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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X41
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X41
管理番号 1249974 
審判番号 無効2011-890024 
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-01 
確定日 2012-01-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5321600号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5321600号商標(以下「本件商標」という。)は,「ブルーカルア」の片仮名を横書きしてなり,平成21年11月20日に登録出願,第41類「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」を指定役務として,同22年5月14日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録は無効とする,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,その理由を以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第78号証を提出した。
請求の理由
1 「KAHLUA」商標の著名性について
(1)商標採択及び使用の歴史
請求人は,「バランタイン(Ballantine’s)」,「アブソルート ウオッカ(ABSOLUT VODKA)」,「マーテル(MARTELL)」,「シーバスリーガル(CHIVASREGAL)」などといった著名なウイスキー,コニャック,リキュール,各種ワインなどの洋酒を世界的に販売している企業グループ(Pernod Ricard Group)に属する会社である(甲第1号証)。その傘下の洋酒関係の会社あるいは請求人の関連会社は,世界各国に多数存在しており,世界的に著名な登録商標「KAHLUA(カルーア)」を付したコーヒーリキュールも主要な取扱い商品の一つである(なお,請求人は,その登録商標の登録番号を特定していない。また,甲第3号証の「KAHLUA関連商標の登録及び出願一覧表」のJapanの項の登録番号の商標も存在しない。そこで,請求人の主張から推認される登録第737034号商標(別掲)をその登録商標とみなし,以下,これを場合により「請求人商標」という。)。
「KAHLUA(カルーア)」は,メキシコ産のアラビカ種のコーヒー豆を原材料として製造されるコーヒーリキュールであり,請求人商標を付して世界各国で販売されている。また,請求人商標は,1936年から世界各国で一貫して上記商品及び関連商品に使用されている(甲第2号証)。
そして,今日においては,カルーアコーヒーリキュールの出荷ケース数は,全世界で200,000,000ケースを数え,150もの国及び地域に居住する者にカクテルとして飲まれたり,料理などで使用されており(甲第2号証),今日において「KAHLUA(カルーア)」は,コーヒーリキュールの代名詞として世界的に広く知られている。
(2)我が国における請求人商標の著名性の獲得
日本においては,1970年(昭和45年)にサントリー株式会社(以下「サントリー」という。)が本格的な輸入販売を始めてから飛躍的に販売量が増加し,特にこれをベースにしたカクテル「カルーアミルク」は,コーヒー牛乳のような口当たりの良さで女性や若い世代を中心に人気を博した。とりわけ女性の間では,「誰でも知っているカクテル」の一つとされており,雑誌のアンケートでも最も好きなカクテルの第1位に挙げられている(甲第4号証)。
さらに,1988年から1991年の「輸入洋酒銘柄別輸入通関ランキング」,「1999年輸入酒銘柄別ランキング」及び「2001年輸入酒銘柄別ランキング」からも明らかなように,リキュール部門では,「KAHLUA(カルーア)」が常に輸入高の上位(第1位?第3位)を占めている(甲第5号証ないし甲第7号証)。
また,2003年及び2005年に請求人が第三者に行わせた「KAHLUA」の認知に関する調査をしたところ,調査対象者のうち,8割ないし9割の者により「KAHLUA」は,認知されているとの結果が出ている(甲第8号証ないし甲第10号証)。
今日においても,オンラインストアの売れ筋ランキングのリキュール部門で週間2位や5位を獲得するなど人気を博し続けている(甲第11号証)。
「KAHLUA(カルーア)」のこのような圧倒的な人気にかんがみ,輸入元であるサントリーアライドライオンズ株式会社及び販売総代理店であるサントリーは,長年にわたって,若い女性向けの雑誌などに請求人商標を付した広告を多数掲載し続けてきた(甲第12号証ないし甲第26号証)。
サントリーが,昭和60年(1980年)から平成16年(2004年)6月までの23年半の間に,「KAHLUA(カルーア)」にかけた広告費(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)の総計は,20億1809万8千円であり(甲第27号証),特に雑誌媒体への露出が際だっている(甲第28号証及び甲第29号証)。これは,「KAHLUA(カルーア)」ブランドの独自性,特殊性に見合った広告媒体を厳選し,宣伝効果の高い露出を継続的に行ってきた請求人及びサントリーの宣伝戦略の特徴である。
これら広告においては,「KAHLUA」の欧文字に加え,「カルーア」のカタカナも大きく表示されていることから,「KAHLUA」と共にカタカナ「カルーア」についても,請求人の「コーヒーリキュール」を表示するものとして理解されてきた。
請求人は,甲第30号証ないし甲第44号証に示すような販売促進活動を行い,その都度,キャンペーンテーマに沿ったノベルティグッズを頒布している(甲第30号証ないし甲第48号証)。ノベルティグッズには,請求人商標若しくは請求人商標から文字部分「KAHLUA」のみを抽出した標章が使用されており,その顧客吸引力の強さは,これらの資料からも客観的に明白である。
さらに,「カルーアコーヒーリキュール」を販売するスーパーマーケットなどにおいては,「牛乳」や「アイスクリーム」など,カルーアコーヒーリキュールを割るのに適した商品の隣で目立つように販売されたり(甲第49号証),ショッピングモールにてカルーアコーヒーリキュールに関するイベントが開催されたりするなど,販売促進活動に力を入れてきた(甲41号証ないし甲第44号証)。
サントリーでは,若い世代に向けたイベントやコンサート,スポーツ大会などをいわゆる「冠スポンサー」として企画・開催し,その冠に本件商標を掲げて,より一層同商品の宣伝販売に力を注いでいる(甲第50号証及び甲第51号証)。
我が国における事業展開及び広告宣伝活動の結果,請求人は,「KAHLUA」の語が大きく表示された「KAHLUAコーヒーリキュール」のラべルについて,第737034号防護第1号として,防護標章登録を受けている(甲第52号証及び甲第53号証)。
以上のことから,「KAHLUA」及び「カルーア」が,請求人の製造販売に係るコーヒーリキュールを表示するものとして,我が国における需要者の間に広く認識されている。
(3)結語
以上述べたように,請求人商標は,請求人若しくはその関連会社の業務に係る指定商品「コーヒーリキュール」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている。
2 商標法第4条第1項第15号について
本件商標の出願日以前から,「KAHLUA」及び「カルーア」(以下,これら2商標を「引用商標」という。)は,広く認識されていることから,本件商標がその指定役務について使用された場合には,引用商標との関係において,あたかも請求人又は請求人と業務上あるいは組織上何らかの特殊な関係がある企業体が提供する役務であるかのごとく,誤認・混同を生じる。
(1)当該商標と他人の表示との類似性の程度について
本件商標は,「ブルー」と「カルア」の間にスペースがあることを見て取ることができることから,需要者は,本件商標を二の単語が結合してなる商標であると認識することになる。
このうち,後者の「カルア」の部分については,特定観念を有しない造語と認識されることになる。
一方,「ブルー」の部分は,色の一種である「青色」を意味する英単語「Blue」の表音をカタカナ表記したものであることは,中学修了程度の英語力を有する需要者であれば,容易に理解することができる。
このような特徴を有する本件商標にあって,需要者は,「カルア」の単語に強い注意を向けることになるというべきである。なぜなら,「ブルー」の語は,色の一種を表示するにすぎず,商品・役務を問わず,商品の品質や役務の質などの商品及び役務の内容を表示するにすぎないものと認識されるからであり,また,同語が修飾する「カルア」との関係においては,「カルア」に係る商品役務群に属する一つの関連商品及び役務を表示する商標として認識される可能性があるからである。
つまり,「ブルー」の語は,「青色のカルア」という具合に「カルア」を修飾・限定していることから,「カルア」との関係においては,「従」であると認識されるため,結果として,「主」である「カルア」に注目するのは必然であり,本件商標からは,単に「カルア」の称呼も生じる。
一方,引用商標「KAHLUA」は,「カルーア」の称呼で広く認識されているものの,インタネット上のウェブページにおいては,引用商標に係る「コーヒーリキュール」を使用したカクテルを「カルアミルク」と紹介している事実もある(甲第67号証)。
つまり,引用商標「KAHLUA」から生じる称呼と本件商標から生じる称呼が同一であると認識されることがある以上,両者が相紛れるおそれがあるのは明らかである。
さらに,「カルア」と「カルーア」の称呼を比較すれば,「ル」と「ア」の間に長音があるかないかの違いしか存在しない。
需要者によって,長音を短く発音したり,短音を長めに発音したりすることも往々にあり,聴感も人それぞれであるから,「カルア」を「カルーア」と聴取することもあり得る。したがって,長音の有無の差異だけでは,本件商標と引用商標とをかれこれ区別することは困難である。
つまり,本件商標の称呼「カルア」と引用商標の称呼「カルーア」とは,ほぼ同一の記憶や印象を需要者に与えることになるというべきである。
さらに,引用商標は,我が国においても広く知られていることを踏まえると,「カルア」を「カルーア」と聴取する者が少なからずいることは間違いない。
よって,本件商標と引用商標とを称呼をもって区別することは困難であることから,両商標は,類似の商標である。
(2)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
引用商標は,「コーヒーリキュール」を表示するものとして我が国において広く認識されるに至っているため,周知著名性の要件を具備している。
さらに,引用商標は,本来的には特定観念を有しない造語であるが,請求人による使用の結果,両語は「コーヒーリキュール」といえば「KAHLUA(カルーア)」のごとく,「コーヒーリキュール」の代名詞的語とまでになっている。
したがって,引用商標「KAHLUA」は,独創的な語であると認識されるというべきである。
(3)当該商標の指定商品などと他人の業務に係る商品などとの間の性質,用途又は目的における関連性の程度
本件商標の指定役務中の「音楽の演奏の興行の企画又は運営」は,ライブやコンサートなどの音楽イベントに関する役務であることから,通常,ライブハウス,ホール,音楽演奏が可能なレストランやバー,いわゆる「フェスティバル」と呼ばれる音楽イベントが開催される屋内及び屋外の広大な会場などで提供される役務である。同様に「音楽の演奏」も同じ場所で提供される役務である。
一方,「コーヒーリキュール」を含む「酒類」については,通常,上記した場所においては,音楽の興行や演奏が長時間になるものもあるため,会場内に店舗や屋台を設置するなどにより,食品や飲料が販売されることがあるのが常識となっている。
よって,「酒類」の販売場所と「音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「音楽の演奏」の提供場所は共通している。
(4)商品などの取引者及び需要者の共通性
「コーヒーリキュール」は,「洋酒」の範ちゅうに含まれる商品であることから,その需要者は,酒類を販売したり提供したりする者,例えば,酒店,レストラン,居酒屋,ライブハウス及びイベントホールなどの経営者や施設経営者,「フェスティバル」などの音楽イベントの運営者及び一般消費者が代表的である。
「音楽の演奏の興行の企画又は運営」の提供を受ける者は,レストラン,ライブハウス,イベントホールなどの音楽の演奏が可能な施設を有する者及び一般大衆などであり,「音楽の演奏」の提供を受ける者は,聴衆である一般大衆である。
以上のとおり,上記商品及び役務の需要者層には,共通点がある。
(5)その他の取引の実状
甲第68号証ないし甲第78号証に示すとおり,請求人と同一の事業を営んでいる「酒類」の製造販売者が,音楽イベントを企画・運営している事実が多数存在している。
このような業界慣行は,本件商標が「音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「音楽の演奏」の各役務について使用された場合,当該役務が請求人自身が提供する又は,「KAHLUAコーヒーリキュール」と何らかの関連がある音楽イベントであると需要者が認識する動機付けのひとつとなる。
よって,かかる事実も「酒類」と「音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「音楽の演奏」とが密接な関連性を有していることの証左である。
このような状況の下で,本件商標がその指定役務について使用された場合,当該役務が請求人自身が提供している役務と又は請求人と組織的又は経済的に関連を有する者により提供されている役務であると誤認するおそれがあることは明らかである。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 商標法第4条第1項第19号について
引用商標は,「コーヒーリキュール」を表示するものとして,我が国を含む全世界的規模で広く認識されるに至っている。
そして,今日においては,請求人の製造販売に係る「コーヒーリキュール」などのいわゆる「リキュール類」は,これらを使用した「カクテル」が一般家庭内にいても飲用されるまでに普及していることもあり,スーパーマーケットや居酒屋など,一般消費者が往々にして訪れる場所において販売されたり展示されたりしているため,これら消費者が目にする機会は多い。
さらに,「コーヒーリキュール」が属する「酒類」と本件商標の指定役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」とは,上記「2」のとおり密接な関係性を有している。
したがって,被請求人は,「コーヒーリキュール」が属する「酒類」と関連性の深い「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」という役務を提供する意図を有している以上,引用商標の存在を当然に知る立場・地位にある。
このような状況で,被請求人が本件商標を使用した場合,引用商標の著名性故に引用商標に化体した顧客吸引力を利用でき,労せずして本件商標を認知でき,自己の提供する役務に顧客を容易に誘導できる。
したがって,被請求人は,引用商標の著名性及び,同商標の発音・聴取の容易性に目を付け,自己の提供する役務に需要者の注意を向けさせる目的をもって本件商標を採択したことが推測できる。
さらに,被請求人により,本件商標を使用して提供される役務がどのような音楽を内容とするのかは不明である。音楽は,自己の主張を表現する媒体の一つである以上,差別,侮蔑,批判,卑猥な内容の音楽も少なからず存在している。本件商標がこのような音楽の興行及び演奏を内容とする役務について使用された場合,請求人がこれらの音楽を支援,賛助していると誤認され,結果として,引用商標に化体した上記イメージや業務上の信用(グッドウィル)は,著しく汚染,希釈される一方で,被請求人は,引用商標に化体した顧客吸引力を不当に利用することにより,集客人数の増加などにより不正の利益を得ることになる。
以上のとおり,本件商標は,「コーヒーリキュール」を表示するものとして,外国において需要者の間に広く認識されている引用商標と類似であって,不正の目的をもって使用するものというべきであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。
4 結語
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号及び同第19号に該当するため,その登録は無効とされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
答弁の理由
1 被請求人の商標権取得の経緯
被請求人らは,2005年に,「ブルーカルア(BLUE KALUA)」というハワイアン音楽を中心としたバンドを結成した。
このバンドは,定年で退職した者らを中心に結成されたバンドであり,いわゆる「親父バンド」と呼ばれるようなバンドである。
ブルーカルアのバンド名は,ハワイアン音楽の曲名である「ブルー・カルア」に由来する。この曲は,アメリカの音楽家により作曲された曲であり,日本では,大橋節夫氏がカバーした曲などがある(乙第1号証)。このハワイアン音楽の曲であるブルー・カルアの歌詞において,「Hearts are never blue in blue Kalua」とあり,「Kalua」が大文字から始まるため,「Kalua」は,地名であると理解できる(乙第1号証)。また,ハワイアン音楽の曲であるブルー・カルアの曲名は,ハワイの地名である「KALUA」(乙第2号証,乙第3号証)に,ハワイをイメージする青色を意味する「BLUE」をつけたものであると推測される。
被請求人らのブルーカルアの公演を重ねて,CDを制作するなどして,バンド活動が活発化し,ブルーカルアの認知度が高まるにつれ,被請求人らは,ブルーカルアの名前が,他のグループのショーなどで使用されることを懸念し,ブルーカルアの商標権を取得した。商標権を取得後も被請求人らは,バンド活動を継続し,年間で5?7回程度の演奏活動を行っている(乙第4号証)。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と他人の表示との類似性の程度について
本件商標は,「ブルーカルア」であり,「ブルー」と「カルア」の間に,特にスペースは設けられておらず,「ブルーカルア」を一体としたものである。
また,本件商標の指定役務である音楽の提供については,商品の色などはないため,「ブルー」の部分が役務の質などを表していない。したがって,「ブルー」の部分が形容詞的文字であり,需要者は「カルア」の部分のみに着目するとの請求人の主張は失当である。
以上より,本件商標は,「ブルーカルア」の一連一体の称呼のみ生じ,「カルア」の称呼が生じることはない。
また,引用商標は,「KAHLUA」であり,「カルーア」との称呼が用いられている。この点は,請求人提出の甲第第4号証ないし甲第7号証を始めとする各資料内でも,引用商標が「カルーア」と記載されていることからも明らかである。
本件商標と引用商標「KAHLUA」とは,外観が異なる。また,本件商標は,ハワイアン音楽の曲名又はハワイの地名を想起させるのに対し,引用商標「KAHLUA」は,特定観念を有しないため,観念も異なる。
以上のとおり,引用商標と本件商標とは,称呼,外観,観念のいずれも異なる相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(2)商品・役務などの間の性質,用途又は目的における関連性の程度
本件商標は,「音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「音楽の演奏」を指定役務としているのに対し,請求人は,引用商標を付したコーヒーリキュールを取り扱っている。
役務の「音楽の演奏の興行の企画又は運営」及び「音楽の演奏」と,商品「コーヒーリキュール」が非類似であり,本件商標の指定役務とコーヒーリキュールとは,同一事業者が提供することはない。
(3)まとめ
本件商標の「ブルーカルア」は一連一体であって,引用商標の「カルーア」とは類似しない。本件商標の指定役務と引用商標の商品などに関連性がない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性について
本件商標と引用商標とは,非類似である。
(2)被請求人の不正の目的について
被請求人は,引用商標に係るコーヒーリキュールについては,今回の審判請求により初めて知ったものである。
また,本件商標は,引用商標でなく,「KALUA」というハワイの地名に基づく「ブルー・カルア」という曲に基づいて採用された。
また,被請求人が本件商標を使用したとしても,被請求人らのバンド活動は,主に慈善目的のボランティアの活動であるため,請求人の名声を棄損することも,出所表示機能を希釈化することもない。
(3)まとめ
本件商標は,引用商標と類似せず,被請求人は,不正の目的を持っていなかったため,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。

第4 当審の判断
1 本件商標について
本件商標は,「ブルーカルア」の片仮名からなるところ,「ブルー」と「カルア」の間に他の文字間よりも若干広めの間隔はあるものの,その構成各文字は,同じ書体・同じ大きさで表され,全体として一体的に表してなるものと認識し得るものである。そして,その指定役務を第41類「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」とするものである。
ところで,「ブルーカルア(ブルー・カルア)」について,以下の事実が認められる。
乙第1号証の「ハワイアン・ルネッサンス ベスト・オブ・大橋節夫/
小さな竹の橋で ハワイ・ヒット集」をタイトルとする音楽CDのケース裏面には,「ブルー・カルア」が収録曲として掲載されている。また,そのCDの解説において,「ブルー・カルア」は,「ジョージ・マッコネル,アルフレッド・ブライアン・ラニ・マッキンタイアの共作のハオレ・ナンバーです。作詩のブライアンは『ペグ・オ・マイハート』の作者。マッキンタイアはハワイ生れ,1937年からロスで楽団を作り活躍,多くの名演をレコードに残しましたが,この作品は1938年の作曲です。歌われている詩は,この曲にほれ込んだ大橋節夫がまだ慶応普通部にいる頃に作ったものです。」と記載されている。
以上の事実及び被請求人の主張から,「ブルーカルア(BLUE KALUA)」は,米国,ハワイ州のホノルル市にある地名「Kalua」にちなみ名付けられたハワイアン音楽の曲名であることが認められる。
そして,「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」を指定役務とする本件商標においては,これに接する需要者は,「ブルーカルア」を前記のハワイアン音楽の曲名であると認識するものとみるのが自然である。
してみれば,本件商標は,「ブルーカルア」の一連の称呼を生じ,ハワイアン音楽の曲名「ブルーカルア」の観念を生ずるものというべきである。
なお,被請求人は,本件商標は,前記曲名に由来し,2005年に結成された被請求人を構成員の一人とするハワイアン音楽を中心に演奏するバンドの名称である。」旨主張し,そのバンドの演奏活動一覧(乙第4号証)を提出した。その一覧は何らの裏付けもなく証拠力に欠けるものであるが,以上の事実からすれば,被請求人のその主張も首肯し得るところである。
2 「KAHLUA」商標の著名性について
請求人提出の甲各号証によれば,以下の事実が認められる。
請求人は,「バランタイン(Ballantine’s)」,「アブソルート ウオッカ(ABSOLUT VODKA)」,「マーテル(MARTELL)」,「シーバスリーガル(CHIVASREGAL)」といったウイスキー,コニャック,リキュール,各種ワインなどの洋酒を世界的に販売している企業グループ(Pernod Ricard Group)に属する会社であり,その取扱い商品の一つとして,メキシコ産のアラビカ種のコーヒー豆を原材料として製造されるコーヒーリキュールがある。そして,その商品は,請求人商標又は引用商標「KAHLUA」を付して世界各国で販売され,また,引用商標「KAHLUA」は,その商品の関連商品にも使用されている(甲第1号証及び甲第2号証)。
日本においては,請求人商標又は引用商標「KAHLUA」を付したコーヒーリキュールは,1970年(昭和45年)にサントリーがその商品の本格的な輸入販売を始め,1988年から1991年の「輸入洋酒銘柄別輸入通関ランキング」,「1999年輸入酒銘柄別ランキング」及び「2001年輸入酒銘柄別ランキング」のリキュール部門において,常に輸入高の上位(第1位?第3位)を占めていた。今日においても,オンラインストアの売れ筋ランキングのリキュール部門で週間2位や5位を獲得している(甲第4号証ないし甲第7号証及び甲第11号証)。
また,輸入元であるサントリーアライドライオンズ株式会社及び販売総代理店であるサントリーが長年にわたって若い女性向けの雑誌などに引用商標「KAHLUA」に加え「カルーア」を付した広告を多数掲載し,そのうちのサントリーの,昭和60年(1980年)から平成16年(2004年)6月までの23年半の間に「KAHLUA(カルーア)」にかけた広告費(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)の総計は,20億1809万8千円であった(甲第12号証ないし甲第29号証)。
さらに,「KAHLUA(カルーア)」は,ランダムハウス英和大辞典,デイリーコンサイスカタカナ辞典などの各種辞書や世界の酒事典などの各種事典にも掲載されている(甲第54号証ないし甲第61号証)。
以上認定した事実によれば,引用商標である「KAHLUA」及び「カルーア」は,請求人又はサントリーなどの請求人の関連会社が長年使用し,本件商標の登録出願時には,請求人の取り扱いに係る商品「コーヒーリキュール」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものということができる。
3 引用商標について
引用商標は,それ自体本来観念の生じない造語ではあるが,前記2の取引の実情に照らせば,「カルーア」と称呼され,請求人が商品「コーヒーリキュール」について使用する著名なブランド名「KAHLUA(カルーア)」の観念が生ずるものというべきである。
4 商標法第4条第1項第15号について
前記1の認定のとおり,本件商標は,「ブルーカルア」の一連の称呼を生じ,ハワイアン音楽の曲名「ブルーカルア」の観念を生ずるものである。
他方,引用商標は,前記3の認定のとおり,「カルーア」の称呼を生じ,請求人が商品「コーヒーリキュール」について使用する著名なブランド名「KAHLUA(カルーア)」の観念を生ずるものである。
そこで,本件商標と引用商標とを比較すると,両商標は,外観上,明らかに相違し,称呼においては,本件商標の称呼が「ブルーカルア」であるのに対し,引用商標の称呼は「カルーア」であるから,両称呼は,その構成音数に明らかな差異が認められ,これらを一連に称呼した場合であっても,十分に聴別し得るものである。
また,観念においては,本件商標がハワイアン音楽の曲名「ブルーカルア」の観念が生ずるのに対し,引用商標は,請求人が商品「コーヒーリキュール」について使用する著名なブランド名「KAHLUA(カルーア)」の観念を生ずるものであるから,両商標は,観念上も異なるものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれからみても,相紛れるところはなく,また,両商標の与える印象も相当に異なるものであるから,明らかに区別し得る別異の商標というべきである。
加えて,本件商標の指定役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」と引用商標の使用に係る商品「コーヒーリキュール」とは,取引の態様において,同じ営業主又はその関連会社などから提供(販売)されるような関連性は認められない。
これに対し,請求人は,乙第68号証ないし乙第78号証を示し,「請求人を含む酒類の製造販売者が音楽イベントを企画・運営する事実が存在することから,酒類と『音楽の演奏の興行の企画又は運営』及び『音楽の演奏』とは密接な関連性を有している。」旨主張するが,両者が,提出された証拠の事例のみをもって,これに接する需要者に同じ営業主又はその関連会社から提供(販売)されるものであるなどと理解されるものとは言い難い。
また,本件商標と引用商標は,前記のとおり明らかに区別し得る別異の商標であるから,請求人の主張する取引の実情を考慮する余地もない。
してみれば,本件商標をその指定役務について使用しても,請求人又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係のある者の業務に係る役務であるかのごとく,役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号について
本件商標と引用商標とは,何ら相紛れるおそれのない非類似の商標であることは,前記4の認定のとおりである。
また,前記1の認定のとおり,本件商標は,ハワイアン音楽の同名の曲名に由来し命名された,被請求人を構成員の一人として結成されたバンドの名称であることが推認されるから,当該バンドの構成員である被請求人を権利者とする本件商標を,その指定役務「音楽の演奏の興行の企画又は運営,音楽の演奏」について使用することに,何らの不正の目的も見いだせない。その他,請求人から本件商標が不正の目的をもって使用されたと認め得る証拠の提出はない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号及び同第19号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲
請求人商標


(色彩については原本参照のこと)


審理終結日 2011-08-08 
結審通知日 2011-08-11 
審決日 2011-08-31 
出願番号 商願2009-91695(T2009-91695) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (X41)
T 1 11・ 271- Y (X41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 箕輪 秀人田中 瑠美 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 鈴木 修
小川 きみえ
登録日 2010-05-14 
登録番号 商標登録第5321600号(T5321600) 
商標の称呼 ブルーカルア、カルア 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 井上 誠一 
代理人 辻居 幸一 
代理人 松尾 和子 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 中村 稔 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 藤倉 大作 
代理人 加藤 ちあき 

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