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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011890082 審決 商標
無効2011890110 審決 商標
無効2011890049 審決 商標
無効2012890081 審決 商標
異議2011900234 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X09
管理番号 1258303 
審判番号 無効2011-890064 
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-07-21 
確定日 2012-06-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第5305698号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5305698号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5305698号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成21年9月14日に登録出願、第9類「コンピュータ用キーボード,コンピュータマウス,コンピュータ用メモリー,ノートブック型コンピュータ,コンピュータ用ビデオカード,コンピュータ周辺機器」を指定商品として、同22年1月18日に登録査定、同年3月5日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第101号証(ただし、甲第3号証は欠番)を提出した。
1 請求の根拠
本件商標の登録は、後記3のとおり、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号、同第19号及び同法第3条第1項柱書きに違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
2 利害関係
請求人の一人である株式会社ユニスター(以下「ユニスター社」という。)は、日本の輸入業者であり、台湾に本社を置く他の請求人であるASRock Inc.(以下「ASRock社」という。)から商標「ASRock」(別掲2、以下「引用商標」という。)を付したマザーボードを輸入して日本国内で販売をしているところ、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)から商標権侵害であるとの警告を受けている。また、ASRock社は、その出願に係る商標「ASRock」(商願2010-39965)について、本件商標を引用した拒絶理由通知を受けている。したがって、本件商標は、請求人の業務に支障を来たしているものであるから、請求人が利害関係人であることは明らかである。
3 無効の理由
(1)商標法第4条第1項第7号
ア いわゆる「悪意の出願」
日本又は外国で使用されて一定の評価を得ている商標を他人が剽窃的に出願することは公正な取引秩序を乱すものであり、公序良俗を害するおそれがある出願として、商標法の目的に沿った実質的な判断がなされるべきである。最近の審判決例には、その趣旨に沿った判断が散見されるようになっている(甲4?甲9)。
本件商標と同一の商標についても、本件商標権者の悪意が認められ、商標法第4条第1項第7号の適用を認めた事例がある(知財高裁平成21年(行ケ)第10297号:甲2)。この事件は、本件商標権者が請求人を加害する目的をもって抜け駆け的に出願し、商標登録を受けたものであり、このような行為は認められるべきでないとして争われたものである。本件商標も上記事件と同様、悪意の出願であり、商標法第4条第1項第7号等に違反するものである。
イ ASRock社について
前記2のとおり、ユニスター社は、ASRock社のマザーボードの輸入販売を行う同社の日本における正規の輸入代理店であり、また、ASRock社は、台湾に本社を置くマザーボードの製造販売会社であって(甲10)、同じく台湾に本社を置くASUSTeK Computer Inc.(以下「ASUSTeK社」という)の子会社として2002年(平成14年)に設立された。ASUSTeK社は、マザーボードやビデオカードなどのパソコン向けパーツをはじめ、ノートパソコン、PDA、サーバー製品、ネットワーク機器、携帯電話などの総合電子機器メーカーである。その開発部門は世界的に有名で、マザーボード、ビデオカード、ノートパソコン、光学ドライブ、ブロードバンドモデムの分野では、常に世界で上位10社にランキングされている。特にマザーボードの分野で高い評価を得ており、マザーボードの世界シェアでは1位であって、全体の約30%を占める極めて著名なメーカーである(甲11?甲16)。ASRock社は、系列会社としてASUSTeK社では製造しないイレギュラーなマザーボードを開発・販売するメーカーとして注目を集めており、ASUSTeK社と共にその関連マザーボードメーカーとして著名である。現在は、ASRock社自身も我が国のユーザー向けに、通販、量販店での販売等さまざまな形式で積極的に拡販活動を行っている(甲79?甲81)。
ウ 本件商標の出願経緯
本件商標権者は、本件商標の出願前に、同一の商標「Asrock」を、韓国の国内出願を基礎として、日本国を指定国とするマドリッド協定議定書に基づく国際出願をして日本で商標登録を確保していた。その商標登録は、韓国の国内登録(以下「原基礎登録」という。)が無効審判によって無効が確定した結果、マドリッド協定議定書の規定により国際登録(国際登録第818186号、以下「別件国際登録」という。)が取り消され、その後、商標法第68条の32第1項の適用を受けて国内出願に変更し、取り消された別件国際登録の国際登録日が出願日と認定されて商標登録第5072102号として設定登録がされたものである。その登録には、商標登録の無効審判(無効2008-890066号)が請求され、一旦は請求は成り立たないとされたものの、審決取消訴訟において本件商標権者の悪意が認められて、審決が取り消された。本件商標権者は、無効審判の維持審決がなされた直後に本件商標を出願したのである。本件商標の出願の経緯には、先登録の無効の危機を回避して更なる不正の利益を得る目的を有することが推認される。
エ 韓国での訴訟について
本件商標権者は、原基礎登録の商標権に基づき、台湾のASRock社から輸入した正規の商品を取り扱う関連会社に対して差止請求を提起したが、本件商標権者は、事業活動を行っておらず、将来においても行うであろうと認められる証拠もないとして、差止請求は棄却された(甲17)。商標を使用する実体がなく、使用する意思もないものと認定されており、本件商標権者の権利行使は法的に認められるものではなかったことを示している。
商標登録第5072102号商標(別掲3、以下「別件登録商標」という。)と深く関連する本件商標も同様に、使用意思のない商標を、専ら不正の目的をもって出願し、登録を受けたものであることは、出願の経過から明らかであり、正に不正の利益を得る目的をもった無効とすべき悪意登録であると思料する。
オ 本件商標権者の悪意
本件商標権者は、商標「Asrock」を使用し、事業を行う意思が全くないにもかかわらず、ASUSTeK社が子会社を立ち上げることを知り、不正な利益を得ることを主な目的とし、かつ、ASRock社の商標の使用及び利用を妨害するために原基礎登録の商標権を取得したものと考えられる。韓国及び日本においても事業の実体がなく、また将来においても使用の意思がないため、他人の使用によって実質的に何ら損害を被っていないにもかかわらず、ASRock社に対して訴訟を提起していることから、本件商標権者には明らかに、韓国及び日本において、不正の意図があったものと考えられる。別件登録商標は、ASRock社が日本に輸出販売を行っている事実を知り、前記ウのとおり、後日マドリッド協定議定書により日本国を指定した国際出願をして権利化を画策し、原基礎登録の消滅を受けて国内出願に変更して商標権を取得したものである。
また、ASUSTeK社が子会社としてASRock社及びASRockブランドを立ち上げたという情報は、原基礎登録に係る韓国の国内出願日である2002年(平成14年)7月3日以前の同年同月2日に、台湾のニュースメディア「DIGITIMES」が取り上げている(以下「本件ニュース」という。)。「DIGITIMES」は、IT関連の情報を新聞及びウェブサイトで配信しているメディアであり、英語版ウェブサイトには毎日3万件の訪問者がある。また、その他のIT関連のウェブサイトにおいても取り上げられ、翌日には韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも情報が伝えられた(甲19?甲22)。この子会社又は新ブランドのニュースの到着は、別件登録商標の出願日から1年以上も前のことであり、本件商標の出願日から7年以上経過しており、既に事業内容も明らかになっていたと考えられる。
したがって、インターネットにおける情報等により、本件商標権者は、本件商標の出願前から「ASRock」の名称を知っていたことは明らかである。これが善意で出願した偶然の一致であると強弁したところでその信ぴょう性は全く疑わしいといわざるを得ず、むしろ知らなかったとの主張は虚偽に限りなく近いといわざるを得ない。
さらに、本件商標の出願は、別件登録商標に対する無効審判の請求後の出願であるので、その悪意性は明らかである。
以上より、本件商標権者は、請求人の使用している商標をわざわざ変形した態様で故意に出願したものと考えざるを得ない。ASRock社の商標は、「A」、「S」及び「R」の大文字と、小文字とからなり、多少図案化されている点で本件商標と多少の相違はあるが、「ASRock」の語は造語であり、本件商標権者がマザーボードに類似する商品「コンピュータ用キーボード」等について偶然に本件商標を採択したとは到底考えられない。また、本件商標権者には、コンピュータのキーボードやメモリ一等を製造するような大々的な事業を行う可能性があるならまだしも、そのような主体も事業体も意思もない状態で、本件商標を指定商品「コンピュータ用キーボード」等に出願し、権利を取得したことが全くの偶然であったとの主張は到底成り立たない。
本件商標は、単に他人である請求人に買わせることが目的の商標であり、将来的にも業務上の信用が蓄積する可能性は全くなく、真に商標の使用を欲するASRock社やその輸入会社の商標の使用や商標権の取得を妨害し、さらには他人の経済活動から不当な利得を得ようとする登録である。また、仮に本件商標権者が本件商標を使用することとなれば、ASRock社及び関連会社が商標「ASRock」に蓄積した信用を毀損するばかりでなく、その剽窃を許すことになり、需要者に不測の混乱を招き、需要者やASRock社の製品に関わる者の全ての利益を害するものである。
また、原基礎登録の出願から本件商標の出願日までの間に、インターネット等においてASRock社及び同社製品に関する情報が複数掲載されており(甲23?甲56、甲71?甲78)、本件商標権者は、引用商標の存在を充分知った上で、日本で商標権を剽窃する目的で本件商標を出願したと考えることができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである。
(2)商標法第4条第1項第8号
本件商標は、ASRock社の著名な略称である「ASRock」と同一又は極めて類似する商標である。
ASRock社は、前記(1)イのとおり、大手パソコン機器メーカーであるASUSTeK社の子会社として設立され、ASUSTeK社と共にマザーボードの製造販売を行っている。世界各国に「ASRock」の商標権を取得しており(甲57)、多くの国でASRock社製品を販売している(甲58?甲64)。我が国においては、ASRock社のマザーボードは、2002年(平成14年)末から輸入され、2003年(平成15年)年初から販売が開始されたが(甲65?甲68)、本件商標の出願日前より、インターネット上の価格比較サイト等で紹介されていた(甲85?甲88)。また、ASRock社の製品は、インターネット上のニュース記事(インプレス、PC Watch)によると、2007年(平成19年)の日本国内におけるマザーボードのシェアは第3位であった(甲90)。さらに、他のインターネットサイトでは、2009年(平成21年)において最も支持されたマザーボードとしてASRock社の製品を選出した(甲91)。なお、送金依頼書等に記載されている株式会社ユニティの表示は、ASRock社の関連会社である。
上述のように、ASRock社は、世界で重要なシェアを占め(甲82?甲84)、極めて著名であるASUSTeK社の子会社として注目され、また、ASUSTeK社では取り扱わない仕様や異なる価格帯の製品を販売していることから、固有のブランドとしての地位も確立している。
また、商標「ASRock」は、ASRock社製品を表示するものとして、需要者・取引者の間に広く知られるとともに、「ASRock」がASRock社自身を指す略称としても広く知られていると考えられる。
我が国においても、本件商標の出願日である平成21年9月14日にはマザーボード市場において一定の地位を得ていたと考えられるので、本件商標の出願時及び査定時において、「ASRock」標章は、ASRock社の著名な略称に該当するものであると考えられる。また、本件商標権者は、ASRock社とは全く無関係の他人であり、許諾を得ることなく本件商標の出願を行っているものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号に違反してされたものである。
(3)商標法第4条第1項第10号
ア 本件商標と引用商標の対比
本件商標は、引用商標と欧文字の綴りを全く同じくし、「アスロック」の同一の称呼を生じることから極めて近似する同一に近い商標である。また、本件商標の指定商品、第9類「コンピュータ用キーボード、コンピュータマウス、コンピュータ用メモリー」等と引用商標が使用される「マザーボード」とは、同じ電子応用機械器具の範ちゅうに入り、類似の商品である。
イ 引用商標の周知性
上述のように、マザーボードの分野では、ASUSTeK社が圧倒的なシェアを誇っているが、その子会社であるASRock社も設立当初から注目されており、ASUSTeK社には出荷台数において及ばないものの、特殊な仕様のマザーボードを取り扱っている業界では有名であり、独自の商品展開により人気を集め、ASRock社のマザーボードは多数の国で販売され、特殊仕様のマザーボードに限定すれば一定の高いシェアを有している(甲69、甲70)。インターネット等でも、ASRock社のニュースや製品の紹介がされており、また、ユーザー間でもASRock社やその製品についての情報交換が頻繁に行われている(甲19?甲56)。我が国においても、メディア等に取り上げられており(甲71?甲77)、一定の人気を得ている(甲78)。海外及び我が国の需要者の間でも広く認識され、2002年(平成14年)の設立当初よりその動向が注目されていた。また、その後各国において使用が継続されており、平成21年の出願時点では大きな広がりを見せ、また、現在は、我が国のユーザー向けにホームページが作成されており、積極的に拡販活動を行っている(甲79?甲81)。したがって、本件商標の出願時において既に特殊仕様マザーボードの業界では周知性を獲得していたものであり、その周知性は現在も維持されている。現在では、海外・我が国いずれにおけるシェアも上位に位置している(甲82?甲84)。我が国においては、本件商標の出願前において、ASRock社のマザーボードがインターネット上の価格比較サイトや一般サイトにおいて既に紹介されていた(甲85?甲89)。インターネット上のニュース記事(インプレス、PC Watch)では、日本国内における2007年(平成19年)のマザーボードのシェアで第3位であった(甲90)。また、別のサイト(価格.com)では、2009年(平成21年)において最も支持されたマザーボードとしてASRock社の製品が選ばれた(甲91)。これらの事実から、本件商標の出願日において、引用商標は、ASRock社の「マザーボード」の出所を示す商標として日本国内において周知となっていたと考えられる。
さらに、上記ニュース記事では、2008年(平成20年)6月に台北において行われたコンピュータに関する展示会において、ASRock社はマザーボードを出品したことが報じられた(甲92)。また、ASRock社は、2007年(平成19年)及び2008年(平成20年)に、ドイツで開催される世界最大級のコンピュータ見本市である「Cebit(セビット)」に製品を出品した(甲93?甲96)。また、ASRock社の製品は各国において様々な賞を受賞した(甲97、甲98)。これらの事実より、本件商標の出願日において、引用商標は海外において広く知られていたと考えられる。
また、この種の商品の需要者は、海外における製品の動向に敏感であるため、上記海外における事実から、引用商標は、日本国内における需要者に、商品「マザーボード」の出所を示す商標として広く知られるに至っていたものと考えられる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものでる。
(4)商標法第4条第1項第15号
前記(3)のように、引用商標を付したマザーボードは、取引者・需要者の間で既に著名となっているものと考えられる。したがって、本件商標権者が本件商標をその指定商品に使用すると、需要者は、ASRock社の商品であると誤認するおそれがあり、また、商品等の出所について混同を生じるおそれがある。
また、本件商標権者が本件商標を使用すれば、ASRock社及び正規の代理店として事業を行う輸入業者等の業務と直接混同を生じるか、又は、直接混同がなかったとしても経済的に何等かの関連がある者の業務に係る商品であると誤解されることは明らかである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
(5)商標法第4条第1項第19号
前記(3)で述べた事実のほか、海外のインターネットサイトでは、本件商標の出願前に商標「ASRock」を付したマザーボードが広く紹介され,販売されている(甲99?甲101)。
これらの事実から、本件商標の出願日において、商標「ASRock」は海外において広く知られていたものと考えられる。
本件商標は、台湾等の外国で周知な引用商標と類似する本件商標が我が国で登録されていないことを奇貨として、日本への輸出を阻止する等の不正の目的又は高額で買い取らせるため等を目的に出願したものと考えられる。現に本件商標権者は台湾からの輸入に関し、請求人に商標権侵害であるので輸入を中止するように求めてきている。このことは、不正の目的が実在することの証明である。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反してされたものである。
(6)商標法第3条第1項柱書き
本来的に現在又は将来について自らが使用しない商標については登録を受けることは認められていない。本件商標権者にはASRock社製品の日本での輸入販売を独占したい意思が見受けられるが、このような趣旨で商標を取得することはできないとするのが本規定の柱書きの内容と考えられる。
韓国における関連する訴訟では、本件商標権者が業務を行う実体がなく、また将来においても事業を行うということが認められないとも認定された(甲17)。さらに、本件商標権者は韓国に在住する個人であることから、我が国において商品に商標を付すような業務を行うことは困難であり、韓国において使用の意思がなかったものが我が国において使用の意思があるとは到底考えられない。
また、本件商標の出願時には、日本国内において既にASRock社のマザーボードは市場に流通しており、それを知り得なかったとはいえず、そのような状況の中で、本件商標権者が本件商標を使用すれば、ASRock社製品との間に混同等を引き起こすことは明らかである。したがって、本件商標権者が自己の事業について本件商標を使用する意思があるか又は過去にあったとは到底考えられない。
これらの点にかんがみると、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書きに違反してされたものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第132号証の21を提出した(なお、乙号証において、枝番を有するもので、枝番のすべてを引用する場合は、以下、枝番の記載を省略する。)。
1 基礎的事項
(1)ユニスター社について
ユニスター社は、2003年(平成15年)10月17日に設立された企業であり(乙7)、ASRock社の製品を輸入し、同年11月から国内で販売している(甲72)。
(2)ASRock社について
ASRock社は、2002年(平成14年)5月14日に設立され(乙8)、引用商標を使用している台湾の企業である。中国及び台湾では、「華○(「敬」の下に「手」と記載)科技」又は「○(「化」の下に「十」と記載)○(「敬」の下に「手」と記載)」という名称(略称)を使用している(甲34?甲45、乙9?乙12)。中国では、2002年(平成14年)10月末からマザーボードを販売し始め(乙106)、2003年(平成15年)以降は外国で製品を販売し始めた。日本には、2003年(平成15年)1月に40個のマザーボードを輸出したが(甲65、甲67)、引用商標を付した製品が2003年(平成15年)9月以前に日本国内で販売された証拠はない。
(3)ASUSTeK社について
ASUSTeK社は、引用商標とは別の商標「ASUS」を使用する台湾企業であり(乙13、乙14)、引用商標を台湾、日本又は外国で出願あるいは使用したという事実はなく、引用商標に対する権利は一切持っていない。また、ASUSTeK社製品を輸入する日本の代理店は、ユニスター社とは異なる企業である。
請求人は、ASUSTeK社の周知性を主張して甲第11号証ないし甲第16号証を提出するが、これらは、ASRock社又は引用商標の周知性を立証するための資料ではなく、本件とは全く関連のないものである。
よって、全く異なる商標を使用する他企業の周知性を根拠に、引用商標の周知性を判断することは不可能である。
(4)別件国際登録及び別件登録商標(これらをまとめていうときは、以下「別件登録商標等」という。)の出願時のASRock社製品の販売数量
甲第58号証ないし甲第68号証を総合すると、ASRock社は、2003年(平成15年)1月から同年9月まで、総1万個程度の製品を外国に販売した。国内に輸入された総数量は40個であり、金額は1,960ドルである(甲65?甲67)。
2003年(平成15年)メインボード製品の世界市場規模は、1億5千5百万個(乙112、乙113)であり、国内市場規模は1,078万個に推算される(乙114)。
2 商標法第4条第1項第7号について
別件登録商標等の出願日である2003年(平成15年)9月18日以前に、日本で引用商標が使用された証拠は全くなく、また、外国の場合でも、台湾の企業が引用商標を使用した2002年(平成14年)10月以前(乙106)に別件国際登録の基礎登録が韓国で出願(2002年(平成14年)7月)されていることから、本号が適用される余地はなく、請求人の主張は認められない。
(1)請求人は、別件登録商標等が悪意のある出願だと主張するが、これらの出願当時、国内で引用商標は全く使われていなかったため、悪意の対象として存在していなかった。したがって、請求人の主張は認めることができない。未登録商標は長期間広く使われ、法により保護する価値が蓄積した商標に限り制限的に保護されている。しかし、外国の企業が将来国内で使う可能性のある商標を保護しなければならない法的根拠はない。また、請求人が主張するような可能性が別件登録商標等の出願時に存在していたということを認めるに値する客観的な証拠もない。
(2)ASRock社がASUSTeK社の子会社であるという主張について
ASUSTeK社は、2003年(平成15年)2月11日付けの公式書信及び2005年(平成17年)4月15日付けの回答を通じて、ASRock社は子会社ではないという事実を明らかにした(乙15、乙16)。また、ASRock社の持分保有者名簿によれば、ASUSTeK社には全く持分がない(乙12の2)。このことから、ASRock社とASUSTeK社との関連性を主張することはできない(乙131)。仮にASRock社とASUSTeK社との間に何らかの関係性があったとしても、本件とは全く関係のない事項であり、そもそも商標の周著性については、商標の使用方法、使用期間、売上高、市場占有率などの資料を総合的に判断するものであり、特定企業との関連性の有無によって判断されるものではない。
(3)別件登録商標等の出願時のASRock社製品の世界市場占有率
ASUSTeK社の会社紹介資料(乙112)によれば、同社が2003年(平成15年)に3千万個のマザーボードを販売して世界市場の20%を占有すると主張したため、2003年(平成15年)の世界市場規模は1億5千万個であることが分かる(電波新聞の資料によると1億5千5百万個:乙113)。
甲第58号証ないし甲第68号証を総合すると、ASRock社が別件登録商標等の出願前に、海外で販売した製品の数量は、1万個余り(OEM用含む)にすぎず、また、わずか数か月にしかすぎない取引期間を勘案すると、別件登録商標等の出願日において、引用商標を付した製品は、外国で周知著名の段階に至ったと判断することができるだけの要件を満たしていない。
(4)OEM製品の製造、販売について
マザーボードを生産する大多数の台湾企業では、OEM用製品の製造販売をしている(乙118)。2002年(平成14年)5月に設立されたASRock社も初期には主にOEM用マザーボード製品を販売していた(乙117)。OEM用製品の販売は、独自的な商標を消費者にしっかりと知らしめることができない販売方式である(乙116)。韓国で、引用商標を付した製品を取り扱う代理店の契約書等にも、ASRock社の製品がOEM販売されている旨の記載がある(乙119?乙121)。
したがって、ASRock社が販売した数量(甲58?甲68)の中にはOEM方式により販売された数量が含まれているため、2003年(平成15年)当時に引用商標が消費者に知られるように販売された製品数量は、微々たるものであると判断することができる。
(5)別件登録商標等の出願時の商標「ASRock」の日本市場占有率
別件登録商標等の出願前にASRock社が日本に販売した製品の数量は、2003年(平成15年)1月14日に20個、同年同月27日に20個の計40個であり(甲66、甲67)、総金額は1,960ドルにすぎない。マザーボードは、デスクトップPCごとに1つずつ必須で装着されるものであり、2003年(平成15年)当時の日本におけるマザーボードの市場規模は、数量基準で1,078万個(月平均90万個)である(乙114)。したがって、ASRock社の製品40個が日本市場で占める比重は限りなく0%に近い微々たる数量であることが分かる。
また、輸入された製品が消費者に販売されたのか、あるいは、PC組立企業にOEMとして供給されて消費者が引用商標が分からない状態で流通されたのかを確認することができず、実際に日本国内で2003年(平成15年)9月以前に販売されたという証拠もない。
また、甲第65号証ないし甲第67号証は、全て消費者間で取り引きされる書類ではなく輸出入書類にすぎないので、商標の使用証拠として認めることはできない。請求人は、日本で周知となった商標を本件商標権者が出願したものだと主張するが、小規模企業で40個の数量を輸入した事実を第三者である本件商標権者が分かる方法はなく、このような主張を認めることはできない。
(6)韓国での無効審判について
韓国での無効審決の理由は、原基礎登録商標が他人の先登録商標「SLock」と類似しているというものであり、引用商標の周知性を認めるものではない(甲18)。韓国における未登録商標の周知可否を判断する基準日は、登録商標の出願日ではなく登録商標の登録決定日を基準に判断するものである(乙105)。当時の請求人は、原基礎登録商標の登録決定日である2003年(平成15年)9月8日を基準として引用商標が周知であると主張したものの認定されていない(乙106)。
(7)韓国での訴訟について
請求人は、原基礎登録商標が韓国で使用された事実がないと主張して甲第17号証(判決)を提出する。しかし、甲第17号証は、引用商標の使用禁止請求に対する最終判決ではなく、最終判決はソウル高等裁判所の判決である。韓国の最高裁判所判例によれば、「たとえ無効である理由があるとしても無効として確定される前までは登録商標の効力を否認することができない」とし、登録商標の使用可否に関係なく、類似商標は使用が禁止されることが適切である。原基礎登録商標の使用証拠は、乙第25号証のとおりである。
(8)別件登録商標等の出願時のASRock社製品の韓国市場占有率
韓国関税庁統計によると、2003年(平成15年)のマザーボード製品の輸入金額は2億7千万ドルである(乙107)。また、韓国情報通信協会の資料によると、2003年(平成15年)のマザーボード製品の内需市場規模は総3,425億ウォンであり、2003年(平成15年)1月から同年9月までの内需市場規模は2,370億ウォンである(乙108、乙109)。マザーボードは、PCに1つずつ装着されるものであり、2003年(平成15年)に韓国で販売されたPCの数量は329万台であるため(乙110)、2003年(平成15年)1月から同年9月までのマザーボード市場規模は、数量基準としておよそ247万個と推算することができる。
ところで、請求人が提出した資料及び韓国での審判当時、ASRock社が提出した資料を総合すれば、2003年(平成15年)9月を基準にASRock社製品が韓国市場で占める比重は、輸入金額基準で0.3%、内需金額基準では0.4%、内需数量基準では0.5%にすぎない数値である。同時に製品が販売された期間も2003年(平成15年)3月から(甲27)同年9月までの数か月にすぎないため、周知商標として判断することができる要件を満たしているとはいえない。
また、2003年(平成15年)当時、韓国で発行された日刊紙「電子新聞」には、主要電子製品の価格表(乙111)が掲載されており、マザーボード製品の場合、約10以上のメーカー(総数30余りのモデル)の製品が表示されているが、引用商標を表示した製品は全く掲載されていないため、別件登録商標等の出願時において、引用商標は、韓国で周知商標として判断する要件を満たしていないことを客観的に確認することができる。
請求人は、インターネット掲示物(甲27?甲33)が存在するため、引用商標が韓国では周知であると主張するが、たった数個のインターネット掲示物が存在するという理由だけで周知であると認めることはできない。
(9)甲第56号証(Yahoo!ジオシティーズウェブサイト写し)について
請求人は、引用商標が別件登録商標等の出願前に日本国内で周知であったと主張するが、その証拠は甲第56号証が唯一のものである。請求人は、甲第56号証に「2003年7月31日22時16分」という表示があるため、別件登録商標等の出願日から1か月前に、引用商標が日本で使用されたと主張する。
ところで、Yahoo!ジオシティーズは、ヤフーが無料で提供している個人ホームページであり(乙123)、個人が自由に掲示物を作成・修正することができるため、「2003年7月31日22時16分」という表示も、Yahoo!ジオシティーズで一括的に付与するものではなく、個人が掲示日付を直接作成することができることから、このようなものを証拠として認めることはできない(乙122)。
したがって、たとえ、甲第56号証が虚偽資料ではないとしても、個人のホームページに掲示された1つの掲示物のみをもって、引用商標が周知であったとする請求人の主張を認めることはできない。
(10)甲第19号証ないし甲第22号証について
甲第19号証の記事は、当事者が直接発表した事項ではなく第三者が記述したものであって確定された事実ではなく、単に未来の予想を記述したものであり、そのような予想が未来に実現するかどうかが明確には分からない状態で作成されたものである。また、韓国や日本ではない中国に対する予想であり、製品の種類も示されていない。引用商標のようにデザインされた商標は、掲示物に全く表れておらず不確実な未来の予想を第三者が記述したにすぎないものであり、実際に商標を使用していたという証拠にはならない。
digitimes.comは、2002年(平成14年)7月の当時はもちろんのこと、それから1年以上経過した別件登録商標等の出願当時にも乙第19号証の内容が国内で周知されていたという証拠は全くない。請求人は、digitimes.comは毎日3万人のアクセス者がいると主張するが、甲第19号証が掲示された2002年(平成14年)7月当時のアクセス者数及び特定掲示物の閲覧人員を客観的に確認できる立証資料はない。
甲第20号証及び甲第22号証は、全て原基礎登録商標の出願よりも先に掲示された資料ではない。
(11)引用商標の創作性について
引用商標は、独特な態様の商標ではなく、単純に英文字でのみ構成されたものである。英語辞典に出てくる一般的な英熟語「soild as rock」(意味:堅固な、信頼できる)(審決注:「soild」は「solid」の誤記と認める。)を利用したもので、ASRock社の会社紹介にも「ASRock is solid as rock」という文章を使っている(乙21)。構成単語である「as」と「rock」は、どちらも基礎英単語としてよく使われる単語であり、商標「ASRock」と創作動機の等しい類似商標「AZROCK」は、古くは1932年からアメリカ、韓国、台湾といった国々で既に他人によって出願されたことがある(乙22)。
したがって、引用商標は、相当な創作性が認められる商標であるとみることはできない。
(12)外観態様の相違について
請求人は、周知著名な引用商標の外観を変形して本件商標を出願したと主張する。しかし、本件商標の外観は、別件登録商標等及び原基礎登録商標と同一又は類似であり、原基礎登録商標の出願日(2002年(平成14年)7月)当時の引用商標は、海外又は国内に存在していなかったため、請求人の主張は認めることができない。
3 商標法第4条第1項第8号について
ASRock社は、2002年(平成14年)5月に華○(○は「敬」の下に「手」と記載)科技有限公司という名称で設立され(乙8)、設立当時には「ASRock」という名称を使用していなかった。韓国では、別件登録商標等の原基礎登録商標が出願された2002年(平成14年)7月以後、2003年(平成15年)からASRock社製品が販売され始めた(甲27)。
甲第57号証は、様々な国に商標を出願したという事実のみを確認することができるものであり、実際に「ASROCK」の周知可否は分からない。また、出願日はただの一件も例外なくすべて原基礎登録商標の出願後である。
甲第58号証ないし甲第64号証は、主に2003年(平成15年)7月から同年9月初めの間に作成された輸出入関連書類である。輸出入書類は、商標の使用証拠とすることができず、ただマザーボードの輸出入の事実のみを確認することができるものである。書類上に表示された製品の数量は総1万個程度である。2003年(平成15年)当時の世界市場規模が1億5千5百万個(乙113)であることを勘案すれば極めて少ない数量であり、2003年(平成15年)9月以前に消費者に販売された数量も分からない。また、取引期間も2003年(平成15年)9月までの数か月間にすぎないため、ASRock社が有名な名称である、又は、有名な略称である、と判断する要件を満たすことができない。
さらに、日本には、2003年(平成15年)1月に総数40個のマザーボードが輸入されたが(甲66、甲67)、同年9月以前に日本国内で販売された証拠はない。一方、米国には1932年(昭和7年)からASRock社が存在している(乙22の4)。
4 商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
別件登録商標等の出願日以前に、引用商標を付した製品が日本の需要者間で周知であるという証拠の提出はなく、本号が適用される余地はない。
甲第69号証及び甲第70号証は、いずれも2007年の資料である。その他の証拠も全て、別件登録商標等及び本件商標(審決注:「本件商標」の語については、被請求人の主張そのままを記載した。)の出願以降の使用実績である。
甲第19号証ないし甲第55号証は、いずれも外国のウェブサイトの写しであり、最初の掲示日付は2003年(平成15年)3月からである。インターネット掲示物は、一日に数千万ページが作成されるが、わずか数か月の間で30件余りのインターネット掲示物が存在するという理由だけで、引用商標の周知性を認めることはできない(東京高判昭和28年11月5日判決昭和27(行ナ)20号参照)。
5 商標法第4条第1項第19号
外国での引用商標の使用期間については、中国では2003年(平成15年)初頭から数か月間であり(甲34)、韓国では2003年(平成15年)3月から数か月間(甲27)、ロシアでは2003年(平成15年)6月から数か月間にすぎず(甲48)、世界市場の市場占有率も微々たる水準である。2003年(平成15年)9月当時、引用商標は、外国で極めて初期の商標使用段階にあり、周知商標として判断する要件を満たしていない。
6 商標法第3条第1項柱書き
本件商標権者は、2002年(平成14年)3月からコンピュータ及び周辺機器製品を取扱う業社を運営している。本件商標を付した製品は、国内で発行する生活情報誌に広告されており(乙59の9?10)、楽天及びnts21.comのウェブサイトで販売していることから(乙50の11?12、乙57の9?12、乙52?乙54)、本項は適用されない。
7 むすび
引用商標は、原基礎登録商標が韓国に出願された後、海外で使用され始めたものであり、別件登録商標等の出願時、引用商標が日本国内で周知されていたという事実や、引用商標と関連して法により保護しなければならない公の秩序が存在したという証拠はなく、外国でも周知商標として判断する要件も満たしていない。
よって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号、同第19号及び同法第3条第1項柱書きのいずれの規定にも違反してされたものではない。

第4 当審の判断
1 利害関係について
請求人が、本件審判の請求をするにつき法律上の利益を有する者に該当することについて、被請求人は、争うことを明らかにしていない。
よって、以下、本案に入って審理する。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)認定事実
請求人及び被請求人の主張並びに提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア ASUSTeK社及び請求人について
(ア)ASUSTeK社は、1989年(平成元年)に設立された台湾の最大手のコンピュータのマザーボードの製造会社であり、その他、ビデオカード、ノートパソコン、サーバー製品、ネットワーク機器などを製造・販売している。ASUSTeK社は、1998年(平成10年)に米国のニューズウィーク誌において「世界のベストIT企業」の18位に選ばれ、「2002年度(平成14年)世界の電子・通信・メディア企業純利益上位100社」のうち、57位に位置し、マザーボードやビデオカード、ノートパソコン、光学ドライブ、ブロードバンドモデムの分野では、常に世界で上位10社にランキングされており、特にマザーボードの世界シェアでは1位であって、2003年度(平成15年)には全体の約30%を占めていた(甲11?甲16)。
(イ)請求人の一人であるASRock社は、2002年(平成14年)5月10日に設立された、台湾に本店を置くコンピュータのマザーボードの製造・販売会社であり、マザーボードの分野において、ASUSTeK社の第二のブランドを扱う会社として設立され、ASUSTeK社では取り扱わない低価格帯の製品を製造・販売してきた(甲10、甲79、乙8)。
その後、ASRock社は、2008年(平成20年)からASUSTeK社のグループ会社の組織調整により、ペガトロンテクノロジーの傘下に入った(甲79)。
ASRock社は、2004年(平成16年)に「AGPカードをサポートする世界最初のマザーボード」、2005年(平成17年)に「Combo CPU Socketsをサポートする世界最初のマザーボード」等、2006年(平成18年)に「世界最初のRoHSマザーボード」、「CPUアップグレードインターフェースをサポートする世界最初のマザーボード」、2007年(平成19年)に「PCI Express x16とAGP 8Xグラフィックスカードをサポートする世界最初のマザーボード」、「Windows Vista Premiumロゴ提案に合格した世界最初のマザーボード」等、2008年(平成20年)に「DDRとDDR2 Memory、AGP 8X、PCI Expressグラフィックスカードをサポートする世界最初のマザーボード」、2009年(平成21年)に「ATI CrossFireX Technologyをサポートする世界最初のマザーボード」、「4秒でWindowsまでのPC起動をサポートする世界最初のマザーボード」等、マザーボードにおける世界最初の技術開発を行ってきた(甲80)。
(ウ)他方の請求人であるユニスター社は、ASRock社の製品の日本における輸入販売業者であり、2003年(平成15年)10月17日に設立された会社である(乙7)。
イ 本件ニュース報道の状況及びその内容について
2002年(平成14年)7月2日付け「DIGITIME」には、「Asustekは、今月中には、中国において、第二のブランドであるASRockをデビューさせると見込まれている。」との記事が掲載された(本件ニュース:甲19)。同日に、本件ニュースが、他のウェブサイト上のニュースにおいて引用され、例えば、「AsustekのHua Chingによる子会社が製造したマザーボードは、ASRockというブランド名の下に今月中に中国市場に出回ることが期待されている。」、「Asustek社の会長であるHua Chingは、ブランドネームASROCKについて、Asustekを基にして自ら選んだと言っている。」、「スケジュールから判断すると、ASROCKブランドは7月下旬には中国に登場し、8月にはインド、中央アメリカ、南アメリカの市場で発売されるとみられる。」等の記事で紹介され、また、翌7月3日には、韓国のIT情報ウェブサイトである「K-BENCH」でも韓国語で本件ニュースが報道された(甲20?甲22)。
また、ASRock社及びASRock社のマザーボードに関する情報は、2002(平成14年)11月5日から2003年(平成15年)8月ころにかけても、我が国、台湾、韓国、中国、インドネシア、ロシア等の複数の国のウェブサイトに掲載された(甲23?甲56)。
ウ ASRock社による商品の製造・販売及び流通の状況
(ア)ASRock社は、会社設立後、マザーボードの製造・販売を開始し、平成15年(2003年)3月ないし9月のマザーボードの取引書類によれば、その間、韓国、南アフリカ、中東、インド、マレーシア、オーストラリア等に合計約1万個のマザーボードを輸出した(甲58?甲64)。
ASRock社のマザーボードの販売数量は、2002年(平成14年)10月では5000個であったが、2003年(平成15年)8月には34万4400個となっており、この間の月平均は約20万個であった(乙106)が、2006年(平成18年)には、月間約100万個となった(甲10)。なお、2006年(平成18年)におけるパソコンの世界市場出荷予想数は約2億台である(乙113)。
(イ)ASRock社の我が国に対する輸出は、2003年(平成15年)1月2日付け、同月21日付けの請求明細書によれば、いずれも各20ピースであり、また、同年10月11日付けの請求明細書によれば、1800ピースであった(甲65?甲68)。
さらに、「BCN AWARD 2008」(POSデータをもとにした販売台数によるメーカーのランキング、集計期間:2007年1月?12月)では、我が国における2007年のマザーボードのシェアで第3位であった(甲90)。
なお、平成15年度及び平成16年度における我が国におけるパーソナルコンピュータの出荷実績は、前者が約1078万台であって、後者が約1,207万台であった(乙114)。
(ウ)ASRock社のマザーボードは、2003年(平成15年)以降、本件商標の出願日までの間に、我が国において、コンピュータ関係のウェブサイトや雑誌に頻繁に取り上げられるようになり(甲71?甲78、甲85、甲86)、2008年(平成20年)には、ASRock社のマザーボードがインターネット上のウェブサイトにおいて紹介され(甲88、甲89)、また、別のウェブサイト(価格.com)では、2009年(平成21年)において最も支持されたマザーボードとしてASRock社のマザーボードが選ばれた(甲91)。
さらに、ASRock社は、2008年(平成20年)、台北で開催されたコンピュータの展示会やドイツで開催された世界最大のコンピュータの見本市に、自社のマザーボードを出展した(甲92?甲96)。
また、ASRock社の製品は、2007年(平成15年)及び2008年(平成20年)に、アメリカ合衆国、メキシコ、ドイツ、ロシア、英国、オランダ、シンガポール、ベルギー、カナダ等の各国において様々な賞を受賞し、そのことがインターネット上で取り上げられた(甲97、甲98)。
そして、ASRock社のマザーボードは、2007年(平成19年)の第11週には世界のマザーボード市場の10.1%,同年の第22週には7.5%のシェアを占めるまでになった(甲69、甲70)。
エ ASRock社による引用商標及び標章「ASRock」の出願・登録状況
ASRock社は、本件ニュースが報道された翌日の2002年(平成14年)7月3日に、台湾において、商標「ASRock」を出願したのを皮切りに、2004年(平成16年)1月12日までの間に、アメリカ、カナダ、EU、中国、ロシア、香港、シンガポール等世界27の国と地域において、引用商標と同一の商標を出願し、登録された(甲57)。
なお、ASRock社は、我が国においても、平成15年12月25日に、引用商標と同一の商標を登録出願した(商願2003-115253)が、別件国際登録商標等が先登録として存在していたことを理由に、当該登録出願は、拒絶査定されている(乙101等)。
オ 本件商標及び引用商標の構成
(ア)本件商標は、別掲1のとおり、横長長方形内を、左側の約3分の1程度の面積を白抜きで表し、その右に約3分の2程度の面積を黒色で表し、白抜きの部分に「As」の文字を太字の黒色で表し、また、横長長方形の黒色の部分に太字で表された白抜きの「rock」の文字を配した構成からなるものである(甲1)。
(イ)引用商標は、別掲2のとおり、「ASR」の大文字3文字と「ock」の小文字3文字から構成されている「ASRock」という1つの単語のように構成された文字を、一部文字同士を接続したり、「o」の文字の中央に黒丸をあしらうなどデザイン化してなるものである(甲10等)。
カ 本件商標権者の韓国及び我が国における事業の有無及びその内容
韓国中部税務署長作成に係る2008年(平成20年)12月29日付け「事業者登録証明」(乙26)には、本件商標権者は、「エンティエス」との商号の法人の代表者として、コンピュータ及び周辺機器並びに電子製品の卸、小売りを業種とし、2002年(平成14年)3月22日に事業者登録をし、同年4月1日から開業している旨記載されている。また、電波研究所長作成に係る2005年(平成17年)7月28日付け「情報通信機器認証書」(乙25の2)によれば、本件商標権者は、「エンティエス」の商号で、基本モデル名を「Asrock」とする「VGA Card」に関し、2004年(平成16年)12月24日に、電磁波適合登録を受けていることが認められる。さらに、ソウル市中区庁長作成に係る2005年(平成17年)3月24日付け「通信販売業申告証」(乙27)によれば、本件商標権者が「エンティエス」との商号で、通信販売業の申告を行ったことが認められ、ソウル市中区庁長作成に係る「2010年1月(定期)免許税納付通知書(兼領収書)」(乙28)によれば、本件商標権者がこの時期に通信販売業の免許税を納付したことが認められる。
また、本件商標権者の事業活動状況については、韓国のインターネットオークションに、競売期間を2004年(平成16年)12月28日から同年同月31日として、「Asrock ATI RADEON VGAカード」という製品名の本件商標を付したビデオカードが写真付きで出品されており(乙25の1)、2009年(平成21年)1月13日付けで、我が国における「Yahoo!オークション」に、「新品 RADEON HD 3850 512MB PCI-E リテール」及び「新品 GeForce 9600GT 512MB PCI-E」という製品名の本件商標を付したビデオカードがそれぞれ出品されていることが認められるが(乙46、乙47)、これ以外に、本件商標の査定日(平成22年1月18日)以前において、本件商標権者の事業活動内容を証明する証拠は提出されておらず、特に、我が国における事業活動を証明する証拠は一切提出されていない。
なお、本件商標の査定後となる2010年(平成22年)5月から2011年(平成23年)10月にかけて、本件商標権者は、我が国における「Yahoo!オークション」にビデオカード等を出品したほか(乙48、乙49)、「楽天市場 Kstore韓国館」において、USBメモリ、ノートパソコン等を出品し、我が国の顧客との間で8回の取引をしたことが認められる(乙48?乙56)。
キ 別件登録商標等について
本件商標権者は、韓国において有していた商標登録を基礎登録(原基礎登録。出願日:2002年(平成14年)7月3日、国際登録日:2003年(平成15年)9月18日)として、日本国を指定国とするマドリッド協定議定書に基づく国際登録出願をした。該国際登録(別件国際登録)は、日本国において、平成16年10月8日に設定登録された。ところが、韓国において、原基礎登録商標に対する商標登録の無効の審判が請求され、その登録の無効が確定し、マドリッド協定議定書の規定により別件国際登録が取り消されたため、本件商標権者は、商標法第68条の32第1項の適用に基づく国内出願に変更し、平成19年8月24日に、登録第5072102号商標(別件登録商標)として設定登録された。別件登録商標は、別掲3のとおり、「As」の文字とその横に濃い灰色が施された横長長方形を配し、該横長長方形内に、「rock」の文字を白抜きで表した構成よりなるものである。また、別件登録商標の出願日は、別件国際登録の国際登録日である平成15年9月18日にされたものとみなされる。
ユニスター社は、別件登録商標に対して、平成20年8月29日に、商標登録の無効の審判(無効2008-890066号)を請求したところ、特許庁において、請求は成り立たない、との審決が平成21年8月17日にされたため、ユニスター社は、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起したところ、審決を取り消すとの判決(以下「第1次判決」という。)が平成22年8月19日に言い渡され、第1次判決は、その後確定した(甲2、乙2)。
ク 第1次判決で認定された事項
(ア)本件商標権者の商標の出願及び登録の状況
本件商標権者は、韓国において、原基礎登録商標及び類似商標を含め「NetPhone」、「WebPhone」、「parhelia」、「GALE」など13件のコンピュータやソフトウェアを収録した電子機器等の分野に関連する様々な商標の出願をしているが、例えば、商標「parhelia」は、カナダのMatrox社のGPU及びそれを搭載したビデオカードの名称と同一の商標であり、同社が商標「parhelia」を発表した2002年(平成14年)5月14日から2か月も経過していない同年7月6日に出願されたものであり、また、「GALE」は、イギリスのGale Limited社がスピーカー等に使用している商標と同一の商標である(上記事実の一部については、本件審判において提出された乙81、乙91からもうかがうことができる。)。
(イ)ユニスター社及び他の取扱業者等に対する本件商標権者の警告文の送付及びその内容
本件商標権者は、遅くとも、2007年(平成19年)2月以降、我が国において、ユニスター社を含め、引用商標を付したAsrock社の製品を取り扱う多数の取扱業者に対し、本件商標権者が別件登録商標を保有していることを理由として、引用商標及び標章「Asrock」又はこれと類似する商標の使用の即時中止を要求し、中止しなければ刑事告訴し、販売で得た利益を損害賠償として請求する旨の「通知書」あるいは「回答書」を送付している(上記事実は、本件審判において提出された乙97、乙104からもうかがうことができる。)。
また、本件商標権者は、韓国において、Asrock社の販売代理店であるAswin社に対して、上記と同内容の警告状を送付し、同社に対して、別件登録商標の過度な譲渡金額を要求したと報告されている(甲2)。
(2)判断
ア 本件商標及び引用商標について
本件商標と引用商標とは、別掲1及び2のとおり、前者において横長長方形を有し、後者において文字がデザイン化されている点において、両者は外観が相違するとしても、いずれも「ASROCK」のつづりを同じくするものであり、また、「アスロック」の称呼をも同じくするものであるから、類似する。
イ 本件商標と別件登録商標について
本件商標と別件登録商標とは、「As」の文字部分が方形に囲まれているか否かの差異を有するものであるが、黒色又は濃い灰色の横長長方形内に太字で表された白抜きの「rock」を表した点において構成の軌を一にし、「Asrock」の文字を同じくするものであるから、両商標は、酷似するものといわざるを得ない。
なお、別件登録商標は、原基礎登録商標と同一である。
ウ 本件商標の出願における本件商標権者の悪意について
前記(1)認定のとおり、2002年(平成14年)7月2日、当時、マザーボードの分野における台湾の最大手の製造メーカーであり、マザーボードの世界シェア1位のASUSTeK社が、同月中に、中国において、同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の本件ニュース報道がウェブサイト上で流され、その後即座に、多数の関連ニュースが報道され、その翌日には韓国においても同様のニュースが報道されたこと、本件商標と酷似する原基礎登録商標の出願はその翌日であること、その後、ASRock社及びASRock社の製品に関する情報は、台湾、韓国、中国、インドネシア、ロシア等の複数の国のウェブサイトに掲載され、2007年(平成15年)及び2008年(平成16年)に、アメリカ合衆国、メキシコ、ドイツ、カナダ、ロシア、英国、オランダ、シンガポール、カナダ等の各国において様々な賞を受賞したことがインターネット上で取り上げられたこと、我が国ではコンピュータ関係のウェブサイトや雑誌に頻繁に取り上げられ、2009年(平成21年)には、最も支持されたマザーボードとしてASRock社の製品が選ばれたこと、ASRock社が引用商標を使用した製品を実際に製造・販売し、本件商標の出願日(平成21年9月14日)までの間に、台湾、韓国、アメリカ合衆国、メキシコ、ドイツ、ロシア、英国、オランダ、シンガポール、ベルギー、カナダ等の世界各地で引用商標を付した製品が販売され、2007年(平成19年)の第11週には、世界のマザーボード市場の10.1%、同年の第22週には、7.5%のシェアを占めていたこと、引用商標の「ASRock」という文字構成は、それ自体意味を有する一般的な単語ではなく「AS」と「Rock」という英単語の結合商標とみたとしても、その組合せも一般的とはいえず、ましてや電子機器分野において一般的に使用されるような言葉ではないことからすれば、「ASRock」という文字構成自体にある程度の独創性が認められ、少なくとも、電子機器関連の製品に使用する商標として容易に思いつくものとは考えられないこと、本件商標権者は、コンピュータ及びソフトウェアを搭載した電子機器等の分野に精通している人物であると認められ、同分野の「事業者登録証明」(乙26)、「情報通信機器認証書」(乙25の2)及び「通信販売業申告書」(乙27)を有して電子機器関連の分野に携わり、実際に商品をインターネットオークションにおいて出品していることからすれば、同分野のウェブサイトを頻繁に閲覧していたものと思われること、本件商標権者は、韓国において、原基礎登録商標を含め、コンピュータやソフトウェアを収録した電子機器分野に関連する様々な商標を13件も出願しており、その中にはカナダのMatrox社が同社のGPU及びそれを搭載したビデオカードに商標として「parhelia」を付すことを公表してから2か月も経過していない時期に出願されたのと同一の商標やイギリスのGaleLimited社がスピーカー等に使用している商標である「GALE」と同一の商標も含まれていること、以上の点を総合考慮すれば、本件商標権者による韓国における原基礎登録出願は、本件ニュース報道の翌日に偶然に本件商標権者が独自に選択して韓国において出願されたものとは考えられず、むしろ、本件商標権者は、上記一連の報道を知り、将来「ASRock」という商標を付した電子機器関連製品が市場に出回ることを想定し、ASUSTeK社あるいはASRock社に先んじて「ASRock」という商標を自ら取得するために、原基礎登録商標を出願したと推認するのが相当であり、本件商標の出願日(平成21年9月14日)においては、ASRock社が同社の製造販売する製品に引用商標を使用していることは十分に知りながら、原基礎登録商標に酷似する本件商標の登録出願をしたと認めるのが相当である。
エ 本件商標の出願の目的について
そして、本件商標権者の韓国における事業の実体は明らかではなく、実際に電子機器関連の製造・販売業を行っているか疑わしく、仮に真実事業を行っているとしても、個人営業であると認められ、事業の規模も極めて小規模と思われること、証拠上、製品の販売形態はインターネットオークションへの出品という特異な形態に限られていること、本件商標権者は、韓国在住であり、本件商標の出願日はもとより査定時前において、我が国で事業を行っていた形跡はなく(なお「Yahoo!オークション」というインターネットオークションへの商品の出品をもって我が国における事業の実施と認めるのは相当ではない。)、本件商標の査定後となる2010年(平成22年)5月から2011年(平成23年)10月にかけて、我が国における「楽天市場 Kstore韓国館」などに、コンピュータあるいはこれに関連する商品を出品し、我が国の顧客との間で8回程度取引をしたにすぎないものであり、これとても、第1次判決において、本件商標権者が我が国において事業を行っていなかった、との認定がされ、本件審判においても同様の認定がされることへの回避手段と優に推認されること、本件商標権者は、他社が海外で使用する商標と同一又は類似の商標を故意に出願したとしか考えられない商標を13件も出願したこと、本件商標権者は、本件商標の出願前に我が国で事業を行っていなかったにもかかわらず、別件登録商標の登録後、ユニスター社を含め、引用商標を付したASRock社製品を取り扱う複数の業者に対して、輸入販売中止を要求し、要求に応じなければ刑事告発・損害賠償請求を行う旨の多数の警告書を送付していること、以上を総合考慮すると、本件請求人の一人であるユニスター社からの別件登録商標に対する商標登録の無効審判事件が確定していない状況の下、「Asrock」の文字についての商標権を継続して確保するために別件登録商標に酷似する本件商標の登録出願を更にしたと認めるのが相当であり、本件商標は、商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。
オ 小括
以上のとおり、本件商標権者の本件商標の登録出願は、ASRock社が商標として使用することを選択し、やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を、先回りして、別件登録商標に続いて不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから、そのような出願は、健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり、また、商標法の目的(同法第1条)にも反し、公正な取引秩序を乱すものというべきであるから、本件商標は、「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)被請求人の主張について
ア 被請求人は、ASRock社はASUSTeK社の子会社ではない旨主張する。
確かに、ASRock社の設立当時、ASRock社がASUSTeK社の法的な意味での子会社であったか否かは明らかではないといわざるを得ないが、ASUSTeK社が、同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の本件ニュースが報道されたことからすれば、ASRock社が、ASUSTeK社の法的な意味で子会社ではなかったとしても、少なくともASRock社の設立当初においてASUSTeK社の関連会社であったことがうかがえる。
しかし、そもそも本件においては、ASRock社がASUSTeK社の子会社であったか否かが直ちに本件商標の商標法第4条第1項第7号の認定、判断を左右するものではなく、その出願の経緯等に照らして同号該当性を判断すべき事案といえる。
したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
イ 被請求人は、ASRock社が別件登録商標等の出願日である2003年(平成15年)9月18日以前に、海外で販売した製品の数量は、1万個余り(OEM用含む)にすぎず、また、わずか数か月にしかすぎない取引期間を勘案すると、別件登録商標等の出願日において、引用商標を付した製品は、外国で周知著名の段階に至ったと判断することができるだけの要件を満たしていない旨主張する。
しかし、請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する理由として、本件商標権者が、本件商標の出願日前、すなわち平成21年9月14日前に、請求人が使用する引用商標の存在を十分に知っていながら、引用商標と類似する本件商標を出願したことを問題視しているのであって、同号該当を理由とする主張において引用商標の周知著名性については、何ら述べていない。
しかも、2003年(平成15年)9月以前のASRock社の業務に係る商品の取引数量の多寡は、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当の認定、判断を直ちに左右するものではない。
加えて、本件商標の商標法第4条第1項第7号の認定、判断において、仮に引用商標の周知著名性を問題視するのであるとすれば、その判断基準時は、本件商標の査定時となる平成22年1月18日である。
したがって、被請求人の上記主張は、その前提において誤りがあり、失当である。
その他、本号における被請求人の答弁において、別件登録商標等の出願日における引用商標の周知著名性を問題視する旨の主張は、いずれも理由がない。
よって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
ウ 被請求人は、引用商標には独創性がない旨主張する。
しかし、引用商標は、別掲(2)のとおり、「ASR」の大文字3字と「ock」の小文字3字を組合せた「ASRock」の文字を図案化して表したものであり、外観からして特異性を有する構成からなるばかりでなく、構成全体をもって特定の意味を持たない語であって、一般的に使用される語又は名称ではない。
確かに、引用商標を分解すると「AS」と「Rock」というそれ自体単独で意味を有する英単語の結合商標とみることができること、ASRock社は、自らのウェブサイトにおいて、「ASRock is solid AS Rock」と表記して、その語源を明らかにし(乙21の3)、実際、英語辞書(乙21の1)によれば、英語の成句として、「solid as rock(「岩のようにしっかりした、信頼できる」の意)」のように用いられる場合があることが認められるが、上記成句は必ずしも親しまれた成語とはいえないばかりか、上記成句から「solid」を省略して「as rock」のみで、そのような意味がある成句として使用されているわけではなく、ましてや、電子機器分野において一般的に使用されるような文字構成とはいえないこと、以上の点を考慮すると、引用商標は、一般的でありふれたものとはいえず、それ自体独創性を有する商標であるというべきである。
この点について、被請求人は、商標「ASRock」と創作動機の等しい類似商標「AZROCK」は、古くは1932年(昭和7年)からアメリカ、韓国、台湾といった国々で既に他人によって出願されたことがある旨主張するが、「AZROCK」と引用商標とはそもそもつづりが異なるものであるから、「AZROCK」という商標の存在は上記認定、判断を左右するものではない。
したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
エ 被請求人は、本件商標の外観は、別件登録商標等及び原基礎登録商標と同一又は類似であり、原基礎登録商標の出願日(2002年7月)当時の引用商標は、海外又は国内に存在していなかったため、請求人の「本件商標は周知著名な引用商標の外観を変形して出願した」旨の主張は認めることができない旨主張する。
しかし、前記イのとおり、請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとの理由において「周知著名な引用商標」とは主張していない。
そして、本件における商標法第4条第1項第7号該当の判断時は、本件商標の査定時(平成22年1月18日)であるから、原基礎登録商標の出願当時の状況が直ちに同号該当の認定、判断を左右するものではない。
なお、原基礎登録商標の出願日には、引用商標と同一の態様からなる商標が存在しなかったとしても、原基礎登録商標の出願日の前日である2002年(平成14年)7月2日に、本件商標と同一のつづりである「ASRock」の文字からなるブランドがASUSTeK社の第二のブランドとしてデビューする旨の本件ニュース報道がウェブサイト上に流れ、その後、引用商標は、本件商標の出願日までの間に、ASRock社のマザーボードを表示するものとして、コンピュータ関係のウェブサイトや雑誌に頻繁に取り上げられるようになったこと、2009年(平成21年)には、最も支持されたマザーボードとしてASRock社のマザーボードが選ばれたこと、ASRock社は、2008年(平成20年)ころには、台北やドイツで開催されたコンピュータ関連の展示会等に、自社のマザーボードを出展したこと、などを考慮すると、前記(2)ア認定のとおり、本件商標権者は、本件商標の出願時までに、「ASRock」の文字からなるブランドの存在を十分に知り得る立場にあったというべきである。
そして、本件商標と引用商標とは、これらを構成する各文字が図案化されているか否かの差異、大文字が「A」のみであるか「ASR」の3文字であるかの差異及び構成文字の背景に長方形があるかないかの差異を有するものであるとしても、いずれも欧文字6文字で構成され、そのつづりも全く同一であることを考慮すれば、本件商標と引用商標の外観上の相違は、本願商標の商標法第4条第1項第7号の認定、判断を左右するものではない。
したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから、その余の請求の理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
1 本件商標

(色彩は、原本参照)

2 引用商標


3 別件登録商標


審理終結日 2011-12-14 
結審通知日 2011-12-19 
審決日 2012-01-23 
出願番号 商願2009-73888(T2009-73888) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (X09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 静子 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 田中 亨子
末武 久佳
登録日 2010-03-05 
登録番号 商標登録第5305698号(T5305698) 
商標の称呼 アズロック、エイエスロック、ロック 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 広瀬 文彦 
代理人 辻永 和徳 

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