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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服201029677 審決 商標
不服20109379 審決 商標
不服200822690 審決 商標
不服200915782 審決 商標
不服20051651 審決 商標

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審決分類 審判 査定不服 商4条1項16号品質の誤認 取り消して登録 X20
審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 取り消して登録 X20
審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 取り消して登録 X20
管理番号 1243349 
審判番号 不服2009-12366 
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-07 
確定日 2011-09-27 
事件の表示 商願2008-11532拒絶査定不服審判事件について平成22年6月23日にした審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10253号,平成22年(行ケ)第10321号,平成23年6月29日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願商標は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願商標
本願商標は,別掲のとおりの構成よりなり,第20類「家具」を指定商品として,平成20年2月19日に立体商標として登録出願され,その後,指定商品については,当審における平成21年8月27日及び同年10月28日付け手続補正書により,第20類「肘掛椅子」に補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は,「本願商標は,『椅子の立体図形』よりなる商標であるから,これを『椅子』に使用しても,単に商品の用途,形状を表しているにすぎず,また,これを上記商品以外の商品に使用した場合には,その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。したがって,本願商標は,商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当する。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

第3 当審の判断
1 商標法3条1項3号該当性について
(1)立体商標における商品等の形状
ア 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。
ところで,商標法は,3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,同条2項で「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。
このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。
そうだとすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美観を追求する目的により選択される形状であっても,商品,役務の出所を表示し,自他商品,役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく,また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。

イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品,役務の出所を表示し,自他商品,役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されたと認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当すると解するのが相当である。
(イ)また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美観上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。その理由は,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から必ずしも適切でないことにある。
(ウ)さらに,商品等に,需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた場合であっても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである。その理由として,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美観の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反することが挙げられる。

(2)本願商標の商標法3条1項3号該当性
ア 本願商標は,別掲のとおりの構成よりなるものであり,本願商標の形状は,以下の特徴を有している。
(ア)全体の構成
4本の脚と座面と背板(背もたれ部)と肘(肘掛け部)と4本の貫(ぬき,脚を結ぶ水平部材)からなる肘掛椅子の立体的形状
(イ)背板(背もたれ)上部の笠木及び肘(肘掛け部)
背もたれ上部に配された笠木は,左右に半円状に延伸して肘(肘掛け部)を兼ねており,1本の円柱状の曲げ木によって構成されている。上記「笠木兼肘掛け部」は,「背板」と「後脚から上方に延伸した支柱」により支えられている。
(ウ)背板(背もたれ部)
背板(背もたれ部)は,一枚の板からなり,前後から見ると欧文字「Y」又は「V」字形の特徴のある形状を呈している。
(エ)後脚
後脚から上方に伸びた支柱は,1本の長い木材からなり,前後からみても,左右からみても,欧文字「S」字形ないし逆「S」字形を上下に長く伸ばしたような特徴のある形状を呈している。
(オ)貫(脚を結ぶ水平部材)
貫は,後脚同士を結ぶもの,後脚と前脚とを結ぶもの,前脚同士を結ぶものと高さを変えて,水平に配置されている。
(カ)座面等
座面は,矩形の枠木の間に,細い紐類を編み込んで構成されている。なお,座面以外は,木材から構成されている。

イ 本願商標の上記形状について考察すると,1)背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,2)座面が細い紐類で編み込まれていること,3)上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,4)後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴のある形状を有している。同特徴によって,本願商標は,看者に対し,シンプルで素朴な印象,及び斬新で洗練されたとの印象を与えているといえる。
他方,本願商標の形状における特徴は,いずれも,すわり心地等の肘掛椅子としての機能を高め,美感を惹起させることを目的としたものであり,本願商標の上記形状は,これを見た需要者に対して,肘掛椅子としての機能性及び美観を兼ね備えた,優れた製品であるとの印象を与えるであろうが,それを超えて,上記形状の特徴をもって,当然に,商品の出所を識別する標識と認識させるものとまではいえない。
したがって,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであるから,商標法3条1項3号に該当する。

2 商標法3条2項該当性について
(1)立体商標における使用による識別力の獲得
立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの諸事情を総合考慮して判断するのが相当である。
そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するというべきである。
もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,技術の進歩や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することが通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,ごく僅かに形状変更がされたことや,材質ないし色彩に変化があったことによって,直ちに,使用に係る商標ないし商品等が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等にごく僅かな形状の相違,材質ないし色彩の変化が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。

(2)本願商標の商標法3条2項該当性
ア 請求人らが提出した甲第1ないし第18号証(枝番号を含む。)及び職権により採用した請求人らが裁判所に提出した甲第19ないし第280号証(枝番号を含む。)並びに請求人らの主張によれば,以下の事実が認められる。
(ア)本願商標に係る商品形状の完成等
本願商標に係る肘掛椅子の立体形状は,現代家具デザインの巨匠と称されるウェグナーが,請求人カール・ハンセン アンド サン モーベルファブリック エイ・エス(以下「請求人A」という。)の依頼を受けて1949年(昭和24年)ころデザインし,請求人Aによる試作等を経て翌1950年(昭和25年)ころ完成した。本願商標の形状の特徴は,上記1(2)アのとおりであるところ,当該特徴的部分を備えた,請求人Aが製造・販売する肘掛椅子(以下「請求人製品」という。)は,「CH24」,「Yチェア」(Y chair)又は「デコラティブ・チェア(Decorative chair)という名称で知られており,世界で最も売れた椅子の一つと評価されている。なお,文字商標「Yチェア」は,商標権者を請求人カール・ハンセン&サン ジャパン株式会社(以下「請求人B」という。),指定商品を第20類「木製いす」として,商標登録(商標登録第3348396号)されている(甲1の1,2,甲2,3,80,82,86,87,90,100の2,甲260,261,265,266,268,269)。
(イ)本願商標の使用開始時期・使用期間
a 本願商標の上記形状の特徴を備えた請求人製品は,1950年(昭和25年)から現在に至るまで,請求人Aによって独占的に製造され,世界中で販売されている。請求人製品は,使用される木材の材質や色彩,座面(ペーパーコード)の色彩にバリエーションが増えたものの,その形状は,半世紀以上にわたり,ほとんど変化していない(甲1の1,2,甲27,39,81,87,90,100の2,7,甲269)。
b 請求人製品は,日本において,昭和33年に白木屋(後の東急百貨店)のフィンランド・デンマーク展において紹介された後,昭和37年ころ,松屋のデンマーク展やグッドデザインコーナーで展示販売されるようになり,昭和40年には,伊勢丹が輸入,販売を開始した。その後,平成元年ころまでの間は,松屋,伊勢丹のほか,キッチンハウス,小田急ハルクらが,請求人製品を輸入し,販売していた。
その後,平成元年に,フーバ・インターナショナルが,SKデザイン事業部を設立し,請求人Aの日本における輸入代理店となり,請求人製品についても輸入,販売を行うようになった。翌平成2年9月25日に,請求人Aとフーバ・インターナショナルが出資して,請求人B(当時の商号はディー・サイン株式会社。)が設立され,請求人Aの製品の日本における輸入代理店となり,請求人製品の輸入,販売を独占的に行うようになった(甲12,16の1,甲26,29,30の1?3,甲31,32,39,55,58,59,89,98の6の4,甲100の2?6,8?11,甲269)。
(ウ)使用地域
請求人Bは,請求人製品を,自ら又はその取引先である有名百貨店(高島屋,小田急百貨店,伊勢丹,三越,大丸,阪神百貨店等),大型家具店(アクタス,イルムスジャパン,ヤマギワ等),大手ハウスメーカー等を介して,販売している。請求人製品の販売先は,関東地方における販売割合が60パーセント以上を占めるものの,日本全国に及んでいる。また,請求人製品は,店頭のみならず,日本全国どこからでも,インターネット,電話,ファクシミリ等を利用して通信販売で購入することができる。そして,請求人製品は,一般家庭のみならず,全国の旅館,レストラン,図書館,大学(武庫川女子大学等),美術館(国立新美術館等)などの施設においても使用されている(甲10,11,17,33,34,37,44,45,93の17,甲100の2,甲101の1?11,甲104?107,甲273の1?11,甲274の1?8)。
(エ)請求人製品の販売実績
a 請求人製品は,1950年(昭和25年)以降,世界中で60年以上の長期にわたり,70万脚以上が販売されたと推定され,また,2003年(平成15年)から2010年(平成22年)までの期間では,約24万脚が販売され,家具の中では,ロングセラー商品として際だった実績を上げている(甲27,93の18,甲100の2)。
b 請求人製品は,日本国内においても,継続的に販売されており,以下のとおり,資料によって確認されている限りでも合計9万7548脚が販売されている(甲93の1?16,甲101の1?11,274の1?8)。
平成6年7月?平成6年12月 2119脚
平成7年1月?12月 4342脚
平成8年1月?12月 4478脚
平成9年1月?12月 5268脚
平成10年1月?12月 4686脚
平成11年1月?12月 4704脚
平成12年1月?12月 5496脚
平成13年1月?12月 5608脚
平成14年1月?12月 5631脚
平成15年1月?12月 6212脚
平成16年1月?12月 6904脚
平成17年1月?12月 6936脚
平成18年1月?12月 7824脚
平成19年1月?12月 9018脚
平成20年1月?12月 7562脚
平成21年1月?12月 7414脚
平成22年1月?6月 3346脚
(オ)広告宣伝等
a 請求人Bは,請求人製品について,国内有数の家具展示会である東京国際家具見本市(平成5年?平成7年,平成9年?平成13年,平成15年,平成19年),IFFTインテリアライフスタイルリビング展(平成20年),インテリアライフスタイル展(平成18年?平成21年)等の展示会への出展や,東京デザイナーズウィーク(TOKYO DESIGNER’S WEEK,平成10年?平成13年,平成15年,平成16年,平成18年,平成19年)に参加したほか,自社ショールーム,百貨店等において,展示会を多数開催している。請求人Bは,平成5年から平成21年までの間に,展示会出展等のため,少なくとも3221万0131円を支出した(甲8,38,39,96の1,2,甲97の1?15,甲102の1?4)。
b 請求人製品は,1960年代以降,日本国内において,多数回にわたり,雑誌(「室内」,「商店建築」,「CASA BRUTUS」,「モダンリビング」,「ELLE DECOR」,「クロワッサン」,「BRUTUS」,「ミセス」,「VERY」,「美しい部屋」等),インテリア用語辞典,インテリアコーディネーター試験問題集,中学生向け教科書,新聞等において,紹介記事及び広告等が掲載されている。そして,請求人B及びフーバ・インターナショナルは,平成元年から平成22年までの間,請求人製品の宣伝広告費として,少なくとも1億2000万円以上の支出をした(甲12,14,14の1?4,甲15,16の1?4,甲26,56,57?78,79の2,甲87?92,94,95の1?11,甲98の1,甲98の1の1?6,甲98の2,甲98の2の1?13,甲98の3,甲98の3の1?35,甲98の4,甲98の4の1?6,甲98の5,甲98の5の1?15,甲98の6,甲98の6の1?4,甲98の7,甲98の7の1?19,甲98の8,甲98の8の1?4,甲98の9,甲98の9の1?5,甲99の1?16)。
c 請求人製品に関する雑誌等の記事では,ほぼすべてに,請求人製品の写真が併せて掲載され,読者において,請求人製品の上記形状の特徴を認識できるような態様で紹介されている。
また,請求人製品を紹介した記事には,以下のような説明がされている。例示すれば,「日本でもっとも多く売れた輸入椅子といわれる『Yチェア』。家具に少しでも興味のある人なら,その姿を一度は目にしたことがあるはずだ。」(甲12[No.3]),「数多いウェグナー作品の中で,最も日本人に人気があり,かつ,最も多く売られた椅子が,この“Yチェア”である。これまでに全世界で50万脚以上が売られた,彼の作品中,最大のベストセラーである。」(甲12[No.27]),「ウェグナーの最大のベストセラー。日本でも特に人気が高い。」(甲12[No.38]),「その東洋的なフォルムと木材を生かした美しさが日本人の心をとらえ,一般家庭やレストランで数多く使われている。」(甲12[No.40]),「日本で一番のロングセラーの輸入椅子といったら,断然ウェグナーの『ウイッシュボーンチェア』(Yチェアのこと)でしょう。」(甲12[No.44]),「ハンス・ウェグナー・・・1月26日(審決注・2007年1月26日を示す。),コペンハーゲンで死去,92歳。世界的に知られる家具デザイナーで,背を支える支柱が『Y』字形の『Yチェア』は日本でも人気。」(甲12[No.51],甲77),「ウェグナーの500点を超える作品の中で,日本人に最も愛されるベストセラーとして認知されているこの椅子・・・」(甲12[No.61]),「中国の椅子をデザインモチーフにしてうまれたYチェアは,日本でも人気の高い作品だ。」(甲12[No.93]),「Yチェアは1950年にデンマークで産声を上げて以来,今日までそのデザインを変えることなく世界中で愛用され,日本でもダイニングチェアとして絶大な人気を誇っています。」(甲12[No.96]),「このYチェアはウイッシュボーンチェアとも呼ばれ,ウェグナーの中で最もよく売れた椅子のひとつ。特に日本で人気が高い。・・・日本の住宅建築雑誌では竣工時の住宅の写真にしばしばYチェアが使われた。」(甲12[No.97]),「たとえば,現在,建築家がデザインした日本の住宅の室内写真を,建築雑誌でながめてみると,そこに置かれている椅子の,これはわたしの印象なのだが,おそらく50%以上が,同じ椅子である。ハンス・ウェグナーがデザインしたYチェア(1949年)だ。」(甲12[No.145]),「日本人にもっとも馴染み深いウェグナーの椅子といえば,『Yチェア』(1949年)。」(甲12[No.202]),「Yチェア。日本で最もよく売れているウェグナー作品。」(甲12[No.240]),「全体から発せられる温かみが,我々日本人の心をグッととらえてすでに半世紀。Yチェア愛好者はなおも増殖中である。」(甲14[No.370]),「巻末のカタログ請求葉書で『ぜひ欲しい名作椅子』をアンケートしたところ,・・・男女年齢を問わず幅広い層の人気を得て,堂々1位に輝いたのは,ハンス・J・ウェグナーのYチェアーでした。獲得総数58人で,2位を大きく引き離し,なんと回答者の3人に1人は,この椅子をあげた勘定になり人気のほどがうかがえます。」(甲14[No.394],甲57),「Yチェア・・・日本でも人気の高いデニッシュチェアの代表作です。」(甲14[No.458]),「日本で最も売れている2脚のベストセラー(審決注・Yチェアとアルネ・ヤコブセンのデザインに係るセブンチェアのことを示す。)・・・実際にこの2脚はダイニングチェアのベストセラーとして,圧倒的に他者をリードして売れ続けています。・・・ワイチェアですが,そんなウェグナーの作品の中にあっては比較的リーズナブルであるというのも,ベストセラーの秘密の一端であるように思えます。」(甲14[No.488],甲74),「日本でも,『輸入されている外国椅子の中では最も長期間輸入され続け,輸入量の最も多い椅子』と言われていますし,・・・それほどYチェアは日本人にもすでに馴染みの椅子,ということができるでしょうし,日本のインテリア空間にもマッチしたものとも言われます。」(甲14[No.524]),「数多いウェグナー作品の中で,最も日本人に人気があり,かつ,最も多く売られた椅子が,この“Yチェア”である。」(甲14の3),「日本でも定着した感のある北欧家具。とりわけ有名なのがウェグナーのYチェアです。」(甲26[No.542])。
d なお,請求人製品が掲載された,主な雑誌,書籍等の公称発行部数は,「モダンリビング」(アシェット婦人画報社)4万部,「ELLE DECOR」(アシェット婦人画報社)7万部,「クロワッサン」(マガジンハウス)約30万部,「BRUTUS」(マガジンハウス)約8万部,「ミセス」(文化出版局)11万部,「VERY」(光文社)約28万部,「美しい部屋」(主婦と生活社)約5万部である(甲43,46,47)。
(カ)第三者商品への対応
請求人製品に類似した形状の椅子(中国製等)は,インターネット上で少なからず販売されているが,ほとんどの商品は,「Yチェア」の「ジェネリック製品」,「リプロダクト製品」などと称して,オリジナル製品として請求人製品が存在することを前提とした説明が付されており,請求人製品と類似した形状の椅子を安価に購入しようとする消費者に向けた商品となっている。これに対し,請求人Bは,以下のとおり,「Yチェア」等の登録商標(文字商標)を用いる業者や,請求人製品に類似した形状の椅子を販売する業者に対し,文字商標の使用中止や類似品の販売中止を求める警告書を送付したり,口頭で警告を行ってきた。
a 川口タンス店は,そのホームページ「E-Comfort」において,請求人製品に類似した形状の中国製の椅子を,請求人製品の「ジェネリック製品」として販売していた。請求人Bは,デンマークの著名な家具メーカーであるフリッツハンセンと共同で,川口タンス店に対し,平成19年6月27日付け,同年8月1日付け,同年10月22日付け各警告書等を送付し,上記商品の販売中止及び「Yチェア」,「ハンス J.ウェグナー」,「カール・ハンセン」等の表示の使用中止等を求めた(甲40の11,甲49の1,2,甲110?118)。
b 請求人Bは,平成20年4月9日に株式会社大秀,有限会社みずのかぐ及びArtChairに対し,同月18日に有限会社マキコーポレーションに対し,それぞれ,請求人製品に類似した形状の椅子の製造・販売は,不正競争防止法違反のおそれがある旨の警告をした(甲133,139,144,159)。
c 請求人Bは,いずれも文字商標である,「Yチェア」(商標登録第3348396号),「Hans J.Wegner/ハンス J.ウェグナー」(商標登録第4767624号),「Carl Hansen&Son Japan/カール・ハンセン&サン ジャパン」(商標登録第4767623号)に基づいて,ホームページ上で上記商標を使用している業者,プロバイダー,出版社等に対し,警告を行った(甲129,136,141,147,150?152,156,161,164,169,173,177,179の1,甲180の1,甲181,184,191,194,198,202,206,210,213)。
d 請求人Bは,プロバイダー責任制限法に基づき,ヤフー株式会社,アリババ株式会社及び楽天株式会社に対し,請求人製品に関し,商標権を侵害する商品情報の送信を防止する措置を講ずるよう申し入れた(甲217の1,2,甲218?237,238の1,甲239の1,甲240,241,242の1,甲243の1,甲244の1,甲245の1,甲246の1,甲247,248の1,甲249の1,甲250の1,甲251の1,甲252,253の1,甲254の1,甲255の1,甲256の1)。
e なお,請求人Aは,欧州において,Yチェアの著作権に基づき,類似品を販売する業者に対し,販売中止を求める警告書を送付するなどの模倣品排除活動を行っている(甲270,271)。

イ 上記アで認定した事実を総合すると,次の点を指摘することができる。
a 本願商標の特徴的形状を備えた請求人製品(肘掛椅子)は,請求人Aにより1950年(昭和25年)に発売されて以来,材質や色彩にバリエーションはあるものの,その形状の特徴的部分において変更を加えることなく,継続的に販売されている。
b 請求人製品は,日本国内において,昭和33年ころ紹介され,昭和37年ころから平成元年ころまでの間は,百貨店等が輸入し,販売していたが,平成元年にフーバ・インターナショナルSKデザイン事業部が,翌平成2年からはフーバ・インターナショナル及び請求人Aの出資により設立された請求人Bが,それぞれ輸入代理店となり,請求人製品を独占的に輸入し,販売するようになった。請求人製品の販売地域は全国に及んでおり,資料等により,判明している限りでも,平成6年7月から平成22年6月までの間に,合計9万7548脚が販売されており,このような販売数量は,食卓椅子の販売数量全体(甲35参照)と比較すれば必ずしも多いとはいえないものの,1種類の椅子としては際だって多いといえる(なお,請求人製品は,既製品であり,注文を受けてから作る受注品ではない。)。
c 請求人製品は,1960年代以降,日本国内においても,雑誌等の記事で紹介され,日本で最も売れている輸入椅子の一つとの評価がされている。また,請求人製品は,インテリア用語辞典,インテリアコーディネーター試験問題集等の家具業界関係者向けの書籍や,中学生向けの美術の教科書に掲載されるなどの実績を残している。さらに,請求人Bにより相当の費用を掛けて,多数の広告宣伝活動が行われている。請求人Bは,請求人製品について,国内有数の家具展示会等に出展したり,自社ショールーム,百貨店等における展示会を開催したりするなど,請求人製品の周知性を高めるための活動を継続して行った。こうした継続的な広告宣伝活動等により,請求人製品は,一部の家具愛好家に止まらず,広く一般需要者にも知られるものとなっているということができる。
上記に挙げた事実及び前記1(2)アの事実に照らすと,1)請求人製品は,背もたれ上部の笠木と肘掛け部が一体となった,ほぼ半円形に形成された一本の曲げ木が用いられていること,座面が細い紐類で編み込まれていること,上記笠木兼肘掛け部を,後部で支える「背板」(背もたれ部)は,「Y」字様又は「V」字様の形状からなること,後脚は,座部より更に上方に延伸して,「S」字を長く伸ばしたような形状からなること等,特徴的な形状を有していること,2)1950年(日本国内では昭和37年)に販売が開始されて以来,ほぼ同一の形状を維持しており,長期間にわたって,雑誌等の記事で紹介され,広告宣伝等が行われ,多数の商品が販売されたこと,3)その結果,需要者において,本願商標ないし請求人製品の形状の特徴の故に,何人の業務に係る商品であるかを,認識,理解することができる状態となったものと認めるのが相当である。

ウ 以上のとおり,本願商標は,使用により,自他商品識別力を獲得したものというべきであるから,商標法3条2項により商標登録を受けることができるものである。

3 商標法4条1項16号該当性について
本願指定商品について,前記第1のとおり,当審において第20類「肘掛椅子」に補正された結果,本願商標を補正後の指定商品に使用しても,商品の品質について誤認を生ずるおそれはない。

4 結論
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものの,同法3条2項により商標登録を受けることができるものであり,かつ,同法4条1項16号にも該当しないものであるから,原査定は取消しを免れない。
その他,本願について拒絶の理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本願商標(色彩については原本参照)
第1図



第2図



第3図



審理終結日 2010-05-20 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-23 
出願番号 商願2008-11532(T2008-11532) 
審決分類 T 1 8・ 17- WY (X20)
T 1 8・ 13- WY (X20)
T 1 8・ 272- WY (X20)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 正樹 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 田中 亨子
森山 啓
代理人 ▲高▼部 育子 
代理人 塚田 美佳子 
代理人 橋本 千賀子 
代理人 ▲高▼部 育子 
代理人 松原 伸之 
代理人 関口 一秀 
代理人 橋本 千賀子 
代理人 松嶋 さやか 
代理人 村木 清司 
代理人 関口 一秀 
代理人 松原 伸之 
代理人 塚田 美佳子 
代理人 名▲高▼下 嘉奈 
代理人 松嶋 さやか 
代理人 村木 清司 

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