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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X1425
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない X1425
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X1425
管理番号 1251606 
審判番号 無効2010-890104 
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-12-15 
確定日 2011-11-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5233913号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5233913号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成20年9月6日に登録出願され、第14類「貴金属,キーホルダー,宝石箱,記念カップ,記念たて,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同21年3月16日に登録査定、同年5月29日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第42号証を提出した。
1 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する商標は、以下のとおりである。
(1)登録第4479759号商標(以下「引用商標1」という。)
商標 別掲2のとおり
指定商品 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」
登録出願日 平成12年8月21日
設定登録日 平成13年6月1日
更新登録日 平成23年4月19日
(2)登録第4666475号商標(以下「引用商標2」という。)
商標 別掲2のとおり
指定商品 第27類「洗い場用マット,畳類,人工芝,敷物,壁掛け(織物製のものを除く。),体操用マット,壁紙」
登録出願日 平成14年10月17日
設定登録日 平成15年4月25日
(3)登録第4984425号商標(以下「引用商標3」という。)
商標 別掲2のとおり
指定商品 第18類「かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,皮革」
登録出願日 平成18年3月9日
設定登録日 平成18年9月1日
(4)登録第5085281号商標(以下「引用商標4」という。)
商標 別掲2のとおり
指定商品 別掲3に記載のとおりの商品
登録出願日 平成18年7月13日
設定登録日 平成19年10月19日
(5)登録第5085283号商標(以下「引用商標5」という。)
商標 別掲2のとおり
指定商品 別掲4に記載のとおりの商品
登録出願日 平成18年7月13日
設定登録日 平成19年10月19日
(6)登録第5095566号商標(以下「引用商標6」という。)
商標 別掲2のとおり
指定商品 別掲5に記載のとおりの商品
登録出願日 平成18年7月13日
設定登録日 平成19年11月30日
(7)請求人が使用するとする「PARIS」の文字からなる商標(以下「引用商標7」という。)
商標 別掲6のとおり
使用商品 「レディス・メンズウェア、ナイトウェア、インナー、ソックス、靴、履物、鞄、袋物、ベルト、革小物、ネクタイ、ネックウェア、ハンカチ、スカーフ、マフラー、メガネ、フレーム、サングラス、アクセサリー、貴金属、時計」等
以下、商標法第4条第1項第11号に該当する旨の主張において引用している引用商標1ないし引用商標6の商標を総称するときには「引用商標」といい、同第10号に該当する旨の主張において引用している引用商標1ないし引用商標6に引用商標7をも含めた商標を総称するときには、便宜上、「請求人使用商標」という。
2 請求の理由
本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第16号に違反してされたものであるから、その登録は無効にされるべきである。
(1)商標法第4条第1項第11号の該当性について
ア 本件商標
本件商標は、その構成中の「MADAME/マダム」の文字が「夫人」を表す語であり、本件商標の指定商品との関係においては、ターゲットとなる需要者層を示す表示であって、商品の品質、用途を示し、また、「PARIS/パリス」の文字が「フランスの首都パリ」を表す語であって、商品の産地、販売地を表示するものにすぎず、両語は何ら関連性を有さない。
また、昨今のファッション関連業界のブランド戦略として、ブランド名にターゲットとなる需要者層の表示を付加して、商品ターゲットを明確化する手法が広く採用されている(甲第9号証ないし甲第13号証)。このような実情の中、「Madame/マダム」の語は、「およそ40代から50代の婦人層」の総称として認識され、需要者層を表す語として使用されており(甲第14号証ないし甲第20号証)、ブランド名に付加して使用されている(甲第14号証ないし甲第16号証)。
特に当業界では、需要者層の嗜好に合わせたデザイン・品質等の商品開発が行われることから、取引者及び需要者は、商品の品質・用途の表示に着目し、どの需要者層をターゲットとする商品であるか極めて敏感に認識するものであって、「MADAME/マダム」の文字が意味する「およそ40代から50代の婦人層向け」という商品の品質を直ちに理解するものである。いうなれば、「MADAME/マダム」の文字は、着目されるものの、直ちに「およそ40代から50代の婦人層向け」という付記的な表示として把握され、他の部分と分離して認識されるものである。
また、本件商標の欧文字部分「MADAME PARIS」は、特殊な装飾文字で表されている。
このような構成にあっては、たとえ「PARIS」という欧文字が「フランスの首都パリ」を表す語であり、本件指定商品との関係において自他商品識別力が弱い文字であるとしても、本件商標中の欧文字「PARIS」部分が特異な態様であることと、「MADAME」の文字が付記的な表示として認識されることから、本件商標に接する需要者及び取引者が該欧文字「PARIS」部分に着目し、認識して、この欧文字部分でもって取引に資することが大いにあり得るものである。
したがって、本件商標は、常に一連一体にのみ把握されるものではなく、「マダムパリス」の称呼及び「パリ夫人」の観念のほか、「PARIS」文字部分に相応して「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念も自然に生ずるというべきである。
イ 引用商標
引用商標は、別掲2のとおりの構成からなるところ、その構成中の「PARIS」の文字部分は、全体の構成中、中央に大きく顕著に表されるとともに、一般に用いられることのない特殊な装飾文字で表されていて、全体として、優雅でかつ華やかな印象を与える特異なデザイン態様からなるものとして認識される。そして「PARIS」の文字以外の図形部分や文字部分は、普通に用いられる書体で、小さく付記的に表されている上、各文字部分の間に観念上の一体性は何ら認められない。これら引用商標の構成にあっては、中央に太字で大きく目立って表された特異なデザイン態様からなる「PARIS」の文字部分が見る者の注意を強く引き、需要者及び取引者は、この欧文字部分に着目し、認識して、該欧文字部分でもって取引に資することが充分あり得るものである。
したがって、引用商標は、いずれも「PARIS」の欧文字部分に相応して「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念を生ずるものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標は、「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念を生ずるものであり、他方、引用商標からも、「パリス」の称呼及び「フランスの首都パリ」の観念が生ずることから、両者は、称呼上及び観念上類似の商標である。
本件商標の「PARIS」の文字部分は、引用商標の「PARIS」の文字部分のデザインをそっくりそのまま模倣したかのように、各文字の書体や細部のデザインの特徴がほぼ完全に一致するものであり、当該文字部分全体が同一といってよいほど酷似している。そうすると、本件商標と引用商標とは、強い識別力を発揮するデザイン化された「PARIS」の文字部分が同一である結果、時と処を異にして観察した場合、外観において相紛れるおそれは極めて高く、明らかに両者は外観上類似の商標である。
ファッション関連業界では、上述のとおり、ブランド名に需要者層の表示を付加して商品ターゲットを明確化するブランド戦略が広く採用されている。かかる実情にあって、引用商標の「PARIS」の文字部分と酷似する特異なデザイン態様の「PARIS」の文字に、同程度のデザインを施した「MADAME」の商品表示を付加した本件商標は、引用商標と同じブランドグループに属する「マダム向け」商品に係る商標であると認識され、取引者及び需要者をして、引用商標を付した商品と同一の営業主の製造又は販売に係る商品であるかのように誤認させるおそれが極めて高い。
よって、本件商標と引用商標とは、商品の出所について誤認混同を生じさせるものであり、取引の実情等を考慮すれば、類似の商標というべきである。
エ 小括
本件商標と引用商標とは、同一又は類似の商品について使用するものであって、外観、称呼、観念の全てにおいて相紛らわしく、また、取引の実情等をも考慮すれば、商品の出所について誤認混同が生じるおそれが極めて高いことから、類似の商標というべきであり、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第10号の該当性について
ア 請求人使用商標について
請求人は、平成10年より今日に至るまで、引用商標に加え、該引用商標の中央に顕著に表された特異なデザイン態様の「PARIS」の文字のみからなる引用商標7(甲第8号証)を、自社及びライセンシーを通じて、鞄、財布及びベルト等、広くファッション関連商品に継続して使用している。
イ 請求人使用商標の周知性
請求人使用商標は、本件商標の商標登録出願時及び査定時において、請求人商品を表示するものとして需要者に広く認識されている商標となっていたものである。
請求人は、平成8年に、株式会社アイネス(当時の代表取締役は堀内氏)と商標登録第3184321号(甲第22号証及び甲第23号証)、同第1805136号(甲第24号証及び甲第25号証)等について、商標使用許諾契約を締結し、レディスのハンドバッグ、小物、べルト等にこれら登録商標を使用していた。そして、平成10年3月に、上記登録商標及び、同登録商標と同じ態様で指定商品が異なる登録商標11件等を、権利者である堀内氏から譲り受け、「パリス」ブランド事業の大々的な展開を開始した。
この「パリス」ブランド事業の拡張にともない、請求人は、請求人使用商標を「パリス」ブランドの主要態様の一つとし、引用商標について商標登録も取得した(甲第2号証ないし甲第7号証)。そして、今日に至るまで、多くの企業にこれら登録商標を軸としたライセンスを与え(甲第26号証及び甲第27号証)、宣伝広告にも多大な力を入れてきた結果、請求人使用商標は広く認知されるものとなっている。
企業調査・市場調査等で有名な株式会社矢野経済研究所(甲第28号証)が発刊する「ライセンスブランド全調査」には、ライセンスマーケットの動向を示すライセンスブランドの売上高ランキングが掲載されている。この売上高ランキングで、「パリス」ブランドは、2001年度は上代ベースで19位(233.3億円)出荷ベースで26位(140億円)(甲第29号証)、2002年度は出荷ベースで19位(150億円)(甲第30号証)、2003年度は出荷ベースで27位(130億円)(甲第31号証)、2004年度は出荷ベースで37位(90億円)(甲第32号証)となっている。ここで記載されている「パリス」ブランドとは、請求人使用商標を含む請求人の商標を示すものである(甲第33号証)。
ブランドのライセンシングが盛んに行われているファッション関連業界において、無数に存在するファッションブランドの中で、上述のとおり「パリス」ブランドが何年にもわたって連続して上位にランキングされている事実は、引用商標が広く使用され、需要者・取引者間において広く認識されていることの証左である。
また、ボイス情報株式会社が発行する「ライセンスブランド名鑑」でも、他の有名ブランドと並んで、「パリス」ブランドがリストされており(甲第34号証及び甲第35号証)、ライセンシングの対象として取引者等に注目されているといえる。
さらに、請求人は、引用商標の使用開始以降今日に至るまで、宣伝広告にも多大な力を入れている。例えば、西日本の中心地ともいえる大阪では、特に繁華な場所を選んで広告を出しており(甲第36号証ないし甲第42号証)、このような一例を含め、看板、業界紙、雑誌等において年間8000万円ないし1億円もの費用を費やして宣伝広告活動を行っている。
ウ 本件商標と請求人使用商標との類否
本件商標と引用商標との類否については、上述したとおりである。そして、引用商標7は、引用商標の構成中の「PARIS」の欧文字と同一のものであるから、本件商標は、引用商標7との関係においても、外観、称呼、観念のいずれの点からしても、互いに相紛らわしい類似の商標というべきものである。
エ 本件商標の指定商品と請求人使用商標に係る商品との類否
本件商標は、前記第1のとおり、第14類「貴金属,キーホルダー,宝石箱,記念カップ,記念たて,身飾品,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,時計」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」に使用するものである。これに対し、請求人使用商標に係る商品は、レディス・メンズウェア、ナイトウェア、インナー、ソックス、靴、履物、鞄、袋物、ベルト、革小物、ネクタイ、ネックウェア、ハンカチ、スカーフ、マフラー、メガネ、フレーム、サングラス、アクセサリー、貴金属、時計等、多岐にわたるファッション関連商品に継続して使用されている(甲第29号証ないし甲第32号証及び甲第36号証ないし甲第42号証)。
してみれば、本件商標の指定商品と請求人使用商標に係る商品とは、同一又は類似の商品といえる。
オ したがって、本件商標は、その出願前より登録査定時に至るまで、請求人使用商標に係る商品を表示するものとして、当該商品の需要者の間に広く認識されていた請求人使用商標と類似の商標であって、請求人使用商標が使用される商品と同一又は類似の商品について使用するものであることから、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
(3)商標法第4条第1項第16号の該当性について
本件商標は、その構成中の「MADAME/マダム」の文字が商品の品質等を表示するものと認識され、常に一連一体にのみ把握されるべきものではないことから、その構成中の「PARIS」の文字部分からフランスの首都「パリ」を認識させるものである。そして、本件商標の指定商品である「被服」等のいわゆるファッション関連分野においては、「PARIS」の語は、一般に商品の産地、販売地等を表すためのものとして、取引上普通に採択使用されているのが実情であることを考慮すると、「PARIS」の語をその構成中に有する本件商標を、その指定商品中「フランス製(パリ製)の商品」以外の商品に使用した場合には、これに接する需要者及び取引者に、該商品があたかも「フランス製(パリ製)の商品」であるかの如く、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものである。
(4)むすび
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第16号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。

第3 被請求人の主張
審判長は、本件審判請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人は、所定の期間内に答弁書を提出していない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第16号に違反して登録されたものであることを理由に、同法第46条第1項の規定に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
1 商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、上段に「MADAME PARIS」のひげ飾りのついた書体の欧文字と下段に「マダム パリス」の片仮名とを二段に横書きしてなるところ、各構成文字は、同じ書体、同じ大きさでそれぞれ外観上まとまりよく一体的に表されたものと認識されるものであり、かかる文字から生ずる「マダムパリス」の称呼も冗長ではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、その構成中の「PARIS/パリス」の語は、一般には「フランスの首都パリ」を意味する語として知られているものの、欧米における氏姓の一を表す語でもあり、これに既婚女性に対する敬称であって「○○夫人」の意味を有するフランス語として我が国において知られている「MADAME/マダム」の語を冠して、「MADAME PARIS」及び「マダム パリス」と二段に書してなる本件商標は、その構成全体をもって「パリス夫人」の意味を表したというべきものであり、これに接する取引者、需要者をして、全体が一体不可分のものとしてのみ把握されるとみるのが自然である。
そうすると、本件商標は、その構成全体に相応する「マダムパリス」の称呼及び「パリス夫人」の観念のみを生じるものである。
(2)引用商標(引用商標1ないし引用商標6)について
引用商標は、別掲2のとおり、二重の楕円状輪郭線の内側中央部に、肉厚の直線や曲線及び細線によってやや図案化された構成文字に極く小さな跳ねたひげのような線を付加した「PARIS」の欧文字を表し、その下に、「accessories for men」の欧文字を小さく表し、かつ、外側輪郭線と内側輪郭線の間に「Massachusetts・NewYork・LosAngeles・Chicago・Dallas」及び左右に小さな図形を配して「Established1887」の文字を小さく表してなるものである。
そして、「Massachusetts」、「NewYork」、「LosAngeles」、「Chicago」及び「Dallas」の各文字が、いずれも我が国において一般によく知られた地名を表したものであることからすれば、該「PARIS」の文字は、中央に大きく表されているとしても、他の文字と同様に地名を表したとの認識をもって把握されるものとみるのが自然である。
そうとすれば、「PARIS」の文字は、大きく表されており、やや図案化されているとはいえ、そのことから直ちに該文字のみが看者に他の文字と別異の認識を与えるものとはいい難く、引用商標は、その構成全体が密接に結合した一種固有の識別標識というべきものであり、該「PARIS」の文字部分は、商品の属性にかかわる表示、つまり、当該商品がフランスの首都パリにかかわりのある表記として捉えられるものであって、該文字部分から、商品の出所を識別するための称呼及び観念は生じないというのが相当である。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標は、上述のとおり「MADAME」と「PARIS」並びに「マダム」と「パリス」との結合した商標であって、殊更に「PARIS」及び「パリス」の文字部分のみが分離抽出されて取引の場において着目されるものとはいい難く、むしろ、全体を一連一体のものとしてのみとらえられる商標というべきものである。
他方、引用商標は、二重の楕円状輪郭図形とその内側に配された文字とが密接に結合した一種固有の態様からなる商標というべきものである。
そうとすれば、本件商標と引用商標とは、その構成において著しい差異を有するから、外観において類似するものとはいえない。また、本件商標は、その構成全体に相応する「マダムパリス」の称呼及び「パリス夫人」の観念を生ずるのに対し、引用商標は、その構成中の「PARIS」の文字部分から商品の出所を識別するための称呼及び観念を生ずることはないものというべきであるから、該文字から生ずる称呼及び観念においては比較すべくもなく、ほかに、両商標が称呼及び観念において類似するものとすべき理由は見いだせない。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものとはいえない。
2 商標法第4条第1項第10号の該当性について
(1)本件商標と請求人使用商標(引用商標1ないし7)との類否について
上記1において判断したとおり、本件商標と引用商標(引用商標1ないし6)とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標と認められるものである。
次に、本件商標と引用商標7との類否についてみるに、引用商標7は、別掲6のとおり、引用商標構成中の「PARIS」の文字と同じ態様からなるものであって、肉厚の直線や曲線及び細線によってやや図案化された構成文字に極く小さな跳ねたひげのような線を付加した「PARIS」の欧文字からなるものである。
そこで、両商標の類否について判断するに、上記1(3)のとおり、本件商標は、その構成全体をもって一体不可分のものとしてのみ把握されるものであるから、その構成中の「PARIS」及び「パリス」の文字部分が、取引上分離、抽出され、独立して商品の出所識別標識としての機能を果たすとは認められないものである。
そうすると、本件商標と引用商標7の「PARIS」の文字が商品の出所識別標識としての機能を果たすことを前提に、その上で、本件商標と引用商標7とが当該文字の外観、称呼及び観念において類似するものとする請求人の主張は採用できない。そして、ほかに本件商標と引用商標7とが類似するとすべき理由は見当たらない。
したがって、本件商標と引用商標7とは、相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
(2)請求人使用商標の周知性について
上記したとおり、本件商標と請求人使用商標とは非類似の商標と認められるものであるから、本件商標は、既にこの点において、請求人使用商標との関係において、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものとはいえないが、更に進んで請求人使用商標の周知性についても判断する。
請求人は、請求人使用商標の周知性を示す証拠として、甲第26号証ないし甲第42号証を提出している。
しかしながら、以下の理由により、上記甲各号証をもってしては、請求人使用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品、その中でも、本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある「被服」や「履物」等の商品を表示する商標として、需要者の間に広く認識されていたものとは認められない。
ア 甲第26号証は、「ライセンシーリスト」と題する書面であり、上段に3種類の商標が表示されており(これは、甲第27号証に記載されている商標と同じものと認められる。)、34社(そのうちの1社は、請求人であるヤング産業株式会社である。)のライセンシーが記載されているところ、各ライセンシーの扱い商品は、本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある「被服」や「履物」等の商品ばかりでなく、「レディスバッグ全般、傘、メガネ、サングラス、メンズアクセサリー、陶器全般」等々多岐にわたるものである。しかも、34社のライセンシーの中には、本件商標の出願時には既に契約使用期間が終了しているものも多く、契約継続中のものであっても、本件商標の指定商品と関係のある商品を扱っているライセンシーはわずか8社に減少している。
イ 甲第27号証は、請求人が株式会社リオンドールとの間で締結した商標使用許諾契約書と認められるものであり、「メンズ重衣料、レディス重衣料」等の商品について商標の使用許諾を与えているが、使用許諾した商標のうち、引用商標1(登録第4479759号商標)と事実上の使用を認めている「PARIS」の商標が本件審判において引用されている商標であり、他の2件(登録第1805136号商標及び登録第5074560号商標)は、引用商標1との類否は別にして、引用に係る商標ではない。
ウ 甲第28号証は、株式会社矢野経済研究所のウェブサイトであり、該社の事業内容やメディア掲載実績等が掲載されているが、これ自体は、請求人使用商標の周知性とは関係のないものである。
エ 甲第29号証ないし甲第32号証は、株式会社矢野経済研究所発行の「ライセンスブランド全調査<還元資料>」の抜粋であり、甲第29号証は2002年版、甲第30号証は2003年版、甲第31号証は2004年版、甲第32号は2005年版のものである。これらに掲載されている「ライセンスブランド売上高ランキング(出荷ベース)」によれば、「パリス」商標に係る商品の売上額及びランキングは、2001年度においては約140億円であって26位(甲第29号)、2002年度においては約150億円であって19位(甲第30号証)、2003年度においては約130億円であって27位(甲第31号証)、そして、2004年度においては約90億円であって37位(甲第32号証)となっていたことが認められる。
しかしながら、これらのデータは、2001年度から2004年度までのものであって、本件商標の出願時である2008年当時の状況を示すものではない。しかも、これらの売上額の中には、具体的な金額は表示されてはいないが、展開アイテムとして「鞄、寝装寝具、インテリア、メガネ、サングラス、アクセサリー、貴金属、時計」等々の商品も含まれており、本件商標の指定商品及びこれに類似する商品のみを対象としたデータではない。
そうすると、甲第29号証ないし甲第32号証をもってしては、本件商標の出願当時(2008年9月)において、かつ、本件商標の指定商品又はこれに類似する商品について、「パリス」商標に係る商品がどの程度販売されていたものであるのか、どれ位の順位にランクされていたものであるのかを確認することができない。
ちなみに、上記証拠によれば、2002年度以降、売上高は年々減少しており、このことは、甲第26号証(ライセンシーリスト)の箇所でも述べたとおり、ライセンシーが減少していることと符合しているものと考えられる。甲第26号証によれば、2002年当時には34社あったライセンシーが本件商標の登録出願前の2008年4月9日には13社に減少しており、しかも、本件商標の指定商品と関係のある商品を扱っているライセンシーに限ってみれば、わずか8社に減少している。
そうとすれば、本件商標の出願時における被服等についての「パリス」商標に係る商品の売上高は、ライセンシーの減少に伴い、相当減少していたものと推認し得るところであるから、本件商標の出願時における被服等についての「パリス」商標が需要者の間に広く認識されていたものと認めるに足る程の売上げがあったかは疑問であるといわざるを得ない。
オ 甲第33号証は、株式会社矢野経済研究所が平成22年11月4日付けでヤング産業株式会社(請求人)へ宛てた「証明書」と題する書面であり、「2002年版ライセンスブランド全調査<還元資料>」ないし「2005年版ライセンスブランド全調査<還元資料>」に掲載されているブランド名「パリス」は、「ヤング産業株式会社『パリス』商標リスト(添付資料5)」に記載の商標を示すものであることを証明する旨記載されている。添付資料5に表示されている商標は、引用商標と同一の構成からなる商標の外、引用商標構成中の「極く小さな跳ねたひげのような線を付加してやや図案化されたPARIS」の文字部分のみからなる商標及び引用商標構成中の「PARIS」の文字部分の態様を異にした2種類の商標と該2種類の「PARIS」の文字部分のみからなる商標である。
しかしながら、添付資料5は、該ライセンスブランド全調査に掲載されているブランド名「パリス」に代表される個々の商標の態様を示しているにすぎないものであるから、甲第33号証自体は、請求人使用商標の周知性を証明するものではない。そして、添付資料5から、該ライセンスブランド全調査に掲載されているブランド名「パリス」に代表される個々の商標の態様は理解できるが、甲第29号証ないし甲第32号証の調査結果は、「パリス」商標一括の調査結果であり、各態様毎の調査結果が明らかにされているわけではなく、特に「PARIS」商標(引用商標7)に係る売上高がどの程度のものであったかも明らかではない。
カ 甲第34号証及び甲第35号証は、ボイス情報株式会社のウェブサイトの抜粋であって、甲第34号証は「ライセンスブランド名鑑2009(2008年11月21日)」であり、甲第35号証は「ライセンスブランド名鑑2010(2009年12月11日)」であって、いずれにも、掲載ブランド一覧として記載されているブランドの一つとして「パリス」が掲載されていることが認められる。
しかしながら、該ライセンスブランド名鑑は、「資料概要」の欄に記載されているように、ライセンスブランドのライセンス状況等を掲載したものであって、ライセンスブランド名鑑2009には723件ものブランドが掲載されており、ライセンスブランド名鑑2010には731件ものブランドが掲載されているものであるから、該名鑑に「パリス」が掲載されているからといって、そのことをもって、「パリス」商標の周知性が認められるという性質のものではない。
キ 甲第36号証ないし甲第42号証は、宣伝広告の事実を示す証拠として提出されているものであり、甲第36号証は近鉄南大阪線あべの橋駅に掲げられている大型ボードの広告の写真(2006年6月1日付け)であり、甲第37号証は地下鉄御堂筋線心斎橋駅の看板面意匠変更報告書(平成18年7月20日付け)であり、甲第38号証は地下鉄御堂筋線ホームの看板制作報告書(平成18年10月30日付け)であり、甲第39号証は大阪市営地下鉄駅看板意匠変更報告書(平成18年11月8日付け)であり甲第40号証はホワイティうめだプチシャン意匠変更報告書(平成19年1月10日付け)であり、甲第41号証は大阪市営地下鉄谷町線平野駅AEDタイアップ広告(2007年10月1日付け)であり、甲第42号証はホワイティうめだプチシャン意匠変更報告書(平成19年12月28日付け)である。そして、例えば、近鉄南大阪線あべの橋駅に掲げられている大型ボードの広告(甲第36号証)には、中央に引用商標が表示されており、引用商標の左右に3種類の態様からなる「PARIS」の文字が表示されているものである。
しかしながら、駅の構内やホームにおける大型ボードの広告が駅利用客に対して一定程度の宣伝効果のあることを否定するものではないが、新聞や雑誌、テレビ等のマスメディアを用いた広範な者を対象とする宣伝広告に比べれば、駅広告を目にする需要者の範囲は自ずと一定の範囲の者に限定されるものといわざるを得ない。しかも、上記した駅広告のうち、具体的な商品(被服)との関係をも含めた広告がなされているのは甲第40号証及び甲第42号証のみである。そして、請求人は、看板、業界紙、雑誌等において年間8000万円ないし1億円もの費用を費やして宣伝広告活動を行っている旨主張しているが、請求人が提出しているのは駅の構内やホームにおける大型ボードの広告についての証拠のみであり、宣伝広告費用についても具体的な証拠は提出しておらず、宣伝広告の事実を示す証拠としては充分なものとはいえない。
(3)以上のとおり、請求人の提出に係る甲第26号証ないし甲第42号証をもってしては、請求人使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品、その中でも、本件商標の指定商品と同一又は類似の関係にある「被服」や「履物」等を表示する商標として、全国にわたるこの種商品の取引者・需要者の間に相当程度認識されていたものとは認め難いばかりでなく、大阪及びその隣接数県における取引者・需要者の間においてさえ、広く認識されていたものと認めることはできない。
してみれば、本件商標と請求人使用商標(引用商標1ないし7)との類似性が認められないばかりでなく、請求人使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品(被服等)を表示する商標として、需要者の間に広く認識されていたものとも認められないものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものとはいえない。
(4)商標法第4条第1項第16号の該当性について
本件商標は、たとえ、その構成中の「PARIS」及び「パリス」の語が「フランスの首都パリ」の意味を有する語であるとしても、上述したとおり、その構成全体からすれば、「パリス夫人」の意味を表すものとみるのが自然であり、これに接する取引者、需要者が殊更に「PARIS」及び「パリス」の文字部分に着目し、該文字を産地等を表示したものと認識するとみなければならない特段の事情も見いだせない。
そうとすれば、本件商標は、これをその指定商品中「フランス製(パリ製)の商品」以外の商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が該商品をあたかも「フランス製(パリ製)の商品」であるかのように商品の品質について誤認を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第16号に違反してされたものとはいえない。
(5)結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第16号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
1 本件商標(登録第5233913号商標)



2 引用商標1ないし6



3 引用商標4の指定商品
第8類「ピンセット,組ひも機(手持ち工具に当たるものに限る。),くわ,鋤,レーキ(手持ち工具に当たるものに限る。),靴製造用靴型(手持ち工具に当たるものに限る。),電気かみそり及び電気バリカン,手動利器,手動工具,エッグスライサー(電気式のものを除く。),かつお節削り器,角砂糖挟み,缶切,くるみ割り器(貴金属製のものを除く。),スプーン,チーズスライサー(電気式のものを除く。),ピザカッター(電気式のものを除く。),フォーク,アイロン(電気式のものを除く。),糸通し器,チャコ削り器,五徳,十能,暖炉用ふいご(手持ち工具に当たるものに限る。),火消しつぼ,火ばし,護身棒,殺虫剤用噴霧器(手持ち工具に当たるものに限る。),ひげそり用具入れ,ペディキュアセット,まつ毛カール器,マニキュアセット,水中ナイフ,水中ナイフ保持具,ピッケル,パレットナイフ」

4 引用商標5の指定商品
第21類「デンタルフロス,ガラス基礎製品(建築用のものを除く。),かいばおけ,家禽用リング,魚ぐし,おけ用ブラシ,金ブラシ,管用ブラシ,工業用はけ,船舶ブラシ,家事用手袋,ガラス製又は陶磁製の包装用容器,なべ類,コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。),鉄瓶,やかん,食器類(貴金属製のものを除く。),携帯用アイスボックス,米びつ,食品保存用ガラス瓶,水筒,魔法瓶,アイスペール,泡立て器,こし器,こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。),卵立て(貴金属製のものを除く。),ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。),盆(貴金属製のものを除く。),ようじ入れ(貴金属製のものを除く。),ざる,シェーカー,しゃもじ,手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき,じょうご,すりこぎ,すりばち,ぜん,栓抜,大根卸し,タルト取り分け用へら,なべ敷き,はし,はし箱,ひしゃく,ふるい,まな板,麺棒,焼き網,ようじ,レモン絞り器,ワッフル焼き型(電気式のものを除く。),清掃用具及び洗濯用具,アイロン台,霧吹き,こて台,へら台,湯かき棒,浴室用腰掛け,浴室用手おけ,ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。),家庭用燃え殻ふるい,石炭入れ,はえたたき,ねずみ取り器,植木鉢,家庭園芸用の水耕式植物栽培器,じょうろ,愛玩動物用食器,愛玩動物用ブラシ,犬のおしゃぶり,小鳥かご,小鳥用水盤,洋服ブラシ,寝室用簡易便器,トイレットペーパーホルダー,貯金箱(金属製のものを除く。),お守り,おみくじ,紙タオル取り出し用金属製箱,靴脱ぎ器,せっけん用ディスペンサー,花瓶及び水盤(貴金属製のものを除く。),風鈴,ガラス製又は磁器製の立て看板,香炉,化粧用具,靴ブラシ,靴べら,靴磨き布,軽便靴クリーナー,シューツリー,コッフェル,ブラシ用豚毛」

5 引用商標6の指定商品
第14類「フランス製の貴金属,フランス製のキーホルダー,フランス製の貴金属製食器類,フランス製の貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,フランス製の貴金属製針箱,フランス製の貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,フランス製の貴金属製宝石箱,フランス製の貴金属製の花瓶及び水盤,フランス製の記念カップ,フランス製の記念たて,フランス製の身飾品,フランス製の貴金属製のがま口及び財布,フランス製の宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,フランス製の貴金属製コンパクト,フランス製の貴金属製靴飾り,フランス製の時計,フランス製の貴金属製喫煙用具」

6 引用商標7




審理終結日 2011-09-12 
結審通知日 2011-09-14 
審決日 2011-09-27 
出願番号 商願2008-77171(T2008-77171) 
審決分類 T 1 11・ 272- Y (X1425)
T 1 11・ 25- Y (X1425)
T 1 11・ 26- Y (X1425)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 晃弘 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 酒井 福造
田中 敬規
登録日 2009-05-29 
登録番号 商標登録第5233913号(T5233913) 
商標の称呼 マダムパリス、マダムパリ 
代理人 田中 康継 
代理人 小川 稚加美 
代理人 小山 義之 
代理人 西川 惠清 

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