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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X303543
管理番号 1251633 
審判番号 取消2010-301237 
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2010-11-18 
確定日 2011-11-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5333232号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5333232号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
登録第5333232号商標(以下「本件商標」という。)は,「L’ESPOIR du CAFE」の文字を横書きしてなり,平成21年10月15日に登録出願,第30類「調味料,菓子及びパン」,第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」及び第43類「飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として,平成22年6月25日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は,結論と同旨の審決を求め,その理由を次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第57号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)取消事由の概要
被請求人は,本件商標の商標権者であるところ,本件商標の登録後に,本件商標に係る指定商品「菓子」に含まれる「パウンドケーキ」の包装及び取引書類(レシート)に本件商標に類似する以下の商標(以下,これらをまとめていうときは「使用商標」という。)の使用をした。
使用商標1(包装ラベル)は,別掲(1)に示すとおりのものであり(甲第3号証),使用商標2(包装ラベル)は,別掲(2)に示すとおりのものである(甲第4号証)。また,使用商標3(レシート)は,別掲(3)に示すとおりのものである(甲第5号証)。
これにより,請求人の使用に係る以下の商標(以下,これらをまとめていうときは「引用商標」という。)を付した請求人の業務にかかる贈答用洋菓子と混同を生ずるおそれのあるものをした。
引用商標1は,「レスポワール」の文字からなるものであり,引用商標2は,別掲(4)に示すとおりのものである。
また,被請求人は,後述するとおり,引用商標に関連する商標権に基づく請求人からの侵害警告やその後の請求人との和解契約の締結等により,使用商標をパウンドケーキ等の洋菓子に使用することは請求人の業務にかかる贈答用洋菓子と一般公衆が出所の混同を生じるおそれがあることを十分認識しながらも,本件商標が登録されたことを奇貨として,故意に使用商標を使用したものである。
よって,本件商標は,商標法第51条第1項の規定により,その商標登録を取り消されるべきである。
(2)商標法第51条の要件及びその趣旨
商標法第51条第1項に規定されているとおり,本条は,商標権者が指定商品・指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品・指定役務に類似する商品・役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質の誤認又は商品の出所の混同を生ずるおそれがあるものを故意にしたとき,つまり,誤認,混同を生ずることの認識があったときには,請求により,その商標登録を取消すこととしたものであり,これは商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,かつ,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨である(甲第2号証)。
したがって,本件審理においては,上記趣旨を鑑み,一般公衆の利益が害されるような事態が生じ得るのであれば,本件商標の登録は商標法第51条第1項規定の不正使用に該当するものとして取消されて然るべきである。
(3)不正使用の具体的事実
ア 被請求人による指定商品における本件商標と類似する使用商標の使用
請求人は,本件商標の登録後の平成22年8月18日に,被請求人との和解契約の履行状態を確認すべく,被請求人が経営する広島県尾道市西御所町14-5所在のフランス料理店に出向いたところ,本件指定商品「菓子」に含まれる「パウンドケーキ」(以下「本件商品」という。)の包装(甲第3号証及び甲第4号証)及び取引書類(レシート)(甲第5号証)に使用商標を付して,本件商品を店内において販売している事実を確認した。
使用商標の構成中,看者の注意を最も惹く欧文宇部分はいずれも,本件商標の構成文字「L’ESPOIR du CAFE」を二段に書し,文字の大小のバランスや書体等を変えたにすぎず,被請求人の主張によれば,「L’ESPOIR」の文字と「du Cafe」「du CAFE」の文字部分が一体に認識されるとのことである(甲第6号証)。被請求人のかかる主張に依拠すれば,本件商標と使用商標はいずれも類似する。
イ 混同を生ずる
商標法第51条第1項の「混同を生ずるもの」とは,同条の規定趣旨より「混同を生ずるおそれ」があれば足り,また,「狭義の混同」のみならず「広義の混同」をも含むものである(平成9年(行ケ)153号,甲第7号証)。
かかる「混同」の認定においては,(ア)他人の表示の周知著名性の程度,(イ)当該商標と他人の表示の類似性の程度,(ウ)当該商標に係る商品(役務)と他人の業務に係る商品(役務)との間の性質,用途等における関連性の程度,(エ)商品(役務)の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らして,当該商標に係る商品(役務)の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断される。(取消2008-301328号審決,甲第8号証)。
これについて以下に説明する。
(ア)請求人の引用商標の周知著名性
(ア-1)請求人による長年にわたる引用商標の使用
請求人は,明治30年の創業以来,現在に至るまで約113年に亘って和洋菓子の製造販売等に従事している(甲第9号証)。引用商標を付した贈答用洋菓子「レスポワール」(甲第10号証,甲第11号証,甲第12号証の2ないし35,甲第13号証の1ないし8,甲第14号証の1及び2,以下「レスポワール商品」という。)は,著名商標「ゴーフル」と共に,請求人の代表的洋菓子ブランドであり,これら以外にも数々の人気商品を販売している(甲第15号証)。
数あるレスポワール商品の中で一番のロングセラー商品は,黒い缶と個別包装が定番のクッキー「レスポワール」「L*espoir」(甲第10号証)であるが,これは昭和51年,請求人の社運をかけた画期的な新商品として約3年の研究期間を経て開発され,同年11月,東京の西武百貨店(渋谷店,池袋店)で初めて発売されたものである(甲第16号証の3,甲第17号証)。発売当時の缶のデザインは今も変わらず,約34年間に亘って,この缶に入った上記商品を継続して販売してきた。
一方で,発売当時は上記のクッキーだけであった商品バリエーションも人気が高まるとともに年々品揃えが増え(甲第16号証の6,甲第16号証の10),現在ではクッキー類やフィナンシェ,パウンドケーキ,ロールケーキ,デザート類を含む計10種類以上のバリエーションが揃い,引用商標はこのうち一つの商品ブランドとしてだけでなく,レスポワール商品を販売する請求人の店舗の屋号としても使用されており,このため,個々の商品の包装に限らず全商品に共通して使用する紙袋,包装箱等にも表示されている(甲第10号証,甲第11号証,甲第12号証の2ないし35,甲第13号証の1ない8,甲第14号証の3及び4,甲第18号証の1及び2,甲第19号証の1ないし14)。
また,各店舗の売場では,レスポワール商品は引用商標が目に付くようにショーケースに陳列されており(甲第14号証の1,2及び5,甲第18号証の2及び3,甲第20号証の1ないし8,甲第21号証の1ないし4),全国各地の百貨店では「レスポワール」の屋号の下,他の有名なブランドの洋菓子と軒を並べて販売されている(甲第22号証の1ないし17)。
なお,請求人は,引用商標を含め,「レスポワール」の称呼を生じる計5件の登録商標を所有している(甲第23号証ないし同第27号証)。
(ア-2)請求人の引用商標の周知著名性
引用商標は,本件商標が登録出願された平成21年10月15日以前より,以下に詳述するとおり,請求人の業務にかかる贈答用洋菓子の商標として,関西,中国などの西日本を中心に,全国的に取引者,需要者の間で周知著名性を獲得している。
(a)レスポワール商品の位置付け
レスポワール商品は,上記のとおり豊富なバリエーションで展開されているが,いずれも百貨店での贈答用としてデザイン的にも洗練された高級感のある缶や箱(少量のものはリボンの付いた袋)に包装されていることからも分かるとおり(甲第10号証,甲第19号証の1ないし14),日常的に自宅で消費することを主な目的としてスーパーマーケットやコンビニエンスストア等で販売される商品ではなく,いわゆる贈答用洋菓子の範疇に属する商品である。
このため,引用商標の周知著名性の判断に際しては,レスポワール商品は,スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で販売される自宅消費用の低価格の菓子とは一線を画し,贈答用洋菓子,又は百貨店で販売される高級路線の洋菓子として位置付けられるべきである。
(b)洋菓子業界における贈答用洋菓子の位置付け
2007年の調査結果によると,日本人の2人に1人が月に一回以上百貨店を訪れており,百貨店で購入する商品として最も多いのが「ギフト・贈答品」である(甲第28号証の2)。
また,東京,大阪,名古屋,仙台の主要百貨店での2007年から2008年の中元期,歳暮期のデータにおいて,洋菓子は常に上位を占めており,百貨店で購入される贈答品の中でも洋菓子の人気が非常に高い事情が認められる(甲第28号証の1ないし6)。
さらに,昨今のいわゆる「デパ地下」ブームの中,贈答品か自宅消費用かを問わず,百貨店の食料品売場で販売される洋菓子が注目を集めており,洋菓子目当てで百貨店を訪れる人も多く,食料品全体の売上が百貨店の売上の中で占める割合も年々増えていることから,百貨店の食料品売場の充実度が百貨店の売上を左右する重要なファクターになっている(甲第28号証の2,甲第29号証ないし甲第32号証)。
以上により,百貨店経営において贈答品及び洋菓子が非常に重要な地位を占めており,その重要性は年々高まっているだけでなく,多くの一般大衆が洋菓子を購入しに百貨店に足を運ぶ実情を考えると,洋菓子業界において,百貨店で販売される贈答用洋菓子は,高級感のある人気商品と位置付けられているといえる。このため,百貨店の贈答品売場又は洋菓子売場で長年の販売実績を持つということは,百貨店の集客力確保に貢献する信頼のおける定番ブランドとして十分評価・認知されていることの証左に他ならない。
(c)全国の百貨店におけるレスポワール商品の販売
請求人は,昭和51年11月に初めて東京の西武百貨店(渋谷店,池袋店)にレスポワール商品の常設店を出店して以来,次々と店舗数を増やし,現在までに,百貨店だけで少なくとも累計140店舗以上出店してきた。平成22年11月1日時点で,レスポワール商品を常設する百貨店の店舗は,北は東北(青森県)から南は九州(鹿児島県)まで,全国で計110店舗存在する(甲第33号証の1,甲第32号証)。日本百貨店協会に加盟する全国の百貨店の店舗数が248店舗(平成22年10月8日時点,甲第34号証)であることからすると,平均してほぼ2軒に1軒近くの割合でレスポワール商品が常設されていることになる。発売以来,店舗数が徐々に増えていった様子が,請求人の社内報の記載からも確認できる(甲第16号証の1ないし15)。
上記110店舗のうち,約3分の2に当たる73店舗が20年以上前に出店した店舗であり,30年以上も前から出店している店舗だけでも42店舗である。これより,入れ替わりの激しいといわれる百貨店の洋菓子売場(甲第29号証)において,レスポワール商品が長年需要者に愛され続け,百貨店としても重要なテナント(ブランド)と位置付けられている実情が容易に推測される。
また,レスポワール商品の常設店は,平成20年の「全国百貨店企業別総売上高ベスト50」のうち計29社の店舗に出店している(甲第32号証)。
また,2008年度において,全国に所在する百貨店のうち主要な100店舗における食料品の売上は全百貨店の食料品売上の約98%を占めているが,レスポワール商品の常設店は,この主要100店舗のうち39店舗にも及んでいる(甲第32号証)。
(d)贈答用洋菓子としての「レスポワール」の認知度
上記の百貨店におけるレスポワール商品の販売実績より,引用商標は贈答用の洋菓子ブランド(又は屋号)として全国の取引者,需要者の間に浸透していったものであるが,平成13年の時点において,引用商標の認知度が既に相当程度に達していたことは,日経産業消費研究所が同年11月に行った調査(甲第29号証)における以下の結果から確認できる。
認知度の観点から「店舗名を知っている」という質問に対する回答についてみると,請求人の「レスポワール」は,百貨店の洋菓子売場のテナントから抜粋された計30店舗中,首都圏と近畿圏を含む全体では13位,近畿圏だけでは7位にランキングされており,総合評価では16位,近畿圏では10位である(甲第29号証)。また,「おいしい」や「素材が良い」等の項目でほぼ全て15位以内に入っている(甲第29号証)。
上記調査が行われた平成13年以降も,レスポワール商品を常設する百貨店の店舗数は増加基調にあり,上記のとおり平成22年11月1日時点では110店舗となっていることからも,その認知度が現在まで維持されている(又は高まっている)ことは明らかといえる。
以上に述べたとおり,レスポワール商品は,食料品売場の人気が特に高い百貨店や大手百貨店を初め,累計140店舗以上の全国の百貨店の最激戦区といわれる洋菓子売場(甲第29号証)において34年以上もの間継続して販売されており,全国の多くの需要者の目に常に触れ続け,取引者である百貨店にとっても,売上を左右する食料品売場の集客力確保に貢献する信頼のおけるブランドとして認知されている。特に,近畿・中国地区には,現在の常設店110店舗のうち50店舗以上が集中し,その約半数が30年以上常設していることを考慮すると(甲第33号証の1),これらの地域での引用商標の周知著名性は極めて顕著といえる。
(e)量販店,直営店等での販売実績
レスポワール商品は,百貨店以外にも59店舗の量販店の贈答品コーナー,及び21店舗の直営店や大阪空港内の土産物売場,菓子専門店,土産物専門店等でも販売されている(甲第33号証の2及び3,甲第21号証の1ないし4)。
量販店(59店舗)については,半数以上の店舗は,(株)帝国データバンクが公表する各種商品小売の「業種別売上高ランキング」(甲第35号証)で上位3位の(株)イトーヨーカ堂,イオンリテール(株),(株)西友を初め,高順位に入る企業の経営するスーパー内に出店している。これら量販店は,百貨店に出向かずとも一般大衆が購入できるよう,北海道や沖縄,新興住宅地等,百貨店から地域的,距離的に離れた地域に出店して展開している。また,レスポワール商品が贈答品として人気が高く重宝されていることから,空港や土産物専門店等,土産物を購入する人が多く訪れる店舗で販売している。
直営店については,店舗名も引用商標と同じ「L*espoir」「レスポワール」とし,看板や壁面にも引用商標を表示し,ショーケースの中でも引用商標を目立つように表示している(甲第14号証の1ないし5,甲第18号証の1ないし3)。
このように,レスポワール商品は,量販店に日用品や食料品を買いに行くついでに贈答品として購入されたり,旅行や出張の帰りにお土産として購入されたりと,百貨店に行く機会の少ない人でも身近にあるスーパーで購入できる。このため,引用商標は,上記のように百貨店の食料品売場や贈答品売場を愛用する需要者や百貨店の関係者以外にも,幅広い需要者,取引者の間で認知されているといえる。
(f)ギフト用カタログでの販売
レスポワール商品は,全国の大手百貨店やゆうパック,量販店等のお中元,お歳暮用を初めとするギフト用カタログでも,発売以来約34年間に亘り継続して販売されている。これから,百貨店や量販店の存在しない地域(又はレスポワール商品が販売されていない地域)の需要者や,店舗に足を運ぶことなく自宅で手軽に贈答品を選びたいという需要者にも十分認知されているものである。
甲第12号証の1ないし34は,平成10年から同22年夏までに頒布されたレスポワール商品に関するギフト用カタログの一覧,及びその一例としての,そごう,ゆうパックの同期間のカタログコピー(一部抜粋)である。これらカタログに長年継続して掲載されている洋菓子ブランドは,ゴンチャロフ,モロゾフ,ユーハイム等,お中元,お歳暮商品としては誰もが知っているような定番といえる商品ばかりである。現に,平成22年のお歳暮用カタログ(甲第12号証の35)には,レスポワール商品が「銘店の菓子」として掲載されている。これより,レスポワール商品は,ギフトカタログには欠かせない,お中元,お歳暮用に選りすぐられた定番の贈答用洋菓子といえる。
(g)インターネットでの販売
レスポワール商品は,百貨店のオンラインショップを初め,インターネット通販業者の多数のサイト(例えば,楽天,イオンオンラインショップ,シャディ・ギフト&ショッピング等)でも恒常的に掲載され,販売されている(甲第13号証の1ないし8)。
(h)商品バリエーション,パッケージ
レスポワール商品は,クッキー類やフィナンシェ,パウンドケーキ,ロールケーキ,デザート類を含む計10種類以上のバリエーションで展開する商品である。昭和51年の発売以来,レスポワール商品のバリエーションが徐々に増えていき,人気を博していった様子は,社内報の記載からも確認できる(甲第16号証の6,甲第16号証の10)。
レスポワール商品のパッケージについては,毎年クリスマスギフト用にはサンタクロース等のクリスマスらしいデザイン,ハロウィンのプレゼント用にはカボチャのイラスト,迎春商品にはその年の干支のデザイン等を施し,贈答の目的別に需要者に楽しんでもらえるよう常に工夫している(甲第10号証,甲第11号証,甲第13号証の1ないし8)。このように,請求人は,レスポワール商品が単にお中元,お歳暮用や手土産用としてだけでなく,様々な場面で贈答品として活用され,お中元,お歳暮を贈る年代だけでなく,子供から老人まで,幅広い年代に人気のある贈答用洋菓子ブランドとして重宝されるよう積極的に取り組んでいる。
(i)出庫個数,出庫金額
平成12年度から平成21年度までのレスポワール商品の出庫個数は,いずれの年度も年間3百万個(箱入り,缶入りを1個として計算)を超えている(甲第36号証)。
また,同期間の出庫金額は,年間27億から33億円の間で推移しており,最低でも27億円,直近の3年間はそれ以前より増えて年間30億円を超えている(甲第37号証)。
このように直近の10年に限ってみたとしても毎年安定した出荷数をと出庫金額を継続しており,それ以前の約20年についてはデータは存在しないが同程度の出庫実績があったと見込まれることから,30年間では出庫個数にして計約9千万個,出庫金額にして計約9百億円となる。発売当初を除いては積極的な広告宣伝活動をしていないにも拘わらず,上記のような販売実績からみても,レスポワール商品がロングセラーの人気定番贈答用洋菓子としての地位を確立していることは明らかといえる。
(j)受賞実績
レスポワール賞品は,その品質も高く評価され,3年連続(平成12年から14年)でモンド・セレクション金賞を受賞し(甲第38号証),また,平成21年には入場者数が92万人を超えた「第25回全国菓子大博覧会・兵庫」において,外務大臣賞を受賞している(甲第39号証)。
以上のように,請求人の約34年に亘る営業努力の結果,レスポワール商品は,現在までにロングセラーの人気定番贈答用洋菓子としての地位を確立し,毎日新聞(甲第40号証)や朝日新聞(甲第41号証)の記事からも分かるとおり,「ゴーフル」に並ぶ請求人の看板商品に成長し,「銘店の菓子」とまで称されるようになっている(甲第12号証の35)。
これより,引用商標は,本件商標が登録出願された平成21年10月15日以前より,請求人の業務にかかる贈答用洋菓子の商標として,関西,中国などの西日本を中心に,全国的に取引者,需要者の間で周知著名性を獲得していたものである。
イ 被請求人の「使用商標」と請求人の「引用商標」との類似
使用商標の構成中,看者の注意を最も惹く部分は,中央に大きく且つ太目の文字で書された「L‘ESPOIR」「L’ESPOIR」の文字部分であるが,該文字部分は,引用商標2と構成文字が同一であるため外観が類似し,且つ,各引用商標と同一の「レスポワール」の称呼を生じる。
また,使用商標は上記の外観上の特徴により,「L‘ESPOIR」「L’ESPOIR」の文字部分のみから観念が生じるが,該語が我が国で一般に馴染みのない仏語であることから,辞書掲載の意味「希望」よりは寧ろ,周知著名な「請求人の業務に係る贈答用洋菓子の人気定番ブランド」の観念が生じるといえる。
よって,両商標は,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似する。
ウ 本件商品と請求人の業務に係る商品との関連性
本件商品とレスポワール商品とは,いずれも「洋菓子」である。
また,本件商品も贈答用洋菓子の一つとして取引されているから,用途においてもレスポワール商品と共通する。
エ 商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
(a)「パウンドケーキ」は贈答用洋菓子としても取引されており(甲第12号証の7),レスポワール商品の取引者(百貨店や洋菓子販売店,喫茶店等),需要者(一般消費者)と共通する。
(b)被請求人は,自己のレストラン外でも,不定期的に広島を中心とした百貨店で,焼菓子を含む洋菓子を販売しており,本件商品がレスポワール商品と同じく百貨店で販売される可能性が認められる。
(c)本件商標の登録前ではあるが,被請求人が「そごう広島店」において「L’ESPOIR」の文字を付したプリンを期間限定(平成19年10月16日から22日間)で販売したところ,一部の消費者が被請求人のプリンを請求人の商品と誤認して,同店内の請求人の店舗を訪れており,消費者が現に混同した取引の実情が存在する(甲第42号証)。
以上を総ずるに,使用商標が付された洋菓子に接する取引者,需要者は,周知著名な「請求人の業務に係る贈答用洋菓子の人気定番ブランド」としての引用商標を連想,想起し,該洋菓子が請求人又は請求人と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く,その出所について混同を生ずるおそれが十分認められる。
オ 故意
被請求人は,使用商標を本件商品に使用することにより,請求人のレスポワール商品と混同を生じるおそれがあることを認識していた。
(ア)被請求人が使用商標を使用するまでの経緯
(a)平成19年10月16日
請求人は,引用商標を含め「レスポワール」の称呼を生じる計4件の登録商標(登録第0471330号,登録第1108743号,登録第3007411号,登録第3033690号)(甲第23号証ないし甲第26号証)を第30類「菓子,パン」,第43類「フランス料理の提供」等について所有していたところ,被請求人が自己の経営する広島県尾道市のレストラン及び百貨店(そごう広島店)において,フランス料理の提供や洋菓子の販売に上記登録商標と同一又は類似の商標(「レスポワール」「L’ESPOIR」「レスポワールドゥ・カフェ」「L’ESPOIR du Cafe」)を使用していることを発見した。
(b)平成19年11月2日
請求人は,被請求人に警告書を送付し,上記使用行為の即時中止等を申入れ,前述の「そごう広島店」でのプリンの販売における現実の混同についても抗議した(甲第43号証)。
(c)平成19年11月9日,11月16日
被請求人は,洋菓子(プリン)についての請求人の登録第471330号商標「L’ESPOIR」及び登録第1108743号商標「レスポワール」の商標権侵害を認め,即時中止を約束する誓約書を請求人に提出した(甲第44号証)。
(d)平成20年7月24日
被請求人は,使用商標1及び2とほぼ同一の構成からなる商標(商願2008-060364,甲第45号証),及び商標「尾道L’ESPOIR du CAFE」(商願2008-060363,甲第46号証)について登録出願した。
(e)平成20年7月28日
被請求人は,請求人との間で和解契約を締結し,「被請求人のフランス料理店において持ち帰り用に販売する商品,及び店外において販売する商品に,『レスポワール』,『L’ESPOIR』,『レスポワールドゥ・カフェ』,『L’ESPOIR du Cafe』と同一又は類似の標章を一切使用しない」こと等に同意した(甲第47号証)。
(f)平成21年2月19日
請求人は,天満屋広島アルパーク店において,被請求人が洋菓子(ガトーショコラ,甲第48号証)に,使用商標2を付して販売していることを発見した(平成21年2月18日)ため,当該行為が和解契約違反に当たるとして,即時中止等を求める解除予告通知を行った(甲第49号証)。
(g)平成21年2月20日
被請求人は,書面にて,当該使用の即時中止を約束した(甲第50号証)。
(h)平成21年4月24日
特許庁から被請求人に対し,商願2008-060364に対する拒絶理由通知書発送(甲第51号証)
(i)平成21年8月10日
特許庁から被請求人に対し,商願2008-060364に対する拒絶査定謄本送達(甲第52号証)
(j)平成21年10月15日
被請求人は,和解契約において使用が禁止されている本件商標について登録出願した。
(k)平成22年4月5日
請求人は,大丸須磨店において,被請求人が洋菓子(シフォンケーキ,甲第53号証)に,「尾道 L‘ESPOIR/du cafe」の文字を付して販売していることを発見した(平成22年3月31日)ため,当該行為が和解契約違反に当たるとして,即時中止を申し入れた(甲第54号証)。
(l)平成22年4月5日
被請求人は,「尾道L‘ESPOIR du CAFE」について自己が商標登録を受けたことを理由に,上記請求人の申入れを拒否した(甲第55号証)。
(m)平成22年6月3日
本件商標について登録査定。
なお,本件商標について,被請求人は,平成22年2月15日付拒絶理由通知書において,請求人の登録商標5件(甲第23号証ないし甲第27号証)との類似性を指摘されている。
(n)平成22年6月24日
請求人は,被請求人が自己の経営するレストランにおいて,使用商標2を付したクッキーを販売し,当該クッキーのレシートに使用商標3を付していることを発見した(甲第56号証の1及び2)。
(o)平成22年8月18日
請求人は,被請求人が自己の経営するレストランにおいて,使用商標1及び2を付した本件商品を販売し,当該商品のレシートに使用商標3を付していることを発見した。
なお,使用商標1及び2とほぼ同一の構成からなる商標(商願2008-060364,甲第45号証)について,被請求人は,前記のとおり和解契約締結日の4日前(平成20年7月24日)に,第35類「飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として登録出願したが,引用商標を含む請求人の「レスポワール」の称呼が生じる登録商標(登録第0471330号(甲第23号証),登録第1108743号(甲第24号証),登録第5139577号(甲第27号証))との類似性を理由として,拒絶理由通知書(平成21年4月24日発送,甲第51号証)及び拒絶査定(平成21年8月10日謄本送達,甲第52号証)を受け,当該拒絶査定に対して不服審判(不服2009-21804)を請求したが,平成22年8月13日に拒絶審決がなされた。
(イ)被請求人の「故意」
以上のとおり,被請求人は,使用商標の使用(平成22年8月18日)前から,和解契約の締結や度重なる請求人からの通告,及び本件商標の登録に至るまでの経緯を通じて,引用商標の存在だけでなく,使用商標をパウンドケーキ等の洋菓子に使用することは契約違反に該当し,さらに請求人の引用商標を付した洋菓子と混同を生じるおそれがあることを知っており,現に「そごう広島店」では具体的な混同が生じていたことを請求人より指摘されていた。
事実,被請求人は,平成22年9月14日付書面による「登録商標を理由にその構成態様を変えて『L’ESPOIR』の文字を大きく強調した表示をすると和解契約違反を構成するのみならず,登録商標の不正使用となる」旨の請求人からの警告(甲第57号証)に対し,その点については何ら反論していない。
さらに,商願2008-060364に対する上記拒絶理由通知及び拒絶査定により,被請求人は,使用商標はその構成から「L’ESPOIR」の文字が独立して看取されるものであり,引用商標とは混同を生じるおそれのある同一又は類似の商標であることを認識していた。
以上により,被請求人は,使用商標の本件商品への使用が請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあることを十分認識しながら,本件商標が登録されたことを奇貨として,使用商標を使用したものである。
(4)結論
被請求人は,本件商標の登録後に,本件商標に係る指定商品「菓子」に含まれる本件商品について,本件商標に類似する使用商標の使用であって,請求人の周知著名な引用商標を付した請求人の業務にかかる贈答用洋菓子と混同を生じ,一般公衆の利益が害されるものをした。
また,被請求人は,請求人からの侵害警告やその後の請求人との和解契約の締結,使用商標1及び2とほぼ同一の構成からなる商標の拒絶査定に至るまでの経緯等により,使用商標を本件商品に使用することは請求人の業務にかかる贈答用洋菓子と一般公衆が出所の混同を生じるおそれがあることを十分認識していた。
したがって,本件商標は,商標法第51条第1項の規定により,その登録を取り消されるべきである。

3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し,その理由を次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)商標法第51条第1項の趣旨について
商標法第51条第1項の規定は,商標権者が,故意に,指定商品若しくは指定役務について,登録商標に類似する商標を使用した場合であって,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときに適用される。
請求人は,被請求人が使用商標を使用することにより,請求人の業務に係る贈答用菓子と混同を生ずるおそれのあるものをしていると主張しているが,請求人指摘の使用商標が請求人の業務に係る商品と混同を生じさせている事実はなく,またそのおそれもないので,請求人の主張には全く理由がない。
(2)被請求人の本件商標の使用について
ア 被請求人の本件商標及び使用商標について説明するに際し,本件商標の由来について説明する。被請求人の代表取締役である小泉真一は,昭和62年に,広島県三原市において,フランスレストランである「L’ESPOIR」「レスポワール」を開店した(乙第1号証)。
同店開業2年後の1989年には,地元新聞紙中国新聞 夕刊12月8日(乙第2号証)に紹介され,また,福山市,尾道市,三原市等広島県南部の観光案内の冊子「びんご路の休日」(1991年11月25日刷・発行,リード出版社定価950円,乙第3号証)にも紹介されている。
17坪程度の小さなレストランの店舗面積ではあったが,同レストランの記録によれば,1991年当時,毎月延べ千数百人が来店しており,人気店であった。
同レストランヘの需要者の認識が高められた結果,1990年代には,新広島テレビ「どっこい神田の日めくりテレビ」,中国放送「広島大百科」,同「週刊パパたいむ」等によりテレビ放映されている。
その後,2000年11月29日に尾道にレストランを移転し,「レスポワールドゥ・カフェ」,「L’ESPOIR du Cafe」と改名した(以下「本件店舗」という)。移転の当時の地元新聞紙(乙第4号証)によると,「三原での」と報道されており,需要者の認識についても,そのまま三原市から尾道市の本件店舗へと継続されていた。
その後も数々の雑誌に継続的に紹介された。また,芸能人が本件店舗を訪れオーナーシェフである小泉真一へのインタビューや店舗紹介が地元テレビ局により繰返し放映された。例えば,広島テレビ「広島菜’S」(2005年7月26日放送)ではセインカミュ氏が尾道の桃を題材としたデザートを小泉真一と共に本件店舗の厨房で調理する様子が放映されたり,「TIMの神様の宿題」(2006年8月3日放送)ではTIMレッド吉田氏がステーキ料理を紹介する様子が放映されたり,広島テレビ放送「テレビ宣言」(2007年6月19日放送)では食物アレルギーの子供に優しいランチメニューの紹介が放映された。
これらは,短いときは2分10秒,長いときは9分以上に亘る番組構成で放映されており,少なくとも広島県内において本件店舗は話題にこと欠かず,継続的にテレビ放映される人気のレストランである。
また,マツダ株式会社がマツダ車を購入した顧客にプレゼントする広島県の逸品の案内の中に本件店舗が紹介され(乙第5号証の1),またJR西日本がNHK朝の連続テレビ小説「てっぱん」の舞台である尾道への旅行者に紹介する尾道のレストランとして本件店舗が案内されており,大企業にも本件店舗は認知されている(乙第5号証の2)。
なお,改名後においても,次に述べる請求人との和解契約に至るまで「L’ESPOIR」は「L’ESPOIR du Cafe」と共に本件店舗を示す名称として使用された(乙第6号証の1及び2は,2000年の移転以降の看板の写真であるが,これらの看板は,和解契約後も継続的に使用されている。)。
イ 被請求人は,本件店舗に対して,平成19年ころになって,請求人から商標権侵害を理由とした警告を受けた。
被請求人としては,自己の標章の使用に問題はないと考えていたが,請求人からその商標登録(本件引用商標)に基づき訴訟を提起する等言動を受け,平成20年7月28日付で甲第47号証の和解契約を締結した。
和解契約書においての趣旨は,「尾道レスポワールドゥ・カフェ」及び「ONOMICHI L’ESPOIR du Cafe」の表示には請求人商標権の禁止権が明らかに及ばず,被請求人はこれら表示を使用すれば良いことを確認するものである。
(3)被請求人の使用商標について
請求人が被請求人による使用商標の使用と主張する表示は本件店舗名「ONOMICHI L’ESPOIR du Cafe」の表示であり,さらに被請求人は,それを商品商標として使用していない。
また,上記和解契約書第2条に基づき,被請求人から請求人に対し,変更内容を確認できる資料として平成21年7月29日に送付したもの(乙第7号証)の中には使用商標として提出された同一標章が含まれていた。その後に,請求人は本件店舗を訪れているが,本変更内容についてはこれまでに何ら指摘を受けた事実はない。
ア 甲第3号証及び4号証(使用商標1及び2)は,本件店舗のレジ横の小さな籠にいれられ,食事をした顧客に対するサービスとして提供されたものである。本件店舗はレストランであり,当該提供物のみを購入する目的で来店する顧客はいない。これら提供物は,パウンドケーキを一切れ一切ればらばらの状態で包装し,本件店舗のレジ横の小さな籠に無造作に放り込まれていた(乙第8号証)。食事をしない顧客がこれのみを目的に来店し購入した実績はない。
また,甲第3号証及び4号証(使用商標1及び2)の表示は,本件店舗脇に設置されている駐車場の案内看板を模したものである(乙第7号証及び乙第9号証)。そして,その表示は本件店舗名を,本件店舗のレンガ造りのエントランスの図形と,「Onomichi coast street Red brick Restaurant」を挟んだ表示である。言い換えれば,甲第3号証及び4号証の表示は,本件店舗を表す意匠的なものであって,商品の名称を示すものではない。
なお,甲第3号証(使用商標1)は,本件店舗外での使用を想定して商願2008-60364号として第35類を指定し小売役務を対象に出願したが,平成22年8月16日に拒絶審決の送達を受けたので,念のためにその後の一切使用を断念した。
イ 甲第5号証(使用商標3)は,本件店舗で発行されたレシートであり,流通性が要件とされる商品ではなく,本件店舗を利用した顧客に対して役務の提供に伴って発行されたものである。
また,本件レシートの表示については,乙第7号証の別送資料6ページ目に示されるように,和解契約に基づく変更内容として平成21年7月29日の段階で請求人に通知している。
ウ 本件商標「L’ESPOIR du Cafe」」は,2000年11月29日に尾道に移転した後に使用を開始した表示であり現状は店舗名としては使用されていないが,乙第6号証の1に示すように,店舗の看板として尾道の店舗を兼ねてから知る常連の目印になっている。
(4)使用商標による請求人の業務に係る贈答用商品若しくは役務との混同について
甲第3及び4号証のパウンドケーキが販売され,甲第5号証のレシートが配布されたのは,本件店舗のみであり,その対象となる需要者は,本件店舗において食事をした客である。以下に述べるように,被請求人の行為により,本件店舗に食事にこられた需要者に混同を生じさせ,あるいはおそれを生じさせることはあり得ない。
なお,本件店舗は,上記のようにテレビに取り上げられることが多く,尾道市と三原市(当地においては,尾三地区と称せられている)のみに留まらず,近隣の東広島市,福山市や,これを超えて80Km以上離れた広島市にも顧客が存在する。よって,広島県を地域範囲とする前提で説明する。
ア 引用商標の周知性,著名性について
請求人は,引用商標1「レスポワール」及び引用商標2「L*espoir」が全国的に取引者,需要者の間で周知著名性を獲得していると主張するが,そのような事実は認められない。
(ア)引用商標1及び2について,積極的な広告宣伝を行っていないことは,請求人が自認している。一方で,テレビ等のマスメディアにより,かかる引用商標を付した商品が取り上げられた様子もない。請求人が本件引用商標の周知著名性を示す証拠として提出した資料は,受賞歴や百貨店,量販店,直営店等の出店店数と販売個数を示しているのみである。モンドセレクション及び全国菓子大博覧会がどのような賞なのかについては,乙第10号証の1及び2に夫々の解説がある。周知著名性には関係がないのでこれ以上言及しない。また,甲第36号証によれば,「レスポワールブランド商品」なる表題が付されているが,どのようなものについて集計がなされたのか不明である。
(イ)請求人は甲第29号証を示し,洋菓子ブランド(又は屋号)の調査報告であると主張しているが,正確には百貨店に限定し,30店舗の洋菓子の売り場を指定したうえでの首都圏,近畿圏での調査である。これによれば,「店舗名を知っている」と答えた消費者モニターの割合は首都圏と近畿圏とでは相違し,地域性があることを示している。首都圏では,店名を示した上でのデパ地下という限られた範囲内での調査にもかかわらず,データすらない。そして,首都圏および近畿圏には中国地方の広島県は入らない。
出店に関して,甲第32号証によれば,広島県内においては,広島市に三店舗,呉市,福山市に一店舗ずつ,そごう,天満屋,福屋の各店舗に存在するとされている。請求人は,上記百貨店以外の例えば量販店等には出店していることを示しておらず,県内においては上記5店舗が全てである。
乙第11号証の1ないし5は,2011年1月6日に各百貨店のホームページから売場案内を印刷したものである。全店舗の名称を開示しているそごう広島店以外ではレスポワールなる表示が見当たらない。そごう呉店においては,神戸風月堂の出店が見られるのみである。また,乙第12号証は,本件店舗のある尾道市に最も近い福山市(尾道市から20km)の福山天満屋の案内所で配られているフロア案内である。乙第13号証の1及び2は,尾道市より80Km以上離れている広島市の広島そごうで配られているフロア案内である。乙第13号証の1に示されるように,店舗名による案内はされていない。乙第13号証の2は,店舗名を表示したものとして配られている案内である。広島の名物品を扱う店舗を紹介したものとなっている。乙第14号証の1及び2は,広島市の福屋広島駅前店で配られているフロア案内である。乙第12号証から乙第14号証までは,2011年1月7日に入手した。各百貨店において,比較的有名とされる洋菓子店であるモロゾフ,モーツァルト等の店舗の表示はあるものの,レスポワールなる表示が見当たらない。このように,広島県内の各百貨店においては,「レスポワール」は表示すらされていない。
広島県で請求人が出店している百貨店の各店舗においては,請求人の店舗に対する積極的な案内はないため,需要者は実際に百貨店に訪れ,他の洋菓子店の店舗と共有されているブース内の請求人の店舗に足を運ばない限り,「レスポワール」を目にすることはない。一方で,請求人は積極的な広告をしていないと認めている。
このように,広島県内において需要者は,引用商標1及び2に接する機会が極めて低く,洋菓子店としての「レスポワール」の認知度は著しく低いものである。なお,請求人は,広島県内の店舗において,いつから引用商標1及び2を使用しているか明らかにしてもいない。
(ウ)商品についての引用商標1及び2も洋菓子店としての「レスポワール」と同じである。店舗による商品の販売は,広島県においては限られた百貨店での店舗のみでしか行われておらず,その百貨店の店舗でさえ積極的な案内を行っていないため,需要者は実際に店舗に訪れ,他の洋菓子店と店舗と共有されているブース内の請求人の店舗に行かなければ,商品を表示するものとされた引用商標1及び2を目にすることはない。
さらに,これらの引用商標が,甲第10号証に示される格子模様の付されたリーフ状のクッキーのみならず,これ以外の他の洋菓子をも示すものとして,著名となっているという証明もしていない。
(エ)甲第14号証の1ないし5,甲第18号証の1ないし3,甲第20号証の1ないし8,甲第21号証の1ないし4によれば,小売店舗を表示する際に引用商標1を使用するときには,必ず菊状の大きなマークが一体的に付されており,引用商標1のみが単独で店舗を示すものとして使用されてはいない。この菊状のマークは,請求人が販売しているクッキー「レスポワール」の黒い缶と個別包装に販売当初より引用商標「レスポワール」「L*espoir」に比べ,一際大きく目を惹くように表示されていたものである。
また,このような商標が何時から付されていたのかは全く不明である。少なくとも,甲第16号証の8及び10,11ないし15によると「レスポワールコウベ」なる表記がされていたようである。
(オ)甲第16号証の1によれば,請求人はレストランを経営しているようだが,当該レストランについての周知性,著名性について,請求人は主張していない。
イ 被請求人の使用商標と請求人の引用商標との類似性について
請求人提出の被請求人が使用する商標の態様は,エンジ色の方形の上方中央に本件店舗を形取ったレンガ作りの建物を配し,その下に欧文字ゴシック体「ONOMICHI」と「L’ESPOIR」と「du Cafe」とを三行に表記し,その下に「Onomichi coast street Red brick Restaurant」を配した構成からなる商標(使用商標1)と,エンジ色の方形の上方中央に本件店舗を形取ったレンガ作りの建物を配し,その下に欧文字ゴシック体「Onomichi Sweets」と「L’ESPOIR」と「du Cafe」とを三行に表記し,その下に「Onomichi coast street Red brick Restaurant」を配した構成からなる商標(使用商標2)と,欧文字ゴシック体「ONOMICHI」と「L’ESPOIR」と「du Cafe」とを三行に表記した構成とからなる商標(使用商標3)である。
使用商標1は,拒絶査定となった商願2008-60364号の商標と同一のものであり,使用商標2は使用商標1を作成する過程で作成した商標である。いずれも,本件店舗の駐車場の案内看板(乙第9号証)を模したものである。
商願2008-60364号が拒絶査定となったのは,当該商標が本件店舗のレストランを離れて使用されたときに,需要者が,「ONOMICHI L’ESPOIR du CAFE」を一体不可分なものと認識するとは限らないと認定され,「L’ESPOIR」の部分のみ抽出し判断されたからである。甲第3号証及び甲第4号証のパウンドケーキの表示は,まさにその表示のレストランである本件店舗内において販売されたものであるので,本件店舗を訪れ直前まで食事をした後にこれを見る需要者は,「ONOMICHI L’ESPOIR du CAFE」を本件店舗の表示として一体不可分とものと認識することに疑う余地はない。
ウ 被請求人の使用商標に係る商品と請求人の業務に係る商品との関連性について
(ア)引用商標1「レスポワール」及び引用商標2「L*espoir」が付された商品は,格子模様の付されたリーフ状のクッキーである。これに対して,本件商品は,個装されたパウンドケーキである。洋菓子との大括りができるものの,商品同士の形状及び種別は似ても似つかない。
(イ)また,使用商標1及び2が付された商品は,その表示のレストランである本件店舗において食事をした顧客に対するサービスとして提供された「洋菓子」であり,請求人の贈答用洋菓子とは商品形態が全く異なる。
エ 商品の取引者及び需要者の共通性及び取引の実情について
(ア)請求人の取引者,需要者は,贈答用菓子の購入者であり,一方,被請求人の取引者は,尾道の本件店舗に来店され食事をされた顧客である。即ち,請求人が贈答用菓子を対象としているのに対し,被請求人は本件店舗内において食事をした顧客に対するレストランの役務のサービスを対象とし,そのサービスの一環としてお土産品が対象となっている。したがって,この度,偶々かかるサービスの一環として提供されたお土産品と,請求人が小売店において贈答用洋菓子として販売される商品とは,その流通性が大きく異なる上,取引者及び需要者も全く異なる。
(イ)また,使用商標1及び2が付された商品を目にする,本件店舗であるレストランに食事をするために訪れた顧客(需要者)は,本件商標に「ONOMICHI」を付加し,かつ三行に表示したものであっても,これら使用商標から本件店舗名である「尾道L’ESPOIR du CAFE」若しくは「ONOMICHI L’ESPOIR du CAFE」を想起するのは当然であり,使用商標が一体不可分なものとして認識されることに疑う余地はない。
(ウ)請求人は,甲第42号証において,「そごう広島店」店員による証言,一部の消費者が被請求人のプリンを求めに,同店内の請求人の店舗を訪れたことが述べられているが,甲第42号証においては被請求人が館内放送でどのように紹介されたのか不明である。当時,本件店舗はテレビ等の紹介で三原市に出店当時からの名称の「レスポワール」と称していたこともあった。よって,この証言は,単に請求人の店舗を認識していない消費者が事実存在したということにすぎない。
(5)故意について
上記のとおり本件店舗は,テレビや雑誌内で広島県内において頻繁に取り上げられる有名レストランである。本件店舗に食事に来た顧客が,請求人の商品と混同するわけもない。少なくとも広島県では周知著名でもない請求人の商品と,本件店舗内で混同を起こさせようとする動機もない。
(6)結び
以上に述べたとおり,請求人の引用商標1及び2は,少なくとも被請求人が行為を行った広島県においては周知著名ではない。また,指摘される使用商標の使用は,故意に他人の業務に係る商品等と混同を生じさせ,或いは生じさせるおそれはありえないから,商標法第51条第1項の規定により,本件商標の登録を取り消すことはできない。

4 当審の判断
(1)本件請求について
商標法第51条第1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務にかかる商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取消すことについて審判を請求することができる。」と規定されている。
これは商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,かつ,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨である(特許庁編「工業所有権法逐条解説」参照)。
以下,本件において,請求人が指摘する被請求人の商標の使用行為が,上記規定に該当するものであるか否かについて判断する。

(2) 被請求人の使用に係る「使用商標」について
ア 使用商標1
本件商標の登録後において被請求人が使用したとして示された使用商標1は,別掲(1)に示すとおりの構成態様からなるものであるところ,その構成中「ONOMITI」「L’ESPOIR」「du cafe」の文字に相応して「オノミチレスポワールドゥカフェ」の称呼を生ずるものである。
そして,「L’ESPOIR」の文字部分は,図形や他の文字と明らかに分離し大きく顕著に表され,強く支配的印象を与えるものであるから,独立して自他商品又は役務の識別標識としての機能を果たし得るものであり,該文字部分に相応して,「レスポワール」の称呼をも生ずるものである。
イ 使用商標2
使用商標2は,別掲(2)に示すとおりの構成態様からなるものであるところ,その構成中「Onomichi」「Sweets」「L’ESPOIR」「du CAFE(「E」の文字部分にはアクサンテギュが付されている。以下「E」と表す。)」の文字に相応して「オノミチスイーツレスポワールドゥカフェ」の称呼を生じ,さらに,その構成態様に照らし,使用商標1と同様,「L’ESPOIR」の文字部分より,「レスポワール」の称呼をも生ずるものである。
ウ 使用商標3
使用商標3は,別掲(3)に示すとおりの構成態様からなるものであるところ,その構成中「ONOMICHI」「L’ESPOIR」「du CAFE(「E」の文字部分にはアクサンテギュが付されている。以下「E」と表す。)」の文字に相応して「オノミチレスポワールドゥカフェ」の称呼を生じ,さらに,その構成態様に照らし,使用商標1と同様,「L’ESPOIR」の文字部分より,「レスポワール」の称呼をも生ずるものである。
エ なお,被請求人は,請求人の主張する使用商標の構成態様については争ってはおらず,また,本件使用商標の使用時期について,当事者間に争いはない。
オ 使用商品について
被請求人は,「使用商標は本件店舗名であり,それを商品商標として使用していない。商標使用の対象物は,本件店舗のレジ横の小さな籠にいれられ,食事をした顧客に対するサービスとして提供されたものであり,当該提供物のみを購入する目的で来店する顧客はいない。これら提供物は,パウンドケーキを一切れ一切ればらばらの状態で包装し,本件店舗のレジ横の小さな籠に無造作に放り込まれていた。食事をしない顧客がこれのみを目的に来店し購入した実績はない。レストランの役務のサービスを対象とし,そのサービスの一環としてお土産品が対象となっている。したがって,サービスの一環として提供されたお土産品と,請求人が小売店において贈答用洋菓子として販売される商品とは,その流通性が大きく異なる上,取引者及び需要者も全く異なる。レストランである本件店舗において食事をした顧客に対するサービスとして提供された『洋菓子』であり,請求人の贈答用洋菓子とは商品形態が全く異なる」旨主張している。
しかしながら,請求人提出の証拠(写真・レシート等,甲第3号証ないし甲第5号証,甲第56号証の1及び2)によれば,商標使用の対象物は,包装用袋にパッケージされた「焼き菓子(バニラパウンドケーキ)」「焼き菓子(バニラクッキー)」であるところ,当該商品は,本件商標の指定商品中「菓子」に属する商品と認められ,また,使用商標3を表示した2010年8月18日(水)のレシート(甲第5号証)によれば,「お持ち帰りデザート」の表示及び金額が記載されていることから,単に店舗内で提供される飲食物ではなく,購入し持ち帰ることができる商品と認められる。
そして,被請求人は,食事をした顧客に対するサービスとして提供されたものであり,当該商品のみを購入する目的で来店する顧客はいないと主張するが,甲第56号証の2によれば,使用商標3を表示した2010年6月24日(木)レシートには,「お持ち帰りデザート」についてのみ記載されていることから,商品「焼き菓子」のみが購入された事実が推認できるものである。
そうとすれば,上記,「焼き菓子」を対象とした取引は,商取引といえるものであるから,「焼き菓子」は,出所表示機能を保護する必要がある商標法上の商品というべきである。
したがって,商品「焼き菓子」に表示された使用商標は,商取引において,商品の出所表示機能を果たし得るものであるから,この商品「焼き菓子」への使用をもって,本件商標の指定商品中の「菓子」に使用されたというべきである。

(3)本件商標と,被請求人の使用に係る「使用商標」の類否について
本件商標は,前記1に記載のとおり,「L’ESPOIR du CAFE」の文字を横一連に表してなるものであり,構成文字全体に相応して「レスポワールドゥカフェ」の称呼を生ずるものである。
他方,使用商標1は,その構成中に「ONOMICHI」「L’ESPOIR」「du Cafe」の各文字を含むものであり,使用商標3は,「ONOMICHI」「L’ESPOIR」「du CAFE」の各文字からなるものであって,かつ,それらの各文字は,それぞれ三段に表わされているものである。
そして,「ONOMICHI」の文字部分は,本件商標の「尾道」の文字部分の読みを欧文字で表記したものであり,本件商標と同様に商品の販売場所又は役務の提供場所を表す文字部分といえることから,使用商標1及び3は,それぞれの上記構成文字全体に相応して生ずる「オノミチレスポワールドゥカフェ」の称呼のほか,「L’ESPOIR」「du Cafe(CAFE)」の文字部分に相応して「レスポワールドゥカフェ」の称呼をも生ずるものである。
そうとすれば,使用商標1及び3と,本件商標とは,その構成態様を異にするものであるとしても,「レスポワールドゥカフェ」の称呼を共通にする類似の商標と認められる。
使用商標2は,その構成中に,「Onomichi Sweets」「L’ESPOIR」「du CAFE」の各文字を三段に表した文字部分を含むものである。
そして,「Onomichi」の文字部分は,本件商標の「尾道」の文字部分の読みを欧文字で表記したものであって,「Sweets」の文字部分は,「【sweets】甘いもの,ケーキ・菓子など。」(広辞苑第六版)を表す指定商品との関係においては識別力が弱い文字であることから,使用商標2は,「L’ESPOIR」「du CAFE」の文字部分に相応して,「レスポワールドゥカフェ」の称呼をも生ずるものである。
そうとすれば,使用商標2と,本件商標とは,その構成態様を異にするものであるとしても,「レスポワールドゥカフェ」の称呼を共通にする類似の商標と認められる。
したがって,被請求人の使用に係る「使用商標」は,本件商標と類似の商標である。

(4)引用商標の使用及びその周知性等について
ア 請求人提出の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア)請求人は,同人の代表的商品として知られる「ゴーフル」に続く商品として,昭和51年に,引用商標を使用した洋菓子「クッキー」の発売を開始(甲第16号証の3)して以降,現在に至るまで30年以上継続して同商品を販売している。
また,発売当時はクッキーだけであったが,その後,年々引用商標を使用した洋菓子のバリエーションが増えていった。
(イ)洋菓子は,主要百貨店におけるギフト品目売上高で,大阪,東京,名古屋,仙台のいずれにおいても,上位に位置付けられるものであるところ(甲第28号証の1ないし6),レスポワール商品は,主に,お歳暮,お中元時の贈答用洋菓子として販売されている。平成10年以降の,そごう,三越,大丸,天満屋等の百貨店に係るお歳暮,お中元の贈答品カタログに,当該商品が継続して掲載されている(甲第12号証の1ないし34)。同商品は,全国の百貨店,量販店及び直営店において取り扱われている(甲第33号証の1ないし3)。
なお,レスポワール商品の出庫金額は,平成12年から平成21年度において,その出庫数が年間300万個(箱入り,缶入りを1個として計算)で,その出庫金額が年間27億円から33億円あったとされている(甲第36号証及び同第37号証)。
(ウ)レスポワール商品については,使用商標の使用時前から,東海以西の兵庫,大阪,京都,滋賀,奈良,岡山,広島,島根,山口等の量販店に常設店やコーナーがおかれ(甲第33号証の2),また,百貨店のオンラインショップやインターネットの通販業者によるネット販売も行われるようになった(甲第13号証の1ないし8)。
(エ)引用商標は,贈答用洋菓子の商標として使用されているほか,レスポワール商品等を販売する店舗の名称(屋号)としても使用され,全国の百貨店に店舗を構えるに至っており,うち,西日本では関西地域を中心に店舗数50以上を数えている(甲第33号証の1)。
(オ)百貨店の地下では,洋菓子売り場が激戦区といわれており,「ランキングで見るデパ地下」(2002年6月調査報告書)によると,調査時のデパ地下の需要者アンケートにおいて,「レスポワール(店名)」が「おいしい」「素材が良い」「評判がよい」等について10位から16位の間に評価され,また,洋菓子ランキング表では,総合評価が全体で16位,近畿圏で10位であったとされ,「店舗名を知ってる」の全体評価で「46.3」ポイント,近畿圏の評価で「58.9」ポイントとされている(甲第29号証)。
(カ)なお,同店舗においては,引用商標を表示するレスポワール商品が陳列されているほか,引用商標が,個々の商品の包装に限らず全商品に共通して使用する紙袋,包装箱等にも表示されている(甲第10号証,甲第11号証,甲第12号証の2ないし35,甲第13号証の1ないし8,甲第14号証の1ないし4,甲第18号証の1ないし3,甲第19号証の1ないし14)。
(キ)レスポワール商品について,平成22年3月1日付けの毎日新聞,平成20年9月10日付けの朝日新聞に,その紹介記事が掲載された(甲第40号証及び同第41号証)。
周知性について
(ア)上記の事実を総合してみると,引用商標は,永年にわたり贈答用洋菓子に継続的に使用され,また,西日本を中心に,当該菓子等の販売店舗の名称としても同様に使用されている。
上記レスポワール商品は,ロングセラーの贈答用洋菓子としての地位を確立しているといえる。
しかして,引用商標は,店舗名とも相まって,上記洋菓子を表示する商標として需要者の間に広く認識されるに至っていると認められるものである。
(イ)被請求人は,引用商標の周知性に関して,「引用商標について積極的な広告宣伝を行っていないことは,請求人も自認しており,一方で,テレビ等のマスメディアにより,かかる引用商標を付した商品が取り上げられた様子もないと主張し,広島県内において需要者は,引用商標1及び2に接する機会が極めて低く,洋菓子店としての『レスポワール』の認知度は著しく低いものであり,商品洋菓子についても同様である。」旨主張している。
しかしながら,マスメディアを通じての宣伝広告は,周知性を認定する上での資料の一ではあるとしても,それが示されないことをもって,上記のとおり永年の使用実績を認定し得る商標の周知性を否定する理由とはならないというべきである。
また,引用商標を表示した請求人のレスポワール商品は,関西などの西日本を中心としてほぼ全国にわたって販売されているものと認められ,主に贈答用品であることをも併せ勘案すれば,たとえ,広島県内での引用商標を表示した店舗数が他の地域と較べ少ないからといって,引用商標の使用地域において,広島近辺が除外されるわけではなく,同地域に限って引用商標の認知度が著しく低いとはいい難いものである。
したがって,被請求人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上によれば,引用商標は,遅くとも請求人が指摘する本件使用商標の使用時(2010年8月18日)までには,需要者の間において,請求人に係る商品(洋菓子)を表示する商標として需要者間に広く認識されるに至ったものと認め得るものである。
(5)出所混同を生ずるおそれについて
ア 請求人使用商標に類似する商標の使用について
本件商標は,「L’ESPOIR du CAFE」の文字を,一連にまとまりよく表してなるものであるのに対し,使用商標1は,図形と,「ONOMICHI」「L’ESPOIR」「du Cafe」の各文字を,使用商標2は,図形と,「Onomichi Sweets」「L’ESPOIR」「du CAFE」の各文字を,また,使用商標3は,「ONOMICHI」「L’ESPOIR」「du CAFE」の各文字を,それぞれ三段に表していることに加え,中段の「L’ESPOIR」の文字部分は,他の文字に比べ大きく顕著であることから,これらの使用商標に接する取引者,需要者が,「L’ESPOIR」の文字部分に着目するのは,容易というべきである。
そして,「L’ESPOIR」の文字は,文字の配列において請求人使用商標と同一である。
このように,本件商標に,変更を加えて表示された使用商標に接する取引者,需要者は,中段に顕著に表された「L’ESPOIR」の文字部分に着目し,これより生ずる称呼,観念をもって,取引にあたる場合も少なくないと判断するのが相当であって,そうとすれば,使用商標は,請求人使用商標と同一又は類似の形態に近づく方向へ変更されているものと認められる。
したがって,使用商標の使用は,使用上普通に行われる程度の変更を加えたものと解することはできず,商標法51条1項にいう「登録商標に類似する商標の使用」に当たると認められる。
イ 使用商品について
被請求人は,前記(2)エのとおり,本件商標の登録後に,使用商標を,本件商標に係る指定商品中の「菓子」に含まれる「クッキー,パウンドケーキ」に使用したことが認められる。
そして,引用商標の使用商品は「クッキー,フィナンシェ,パウンドケーキ」等であることから,両者は,いずれも「菓子」に含まれる同一又は類似の商品である。
ウ 被請求人の主張について
被請求人は,「甲第3及び4号証のパウンドケーキが販売され,甲第5号証のレシートが配布されたのは,本件店舗のみであり,その対象となる需要者は,本件店舗において食事をした客であって,被請求人の行為により,本件店舗に食事に来た需要者に混同を生じさせ,あるいはおそれを生じさせることはあり得ない。」と主張する。
しかしながら,例えば,レスポワール商品を贈答品として受け取る場合などを含め,引用商標に接した者が,時と所を異にして使用商標が表示された商品に接することはあり得ることであって,また,その逆に,使用商標が表示される商品に接した者が,時と所を異にして引用商標が表示される商品に接することが充分にあるとするのが,取引の実情に照らし相当というべきであるから,その際に,引用商標を表示した商品と使用商標を表示した商品との間において,商品の出所について混同を生じさせるおそれがないと断ずることはできない。
したがって,被請求人の主張は,採用できない。
(6)被請求人の故意について
ア 当事者の主張及び証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア)請求人は,平成19年,被請求人が経営する尾道市のレストラン及びそごう広島店において,フランス料理の提供や洋菓子の販売に商標「レスポワール」「L’ESPOIR」「レスポワールドゥ・カフェ」「L’ESPOIR du Cafe」を使用していることについて,被請求人に警告書を送付し,上記使用行為の即時中止等を申入れ,「そごう広島店」でのプリンの販売についても抗議した(甲第43号証)。被請求人は,洋菓子(プリン)について,即時中止を約束する回答をした(甲第44号証)。
(イ)被請求人は,平成20年7月28日,請求人との間で和解契約を締結し,「被請求人のフランス料理店において持ち帰り用に販売する商品,及び店外において販売する商品に,『レスポワール』,『L’ESPOIR』と同一又は類似の標章を一切使用しない」(同契約の第1条)こと等に合意した(甲第47号証)。
(ウ)請求人は,被請求人が,平成21年2月18日,天満屋広島アルパーク店において,洋菓子(ガトーショコラ)に使用商標2を付して販売していたので,即時中止等を求める通知を行った(甲第48号証及び甲第49号証)。被請求人は,書面にて,使用標章の変更及び当該洋菓子に添付するシールの使用の中止を約束した(甲第50号証)。
(エ)被請求人は,使用商標1と同一の構成態様の商標について登録出願を行ったところ,これに対して,引用商標と類似する旨の拒絶理由通知及びその理由による拒絶査定がなされた(甲第51号証及び甲第52号証)。被請求人は,当該査定の不服審判の請求をした(甲第6号証)。なお,当該審判については拒絶審決がなされた。この拒絶審決がなされた点については,当事者間に争いはない。
イ 以上によれば,被請求人は,請求人との間で,本件商標の登録以前から,同人の商標の使用態様に関連して,和解契約の締結を含め,引用商標との混同,殊に,商品(プリン等)に関して引用商標との混同を避けるべく,使用する商標の中止や表示態様を替えることなどを行ってきたこと,被請求人が出願した商標について,その構成態様に基づき,特許庁から引用商標と類似するとの拒絶査定を受けていること,等が認められ,これらを勘案すれば,被請求人は,使用商標の態様をもっての使用が,引用商標を使用する請求人の商品との間で混同を生じさせるおそれのあることを認識していたというべきである。
したがって,被請求人は,故意に,商品「菓子」について,請求人の登録商標に類似する商標を使用し,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認められる。
ウ 被請求人は,「故意」に関して,少なくとも広島県では周知著名でもない請求人の商品と,本件店舗内で混同を起こさせようとする動機もないと主張する。
しかしながら,本件商標は,店舗名としての使用であって,店舗内で使用したものであるとしても,本件店舗を訪れる者は,必ずしも全て広島県在住の需要者に限られるものではなく,少なくとも洋菓子について当該態様での使用が,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあることを,被請求人は認識していたといわざるを得ないものである。
そうとすれば,たとえ,被請求人が進んで混同を起こさせようとする意思の下に使用したのではないとしても,被請求人自身が認識をしていたことをもって,商標法第51条第1項の「故意」を認め得るというべきである(最高裁昭和55年(行ツ)第139号,昭和56年2月24日第三小法廷判決,判例時報996号68頁参照)から,被請求人の主張は採用できない。

(7)まとめ
以上のとおり,本件商標権者は,本件商標に類似する商標を指定商品に使用し,故意に,他人(請求人)の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたといわざるを得ないから,商標法第51条第1項に基づき,本件商標は,その登録の取消しを免れないものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)使用商標1




(2)使用商標2




(3)使用商標3




(4)引用商標2




審理終結日 2011-09-09 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-30 
出願番号 商願2009-78036(T2009-78036) 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (X303543)
最終処分 成立  
前審関与審査官 矢代 達雄 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 田中 亨子
酒井 福造
登録日 2010-06-25 
登録番号 商標登録第5333232号(T5333232) 
商標の称呼 レスポワールドゥカフェ、レスポワールデュカフェ、レスポアールドゥカフェ、レスポアールデュカフェ、レスポワール、レスポアール、エスポワール、エスポアール 
代理人 特許業務法人 有古特許事務所 
代理人 忰熊 嗣久 

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