急拡大し、「MSコンチン」に代わる主力商品に成長するに至った。請求人は、通常使用権者である塩野義製薬とともに、主力商品である引用使用商品の製造・販売を通じて、癌疼痛治療を必要とする多くのがん患者のクオリティ・オブ・ライフ(Q・O・L)改善に貢献することができるようになり(甲第11号証)、今日に至るまで日本市場において販売されており、引用商標が付された引用使用商品は、ムンディファーマ又は塩野義製薬の製品として、日本市場において安定した信用と認知を得ている。
イ 癌疼痛治療薬に関する取引の実情について
引用商標は、引用使用商品に使用される商標として採択したものであり、ムンディファーマは、塩野義製薬とともに我が国における癌疼痛治療におけるオピオイド鎮痛剤の普及を目指し、尽力してきた。
ところで、オピオイド鎮痛薬とは、医療用麻薬の一種であり、神経組織内にあるオピオイド受容体に結合することで脊髄と脳への伝達を遮断することにより、痛みを和らげる医療用鎮痛剤の総称をいい、我が国においては、代表的なものとしてモルヒネ、フェンタニル、オキシコドンがあり(甲第12号証)、「がんサポート情報センター」ホームページ内の「痛み緩和」「鎮痛薬全書」(2007年5月号、甲第13号証)及び同ホームページ内の「薬剤」「患者のためのがんの薬事典」(2007年10月号、甲第14号証)によれば、オピオイド鎮痛薬の中でも、オキシコドンは、近年使用頻度が増加しているとの記述及びがんの疼痛緩和に最も多く用いられている麻薬であり、その代表的な商品名として「オキシコンチン(OxyContin)」と「オキノーム(OxiNorm)」とが記載されている。
してみると、2007年10月時において、すでに「オキシコンチン(OxyContin)」は、オピオイド鎮痛薬であるオキシコドンの商品名として広く認知されていた。
ウ ムンディファーマと塩野義製薬による癌疼痛治療薬の啓蒙活動
我が国における疼痛治療の普及が世界各国に比べて立ち遅れていた事情の下、「オキシコンチン(OxyContin)」が広く知られるに至った背景には、ムンディファーマと塩野義製薬による癌疼痛治療への理解を促進するための様々な啓蒙活動(甲第15号証ないし甲第18号証)があり、癌疼痛治療薬の適正使用に必要な情報を供与することに加え、疼痛に関する課題解決・提案(甲第19号証)及び癌疼痛治療の現状を把握しつつ、ニーズを明らかにし、疼痛治療の進展を目指す活動(甲第20号証)を行い、2007年4月には「がん対策基本法」が施行され、同年6月には、がん対策推進基本計画が公示されて、行政による癌の痛み治療が本格的に普及することとなった。
塩野義製薬は、この動きに対応し、2007年4月に「がん疼痛克服推進部」を創設(甲第21号証)し、啓発TV-CMを全国で放映する等“癌の痛み治療”のさらなる啓発活動に力を尽くし(甲第22号証及び甲第23号証)、2009年4月には、医療関係者に向けて医療用麻薬の正しい使用法や関連するデータを伝えるために、専門要員を配置し、疼痛治療薬(医療用麻薬)の普及活動を通じて、世界に比較して小さいといわれる我が国の市場規模全体の拡大を図った(甲第24号証及び甲第25号証)。
エ 引用商標の著名性について
請求人の使用権者である塩野義製薬が引用商標に係る引用使用商品について、2003年4月16日に製造承認を取得し、同年6月6日に薬価収載され、同年7月7日に発売開始された。このことは、経済紙、業界紙に掲載(甲第26号証ないし甲第35号証)され、主に、医療関係者に対する販売促進活動や商品(医薬品)の使用方法についてのパンフレットの配布(甲第36号証ないし甲第42号証)をした。
また、引用商標に係る引用使用商品は、各種の医療専門雑誌・新聞においても、当該商品が従来品と比べてすぐれた利便性・効能を有していることが記事として紹介されている。
上記のような、商標を表示したチラシ・パンフレット等は、主に医療従事者に向けた書類であり、また、雑誌に掲載された記事についても、医療専門誌に関連するものが多く、必ずしも一般の消費者に向けて広く販売促進活動を行っていないが、引用商標が付された商品を実際に手にするのは、医療従事者に限られるものではなく、実際にオピオイド鎮痛薬を服用するのは、一般消費者である「がん患者」である。引用商標が錠剤の包装用のPTPシートに明確に表示されている関係で、がん患者は、服用の都度、引用商標を目視により確認することになるから、医療従事者等の取引者のみならず、主たる需要者となるべき、がん患者間においても引用商標に係る商品名が広く浸透しているといえる。
そして、引用使用商品は、従来のオピオイド治療薬の主役であった「モルヒネ」に比べて、幻覚症状が出にくいという優れた点があり、除々に従来品に代わるオピオイド治療薬が主役になっていった(甲第46号証)。
さらに、ムンディファーマは、引用使用商品と同じ有効成分である「塩酸オキシコドン」を含有する癌疼痛治療薬のラインナップを拡充するように塩野義製薬との提携の下、がん患者に突然発現する痛み(突出痛)を速やかに治療する薬である「オキノーム(OxiNorm)」を開発し、2006年10月20日に製造販売承認を取得し、2007年2月5日に発売(甲第47号証ないし甲第59号証)し、WHOで推奨されている「有効成分と投与経路が同一の持続性と即効性の鎮痛薬を組み合わせて使用すること」が可能となり、引用使用商品は、「オキノーム(OXiNorm)」とともに代表的なオピオイド鎮痛薬と位置づけられるようになった。
日本における引用使用商品の一年間の売上高は、発売当初の2003年度には、約9億円程であったが、2005年度においては43億円、2007年度においては66億円にのぼり、その後も着実に売り上げを伸ばしてきた(甲第60号証ないし甲第90号証)。
請求人の引用商標についての使用態様は、使用開始当初(2003年、2004年)は、「オキシコンチン」とともに「OXYCONTIN」の外観構成に係るものが用いられていたが、その後、デザイン変更が行われ、「オキシコンチン」の片仮名で表した商標とともに、引用商標が「OXY」と「CONTIN」の特徴的文字により構成されていることを明確化するよう、「OXY」の「O」と「CONTIN」の「C」を大文字とし、これら頭文字につづく「XY」と「ONTIN」を小文字化した「OxyContin」の外観構成が用いられている。
このような現実の使用態様を考慮した場合、引用商標の全体としてのみならず、「Oxy」及び「Contin」の文字単体でも、看者の注意をひき、強く印象付けられる。
そうしてみると、引用商標にあっては「Oxy」及び「Contin」の各文字部分について、それぞれが独立して識別標識としての機能を果たしてきたというべきであり、需要者間において広く知られるに至っているといい得るものである。
以上より、請求人の業務に係る引用商標は、その全体としてはもちろんのこと、「Oxy」の文字部分についても、本件商標の出願時の平成21年5月11日及び登録時である同22年6月25日においても、請求人及びその使用権者の業務に係る商品を表示するものとして、すでに日本国内において周知・著名であったものである。
(3)本件商標と引用商標の混同を生ずるおそれについて
最高裁判所判決(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)が判示する判断基準に照らし、本件商標と引用商標との間における出所の混同のおそれの有無について以下、検討する。
ア 引用商標の周知著名性について
上述したとおり、請求人が所有する引用商標「オキシコンチン」、「 OxyContin」及び「OXYCONTIN」は、請求人の使用権者である塩野義製薬によって盛んに使用されてきたものであり、引用商標の各指定商品に含まれる「オピオイド鎮痛剤」(医療用麻酔)に使用される商標として周知・著名なものとなった。
パンフレットや広告媒体における現実の使用態様(デザイン変更後の使用態様に係る甲第38号証ないし甲第42号証)にかんがみれば、請求人の業務に係る引用商標は、その全体としてはもちろんのこと、「Oxy」又は「Contin」の文字部分についても、請求人及びその使用権者の業務に係る商品を表示するものとして、すでに日本国内において周知・著名であったと考えられる。
イ 本件商標と引用商標の類似性について
(ア)本件商標について
本件商標は、「remoxy」の欧文字を上段に配し、下段には「(oxycodone controlled-release)capsules」を配した二段書きの構成よりなり、下段の文字部分は、「(塩酸)オキシコドンを有効成分とするカプセル状に製剤化された経口除放錠」を意味するにすぎず、自他商品の識別機能を果たし得ない部分である。
そこで、上段部分の「remoxy」についてみるに、これは既成語ではなく、創造語を表すとみられるものであり、外観上、中央部に位置する「o」の文字が、他の文字と異なる色彩で表されてなるとともに、その周囲に渦巻をモチーフにしたと思しき図形を配しているところから、前半部に位置する「rem」と後半部に位置する「oxy」の文字部分が、視覚上分離して看取され得る構成となっている。
また、観念上も常に一連一体の商標として理解されなければならない程の理由はなく、「rem」と「oxy」の各文字を含む商標であると理解することに特段の困難を要しない。
そうしてみると、本件商標の要部をなす上段部分については、「remoxy」の全体で把握される場合のほか、「rem」と「oxy」の2つの構成部分として把握される場合が考えられる。
よって、時に中央部に位置する「o」の文字が前記のとおり、特別顕著に表されていることよりすれば、「oxy」の部分が本件商標に接する取引者・需要者をして注目することも少なくないといえる。
(イ)引用商標について
引用商標は、それぞれ「オキシコンチン」、「OxyContin」、「OXYCONTIN」の文字により構成されてなるところ、これらは既成語ではなく創造語を表すものである。
そして、デザイン変更以降、現在に至るまでに、「オキシコンチン」の態様のほか、引用商標3の構成に係る「OxyContin」の態様において、盛んに使用され(甲第38号証ないし甲第42号証)、当該外観構成においては、大文字から始まる文字構成毎に、「Oxy」と「Contin」の文字を結合させたものと容易に理解できることよりすれば、引用商標については、全体で把握されるほか、「Oxy」と「Contin」の2つの構成部分として把握される場合が考えられる。
また、引用使用商品は、有効成分として「塩酸オキシコドン」を採択した画期的な商品であり、大きな販売実績を挙げたこと、さらに、引用使用商品に使用される商標で「Oxy(OXY)」の文字を含むものは、引用商標以外のものは存在しなかった事実にかんがみれば、「Oxy」の部分が引用商標に接する取引者・需要者をして注目することも少なくないといえる。
(ウ)本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標(時に、引用商標3)の特徴的部分を対比した場合、いずれの商標においても、それぞれ「oxy」と「Oxy」の文字部分を特徴的部分として捉えることができるのであって、同一の称呼が生じる。
また、外観・観念においても、「oxy」と「Oxy」が全く同一の文字構成からなるという観点から外観においても共通するといえるものであり、仮に、「oxy」と「Oxy」からある種の観念が生ずる場合は、その限度において観念上の共通性があるといわざるを得ない。
よって、本件商標と引用商標(特に「引用商標3」)の間には、相当程度の類似性があるといえる。
さらに、本件商標が使用される商品は、本件商標の構成中に「(oxycodone controlled-release)capsules」の表示があるところから、「(塩酸)オキシコドンを有効成分としてカプセル状に製剤化された経口除放錠」であると推認でき、該商品は、引用使用商品と完全に同一の商品であり、商品の用途・目的・薬剤の主な有効成分を同じくし、商品の取引者・需要者を共通にする商品を表すものであり、混同が生ずる蓋然性が極めて高い状況にあるといわなければならない。
(エ)取引の実情について
引用使用商品は、請求人の提供に係る「オキノーム(OxiNorm)」とともに、WHOで推奨されている「有効成分と投与経路が同一の持続性と即効性の鎮痛薬を組み合わせて使用すること」の実現を可能ならしめる、持続的な疼痛への治療薬と突出痛への治療薬の理想的な組み合わせ(処方)である。
「OxyContin」と「オキノーム(OxiNorm)」は、請求人とムンディファーマ及び塩野義製薬によるオピオイド鎮痛剤の普及を目指す啓発活動とも相まって、塩酸オキシコドンを有効成分とするオピオイド鎮痛剤の代表的な商品と位置づけられ、前記鎮痛剤に使用される商品として、「OXY(Oxi)」の文字を含むものは、引用商標以外のものは存在しない事情の下、「OXY」の文字を含む本件商標が、商品の用途・目的、薬剤の主な有効成分を共通にするオピオイド鎮痛剤(医療用麻薬)に使用された場合、需要者をして混同が生ずるおそれがあることは推認される。
(オ)本件商標と引用商標の指定商品の取引者・需要者において普通に払われる注意力について
一般に医療従事者は、通常の消費者に比べて専門的知識を有し、高い注意力を有していると考えられているが、本件商標や引用商標が付された商品を手にするのは、医療従事者に限られるものではなく、実際にオピオイド鎮痛薬を服用するのは他でもない「がん患者」等の非常に辛い痛みによる症状を抱えた人々である。これらの者は、医療従事者と同等の注意力を有しているとは想像し難いものであり、必ずしも高い注意力をもって両商標が用いられるとは限らない。
(カ)まとめ
本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者・需要者をして、その商品が請求人の提供に係るものであるかのように誤認をする、あるいは請求人による技術供与、又は商標に関する使用許諾を受けた商品であるかのように商品の出所について混同を生じ、ひいてはその品質についても誤認を生じる蓋然性が極めて高いといわざるを得ない。
また、本件商標の指定商品に含まれる「鎮痛剤」、「麻薬」は、請求人の所有に係る周知・著名商標「オキシコンチン(OxyContin)」に係る商品である。本件商標が指定商品に使用された場合には、請求人の業務に係る引用商標との間に混同が生じるおそれが極めて高い。
さらに、本件商標と引用商標が使用される「オキシコドン鎮痛剤」は、医療用麻薬の一種であって、とり違えて投与すると命に関わる商品であり、他の商品群における場合においては類似しないとされる商標についても、これを紛らわしい商標として、使用を禁止する必要があると考える。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 弁駁の理由
(1)被請求人は、引用商標を「Oxy」と「Contin」の各部分が看者の注意をひくように明確に使用している例は殆ど見あたらないと主張する。
しかしながら、単に「OXYCONTIN」の文字(甲第41号証ないし甲第43号証)を羅列しているのではなく、語頭部の「O」と中間部の「C」の文字を大きく描き、これら頭文字につづく「XY」と「ONTIN」を比較的小さな文字で表した特異な外観構成からなるものである。
このような使用態様を考慮した場合、引用商標の全体としてのみならず、「OXY」及び「CONTIN」の文字単体でも、看者の注意をひき、強く印象付けられる場合も少なくない。
また、被請求人は、引用商標を「OXY」又は「Oxy」の文字と「CONTIN」又は「Contin」の文字とを分離して表示したり、単に「OXY」、「Oxy」又は「オキシ」と省略して使用している事実について立証していない旨述べている。
しかしながら、請求人は、そもそも「OXY」が分離されるとか、「OXY」と省略されるか等と主張しているわけではない。
請求人は、引用商標においては、「OXY」と「CONTIN」がそれぞれ特徴的部分として捉えられる可能性があり、その中でも特に「OXY」の文字部分がその特徴的部分として捉えられる可能性が高いと主張しているものである。これは、前記したような商標の外観的特徴のみに着目して前記主張をしているものではなく、引用商標が使用される癌疼痛治療薬は、有効成分として「塩酸オキシコドン」を採択した画期的な商品であり、販売実績を挙げ、引用使用商品に使用される商標で「OXY(Oxy)」の文字を含むものは、引用商標以外のものは存在しなかった事実にかんがみて、当該引用使用商品に使用される商標としては、「OXY」の部分こそが引用商標に接する取引者・需要者をして注目する部分(特徴的部分)であると主張しているのであるから、被請求人の上記主張には理由がない。
(2)被請求人は、本件商標の文字部分から、むやみに「oxy」の文字部分のみを分離抽出して類否判断を行うべき合理的理由はないと主張する。
しかしながら、上記主張は、本件商標の外観的特徴を全く考慮しないものであって当を得ないものである。
本件商標の上段部分をなす「remoxy」の文字部分は、単に「remoxy」の欧文字を羅列しているのではなく、中央部に位置する「o」の文字が、他の文字と異なる色彩で表されてなるとともに、その周囲に渦巻をモチーフにしたと思しき図形を配しているところから、前半部に位置する「rem」と後半部に位置する「oxy」の文字部分が視覚上分離して看取され得る構成となっているのである。特に、中央の「o」の文字が看者の注意を特にひく関係で、それに続く「xy」を含む「oxy」の部分こそが引用商標に接する取引者・需要者をして注目する部分(特徴的部分)として捉えられる場合も少なくない。
そこで、本件商標と引用商標(特に「引用商標3」)の特徴的部分を対比した場合、いずれの商標においてもそれぞれ「oxy」及び「OXY(Oxy)」の文字部分を特徴的部分として捉えることができるのであって、同一の称呼が生じる。
また、外観・観念においても、「oxy」と「OXY(Oxy)」が全く同一の文字構成からなるという観点から外観においても共通する点があるといえるものであり、仮に、「oxy」と「Oxy」からある種の観念が生ずる場合は、その限度において観念上の共通性もあるといえる。
特に、本件商標は、その構成中に「(oxycodone controlled-release)capsules」の表示があるところから、「(塩酸)オキシコドンを有効成分としてカプセル状に製剤化された経口除放錠」であると推認できるものであるが、これは正に引用使用商品であり、商品の用途・目的、薬剤の主な有効成分を同じくし、商品の取引者・需要者を共通にする「完全同一」の商品である。
そうすると、本件商標と引用商標が共に「塩酸オキシコドンを有効成分として製剤化された経口除放錠」に使用された場合、混同が生ずる蓋然性が極めて高い状況にあるといわなければならない。
(3)被請求人は、本件商標と引用商標とは、その類似性において、全く別異の商標であるから、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないと主張する。
しかしながら、上記主張は、商標法第4条第1項第11号での「類似概念」を用いた機械的、形式的な手法で、本件商標と引用商標との類否判断を行った上で類似しないとの結論に持ち込み、混同のおそれがないと即断するものであって、本件商標の指定商品と引用使用商品の関連性や取引者・需要者の共通性、取引の実情、取引者・需要者の注意力等の事情を全く考慮しないものである。
本件商標と引用商標に使用される「オキシコドン鎮痛剤」は、医療用麻薬の一種であって、取り違えて投与すると命に関わる商品であり、他の商品群における場合においては類似しないとされる商標についても、これを紛らわしい商標として、使用を禁止する必要があると考える。
厚生労働省は、医薬品の類似性に関連した事故の防止対策として「医薬品・医療用具等対策部会」のもと、「医薬品類似性ワーキンググループ」を設置する等、この問題に取り組んできた(甲第91号証及び甲第92号証)。
また、平成20年12月4日付けで厚生労働省から各都道府県の知事、市長等へ向けて「医薬品の販売名の類似性等による医療事故防止対策の強化・徹底について」という注意喚起が行われた(甲第93号証)。その中には、特に安全管理が必要な医薬品(要注意薬)の例として、麻薬が挙げられている。本件商標が使用される商品と引用商標が使用されているオピオイド鎮痛薬は、医療用麻薬の一種である。
このような注意喚起を受け、日本製薬団体連合会を中心として、製薬企業全体で統一的な改善に取り組んでいるのが現状であり、現に、商標登録の有無に関わらず、医薬品の名称の変更を行う事例が少なくない(甲第94号証及び甲第95号証)。
以上の実情によれば、医薬品、とりわけ人間の生命に影響のある商品(麻薬等の要注意薬)については、類似の範囲を広く確保する社会的な要請があるといえるのであり、被請求人の主張するように、機械的、形式的な手法で本件商標と引用商標との類否判断を行った上で「類似しない」との結論を導き、それをもって「混同が生じない」と断ずることは妥当なものではない。
(4)被請求人は、過去における異議申立事件及び審決例を挙げ、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するものとする請求人の主張には、合理的根拠がないと述べている。
しかしながら、本件は無効審判事件であるから、立証された事実関係に基づき審理し、個別具体的に判断すべきであって、提出された証拠に基づき、その周知著名性を始め、現実の商取引において商標が需要者に与える印象、記憶、連想、さらに取引の実情等を総合勘案して個別具体的に判断すべきである。
また、請求人が被請求人の所有する他の商標に対して行った無効審判事件の審決例に関しては、対象となる商標が異なるものであり、事案を異にするものである。
したがって、過去における異議申立事件や無効審判事件の決定・審決例を根拠とした被請求人の主張には理由がない。
(5)結語
本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により無効にされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 請求人の主張に対する反論(無効理由の不存在)
(1)請求人が提出した甲第13号証、甲第14号証、甲第19号証ないし甲第35号証及び甲第44号証ないし甲第90号証からは、「オキシコンチン」の片仮名を見て取ることができ、甲第36号証ないし甲第39号証及び甲第41号証ないし甲第43号証からは、「オキシコンチン」の片仮名及び「OXYCONTIN」の欧文字を見て取ることができるが、請求人が指摘する「OxyContin」という記載があるのは、甲第40号証の1件のみである。
つまり、現実に引用商標を「Oxy」と「Contin」の各文字部分が看者の注意をひくように明確に表示し使用している例は、殆ど見あたらない。いい換えれば、これらの各甲号証によっては、引用商標を「OXY」又は「Oxy」の文字と「CONTIN」又は「Contin」の文字とを分離して表示したり、あるいは、単に「OXY」、「Oxy」又は「オキシ」と省略して使用している事実については、何ら立証されていない。
したがって、引用商標は、あくまでも一連一体のものとして知られているというべきである。
(2)請求人は、本件商標の要部をなす上段部分については、「remoxy」の全体で把握される場合のほか、「rem」と「oxy」の2つの構成部分として把握されると主張して、引用商標との類否判断に持ち込んでいる。
しかしながら、本件商標中の上段に大きく顕著に表された文字部分は、「remoxy」の欧文字からなるものと容易に理解され、該文字より生ずる「レモクシー」又は「レモキシー」の称呼も格別冗長というべきものではなく、よどみなく一気一連に称呼し得るものであるから、これからむやみに「oxy」の文字部分のみを分離抽出して類否判断を行うべき合理的理由はない。
そして、引用商標は、前記(1)で述べたように、あくまで一連一体のものとして知られ看取されるものであるから、「Oxy」と「Contin」の各文字部分が分離独立して指標力を発揮するものではないから、引用商標からは、それぞれの構成文字に相応して、「オキシコンチン」の称呼が自然に生ずる。
そうすると、本件商標から生ずる「レモクシー」又は「レモキシー」の称呼と引用商標から生ずる「オキシコンチン」の称呼とは、構成音数が異なるばかりでなく、構成する殆どの音を異にするものであって、それぞれを一連に称呼するときは、全体の音感・音調が明らかに相違し、容易に聴別できるものである。
また、本件商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものである。
さらに、本件商標の「remoxy」の文字部分及び引用商標は、いずれも特定の意味合いを想起させない造語よりなるものであるから、観念上、両者を比較すべくもない。
以上のように、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない別異の商標であることは客観的に明白である。
(3)請求人は、本件商標の指定商品と引用使用商品との関連性や取引者・需要者の共通性、取引の実情、取引者・需要者の注意力について述べ、出所混同のおそれが生じる旨主張している。
しかしながら、これらの点を考慮しても、前記(2)で述べたとおり、本件商標と引用商標とは、その類似性においてまったく別異の商標であるから、本件商標をその指定商品に使用した場合、取引者・需要者が、引用商標又は請求人、もしくは通常使用権者である塩野義製薬を連想・想起するようなことはあり得ない。つまり、該商品が請求人の提供に係る商品又は請求人による技術供与、若しくは商標に関する使用許諾を受けた商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
(4)被請求人による上記主張が合理的であることは、特許庁における決定・審決例をみても明らかである(乙第1号証及び乙第2号証)。
2 結語
以上のとおり、本件商標をその指定商品に使用した場合、その商品が請求人の提供に係る商品又は請求人による技術供与、もしくは商標に関する使用許諾を受けた商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれはないから、商標法第4条第1項第15号には該当しない。

第4 当審の判断
1 引用商標の著名性について
甲各号証によれば、ムンディファーマは塩野義製薬と「持続性癌疼痛治療剤(硫酸モルヒネ除放錠)」の製造販売に関して業務提携をしていること、塩野義製薬によって2003年7月に引用使用商品の販売が開始されたこと(甲第26号証)、その経緯については日経産業新聞、日刊工業新聞、日本工業新聞、薬事日報など各種新聞に報道されたこと、ムンディファーマと塩野義製薬は、引用使用商品などの癌疼痛治療薬の適正使用や疼痛治療について啓蒙活動を行っていること、その一環として啓発テレビコマーシャルが放映されていること、引用使用商品については、医療関係者向けのパンフレットが発行されているほか、雑誌広告、チラシ広告、雑誌・新聞記事報道等が行われていること、本件商標に係る商品には引用使用商品が使用されていること、引用使用商品は、発売以来着実に売上を伸ばし、2007年度にはその売上高が66億円に達していることなどが認められる。
以上を総合すると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時には既に、請求人及び通常使用権者である塩野義製薬の業務に係る引用使用商品について使用する商標として、この種業界における取引者・需要者の間に広く認識されていたものといえる。
なお、引用使用商品について、語頭部の「O」と中間部の「C」の文字を大文字で表し、これら頭文字につづく「XY」と「ONTIN」を小文字で表した「OxyContin」の表示を使用していることは認められるとしても、「OXY」又は「Oxy」の文字と「CONTIN」又は「Contin」の文字とを分離して表示したり、単に「OXY」、「Oxy」又は「オキシ」と省略して使用している事実については、請求人は何ら立証するところがなく、これらの事実は認められないから、引用商標は、あくまでも一連一体のものとして知られているというべきである。
2 本件商標と引用商標との類似性の程度について
本件商標は、別掲のとおりの構成よりなるところ、上段に大きく顕著に表された「remoxy」(中央部に位置する「o」の文字が、他の文字と異なる色彩で表されてなるとともに、その周囲に渦巻をモチーフにしたと思しき図形を配してなる。)の欧文字と、下段には「(oxycodone controlled-release)capsules」を配した二段書きの構成よりなるものである。
そして、下段の文字部分は、「(塩酸)オキシコドンを有効成分とするカプセル状に製剤化された経口除放錠」を意味するものといえ、自他商品の識別機能を果たし得ない部分であって、大きく顕著に表された上段の「remoxy」の文字部分が、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものというべきである。そして、該文字は特定の意味合いを想起させない造語よりなるものであり、このような場合には、我が国において最も親しまれたローマ字又は英語風に読まれるとみるのが自然であるから、その構成文字に相応して「レモクシー」又は「レモキシー」の称呼を生じるものであり、特定の観念を生じるものではない。
なお、本願商標の上段の構成中、中央に位置する「o」の文字が他の文字より薄く表されその周囲に渦巻きをモチーフにしたような図形が配されているところ、昨今の文字のデザイン化傾向に照らすとこのようなデザイン化は一般に行われている範囲であるといえるから、ことさらに後半部分の「oxy」の文字に着目されるとする特別な事情も見いだせない。
他方、引用商標は、いずれも特定の意味合いを想起させない造語よりなるものであるから、本件商標と同様に、それぞれの構成文字に相応して、いずれも「オキシコンチン」の称呼を生じるものであり、特定の観念を生じるものではない。
そこで、本件商標から生ずる「レモクシー」及び「レモキシー」の称呼と引用商標から生ずる「オキシコンチン」の称呼とを比較すると、両者は、称呼上において、構成音数が異なるばかりでなく、構成するほとんどの音を異にするものであって、それぞれを一連に称呼するときは全体の音感・音調が明らかに相違し、容易に聴別できるものである。
また、本件商標と引用商標とは、観念上において比較することができない。
さらに、本件商標の外観と引用商標の外観とを比較すると、両者は、外観上において、構成上顕著な差異を有することから、判然と区別し得るものである。この点に関し、請求人は、本件商標と引用商標とは「OXY」を含む点において外観上類似する旨主張するが、本件商標と引用商標とは、いずれも一連一体の構成として看取されるものであり、これらから「OXY」の文字部分のみを分離抽出して観察すべき格別の理由を見いだし難いから、請求人の主張は採用することができない。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない別異の商標というべきものである。
3 出所の混同のおそれについて
引用商標の著名性、本件商標の指定商品と引用使用商品との類似性、需要者の共通性、取引者・需要者が払う注意力の程度などを考慮しても、本件商標と引用商標とは、上記2のとおり、その類似性において全く別異のものであるから、本件商標をその指定商品に使用した場合に、取引者・需要者をして、その商品が請求人又は通常使用権者である塩野義製薬など請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものと判断するのが相当である。
4 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標

審理終結日 2012-07-19 
結審通知日 2012-07-26 
審決日 2012-08-24 
出願番号 商願2009-34591(T2009-34591) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前山 るり子 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
寺光 幸子
登録日 2010-06-25 
登録番号 商標登録第5333204号(T5333204) 
商標の称呼 レモキシー、レモクシー、オキシコドンコントロールドリリースカプセルズ、オキシコドンコントロールドリリース 
代理人 石田 昌彦 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 中村 稔 
代理人 加藤 ちあき 
代理人 松尾 和子 
代理人 辻居 幸一 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 田中 克郎 
代理人 藤倉 大作 

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