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審決分類 審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない Y42
管理番号 1249997 
審判番号 無効2011-890016 
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-16 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第4960504号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4960504号商標(以下「本件商標」という。)は、「ひかり」の文字を横書きしてなり、平成17年11月17日に登録出願、第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,登記又は供託に関する手続の代理,行政手続きの助言及び代理」を指定役務として、同18年5月16日に登録査定、同年6月9日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第14号証を提出した。
1 請求の利益について
請求人は、被請求人より本件商標に基づき商標権侵害の訴えを提起されており、その訴えは現在東京地方裁判所に係属しているものである(平成22年(ワ)第1232号)。
したがって、本件商標登録が存在している場合、請求人は商標権侵害の責を負うものであり、本件商標登録を無効にすることについて利害関係を有することは明らかである。
2 本件商標登録を無効とすべき理由
本件商標は、その出願時及び査定時において、被請求人である権利者がその指定役務に係る役務を業として行い得ないものであるため、「自己の業務に係る役務」に使用できない商標に該当し、商標法第3条第1項柱書に反して登録されたものである。
(1)商標の登録要件を定めた商標法第3条第1項柱書においては、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる」旨規定されているように、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを独立した商標の登録要件と定めているものである。
この規定が設けられた趣旨は、我が国においては登録主義を採用しており、出願された商標について実際の使用を登録の要件として求めていないものの、使用の意思を有することを要件として求めており、将来において使用予定の無いものについてまで独占排他的な権利を付与することは妥当でないため規定されたものである。
そして、本条についての具体的な運用を定めた商標審査基準においては以下のように規定されている(甲3)。
「自己の業務に係る商品又は役務について」使用しないことが明らかであるときは、原則として、第3条第1項柱書により登録を受けることができる商標には該当しないものとするとして、第1に「出願人の業務の範囲が法令上制限されているために、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合」及び第2に「指定商品又は指定役務に係る業務を行うことができる者が法令上制限されているため、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合」が例として挙げられている。
本件商標は、下記に述べるように上記規定の第2の事例に該当するため、商標法第3条第1項柱書に反して登録されたものである。
(2)自己の業務に係る役務について使用していない点について
(ア)本件商標の指定役務である「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」に関しては、その役務を提供できる者は弁護士及び弁理士の国家資格を有するものに限られている。これは弁理士法第75条(弁理士又は特許業務法人でない者の業務の制限)に「弁理士又は特許業務法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、特許、実用新案、意匠若しくは商標若しくは国際出願若しくは国際登録出願に関する特許庁における手続若しくは特許、実用新案、意匠若しくは商標に関する異議申立て若しくは裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理(特許料の納付手続についての代理、特許原簿への登録の申請手続についての代理その他の政令で定めるものを除く。)又はこれらの手続に係る事項に関する鑑定若しくは政令で定める書類若しくは電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成を業とすることができない。」(甲4)と規定されていることや、同法第7条(資格)に「次の各号のいずれかに該当する者であって、第十6条の2第1項の実務修習を修了したものは、弁理士となる資格を有する。」とあり、同第2号に「弁護士となる資格を有する者」(甲5)と規定されていることからも明らかである。
次に、「訴訟事件その他に関する法律事務」に関しても、弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)に「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」(甲6)と規定されており、上記役務を提供できるものは、弁護士若しくは弁護士法人たるものに限定されている。
また、「登記又は供託に関する手続の代理」に関しても、司法書士法第73条(非司法書士等の取締り)において「司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第五号までに規定する業務を行ってはならない。ただし、他の法律に別段定めがある場合は、この限りでない。」(甲7)と規定されており、同法第3条第1項1号(甲8)に「登記又は供託に関する手続について代理すること。」が規定されており、上記役務を提供できる者は司法書士の資格を有する者に限られている。
(イ)本件商標の権利者である光田周史に関しては、公認会計士、税理士の資格を有していることは確認できるものの(甲9)、弁護士、弁理士及び司法書士の資格を有している事実は確認できなかった。また、他の法律において、公認会計士、税理士が上記役務を業として行える旨の別段の定めも確認できなかった。
そうすると、「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」や「訴訟事件その他に関する法律事務、登記又は供託に関する手続の代理」に関しては、法令上その業務を提供できる者が限られており、出願時及び登録時において、商標権者である被請求人が上記国家資格を有していないことは明らかであるため、本件商標を「自己の業務に係る役務について使用する」ことはあり得ず、本件商標は、商標法第3条第1項柱書に反して登録されたことは明白なものである。
(ウ)そして、被請求人は、上述した商標権侵害訴訟において、訴訟の共同原告である「ひかり司法書士法人」に本件商標につき独占的通常使用権を許諾しており、これにより、結果的に商標権者自身も本件商標を使用している旨主張しているが、仮に、他人に対する使用許諾を前提とした出願の場合であっても、「指定商品又は指定役務に係る業務を行うことができる者が法令上制限されているため、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合」に該当するか否かは、出願人自身について当該要件が該当するか否かが判断されるべきである。
(エ)なお、被請求人は、上記訴訟の原告第1準備書面において、「現行商標法は、商標権を自由に譲渡でき、あるいは自由に使用許諾できる法制であることに鑑みれば、第3条第1項本文は、厳格な意味で出願人自らが直接その指定役務の提供(あるいは指定商品の製造販売等)をしなければならないとする規定ではなく、一般的・抽象的に現在および将来においても、およそ自己が使用し、あるいは他者をして使用せしめることがあり得ないことが査定時において客観的に明らかな場合にまで登録を認めることは適当ではないという趣旨にとどまるものである。本条はむしろ1項各号の不登録事由が重きをなす規定である。」と述べている。
しかしながら、工業所有権法逐条解説において、「・・・当初から自ら使用をするものでないものに排他独占的な権利を設定するのは妥当ではない反面、いったん権利が設定された以上はその処分は一つの私的財産権として私的自治に委せた方がよいとの見解から、現行法においても商標登録は『自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標』に限っているのである。」(甲10)と記載されている。
上記解説を考慮すると、まさに、本件商標については、当初から自己の使用が予定されていないものであり、登録査定時においてもその状態は何ら変わっていないことから、独占排他的な権利は認められるべきではない。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標登録は、商標法第3条第1項柱書に違反して登録されたものであるから、無効とされるべきものである。
3 答弁に対する弁駁
(1)自己の業務に使用していない点について
被請求人は自己の「業務」に係る役務について本件商標を使用している旨述べている。その例として「登記又は供託に関する手続の代理」について通常使用権を設定しているひかり司法書士法人がその役務を提供していることから同様に、自己の業務について本件商標を使用しているとも述べている。
さらにその使用態様として、通常使用権者の提供する上記役務を被請求人が業として証明していることにより、自らも本件商標を使用している旨述べているが、商標法第2条第1項第2号でいうところの「証明」の概念について拡大解釈しているものと思われる。
具体例としては、宝石の鑑定士団体が宝石の鑑定を受ける者のために鑑定士について証明する場合や、宿泊施設の安全性に関して、特定法人がこれを証明する場合などが挙げられる。
さらに、フランチャイズ・システムにおいて、フランチャイジーの取引者・需要者に対して、フランチャイジーの提供するサービスの質を保証し証明することを業として行うフランチャイザーのような者も挙げられる。
しかしながら、上記事例とは異なり、被請求人が通常使用権者であるひかり司法書士法人の提供する役務について、その提供する役務の質が一定の基準を満たしたものであることを証明することは不可能である。
したがって、被請求人がひかり司法書士法人の提供する役務について証明することは実質上不可能であり、自己の業務に係る役務ついて本件商標を使用していることにはならない。
(2)被請求人光田周史とひかり司法書士法人の関係について
そもそも、被請求人光田周二とその通常使用権者であるひかり司法書士法人との関係自体が上記証明を行い得る関係にあるか不明である。
さらに、出願人の子会社、加盟店、組合構成員等の業務が出願人の「自己の業務」とみることができるかどうかは、具体的には次のような基準によることが適当であるとして以下のケースが挙げられている。
ア 出願人との関係が会社法上の子会社である場合
イ 出願人との関係が会社法の子会社であるとの要件を満たさないが、
(ア)資本提携の関係があり、かつ
(イ)その会社の事業活動が事実上出願人の支配下にある場合
ウ 出願人との関係が団体の構成員である場合
エ 出願人との関係が加盟店である場合
これを被請求人とひかり司法書士法人との関係で検討すると、出願人が自然人であることから、上記ア及びウに該当しないことは明白である。次にひかり司法書士法人の登記簿謄本(甲12)を確認すると、役員に関する事項の欄に被請求人の氏名は見受けられず、そもそも司法書士法人の場合、その社員は司法書士に限られているので(司法書士法第28条)、被請求人が司法書士法人を事実上支配下において事業展開を行い得ないことは明白である。また、他に司法書士法人との資本提携の関係を証明するような証拠も被請求人より提出されていないことから、イにも該当しない。
次に、エの具体例としては、フランチャイズ契約に基づき加盟店であるフランチャイジーが行う業務を出願人であるフランチャイザーの「自己の業務」とみることができるが、この事例にも該当していない。
すなわち、被請求人は「ひかりアドバイザーグループ」の代表であり、ひかり司法書士法人は同グループを構成する法人の一である旨主張している。
しかし、「ひかりアドバイザーグループ株式会社」の登記簿謄本(甲13)を確認しても、役員に関する事項の欄には取締役及び代表取締役として「林靖子」の記載は見受けられるが、被請求人である「光田周史」の記載は存在しない。
さらに「ひかりアドバイザーグループ」のホームページ(甲14)で同グループの人員構成を見ても、被請求人である光田周史は「ひかり税理士法人」「ひかり監査法人」の代表者としての記載は見受けれるものの、他の法人においては構成員として記載されていない。
また、被請求人から提出された証拠に鑑みても、具体的にいかなる点でグループ全体で人事面での提携関係(役員の派遣等)や資本提携(資金の提供、株の保有、対価の発生等)の関係が結ばれているのか明示されていない。ホームページで緩やかな提携関係があることは確認できるものの、一般的なフランチャイズ・システムのようにフランチャイジーがフランチャイザーに対価を支払うなどの関係の存在も不明である。
以上を考慮すると、被請求人光田周史と本件商標を使用しているひかり司法書士法人との関係は、子会社、加盟店、組合構成員等のいずれのケースにも該当していないことは明白であり、ひかり司法書士法人の本件商標の使用をもって被請求人の「自己の業務」に使用していることには当たらない。
(3)まとめ
上記のとおり、被請求人の主張は、いずれも根拠のないものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同第6号証を提出した。
1 使用について
商標法第3条第1項柱書は、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる」と規定している。
ここでは、商標登録出願人がその役務を自ら提供しなければならないとは規定されていない。ここに記載されているのは、自己の「業務」に係る役務について使用をする、ということである。
本件商標の場合について言えば、例えば、「登記又は供託に関する手続の代理」なる役務を提供しているのはひかり司法書士法人であり、被請求人光田周史は、そのひかり司法書士法人が提供する役務について使用する本件商標を、同様に自己の業務について使用しているのである。
商標の使用については、商標法第2条第3項各号に定義されているが、その第8号では、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」が使用行為として定義されている。後に詳しく述べるように、被請求人光田周史は、これらの行為を行っている。
2 自己の業務について
商標法第2条第1項は、「商標」を定義しているが、その第2号では、「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をする」標章が商標であると定義している。これは、使用される標章が「商標」たり得るための「業」、すなわち「業務」を定義したものと見ることができる。
ここで、「証明」とは、工業所有権法逐条解説によると、「主として商品の品質又は役務の質を保証するような場合である。」とされている(乙1)。
後述するように、被請求人光田周史は、ひかり司法書士法人が提供する役務を証明しており、この点で、自己の業務について本件商標を使用しているということができる。
3 特許庁の扱いの例
商標審査便覧28.07(乙2)では、「特例小売商標登録出願においては、その出願に係る商標が『自己の業務』に係る小売等役務について使用をしているものであることを証明しなければならないが、それが実際には出願人の子会社、系列会社、組合構成員、加盟店等の事業活動が事実上出願人の支配下にあること、すなわち出願人と出願に係る商標の使用者とが一定の関係にあること、が証明されれば、それを出願人の『自己の業務』に係る役務に使用しているものとして認めることとする。」としている。
この規定は、「自己の業務」及び「使用」に関する特許庁の扱いの一例を示すものであり、被請求人の主張に沿う扱いがなされていることを示すものである。
4 被請求人光田周史とひかり司法書士法人の関係
被請求人は、公認会計士であって、京都市中京区に所在する「ひかり監査法人」の代表社員の地位にある者である。被請求人は、昭和61年6月に「光田公認会計士事務所」(現・ひかり監査法人)を独立開業し、現在は、「ひかりアドバイザーグループ」の代表も務めている。
ひかり司法書士法人は、平成18年2月2日に設立され、京都市下京区に所在する京都事務所の外、滋賀県草津市においても滋賀事務所を有する司法書士法人であり、「ひかりアドバイザーグループ」を構成する法人の一つである。
被請求人は、いわゆる各専門士業者がその職務領域ごとに各々活動している現状はユーザーフレンドリーとはいえないとの認識のもと、志を同じくする他の専門家と共に、顧客がそれぞれに抱える問題事象や経営課題につき、統括・連携された一つの専門事業者集団で対処し得る組織を構築することを企図し、平成18年4月に「ひかりアドバイザーグループ」を結成した。
「ひかりアドバイザーグループ」は、被請求人が代表社員となっている「ひかり監査法人」を中核組織として、その他に「ひかり税理士法人」、「ひかり司法書士法人」、「ひかり行政書士法人」及び「ひかり社会保険労務士法人」の各士業法人4法人のほか、経営コンサルティング業務を行う「ひかり経営戦略株式会社」と財務コンサルティング業務を行う「ひかりFAS株式会社」がそれぞれ相互連携して活動し、顧客に対するワンストップサービスを提供している(乙3)。
上記のとおり、「ひかりアドバイザーグループ」としてのワンストップサービスの提供におけるグループ名称においても、また、各法人、事務所による個別サービスの提供における各構成組織の名称においても「ひかり」を共通名称として採用し、これに各専門士業であることを指す名称を付加してそれぞれ使用してきている。
被請求人は、上記のとおり、「ひかりアドバイザーグループ」の発起人であり、かつ、代表としての立場から、「ひかり」の文字標章(本件商標)につき、登記又は供託に関する手続の代理等を指定役務として商標登録出願を行い、商標登録を得たものである。
そして、かかる登録商標を被請求人は、ひかり司法書士法人に対し独占的通常使用許諾をすることによって同法人をしてこれを商標として使用せしめることとしたが、その使用許諾にあたって契約書を交わし、その前文において、「光田周史とひかり司法書士法人は、各種専門国家資格を有する者同士が連繋してひかりアドバイザーグループを結成して、『ひかり』の統一名称のもとで一体的かつ広域に業務活動を展開することによって社会に奉仕するとの理念のもと」使用を許諾する旨規定し、ひかりアドバイザーグループの代表としての被請求人が、ひかり司法書士法人が提供する役務を証明する立場にあることを明らかにしている(乙6)。
また、同契約書の第4条(使用に当たっての義務)第2項には、「乙(ひかり司法書士法人)は、本商標を使用するにあたり、役務の品質の誤認又は他人の業務に係る役務と混同を生ずるものとしてはならない。」との規定も設けている。
このように、被請求人は、本件商標を使用して登記又は供託に関する手続の代理なる役務を提供するひかり司法書士法人の、その役務を業として証明することにより、自らも本件商標を使用している。
5 主要国・地域の状況
米国商標法実務は、使用主義であるところ、商標所有者のみが登録を得られることとなっており、かかる「所有」の意義は、関連会社・自然人において使用せしめている場合も含まれており、本件のような場合には、当然に登録が認められる。また、ヨーロッパでは、共同体商標(CTM)という単一の商標制度が存するところ、商標登録出願人自身における厳格な使用要件は課されていない。
比較法的にみても、本件のような事例において、これを商標登録を受けられないもの(無効理由があるもの)とすることはできないものである。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標が商標法第3条第1項柱書に反して登録されたものであるとの請求人の主張は、いずれも根拠のないものである。

第4 当審の判断
請求人は、本件審判を請求することの利益について述べているが、この点については、被請求人も争っていないので、本案に入って検討する。
請求人は、本件商標が商標法第3条第1項柱書に反して登録されたものであることを理由に、同法第46条第1項の規定に基づく商標登録の無効の審判を請求している。
そこで、本件商標が登録査定時において、自己の業務に係る役務について使用をする商標といえるものであったか否かについて判断するに、我が国商標法は、登録主義を採用し、登録するための要件として、出願された商標の現実の使用を必要とせず、使用の意思を有すれば足りることとされているが、将来においても使用されないことが明らかな商標までをも登録して保護するものでないことは同法第1条(目的)及び第50条(商標登録取消審判)の趣旨からみても当然のことといえる。
請求人は、本件商標の権利者である光田周史は公認会計士・税理士の資格を有してはいるが、弁護士、弁理士及び司法書士の資格を有してはいない。そうすると、「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務、訴訟事件その他に関する法律事務、登記又は供託に関する手続の代理」に関しては、法令上その役務を提供できる者が限られており、出願時及び登録査定時において、商標権者である被請求人は、上記国家資格を有していないから、本件商標を自己の業務に係る役務について使用することはあり得ず、商標法第3条第1項柱書に反して登録されたことは明らかである旨主張している。
ところで、本件商標は、平成17年11月17日に出願人を光田周史として出願され、同18年5月16日に光田周史を名義人として登録査定がなされていたことが認められることから、被請求人(出願人)は、法人ではなく、自然人たる光田周史である。
そうとすれば、請求人が主張しているように、本件商標の登録査定時において、光田周史は、弁護士、弁理士及び司法書士の資格を有していなかったとしても、該査定時の判断としては、将来において、光田周史が弁護士、弁理士あるいは司法書士の資格を取得する余地が理論上全くあり得ないとはいえないことであって、そうであるとすれば、光田周史が将来において「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務、訴訟事件その他に関する法律事務、登記又は供託に関する手続の代理」なる役務を自己の業務として、これに本件商標を使用する蓋然性までをも否定することはできないものというべきである。
この点について、請求人は、商標審査基準(甲3)を提出して、本件は、商標法第3条第1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をしないことが明らかであるときの判断基準の第2の事例である「指定商品又は指定役務に係る業務を行うことができる者が法令上制限されているため、出願人が指定商品又は指定役務に係る業務を行わないことが明らかな場合」に該当する旨主張している。
しかしながら、この審査基準は、例えば、弁護士のように、業務の性質上、その資格が自然人に限られ、法人(弁護士法人を除く。)には認められていない業務があるので、法人が「訴訟事件その他に関する法律事務」を指定してきた場合に適用される審査基準であって、自然人が出願人である場合には、上記したとおりに判断されるものであるから、自然人が出願人である場合を想定して設けられた審査基準ではない。
また、請求人は、「訴訟の原告第1準備書面において・・・『現行商標法は、商標権を自由に譲渡でき、あるいは自由に使用許諾できる法制であることに鑑みれば、第3条第1項本文は、厳格な意味で出願人自らが直接その指定役務の提供(あるいは指定商品の製造販売等)をしなければならないとする規定ではなく、一般的・抽象的に現在および将来においても、およそ自己が使用し、あるいは他者をして使用せしめることがあり得ないことが査定時において客観的に明らかな場合にまで登録を認めることは適当ではないという趣旨にとどまるものである。本条はむしろ1項各号の不登録事由が重きをなす規定である。』と述べている。・・・まさに、本件商標については、当初から自己の使用が予定されていないものであり、登録査定時においてもその状態は何ら変わっていないことから、独占排他的な権利は認められるべきではない。」旨を主張している。
しかしながら、商標法第3条第1項柱書は、登録するための要件として、出願された商標の現実の使用を必要とせず、使用の意思を有すれば足りることとされていることから、被請求人が上記の解釈をしていたからといって、登録査定時において、被請求人において使用の意思がなかったと断定することはできないものである。
そして、上記の他に、登録査定時において、自己の使用が予定されていないものとする主張を裏付ける証拠の提出はない。
なお、被請求人の答弁及びこれに対する弁駁においては、自己の業務に使用していない点について、双方が述べているところであるが、これは登録後の事情であって、同条項の柱書の要件としては、登録査定時において、被請求人の使用の意思が問題となるものであるから、請求人の主張は、いずれも採用することができない。
してみれば、本件商標は、その登録査定時において、将来においても使用されないことが明らかな商標であるとはいえず、他に、本件商標が商標法第3条第1項柱書に反して登録されたものとすべき理由は見出せない。
なお、被請求人は、上申書において口頭審理を要望しているが、本件は、上記したとおりに判断し得るものであるから、書面審理により判断した。
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第3条第1項柱書きに違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2011-11-07 
結審通知日 2011-11-10 
審決日 2011-11-22 
出願番号 商願2005-108519(T2005-108519) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (Y42)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小畑 恵一 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 渡邉 健司
井出 英一郎
登録日 2006-06-09 
登録番号 商標登録第4960504号(T4960504) 
商標の称呼 ヒカリ 
代理人 伊原 友己 
代理人 小川 雅也 
代理人 加古 尊温 
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所 

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