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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X25
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X25
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X25
管理番号 1261596 
審判番号 無効2011-890065 
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-07-22 
確定日 2012-08-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5237475号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5237475号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5237475号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成20年10月29日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同21年5月1日に登録査定、同年6月12日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第82号証(枝番号を含む。)を提出した。1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第19号、同第10号及び同第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。

2 無効原因について
(1)引用標章について
株式会社ビーズインターナショナル(請求人)は、10代後半から20代前半の若い女性の間で周知著名となっているアパレルブランド「X-GIRL」の姉妹ブランドとして、ベビーウェアやマタニティーウェアを取り扱う「X-girl Stages」ブランド(以下「本件ブランド」という。)を2002年より展開している。請求人は、この本件ブランドを指称する商標として、各単語の頭文字を使用し、左目を「X」、右目を「G」、舌を「S」の文字でデザイン化(レタリング)した別掲(3)のとおりの図形標章(以下「引用標章2」という。)を創案し、2005年頃から現在まで本件ブランドの定番標章(顔図柄マーク)として使用してきた(甲4)。さらに、2008年4月から、引用標章2とともに、この図形標章を基礎としてこれにハート形の輪郭を施した構成の別掲(2)のとおりの図形標章(以下「引用標章1」という。)も本件ブランドのブランド標章として使用してきた(甲4)。
(2) 商標法第4条第1項第19号について
ア 左目を「X」、右目を「G」、舌を「S」の文字でデザイン化した図形標章「引用標章2」(その派生的な標章である引用標章1を含む。なお、これらをまとめて「引用標章」というときがある。)は、ベビーウェアやマタニティウェア等の商品の本件ブランドを指称する標章として日本国内で周知であること
(ア)請求人は、ベビーウェアやマタニティウェアの本件ブランドの商品やウェブサイト等において、本件ブランドを指称する商標として引用標章2を2005年頃から現在まで本件ブランドの定番標章として非常に多くの商品に使用してきた(甲2ないし甲37及び甲42ないし甲54)。また、2008年4月以降からは、引用標章2の派生的マークとして引用標章2にハート形の輪郭を施した構成の引用標章1の使用を開始した(甲2、甲5)。 本件ブランドは、10代後半から20代前半の若い女性に絶大な人気を誇る姉妹ブランドの「X-GIRL」ブランドを愛好している若い女性の中で人気を博し、多くのファッション雑誌に取り上げられるなど、今日においては日本国内の需要者の間で広く認識されている。その結果、本件ブランドを指称する商標として使用されてきた引用標章も、ベビーウェアやマタニティーウェアを取り扱う取引業者や消費者の間で広く認識されるに至っている。(イ)引用標章2を使用した商品・宣伝広告素材について
請求人は、引用標章2(引用標章1の基礎商標であり、本件商標とは、極めて簡単で、ありふれたハート形の輪郭及び色彩の有無にすぎない類似の商標)を2005年頃より非常に多くのアパレルの商品に使用している(甲2、甲3、甲35ないし甲37、甲47及び甲52ないし甲54)。また、請求人は、甲第2号証の34頁のとおり、引用標章1と同一の商標を付したマグネットセットも販売している。2008年9月発売開始のマグネットセットの生産数は333点で全数販売済みである(甲4)。
また、請求人は、2008年7月より、本件ブランドのホームページ(http://www.x-girlstages.jp)において、本件ブランドの広告宣伝として、引用標章1を含む本件ブランドの標章をパソコン用のアイコンとして利用できるようダウンロードできるサービスを提供している(甲5)。このダウンロード数は、2008年が3035回、2009年が6379回、2010年が3274回を数えている(甲76)。
(ウ)使用開始時期、使用期間、使用地域(店舗数)について
請求人は、2005年以降現在に至るまで、引用標章2を本件ブランドの定番マークのーつとして商品やウェブサイトの広告等において使用している。現在、「X-girl Stages」という本件ブランドの名を冠した店舗が全国で9店舗(青山、お台場、二子玉川、横浜、名古屋、梅田、広島、福岡、小倉)、本件ブランドの商品を販売している請求人の直営店舗及びフランチャイズ店舗が全国で12店舗(静岡、岡山、札幌、仙台、新潟、イクスピアリ(浦安)、町田、立川、神戸、鹿児島、熊本、沖縄)、その他本件ブランドの商品を取り扱っているディーラー店舗が全国で81店舗あり、本件ブランドの商品は全国で販売されている(甲37のカタログ60?65頁)。
(エ)本件ブランドの売上高について
請求人の本件ブランドの全アイテムの売上高は、以下のとおりである(甲4)。
2002年度 97,000,000円
2003年度 185,000,000円
2004年度 255,000,000円
2005年度 383,000,000円
2006年度 532,000,000円
2007年度 686,000,000円
2008年度 869,000,000円
2009年度 899,000,000円
2010年度 664,000,000円 (2010年9月?2011年5月)
(オ)本件ブランドの広告宣伝活動について
本件ブランドの商品は、日本国内において、以下のとおり、定期的にファッション雑誌や育児雑誌に取り上げられており、かつ大規模に宣伝広告がなされている(甲4)。
本件ブランドを取り上げているファッション雑誌や育児雑誌について、最近のものを甲第6号証ないし甲第34号証として提出する。
また、当社の本件ブランドが若い女性の間で人気を博した結果、2009年から現在までに、祥伝社より本件ブランドのみを特集した雑誌が6冊発行され、2011年8月にさらに1冊発売が予定されている(甲35ないし甲37及び甲80ないし甲82)。これらの雑誌のうち「X-girl Stages 2009 Spring & Summer」は31,000部、「X-girl Stages 2009 Spring & Summer Special Edition」は24,000部発行され、いずれも売り切れとなっている。また、「X-girl Stages 2009 Fall & Winter」は、初版として50,000部が発行されている。この「X-girl Stages 2009 Fall & Winter」については、2009年7月2日時点で、大手インターネットショッピングサイトの楽天BOOKSにおいてデイリーランキング1位を獲得する(甲55)とともに、「楽天BOOKSのベストセラー」においても1位を獲得している(甲56)。その後も、「X-girl Stages 2010 Spring & Summer」は、50,000部、「Spring & Summer 2010 Fall & Winter」は65,000部、「X-girl Stages 2011 Spring & Summer」は45,000部発行されている。また、「X-girl Stages 2010 Fall & Winter」は50,000部の発行予定となっている。
さらに、本件ブランドの年間の広告宣伝費は、以下のとおりである。
2002年度 5,000,000円
2003年度 9,225,000円
2004年度 11,860,000円
2005年度 12,500,000円
2006年度 25,000,000円
2007年度 32,000,000円
2008年度 21,022,000円
2009年度 37,345,000円
2010年度 21,641,000円 (2010年9月?2011年5月)
イ 本件商標は、引用標章と同一又は極めて類似する商標であることについて
別掲(1)ないし(3)をみれば、本件商標は引用標章1と同一の商標であり、また引用標章2と極めて類似する商標であることは自明である。
ウ 日本国内で周知な引用標章は、請求人のデザイナーが独自に創作した図形商標であり、その構成上顕著な特徴を有するマークである。
引用標章2は、本件ブランドの名称である「X-girl Stages」の頭文字を使用して、左目を「X」、右目を「G」、舌を「S」の文字でデザインされたマークであるが、これは請求人のデザイナー(村田彩)が本件ブランドのために独自に創作したものである。また、請求人は、2008年に、引用標章2の派生的マークとして引用標章2にハート形の輪郭を施した構成の引用標章1を創作し(制作者:菅野智子)、2008年4月からその使用を開始している。引用標章2のデザインは、「X-girl Stages」という本件ブランド名から発想を得て独自にデザインしたものであって、被請求人が偶然に同一のデザインを採択したとみることは困難である。
エ 小括
以上より、本件商標が日本国内で周知な引用標章と同一又は極めて類似する商標であり、しかもこの周知な引用標章1は請求人が独自に創作した、構成上顕著な特徴を有する「独創性の高い特徴的なデザイン」(異議2009-900353号異議決定参照)であることは、明らかというべきであって、被請求人が偶然に引用標章と同一若しくは酷似するデザインである本件商標を採択・使用することはありえない。
したがって、本件商標は、他人の周知な商標である引用標章を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うべきである。
オ 被請求人が本件商標を「不正の目的」をもって使用するものであることを裏付ける事実が存在することについて
(ア)本件商標の権利者自身が、本件商標を「不正の目的」をもって使用するものであることを自認していること
請求人は、平成21年6月18日、被請求人に対して、不正な目的で他人の標章を剽窃し商標登録出願した本件出願商標(審判注:登録第5237474号商標に係る商願2008-91506及び本件商標に係る商願2008-91507)は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法第4条第1項第7号第46条第1項第1号)に該当するとして、商標出願の取り下げを要求する通知書を送付した(甲39)。これに対し、被請求人は、平成21年6月22日付けの書簡において、商標登録出願の取り下げを拒否する旨の回答をしている(甲40)。その回答書には、次のような記載がある。
・上記商標(すなわち引用標章1)は日本で一般に認識されている「スマイル・フェイス」標章の二次使用であり、・・・
・当社の財団は米国本部の強い要請で、日本国内で使われる「スマイル」を利用した「変形デザイン」をなくする為、市場での混乱をなくする為、あらゆる可能性のあるデザインの「商標登録」を行っています。その一環として最近多くの「商標登録」を行いました。
・財団は日本国内の「著作権」と「商標権」の管理をする為「有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド」を設立して現在127件の「登録著作権」と583件の「登録商標」を所有しております。
・もし貴社等が何らかの協定や合意ができましたら、仮に当社で登録になっても無償で使用して頂くこともできます。
上記の記載によれば、被請求人は、自らの勝手な判断で「スマイル」の「変形デザイン」であると判断したマークの使用を妨害するため、自ら使用する目的なく商標登録出願したということであり、請求人が従前より使用している「引用標章1」を剽窃の上商標登録出願したことを自ら認めている。それにもかかわらず、被請求人は、上記回答書において、従前より当該商標を使用していた請求人にライセンス料の支払いやライセンス契約の締結を迫っている。このような被請求人の行為は、我が国の商標登録システムにおける公正な取引秩序を乱すものであり、著しく反社会的な行為であるといわざるを得ない。
(イ)本件商標の権利者は、本件商標以外にも請求人の周知な標章を剽窃して商標出願していること
a 商願2009-049770号(引用標章1の剽窃出願)
請求人が本件商標の商標登録出願の取り下げを要求する通知書(甲39の1及び2)を本件商標の出願人(登録名義人)に平成21年6月16日に送付したところ、当該出願人は、当該申し入れを拒否しただけにとどまらず、その受領(甲39の3)の翌日である6月19日に、引用標章1についても、これを剽窃して新たに商標登録出願をしている。なお、当該出願は、平成22年11月5日に拒絶査定がなされている。
b 登録第5237474号商標(請求人の使用する、「X-girl Stages」スター図形商標の剽窃出願)
本件商標の登録名義人は、「X-girl Stages」スター図形商標と全く同一の商標を本件商標と同日付けで出願し、不当にも商標登録を受けてしまった(甲38)。そこで、請求人は商標登録異議の申立てを申請したところ、当該登録商標につき「不正の目的をもって使用する商標に該当する」として、平成23年3月24日に商標登録を取り消す旨の異議決定がされた(甲74)。
(ウ)被請求人は、請求人以外の他社の周知な標章についてもこれを剽窃して商標出願していること。
a 株式会社ユナイテッドアローズのショップ「Jewel Changes」にて販売しているエコバックのデザイン(甲57)と全く同一の商標を登録出願している(甲58)。
b 1971年イギリスにてRoger Hargreaves(ロジャー・ハーグリーブズ)によって描かれ、全世界で15ヶ国語に翻訳され、世界30ヶ国以上で累計1億冊以上の販売実績のある「Mr.Men & Little Miss」のキャラクター(甲59)と全く同一のキャラクターを登録出願している(甲60ないし甲63号)。
c FOPPISHという会社の「HONEY SALON」というブランドのルーズスマイルというデザイン(甲64)と全く同一の商標を登録出願している(甲65ないし甲69)。
d 株式会社ワールドワイドラブの展開するアパレルブランド「ワールドワイドラブ」のデザインロゴ(甲70)と全く同一の商標を登録出願している(甲71ないし甲73)。
カ まとめ
したがって、被請求人は、自らの勝手な判断で「スマイル」の「変形デザイン」であると判断したマークの使用を禁止若しくは妨害するため、又はこれをなくす目的で、請求人の商標に限らず、他社の使用している商標までも多数剽窃のうえ登録出願していることから、非常に悪質であるといわざるを得ない。
してみれば、本件商標も、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第10号について
請求人の本件ブランドのベビーウェアやマタニティーウェア等は、多くのファッション雑誌や育児雑誌に取り上げられるなど、今日においては日本国内の需要者の間で広く認識されているとともに、引用標章も本件ブランドの商品や宣伝用広告素材、ホームページなどで使用されるなど、需要者の間で広く認識されていることは明らかである。
本件商標と同様に、請求人の周知標章である引用標章2を冒用・剽窃して、被請求人が行った商標登録出願(商願2009-049770、甲41の1)に対して、特許庁は、平成22年7月22日に、(a)請求人の使用及び商標登録出願を妨害する目的があること(商標法第4条第1項第7号)、(b)請求人が出願前より使用し、出願前より取引者、需要者間に広く認識されていること(商標法第4条第1項第10号)、(c)未だ商標登録出願していないことを奇貨として、先取り的に商標登録出願し、他者の出願を妨害することを目的とした不正の目的が認められること(商標法第4条第1項第19号)を理由として、拒絶理由通知を発し(甲77)、この拒絶理由に基づき平成22年11月5日に拒絶査定をした(甲78)。この拒絶査定は、平成23年5月9日に確定している(甲79)。
この拒絶理由通知においては、「登録異議申立人(請求人)の使用に係る商標(「引用標章1」)は、左目を『X』、右目を『G』、舌を『S』の文字でデザインした図形にハート形の輪郭と着色を施した構成からなるものであるから、これと本件商標(引用標章2を冒用・剽窃して被請求人が出願した商標)とは、極めて簡単で、かつ、ありふれたハート形の輪郭及び着色の有無にすぎない類似の商標と認める」という判断を示している。
その上で、「引用標章1」及び「引用標章2」も、登録異議申立人(請求人)が商品「赤ちゃん用被服、妊婦用被服」について使用し、本件商標の出願前より取引者、需要者間に広く認識されている商標(引用標章1)と同一又は類似の商標と認めるものであり、かつ、登録異議申立人の使用に係る商品と同一又は類似の商品に使用するものと認められる」という判断を示している。
このように特許庁は、既に本件商標が、請求人が使用する日本国内で周知な引用標章1(及び引用標章2)との関係で、商標法第4条第1項第10号に該当するとの判断を下している。
したがって、本件においても、被請求人は、需要者の間で広く知られている標章と同一又は極めて類似する商標を、請求人の使用する商品と同一又は類似の指定商品(被服等)において使用するものとして、本件商標は商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(4)商標法第4条第1項第7号について
ア 被請求人は、需要者の間で広く認識されていた引用標章1及び引用標章2を請求人が既に使用していることを認識しながら、請求人による使用を排除するため、又は請求人による商標出願や登録を妨害することを目的にそれらと全く同一の商標を出願しているのである。
イ このように不正な目的で他人の標章を剽窃し商標登録出願した商標は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法第4条第1項第7号)に該当する。すなわち、他人が使用している商標を剽窃的に出願する行為は公正な取引秩序を乱すものであり、かかる商標は公序良俗を害する商標として商標登録すべきでない商標に該当する(平成6年審判第13733号、平成9年審判第20756号、東京高判平成11年12月22日等)。
ウ 被請求人は、a)商標登録出願の取り下げを要求する通知書を受領した後に、請求人が既に使用している「引用標章2」をさらに商標登録出願していること、b)本件商標の登録出願の目的について、「日本国内で使われる『スマイル』を利用した『変形デザイン』をなくする為、市場での混乱をなくする為、あらゆる可能性のあるデザインの『商標登録』を行っている」と述べ(甲40。同人による商標登録出願の例として甲41の1ないし4、甲58、甲60ないし甲63、甲65ないし甲69及び甲71ないし甲73参照)、請求人が従前より使用している標章を剽窃したうえに商標登録出願したことを自ら認めている。また、被請求人は、本件商標と同時に、請求人が使用する「X-girl Stages」スター図形商標と全く同一の商標も同日付で商標登録出願しているところ(甲38)、その後請求人より登録異議の申立てがなされ、特許庁より、「不正の目的をもって使用する商標に該当する。」として商標登録が取り消されている(甲74)。
これに鑑みれば、被請求人は、引用標章1や引用標章2が正当な権利者(請求人)によって未だ日本で登録出願されていないことを奇貨として先取り的に商標登録出願したこと及び請求人による商標の使用を排除し、請求人の商標登録出願を妨害することを目的とした明らかな悪意があるものと認められる。
エ 被請求人は、上記のとおり、引用標章1の基礎である引用標章2もこれを剽窃して商標登録出願しているところ(甲41の1)、平成22年7月22日に、特許庁は、「本件商標は、出願人(被請求人)の登録商標と同様、登録異議申立人(請求人)が本件商標の登録出願前から使用している商標を冒用し、登録異議申立人による使用を排除するため、又は登録異議申立人による商標登録出願を妨害することを目的に出願したものと判断するのが相当であり、その出願経緯において、社会通念上著しく妥当性を欠き、社会の一般的道徳観念に反するものと認められることから、商標法第4条第1項第7号に該当する。」と説示している(甲77)。
このように、特許庁は、引用標章2についての商標登録出願(商願2009-049770)において、本件商標の登録出願についてもそれが「公序良俗」に反すると認めている以上、本件においても、当然「公序良俗」に違反すると認めるべきである。また、上述のとおり、被請求人は、請求人の周知商標に限らず、他社の使用している周知商標も多数剽窃して登録出願していることからすると、非常に悪質であるといえる。
オ したがって、本件商標は、不正な目的で他人の使用する標章を剽窃し登録出願した商標であり、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。

3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号、同第10号、同第7号に該当するものであるから、商標法第46条第1項第1号の規定によりその登録を無効とすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、何ら答弁していない。

第4 当審の判断
請求人の提出に係る甲各号証によれば、次のとおりである。
1 本件ブランド並びに引用標章1及び引用標章2の周知性について
(1)請求人は、ベビーウェアやマタニティーを取り扱う「X-girl Stages」ブランド(本件ブランド)を2002年より展開しており、本件ブランドの商品は、「tocotoco」、「mammoth」、「SAKURA」等のファッション雑誌や育児雑誌に定期的に多数取り上げられている(甲6?甲34)。
(2)請求人は、本件ブランドを指称する商標として、本件ブランドの各頭文字を使用し、左目を「X」、右目を「G」、舌を「S」の文字でデザイン化した特徴ある引用標章2(別掲3)を創案した。引用標章2は、2005年から、本件ブランドの定番標章として使用され、ベビーウェアや子供服等を扱うカタログや雑誌(X-girl Stages)で宣伝広告が行われ、また、本件ブランドの商品のグラフィックの一つとして紹介されている(甲2、甲3、甲35?甲37、甲47、甲52?甲54)。
また、引用標章2にハート形の輪郭を施した構成からなり、引用標章2の派生的マークといえる引用標章1に関する商品としてマグネットセット(甲2)が作成され、当該マグネットは、2008年4月にプレス関係者等を招待した展示会において発表され、同年9月に発売された。さらに、2008年7月より、本件ブランドのホームページにおいて、引用標章2及び引用標章1等の図形マークは、パソコン用のアイコンとしてダウンロードできるサービスが提供され、2011年3月迄に3000回を超えるダウンロードがされている(甲4)。
(2)本件ブランド全体の売上高は、2002年度から2010年度(ただし、2010年度は9か月分の売上高)の約9年間で4,570,000,000円となっており、また、同時期の広告宣伝費は175,593,000円となっていることが認められる(甲4)。
(3)以上によれば、本件ブランドは、本件商標の出願時において、取引者、需要者の間に広く認識されていたと認められるものであり、また、左目、右目及び舌をそれぞれ「X」、「G」及び「S」の文字でデザインした特徴的な図形である引用標章2についても、それ自体の売上げ、広告宣伝費は明らかではないものの、本件ブランドの定番標章として2005年から現在まで継続的に使用されてきたことから、本件ブランドと同様に広く認識されていたということができる。
そして、引用標章1についても、2008年4月にマグネットセットが発売され、同年7月よりパソコン用のアイコンとしてダウンロードできるサービスが提供されているものである。

2 被請求人による商標登録出願等について
(1)被請求人は、星形の図形内に目と口を描いて顔を擬人化した如き図形からなる商標(別掲4、以下「星形図形商標」という。)を、平成20年10月29日に登録出願した。なお、当該商標は、登録された(登録第5237474号)が、異議2009-900353により、申立人(本件請求人)のカタログ等において2002年(平成14年)から使用されている標章と酷似する構成からなるものであって、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものとして、商標登録が取り消された(甲74)。
(2)被請求人は、引用標章2と同一の図形からなる商標を、平成21年6月19日に登録出願した(商願2009-49770)。なお、当該商標は、本件請求人がその出願前から使用している商標を冒用したものであるから公序良俗に違反し、商標法第4条第1項第7号に該当するとして拒絶された(甲77)。
(3)請求人から被請求人に宛てた「本件出願商標(審判注:登録第5237474号商標に係る商願2008-91506及び本件商標に係る商願2008-91507)は、不正な目的で他人の使用する標章を冒認し、出願した商標であり、商標法第4条第1項第7号公序良俗に反する商標として登録を受けることができない商標にあたると思料する。」との平成21年6月18日付け通知書(甲39の1)に対する被請求人の同月22日付け回答書中には、「当社は『有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド』の代理人である。貴社(請求人)が主張されている『2件の商標』は、日本で一般に認識されている『スマイリー・フェイス』商標の『二次使用』であり、日本人の認識の上に派生的、思いつきでデザインされたもので、貴社が独自にデザインされたものとはいえない。当社の財団は米国本部の強い要請で、日本国内で使われている『スマイル』を利用した『変形デザイン』をなくする為、市場での混乱をなくする為、あらゆる可能性のあるデザインの『商標登録』を行っている。当社では貴社の2件の『使用商標』を妨害する意図はないので、もし、貴社等が何らかの協定や合意ができましたら、仮に当社で登録になっても無償で使用して頂くこともできる。」の記載がある(甲40)。

3 本件商標と引用標章1及び2との同一性について
本件商標は別掲(1)、引用標章1は別掲(2)の構成よりなるところ、本件商標は、左目を「X」、右目を「G」、舌を「S」の各欧文字を顔に見立てた特徴ある図形にハート形の輪郭を施した構成からなるものである。これに対して、引用標章1は、本件商標のハート形の輪郭内を赤く塗ったものであり、両者は、ハート形が輪郭であるか赤色で塗りつぶしたかの違いで特徴のある図形を同一にするものである。
さらに、引用標章2は別掲(3)のとおり、左目を「X」、右目を「G」、舌を「S」の各欧文字を顔に見立てた特徴ある図形よりなるところ、本件商標とはハート形の輪郭の有無の差にすぎない。
したがって、本件商標は、引用標章1とは、ハート形内の色の有無、引用標章2とは、ハート形の輪郭有無であって、「X」「G」「S」の各欧文字を顔に見立てた特徴ある図形部分を同じくする類似の商標というべきである。

4 被請求人の不正の目的について
本件商標は、上記3のとおり、引用標章1及び2とその特徴部分を同一にする極めて類似した商標である。
引用標章2は、本件ブランドの定番標章として、本件商標の登録出願時には我が国における取引者、需要者の間で広く認識されていたといえるものであり、また、本件商標の登録出願前に、引用標章1に係る商品(マグネットセット)が販売され、パソコン用のアイコンのダウンロードサービスが提供されていたものである。
そして、請求人から被請求人に宛てた通知書に対する被請求人の回答書の「当社の財団は米国本部の強い要請で、日本国内で使われている『スマイル』を利用した『変形デザイン』をなくする為、市場での混乱をなくする為、あらゆる可能性のあるデザインの『商標登録』を行っている。」との記載からすれば、被請求人は、日頃から日本国内における商標の使用について注視していたものと認められものであり、さらに、被請求人は、前記2(2)のとおり、「星形図形商標及び本件商標に対する請求人からの公序良俗に違反すると思料する。」との請求人からの通知書を受領した翌日に、請求人が2005年から使用している、本件商標と極めて類似した引用標章2と同一の商標を出願しているものである。
以上を併せ考慮すれば、本件商標の出願日(平成20年10月29日)前から、引用標章1及び2を付した商品が雑誌等に掲載され、販売されていたものであるから、被請求人が、引用標章1及び2を知り得る機会は十分にあったと推認できるものであり、被請求人が引用標章1及び2を知ることなく当該標章と偶然に一致した、或いは酷似した本件商標を登録出願したものとは考え難いものであり、本件商標が請求人の業務に係る商標と同一の構成からなる商標であることを承知のうえ、請求人に無断で、請求人の業務に係る商品と関連を有する商品を指定商品として、本件商標の商標登録出願をし、その登録を受けたものといわざるを得ない。

5 小括
以上のことからすれば、被請求人は、請求人の使用する引用標章1及び2が商標登録されていないことを奇貨として、先取り的に本件商標を商標登録出願し、商標権を取得したものとみるのが相当である。
してみれば、被請求人が本件商標を商標登録出願し商標権を取得した行為は、公正な商取引秩序を乱すおそれがあり、ひいては公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。

6 まとめ
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、その余の理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(1)本件商標




別掲(2)引用標章1(色彩は原本参照)



別掲(3)引用標章2



別掲(4)星形図形商標





審理終結日 2012-06-07 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-26 
出願番号 商願2008-91507(T2008-91507) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (X25)
T 1 11・ 222- Z (X25)
T 1 11・ 25- Z (X25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉野 晃弘 
特許庁審判長 野口 美代子
特許庁審判官 前山 るり子
内山 進
登録日 2009-06-12 
登録番号 商標登録第5237475号(T5237475) 
商標の称呼 エックスジイ 
代理人 渡辺 広己 
代理人 野中 武 

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