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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011890079 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X2536
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X2536
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X2536
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X2536
管理番号 1267160 
審判番号 無効2012-890042 
総通号数 157 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-05-28 
確定日 2012-11-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5306813号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5306813号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5306813号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成からなり、平成21年9月29日に登録出願され、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」及び第36類「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供」を指定商品及び指定役務として平成22年3月5日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、以下に掲げるとおりである。
(1)登録第1286289号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲(B)のとおり
登録出願日:昭和48年7月5日
設定登録日:昭和52年7月20日
書換登録日:平成19年12月26日
指定商品 :第20類「クッション,マットレス」、第22類「ハンモック」、第24類「布製身の回り品,毛布」及び第25類「被服」
(2)登録第1456098号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲(C)のとおり
登録出願日:昭和50年1月17日
設定登録日:昭和56年2月27日
書換登録日:平成13年9月19日
指定商品 :第10類「医療用手袋」、第16類「紙製幼児用おしめ」、第17類「絶縁手袋」、第20類「クッション,マットレス」、第21類「家事用手袋」、第22類「ハンモック」、第24類「布団カバー,毛布,布製身の回り品」及び第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,襟巻き,靴下,ゲートル,ショール,スカーフ,足袋,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,ヘルメット,帽子」
(3)登録第4057070号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲(D)のとおり
登録出願日:平成5年12月2日
設定登録日:平成9年9月19日
指定商品 :第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」)を除く。),げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」
上記引用商標1ないし3は、いずれも現に有効に存続するものであり、以下、これらをまとめて単に「引用商標」ということがある。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第32号証(枝番を含む。)を提出している。
1 はじめに
本件商標は、商標法第4条第1項第7号、第11号、第15号及び第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
以下においては、まず本件商標及び引用商標について述べた後に、商標法の上記各規定に該当する理由を順に述べる。
(1)本件商標
本件商標は、別掲(A)のとおり、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を太い線で表し、当該「C」状図形の内部には、中央やや左寄りに、菱形を想起させる左右の中央部に突起のある太い縦線を配し、かつ、これら図形を構成する太い線の外周に近い内側部分に、細い白線を施した構成からなるものである。
(2)引用商標
請求人は、引用商標を被服、帽子等の商品に使用している。引用商標は、別掲(B)ないし(D)のとおり、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形の内部中央に太い縦線が配される点で基本構成を同じくしている。
なお、請求人は、引用商標2と同一の商標について、登録第1458183号商標を含む7件の登録商標を有している(甲第3号証の3ないし9)。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれる。
前記「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くもの」には、商標に接する取引者、需要者に、他人の著名商標を連想・想起させ、著名商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し、その希釈化(ダイリューション)を招くなど、不正の目的をもって出願したものが含まれ、かかる商標は「使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する」ものであることは、過去の審判事件でも認められてきたものである(不服2008-10900)。また、当該著名商標が、我が国のみならず世界的にも著名な商標である場合には、当該著名商標が持つ出所表示機能を希釈化させ、これに化体した高い名声、信用、顧客吸引力等を毀損するおそれがあり、我が国の国際的な信頼を損ない、ひいては国際信義に反することにもなることは、過去の審判事件も認めるところである(無効2000-35250)。
以上の観点から、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて述べる。
(2)引用商標の著名性
(ア)請求人は、米国の大手アパレル企業であるヘインズブランズ・インク(Hanesbrands Inc.、以下「ヘインズ社」という。)が展開する商品に係る商標を管理することを目的として、同社が設立した同社の100%子会社である。親会社であるヘインズ社は、米国ニューヨーク株式市場に上場し、我が国をはじめ世界各国に拠点を有するグローバル企業である。ヘインズ社は複数の著名ブランドの商品を世界的に展開しているところ、このうち、同社の社名にもなっている「ヘインズ(Hanes)」に次ぐ大きなブランドとなっているのが「チャンピオン(Champion)」である(甲第5号証)。
(イ)チャンピオンブランドの商品は、1919年にサイモン・フェインブルーム氏が米国にてセーター等の販売を始めたことに端緒を有し、同氏の息子達が事業を引き継いだ1920年代初頭に、「Champion」の名称を付したシャツ等を販売し始めた。その後、全米の大学や米海軍との取引等を通じて、チャンピオンブランドの商品は米国全土で広く知られるようになった。1969年には、後に「Cマーク」あるいは「Cロゴ」と一般的に呼ばれるようになる、Championの頭文字である欧文字の「C」の内部中央に太い縦線を配した引用商標と同一のロゴデザイン(以下「Cロゴ」という。)が編み出された(甲第6号証)。それまでチャンピオンブランドの商品においては、様々なロゴデザインが用いられていたが、Cロゴの誕生以降は、配色等に若干のバリエーションはあるものの、上記を基本的構成とするロゴマークが、製品のワンポイントマークやラベル、下げ札等にほぼ必ず付されるようになり、ブランドの製品であることを示すシンボルマークとして現在まで一貫して使用されている。また、1989年以降は、チャンピオンブランドの主力商品であるスウェットシャツ及びTシャツの左袖や胸部分に、(Cロゴの中でも特に)引用商標3と同一のロゴデザインがほぼ必ず付されるようになった。なお、1970年代より、チャンピオンブランドの商品では、別掲(E)のとおり、「Champion」を筆記体欧文字で記し、頭文字の「C」部分にCロゴを配した構成からなる標章(以下「チャンピオン文字ロゴ」という。)も非常に頻繁に用いられている(甲第5及び第6号証)。
このように、Cロゴ、すなわち引用商標を付したチャンピオンブランドの商品は、米国のみならず、全世界において人気を博するようになった。我が国でも、1970年代にライセンシーである株式会社ゴールドウィンを通じてチャンピオンブランドのスポーツウェアが販売されたことを皮切りに、その後、様々なライセンシー又はヘインズ社の日本法人(その前身を含む)を通じて、スポーツウェア、カジュアルウェアをはじめ、バッグ、パジャマ、タオル等の幅広い商品に引用商標を付したチャンピオンブランドの商品が販売されるに至った(甲第5号証)。
(ウ)ヘインズ社やその日本法人を含む関連会社ないしはライセンシーは、これらの商品について、主に雑誌やテレビコマーシャルを通じた精力的な宣伝広告活動を行ってきた。たとえば、本件商標が出願された2009年前後のチャンピオンブランド商品につきヘインズ社が米国国内において支出した宣伝広告費用は、2006年に約60万米ドル、2007年に約780万ドル、2008年に約990万ドル、2009年に約1470万ドル、2010年に約1200万ドル、2011年に約1190万ドルにも及ぶ(2006年の数値が小さいのは、ヘインズ社がサラ・リー・コーポレーションから同年9月にスピンオフした後の数字のみが計上されているためである。)。
また、日本国内においても、2007年から2009年にかけて、ヘインズ社の日本法人単独でテレビ番組のスポンサーとなり、テレビコマーシャルの放映が行われた。その費用として上記日本法人は総額で約2億9000万円を支出した。さらに、日本国内においてはこれとは別に、上記日本法人による著名スポーツイベントの主催や各ライセンシーによる独自の宣伝広告が行われている(甲第5号証)。
これに加え、引用商標を付したチャンピオンブランドの商品や、かかる商品を着用したスポーツ選手や俳優、タレント、モデルといった著名人が、テレビや雑誌等の刊行物で頻繁に紹介され、あるいはこれらに頻繁に登場してきた。例を挙げると、米国では、1992年のバルセロナオリンピックにおいて、「ドリームチーム」と呼ばれた男子バスケットボール米国代表チームの公式ユニフォームにチャンピオンが選ばれ、引用商標を付したユニフォームを着用したマイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンをはじめとした著名選手が活躍する姿はテレビ放送や新聞その他を通じて全米に放映・報道され、全米で発売される雑誌の表紙に掲載される等した(甲第5号証)。また、日本国内においても、請求人が証拠を有するものだけでも、2002年に雑誌に1回、2003年にはテレビ放送に7回、雑誌に6回、繊維業界向け新聞(業界新聞)に6回、2004年にはテレビ放送に11回、雑誌に21回、業界新聞に3回、2005年にはテレビ放送に15回、雑誌に14回、業界新聞に3回、2006年にはテレビ放送に12回、雑誌に9回、一般書籍に2回、2007年にはテレビ放送に34回、雑誌に18回、業界新聞に4回、2008年にはテレビ放送に46回、雑誌に99回、業界新聞に7回、一般書籍に1回、2009年には5月1日までにテレビ放送に21回、雑誌に44回、業界新聞に1回、引用商標を付したチャンピオンブランドの商品あるいは当該商品を着用した著名人が紹介あるいは登場している。これらには、NHKの朝の連続テレビ小説をはじめとした全国放送の連続ドラマやバラエティ・情報番組、全国で発売される著名な服飾関係の雑誌が多く含まれる(甲第7号証)。
なお、これらの雑誌には、「street Jack 2003年6月号」(株式会社ベストセラーズ 平成15年5月1日発行)に「あのアメリカを代表するブランド、チャンピオン社」及び「チャンピオン社のボディには欠かせないCマーク」(甲第7号証 2003雑誌-1)、「モノマガジン特集号(2005 No.525)」(株式会社ワールドフォトプレス平成17年9月16日発行)に「アメリカを代表するアスレチックウェアブランド『チャンピオン』」及び「左袖にはチャンピオンの顔であるCマークが」(甲第7号証 2005雑誌-13)、「Made in U.S.A.catalogue 2007-2008」(ミリオン出版株式会社平成19年12月5日発行)に「左袖部分にはお馴染みのチャンピオンロゴが入る」(甲第7号証 2007雑誌-16)、「Lightning」2008年4月号及び同年11月号(株式会社エイ出版社平成20年2月29日及び同年9月30日発行)に「キングオブスウエットという栄えある愛称で世界中の人々に愛されている永遠不滅の定番ブランド、チャンピオン」、「左袖に燦然と輝くチャンピオンのロゴマーク。創業以来変わることのない品質の高さを保持してくれる、身近なロゴマークだ」及び「左袖に付いたロゴパッチはチャンピオンの頭文字を表すもの。ブランドアイコンとしても有名だ」(甲第7号証 2008雑誌-11及び76)、「デイトナ・ブロス 2008voL4」(株式会社ネコパブリッシング平成20年3月24日発行)に「お馴染み『チャンピオン』のロゴマーク」(甲第7号証 2008雑誌-17)といった、ヘインズ社ないしその関連会社やライセンシーが使用する引用商標及びその販売する「チャンピオン」という名のブランドが日本のみならず世界的に著名なものであることを前提とした記事が掲載されていた。また、「street Jack 2005年4月号」では、「人気25ブランドのギャラ&ロゴモチーフ大図鑑になる記事において「Cマーク」と称して(甲第7号証 2005雑誌-1)、「日本のロゴ2」(成美堂出版株式会社 平成20年5月28日発行)では「『C』のマーク」と称して「ひと目でチャンピオンのスウェットシャツであることがわかるデザインである」として(甲第7号証 2008一般書籍-1)、引用商標がそれぞれ紹介されていた。
(エ)このような、ヘインズ社及び日本法人を含む関連会社、ライセンシーによる精力的な宣伝広告活動や、テレビや雑誌等の刊行物で頻繁に紹介された効果もあり、チャンピオンブランド商品の売上高は米国及び我が国において高い水準で維持されており、米国では2005年から2011年にかけて毎年2億ドル強の売上をあげた。我が国でも、ヘインズ社の日本法人によるチャンピオンブランド商品の自社販売売上分と全ライセンシーからのロイヤルティ収入の合計額は、2003年から毎年30億円を超え、2011年には50億円を超えている(甲第5号証)。
また、株式会社矢野経済研究所が毎年発行する「スポーツアパレル産業白書」の「ブランド別国内出荷金額ランキング」において、チャンピオンブランドの商品は、少なくとも2004年以降毎年上位にランクされ、その金額は2010年まで最も少ない年であっても50億円を上回っている(甲第8号証の1ないし4)。なお、出荷金額はスポーツウェアのみの金額であり、他のライセンス製品についての金額は含まれない。これを含んだ場合には出荷金額はより大きくなる。
(オ)以上のとおり、引用商標を付したチャンピオンブランド商品が多数販売されたことに加えて、ヘインズ社及び日本法人を含む関連会社、ライセンシーによる宣伝広告活動、さらには、引用商標を付したチャンピオンブランド商品がテレビや雑誌等の刊行物で頻繁に紹介されていたことを通じて、遅くとも本件商標が出願された平成21年9月29日には、すでに、引用商標は我が国のみならず世界的(特に米国)にみても、請求人を含むヘインズ社グループ(ライセンシーないしサブライセンシーを含む。以下同じ。)の業務に係る商品を表すものとして、取引者、需要者の間に広く認識され、かつ著名なものとなっており、非常に強い顧客吸引力を取得するに至っていた。そして、その著名性は今日に至るまで継続している。
(カ)なお、2006年に実施されたインターネット調査においては、Cロゴ(引用商標)を認知している割合は、男性、女性ともほぼ100%であった(甲第9号証)。これは引用商標の周知著名性を裏付けるものである。
(3)被請求人における不正の目的
(ア)本件商標は、世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし、その出所表示機能を希釈化させ、あるいは、その名声を毀損させるなど、不正の目的をもって出願したものである。
前述のとおり、本件商標は、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を太い線で表し、当該「C」状図形の内部には、中央やや左寄りに、菱形を想起させる左右の中央部に突起のある太い縦線を配し、かつ、これら図形を構成する太い線の外周に近い内側部分に、細い白線を施した構成からなるところ、実際には以下に述べるような態様にて使用されている。
なお、実際に使用していたのは、被請求人ではなく、ニスクジャパン株式会社(以下「ニスクジャパン」という。)であるが、両社は代表者をはじめとした役員構成を全く同じくする同族会社であり(甲第10及び第11号証)、ニスクジャパンは被請求人より本件商標の使用許諾を受けて、衣料品の販売を行っている(甲第12号証)。
したがって、ニスクジャパンは被請求人と形式的には別法人であるが、「実質的に同一の会社であるか又は少なくとも非常に密接な関係にある会社」と評価することが可能である(無効2000-35250参照)。
(a)使用例1
ニスクジャパンは、主に繊維関係業者向けに株式会社信用交換所大阪本社が発行している「信用情報(繊維版)」第12034号(平成22年2月17日発行)に自社の広告を掲載した(甲第13号証)。同広告においては、本件商標の下部に、「Champeuro」の筆記体欧文字からなり(「champ」と「euro」の間は連続している。)、頭文字の「C」部分に本件商標と類似(外周の細い白線が存しないもの)の図形を配したデザイン文字が併記され(以下、併せて「使用標章1」という。別掲(F)参照)、罫線を挟んでその下部に「チャンピオンユーロ」の片仮名文字が併記されている。
(b)使用例2
ニスクジャパンは、甲第14号証の写真に示す長袖Tシャツを販売している。同製品には、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を青色の太い線で表し、当該「C」状図形の内部中央に、菱形又は十字形を想起させる赤色の図形を配し、かつ、「C」状図形を構成する青色の太い線の外周に近い部分の一部に細い白線を施した構成からなる標章(以下「使用標章2」という。別掲(G)参照)が、製品腰部、背面部、左袖部分及び下げ札に付されている。
これに加え、当該製品には、「Champ euro」の筆記体欧文字からなり、頭文字の「C」部分に使用標章2を配したデザイン文字が、製品腰部、左胸部、襟首部分、折りネーム及び下げ札に付されるとともに、腰部には「IT TAKES A LITTLE MORE TO MAKE A CHAMPION」の欧文字からなるロゴ、「ONLY CHAMPION AUTHENTIC APPAREL EEARS THIS※MARK」(※は使用標章2の外周の細い白線が存しないデザイン文字)との文字が併記されている。
(c)使用例3
ニスクジャパンは、対外的に書簡等を出す場合に用いる社名入りの封筒に、両端が先細りとなった欧文字の青色の「C」状図形を、中央部分で赤い縦線により分断し、分断された上記「C」状図形の左半分の内部を半円状に赤色に塗りつぶすとともに、「C」状図形の右半分の左端に菱形を想起させる図形の右半分を分断したような青色の図形を結合した標章(以下「使用標章3」という。別掲(H)参照)を印刷して使用している(甲第15号証)。
(d)使用例4
ニスクジャパンは、甲第16号証の写真に示す長袖ポロシャツを販売している。同製品の左袖部分には、両端が先細りとなった欧文字の黒色の「C」状図形を、中央部分で赤い縦線により分断し、分断された上記「C」状図形の左半分の内部を半円状に赤色に塗りつぶすとともに、「C」状図形の右半分の左端に菱形を想起させる図形の右半分を分断したような黒色の図形を結合した標章(以下「使用標章4」という。別掲(I)参照)がワンポイントマークとして刺繍されている。同製品左胸部には、「Champ euro」の筆記体欧文字からなり、頭文字の「C」部分に使用標章4を配したデザイン文字が刺繍されている。また、同製品の下げ札には、使用標章3が、「Champ euro」の筆記体欧文字からなり頭文字の「C」部分に使用標章3を配したデザイン文字とともに印刷されている。
(e)使用例5
ニスクジャパンは、甲第17号証の写真に示すベンチコートを販売している。同製品の左胸部及び下げ札に、両端が先細りとなった欧文字の白色の「C」状図形を、中央部分で赤い縦線により分断し、分断された上記「C」状図形の左半分の内部を半円状に赤色に塗りつぶすとともに、「C」状図形の右半分の左端に菱形を想起させる図形の右半分を分断したような白色の図形を結合した標章(以下「使用標章5a」という。別掲(J)参照)が付されている。また、前面の各閉じボタンには、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を太い線で表し、当該「C」状図形の内部中央に、菱形を想起させる図形の右半分を分断したような図形を配した標章(以下「使用標章5b」という。別掲(K)参照)が刻印されている。背面部折りネーム及び下げ札には、「Champ euro」の筆記体欧文字からなり、頭文字の「C」部分に使用標章5aを配したデザイン文字が付されている。
(イ)上記の使用態様は、ニスクジャパンと実質的一体といえる被請求人において、請求人の著名商標の持つ顧客吸引力に依拠して、これにただ乗りしようとする意図を明確に示すものである。
(ウ)すなわち、使用例1では、本件商標が用いられているものの、「Champeuro」の筆記体文字及び「チャンピオン ユーロ」の日本語文字が併記されているところ、前者の筆記体の記載はチャンピオンブランドの商品で頻繁に用いられているチャンピオン文字ロゴとほぼ同じ書体で書かれ、極めて紛らわしい外観を有している。そのため、仮にこれが衣料品に関連して使用された場合には、その取引者、需要者の多くが一般消費者であって格段高度な注意力を有しないことに加え、日本人の一般的な英語力に鑑みれば、筆記体で書かれた「euro」の部分を「ion」と一目で区別できない可能性は否定できない。また、筆記体文字は「チャンプユーロ」、「チャンペウロ」ないし「チャンピューロ」等としか読めないにもかかわらず、あえて「チャンピオン ユーロ」という、ニスクジャパンが自社のオリジナルブランドであると標榜する「チャンプユーロ」(甲第18号証)の称呼と異なり、より直接的に「チャンピオン」の文字を含む日本語表記をしている。
(エ)使用例2では、本件商標の外観をより引用商標に近づける形に変更している。すなわち、本件商標では「C」状図形内部の菱形を想起させる縦線が「中央やや左」に位置していたのに対し、使用標章2では、菱形を想起させる図形は中央に位置している。かかる配置は、「C」状図形内部の縦線が中央に位置する引用商標と共通する。また、使用標章2の配色は青と赤の2色を基本とするが、この配色は引用商標3と共通する。また、「Champeuro」の筆記体文字からなり、頭文字の「C」部分に使用標章2を配したデザイン文字は、チャンピオン文字ロゴと紛らわしい外観を有している。
加えて、「IT TAKES A LITTLE MORE TO MAKE A CHAMPION」の欧文字からなるロゴは、請求人の登録商標(第3295061号)であり(甲第19号証)、チャンピオンブランドの商品にしばしば付される標章である(甲第20号証)。なお、言うまでもなく、使用例2における当該ロゴの使用は請求人の商標権を侵害するものである。さらに、「ONLY CHAMPION AUTHENTIC APPAREL EEARS THIS※MARK」という文字は、「チャンピオンの真正なアパレル製品のみが※マークを表示する」との意味の英文である(「EEARS」は「BEARS」の誤記と思われる)。
(オ)使用例3では、本件商標の外観をさらに引用商標に近づける形に変更している。すなわち、使用標章3では、本件商標と異なり、内部の菱形を想起させる図形の位置は「C」状図形の中央部に配され、かつ、当該菱形を想起させる図形が中央部で細い赤色の直線により切断され右側半分のみが記載されている。その結果、本件商標の菱形を想起させる図形は、引用商標における中央部の太い縦線に近い形状となっている。また、上記直線により切断された「C」状図形の左半分の内部は、半円状に赤色で塗りつぶされているところ、「C」状図形の全体が青色であることと相俟って、特に引用商標3と紛らわしい外観となっている。
(カ)使用例4でも、本件商標の外観を引用商標に近づける形に変更している。すなわち、使用標章3と同様、使用標章4では、本件商標と異なり、内部の菱形を想起させる図形の位置は「C」状図形の中央部に配され、かつ、当該菱形を想起させる図形が中央部で細い赤色の直線により切断され右側半分のみが記載されている。その結果、本件商標の菱形を想起させる図形は、引用商標における中央部の太い縦線に近い形状となっている。また、上記直線により切断された「C」状図形の左半分の内部は、半円状に赤色で塗りつぶされており、特に引用商標3と紛らわしい外観となっている。また、「Champ euro」の筆記体文字からなり、頭文字の「C」部分に使用標章4を配したデザイン文字は、チャンピオン文字ロゴと紛らわしい外観を有している。
(キ)使用例5でも、本件商標の外観を引用商標に近づける形に変更している。すなわち、使用標章3及び4と同様、使用標章5aでは、本件商標と異なり、内部の菱形を想起させる図形の位置は「C」状図形の中央部に配され、かつ、当該菱形を想起させる図形が中央部で細い赤色の直線により切断され右側半分のみが記載されている。その結果、本件商標の菱形を想起させる図形は、引用商標における中央部の太い縦線に近い形状となっている。また、上記直線により切断された「C」状図形の左半分の内部は、半円状に赤色で塗りつぶされており、特に引用商標3と紛らわしい外観となっている。使用標章5bも、内部の菱形を想起させる図形の位置は「C」状図形の中央部に配され、かつ、当該菱形を想起させる図形が中央部で直線により切断され右側半分のみが記載されている。その結果、本件商標の菱形を想起させる図形は、引用商標における中央部の太い縦線に非常に近い形状となっている。
さらに、「Champ euro」の筆記体文字からなり、頭文字の「C」部分に使用標章5aを配したデザイン文字は、チャンピオン文字ロゴと紛らわしい外観を有している。なお、使用例5における使用標章5a及び上記デザイン文字の配置は、ヘインズ社製のベンチコートの1つと共通する(甲第28号証)。
(ク)そして、本件商標の指定商品の1つが「被服」等であり、かつ、被請求人が「紳士服の縫製加工の下請及び販売並びに輸出入」、「衣料用繊維製品の製造販売及び輸出入」を事業目的としていること(甲第10号証)、及び、被請求人と代表者等が同一であり実質的に一体の会社と評価できるニスクジャパンがスポーツウェアやカジュアルウェアといった衣料品を取り扱う業者であったこと(甲第11及び第18号証)に鑑みれば、被請求人が本件商標を出願した当時、衣料品関連の事情に精通していたことは明らかである。そうであれば、当該出願当時、被請求人は請求人が商標権を保有する引用商標の著名性を知り、あるいは容易に知り得たことは言うまでもない。実際、ニスクジャパンは、平成20年11月に引用商標と同一の標章を無許諾で付した商品を日本国内で販売し、請求人から通告を受けたことがある(甲第21号証の1ないし5)。
(ケ)また、本件商標が「C」の欧文字を象ったものであることは明白であるが、「C」は被請求人の名称(西山産業株式会社)とは全く無関係で、この文字を被請求人が採択する必要性・合理性が乏しく、仮にかかる必要性があるとすれば、著名な引用商標に紛らわしい外観にすることによりその顧客吸引力に依拠しようとすること以外には考え難い。実際、ニスクジャパンは、平成20年11月に前記通告を請求人から受けた際には、商標権侵害を理由に販売を中止したにもかかわらず(甲第21号証の4)、本件商標の登録後の平成22年3月及び同4月に同商標の使用中止を求める通告を請求人から受けた際は、本件商標の存在を理由に請求人の要求を拒絶した(甲第22号証の1及び2、第23号証の1ないし6)。このことは、本件商標が、商標登録により、被請求人あるいはニスクジャパンによる引用商標の著名性へのただ乗りを正当化するために利用されていることを示すものである。
(コ)なお、被請求人は、ラコステやシャネルといった世界的なファッションブランドの著名商標と紛らわしい図形を商標登録し、商標の無効審判や登録異議申立をファッションブランドより受けて、登録を無効化あるいは取り消されたことがある(甲第24及び第25号証)。本件商標とは別事件ではあるが、被請求人が恒常的に有名ブランドヘのフリーライドを企図する企業であることの証左であり、被請求人の不正な目的を推認させる事情の一つというべきである。
(サ)かかる状況下で、本件商標を前記のような態様で使用していたことに鑑みれば、被請求人は、本件商標に接する取引者、需要者に引用商標を連想・想起させ、著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で出願を行ったものと言わざるを得ない。
(4)商標法第4条第1項第7号に該当すること
以上のとおり、本件商標は、引用商標がスポーツウェア、カジュアルウェア等の衣料品に長年使用され、日本のみならず世界的にも著名な商標であることを承知の上で、請求人の承諾もなく、引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し、不当な利益を得る等の不正な目的のもとに、出願し、登録を受けたものであって、登録出願の経緯に社会的相当性を欠くというべきである。また、本件商標の使用により、引用商標の出所表示機能が希釈化され、請求人の業務上の信用を毀損させるおそれがあることから、商道徳に反するものでもある。
よって、本件商標は、登録出願の経緯に社会的相当性を欠き、これを使用することは、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するのみならず、我が国の国際的な信頼を損ない、ひいては国際信義に反することにもなるので、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものというべきである。
3 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)引用商標はいずれも本件商標の登録出願の日前に登録出願がなされたものであるところ、本件商標は、引用商標のすべて又はいずれかに類似しており、かつ、指定商品が引用商標と同一又は類似であるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。以下その理由につき述べる。
(2)本件商標と引用商標との類似
(ア)商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決せられ、そのためには、商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的取扱状況に基づき判断される(昭和43年2月27日最高裁判所判決 民集22巻2号399頁)。
(イ)称呼及び観念
本件商標と引用商標は、いずれも特定の称呼及び観念を生じさせるものではないため、これらの要素での比較は困難である。
(ウ)外観
前述のとおり、本件商標は、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を黒色の太い線で表し、当該「C」状図形の内部には、中央やや左寄りに、菱形を想起させる左右の中央部に突起のある黒色の太い縦線を配し、かつ、これら図形を構成する黒色の太い線の外周に近い内側部分に、細い白線を施した構成からなる。本件商標は、構成全体としては、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形とその内部に配した菱形状の太い縦線との組み合わせからなる図形として看者に印象づけられる。
これに対し、引用商標も、いずれも両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を太線で表し、当該「C」状図形の内部中央に太い縦線が配された構成からなる。引用商標はいずれも、構成全体としては、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形とその内部に配した棒状の太い縦線との組み合わせからなる図形として看者に印象づけられる。
このように、本件商標と引用商標は、いずれも両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線が共通しており、かかる基本的な特徴が看者に強く印象づけられるというべきであるから、両者は外観において類似する。この点、本件商標と引用商標とでは、太線で表し「C」状図形の内部に配した縦線の形状や位置が異なり、また、引用商標1及び3については、「C」状図形の内部の左側部分が半円状に塗りつぶされている点で本件商標と異なっているが、後述する取引の実情に鑑みれば、かかる相違点の存在にもかかわらず、両商標が同一又は類似の商品に使用された場合には、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると言わざるを得ない。
(エ)取引の実情
(a)引用商標の周知著名性
引用商標が、本件商標の出願以前に、請求人を含むヘインズ社グループの業務に係る商品を表すものとしてすでに周知・著名になっていたことについては前述(2(2))のとおりである。
(b)需要者及び流通経路の共通性
後述のとおり、本件商標と引用商標はいずれも被服あるいは洋服を指定商品とする点で共通する。一般論として、被服あるいは洋服のような日常的に消費される性質の商品の主たる需要者は、商標やブランドにつき特別の専門的知識を有しない一般消費者であることが通常である。
具体的にみても、両商標に係る商品の需要者は完全に一致する。すなわち、本件商標を付した(実際には本件商標を引用商標と紛らわしい外観に変容した標章を付した)商品は、被請求人と実質的に同一の会社であるニスクジャパンにより製造・販売されているところ、同社のインターネット直販サイトを見る限りでは、少なくとも、ポロシャツ、スウェットシャツ、スウェットパンツ、ベンチコート、Tシャツといった商品が販売されている(甲第18号証)。また、請求人は、平成22年4月に、ニスクジャパンが本件商標を付した商品を小売業者に対して販売した行為につき、引用商標に係る商標権侵害を理由に販売中止等を求める通告書を送付したことがある(甲第23号証の1)が、その際に販売されていた商品はパーカーであった。
他方、ヘインズ社及びその関連会社、ライセンシーは、引用商標を付したポロシャツ、スウェットシャツ、スウェットパンツ、ベンチコート、Tシャツ、パーカーを含む被服を幅広く販売している(甲第26ないし第28号証)。これらの商品は、老人から若者までを含む、商標やブランドについて特別の専門的知識を有しない一般消費者により、購入・着用されており、両商標に係る商品の需要者は完全に一致する。
また、両商標に係る商品の流通経路も共通している。ニスクジャパンは、本件商標を使用した商品を、自社ホームページを通じた直接のインターネット販売を行う(甲第18号証)ほか、スーパーマーケット、ディスカウントストアといった量販店、インターネット上にウェブショップを運営する衣料品販売業者などに販売し、これらの業者が店舗やインターネットを通じて一般消費者に対して販売を行っている(甲第23号証の1(なお、「アビ・ヒサツネ」は衣料品量販店であった(甲第29号証))及び甲第30号証)。引用商標を付したチャンピオンブランド商品も、ヘインズ社の日本法人やライセンシーによるインターネット直販サイト(甲第26号証)や量販店などに加え、インターネット上のウェブショップなどで、一般消費者に対して販売されている(甲第7及び第31号証)。
一般消費者は、商品の購入に際し、メーカー名などについて常に注意深く確認するとは限らず、小売店やインターネット上の販売サイトで短時間のうちに購入商品を決定することが少なくないことが容易に予想される。
(c)商標の使用態様
前述(2(3))のとおり、本件商標は、引用商標により近づける形に変容したうえで、Tシャツ、ポロシャツ、ベンチコートといった被服に付されて使用されている。使用例に挙げた商品の写真やニスクジャパンのホームページで直販されている商品の写真(甲第14及び第16ないし第18号証)によれば、本件商標は、ワンポイントマークとして商品の左胸部や左袖部に、あるいはラベルや下げ札に、刺繍あるいはプリントされて比較的小さく表示されることが多い。留めボタンに小さく刻印されている場合もある。さらに、本件商標は、チャンピオン文字ロゴと紛らわしい外観を有する「Champ euro」なる欧文字筆記体のデザイン文字と併記されて使用されることが多く、請求人の他の登録商標(「IT TAKES A LITTLE MORE TO MAKE A CHAMPION」)等と併記されて使用される場合もある。
他方、引用商標もTシャツ、ポロシャツ、ベンチコートその他の被服に付されて使用されている(甲第28号証)。引用商標は、ワンポイントマークとして商品の左袖部や左胸部、あるいは下げ札等に、刺繍あるいはプリントされて比較的小さく表示されることが多い。また、引用商標は、チャンピオン文字ロゴと併記されて使用されることが多く、請求人の他の登録商標(「IT TAKES A LITTLE MORE TO MAKE A CHAMPION」)等と併記されて使用される場合もある。
このように本件商標と引用商標は、商品のワンポイントマークとして刺繍されたり、ラベルや下げ札にプリントされたりするなど、比較的小さく表示される点など、その使用態様は似通っている。
(d)以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観において類似しており、両者間で若干の相違点はあるものの、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは重複し、その主たる需要者はいずれも商標やブランドにつき特別の専門的知識経験を有しない一般消費者であることに加え、両商標とも商品(被服)のワンポイントマーク等として比較的小さく表示されることが多いため、本件商標に接した需要者が上記の若干の相違点に気づかず、著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できず、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。よって、本件商標は引用商標に類似する。
(3)指定商品の同一又は類似
本件商標の指定商品第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」には、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品が含まれており、本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似であることは明白である。
(4)商標法第4条第1項第11号に該当すること
以上のとおり、本件商標と引用商標とは類似し、かつ、両者の指定商品も同一又は類似するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものというべきである。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号は、周知・著名表示へのただ乗り(フリーライド)及び当該表示の希釈化(ダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とする。
そのため、同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれのある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標が含まれる。そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に、総合的に判断される(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁)。
以上の判断基準に照らし、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて述べる。
(2)混同のおそれ
(ア)本件商標と引用商標の類似性の程度
本件商標と引用商標は、細部における相違点は存在するものの、いずれも両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線が看者に強い印象を与える構成となっており、(仮に商標法4条1項11号などでいう類似性が認定されないとしても)両商標の全体的な配置、輪郭は高い類似性を示している。
そして、前述(3(2)(エ)(c))のとおり、本件商標も引用商標も、実際の商品に使用される場合には、ワンポイントマークとして表示されたり、ラベルや下げ札に表示されたりするなど、比較的小さく表示されることが多い。したがって、本件商標が、その指定商品である被服に使用される場合には、ワンポイントマーク等として小さく表示される可能性が高い。このようにワンポイントマーク等として小さく表示される場合には、当該図形の全体的な配置、輪郭が看者の注意を惹き、内部における差異が目立たなくなることが予想され、その全体的な配置、輪郭の類似性から、ワンポイントマーク等として小さく表示される場合の本件商標は、引用商標とより類似する。
(イ)引用商標の周知著名性及び独創性
引用商標が、本件商標の出願以前に、請求人を含むヘインズ社グループの業務に係る商品を表すものとしてすでに周知著名になっていたことについては前述(2(2))のとおりである。
また、引用商標は特定の観念や称呼を生じない図形商標であり、Championの頭文字である「C」の欧文字をベースに造形された、独創性の高い商標であり、強い出所表示機能を有する。
(ウ)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の関連性
本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似であることは前述(3(3))のとおりである。また、実際に本件商標と引用商標が使用されている商品の種類が重なることも前述(3(2)(エ)(b))のとおりである。
(エ)需要者の共通性
前記のとおり、本件商標と引用商標は被服又は洋服を指定商品とする点で共通するため、その需要者も共通する。実際に両商標が用いられる商品は重なっており、需要者は完全に一致している。なお、両者とも主たる需要者は、商標やブランドに特別な専門的知識を有しない一般消費者である。
(オ)以上のとおり、本件商標はワンポイントマーク等として小さく表示される可能性が高いこと、本件商標が使用される商品である被服の主たる需要者が特別の専門知識を有しない一般消費者であり、商品の購入に際し、メーカー名などを常に注意深く確認するとは限らないこと、引用商標が請求人を含むヘインズ社グループの業務に係る商品を表すものとして極めて高い周知著名性を有する独創的な商標であることなどに鑑みれば、本件商標が指定商品である被服において使用される場合、特にワンポイントマーク等として小さく表示される場合には、これに接した需要者である一般消費者は、それが周知著名な引用商標と全体的な配置、輪郭において類似性の高い図形であることから、本件商標における細部の形状などの相違に気づかずに、当該商品をヘインズ社グループと組織的・経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であると混同するおそれがある。
(カ)実際に、需要者において混同が生じている例もある。甲第32号証は、平成22年8月にインターネットオークションサイトでニスクジャパンが製造した商品が出品されていたページの写しである。当該商品には、左胸部、左袖、右前腰部等に本件商標と紛らわしい外観を有する標章が付される等しており、その使用態様は前記使用標章2等に類似しているところ、当該商品を出品するに際し、出品者は「CHAMPION薄手ポロ」と商品名を表記していた。これは出品者において、本件商標を付した商品をヘインズ社グループの業務に係る商品と実際に混同していたことを示す一例であり、混同のおそれの存在を強く推認させる事情と言える。
(3)商標法第4条第1項第15号に該当すること
以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるものであるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものというべきである。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
前述(2(2)及び3(2))のとおり、引用商標は請求人を含むヘインズ社グループの業務に係る商品を表すものとして少なくとも日本及び米国において著名であり、かつ、特に取引の実情を踏まえれば本件商標と引用商標とは類似する。
そして、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」には、周知著名商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等にただ乗りし、あるいは、これらを希釈化する意図が含まれる(東京高判平成13年11月20日平成13年(行ケ)第205号)ところ、前述(2(3))のとおり、被請求人と実質的に一体の会社であるニスクジャパンによる本件商標の現実の使用態様に鑑みれば、被請求人が、本件商標に接する取引者、需要者に引用商標を連想・想起させ、著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で出願を行ったことは明らかである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当するものというべきである。
6 結語
以上の理由から、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、第11号、第15号及び第19号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1及び第2号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第7号に関する主張について
(1)商標法第4条第1項第7号が適用される場合
(ア)商標法第4条第1項第7号は、商標の構成に着目した公序良俗違反がある場合に適用される規定であるが、商標の保護を目的とする商標法の精神にもとり、商品取引社会における秩序を乱すことが明らかな場合には、公の秩序又は善良な風俗を害することになるため、商標登録を受けるべきでない者(主体)がなした商標登録出願について本号を適用して登録による権利を付与しない場合もあり得ると解されている。
(イ)しかしながら、後者の「主体に着目した公序良俗違反」に本号が適用されるとしても、(a)本来、本号が商標の構成に着目して公序良俗違反に適用される性質の規定であること、(b)商標法の目的に反すると考えられる商標の登録の可否については4条1項各号に個別の不登録事由が定められていること、(c)商標法が先願登録主義の原則を採用していることを勘案すると、商標登録出願に本号を適用するのは、その商標登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものであって、その登録を認めることが商標法の予定している秩序に反するため到底容認できない場合に限られるというべきである。
(ウ)請求人が本件商標に対して本号を適用するべきとする理由として、引用商標1ないし3の出所表示機能を稀釈化・顧客吸引力へのただ乗り・国際信義違反を挙げているが、これらは、請求人が主張している商標法第4条第1項第11、第15及び第19号の該当性と密接不可分の関係にあり、請求人と被請求人との利害の調整に関わる事柄であるといえるから、専らこれらの条項の該当性の有無によって判断されなければならない。なぜならば、同法第4条第1項第7号を私的領域まで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるからである。
(エ)上記の点は、被請求人ひとりの考えではなく、すでに平成15年5月8日東京高裁民18判決(平成14年(行ケ)第616号)並びに平成20年6月26日知財高裁3部判決(平成19年(行ケ)第10391号)において示されているのである。
(2)引用商標の周知性
被請求人は、引用商標が現に販売されているポロシャツ、スウェットスーツ、グランドコートとの関係において需要者の間に広く認識されている商標であることについては争わない。
(3)請求人の主張する「不正の目的
(ア)請求人は、被請求人の関係会社による「本件商標とは異なる商標の使用例」を挙げ、請求人の商標の使用例と対比することによって、本件商標が不正の目的をもって登録された商標であるとしている。
しかし、請求人のこの主張は当を得たものとはいえない。
(イ)商標が登録要件を具備しているか否かの審査は、願書に記載されて特定された商標を対象として行なわれるのであって、使用されている商標を対象とするのではない。いわんや、請求人が使用例として掲げているような、本件商標と異なる形態の商標の使用例は、本件商標の登録要件の審査においては埓外のものという他ない。この点は、仮に、被請求人と本件商標を使用している法人とが実質的に同一の法人であるとした場合であっても同様である。
また、商標法第4条第1項第7号が適用される場合の「主体に着目した公序良俗違反」は、剽窃的な事情などの「出願に係る商標の取得における反社会性」が認められる場合に問題とされるのであって、私的利益の調整に関係する商標の稀釈化や顧客吸引力へのただ乗りはこれに当たらないというべきである。引用商標はいずれも既に商標登録されており、本件商標がこれらの引用商標の登録を阻害するために剽窃的に出願し登録がなされたものでないことは明白である。
本件商標は、下記(2(1))において詳細に説明するように、いずれの引用商標とも相違する非類似の商標であるから、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、本件商標を使用した被請求人の商品と引用商標を使用した請求人の商品とを、取引者需要者が誤認しその出所に混同が生じさせるおそれもないから、本件商標の使用が引用商標の出所表示機能を稀釈化し、或いは顧客吸引力へただ乗りすることはないし、国際信義に反することもあり得ないといわなければならない。
(ウ)ところで、請求人は、上記(イ)において指摘した、被請求人の商標の使用例と対比させるために、引用商標の右側に英文字「hampion」を結合させた商標を請求人の商標の使用例として掲げている。
請求人は、この使用に係る商標について商標登録出願(商願2009-30815)をしたが、先願先登録商標である登録第482726号商標「CHAMPION+図形」及び登録第522909号商標「Champion」に類似するとして拒絶審決が下されている(乙第1号証)。
請求人の使用商標は、他人の登録商標と抵触する状態で使用されている点に留意しなければならない。
(4)小括
以上の点から明らかなように、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとする請求人の主張は成り立たない。
2 商標法第4条第1項第11号、第15号及び第19号について
(1)本件商標と引用商標とは非類似の商標である
(ア)本件商標は、(a)左側に屈曲部を位置させて肉太線で馬蹄形を表し、右側に位置する両端部をやや細くして先端部に丸みを持たせ、上下の端部を同じ長さに構成し、(b)左右に三角状の突起を設けた連結片を馬蹄形の内側で中央よりやや左寄りに配置し、左側の突起の先端を左側の屈曲部の内側に近接させた状態でその上下を馬蹄形と連結し、(c)連結片の上下の太さと馬蹄形の太さを同一に、左右の三角状の突起の高さを連結片の半幅にして、屈曲部の肉太線と連結片の中央部の突起間の幅の比率を1:2となし、(d)商標の全外縁が二重の輪郭となるように、外縁の内側に白線を全長にわたって表し、(e)図柄は上下対称の形態である。
(イ)他方、引用商標は、(a)左側に屈曲部を位置させ比較的細い線で「C」字形を表し、右側に位置する両端側を徐々に先細り状に形成し(引用商標1の上側の端部だけは丸みを持たせ)、下側の端部の先端部は上側の先端よりも細くそして長く形成してあり、(b)帯状連結片を「C」字形の内側で中央よりやや右寄りに配置してその上下を「C」字形と連結させ、(c)屈曲部と帯状連結片の太さの比率を略1:4とし、(d)引用商標1及び2については、連結片の左側に設けた大きな空間を「C」字形とは異なる色彩で表し、(e)図柄は上下非対称の形態である。
(ウ)本件商標と引用商標とを対比してみると、本件商標が肉太線で形成され、その右側に位置する両端部が同じ長さに形成されているため、商標の外側構成部分は「C」字形というより馬蹄形の形態であると認識されるのに対し、引用商標は比較的細い線で表わされ、その右側に位置する先端部は徐々に先細り状に形成すると共に、下側の先端部は上側の先端部よりも細く且つ長く形成されているため、その外側構成部分は「C」字形であると認識され、両者は、その外形において相違する。
外側構成部分の内側に配置される連結片は、本件商標では、左右に三角状の突起を備えていて、中央よりやや左寄りに位置させてその突起の先端を屈曲部の内側に近接させているから、連結片の左側と屈曲部との間に空間が殆ど存在していないのに対し、引用商標では、屈曲部の約4倍の太さの帯状連結片を、中央よりやや右側に位置させているから、連結片の左側に大きな空間が形成されている。
また、本件商標では、全外縁の内側に白線を全長にわたって表して外縁が二重の輪郭となる構成を採用しているが、引用商標にはこのようなデザイン上の工夫は存在していない。
(エ)取引者需要者は、上記の形態上の相違の他、本件商標が肉太で上下対称であることを容易に認識して、商標全体から重厚な安定感を感取することができるのに対し、引用商標については、比較的細い線で構成され、連結片の左右に大きな空間が存在しているところから、開放的で軽快なイメージを感取することになる。
引用商標が「Cの内部中央に太い縦線を配した構成」を請求人の基本的なロゴデザインとし、宣伝広告に努めた結果、「ひと目でチャンピオンのスウェットシャツであることが解るデザインである」との評価を受け、「2006年のインターネット調査においてはCロゴ(引用商標)の認知されている割合は、男性、女性ともほぼ100%」であった、と請求人は主張している。
請求人の商品を購入しようとする者は、請求人のブランドを明確に認識して購入していることになるから、本件商標及び引用商標に接した取引者需要者は、請求人の商品と請求人以外の商品とをそれぞれのブランドによって明確に識別できることになる。
したがって、本件商標と引用商標とはそのまま商品を識別させることになるから、時と所を異にして離隔的に観察した場合であっても、需要者が本件商標と引用商標とを、外観において誤認するおそれはないというべきである。
(オ)本件商標及び引用商標からは格別の観念は生じないし、称呼が発生することもないから比較することはできない。
(カ)したがって、本件商標と引用商標とは、外観、観念及び称呼のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるといわなければならない。
本件商標と引用商標とが非類似の商標であることは、請求人が本件商標の登録に対して申し立てた異議2010-900155号決定においてすでに認められている。この決定においては、引用商標が周知商標であることを認定した上で本件商標と引用商標とが非類似の商標であるとしているのである。
(2)小括
(ア)本件商標と引用商標とは、引用商標が周知であることを考慮したとしても、外観、観念及び称呼のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとすることはできない。
(イ)本件商標と引用商標とは非類似の商標であって、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、本件商標を使用した被請求人の商品と引用商標を使用した請求人の商品とを、取引者需要者が誤認しその出所に混同が生じるおそれはない。また、被請求人が請求人と組織的・経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であると誤認され混同が生じるおそれもない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとすることもできない。
(ウ)本件商標と引用商標とは非類似の商標であり、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、本件商標を使用した被請求人の商品と引用商標を使用した請求人の商品とを、取引者需要者が誤認しその出所に混同が生じさせるおそれはない。したがって、本件商標の使用が引用商標の出所表示機能を稀釈化し、その顧客吸引力へただ乗りしようとする不正の目的を認めることもできない。
よって、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当すると認められない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第7号、第11号、第15号及び第19号に該当するとの請求人の主張は、いずれも理由がないから、本件審判の請求は成り立たない。

第5 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎりその具体的取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号、昭和43年2月27日判決、民集22巻2号399頁参照)。
かかる観点から、以下、本件商標と引用商標との類否について検討する。
(2)本件商標は、別掲(A)のとおり、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を太い線で表し、該「C」状図形の内部中央やや左寄りに、左右の中央部に突起のある太い縦線を配し、更に、これら図形を構成する太い線の外周に近い内側部分に、細い白線を施した構成からなるものであって、構成全体として、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線との組合せからなる図形として看者に印象付けられるものである。
なお、被請求人は、本件商標の外側構成部分につき、「左側に屈曲部を位置させて肉太線で馬蹄形を表し」とし、「商標の外側構成部分は『C』字形というより馬蹄形の形態であると認識される」と主張しているが、本件商標の使用に関連する請求人からの「通告書」に対する「回答書」(甲第23号証の4及び6)の中では、本件商標について「Cと菱形を組み合わせた図形」と述べており、「C」状図形であることを自認している。
他方、引用商標は、別掲(B)ないし(D)のとおり、いずれも両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形を太い線で表し、該「C」状図形の内部中央に太い縦線を配した構成からなるものであって、構成全体として、両端が先細りとなった欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線との組合せからなる図形として看者に印象付けられるものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線からなるという基本構成において共通するものであり、構成の軌を一にするものとして、外観上酷似した印象を看者に与えるものというべきである。
そして、後述のとおり、引用商標はスウェットシャツ、Tシャツ、ソックス等の被服やバッグ等に使用する商標として周知著名となっており、本件商標と引用商標とは共にスウェットシャツ、ポロシャツ、Tシャツ等の被服について使用されるものであって、スウェットシャツ、ポロシャツ、Tシャツ等の被服の取引実情としては、標章がワンポイントマークとして商品の胸部分や袖部分等に小さく刺繍等により付されることが多く、また、襟ネーム、ラベル、下げ札等にも比較的小さく表示されることが多いこと、刺繍等により表示される場合は極小部分まで詳細に表現しにくいこと、上記被服は老若男女を問わず日常的に消費される商品であって、商標やブランド等について特別の専門的知識を有しない一般消費者によって購入され着用されるものであること、これら一般消費者は、商品の購入に際し、メーカー名等について常に注意深く確認するとは限らず、店頭等で短時間で購入商品を決定することも少なくないこと、などが認められる。
以上を総合すると、本件商標と引用商標とは、子細に見れば相違する点があるものの、本件商標の指定商品第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」との関係においては、取引者、需要者は、両商標の相違点を看過し、いずれも欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線との組合せからなる図形として強く印象付けられ、記憶に残るというべきであり、結局、本件商標と引用商標とは時と処を異にして観察した場合には、外観上彼此相紛らわしい類似の商標といわなければならない。
(3)本件商標の指定商品第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」は、引用商標の指定商品と同一又は類似のものといえる。
(4)以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものというべきである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解するのが相当である。
そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)85号、平成12年7月11日判決、民集54巻6号1848頁参照)。
かかる観点から、以下、本件商標が同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものであるか否かについて検討する。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度
前示のとおり、本件商標と引用商標とは、欧文字の「C」状図形とその内部に配した太い縦線からなるという基本構成を共通にするものであって、仮に商標法第4条第1項第11号にいう類似性が否定されるとしても、構成の軌を一にする酷似した印象を看者に与えることには変わりはなく、類似性は相当程度高いものといわなければならない。
(3)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
請求人の提出に係る甲第5ないし第9号証(枝番を含む。)によれば、引用商標、特に引用商標3が請求人(ヘインズ社、その日本法人及び関連会社を含む。以下同じ。)の主力商品であるスウェットシャツ、Tシャツ等の胸部分や袖部分にワンポイントマークとして付されているほか、別掲(E)のとおりの構成からなるチャンピオン文字ロゴも頻繁に使用されていること、引用商標を使用したスポーツウェア、カジュアルウェアをはじめ、バッグ、パジャマ、タオル等のいわゆるチャンピオンブランドの商品について、精力的な宣伝広告が行われ、米国で支出した宣伝広告費は2006年が約60万ドル、2007年が約780万ドル、2008年が約990万ドル、2009年が約1470万ドルとなっており、我が国でも2007年から2009年にかけて約2億9000万円に達していること、引用商標を使用したチャンピオンブランドの商品はもとより、チャンピオンブランドの商品を着用した著名スポーツ選手、俳優、タレント、モデル等がテレビ、新聞、雑誌等において頻繁に紹介され又は登場していること、チャンピオンブランドの商品の売上高は米国では2005年から2011年にかけて毎年2億ドルに達し、我が国でも2003年から毎年30億円を超え、2011年には50億円に達していること、スポーツアパレル/ブランド別国内出荷金額ランキングにおいて、チャンピオンブランドの商品は2006年から2010年にかけて常に上位に位置していること、2006年に実施されたインターネット調査において引用商標を認知している割合が男女共ほぼ100%であったこと、などが認められる。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時には既に、米国をはじめ我が国において、請求人の業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきである。
なお、引用商標がポロシャツ、スウェットスーツ、グランドコートについて使用する商標として需要者間に広く認識されている点については、被請求人も認めている。
また、引用商標は、別掲(B)ないし(D)のとおり、既成の親しまれた観念及び称呼を生じ得ない図形からなるものであって、いずれも独創性の高い商標というべきであり、強い出所表示機能を有するものである。
(4)商品の関連性、需要者の共通性等の取引実情
本件商標の指定商品と引用商標が使用されているスウェットシャツ、Tシャツ、スポーツウェア、カジュアルウェア等とは、いずれも身につけるという点で共通であるばかりでなく、これらの商品は一般消費者によって日常的に購買され消費されるものであるから、それぞれの需要者は一致するものといえる。加えて、両者は衣料品販売業者等により店舗やインターネットを通じて一般消費者に販売されるものであり、それぞれの流通経路も一致するものといえる。
また、前示のとおり、スウェットシャツ、ポロシャツ、Tシャツ等の被服については、標章がワンポイントマークとして商品の胸部分や袖部分等に小さく刺繍等により付されることが多く、また、襟ネーム、ラベル、下げ札等にも比較的小さく表示されることが多いこと、刺繍等により表示される場合は極小部分まで詳細に表現しにくいこと、上記商品は老若男女を問わず日常的に消費されるものであって、商標やブランド等について特別の専門的知識を有しない一般消費者によって購入され着用されるものであること、これら一般消費者は、商品の購入に際し、メーカー名等について常に注意深く確認するとは限らず、店頭等で短時間で購入商品を決定することも少なくないこと、などに鑑みれば、本件商標の指定商品と引用商標が使用されている上記商品とにおける取引の実情も同じといえる。
(5)小括
以上を総合すると、本件商標をその指定商品について使用した場合には、これに接する取引者、需要者は周知著名となっている引用商標を連想、想起し、該商品が請求人又は請求人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、仮に商標法第4条第1項第11号に該当しないとしても、同法第4条第1項第15号に該当するものである。
3 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)引用商標の周知著名性
上記2(3)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時には既に、米国及び我が国において、請求人の業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されていたものである。
(2)本件商標と引用商標との類否
上記1(2)のとおり、本件商標と引用商標とは、時と処を異にして観察した場合には、外観上彼此相紛らわしい類似の商標というべきものである。
(3)不正の目的
請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(ア)被請求人とニスクジャパンは、代表者をはじめとした役員構成を同じくし、いずれも衣料用繊維製品の製造販売及び輸出入等を事業目的とする法人である(甲第10及び第11号証)。
ニスクジャパンは、被請求人から本件商標の使用許諾を受けて衣料品の販売を行っている(甲第12及び第18号証)。
(イ)甲第13号証は、日刊紙「信用情報」繊維版第12034号(株式会社信用交換所大阪本社2010年2月17日発行)の抜粋写しと認められるところ、その表紙右上にニスクジャパンの広告が掲載されている。
上記広告においては、別掲(F)のとおりの構成からなる使用標章1が表示され、その下部に罫線を挟んで「チャンピオン ユーロ」の文字が横書きされている。
(ウ)甲第14、第16及び第17号証は、ニスクジャパンの取扱いに係る商品「長袖Tシャツ、長袖ポロシャツ又はベンチコート」を撮影した写真と認められるところ、いずれも左胸部分、左袖部分又は背中部分等に、別掲(G)ないし(J)のとおりの構成からなる使用標章2ないし5aのいずれか又はこれらのいずれかを頭文字として組み合わせた「Champ euro」のデザイン文字が表示されている。そして、上記長袖Tシャツの右前腰部分には、使用標章2及び上記デザイン文字に加え、「IT TAKES A LITTLE MORE TO MAKE A CHAMPION」及び「ONLY CHAMPION AUTHENTIC ATHETIC APPAREL EEARS THIS MARK」の文字が表示されている。上記「IT TAKES A LITTLE MORE TO MAKE A CHAMPION」の文字は、請求人が所有する登録商標(甲第19号証)と同一であり、請求人によって引用商標3及びチャンピオン文字ロゴと共に使用されているものである(甲第20号証)。
また、上記ベンチコートには、前面の閉じボタンに、別掲(K)のとおりの構成からなる使用標章5bが刻印されている。
甲第15号証は、ニスクジャパンの使用に係る封筒の写しと認められるところ、表面の社名表示の左上に使用標章3が表示されている。
上記使用標章1ないし5(a及びb)は、いずれも本件商標の形状を変更し外観を引用商標に近づけたものとなっている。すなわち、使用標章1は、本件商標が用いられているものの、デザイン化された「Champeuro」の文字部分は請求人の使用に係るチャンピオン文字ロゴ(別掲(E)参照)と略同じ書体で表されているほか、これらの下部に上記「Champeuro」の読みとは一致しない「チャンピオン ユーロ」の文字が併記されていることから、上記「Champeuro」の文字部分はチャンピオン文字ロゴを連想、想起させるものといわざるを得ない。
使用標章2は、別掲(G)のとおり、本件商標の「C」状図形内部の縦線を引用商標3と同じ赤色の菱形に変え、本件商標よりも中央よりに配置し、引用商標3の位置に近づけたものとなっている。更に、使用標章2と組み合わせた「Champ euro」の文字は、請求人の使用に係るチャンピオン文字ロゴと略同じ書体で表されており、チャンピオン文字ロゴを連想、想起させるものといわざるを得ない。
使用標章3及び4は、別掲(H)及び(I)のとおり、略同一の構成からなるものであり、本件商標の「C」状図形内部の縦線を細い赤色の直線で切断し右半分のみに変更し、更に「C」状図形の左半分の内部が引用商標3と同じ赤色で塗り潰されており、引用商標3により近づけた態様及び配色となっている。
使用標章5aは、別掲(J)のとおり、「C」状図形及びその内部縦線部分が白色である点を除き使用標章3及び4と略同一の構成からなるものである。使用標章5bは、別掲(K)のとおり、使用標章3、4及び5aと色彩を異にするほかは略同一の構成からなるものである。
加えて、これら使用標章は、引用商標がTシャツ、ポロシャツ、ベンチコート等に付され又はそれらの下げ札に表示されている方法(甲第26ないし第28号証)と略同様の方法で表示されている。
(エ)ニスクジャパンは、平成20年11月に引用商標及びチャンピオン文字ロゴと同一の標章を付した商品を請求人に無断で販売し、請求人から通告を受けた(甲第21号証の1ないし5)。
上記(ア)ないし(エ)の事実によれば、被請求人とニスクジャパンとは、形式的には別法人であるものの、実質的には同じ会社であるか又は極めて密接な関係にある会社というべきであり、いずれも衣料用繊維製品の製造販売及び輸出入を事業目的とし、ニスクジャパンがスポーツウェア、カジュアルウェア等の衣料品を取り扱っていること、しかも、引用商標と同一の商標を使用し請求人から通告を受けたことなどから、被請求人は、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、衣料品関連の事情に精通し、周知著名な引用商標又は請求人の存在を熟知していたものというべきである。その上で、被請求人は、引用商標と酷似した本件商標を採択し、更には本件商標を引用商標に近づけるように変更して引用商標と同様の方法で使用しているものというべきであり、結局、引用商標に蓄積された名声、信用、顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)し、不正の利益を得る目的、請求人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標を使用するものといわざるを得ない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号又は同第19号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(A)
(本件商標)


別掲(B)
(引用商標1)


別掲(C)
(引用商標2)


別掲(D)
(引用商標3)

(色彩は原本参照のこと)

別掲(E)
(チャンピオン文字ロゴ)


(色彩は原本参照のこと)

別掲(F)
(使用標章1)


別掲(G)
(使用標章2)

(色彩は原本参照のこと)

別掲(H)
(使用標章3)

(色彩は原本参照のこと)

別掲(I)
(使用標章4)

(色彩は原本参照のこと)

別掲(J)
(使用標章5a)

(色彩は原本参照のこと)

別掲(K)
(使用標章5b)


(色彩は原本参照のこと)

審理終結日 2012-09-24 
結審通知日 2012-09-26 
審決日 2012-10-17 
出願番号 商願2009-73753(T2009-73753) 
審決分類 T 1 11・ 261- Z (X2536)
T 1 11・ 222- Z (X2536)
T 1 11・ 22- Z (X2536)
T 1 11・ 271- Z (X2536)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 敏 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 2010-03-05 
登録番号 商標登録第5306813号(T5306813) 
代理人 大江 耕治 
代理人 肥田 正法 
代理人 兼松 由理子 
代理人 宮崎 栄二 

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