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審決分類 審判 査定不服 商4条1項16号品質の誤認 登録しない X09
審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない X09
管理番号 1251699 
審判番号 不服2009-21923 
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-11 
確定日 2012-01-30 
事件の表示 商願2007-71092拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 1 本願商標
本願商標は、「MULTI-TOUCH」の文字を標準文字で表してなり、第9類「写真機械器具,MP3プレーヤー,デジタルオーディオプレーヤー,電話機,携帯電話,テレビ電話,テレビジョン受信機,電話・ファクシミリ・電子メールその他の電子データの送受信機能を有する携帯電子機器,電気通信機械器具,未記録の磁気記録媒体,コンピュータ,コンピュータソフトウェア,コンピュータ周辺機器,携帯情報端末,電子手帳,その他の電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とするものである。

2 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は、「本願商標は、『MULTI-TOUCH』の欧文字を標準文字で書してなるところ、該文字の表音を表した『マルチタッチ』の文字が、『複数の指を同時に使って画面の操作を行うことができる技術』を指称する語として一般に使用されている実情が認められるから、これをその指定商品中、前記意味合いに照応する機能を有する商品に使用しても、単にその商品の品質(機能)を表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるので、同法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

3 当審における職権証拠調べ通知
本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するか否かについて、職権により証拠調べをした結果、以下の事実を発見したので、商標法第56条第1項で準用する特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人に対して証拠調べ通知書を送付した。
(1)「マルチタッチ multi touch」の見出しの下、「タブレットやタッチパネル付きディスプレイで、2本以上の指を用いて操作すること。例えば、2本の指で幅を広げたり狭めたりすることで、表示されている画像を拡大/縮小するといった、直感的な操作が可能になる。液晶ディスプレイでのユーザーインターフェースの一方式として研究されていたが、米アップルが2007年6月に発売した携帯電話機iPhoneに採用したことで注目された。米マイクロソフトの業務用端末の新プラットフォームSurfaceでもマルチタッチを採用している。」との記載(「日経パソコン用語事典2009年版」日経BP社 2008年10月20日発行)。
(2)「マルチタッチ 【multi-touch】」の見出しの下、「指やペンなどで触れて操作する入力装置で、複数のポイントに同時に触れて操作することができる入力方式。・・・マルチタッチ方式のデバイスは同時に複数箇所に接触してそれぞれに位置や動きを指示することができる。大きな画面で複数人で同時に利用したり、複数の指による操作で、対象の移動や回転、画像のズームなどの動きを直感的に入力することができる。」との記載(http://e-words.jp/w/E3839EE383ABE38381E382BFE38383E38381.html)。
(3)「マルチタッチ」の見出しの下、「説明:multi touch 複数の指でタッチパッドや画面(タッチパネルの場合)に触れてパソコンの操作をおこなう入力方式。画像の拡大/縮小や回転など多彩な機能を指の操作だけでおこなえる。また、タッチパネルの場合、複数人で同時に操作することも可能。」との記載(http://121ware.com/support/pc/yougo/10_m_g/m_g002.htm)。
(4)「マウスよさらば マルチタッチスクリーン」の見出しの下、「マイクロソフトリサーチの主席科学者バクストン(Bill Buxton)によると,マルチタッチインターフェースの研究は1980年代初めにさかのぼる。しかし,この技術の最大の障壁の1つ,『指先感知の分解能向上』にハンがニューヨーク大学で取り組み始めたのは2000年ころだ。」との記載(http://www.nikkei-science.com/english_read/bn200810.html)。
(5)「『マイノリティ・レポート』風のマルチタッチ・ディスプレー、発売 2007年10月11日」の見出しの下、「マルチタッチ式大型ディスプレー『Interactive Touch Media Wall』は、ニューヨーク大学クーラン数理科学研究所の研究者、Jeff Han氏が開発したものだ。画面サイズは約240×90センチメートル。マルチタッチに対応する高解像度のディスプレー上で、インターネットベースの数種のアプリケーションを利用できる。複数の指を同時に使って、さまざまな形式のメディアを扱うことができる。」との記載(http://wiredvision.jp/news/200710/2007101123.html)。
(6)「最新研究:ジェスチャインターフェース [issued:2007年12月号]」の見出しの下、「今日の最新で革新的なジェスチャインターフェースを支える技術の多くは、過去数十年間の製品や、プロジェクトにおける開発の流れをくむもので、必ずしも新しいものではない。例えば、マルチタッチインターフェースは少なくとも25年前から存在する。」及び「Microsoft社が2007年5月に発表したSurfaceは、マルチタッチインターフェースを備えたテーブル型パソコンである。」との記載(http://ednjapan.cancom-j.com/issue/2007/12/9/1544)。
(7)「『Windows 7』の『Windows Touch』用デバイスのロゴ認証を取得」の見出しの下、「富士通コンポーネント株式会社(本社:東京都品川区、社長:松村 信威)は、抵抗膜方式でマルチタッチ可能なタッチパネルの開発を完了し、6インチサイズでマイクロソフト社『Windows 7』でのタッチパネル用インターフェース『Windows Touch』用デバイスの動作・互換性認証プロセスをクリアしロゴ認証(Compatible with Windows 7)を取得いたしました。」との記載(http://www.fcl.fujitsu.com/release/2009/20090908.html)。
(8)「『光センサー液晶パッド』搭載ノートパソコン“Mebius”を発売」の見出しの下、「シャープは、タッチパッド部に世界で初めて『光センサー液晶』を採用し、新しいセンシング(感知)方式により、手書き入力と直感的なタッチ操作を実現したノートパソン“Mebius”を発売します。本機に搭載した4型の『光センサー液晶パッド』は、新しいセンシング方式により、従来のマウス機能に加えて、ペンによる絵や字の手書き入力や、複数の指でのマルチタッチ(ジェスチャー)操作による表示内容の拡大・縮小、回転が可能です。」との記載(http://www.sharp.co.jp/corporate/news/090421-a.html)。
(9)「ASUSTeK、マルチタッチ対応の10.1型タブレットPC」の見出しの下、「Windows 7のマルチタッチ機能により、指2本のジェスチャーで4方向スクロール、ズームイン・ズームアウト、回転などが可能。」との記載(http://journal.mycom.co.jp/news/2010/06/10/021/index.html)。
(10)「MSI、マルチタッチ3D液晶デスクトップなど新製品を発表」の見出しの下、「エムエスアイコンピュータジャパンは2010年8月24日、ディスプレイ一体型PC1モデルとノートPC4モデルの新製品を発表した。ディスプレイ一体型は、シャッター式3Dとマルチタッチに対応した23.6型液晶パネルを採用した『Wind Top AE2420 3D』。」との記載(http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20100825/1027070/)。
(11)「パナソニック、マルチタッチ機能を搭載したタブレットPC『Let's note C1シリーズ』」との記載(http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/13510/)。
(12)「ナナオ、マルチタッチ対応のノングレア17型スクエア液晶ディスプレイ」の見出しの下、「マルチタッチ対応のアプリケーションでは、2本指を使った回転、拡大(ピンチアウト)/縮小(ピンチイン)といった操作も可能。」との記載(http://journal.mycom.co.jp/news/2010/10/05/066/index.html)。
(13)「Windows タッチ」の見出しの下、「・・・Windows 7 では初めてマルチタッチ テクノロジーを搭載しました。画像を拡大したいときは、マルチタッチ互換の PC 画面に 2 本の指を置き、その指を広げます。」との記載(http://windows.microsoft.com/ja-JP/windows7/products/features/touch)。
(14)「富士通」に係るウェブサイトにおいて、「IS04」の見出しの下、「OSはAndroid2.1を搭載。Flashコンテンツ、マルチタッチによるピンチイン・アウト操作もスムーズにできます。」との記載(http://www.fmworld.net/product/phone/is04/info.html?fmwfrom=is04_index)。
(15)「KDDI」に係るウェブサイトにおいて、「スマートフォンの高機能」の見出しの下、「マルチタッチ対応の高精細&大画面ディスプレイで、インターネットブラウジングや多彩なアプリケーションの操作が快適です。」との記載(http://www.au.kddi.com/seihin/ichiran/smartphone/is03/)。
(16)「『ドコモ スマートフォン GALAXY S』『ドコモ スマートフォン GALAXY Tab』を開発」の見出しの下、「NTTドコモ(以下ドコモ)は、SAMSUNG電子株式会社製『GALAXY S』『GALAXY Tab』の日本市場向け新モデル、『ドコモ スマートフォン GALAXY S』『ドコモ スマートフォン GALAXY Tab』を開発しました。『GALAXY S』は、美しさと高機能性を兼ね備えたスマートフォンです。・・・マルチタッチにも対応しています。」との記載(http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2010/10/05_00.html)。

4 証拠調べ通知に対する請求人の意見
(1)「MULTI-TOUCH」について
「MULTI-TOUCH」は、各語の有する意味(MULTI→多い、多数の、等、TOUCH→触れること、接触、連絡、等)より、そのまま直訳すれば「多数の接触」「多くの連絡」等の観念が一応生じるが、「多数の接触」「多くの連絡」とは一体どういうことを意味するのか全く不明であり、また、広辞苑やジーニアス英和辞典、ランダムハウス英和大辞典といった辞書にも、「マルチタッチ」「MULTI-TOUCH」は掲載されていない。
つまり、「MULTI-TOUCH」は、本来的に具体的な意味を有しない造語であって、十分に出所識別標識として機能するというべきである。
(2)請求人との関係
「MULTI-TOUCH」「マルチタッチ」の文字は、本件拒絶理由の認定のとおり「複数の指を同時に使って画面の操作を行うことができる技術」の意味合いで使用されている例があることは事実である。
しかし、本願商標「MULTI-TOUCH」がかかる意味合いで理解され、使用されるようになったきっかけは、2007年に発売された請求人製品「iPod touch」及び2008年に発売された「iPhone」が採用するタッチスクリーンが、複数の指を使って画面の操作を行うことができる、という従来のタッチスクリーンにはない斬新な機能を有していたからである。
上記請求人製品が販売される以前から「タッチパネル」「タッチスクリーン」と呼ばれる「キーボードやマウスを使うことなく、指や専用のペンで画面に触れることで、コンピュータの操作を行なうことができる装置(ディスプレイ)」の技術は広く知られていたが、上記請求人製品は、「マルチタッチ」と命名した新しいタッチパネル方式を採用した点で画期的であり、これが他の製品と請求人製品を区別する革新的な機能であり、かつ、商品標識(商標)となった(甲第1号証ないし甲第3号証)。
また、証拠調べ通知書で挙げられた証拠(1)においても「米アップルが2007年6月に発売した携帯電話機iPhoneに採用したことで注目された。」と述べられており、証拠(4)においては「昨年に登場したアップルの携帯電話iPhone(日本では今年発売)は『マルチタッチスクリーン』を搭載した初の一般向け製品だ。」と述べられている。
以上のとおり、「MULTI-TOUCH(マルチタッチ)」の語については、その使用を開始し、需要者にその言葉を請求人製品との関連において周知させたのは請求人であるから、本願商標は、商品の一般的な技術名称ではなく、請求人製品を表示する識別標識(商標)にほかならないものである。
(3)言葉の認知度と識別力、独占適応性
上述のとおり、「MULTI-TOUCH(マルチタッチ)」という言葉は、上記請求人製品が大々的に広告・販売されたことによって、その画期的な機能を示すものとして有名となったのであるが、そのこと故に、本願商標の識別力が否定されるというようなことは明らかに妥当性を欠く。
現に使用され有名となった商標は、その機能が新規で人気がある場合には、当該機能名としても認識される場合があり得るが、そのような商標こそ、商標法上保護されるべき業務上の信用が化体し、一定の出所を明確に指標する商標といえるのである。
また、請求人製品があまりにも有名であるが故に、その機能を表す言葉としても「MULTI-TOUCH(マルチタッチ)」が使用されている事実があるとしても、そのような非常に人気が高く周知な請求人製品と結びつく本願商標には、多大な名声・信用が化体しており、請求人がその名声・信用を利用して、業務を遂行することは十分に尊重されるべきことであるし、そのような名声・信用こそ、商標法上の保護対象というべきである。
請求人よって使用され有名となっている本願商標については、請求人による独占を否定する理由がないから、独占適応性を欠くものではない。
(4)外国での登録例
本願商標は、カナダ、メキシコ、EUなど多くの国において出願されており、英語を公用語とする国においても、識別力を有するものと認定され、登録されている。この事実からも、英語を母国語としない我が国の需要者にとって、本願商標は、請求人製品の出所を表す造語商標として、十分に自他商品識別標識として機能するものというべきである。
(5)むすび
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号には該当しない。

5 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号該当性
商標法第3条第1項第3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であつて、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和52年(行ツ)第184号、同54年4月10日第三小法廷判決参照)。
これを本件についてみるに、本願商標は、「MULTI-TOUCH」の文字を標準文字で表してなるところ、該文字とつづりを同じくする「multi-touch」の文字及びその構成文字に相応して生ずる読みを片仮名で表した「マルチタッチ」の文字は、前記3(1)ないし(3)によれば、「タブレットやタッチパネル付きディスプレイで、2本以上の指を用いて操作すること。例えば、2本の指で幅を広げたり狭めたりすることで、表示されている画像を拡大/縮小するといった、直感的な操作が可能になる。」、「指やペンなどで触れて操作する入力装置で、複数のポイントに同時に触れて操作することができる入力方式。」、「複数の指でタッチパッドや画面(タッチパネルの場合)に触れてパソコンの操作をおこなう入力方式。画像の拡大/縮小や回転など多彩な機能を指の操作だけでおこなえる。」と記載されているのであるから、「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」を表すものと認められる。
そして、「マルチタッチ」の文字は、前記3(7)、(8)、(13)ないし(16)によれば、富士通コンポーネント、シャープ、マイクロソフト、富士通、KDDI、エヌ・ティ・ティ・ドコモの各社の抵抗膜方式タッチパネル、ノートパソコン、コンピュータソフトウエア、携帯電話機等に係る宣伝・広告において使用されているほか、前記3(9)ないし(12)によれば、ASUSTeK、エムエスアイコンピュータジャパン、パナソニック、ナナオの各社に係るパーソナルコンピュータ、液晶ディスプレイ等を紹介する他人のウェブページにおいても、「マルチタッチ機能により、指2本のジェスチャーで4方向スクロール、ズームイン・ズームアウト、回転などが可能。」、「ディスプレイ一体型は、シャッター式3Dとマルチタッチに対応した23.6型液晶パネルを採用」、「マルチタッチ機能を搭載したタブレットPC」、「マルチタッチ対応のアプリケーションでは、2本指を使った回転、拡大(ピンチアウト)/縮小(ピンチイン)といった操作も可能。」と記載されていることからすれば、上記のように「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」の意味をもって使用されているということができる。
そうすると、「マルチタッチ」の文字は、「抵抗膜方式タッチパネル、コンピュータソフトウエア、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、液晶ディスプレイ」等について、「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」を意味するものとして取引上普通に使用されているというべきであり、かかる意味を有する「マルチタッチ」を欧文字で表記した本願商標も、これに接する取引者、需要者が上記意味を理解、把握するものといわなければならず、これが自他商品の識別標識としての機能を果たしている商標とは認識しないというべきである。
そうとすれば、本願商標は、これをその指定商品中、「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式を採用した携帯電話,同電話・ファクシミリ・電子メールその他の電子データの送受信機能を有する携帯電子機器,同電気通信機械器具,同コンピュータ,同コンピュータ周辺機器,同携帯情報端末,同電子応用機械器具,複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式を可能とするコンピュータソフトウェア」に使用するときは、商品の品質、機能を表示するにとどまるものとみるのが相当であり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないというべきである。また、本願商標は、上記商品の取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないといわなければならない。
これに対して、請求人は、「MULTI-TOUCH」及び「マルチタッチ」の各文字は、辞書に掲載されていない造語であって、その使用を開始し、需要者にその言葉を請求人製品との関連において周知させたのは請求人であるから、本願商標は、商品の一般的な技術名称ではなく、請求人製品を表示する識別標識(商標)にほかならず、また、非常に人気が高く周知な請求人製品と結びつく本願商標には、多大な名声・信用が化体しており、請求人がその名声・信用を利用して、業務を遂行することは十分に尊重されるべきことであるし、そのような名声・信用こそ、商標法上の保護対象というべきであるから、本願商標は、独占適応性を欠くものではない旨主張する。
しかし、商標法第3条第1項第3号は、商標の登録に関する積極的要件ないし一般的登録要件に関する規定であって、その要件がないものについては、商標登録を拒絶すべき旨を定めたものであるから、このような要件の存否の判断は、行政処分一般の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合と同じく、特別の規定のない限り、行政処分時、すなわち、拒絶査定不服の審判においては、審決時を基準として判断されるべきである(平成11年(行ケ)第442号、同12年8月29日判決参照)。
これを本件についてみるに、請求人の業務に係るデジタルオーディオプレーヤー及び携帯電話機において採用された機能について、「MULTI-TOUCH」(マルチタッチ)の文字が使用されていることは、請求人の提出に係る甲第1号証ないし甲第3号証及び前記3(1)などからも是認することができるものであるとしても、「マルチタッチ」の文字は、上記のとおり、携帯電話機、コンピュータ等を取り扱う業界において、取引上普通に使用されているといい得るものである。加えて、前記3(4)ないし(6)によれば、マルチタッチインターフェースの研究は1980年代初めにさかのぼること、2007年10月には、「マルチタッチ式大型ディスプレー」をニューヨーク大学クーラン数理科学研究所の研究者、Jeff Han氏が開発したこと、さらに、Microsoft社が同年5月に発表したSurfaceは、マルチタッチインターフェースを備えたテーブル型パソコンであると紹介されたことが認められるのであるから、そもそも「MULTI-TOUCH」、「マルチタッチ」の各文字は、請求人の業務に係る上記商品が販売される以前から他人の研究、開発に係る技術を表す語としても用いられていたということができる。
そうすると、たとえ、請求人の業務に係る携帯電話機等が「MULTI-TOUCH」、「マルチタッチ」と称する「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」を採用したことで注目されたとしても、商標法第3条第1項第3号の判断時である本審決時においては、「MULTI-TOUCH」、「マルチタッチ」の各文字が専ら請求人の業務に係る商品に使用される商標として、我が国における需要者の間に認識されているということができず、むしろ、携帯電話機、コンピュータ等に係る需要者においては、上記のとおり、「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」を表すものとして理解されているというべきであり、特定の者(請求人)の業務に係る商品の出所を表示するために使用される識別標識として認識されているとは到底いえないものである。そして、上記のように理解される本願商標は、上記携帯電話機、コンピュータ等の取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものでもあるから、請求人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でない。
次に、請求人は、本願商標は、外国において出願されており、英語を公用語とする国においても、識別力を有するものとして登録されているから、英語を母国語としない我が国の需要者にとって、請求人製品の出所を表す造語商標として、十分に自他商品識別標識として機能する旨主張する。
しかし、登録出願された商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか否かは、その商標が使用される商品等の取引の実情を考慮し需要者がどのように認識するかにより個別具体的に判断すべきであり、諸外国で登録されている事例によりこれが左右されるものではない。
したがって、請求人の上記各主張は、いずれも採用することができない。
以上によれば、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第16号該当性
商標法第4条第1項第16号は、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」を商標登録を受けることができない商標として規定している。
これを本件についてみるに、本願商標を構成する「MULTI-TOUCH」の文字は、前記(1)認定のとおり、全体として「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式」を表すものとして理解されているものである。
そうすると、本願商標は、これをその指定商品中、少なくても「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式を採用した携帯電話,同電話・ファクシミリ・電子メールその他の電子データの送受信機能を有する携帯電子機器,同電気通信機械器具,同コンピュータ,同コンピュータ周辺機器,同携帯情報端末,同電子応用機械器具,複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式を可能とするコンピュータソフトウェア」以外の「携帯電話,電話・ファクシミリ・電子メールその他の電子データの送受信機能を有する携帯電子機器,電気通信機械器具,コンピュータ,コンピュータ周辺機器,携帯情報端末,電子応用機械器具,コンピュータソフトウェア」に使用するときは、あたかもこれらの商品が「複数の指を用いて画面の操作を行うことができる入力方式を採用したもの」であるかのように商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるといわなければならない。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第16号に該当する。
(3)むすび
以上によれば、本願商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2011-02-08 
結審通知日 2011-02-09 
審決日 2011-02-22 
出願番号 商願2007-71092(T2007-71092) 
審決分類 T 1 8・ 13- Z (X09)
T 1 8・ 272- Z (X09)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 斎中尾 真由美早川 文宏 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 大森 友子
末武 久佳
商標の称呼 マルチタッチ、タッチ 
代理人 大島 厚 

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