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審決分類 審判 一部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X32
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X32
管理番号 1258211 
審判番号 無効2011-890086 
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-04 
確定日 2012-05-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5407292号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5407292号商標(以下「本件商標」という。)は、「CLICQUOT」の欧文字を標準文字で表してなり、平成22年12月3日に登録出願、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」、第33類「果実酒,洋酒,日本酒,中国酒,薬味酒」及び第43類「飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,動物の宿泊施設の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与,タオルの貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与」を指定商品及び指定役務として、同23年3月24日に登録査定がなされ、同年4月15日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張(要旨)
請求人は、本件商標の指定商品及び指定役務中の「第32類 清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」に係る登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第37号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当するにもかかわらず登録されたものであるから、商標法第46条第1項の規定により無効にすべきものである。
1 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する商標は、以下の(1)ないし(12)のとおりの商標である(以下、請求人の引用する商標を順次「引用商標A」ないし「引用商標L」といい、商標法第4条第1項第11号に該当するものとして引用されている引用商標Aないし引用商標Iの商標(請求人は引用商標Aないし引用商標Gと述べているが、全体の趣旨からみれば、引用商標Aないし引用商標Iの誤記と解されるので上記のとおりの主張として扱った)を総称するときは「引用各商標」という。)。
(1)登録第1597555号商標(引用商標A)
商標の構成 GLICO
登録出願日 昭和55年2月29日
設定登録日 昭和58年6月30日
書換登録日 平成15年4月23日
指定商品 第1類、第5類、第29類ないし第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(2)登録第1619632号商標(引用商標B)
商標の構成 GLICO
登録出願日 昭和55年2月29日
設定登録日 昭和58年9月29日
書換登録日 平成16年8月4日
指定商品 第29類ないし第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(3)登録第1943708号商標(引用商標C)
商標の構成 Glico
登録出願日 昭和59年7月31日
設定登録日 昭和62年3月27日
書換登録日 平成18年11月1日
指定商品 第1類、第5類、第29類ないし第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(4)登録第1972046号商標(引用商標D)
商標の構成 Glico
登録出願日 昭和59年7月31日
設定登録日 昭和62年7月23日
書換登録日 平成19年4月25日
指定商品 第30類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(5)登録第2491944号商標(引用商標E)
商標の構成 グリコ(縦書き)
登録出願日 平成元年6月13日
設定登録日 平成4年12月25日
書換登録日 平成14年10月23日
指定商品 第30類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(6)登録第2517096号商標(引用商標F)
商標の構成 グリコ(縦書き)
登録出願日 平成元年6月13日
設定登録日 平成5年3月31日
書換登録日 平成16年3月10日
指定商品 第29類ないし第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(7)登録第2646293号商標(引用商標G)
商標の構成 グリコ(横書き)
登録出願日 平成4年1月20日
設定登録日 平成6年4月28日
書換登録日 平成16年4月21日
指定商品 第30類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(8)登録第2646294号商標(引用商標H)
商標の構成 別掲のとおりの構成
登録出願日 平成4年1月20日
設定登録日 平成6年4月28日
書換登録日 平成16年4月21日
指定商品 第30類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(9)登録第2656195号商標(引用商標I)
商標の構成 別掲のとおりの構成
登録出願日 平成4年1月20日
設定登録日 平成6年4月28日
書換登録日 平成16年4月21日
指定商品 第1類、第5類、第29類ないし第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(10)登録第1905805号商標(引用商標J)
商標の構成 Glico
登録出願日 昭和59年7月31日
設定登録日 昭和61年10月28日
書換登録日 平成18年10月18日
指定商品 第30類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(11)登録第2469574号商標(引用商標K)
商標の構成 グリコ(横書き)
登録出願日 平成元年6月13日
設定登録日 平成4年10月30日
書換登録日 平成14年10月23日
指定商品 第30類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
(12)登録第2671736号商標(引用商標L)
商標の構成 別掲のとおりの構成
登録出願日 平成4年1月20日
設定登録日 平成6年6月29日
書換登録日 平成16年4月21日
指定商品 第30類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品

2 商標法第4条第1項第11号について
(1)請求人は、菓子メーカーとして事業を開始し、この菓子事業を中核事業とし、この菓子をも含む各種飲食料品事業の商品に引用各商標に代表される「グリコブランド」を積極的に使用した結果、「グリコブランド」は飲食料品一般において著名性を獲得している。
そして、商標の類否は、対比される両商標がその商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかによって決定されるべきものであり、かかる判断に際しては、当該商品の取引の実情が考慮されるべきである。引用各商標が極めて高い著名性を獲得しているという事実は商品の出所混同のおそれを増幅させる可能性のある事情といえるから、かかる事実についても、商標の類否判断において参酌されるべき取引の実情にあたるというべきである(平成12年(行ケ)第435号判決:甲第27号証、平成13年(行ケ)第277号判決:甲第28号証 参照)
(2)本件商標は、欧文字「CLICQUOT」から構成されているところ、「CLICQUOT」は、世界有数のフランスのシャンパンブランドである「ヴーヴクリコ=Veuve Clicquot」のフランス語「CLICQUOT」であり、フランス語で「クリコ」と呼ばれており、我国においても、このブランドは「Clicquot=クリコ」の名で親しまれて販売されている(甲第22号証ないし甲第25号証)。
かかる事実から、本件商標を構成する欧文字「CLICQUOT」からは「クリコ」の称呼が生ずる。
これに対し、引用各商標を構成する欧文字「Glico」、「§glico」及び片仮名文字「グリコ」からはローマ字読みの称呼「グリコ」が生じる。
(3)「クリコ」の称呼と「グリコ」の称呼とは3音構成中の2音「リコ」を共通にし、相違音である「ク」と「グ」についても母音(u)を共通にし、奥舌面を軟口蓋に接し発する清音と濁音との差に過ぎず、例え両差異音が語頭に位置していてもその差は僅かで紛らわしいものであって、全体に及ぼす影響はわずかなものである。
しかも、称呼「クリコ」と「グリコ」とでは、中間音「リ」が「i」を伴うことで明瞭に発音され、「ク」と「グ」とがやゝくぐもった音であることとも相俟って両称呼の「リコ」の部分がより印象深く聴取される。
したがって、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、同音数からなり、共に3音であって、両称呼の全体の語調、語感において一層紛らわしいものとなるから、本件商標と引用各商標とは称呼上類似の商標である(甲第26号証の1ないし6の審決例参照)。
(4)そして、本件商標の第32類の指定商品中には、「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」が含まれており、これらは、引用各商標の指定商品にも含まれているものであり、本件商標の指定商品と引用各商標の指定商品とは同一のものである。
(5)以上より、本件商標と引用各商標とは、類似するものであって、その指定商品「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」においても引用各商標の指定商品と同一であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。

3 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の著名性について
請求人は、指定商品「菓子」につき、「グリコ」の称呼が生じる登録商標を数多く所有しているが、引用商標Jないし引用商標L(甲第29号証ないし甲第31号証)を引用商標として提示する。これらの引用商標は、請求人のハウスマークであり、かつ、創造標章である。
請求人は、1922年2月11日に大阪の三越百貨店で栄養菓子「グリコ」の販売を開始して以来、中核となる菓子事業を始め、冷菓事業、加工食品事業等で製造・販売される各種食品の商品のいずれの商品パッケージにも、その書体は時代によって異なるが(現在は、甲第31号証の商標が使用されている)、必ず個々の商品名と共に称呼「グリコ」が生じる登録商標を表示してきており、請求人の提供に係る数多くの商品「菓子」等のTVCMにおいても(その時々の旬な女優、俳優が多く含まれている:甲第33号証)、そのTVCMの終わりには必ず「glico」の文字が表示されかつ特徴のあるアクセントで「グ」「リ」「コ」と称呼されている(甲第32号証)。
また、請求人が設置している大阪市中央区の道頓堀川に架かる戎橋脇の西日本最大級のネオンサイン及び渋谷駅・ハチ公口・スクランブル交差点北東のビル2階部分に設置されている「グリコビジョン」は有名であるが(甲第34号証)、これらのいずれにも請求人の著名ブランドである「glico」が表示されていることは全国的に著名な事実である。
更に、請求人は、ネット時代に対応してグリコブランドの「菓子等」の他、「ヘスペジリン&コラーゲン」や「CCDドリンク」といった飲料をも含んだ各種商品をグリコネットショップで通信販売を展開し(甲第35号証の1ないし同号証の3)、バラエティショップ「ぐりこ・や」を東京、横浜、浜名湖、名古屋、彦根、大阪、博多等、全国に16店舗を展開しており(甲第36号証)、同店舗でしか手に入らない請求人の復刻版の各種商品等を販売することで「グリコブランド」訴求の一助としている。そして、請求人が2010年12月4日から2011年2月までの2ヵ月間にわたって北海道から沖縄県までの全国47都道府県を赤色のグリコワゴン車で縦断して行った「おいしさと健康」を届けるキャンペーン「日本横断 グリコワゴン」を展開することにより(甲第37号証)、「グリコブランド」の著名性は更に高くなったものと思料する。
このような、「菓子、加工食品、牛乳・乳製品、飲料品」等を中心とした請求人による「グリコブランド」の訴求活動及びグリコというコーポレートブランドの訴求活動を通じて請求人の引用商標は「グリコブランド」を表象する商標として、本件商標の登録出願時及び査定時において、著名性を有しており、かつ、現在に至りその著名性がさらに高まっているものである。
このことは、「グリコ」の文字からなる請求人所有の登録商標が旧類の各類にわたって防護標章がなされている事実からも裏付けられるばかりでなく、甲第13号証の1ないし同号証の3の審判事件を通じて公権的にも認められているところである。
(2)請求人の引用商標と本件商標との類似性
前記したとおり、本件商標と引用各商標とは類似するものであり、取引者・需要者は両者から共通した印象ないしはイメージを感受するものである。加えて、引用商標を構成する「Glico」、「グリコ」、「glico」は、いずれも特定の観念を生じさせない造語であり、独創性の高い商標である。このように、造語より構成される創造商標については、一般に強い識別力が認められ、他人がその商標と類似するような商標を使用した場合には、既成語から構成される商標よりも、需要者に対する印象、記憶、連想作用等から出所の混同が生ずる幅は広いというべきである。
(3)請求人の引用商標を使用する商品と本件商標の指定商品との関連性
請求人は、「おいしさと健康」というキーワードの下、アイスクリームやアイス、乳製品、スポーツドリンクといった商品を市場に提供しており、これらの商品と「清涼飲料、果実飲料、乳清飲料、飲料用野菜ジュース」とは、その素材を共通にする場合が多く、いずれの商品も生産部門、販売部門、原材料、用途及び需要者層などにおいて一致する関連性の高い商品である。
そして、いずれの商品の需要者層も、子供から老人に至るまでの幅広い一般消費者であり、その注意力が必ずしも高くない者を含んでいることから、「清涼飲料、果実飲料、乳清飲料、飲料用野菜ジュース」に称呼「クリコ」が生じる本件商標が使用された場合、商品の出所につき混同する可能性が高いものと思料する。
(4)本件商標が請求人の引用商標のシリーズ商標であるかの如く誤認されることについて
本号に規定する「混同を生ずるおそれの有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである(最高裁平10年(行ヒ)85号)。
そして、上記したとおり、本件商標は、各引用商標との関係で、本号にいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものである。
したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、それがあたかも請求人の「グリコブランド」商標に係る個別商品であるか、または、これと何らかの関連性を有する商品であるかの如く誤認され、あるいは、その商品の出所について、組織的又は経済的に請求人と何らかの関係がある者の商品であるかの如く混同されるおそれがあるものである。
(5)請求人の著名な「グリコブランド」の信用力の希釈化
被請求人が本件商標をその指定商品について使用する行為は、請求人が永年に亘る莫大な宣伝広告費用と営業努力によって培ってきた著名ブランド「グリコ」「Glico」「glico」が有する信用力(ブランド価値)にただ乗りするものであり、かかる信用力(ブランド価値)を希釈化させるものであるから、競業秩序の維持の観点からも容認されるべきでない。
(6)まとめ
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。

4 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号又は同第15号に違反して登録されたものであるから、商標法第46条第1項の規定によりその登録は無効とすべきである。

第3 被請求人の答弁(要旨)
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第18号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号違反について
(1)称呼について
本件商標は、欧文字「CLICQUOT」の構成よりなり、当該構成文字より「クリコ」の称呼が生じ、被請求人の著名なフランスのシャンパンブランドである「VEUVE CLICQUOT」の「CLICQUOT」部分と同一である。その構成上及び実際の取引においても、「クリコ」の称呼をもって取り扱われている。この点については、請求人の主張内容に異論はない。
一方、請求人の引用各商標は、欧文字「GLICO」、「Glico」及び片仮名文字「グリコ」よりなり、それらの構成文字より「グリコ」の称呼をもって取り扱われているのが認められる。
してみると、両者は、第2音「リ」及び第3音「コ」を共通にしているが、商標の称呼における識別上最も重要な要素である語頭音において、本件商標の「ク」が後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する無声摩擦音「k」と母音「u」との結合した音節であり、引用各商標の「グ」音が後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する有声摩擦音「g」と母音「u」との結合した音節であるから、発声の方法等において近似するところはあるとしても、本件商標の「ク」音は、澄んだ音として発声され、聴取されるのに対し、引用各商標の「グ」音は、重く濁った音として発声され、聴取されるから、音感、音質において異にし、明瞭に聴別し得る。しかも、両者は、共に僅か3音と極めて短い音構成であることからも、上記差異がその称呼全体に及ぼす影響は極めて大きく、彼此判然と区別し得る称呼上非類似の商標であるといわなければならない(乙第1号証ないし乙第15号証の審決や異議決定参照)。
(2)外観について
本件商標は、上述のとおり「CLICQUOT」の構成文字からなるところ、「GLICO」、「Glico」、「グリコ」の構成文字からなる引用各商標とは明らかな相違があるから、通常の注意力を有する需要者を基準に考えれば、互いに見誤ることはあり得ない。
したがって、本件商標と引用各商標は、外観においても彼此判然と区別し得る非類似の商標であることは明らかである。
(3)観念について
本件商標は、請求人においても「この欧文字『CLICQUOT』は、世界有数のフランスのシャンパンブランドである『ヴーヴクリコ=Veuve Clicquot』のフランス語『CLICQUOT』であり、フランス語で『クリコ』と呼ばれる。・・・我国においても、このブランドは『Clicquot=クリコ』の名で親しまれており・・・」と述べているように、被請求人にかかる著名な世界有数のフランスのシャンパンブランドである「VEUVE CLICQUOT」を想起させるものである。
一方、引用各商標からは「グリコブランド」を想起させるものである。
してみれば、両商標からそれぞれにかかるブランドを観念させるものであるから、本件商標は引用各商標と観念においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(4)以上より、本件商標は、引用各商標と称呼、外観及び観念のすべてにおいて彼此判然と区別し得る非類似の商標であって、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。

2 商標法第4条第1項第15号違反について
上述のとおり、本件商標は引用各商標と外観を異にすること、本件商標を第32類の指定商品中「清涼飲料、果実飲料、乳清飲料、飲料用野菜ジュース」に使用した場合であっても、本件商標の「CLICQUOT」は被請求人にかかる世界有数のフランスのシャンパンブランドである「VEUVE CLICQUOT」にかかる飲料であると想起させる被請求人の創造性の高い独自の商標であって、観念においても引用各商標と近似性が全くないこと、本件商標の称呼「クリコ」と引用各商標の称呼「グリコ」とは、聴者に与える印象が明らかに異なることからすると、本件商標は、引用各商標とは明らかに区別できる別異のものと認められるから、引用各商標が著名であるからといって、本件商標を引用各商標であるかの如く誤認して、本件商標をその指定商品中第32類「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」に使用した場合に、取引者・需要者において請求人の商品であるとか、あるいは請求人と関連のある商品であるとかいった商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとは認め難いものである。
さらに、本件商標をその指定商品に使用しても、被請求人にかかる世界有数のフランスのシャンパンブランドである「VEUVE CLICQUOT」にかかる飲料であると認識されることから、請求人にかかる「グリコブランド」の信用性を希釈化させるおそれは到底ないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。

3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものではないから、本件審判の請求は成り立たないものである。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反して登録されたものであることを理由に、同法第46条第1項の規定に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
1 商標法第4第1項第11号該当性の有無について
(1)外観について
本件商標は、前記したとおり、綴り字に特徴のある「CLICQUOT」の欧文字からなるのに対して、引用各商標は、前記第2及び別掲のとおり、欧文字からなる「GLICO」及び「Glico」、縦書き及び横書きの片仮名文字からなる「グリコ」、やゝデザイン化して表された欧文字の筆記体からなる「glico」の各文字からなるものであるから、互いの構成文字には明らかな差異があり、通常の注意力を有する需要者を基準に考えれば、両者を見誤るおそれはないものというべきである。
したがって、本件商標と引用各商標とは、外観において充分に区別し得る差異を有しているものということができる。
(2)称呼について
本件商標は、「CLICQUOT」の欧文字からなるところ、請求人の提出に係る甲各号証によれば、「CLICQUOT」は、世界有数のフランスのシャンパンブランドである「ヴーヴクリコ=Veuve Clicquot」のフランス語「CLICQUOT」であり、フランス語で「クリコ」と呼ばれており(甲第22号証の1:フリー百科事典ウィキペディア及び甲第22号証の2:Weblio辞書)、このシャンパンの著名なブランド名である「ヴーヴクリコ」は、伝統と優雅さの「クリコ・スタイル」で仕上げられたシャンパンにのみ冠されるブランド名であることが認められる(甲第23号証:お酒のデパートもりもと)。そして、我国においても、このブランドは、「Clicquot=クリコ」の名で親しまれており、ネットモールの「楽天」(甲第24号証の1及び甲第24号証の2)においても「クリコ大特集」と銘打って「ヴーヴクリコ」が冠されたシャンパンが販売されており、ネット上でも「クリコの画像検索結果」として、この「Veuve Clicquot」のシャンパンの画像も紹介されている事実を認めることができる(甲第25号証の1及び甲第25号証の2)。
上記した取引の実情に照らしてみれば、本件商標「CLICQUOT」からは「クリコ」の称呼を生ずるものというのが相当である。そして、この点については、請求人も認めているところである。
一方、引用各商標は、欧文字からなる「GLICO(Glico)」、片仮名文字からなる「グリコ」及びやゝデザイン化して表された欧文字の筆記体からなる「glico」よりなるものであるから、それらの構成文字に相応して「グリコ」の称呼を生ずるものと認められる。
そこで、本件商標から生ずる「クリコ」の称呼と引用各商標から生ずる「グリコ」の称呼とを比較するに、両者は、第2音「リ」及び第3音「コ」を共通にしているが、称呼における識別上最も重要な要素を占める語頭音において、「ク」と「グ」の音の差異を有している。
しかして、「ク」の音は、後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する無声破裂音「k」と母音「u」との結合した音節であり、「グ」の音は、後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する有声破裂音「g」と母音「u」との結合した音節であるから、発声の方法において近似するところがあるとしても、本件商標における「ク」の音は、澄んだ音として発声され、聴取されるのに対して、引用各商標における「グ」の音は、重く濁った音として発声され、聴取されるものであるから、その音感・音質において明らかな差異があり、互いに明瞭に聴別し得るものということができる。しかも、両者は、共に僅か3音と極めて短い音構成からなるものであることから、上記した音の差異が称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、これらをそれぞれ一連に称呼した場合においても、彼此判然と区別し得る称呼上非類似の商標であるといわなければならない。
(3)観念について
上記したとおり、本件商標からは被請求人の著名なシャンパンブランドである「VEUVE CLICQUOT」を想起させるのに対して、引用各商標からは請求人の著名な菓子等のブランドである「グリコブランド」を想起させるものである。
してみれば、本件商標と引用各商標とはそれぞれの業務に係る著名なブランドを想起させるものであるから、両者は想起させる意味合い(観念)においても判然と区別し得る差異を有するものということができる。
(4)以上のとおり、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても引用各商標と区別することができるのみならず、上記した取引の実情をも併せ考慮すると、本件商標が第32類の「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」について使用された場合においても、本件商標と引用各商標とは商品の出所につき誤認混同を生じさせるおそれのない非類似の商標というべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものということはできない。

2 商標法第4第1項第15号該当性の有無について
請求人は、本件商標が商標法第4第1項第15号に該当するものとして「菓子,パン」を指定商品とする引用商標Jないし引用商標Lを引用しているところ、別掲のとおり、引用商標Jは「Glico」の欧文字からなるものであり、引用商標Kは「グリコ」の片仮名文字を横書きしてなるものであり、引用商標Lはやゝデザイン化して表された筆記体の「glico」の欧文字からなるものである。
そして、請求人の提出に係る甲第2号証、同第3号証、同第14号証ないし同第21号証、同第32号証ないし同第37号証によれば、上記各商標は、商品「菓子」を中心とした食品について永年に亘って盛大に使用された結果、本件商標の登録出願時には既に請求人の業務に係る「菓子」等の商品を表示する商標として取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められ、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものということができる。
しかしながら、本件商標と引用商標Jないし引用商標Lとの類否については、上記した商標法第4条第1項第11号の判断において記載したところと同様の理由により、両商標は外観において充分に区別し得る差異を有しており、観念においても近似性が全くなく、また、本件商標から生ずる「クリコ」の称呼と引用商標Jないし引用商標Lから生ずる「グリコ」の称呼とは聴者に与える印象が明らかに異なるものであるから、これらを総合勘案すれば、本件商標は、引用商標Jないし引用商標Lとは判然と区別し得る全く別異の商標というべきものである。
加えて、引用商標Jないし引用商標Lが請求人の業務に係る菓子等の著名な「グリコブランド」であることは認められるとしても、本件商標もまた著名な世界有数のフランスのシャンパンブランドである「VEUVE CLICQUOT」を表しているものである。
してみれば、被請求人が本件商標を第32類の「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、引用商標Jないし引用商標Lの「グリコブランド」を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
また、本件商標と引用商標Jないし引用商標Lとの関係は上記のとおりに判断されるものであるから、本件商標が請求人の業務に係る「グリコブランド」にただ乗りするものとは認められず、その信用力を希釈化させるものとも認められない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものということはできない。

3 むすび
以上のとおり、本件商標の指定商品及び指定役務中の第32類の「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」についての登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(引用商標H、引用商標I及び引用商標L)


審理終結日 2012-03-14 
結審通知日 2012-03-16 
審決日 2012-04-04 
出願番号 商願2010-94180(T2010-94180) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (X32)
T 1 12・ 26- Y (X32)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 目黒 潤金子 尚人 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 小川 きみえ
鈴木 修
登録日 2011-04-15 
登録番号 商標登録第5407292号(T5407292) 
商標の称呼 クリコ、クリックコット、クリッククオット 
代理人 田中 克郎 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 工藤 莞司 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 浜田 廣士 
代理人 田中 景子 
代理人 黒川 朋也 
代理人 中村 勝彦 

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