• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X35
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X35
管理番号 1264439 
審判番号 無効2010-890002 
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-01-20 
確定日 2012-10-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5190076号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5190076号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成からなり、平成19年4月1日に登録出願、第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品(「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を除く。)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清涼飲料及び果実飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,茶・コーヒー及びココアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、平成20年11月12日に登録査定、同年12月19日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号ないし第46号証(枝番を含む。なお、甲第4号と第6号証は同一の内容)を提出した。
(1)請求の理由
ア 請求人について
請求人は、アメリカに本社を置く大手レコードレーベルの一つで、現在はイギリスのEMIグループの傘下にあり、ジャズ最大手レーベル「BLUE NOTE」の親会社であることでも知られている。(甲第2号証)
したがって、「BLUE NOTE」の名称に関して、出所の混同が生じるおそれのある他人の使用等を排除することにつき、利害関係を有する者である。
イ 請求人の商標について
「BLUE NOTE」レーベルは、1967年にリバティー・レコードの傘下に入り、1968年に同社がユナイテッド・アーティスツと合併したのち、1979年にEMI傘下に入った。これにより、請求人が「BLUE NOTE」レーベルを管理することになった。
請求人の所有に係る「BLUE NOTE」又は「ブルーノート」という商標(以下、「引用商標」という。)は、1939年に設立された長い歴史を有するジャズ専門の名門レコードレーベルの名称を示すものとして日本の音楽愛好者間において認識されている。
引用商標のレーベルの著名性については、請求人の提起した異議2007-900306号の異議決定(甲第9号証)において認定されているのみならず、請求人の所有する商標登録第4859399号(商願2003-116130号)の刊行物提出書において、情報提供者によっても指摘されている(甲第10号証)。
ウ 本件商標登録を無効とすべき理由
(ア)商標法第3条第1項柱書について
商標法第3条第1項は、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、各号に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができるものとしている。
商標審査基準において、「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をしないことが明らかであるときは、原則として、商標法第3条第1項柱書により登録を受けることができる商標に該当しないものとされており、「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をするものであることを明らかにするためには、少なくとも、類似群コードごとに、指定商品又は指定役務に係る業務を出願人が行っているか又は行う予定があることを明らかにする必要があるものとされている。
本件商標登録は、「総合小売等役務に該当する役務を商標法人が指定してきた場合」にも、「類似の関係にない複数の小売等役務を指定してきた場合」にも相当する出願であったにもかかわらず、出願の段階でそれらの小売事業に関する商標の使用又は使用意思を証明するための書類は提出されておらず、また、他の出願において使用された証拠等の援用もなされていない。そして、平成19年12月10日付け起案の拒絶理由通知書においては、「二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についてのみ、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない旨の拒絶理由がなされているが、その他の役務については何ら指摘されていない(甲第16号証)。
商標法第3条第1項柱書の趣旨は、あくまでも、自己の業務に係る商品又は役務について使用をするものが商標として登録されることにあるものであり、前述のとおり、被請求人の「ブルーノート」を冠したジャズクラブに関する事業については、既に当初よりも営業展開が縮小傾向にあることが明確なのであるから、実質的に、将来にわたってその商標の使用範囲を拡大することについては合理的な疑義があるといわざるを得ないのである。よって、柱書の本来の趣旨に基づき、その要件を具備しているか否かを審査すべきであったものといえ、本件商標は商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。
(イ)商標法第4条第1項第15号について
「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」として表示されるいわゆる総合小売については、多種「多様な商品を取り扱い、各種商品の購入の便宜の提供というサービス自体に経済的価値を有するものであり、こうしたサービスに係る出所を表示するものとして商標が登録されるものである。このため、一般的には、特定の商品に係る商品商標とは出所の混同を生ずるおそれが少ないと考えられることから、総合小売に係る役務商標と商品商標との間でのクロスサーチは行わないことが適切である」(第13回産業構造審議会知的財産政策部会商標制度小委員会における配布資料1「商標制度の在り方について(案)」甲第27号証)との考え方に基づき、実際にもそのような運用がなされている。
同配布資料では、続けて、「ただし、具体的な使用状況等によっては、侵害訴訟等において、こうした商標が類似と判断される可能性があることは、通常の役務商標と同様である。なお、総合小売業における業態の相違にかかわらず、商品の選別、品揃え、陳列等の購入の便宜の提供という役務の内容は総合小売業一般に共通しており、複数の総合小売業に係る役務商標が登録された場合には、市場において出所の混同を生じる可能性があることから、こうした役務商標は相互に類似するものとして扱うことが適切であると考えられる。」としている。
このことは、総合小売業の商標については、その取り扱う商品を指定する他人の先出願商標との関係では、商標法第4条第1項第11号に該当するか否かを原則として検討しないとする一方、他人の周知・著名商標との関係で、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのあるときは、商標法第4条第1項第15号に該当する場合があることを肯定するものであると思料する。
一般的に食品を主として取り扱うスーパーマーケットはともかく、百貨店やGMS形態の店舗、あるいはGMS又は百貨店を核とするショッピングセンター(CSC、RSC等)では、音楽CDを自社商品として販売する場合や、テナントとしてCDショップ等が入居する場合などが多く見受けられる。
また、従前の多くの小売事業者は、その建物の頭頂部に小売事業者の屋号を示す棟屋看板を掲げることが主流であったが、近年は、商業施設名称をメインに掲げ、核店に関する店舗名と入居テナントに関する店舗名とが同じような大きさ・バランスで配置されていることも増えてきている(甲第28号証)。
異議2007-900306号において、請求人は、1939年に米国ニューヨークで創設された、音楽史上初のジャズ専門のレコード会社「BLUE NOTE(ブルーノート)」の親会社であり、「BLUE NOTE(ブルーノート)」なるジャズ専門のレコード会社は、世界的に著名なジャズプレイヤーやジャズシンガーなどを輩出し、これらのプレイヤーの演奏曲などを収録したレコード(CDも含む。)が、引用商標の表示のもとに、本件商標の登録出願前より我が国においても多数販売されており、引用商標に接する音楽関連の取引者、音楽愛好家などの需要者は、これより直ちに申立人の子会社である「BLUE NOTE(ブルーノート)」(以下「請求人子会社」という。)の取扱いに係るジャズ専門のレコードのブランド(レーベル)を表示するものと認識していたものと推認することができ、引用商標の表示は、請求人子会社の業務に係る商品「レコード」を表示するためのものとして、本件商標の登録出願前より我が国の音楽関連の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認められている。
一方、異議2005-90387号においては、被請求人の営業に係る表示は、ジャズ愛好家等にとっても、「ブルーノート東京」など、その地名とともに表されるジャズクラブの名称として知られているのであると認定されている。前述のとおり、その後、各地の地名を冠したジャズクラブ「ブルーノート」は次々と営業を中止していったのであるから、それらのジャズクラブを表す名称がその後著名性を増したという事実は考えにくい。
そうすると、例えば、ジャズレーベルとして著名な引用商標が総合小売業における役務表示として用いられる場合、音楽愛好家のみならず一般の需要者等も、より著名性の高いジャズレーベルの引用商標を想起し、あたかもジャズレーベルとして著名な請求人の運営する小売店舗であるか、あるいは小売店舗が入居する商業施設であるか、あるいは請求人と何らかの関係がある商業施設であるのかなどの誤認混同を生じさせる可能性が非常に高い。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(ウ)商標法第4条第1項第19号について
請求人は、著名なジャズレーベルの引用商標を付した商品を日本でも販売しようと計画しているが、被請求人の保有する本件商標と同一又は類似する態様の商標登録が複数の区分に渡って登録されていたため、請求人が、販売ないしはライセンスを予定している商品について、それぞれ商標法第50条に基づく不使用取消審判を請求した。
しかしながら、本願商標が登録されたことにより、本願商標の指定している特定小売に関する役務と、その特定小売において取り扱われる商品とが類似するものとされるため、上記結果にもかかわらず、請求人は、本願商標における役務の指定が障壁となり、著名なジャズレーベルの引用商標を付した関連商品を、販売することができない事態となっている。
本願商標登録の申請において、商標法第3条第1項柱書に関する審査が十分に行われていないため、本願商標が登録されている。また、審査基準上は確かに自己の業務に係る商品又は役務について使用をするものであり、出願に係る商標を使用するか否かを審査するわけではないが、被請求人は「ブルーノート」に係る事業を明らかに縮小する傾向にあり、今後本願における全ての指定役務について実際に使用する蓋然性は低い。
このように、上記産業構造審議会知的財産政策部会において懸念されていた事態がまさに生じており、著名なジャズレーベル「ブルーノート」を付した関連商品を、販売しようとして国内参入を企画した外国権利者の参入が、一区分の登録のみをもって阻止される結果となっている。
被請求人のようないわゆる総合商社は、そもそも複数の商品を取り扱い、また、関連会社等も多く存在することが一般的なのであり、当該業務の属性をもって、いずれの商品の小売に関しても商標の使用意思があるかのように審査官を誤認させることが容易になしえてしまうものであるから、このような場合には、第35類に関する小売業務を行う意思があるのかどうかは十分に慎重に審査されるべきものであった。
なお、本願商標については、設定登録の際の登録料が一括納付ではなく分割納付の形式で納付されている。登録料の納付を一括で行うべきか分割して納付すべきかについては設定登録を受けるものが自由に選択できるものであり、その行為自体には特に不正の目的が推認されるものではない。しかし、事業そのものについては、少なくとも長期間にわたって行う意思がなかったものと考えられ、もって、外国権利者の日本国内への進出を排除するためだけに出願された商標であると考えられる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。
(2)答弁に対する弁駁
ア 請求人について
異議申立(甲第11号証)において、被請求人の業務の、被承継人が主張するように、ジャズレーベルの引用商標とジャズクラブ名称の一部である「BLUE NOTE」とは、指定商品及び役務によっては、混同が生じ得るものと理解されるべきである。
被請求人の子会社は、「BLUE NOTE」事業の営業宣伝活動として、「BLUE NOTE TOKYO」なるフリーペーパーを頒布している(甲第29号証の1ないし3)。当該フリーペーパーでは、ジャズクラブである「ブルーノート東京」に出演する音楽家の紹介記事の中で、当該音楽家のアルバム等が紹介されているが、そのアルバムの中には、請求人と同じく英国EMI社の子会社であり日本において引用商標のレーベルのアルバムを取り扱うEMIミュージックジャパンから販売されているアルバムも多数紹介されている。
また、当該フリーペーパーにおいては、大手レコード店であるHMVとのコラボレーション企画も紹介されるなど、被請求人の営む「BLUE NOTE」事業が、ジャズ音楽そのものと切り離して考えられないものであることは明らかである。
さらに、当該フリーペーパーのNo.135(甲第29号証の1)では、20ページから21ページのホビー・ハッチャーソン氏の紹介記事の中で、黄金のブルーノート・イヤーズとして、まさに請求人の引用商標ロゴを掲載し、引用商標のレーベルが紹介されている。
このような被請求人自らの営業宣伝活動を通してみても、請求人の業務に係る引用商標のレーベルが著名であること、そして、この著名なジャズレーベルの引用商標とジャズクラブ「BLUE NOTE」とは誤認混同が生じうる可能性を含むものであることが極めて明白である。
したがって、被請求人のジャズクラブ「BLUE NOTE」業務に付随する商品販売等の業務において、このような誤認混同を生じさせるおそれはなく、請求人は本件無効審判について利害関係を有する者であるとは認められないとする被請求人の主張は明らかに失当である。
また、請求人は、本件商標における役務の指定が障壁となり、上記の著名なジャズレーベルの引用商標を付した関連商品を販売することができない事態となっているものである。すなわち、請求人は、本件商標登録が無効とされることにより利益を得るものであって、本件無効審判において利害関係を有する者である。
イ 請求人の商標について
被請求人は、レコードレーベルの引用商標が限られたジャズ音楽愛好者の中で知られているに過ぎないと主張するが、甲第29号証の1において被請求人自らが「史上最強のジャズ・レーベル」と認めているとおり、その著名性は極めて高いものである。
被請求人は、引用商標のレーベルがジャズ音楽愛好家を超えて一般需要者に広く認識されている事実が見受けられないと主張するが、例えば、FM放送局であるJ-WAVEの人気番組「W0RLDWIDE15」には、「BLUE NOTE」レーベルとコラボレートしたコーナー「Everyday Blue Note」が開設され、「J-WAVEの人気番組で、毎日ブルーノートが楽しめる」といったコピーとともに宣伝がなされるなど、ジャズ音楽愛好家のみならず、広く一般にも引用商標のレーベルの名は知られている(甲第30号及び第31号証)。
被請求人は、BSフジのテレビ番組「Speak in Music」で音符の図形付きの本件商標が全国規模で相当多数の人に露出されてきたと主張するが、衛星放送の23時台という比較的視聴者が限定されている時間帯での番組の放送をもって、相当多数の人に露出されてきたというのであれば、自らの積極的な意思がなくとも喫茶店などの公共の場所において聴取する機会の多いラジオ番組における宣伝活動では、ジャズレーベルとしての「BLUE NOTE」という言葉をより多数の人に訴求してきたといえよう。
また、昨年、「ブルーノート ベスト&モア 1100」シリーズの発売を記念して、銀座通りに面した銀座山野楽器本店において、ブルーノート創立70周年記念フェアが大々的に開催されるなど、引用商標のレーベルについては、他にも一般の需要者に広く知れ渡るような宣伝活動が行われている(甲第30号証)。
さらに、本年4月21日に発売された「ブルーノート ベスト&モア アンコール」は、その70タイトル全てがジャズ・チャートTOP150にランクインされるなど、引用商標のレーベルは、最近においてもニュースバリューの高い情報を提供しているレーベルである(甲第32号ないし第34号証)。
甲第8号証として示した数多くの出版物、著名FM局ラジオ番組におけるコーナー開設、不特定多数人の回遊性が極めて高い場所における露出、ニュースバリューの高い情報提供など複数の要因をもってすれば、被請求人自らもその営業活動において「史上最強のジャズ・レーベル」と認めているジャズレーベルの引用商標について、一般需要者に広く認識されている事実がないなどという被請求人の主張は明らかに失当である。
ウ 被請求人の「ブルーノート」事業について
乙第3号証は、被請求人のジャズクラブが周知であることを示す証拠として提出されたものと思われるが、被請求人のジャズクラブが周知であることを示す証拠としては不十分なものである。
・YOU TUBEの公式ブログについては、数多くある投稿ページのうち、どのように、また、どの程度露出されたものかが明らかではない。
・“一休.com”という検索サイトの記事については、当該サイトがどの程度一般に利用されているものが明らかではない。
・“はたらいく”というサイトの記事については、単に被請求人自身のジャズ・クラブに係る求人情報ページである。
・“チケ板”というサイトの記事は、ニューヨークの「ブルー・ノート」ビッグジャズという旅行ツアーの紹介であり、そもそも被請求人の業務に係る紹介ページではない。また、当該サイトがどの程度一般に利用されているものかも明らかではない。
また、乙第4号証については、既に述べたように、衛星放送の23時台という比較的視聴者が限定されている時間帯での番組の放送をもって、相当多数の人に露出されてきたということはないものといえる。本件番組の視聴率等がどの程度だったのかは分からないが、テレビ番組は、視聴者の取捨選択により視聴する番組が選ばれるものであり、衛星放送の23時台という時間帯で当該番組を視聴していたのは、専ら“音楽愛好家”とりわけ“ジャズ愛好家”であったと推認できる。
したがって、本件商標が、ジャズクラブ「BLUE NOTE」及びその世界的統一ブランドとして、米国、日本、その他世界的に広く知られているとする被請求人の主張は失当である。
エ 商標法第3条第1項柱書きについて
被請求人は、審査基準及び審査便覧の規定の一部を引用し、本件商標が、これらに定められた適正な手続を経て登録されたものであることを強調するが、「合理的疑義がある場合」には、「指定商品又は指定役務に係る業務を出願人が行っているか又は行う予定があることを明らかにする必要がある」とされているから、これらを前提としても、本件のような場合には、その業務を行っているかどうかについて厳正に審査されるべきものである。
(ア)被請求人は、乙第5号証として過去の出願の例を挙げ、被請求人が本件登録の指定役務に係る「業務」を行っていることが認められていると主張するが、商願2007-29745号の審査において提出した資料を援用したいくつかの小売等業務以外については、どの出願において提出したどのような資料によりこれが認められたのか等は一切述べておらず、どのような具体的根拠に基づいて本件登録の指定役務に係る「業務」を行っていることが認められたというのかが不明である。他の出願については、どのような経緯で業務を行っていると判断されて登録がなされたのかは不明であり、本件とは事案を異にするものであるし、過去の他の出願で登録された事実のみをもって、自動的に現時点でも当該役務に係る業務を行っていることが判断されるというのであれば、審査基準において定められた適正な手続を経て本件商標が登録されたものとは到底認められないというべきである。
ましてや、総合商社という事実のみをもって、これらの特定小売に係る業務を行っているものと認定されたというのであれば、公平の見地からこの点の確認を求めている審査基準に違反して登録がなされたものといわざるを得ない。
また、特定小売又は卸売役務についての商標登録は、それぞれの特定の商品に係る小売又は卸売役務を営む者を保護すべきものである。被請求人は総合商社であるが、被請求人の述べるとおり、「総合商社」は、原則として、多種多様な商品を取り扱い、どのような商品を取り扱うのかが判別されにくいのであるから、そこでの物品販売業務は、百貨店やGMS、スーパーマーケット等の場合と同様に、総合卸売役務と評価すべきものである。
したがって、仮に「総合商社」であることを理由として、ある商標の「使用」及び「使用意思」が認められるということがあり得るとしても、それは、「総合卸売役務」についてのみというべきであり、各種の特定小売や特定卸売役務との関係では、どのような「特定の商品」を取り扱う小売又は卸売を行う意思があるのかについて、具体的な証拠によって個別的に検討がなされるべきである。
(イ)なお、被請求人は、ジャズクラブ「ブルーノート」に関する事業について、「そもそも何をもって営業展開が縮小傾向にあることが明確と断言できるのかその根拠が明らかでない」と主張するが、小売業や飲食業で店舗数を減少させることは、通常は「縮小」と考えられている。特に、被請求人は、4店舗を2店舗に減少し、かつ、大都市である大阪の店舗を閉鎖して「ビルボードライブ大阪」という、似たような業態の営業に転換している(甲第15号証)のであるから、ジャズクラブ「ブルーノート」事業が縮小傾向にあるのは明確である。
(ウ)さらに、甲第17号ないし第26号証で示した不使用取消審判については、全ての件で、商標法第50条に基づく取消請求を行った指定商品について登録を取り消す旨の審決がなされ、被請求人もこれに対して審決取消請求を行わなかったため、商標登録の全部又は一部が既に取り消されている(甲第35号ないし第44号証)。
(エ)以上よりすれば、被請求人の本件商標に関係する事業に関しては、実質的に、将来にわたって、その商標の使用範囲を拡大することについて合理的な疑義があるといわざるを得ないものであるから、本件出願については、商標法第3条第1項柱書の本来の趣旨に基づき、その要件を具備しているか否かを慎重に審査すべきであったにもかかわらず、その審査がなされなかったという点で、本件登録は商標法第3条第1項柱書に違反してなされたものである。
オ 商標法第4条第1項第15号について
(ア)被請求人は、ジャズクラブ「BLUE NOTE」は、ニューヨーク、ミラノ、東京、名古屋で営業しており、その統一ブランドである本件商標は世界的に広く知られていると主張し、また、ジャズクラブの「BLUE NOTE」とレコードレーベルの引用商標は、少なくとも米国及び日本では棲み分けがなされ、別個のものとして認識されていると主張するが、米国で両者の棲み分けが平穏になされているのは、請求人と米国におけるジャズクラブ「BLUE NOTE」の営業主体であるBENSUSAN社との間で合意がなされ、意識的に棲み分けがなされるように業務が行われてきたからに他ならない。
(イ)被請求人は、商標法第3条第1項柱書きにかかる無効理由が存在しない理由として、被請求人が総合商社であるから、本件商標を多種多様な業務に使用することに合理的な疑義は存在しないと主張しているが、意識的な棲み分けもなく、そのように多種多様な分野において類似する商標が使用されれば、需要者に誤認混同を生じさせる結果となるのはむしろ当然のことである。
(ウ)被請求人は、レコードレーベルの引用商標がジャズ音楽愛好家という狭い範囲の中で知られているに過ぎないと断じ、自らの営業するジャズクラブ「BLUE NOTE」は、音楽を聴くだけでなく、美味しい食事やお酒を楽しんだり、くつろぎ、感動や喜びを与える空間としてジャズ音楽愛好家に限らず親しまれていると主張するが、甲第29号証によれば、ジャズクラブ「BLUE NOTE」で提供される料理は一品が3,000円前後もするものである他、シート代も一人当たり1,000円から3,000円程度支払われるというのであるから、当該ジャズクラブが広く老若男女が頻繁に通うことができる価格帯の店舗でないことは明らかである。
(エ)さらに、被請求人の子会社の発行するフリーペーパー(甲第29号証の1ないし3)における宣伝内容も、ジャズ演奏者とそのCD等の紹介を主眼においており、当該ジャズクラブがジャズ愛好家を客層のメインターゲットとしていることは明らかである。
仮に、ジャズ愛好家ではない者が、当該フリーペーパーを手にし、ジャズクラブ「BLUE NOTE TOKYO」に行こうかどうかを検討するためにその内容を見た場合、そのような一般需要者においては、著名レーベル「BLUE NOTE」と当該ジャズクラブ「BLUE NOTE TOKYO」とには何らかの関係があると考えるのがむしろ自然である。
(オ)前記イでも述べたとおり、レコードレーベルの引用商標は不特定多数の一般需要者の注目を集める機会も多く、被請求人自身も「史上最強のジャズ・レーベル」と認めているレーベルなのであるから、レコードレーベルの引用商標は一般需要者に広く認識されている事実がないとする被請求人の主張は、自らのこのような行為自体とも明らかに矛盾する不当なものである。
(カ)被請求人は、インターネットの検索エンジンで、ジャズクラブ「BLUE NOTE」が検索上位に表示されると主張するが、検索エンジンにおいて上位に表示されるかどうかは、リンクの設定等により意図的に操作できることは周知の事実であるから、検索上位に表示されることをもって、ジャズクラブ「BLUE NOTE」がレコードレーベルの引用商標よりも著名であるとする主張は妥当なものではない。
(キ)以上に基づけば、むしろジャズクラブ「BLUE NOTE」の方こそがジャズ愛好家等狭い範囲の中で知られているに過ぎないものというべきであり、音符マークの有無によって本件商標とレコードレーベルの引用商標との識別が可能な者というのは、そのような限られたジャズ愛好家の中でもさらに一部の者だけと考えるのが自然というべきである。
ジャズ愛好家以外の者にとっては、ジャズクラブ「BLUE NOTE」とレコードレーベルの引用商標は混同を生じやすいものと言え、本件商標が商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである旨の請求人の主張は極めて合理的なものである。
(ク)被請求人は、甲第27号証を商標制度の在り方を提案したものにすぎないと論じるが、現行の審査基準、特に小売業者等に係る商標に関する審査基準の考え方の基礎となっているものであり、商標制度の在り方に関する単なる提案というような第三者資料的なものでは決してない。
一般に、商標法律の解釈を行う場合、その商標法目的や立商標法過程を考慮することが必要であるように、審査基準についても、そこに明確に示されてないような事項については、当該審査基準の制定にあたってどのような検討がなされたのかを理解して解釈することが必要であり、合理的である。
(ケ)被請求人は、総合小売業(総合卸売業)は総合商社や百貨店などのような業者が行うものであり、請求人がかかる業務を提供することは通常考えられないと断じるが、小売業の経営主体は、これまでも時代にあわせて多様に変化しており、一般消費者向けの商品を販売する業種に関わる企業であれば、かかる総合小売業務を提供し、またはその経営に関与する可能性も十分にありえることであり、請求人がレコード会社だからといって、総合小売業を営まないとは到底断じえないものと言うべきである。
カ 商標法第4条第1項第19号について
(ア)「不正の目的」については、そもそも出願書類のみから審査官が判断することは困難であるから、同号の違反は、審査官によって出願の審査段階で発見されるというよりも、本件のように、利害関係人からの審判請求により当該無効理由の存否が争われることになった場合に明らかになるのがむしろ通常である。したがって、既に審査を受けて商標登録されたことをもって、「被請求人には不正の目的はないことが明らかである」と断じることはできない。
(イ)被請求人は、同人が保有している多数の「BLUE NOTE」商標登録については、ジャズクラブ事業の一環として関連グッズの販売などを行うために登録していた前事業者から譲り受けたものであり、これらの商標登録と商標法第4条第1項第19号の規定とは何ら関係がないと主張するが、請求人が不使用取消審判を請求したこれらの「BLUE NOTE」商標登録と本件商標登録は、いずれも「BLUE NOTE」に関連し、かつ被請求人の所有に係るものである。
確かに、これら他の「BLUE NOTE」商標登録は、このような関連グッズを商品として指定しているものであり、本件商標登録は小売等役務を指定するものではある。しかし、被請求人は、ジャズクラブ事業の一環として、これら関連グッズの商品に係る製造販売は行ってはいないものの、同じジャズクラブ事業の一環として、同じジャズクラブ「BLUE NOTE」の名を冠した、「総合小売業」と、商品に関する商標登録は不使用を理由に取り消されたものを含む、牛乳から宝石、家具、自動車に至るまでの多種多様な商品を取り扱う「特定小売業」を営むことを計画しているというのであろうか。
(ウ)請求人は、いかにも不自然というべきこのような状況を踏まえて、被請求人が本件商標を用いてこれらの小売業務を行うことには合理的な疑義があるものと考え、本件商標については、請求人の国内参入を阻害するために商標登録出願がなされたものと主張したものである。
このように、請求人が不使用取消審判を請求した「BLUE NOTE」商標登録がいずれも不使用を理由として取り消されたという事実には、本件商標登録に関する不正の目的が推認されるための重要な根拠となっているものであるから、両者は関係がないとする被請求人の反論は明らかに失当である。
(エ)また、被請求人は、請求人が不正の目的推認の根拠として挙げた複数の理由を「こじつけの理論」であるとするが、「不正の目的」の推認は、その性質上当然に複数の事実の積み重ねにより行われるべきものである。
そして、請求人が指摘した複数の事実の積み重ねに基づいて考えれば、被請求人は、従前より、自らが異議を申し立てた事件(甲第9号証)や、被請求人が申し立てた事件(第11号証)などにおいて明らかなように、請求人のレコードレーベルの引用商標の存在を認識しているばかりか、これが自ら「史上最強のジャズ・レーベル」と述べるほどに著名なものであると認識(甲第29号証の1)しているものであって、かつ、自らの業務と密接な関連性を持つことが明らかな商標(甲第29号証の1ないし3)であるにもかかわらず、明らかに縮小傾向にある本件ジャズクラブ事業において、今後本件登録における全ての指定役務について本件商標を実際に使用する蓋然性は極めて低いものと言わざるを得ない状況にありながら、本件商標に関して、1区分のみの料金で網羅的にその取り扱う商品に係る商標登録をも排除できる第35類の小売等役務を指定することにより、請求人の国内参入を不当に阻止していると言えるものである。
(オ)このように事実の積み重ねによって、不正の目的が推認されるべきことは、知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)10079号の判旨からも明らかである(甲第46号証)。
請求人が主張する上記の数多くの事実は、本件出願が、請求人の国内参入を阻止するためになされたものと推認するための根拠として十分なものであることは明らかである。
(カ)被請求人は、本件出願が審査基準等に基づき適正に審査されたこと、自らが総合商社であり各種業務を行っている蓋然性が高いことを強調して、本件出願についてその基準を超える慎重な審査を要求するという請求人の主張は理解できないとするが、上述の甲第45号証にも示されているとおり、現行の審査基準については、甲第27号証として示した「商標制度の在り方」を踏まえて改訂がなされている。審査基準は、審査官の統一的な解釈・運用を目的として作成されたものであるが、全ての事案についての判断基準を予めその基準において示すことは困難であるために、必然的に審査基準には明確に示されていない問題が生じる。請求人は、そのような場合に、当該審査基準の制定にあたってどのような検討がなされたのかを踏まえた運用がなされるべきであると主張しているのである。
また、上述したように、「不正の目的」が複数の事実の積み重ねによって推認されるものであることに鑑みれば、膨大な審査業務を国際調和のもとで迅速に処理しなければならない審査官にとって、通常の審査業務の過程において「不正の目的」を推認するのは困難であると言うべきである。
(キ)この点、本件のような無効審判は、商標登録に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成するために登録処分の適否を審理して是正を図ることを主眼とする異議申立制度とは異なり、特許庁が行った登録処分の是非を巡る当事者間の争いを解決することを目的とするものであるから、このような無効審判においては、審査段階では発見されることが困難な事情を、当事者の側から可能な限り審理の場に挙げるようにして、本来の無効理由の存否について特許庁の審理を仰ぐことは何ら不当なことではない。
(ク)被請求人は、本件出願は正当に審査されたもので不正の目的はないと論じるが、現時点においても、本願商標がどのように使用されているのか、又は使用される予定であるのかについては、全く何も述べていない。この点からも、被請求人がジャズクラブ「BLUE NOTE」事業において、本件登録における全ての指定役務について本件商標を実際に使用する蓋然性は低いと推認されるものと言わざるを得ない。
キ 結語
以上述べたとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備しないものであり、同法第4条第1項第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により取り消されるべきものである。

3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方商標法として乙第1号ないし第12号証を提出した。
(1)請求人について
請求人がレコードレーベルの一つであり、「BLUE NOTE」なるジャズレーベルの親会社であることは認めるが、本件商標がレコードレーベルの「BLUE NOTE」と出所の混同などを生じさせるおそれはなく、よって、本件無効審判につき利害関係を有する者であるとは認められない。
(2)請求人の商標について
請求人の引用商標がジャズレーベルの一つであることは認める。但し、請求人が審判請求書中で「ジャズ専門の名門レコードレーベルの名称を示すものとして日本の音楽愛好者間において認識されている」と自認しているように、レコードレーベルの引用商標がジャズレーベルとして知られているとしても、それは、限られたジャズ音楽愛好者の中で知られているに過ぎない。請求人提出の各証拠からも、ジャズ音楽愛好者を超えて一般需要者に広く認識されている事実は見受けられない。
(3)被請求人の「ブルーノート(Blue Note)」事業について
ア 被請求人の「ブルーノート(Blue Note)」事業は、1981年にニューヨークに設立された名門ジャズクラブ「Blue Note」(乙第1号証)と契約を締結し、1988年に東京にブルーノート東京(乙第2号証)がオープンしたことに端を発する。
イ ジャズクラブ「Blue Note」は、現在ニューヨーク、ミラノ、東京、名古屋でそれぞれ「Blue Note New York」「Blue Note Milano」「Blue Note Tokyo」「Blue Note Nagoya」としてフランチャイズ展開されており、世界的にも名の知られたジャズグラブである。また、「Blue Note」の間に「五線譜及び二重線円中の音符」からなる図形(以下「音符の図形」という。)を有する態様からなる本件商標を、ジャズクラブ「Blue Note」の世界的統一ブランドとして長年一貫として使用しており、音符の図形付きの「Blue Note」は、ジャズクラブ「Blue Note」を表示するものと認識されていると言っても過言ではない。
ウ ジャズクラブ「Blue Note」は、ジャズを中心とする音楽のトップ・アーティストたちを出演させ、ライブと共に愉しめるおいしい料理・お酒を提供し、くつろぎ、感動や歓びを味わえるクラブとして我が国でも人気を博している(乙第3号証)。
エ また、東京のジャズクラブ「Blue Note Tokyo」で毎晩繰り広げられている素晴らしいライブ演奏プログラムの中から選りすぐりのライブが、BS朝日のテレビ番組「Speak in Music」で、2007年10月?2009年8月まで毎週土曜日及び日曜日に全国放映された。音符の図形付きの「Blue Note」すなわち本件商標が、全国規模の相当多数の人に露出されてきたことがうかがえる(乙第4号証)。
オ このように、ジャズクラブ「Blue Note」及びその世界的統一ブランドである本件商標は米国や日本をはじめ世界的に広く知られており、本件商標は、被請求人の日本におけるジャズクラブ「Blue Note」の事業の一環として正当に商標登録されたものである。
(4)商標法第3条第1項柱書について
商標法第3条第1項柱書については、商標審査基準や審査便覧に明記され、指定商品又は指定役務に係る「業務」を出願人が行っているか、又は、行う予定があるかどうかを審査することが一般に知らしめられている。
ア 被請求人は多種多様な商品を取り扱う総合商社であり、本件登録の指定役務に係る「業務」を行っていることは既に過去の多数の出願において認められており(乙第5号証)、「二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」についても、商願2007-29745における「業務」証明の援用を行ったものである。
イ 請求人は、「被請求人の『ブルーノート』を冠したジャズクラブに関する事業については、既に当初よりも営業展開が縮小傾向にあることが明確なのだから」と主張しているが、そもそも何をもって営業展開が縮小傾向にあることが明確と断言できるのか、その根拠が明らかでない。請求人は、「ブルーノート大阪」及び「ブルーノート福岡」についても現在は営業を行なっていないことや、請求人からの不使用取消審判に対し十分な使用証拠を提出されなかった旨を強調しているが、これらをもって、被請求人の「ブルーノート」事業が縮小傾向にあることには繋がらないのであって、また、そもそも出願人の「業務(ブルーノート事業以外の業務も含まれる)」の確認を通じて行なわれる商標法第3条第1項柱書の審査には何ら影響を与えないことは明らかである。
ウ さらに、請求人は「実質的に、将来にわたってその商標の使用範囲を拡大することについては合理的な疑義があるといわざるを得ないのである。よって、柱書の本来の趣旨に基づき、その要件を具備しているか否かを審査すべきであったものといえ、本件商標登録は商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものである。」旨主張しているが、前記のように総合商社である被請求人の業務は多岐に及んでいることを考慮すると、被請求人が当該小売役務に係る業務を行うことについて合理的な疑義があるとは到底言えない。
エ 上記のとおり、本件商標は商標法第3条第1項柱書の要件に違反して登録されたものではないことは明らかである。
(5)商標法第4条第1項第15号について
ア ジャズクラブ「Blue Note」は、ニューヨーク、ミラノ、東京、名古屋で営業しており、その統一ブランドである本件商標は、世界的に広く知られている。一方、米国及び日本では、レコードレーベルの引用商標も展開されているが、ジャズクラブの「Blue Note」とレコードレーベルの引用商標が需要者に混同を生じさせた事実は存在しない。すなわち、ジャズクラブの「Blue Note」とレコードレーベルの引用商標は、少なくとも米国及び日本では棲み分けされ別個のものとして認識されているものである。
イ レコードレーベルの引用商標は、ジャズ音楽愛好家という狭い範囲の中で知られているに過ぎず、「一般の需要者」に知られている事実は全く立証されていない。例えば、百貨店やショッピングセンターなどの総合小売業を営む店舗には老若男女問わず多数の人が訪れるが、その大部分はジャズに関心のない「一般の需要者」である。大部分を占める一般の需要者は、レコードレーベルの引用商標の名前も知らないので、ジャズレーベルの名称であることを想起・連想できるはずはなく、ましてや、請求人と何らかの関連ある商業施設であるかなどの誤認混同することはありえない。
ウ 一方、被請求人のジャズクラブ「Blue Note」においては、音楽を聴くだけではなく、美味しい食事やお酒を楽しんだり、くつろぎ、感動や歓びを味わえる空間として親しまれている。したがって、訪れる人はジャズ音楽愛好家に限定されず、音楽に関心のない人も、デートや付き合いで来店することも少なくない。
エ インターネットが広く普及し一般に広く使用されている昨今、例えば代表的な検索エンジンGoogleで「ブルーノート」と入力すると、予想されるキーワードが10件表示されるが、そのうちの7件が被請求人側のジャズクラブ「Blue Note」に関するものである(乙第6号証)。また、実際の検索結果においても上位3件が被請求人側のジャズクラブ「Blue Note」に関するもので、請求人側のレコードレーベルの引用商標に関するウェブサイトはその後に表示されるにすぎない(乙第7号証)。「blue note」で検索した場合も同様の結果である(乙第8号証)。
また、他の代表的な検索エンジンYahoo、エキサイトの検索結果においても、ヒットするウェブサイトはいずれも被請求人側のジャズクラブ「Blue Note」に関するものが上位である(乙第9号ないし第12号証)。
オ さらに、本件商標は「Blue Note」のみではなく、被請求人がシンボルマークのように長年一貫して使用している「音符の図形」を含むものである。
カ このような状況に鑑みれば、「BLUE NOTE」の表示、特に音符付きである態様については、請求人のレコードレーベルの引用商標というよりはむしろ被請求人のジャズクラブ「Blue Note」を想起する者の方が多いと思われる。とすれば、本件商標がレコードレーベルの引用商標に係る請求人の業務と混同されるおそれはない。
キ 上記のように、ジャズクラブ「Blue Note」とレコードレーベルの引用商標が実際に市場において混同されておらず、また、混同のおそれも存在しない。したがって、本件商標が「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について使用された場合であっても、請求人の業務に係る商品等と混同を生ずるおそれはなく、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
ク また、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」すなわち「総合小売業(総合卸売業)」は、被請求人のような総合商社や百貨店などが行なう業務であり、レコードレーベルの一つである請求人がかかる役務を提供することは通常考えられないことであり、将来的にも混同が生じるおそれはない。
(6)商標法第4条第1項第19号について
ア 商標法第4条第1項第19号に該当するためには、いわゆる「不正の目的」が必要であるが、本件商標は、被請求人のジャズクラブ「Blue Note」事業の一環として正当に商標登録されたものであり、被請求人には不正の目的はないことは明らかである。
イ 請求人は、被請求人が保有する多数の商標登録に対する不使用取消審判の審決にもかかわらず、本願商標が登録されたことにより、「BLUE NOTE」を付した関連商品を販売することができない事態となっている旨述べているが、被請求人が保有している多数の「BLUE NOTE」商標登録については、ジャズクラブ事業の一環として関連グッズの販売などを行うために登録していた前事業者から譲り受けたものであり、これらの商標登録と商標法第4条第1項第19号の規定とは何ら関係がない。
ウ また、商標法第3条第1項柱書の審査の不十分性、被請求人のブルーノート事業が縮小する傾向にあることから、本願指定役務についての使用の蓋然性の低さ、などを再度主張しているが、これらをもって商標法第4条第19号、特に「不正の目的」を推認するなどというのは請求人のこじつけの理論である。
エ 請求人は、「被請求人のようないわゆる総合商社については、第35類に関する小売業務を行う意思があるのかどうかは十分に慎重に審査されるべきであった」旨主張しているが、審査基準や審査便覧に明記されている規準に基づき審査されたにもかかわらず、業務を行っている蓋然性が極めて高い総合商社についてそれを越える慎重な審査を要求するという請求人の主張は、到底理解できない。
オ また、請求人は、本件登録の登録料納付が一括納付ではなく、分割納付の形式で納付されていることをもって、「事業そのものについては、少なくとも長期間にわたって行なう意思がなかったものと考えられ、もって、外国権利者の日本国内への進出を排除するために出願された商標であると考えられる」と主張しているが、この点についても「不正の目的」とは何ら関係ないことは明らかである。登録料の納付を一括で行なうか分割して納付するかは、設定登録を受けるものが自由に選択できるものであり、分割納付を選択する理由は、経済的理由やサイクルが短い商品/役務に関する商標である場合などの戦略的理由等様々である。また、外国権利者の国内参入を阻止する等の不正の目的があるのであれば、逆に登録料を一括納付してできる限り長い権利保有を図ると考えられる。登録料の分割納付という事実をもって「外国権利者の日本国内への進出を排除する」という不正の目的があるとするのは全く合理的ではない。そればかりか、請求人は、商標法において定められた「登録料の分割納付」は外国権利者の日本国内への進出を排除するために悪用され不正を助長する制度であると主張しているとも見受けられ、請求人の主張は明らかに失当である。
カ したがって、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しないことは明らかである。
(7)結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するものであり、かつ、同法第4条第1項第15号及び同第19号に該当するものではない。したがって、同法第46条第1項第1号の規定により本件商標登録は無効とされるべきではない。

4 請求人に対する証拠調べ通知
出願人の業務に関する職権による調査については、「商標審査便覧」に記載された内容に準じ、主に出願人のインターネット等により確認を行っているものであり、本件については、被請求人の査定時のインターネットウェブページにおいて確認し、確認できなかった小売り等役務については、拒絶理由を通知し、提出に係る当該小売等役務を行っている事実を証明する書面により確認したものである。したがって、本件指定役務について、商標の使用の前提となる指定役務に係る業務を出願人が行っているか否かについて疑義はなく、本件は、商標法第3条第1項柱書きの要件を具備するものである。

5 当審の判断
(1)利害関係について
本件審理に関し当事者間に利害関係についての争いがあるので、その点について判断する。
請求人は、本件商標が使用されることによって、同人の商品に使用される商標との間で、商品等の出所について混同を生ずるおそれがあると主張する商標の使用者と認められるから、本件商標の登録の存否によって、自己の商標の管理・使用に関して直接的な影響を受け得る者と認められる。
してみれば、請求人は、本件商標の登録についての登録の無効を求めることには理由があり、本件審判の請求について利害関係を有する者というべきである。

(2)本件商標について
本件商標は、別掲に示すとおり、「Blue」と「Note」の欧文字の間に、五線と音符記号からなる図形を配してなるものであるが、その構成中「Blue Note」の文字部分より、「ブルーノート」の称呼を生ずるものである。

(3)引用商標と本件商標との類似性について
引用商標は、「BLUE NOTE」の欧文字からなるところ、本件商標の文字部分と同様に、「ブルーノート」の称呼を生ずるものである。
しかして、本件商標と引用商標とは、外観構成全体においては、図形部分の有無という差異を有するとしても、構成文字の綴り及び「ブルーノート」の称呼を同一にするものであるから、類似の商標と判断するのが相当である。

(4)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知性について
請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、請求人は、米国ロス・アンジェルスに本社をおく大手レコードレーベルの一つで、ジャズ大手レーベル「BLUE NOTE(ブルーノート)」の親会社である。
そして、「BLUE NOTE」は、音楽史上初めてのジャズ専門レーベルとして、今日に至るまで数多くのジャズ演奏家を輩出し、これらの演奏曲などを収録したレコード(CDも含む。)を、「BLUE NOTE(ブルーノート)」の表示のもとに多数販売しているものである。
また、我が国においても、遅くとも昭和40年代には、レコード(CDも含む。)の販売が開始され、また、1986年から1996年まで、「ワン・ナイト・ウィズ・ブルーノート」のコンサートが開催され、数々の著名ミュージシャンが出演したこと等により、「BLUE NOTE(ブルーノート)」に接する音楽関連の取引者、音楽愛好家などの需要者は、これより直ちに請求人の子会社である「BLUE NOTE(ブルーノート)」の取扱いに係るジャズ専門の「レコード(CDも含む。)」のレーベルを表示するものとして、本件商標の登録出願前より我が国の音楽関連の取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認め得るものである。
しかしながら、その周知性の及ぶ範囲は、「レコード(CDも含む。)」のレーベルに限られるものであって、提出に係る全証拠を総合して勘案しても、「レコード(CDも含む。)」を超えて広く一般に知られ著名なものとなっていたとまでは認めることができない。
イ 引用商標が使用される商品と本件商標の指定役務について
引用商標は、ジャズ専門の「レコード(CDも含む。)」のレーベルとして使用されるものである。
そして、本件商標は、前記1に記載のとおり、衣料品、飲食料品及び生活用品に係る総合小売等役務と特定小売等役務を指定役務とするものである。
ところで、総合小売等役務は、主に百貨店・スーパーマーケット等において小売又は卸売の業務において行われる便益の提供であって、総合商社等が行う場合が多く、また、特定小売等役務は、品揃えする商品を特定し、その商品の小売又は卸売の業務において行われる便益の提供である。そして、品揃えする商品を特定して小売り等役務を提供する場合、これら品揃えされた商品と同一又は類似の商品の販売に、同一又は類似の商標が使用されたときは、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるというのが相当であるところ、引用商標が使用される商品は、「レコード(CDも含む。)」であるのに対し、本件商標の指定役務は、「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,」等であるから、その指定役務中に「レコード(CDも含む。)」及びこれと類似する商品は、含まれていないものである。
したがって、引用商標が使用される商品と、本件商標の指定役務とは、類似しない。
ウ まとめ
以上よりすれば、本件商標と引用商標とは、その観念及び称呼を共通にする類似の商標であるとしても、引用商標の周知性は、「レコード(CDも含む。)」に限られるものであって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、その商品の範囲を超えて、我が国内の需要者の間に広く認識されていたものとまでは認めることはできない。
また、本件商標の指定役務は、「レコード(CDも含む。)」に関する役務を含むものではなく、本件商標をその指定役務に使用しても、需要者、取引者が引用商標を想起し連想し、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務の如く誤認するおそれがあったとはいい難いものであるから、出所について混同を生ずるおそれはなかったというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

(5)商標法第4条第1項第19号該当について
ア 本件商標は、被請求人が同人に係る事業の一であるジャズクラブについて従前より継続して使用してきた標章と同一(乙第1号ないし第4号証、甲第29号証の1ほか)であり、その構成文字「Blue Note」は、元々、音楽用語としての「長音階の第3度と第7度を半音下げること、あるいはその音」を意味する語でもあるから、該語が請求人による造語とも言い難く、その他構成態様に顕著な特徴を有するものということもできないものである。
イ そして、前述のとおり、引用商標が使用され、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国において、申立人の業務を表すものとして需要者の間に広く認識されていたといえる商品は、「レコード(CDも含む。)」に限るものであって、かつ、本件商標の指定役務に「レコード(CDも含む。)」及びこれに類似する役務は、含まれていない。
ウ 請求人は、著名なジャズレーベルである引用商標を付した商品を日本でも販売しようと計画していること、被請求人は「ブルーノート」に係る事業を明らかに縮小する傾向にあり、今後、全ての指定役務について本件商標を実際に使用する蓋然性は低い状況にありながら、1区分のみの料金で網羅的にその取り扱う商品に係る商標登録をも排除できる小売等役務を指定していること等を挙げ、本件商標が請求人の国内進出を阻止する目的で出願されたものである旨、主張している。
しかしながら、本件商標の権利者が、引用商標を使用した商品「レコード(CDも含む。)」が著名であることを知りながら本件商標を出願したものであるとしても、その事実が直ちに引用商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させる等の不正な目的を有するということはできない。
また、被請求人の「ブルーノート」に係る事業が、縮小する傾向にあるとしても、該事業は、ジャズクラブハウスが提供する「音楽の演奏の興行の企画又は開催、飲食物の提供」等であるから、本件指定役務とは類似しないものであり、本件商標権の取得との関連性を見いだすことはできない。
したがって、該事業の実情をもって、本件指定役務全てについて、本件商標を実際に使用する蓋然性は低い、とまではいうことができない。
エ さらに、「BLUE NOTE」に関する他の商標権が取り消されたとしても、その事実は、あくまで使用していないことが理由であって、その他、請求人提出に係る証拠及び請求人の挙げる諸事情を総合勘案しても、本件商標が、請求人の国内進出を阻止する目的で出願されたものと推認することはできない。
オ まとめ
以上のとおり、請求人の主張及び提出に係る全証拠によっては、本件商標が引用商標に依拠し、不正な目的で使用するものであるとすべき的確な理由を見出すことはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

(6)なお、請求人に対し、本件が商標法第3条第1項柱書きの要件を具備する旨の職権証拠調べを通知したが、請求人からの回答はなかった。

(7)結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第3条第1項柱書の要件を具備するものであって、同法第4条第1項第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 <本件商標>

審理終結日 2010-10-18 
結審通知日 2010-10-20 
審決日 2010-11-04 
出願番号 商願2007-30107(T2007-30107) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (X35)
T 1 11・ 222- Y (X35)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 久保田 正文 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 田中 亨子
野口美代子
登録日 2008-12-19 
登録番号 商標登録第5190076号(T5190076) 
商標の称呼 ブルーノート 
代理人 竹内 耕三 
代理人 杉山 直人 
代理人 深見 久郎 
代理人 向口 浩二 
代理人 森田 俊雄 
代理人 山崎 行造 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社   サービスに関しての問い合わせ