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審決分類 審判 査定不服 商4条1項7号 公序、良俗 登録しない X28
管理番号 1263034 
審判番号 不服2011-18943 
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-01 
確定日 2012-08-30 
事件の表示 商願2010-30917拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は、別掲のとおりの構成よりなり、第28類「運動用サポーター,その他の運動用具」を指定商品として、平成22年4月19日に登録出願されたものである。


2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、その構成中にイギリスの生物学者として有名な故人である『Charles Robert Darwin』の略称を表す『DARWIN』の欧文字を有するものであるから、このような商標を、故人の遺族並びにその遺産の管理財団などとの関係を有する者とは認められない出願人が商標として採択、使用することは、世界的に有名な故人の名声に便乗し、その名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、商取引の秩序を乱すものであって、我が国の国際的な信頼を損なうおそれがあり、ひいては国際信義に反するものといわざるを得ず、公の秩序を害するおそれがある。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審の判断
(1)ダーウィンについて
ダーウィン(Charles Robert Darwin)(1809?1882)は、イギリスの生物学者であり、進化論を首唱し、生物学・社会科学および一般思想界にも影響を与え、「種の起原(源)」、「ビーグル号航海記」を著した者として、世界的に著名な故人である(以下、同人を「故ダーウィン」という。)。
また、請求人も、本願商標中の「DARWIN」が、著名な歴史上の人物である故ダーウィンの名前の一部に一致すること、及び同人が、生物の進化論ないし「種の起原(源)」の提唱者として現代においても世界的に知られているイギリス人学者であることを争っていない。
(2)「DARWIN」から故ダーウィンを想起することについて
ア 学習用の英和辞典
本願商標の構成中「DARWIN」を学習用の英和辞典で参照すると、故ダーウィンを表す語の見出しとして立項されている(グランドセンチュリー英和辞典第2版 株式会社三省堂発行、ベーシックジーニアス英和辞典初版 株式会社大修館書店発行)。また、前記の辞典において、「DARWIN」に関して故ダーウィン以外の者は、立項されていない。
イ 国語辞典類
本願商標の構成中「DARWIN」に通じる「ダーウィン」が、故ダーウィンを表す語の見出しとして立項されている(広辞苑 第六版 株式会社岩波書店発行、大辞泉増補・新装版 株式会社小学館発行及びコンサイスカタカナ語辞典 第4版 株式会社三省堂発行)。また、オーストラリア北部の港湾都市についても「ダーウィン」が立項されている(前掲広辞苑、大辞泉)が、この都市名は、故ダーウィンにちなむものであるとの記載がある(前掲大辞泉)。
ウ 原審において挙示した新聞記事
(ア)「ダーウィン生誕200年、あす長崎大で講演会 /長崎県」の見出しのもと「ダーウィン生誕200年と『種の起源』出版150年を記念した講演会『生命と進化2009?長崎からダーウィンを考える会』(長崎大など主催)が、24日午後5時半から長崎大医学部良順会館2階ボードインホール(長崎市坂本1丁目)で開かれる。」との新聞記事(2009年11月23日付け朝日新聞 西部地方版/長崎 23頁)がある。
(イ)「サンシャイン国際水族館:ダーウィンゆかり、珍しい生物を紹介 /東京」の見出しのもと「豊島区東池袋のサンシャイン国際水族館で、ダーウィンの生誕200周年にちなみ、珍しい生き物たちの生態を紹介する夏期特別展『ダーウィン!生きもの大図鑑?ヒゲじいのなぜ?どうして?』が開かれている。」との新聞記事(2009年8月22日付け毎日新聞地方版/東京 27頁))がある。
前記の新聞記事は、原審で引用されたものであるところ、いずれも「ダーウィン」が、故ダーウィンを指すものとして記載されているものである。
エ 故ダーウィンをテーマとする展覧会の開催
故ダーウィンをテーマにした展覧会が、アメリカ自然史博物館(ニューヨーク)で2005年から2006年に開催され、その後ブラジル、ニュージーランドを経て、2008年に国立科学博物館で開催されたこと(「ダーウィン展」のインターネットウェブサイト(http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/ueno/special/2008/darwin/index.html))、また、同展には、皇族の参観もあり、21万人以上が入場したこと、その後、大阪市立自然史博物館で開催されるとの新聞記事(2008年6月13日付け読売新聞東京朝刊33頁、同紙同年同月20日付け東京夕刊18頁及び同紙同年同付23日付け東京朝刊34頁)。
前記のインターネット情報及び新聞記事は、いずれも「ダーウィン」が、故ダーウィンを指すものとして記載されているものである。
オ 故ダーウィンに係る児童向け書籍
故ダーウィンの伝記を内容とする児童向けの書籍に、故ダーウィンが取り上げられている(「小学館版 学習まんが人物館 ダーウィン」に係るインターネットウェブサイト(http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784092700246))ところ、その表紙には、故ダーウィンの似姿を背景に顕著に「ダーウィン」の文字が表示されているものである。
前記からは、児童向けの知名人の伝記の題材として故ダーウィンが取り上げられ、「ダーウィン」が、故ダーウィンを指すものとして、児童向けの書籍にも用いられていることがうかがえる。
カ 前記アないしオからすれば、本願商標の構成中の「DARWIN」は、故ダーウィンの略称として著名なものというのが相当である。また、我が国において、世代を超えて広く親しまれ敬愛されている人物であるといえる。
(3)故ダーウィンの母国における名声
ア 英国紙幣の肖像
原審の説示したとおり、故ダーウィンは、英国の10ポンド紙幣のモデルとなっている(「新デザインの10ポンド札発行--イングランド銀行」との見出しのもと「イングランド銀行(英中央銀行)は7日、新デザインの10ポンド(約1600円)札を発行した。大きさや色調は従来の札と同じ。表側には引き続きエリザベス英女王の肖像をあしらうが、裏側に描く人物を作家チャールズ・ディケンズから、生物学者のチャールズ・ダーウィンに変更した。」との新聞記事(毎日新聞2000年11月8日付け東京朝刊9頁)がある)。
イ 英国放送協会の視聴者調査
原審の説示したとおり、故ダーウィンは、2002年に英国放送協会(BBC)が行った最も偉大な英国人の投票で第4位に選ばれている(「【チャイム】最も偉大な英国人は…?」との見出しのもと「◇…最も偉大な英国人はチャーチル元首相-。英BBC放送の視聴者投票で、こんな結果が出た。二位は鉄道建設に貢献した土木・造船技術者ブルネル、三位はダイアナ元皇太子妃。◇…投票には視聴者、百万人以上が参加し、元首相は二位に約五万六千票以上もの差を付ける約四十五万票を獲得。・・・四位以下はダーウィン、シェークスピア、ニュートン、ジョン・レノンが続いた。」との新聞記事(産経新聞2002年11月27日付け東京朝刊31頁)がある。)。
ウ 生誕200年の記念行事・切手
故ダーウィンの生誕を記念した行事が開催され、切手が発行されている(「ダーウィンも生誕200年-英でイベント」との見出しのもと「【シュルーズベリー(英中部)12日共同】進化論の祖、チャールズ・ダーウィンが生まれてから二百年となる十二日、生誕地の英中部シュルーズベリーなどダーウィンゆかりの地では記念行事が行われた。今年は進化論を説いた「種の起源」発表から十一月で百五十年となることもあり、英郵便会社ロイヤル・メールは十二日に記念切手を発行。英各地で十一月までダーウィンをテーマにしたさまざまな催しが開かれる。シュルーズベリーでは同日、街の中心部でイベントを開催した。」との新聞記事(静岡新聞2009年2月13日付け朝刊4頁)がある。)。
エ 故ダーウィンの業績をたたえて制定された賞
故ダーウィンを記念した賞が、英国王立協会によって授与されている(「素顔/遺伝学の最高権威ダーウイン・メダル受賞した木村資生(きむら・もとお)氏」との見出しのもと、「遺伝学の最高権威ダーウィン・メダルを東洋人として初めて受賞した 木村資生氏(きむら・もとお)昭和22年京大理卒、24年国立遺伝学研究所研究員、59年同教授、63年同名誉教授。51年文化勲章受章、62年カーティー賞など受賞。愛知県出身、・・・ダーウィン・メダルは、英国王立協会がダーウィンの偉業を記念し制定した進化生物学、遺伝学の世界最高の賞。百年を超える歴史(注:下線は審決において付加)の中で、外国人の受賞はノーベル賞受賞者など数人だけ。・・・」(日刊工業新聞1992年12月23日付け3頁)との新聞記事がある)。
オ 故ダーウィンの住居
故ダーウィンが40年以上生活し、「種の起原(源)」を著した住居(「ダウンハウス」)が、現在でも保存され、名所となっている(「AB-ROAD/エイビーロード」の「ダーウィン生誕200年!チャールズ・ダーウィンの家を訪ねてみよう」に係るウェブサイト(http://www.ab-road.net/europe/uk/london/guide/03176.html)、「英国政府観光庁」の「イングリッシュ・ヘリテージ・オーバーシーズ・ビジター・パス」の「詳細」に係るインターネットウェブサイト(http://www.visitbritainshop.com/japan/attractions/history-and-heritage/product/english-heritage-overseas-visitor-pass.html#tab2))。
カ 上記アないしオによれば、故ダーウィンは、その母国である英国において、広く親しまれ敬愛されている人物であることが優に推認できる。
(4)本願商標の構成・態様
本願商標は、前記1のとおりの構成よりなり、図形部分と欧文字から構成されている。しかして、その欧文字は、先に説示したとおり、故ダーウィンを直ちに認識させるものである。他方、図形部分は、直ちに何を表したものか判然としないものというのが相当である。また、図形部分の右端の図形と欧文字の右端の「N」の文字が緑色に彩色され、その余の部分は黒色で表現されているとの本願商標の構成・態様に照らしても、それゆえに、欧文字部分から故ダーウィンを想起することが阻害されるとは言い難い。結局、本願商標は、故ダーウィンを想起させるものというのが相当である。
(5)本願の経緯
本願商標の出願の経緯における請求人の主張を踏まえても、故ダーウィンを想起させる本願商標を採択するのに合理的な事情は見当たらない。
そうとすれば、本願は、故ダーウィンを直ちに認識させる略称をもって、同人の名声に便乗する意図に出たものと推認しうるものである。
(6)小括
前記(1)ないし(5)によれば、故ダーウィンは、英国の生物学者として、現在においても、少なくとも我が国及び英国において、著名な存在であると同時に広く親しまれ敬愛されている人物ということができる。
そして、「DARWIN」は、故ダーウィンを表す略称として、著名であると認められ、正式な同人の氏名の表記(Charles Robert Darwin)ではなくとも、現在において、同人を直ちに認識させるものである。
また、本願商標は、先に説示したとおり、その構成中の図形部分の存在、着色により、故ダーウィンを想起することが妨げられるということはできない。
してみれば、本願商標をその指定商品について登録することは、著名な故ダーウィンの著名な略称をもって、その名声に便乗し、指定商品についての使用の独占をもたらすことになり、故ダーウィンの名声、名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものとして、公の秩序又は善良の風俗を害するものといわざるを得ない。
したがって、本願商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(7)請求人の主張について
ア 請求人は、本願商標は、猿人から人類へと進化する様子を湾曲した線で図案化した図形部分と、その図形部分の色調に合わせて彩色された「DARWIN」の欧文字部分とを組み合わせてなる。とりわけ、黒色を基調としながらも、図形部分の右端湾曲線と欧文字部分の右端の「N」の欧文字が同じ緑色で着色されているために、本願商標全体としてデザイン的な統一感が演出されている。したがって、実際の商取引においては、欧文字「DARWIN」のみが独立して看取されるとみるよりも、むしろ本願商標全体として一体的に把握され認識されるものと考えられ、「DARWIN」の文字部分のみをもって判断されるべきではない旨主張する。
しかしながら、本願商標の構成・態様を踏まえても、故ダーウィンが我が国において世代を超えて広く認識されており、その略称である「DARWIN」が故ダーウィンを想起させるものとして著名であることに照らせば、前記(5)のとおり、故ダーウィンを直ちに認識させるものであるというべきである。
また、請求人の主張のとおり、本願商標中の図形部分が人類の進化の過程を抽象的に描いたものであると客観的に看取されるものであるとすれば、進化論を唱えた故ダーウィンと進化の過程を描いた前記図形部分とは、「進化」との観点から同人との関連性を看者に強く認識させる図形というべきである。したがって、当該図形は、当該欧文字を故ダーウィンと認識することを更に補強・支持するものというべきである。
そうとすれば、本願商標を全体として把握、認識した場合においても、前記(6)の判断が左右されるものではない。
イ 請求人は、今日、「DARWIN」の語は、一般的に使用されているから、必ずしも一義的に故ダーウィンを指称しない旨主張する。
しかしながら、「DARWIN」の語は故ダーウィンを直ちに認識させるというのが相当であって、他の事物を指し示す語として「DARWIN」の語が使用される事例があるとしても、前記(6)の認定が左右されるものではない。
なお、前記(2)イのとおり、オーストラリア北部の港湾都市「ダーウィン(Darwin)」は、故ダーウィンにちなむものである(前掲大辞泉には、同市の旧名がパーマストンであるところ、博物学者ダーウィンにちなみ改称した旨の記載がある。)から、同人の名前を市名とするほど同人が敬愛されていることを裏付けるものというべきである。
ウ 請求人は、母国である英国においてすら故ダーウィンは商標登録されている旨主張する。
しかしながら、我が国と法制度及びその運用解釈が相違する外国の商標登録の事例により、本件の判断が左右されるものではない。
エ 請求人は、商標法第4条第1項第7号に係る審査基準を引用して、前記アないしウに主張した事情に加えて、本願の指定商品は故ダーウィンやその業績とは全く無関係な商品であること、本願の指定商品と同一の商品の区分(第28類)において、「ダーウィン」の片仮名と「DARWIN」の欧文字を二段併記してなる商標が登録されている(商標登録第4340730号)こと及び前記の審査基準において参考として挙げられた「Juventus」事件及び「カーネギー・スペシャル/CARNEGIE SPECIAL」事件と本願商標とは、事情が相違することを主張する。
しかしながら、前記のとおり、本願商標からは故ダーウィンを想起するものであり、同人の著名性、また、その母国である英国を代表する知名人とされていることからすれば、同人及びその業績と本願の指定商品との関連性の強弱が、本件の判断を左右するものということはできない。
また、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かは、本件の審決時において、個別かつ具体的に判断がなされるべきものであり、他人の商標登録の存在や、他の商標に係る裁判例の存在により、本件の判断が左右されるものではない。
なお、世界的に著名な故人を想起させる商標(ダリ/DARI)についての商標法第4条第1項第7号に係る裁判例(平成13年(行ケ)第443号、平成14年7月31日東京高等裁判所判決)が存在し、同事件では、前記商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するとの判示がなされていることを付言する。
してみれば、請求人の主張は、いずれも理由がなく採用することができない。
(8)結語
以上のとおり、本願商標が、商標法第4条第1項第7号に該当するものとして、本願を拒絶した原査定は、妥当であって取り消すことはできない。
よって、結論のとおり、審決する。
別掲 別掲(本願商標)

(色彩については原本参照)


審理終結日 2012-06-27 
結審通知日 2012-07-03 
審決日 2012-07-19 
出願番号 商願2010-30917(T2010-30917) 
審決分類 T 1 8・ 22- Z (X28)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 半田 正人 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 内田 直樹
前山 るり子
商標の称呼 ダーウイン 
代理人 森 寿夫 

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