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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Y07
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y07
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Y07
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Y07
管理番号 1259704 
審判番号 無効2009-890108 
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-09-25 
確定日 2012-07-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4798909号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4798909号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成15年6月16日に登録出願され、第7類「化学反応・化学処理・酸化還元・化学物質供給・化学物質生成のための化学機械器具」を指定商品として平成16年9月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁書に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証を提出している(なお、弁駁において提出された甲第1号証ないし甲第8号証は、甲第9号証ないし甲第16号証と読み替えた。また、甲第2号証ないし甲第4号証及び甲第6号証ないし甲第8号証の訳文が、甲第16号証として提出されている。)。

1 請求の理由
(1)引用商標の周知著名性について
ア 請求人は、「浄水装置、水殺菌装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、し尿処理槽、家庭用し尿処理槽」等を日本国及び外国において販売している(甲第1号証)。
請求人は、本件商標の登録出願前から、アメリカ合衆国等において、「MIOX」の文字からなる商標(以下「引用商標」という。)を浄水装置等に使用してきた。その結果、引用商標は、請求人の取扱いに係る商品及び役務に使用される商標として、本件商標の出願時(平成15年6月16日)及び登録査定時(平成16年7月30日)までに日本国及び外国において需要者の間に広く知られるに至った。
そもそも、引用商標は、請求人の社名「MIOX CORPORATION」の一部であり、「MIOX」とは、請求人が“mixed oxidant”(混合酸化物)から創作した造語であって、請求人の開発した浄水技術「MIOXテクノロジー」を表すものとして日本国内及び外国において取引者・需要者の問で広く認識されており、浄水装置の分野における代表的ブランドとなっている。
請求人は、1994年にアメリカ合衆国において設立され、混合酸化物を使用した安全な飲料水の浄化装置の開発を行ってきた。現在生産している主要装置は1300種類を超え、国内及び海外25力国において設置されている。請求人の浄化装置は、家庭用及び業務用のものがあり、ホテルや大学のプールなど商業施設での使用例や工場での汚水処理、食品加工過程における浄水処理や軍隊での使用など様々な施設と用途で用いられ、世界中の飲料水の改善に貢献している。
また、請求人は、アメリカ合衆国において多数の賞を受賞してきた。
イ 請求人は、引用商標の下で国際的にビジネスを行っており、当該製品を取り扱う業界においては、単に「MIOX」として広く知られている。また、請求人は、水処理装置、浄水装置、水殺菌装置について世界的に知られている企業である。
引用商標は、日本、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、EU、オーストラリア、中国、韓国、香港、台湾、ブラジル、インド、トルコ、イスラエル、ベトナム、ベネズエラ、ボリビア、トリニダード・トバコなど世界各国において登録、出願されている(甲第2号証)。
我が国においては、平成18年7月7日に商標「MIOX」を出願しており、平成19年12月14日に登録となっている。
ウ 請求人は、引用商標を積極的に使用しており、少なくとも1999年から日本において引用商標を付した商品の販売及び役務の提供を行っている。甲第3号証は、日本における事業の名称及び場所を示した一覧表である。これらの事業の総費用は180万ドル(約1億7千万円)を超えるものである。この証拠は、日本における請求人による引用商標の大規模な使用を示すものであり、何故、本件商標権者たる被請求人が本件商標の登録をして引用商標に“ただ乗り”しようとしているかという理由を示唆するものである。

(2)本件商標と引用商標の類否及び混同について
ア 本件商標は、請求人の引用商標と同一の文字を含むものであり、外観、称呼及び観念において請求人の引用商標に類似する商標である。
本件商標中「マイオックス/MIOX」の語は、請求人により創作された造語である。また、「MIOX」の語は請求人の社名の一部であり、本件商標は請求人の著名な略称を含む商標である。
イ 本件商標の指定商品は、請求人の引用商標により提供される商品又は役務と非常に類似しているものであるので、当該商品及び役務の需要者間において両商品の間に混同を生ずるおそれがあるものである。本件商標に係る商品と引用商標を付した商品との間に混同を生ずるおそれがあるとしたら、両商標は類似するものであり、また混同を生ずるおそれがある商標といえる。
ウ また、本件商標は、請求人の商号と何らかの関係があると不実に暗示するものである。公衆及び需要者・取引者は、実際に本件商標と請求人との間には関連性があると思い込むことがあり得る。事実として、このような関連性は全く存在していない。需要者・取引者におけるこのような混同のおそれは、引用商標に不正に商業的ダメージを与えるものであり、商標の使用によるブランド保護の本来的意義を蔑ろにするものである。本件商標は、商標の独自性及びブランド価値を保護するという商標法の目的に反して登録されたものであるので、その登録を無効にすべきものである。
エ 同様に、本件商標は、国際的に周知な引用商標の識別性を希釈するものであり、不正に引用商標の価値を下げるものである。請求人は世界各国においてビジネスを展開しており、本件商標の登録を認めることは、引用商標との間に混同の生ずるおそれ及び引用商標の希釈化を引き起こすことになるものである。その結果として、引用商標の名声・評判を害することになり、国際的商取引における商標保護の目的に反するものである。
オ 請求人は、継続して広範囲にわたり引用商標の使用をしている。日本における請求人の市場は年々拡大しており、日本における請求人商品の販売数及び販売代理店数も増加している。万が一、本件商標の登録維持が許可されるのであれば、請求人は引用商標に係る正当な営業利益を否定されることになり、新規商品及び役務について引用商標の使用を拡大していく機会を否定することになる。これは請求人の事業の正当な拡大を中止させることになりかねない。請求人と被請求人は、商品、商品の販売場所、役務の提供場所、販売ルート、商品及び役務の広告の多くが共通であるか又は密接な関連性があり、同じ需要者により購入され使用されるものである。
したがって、公衆は両社の商品が同一の製造元から販売された商品であると思い込んでしまうおそれがある。このような混同が生ずると請求人の事業は制限され、事業の実施に制約がかかることになるといえる。これにより請求人には直接的な損害が生ずることになる。
カ 請求人は、引用商標を最初に使用し始めた者であり、市場において引用商標を継続して広範囲にわたり使用し、広告、販売促進、販売の申し入れ、商品及び役務の販売数の拡大を行ってきた。
請求人の日本の需要者、潜在的需要者、製造・卸売販売・小売に従事する者、浄水装置・水殺菌装置の取引者は、引用商標を知っており、引用商標を請求人の販売に係る商品及び役務と関連づけて認識している。
したがって、請求人は、日本において引用商標「MIOX」及び商号「MIOX」の下に商品の開発・市場での売買・販売及び役務の提供との関連性において相当なグッドウィルを築き上げてきた。本件商標の登録維持を許可することは、混同を引き起こし、商標及びブランド名をたよりに商品を購入している日本の需要者の利益を害することになる。
キ 請求人は、上述のように、浄水装置・水殺菌装置の取引業界において非常に有名であり、周知である。請求人の製品は、水の処理用・浄化用及び殺菌用の機械器具、浄水装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、家庭用し尿処理槽、し尿処理槽などである。
ク 本件商標は、請求人の引用商標の模倣であるので、本件商標が被請求人の製品に付されると、両商標間に誤認混同が引き起こされるのは確実である。この混同は、需要者を欺くに等しく、引用商標及びその評判に傷をつけ、損害を及ぼすものである。
両商標は、同一の文字からなるものであり、外観、称呼、観念において酷似するものである。本件商標中の「MIOX」の語の使用は、請求人の引用商標及び商号の一部と同一であり、引用商標は、日本における需要者の間において極めて有名であり広く知られているので、将来的に被請求人の商品が販売されると両者間において出所混同が生ずるおそれがあるといえる。
ケ 被請求人が本件商標を付して販売する商品は、請求人が引用商標を付して販売する商品及び提供する役務と同一又は類似するものである。
本件商標の指定商品と引用商標に係る商品とは、同一の販売ルートで取引されるものであるので、市場において出所混同を生ずるおそれがある。
請求人と被請求人の商品及び役務は近似しており、両者とも一般需要者、政府機関及び企業に対して直接的に提供され、同一商取引経路を介して流通されるものである。
コ 本件商標は、請求人の社名及びブランドとの関連性を誤って示唆するものである。需要者は、請求人を引用商標、MIOXブランド並びにその社名である「MIOX」によって認識している。
したがって、本件商標は、誤って請求人との関係を示唆するものである。需要者は、被請求人商品が請求人により販売されたものであると認識し、又は両商標間に直接的あるいは間接的な関連性があると誤解するものである。
サ 請求人は、被請求人による第7類での本件商標の登録により損害を被るおそれがある。また、引用商標は、水処理、浄水装置及び水消毒殺菌製品の幅広い商品群に対して遅くとも1999年以来、日本において商業的に使用されており、有名になっている。引用商標は、本件商標によって希釈化されるといえる。
請求人は、被請求人又はその使用許諾者により本件商標を付して流通し、販売される商品の性能及び品質に対する管理手段を一切持ち合わせていない。したがって、被請求人の製品の購買者又は利用者が当該製品に対して不満を待った場合には、請求人の信用と名声が傷つけられるおそれがある。
シ 本件商標と引用商標は、「MIOX」の語を含む点で共通する。両商標は、称呼、外観及び商業的印象を共有するものであり、非常に近似しており、互いに相紛らわしいものである。万一、本件商標が登録維持となれば、引用商標と本件商標との出所混同のおそれは必然的なものとなり、日本における請求人の自由な事業活動を阻害し、妨害することになる。また、請求人だけではなく、市場において製品を選択する際に商標を頼りに製品を識別している一般需要者に多大な損害を及ぼすことになる。

(3)不正の目的について
ア 本件商標中の「マイオックス」及び「MIOX」の語は、上述のように、請求人の社名の一部であり、請求人の創作にかかる造語であるので、被請求人がこのような商標を偶然採用するということはあり得ない。
イ 被請求人は、本件商標を株式会社ビー・エム(以下「ビーエム」という。)又は株式会社エヌ・エス・ピイ(以下「エヌエスピイ」という。)に使用許諾をしていた。被請求人は、エヌエスピイの代表取締役であり、請求人とビーエム及びエヌエスピイとの契約内容を熟知している者である(契約の詳細は後述のとおり。)。
被請求人は、当然に請求人が世界中で引用商標を所有していることを承知しており、また、被請求人は、ビー工ムとエヌエスピイが当該商標を出願することを請求人によって契約により禁止されている事実を知っていた。したがって、被請求人は、本件商標を出願するために内部情報を不正に利用したといえる。実際に、被請求人は、2006年2月1日に商標「MIOXOXIDANT」の登録出願(商願2006-7522)を行っている。その後、被請求人は当該出願を取り下げた。恐らく、そのような出願は請求人とエヌエスピイとの間の契約義務違反に該当すると気付いたためと考えられる。したがって、被請求人は、不正の目的で本件商標の登録を受けたことは明白である。
ウ 請求人とビーエム及びエヌエスピイとの契約内容は以下のとおりである。
(ア)ビーエムと請求人との間で国際流通契約を2000年2月21日付けで締結した(甲第4号証)。同契約書の条項3において商標「MIOX」が請求人に所属する旨が明記されている。
エヌエスピイは、2000年6月13日付けの「株式会社ビー・エムのMIOX卸業者リスト」で示されるように、ビーエムの卸業者の一員であった(甲第5号証)。
(イ)その後、技術ライセンス契約書が2002年11月22日付けで締結され(甲第6号証)、2000年2月21日付けのビーエムとの契約書に取って代わった。同契約書の条項2.6において許諾者(請求人MIOX)により受諾者(ビーエム)に使用許諾されている。この契約書は単なる使用許諾であり、商標の所有権に関わるものではない。
(ウ)エヌエスピイと請求人との間において、2004年2月1日付けで契約が取り交わされた(甲第7号証)。この契約の条項1.9は、使用許諾された商標は「MIOX」であると記し、条項3.1は、請求人がエヌエスピイに商標「MIOX」の使用を許諾すると記している。条項3.4は、請求人の商標「MIOX」並びにその登録における国際的な独占排他権及び諸権原を認めている。この条項はさらに、エヌエスピイによる許諾商標に関わるそれら諸権利の減損を禁止し、「エヌエスピイは許諾商標又はその登録のいかなる所有権も有していない」と明記している。条項9.4は、許諾商標に対する使用権を認めている。
(エ)請求人とエヌエスピイとの間で締結された2006年7月1日付けの契約書(甲第8号証)は、2004年2月1日付けの契約書に取って代わるものである。条項5は、商標に関わるものであり、条項5.2.1(a)は、エヌエスピイが請求人の承認を得ずして商標「MIOX」を登録第4798909号として日本で登録したことを明記している。しかし、該契約書は、請求人が世界中で許諾商標の専用使用権を所有しており、唯一の所有権者であることも明示している。契約当事者は現在、登録の移転に関して合意に至っていない(許諾商標とは「MIOX」、「MIOX+水滴ロゴ」、水滴ロゴである)。条項5.2において、エヌエスピイはさらに、エヌエスピイによる許諾商標の使用を通じて獲得した全権利は請求人単独の利益に帰し、エヌエスピイは許諾商標におけるその有効性、商標「MIOX」の所有権及び権原並びに登録、及び許諾された使用権の有効性に対して異議を申し立てないことに同意している。最も重要な点は、エヌエスピイは、条項5.2.1(e)において、「MIOX」の語を含むどのような商標の登録も求めず、MIOXの事業に関係するどのような商標の登録も求めないことにも同意していることである。被請求人は、エヌエスピイの代表取締役であり、これら契約条項及び請求人が商標「MIOX」の商標権の真の所有者であることを熟知していた。
以上から、被請求人に不正の目的があったことは明らかである。

(4)むすび
以上詳述したように、本件商標は、請求人の著名な略称を含む商標であり、また、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって、請求人の商品に類似する商品について使用をするものである。本件商標の指定商品と請求人の商品とが互いに類似するものではないと判断された場合であっても、本件商標は、本件請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。さらに、本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって、不正の目的をもって使用をするものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に規定する登録無効の要件を具備するものであり、その登録を無効にすべきものである。

2 答弁書に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第10号についての具体的な理由
請求人は、遅くとも1999年から日本において引用商標を継続して使用しており、引用商標は、日本及び世界各国で需要者及び取引者の間で広く認識されている。
本件商標は、2003年6月16日に被請求人により不正競争の目的で出願されたものである。被請求人は、請求人の日本での販売代理店であるエヌエスピイの代表取締役であった者であり、被請求人は請求人の承諾を得ることなく本件商標を出願、登録している。また、被請求人は、請求人とエヌエスピイとの間に成された販売代理店契約に違反して本件商標を登録した。
請求人は、最近になるまで被請求人が本件商標を出願し、登録していた事実を知らず、被請求人による登録の事実を知り、2009年9月25日に審判を請求したものである。
請求人は、被請求人による本件商標の出願時、エヌエスピイと販売代理店契約について交渉を行っていた。被請求人はエヌエスピイの代理取締役であり、請求人は、被請求人の本件商標の出願について不知であった。被請求人は、以前に、請求人に、今後の交渉が有利になるように出願したと告げた。これは、本件商標に関する全ての権利は、請求人に属すると明記した請求人とエヌエスピイとの間の契約に明らかに違反するものであり、さらに、被請求人は、請求人から本件商標の出願について許可を得ることもせず、出願の事実も告げず、自己の名で登録したものであるから、不正競争の目的で商標登録を受けたものである。
請求人とエヌエスピイとの間の販売代理店契約は、2004年2月1日に効力を生じており(当該契約書の写しは甲第7号証:訳文は甲第16号証)、契約書の1.9には、「ライセンスに係る商標は『MIOX』である」と明記され、また、3.1には「本契約書で定める条件に照らし、請求人はエヌエスピイに対して、当該商標を使用する権利を許諾する」と明記されている。これらの記載から、請求人が商標「MIOX」の真の所有者であることは、契約当事者双方にとって承認されていることである。契約書中3.4では、「両当事者は、許諾商標並びにその登録に対する請求人の世界的独占権利、所有権及び権利を認め」ることが明記され、また、同項では、エヌエスピイは、請求人の世界的独占「権利、所有権及び利権に対抗あるいは毀損するいかなる行為も一切行わない」と明記されている。さらに、「エヌエスピイは、許諾商標またはその登録の所有権を有する旨を表示するような一切の行為は行わ」ないと明記されている。
上記2004年2月1日の契約は、2006年7月1日の契約(契約書の写しは甲第8号証:訳文は甲第16号証)に取って代わり、当該契約書中の5.2.1(a)には、「エヌエスピイは、請求人の承認を得ず、日本国商標登録番号4798909号として、請求人の商標を日本国で登録した」と記載され、また、「両当事者は、本件商標登録の請求人への移転に関して現在合意に達していない」と記載されている。この時点では、請求人はエヌエスピイと本件商標の移転について交渉を行っていたので、無効審判の請求はしていなかった。また、契約書中に記載された許諾商標とは、「MIOX」の文字商標、「MIOX」及び滴の図形商標を組み合わせた商標、滴の図形商標である。当該契約書中の5.2.1(b)には、「エヌエスピイは、許諾商標の使用によって獲得される全権利は、請求人の利益に叶うことに同意する」と記載されており、また、「エヌエスピイは、許諾商標の有効性、請求人の所有権及び登録、並びに本契約の下で承認されたライセンスの有効性に対して異議を申し立てず、対抗もしないことを誓約する」と記載されている。請求人は、この契約にエヌエスピイの代表取締役として署名していながら、一方では自己の名において本件商標を登録している。したがって、本件登録は,請求人に対して不正競争の目的をもって登録されたものであるといえる。
請求人の引用商標は以下のとおり、需要者の間に広く認められている商標である。
請求人は,被請求人が本件商標を出願するはるか以前において、日本で本件商標の使用をしている。甲第9号証は、引用商標を付した商標が販売されている複数のインターネットサイトの印刷であり、また、甲第10号証は請求人商品に関する新聞及び雑誌の記事である。甲第11号証は、2004年から2005年において、請求人とエヌエスピイが販売促進用に作成したパンフレットの写しであり、甲第12号証は、北里大学医学部微生物学及びその他による混合酸化剤溶液MIOXに関する研究論文(2002年執筆、2003年掲載)の一分抜粋である。甲第13号証は、請求人商品のカタログ及び請求人の会社概要のパンフレット写しであり、甲第14号証は、請求人商品が紹介されているインターネットサイトの印刷、商品料金リストの表紙、請求人による本件商標の使用見本の写しである。甲第15号証は、2001年の「ジェトロ環境展」の展示会の風景を撮影したものであり、請求人の商標及び商品が展示されている。以上の、甲第9号証ないし甲第15号証は、長年日本において引用商標が需要者の間に広く認識されていることを示すものである。
さらに、被請求人は、答弁書において、「請求人が販売しているという『浄水装置、水殺菌装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、し尿処理槽、家庭用し尿処理槽』が請求人の業務に係る商品であるとしても、この請求人の業務に係る商品が本件商標の指定商品と同一又は類似する商品であることの立証も説明もなく、請求人の業務に係る商品と本件商標の指定商品とが同一又は類似する商品であるとは認められない」と主張している。 しかしながら、甲第9号証及び甲第10号証並びに甲第13号証に示すように、請求人の日本で販売している商品は「化学反応・化学処理・酸化還元・化学物質供給・化学物質生成のための化学機械器具」であり、本件商標の指定商品と同一の商品である。
以上のように、請求人による長年にわたる継続的な使用により、引用商標は、本件商標の出願時である2003年6月16日時点には、既に上記指定商品について日本国内において需要者の間に相当程度知られており、本件商標の出願前には既に周知であったと認められる。また、本件商標(図形有り)は、請求人の使用する商標と全く同一であり、本件商標の指定商品は、請求人の業務にかかる商品と同一であり、さらに、被請求人は、不正競争の目的をもって本件商標の登録を受けたものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。

(2)商標法第4条第1項第15号についての具体的な理由
本件商標は、請求人の商標として、浄水装置及び水殺菌装置、水消毒システムの分野で日本国内において需要者及び取引者の間に広く一般に知られている商標と同一の商標であり、そして、本件商標がその指定商品について使用された場合、販売ルートや需要者層を共通にするので、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。また、請求人による長年にわたる継続的な使用により、引用商標は、本件商標の登録出願時である2003年6月16日時点には、既に上記指定商品について日本国内において需要者の間に相当程度知られており、本件商標の登録出願前には既に周知であったと認められ、さらに、被請求人は、不正の目的をもって本件商標の登録を受けたものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

(3)商標法第4条第1項第19号についての具体的な理由
本件商標は、請求人の商標として、浄水装置及び水殺菌装置、水消毒システムの分野で日本国内において需要者及び取引者の間に広く一般に知られている商標と同一の商標であり、また、請求人による長年にわたる継続的な使用により、引用商標は、本件商標の登録出願時である2003年6月16日時点には、既に上記指定商品について日本国内において需要者の間に相当程度知られており、本件商標の登録出願前には既に周知であったと認められ、さらに、被請求人は、不正の目的をもって本件商標の登録を受けたものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。

(4)その他の被請求人の主張について
被請求人は、答弁書において、「甲第3号証に記載されている商品の過半数を超える少なくとも70数基は被請求人が代表取締役であるエヌエスピイによって販売され、かつ、メンテナンスが行われている商品が含まれているものである。なお、この販売実績は、エヌエスピイが多大の販売経費をかけた販売努力によるものである。」と主張している。しかしながら、エヌエスピイは、日本における請求人の販売代理店であったものであり、両当事者間の契約により、エヌエスピイが許諾商標の使用により獲得した全ての権利、権限等は、請求人に帰属することが、2006年の契約書中の5.2.1(b)に明記されており、エヌエスピイによる本件商標の使用は、全て請求人の商標の使用に帰するものである。
また、被請求人は、答弁書において、「被請求人は、請求人の代理店のビーエムを通して請求人に日本国の商標登録出願を進言したにも拘らず、出願されなかったため、被請求人は請求人の商品を商標『MIOX』を用いて販売するために行ったもので、被請求人はエヌエスピイにおいて、請求人の商品以外に使用したこともなく、使用する意思もないものである」と主張している。
しかしながら、請求人は、被請求人が自己の名で商標「MIOX」を出願しようとしていたことを知らされておらず、また、被請求人が代表取締役を務めるエヌエスピイとの交渉においても、出願の事実は知らされていなかった。請求人とエヌエスピイとの間の契約に、商標「MIOX」に関する独占的権利及び商標の所有者は、請求人に属することが明記されているから、被請求人が不正競争の目的で本件商標を登録したのは明らかである。
さらに、被請求人は、「被請求人はエヌエスピイにおいて、請求人の商品以外に使用したこともなく、使用する意思もないものである」と主張しているが、そうであるとしたら、被請求人は、本件商標が請求人に属するものであることを認めているものであり、被請求人は速やかに請求人に本件商標を譲渡すべきであるといえるが、現時点におけるまで、被請求人は本件商標の譲渡を拒否し続けている。これは、今後の契約に有利になるように本件商標の登録を維持し続けているものであり、被請求人には不正競争の目的及び不正の利益を得る目的をもって本件商標を使用するものであることを示している。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べている。
1 答弁の理由
(1)本件審判請求について
本件商標の商標権の設定登録日は平成16年9月3日であるのに対し、本件審判の請求日は、平成21年9月25日であって、設定登録の日から5年を経過しており、かつ、不正競争の目的又は不正の目的で商標登録を受けた場合でもないので、本件商標の登録が商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号に該当するという理由では、同法第47条第1項の規定により本件審判の請求ができない。
また、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当せず、同法第46条第1項第1号の規定により無効にされるべきものではない。
なお、請求人が主張する、本件商標が商標法第4条第1項第10号又は同第15号に該当するという理由については、本件商標が不正競争の目的又は不正の目的で商標登録を受けたという申立てがなく、この両理由による申立て及び本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当するという理由による申立ては、共に不適法な審判請求として審決をもって却下されるべきである。
(2)商標法第4条第1項第8号について
上記のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当するという理由では同法第47条第1項の規定により審判を請求することはできず、本件は不適法な審判請求である。
なお、本件商標は、請求人の商号「MIOX CORPORATION」の一部である「MIOX」を含むことは認めるが、「MIOX」が著名な略称であることの立証もなく、「MIOX」が著名な略称であるとは認められない。
(3)商標法第4条第1項第10号について
上記のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとの理由では、同法第47条第1項の規定により審判を請求することはできないものであり、本件は不適法な審判請求である。
なお、請求人の引用商標が請求人の業務に係る商品もしくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることの立証もなく、引用商標が周知商標とは認められない。
また、請求人が販売しているという「浄水装置、水殺菌装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、し尿処理槽、家庭用し尿処理槽」が請求人の業務に係る商品であるとしても、この請求人の業務に係る商品が本件商標の指定商品と同一又は類似する商品であることの立証も説明もなく、請求人の業務に係る商品と本件商標の指定商品とが同一又は類似する商品であるとは認められない。
(4)商標法第4条第1項第15号について
上記のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとの理由では、同法第47条第1項の規定により審判を請求することはできないものであり、本件は不適法な審判請求である。
なお、請求人の商標が著名な商標であること、本件商標が請求人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがあること、或いは、本件商標が請求人と経済的又は組織的に何等かの関係があるものと誤認し、その商品又は役務の出所について混同するおそれのあることについては、事実説明及びその立証もなく、また、本件商標を不正の目的をもって登録を受けたという事実説明及びその立証もないので、詳細な答弁は省略する。
(5)商標法第4条第1項第19号について
本件商標が、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標であること、また、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的など不正の目的をもって使用するものであることについて、事実説明及びその立証もなく、本件商標は、商標法第4条第1項第19号の規定に該当するものではない。

2 詳細な無効理由の検討
商標法第4条第1項第19号に「(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されているように、同法第4条第1項各号に規定されている商標登録を受けることができない商標は、それぞれ要件が相違するものであるが、請求人は同法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の無効原因についてそれぞれ説明しておらず、いかなる理由で本件商標が上記各号の無効原因に該当するか理解できない。

(1)引用商標の周知著名性について
ア 請求人は、「浄水装置、水殺菌装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、し尿処理槽、家庭用し尿処理槽」を販売しているとして甲第1号証を挙げているが、甲第1号証には、このような商品説明はなく、請求人は、甲第1号証について立証しようとする事項の説明をしておらず、立証事項等の説明もない。
さらに、本件商標と類似の引用商標が請求人の取扱いに係る商品及び役務に使用する商標として本件商標の登録出願時及び登録査定時に、日本国及び外国において需要者の間において広く知られるに至っていることは、立証もなく、この事実は認められない。
また、請求人が現在生産している主要装置は、1300種類を超え、国内及び海外25力国において設置されていること、請求人の浄化装置は、家庭用及び業務用のものがあり、ホテルや大学のプールなど商業施設での使用例や工場での汚水処理、食品加工過程における浄水処理や軍隊での使用などさまざまな施設と用途で用いられていること、引用商標は、請求人の開発した浄水技術「MIOXテクノロジー」を表すものとして、日本国内で取引者・需要者の間で広く認識されていること、引用商標は、外国において取引者・需要者の間で広く認識されていることについては、何ら立証するものもなく、しかも、これが事実としても、本件商標の登録出願後の現在のことであり、主張の趣旨が不明である。
請求人がアメリカ合衆国において多数の賞を受賞したことは不知であり、また、この受賞が本件審判請求のどの要件に該当するか説明がなく、立証趣旨が不明である。
イ 請求人が水処理装置、浄水装置、水殺菌装置について世界的に知られている企業であるとは認められない。
また、引用商標は、日本、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、EU、オーストラリア、中国、韓国、香港、台湾、ブラジル、インド、トルコ、イスラエル、ベトナム、ベネズエラ、ボリビア、トリニタード・トバコなど世界各国に請求人によって登録、出願されていることは認めるとしても、この引用商標の登録、出願の事実をもって、引用商標の周知著名性を立証するというのならば、本件商標の登録出願前に登録出願し商標登録を受けたのはアメリカ合衆国、トリニダード・トバコ、メキシコ、カナダ、ベネズエラ及びボリビアのみで、他の各国は本件商標の登録出願後の登録出願であり、引用商標が周知の商標であること、また、著名な商標であることの説明及びその立証がなく、著名な商標であるとは認められない。
これらの登録商標の指定商品、例えばアメリカ合衆国の登録商標の指定商品は、第11類の「Water purification units for domestic、commercial and industrial use、and replacement parts therefor」であり、その他の各国の登録商標の指定商品も第11類の水浄化装置関係であって、本件商標の第7類化学機械器具関係の商品と非類似の商品であり、主張の趣旨が不明である。
ウ 請求人が1999年から日本において引用商標を付した商品の販売及び役務の提供を行なっていることは認めるとしても、甲第3号証は不知である。甲第3号証は、請求人が日本国内に販売した請求人の商品の販売リストであるとすれば、この甲第3号証に記載されている商品の過半数を超える少なくとも70数基は被請求人が代表取締役であるエヌエスピイによって販売され、かつ、メンテナンスが行われている商品が含まれているものである。なお、この販売実績は、エヌエスピイが多大の販売経費をかけた販売努力によるものであり、さらに、被請求人は、現在請求人の略同数基の在庫商品を有しているものである。
なお、付言すれば、被請求人は、請求人の代理店のビーエムを通して請求人に日本国の商標登録出願を進言したにも拘らず、出願されなかったため、被請求人は請求人の商品を商標「MIOX」を用いて販売するために行ったもので、被請求人はエヌエスピイにおいて、請求人の商品以外に使用したこともなく、使用する意思もないものである。
また、甲第3号証に記載されている商品の事業の総費用は、180万ドル(約1億7千万円)であるとしても、約9年間でこの程度の事業の総費用で引用商標の大規模な使用とはいえるものではない。

(2)本件商標と引用商標の類否及び混同について
ア 本件商標は、請求人の略称を含む商標であるとしても、この略称が著名であるとは認められず、また、本件商標が請求人の著名な略称を含む商標であるとしても、このことを理由としては既に本件審判を請求することができないものであるので、詳細な答弁は省略するが、本件商標が著名であることの説明及びその立証もせず、何故、本件商標が請求人の商号と関係あると不実に暗示するか不明である。
イ 本件商標の指定商品と引用商標を付した請求人の商品又は役務とが、どのような関係で類似するか明らかでなく、本件商標を付した本件商標の指定商品と引用商標を付した請求人の商品又は役務とが、混同を生じるおそれがある理由が明らかでない。
すなわち、本件商標の指定商品、第7類「化学反応・化学処理・酸化還元・化学物質供給・化学物質生成のための化学機械器具」が、請求人が販売していると主張している「水処理装置、浄水装置、水殺菌装置」又は請求人の第5097715号登録商標「MIOX」の指定商品、第11類「水の処理用・浄化用及び殺菌用の機械器具、浄水装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、家庭用し尿処理槽、し尿処理槽」と類似し、又は混同する説明及びその立証がない。
ウ 請求人は、引用商標が国際的に周知であることについてその立証もせずに主張しているが、なんら理由がなく、請求人の主張は認められない。引用商標がどのような理由で国際的に周知であると主張するのか不明である。
エ 日本における請求人の商品の販売数は甲第3号証によれば、2005年以降増加しているとはいえず、また、販売代理店が増加していることは不知である。
本件商標によって請求人が正当な営業利益を否定されること、及び新規商品及び役務について引用商標の使用を拡大していく機会を否定することになる理由がない。
請求人が、引用商標を使用する商品と本件商標の指定商品との関係を明確にしないで、請求人と被請求人は、商品、商品の販売場所、役務の提供場所、販売ルート、商品及び役務の広告の多くが共通であるか又は密接な関連性があり、同じ需要者により購入され使用されるものと、どのような理由でいえるのか、また、公衆は請求人と被請求人の商品が、同一の製造元から販売された商品と思い込んでしまうのか、その理由が明らかでない。
オ 請求人の日本の需要者、潜在的需要者、製造・卸売販売・小売に従事する者、浄水装置・水殺菌装置の取引者が引用商標を知っているとは認められない。請求人は何故、日本の需要者らが引用商標を知っていると主張するのか説明及びその立証がない。
本件商標が登録されていることによって、混同を引き起こし、商標及びブランド名をたよりに商品を購入している日本の需要者の利益を害することになるという理由も説明及びその立証がなく、何を意図して主張しているかも不明である。
請求人は、浄水装置・水殺菌装置の取引業界において非常に有名であり、周知であるとは、事実説明もその立証もなく認められない。
請求人の引用商標が、日本における需要者の間において、本件商標の登録出願時及び登録査定時は勿論、現在でも日本における需要者の間において極めて有名であり広く知られているとは、事実説明及びその立証もなく認められない。
また、請求人の販売する商品と、本件商標の指定商品との関係を明らかにしないで、両者間において出所混同が生ずるおそれがあるという理由はない。
カ 請求人の販売する商品及び提供する役務と本件商標の指定商品とは、どのような理由で、同一又は類似するか理由が不明であり、請求人の販売する商品及び提供する役務と、本件商標の指定商品とが、同一の販売ルートで取引され、市場において出所混同を生じるおそれがあるとはいえず、まして、引用商標が周知商標と認められないことからも出所混同を生じるおそれはない。
キ 商標法上、商品及び役務が近似するという文言及び概念はなく、請求人が近似するという主張の趣旨は不明である。あえて類似の文言を使用せず、近似の文言を使用しているのは、請求人自体も類似していないことを十分承知していると考えられる。
ク 請求人の引用商標は需要者の間に広く認識されているものとは認められず、また、本件商標が請求人の業務に係る商品と混同を生じるものとは認められない以上、本件商標は、請求人の商標との関連性を誤って示唆するものではない。
引用商標は、1999年以来日本において商業的に使用されたとしても、需要者間で周知又は著名になっているという事実説明及びその立証もなく、引用商標が日本において本件商標の登録出願前に需要者間で周知又は著名になっているとは認められず、引用商標が本件商標によって希釈化されることはない。なお、商標法上、商標が有名になっているという概念はない。
ケ 請求人の商品の購買者又は利用者が当該製品に対して不満を持った場合、請求人の信用と名声が傷つけられるのは当然であるが、本件商標を付した商品について、請求人の信用と名声が傷つけられる理由がない。
コ 本件商標と引用商標とは非常に近似していると請求人は主張しているが、立証もなく、また、上述のように、商標法上、近似している概念の下で両商標との出所混同のおそれがあるという請求人の主張は、不明である。
サ 本件商標により、請求人の事業活動を阻害し、妨害するという具体的な事実説明及びその立証もなく、本件商標により、請求人の事業活動を阻害し、妨害するという理由がない。

(3)不正の目的について
ア 被請求人は、請求人が日本国に商標登録を受けないので、被請求人が請求人の商品を販売するために商標「MIOX」を保護する必要があって登録を受けたものである。
被請求人は、エヌエスピイの代表取締役であるが、エヌエスピイはビーエムの代理店で、ビーエムの代理店と請求人との間でなされた契約内容は不知である。
請求人が、各国に商標登録出願して登録を受けているとしても、アメリカ合衆国、トリニダード・トバコ、メキシコ、カナダ、ベネズエラ及びボリビアの北米、南米の6力国以外は、本件商標の登録出願後であり、被請求人は、請求人が引用商標の登録を世界各国に受けていたとは知り得ることはない。
被請求人が商標「MIOXOXIDANT」(商願2006-7522号)の商標登録出願を取り下げたのは、甲第7号証に示す請求人との契約に際して、商標「MIOXOXIDANT」が登録されることを請求人に告げたところ、取り下げるようにとの申し入れがあり、取り下げたもので、契約義務違反ではないことは請求人が承知していることである。
イ 契約書について
被請求人は、エヌエスピイの代表取締役であり、ビーエムの代理店であったが、甲第4及び第6号証に示す請求人とビーエムとの国際流通契約の契約内容は知る由もない、
請求人と被請求人が代表取締役であるエヌエスピイは甲第7号証に示す契約を締結したが、この契約は本件商標の登録出願後の2004年2月1日の契約である。
請求人と被請求人が代表取締役であるエヌエスピイは甲第7号証の契約に代えて甲第8号証に示す契約を締結したが、本契約は本件商標の登録後である2006年7月1日の契約であり、請求人も被請求人が本件商標に係る商標権を所有していたことを知っていた。
なお、被請求人は、本件商標は請求人の商品を販売するために登録を受けたもので、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するために登録を受けたものではなく、甲第7及び第8号証に示す契約書においても、本件商標の使用は請求人の商品に制約されている。

3 むすび
請求人は、商標法第4条第1項第8号に関して、「MIOX」が請求人の著名な略称であること、同項第10号に関して、引用商標が請求人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして主要者の聞に広く認識されている商標であること、また、本件商標の指定商品が請求人の業務に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品であること、また、同法第4条第1項第15号に関して、本件商標が請求人の業務に係る商品若しくは役務と混同するおそれがある程度に引用商標が請求人の商標として周知であること、また、本件商標が不正の目的をもって使用するものであることの立証をするところがなく、単に主張しているのみであり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の規定に違背するものではない。
また、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号の規定に違背するという理由では、設定登録の日から5年経過しており、本件審判の請求はできない。
なお、請求人は、「本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって、不正の目的をもって使用するものであるので、商標法第4条第1項19号に違反して登録されたものである。」と主張しており、同法第4条第1項第10号及び同第15号に関しては、不正の目的については一切、言及されていないことから、除斥期間の除外については請求人の主張がないといえる。
さらに、請求人は、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証を提出しているが、その証拠として立証しようとする事項を記載しておらず、立証趣旨が不明である。
なお、審判請求書の請求理由に記載されなかった事実について審判請求後に証拠の提示をすること、及び新たな事実説明を加えてそれを立証することは、新たに無効理由を根拠付ける事実を追加することになるので、審判請求書の要旨を変更する補正である。
よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 本件審判の請求について
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の規定に違反して登録されたものであることを理由として、平成21年9月25日に、同法第46条第1項の規定に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
ところで、商標登録原簿によれば、本件商標は平成16年9月3日に設定登録されたものであることが明らかであるから、本件審判は、本件商標の設定登録の日から5年を経過した後に請求されたものである。
そして、商標法第46条第1項の審判は、商標登録が同法第4条第1項第8号、同第10号(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は同第15号(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)の規定に違反してされたものであることを理由としては、当該商標権の設定登録の日から5年を経過した後は請求することができないことは、同法第47条の規定から明らかである。
そうすると、本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当することを理由とする本件審判の請求は、不適法なものといわなければならない。また、本件商標が同法第4条第1項第10号又は同第15号に該当するというためには、本件商標が不正競争の目的又は不正の目的によって登録されたことが立証されなければならない。
さらに、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号又は同第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定が適用されないことは、同法第4条第3項の規定からも明らかである。
以上を前提として、以下、本件商標が請求人の掲げる上記各号に該当するか否かについて検討する。

2 商標法第4条第1項第8号について
前示のとおり、本件審判は、本件商標の設定登録の日から5年を経過した後に請求されたものであって、商標法第4条第1項第8号違背を理由として、その審判の請求をすることができないものであるから、本件商標が同号に該当するか否かについて判断するまでもなく、同号には該当しない。

3 不正競争の目的及び不正の目的について
請求人は、商標法第4条第1項第10号及び第15号に関し、被請求人がエヌエスピーの代表取締役であること及び甲第4号証ないし甲第8号証の契約書(和訳:甲第16号証)等をもって、本件商標権者(被請求人)による本件商標の登録出願及び登録には不正競争の目的ないし不正の目的があったと主張している。
しかしながら、甲第4号証及び甲第6号証の契約書は、請求人とビーエムとの間で締結されたものであるから、たとえ被請求人が代表取締役となっているエヌエスピイがビーエムの代理店であったとしても、その内容については、被請求人は関知し得ないものというべきである。また、甲第7号証及び甲第8号証の契約書は、本件商標の登録出願後に締結されたものであるから、本件商標の登録出願とは無関係といわざるを得ない。
そうすると、これらの契約書をもって、被請求人による本件商標の登録出願及び登録に不正競争の目的があったものということはできない。
その他、本件商標権者(被請求人)が不正競争又は不正の目的をもって本件商標の登録を受けたことを具体的に示す証左はない。

4 商標法第4条第1項第10号について
上記3のとおり、本件商標は不正競争の目的をもって登録出願し登録を受けたものとはいえないところ、念のため、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものであるか否かについて、念のため判断する。
(1)請求人は、「浄水装置、水殺菌装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、し尿処理槽、家庭用し尿処理槽」等を日本国及び外国において販売しているとし、引用商標が請求人の取扱に係る商品及び役務に使用する商標として本件商標の登録出願時及び登録査定時には日本国及び外国において需要者間に広く知られるに至った旨主張し、証拠を提出しているので、以下、該証拠について検討する。
ア 甲第1号証は、請求人会社のウェブサイトの写しと認められるところ、本件商標の登録出願後にプリントアウトされたものであり、その記述内容も、本件商標の登録出願時の事実を窺わせるものが見当たらないし、請求人会社を紹介するに止まり、引用商標については具体的な説明がなく、その具体的な使用の態様、方法、期間、範囲、宣伝広告の事実等が一切明らかでない。
イ 甲第2号証(和訳:甲第16号証)は、請求人が各国において引用商標を商標登録したものの一覧表及び各国における登録簿の写しと認められるところ、商標登録されたことのみによって、当該商標が周知著名になるものではないことはいうまでもない。
ウ 甲第3号証(和訳:甲第16号証)は、1999年1月から2007年9月までの間の日本における請求人の事業名称及び場所の一覧表の写しと認められるところ、これには引用商標の表示が全く見当たらないばかりでなく、具体的な事業、商品、役務等の記載やその具体的な説明も一切ない。
エ 甲第4及び第6号証(和訳:甲第16号証)は、請求人とビーエム間の契約書、甲第7及び第8号証(和訳:甲第16号証)は、請求人とエヌエスピイ間の契約書の各抜粋写しと認められ、甲第5号証はビーエムの卸業者リストの抜粋写しと認められるところ、これらからは引用商標の具体的な使用の態様、方法、期間、範囲、宣伝広告の事実等が一切明らかでない。
オ 甲第9号証は、請求人商品に関するウェブサイトの写しと認められるところ、本件商標の登録出願後にプリントアウトされたものであり、その記述内容も、本件商標の登録出願時の事実を窺わせるものが見当たらず、請求人の商品(浄水器)あるいはその使い方等を紹介するに止まり、引用商標については具体的な説明がなく、その具体的な使用の態様、方法、期間、範囲、宣伝広告の事実等が一切明らかでない。
カ 甲第10証は、請求人商品に関する新聞及び雑誌の写しと認められるところ、1頁目及び2頁目の「ニュース0425」とする記事についてはその作成日付が明らかではなく、また、新聞記事及び雑誌「近代建築」については、本件商標の登録出願後のものであり、また、これらには引用商標の表示が全く見当たらない。
キ 甲第11号証は、販売促進用に作成したパンフレットの写しと認められるところ、「輸入発売元 株式会社ビーエム」とするパンフレットは引用商標の表示が確認できないばかりか、作成日も明らかでない。また、「総輸入発売元 NSP・・・」とするパンフレット2種は、本件商標と類似する標章は表示されているものの、その作成日は、「2005.5」及び「2006-9」と窺えるもので、いずれも本件商標の登録出願後のものである。
ク 甲第12号証は、研究論文(一分抜粋)の写しと認められるところ、該論文の内容は、「混合酸化剤溶液の・・・不活化効果」とする「溶液」に関するものであり、請求人商品に関するものではなく、また、引用商標の表示も見当たらない。
ケ 甲第13号証は、1頁目を甲第1号証と同一のものとする請求人の会社概要のパンフレットの写しと認められるところ、作成日が明らかでなく、その記述内容も、本件商標の登録出願時の事実を窺わせるものが見当たらず、請求人会社あるいは取扱商品を紹介するに止まり、引用商標については具体的な説明がなく、その具体的な使用の態様、方法、期間、範囲、宣伝広告の事実等が一切明らかでない。
コ 甲第14号証は、請求人商品が紹介されているインターネットのサイトの印刷、商品料金の表示の写し、及び請求人による本件商標の使用見本の写しと認められるところ、1頁目及び2頁目のインターネットのサイトの写しについては、プリントアウトの日付が本件商標の登録出願後のものであり、かつ引用商標の表示が確認できない。また、3頁目は本件商標に類似する標章が表示されているが、被請求人に関する会社案内及び会社概要である。4頁目は「MIOX CORPORATION \ PRICE BOOK」とするものであるが、全て英文で表記されており、又取扱商品が確認できない。5頁目は本件商標の使用見本の写しとするものであるが、本件商標と類似する標章は確認できるものの、その具体的な使用の態様、方法、期間、範囲、宣伝広告の事実等が一切明らかでない。
サ 甲第15号証は、2001年の「ジェトロ環境展」の展示会の風景を撮影したものの写しと認められるところ、「E-126 MIOX Corporation」と表示された展示ブースに、本件商標と類似する標章を付したパンフレット等が確認できるものの、来場者数等は明らかでなく、また、この一回の展示会への出展により、どの程度の広告効果等があったのかも不明である。
(2)以上のとおりであるから、上記甲第1号証ないし甲第16号証によっては、引用商標が請求人の業務に係る商品又は役務を表示する商標として本件商標の登録出願時に日本国内又は外国における取引者、需要者の間に広く認識されているものとは到底認めることはできない。
その他、引用商標が請求人の業務に係る商品又は役務を表示する商標として本件商標の登録出願時に我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていると認めるに足る証拠はない。
(3)してみれば、引用商標の存在をもって本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとの請求人の主張は、仮に本件商標と引用商標とが類似するものであるとしても、引用商標が周知性を欠くものである以上、同号の要件を欠くものであり、理由がないことになる。
(4)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。

5 商標法第4条第1項第15号について
前記3のとおり、本件商標は不正の目的をもって登録出願し登録を受けたものとはいえないところ、念のため、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するものであるか否かについて検討する。
前記4のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示する商標として、本件商標の登録出願時に日本国内又は外国における取引者、需要者の間に広く認識されているものとはいえない。加えて、引用商標が使用されているとする商品「浄水装置、水殺菌装置、家庭用浄水器、汚水浄化槽、家庭用汚水浄化槽、し尿処理槽、家庭用し尿処理槽」と本件商標の指定商品とは、用途、用法、品質、機能、流通系統、需要者等を異にする非類似の商品であり、それぞれの関連性もそれ程強いものではない。
かかる事情の下において、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標ないしは請求人を連想、想起するようなことはないというべきであり、該商品が請求人又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

6 商標法第4条第1項第19号について
引用商標は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示する商標として、本件商標の登録出願時に日本国内又は外国における取引者、需要者の間に広く認識されているものとはいえないこと、また、本件商標は、不正競争の目的不正の目的をもって登録出願し登録を受けたものとはいえないことは、前示のとおりである。
その他、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的、その他の不正の目的をもって使用するものであることを認めるに足る証左はない。
そうすると、仮に本件商標と引用商標とが類似するところがあるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものとはいえない。

7 むすび
以上のとおりであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号又は同第19号の規定に違反して登録されたものであることを理由として、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(本件商標)(色彩については原本参照。)


審理終結日 2010-09-08 
結審通知日 2010-09-10 
審決日 2010-09-22 
出願番号 商願2003-54396(T2003-54396) 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (Y07)
T 1 11・ 222- Y (Y07)
T 1 11・ 25- Y (Y07)
T 1 11・ 271- Y (Y07)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 野口 美代子
小川 きみえ
登録日 2004-09-03 
登録番号 商標登録第4798909号(T4798909) 
商標の称呼 マイオックス、ミオックス 
代理人 山田 哲也 
代理人 樺澤 聡 
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所 
代理人 樺澤 襄 

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