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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 111
管理番号 1241520 
審判番号 取消2010-300018 
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2010-01-06 
確定日 2011-08-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第2210856号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2210856号号商標(以下「本件商標」という。)は、「WATCHING」の欧文字を書してなり、昭和62年4月16日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成2年2月23日に設定登録され、その後、2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
そして、指定商品については、同23年3月16日に第7類「起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電動機及び直流電動機(その部品を除く。)を除く。),交流発電機,直流発電機,家庭用食器洗浄機,家庭用電気式ワックス磨き機,家庭用電気洗濯機,家庭用電気掃除機,電気ミキサー,電機ブラシ」、第8類「電気かみそり及び電気バリカン」、第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極」、第10類「家庭用電気マッサージ器」、第11類「電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類」、第12類「陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。)」、第17類「電気絶縁材料」及び第21類「電気式歯ブラシ」とする指定商品の書換登録がなされたものである。
また、本件審判の請求の登録は、同22年1月22日にされているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁等に対する弁ばくを要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出している。

1 請求の理由
本件商標は、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによってもその指定商品について使用された事実がないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。

2 第1弁ばく
(1)乙第1号証及び乙第2号証について
ア 商標の使用者
被請求人は、「乙第1号証に見られる如く、・・・本件商標、『WATCHING』を・・・表示し、・・・商標の使用と言わざるを得ない。」と述べていることから、被請求人自身の使用行為を主張し、乙第1号証のカタログ(以下「カタログ1」という。)によってこれを立証する趣旨と解される。しかしながら、カタログ1の最終頁には「株式会社東芝電力・社会システム社」の記載はあるものの、かかる会社名称と被請求人とは一致しない。したがって、被請求人による使用行為は何ら立証されていない。
また、被請求人は、「乙第2号証にも・・・使用している。」と述べるが、乙第2号証のカタログ(以下「カタログ2」という。)の最終頁には「株式会社東芝社会システム社」の記載があるのみで、やはり被請求人とは一致しない。したがって、被請求人による使用行為は何ら立証されていない。
イ 使用時期
被請求人は、「乙第1号証に見られる如く、・・・使用といわざるを得ない。」と述べるが、いつの行為であるかについて具体的事実の主張はない。また、被請求人は、「乙第2号証にも・・・使用している。」と述べるが、ここでも、いつの行為であるかについての具体的事実の主張がない。さらに、被請求人は、「乙第1号証及び乙第2号証は、巻末に記載のある被請求人の支社及び支店に配布され、客先からの引き合いに応じて対応できるよう真正に使用されている。」と述べるが、使用の時期についての具体的事実の主張はない。
なお、カタログ1の最終頁右下部を見ると「0203-0309」の記号が付されていることから、当該カタログ1は、2002年3月から2003年9月を使用期間として作成されたものと推測される。
同様に、カタログ2についても最終頁右下部に「9509-0605」と記号が付されていることから、当該カタログ2は、1995年9月から2006年5月を使用期間として作成されたことが推測される。
したがって、カタログ1及び2は、審判請求登録前3年より以前の古い書類であって、仮に使用時期についての主張があったとしても、審判請求登録前3年以内の使用を証明する証拠とはなりえない。
ウ 使用商標
(ア)乙第1号証における使用商標
被請求人は、「被請求人は、乙第1号証に見られる如く、『データ管理システム』に本件商標『WATCHING』を乙第1号証の第1頁に英文字で大きく表示し、かつ、『TM』表示をなしており、自他商品識別標識として取引者、需要者に商標の認識を与え、明らかに商標の使用といわざるを得ない。」と述べる。
しかし、カタログ1の表紙に示された商標は図形化した文字による「WATCHINGV」であって(以下「使用商標1」という)、本件商標とは構成が異なり、「登録商標」の使用とはいえない。
「登録商標」の使用には、50条1項の「社会通念上同一と認められる商標」が含まれるが、これに該当するためには、同項に例示されているように「同一の称呼および観念を生ずる」ことが必要と解されるところ、使用商標1からは「ウォッチングブイ」若しくは「ウォッチングファイブ」の称呼が生じ、本件商標から生じる「ウォッチング」の称呼とは異なるため、社会通念上同一ともいうこともできない。
被請求人は、使用商標1に含まれる「WATCHING」の部分が「大きく表示され、かつ、『TM』表示をなして」いることから、「WATCHING」の部分のみが取引者、需要者に商標の認識を与えると述べる。
しかし、使用商標1を見ると、「WATCHINGV」が一連に表記されており、比較的「V」の方が大きく表示されていることから、「WATCHING」が大きく表示されているとはいえない。また、「TM」表示は極めて小さく表記されているにすぎず、ほとんど目につかない部分である。したがって、使用商標1のうち「WATCHING」だけが特に注意を引くということはなく、被請求人の主張はあたらない。
また、カタログ1の最終頁下部の「本システム適用上のご注意」を見ると、「『WATCHING-V』は、システムを構成する製品に・・・」との記載があり、「WATCHING-V」全体がかぎ括弧で括られていることからすれば、被請求人自身が、全体を一つの商標として使用する意図であったことも明らかである。また、このようなかぎ括弧付きの表記を見れば、取引者、需要者が、「WATCHINGV」を全体として一つの商標と認識するのも当然である。
したがって、使用商標1から「V」を捨象して「WATCHING」のみを抽出し、「登録商標」の使用であるということはできない。
また、「WATCHING」は、「監視する、見張る」といった意味を有する英単語「WATCH」の動名詞ないし進行形であるところ(甲4)、カタログ1で紹介されているデータ管理システムとの関係において、その品質・用途等を示す言葉であるため、自他商品識別機能がない又は著しく弱い言葉といえる。
すなわち、カタログ1の表紙の裏側(2頁)の説明文は、「場内・外施設のデータ管理、簡易監視を、・・・を使用してシステム構築します。・・・また、広域化するデータ管理・簡易監視に対応し、・・・Webベースで実現します。今日から、必要な施設データは、いつでもどこからでもマウスひとつでWATCHINGできます。」と記述されており、カタログ1で紹介するデータ管理システムが「データ管理・簡易監視」という用途・目的のシステムであって、「WATCHING」が、かかる用途・目的を示すために記述的に用いられていることは明らかである。
したがって、当該カタログ1で紹介されるデータ管理システムとの関係において、「WATCHING」が単独で自他商品識別機能を発揮することはできず、使用商標1は全体として一つの商標と認識されるというべきである。
以上より、カタログ1に示された使用商標1によって、「登録商標」の使用の事実は立証されない。
(イ)乙第2号証における使用商標
被請求人は、「乙第2号証にも『データ管理システム』に本件商標『WATCHING』を使用している。」と述べる。
しかし、カタログ2に示された商標は、「WATCHING V」であって(以下「使用商標2」という。)、本件商標とは構成が異なり、「登録商標」の使用とはいえない。
乙第1号証に関して述べたように、「WATCHING V」から生じる称呼は「ウォッチングブイ」若しくは「ウォッチングファイブ」であって、本件商標から生じる称呼「ウォッチング」と異なるため、社会通念上同一の商標ともいえない。
また、使用商標2が使用されている「データ管理システム」とは、「場内外のデータ管理をWebベースで実現する簡易監視システムです。」と紹介されているように、データを監視するシステムであって、「監視」を意味する「WATCH」の動名詞・進行形である「WATCHING」は(甲4)、用途・目的を示すにすぎないため、自他商品識別力がない又は著しく弱い言葉である。
したがって、「WATCHING」は単独で自他商品識別機能を発揮することができず、使用商標2は全体として一つの商標と認識される。
以上より、カタログ2に示された使用商標2によって、「登録商標」の使用の事実は立証されない。
エ 「使用」行為について
被請求人は、「乙第1号証及び乙第2号証は、巻末に記載のある被請求人の支社及び支店に配布され、客先からの引き合いに応じて対応できるよう真正に使用されている。」と述べる。
しかし、「客先からの引き合いに応じて対応できるように真正に使用」との主張は具体性を欠いており、商標法2条3項各号の「使用」行為として、具体的な事実の主張がなされているとはいえないし、事実を裏付ける証拠の提出もない。
したがって、「使用」行為に該当する事実を認定することはできない。
(2)乙第3号証及び乙第4号証について
ア 主張自体の失当性
乙第3号証及び乙第4号証によって被請求人が主張するのは、建設工事請負契約に関する「WATCHING」の使用であり、建設工事請負契約の事実や図面の存在を立証しようという趣旨のようである。
しかし、請負契約とは、請負人が仕事の完成を約し、相手方が仕事の完成に対して報酬を支払うことを約する契約であるところ、報酬の支払いに対応して請負人が提供するのは、仕事の完成という役務である。
すなわち、被請求人がその存在を主張する「建設工事」は、政令で定める商品・役務の区分によれば、第37類に区分される役務である(甲5)。したがって、被請求人の主張は、本件商標の第9類の指定商品についての登録商標の使用とは何ら関連性のない事実の主張であり、主張自体失当である。
イ 証拠の信用性の低さ
乙第3号証として示された「建設工事請負契約書」の内容は、ほとんどの部分が黒塗りされており、その内容は不明である。乙第4号証として示された書類も、「展開接続図」のタイトルがあるが、その内容は不明である。
ウ その他
乙第4号証には「WATCHING-V」の文字が記載されているが、本件商標とは構成が異なり、「登録商標」の使用の事実を証明する証拠にはならない。
また、「WATCHING-V」から生じる称呼は「ウォッチングブイ」若しくは「ウォッチングファイブ」であって、本件商標から生じる称呼「ウォッチング」と異なるため、社会通念上同一の商標ともいえない。
また、「WATCHING-V」の上に「汚泥脱水設備(簡易型監視制御装置)」の記載があることから、かかる監視制御装置に関して「WATCHING-V」を使用していることを示す趣旨と解されるが、「監視」を意味する「WATCH」の動名詞・進行形である「WATCHING」は(甲4)、かかる監視制御装置との関係で用途・目的を示すにすぎないため、自他商品識別力がないか又は著しく弱い言葉である。
したがって、「WATCHING」は単独で自他商品識別機能を発揮することができず、商標として認識され得るのは「WATCHING-V」全体であるから、「V」を捨象して「WATCHING」のみを抽出し、「登録商標」の使用であるということはできない。
(3)乙第5号証について
ア 使用時期
被請求人は、「設備納入の度に常に」と述べるのみで、使用時期についての具体的事実の主張はなく、主張自体失当であるばかりでなく、乙第5号証は2002年5月の日付が入った書面であるから、審判請求登録前3年以内の使用を証明する証拠とはなりえない。
イ 使用商標
被請求人は、「乙第5号証は、当然のことながら『WATCHING』が商標として使用していることを示しており」と述べる。
しかし、乙第5号証の左頁に示された商標は「WATCHING-V」であり、本件商標とは構成が異なるため、「登録商標」の使用とはいえない。
該「WATCHING-V」からは、「ウォツチングブイ」若しくは「ウォッチングファイブ」の称呼が生じ、本件商標から生じる「ウォツチング」の称呼とは異なるため、社会通念上同一ということもできない。
また、乙第5号証の右頁の「まえがき」には「本WATCHING-V機能説明書は、WATCHING-Vがもつ機能概要を説明したものです。」と記載されており、「WATCHING-V」が一つの商標として使用されていることは明らかである。
したがって、使用商標から「V」を捨象して「WATCHING」のみを抽出し、「登録商標」の使用であるということはできない。
なお、被請求人の主張及び乙第5号証からは明らかではないが、仮に、乙第5号証の機能説明書が、カタログ1及び2で示された「データ管理システム」についての機能説明書であるならば、「WATCHING」は、「監視する、見張る」といった用途・目的等を表すにすぎず、自他商品識別力を持たない言葉である(甲4)。
したがって、使用商標から「WATCHING」の部分だけが独立した商標と認識されることはなく、使用商標は全体として一つの商標と認識される。
よって、乙第5号証に示された使用商標によって、「登録商標」の使用の事実は立証されない。
ウ 指定商品についての使用
被請求人は、「乙第5号証は使用立証にかかる機能説明書であり、乙第5号証は、当然のことながら・・・使用していることを示しており」と述べる。
しかし、指定商品のうちいずれの商品についての使用かについて、「使用立証にかかる機能説明書であり・・・当然のことながら・・・使用している」と述べるのみで、具体的事実の主張がなく、主張自体失当である。
エ 「使用」行為について
被請求人は、「乙第5号証は使用立証にかかる機能説明書であり、乙第5号証は、当然のことながら・・・使用していることを示しており、設備納入の度に常に発注者に納品している。」と述べる。
しかし、「使用立証にかかる機能説明書であり・・・当然のことながら・・・使用している」との記述は具体的な事実の主張とは解されないし、「設備納入の度に常に発注者に納品している」との記述も曖昧で特定できないため、商標法2条3項の「使用」行為として、具体的事実の主張がなされているとはいえない。また、事実を裏付ける証拠の提出もない。
したがって、「使用」行為に該当する事実を認定することはできない。
(4)まとめ
以上述べたところから明らかなように、被請求人による答弁は、具体的な要件事実の主張を欠いており、主張された事実についても、それを裏付ける証拠が提出されていないため、その事実は証明されない。

3 第2弁ばく
(1)使用商標について
被請求人は、第二答弁の「使用に係る商標」において、登録商標と社会通念上同一と認められる商標を使用している旨を主張する。
しかし、被請求人が提出した証拠によれば、使用商標とされているのは「WATCHINGV(ロゴ)」、「WATCHING V」ないし「WATCHING-V」であって、これらは登録商標と同一でないばかりか、社会通念上同一とも認められない。
そして、特に注目すべきは、被請求人が昨年(平成22年)11月に作成したという新カタログ(乙15)の表紙において、「WATCHINGV2(ロゴ)」が使用されており、また、被請求人のウェブサイト上でも公開されていることである(甲第8号証)。ここでは、従来からの商標「WATCHINGV(ロゴ)」の新バージョンとして、これに数字の「2」が付加したものが使用されており、「WATCHINGV」シリーズの第2弾であることを認識させるものである。すなわち、被請求人みずから「V」も含めた「WATCHINGV」が全体として一つの商標であることを自認し、そのシリーズ化を図ったものということができる。このような、被請求人による「WATCHINGV」の使用態様にかんがみても、「WATCHINGV」の一体性は明らかである。
そして、需要者の認識についても、カタログの頒布を証明すべく提出された長野県上水内郡小川村職員による陳述書(乙18)において、「添付の表紙に『WATCHING V』が大きく記載された・・・カタログの交付を受け」と記載されているように、使用商標「WATCHING V」が一連一体に認識されていることは明らかである。また、静岡県三島市職員による同様の陳述書(乙27)においても、「添付の表紙に『WATCHING V』が大きく記載された・・・カタログ」、「『WATCHING V』の記載のある・・・カタログ」と記載されており、ここでも需要者が認識する使用商標は「WATCHING V」全体である。
このように、被請求人が提出した証拠、被講求人自身の答弁書における記載、さらに、需要者の認識をみれば、使用商標は「V」も含めた「WATCHINGV(ロゴ)」、「WATCHING V」ないし「WATCHING-V」であって、その使用態様は常に一連一体的であり、全体として自他商品識別標識として認識されることは明らかである。したがって、「WATCHING」が単独で自他商品識別力を発揮する態様で使用されている事実は認められず、登録商標と同一ないし社会通念上同一の商標の使用は認められない。
(2)指定商品についての使用について
被請求人は、乙第3号証及び同号証の1を提出して、商品について商標が使用された旨を主張する。しかし、ここで証拠として提出されたのは建設工事請負契約書の写しであって、平成23年2月18日付けの審尋において「本件商標が使用されたことを示す直接的な商品の取引書類ということはできないから、商品の取引に関する事実は不明である。」と指摘されたように、本件の第9類の指定商品についての商標の使用の事実は立証されていない。
そもそも請負契約とは、請負人が仕事の完成を約し、相手方が仕事の完成に対して報酬を支払うことを約する契約であるところ(民法632条、甲9)、報酬の支払いに対応して請負人が提供するのは、仕事の完成という役務である。すなわち、被請求人がその存在を主張する「建設工事」は、政令で定める商品・役務の区分によれば、第37類に区分される役務である。
被請求人は、契約の名称は建設工事請負契約であるが、これには商品の販売が含まれているなどと主張して(平成23年3月25日付け回答書)、当該請負契約の約款の第1条2項を引用しているが(乙20)、かかる主張は的外れといわざるを得ない。すなわち、当該約款の第1条2項は、請負人が工事を工期内に完成し、工事目的物を注文者に引き渡し、注文者はその請負代金を支払うことを規定しているところ、被請求人は、工事目的物を引き渡すという文言をとらえて、商品売買の事実を主張しているように思われる。
しかし、民法633条が「報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第624条第1項の規定を準用する。」と定めるように(民法633条、甲9)、請負人は、請負代金の支払いと同時に、仕事の完成によって生じた目的物を注文者に引き渡す義務を当然に負うものである。このように、仕事の完成による成果物の引渡しは請負契約の内容として当然に含まれるものであって、本件約款にこれを確認する規定が含まれていることをもって商品の売買取引があったと解することはできない。被請求人が提出したその他の証拠(乙21ないし乙26)も、建設工事の内容、完成検査結果通知書やその請求書等であって、全て建設工事請負契約の存在を示すものであって、これらによって商品取引があったと認めることはできない。
さらに、被請求人は、長野県上水内郡小川村に対する水道事業に関する工事請負の仕様書を提出し(乙17)、ここでも商品の販売を主張しているようである。しかし、当該仕様書の項目2.を見ると、項目のタイトルが「製作機器」となっており、「今回工事での製作機器は下記とします。」として「(1)中央監視装置(2)テレメータ受信装置盤」が記載されている。これはすなわち、これらの機器の製作を内容とする請負契約の存在を示すものであって、商品取引があったと認めることはできない。
(3)まとめ
以上のとおり、被講求人の提出した証拠から、登録商標(社会通念上同一と認められるものを含む。)の使用の事実は立証されず、また、指定商品についての使用も立証されていない。
したがって、商標法第50条第2項所定の要件に該当する事実を認めることはできず、本件商標登録は取消されるべきものである。

第3 被請求人に対する審尋
(平成23年2月18日付け審尋の内容)
被請求人は、2回にわたる答弁書によって、審判請求の登録前3年以内の本件商標の使用をその提出に係る証拠方法をもって証明しようとしているところ、以下の点が不明であるから、さらなる証拠として、商品の譲渡等に関する取引書類を提出されたい。
1 乙第10号証は、乙第1号証の商品カタログを顧客に頒布するために、保管先の倉庫業者へ納入依頼した際の「受領書」であるとしているが、これだけでは、商品カタログが顧客に頒布された事実は不明である。
2 乙第3号証は、「建設工事請負契約書」であって、乙第4号証は、乙第3号証の更新工事の図面の一部とのことであるが、両乙号証は、本件商標が使用された事実を示す直接的な商品の取引書類ということはできないから、商品の取引に関する事実は不明である。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第27号証(枝番を含む。)を提出している。

1 第1答弁
本件商標につき、本件取消請求に係る使用立証をすべき期間、継続して使用し、かつ、本答弁書提出時点に使用している。被請求人は、カタログ1に見られるように、「データ管理システム」に本件商標、「WATCHING」をその第1頁に英文字で大きく表示し、かつ、「TM」表示をなしており、自他商品識別標識として取引者、需要者に商標の認識を与え、明らかに商標の使用といわざるを得ない。
カタログ1中、「場内・外施設のデータ管理、簡易監視を、ヒューマン・インターフェース・ステーションと目的に応じて入手力ユニットや、データ収集蓄積装置を使用してシステム構築します。」等の記載から明らかなとおり、本件商標の指定商品、「電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)」の中に含まれること明らかである。
カタログ2にも「データ管理システム」に本件商標「WATCHING」を使用している。
カタログ1及び2は、巻末に記載のある被請求人の支社及び支店に配布され、客先からの引き合いに応じて対応できるよう真正に使用されている。
乙第3号証は、直近の「WATCHING」商標を付した製品に係る建設工事請負契約書写しである。契約締結日は使用立証期間内である平成20年1月16日であり、被請求人は更新工事(第102工区)を受注し、工事着手は平成20年1月17日であり、完成(設置)は平成21年1月20日である事を示している。
乙第4号証は、乙第3号証に係る更新工事(第102工区)の図面の一部(展開接続図)であり、「WATCHING」が使用されている。当該図面は2008年6月23日に設計され2008年7月4日に承認されている。
乙第5号証は、使用立証に係る機能説明書であり、当然のことながら「WATCHING」が商標として使用していることを示しており、設備納入の度に常に発注者に納品している。
上述のとおり、乙第1号証ないし乙第5号証により、本件商標「WATCHING」を「データ管理システム」に商標として使用したといわざるを得ないものと考える。

2 第2答弁
(1)商標の使用者
カタログ1及びカタログ2には、被請求人の名称「株式会社 東芝」及び被請求人の住所「東京都港区芝浦1-1-1」が明記されている。
また、乙第3号証「建設工事請負契約書」及び乙第4号証「展開接続図 SCHEMATIC DIAGRAMS」並びに乙第5号証機能説明書(WATCHING-V)には、いずれも被請求人の名称「株式会社 東芝」が明記されている。
被請求人は、乙第6号証に示すとおり、1999年4月1日から、従来の「事業グループ制」を廃止し、「社内カンパニー制」を採用しており、その旨はプレスリリース等を通じて公にされ、既に10年以上にわたる被請求人の組織体制として一般に認知されている。
乙第7号証及び乙第8号証により、「電力・社会システム社」や「社会システム社」が社内カンパニーであり、被請求人の会社の一組織であることは明確に認識できる。
(2)使用時期
カタログ1の最終頁の右下部には、「0309」の表記があり、カタログ2の最終頁の右下部には、「0605」の表記がある。これらの表記は、その作成年月を示すこと、すなわちカタログ1が2003年9月作成、カタログ2が2006年5月作成であることは、請求人が認めているとおりである。
これらの日付は確かに、本件審判請求の登録日前3年より前であるが、本件商標の使用対象商品は、後述するとおり、場内・外施設のデータ管理・簡易監視をウェブベースで可能にするシステムであり、一般商品者向けの白物家電やデジタル家電のように、ライフサイクルが短くモデルチェンジが頻繁に行われる性質のものではなく、長期に渡って販売活動を続けていくものである。必然的に、カタログの作成や改定も頻繁に行われることはなく、一度作成したカタログを長期にわたって使用していく。
したがって、本件商標の使用商品分野においては、2003年や2006年に作成されたカタログが本件審判請求の登録日前3年以内に継続して使用されていても何ら不思議は無い。同じことは、2002年5月発行の「WATCHING-V」機能説明書(乙5)にもいえる。
被請求人が本件商標を本件審判の要証期間内においても、使用していたことは明らかであるが、念のため、被請求人がカタログ1を顧客に頒布するために、カタログ1の保管を依頼している倉庫業者に対して、カタログ1の搬出及び納入を依頼した際の伝票の写しを乙第10号証として提出する。
乙第10号証には、カタログ1搬出の依頼先及び納入先として被請求人名称が明記してある。被請求人は、倉庫業者よりカタログ1の納入を受けた後、これを客先に頒布して商業活動を行っている。
(3)使用に係る商標
乙第1号証ないし乙第5号証及び乙第10号証には、商標「WATCHING-V」が記載されている。この点について、請求人は本件商標と社会通念上同一ではない旨主張するが、以下に述べるとおり、請求人の主張は失当である。
請求人はカタログ1の表紙の「WATCHING TM(トレードマーク記号) V」の表記について、「一連に表記されている」「『TM』表示は極めて小さく表記されているにすぎずほとんど目につかない」と主張する。当該箇所は、商品カタログの表紙という特質上、デザイン的な問題から、ハイフンを抜いた「WATCHING TM(トレードマーク記号) V」の態様ではあるが、請求人自身が認めているように「WATCHING」と「V」は文字の大きさが異なり、書体も異なる上に、スペースも空いているので、「WATCHING」と「V」が一連ではないことは外見上明らかである。
また、乙第1号証においても表紙以外の箇所、乙第2号証ないし乙第5号証並びに乙第10号証では「WATCHING-V」の態様で使用されている。「-(ハイフン)」は本来的な役割は「二語の連結」ではあるが、外見的に与える印象より、それがむしろ二語を分断して認識される役割を果たすことは昨今の社会常識から明らかである。また、製品の型番や種別を示すために、製品の商標の後ろに「-(ハイフン)XX」の如く、ハイフンと文字や数字を組み合わせたものを追加し、「(商標)-XX」として用いることは、我が国の商取引において一般的に行われている。したがって、「WATCHING-V」なる態様を目にした需要者は「WATCHING」の「Vシリーズ」と認識すると考えるのが至当である。
さらに、被請求人が「WATCHING」が商標であり、「V」は型番的使用であると認識していることは、乙第1号証の最終頁の左下部に「WATCHINGは株式会社 東芝の登録商標です」と記載されていることからも明らかである。
(4)使用に係る商品
本件商標は、その指定商品中、「電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)」に使用されている。すなわち、カタログ1には、本件商標を使用する商品の説明として「場内・外施設のデータ管理、簡易監視を、ヒューマン・インターフェース・ステーションと目的に応じて入出力ユニットや、データ収集蓄積装置を使用してシステム構築します。」との記載があり(2頁)、カタログ2には、本件商標を使用する商品の説明として同様の記載がある(15頁)。更に、乙第4号証には、本件商標を使用する商品として「汚泥脱水設備(簡易型監視制御装置)」の記載がある。
(5)「使用」行為について
請求人は、カタログ1及び2が、客先に頒布されたという証拠の提出がない旨を主張しているようであるが、商品カタログを客先に頒布する場合に、毎々、客先がカタログを受領した証拠を残すために、例えば受領証を作成して客先に捺印して頂くような行為が、我が国の商慣習になじまないことは、我が国において企業活動を行っている請求人も十分ご理解されていることと思料する。被請求人を含め営利企業が、頒布の見込みが全くない状態で、費用をかけてカタログを作成した上に倉庫業者からそれを取り寄せるという事態があり得ないことは、社会常識的に明らかであり、カタログ1及び2が客先に頒布されていたと考える方が自然である。

3 審尋に対する回答
(1)乙第1号証の商品カタログ1が顧客に頒布された事実が不明であるとの指摘について
本件商標にかかわる取引の実情を説明する。被請求人が使用立証した商品は、家電量販店あるいはスーパーマーケットの電気製品コーナー、ホームセンター等で販売される商品の類には属さない。すなわち、被請求人が使用立証した商品の販売を目指す上下水管理施設は、規模、構造、管理方法等が一定しておらず、客先(主に地方公共団体)の要求仕様に合わせたものを提供しなければならない。
つまり、コンピュータ等の電子機器設置を行うと同時に、規模、構造、管理方法に合わせた、センサーの設置、配電盤の設置、配線設置等の設置工事を伴う性質のものである。
被請求人は、本件商標を使用していること、第2答弁で述べたとおりであって、カタログ1を2003年9月に作成し、継続して使用していることの主張になんら変更はない。
昨年(2010年)11月に、大規模な仕様変更は行っていないが、新カタログを作成している。それを立証するものとして、新カタログを乙第15号証として提出する。
乙第10号証で示したとおり、被請求人は2008年7月4日にカタログ1等の管理を委託する株式会社イオマサービスから取り寄せた。
ここで、必要書証が揃ったことから、長野県上水内郡小川村での使用事実を挙げる。
カタログ1は、2009年5月25日に「WATCHING-V」商品を購入頂いた長野県上水内郡小川村との仕様確認の打ち合わせで、当該小川村担当者に提示し、同時に受領頂いている。
前述打ち合わせの内容は、2009年6月15日、被請求人発行の議事録に記録されており(乙16)、長野県上水内郡小川村に提出した。
さらに、この打ち合わせで、納入対象コンピュータ等の電子機器仕様及び工事仕様の確認を行った際の第1回仕様確認書を乙第17号証として提出する。同号証の第4頁に「中央監視装置には、データ管理システムWATCHING-Vを採用します。詳細は別添パンフレットをご覧下さい」との記載があり、このときに交付したものがカタログ1である。
このカタログ1の交付、頒布の事実が確固たるものであることを立証すべく、受領者たる小川村担当者が受領した旨の陳述書を乙第18号証として提出する。
併せて、乙第18号証における、「株式会社 東芝より、データ管理システム『WATCHING V』を購入し、しゅん工検査実施後に平成22年1月6日、小川村長 大日方 茂木 名を以って、『完了検査結果通知書』を交付したことに相違ありません」に関連し、「完了検査結果通知書」を乙第19号証として提出する。
乙第3号証、乙第4号証の発注元、提出先は三島市であるが、明示の範囲を明らかにするため、乙第3号証の1及び乙第4号証の1を提出する。そして、三島市役所に対しても、カタログ1を提示して仕様説明を行っており、カタログ1は三島市役所にも受領されている。
(2)乙第3号証及び乙第4号証からは商品の取引の事実が不明であるとの指摘について
カタログ1をもって事業展開する分野は、地方公共団体等公的機関の社会インフラの需要に対応するものである。コンピュータ等の電子機器の販売を行うと同時に、設置工事を伴う性質のものである。本件商品の取引の実情について、三島市役所の実例を基に説明する。
三島市からの要望又は被請求人の営業活動により、本件商品の納入に向け、具体的な商談(仕様確認)が開始され、三島市において仕様確認後に、契約が締結される(乙3の1、2008年1月16日締結)。
「WATCHING-V」は、上下水道プラントのデータ管理システムであり、本件商品の納入にあたっては、必ずその設置工事を伴うため、契約書の件名としては「建設工事請負契約書」となっているが、これはデータ管理システムである本件商品の販売を含むものである(乙3、乙3の1)。
乙第3号証及び同号証の1の契約書の約款として、乙第20号証を提出する。同号証の第1条第2項において、「乙(請負者。本件では被請求人)は、契約書(乙第3号証および同号証の1を指す。)記載の工事を契約書記載の工期内に完成し、工事目的物を甲(発注者。本件では三島市役所)に引き渡すものとし、甲は、その請負代金を支払うものとする。」と規定されている。ここでいう「工事目的物」がデータ管理システム「WATCHING-V」であり、当該商品を引き渡すことが、当該請負契約の中に含まれている。
ここで、乙第3号証及び同号証の1の内訳表を乙第21証として提出する。同号証の第2頁に、「簡易型監視制御装置」とある。この「簡易型監視制御装置」が「WATCHING-V」を意味することは、乙第4号証及び同号証の1に示されているとおりである。
契約が締結されると、被請求人は、顧客からの詳細な要望を受けて、具体的な機器の設置や接続に関する提案を行う(乙4、乙4の1)。乙第4号証及び同号証の1の日付が、2008年7月4日と、契約締結日より約半年後となっているのは、そのためである。また、同号証の事業名は、「ご注文主」にあるとおり「三島終末処理場脱水機電気設備更新工事(第102工区)」であり、これは乙第3号証及び同号証の1の工事名と一致する。そして、同号証には、被請求人が本件事業において「汚泥脱水設備(簡易型監視制御装置)」として「WATCHING-V」を納入することが明記されており、これは、乙第20号証の約款第1条の「設計図書」に該当する。
「WATCHING-V」の設置工事等が完了すると、三島市は乙第20号証第31条に従い、工事の完成を確認するための検査を行い、それが完了すると、検査に合格した旨の通知を被請求人に対して行う。これが、2009年2月6日付け三島市の完成結果通知書である(乙22)。この通知を受けて、工事目的物(本件では簡易型監視制御装置であるデータ管理システム「WATCHING-V」)の引渡しが行われる(乙21、第31条第4項)。
乙第22号証の完成結果通知書を受けて、被請求人は、三島市に対して請求書を発行し(乙23、乙24)、三島市より支払いを受けた(乙25、乙26)。
なお、乙第23号証及び乙第24号証の請求書には日付がないが、これは三島市から請求書の書式指定を受けているためであり、被請求人から三島市への提出日が手書きで記載されている。付言すると、この請求書の内容は三島市が確認し、問題がなければ、三島市が受理日付を記入する。また、三島市からの支払通知書(乙25、乙26)には、振込日がそれぞれ明記されている。
(3)乙第1号証のカタログの使用事実について、三島市担当者から、乙第1号証の受領及び乙第22号証の発行につき、宣言、陳述を得たので、陳述書を乙第27号証として提出する。

第5 当審の判断
1 被請求人の提出した乙各号証によれば、以下の事実を認めることができる。
乙第1号証は、「データ管理システム WATCHING TM V」を表題とするカタログ(カタログ1)である。
その表紙には、「TOSHIBA」、「データ管理システム」及び「WATCHING TM V」の各文字が表示されているところ、「WATCHING」の文字の右肩に小さく付された「TM」は、「トレードマーク(商標)」を意味する略記号として一般に使用されている。
そして、カタログ内側の左頁には、「場内・外施設のデータ管理、簡易監視を、ヒューマン・インターフェース・ステーションと目的に応じて入出力ユニットや、データ収集蓄積装置を使用してシステム構築します。」の記載がある。カタログ内側の中央及び右側の各頁には、「Type-A 場内の施設管理に適したリアルタイム型システム」などのシステム例が構成図として示されている。
また、裏表紙には、ハードウェア構成として、データ管理装置(ディスプレー装置、コンピュータサーバー、プリンタ等)、入出力ユニット及びデータ収集蓄積装置などの写真が掲載されている。
そして、その写真の下には、「株式会社東芝 電力・社会システム社」の名称が表示され、その頁の下部には、「WATCHINGは株式会社東芝の登録商標です。」、「0203-0309(3)」の記載がある。
乙第2号証は、「上下水道電気計装設備」を表題とするカタログ(カタログ2)である。
表紙には、「TOSHIBA」、「上下水道電気計装設備」の各文字の記載がある。
そして、15頁の「監視制御設備」の項目中に、「データ管理システム WATCHING V」の見出しがあり、その下に、データ管理システムを構成する装置(ディスプレー装置、コンピュータサーバー、プリンタ等)の写真が掲載され、「場内外のデータ管理をWebベースで実現する簡易監視システムです。場外データ収集には、公衆回線、ISDN回線の適用が可能です。ホームページを見る感覚の簡単な操作で、お手持ちのパソコンでも事務所で管理できます。施設管理をIT化し、業務の効率化・省力化を実現します。」の記載がある。
裏表紙の上部には、「株式会社東芝 社会システム社」の名称が表示され、その頁の下部には、「9509-0605(6R)」の記載がある。
乙第3号証の1は、「建設工事請負契約書」であり、平成20年1月16日付けで契約され、発注者は「三島市長」、請負者は「(株)東芝 静岡支店」である。
「1 工事名」として「三島終末処理場脱水機電気設備更新工事(第102工区)」、「3 工期」として「着手 平成20年1月17日/完成 平成21年1月30日」の記載がある。なお、「4 請負代金額」等の各所に黒塗り部分がある。
乙第4号証の1は、「展開接続図」と題する書面である。「御注文主」には、「三島市長 小池政臣様」及び「三島終末処理場脱水機電気設備更新工事(第102工区)」、さらに、「汚泥脱水設備(簡易型監視制御装置)/WATCHING-V」の記載がある。
また、中央の線の下に、「株式会社東芝」の文字が記載され、「承認、調査、設計」の欄があり、各欄にはそれぞれ「08・7・4」「08・6・23」「08・6・23」の日付が記載されている。
乙第20号証は、三島市の作成の「三島市建設工事請負契約約款」であり、「建設工事請負契約書」(乙3の1)の約款とされるものである。同号証の第1条第2項において、「乙は、契約書記載の工事を契約書記載の工期内に完成し、工事目的物を甲に引き渡すものとし、甲は、その請負代金を支払うものとする。」と規定されている。
ここでいう「乙」は、「株式会社東芝」であり、「甲」は、「三島市役所」である。
また、「工事目的物」は、「展開接続図」(乙4の1)の記載事項からみて、「汚泥脱水設備(簡易型監視制御装置)/WATCHING-V」であり、当該商品を引き渡すことが、当該請負契約の中に含まれている。
乙第21号証は、「建設工事請負契約書」(乙3の1)の内訳表とされるものである。表紙には、「平成19?20年度 施工 国庫補助事業」「施行箇所 三島市長伏地内」「三島終末処理場脱水機電気設備更新工事(第102工区)」「三島市役所」の記載がある。2頁目には、「本工事費内訳書」の内容として、「細別、単位、数量」の欄に、「簡易型監視制御装置」「式」「1」の記載がある。
乙第22号証は、「三島市長」から「株式会社東芝 静岡支店」に宛てた、平成21年2月6日付けの「完成検査結果通知書」である。これには、「工事名」として「三島終末処理場脱水機電気設備更新工事(第102工区)」、「担当監督員 所属・氏名」として「水道部 下水道管理課 柴原洋介」、「工期」として「着手 平成20年1月17日/完成 平成21年1月30日」、「完成年月日」として「平成21年1月27日」などの記載がある。
乙第27号証は、三島市役所水道部に所属する「柴原洋介」による「陳述書」である。これには、「私は、平成20年5月9日に、・・・上下水道事業中央監視装置の商談説明を受けました。その中で、添付の表紙に『WATCHING V』が大きく記載された『データ管理システム』カタログ及び『WATCHING V』の記載のある『上下水道電気計装設備』カタログの交付を受け、それらカタログを元に、前記『データ管理システム』『上下水道電気計装設備』の説明を受けたことに相違ありません。」などの記載がある。

2 本件商標の使用について
(1)カタログにおける使用商標、使用商品及びその作成者について
ア 乙第1号証は、「データ管理システム WATCHING TM V」を表題とするカタログ1である。
そして、本件商標は、「WATCHING」の欧文字よりなるところ、このパンフレットにおける使用商標は、該「WATCHING TM V」(以下「使用商標1」という場合がある。)の欧文字と認められるところである。
そこで、使用商標1が本件商標の使用であるか否かを検討する。
使用商標1の「WATCHING TM V」は、その構成中の「WATCHING」の文字部分が他の文字部分とは文字の大きさが異なり、かつ、その文字の右肩には、「トレードマーク(商標)」を意味する略記号の「TM」が小さく配されているから容易に分離して認識でき、その文字の表示態様も若干デザイン化して表されてはいるが、容易に本件商標と綴り字を同じくする「WATCHING」の欧文字の構成及び配列を認識し得るものである。
そうとすれば、使用商標1は、その構成中の「WATCHING」の部分を捉えて、看者はこの部分を商標と認識するものであるから、これは、本件商標と社会通念上同一の商標と認められるものである。
次に、使用商品についてみると、乙第1号証の表紙には、「データ管理システム」、内側の左頁には、「場内・外施設のデータ管理、簡易監視を、ヒューマン・インターフェース・ステーションと目的に応じて入出力ユニットや、データ収集蓄積装置を使用してシステム構築します。」の記載があり、内側中央及び右側各頁には、「Type-A 場内の施設管理に適したリアルタイム型システム」の構成例などが示されており、裏面には、ハードウェア構成として、データ管理装置(ディスプレー装置、コンピュータサーバー、プリンタ等)、入出力ユニット及びデータ収集蓄積装置などの写真が掲載されていることから、少なくとも、第9類「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属する商品「電子計算機」について、本件商標の使用をしていることが認められる。
そして、カタログ1の裏表紙には、商標権者と異なる「株式会社東芝 電力・社会システム社」の名称が表示されているが、商標権者の会社は「社内カンパニー制」を採用しており、「電力・社会システム社」の表示は、社内組織の名称であって、また、同時に「株式会社東芝」の表示がされていることから、商標権者が作成したカタログであることは明らかである。
イ 乙第2号証は、「上下水道電気計装設備」を表題とするカタログ2である。その15頁には、「データ管理システム WATCHING V」の項目があり、デスクに載ったパソコン及びプリンターの写真が掲載されている。
そして、本件商標は、「WATCHING」の欧文字よりなるところ、このパンフレットにおける使用商標は、該「WATCHING V」(以下「使用商標2」という場合がある。)の欧文字と認められるところである。
そこで、使用商標2が本件商標の使用であるか否かを検討する。
使用商標2の「WATCHING V」は、「WATCHING」と「V」の文字よりなるところ、両文字は、1文字相当分の間隔をあけて表されており、かつ、「V」の文字は、型番、形式などを表す記号、符号として使用されることが多い欧文字の1字であり、商品などの記号、符号として使用される場合は、しばしば、商標の後ろに付加される実情にある。
そうとすれば、該「V」の文字部分は自他商品の識別力を有せず、「WATCHING」の文字部分が自他商品の識別力を有しているものと看取される場合も少なくないといえる。
してみれば、使用商標2は、「WATCHING V」の全体として把握される場合の他に、その要部は、該「WATCHING」の文字部分と認められるから、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されたとして差し支えないものである。
次に、使用商品についてみると、上記同項目には、「データ管理システム」の文字の表示、同システムの説明の記載及び同システム構成例の商品写真が掲載されているところから、少なくとも、第9類「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属する商品「電子計算機」について、本件商標の使用をしていることが認められる。
そして、上記カタログ1と同様に、カタログ2の裏表紙には、商標権者と異なる「株式会社東芝 社会システム社」の名称が表示されているが、商標権者の会社は「社内カンパニー制」を採用しており、「社会システム社」の表示は、社内組織の名称であって、また、同時に「株式会社東芝」の表示がされていることから、商標権者が作成したカタログであることは明らかである。
(2)指定商品についての商品の取引について
カタログ1及び2は、「データ管理システム」及び「上下水道電気計装設備」に関するカタログであり、これらに記載された「WATCHING TM V」及び「WATCHING V」を名称とするカタログに記載の内容は、上下水道設備における場内外のデータ管理をWebベースで行う簡易監視システムであって、データ管理システムを構築するものである。
そして、この設備を構築するにあたっては、ハードウェア構成としてデータ管理装置(ディスプレー装置、コンピュータサーバー、プリンタ等)、入出力装置及びデータ収集蓄積装置などの電子計算機システムの商品を、その構成内容とするものである。
次に、乙第3号証の1、乙第4号証の1、乙第20号証及び乙第21号証の「建設工事請負契約書」、「展開接続図」及び「三島市建設工事請負契約約款」についてみるに、これらは、商標権者と三島市による、上記カタログ1及び2の「WATCHING TM V」及び「WATCHING V」を名称とする汚泥脱水設備(簡易型監視制御装置)についての電気設備更新工事の契約に関するものである。
たしかに、該「建設工事請負契約書」及び「三島市建設工事請負契約約款」によれば、これは、「建設工事」の範ちゅうに属する役務といえるものである。
しかし、汚泥脱水設備におけるデータ管理システム(簡易型監視制御装置)を構築するにあたり、その建設工事にあっては、工事目的物を甲(三島市)に引き渡すものとしており、上記したデータ管理装置(ディスプレー装置、コンピュータサーバー、プリンタ等)、入出力装置及びデータ収集蓄積装置などの電子計算機システムの商品を提供すると同時にその設置工事を行うものであるから、その設置工事の工事目的物として、前記した電子計算機システムの商品の引き渡しも含まれていると理解されるところである。
これについて、請求人は、「指定商品についての使用について、提出されたのは建設工事請負契約書の写しであって、当該約款の第1条2項は、請負人が工事を工期内に完成し、工事目的物を注文者に引き渡し、注文者はその請負代金を支払うことを規定しているところ、仕事の完成による成果物の引渡しは請負契約の内容として当然に含まれるものであって、本件約款にこれを確認する規定が含まれていることをもって商品の売買取引があったと解することはできない。被請求人が提出した証拠は、建設工事の内容、完成検査結果通知書やその請求書等であって、全て建設工事請負契約の存在を示すものであって、これらによって商品取引があったと認めることはできない。」旨主張している。
しかしながら、本件の契約においては、データ管理システム(簡易型監視制御装置)の設置工事であるから、「三島市建設工事請負契約約款」(乙21)の「工事目的物」には、上記商品が含まれると解すべきである。
そして、登録商標の使用について、契約の形態が「工事請負」であっても、当該工事とともに商品の販売が含まれるのであれば、かかる契約をもって、役務(工事)についての登録商標の使用といえるとともに、商品についても登録商標の使用がされたということもできる。
そうとすると、この請負契約による取引形態からすれば、これらの書証によって、電子計算機システムに係る商品の取引があったといっても差し支えないものである。
(3)カタログの使用時期について
カタログ1の作成日に関し、被請求人は、2003年9月であるとしており、請求人は、「0203-0309」の記号をもとに、2002年3月から2003年9月を使用期間として作成されたものであると推測されるとしているが、同カタログの作成日が、仮に、被請求人の主張するとおりであるとしても、本件審判請求の登録前3年より相当前に作成されたものである。
また、カタログ2の作成日に関し、被請求人は、2006年5月であるとしており、請求人は、「9509-0605」の記号をもとに、1995年9月から2006年5月を使用期間として作成されたものであると推測されるとしているが、同カタログの作成日が、仮に、被請求人の主張するとおりであるとしても、本件審判請求の登録前3年より相当前に作成されたものである。
しかしながら、平成21年2月6日付けの「完成検査結果通知書」(乙22)において、「担当監督員 所属・氏名」の欄に記載のある「水道部 下水道管理課 柴原洋介」による陳述書(乙27)によれば、「平成20年5月9日に上下水道事業中央監視装置の商談説明を受け、その中で、添付の表紙に『WATCHING V』が大きく記載された『データ管理システム』カタログ及び『WATCHING V』の記載のある『上下水道電気計装設備』カタログの交付を受け、それらカタログを元に、前記『データ管理システム』『上下水道電気計装設備』の説明を受けた。」旨の陳述をしており、少なくとも平成20年5月9日にカタログ1及び2が使用されたことが推認できる。また、三島市の担当者である柴原洋介の陳述の内容に詐称とすべき点は見当たらない。
してみれば、平成20年5月9日に商標権者によって、三島市にカタログ1及び2が提供されたといえるものである。

3 まとめ
以上によれば、商標権者は、本件審判の請求の登録前3年以内である平成20年5月9日に、データ管理システムにおける「電子計算機」について、本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標1及び使用商標2を表示したカタログ1及び2を、三島市に提供したものと認めることができる。
そして、商標権者の上記行為は、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布・・・する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当するものと認められる。
してみれば、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者が本件請求に係る指定商品中「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに属する商品「電子計算機」に本件商標の使用をしていたことを証明したと認め得るところである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2011-06-01 
結審通知日 2011-06-03 
審決日 2011-06-22 
出願番号 商願昭62-41760 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (111)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 井出 英一郎
末武 久佳
登録日 1990-02-23 
登録番号 商標登録第2210856号(T2210856) 
商標の称呼 ウオッチング 
代理人 田島 壽 
代理人 青木 篤 
代理人 山口 現 
代理人 堀口 浩 
代理人 原 隆 

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