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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z29
管理番号 1255282 
審判番号 取消2010-301080 
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2010-10-07 
確定日 2012-04-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第4825942号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4825942号商標の指定商品中、「カレー・シチュー又はスープのもと」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4825942号商標(以下「本件商標」という。)は、「富士山」の文字を標準文字で表してなり、平成13年5月25日に登録出願、第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」を指定商品として同16年12月17日に設定登録されたものであり、現に有効に存続しているものである。
また、本件審判の請求の登録日は、同22年10月27日である。

2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を次のように述べた。
本件商標は、その指定商品中「第29類 カレー・シチュー又はスープのもと」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用実施権者、通常実施権者のいずれもが使用した事実がないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。

3 被請求人の主張(要点)
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第4号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標権者が3年間使用していないときに該当しないこと
本件商標は、平成22年12月7日(受付日)に、旧被請求人株式会社佐藤商事(以下「佐藤商事」という。)から、現被請求人大山豆腐株式会社(以下、単に「被請求人」という。)に移転された。
商標法第50条第1項の「商標権者」とは、現在の商標権者を意味するから、「商標権者」とは被請求人を指し、被請求人は継続して3年以上使用していないときに該当しないから、本件審判請求は成り立たない。
すなわち、商標法第50条第1項の「商標権者」との用語からは、現在の商標権者を指すことは明らかである。また、不使用取消審判の趣旨は、商標権者が継続して3年以上登録商標を使用していない場合にはその制裁として取り消されることもやむを得ないとされるところにあるが、商標権の移転があった場合において、新商標権者は、移転前には商標権を使用することが出来ないのであるから、取消による制裁を受ける理由はない。さらに、商標権を譲り受ける場合には、当該譲受自体に譲受人の使用意思を推測することが出来るから、その時点から3年間継続して不使用であって始めて、取消による制裁を受けるというべきである。
したがって、商標権の移転があった場合には、譲受人は、譲渡人の不使用期間を承継することはなく、譲受人が商標権者となってから継続して3年間、不使用であって始めて取り消されるというべきである(平尾正樹著「商標法〈第1次改訂版〉」476頁)。
なお、このように考えると、不使用取消を免れる目的で順次移転を繰り返すという弊害が考えられるが、佐藤商事から被請求人への本件商標権の移転に関する交渉は、本件審判とは全く無関係に4年以上前から開始されており、たまたま移転の合意に至る直前に本件審判が請求されたに過ぎず、佐藤商事及び被請求人において、不使用取消を免れる意図は全くない。
すなわち、本件商標は、株式会社富士シーラー食品(以下「富士シーラー」という。)により登録がなされたものであるが、平成18年10月3日に富士シーラーから佐藤商事に移転された。その後、平成18年10月26日に、被請求人は、富士シーラーを買収すべく富士シーラーとM&Aの交渉を開始した。その際、当時富士シーラーの取締役でもあった佐藤清隆は、佐藤商事を代表して、被請求人が富士シーラーを買収してくれれば、本件商標権を佐藤商事から富士シーラー名義に変更する旨述べた。
被請求人は、当時、富士シーラーが賃借権を有する富士吉田工場(山梨県富士吉田市所在)に湧き出る天然水を利用し「富士山」等の商標を用いた豆腐を製造・販売していたため、富士シーラーを買収し富士吉田工場を利用すれば、富士山の天然水を利用した豆腐の製造・販売が可能になり、かつ、天然水の産地を端的に示した「富士山」という商品名が本件商標権により保護されると考え、佐藤清隆の上記言動を信じ、富士シーラーの株式を取得し、富士シーラーを吸収合併した。
ところが、佐藤清隆は、前言を翻し富士シーラー又は被請求人に本件商標権を移転することをせず、かえって、平成20年12月ころから、被請求人に対して、本件商標の使用を中止するよう求めた(乙1、乙2)。
そこで、被請求人は、佐藤商事に対して、本件商標権を当初の約束どおり、被請求人名義に移転するよう求めたが、佐藤商事は、これに応じず、被請求人を被告として東京地方裁判所に商標権侵害差止等請求訴訟を提起した(乙3の1及び2)。被請求人は、平成18年10月26日に、佐藤清隆が本件商標を富士シーラーに移転する旨述べたことのほか、富士シーラーから佐藤商事への本件商標権の移転が利益相反取引により無効であること等を主張して争った(乙4)。
その結果、平成22年12月6日に、東京地方裁判所において、佐藤商事から被請求人に対して、本件商標権を移転する旨の訴訟上の和解が成立した。このように、本件商標の佐藤商事から被請求人への移転交渉は、本件審判請求がなされる遥かに以前の平成18年10月26日から開始されており、訴訟上の和解が成立する直前に、たまたま本件審判が請求されたに過ぎず、佐藤商事及び被請求人において、不使用取消を免れる意図は全くない。
(2)商標権者が本件商標を使用していないことについて正当な理由があること
仮に、譲受人が譲渡人の不使用期間を承継すると解しても、不使用に際しての正当な理由の有無は、譲受人固有の事情により判断されなければならない。
すなわち、不使用について正当な理由がある場合にまでその商標登録を取り消すことは商標権者に酷であることから、商標法第50条第2項ただし書において、不使用について正当な理由がある場合には取消を免れるとしたのであり、かかる趣旨からすれば、不使用についての正当な理由の有無は属人的な性質を有するから譲受人固有の事情により判断されなければならない。
そこで、被請求人自身において、不使用について正当な理由があるかを問題とすべきところ、被請求人は、本件商標の商標権者ではなかったのであるから、本件商標を登録商標として使用することは不可能であった。また、平成20年12月以降は、佐藤商事から事実上使用していた本件商標の使用をしないよう請求があり、さらに、平成21年6月29日付けで、本件商標の使用差止請求訴訟を提起されたものであり、被請求人が本件商標を事実上使用することも不可能となった。
したがって、被請求人には、本件商標を使用していないことについて正当な理由があるというべきである。

4 当審の判断
被請求人は、商標権の移転があった場合には、譲受人は、譲渡人の不使用期間を承継することはなく、譲受人が商標権者となってから継続して3年間不使用であって始めて取り消されるというべきであり、被請求人は継続して3年以上使用していないときに該当しないから、本件審判請求は成り立たない旨主張しており、また、被請求人が本件商標を使用していないことについては正当な理由がある旨主張している。
(1)ところで、商標制度は、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とし、設定された商標権を通じて、商品流通の過程、競争関係に一定の秩序をもたらそうとするものであるところ、商標権が設定された後であっても、商標法上の保護は、商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であるから、一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか、あるいは、発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなると考え、他方、そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し、かつ、その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるから、請求をまってこのような商標登録を取り消そうというのである。いいかえれば、本来使用をしているからこそ保護を受けられるのであり、使用をしなくなれば取り消されてもやむを得ないというのである。
そこで、そのような不使用の状態にある商標権は、消極的な意味しか有しないものとして否定さるべきものであるとするのが現行不使用による商標登録取消制度の趣旨と解される。
(2)そこではじめに、現商標権者は継続して3年以上使用していないときに該当しない旨の被請求人の主張について判断する。
本件商標に係る商標登録原簿の記載に照らしてみれば、本件商標の設定登録時の権利者は、「株式会社富士シーラー食品」であり、その後、平成18年10月3日に、権利者を「株式会社佐藤商事」とする特定承継による本件の移転の登録がなされ、更に、平成22年12月7日に、権利者を「大山豆腐株式会社」(現商標権者)とする特定承継による本件の移転の申請がなされたことが認められる。
そうすると、確かに、本件審判が請求された平成22年10月7日(予告登録日は平成22年10月27日)の時点においては、本件商標の商標権者は、佐藤商事であって、大山豆腐は、本件商標の商標権者ではなかったといえる。
しかしながら、上記した商標登録取消制度の趣旨に鑑みれば、商標権を譲り受ける場合には、その商標の従前の使用状況についての事実、例えば、指定商品の一部又は全部について、一定の期間使用されていない事実があるときには、その事実自体が消滅するはずもないから、当該商標権に当然に伴うものとして、譲受人もまた、そのような事実を伴いないしはそのような状況下にある商標権を承継するものというべきであり、当該商標権の譲り受けにより、譲渡前の不使用の事実が不問に付されたり、不使用の期間が譲受人との関係で新たに起算されるというようなものではないと解すべきである。
そして、上記した判断は、東京高等裁判所昭和55年(行ケ)第329号判決(昭和56年11月25日判決言渡)においても判示されているところである。
したがって、譲受人が商標権者となってから継続して3年間不使用であって始めて取り消されるというべきである旨の被請求人の主張は採用できない。
(3)次に、被請求人が本件商標を使用していないことについて正当な理由がある旨の主張について判断する。
被請求人は、不使用についての正当な理由として、本件審判請求時に被請求人は本件商標の商標権者ではなかったのであるから、本件商標を登録商標として使用することは不可能であったこと及び平成20年12月以降は、佐藤商事から事実上使用していた本件商標の使用をしないよう請求があり、さらに、平成21年6月29日付けで、本件商標の使用差止請求訴訟を提起されたことにより、被請求人が本件商標を事実上使用することも不可能であったことを挙げている。
しかしながら、商標法第50条第2項ただし書きの登録商標の使用をしていないことについての正当な理由としては、例えば、「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕」(特許庁編)によれば、その商標の使用をする予定の商品の生産の準備中に天災地変等によって工場等が損壊した結果、その使用ができなかったような場合、時限立法によって一定期間(3年以上)その商標の使用が禁止されたような場合等が例として挙げられている。また、不使用についての正当な理由の有無を判断するに当っても、商標権の移転がされた場合には、単にその移転後の事情のみならず、それ以前の継続した不使用の事実ないし状況が取消審判請求の登録前3年以内の事情として、前後通じて判断されるべきものである。
そして、そもそも、本件においては、審判が請求されたのは平成22年10月7日であり、その請求の登録日は同年10月27日であるから、その日前3年以内における取消請求に係る商品についての本件商標の使用の事実を明らかにするか、あるいは、取消請求に係る商品について、本件商標の使用をすることができなかった正当な理由を被請求人が明らかにしない限り、取消請求に係る商品についての本件商標の登録の取り消しは免れないものである。
そうとすれば、本件審判請求時に被請求人(大山豆腐)が本件商標の商標権者でなかったとしても、そのことが本件商標の不使用についての正当な理由に当たらないことは明らかであり、本件取消審判請求の登録前3年以内の事情として、本商標権の移転前の権利者である佐藤商事について、本件商標を使用することが出来なかったことについての正当な理由を明らかにしない限り、本件商標の不使用についての正当な理由があったものとは認められない。
また、被請求人が本件商標を事実上使用することも出来なかったとして挙げている理由についても、専ら、現商標権者である大山豆腐と前商標権者である佐藤商事との間における当事者間に属する事情であって、天災地変等に類する不使用についての正当な理由とは到底認められないものである。
してみれば、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由がある旨の被請求人の主張は採用できない。
なお付言するならば、被請求人は、富士シーラーの富士吉田工場に湧き出る天然水を利用して「富士山」等の商標を用いた豆腐の製造、販売を事実上行っていた経緯があり、また、使用差止請求訴訟を提起されたことにより、その事実上の使用も不可能になった旨主張して乙各号証を提出しているが、本件審判は、本件商標の指定商品中の「カレー・シチュー又はスープのもと」についての取消請求である。
したがって、被請求人は、「カレー・シチュー又はスープのもと」について、本件商標を使用することが出来なかった正当な理由を明らかにする必要があるにもかかわらず、被請求人は、本件商標である「富士山」を「豆腐」に使用することができなかった事情を主張しているにすぎず、そのことに関する佐藤商事との紛争に係る乙各号証を提出しているにすぎない。
してみれば、「豆腐」について、被請求人が主張しているような事情があったとしても、そのことは、「カレー・シチュー又はスープのもと」についての本件取消審判においては、何らの関係もない事情であるといわなければならない。
そして、被請求人は、取消請求に係る「カレー・シチュー又はスープのもと」について、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があったとする主張、立証をしておらず、また、本件商標が「カレー・シチュー又はスープのもと」に使用されていたものと認めるに足る証拠も提出していない。
(4)まとめ
以上のとおり、被請求人の答弁の全趣旨及び乙各号証を総合的に判断しても、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者、通常使用権者のいずれによっても、その請求に係る指定商品「カレー・シチュー又はスープのもと」について使用されていなかったものであり、商標法第50条第2項ただし書きにいうところの使用をしないことについての正当な理由があったものとも認められない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により指定商品中、「結論掲記の指定商品」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2012-02-02 
結審通知日 2012-02-07 
審決日 2012-02-20 
出願番号 商願2001-47303(T2001-47303) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Z29)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉野 晃弘 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 井出 英一郎
渡邉 健司
登録日 2004-12-17 
登録番号 商標登録第4825942号(T4825942) 
商標の称呼 フジサン 
代理人 船橋 茂紀 
代理人 遠山 光貴 
代理人 西山 彩乃 

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