• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X32
管理番号 1262963 
審判番号 無効2011-890099 
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-11 
確定日 2012-08-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第5104786号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5104786号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5104786号商標(以下「本件商標」という。)は、「PROSTEL」及び「プロシュテル」の文字を上下二段に横書きしてなり、平成19年6月8日に登録出願、第32類「ビール,飲料水,清涼飲料,果実飲料」を指定商品として、同年12月7日に登録査定、同20年1月11日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第44号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1) 請求の理由の要旨
本件商標は、請求人が、世界各国で販売するノンアルコールビールについて使用する商標として広く知られた商標と同一又は類似であり、請求人から当該ノンアルコールビールを購入(日本に輸入)して日本で販売している被請求人により、不正の目的をもって使用するために出願され、商標登録されたものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
また、被請求人は、請求人との間で当該ノンアルコールビールの輸入販売について交渉をしておきながら、請求人に無断で本件商標を出願し、商標登録を受けたものであるから、その出願はひょう窃的であって、被請求人が本件商標に係る商標権を得たことは、国際商道徳、国際信義に反するものといわざるを得ないので、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、その商標登録を無効とされるべきである。
(2) 引用商標
請求人は、欧文字の「PROSTEL」の文字からなる商標を、別掲(1)ないし(3)に示す態様で、自己の業務に係る商品「ノンアルコールビール」について、1980年から現在まで継続して使用している(以下、別掲(1)ないし(3)の商標をまとめて「引用商標」という。)。
そして、引用商標は、当該ノンアルコールビール(以下、引用商標を表示した請求人のノンアルコールビールを「本件ノンアルコールビール」という。)を輸出している各国の需要者・取引者の間に広く認識されるに至った周知な商標である。
(3)具体的理由
ア 本件審判請求に至る経緯
(ア)請求人は、1718年にドイツのハンベルグで創業した老舗のビール醸造メーカーであり、1980年6月から本件ノンアルコールビールの製造販売を始め、同年10月29日には、西ドイツ(当時)で商標「PROSTEL」を商標登録した(甲第2号証ないし甲第4号証)。
1983年頃からは、ヨーロッパ諸国のみならず、米国、カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、イエメン等に本件ノンアルコールビールを輸出している(甲第5号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第11号証ないし甲第14号証)。
1983年当時ドイツ三越を通じて、その後は、2003年11月に協同食品株式会社(大阪市北区)を通じて本件ノンアルコールビールを日本に販売した実績がある(甲第12号証)。
また、請求人は、1983年以降、本件ノンアルコールビールを輸出している国を中心に、商標「PROSTEL」を積極的に商標登録し、世界各国で開催される飲食料品の展示会等に本件ノンアルコールビールを継続して出品し(甲第31号証ないし甲第35号証)、その品質の高さが認められ金賞などの賞を受賞するとともに(甲第16号証、甲第8号証の5及び甲第39号証ないし甲第44号証)、各販売国(地域)において積極的な宣伝広告活動を行いつつ、世界規模で本件ノンアルコールビールの販売を拡大してきた。
その結果、請求人は、高品質のノンアルコールビールを醸造するメーカーとして、遅くとも1980年代後半頃には、世界各国の飲料を取り扱う販売事業者の間でも広く知られるに至った(甲第38号証)。
(イ)請求人と被請求人が最初に接触したのは、1989年4月であり(甲第15号証)、請求人は被請求人の求めに応じて本件ノンアルコールビールのパンフレット等を送付した。少なくとも、当時、請求人が世界各国(地域)で販売する本件ノンアルコールビールの存在を被請求人が認識していたことは明らかである。
その後も、請求人に宛てた2003年2月18日付の「”PROSTEL” NON-ALCHOHOLIC BEERS.」と題するFAX書信が表示された同年3月5日付リマインダーFAX書信(甲第17号証)に記載のとおり、被請求人は請求人に本件ノンアルコールビールの日本における独占的な輸入販売を申し入れている。
また、2007年4月23日付書信(甲第20号証)において、被請求人は請求人が高品質のノンアルコールビールを醸造する世界中で最も優れたメーカーの一つであることを認めている。
このような経緯を経て、請求人社長と被請求人社長は、2007年5月13日、香港で本件ノンアルコールビールの日本における販売について協議し、同月末、請求人は、前記協議における被請求人からの要望に応え、本件ノンアルコールビールのサンプル品を被請求人を荷受け人として日本に輸出した(甲第21号証、甲第22号証)。
その直後の同年6月8日に、被請求人は、請求人に無断で、本件商標を日本国特許庁に商標登録出願した(甲第1号証の1及び2)。
請求人は、被請求人が本件ノンアルコールビールの日本における代理店となることに積極的な姿勢を示したので、2008年1月から本件ノンアルコールビールを被請求人に販売していたが(甲第23号証)、両者は2010年10月に当該販売代理店契約を締結した(甲第25号証)。なお、当該契約書に記載される日付が2007年12月14日となっているが、これは被請求人の要望により記載されたものである。
その後、2010年11月10日に請求人は国際登録第480505号(甲第4号証)に基づく日本を領域指定した国際商標登録出願(甲第26号証)を行ったが、当該出願に対して2011年5月19日付暫定拒絶通報が通知された(甲第27号証)。
請求人は、上記暫定拒絶通報の対応として2011年7月14日に本件商標権の譲渡手続の協力を被請求人に申し入れたが、即座に拒絶された。
一方で、請求人は、同年6月に被請求人の発注に基づき、本件ノンアルコールビールのコンテナを被請求人を荷受け人として輸出したところ、被請求人はその荷受けを拒み、代金を支払わず、2011年11月6日付の「WARNING」と題する電子メールにより、請求人に対して、本件ノンアルコールビールを日本で販売した場合には、本件商標権の侵害となる旨を通告してきた(甲第29号証)。
以上の経緯から明らかなとおり、本件商標は、被請求人によりひょう窃的に出願されたものである。
イ 本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性
(ア)引用商標の周知性
上記ア(ア)のとおり、引用商標は、本件商標の出願の時点において、請求人の本国であるドイツ連邦共和国において周知性を獲得していたことはもちろんのこと、本件ノンアルコールビールが販売される国や地域においても一定の周知性を既に獲得しており、その周知性は本件商標の登録査定の時点においても継続していたと判断されるべきである。
(イ)引用商標と本件商標の同一又は類似
引用商標の綴りは、本件商標の欧文字部分「PROSTEL」と同一であるから、両者は外観において明らかに類似し、また、両者はともに「プロシュテル」の称呼が生じるから、称呼において同一の商標である。
したがって、引用商標と本件商標は、全体として極めて類似する商標と判断されるべきでる。
(ウ)不正の目的
上記のとおり、引用商標は、本件商標の出願の時点において、請求人の本国であるドイツ連邦共和国において周知性を獲得していたものであり、本件ノンアルコールビールが販売される国や地域においても一定の周知性を既に獲得しており、その周知性は、本件商標の登録査定の時点においても継続していたものである。
そして、「PROSTEL」は一種の造語と認識されるものである。
また、上記ア(イ)のとおり、本件商標はひょう窃的な出願である。
さらに、被請求人が本件ノンアルコールビールを紹介するインターネットサイト及び商品パンフレット(甲第36号証1及び同号証の2)で、その写真と片仮名の「プロシュテル」の文字及び引用商標を表示していることからすれば、引用商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等をき損させるおそれがある。
してみれば、本件商標は不正の目的をもって使用するものというべきである。
以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る商品である本件ノンアルコールビールを表示するものとして、請求人の本国ドイツをはじめ、その輸出各国において周知な引用商標と極めて類似するものであって、被請求人は、不正の目的をもって本件商標を使用するためにこれを出願したものと言わざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
ウ 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性
被請求人は、遅くとも1989年には請求人が引用商標を使用する本件ノンアルコールビールの存在を知っていたこと、その後も本件ノンアルコールビールについての独占的な販売権の協議を継続していたこと(甲第15号証、甲第17号証ないし甲第22号証)、一方で、請求人に無断で本件商標のひょう窃的な出願を行ったこと(甲第1号証)、請求人の商標権譲渡の申入れに応じず、商標権侵害を通告してきたこと(甲第29号証)から、被請求人による本件商標の登録出願は、請求人に不当な損害を生じせしめる為になされたものといわざるを得ず、本件商標が国際商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し公の秩序を害するものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は、答弁していない。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知・著名性について
(1)請求人提出の証拠及び同人の主張から、次の事実を認めることができる。
請求人は、1980年ころから西ドイツ(当時)で引用商標を商品「ノンアルコールビール」(本件ノンアルコールビール)について使用を開始し、販売量は、1981年の2.4万ケース(1ケース330ml缶×24本)から1988年には36.4万ケースに増加したこと(甲第3号証及び甲第38号証)、該商品は1983年にはヨーロッパ諸国の他、米国、カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、日本、エジプト、南アフリカ等26の国と地域に輸出されていたこと(甲第5号証)、1985年ころから、西ドイツ(当時)国内において本件ノンアルコールビールの宣伝広告活動を各種メディア、パンフレット、雑誌を通して積極的に行い、輸出国においてもパンフレット等を広く頒布したこと(甲第6号証ないし甲第10号証)、請求人は、世界各国に本件ノンアルコールビールを輸出し、2004年から2007年までの4年間においても毎年18.2万ケースないし20.8万ケースの輸出量を保っていたこと(甲第11号証)、外国の展示会にも本件ノンアルコールビールを出品し(甲第34号証、甲第35号証)、2000年、2003年、2006年ないし2008年に高品質を維持するビールに与えられるDLG(ドイツ農業協会)金賞を受賞していること(甲第38号証)が認められる。
(2)そうすると、引用商標は、本件商標の出願の時(2007年(平成19年)6月8日)ないし査定時(同年12月7日)において、請求人の業務に係る商品「ノンアルコールビール」を表示するものとして、少なくともドイツ連邦共和国における需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である。
2 本件商標と引用商標との類否
本件商標は、上記第1のとおり「PROSTEL」及び「プロシュテル」の文字からなり、両文字に相応し「プロステル」及び「プロシュテル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
一方、引用商標は別掲(1)ないし(3)のとおりの構成からなり、いずれもその構成中の「PROSTEL」の文字に相応し英語及びドイツ語風読みで「プロステル」及び「プロシュテル」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
そこで、本件商標と引用商標を比較すると、両者は、外観においては「PROSTEL」の文字を共通にし、称呼においては「プロステル」及び「プロシュテル」の称呼を共通にするものであって、観念においては区別することができないものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において共通するところがあり、称呼を共通にするものであって、観念において区別することができないものであるから、両者は極めて類似するものというべきである。
3 本件商標の指定商品と引用商標を使用する商品の関係
本件商標の指定商品は、引用商標を使用する商品「ノンアルコールビール」を含み、いずれの指定商品もノンアルコールビールと生産者、販売者、用途及び需要者を共通にする関連性の高い商品であるというのが相当である。
4 不正の目的
(1)請求人提出の証拠及び同人の主張から、次の事実が認められる。
被請求人は、遅くとも2003年(平成15年)2月には、請求人及び本件ノンアルコールビールの存在を認識していた(甲第17号証)。
請求人は被請求人あてに、2007年5月29日に本件ノンアルコールビールのサンプルを、2008年2月19日ないし2011年7月4日に本件ノンアルコールビールを送付した(甲第21号証ないし甲第23号証)。
被請求人は、平成19年(2007年)6月8日に本件商標を登録出願し、本件商標は同20年1月11日に設定登録された。
請求人と被請求人は、2007年12月14日付けで「PROSTEL」ブランドの低アルコールビール又は非アルコールビールに関する日本における独占販売代理店契約を交わした(甲第25号証)。なお、請求人は、当該契約は2010年9月に締結したものであるが、被請求人の要望により契約日は2007年12月14日付けとしたものである旨述べている。
被請求人は、請求人に対し2011(平成23年)年11月6日付けEメールで、請求人が日本において「PROSTEL」商標を付してビール及び関連商品を販売する行為は、商標権侵害にあたると警告した(甲第29号証)。
被請求人はそのウェブページにおいて、引用商標及び「プロシュテル」の片仮名を表示し、「創業290年の老舗ブルーワリー、カイザードム社 (ドイツ、バヴァリア州、バンベルク市) と共同開発。」などと記載し、「ノンアルコールビール」を紹介している(甲第36号証)。
(2)以上の事実に加え、「PROSTEL」の文字(語)が、特定の意味を有する既成の語ではなく造語であることからすれば、被請求人は、引用商標と極めて類似する商標を、偶然、採択したとはいい難く、むしろ、本件商標の出願当時、引用商標の存在を認識したうえで、引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、引用商標と極めて類似する本件商標を登録出願したものと判断するのが相当である。
本件商標の指定商品は、前記3のとおり、引用商標の使用商品「ノンアルコールビール」を含み、いずれの商品も該商品と関連性の高い商品であること、及び被請求人は本件商標の商標権をもとに、請求人に商標権の侵害を警告したことをあわせてみると、被請求人は、引用商標のドイツ連邦共和国における周知性ただ乗り(フリーライド)し不正の利益を得る目的や請求人の日本市場への参入を阻止する目的等不正の目的をもって本件商標を登録出願し登録を受けたものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、その登録出願の時ないし査定時において請求人の業務に係る商品を表示するものとしてドイツ連邦共和国における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものといわなければならない。
5 むすび
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(1)


別掲(2)(色彩については原本参照。 )


別掲(3)(色彩については原本参照。 )


審理終結日 2012-06-05 
結審通知日 2012-06-07 
審決日 2012-07-12 
出願番号 商願2007-58135(T2007-58135) 
審決分類 T 1 11・ 222- Z (X32)
最終処分 成立  
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 梶原 良子
堀内 仁子
登録日 2008-01-11 
登録番号 商標登録第5104786号(T5104786) 
商標の称呼 プロシュテル、プロステル 
代理人 板谷 康夫 
代理人 特許業務法人 有古特許事務所 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ