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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
管理番号 1266071 
審判番号 取消2011-300767 
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2011-08-11 
確定日 2012-11-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4568491号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4568491号商標の指定商品中「第30類 菓子及びパン」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4568491号商標(以下「本件商標」という。)は、「幸せのレシピ」の文字を標準文字で表してなり、平成13年7月10日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,菓子及びパン,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,酒かす」を指定商品として、平成14年5月17日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中「第30類 菓子及びパン」について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人の主張について
被請求人は、本件商標の使用については、「惣菜の商品の商標として『幸せのレシピ』を2006年1月より現在まで使用している。」と主張するのみである。すなわち、被請求人が本件商標を使用していると主張する商品は「惣菜」である。
しかし、本件審判の請求に係る指定商品は「菓子及びパン」であり、「惣菜」が「日々の食事の副食物。飯のおかず。菜の物。」(広辞苑第5版)であることからすれば、「惣菜」が「菓子及びパン」でないことは明らかである。
したがって、被請求人は、本件審判の請求に係る指定商品について本件商標を使用していることについてまったく主張していない。
(2)乙第1号証について
被請求人は、「2002年6月24日に有限会社シーアンドシー販売は社名を有限会社アウルに変更して、特許庁に印鑑変更届を提出している。」「2006年より株式会社MITを作り、洋菓子販売・惣菜販売・レストランを経営している。資本関係にある有限会社アウルは、所有する『幸せのレシピ』の商標を株式会社MITに貸出し、株式会社MITのフュッセン牛込柳町店の惣菜の商品の商標として2006年1月より現在まで使用している。」と主張するが、有限会社アウル、株式会社MIT及びフュッセン牛込柳町店の経営主体の関係について何ら立証していない。
すなわち、有限会社アウル及び株式会社MITの存在、有限会社シーアンドシー販売が名称変更して有限会社アウルとなった事実、有限会社アウルと株式会社MITが資本関係にある事実、株式会社MITとフュッセン牛込柳町店の経営主体が同一である事実、株式会社MITが洋菓子販売・惣菜販売・レストランの経営を目的としている事実、被請求人が商標権者であると主張する有限会社アウルが株式会社MITに対して専用使用権を設定し又は通常使用権を許諾している事実等が何一つ明らかになっていない。
本件商標を使用している主体が商標権者でないことは被請求人の主張から争いがないが、上記事実が不明である以上、本件商標を使用している主体が専用使用権者又は通常使用権者であることは認められない。
(3)乙第2号証について
被請求人は、乙第2号証を提示し、「『幸せのレシピ』は川崎や大宮にてシュークリームの様な物を2001年から2005年まで販売していた。このことはインターネットのお客様のブログ等で確認できる。」と主張するが、この主張によれば、乙第2号証で立証しようとする使用時期は、本件審判の請求登録日前3年よりも前である。
乙第2号証第1頁には、日付として「2004/03/27(土)」と記載されているので、この記事は、本件審判の請求登録日前3年よりも前に記載されたものである。したがって、本件商標の使用を立証する証拠たり得ない。
乙第2号証第2頁には、日付として「2008/10/31」と記載されているが、この記事の内容からは、その時点で本件商標が使用されている事実を推認することができない。したがって、本件商標の使用を立証する証拠たり得ない。
(4)乙第4号証について
乙第4号証の写真はいずれも、撮影日、撮影場所及び撮影者が一切不明であり、本件審判の請求登録日前3年以内に存在していたものとは認められない。
乙第4号証第1頁のプライスカードには、「スパニッシュオムレツ」と表記されているところ、「スパニッシュオムレツ」とは、「スペイン風のオムレツ」という商品を表し、被請求人が主張するとおり「惣菜」の一種であると考えられるので、本件審判の請求に係る指定商品についての使用とは認められない。
乙第4号証第2頁のプライスカードには、「幸せのレシピのお惣菜」と表記されているところ、この表記中「お惣菜」は被請求人が主張するとおり「惣菜」そのものを表すものであるので、本件審判の請求に係る指定商品についての使用とは認められない。
(5)乙第5号証について
乙第5号証の写真は、撮影日、撮影場所及び撮影者が一切不明であり、本件審判の請求登録日前3年以内に存在していたものとは認められない。
乙第5号証のエプロンは、本件審判の請求に係る指定商品「菓子及びパン」ではないので、商標法第2条第3項第1号及び第2号の使用に該当しないことは明らかである。
また、乙第5号証のエプロンには、「菓子工房」と表記されているが、このような漠然とした内容では具体的な商品との関連性は認められず、商品についての広告、取引書類等という性格のものではないので、その下方に標章が表記されているとしても、その標章が商品について使用されているということもできない。
なお、商品についての広告的使用というためには、被請求人が主張するように乙第5号証のエプロンが従業員着用のものであるならば、乙第5号証のエプロンが需要者の目に触れる態様で展示されていたことが必要である(同項第8号)。そこで、被請求人が乙第5号証のエプロンを使用していると主張する店舗「フュッセン牛込柳町店」を訪れて確認したところ、同店舗の販売員は、所定の制服を着用しているものの、乙第5号証のエプロンは着用していないことが分かった(甲第2号証)。甲第3号証は、同店舗のチラシの一部であるが、このチラシに掲載されている販売員も、甲第2号証の販売員と同様に、所定の制服を着用しているものの、乙第5号証のエプロンは着用していない。
一方、被請求人の主張によれば、株式会社MITは、洋菓子販売、惣菜販売、レストランを経営しているとのことであるので、乙第5号証のエプロンは、洋菓子や惣菜を製造する工場、又はレストランでの飲食物を調理する厨房など、需要者の目には触れない態様で使用されている可能性も多分に考えられる。
したがって、乙第5号証のエプロンが需要者の目に触れる態様で展示されていたことについて疑義が生じるところ、この点について被請求人は何ら立証していない。
3 口頭審理における陳述
(1) 乙第6号証ないし乙第8号証について
被請求人は、乙第6号証ないし乙第8号証を提出し、「当該登録商標の所有者である被請求人と貸与先の株式会社MITの代表者は同一であり、また両者の株主も全て代表者を含む家族であるため、当該商標権者である被請求人は商標の使用権について両者間においては格別に文書による契約を取り交わさず株式会社MITに当該登録商標の使用を認めてきた。」と主張している。
しかし、乙第6号証ないし乙第8号証によっても、依然として、株式会社MITが本件商標を使用している事実が明らかになっていない。
(2) 乙第9号証について
被請求人は、乙第9号証を提出し、「パンの製造(焼成)を行っていた証拠としては、牛込柳町店と併設のビストロかがり火が牛込柳町店において販売をするパン(バケット)を製造するため購入していた冷凍半焼成バケット(パン)の仕入れを示す仕入先の請求書がある。」と主張している。
しかし、乙第9号証によっては、被請求人が主張する上記事実は認められない。
乙第9号証は、株式会社マームが発行した株式会社MIT宛の請求書であるが、これらの品名欄に、「FRフェイバリット パリジャンバケット 280gx25 1cs」が表示されており、これらが取引の対象品であることはうかがえても、かかる品名欄に記載された商品がいかなるものか不明である。欄外に「冷凍半焼成バケット」と手書きされているが、これは、被請求人が乙第9号証を作成する際に手書きしたものと認められるので、この記載をもって、乙第9号証の請求書の品名欄に記載された商品が「冷凍半焼成バケット」であることを立証したことにはならない。仮に、乙第9号証の請求書の品名欄に記載された商品が「冷凍半焼成バケット」であったとしても、株式会社MITがパンを製造し飲食物ではなく商品として販売した事実は、乙第9号証によっては何ら立証されていない。
(3) 乙第10号証について
被請求人は、乙第10号証を提出し、「当該商標を使ってパンの販売を行っていた事実を示すものとしては写真…がある。」と主張している。
しかし、乙第10号証は、使用者(誰が使用したのか)、使用時期(いつ使用したのか)、使用場所(日本国内において使用したのか)、使用商品(どの商品について使用したのか)及び使用行為(展示等の事実)がいずれも不明である。
ア 使用者について
乙第10号証の写真には、「幸せのレシピ」の表示以外に、商品の製造元や販売元等の出所を示す表示はなく、当号証によっては、何人が本件商標を使用したのか不明である。
乙第10号証には、写真に添えて「(株)MIT」と手書きされているが、これは、被請求人が乙第10号証を作成する際に手書きしたものと認められるので、この記載をもって、株式会社MITが本件商標を使用したことを立証したことにはならない。
イ 使用時期について
乙第10号証の写真には、日付「2010.09.27」が表示されている。
しかし、乙第10号証の写真は、デジタル写真であると考えられるところ、デジタル写真に任意の日付を付加することは容易に実現することができる。また、デジタル写真、銀塩写真の別にかかわらず、カメラの日付を任意に設定することでも容易に実現することができる。
したがって、裏付けが不十分であり、乙第10号証のみをもって、当該日付で本件商標を使用したことを立証したとは認められない。
乙第10号証の写真は、平成23年10月6日付け答弁書において提出されなかった経緯からすれば、不使用取消審判の証拠収集の目的で撮影されたものではないと考えるのが妥当である。証拠収集の目的で事前に撮影されたものであれば、本件審判において、まず最初に提出されて然るべきだからである。
しかし、乙第10号証の写真は、「幸せのレシピ」と表示したプライスカードとクロワッサンの全体がクローズアップされて写真内に構図よく収められている点と、これに日付が付されている点で、いわば証拠写真というほどに体裁が整っているところ、通常、このような写真を何らの目的もなく偶発的に撮影することは考えられない。例えば業務の一環として撮影されたものであれば、同日付けの写真や他の商品の写真も存在するはずであるし、撮影を指示した業務指示書や撮影を行ったことを記録した業務日報などが存在するものと考えられる。また例えば、パンフレットや雑誌等に掲載する目的で撮影されたものであれば、乙第10号証の写真が掲載されたパンフレットや雑誌等が存在するものと考えられる。これらの間接証拠がまったく提出されていない以上、乙第10号証の写真は、いかなる目的で撮影されたか不明であり、証拠収集の目的なく証拠としての体裁が整っている不自然さを払拭することができない。
加えて、被請求人に対し他の証拠の提出を求めた審理事項通知書が送付された後に、このような写真が唐突に1枚だけ見つかったという点も看過できない。
このように写真の体裁、撮影の目的及び提出の経緯を考慮すれば、乙第10号証の真正について疑いを差し挟まざるを得ない。
乙第9号証との関係からも疑義なしとはいえない。乙第9号証の第1頁には、被請求人が「冷凍半焼成バケット」と主張する商品が納品された日付として、2010年(平成22年)11月2日及び同年11月24日と記載されている。同様に、乙第9号証の第2頁には、2011年(平成23年)1月28日と記載され、乙第9号証の第3頁には、2011年(平成23年)3月23日と記載されている。いずれの日付も、乙第10号証の写真に表示された日付「2010年(平成22年)9月27日」よりも後日であり、乙第9号証で立証しようとする材料が、乙第10号証のクロワッサンに使用されたとは考えられない。したがって、乙第10号証は、乙第9号証によっても裏付けられていないということができる。
また、被請求人は、乙第9号証の請求書の品名欄に記載された商品が「冷凍半焼成バケット」であると主張しているが、「冷凍半焼成バケット」がフランスパンの「バゲット」を意味するのであれば、バゲットはクロワッサンではないので、この点でも、乙第10号証は、乙第9号証によって裏付けられていないということができる。
乙第10号証には、写真に添えて「2010年(平成22年)9月27日」と手書きされているが、これは、被請求人が乙第10号証を作成する際に手書きしたものと認められるので、この記載をもって、当該日付で本件商標を使用したことを立証したことにはならない。
ウ 使用場所について
乙第10号証の写真には、「幸せのレシピ」の表示以外に、商品の販売場所等の行為地を示す表示はなく、乙第10号証によっては、何処で本件商標を使用したのか不明である。
乙第10号証には、写真に添えて「(株)MIT牛込柳町店」と手書きされているが、これは、被請求人が乙第10号証を作成する際に手書きしたものと認められるので、この記載をもって、当該場所で本件商標を使用したことを立証したことにはならない。
エ 使用商品について
乙第10号証の写真に表示された標章の使用者が株式会社MITであったとしても、株式会社MITが「ビストロかがり火」の名において飲食店を経営し、かつ同飲食店がパンを製造していることからすれば、乙第10号証のクロワッサンは、飲食店内で飲食物として提供されるものであるか、又は、商品として販売されるものであるか疑義が生じるところ、乙第10号証のクロワッサンが商標法上の商品である事実は、乙第10号証によっては何ら立証されていない。
(4) 乙各号証による商標の使用は、商標法第2条第3項各号のいずれの行為に該当するか
ア 乙第2号証について
乙第2号証による使用は、同法第2条第3項第1号、第2号及び第8号のいずれの行為にも該当しない。
イ 乙第4号証及び乙第5号証について
乙第4号証及び乙第5号証による使用は、本件審判の請求に係る指定商品「菓子及びパン」の存在が認められないので、同項第1号及び第2号の行為に該当しないことはいうまでもなく、他の乙各号証との関係を考慮しても、同項第8号の行為に該当するか不明である。
ウ 乙第10号証について
乙第10号証による使用は、プライスカードによる使用であり、大阪地判平成15年(ワ)第11661号(甲第4号証)によれば、「店頭におけるプライスカードに標章を付して表示することも、商標法第2条第3項第8号所定の、価格表に標章を付して展示することに該当し、標章の使用に該当する。」と判示されているところ、乙第10号証その他の乙各号証によっては展示等の事実が明らかにされていないので、同項第8号の行為に該当するか不明である。
その他、乙第10号証による使用は、他の乙各号証との関係を考慮しても、同項第1号及び第2号のいずれの行為に該当するか不明である。
エ 乙第1号証、乙第3号証、乙第6号証ないし乙第9号証について
乙第1号証、乙第3号証、乙第6号証ないし乙第9号証には、本件商標が表示されていないので、使用行為は認められない。
4 平成24年6月1日付け上申書の内容
(1) 写真の日付の評価について
甲第5号証として提出した審決によれば、「デジタルカメラによる写真の撮影日は、容易に変更しうるものというべきであるから、写真に要証期間に該当する日付が表示されていることをもって、直ちに該日付にこれらの写真が撮影されたものと判断することはできない。」旨判断されている。
したがって、これらの判断に照らしても、乙第10号証のみをもって、乙第10号証の写真に表示された日付「2010.09.27」で本件商標を使用したことを立証したとは認められない。
(2) 乙第10号証について
被請求人は、乙第10号証の撮影目的として、「原料のバターが値上がりした影響を受け、クロワッサンを200円から220円に値上げすることになり、従業員が価格を間違えないように商品の写真を撮影し、指示メモとともにレジ付近に掲示した。」と陳述している。
しかし、被請求人の上記陳述は,次の理由から極めて受け入れがたい。
ア 農林水産省の統計資料(甲第7号証:第4頁)によれば、本件日付前2年以内は、バターの値上がりは認められず、むしろ値下がり傾向を見せており、被請求人の主張とは相容れない。バターの価格が低下傾向で推移しほぼ横ばいとなった本件日付において、バターの値上がりを理由にクロワッサンを値上げすることは極めて不合理である。
イ バターの値上がりを理由にクロワッサンを値上げしたのであれば、同様に、クッキー等バターの含有量が高い洋菓子を製造・販売している被請求人においては、同時期又は近い時期に他のいくつかの商品も値上げするのが自然であるが、被請求人は「他の商品の写真は存在しない。」と陳述している。値上げした商品について注意を喚起するために写真を撮影しているのであれば、他の商品の写真が存在しないということは、他の商品は値上げしていないということに他ならず、バターの値上がりを理由にクロワッサンだけを値上げしたというのは極めて不自然である。
加えて、被請求人は、クロワッサンの販売を継続的に行っていること及びクロワッサンは一日に5個程度しか売れていないことを陳述している。不定期に販売する商品で、かつ一日に5個程度しか売れない商品だけを値上げするという不合理さも見過ごせない。一般の商慣行からすれば、売れ筋の商品を値上げするのが通常である。
ウ 仮にバターの値上がりを理由に他の商品も値上げしたのであれば、他の商品の写真は撮影せず、又は、撮影したがクロワッサンの写真だけを保管していたということになり極めて不可解である。
エ 従業員に対し注意を喚起するための撮影目的であれば、写真にわざわざ日付を入れる必要はない。そもそも、「クロワッサン200円→220円」とメモ書きしておけば十分であり、わざわざ写真を掲示しておく必要性もない。これらの点からしても不自然である。
オ 被請求人は、「クロワッサンは、荻窪工場において製造し、フュッセン牛込柳町店で販売している。フュッセン牛込柳町店から荻窪工場には製造の指示書をFAXするとともに、指示書の電子データは荻窪工場のパソコンで管理していた。しかし、パソコンのハードディスクがクラッシュしたため指示書のデータはすべて滅失した。FAXはすべて破棄した。」と陳述しているが、本件日付を裏付けるデータや書類が滅失したことを偶然とは考えがたく、むしろ、乙第10号証で立証しようとする事実がそもそも存在しなかったと考える方が妥当である。
カ 被請求人は、「乙第10号証の写真は、指示メモとともにレジ付近に掲示したが、その指示メモは残っていない。」と陳述しているが、指示メモを破棄し写真だけが保存されているという点も不可解である。
(3) 被請求人は、バゲットはビストロかがり火で製造し、クロワッサンは荻窪工場で製造し、フュッセン牛込柳町店で販売していると陳述している。
しかし、クロワッサン及びバゲットはいずれもパンであってフュッセン牛込柳町店で販売する商品であれば同一の場所で製造するのが自然であること、製法においてバゲットは冷凍品を焼成して製造するのに対しクロワッサンはバターや小麦粉などの原料から製造しており両者の品質が大きく異なること、バゲットの原料の仕入れ先である株式会社マームが「未焼成クロワッサン」を販売していること(甲第8号証)、荻窪工場の事業等の内容が「洋菓子製造」であることを考慮すれば、乙第10号証のクロワッサンは、バゲットと同様に、株式会社マームから未焼成クロワッサンを購入し、ビストロかがり火で焼成して製造し、フュッセン牛込柳町店で販売するものと考える方が妥当である。
すなわち、乙第10号証の写真の撮影目的を正当化するため、洋菓子の製造でバターを使用する荻窪工場でクロワッサンを製造したことにしたものと疑いを差し挟まざるを得ない。
5 まとめ
以上のとおり、被請求人の主張及び乙各号証をもってしては、本件審判の請求登録日前3年以内に日本国内において、被請求人が指定商品について本件商標の使用をしていたものということはできない。その他、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、指定商品について本件商標の使用をしていたことを確証させるものは見いだせない。また、被請求人は、指定商品について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第12号証を提出した。
1 答弁の理由
被請求人の代表者は、「幸せのレシピ」なる店舗で川崎や大宮にてシュークリームの様な物を2001年から2005年まで販売していた。この事はインターネットのお客様のブログ等で確認できる(乙第2号証)。
また、被請求人の代表者は、2006年より株式会社MITを作り、洋菓子販売・惣菜販売、レストランを経営している。資本関係にある有限会社アウルは所有する「幸せのレシピ」の商標を株式会社MITに貸出し、株式会社MITのフュッセン牛込柳町店(東京都新宿区)の惣菜の商品の商標として「幸せのレシピ」を2006年1月より現在まで使用している。小さい店なので、惣菜の印刷物等は作った事がなく、店頭のプライスカード(乙第4号証)、従業員用のエプロン、帽子(乙第5号証)等があるだけである。
2 口頭審理における陳述
(1)先の答弁書において「貸与先の株式会社MITでは、本件商標を惣菜の商品に使用している」と述べたが、同社では洋菓子に対して販売する洋菓子以外の商品を惣菜と総称しており、その中には弁当類、惣菜類及びパン類が含まれている。
(2)本件審判請求の登録前3年間において、株式会社MITは同社のフュッセン牛込柳町店の惣菜コーナーにおいてクロワッサン、バケットなどのパンの販売を本件商標を使用して断続的に行っていたが、小さな会社でもありパンの製造(焼成)と販売を示すような証拠はあまり残っていない。
(3)本件商標を使用してパンの販売を行っていた事実を示す証拠は写真(乙第10号証)、またパンの製造(焼成)を行っていた証拠としては、牛込柳町店と併設のビストロかがり火が牛込柳町店において販売するパン(バケット)を製造するため購入していた冷凍半焼成バケット(パン)の仕入れを示す仕入れ先の請求書がある(乙第9号証)。
(4)被請求人と株式会社MITの代表者は同一であり、また両者の株主も全て代表者を含む家族であるため、被請求人は商標の使用権について両者間において格別に文書による契約を取り交わさず株式会社MITに本件商標の使用を認めてきた。
(5)乙第10号証の写真は、「小川一朗」が2010年(平成22年)9月27日にフュッセン牛込柳町店のショーケースに展示したクロワッサンを撮影したものであり、当時はバターが値上がりしたため、クロワッサンの販売価格を200円から220円に値上げしたことを店員に周知するため撮影したものである。
(6)クロワッサンは、荻窪工場で製造したものをフュッセン牛込柳町店で販売しているが、荻窪工場とフュッセン牛込柳町店間の取引書類は無い。
(7)プライスカードは、2006年1月の開店当初から使用している。
(8)本件商標「幸せのレシピ」は、総菜及びパンについて使用しているが、ケーキ類には使用していない。
3 平成24年6月11日受付の上申書の内容
(1)乙第11号証について
被請求人が起用している外注業者(デザイナー)からの請求書の写し(乙第11号証)の明細には明らかに「幸せのレシピのプライス デザイン、制作」と記載されている。
(2)クロワッサンの値上げの理由について
被請求人が販売するクロワッサンは、国産のバターを使用する高級品であり、国産バターが品薄になると政府が受給緩和のために緊急輸入し、安価に国内に放出する輸入バターを使用した製品とは明らかに異なる美味しいクロワッサンであり、そのことは日本最大のグルメサイトである食ベログの口コミ(乙第12号証)の一つでも評価されている。
なお国内産バターは近年牛乳の減産により生産量が減少の傾向であるのに伴い価格は上昇しており、洋菓子及びクロワッサンにバターを大量に使用する被請求人としてはバターの数量確保のためにも値上げを受けざるを得ない状況となっており、平成22年9月頃にはバターの値上がりを受けたクロワッサンの販売価格の値上げを決めたという経緯があった。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出した乙各号証によれば以下のとおりである。
(1)乙第2号証について
乙第2号証は、インターネットウェブサイトの写しであり、1ページ目には「ポップオーバー@作りたての菓子工房『幸せのレシピ』川崎アゼリア店」についての記載及び「(2004/03/27(土)00:18)」の記載がある。また、2ページ目には「解決済み質問」の欄の「大宮東口の『幸せのレシピ』というシュークリーム屋さんは今でもありますか?川崎・・・」の質問に対し、「ベストアンサーに選ばれた回答」として、「結構前に『焼きたてパイの店』という店に変わりました。・・(回答日時:2008/10/27 20:36:43)」の記載がある。
しかしながら、「幸せのレシピ」なる店舗が、本件審判請求の登録前3年以内に営業していたことは確認できない。
(2)乙第3号証は、「FUSSEN」の看板のある店の外観を写した写真であるが、本件商標及び撮影日などは確認できない。
(3)乙第4号証は、「プライスカード」の写真であり、1枚目のカードには「幸せのレシピ」「スパニッシュオムレツ」「¥300(税込)」の文字が、2枚目のカードには「幸せのレシピのお総菜」「シェフが腕によりをかけてお作りしました」の文字が記載されている。
しかしながら、使用場所及び撮影日などは確認できない。
また、乙第4号証は、平成23年10月6日受付の答弁書をもって提出されている。
(4)乙第5号証は、「作りたての菓子工房」「幸せのレシピ」の文字が表わされたエプロンの写真であるが、当該「エプロン」の使用状況及び撮影日などは確認できない。
(5)乙第6号証は、商標権者及び株式会社MITの履歴事項全部証明書である。
これによれば、商標権者と株式会社MITの代表取締役が小川一朗氏であり、同氏の住所が一致することが認められる。
(6)乙第7号証は、「アウルグループの株主構成」「有限会社アウル定款」及び法人名を「株式会社MIT」とする上段に手書きで「税務申告書添付書類」と記載された「同族会社等の判定に関する明細書」であり、「判定結果」の欄には「同族会社」とされている。
(7)乙第8号証は、上段に手書きで「税務申告書添付書類」と記載された「売上高等の事業所別の内訳書」であり、「商号:株式会社MIT」の記載があり、その下の一覧表には「平成22年9月1日?平成23年8月31日」及び「事業所の名称/所在地」の欄に「牛込柳町店(住所:新宿区市谷柳町1番地、事業等の内容:洋菓子販売)」「かがり火店(住所:新宿区市谷柳町1番地、事業等の内容:レストラン)」及び「工場(杉並区荻窪5-23-1、事業の内容:洋菓子製造)」などの記載がある。
(8)乙第9号証は、株式会社マーム(東京都江東区)から「びすとろ かがり火/P (株)MIT」にあてた、発行日を「10年12月1日」「11年2月1日」及び「11年4月1日」とする請求書であり、いずれにも「FRフェイバリット パリジャンバケット 280gx25」の記載があり、また、「冷凍半焼成バケット」又は「半焼成冷凍バケット(パン)」と手書きで記載されている。
(9)乙第10号証は、「(株)MIT牛込柳町店で販売中のパン(クロワッサン)の写真-2010年(平成22年)9月27日-」と手書きの説明のある写真であり、そこには5個のクロワッサン、その脇に「幸せのレシピ」「クロワッサン」「¥220(税込)」と記載されたプライスカードが写され、右下には「2010.09.27」と表示されている。
(10)乙第11号証は、楳垣幸子氏(東京都豊島区)から株式会社MITにあてた、平成21年6月20日付け及び平成22年10月20日付け請求書であり、前者には業務内容の欄「9」に「幸せのレシピ」「プライス デザイン、制作」、後者には業務内容の欄「13」に「幸せのレシピ プライス」「デザイン 制作(訂正、追加)」の記載がある。
(11)乙第12号証は、「食べログ」と称するウェブページの写しであり、「フュッセン 九段店」の口コミとして「ここのクロワッサンは天然酵母系のもさもさとした感じ。素朴な雰囲気のクロワッサンだが、ケーキ屋のクロワッサンらしくほんのり甘い。・・」「’06/12/23(’05/12訪問)」の記載がある。
2 請求人の提出した甲各号証によれば以下のとおりである。
(1)甲第2号証は、店舗名「パティスリーフュッセン」、住所「東京都新宿区市谷柳町1番地」、確認事項「エプロン(乙第5号証)の使用実態調査」、訪問日「2011/12/8」とする現地レポートであり、それには店内図の欄にレイアウトが記載され、次の写真が付されている。
ア 1枚目の写真は、「FUSSEN」の看板のある店の外観を写した写真であり、右下に「2011/12/08 13:04」の表示がある。
イ 2枚目の写真は、ユニフォーム姿の販売員の写真であり、右下に「2011/12/08 13:08」の表示がある。
ウ 3枚目の写真は、ガラスショーケースの写真であり、上段に「幸せのレシピのお総菜」「シェフが腕によりをかけてお作りしまし」(右端は写っていない。)のカード及びその右側に「パエリア ¥680」のプライスカードと2つの商品が並べられており、右下に「2011/12/08 13:08」の表示がある。
なお、プライスカードは、その態様から乙第4号証のものと同じ様式のものであることがうかがえる(4枚目の写真も同じ。)。
エ 4枚目の写真は、ガラスショーケースの写真であり、「ラザニア ¥680(税込)」「コロッケ(2ヶ入) ¥300(税込)」「スパニッシュオムレツ ¥300(税込)」「キッシュ(1P) ¥350(税込)」などのプライスカードと各商品が並べられており、右下に「2011/12/08 13:08」の表示がある。
(2)甲第7号証は、「最近の牛乳乳製品をめぐる情勢について 生産局畜産部牛乳乳製品課」と題する平成24年6月の農林水産省の資料であり、これには、「牛乳乳製品の需給動向」「1 生産動向」の「(3)乳製品」の項のV)に「主要乳製品の大口需要者価格については、19年度以降はバター、脱脂粉乳ともに海外の乳製品価格の上昇等を背景に在庫水準が低下し、上昇傾向に推移。21年6月以降は在庫量が高い水準となっていることを背景に低下傾向で推移。22年7月以降はほぼ横ばいで推移していたが、23年7月以降は脱脂粉乳・バターともに前年同期を上回って推移。」との記載がある。また、「主要乳製品の大口需要者価格の推移」のグラフにも、その傾向が表され、さらにバターの価格は、平成22年7月以降同年12月ころまで横ばいとなっていることが表されている。
3 上記1及び2並びに両当事者の主張からすれば、次の事実を認めることができる。
(1)商標権者の代表者は、2004(平成16年)年3月ころに川崎市や大宮市の「幸せのレシピ」なる店舗名(以下「使用商標1」という。)で、シュークリームのようなものを販売していた(上記1(1)及び(5))。
(2)株式会社MITは、少なくとも平成23年10月ないし12月ころに牛込柳町店において、「スパニッシュオムレツ」「ラザニア」など、いわゆる「惣菜」について「幸せのレシピ」と表示(以下「使用商標2」という。)されたプライスカードを展示し販売していた(上記1(3)及び2(1))。
(3)バターの価格は、平成21年6月以降低下傾向で推移し、平成22年7月以降同年12月ころまで横ばいであった。
(4)被請求人の主張について
被請求人(商標権者)は、少なくとも平成22年9月ころに、株式会社MITは牛込柳町店において、商標「幸せのレシピ」を使用し商品「クロワッサン」を販売していたとして、写真(乙第10号証)を提出し、当該写真の撮影経緯を「当時はバターが値上がりしたためクロワッサンの販売価格を値上げしたことを販売員に周知するために撮影した」旨述べている。
そして、乙第10号証には、上記1(9)のとおり「(株)MIT牛込柳町店で販売中のパン(クロワッサン)の写真-2010年(平成22年)9月27日-」と手書きの説明があり、その写真には5個のクロワッサン、「幸せのレシピ」「クロワッサン」「¥220(税込)」と記載されたプライスカードが写され、右下には「2010.09.27」と表示されている。
しかしながら、バターの価格は上記(3)のとおり、平成21年6月以降低下傾向にあり、平成22年7月ないし同年12月ころまで横ばいであるが、被請求人は「当時バターが値上がりした」とこれと異なる主張をしていること、クロワッサンを製造していた荻窪工場とそれを販売する牛込柳町店間の取引書類がないこと、乙第10号証の手書きの説明及び写真の日付は容易に変更し得るものであること、及び販売員に商品の値上げを周知するには、その内容を記載した書面(メモ)で行うことが確実であり一般的といえること、及び他に牛込柳町店でクロワッサンを販売していたと認め得る証左はないことをあわせみれば、平成22年9月ころに株式会社MITは牛込柳町店において、商標「幸せのレシピ」を使用し商品「クロワッサン」を販売していたと認めることはできないと判断するのが相当である。
4 判断
(1)使用者について
上記1(5)のとおり、商標権者と株式会社MITとは、その代表取締役の氏名、住所が一致することから同一人であり、両者の住所も同一であるから、両者の関係は深いものといえる。
そうとすれば、上記3(2)の株式会社MITは本件商標をその指定商品に使用することについて黙示の許諾を得ているものとみて差し支えない。
してみれば、株式会社MITは、本件商標の通常使用権者と認めることができる。
また、上記3(1)の商標権者の代表者も通常使用権者とみて差し支えない。
(2)使用時期について
上記3(1)及び(2)の平成16年3月ころ及び平成23年10月ないし12月ころはいずれも本件審判の請求の登録前3年以内(平成20年8月29日ないし平成23年8月28日)ではない。
そうとすれば、被請求人は、商標法第50条第2項に規定する証明をしたものと認めることはできないといわなければならないが、念のため、他の要件についても以下検討することとする。
(3)使用商標について
使用商標1及び2は、「幸せのレシピ」の文字からなるものであるから、「幸せのレシピ」の文字からなる本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(4)使用商品について
上記3(2)の「スパニッシュオムレツ」「ラザニア」などいわゆる「惣菜」は、本件審判の請求に係る指定商品「菓子及びパン」の範ちゅうに含まれるものとはいえない。
上記3(1)の「シュークリームのようなもの」は、「菓子及びパン」の範ちゅうに含まれる余地があるものといえる。
(5)小括
上記(2)のとおり、被請求人提出の証拠によっては、被請求人は商標法第50条第2項に係る所定の要証事項を証明したものと認めることはできない。
その他、本件審判の請求の登録前3年以内に、日本国において本件商標が請求に係る指定商品について使用されていると認め得る証拠はない。
5 結論
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、その請求に係る指定商品について本件商標の使用をしていたことを証明したものと認めることはできない。また、被請求人は請求に係る指定商品について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により指定商品中「菓子及びパン」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2012-09-07 
結審通知日 2012-09-12 
審決日 2012-09-26 
出願番号 商願2001-62948(T2001-62948) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Z30)
最終処分 成立  
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 堀内 仁子
梶原 良子
登録日 2002-05-17 
登録番号 商標登録第4568491号(T4568491) 
商標の称呼 シアワセノレシピ 
代理人 渡部 仁 

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