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審決分類 審判 全部取消 商53条使用権者の不正使用による取消し 無効としない 042
管理番号 1243260 
審判番号 取消2009-300523 
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-05-01 
確定日 2011-09-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第3114802号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第3114802号商標(以下「本件商標」という。)は、「セキスイ」の文字を横書きしてなり、平成4年4月1日に登録出願、第42類「宿泊施設の提供,飲食物の提供,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリ-ン印刷,石版印刷,凸版印刷,求人情報の提供,一般廃棄物の収集及び処分,産業廃棄物の収集及び処分,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),測量,地質の調査,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,施設の警備,身辺の警備,医業,健康診断,調剤,植木の貸与,計測器の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テ-プその他の周辺機器を含む。)の貸与,ル-ムク-ラ-の貸与」を指定役務として、同8年1月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第53条の規定により、本件商標の登録を取り消す、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標は、その指定役務について、本件商標の通常使用権者であると推認される株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ(以下「補助参加人」という。)によって使用されたが、広告等において役務の質に関する記載に偽りがあり、その結果、需要者に役務の質の誤認を生じさせた。以下、本件商標の通常使用権者による不正使用の事実を証拠に基づき明らかにする。
(2)通常使用権者による本件商標の使用について
商号に「セキスイ」を含む補助参加人は、被請求人である積水化学工業株式会社(以下「被請求人」という。)のシステム部として、1969年に設立された。その後、1987年に6月に同システム部を分社化して株式会社セキスイ・システム・センターを設立し、2005年に株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「エヌ・ティ・ティ・データ」という。)の資本参加を受け、社名を現在の株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズに変更し、被請求人のグループ企業として現在に至るものである。なお、補助参加人の株主構成比率は、エヌ・ティ・ティ・データ:60%、被請求人:40%である。この事実は、甲第3号証及び甲第4号証により裏付けられる。
ここで、補助参加人がシステム構築サービスを業とする事実並びに補助参加人がエヌ・ティ・ティ・データ及び被請求人の2社のみから出資を受けている事実から、補助参加人の商標である「エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」に接した需要者或いは取引者は「エヌ・ティ・ティ・データ」及び「セキスイ」の出所をそれぞれ示す2つの要部を認識するものである。ところで、被請求人は、日本において需要者に知られた企業であることから、「セキスイ」をその要部として含む補助参加人の商標は、全体観察により本件商標と類似関係にあり、補助参加人は、本件商標の事実上の通常使用権者であることが推認される。
(3)補助参加人が広告する役務の質
補助参加人は、本件商標の指定役務に含まれる第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に関して、役務の質を需要者に伝達する目的で甲第5号証の1、甲第5号証の2、甲第13号証、及び甲第14号証の広告等を実施した。
ア 甲第5号証の1は、被請求人が自社グループ内の企業理念をはじめとした諸所の活動指針について、その内容を社外に告知すべく被請求人のウェブページに公開された「CSRレポート2007」と題する報告書である。なお、この報告書は何人でも閲覧、及びダウンロードが可能とされており、被請求人が不特定多数の一般ユーザに対して、自らの企業活動を大々的にアピールする目的と性格を持ったものである。したがって、同レポートに記載されている内容については、被請求人が責任を持って認証し、被請求人をはじめとした全グループ会社の共通概念と活動として理解するものである。
該当のレポートについて「本レポートの報告対象範囲」として、下記の範囲を指定している。
・「本レポートの報告対象範囲」
・対象組織:積水化学グループの活動を基本としています。
・対象期間:2006年4月?2007年3月(取り組み事例については、2007年6月までの取り組みも含めています)
としている。
また、本レポートの編集方針を明文化している。
なお、「CSRレポート」以前の「環境・社会報告書」についても、被請求人のウェブページ上に「環境・社会報告書2005」、「環境・社会報告書2006」として、平成21年4月現在において、掲載がされており、閲覧、及びダウンロードが可能となっている。
イ 甲第5号証の2は、平成21年4月現在において、被請求人が自社グループ内の企業理念をはじめとした諸所の活動指針について、甲第5号証の1の後継2008年版として、その最新版の情報として社外に告知すべく被請求人のウェブページに公開された「CSRレポート2008」と題する報告書である。該当のレポートについて「本レポートの報告対象範囲」としては、下記の範囲を指定している他に「第三者審査対象範囲」として「検証マーク」を新たに付記している。
・「第三者審査対象範囲」
・本レポートに掲載している情報について、算定方法の妥当性、算定結果の正確性について第三者審査を受けており、その対象となる情報については、各項目に審査済みであることを示す検証マークを記載しています。
・「本レポートの報告対象範囲」
・対象組織:事業活動の主要をなす事業所を中心とした積水化学グループの活動を基本としています。
・対象期間:2007年4月?2008年3月(取り組み事例については、2008年5月までの取り組みも含めています)
としている。
また、本レポートの編集方針を明文化している。
甲第5号証の1及び甲第5号証の2において、共通項目として「企業理念を実現することが、積水化学グループのCSR」と銘打った文面と図表が紹介されている。その中で、被請求人は「ステークホルダーの期待に応え、社会的価値を創造する」ということを企業理念として明文化している。ステークホルダーとは、被請求人からみての「客/ユーザ」にあたることは社会通念上、誤認のないものと思われる。
特に、甲第5号証の2の33ページないし44ページに「2 CSR経営の実践 CS品質での際立ち」なる章を建てて、「感動していただける品質を創出し、お客様満足(CS)を高め続けていきます」と称する活動について詳細かつ具体的に被請求人が提供する役務の質の高さを宣伝している。
具体的には、甲第5号証の2の33ページには、「その変化を先取りして品質に反映していくための情報システムや業務プロセスなどの「仕組みの品質」、従業員の行動に表れる「人の品質」を革新していくことで「モノの品質」が磨かれ、お客側に満足だけでなく感動を提供していくことができると考えています。」と記載されている。さらに、同ページには、積水化学グループ「CS品質経営方針」と題し、「基本方針」として「積水化学グループは、「お客様の声」を貴重な経営資源として位置づけ、「モノづくりのはじまりはお客様の声から」をモットーに、「モノの品質」「人の品質」「仕組みの品質」の革新に積極的に取り組むとともに、お客様や社会に対し新しい価値を提供し続ける」と記載されている。さらに、同ページには、「2.魅力品質の創出」と題して「お客様にとっての価値は何か」を徹底的に追求し、お客様価値を実現する魅力的な商品やサービスを提供し続けることで、お客様との感動の共有を目指します」と記載されている。さらに、同ページには、「4.コミュニケーションの充実」と題して、「お客様や社会との対話を重視し、各国、各地域における関係法令の遵守はもとより、お客様や社会に対し常に誠実な姿勢で接します。特にお客様からの苦情やクレームに対し、迅速かつ親身に行動することで、早期の解決をはかります。」と記載されている。さらに、34ページには、「経営層がお客様から直接ご意見を伺う『CAT(Customer And Top)ミーティング』の実施規模を拡大しました」と記載されている。さらに、39ページには、「CS意識浸透プログラム体系「STAR55」を発展させながら意識・行動革新に取り組んでいます」と題して「積水化学グループでは、2002年度から「STAR55」と名づけたCS意識浸透プログラムを展開しています。」、「リーダーの意識改革を促す『リーダー・プログラム』を実施し、2004年度までに完了させました。2005年からは次のステップとして、業務に応じたCSのあり方を追求する『部門別プログラム』をカンパニーごとに推進」と記載されている。さらに「2007年度は、今後の活動の発展を見据えてプログラムを再整備し、新しい体系で活動しました」と記載され、具体的な活動が「CSリーダー・プログラム」「サービスプロセス・プログラム」「CSコミュニケーション・プログラム」について詳細に宣伝されている。特に40ページには、「サービスプロセス・プログラム」と題して「お客様の期待に応える業務プロセスを構築するプログラムです。サービス業務の考え方や各プロセスを標準化し、継続的に改善を図ることを目指したものです。」と記載されている。さらに同ページには、「CSコミュニケーション・プログラム」と題して「お客様視点でのコミュニケーションスキルの向上を目指したプログラムです。」と記載されている。さらに、43ページには、「『基盤品質』を支える品質管理システム」と題して商品開発から設計、生産準備、生産、販売・サービスの各工程の最終プロセスで品質の「審査」を実施し、品質管理に係る国際規格である「IS09001」の認証取得活動についてチャートを交えて詳細に記載されている。さらに「2007年度は、2事業所で取得し、積水化学グループの認証取得・事業所・部署数は75となりました」と記載されている。さらに44ページには、「お客様への提供価値を定量化する「CS品質経営指標」と題して、「事業に対するお客様の評価を定量化して測定・モニタリングすることで、お客様にどれだけの価値を提供できているかを可視化するというものです。」と記載されている。
ウ 甲第13号証は、補助参加人が2008年7月3日に請求人に対して提示し、説明を行った本件商標の指定役務に係る提案書の複製である。
エ 甲第14号証は、補助参加人が本件商標の指定役務の提供に際して請求人に対して手渡した名刺の複製である。
(4)補助参加人が請求人に対して提供した役務の質
補助参加人は、請求人に対して、平成19年6月1日以降、本件商標の指定役務に含まれる第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に係る役務(以下「本件役務」という。)を提供した。この事実は、甲第6号証(請求人と補助参加人との間で交わされた「国内出願業務支援システム開発第1段階(サーバ開発)」に関する個別契約書)により裏付けられる。
以下、補助参加人が請求人に対して提供した本件役務の質について、各証拠に基づいて説明する。
ア 甲第12号証は、上述の個別契約書に係る役務の対価の支払いに関して、平成21年3月12日に行われた請求人との話し合いにおける補助参加人の代理人弁護士である水谷直樹の発言の録音のディクテーションである。甲第12号証に記録されているように、請求人が、補助参加人が平成20年6月14日に納品した納品物(以下「6月14日版」という。)について、重大な欠陥の存在を指摘したところ、水谷直樹弁護士は「請求人が指摘した7つの欠陥のうち、5つは、6月14日版の納品の後に行われた社内テストで確認されており、少なくとも同年6月24日には改修を終えていたもの(以下「6月24日版」という。)の、その後、請求人の態度が硬化したため単に納品の機会を逸していたものである旨発言している。
その一方で、上述の話し合いにも同席した補助参加人の取締役である桜井寛を含めた補助参加人の役員及び従業員並びにその代理人弁護士水谷直樹は、平成20年10月24日から平成21年1月19日にかけて断続的(合計4回)に実施された請求人及びその代理人弁護士長沢幸男との間の話し合いの席で、補助参加人が納品した納品物(6月14日版を指している。)には重大な欠陥は存在せず、かつ請求人は検収をしたのであるから、直ちにその対価としての金員を払うべきである旨、一貫して要求し続けている。すなわち、少なくとも最初の話し合いである平成21年1月19日に実施された話し合いのはるか以前の少なくとも平成20年6月24日までには社内で重大な欠陥を含む5つの欠陥を自ら確認してその改修を終えていたにもかかわらず、その後少なくとも平成21年3月12日までの約9月間に渡り、6月24日版が存在した事実を隠し続けたうえで、請求人に対して、重大な欠陥があるというなら指摘するように主張していたのである。
このように、補助参加人は、請求人との一連の話し合いの中で交渉を有利に進める、という図利加害目的を持って自ら確認済みの納品物の欠陥に関する重要な事実を隠ぺいする一方で納品物に重大な欠陥は存在しないという虚偽の事実を主張し続け、請求人に不当な支払いを強要せんとしたことは明らかであることが、補助参加人を代表して、代理人弁護士である水谷直樹の自白によって明らかになったのである。
上述した補助参加人の態度は、甲第5号証の1、甲第5号証の2、甲第13号証、及び甲第14号証に示された補助参加人の役務の質と明らかに異なるものである。すなわち、具体的には、貴重な経営資源として位置づけるとしている「お客様の声」を否定し、常に誠実な姿勢で接するとしているお客様である請求人を欺き、迅速かつ親身に行動することで、早期の解決をはかります、としている請求人からの苦情やクレームに虚偽の事実を主張することで反論している。
これら一連の補助参加人の態度は、お客様の期待に応える業務プロセスを構築し、お客様視点でのコミュニケーションスキルの向上を目指し、各工程の最終プロセスで品質の「審査」を実施し、事業に対するお客様の評価を定量化して測定・モニタリングするとしている、被請求人の品質管理活動の内容から大きく乖離している。
その結果、補助参加人が請求人に対して提供した役務の質は、変化を先取りして品質に反映していくための情報システムや業務プロセスなどの「仕組みの品質」、従業員の行動に表れる「人の品質」を革新していくことで「モノの品質」が磨かれ、お客側に満足だけでなく感動を提供する、としている被請求人の役務の質を大きく下回るばかりでなく、請求人に対して感動を提供するどころか、不当な支払いを要求するに及んでいるのである。
イ 甲第7号証の1は、平成19年12月25日に、請求人の事実上の従業員として業務に従事していたNが補助参加人の代表取締役社長である那須龍昭に発信した電子メールである。甲第7号証の1によると、本件商標に基づいて補助参加人が請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の不都合を含んでいた。
(ア)本件役務を通じて補助参加人が開発したシステム(以下「本件システム」という。)は、各特許案件の「最終処分」が登録できないため、「特許査定」、「みなし取下」、「出願中止」等のステータスが把握できず、案件管理上大変な不都合があった。
より具体的には、本件システムにおいて、「最終処分」は特許出願等の案件の恒久的なステータス変更を意味し、これなくしては上記のような出願から特許登録或いは取下、中止といったライフサイクルの管理が完結できず、システム全体としては致命的な仕様上の欠陥と認められるものである。
家屋の設計に例えれば、下水道が備えられておらず、部屋に水が溢れ出す欠陥住宅というレベルの設計上のミスである。
(イ)本件システムは、「国内優先権主張出願」や「分割出願」等の親子関係が登録できないため、基礎出願等を不完全にしか検索することができず、これも案件管理上致命的な問題であった。より具体的には、本件システムにおいて、特許出願等は一群の出願案件グループをなすことがあり、これを一体的に検索し把握することは請求人の基本的なニーズである。
(ウ)本件システムは、「現地代理人」等が登録できないため「外内」案件が管理できない、また「19条補正」等が保持できないため「PCT」案件が管理できない、という問題があった。
ここで、本件システムにおいて「現地代理人」は外国の出願人による日本国における特許出願等を管理する「外内」案件において「依頼者」「顧客」に相当し、料金を請求する相手方を示す基本的な項目である。この項目なくして「外内」案件を全く管理できないことは明白である。
また、本件システムにおいて「19条補正」は国際出願を管理する「PCT」案件において条文上規定された出願人がなすことが出来る手続項目である。この項目なくして「PCT」案件を全く管理できないことは明白である。
なお、上記(ア)ないし(ウ)の各機能は、従来から請求人が使用しており、本件システムの開発の仕様設計の参考として補助参加人が把握していたシステムにも当然備えられている基本機能である。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)でも述べたとおり、このような本件システムが当然備えておくべき基本機能については、コスモテック特許情報システム株式会社が製造し、従来から請求人が当該業務に使用し、補助参加人が少なくともシステム設計時においてその存在を知り得ていたソフトウェアである「PatData World Version」(以下「PDW」という。)の仕様から容易に確認可能であるにも関わらず欠落しており、そもそも本件役務における最も基本的な工程である業務要件定義の段階で欠陥が存在していたことになる。
(オ)補助参加人の従業員であるIは、平成19年11月29日及び平成19年12月13日に実施した本件システムの使用に係る説明会において、本件システムを利用した業務フローについて適切に説明することができず、被請求人が提供する役務の質とは明らかに異なる印象を請求人に対して与えていたことが甲第7号証の1からも認められる。
甲第7号証の2は、甲第7号証の1の電子メールに対し、同じく平成19年12月25日に、補助参加人の代表取締役社長である那須龍昭が返信した電子メールである。
甲第7号証の2によると、甲第7号証の1に示された電子メールに対する返答として、「お詫び」の言葉があることから、甲第7号証の1の電子メールが那須龍昭に送達されたことが裏付けられる。また、甲第7号証の2によると、那須龍昭は「至急最終製品に対して不完全な部分を調査し対策を立てるよう指示」をしたとのことであった。その後、実際に調査が行われた結果、補助参加人は請求人に追加費用を請求することなく本件役務を仕切り直すという対策を講じることとなった。この事実から、補助参加人が甲第7号証の1に記載の請求人の主張を認めたことが裏付けられる。
ウ 甲第8号証の1ないし5は、平成20年2月13日に補助参加人の社員であるYが請求人の事実上の従業員であるNに送信した電子メール及びその添付書類である。甲第8号証の1ないし5によると、請求人が求めるシステムを開発するためには、ステップ1からステップ4の工程を要し、これらの工程を実施するためには、総額で約1億円の工費と2年間以上の工期を要するとのことである。このような全体計画に係る提案書は、仕切り直し前には補助参加人から請求人に対して一切提示されず、請求人の強い要望により初めて作成されたものであった。
エ 甲第9号証は、本件商標に基づいて補助参加人が請求人に対して実際に提供した本件役務のうち、平成20年6月に実施された、システムの本番稼動前の本番データ移行支援等に係る役務の報告書である。甲第9号証によると、本件商標に基づいて補助参加人が請求人に対して実際に提供した本件役務は、少なくとも以下の不都合を含んでいた。
なお、ここにおいて、「本番データ移行」とは開発した本件システムを実際に稼動させるための最終工程である。具体的には、従来から請求人が当該業務に使用していたPDWの業務データを本件システムにコピーし、従来と矛盾することなく業務を継続させるための準備作業のことである。
(ア)「本番データ移行」の準備に係る工数見積が大幅に過小であり、想定外に多大な工数を割いた結果、重要な「本番データ移行」に余裕を持って望むことができなかった。
具体的には、当初、補助参加人は、請求人に対して、平成20年6月14日の本番データ移行日当日(以下「移行日」という。)に、「本番データ移行」の前提である「本番環境構築」を実施し、引き続き「本番データ移行」を実施することを提案していた。
例えていえば、「本番データ移行」は家畜を古い畜舎から新しい畜舎に移動させる作業であり、「本番環境構築」は新しい畜舎の受入準備を整える作業である。すなわち、補助参加人は、請求人に対して、受入準備作業と移動作業の両者を移行日に実施することを提案していた。
しかしながら、この移動作業予定日の数日前になっても、補助参加人によるこれらの一連の作業の段取りに関する説明が要領を得ず、請求人から提起された質問に対する回答にも長時間を要することが多くあったため、請求人として無事に移動作業が完了できるのか、移動作業後も、業務を引き続き継続することが出来るのか、不安にならざるを得ない状況に追い込まれた。
本件システムの開発において、最も重要なイベントのひとつであるこの移動作業を直前に控え、補助参加人からの適切な指示やアドバイスが受けられず、このような極限状態に追い込まれた請求人は、「本番データ移行」を確実に実行するために「本番環境構築」を移行日前日までに完了しておくことを決断した。
その結果、この「本番環境構築」には請求人の従業員2人がそれぞれ7時間以上のべ14時間以上の作業時間を要した。すなわち、仮に補助参加人の提案に従って、移行日に「本番環境構築」を実施していた場合、移行日には「本番データ移行」は完了しておらず、作業の完了が出来ないばかりか、翌日以降の業務の遂行が不可能になるおそれが生じていたことは明白である。このように、最も重要なイベントの前日に、請求人は、補助参加人の役務の質が広告でうたわれているレベルからはるかに低いレベルであることを知るに至るのである。
(イ)本番データ移行を失敗した場合の切り戻し計画を作業当日まで全く考慮しておらず、注意喚起することもなかった。
ここで、「切り戻し」とは「本番データ移行」が失敗した場合に、本件システムを業務に使用することを中止して、従来のPDWで当該業務が実施できる状態に戻すことを意味する。当該業務は請求人の主要業務であり、当該業務が実施できない場合、請求人は多大な経済的損失を被るため、「切り戻し」の検討及びその支援は本件役務において極めて重要であった。
しかしながら、実際には、「本番データ移行」の当日まで補助参加人から請求人に対してこの「切り戻し」に関する説明及び注意喚起は一切無かったために、不安を覚えた請求人が補助参加人の従業員であるIに尋ねたところ、その検討がなされていなかったことが判明した。そして、「本番データ移行」の当日になって、この重要な項目に関する検討を実施することになった。この事実も、補助参加人が提供すべき役務の質が広告されたレベルからかけ離れて低いものであったことを示していることはいうまでもない。
したがって、「本番データ移行」の段取り説明や請求人の質問への回答が出来ず、「切り戻し」に関する説明及び注意喚起が一切無かった事実は、上記広告のとおり補助参加人が本件役務の提供者として当然有しているべき注意義務を欠いていたことを裏付けている。
(ウ)請求人が細かく指摘しないと、自らは何もしないという姿勢が終始見られ、請求人に示唆を与えるという行為や姿勢が残念ながら殆どなかった。
上記のような姿勢は枚挙にいとまが無く、例えば移行日より更に前のテストの工程においても、本来は補助参加人による本件役務に含まれるところのテストシナリオの作成やテスト環境構築手順において、実質的に請求人がその作業を代行する局面も多々あった。
具体的に一例を挙げると、甲第8号証の2に示すとおり、21ページに記載の作業項目「システムテスト項目の抽出」及び「システムテスト計画書の作成」は、補助参加人の担当業務であり、請求人は作業内容のチェックを行う役割分担となっている。
しかしながら、実際には、補助参加人の従業員であるIは予定の期日になっても当該作業はいっこうに行わず、また、そのためのヒアリングを行うこともなかった。こうした状況に不安を覚えた請求人の事実上の従業員であるNは、その作業を肩代わりして、「システムテスト項目の抽出」を自ら行い、「システムテスト計画書」を自ら作成せざるを得ない状況に追い込まれている。
これらの事実は、平成20年3月14日にNが補助参加人の行なうべき作業を肩代わりして「システムテスト項目の抽出」及び「システムテスト計画書の作成」を行なった成果物を含む「システムテスト計画」(甲第10号証の1)及び、請求人が補助参加人に同システムテスト計画を添付ファイルとして送付した電子メール(甲第10号証の2)により明確に示されている。
この例に示すとおり、補助参加人は、自らの分担として提案した業務すら行なうことがなく、顧客である請求人にその作業を肩代わりさせているのである。このように、補助参加人が請求人に対して提供した役務の質は、広告されたレベルに比べて著しく低いと認められるばかりか、それ以前に、当然に提供すべき役務の一部を提供していないのである。
(エ)補助参加人の管理者は部下の作業内容を把握しておらず、システムの重要な仕様についてプロジェクトのメンバーの認識が相違し、さらに、このような事情を請求人にさらして請求人にシステムの品質について疑念を抱かせた。
具体的には、移行日に次のような事象が発生した。補助参加人の従業員であるIは、本件システムに含まれる「本番データ移行機能」について、まさに当該機能を使用して本番データ移行を実行している最中に、「当該機能を使用すると移行元のPDWのデータが元の状態では無くなる」旨の発言を行った。この発言内容は、移行元のPDWのデータは元の状態のままであるとしていたIの上司であるYの認識とは異なるものであった。この発言が正しければ、直前に検討した「切り戻し」プラン及びひいては請求人が本件システムを受人れるために実施してきた膨大なテストの信憑性を揺らがせることになるため、Yは、このIの発言を受けて、大変驚いてIに発言の真意を質したが、それに対してIは満足な説明をすることができなかった。
このように、請求人は、補助参加人の本件システムに関する理解の程度の低さと担当者問のコミュニケーションの欠落とから、本件システムの品質及び本件役務の質が広告されたレベルに比べてはるかに低いものであることを認識するに至った。
オ 甲第11号証の1(本件システム納品後の不具合ログ)及び甲第11号証の2(本件システム納品後の不具合管理表)は、平成20年4月25日の本件システム納品後に、請求人が発見した本件システムに係る障害記録である。本件システムには、極めて次元の低いシステムログに係る障害や、考慮が足りないことに起因する障害が散見される。
ここで、ログとは、「コンピュータの利用状況やデータ通信の記録を取ること。また、その記録。操作やデータの送受信が行われた日時と、行われた操作の内容や送受信されたデータの中身などが記録される。(出典:ウェブサイト(IT用語辞典」)」であり、本件システムのような業務システムは、日時データを含むこのような記録を残すことが常識的に行なわれている。例えば、航空機事故におけるブラックボックスのように、事後にシステムの不具合などを分析するためには当然に事象が発生した日時を特定する必要があるからである。
しかしながら、補助参加人が作成したシステムにおいて出力されるシステムログは、「時刻」は記録されるものの、「日付」が出力されないものがあり、上述のログの必須の要件を欠いていることは明白である。
さらに、補助参加人が作成したシステムにおいては、何らのメッセージも残さずにシステムダウンを引き起こす不具合が発見されている。
ここで、システムダウンとは、「コンピュータシステムが予期せず動作停止状態になること。狭義には、アプリケーションソフトやOSが異常終了すること。(出典:ウェブサイト「IT用語辞典」)」である。本件システムにおいては特定のボタンを複数回押すなどの単純な操作でシステムダウンが発生する。
一例を挙げると、甲第11号証の1に記載のとおり、本件システムの「業務期限タブ」において、「業務区分」を複数回選択するという単純な操作により、このシステムダウンは発生する。
また、さらに一例を挙げると、甲第11号証の2において、項目番号第32番に記載のとおり、「マスタ管理」において、「進捗ステータスマスタで、新規行の「削除」をチェックしてからチェックをはずす」という発生する単純な操作を行なうと、復旧不能なシステムダウンが発生する。
ここで、システムダウンする場合であっても、一般には利用者に対してシステムダウンの原因に関する情報を提供するメッセージを残し、利用者の利便性に資する設計を行うことが多いが、本件システムにおいてはそのような配慮がほとんど見られず、ログを出力しない。このため、システムダウンの原因を早期に特定し、早期にシステムを復旧するための手がかりが何もなく、業務停止の期間が長期間に及ぶことになることは明白である。
すなわち、補助参加人が作成したシステムにおいては、銀行におけるATMシステムがダウンしたり、鉄道の信号機システムや航空管制システムがダウンしたりした場合、復旧のための手がかりとなるログがないため、システム停止期間が長期間に及び、被害がどんどん拡大するのと同様の事態が起こり得る。
(5)役務の質の誤認
被請求人は、本件商標の指定役務に含まれる第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に関して、役務が高質であることを需要者に伝達する目的で甲第5号証の1、甲第5号証の2、甲第13号証及び甲第14号証の広告等を実施した。
しかしながら、補助参加人が請求人に対して提供した役務は、甲第7号証の1ないし甲第12号証に示すように、上記広告等に記載される内容とは乖離した低質の役務であった。
すなわち、上記の広告等とともに本件商標を視認した請求人は、上記役務について説明される高い質を、事実上の通常使用権者たる補助参加人に対して期待していた。
しかし、自らの商標の一部として本件商標を上記役務について使用する補助参加人が、請求人から期待された役務の質を提供できなかったことで、本件商標が、役務の質の誤認を生じさせていた。そして、請求人のみならず一般世人であれば、上記の広告等の内容から、上記役務について説明される高い質を、本件商標に対して期待するものであるから、このような本件商標の使用は、需要者保護の観点から到底許されるべきではない。
(6)被請求人の監督義務
請求人は、上記役務の提供を受けた期間において、被請求人からの指揮監督により、補助参加人の上記役務の質が向上する措置を受けたことはなく、さらに、本審判請求日である2009年4月30日(審決注:審判請求書の差出は、同年5月1日である。)現在まで、補助参加人に対して、被請求人から何らの上記役務の向上についての対応案は提示されていないことから、被請求人は補助参加人の監督義務を怠っていたと推認できる。
(7)まとめ
以上のように本件商標は、上記の広告等により、「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」の役務において高質であるという印象を、需要者に対して与えていた。これに対して、事実上の通常使用権者である補助参加人が請求人に対して提供した役務の質は、上述したように極めて低質であった。したがって、本件商標は、一般需要者に対し、役務の質の誤認を生じせしめたことは明白である。
したがって、本件商標は、商標法第53条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人は、「1 はじめに」の項で、請求人はシステム開発委託契約(甲第6号証、乙第1号証及び乙第2号証)に係るプログラムの納品を受け、検収書(乙第3号証の1及び2)を発行しておきながら、開発委託料の支払いを拒んだ上で本件取消審判を請求した旨主張し、さらに、本件取消審判の請求を審判請求の濫用である旨主張する。
しかし、以下で詳述するとおり、納品されたプログラムは品質が劣悪であり、実際に使用に耐えないものであったにもかかわらず、補助参加人は検収書の受領という形式的な根拠のみに基づいて、システムの稼動前に請求書の発行を行なったものである。
そして、補助参加人が請求人に提供した役務の質は、本件商標あるいは本件商標に類似する商標が付された補助参加人の広告を信用してシステム開発を委託した請求人の期待を大きく下回る劣悪なものであった。このために、補助参加人によるその指定役務についての登録商標あるいは本件商標に類似する商標の使用により役務の質の誤認が生じている。
さらに、被請求人は、当該事実について、商標法53条第1項に規定する「相当の注意をしていた」旨の主張をしていない。このため、被請求人の主張は、「相当の注意をしていた」事実はない旨を認める趣旨と思料される。
したがって、答弁書の「1 はじめに」の項における被請求人の主張には、理由がなく、全て失当である。
以上を勘案すると、請求人による本件取消審判の請求は商標法第53条に規定された審判請求の要件を全て満たしている。
(2)被請求人は、「補助参加人は、本件商標を、自己を特定するための名称としても、役務の提供に関連する商標としても使用していることはなく、これと共に、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けていることもない」と主張する。
しかし、以下に述べるとおり、当該主張には理由がなく、全て失当である。
ア まず、被請求人は、「補助参加人において、自己の名称ないし略称として、本件商標を使用することは、事実として存在していない」と主張する。
しかし、補助参加人のウェブページの写し(甲第15号証の1及び2)及び補助参加人の名刺の写し(甲第14号証)に示すとおり、補助参加人は、本件商標を含む「NTTデータセキスイシステムズ」を、ウェブページ及び名刺のそれぞれ見やすい位置に表示することにより使用をしている。標章「NTTデータセキスイシステムズ」の使用は、本件商標の使用であるか、あるいは、本件商標に類似する商標の使用であることは明らかである。
したがって、標章「NTTデータセキスイシステムズ」の使用は、本件商標あるいは本件商標に類似する商標の使用である。
一方、被請求人はさらに、「NTTデータセキスイシステムズ」等と本件商標とは互いに同一ではなく、類似していることもない旨主張する。
しかし、「NTTデータセキスイシステムズ」は本件商標を含むから、標章「NTTデータセキスイシステムズ」の使用は本件商標の使用であり、あるいは、標章「NTTデータセキスイシステムズ」を全体として考えても、当該標章と本件商標が互いに類似していることは明らかであるから、被請求人の主張は独自の論理と言うほかなく、失当であることは明らかである。
イ 被請求人は、「補助参加人は、顧客に役務を提供することに関連しても、本件商標を使用することはない」と主張する。
しかし、上述のように、補助参加人は、そのウェブページ及び名刺において本件商標に類似する商標を広告的使用態様で使用しつつ、当該広告的使用態様における広告の対象であるシステム開発にかかる役務を請求人に提供したのであるから、補助参加人は、本件商標あるいは本件商標に類似する商標をその指定役務である第42類「電子計算機プログラムの設計・作成又は保守及びこれらに関する助言・指導」に使用していることは明らかである。
なお、被請求人は、補助参加人のウェブページにおいて、当該図形商標を「右肩部分」に「小さく」表示しているから、「商標として使用されていることを示すものとはいえない」旨主張している。
しかし、ウェブページにおいて、「右肩部分」を含む上部の位置は最も目立つ場所であるから、当該主張は、当該図形商標を商標として使用(商標法第2条第3項第8号)している事実を自白するものである。
ウ 被請求人は、「補助参加人は、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けていることはない」と主張する。
しかし、商標法第53条において規定されている「通常使用権者」は、文書による使用許諾契約に基づくものだけではなく、事実上の使用許諾に基づくものも含まれる。
ここで、甲第4号証に示すとおり、被請求人と補助参加人とは、いわゆるグループ企業の関係にある。したがって、被請求人は、補助参加人による本件商標に類似する商標の使用について、当然認識しているはずであるにもかかわらず、補助参加人に対して何ら権利行使をしていない。このため、被請求人が補助参加人を事実上の使用権者として認識していることは明らかである。
(3)被請求人は、「請求人が甲第5号証の1及び2、甲第13号証及び甲第14号証を引用した上でなす役務の質に関する主張は全て失当である」と主張する。
しかし、以下に述べるとおり、当該主張には理由がなく、当該主張は全て失当である。
ア まず、被請求人は、甲第5号証の1及び2に示された文書は請求人の作成にかかる文書であり、補助参加人の作成にかかるものではない旨主張している。
さらに、当該文書に含まれるシステムの品質向上への「8つの取り組み」は「今後」の「取り組み」として、一般的ないしは抽象的な内容が記載されているだけ」とし、上記「取り組み」においては、今後目指すべき目標が記載されているに過ぎない旨主張している。
上記記載から明らかなように、甲第5号証が引用するウェブページは「今後」の「取り組み」や「一般的ないしは抽象的な内容」ではなく、「具体的」な取り組み内容が現在形の文体で記載されている。したがって、「今後目指すべき目標が記載されているに過ぎない」との被請求人の主張は事実誤認に基づくものであり、失当である。
イ 被請求人は、顧客以外の者を含む不特定多数者の閲覧を前提としているウェブページ上において、役務の内容や質が規定されたり、約定されたりするものでない旨主張する。
しかしながら、当該ウェブページに接した需要者は、そこに記載された事項に基づいて、役務の内容や質に期待をするのは当然である。したがって、被請求人による当該主張は社会通念と大きく乖離した独自の論理にすぎず、失当である。
ウ 被請求人は、「請求人の甲第14号証に基づく主張は失当である」と主張する。
しかし、名刺に「セキスイ」というわが国で一流とみなされている企業の名称を含む名称が記載されている以上、それに接した需要者が一流の役務の質を期待するのは当然であるから、被請求人の主張は失当である。
(4)被請求人は、「補助参加人が請求人に対して提供した役務の質に関する主張も全て失当である」と主張する。
しかし、以下に述べるとおり、当該主張には理由がなく、全て失当である。
ア 被請求人は、「請求人の上記主張は、補助参加人と請求人とが、いずれも代理人を介して行った開発委託料の支払交渉の際の態度に関するものであり、補助参加人が請求人に対し提供した役務、すなわちシステム開発の内容に関するものではない」と主張する。
しかし、「開発委託料の支払交渉」は「システム開発の内容」も含むのであるから、「システム開発の内容に関するものではない」という被請求人の上記主張には理由がなく、失当である。
また、被請求人は、「補助参加人においては、請求人の指摘事項につき、それよりはるか以前に修補済であり、請求人が協力の態度を示しさえすれば、いつでも納品する用意があったのであるから、上記主張は、事実としてもおよそ的外れなものである」と主張する。
しかし、請求人の上記主張を支持する証拠はまったく示されておらず、上記請求人の主張には理由がなく、失当である。
イ 被請求人は、本件開発対象が、特許出願支援プログラムである点、担当者が弁理士である点、補助参加人側が専門知識を有していない点等を挙げて責任逃れを試みている。
しかしながら、そもそも要求仕様を漏れなくヒアリングしたり把握したりする業務は、逆にシステム開発の専門家である補助参加人の基本業務である。しかも、「最終処分」、「国内優先権主張出願」、「分割出願」等の親子関係、「現地代理人」、「19条補正」の各項目については重要事項であり、いずれも記録できなければ致命的な仕様上の欠陥となる項目である。これらの項目は、審判請求書にも記載したとおり、少なくとも従前に請求人が使用している「PDW」の仕様から容易に確認可能であったのであるにもかかわらず、補助参加人はこの確認を怠ったのである。
被請求人は、このような補助参加人の基本的な業務範囲に属する部分の致命的なヒアリングミス・把握ミスについて、佐藤弁理士から指示を受けておらず、「業務支援システム基本設計書第1.0版」(乙第4号証)について佐藤弁理士の確認を受けている旨主張して、責任逃れを試みているようである。
このように、補助参加人の基本的な業務領域である要求仕様のヒアリング・把握業務に関する致命的なミスを頻発させること自体、本件商標を信用した請求人の期待を裏切る行為であるが、そのうえ、その責任をシステムの専門家ではない請求人側に転嫁せしめんとする行為は、システムの専門家である補助参加人にシステム開発業務を委託する請求人の期待を完全に裏切るものである。これらの点からも、商標法第53条に規定された「役務の質の誤認」が生じていることは明らかである。
なお、被請求人は、「同弁理士の指示によれば、請求人が前記イで主張する項目類はPDW側で管理するから、開発対象のシステムにおいては登録は不要とのことであった」旨主張をしているが、事実無根である。これらの項目は案件の管理上重要なものばかりであり、そのような指示を行なうことはあり得ない。
被請求人はさらに、那須社長の返信メールは単に顧客に「丁重」に接していたことを単に示しているに過ぎない旨主張している。
しかし、那須社長の当該返信メールは、顧客から納期直前になって「致命的な問題」を指摘されていながら「不完全な部分」を社内ですぐに把握できない事実を認めるものであることは明らかである。
ウ 被請求人は、補助参加人は佐藤弁理士から、当初はPDWと併行運用する予定と聞かされ、後になって併行運用を行わずに開発対象のシステムだけの単独運用を行う方針転換の旨を聞かされた旨を主張し、全体計画を当初から提示していなかったのは当然とまで主張している。
しかし、そもそも本件システムの開発はPDWという従来使用しているシステムの乗り換えを意図して始まっており、途中で「方針転換」があった事実はない。システム開発の専門家である補助参加人は、その最終形態を確認してシステム設計に当たるのが当然である。
したがって、被請求人は、システム開発の専門家であれば当然の行為を、顧客から言われなければ行わなくとも当然と言い逃れんとする事実自体が、需要者たる請求人の期待を完全に裏切るものである。
エ 被請求人は、乙第5号証の2を引用して、本番データ移行作業前に先行して実施できる作業については、移行当日前までに極力実施することが確認されている旨及び「本番環境構築」作業は移行当日前までに実施する作業に含まれることが確認されている旨主張している。
しかし、乙第5号証の2には、「本番環境構築」作業が移行当日前までに実施する作業に含まれる旨の記載は一切含まれておらず、被請求人の主張には根拠がない。
さらに、審判請求書に記載したとおり、移行予定日の数日前になっても、請求人は補助参加人による本番環境構築作業の段取りに関する説明を受けられなかったのである。
被請求人はこのような事実関係を誤認しているか、あるいは意図的に事実関係を歪曲せんとしているのである。
被請求人はさらに、乙第6号証の2を引用し、システムテスト設計書を請求人側で作成することを合意した旨主張している。
しかし、システムテスト設計書は、開発したシステムがシステム設計どおりに稼動していることをチェックするものであり、システム設計を行った補助参加人がシステムテスト設計書を作成することが効率的であることは、いわゆるシステム開発に係る業界においては常識的事実であり、システム開発に関して専門家ではない顧客である請求人側で作成することは通常は考えられないことである。
事実、甲第8号証の2に記載されているとおり、当初は当該業務は補助参加人の責任範囲であったところ、補助参加人の従業員であるIが「システムテスト項目の抽出」及び「システムテスト計画書の作成」を予定の期日になっても実施せず、提供する役務の質があまりに劣悪であるために、やむにやまれず請求人が負担せざるを得なかったのである。被請求人は、このような重要な事実関係について何ら言及・釈明していない。このため、被請求人の主張は、補助参加人の提供する役務の質が劣悪であることを自白する趣旨と思料される。
被請求人はさらに、本番データ移行作業を平成20年6月14日に行い、同日中にその本番データ移行作業を完了した旨、請求人側の担当者が、登録に至っていない出願案件について、権利満了日の欄に具体的日時が表示されている例があることを確認した旨、同担当者が本番データ移行作業が正確に行われておらず、同作業に失敗したものと早合点した旨、同担当者があわてて切り戻し作業を行った旨を主張している。
しかし、甲第9号証に示されるとおり、データ移行の際の補助参加人の役務の質が劣悪であることを基礎付ける事実が存在するにもかかわらず、被請求人は当該事実について何ら言及していない。具体的には、登録に至っていない出願中の案件であるにもかかわらず、権利満了日の欄に具体的日時が表示されている例が出現する異常な現象が発生した。そして、請求人が補助参加人の担当者に対して、その現象が発生する理由をただしても明確な回答ができなかったという事実がある。そのような事実が存在するにもかかわらず、被請求人は当該事実について何ら言及していない。
なお、請求人が、データ移行中に起きたこのような現象に関して明確な説明をすることができなかった補助参加人の役務の質に不安を覚え、切り戻し作業を行う旨の決定をした過程には何ら問題はない。
被請求人は、上記切り戻し作業について、請求人の「早合点」による「軽率な判断」であった旨を何らの根拠なく主張しており、このような主張は請求人にその責任を転嫁せんとするものにすぎず、反論の体をなしていない。
そして、被請求人は、上述したデータ移行の際の補助参加人の役務の質が劣悪であった事実関係に一切言及もしなければ釈明もしていない。このため、被請求人の主張は、補助参加人の提供する役務の質が劣悪であることを自白する趣旨であると思料される。
被請求人はさらに、切り戻し計画は請求人側で検討すべきものと主張している。しかし、システム設計を行った補助参加人から何ら情報の提供を受けずに切り戻し計画を策定することなど不可能であるにもかかわらず、本番データ移行の当日まで補助参加人から請求人に対してこの「切り戻し」に関する説明及び注意喚起は一切無かったために、不安を覚えた請求人が補助参加人の従業員であるIに尋ねたところ、その検討がなされていなかったことが判明したというのが実態である。
被請求人の主張は、このような事実関係に一切言及・釈明せず、切り戻し計画の策定についてあたかも全てが請求人の責任であるかのような言い逃れをしているにすぎず、被請求人自身が、補助参加人の提供する役務の質が劣悪であることを自白するものである。
オ 被請求人は、東京地裁平成9年2月18日判決(平成4年(ワ)第14387号、平成5年(ワ)第16569号)を引用して本件システムにおけるバグの存在は許容すべき旨主張している。
しかし、本事案においては、本件システムが実稼動に至る前段階において、数時間試しに使用を試みただけで重大なバグが次々と発見されているのである。このことから、本事案は、同判決においてもシステム開発者側の責任を認めるべきケースである。すなわち、本事案は、「バグといえども、システムの機能に軽微とはいえない支障を生じさせる」ものであり、「その数が著しく多い」ことが容易に推認されるケースである。
被請求人はさらに、ログ出力について、「故障発生の際の確認等の場合を除けば、格別必要となるものではなく」と主張している。
しかし、ログは、システム障害が発生し、迅速に障害の原因を究明して対策を講じなければならない場合に、原因の究明の足がかりとなるものであり、急を要する事態が発生した場合に効力を発揮する非常に重要な機能であることはシステム開発における常識である。
被請求人は、このような本件システムの重要な機能にかかる欠陥を、「定常運用」に影響を与えず、故障発生時以外は「格別必要」ではないものであるから、「程度として極めて軽微であることが明らかである」と主張しているものである。
被請求人の上記主張は、自らの提供する役務の質が劣悪なものであることを自白しているものである。
ところで被請求人は、「甲第11号証の1を引用したうえで、本件システムにおいて、何らのメッセージも残さずにシステムダウンを引き起こす例があることが確認されたと主張するが、この点に関しては、補助参加人において、請求人からの今回の指摘を受ける以前の平成20年6月中に確認している。」と自白している。
補助参加人は、このような重大なバグの存在を確認しながらも、それ以降、断続的に行われている請求人との交渉において、その事実を隠蔽し続け、「検収を受けた本件システムにバグなど存在しない」と主張し続けているのである。
この事実は、同交渉において請求人代理人であった長沢幸男弁護士が確認しているところである。
補助参加人の請求人に対するこのような態度及び姿勢は、広告された品質レベルはおろか、顧客を愚弄するものであり、社会通念に照らしても到底許されるものではない。補助参加人のこのような態度及び姿勢は、本件商標権者の監督責任がまったく果たされていないことの証左である。
(5)被請求人は、「補助参加人が請求人に対して提供した役務の質の誤認に関する請求人の主張は全て失当である」と主張する。しかし、上述のとおり、被請求人の主張は理由がなく、当該主張は全て失当である。
なお、被請求人は「商標法第53条第1項所定の取消審判制度は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害される事態が生ずることを防止することを制度趣旨としているところ、本事件での請求人の主張は、上記のただの1例について、根拠を伴わない主観的不満をただ表明しているというにすぎず、法第53条が本来適用を予定している事態とは明らかに異なるものである」と主張する。
しかし、「ただの1例について」であっても、その「ただの1例について」に関連する補助参加人の品質劣悪な対応には枚挙にいとまがなく、品質誤認に係る多くの事実が存在するのであるから、被請求人はかかる事態を招来したことについて、商標法53条の趣旨に基づいて、制裁を受けるのは当然のことであり、このような品質誤認を放任している被請求人の監督責任を問うことは、公の利益にほかならない。
(6)結語
補助参加人が提供する役務の質は、「セキスイ」という我が国で超一流とされる企業名を含む広告から当然に期待されるレベルと比べてはるかに劣悪なものであり、需要者たる請求人に役務の質の誤認を生じさせている。このことは、本件商標権者の補助参加人に対する監督責任が果たされていないためである。
3 平成22年2月5日付け提出の上申書の内容
被請求人が提出した平成21年7月24日付け答弁書の29頁18行ないし30頁2行の記述は事実と異なる。このことは、本上申書に添付した長沢幸男弁護士の陳述書から明らかである。

第3 被請求人及び補助参加人の主張
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第12号証(枝番を含む。)を提出した。
1 はじめに
本事件は、商標法第53条に基づく登録商標の取消審判請求にかかる事案である。もっとも、本事件の実態は、以下に述べるとおりである。
すなわち、補助参加人は、請求人(請求人の代理人である正林真之弁理士は、請求人の代表取締役を兼ねており、かつ同人の氏を冠した正林国際特許商標事務所の代表者でもある。請求人と正林国際特許商標事務所とは、同一場所に所在しており、前者は後者の特許商標事務所の事務処理を受託する法人という関係にある。)との間でシステム(プログラム)の開発委託契約を締結し(甲第6号証、乙第1号証及び乙第2号証)に基づき、補助参加人が、プログラム(本件システム)を作成したうえで請求人に納品したところ、請求人による検査に合格したことから、補助参加人に対して検収書を発行した(乙第3号証の1及び2)。
上記検収に伴い、開発成果物であるプログラムの引渡が終了したため、補助参加人が、その後に請求人に対して、開発委託料の請求をしたところ、請求人は、検収書まで発行しておきながら、その支払を拒んだうえで、本件審判の請求に及んだというのが本件の実態である。同開発委託料の支払を拒み、逆に支払を免れんとして、本件審判請求に及んだ、というのが本件の実態である。
本件は、本来は当事者間の協議により解決すべき開発委託料の支払請求に関する事案であり、これまで補助参加人と請求人との間で、それぞれ代理人を介して支払のための交渉が行われていたが、請求人は、自らが委任した代理人弁護士を事実上解任したうえで、交渉相手であった補助参加人ではなく、これとは異なる被請求人を相手方として、本件審判請求に及んだというものである。
なお、本事件に関連する登録商標の取消審判請求事件として取消2009-300343が存在しているが、同事件は、本事件の請求人を請求人として、日本電信電話(株)を被請求人とするものであるところ、請求人は、本事件とほぼ同様の理由により、登録商標「NTTデータ」の取消審判を請求しているものである。
請求人は、自己が負担すべき開発委託料の支払を回避せんとして、システム開発委託契約を締結した相手方である補助参加人ではなく、これとは無関係な被請求人や日本電信電話(取消2009-300343)を被請求人として、登録商標の取消審判請求に及んでいるものであり、文字どおり審判請求の濫用と評価される事案と言うべきである。
2 補助参加人による本件商標の使用及び本件商標の通常使用権について
本件審判請求は、補助参加人が本件商標を使用していることを前提としてなされているが、補助参加人においては、以下に述べるとおり、本件商標を、自己を特定するための名称としても、役務の提供に関連する商標としても使用していることはなく、これと共に、被請求人から通常使用権の許諾を受けていない。
(1)本件取消審判請求は、補助参加人が、その役務の提供に関連して、本件商標を使用していることを前提としているが、補助参加人においては、本件商標を使用していない。
本件商標は、被請求人の商号の一部をカタカナで表記したものであるところ、補助参加人は、自己を特定するための名称としても、役務提供に関連する商標としても、本件商標を使用していない。
補助参加人は、エヌ・ティ・ティ・データが60%を、被請求人である積水化学工業が40%を出資する法人(合弁会社)であり、その商号は「(株)エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」である。
補助参加人は、自己の商号もしくはその略称を、商標として使用することは基本的に行っていないが、ここで仮に議論のために、何らかの意味において商標として使用する場合を想定したとしても、当該商号「(株)エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、もしくはその略称である「エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、「エヌティティデータセキスイシステムズ」、「NTTデータセキスイシステムズ」は、本件商標と何ら類似していない。
本件商標と補助参加人の上記商号またはその略称とを対比した場合には、文字数にして後者が前者の3倍以上に及んでいる。これと共に、前者と後者の相違部分である「エヌ・ティ・ティ・データ」、「NTTデータ」ならびに「システムズ」の部分のうちで、「エヌ・ティ・ティ・データ」、「NTTデータ」の部分は、それ自体で識別力が認められる部分であり、併せて「システムズ」の部分の相違点をも勘案した場合には、両者は、外観、称呼、観念のいずれにおいても、明らかに類似していない。
本件商標と補助参加人の商号とは、上述したとおり、全体観察による場合を含めて、如何なる角度から検討した場合にも、同一でないことは勿論のこととして、類似していることもない。
請求人のこの点に関する主張は、補助参加人の商号中の一部に「セキスイ」が含まれていることを唯一の根拠として、補助参加人の商号と本件商標が類似しているかのように主張するものであるが、仮に「セキスイ」が含まれていたとしても、本件商標と補助参加人の商号とを対比すれば、両者は同一ではなく、類似もしていないことは明らかである。
補助参加人の商号または上記略称が、比較的長い称呼を有していることから、これらの短縮形を略称として使用することも想定されるが、補助参加人が、自己の商号の略称として、現実に使用することがある略称は「NDiS」である。
なお、補助参加人が、その商号の略称として「NDiS」を使用していることについては、請求人も認めている(甲第9号証)。そして、この「NDiS」が、本件商標と同一ではなく、類似もしていないことは、明らかである。
上記のとおりであるから、補助参加人の商号「(株)エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、またはその略称である「エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」、「エヌティティデータセキスイシステムズ」、「NTTデータセキスイシステムズ」は、いずれも本件商標とは同一ではなく、類似していることもない。
これと共に、補助参加人が現に使用している商号の略称である「NDiS」についても、本件商標とは同一ではなく、類似していることもない。
したがって、補助参加人において、自己を特定するための名称ないし略称として本件商標(本件商標に類似する商標を含む。)を使用していることは、事実として存在していない。
(2)請求人は、補助参加人が、本件商標を、その指定役務である第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」において使用したと主張している。
しかし、補助参加人は、本件商標を、自己を特定するため名称として使用していることはなく、上記役務の提供に関連して使用していることもない。
請求人は、被請求人が、補助参加人の株主(出資比率40%)であることから、補助参加人は、「セキスイ」グループの一員であるとの趣旨で本件商標を使用していると主張するかのようでもある。
しかし、請求人は、上記のとおり主張はするものの、同人が提出した一連の書証類を検討するも、本件商標の使用の事実を窺わせるものは皆無である。補助参加人において、本件商標を前記役務に関連して使用している事実は存在していないから、これを書証により裏付けることも困難という他はない。
なお、上記に付言すれば、甲第3号証は、補助参加人のウェブサイト上の「会社沿革」のページであるが、同ページの右肩上には、「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」と小さく表示されている。同表示は、補助参加人の商号の略称を表示しているにすぎないから商標としての使用とは言えないが、このことに加えて、同略称は、前述したとおり、本件商標とは同一ではなく、類似していることもない。
上記のとおりであるところ、商標法第53条にかかる取消審判制度は、取消請求にかかる登録商標が使用されたことを前提にしているが、本事件においては、これが認められないのであるから、本件取消審判請求は、その前提において失当というべきである。
よって、補助参加人が、本件商標を指定役務である第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」において使用していることは、事実として存在していない。
(3)本件商標については、登録商標権者である被請求人から補助参加人に対する通常使用権の許諾は何らなされていない。
請求人は、この点につき、補助参加人は、「本件商標の事実上の通常使用権者であることが推認される。」と主張しているが、事実に基づかない主張であり、前項でも主張したとおり、本件商標は何ら使用されていない。
すなわち、請求人による本件審判請求は、誤った事実認識に基づくものという他はなく、それ自体において失当というべきである。
(4)小括
上記のとおりであるから、補助参加人においては、本件商標を、自己を特定するための名称としても、自己の役務の提供に関連する商標としても使用することは、もともと予定されておらず、現に使用している事実もなく、被請求人から本件商標の通常使用権の許諾を受けていることもない。
3 甲第5号証の1及び2、甲第13号証及び甲第14号証を引用した役務の質に関する主張
前項で主張したとおり、補助参加人においては、役務の提供に関連して本件商標を使用することは、もともと予定されておらず、本件商標を保有する被請求人から本件商標の通常使用権を許諾されたこともない。
したがって、本件審判請求が成り立たないことは、このことからしても自明と言うべきである。
そうすると、請求人によるこれ以外の主張に対しては、反論の必要もないことになるが、本項以下においては、念のため請求人の上記以外の主張が失当であることについて、その要点を指摘しておく。
すなわち、まず、請求人は、補助参加人が、「本件商標の指定役務に含まれる第42類『電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守』に関して、役務の質を需要者に伝達する目的で甲第5号証の1、甲第5号証の2、甲第13号証、及び甲第14号証の広告等を実施した。」と主張している。
しかし、これらのうちで甲第5号証の1及び2は、いずれも被請求人の作成にかかるCSRレポートであり、補助参加人の作成にかかるものではない。これと共に、同レポートは、後述するとおり「役務の質を需要者に伝達する」ことを目的とする文書であるとは明らかに言えない。
次に、甲第13号証は、補助参加人から請求人に対する業務提案書(「再移行方針のご提案」)であるところ、同文書は、具体的作業の提案を内容とするものであるから、上記同様に「役務の質を需要者に伝達する」ことを目的とした文書であるとは言えない。
最後に、甲第14号証についても同様であり、補助参加人の従業員等の名刺が「役務の質を需要者に伝達する」ことを目的としているはずもなく、およそ的外れである。
以下、各書証毎に個別に主張する。
(1)請求人の甲第5号証の1及び2に基づく主張
請求人は、甲第5号証の1及び2を引用したうえで、これらのレポートにおいて、登録権者、すなわち被請求人が提供する役務の質が宣伝されていると主張している。
甲第5号証の1及び2は、それぞれ被請求人の作成にかかる2007年度、2008年度のCSRレポートであるところ(したがって、補助参加人の作成にかかる文書ではない。)、CSRとはCorporate Social Responsibilityの略語であることからも明らかなとおり、同レポートは、対社会に向けて、企業の理念や目標を掲げているものである。
このことからも明らかなとおり、CSRレポートは、個別の取引において個々の顧客に提供する役務の内容や質を、特定ないし規定するものでない。
請求人の主張は、上記CSRレポートが補助参加人の作成にかかるものでないことをおいたとしても、同レポートが個別の取引において顧客に対して提供する役務の質を広告する手段であることを前提にしている点で、根本的に誤っているといわざるを得ない。
これと共に、抽象的な企業理念等により、顧客に対し提供する個別の役務(サービス)の内容や質が、具体的に特定されるというのも、およそ失当な主張である。
「企業理念」は、文字どおり企業の目標や方針を示すものであるから、これが直ちに個別の役務の内容や質を特定することになるものでないことは、ここで指摘するまでもないことである。
これに加えて、請求人は、甲第5号証の2の33頁ないし44頁中での記載を強調しているが、以下に述べるとおり、およそ失当である。
すなわち、請求人が使用する甲第5号証の2の33頁には、「CS品質経営方針」の基本方針として、「モノの品質」、「人の品質」、「仕組みの品質」が挙げられており、これを受けて、さらに項目別に「1.基盤品質の確保」、「2.魅力品質の確保」、「3.技術力の磨き上げ」、「4.コミュニケーションの充実」等が挙げられている。
しかし、これらは、いずれも抽象的ないしは一般的な理念に属する事項ばかりである。一例を挙げれば、上記のうちの「2.魅力品質の確保」においては、「『お客様にとっての価値は何か』を徹底的に追求し、お客様価値を実現する魅力的な商品やサービスを創出し続けることで、お客様との感動の共有を目指します。」と記載されている。上記記載からも明らかなとおり、このような一般的ないしは抽象的な文言が、個別取引においての役務の内容や質を具体的に特定するものでないことは、極めて明らかであり、このことは、上記「2.魅力品質の確保」以外の事項についても全く同様である。
これに加えて、甲第5号証の1、2中には、当然のことではあるが、役務の質や内容に関する具体的言及はない。
上記のとおりであるから、企業が発行するCSRレポートに基づき、当該企業が顧客に対して提供する個別の役務の内容や質を特定しようとすることは、一般論としても無理があり、主張自体において失当というべきである。
(2)請求人の甲第13号証に基づく主張
甲第13号証は、請求人が主張するとおり、業務に関する提案書であるから、これが何故に役務の質に関する広告等に該当するのか、およそ不明である。
これと共に、請求人は、上記引用したとおりに主張するだけであり、それ以上に役務の質なるものについて具体的に主張しているものではないから、被請求人としては反論の仕様もない。
なお、付言すれば、甲第13号証の提案書「再移行方針のご提案」は、以下の経緯により作成されたものである。
すなわち、請求人は、後述するとおり、同人がそれまで使用していた特許管理システムであるPDW上の特許出願関連の諸データを、補助参加人が開発し、請求人に納品し、同人が検収済のシステム上へと移行させることを内容とする「データ移行」作業を行い、これに成功していたのにもかかわらず、請求人側の担当者が、これに失敗したと軽率にも判断して、新システム上からPDW上への「切り戻し」作業を行ってしまった。このため、請求人において改めてデータの再移行を行う必要が生じ、これを受けて補助参加人が、やむを得ず作成したのが、甲第13号証の「再移行方針のご提案」にかかる文書である。
甲第13号証は、上記の経緯で作成された具体的業務に関する提案書であり、役務の質を示すことを内容とするものではなく、一般に公開される文書でもないから、これが何故に役務の質を示す広告等に該当するのかは、およそ不可解である。請求人のこの点に関する主張は、それ自体で失当と言うべきである。
(3)請求人の甲第14号証に基づく主張
甲第14号証は、補助参加人の従業員が使用している名刺のコピーであるが、これにより、補助参加人が提供する役務の質が認識されるものでないことは自明である。
よって、請求人において、甲第14号証により補助参加人が提供すべき役務の質について主張せんとするのであれば、およそ的外れという他はなく、主張自体において失当というべきである。
(4)小括
上記のとおり、請求人による甲第5号証の1及び2、甲第13号証及び甲第14号証に基づく役務の質に関する主張は全て失当である。事業者が顧客に対して個別に提供する役務の内容や質を、当該事業者の企業理念等に基づき強引に決めつけようとすることには、そもそも無理があり、主張自体失当と言うべきである。
4 補助参加人が請求人に対して提供した役務の質に関する主張
(1) 請求人は、補助参加人が請求人に対し提供した役務の質に問題があったかのように主張している。
しかし、請求人の主張は、いずれも事実誤認に基づくものであったり、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項について、殊更これが問題であるかのように主張しているというにすぎず、いずれも失当である。
請求人は、上記に関して、大別して以下の5点を主張している。
ア 補助参加人は、平成20年10月24日から平成21年1月19日にかけて断続的(合計4回)に実施された本件システムの開発委託料の支払交渉の際、補助参加人自らが確認済みであった納品物に重大な欠陥があるとの事実を隠し、納品物に重大な欠陥は存在しないと主張し続け、請求人に不当な支払を強要しようとした。
イ 請求人が、補助参加人に対して委託し、補助参加人が受託したうえで制作したシステム(プログラム)においては、特許案件の「最終処分」や「国内優先出願」等の親子関係、国外の「現地代理人」や「19条補正」を登録することができない内容であったが、これらの登録項目は、請求人がそれ以前から使用していた同種システムであるPDWの仕様から確認が可能であったのにもかかわらず、登録項目から漏れていたものであり、これと共に、補助参加人の担当者は、業務フローにつき適切に説明することもできず、結果として、同業務を仕切り直すこととなった。
ウ 請求人が求めるシステムを開発するためには、ステップ1からステップ4の工程を要し、総額で約1億円の工費と2年間以上の工期を要するにもかかわらず、このような全体計画に係る提案書が、上記仕切り直し前には、補助参加人から請求人に対して提示されておらず、請求人からの要望により初めて作成された。
エ 補助参加人は、「本番データ移行の支援」において、「本番データ移行」作業の前提である「本番環境構築」作業につき、両作業を同日中に行うことを提案していたが、補助参加人による「本番環境構築」作業の工数見積が過少であったため、請求人は、同作業を「本番データ移行」作業の前日に行わざるを得ず、同作業につき想定外の工数を割くことを余儀なくされた。
これと共に、補助参加人は、テストシナリオの作成やテスト環境構築において行うべき作業、具体的には「システムテスト項目の抽出」や「システムテスト計画書の作成」を行わず、請求人が、同作業を肩代わりせざるを得なかった。
これに加えて、補助参加人においては、「本番データ移行」に失敗した場合の「切り戻し」計画が検討されておらず、「本番データ移行」時において、移行元のシステムであるPDW上のデータが書き戻されることについても、補助参加人の担当者が把握していなかった。
オ 補助参加人が作成したシステム(プログラム)にかかるログ中には、「時刻」は記録されてるものの、「日付」が出力されないものが含まれており、これと共に、何らのメッセージを残さずにシステムダウンを引き起こす例があることが確認された。
しかし、上記アないしオの5点については、以下のとおり、いずれも請求人の事実誤認であるか、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項について、殊更問題であるかのように主張しているにすぎず、いずれも失当である。
(2)請求人による前記アの主張
まず、請求人は、補助参加人が開発委託料の支払交渉の際に不誠実な態度を示したとして、補助参加人が提供する役務の質に問題があるかのように主張している。
しかし、請求人の上記主張は、補助参加人と請求人とが、いずれも代理人を介して行った開発委託料の支払交渉の際の態度に関するものであり、補助参加人が請求人に対し提供した役務、すなわちシステム開発の内容に関するものではない。
したがって、請求人の主張は、補助参加人が提供した役務の質に関して主張するとしながら、これとは的外れな内容を主張しているものである。
次に、補助参加人は、請求人からの開発委託に基づき開発したプログラムを請求人に納品し、これを受けて請求人が当該プログラムを検査し、検査に合格したので、補助参加人に対して検収書を発行した(乙第3号証の1及び2)。
ところが、その後に補助参加人が請求人に対し開発委託料を請求したところ、請求人が故なく支払を拒否したために、補助参加人と請求人とは、いずれも代理人弁護士を介して、上記支払に関する交渉を行った。
当該交渉において、補助参加人は請求人に対し、開発委託料の支払を拒むのであれば、検収にかかるプログラムに瑕疵が存在すること等を具体的に主張して欲しいと申し入れたが、請求人は抽象的不満を繰り返すのみであって、瑕疵と言えるような具体的な指摘を行わなかった。
このようにして交渉を続けていくうちに、請求人は、平成21年1月、自らが依頼していた代理人弁護士を事実上解任してしまい、これにより交渉が中断してしまった。
そこで、補助参加人は、平成21年3月12日に、請求人の代理人弁護士を介することなく直接同人と協議を行ったが、この協議の際に提示してきたのが、請求人が主張するところの前記アの「欠陥」なるものである。
もっとも、上記指摘にかかる「欠陥」なるものについては、補助参加人は、前年の平成20年6月23日に修補済であり、請求人に対し、いつでも納品可能な状態にあった(納品できなかったのは、請求人が支払を故なく拒み、修補済のプログラムの受領に協力的でなかったからである。)。
このため、補助参加人は、平成21年3月12日の協議において、請求人からの「欠陥」なるものに関する申し入れに対して、既に修補済であること等を指摘した。
上記のとおりであるのにもかかわらず、請求人は、補助参加人が「重大な欠陥は存在しないと虚偽の事実を主張」であるとか、「請求人に不当な支払を強要せんとした」と主張しているが、およそ的外れである。
上述したとおり、補助参加人においては、請求人の指摘事項につき、それよりはるか以前に修補済であり、請求人が協力の態度を示しさえすれば、いつでも納品する用意があったのであるから、上記主張は、事実としてもおよそ的外れなものである。
(3)請求人による前記イの主張
請求人が上記で問題としているのは、当該特許出願支援プログラムにおいて、どのような項目を登録可能にするかという、プログラムの機能にかかる要件を特定するための作業についてである。
本件開発対象のシステム(プログラム)は、特許出願支援に関するプログラムであるところ、プログラム中にどのような機能を盛り込むのかは、受託者である補助参加入が一方的に決定することができるものではなく、委託者である請求人ないしは正林国際特許商標事務所からの要求ないし指示に基づいて行われる。
請求人側の担当者となったのは佐藤玲太郎弁理士であるが、同弁理士は、当時も現在も、正林国際特許商標事務所に所属する弁理士である。
同弁理士は、言うまでもなく特許の専門家であり、他方で補助参加人は、システム構築に関して経験を有してはいるものの、特許に関して格別の専門的知見を有するものではない。このため、本件開発にかかる特許出願支援システムにおいて、どのような項目を登録可能とするのかについては、佐藤弁理士からの指示に基づき作業が行われた。
佐藤弁理士からの指示によれば、開発対象のシステム(プログラム)は、請求人が、それ以前から使用していたシステムであるコスモテック特許時報システム(株)の販売にかかるPDWと並行して運用する予定とのことであり、PDW側で管理することを予定している項目については、本開発にかかるシステムにおいて登録可能とすることは不要というものであった。
補助参加人は、特許の専門家である佐藤弁理士からの指示に従い、開発作業を進めていたものであり、同弁理士の指示によれば、請求人が前記イで主張する項目類はPDW側で管理するから、開発対象のシステムにおいては登録は不要とのことであったものであり、補助参加人は、当該指示等を前提として「業務支援システム基本設計書第1.0版」(乙第4号証)を作成し、同弁理士から確認を受けている。
これに対して、請求人が、登録項目の欠落を主張することは、自ら行った指示の責任を補助参加人に対し転嫁しようとするものであり、本末転倒と言うべきである。
これと共に、請求人は、補助参加人の担当者が業務フローにつき適切な説明をすることができなかったと主張しているが、上記のとおり複数の項目につき登録が可能ではなかったこと等を前提とした論難であるので、上記同様に失当である。
なお、上記に付言すれば、請求人は、甲第7号証の1及び2に基づき前記のとおり主張しているが、請求人から補助参加人に対する甲第7号証の1のメールの内容それ自体が、上記のとおり自己の指示の責任を補助参加人に転嫁しようとしているにすぎず、これに対する補助参加人から請求人に対する甲第7号証の2のメールは、補助参加人が自己の顧客である請求人に対し、丁重に接していたことを単に示しているにすぎないものである。
(4)請求人による前記ウの主張
補助参加人は、上述のとおり、佐藤弁理士から、補助参加人が開発するシステムは、PDWと並行して運用する予定との指示を受けていた。
これに対して、請求人が主張している全体計画(ステップ1から同4の工程を要し、総額で1億円の工費と2年間以上の工期)は、開発対象のシステムとPDWとの並行運用を行わずに、PDWの使用を中止したうえで、開発対象のシステムだけの単独運用を行うことを前提としている。
請求人は、当初は佐藤弁理士を通じて並行運用の指示をしていたが、その後に補助参加人に対し、並行運用から開発対象システムだけの単独運用へと方針転換する旨を指示してきたために、補助参加人の担当者が、平成20年2月に請求人、正確には正林国際特許商標事務所に対して、単独運用を前提とした全体計画を提示したものである(甲第8号証の1ないし5)。
上記のとおりであるから、補助参加人が、単独で運用可能な特許出願支援システムの開発にかかる全体計画を、当初、請求人に対し提示していなかったのは当然とも言うべきことであり、補助参加人が、その後に請求人からの依頼を受けて、同計画を作成したことに、何らの問題もない。
(5)請求人による前記エの主張
まず、請求人が上記「本番環境構築」、「本番データ移行」の両作業を行ったのは、平成20年6月13日及び14日の両日であるところ、請求人は、それより以前に、補助参加人から本件システム(プログラム)の納品を受け、その検査を行い、検査合格であるとして、平成20年5月29日付にて検収書を発行している(乙第3号証の1及び2)。
したがって、請求人による前記エのうちの「本番データ移行」、「本番環境構築」の両作業に関する主張は、上記検収後に請求人自らが実施すべきである作業につき、補助参加人に対して色々と主張しているというものにすぎない。
乙第5号証の1の電子メールに添付されている同号証の2は、平成20年6月3日に行われた補助参加人、請求人間の打ち合わせ議事録であるが、同号証2枚目3項の上から3つ目の黒丸部分には、「移行準備は、サーバーH/Wの貴所への納品が前週末であることから、それ以降、先行して実施できる作業は移行当日前までに極力実施し、当日はデータ移行および移行後の設定や動作確認に作業内容を限定する方針で実施することを確認した。」と記載されており、「本番データ移行」作業(実際にはデータ移行は6月14日に実施された。)に先行する作業(「本番環境構築」作業も、これに含まれている。)については、「移行当目前までに極力実施」することが確認されている。
上記のとおり、「本番環境構築」作業については、「本番データ移行」作業よりも前の日に行うことが請求人、補助参加人間で確認されていたものであるから、「本番データ移行」作業と「本番環境構築」作業を同日中に行うことが予定されていたことを前提とする請求人の主張は、全て失当である。
なお、付言すれば、請求人の上記主張は、「本番データ移行」作業の前後の作業の実施に関する些細な点を殊更誇張して主張しているものにすぎない。
次に、乙第6号証の1の電子メールに添付されている同号証の2は、平成20年3月5日に行われた補助参加人、請求人間の打ち合わせ議事録であるが、同号証1枚目1項の上から4番目の黒丸部分には、「システムテスト項目の洗い出し作業を来週中に貴所にて完了し、その後それにしたがってシステムテスト設計書を弊社にて作成することを確認した。」と記載されている。
上記のとおりであるから、システムテスト項目の作成は、「貴所」、すなわち請求人(正林国際特許商標事務所)側で作成すべきであったことが、上記の記載からも明らかである。
なお、システムテスト仕様書、すなわち「システムテスト計画書」については、上記に記載されているとおり、補助参加人において作成済である(乙第7号証)。
次に、請求人は、前記エで、補助参加人において、「本番データ移行」に失敗した場合の「切り戻し」計画が検討されていなかったと主張している。
ここで「本番データ移行」とは、請求人が従前から使用していた特許管理システムであるPDW上で蓄積されていた特許出願関連の諸データを、補助参加人が作成して請求人に納品し、同人が検収済のシステム(プログラム)上で使用できるように、検収済のシステム(プログラム)上へと移動させることを内容としている。
請求人は、平成20年6月14日に「本番データ移行」作業を行い、同日中にこれを終了した。
これにより「本番データ移行」作業は終了したため、請求人の担当者は、翌日の6月15日に、検収済のシステム(プログラム)上で前日に移行済のデータを使用して、システムを試験稼働させていた。
その際に、請求人の担当者が、画面上で操作結果を確認していたところ、特許登録に到っていない出願案件について、権利満了日の欄に具体的日時が表示されている例があることが確認された。
驚いた同担当者は、特許登録に到っていない出願案件につき、権利満了日の欄に具体的日時が表示されているということは、前日に行われた「本番データ移行」作業が正確に行われておらず、同作業に失敗したものと早合点した。
そこで、同担当者は、慌てて元のPDWのシステム(プログラム)上でデータを使用できるようにするための「切り戻し」作業を行ったものである。
上記のとおりであるが、請求人が行った「本番データ移行」作業は、実際には成功裡に終了していたものであり、上記の特許登録に到っていない案件につき権利満了日の欄の日時が表示されていたことは、もともとPDW上に蓄積されていたデータ中に誤データが混入していたことによるものであった。この点については、請求人側で本来把握していたはずの事項であり、このような誤データも含めて、PDW上の諸データが、正確に同一性を維持したままの状態でデータ移行されていたものであった(請求人も、現時点ではこの点を争っていないものと考えられる。)。
したがって、請求人が実施した「本番データ移行」作業は正確に行われていたものであり、「切り戻し」作業など何ら必要がなかったものである(請求人は、この点も争わないものと考えられる。)。
上記のとおりであるのにもかかわらず、請求人は、自らが使用していたPDW上のデータの内容について、十分に確認することもなく、本来不要であるはずの「切り戻し」作業を軽率にも行ったものである。
上記のとおりであるところ、請求人は、前記エで、補助参加人において「切り戻し」計画が検討されていなかったと主張しているが、同主張は、上記のとおり、請求人の担当者が、本来必要のない「切り戻し」作業を行ったことにつき、担当者の軽率な判断を棚上げにしたうえで主張しているというにすぎず、前同様におよそ失当である。
これに加えて、本システム開発においては、切り戻し計画を検討すべき者は、請求人であったものであるから(乙第8号証の「業務支援システム ステップ1作業のご提案第1.1版」20頁のD-1「移行設計」の項目には、お客様の欄に◎印が付されているが、これは、請求人が切り戻し計画を含めた移行設計を主体となって実施することを示している。)、「切り戻し計画」が検討されていなかったという請求人の主張は、この点からしても、およそ失当である。
最後に、「本番データ移行」時に、移行元のデータの一部が書き戻されることについては、基本設計書(乙第9号証の1および2)中に明記されており、しかも、実際に書き戻されるデータは、移行元の全データではなく、「技術担当コード」という1データだけである(この事実については、基本設計書中に明記されており、請求人も争わないものと考えられる?なお、ここでの「技術担当コード」とは、個別の特許出願案件において、当該案件毎に技術担当者として登録される者のコード番号を内容としている。)。
しかも、「本番データ移行」作業は、2008年6月14日の土曜日に行われており、「技術担当コード」についても、書き戻し前のデータと同一のデータが書き込まれるというにすぎないものであったから、そもそも変更されることはなかったものである。
(6)請求人による前記オの主張
まず請求人は、補助参加人が作成したプログラム中に障害ないし不具合、すなわちバグが存在するかのように主張し、このことを以て、補助参加人が提供したプログラムに瑕疵があり、役務の質に問題があるかのように主張している。
しかし、仮に作成したプログラム中にバグの存在が確認されたとしても、このことから直ちにプログラムに瑕疵があることにはならない。このことは、プログラムの作成にかかる業務においては、常識とも言えることである。
ちなみに、このことは、裁判所の判決中でも確認されているので、その一例を示すと、営業管理システムの開発におけるプログラムの瑕疵の有無が争われた訴訟(東京地方裁判所 平成9年2月18日判決、平成4年(ワ)第14387号、平成5年(ワ)第16569号、損害賠償等請求、売買代金等請求事件)において、東京地方裁判所の判示がある(乙第10号証)。
すなわち、ソフトウェア開発においては、通常、プログラム中にバグが内在しうるものであるから、プログラムにバグが存在するとの一事をもって、プログラムに瑕疵があるとは到底みなせないものである。
請求人は、この点につき、本件システムのログの中には、時刻は出力されるものの、日付が出力されないものがあったと主張している。
そこで、この点について検討すると、本件システム中には、全部で5種類のログ出力が存在しているところ、請求人が指摘しているものは、これら5種類のうちの1種類のログに関してのみである(この点については、請求人も争っていない。)。
ログは、故障発生の際の確認等の場合を除けば、格別必要となるものではなく、システムの定常運用にも影響を与えるものではない。しかも、本件においては、5種類のログのうちの4種類のログについては何らの問題もなく、1種類についてのみ、請求人も認めるとおり、操作の内容、操作にかかわる時刻は出力するものの、日付のみを出力しないことが確認されているというにすぎず、程度としても極めて軽微であることが明らかである。
上記ログは、過分な労力を要することなく直ちに修補可能であり、また、上述のとおり程度としても軽微であるから、プログラムの瑕疵などと評価されるものとは到底言えず、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項である。
次に、請求人は、甲第11号証の1を引用したうえで、本件システムにおいて、何らのメッセージも残さずにシステムダウンを引き起こす例があることが確認されたと主張するが、この点に関しては、補助参加人において、請求人からの今回の指摘を受ける以前の平成20年6月中に確認している。
そこで、補助参加人は、平成20年6月23日に、これを修補し(乙第11号証中の項番No.142の部分?修補は30分程で終了した。)、修補済のプログラムを請求人に納めようとしたが、請求人は、前述した軽率な判断により行ったデータの「切り戻し」につき、補助参加人に責があるかのように主張している最中であり、上記修補済のプログラムの受領などに非協力の態度を示していた。
上記のとおり、補助参加人は、上記事象の確認後に直ちに修補を行い、いつでも納品可能な状態にしていたものである。
したがって、上記についても、プログラムの瑕疵などと到底い言えるものではない。
なお、上記に付言をすれば、上記システムダウンの事象は、極めて限定された条件においてのみ発生するにすぎず、これに加えて、当該画面を再起動すれば(デスクトップ上のアイコンをダブルクリックすればよい。)、直ちに通常の状態に復帰する。請求人は、当該事象は、銀行のATMシステム全体のダウンや航空管制システム全体のダウンに比するものであるかのように主張しているが、1台のクライアント端末(PC)の1ウィンドウ上でのみ生ずる事象にすぎず(ちなみに補助参加人が今回作成したプログラムにおいては、全部で89種類のウィンドウが存在している。)、これ以外のクライアント端末に対して影響を及ぼすことはなく、サーバに対しても同様であるから、およそ針小棒大な主張と言うべきである。
これと共に、請求人は、上記事象は、動作終了時に何らのメッセージも残さないとも主張しているが、事実に反する。本件システムは、上記の動作終了時にログを出力しており、補助参加人が上記修補を行った際にも、当該ログを参照することにより確認を行っている。
したがって、請求人が挙げる本件システム中の特定画面の動作終了は、極めて限定されたものであるにすぎず、修補も容易であり、現実にも直ちに修補済であるから、プログラムの瑕疵と評価されるものではなく、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項というべきである。
請求人は、さらに、甲第11号証の2を引用し、「マスタ管理」において、「進捗ステータスマスタで、新規行の「削除」をチェックしてからチェックをはずす」という操作によってもシステムダウンが発生したと主張している。
しかし、請求人の上記主張も、およそ失当である。
すなわち、乙第12号証にかかる一覧表は、各頁右上部に「保守修正管理表」と記載されているとおり、プログラムの補正修正記録を示す一覧表であるが、これによれば、請求人が指摘する上記不具合は項番26に記載されており、この不具合に関しては、平成20年5月19日に修正が終了している(「修正日」欄参照)。
したがって、請求人が指摘する上記不具合に関しては、補助参加人において確認後直ちに修正済であり、修正時期も、請求人の検収書発行日(5月29日)よりも前のことである。
上記のとおり、請求人による前記オの主張は、請求人の指摘にかかる事項を含め、いずれの事項についても、事実誤認であったり、修補済であったり、または軽微であって過分な労力を要することなく修補可能なものばかりであったものであり、ソフトウェア開発において通常生ずる範囲内の事項について、殊更これが問題であるかのように主張しているにすぎず、全て失当である。
(7)小括
上記のとおりであるから、補助参加人が請求人に対して提供した役務の質に関する主張は全て失当である。
これと共に、請求人は、補助参加人から本件システム(プログラム)の納品を受け、これを検査したうえで検査合格とし、その後に検収書(乙第3号証の1、2)を発行しているものであるから、さらにその後に、前記のような主張を行うこと自体が、およそ失当と言うべきである。
5 補助参加人が請求人に対し提供した役務の質の誤認に関する請求人の主張
上記のとおりであるから、補助参加人が請求人に対し提供した役務の質に関しては、請求人が主張するような問題は何ら認められない。
したがって、請求人が、上記役務の質に関する主張を前提としたうえでなす役務の質の誤認に関する主張も、全て失当である。
なお、請求人は、補助参加人において、本件商標を、被請求人の企業クループを示すものとして、通常使用権者の立場で使用しているかのように主張しているが、補助参加人は、本件商標の使用許諾など受けておらず、かつ、本件商標を使用している事実が存在しないことについては、前述したとおりである。
したがって、請求人が、商標法第53条第1項に基づいてなす本件審判請求は、同条同項を適用するための前提要件が充足されていない点において、およそ失当である。
これと共に、補助参加人が請求人に対し提供した役務の質に関しても、請求人が主張するような問題が存在しているものでない。
これに加えて、本事件での請求人の主張を前提にする限り、本件商標は、補助参加人が、自己の役務の提供に関連して使用したことになるようであるが、補助参加人は、毎年、顧客からの依頼に応じて、多数のソフトウェア(プログラム)を作成しているところ、請求人は、その中の請求人を開発委託者とするわずか1例について、種々主張しているにすぎない。
請求人の主張にかかる内容が失当であることは、これまでに指摘してきたとおりであるが、このこととは別に、商標法第53条第1項所定の取消審判制度は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害される事態が生ずることを防止することを制度趣旨とするところ、本事件での請求人の主張は、上記のただの1例について、根拠を伴わない主観的不満をただ表明しているにすぎず、商標法第53条が本来適用を予定している事態とは明らかに異なるものである。
6 平成22年2月8日付け提出の上申書の内容
被請求人及び補助参加人は、要旨「請求人の弁駁書中の以下の主張は全て失当である。」旨述べ、参考資料1を提出した。
(1)請求人による、補助参加人が本件商標を使用しているとの主張及び補助参加人が被請求人から本件商標の通常使用権の許諾をうけているとの主張。
(2)請求人が甲第5号証の1及び2、甲第13号証及び甲第14号証を引用したうえでなす役務の質に関する主張。
(3)補助参加人が請求人に対して提供した役務の質に関する主張。
(4)請求人による被請求人の監督義務のかい怠に関する主張。

第4 当審の判断
1 本件審判は、商標法第53条第1項に基づき商標登録の取消しを請求するものであるところ、同項本文は、「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該登録商標を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。
2 そこで先ず、商標法53条第1項に規定する要件のうち、商標の使用者が本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるか否か、使用された商標が本件商標又はこれに類似する商標であるか否か、当事者の間に争いがあるので、以下に検討する。
(1)商標の使用者が本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるか否かについて
請求人は、補助参加人が本件商標の事実上の通常使用権者であることが推認される旨主張し、その根拠として、補助参加人が被請求人のシステム部を前身とすること、補助参加人に被請求人が資本参加をしていること、補助参加人の商号に「セキスイ」が含まれていることを挙げている。さらに、請求人は、商標法第53条第1項に規定する「通常使用権者」は文書による使用許諾契約に基づくものだけでなく事実上の使用許諾に基づくものも含まれるとし、被請求人と補助参加人は、いわゆるグループ企業の関係にあり、また、被請求人は補助参加人による商標の使用について当然認識しているにも拘わらず何ら権利行使をしていないから、被請求人が補助参加人を事実上の使用権者と認識していることは明らかである旨主張している。
確かに、通常使用権の許諾は文書による使用許諾契約に基づくものに限られることなく、口頭による許諾等も含まれるものと解され、また、補助参加人に被請求人が資本参加をしていること、補助参加人の商号中に「セキスイ」を有すること、両者がいわゆるグループ企業の関係にあることは認められる。
しかしながら、被請求人と補助参加人が本件商標に係る通常使用権の許諾をしていないと主張している以上、上述の事実をもってしては被請求人による口頭による許諾等があるものとは認めることは到底できず、また、他に、補助参加人が本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であることを認めるに足る証左はない。
そうとすれば、補助参加人は、本件商標に係る専用使用者又は通常使用権者であると認めることはできない。
(2)使用された商標が本件商標又はこれに類似する商標であるか否かについて
請求人は、補助参加人の名刺(写し、甲第14号証)に表示された「株式会社」と「NTTデータセキスイシステムズ」を二段に表してなる標章(以下「使用標章1」という。)及び補助参加人のウェブサイト(写し、甲第15号証の1及び2、甲第3号証)に表示された「株式会社 NTTデータセキスイシステムズ」の文字からなる標章(以下「使用標章2」という。)をもって、本件商標又はこれに類似する商標が使用されている旨主張している。
しかしながら、上記名刺は、補助参加人の従業員9名の名刺と認められ、そのいずれにも上部に使用標章1が表示されている。そして、当該標章は「株式会社」及び「NTTデータセキスイシステムズ」の両文字が二段に表され、上段の「株式会社」が法人格を表す文字であることから、全体として「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」という法人の名称(商号)を表示したものと認識されるとみるのが相当である。そして、その構成中「NTTデータセキスイシステムズ」の文字部分が独立して自他役務の識別標識として機能を果たすと認められるものの、同文字は、同じ書体、同じ大きさ、同間隔で表されており、かかる構成態様にあって殊更「セキスイ」の文字部分のみが強く印象されるとすべき理由は見いだせない。
また、使用標章2は、「株式会社 NTTデータセキスイシステムズ」の文字を書してなるものであり、「株式会社」の文字と「NTTデータセキスイシステムズ」の文字の間にスペースがあり、また前者が後者よりやや小さく表され、これも使用標章1と同様に判断されるものである。
そうとすれば、使用標章1及び2は、いずれも「カブシキカイシャエヌティティデータセキスイシステムズ」及び「エヌティティデータセキスイシステムズ」の称呼を生じ、法人の名称又はその略称としての「(株式会社)NTTデータセキスイシステムズ」の観念を生ずるものといわなければならない。
してみると、使用標章1及び2は、「セキスイ」の構成文字から「セキスイ」の称呼及び被請求人の略称としての「セキスイ」の観念を生じる本件商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても同一又は類似するものでないことは明らかである。
なお、「業務支援システム 再移行方針のご提案」(甲第13号証)においても「株式会社 NTTデータセキスイシステムズ」の文字が表示されていることが認められるが、この標章についても、前記と同様に判断されるものである。
そして、前記標章以外に補助参加人が使用する商標について請求人からの主張及び立証はない。
したがって、補助参加人の使用標章1及び2をもって、本件商標又はこれに類似する商標の使用の事実があったと認めることはできない。
3 小括
以上のとおり、補助参加人は、本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるといえず、また、使用標章1及び2は、本件商標と同一又はこれと類似する商標ともいえないから、その余について論及するまでもなく、本件審判請求は、成り立たない。
なお、請求人は、平成22年2月5日付け、被請求人及び補助参加人は同月8日付けでそれぞれ上申書を提出しているが、いずれの内容も、前記判断に影響を与えるものとは認められない。
4 結語
したがって、補助参加人による使用標章1及び2の使用は、商標法第53条第1項の要件を欠くというべきであるから、本件商標の登録は取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-03-05 
結審通知日 2010-03-09 
審決日 2010-03-24 
出願番号 商願平4-101040 
審決分類 T 1 31・ 5- Y (042)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 瀧本 佐代子伊藤 三男 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 1996-01-31 
登録番号 商標登録第3114802号(T3114802) 
商標の称呼 セキスイ 
代理人 曾我部 高志 
代理人 正林 真之 
代理人 水谷 直樹 
代理人 水谷 直樹 
代理人 曾我部 高志 
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