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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服201217392 審決 商標
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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X43
管理番号 1268416 
審判番号 無効2011-890100 
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-14 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第5362124号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5362124号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5362124号商標(以下「本件商標」という。)は、「シャンパンタワー」の文字を横書きしてなり、平成22年5月7日に登録出願、第43類「飲食物の提供,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,テーブル・テーブル用リネンの貸与,ガラス食器の貸与,タオルの貸与」を指定役務として、同年9月15日に登録査定され、同年10月22日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第113号証を提出した。
(1)無効事由
本件商標は、以下のとおり、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきである。
(2)無効原因
ア 原産地統制名称「CHAMPAGNE」(シャンパン)
請求人は、「シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会」を意味する「COMITE INTER PROFESSIONNEL DU VIN DE CHAMPAGNE」(略称「C.I.V.C.」)の名のもとに、フランス国シャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益の保護を目的の一つとして設立されたフランス法人である(甲14、甲42、甲57、甲65?甲67)。
原産地表示は、需要者・取引者にとって、商品の選択に際して極めて重大な意味を有することは言うまでもなく、パリ条約における原産地等の虚偽表示の取締に関する規定、及び誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定の精神は、最大限に尊重されなければならない。
フランスにおいては、原産地表示が厳格に統制されており、その中核をなすのが、1935年に制定された原産地統制呼称法(Appellation d’Origine Controlee)である(甲4、甲5、甲8、甲19、甲42、甲52、甲54、甲55、甲65)。この法律は優れた産地のぶどう酒を保護・管理することを目的とし、政府の機関「Institut National des Appellation d’Origine」(略称「INAO」)によって運用されている(甲44、甲52、甲53、甲56、甲57)。同法において原産地統制名称ぶどう酒(A.O.C.)は、原産地、品質、最低アルコール含有度、最大収穫量、醸造法等の様々な基準に合うように製造されなければならず、その基準に合格してはじめてA.O.C.名称を使用することができる。しかし、鑑定試飲会の際に不適当であるとみなされたものは、名称使用権利を失うことになっており、厳格な品質維持が要求されている。原産地統制名称は、産地の名称を法律に基づいて管理し、生産者を保護することを第一の目標とし、また名称の使用に対する厳しい規制は、消費者に対して品質を保証するものとなっている。
「CHAMPAGNE」(シャンパン)は、同法による原産地統制名称に他ならず、シャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒にのみ使用を許される名称であって、この表示を付した商品(シャンパン)は、我が国においても広く販売されており、産地を表示する標章の代表的なものの一つとして極めて著名である。
また、ヨーロッパにおいては、限られた地域で特定の材料・製法により生産される農産物等の伝統的特産物が数多く存在している。かかる伝統的特産物には、他の地域の産物との区別のため産地名が使用され、特に良質な産品については国際的に名声を得たものについて、その産地を保護する必要性が生じてきたことから、ヨーロッパ連合は、1992年に農産物の原産地表示保護のために理事会規則2081/92号を制定した。本規則で保護される原産地表示は、本規則にて定められた品目に限られ、EC委員会において審査された後、「保護地理的表示(protected geographical indication)」ないしは「保護原産地呼称(protected designation of origin)」として登録された場合、規則2081/92号の保護対象となりヨーロッパ全土で保護される。なかでも「保護原産地呼称」として認定されるためには、定められた製法で生産・加工・調整されることを要するといった非常に厳格な基準が設けられている。上記のとおり、ヨーロッパでは、原産地表示保護のための独自の制度を設けることにより、原産地表示を手厚く保護している(甲109)。「Champagne」(シャンパン)は、最も厳しい基準を要求される「保護原産地呼称」として認定され、ヨーロッパにおいて保護されている(甲110)。
上記の事実は、甲第2号証ないし甲第53号証に示す書籍、雑誌、新聞等の印刷物における記載から明らかな事実である。
以上のことから、「CHAMPAGNE」、「シャンパン」の語は、1)「CHAMPAGNE」の語がフランス北東部の地名であり、同地で作られる発泡性ぶどう酒をも意味する語であること、2)生産地域、製法、生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称であること、3)「CHAMPAGNE」を表す邦語として「シャンパン」が普通に使用されていること、4)シャンパンが発泡性ぶどう酒を代表するほど世界的に著名であること、5)我が国において数多くの辞書、事典、書籍、雑誌及び新聞等においてシャンパンについての説明がなされていることなどが認められ、これらを総合すると、我が国において「CHAMPAGNE」、「シャンパン」は「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、一般需要者の間に広く知られているというべきである。
イ 商標法第4条第1項第7号該当性について
(ア)商標法第4条第1項第7号の趣旨について
過去の審判決例によれば、商標法第4条第1項第7号は、その商標の構成自体が矯激、卑猥な文字、図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、その時代に応じた社会通念に従って検討した場合に、当該商標を採択し使用することが社会公共の利益に反し、または社会の一般的道徳観念に反する場合、あるいは他の法律によってその使用が禁止されている商標、若しくは国際信義に反するような商標である場合も含まれるものとみるのが相当と解されている(甲96)。また、知財高等裁判所により、いかなる商標が商標法第4条第1項第7号公序良俗に反するかは、以下のとおり、5つの具体的事情を考慮して検討すべきとの指針を示している(甲97)。「『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』には、1)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、2)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、3)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、4)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、5)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである。」
さらに、どのような商標登録が特定の国との国際信義に反するかどうかについても、「当該商標の文字・図形等の構成、指定商品又は役務の内容、当該商標の対象とされたものがその国において有する意義や重要性、我が国とその国の関係、当該商標の登録を認めた場合にその国に及ぶ影響、当該商標登録を認めることについての我が国の公益、国際的に認められた一般原則や商慣習等を考慮して判断すべきである。」と当該判決の中で判示されている。
(イ)著名な原産地名称についての保護
「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字は、前記のように著名なフランスの原産地統制名称として、その使用が厳格に管理・統制されているものであって、請求人やINAOらによる長年にわたる厳格な品質管理・品質統制の努力の結果、高い名声、信用、評判が形成されているものであり、ぶどう酒の商品分野に限られることなく一般消費者に至るまで、世界的に著名な原産地名称である。
原産地名称は、商品が産出された土地の地理的名称をいい、商標とは地理的名称に限定されること及びその商品の品質、社会的評価、その他の特性が、産出地固有の気候、地味等の自然条件又は産出地の人々が有する伝来の生産技術、経験若しくは文化等の人的条件といった地理的要因に基づくこと等の点において異なるが、商標とは、商品の出所表示機能、品質保証機能及び広告機能を有する点において、共通しているものと考えられる。そうすると、原産地名称のうち、著名な標章については、著名商標の有するこれら機能が商標法によって保護されているのと同様に保護されることが望ましいというべきである(甲80)。
したがって、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」には、著名な原産地名称を含む表示からなる商標を同法第4条第1項第17号によって商標登録を受けることができないとされているぶどう酒又は蒸留酒以外の商品に使用した場合に、当該表示へのただ乗り(フリーライド)又は当該表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがある等公正な取引秩序を乱すおそれがあると認められるものや国際信義に反すると認められるものも含まれると解すべきである。
故に、著名な原産地名称を原産地と離れた特定個人又は企業が自己の商標として登録し使用することは、商標法第4条第1項第7号に該当するものとして、認められるべきではなく、商標法の下、著名な原産地名称については保護されるべきである。
(ウ)本件商標について
本件商標は、上記の著名な原産地統制名称である「シャンパン」の文字を含んでいることは明らかである。よって、本件商標は、著名な原産地統制名称である「シャンパン」の文字を含む商標という印象を与えるのみというべきである。また、「シャンパン」の文字は、視覚的に比較的注目されやすい前半部に位置する構成であることから、当該「シャンパン」の文字が強く看者の印象に残るものというべきである。
したがって、本件商標を使用して役務が提供された取引者・需要者は、本件商標から容易に、また、直感的に該名称「シャンパン」を想起するといえる。そして、該名称は、フランス国による原産地統制名称法に基づき指定されたぶどう酒として厳格にその使用を規制されているものであるから、たとえ、これが食品とは異なる本件商標の指定役務について使用されるとしても、前記原産地統制名称の稀釈化をきたすおそれがあり、ひいては国際信義に反するものといわざるを得ない。
(エ)異議決定・無効審決例
「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字をその構成に含む商標については、その商品役務を問わず、商標法第4条第1項第7号に該当するという実務が審決及び異議決定により確立しているといえる。かかる過去の例に鑑みても、このような商標を登録することは、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるから、公の秩序を害するおそれがあると判断されるべきである(甲59、甲60、甲68?甲80、甲82?甲93、甲95、甲98?甲108)。
また、「Champagne」及び「シャンパン」以外の原産地統制名称を含む商標についても、原産地名称の稀釈化を引き起こすおそれや公正な競業秩序を乱すおそれがあることを認められ、商標法第4条第1項第7号に該当することが認定された例が存在する(甲61?甲64、甲81、甲94)。
よって、上記事例と同様に、本件商標をその指定役務に使用すると、フランス・シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者が、永年その土地の風土を利用して優れた品質の発泡性ぶどう酒の生産に努めてきたこと、及び、フランスが国内法制を制定し、1935年以降請求人やINAO等が中心となって原産地名称を統制、保護してきたことの結果として著名性を獲得した原産地名称である「Champagne」及び「シャンパン」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがある。これに加え、同表示を発泡性ぶどう酒とは商品の性質上相容れない本件商標の指定役務に使用する場合には、本来、限定された発泡性ぶどう酒にのみ付されるべき同表示が、別の商品・役務に使用されることによって需要者に不快感を懐かせ、同表示の汚染(ポリューション)を生じされるおそれがあり、また、国を挙げてぶどう酒の原産地名称または原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標を登録することは、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるから、公の秩序を害するおそれがあると判断されるのが相当であり、商標法第4条第1項第7号により取り消すべき商標である。
(オ)諸外国での事例
著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」が、その著名標章の信用へのフリーライドから引き起こされる不利益から保護されるべきであることは、請求人らがフランス、イギリス、スイス等において提訴した事件において認められている(甲57、甲58、甲66、甲88、甲111、甲113)。
ウ むすび
このように、著名な原産地統制名称「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」は、フランス国の政府機関たる請求人やINAO等による不断の努力によって、高い名声・信用・評判が維持されているのであって、これを、原産地とかけ離れた特定個人が自己の商標として登録し使用することは、公序良俗を害するものであるというべきである。
すなわち、本件商標は、著名な原産地名称である「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の名声を僣用し、「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」に化体している高い名声・信用・評判から不正な利益を得るために使用する目的でなされたものであるから、「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」という表示へのただ乗り(フリーライド)及び、同表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあり、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるため、商標法によって登録され、保護されるに値しない商標というべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものというべきある。

3 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べた。
(1)商標法第4条第1項第7号の射程範囲について
商標法は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができず、また、無効理由に該当する旨定めている(商標法第4条第1項第7号、同法第46条第1項第1号)。商標法第4条第1項第7号は、本来、商標を構成する「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に、そのような商標について、登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反)。
ところで、商標法第4条第1項第7号は、上記のような場合ばかりではなく、商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても、商標保護を目的とする商標法の精神にもとり、商品流通社会の秩序を害し、公の秩序又は善良な風俗に反することになるからそのような者から出願された商標について、登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反)。
確かに、例えば、外国等で周知著名となった商標等について、その商標の付された商品の主体とはおよそ関係のない第三者が、日本において、無断で商標登録をしたような場合、又は、誰でも自由に使用できる公有ともいうべき状態になっており、特定の者に独占させることが好ましくない商標等について、特定の者が商標登録したような場合に、その出願経緯等の事情いかんによっては、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合が全く存在しないとはいえない。
しかし、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、商標法第4条各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10391号)。
すなわち、商標法は、シャンパンを含むワインに関しては、商標法第4条第1項第17号において、商標登録を受けることができない商標として、「日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であって、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの」と規定しているから、本件商標に無効理由としての登録拒絶事項があるか否かは、専ら、本件商標が商標法第4条第1項第17号に該当するか否かにより決すべきである。
(2)本件における当てはめ
本件商標は、その指定役務が、「飲食物の提供、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、テーブル・テーブル用リネンの貸与、ガラス食器の貸与、タオルの貸与」であり、「当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの」ではないから、本件商標が商標法第4条第1項第17号に該当せず、本件商標に無効理由としての登録拒絶事項がないことは明らかである。
(3)請求人の主張に対する反論
この点、請求人は、本件商標を指定役務に使用することは、著名な「シャンパン」の表示への只乗り及び希釈化が生じるおそれがある上、フランス国民の感情を害するおそれがあるから、公正な取引秩序を害し、国際信義に反するものであるため、公序良俗を害するおそれがある旨主張する。
しかし、商標法は、「著名な『シャンパン』の表示への只乗り及び希釈化が生じるおそれ」又は「フランス国民の感情を害するおそれ」を考慮し、商標法第4条第1項第17号において、「日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について使用をすることが禁止されているものを有する商標であって、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの」を登録拒絶理由としているのであるから、同号の要件を満たさない商標については、特段の事情がない限り、「著名な『シャンパン』の表示への只乗り及び希釈化が生じるおそれ」又は「フランス国民の感情を害するおそれ」よりも商標選択の自由を優先させているのであり、請求人の主張は商標法の趣旨に反するものと言わざるを得ない。
また、本件商標の構成を見ても、「シャンパン」ではなく、「シャンパンタワー」であるところ、外観上、「シャンパン」と「タワー」との間には、特段の境界はなく、ひとまとまりのものとして認識される上、わずか9文字から構成されるものであるから、「シャンパンタワー」と称呼されるものであるから、「シャンパン」と「タワー」が分離して観察されるものではなく、請求人の主張するように、「シャンパン」の文字が強く印象に残るものとはいえないから、請求人の主張はその前提において誤りであるし、また、少なくとも指定役務との関係においては、「シャンパンタワー」という言葉からは特定の観念が生じるものではないから、「著名な『シャンパン』の表示への只乗り及び希釈化が生じるおそれ」又は「フランス国民の感情を害するおそれ」も生じないと解するのが相当であるから、請求人の主張は失当であると言わざるを得ない。
(4)むすび
以上のとおり、本件審判の請求が成立しないことは明らかである。

4 当審の判断
(1)利害関係
請求人が、本件審判の請求をするにつき法律上の利益を有する者に該当することについて、被請求人は、争うことを明らかにしておらず、また、請求人は、本件商標をその指定役務について使用することは、著名性を獲得した原産地名称である「Champagne」及び「シャンパン」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがある旨主張するのであるから、請求人は、本件商標の登録が存続することにより不利益を被るおそれがあるというべきであり、本件審判を請求するについて利害関係を有する者と認めることができる。
(2)「Champagne(シャンパーニュ又はシャンパン)」(大文字で表した「CHAMPAGNE」も含む。以下同じ。)の語の著名性について
ア 甲第2号証ないし甲第53号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)「コンサイスカタカナ語辞典」(1996年10月1日、株式会社三省堂発行)の「シャンパン」〔champagne〕の項目(437頁)には、「発泡ワインの1種、フランス北東部シャンパーニュ地方産の美酒。・・・シャンペンとも。・・・シャンパーニュ地方以外でつくられる発泡ワインはスパークリング-ワインと呼んで区別される。」との記載がある(甲2)。
(イ)「広辞苑 第5版」(1998年11月11日、株式会社岩波書店発行)の「シャンパーニュ」(Champagne)の項目(1248頁)には、「フランス北東部、パリ盆地東部の地方(州)。ブドウ栽培・シャンペン製造で知名。」との記載があり、また、「シャンパン」(champagne)の項目には、「発泡性の白葡萄酒。厳密にはフランス北東部シャンパーニュ地方産のものを指す。」との記載がある(甲3)。
(ウ)「新版 世界の酒事典」(1982年5月20日、株式会社柴田書店発行)の「シャンパン」(Champagne)の項目(228頁)には、「フランスのシャンパーニュ地方でつくられているスパークリング・ワイン。正式の名称をバン・ド・シャンパーニュ(Vin de Champagne)という。世界の各地で、各種のスパークリング・ワインがつくられているが、このうちシャンパンと呼ばれるものは、フランスのシャンパーニュ地方、特にプルミュール・ゾーン(ランス山とマルヌ谷との一等地)、ドゥジェーム・ゾーン(マルヌ県のうち一等地以外の村落群)産のスパークリング・ワインにかぎると1911年の法律で定められている。」との記載がある(甲4)。
(エ)「明治屋酒類辞典」(昭和63年8月1日、株式会社明治屋本社発行)の「Champagne(仏)(英)シャンパン」の項目(201、202頁)には、「フランスの古い州の名『シャンパーニュ』をとってワインの名に用いたものである。現在『統制された名称』であって、何ら形容詞を付けないで単に『シャンパーニュ』と称する資格を有するのは、マルヌ県の一定地域のブドウを原料にし、その地域内で、『シャンパン法』でつくった『白』スパークリング・ワインである。最高生産量にも制限があって、それを越えた部分には形容詞がつく。」との記載があり、「統制名称」(209?211頁)には、「シャンパンは、詳しくは『ヴァン・ド・シャンパーニュ』であるが、『シャンパーニュ』という地名を名乗るには資格がいる。1908年(明治41年)初めて法律ができて、『シャンパーニュ』という名称が『法律上指定された』名となった。・・・要するにシャンパンの条件は1)シャンパン地区の生産であること。2)シャンパン法(ビン内で後発酵を行い、発生したガスをビン内に封じ込める)で製造したものであること。3)白ワインであること。(省略)4)その年度の最高の生産高に制限があること、の4条件を具えなければならない。・・・戦前、わが国でもシャンパンの名称を乱用した歴史があるが、敗戦の結果、サンフランシスコ講和条約の効果として、マドリッド協定に加入を余儀なくされ、以来フランスの国内法を尊重している。」との記載がある(甲5)。
(オ)「ワイン紀行」(1991年9月25日、株式会社文藝春秋発行)の「シャンパーニュの村」の項目には、シャンパンの歴史及び製造過程についての記載がある(甲6)。
(カ)「洋酒小事典」(昭和56年6月15日、株式会社柴田書店発行)の「シャンペン Champagne」の項目(95頁)には、「フランスのシャンパーニュ地方でつくられているスパークリング・ワインの総称。」との記載がある(甲7)。
(キ)「フランスのワインとスピリッツ」(1987年、フランス食品振興会発行)の「シャンパーニュ(CHAMPAGNE)」の項目(26、27頁)には、シャンパーニュ地方及びシャンパンの歴史及び製造過程についての記載がある(甲8)。
(ク)「田崎真也のフランスワイン&シャンパーニュ事典」(1996年9月30日、日本経済新聞社発行)の「PART1 シャンパーニュ」には、「私たちはシャンパーニュという言葉を聞いただけで、心が浮き浮きしてくる。それだけシャンパーニュは特別な意味をもったワインなのだ。近頃は日本でもシャンパーニュが本格的にレストランやワインバーで飲まれるようになったのはうれしい限りだ。」との記載がある(甲9)。
(ケ)「最新版 The ワイン」(昭和62年10月14日、読売新聞社発行)の「シャンパンでディナーを」の項目には、「シャンパーニュ地方でつくられる、発泡酒だけに名付けられるシャンパン」との記載がある(甲10)。
(コ)「世界の酒4 シャンパン」(1990年6月30日、株式会社角川書店発行)の「シャンパーニュの丘」の項目(6頁)には、「シャンパーニュのワインの歴史に、さらにひとつの栄光のエピソードが加わった。それは発泡性のワインの誕生である。この画期的な発見、発明は、その後の研究者たちの努力によって、発泡性ワイン、シャンパンの名声を、ヨーロッパのみならず世界的なものにしたのであった。」との記載があり、「シャンパーニュのぶどう畑」の項目(8頁)には、「シャンパーニュというのは、この地方の古くからの一般的呼称である。・・・シャンパーニュには、他の産業もいろいろとあるが、何といってもシャンパンで世界的に知られている。」との記載がある(甲11)。
(サ)「ワールドアトラス・オブ・ワイン」(1991年5月27日、ネスコ(日本映像出版株式会社)発行)の「Champagne/シャンパーニュ」の項目(110頁)には、「シャンパーニュという名前は、ボルドーの呼称などのように、限定された区域に適用されるだけでなく、この名前を名乗るまでに1滴ずつのワインが経なければならない一連の手法をも指す。・・・シャンパンがどれも、世界中の他のどんな発泡性ワインにも勝るというのは言い過ぎだろう。さまざまなシャンパンがあるのだから。しかし、申し分ないシャンパーニュには、さわやかさと鋭敏さ、芳醇さ、混じりけのなさといったものの組み合わせ、それに優しく刺激してくれるアルコールの強さが見られ、他の追随を許さない。」との記載がある(甲12)。
(シ)「世界のワインカタログ1999 by Suntory」(1998年12月1日、サントリー株式会社発行)の「シャンパーニュ」の項目(243頁)には、「フランスの葡萄産地としては最北部にあたるシャンパーニュは、言うまでもなく、あのシャンパンの産地です。この地でつくられるスパークリングワインのシャンパンは、スパークリングワインの代名詞として使用されるほど、世界で最も有名なワインのひとつです。その名にふさわしく、大変手間のかかる伝統的な手法をかたくなに守り続けて、素晴らしい風味を生み出しています。」との記載がある(甲13)。
(ス)「料理王国1月号別冊(季刊ワイン王国 NO.5)」(2000年1月20日、株式会社料理王国社発行)の「シャンパン味わいの多様性チャート」の項目(80頁)には、「ひとくちにシャンパンといっても一様でないのはそれもそのはず、シャンパーニュ地方ワイン生産同業委員会(CIVC)がまとめているすべての醸造元の数は5200にものぼる。委員会は、シャンパン消費量上位10カ国に外国事務所をおいて、『シャンパンと呼べるのは、シャンパーニュ地方産スパークリングだけ』ということを訴えてきたが、’93年頃から『5200の醸造元があれば5200様のシャンパンがある』ということもアピールするようになった。」との記載がある(甲14)。
(セ)「世界の名酒事典’80改訂版」(1980年、株式会社講談社発行)の「スパークリング・ワイン」の項目(248頁)には、シャンパンの産地、シャンパンの製法等、シャンパンについての紹介の記載がある(甲15)。また、同誌「’82-’83年度版」、「’84-’85年度版」、「’87-’88年版」、「’90年版」ないし「2000年版」、「2002年版」ないし「2004年版」においてもほぼ同様の記載がある(甲16?甲32)。
(ソ)「The 一流品 決定版」(1986?1989年、読売新聞社発行)には、「スパークリングワイン、発泡性で炭酸ガスを多量に含んだワインである。いちばん有名なのがシャンパン。フランスではマルヌ、オーブ、エーヌ、セーヌ・エ・マルヌ四県のぶどう畑でとれたものを原料にしたものだけをほんとうのシャンパンと証明している。」(甲33)の記載のほか、同誌PART2、PART3及びPART4にも同様の記載がある(甲34?甲36)。
(タ)「家庭画報特選 Made in EUROPE ヨーロッパの一流品 女性版」(昭和57年11月1日、株式会社世界文化社発行)の「“女性を美しくする唯一の飲み物”シャンパン」の項目(198頁)には、「シャンパンという名称は、フランスのシャンパーニュ地方で造られる発泡性ワイン(スパークリング・ワイン)の総称で、それ以外のものは単にスパークリングと呼ばれます。」との記載がある(甲37)。
(チ)「家庭画報編女性版 世界の特選品’84」(昭和58年11月1日、株式会社世界文化社発行)の「CHAMPAGNE シャンパン」の項目(217頁)には、「パリから170キロ東の、ランスより南一帯がシャンパーニュ地方。ここでつくられる発泡性ワインがシャンパンです。」との記載がある(甲38)。
(ツ)「男の一流品大図鑑’86年版」(昭和61年5月20日、株式会社講談社発行)には、CHAMPAGNE(シャンパン)が一流品の一つとして紹介されており(甲39、191頁)、同誌「’87年版」及び「’88年版」にも、同様の紹介がされている(甲40、甲41)。
(テ)「はじめてのシャンパン&シェリー」(1999年、株式会社宙出版発行)の「シャンパンの定義」の項目(22頁)には、「シャンパンというと、発泡性ワインの代名詞のようなイメージがありますが、正確には、フランスのシャンパーニュ地方で伝統的な醸造法を用いて造られた発泡性ワインのみを指します。シャンパンの規定は、フランスのワイン法(AOC)で細かく定められています。シャンパーニュ地方で栽培されたブドウを用いること、伝統的なシャンパーニュ方式で製造すること、製造の全工程を指定地域内で行うことなど、さまざまな条件を満たすことが義務付けられています。ほかの国や地域で、シャンパンと同様の製法を用いた発泡性ワインが造られたとしても、それをシャンパンと呼ぶことはできないのです。」との記載があり、また、「一目で分かるシャンパンのデータ」の項目(132頁)には、フランスからの総出荷量は、1993年が22909万本(1本当たりの容量は750ml、以下同じ。)、1998年が29246万本であって、この間ゆるやかに上昇を続けている旨の記載があること、1998年におけるフランスからの国別出荷量、上位10カ国のうち、我が国への出荷量は、イギリス、ドイツ、アメリカ、ベルギー、スイス、イタリアに次いで298万本であること、等の記載がある(甲42)。
(ト)昭和64年1月5日付け日本経済新聞(夕刊)には、「シャンパン(産地)」との見出しの下に、「シャンパンはフランス・シャンパーニュ地方で造られたスパークリングワイン(発泡酒)のこと。」との記載がある(甲43)。
(ナ)平成元年6月13日付け日本経済新聞(夕刊)には、「シャンパン人気急上昇」の見出しの下に、「結婚披露宴の乾杯用かクリスマス・ディナーの小道具・・・これまで限られた出番に甘んじていたシャンパンなど発泡性ワインの人気が急上昇している。」との記事があり、また、「発泡性ワイン輸入量5割増」との見出しの下に、「現在ではフランスの原産地名称国立研究所(INAO)により、『シャンパン』と名のれるのはその“生誕地”シャンパーニュ地方の発泡性ワインのみと規定されている。」との記載がある(甲44)。
(ニ)平成2年1月11日付け日本経済新聞(夕刊)には、「シャンパン/値下げで人気も上々」の見出しの下に、「はじける泡や優雅な味と香りが魅力のシャンパン。結婚披露宴やクリスマスパーティーだけでなく、入学式や誕生日などにも登場することが多くなった。炭酸ガスを含む発泡性ワインは各国にあるが、『シャンパン』を名乗れるのはフランスのシャンパーニュ地方産だけ。・・・最近のパーティーブームに加えて、昨年4月の酒税改正で2割程度価格が下がったことから人気急上昇。」との記載がある(甲45)。
(ヌ)平成2年1月27日付け朝日新聞には、「日本の昨年のシャンパン輸入が初めて百万本を突破し、前年に比べて実に66.65%増の128万本に達した・・・日本の輸入の伸び率は世界一。輸入量も、カナダの147万本に次いで世界第10位にのし上がった。」との記載がある(甲46)。
(ネ)平成2年11月16日付け朝日新聞には、「商品の外国地名使用ご用心」との見出しの下に、「祝賀パーティーの乾杯に欠かせないシャンパンといっても、厳密には『シャンパン』と『スパークリング(発泡性)ワイン』の区別がある。どちらも泡の立つ白ワインに違いはないが、前者はフランスのシャンパーニュ地方産、後者はそれ以外の国や地域で醸造されたものをさす。・・・欧州共同体(EC)は、『スパークリング・ワイン』を勝手に『シャンパン』として売るな、と主張している。」との記載がある(甲47)。
(ノ)平成3年4月27日付け朝日新聞(夕刊)には、「スパークリングワイン」の見出しの下に、「・・・スパークリングワインが最近、人気を集めています。お祝いの席の乾杯の酒から、友人たちといつでも気軽に楽しめる飲み物に変わってきているようです。代表的な銘柄であるシャンパンの高級品は1本数万円しますが、・・・」との記載があり、「シャンパンはシャンパーニュ地方で、瓶内発酵法によってつくるなど、法律で基準が細かく決まっており、この地方以外でつくられるスパークリングワインをシャンパンと呼ぶのは禁止されている。」との記載がある(甲48)。
(ハ)平成4年7月27日付け毎日新聞(夕刊)によれば、「ワインの里を疾走」との見出しの下に、「『シャンパン』はフランスのシャンパーニュ地方だけで作られるワインの発泡酒の名称。」との記載がある(甲49)。
(ヒ)「〈特別法コンメンタール〉不正競争防止法」(昭和61年6月30日、第一法規出版株式会社発行)に、「『シャンパーニュ』と発泡葡萄酒のように、地名と商品との結びつきが極めて強固である場合などは、いかなる打消表示によっても、原産地誤認のおそれは排除されないと解する。」(227頁)との記載がある(甲50)。
(フ)「パリ条約講話」(平成7年7月30日、社団法人発明協会発行)に、「『地方的名称』は、都市町村の名称、その他の特定の地域に与えられている呼び名をいいます。この『地方的名称』や『ぶどう生産物の原産地の地方的名称』については何ら規定かありませんが、後者について現在の国際慣行上大体一般に認められている地方的名称のうちでわが国によく知られている主なものとしては、シャンパン(champagne)、ポート(port)、コニャック(cognac)等があります。」(346頁)との記載がある(甲51)。
(ヘ)「1985年、制定50周年を迎える原産地統制名称(A.O.C.)」(1985年、フランス食品振興会(SOPEXA)発行のパンフレット)に、「原産地統制名称とワインおよびオー・ド・ヴィ原産地名称国立研究所(INAO)は1935年7月30日に設立されました。」との記載があり、また、INAOの職務として「AOCワインおよびオー・ド・ヴィの承認を行う。」、「原産地名称ワインを発生し得る災害から保護する。」との記載があり、「2番目の任務は必然的に以下の事項に向けられます。」として、その一つに、「フランス国内外を問わず、不正と偽造行為に対する戦い。」との記載がある(甲52)。
(ホ)「フランス原産地統制名称の国際的保護のためのINAOのアクションに関するメモ」(1994年11月28日付け)に、フランス政府機関であるINAOが原産地統制名称の保護のために起こしたアクションに関して、例えば、「フランスに限らず外国においても常にその名称について権利のない製品を流通させるための、原産地統制名称の使用に異議を申し立ててきた。」、「INAOは名称の著名性の悪用とも戦っている。」との記載がある(甲53)。
イ 前記アで認定した事実によれば、「Champagne」の語は、フランス北東部の地名であり、同地で作られる発泡性ぶどう酒をも意味する語であって、生産地域、製法、生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称であること、「Champagne」を表す日本語として「シャンパーニュ」、「シャンパン」が普通に使用されていること(我が国では、地名を指称するときは「シャンパーニュ」と呼び、発泡性ぶどう酒を指称するときは「シャンパン」と呼ぶことが多いが、「シャンパーニュ」の呼称をもって発泡性ぶどう酒を指称することも少なくない。)、シャンパンが発泡性ぶどう酒を代表するほど世界的に著名であること、我が国において数多くの辞書、辞典、事典、書籍、雑誌及び新聞などにおいて、シャンパーニュ、シャンパンの語についての説明がされ、また、世界の名酒事典などにおいてもシャンパンの具体的製品が紹介されていること、栓を抜くときのポンという、祝宴にマッチする音、黄金色の酒の美しさ、泡立ちの快さなどから乾杯用としてシャンパンが用いられることが多いこと、及び我が国の1998年におけるシャンパン輸入量が世界第7位で298万本と多いことなどが認められ、これらを総合すると、「Champagne(シャンパーニュ又はシャンパン)」の語は、我が国において、本件商標の登録出願時である平成22年5月7日はもとより、その登録査定時である平成22年9月15日においても、「フランスのシャンパーニュ地方、及び当該地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、一般需要者の間に広く知られていたというのが相当である。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 本件商標
本件商標は、前記1のとおり、「シャンパンタワー」の文字を横書きしてなるものであるところ、その構成中の「シャンパン」の文字部分は、前記(2)認定のとおり、「フランスのシャンパーニュ地方、及び当該地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、一般需要者の間に広く知られている語であり、また、「タワー」の文字部分も、「塔」などを意味する英語「tower」の片仮名表記として、一般需要者の間に広く知られている語といえる。そして、これらの2語を結合して、「シャンパングラスをピラミッド状に積み上げた演出道具。最上部のグラスにシャンパンを流し込み、徐々にすべてのグラスを満たす。結婚披露宴などのパーティで、演出として行われる。」(株式会社三省堂発行「コンサイスカタカナ語辞典第3版」)を意味する語として使用されているとしても、該「シャンパンタワー」の語は、もとより「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味する「シャンパン(Champagne)」に由来するものであるから、本件商標に接する需要者は、これより「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を直ちに想起又は連想し、語頭部の「シャンパン」の文字部分に強く印象づけられるとみるのが相当である。
イ フランスにおける「Champagne」の名称の保護について
フランスにおける「Champagne」の名称の保護に関しては、前記(2)で認定した事実に加え、以下の事実を認めることができる。
(ア)前出「フランスのワインとスピリッツ」(甲8)の18頁ないし20頁には、「EC(欧州共同体)の規則に従って、ワインはテーブル・ワインとV.Q.P.R.D.(指定地域優良ワイン)の2つの等級に分類され、フランスでは、この2つの等級がさらにそれぞれに2分され、1)A.O.C.(原産地統制名称ワイン)、2)V.D.Q.S.(上質限定ワイン)、3)ヴァン・ド・ペイ(地酒)、4)ヴァン・ド・ペイを除いたテーブルワインの4つに分けられる」旨の記載があり、2)のV.D.Q.S.(上質限定ワイン)は、原産地名称国立研究所(I.N.A.O.)によって、厳しく規制されパスしたものに限られ、製造の条件は、地域ごとに厳密に決定されており、法令化されていること、1)のA.O.C.(原産地統制名称ワイン)は、その製造が、V.D.Q.S.ワインに適用される規制よりさらに厳格な規則を充たすものでなければならず、原産地、品種、最低アルコール含有度、最大収穫量、栽培法、剪定、醸造法及び場合によっては熟成条件などの基準が決定されていること、原産地域がV.D.Q.S.ワインの場合よりさらに厳しく限定されていること、名称を使用することができるためには、様々な基準に合うように製造され、さらに鑑定試飲会の検査に合格しなければならないこと、などの記載がある。また、同20頁の「産地別A.O.C.ワイン一覧表」には、「シャンパーニュ/CHAMPAGNE」の文字が記載されている。
(イ)前出「世界の名酒事典’90年版」(甲19)の「ワインの法律」の項目(15頁)には、「ヨーロッパではEC(欧州共同体)においてワイン法を制定し、加盟各国はこれに基づいてそれぞれ国内法を設けている。」との記載があり、「ECのワイン法にもとづく品質区分例」の一覧表には、フランスにおける指定地域優良ワインとして、「V.D.Q.S.ワイン」、「A.O.C.ワイン」があるとの記載がある。
(ウ)「1985年、制定50周年を迎える原産地統制名称(AOC)」(フランス食品振興会発行のパンフレット:甲52)、「フランス原産地統制名称の国際的保護のためのINAOのアクションに関するメモ」(甲53)、「1936年6月29日付け原産地統制名称『CHAMPAGNE』に関するフランス国条例」(甲54)、「1935年7月30日付けフランス国政令『原産地統制呼称法』」(甲55)、「『フランス国農事法典』における原産地名称国立研究所(INAO)に関する記載」(甲56)、「Sweet&Maxwell社刊 1994年 第4号」における「European Intellectual Property Review」(甲57)、「Butterworths刊 1997年」における「FAMOUS AND WELL-KNOWN MARKS」(甲58)には、フランスでは、1935年7月30日に原産地統制名称についての政令を制定し、INAOは原産地統制名称のぶどう酒が満たすべき生産地域、ぶどうの品種、生産高、最低天然アルコール純度、栽培方法、醸造方法などの条件を定めることができ、また、フランス国内及び国外で原産地統制名称を保護することができる旨などを規定していること、原産地統制名称「CHAMPAGNE」の条件を定めていること、INAOは、申立人などとともにフランス国内及び国外で原産地統制名称の保護の活動をしていること、などの記載がある。
ウ 以上によれば、本件商標は、「フランスのシャンパーニュ地方、及び当該地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、その登録出願時及び登録査定時において、我が国の一般需要者の間に広く知られていた「シャンパン」の文字をその構成中に含むものであること、並びに、フランスシャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者が永年その土地の風土を利用して優れた品質の発泡性ぶどう酒の生産に努めてきたこと及びフランスが国内法令を制定し、1935年以降INAO等が中心となって原産地名称を統制、保護してきた結果、「Champagne」の語よりなる表示の著名性が獲得されたものであることを併せ考慮すれば、本件商標をその指定役務に使用するときは、著名な「Champagne(シャンパーニュ又はシャンパン)」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより、国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあるというべきである。
エ 以上のとおりであるから、本件商標は、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるから、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標というのが相当である。
(4)被請求人の主張について
ア 被請求人は、シャンパンを含むワインに関しては、商標法第4条第1項第17号において、商標登録を受けることができない商標を規定しているから、本件商標に無効理由としての登録拒絶事項があるか否かは、専ら、本件商標が商標法第4条第1項第17号に該当するか否かにより決すべきであるところ、本件商標は、「飲食物の提供、加熱器の貸与、調理台の貸与、流し台の貸与、カーテンの貸与、家具の貸与、壁掛けの貸与、敷物の貸与、テーブル・テーブル用リネンの貸与、ガラス食器の貸与、タオルの貸与」を指定役務とするであり、「当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用をするもの」ではないから、本件商標が商標法第4条第1項第17号に該当せず、本件商標に無効理由としての登録拒絶事項がない旨主張する。
確かに、本件商標は、「ぶどう酒若しくは蒸留酒」について使用されるものではないから、商標法第4条第1項第17号の規定からすれば、同条項には該当しないといえる。しかし、そうであるとしても、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当しないとすることはできない。すなわち、前記(3)認定のとおり、「Champagne(シャンパーニュ又はシャンパン)」の語は、フランスシャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者が永年その土地の風土を利用して優れた品質の発泡性ぶどう酒の生産に努め、かつ、フランスが国内法令を制定し、1935年以降INAO等が中心となって原産地名称を統制、保護してきた結果、当該地域で生産された発泡性ぶどう酒を表示するものとして、著名性を獲得したものであり、我が国においても、「フランスのシャンパーニュ地方、及び当該地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、一般需要者の間に広く知られていたものである。したがって、「シャンパン」の文字を含む本件商標をその指定役務について使用すれば、特に、本件商標の指定役務中には、「ぶどう酒を含むアルコール飲料を主とする飲食物の提供」を含むものであるから、著名な「Champagne(シャンパーニュ又はシャンパン)」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれは高いものというべきであり、また、シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより、国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれも高いというべきである。
してみると、「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を表示するものとして、世界的に著名な「シャンパン」の文字を含む本件商標について、シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者等とはおよそ関係のない第三者である本件商標の商標権者が、日本において、無断で商標登録出願をし、登録を得たものであるから、本件商標の登録出願の経緯には著しく社会的妥当性を欠くと認めるべき事情があるというべきであり、上記本件商標の商標権者の行為に基づいて登録された本件商標は、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反し公の秩序を害するものである。したがって、被請求人の上記主張は理由がない。
イ 被請求人は、本件商標は、外観上、「シャンパン」と「タワー」との間には、特段の境界はなく、ひとまとまりのものとして認識される上、わずか9文字から構成されるものであって、「シャンパンタワー」と称呼されるものであるから、「シャンパン」と「タワー」が分離して観察されるものではなく、請求人の主張するように、「シャンパン」の文字が強く印象に残るものとはいえないから、請求人の主張はその前提において誤りであるし、また、少なくとも指定役務との関係においては、「シャンパンタワー」という言葉からは特定の観念が生じるものではないから、「著名な『シャンパン』の表示への只乗り及び希釈化が生じるおそれ」又は「フランス国民の感情を害するおそれ」も生じないと解するのが相当である旨主張する。
しかし、前記(3)ア認定のとおり、本件商標は、元を正せば、「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味する「シャンパン(Champagne)」に由来する語と認められるから、本件商標に接する需要者は、語頭部の「シャンパン」の文字部分に強く印象づけられるとみるのが相当である。そして、本件商標が「シャンパン」の文字を含むことにより、これをその指定役務について使用すれば、著名な「Champagne(シャンパーニュ又はシャンパン)」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより、国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあるというべきものであることは、前記認定のとおりである。したがって、被請求人の上記主張は理由がない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-05-11 
結審通知日 2012-05-15 
審決日 2012-05-28 
出願番号 商願2010-39314(T2010-39314) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (X43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 拓哉箕輪 秀人 
特許庁審判長 野口 美代子
特許庁審判官 内山 進
前山 るり子
登録日 2010-10-22 
登録番号 商標登録第5362124号(T5362124) 
商標の称呼 シャンパンタワー 
代理人 中山 俊彦 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 高橋 淳 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 景子 

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