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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Y35
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y35
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない Y35
管理番号 1231693 
審判番号 無効2009-890109 
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-06 
確定日 2011-01-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第5081374号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5081374号商標(以下「本件商標」という。)は、平仮名「だぶるくりっく」の文字を標準文字により表してなり、平成18年11月13日に登録出願、第35類「インターネットによる商品の販売及びサービスの提供の促進のためのポイントの発行,トレーディングスタンプの発行,職業のあっせん,インターネットオークションの運営,インターネットによる求人情報の提供」を指定役務として、同19年8月16日に登録査定、同年10月5日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人は、次の(1)ないし(4)のとおりの登録商標を引用している。
(1)登録第4164199号商標
商標の構成: DOUBLECLICK
登録出願日: 平成8年11月26日
設定登録日: 平成10年7月10日
指定役務 : 第35類「広告,市場調査,商品の販売に関する情報の提
供,広告用具の貸与」
(2)登録第4250955号商標
商標の構成: ダブルクリック(標準文字)
登録出願日: 平成9年8月12日
設定登録日: 平成11年3月19日
指定役務 : 第35類「広告,市場調査,商品の販売に関する情報の提
供,広告用具の貸与」
(3)登録第4250956号商標
商標の構成: 別掲1のとおり
登録出願日: 平成9年8月12日
設定登録日: 平成11年3月19日
指定商品及び指定役務: 第9類「理化学機械器具,電気通信機械器具,
電子応用機械器具及びその部品」、第38類「電子計算機端末による通
信,電報による通信,電話による通信,報道をする者に対するニュース
の供給,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」及び第42類
「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機(中央処
理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディス
ク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与」
(4)登録第4499377号商標
商標の構成: 別掲2のとおり
登録出願日: 平成9年11月25日
設定登録日: 平成13年8月17日
指定商品及び指定役務: 第9類「理化学機械器具,電気通信機械器具,
電子応用機械器具及びその部品」、第35類「広告,市場調査,商品の
販売に関する情報の提供,広告用具の貸与」、第38類「電子計算機端
末による通信,電報による通信,電話による通信,報道をする者に対す
るニュースの供給,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」及
び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算
機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・
磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与」
以下、上記登録商標を一括していうときは「引用登録商標」という。また、「ダブルクリック」又は「DoubleClick」、「DOUBLECLICK」の標章自体は「引用標章」という。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第84号証を提出した。
1 請求の理由
(1)申立の根拠について
本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第15号及び同第19号に該当するので、本件商標は商標法第46条第1項第1号の規定により無効にされるべきである。
(2)商標の類似性について
本件商標は「だぶるくりっく」の文字よりなるところ、これは英語「Double Click」の音訳を単に平仮名を用いて表したに過ぎないものであり、同じく「Double Click」の欧文字又はその音訳を片仮名で表わした「ダブルクリック」の文字より構成される引用標章とは、同一の称呼及び観念を有するものであって、社会通念上同一の商標ともいい得るものであり、類似性の極めて高いものである。
(3)引用標章の著名性について
引用標章は、請求人並びにその関連会社が日本及び世界において、広告、広告用具の貸与、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、電子計算機用プログラムの提供等の役務について使用している著名商標である(甲第6号証ないし甲第69号証)。
ア ダブルクリック インク(以下「米国ダブルクリック社」という。)は、1996年には法人化を行い、その名称を「DoubleClick Inc.」とし、インターネット広告配信企業として知られ、自社の運営するウェブサイト「DoubleClick」を通じて、インターネット広告配信、メールマーケティング、モバイルマーケティング、ウェブサイト分析を基盤とするインターネットマーケティングソリューションの開発および販売を主な事業内容としている(甲第6号証ないし甲第8号証)。同社は、米国を本拠地として、世界中で事業を展開している。
参考までに、2004年の第一四半期の決算では、純利益を770万米ドルとし、2003年同期の90万6000米ドルに比べて著しく増えており、急成長ぶりが窺える。
特に、提供するサービスの中でも、広告配信技術に関する「DART」はインターネット、ウェブの出現に伴い「ワンツーワンマーケティング」を実現する画期的な手法として確立し、市場に最も早く投入されたものである(甲第9号証及び甲第10号証)。
イ 日本においては、1997年に米国ダブルクリック社、NTTグループ(NTT東日本など)、並びにトランス・コスモスとのジョイントベンチャーとしてダブルクリック株式会社(以下「日本ダブルクリック社」という。)が設立され、2001年4月にはナスダック・ジャパン(現:ヘラクレス)への上場を果たし、わが国における事業を確固たるものとした(甲第11号証及び甲第12号証)。
同社は、ウェブサイト「DoubleClick」(日本語版)を用いて、インターネット広告配信、メールマーケティング、モバイルマーケティング、ウェブサイト分析を基盤とするインターネットマーケティングソリューションの開発および販売を主な事業内容として、盛大に事業活動を行っており(甲第13号証ないし甲第27号証)、新聞記事などでも報じられている(甲第28号証ないし甲第57号証)。
売上高は、平成17年第一四半期には約8億9600万円、平成18年同期には約12億700万円、平成19同期には13億7500万円と着実にその事業規模を拡大している(甲第58号証)。
ウ 請求人「グーグル インコーポレイテッド」は、2007年4月13日に米国ダブルクリック社の買収で合意に達し、このことはインターネット記事や新聞記事で大々的に報じられた。これ以降も、業界各社から市場競争を阻害するなどと懸念が表明され、米国FTAや欧州委員会などによって審理がなされていたことも話題となった。結果として、欧州委員会は2008年3月11日に請求人による米国ダブルクリック社の買収を承認し、このことがインターネット記事等で報じられた(甲第59号証ないし甲第69号証)。
エ 以上の各事実により、引用標章は、遅くとも本件商標の出願時である平成18年(2006)11月13日には米国及び日本を含めた世界各国において請求人又はその関連会社米国ダブルクリック社の提供するサービスを表示するものとして著名になっていたものであり、本件商標の査定時である平成19年8月16日においても著名性を有していたものと確信する。
(4)請求人の事業について
ア 請求人は、1998年9月に設立され、主な事業内容をインターネット関連事業、ソフトウェアの研究・開発・販売とする企業であり、インターネットの検索サイト「Google」を管理・運営する企業として世界中に知られる(甲第73号証)。検索サイトの機能拡大や盛大な広告事業の歴史は、請求人の企業買収などによる事業規模拡大の歴史と重なり、繰り返された事業の多角化により今日のような巨大企業へと成長したものである。
イ 請求人が提供するサービスは主なものとしては検索エンジンの提供や広告・広告用スペースの提供又はこれに関連する事業の支援などがあるが、これら検索機能や広告に関連するノウハウを応用して、求人に関する情報提供や、職業(派遣労働者)のあっせんに関連したサービスも現実に提供している(甲第74号証ないし甲第78号証)。
ウ その他、請求人が提供する地図検索・位置情報提供サービス「Googleマップ」を利用して、地図情報と求人情報をリンクさせたサービスも存在している(甲第79号証及び甲第80号証)。さらに、請求人が米国ダブルクリック社の買収により獲得することとなったサービスの中に、2007年4月4日に提供を開始した「ディスプレイ広告の価格と掲載場所をオークションで決定するリアルタイムの売買市場」として機能する「DoubleClick Advertising Exchange」というものがある(甲第70号証ないし甲第72号証)。
エ 以上より、請求人の事業においては、インターネットの検索エンジンに関わるサービスや、広告事業、広告スペースの提供事業のみに限られるものではなく、すでに求人情報の提供や職業のあっせんに関する情報の提供サービスなどについても、事業範囲が拡大しつつある状況にある。
(5)商標法第4条第1項第15号について
ア 上述したとおり、本件商標と引用標章は、類似性の極めて高いものであって、引用登録商標に関わる「DoubleClick」又は「ダブルクリック」の文字が、米国ダブルクリック社(又は請求人)の商標として日本はもちろんのこと世界中で著名であり、また、米国ダブルクリック社の略称を表すものとしても需要者間に広く知られているものである。
イ また、本件商標の指定役務には「インターネットによる商品の販売及びサービスの提供の促進のためのポイントの発行、トレーディングスタンプの発行」が、また、請求人の引用登録商標の指定役務には「広告、広告用具の貸与」等が含まれるが、両役務の提供の目的は「商品や役務の提供を促進するため」に行われるものである点で全く同じである。
ウ そして、本件商標が使用される「インターネットオークションの運営」に関しては、請求人はその関連会社を通じて2007年頃より広告スペースの販売をオークションの手法を用いて「広告」や「広告スペースの提供(広告用具の貸与)」等の役務の実行の代理を行っており(甲第70号証ないし甲第72号証)、これら役務は、単にインターネットを通じて行われている点が共通しているだけではなく、現実に提供されている各役務の内容(質)を個別具体的に考慮した場合、オークション(競り落とし)を利用して、商品や役務の取引を行う点において全く同じである。
エ さらに、総合インターネット関連サービスを提供する請求人が、事業多角化の一環として「検索エンジン提供サービス」「広告事業」に関連するサービスとして「インターネットオークションの運営」を併せて行うことは容易に推測できるものであり、また、求人情報や職業のあっせんに関する情報の提供などのサービスを既に事業範囲としていることは上記したとおりである(甲第74号証ないし甲第78号証)。よって、請求人が「DoubleClick」又は「ダブルクリック」の商標を用いて求人情報や職業のあっせんに関する情報の提供などの事業を行う可能性があることは容易に推測できる。
以上のとおり、本件商標がその指定役務に使用された場合、取引者・需要者をして、該役務が請求人又はその関連会社の提供に係るものであるかの如く誤認をする、或いは、請求人(又はその関連会社)と何等かの経済的・組織的関連がある者の提供に係る役務であるかの如く役務の出所について混同を生じる蓋然性が極めて高いといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、請求人又はその関連会社の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあるので、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用標章がわが国の需要者間で広く知られた商標であること、さらに、本件商標がその著名な引用標章と社会通念上同一であることは、上記したとおりである。そこで、本件商標が不正の目的で使用されるものか否かが問題となる。
イ この点、請求人とは何らの関係を有しない他人が著名な引用標章と社会通念上同一である本件商標を採択することは、本来自らの営業努力によって得るべき業務上の信用を、著名商標に化体した信用にただ乗り(フリーライド)することによって得ようとするものであり、同時に、著名商標「ダブルクリック(DoubleClick)」に化体した莫大な価値を希釈化させるおそれがある。
ウ しかも、被請求人が本件商標の出願を行ったのは、平成18(2006)年11月であるところ、請求人が米国ダブルクリック社の買収をすることが大々的に報じられ(平成17(2005)年4月)、その後買収が完了したことが大々的に報じられた平成18(2006)年3月より少し後のことである(甲第59号証ないし甲第69号証)。引用標章の周知著名性や事業分野の共通性を考慮したとき、引用標章や米国ダブルクリック社の存在を知悉していたというべきであって、偶然に採択したとは思えない。
してみると、本件商標は不正の目的を以って使用をするものということができる。
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(7)商標法第4条第1項第8号について
本件商標は「だぶるくりっく」の文字により構成されているところ、これはインターネット広告配信企業として広く知られる米国ダブルクリック社の著名な略称「ダブルクリック」を含んでおり、かつ、同社により承諾を得て出願を行ったものではない。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当する。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標の類似性について
本件商標と引用標章は、同一の称呼及び観念を有することは明らかであって、異なる解釈を持ち込む余地はない。
なお、被請求人が「ダブルクリック」の片仮名と「だぶるくりっく」の平仮名を用いて行ったインターネットの検索エンジンを利用した調査結果が違うことをもって、直ちに需要者等が両商標を区別していることの根拠とはなり得ない。
(2)引用標章の周知・著名性について
ア 引用標章が請求人又はその関連会社の商標としてわが国において広く知られるに至ったと考えられる使用状況を客観的に示す資料としては、甲第6号証ないし甲第27号証において、実際に使用している商標並びに役務、その商標の使用期間、使用地域、広告宣伝の方法及び内容を示し、さらに、甲第28号証ないし甲第69号証においては、引用標章が請求人又はその関連会社の商標として、一般紙、業界紙、雑誌又はインターネット等の記事として掲載された事実を示すものである。
イ なお、米国ダブルクリック社の事業は、平成19(2007)年に請求人によって承継されたものであるが、その後も、継続して世界規模での事業展開が行われているのである(甲第6号証)。わが国においても、米国ダブルクリック社の営業・技術並びにこれに関わる知的財産権のライセンシーである日本ダブルクリック社によって、引用標章を用いた事業が現在も継続して行われており(甲第81号証)、その周知性・著名性は現在も維持されているといえる。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 被請求人の役務(乙第2号証ないし乙第5号証)は「(他人の)商品又は役務の提供を促進するために提供される」ものに他ならないから、「広告」や「広告用具の貸与」との関係では、役務の提供の目的が全く同一のものとなり、高い関連性を有していることは明らかである。
被請求人は、上記役務が広告主と個人のユーザーの間に立って行われていることに着目し、BtoCの取引形態によるものであるかの如き主張を行うが、被請求人の役務は、広告主(事業者)の依頼に基づいて、これらの者に対して商品等の提供促進に関する事業(甲第82号証)を行っていることに他ならず、このような事業はBtoBの取引形態によるものであるから、米国ダブルクリック社の提供するBtoBの取引形態によるサービスとその違いはなく、しかも、請求人が広告媒体となって広告や広告物の配信の提供を行う場合の、広告の対象となるターゲットには事業者のみならず一般消費者も含まれるのであり、両者の役務は同種のものである。
イ 「インターネットオークションの運営」との比較においては、請求人の関連会社が提供している役務である「広告」や「広告スペースの提供(広告用具の貸与)」が、「インターネット」を通じて提供され、さらに、それらの役務の提供を行う際に「オークション」を用いたサービスが付随的に提供されることになるので、それら役務の提供の手段・方法において共通する。また、同業他社の状況をみても、インターネットの検索サイトの提供を中心とした大手インターネット関連企業が、各種企業の広告の媒体となり(甲第83号証)、併せて、各種の情報提供やオークションの運営を通じたインターネットにおける商取引の支援事業に係る役務の提供の場ともなっている(甲第84号証)。
ウ 被請求人は、本件商標の指定役務である「職業のあっせん、インターネットによる求人情報の提供」が引用登録商標の指定役務に含まれておらず、請求人により使用されることがないので、請求人がこれら役務を行う可能性の有無は問題とならないと主張するが、著名商標を使用する者(請求人)又はその関連企業を含めたグループの全体の事業規模・事業範囲が広範なものであり、現実に経営の多角化を行っており、異業種への参入を積極的に行っているような場合は、商品・役務の類似範囲を超えた広い範囲で出所の混同が起こりうる状況があることに他ならない。請求人は求人情報の提供や職業のあっせんを専門に行う企業との提携において、これらの事業にすでに参入を行っているものである(甲第74号証ないし甲第80号証)。
(4)商標法第4条第1項第19号について
被請求人は、請求人並びにその関連会社と同様にインターネット等を通じた役務を行う者であり、引用標章の存在を知悉していたことは明らかである。その上で、被請求人は、引用標章と社会通念上同一の商標を引用登録商標の指定役務には含まれていなかったが、これと高い関連性を有する役務について出願したものである。そして、被請求人は現実に「インターネットによる商品の販売及びサービスの提供の促進のためのポイントの発行」についてこれを使用しているものである(乙第2号証ないし乙第5号証)。
(5)商標法第4条第1項第8号について
ア 法人の商号のうち、会社の性質を表す「株式会社」や「インコーポレイテッド(またはインク)」を省略したものが、その法人等の「略称」となるのであり、甲第28号証ないし甲第72号証などにおいて記載されているように、「ダブルクリック(又は「Double Click」)」の名称は、インターネット広告配信企業として広く知られる請求人の関連企業、米国ダブルクリック社(又は、わが国における使用権者である日本ダブルクリック社)を指称する略称として広く知られるに至っているといい得るものである。
イ なお、新聞記事等には、請求人又はその関連会社の事業内容に関するものや、その経常利益額に関するものなど様々なものがあり(甲第28号証ないし甲第57号証)、いずれも、引用標章を用いた商取引が盛んにおこなわれていること、「ダブルクリック」の文字が請求人の関連会社の略称として多くの場面で用いられている事実を示すものであるから、「ダブルクリック(又は「Double Click」)」の名称は請求人の関連会社の略称として著名になっていたものである。
(6)その他、インターネットを利用した統計調査(乙第1号証)の情報自体の真偽のほどは明らかでないし、そもそも、その調査結果をもって、需要者等が「ダブルクリック」と「だぶるくりっく」を明確に区別していることを示すものではない。
むしろ、混同のおそれの有無の認定に際しては、インターネットの検索エンジンを利用した検索結果のみに依存するのではなく、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者・需要者の共通性、事業の多角化の可能性等を基準としてこれらを総合的に考慮した上で判断されるべきである。
また、サイトの運営会社の表示をしていることや、リンク先に会社情報を掲載していることを以って、出所の混同が防止できるものではない。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
〈請求に対する答弁〉
請求人の提出に係るすべての証拠をもってしても、引用標章が請求人又はその関連会社の商標として周知又は著名であるとはいえず、また、被請求人が実施した調査(乙第1号証)によれば、取引者・需要者は請求人又はその関連会社と被請求人及びそれぞれの業務を明確に区別しており、役務の出所混同の事実又はそのおそれがないことが明らかである。
(1)商標の類似性について
「ダブルクリック」又は「Double Click」の語は、それらに接する取引者・需要者をして「コンピュータにおいてマウスのボタンを二度連続して押すこと」の意味合いを有する成語を連想・想起させるものであり、いわゆる「パソコン用語」「IT用語」に属する専門用語或いは慣用語であって、直ちに請求人又はその関連会社を連想・想起しないことは明らかである。
一方、本件商標「だぶるくりっく」は上記の成語を平仮名で書してなるものであり、少なくとも「ダブルクリック」と呼称する語を知る需要者・取引者にとっては「ダブルクリック」又は「Double Click」と「だぶるくりっく」は異なる語であり、特にそれらが商標的使用態様で用いられている場合は異なる商標として認識されると考えるのが妥当である。
(2)引用標章の著名性について
請求人の提出した証拠(甲第6号証ないし甲第80号証)は、マスコミ媒体への出現等の事実を裏付けるものに過ぎず、必ずしもわが国において引用標章が請求人又はその関連会社の商標として著名又は広く一般に知られていることを裏付けるものではない。
ア 米国ダブルクリック社のホームページ(甲第6号証ないし甲第8号証)及びカタログ(甲第9号証)と思われるものに「Double Click」の英文表記があることをもって、これがわが国において同社の著名な略称であると認識されているということはできない。
イ 「Japan.internet.com」のウェブサイト(甲第10号証)と思われるものに「ダブルクリック」の表記を日本ダブルクリック社のホームページにハイパーリンクさせることをもって、これが同社の著名な略称であると認識されているということはできない。
また、日本ダブルクリック社は、現在、米国ダブルクリック社(Double Click Inc.)とは資本関係がなく、単に取引関係があるからといって「ダブルクリック」が米国ダブルクリック社の略称として著名であると認識されているということはできない。
ウ 日本ダブルクリック社の会社概要や事業内容を紹介したウェブサイト、チラシ、パンフレット、告知電子メール、セミナー用の資料及びプレゼン資料ないしプレスリリース等(甲第11号証ないし甲第27号証)と思われるものに「ダブルクリック」又は「Double Click」の表記があることをもって、これらが米国ダブルクリック社の著名な略称であると認識されているということはできない。
エ 日本ダブルクリック社又は米国ダブルクリック社に関する記載がみられる新聞記事、雑誌記事又は新聞縮刷版(甲第28号証ないし甲第64号証、甲第67号証、甲第68号証:甲第58号証は日本ダブルクリック社のウェブサイト)と思われるものに、同社を「ダブルクリック」と表記しているのは、特に新聞記事や株式欄ではスペースの関係で長い社名を短く記載する必要があるからであり、これをもって米国ダブルクリック社の著名な略称であると認識されているということはできない。
ちなみに、これらの記事等の記載は、単に同社の事業活動や株価の動向、人事の動静を報じたものに過ぎず、商標の周知性・著名性を裏付けるものではない。
オ 請求人による米国ダブルクリック社の買収や同社の新サービス投入を報じる記事を掲載した第三者のホームページ(甲第65号証、甲第66号証)と思われるものに、「ダブルクリック」「Double Click」「Doubleclick Advertising Exchange」等の表記がされていることをもって、引用標章がわが国において同社の著名な略称であると認識されているということはできないし、同社を「ダブルクリック」又は「米DoubleClick」等と省略したりすることは、特にウェブサイト上のニュース記事においては新聞記事と同様に長い社名を短く記載する慣行があるからである。
また、請求人又は第三者のウェブサイト(甲第69号証ないし甲第80号証)の一部と思われるものに、請求人のサービス等について紹介しており、「ダブルクリック」又は「Double Click」の表記があるものが含まれているが、このように表記されていることをもって、請求人の引用標章がわが国において著名であり、これらが米国ダブルクリック社の著名な略称であると認識されているということもできないし、これらの証拠は請求人が世界的大企業で広範な業務を展開している事実を裏付けているに過ぎず、必ずしも請求人の引用標章が周知著名であることや、「ダブルクリック」が米国ダブルクリック社の著名な略称であると認識されているということはできず、請求人が主張する本件商標の無効理由とは直接関係はない。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標と引用標章の類似性は、上記(1)で述べたように、これらの語の社会的な使用実態など取引の実情を勘案すれば、必ずしも請求人が主張するように「類似性の極めて高いもの」とはいえないし、両者が彼此紛れるおそれはない。特に、両者の混同・誤認のおそれについては、乙第1号証の調査報告書にも明らかなように、実情においても極めて可能性が低いものである。
イ 引用標章の著名性については、上記(2)で述べたように、請求人が提出した証拠によっても、「Double Click」又は「ダブルクリック」の文字が、ダブルクリック社(又は請求人)の商標として、或いは略称を表すものとして、日本はもちろんのこと世界中で著名である事実は証明されていない。
ウ 本件商標とダブルクリック社などの役務の関連性は、本件商標の指定役務「インターネットによる商品の販売及びサービスの提供の促進のためのポイントの発行」や「トレーディングスタンプの発行」と引用登録商標の指定役務「広告」とは、役務の目的が異なり、必ずしも需要者及び提供業者を共通にするものとはいえないし、被請求人が本件商標を使用しているウェブサイト「だぶるくりっく」の具体的なサービスの内容が掲載されたページ(乙第2号証ないし乙第5号証)は、いわゆるBtoCの窓口的機能を通じて直接的に広告主の商品販売やサービス利用を促進するものであるのに対し、ダブルクリック社のサービスは、いわゆるBtoBの広告関連サービスであって、両者は根本的な部分で大きく相違するものである。
エ 事業の多角化の可能性については、請求人が米国ダブルクリック社を買収したことにより、後発的に少なくとも役務の提供者が共通となったと考えた上でかかる主張に及んだものと思慮され、請求人ほどのIT分野の大企業であればその可能性があるとしても不思議ではない。しかし、常識的に考えて「インターネットオークションの運営」なる役務が「広告」や「広告スペースの提供(広告用具の貸与)」という役務と本質的に「関連性が少なからずある」という主張は失当といわざるを得ないし、本件商標との関係においては、請求人による「インターネットオークションの運営」事業を行う可能性の有無は問題とならない。
次に、「求人情報や職業のあっせんに関する情報の提供などのサービス」に係る役務は引用登録商標の指定役務のいずれにも含まれておらず、本件商標との関係においては、請求人が当該サービス提供の事業を「Double Click」又は「ダブルクリック」の商標を用いて行う可能性の有無は問題とならない。
したがって、本件商標の指定役務は、請求人又はその関連会社の業務に係る役務と混同を生じるおそれはないから、商標法第4条第1項第15号には該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号について
ア 請求人の提出したいずれの証拠をみても、被請求人が本件商標を不正の目的をもって出願し使用していることを具体的に裏付けるものは存在しない。
イ さらに、引用標章はそれらに接する取引者・需要者をして「コンピュータにおいてマウスのボタンを二度連続して押すこと」の意味合いを有する成語を連想・想起させる、いわゆる「パソコン用語」「IT用語」に属する専門用語或いは慣用語であり、請求人又はその関連会社の商標として広く一般に知られたものではないから、当該条項適用の要件である引用標章の周知性という前提を欠くものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号には該当しない。
(5)商標法第4条第1項第8号について
請求人の提出した多数の新聞記事等の報道のほとんどは請求人による米国ダブルクリック社の買収を報じ、或いはその産業的・経済的影響についてコメントしたものであり、いわゆるIT関連業界人や投資家など特定の人間の関心を引き、仮にそれら特定の人間の間で一定の周知性を得たとしても、それをもって広く一般に周知となったとは到底認められないものである。
そもそも本件商標の平仮名「だぶるくりっく」は、米国ダブルクリック社の略称として使用されたことの証拠もなく、その略称ということはできないから、本件商標には、米国ダブルクリック社の略称を含んでいるとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号には該当しない。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第15号、及び同第19号のいずれにも該当しないものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効にされるべきとする請求人の主張には理由がない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標は商標法第4条第1項第8号、同第15号及び同第19号に該当(違反)することを理由として、本件商標の登録の無効を述べているところ、同法第4条第3項において、これらの規定に該当する商標であっても、商標登録出願時に該当しないものについては、適用されないことが定められている。してみれば、本件商標は、平成18(2006)年11月13日に登録出願されたものであって、それが判断の基準時となるからこれを考慮しつつ、以下のとおり認定する。
1 本件商標と引用標章について
(1)本件商標
本件商標は、上記第1のとおり、平仮名により「だぶるくりっく」と書してなるところ、この構成文字からは「クリックを素早く2度行う操作」の如き意味合い表す、いわゆるパソコンなどのコンピュータに係る操作用語を容易に理解させるものである。
また、その指定役務は、第35類「インターネットによる商品の販売及びサービスの提供の促進のためのポイントの発行,トレーディングスタンプの発行,職業のあっせん,インターネットオークションの運営,インターネットによる求人情報の提供」とするものであり、その役務の提供を受ける者、すなわち、インターネットを通じてこれにアクセス者は、不特定多数の世間一般者を対象とする役務といえる。
(2)引用標章
引用標章は、「ダブルクリック」又は「DoubleClick」あるいは「DOUBLECLICK」の片仮名ないし欧文字を構成文字とするものであるから、本件商標と同様にそれぞれ当該用語を容易に理解させるものということができる。
そして、日本ダブルクリック社及び米国ダブルクリック社は「インターネット広告配信、メールマーケティング、モバイルマーケティング、ウェブサイト分析を基盤とするインターネットマーケティングソリューションの開発および販売」を主な事業内容とする会社であり、広告配信・管理システムや携帯電話を利用した販売促進活動を支援するシステムなどその取引先は専ら企業に向けて提供しているものである。
(3)商標の類似性
上記のとおり、本件商標と引用標章とは、その構成各文字(語)自体はともに既成のコンピュータに係る用語を容易に想起し認識させるものとみて差し支えなく、引用標章にその独創性は到底認められないとしても、両者を商標としてみれば、同一の称呼及び観念を有する類似の商標ということはできる。

2 引用標章の著名性について
請求人は、引用標章は請求人並びにその関連会社が日本及び世界において、広告、広告用具の貸与、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、電子計算機用プログラムの提供等の役務について使用している著名商標である旨述べて、その証拠として、甲第6号証ないし甲第69号証を提出している。
(1)セミナーの案内、プレスリリースなど(甲第13号証ないし甲第27号証)
ア 甲第13号証及び甲第14号証は、日本ダブルクリック社の平成15年10月吉日とする「ダブルクリック ソリューションセミナー『Insight 2003』のご案内」のチラシ及び2003年11月5日に開催された当該セミナーに係るパンフレットとするものである。
同じく、甲第21号証は、平成17年9月吉日とする「ダブルクリック ソリューションセミナー『Insight 2005』のご案内」のチラシで、定員170名とするものである。
イ 甲第15号証は、2005年3月1日付けの「ダブルクリックのEメール配信管理ソフト『ClickM@iler』 個人情報保護機能 を搭載」を見出しとするプレスリリース及び添付資料とするものである。
ウ 甲第16号証ないし甲第20号証は、日本ダブルクリック社の告知電子メールとするものであり、送信日時を2005年4月27日とし、米国の投資会社が米国ダブルクリック社を買収することになる旨の「米国ダブルクリック社 プレジデント」からのメッセージに関するもの(甲第16号証)、送信日時を2005年5月30日及び同6月1日とし、件名「米国Eメールマーケティング最新トレンド(6月13日開催)」定員50名とする「セミナー開催のご案内」に関するもの(甲第17号証、甲第18号証)、送信日時を2005年6月16日とし、件名「モバイルマーケティング新手法・最新活用事例(6/29,7/22開催)」定員30名ほどとするプライベートセミナーの「セミナー開催のご案内」に関するもの(甲第19号証)、及び送信日時を2005年7月12日とし、件名「【ダブルクリック・新製品発表会】ウェブサイト分析の最新ソリューション・7/27」定員80名とする「新製品発表会のご案内」に関するもの(甲第20号証)である。
エ 甲第22号証は、日本ダブルクリック社の「携帯サイトアクセス解析ソリューション MobileMK Analytics」を表題とする「2006/8/11」の記載のあるセミー用資料とするものである。
オ 甲第23号証は、日本ダブルクリック社の「モバイルサイト活用術のすべて ?モバイルマーケティング事例と効果測定?」を表題とする「2006年10月10日」の記載のあるプレゼン用資料とするものである。
カ 甲第24号証は、「進化するネットマーケティング ?ダブルクリックの広告ソリューション?」を表題とする「2006年10月10日」の記載のあるプレゼン用資料とするものである。
キ 小括
(ア)以上のセミナーの案内やパンフレット、プレスリリース資料、告知メール及びプレゼン用資料などは、日本ダブルクリック社、すなわち、社名「ダブルクリック株式会社」(英文社名:DoubleClick Japan Inc.)により作成ないし発信されたものであって、社名と共にその略称として「ダブルクリック」又は「DoubleClick」の表示がされているものである。また「米DoubleClick社」、「米国ダブルクリック社(DoubleClick Inc.)」などの記載も認められる。
しかしながら、かかる配布や告知がその内容や目的からして、継続的になされているものではなく、また、広くなされたものとも認め難いものである。そして「ダブルクリック」又は「DoubleClick」の表示が商標として「広告、広告用具の貸与、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、電子計算機用プログラムの提供」等の役務について直接的に使用されているような状況は見出せないから、甲第13号証ないし甲第24号証によって、請求人が述べるような実際に使用している商標並びに役務、その商標の使用期間、使用地域、広告宣伝の方法及び内容を示しているとするのは困難である。
(イ)なお、日本ダブルクリック社の2007年4月11日付けのプレスリリース(甲第25号証)、同年10月23日に開催されたセミナー用資料(甲第26号証)及び同年4月23日付けのプレスリリース(甲第27号証)は、いずれも出願日である平成18(2006)年11月13日以降にかかるものであって、これらの証拠は、本件商標の商標登録出願時の事実を裏付けるものということはできない。
(2)新聞報道(甲第28号証ないし甲第69号証)
甲第28号証ないし甲第44号証は、日本経済新聞、日経産業新聞、日経金融新聞及び日経流通新聞のいわゆる日経4紙の切り抜き記事であり、
ア 米国ダブルクリック社に関しては、記事掲載日を2004年10月5日とする「個人情報保護 対策は? ダブルクリックCPOに聞く」を見出しとする記事(日経産業新聞:甲第34号証)に「ダブルクリック」の略称をもっての掲載がされていることは認められる。しかしながら、記事中には「米ネット広告配信システム大手、ダブルクリックの・・」のように略称した企業を特定するため文句が書き記されている。また、日本ダブルクリック社に関する記事にあっては「米ダブルクリック、米ダブルクリック社」のような記載がされている。
イ 日本ダブルクリック社に関しては、記事掲載日を2001年5月5日とする「インターネットに係るプライバシー保護」に関する記事(日経産業新聞:甲第28号証)、同年9月1日とする「ネット企業19社の決算」に関する記事(日本経済新聞:甲第29号証)、2003年11月6日とする「Dクリック社長 製品群を拡張」を小見出しとする記事(日経金融新聞:甲第30号証)、2004年4月1日とする「ウェブサイトの購買分析」を見出しとする記事(日経産業新聞:甲第31号証)、同年5月24日とする「社長交代」を見出しとする会社人事に関する記事(日経産業新聞:甲第32号証)、同年6月26日とする「Dクリックがストップ高」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第33号証)、2005年1月20日とする「携帯電話使う商品販促支援」を見出しとする新製品「モバイルMK」に関する記事(日経産業新聞:甲第35号証)、同年1月24日とする「携帯での販促活動支援」を見出しとする新製品「モバイルMK」に関する記事(日経流通新聞:甲第36号証)、同年6月27日とする「ダブルクリック 購買行動など分析 サイト向けシステム販売」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第37号証)、2006年1月17日とする「『メール配信管理ソフト』NTT東と代理店契約 ダブルクリック」を見出しとする記事(日経産業新聞:甲第38号証)、同年1月30日とする「ダブルクリック 経常黒字8200万円 4-12月単独」を見出しとする記事(日経金融新聞:甲第39号証)、同年2月16日とする「メール配信事業今後も継続計画 ダブルクリック」を見出しとする記事(日経産業新聞:甲第40号証)、同年3月3日とする「広告の配信でミクシィと契約 ダブルクリック」を見出しとする記事(日経産業新聞:甲第41号証)、同年5月19日とする「・会社人事・」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第42号証)、同年5月31日とする「携帯向けメール広告 ダブルクリック KLabと提携」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第43号証)及び同年8月4日とする「携帯サイトの閲覧解析 ダブルクリック 金融機関もOK」を見出しとする記事(日経流通新聞:甲第44号証)であり、これらに「ダブルクリック」の略称をもって、日本ダブルクリック社に関する記事がそれぞれ掲載されていることは認められる。
しかしながら、上記(1)と同様に、日本ダブルクリック社の略称としての掲載にあっても、例えば、「ネット広告大手、ダブルクリック(東京・港)・・」、「マーケティング支援のダブルクリックは・・」、「インターネット広告のダブルクリックは・・」、「インターネットを使ったマーケティング支援のダブルクリック(4841)が・・」、「インターネット広告配信管理のダブルクリック(4841)が・・」などのように略称した企業を特定するため補足的な文句や証券コードなどが書き記されているところである。
ウ 小括
(ア)してみると、上記の新聞記事においては、米国ダブルクリック社が「ダブルクリック」の略称をもって掲載されているのは、2004年10月5日とする日経産業新聞記事(甲第34号証)のみであり、その余の新聞記事は日本ダブルクリック社に関する記事であって、いずれの記事においても企業を特定するような記述がなされた上で「Dクリック」の表示を含め各新聞社が任意に会社名の略称として使用するものであり、当該新聞記事を離れてまで「ダブルクリック」の表示自体が特定企業における固有の略称として認識されているとまで認めることはできない。
(イ)また、当該新聞記事には、欧文字での表示「DoubleClick」の掲載はないのみならず、その多くは日本ダブルクリック社に係る事業内容に関するものや、その経常利益額に関するものなどを概略的に記載しているものであり「ダブルクリック」の表示自体が商標として直接的に「広告、広告用具の貸与、電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、電子計算機用プログラムの提供」等の役務について使用されているような事実は見出せないから、これらの新聞記事によって、引用標章が請求人又はその関連会社の商標としての周知著名性や著名な略称であることを認めることはできない。
(ウ)なお、甲第45号証ないし甲第52号証、甲第54号証ないし甲第57号証、甲第59号証、甲第60号証、甲第62号証ないし甲第64号証、甲第67号証、甲第68号証は、いわゆる日経4紙、及び甲第61号証は、東京読売新聞のそれぞれ切り抜き記事であるところ、その記事掲載日はいずれも出願日である平成18(2006)年11月13日以降にかかるものであって、これら報道記事は、本件商標の商標登録出願時の事実を裏付けるものということはできない。
(エ)加えて、請求人が2007年4月13日に米国ダブルクリック社の買収で合意に達したことがインターネット記事や新聞記事で報じられた事実やそれ以降に報じられたものは、いずれも本件商標の出願日以降の事実であって、その商標登録出願時に請求人と米国ダブルクリック社、まして、日本ダブルクリック社とが経済的又は組織的に関係のある関連会社であったと認めることはできない(甲第60号証ないし甲第69号証)。
(オ)また、甲第53号証は、「週刊ダイヤモンド 2007/5/12号」とする「仮想世界『セカンドライフ』がもたらすマーケティング効果と新ビジネス」を見出しとする特別レポート記事であるが、引用標章に係る掲載は見当たらず、「セカンドライフの体験方法」での操作手順に「・・アイコンをダブルクリック。次の画面では・・」との掲載がされているに止まるものである。
そして、甲第65号証は、「Google、DoubleClickを約31億ドルで買収」を見出しとするニュースに係るウェブページであるが、当該ニュースは出願日後の2007年4月13日に米Googleがオンライン広告配信の米DoubleClickの買収で合意に達したこと、及び甲第66号証はこの買収に絡む理由を6月26日に公式ブログに発表したことの情報を掲載しているに過ぎないものである。
さらに、甲第69号証は、「EC承認でGoogleがDoubleClick買収を完了」を見出しとする2008年3月12日付けの情報であって、これらも上記同様に本件商標の登録出願時の使用事実を裏付けるものではない。
(3)米国及び日本ダブルクリック社の事業内容など(甲第6号証ないし甲第12号証)
ア 甲第6号証ないし甲第8号証は、米国ダブルクリック社のウェブページとするところ、その掲載は英語表記であって、わが国向けに作成されたものであるかはさておくとしても、その作成日や掲載時期は不明であり、請求人が述べるとおり、その掲載がインターネット広告配信企業としての主な事業内容とするものであるとしても、本件商標の登録出願日である平成18(2006)年11月13日ないしこれ以前の情報であることを確証付けられていない。
イ 甲第9号証は、米国ダブルクリック社に係る広告配信管理システム「DART Enterprise 6.0」の機能一覧を表題とする商品カタログとして認められるとしても、その配布時期、配布先などは不明である。
また、甲第10号証は、「ダブルクリック、『DART Enterprise』をマイスペースジャパンへ提供」を見出しとするニュースに係るウェブページであるが、当該ニュースは本件商標の登録出願日以降の2007年10月3日に日本ダブルクリック社から発表された情報を掲載しているに過ぎない。
ウ 甲第11号証は、日本ダブルクリック社のウェブサイトにおける「会社概要」のウェブページであり、これに社名と共にその略称として「DoubleClick」又は「ダブルクリック」の表示がされていること、甲第12号証は、同サイトにおける「製品とサービス」のウェブページであり、これにインターネット広告に係る役務に「DoubleClick」が商標として使用されていることは認められるとしても、該ウェブページの出力日は、2009年10月6日であって、本件商標の登録出願日である平成18(2006)年11月13日以前の使用事実を裏付けるものではない。
また、甲第58号証も、同サイトにおける出力日を2009年10月5日とする「IR情報」のウェブページであり、これに「財務・業績(財務ハイライト)」を見出しとする2009年3月31日現在とする情報とともに「DoubleClick」の表示がされているとしても、上記同様に本件商標の登録出願日以前の使用事実を裏付けるものでない。
エ 小括
してみると、甲第6号証ないし甲第12号証に「DoubleClick」又は「ダブルクリック」の使用がされているとしても、これら証拠はいずれも本件商標の登録出願日である平成18(2006)年11月13日以降の事実を証するに過ぎず、その商標登録出願時において、引用標章が請求人又はその関連会社の商標として周知著名性を有し、また、著名な略称であることは立証されない。
(4)引用標章の著名性についてのまとめ
ア 以上のとおり、引用標章の周知著名性を立証するものとして提出された上記証拠(甲第6号証ないし甲第69号証)によっては、「Double Click」あるいは「DOUBLECLICK」又は「ダブルクリック」の文字からなる引用標章が本件商標の登録出願時において、「クリックを素早く2度行う操作」を表すパソコンなどの操作用語を超えて、日本ダブルクリック社の業務内容とするインターネット広告配信、メールマーケティング、モバイルマーケティング、ウェブサイト分析を基盤とするインターネットマーケティングソリューションの開発および販売に係る役務を表示するものとして、広く認識されるに至っていたと認めるには十分なものといえないし、同様に、米国ダブルクリック社のインターネット広告配信サービスに係る商標としての周知性も認められない。
イ そして、上記証拠からは、「DoubleClick」あるいは「DOUBLECLICK」又は「ダブルクリック」の文字がインターネット広告配信に係る企業であることを特定させて使用される範囲内にあっては、インターネット関連事業者や投資家などの間において、日本ダブルクリック社又は米国ダブルクリック社の社名の略称として、認識されていたものと認めるのが相当である。
ウ なお、請求人も述べるように、同人が米国ダブルクリック社を買収すると発表したのは、2007(平成19)年4月13日であり、かつ、欧州委員会によりこれが承認されたのは、2008(平成19)年3月11日とするものであるから、引用標章は、遅くとも本件商標の登録出願時である平成18年(2006)11月13日には米国及び日本を含めた世界各国において請求人の提供するサービスを表示するものとして著名になっていたとの主張は、妥当性を欠き到底採用できない。
エ 結局、引用標章が当該コンピュータに係る操作用語を超えて、広く知られていると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3 請求人の事業について
請求人は、請求人の事業においては、インターネットの検索エンジンに関わるサービスや、広告事業、広告スペースの提供事業のみに限られるものではなく、すでに求人情報の提供や職業のあっせんに関する情報の提供サービスなどについても、事業範囲が拡大しつつある状況にある(甲第73号証ないし甲第80号証)旨述べているが、上記したように請求人による米国ダブルクリック社の買収は、本件商標の登録出願日後の事実であって(甲第60号証ないし甲第69号証)、その商標登録出願時に請求人と米国ダブルクリック社、まして、日本ダブルクリック社と経済的又は組織的に関係のある関連会社であったと認めることはできない以上、請求人と被請求人(本件商標権者)との使用する役務間の関連性については問題とならないといわなければならない。

4 商標法第4条第1項第15号について
(1)上記2のとおり、「ダブルクリック」又は「DoubleClick」あるいは「DOUBLECLICK」の表示がインターネット関連事業者や投資家などの間において、日本ダブルクリック社又は米国ダブルクリック社の社名の略称として、認識されていたものと認めることはできても、引用標章が本件商標の登録出願時において、「クリックを素早く2度行う操作」を表すパソコン用語である意味合いを超えて、日本ダブルクリック社のインターネット広告配信システムなどに係る役務の提供を表示する商標として広く認識されていたと認めることはできない。そして、米国ダブルクリック社についても、インターネット広告配信サービスに係る商標としてのわが国での使用実績は殆どなく、その周知性は認められない。
(2)また、本件商標の指定役務と日本ダブルクリック社の広告配信システムとは主にインターネットを介して提供されるものであるとしても、前者が商品や役務の提供を促進するための、いわゆるポイントサービスと各種情報の提供に係る役務などであって、いずれもその利用者の対象を世間一般人とするものであるのに対し、後者はインターネット広告配信などのシステム自体の販売若しくは貸与とするもので、その当該システムの利用ができる特定企業である。
してみれば、両者の役務は、その用途や目的、提供を受ける者を異にし、類似する役務といえるものではなく、その関連性の程度は高いものということはできない。
(3)そうすると、本件商標と引用標章とは観念及び称呼において類似するものであるとしても、引用標章の周知著名性及び独創性の程度や、本件商標の指定役務と米国ダブルクリック社又は日本ダブルクリック社の業務に係る役務の質、用途又は目的における関連性の程度並びに役務の取引者・需要者の共通性等を総合勘案しても、本件商標をその指定役務に使用した場合に、その商標登録出願時において、当該パソコン用語を超えて、需要者が引用標章を想起し連想して、当該役務を米国ダブルクリック社又は日本ダブルクリック社あるいは同人と経済的又は組織的に関係のある者の業務に係る役務と誤信し、その出所について混同するおそれがあったものということはできない。
なお、請求人については、米国ダブルクリック社の買収時期との関係からして、本件商標の商標登録出願時における、その出所についての混同のおそれは問題にならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものとはいえない。

5 商標法第4条第1項第19号について
(1)請求人は、不正の目的があったことを理由付けるものとして、被請求人が本件商標の出願を行ったのが、請求人が米国ダブルクリック社の買収をすることが大々的に報じられ(平成17(2005)年4月)、その後買収が完了したことが大々的に報じられた平成18(2006)年3月より少し後のことである(甲第59号証ないし甲第69号証)旨述べている。
しかしながら、送信日時を2005年4月27日とする「米国ダブルクリック社 プレジデント」からのメッセージに関するものには(甲第16号証)「・・本日ここに、ヘルマン&フリーマン社と正式契約が締結されたこと・・この契約により同社は、米国ダブルクリック社を買収することになります。・・」との米国の投資会社により米国ダブルクリック社が買収された旨の記載や、記事掲載日を2007(平成19)年3月30日とする「米Dクリック関連報道で急騰」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第59号証)に「・・米ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が『米ダブルクリックが自社売却に向けマイクロソフトと交渉中』と報じたことが伝わり・・現在日米のDクリックに資本関係はない。日本のDクリックでは『米紙報道の事実は確認できていない』とした上で・・」との掲載がある他は、平成17(2005)年4月に請求人により米国ダブルクリック社が買収されることが報じられた事実や、その後の平成18(2006)年3月に買収が完了したことが報じられた事実を証するものは、請求人が提出した証拠(甲第1号証ないし甲第84号証)からは見当たらない。
(2)請求人が米国ダブルクリック社の買収をすることが報じられたものは、記事掲載日を2007(平成19)年4月20日とする「Dクリック、ストップ安」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第50号証)に「・・先週末日に米ダブルクリックをグーグルが買収すると伝えられ、Dクリックは連日の・・」との掲載、同年4月14日とする「ネット広告のダブルクリック グーグルが買収 画像広告を強化」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第60号証)、同日とする「グーグルがダブルクリック買収」を見出しとする記事(東京読売新聞:甲第61号証)、同年4月15日とする「ネット広告大手に31億ドル グーグル『守りの買収』」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第62号証)、同年4月17日とする「グーグル、675局の広告仲介、米ラジオ最大手と提携、『独占化』IT各社が批判。」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第63号証)、同日とする「グーグルの米ダブルクリック買収 Dクリック『影響はない』」を見出しとする記事(日経金融新聞:甲第64号証)、同年4月14日とする「Google、DoubleClickを約31億ドルで買収」を見出しとするウェブページ記事(ITmedia News:甲第65号証)、同年6月28日とする「Google、DoubleClickを買収する理由を説明」を見出しとするウェブページ記事(ITmedia News:甲第66号証)、同年9月28日とする「マイクロソフト グーグルを批判 ダブルクリック買収で」を見出しとする記事(日経産業新聞:甲第67号証)、同年12月21日とする「グーグルのネット広告買収 米FTCが承認」を見出しとする記事(日本経済新聞:甲第68号証)及び2008年3月12日とする「EC承認でGoogleがDoubleClick 買収を完了」を見出しとするウェブページ記事(Japan.internet.com:甲第69号証)であって、請求人のかかる主張を裏付ける証拠として提出している上記甲各号証によっては、本件商標の登録出願時において、不正の目的をもって使用するものに該当したことを認定し得る証拠ということはできない。
(3)そうすると、引用標章及び本件商標はそもそも「クリックを素早く2度行う操作」の如き意味合い表す、いわゆるパソコンなどのコンピュータに係る操作用語を容易に理解させるものであって、造語とはいえないものであり、かつ、上記2で認定したとおり、請求人提出の甲各号証によっては、引用標章が、米国ダブルクリック社又は日本ダブルクリック社の業務に係る役務を表示するものとして、日本国内において需要者の間に広く認識されていた商標とは認められないこと、加えて、上記のとおり本件商標が「不正の目的」による登録出願であることを具体的に示す証左もないことなどを総合すれば、本件商標が引用標章と類似するところがあるとしても、米国ダブルクリック社などの引用標章の信用、名声等にただ乗りし、また、その出所表示機能を希釈化させたりすることの不正の目的をもっての使用とは認めることができない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものとはいえない。

6 商標法第4条第1項第8号について
(1)上記2のとおり、「ダブルクリック」又は「DoubleClick」あるいは「DOUBLECLICK」の表示がインターネット関連事業者や投資家などの間において、インターネット広告配信に係る企業であることを特定させて使用される範囲内にあっては、日本ダブルクリック社又は米国ダブルクリック社の社名の略称として、認識されていたものということができる。
(2)しかしながら、本件商標の登録出願時において、引用標章「ダブルクリック」又は「DoubleClick」あるいは「DOUBLECLICK」について、不特定多数の世間一般者を対象とする本件商標の指定役務の分野の利用者などが当該コンピュータに係る操作用語を超えて、広く知られていたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、その略称としての著名性は、これを認めることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものとはいえない。

7 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(登録第4250956号商標)



別掲2(登録第4499377号商標)



審理終結日 2010-09-06 
結審通知日 2010-09-08 
審決日 2010-09-22 
出願番号 商願2006-109297(T2006-109297) 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (Y35)
T 1 11・ 222- Y (Y35)
T 1 11・ 271- Y (Y35)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 福造 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 田中 亨子
野口 美代子
登録日 2007-10-05 
登録番号 商標登録第5081374号(T5081374) 
商標の称呼 ダブルクリック 
代理人 田中 克郎 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 泉谷 透 

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