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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X10
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X10
管理番号 1231551 
審判番号 無効2010-890038 
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-05-12 
確定日 2011-01-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第5102315号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5102315号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成19年1月9日に登録出願、第10類「おしゃぶり,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳器,綿棒,指サック,避妊用具,人工鼓膜用材料,補綴充てん用材料(歯科用のものを除く。),業務用美容マッサージ器,医療用機械器具,家庭用電気マッサージ器,医療用手袋,しびん,病人用便器,耳かき」を指定商品として、同年12月12日に登録査定、同月28日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、「本件商標は、その指定商品中『医療用機械器具』についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第57号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)利害関係
請求人が平成20年6月27日に出願した商願2008-51525(以下「請求人出願」という。)は、本件商標を引用した拒絶査定がなされ、現在、審判に係属中であり(甲第3号証の1ないし甲第3号証の6)、本件商標の存在により、請求人出願の登録が妨げられている。
よって、請求人は、本件審判を請求するについて利害関係を有する。
(2)請求人について
ア 請求人の一人である株式会社三貴工業所(以下「三貴工業所」という。)は、昭和40年9月1日に設立され、業として主に車いす及び福祉用具・医療用具の製造・販売・輸出入業・レンタル業を行っている(甲第4号証)。三貴工業所の平成18年度の売上高は約21億円、平成19年度の売上高は約25億円であり(甲第5号証)、また、平成18年度の車いすの製造台数は約9,900台、平成19年度の車いすの製造台数は約12,000台である(甲第6号証)。
イ もう一人の請求人である株式会社ミキ(以下「ミキ」という。)は、平成6年11月22日に設立され、業として主に車いす及び福祉用具・医療用具の製造・卸販売を行っている(甲第7号証)。ミキの平成18年度の売上高は約18億円、平成19年度の売上高は約23億円であり(甲第5号証)、また、平成18年度の車いすの総販売台数は約37,000台、平成19年度の総販売台数は約48,000台である(甲第6号証)。
ミキは、三貴工業所の卸販売部門を独立して設立された会社であり、三貴工業所のグループ会社である(甲第8号証)。また、ミキ及び三貴工業所の代表取締役はいずれも佐藤永佳である(甲第4号証、甲第7号証)。
(3)請求人が福祉業界で著名であることについて
以下に述べるように、請求人は、車いすの製造販売を行う企業として福祉業界において名が広く知られている。
ア 請求人は、少なくとも平成7年から平成19年までの間、主要商品である手動車いすの力タログ(甲第9号証ないし甲第18号証)を発行し、現在まで約12年以上継続して車いすの販売業務を行っている。
イ ミキは、少なくとも第31回(平成16年開催)から第35回(平成20年開催)までの国際福祉機器展(H.C.R)に毎年出展した(甲第19号証ないし甲第23号証)。特に、ミキの近年の展示ブースは、一際目立つ大規模なものであり、ブース壁面には欧文字の「MiKi」が大きく表示された(甲第24号証)。
ウ 平成14年11月6日発行の季刊誌「フィットウェル」の表紙には、「ミキ・中国進出で多角的生/販体制が確立」と記載され、その12頁には、ミキの上海進出についての特集が組まれた。12頁の特集のなかで、「業界でカワムラサイクル、松永製作所に次いで3番目の中国進出となり、」と記載され、平成14年に、中国進出を果たした国内車いすメーカーはこれら3社しかないことがわかる。また、13頁では「大陸進出は業界3番目であっても、車いす大手の中にあって、ミキのグローバル戦略構想は最右翼に属する」と記載された。さらに、同誌の裏表紙には、ミキの車いすが広告として掲載された(甲第25号証)。
エ 平成16年3月31日付け中部経済新聞には、三貴工業所及びミキを取り上げた記事が、「車椅子メーカーの大手『株式会社三貴工業所』(略)同販売の『株式会社ミキ』(略)」と紹介され、また、ミキが販売する車いすが、「MIKIブランドの車いす」として掲載された。さらに、同紙には、昭和60年に、三貴工業所の生産台数が月産250台を突破し、平成6年には月産1,200台、平成7年には月産2,000台、平成8年には3,000台を突破し、生産台数が好調に伸び続けていることが記載されており、三貴工業所の著しい成長が注目された。また、平成2年に、韓国ソウルに「MIKI KOREA」が設立され、平成13年に、「MIKI TAIWAN」の運用が始まり、平成14年に正式に発足し、平成14年に「MIKI SHANGHAI」が設立されたことが記載され(甲第26号証)、ミキの海外への積極的な進出も紹介された。
オ 平成17年9月16日付け中日新聞には、「フルオーダーの車いすを製造できるのは全国でわずかに四社。その一つが三貴工業所(名古屋市南区)だ」と記載され(甲第27号証)、三貴工業所は、数ある車いすメーカーの中でも極めて技術力の高い国内屈指の車いすメーカーとして紹介された。
カ 平成18年12月16日付け中日新聞には、「日系企業で初めて中国で車いすの販売を始めた車いすメーカー、三貴工業所(名古屋市)が順調に売り上げを伸ばしている。・・・三貴は二〇〇二年に一億円を投じて完全生産子会社を上海に設立した。現在では国内を上回る月四千台を生産。昨年から中国向けの出荷を始め、現在は月八百台強を販売している」と記載され(甲第28号証)、三貴工業所は日本だけでなく中国でも順調に成長する有数の車いすメーカーであることがわかる。
キ 「中国大連市における車椅子市場参入のための調査報告書」の「天連市で販売されている車椅子の主要ブランドの一覧表」(6頁)には、「ブランド:三貴(MiKi)」が記載され、29頁には、三貴工業所が100%出資している三貴康復器材(上海)有限公司が記載され、31頁の「1.7市場状況のSWOT分析」の「強み」の欄には「高い知名度」と記載されている(甲第29号証)。
ク ミキは、少なくとも平成20年において、日本リハビリテーションエ学協会の協力企業である(甲第30号証)。そして、平成19年8月及び平成20年8月に開催された車いすSIG講習会に用いられたテキストの広告掲載企業のなかに、ミキが含まれていた(甲第31号証、甲第32号証)。
ケ ミキは、平成18年に鹿児島県介護保健課の支援依頼に対して車いすを寄付しており、平成19年6月2日に鹿児島県福祉用具協会から感謝状を受けた。また、平成11年4月29日に近畿車椅子バスケットボール連盟より身体障害者のスポーツに対しての功績が認められて感謝状を受けた(甲第33、34号証)。このように、車いす業界において、ミキは、積極的に社会貢献を行っている。
コ 「TSR情報」(株式会社東京商工リサーチ名古屋支社、平成21年11月6日発行:甲第35号証)の3頁には、「(株)三貴工業所(略)は、その車椅子を『MIKI』ブランドで国・内外に供給する専門メーカだ」と記載された。
サ 「ふくせん」(全国福祉用具専門相談員協会のホームページ:甲第36号証)に記載のとおり、ミキは、現在「福祉用具専門相談員全体のレベル向上」を目的とする全国福祉用具専門相談員協会に賛助会員として入会している。
シ 現在ミキは、「福祉用具の中でもその象徴と言われる車いすや特に重度の障害を待った方の生活を支える姿勢保持装置について、知識と専門技術を磨くとともに供給者としてのモラルを向上する」ことを目的とする日本車いすシーティング協会の会員であり、ミキの代表取締役は当協会の役員(理事)をつとめている(甲第37号証)。
ス 現在ミキは、「優れた福祉用具・生活支援用具および関連する事業の高度化を通して国民の健康・福祉や生活の質の向上を図るとともに、これに基づき社会や制度に対し情報開示や提言を進めていく等今まで以上に広く社会に貢献する」ことを目的とする日本福祉用具・生活誌援用具協会の会員である(甲第38号証)。
(4)請求人が使用する商標が周知であることについて
ア ミキは、カタログにおいて、別掲(2)のとおりの構成からなる商標「MiKi」(以下「引用商標」という。)を少なくとも平成7年から平成19年までの間継続して使用している(甲第9号証ないし甲第18号証)。さらに、カタログに掲載されている車いすには、直接引用商標が付されており、上記期間継続して使用している(甲第10号証ないし甲第18号証)。
イ ミキは、その業務に係る車いすをレンタル用具として市場に提供しており、平成11年から平成16年にかけて毎年発行された福祉用具レンタルカタログ「グリーンケア」(株式会社日本ケアサプライ発行)には、引用商標が表示されたミキの車いすが、他社の車いすと共に多数掲載された(甲第39号証ないし甲第44号証)。さらに、平成17年から平成19年にかけて毎年発行されたサンネットワーク社のレンタル商品力タログにも、引用商標が表示されたミキの車いすが、他社の車いすと共に多数掲載された(甲第45号証ないし甲第47号証)。
ウ ミキは、ベッド、家具類等の製造・販売で全国的に著名なフランスベッド株式会社(以下「フランスベッド」という。)と業務上取り引きがあり(甲第48号証)、フランスベッドと業務上関連があるフランスベッドメディカルサービス株式会社の福祉用具販売レンタルカタログには、ミキの車いすが多数掲載されている(甲第49号証ないし甲第51号証)。
エ 平成14年(2002年)9月10日発行の季刊誌「フィットウェル」の50頁、51頁及び60頁には、引用商標が表示されたミキの車いすが紹介された(甲第52号証)。
オ ネット販売を業とする車いす販売センターのホームページ、同じくYahoo!ショッピング介護BOXパンドラのホームページ、同じくアトム介護ショップのホームページ、同じく介護ショップオフィス幸のホームページにおいて、引用商標が表示されたミキの車いすは現在多数販売されている(甲第53号証ないし甲第57号証)。
カ 以上のとおり、車いすについての引用商標は、福祉機器業界及び福祉用具レンタル業界の取引者、需要者の間に広く知られている。
(5)商標法第4条第1項第10号の該当性
ア 本件商標と引用商標との類否について
(ア)本件商標と請求人の名称及び引用商標とは、称呼「ミキ」が共通する。また、本件商標及び引用商標の欧文字部分における外観は、2文字目及び4文字目において、「I」と「i」の差異があるにすぎず、類似する商標といえる。そして、本件商標と引用商標とが類似することは、甲第3号証の5のとおりである。
(イ)本件商標の指定商品「医療用機械器具」と引用商標に係る「車いす」とは、類似群コード(10D01)が共通しており類似する(甲第3号証の5)。
イ 前記(4)のとおり、引用商標は、請求人が製造販売する車いすを表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標といえる。
ウ まとめ
したがって、本件商標は、登録出願時(平成19年1月9日)及び査定時(平成19年12月12日)において、他人(請求人)が使用する周知商標に類似する商標であって、他人(請求人)が販売している車いすに類似する医療用機械器具を指定商品とするものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第15号の該当性
仮に引用商標が、本件商標の登録出願時及び査定時に商標法第4条第1項第10号で規定する周知に該当していないとしても、前記(3)で述べた事実に照らせば、請求人は、車いすを製造販売する企業として著名であり、さらに、請求人の名称からは「ミキ」の称呼が生ずるため、本件商標の登録出願時及び査定時において、商標権者が本件商標を医療機械器具に使用したときは、取引者・需要者は係る商品が請求人によって製造販売されたもの、あるいは請求人と経済的・組織的に何らかの関係があるものによって製造販売されたものであるとして、出所の誤認混同が生ずるおそれがあったといえる。
なお、同法第4条第1項第15号は、他人の業務に係る商品と出所混同を生ずるおそれのある商標の登録を排除する包括的規定であり、他人の商品に使用する商標は周知であることを要せず、取引者・需要者に相当程度知られていることをもって足りる(平成10年11月10日東京高民6判・平成9年(行ケ)323号)。
したがって、本件商標は、登録出願時及び査定時において、他人(請求人)の業務に係る商品と出所混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。

3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
(1)請求人が福祉業界で著名であることについて
ア カタログ(甲第9号証ないし甲第18号証)、福祉機器企業要覧(甲第19号証ないし甲第23号証)、展示会の写真(甲第24号証)からは、請求人が車いすを製造・販売等をしていることが把握できるが、印刷数、頒布数は不明である。
イ 季刊誌の記事(甲第25号証)及び中日新聞の記事(甲第28号証)、中部経済新聞の連載記事「跡継ぎの平成」における請求人社長についての紹介記事(甲第26号証)、中日新聞の連載記事「創る人びと」における請求人社長についての紹介記事(甲第27号証)、情報誌の中部版の記事(甲第35号証)が提出されているものの、これら証拠からは、中国進出の事実や社長の人物像、会社の経営方針等が把握できるのみであり、請求人が福祉業界で著名であることは把握できない。また、季刊誌(甲第25号証)以外は、新聞等の配布先も一部地方に限定されるものであると思料する。
ウ 請求人が、日本リハビリテーション工学協会の愛知県半田市で開催される講習会の協力企業であること(甲第30号証)、同協会の名古屋及び新潟で行なわれた車いすの講習会のテキストに広告を掲載した企業であること(甲第31号証、甲第32号証)、鹿児島県福祉用具協会及び近畿車椅子バスケットボール連盟からの感謝状(甲第33号証、甲第34号証)を授与されていることは理解できるものの、これらにより請求人が著名になるとは理解しがたく、また、多少名前が知られるようになるとしても、地域的には、非常に狭い範囲に限られると思料する。
エ 甲第36号証ないし甲第38号証より、請求人が各種協会の会員であることは理解できるが、かかる事実から請求人が優良企業としてその名が広く知られていることは把握できない。
オ 提出された証拠のうち、請求人の福祉業界での著名性に触れているものは、2007年3月付けの調査報告書(甲第29号証)のみと思われるが、これは中国大連市における請求人のブランドの周知性についての記載である。また、地域的に広い範囲に配布された可能性のある広告は、2002年11月16日発行の季刊誌「Fit-Wel」に掲載された広告(甲第25号証)のみであると思料するが、実際の頒布地域、頒布数は不明である。
カ 請求人提出の証拠は、以上のとおりであって、請求人が営業活動及びその他の社会的活動をしていることが把握できるとしても、これらの証拠からは、本件商標の登録出願時及び査定時において請求人が取引者・需要者の間で著名であることは把握できない。
(2)引用商標の周知性について
請求人提出の証拠からは、以下のとおり、請求人が車いすについて、引用商標を使用していたことは確認できるものの、本件商標の登録出願時及び査定時において、引用商標が周知であることは把握できない。
ア 引用商標が周知である証拠として、カタログが提出されており(甲第9号証ないし甲第18号証)、これらから引用商標が車いすについて使用されていることは確認できる。
イ 各種レンタルカタログ(甲第39号証ないし甲第47号証、甲第49号証ないし甲第51号証)及び各種ホームページの抜粋(甲第53号証ないし甲第57号証)からは、請求人の製品がレンタル商品として掲載されていることは理解できるが、引用商標を認識することができるのは、甲第54号証のみである。引用商標が実際に商品に付されていることを否定する訳ではないが、カタログやホームページを見た需要者が引用商標を認識できないのであれば、カタログ配布及びホームページ公開自体によって、引用商標が取引者等の間で広く浸透することはなく、また実際にレンタルされた数量も不明であるため、これら証拠から引用商標が周知であるとは認められないと思料する。
ウ 季刊誌の商品紹介記事(甲第52号証)についても、引用商標を認識することができず、この記事によって引用商標が取引者等の間で広く浸透することはないと思料する。
(3)商標法第4条第1項第10号の該当性
商標法第4条第1項第10号は、登録主義をとる我が国商標法制度のもと、例外的に未登録周知商標と出所の混同を生じさせるような商標の登録を排除し、周知商標を保護しようとするものである。例外であるからには、取引者・需要者に知らせるための活動が、通常の商標を使用しているという程度を大きく超えて行なわれていることが必要であり、そうでない限り、たとえ長年商標を使用してきたとしても、取引者・需要者の間に広く知られているという状態ではないと考えるべきである。
そして、上述のとおり、引用商標は、通常の業務の一環として使用されているという域を超え、取引者・需要者に知らせるための活動をしているとは理解できず、登録主義の例外として保護を受けるに値する程の周知性を獲得してるものではないと思料する。
(4)商標法第4条第1項第15号の該当性
請求人は、仮に引用商標が本件商標の登録出願時及び査定時に、同法第4条第1項第10号で規定する周知に該当していないとしても、請求人が車いすを製造販売する企業として著名であり、さらに、請求人の名称からは「ミキ」の称呼が生ずるため、本件商標の登録出願時及び査定時において、請求人が本件商標を医療用器械器具に使用したときは、取引者・需要者は係る商品が請求人によって製造販売されたもの、又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係があるものによって製造販売されたものであるとして、出所の誤認混同が生ずるおそれがあったと主張する。
しかし、「混同を生ずるおそれの有無」は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務にかかる商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号)。このような基準に照らしてみれば、本件商標は他人の業務と混同を生じるおそれのないものであることは、以下の点から明らかである。
ア 上述のとおり、請求人が車いすを製造販売する企業として著名であるとは認められない。
確かに、商標法第4条第1項第15号の適用にあたっては、「他人の商標」が著名であることは必ずしも要求されるものではない。しかし、「ミキ」の語を含む企業・店舗名等は極めて多く、表記方法は漢字・片仮名・平仮名・ローマ字とまちまちではあるが、多くの業者が採用している語である。このことは、ハローページの東京23区版だけでも約200の店舗・企業等が「ミキ」、「三貴」、「みき」等を使用していること、インターネット検索でも「ミキ」の語を含む会社名が多数検索されることからも明らかである(乙第1号証、乙第2号証)。
「ミキ」の語を含む会社・店舗名等は極めて多く、請求人の表示は独創性という点においては弱いといわざるを得ない。このように「ミキ」を含む会社名等が多数ある状況においては、請求人が相当に著名でない限り、医療用機械器具に本件商標を使用した場合に、これが請求人のものであるとして出所の混同が生じることは想定できない。
イ 当該商品の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度については、請求人出願に係る意見書(甲第3号証の3)において、請求人は、「『医療用機械器具』と『車いす』とは、その生産、販売部門、用途、取引経路等を全く異にするので、互いに非類似の関係であると判断するのが相当である。」旨述べている。この主張は受け入れられず、請求人出願は拒絶査定となった(甲第3号証の5)が、請求人自身が、「医療用機械器具」と「車いす」について同一商標を使用した場合における具体的な出所混同を想定できていないことは明らかである。
ウ 前述のとおり、「ミキ」の語を含む会社名等が多数あるため、取引の実際において、「ミキ」という業者名に接した取引者・需要者は、片仮名の「ミキ」、平仮名の「みき」、ローマ字の「MIKI」、漢字の「三木」、「三季」、「三喜」、「三貴」等のいずれであるかを慎重に確認すると思われる。また、同時に、「ミキ」がいかなる語(「株式会社」、「工業」、「産業」、「商会」、「商事」、「商店」、「製作所」等)と結合するか否かも慎重に確認することは想像に難くない。すなわち、「ミキ」の語の独創性が低いがゆえに、この企業名に接した需要者は、相当な注意力を払って出所を識別する。本件商標には「ミキ」の語が含まれているが、本件商標に接する需要者等は、これを何人かの商品に関する商標であると認識することはあっても、これから請求人を想起し、これが付された商品が請求人の業務に係るものであるとか、同人と密接な営業上の関係又は同人の商品化事業等を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であるとして、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれは全く想定できない。
エ 商標権者は、2007年12月1日の時点において全国に既に「ジュエリーマキ」、「じゅわいよ・くちゅーるマキ」等187店舗を設置しており、また、現在でも106店舗を設置している(乙第3号証、乙第4号証)。また、2006年には歌手・女優の土屋アンナとミュージシャンの布袋寅泰のコラボレーションによる楽曲をCMソングに起用したCM、女優の米倉涼子や秋本奈緒美を起用したCM、2007年及び2008年には2007年度ミスインターナショナル日本代表であり女優の白田久子を起用したCM等を放映し、大々的な宣伝広告活動を行なっていた(乙第5号証ないし乙第8号証)。また、商標権者の業務内容は宝飾品だけでなく、スキンケア商品や飲料水等と多岐に渡っている(乙第9号証)。
一方、甲第8号証によれば、本件商標の査定時における請求人の営業拠点は、仙台・東京・名古屋・大阪・福岡の5つのみである。とすれば、本件商標が需要者の目に触れる機会の方が、請求人名称及び引用商標に比べて圧倒的に多いことは明らかである。
本件商標は、商標権者のハウスマークに関する重要な商標であるところ、請求人と商標権者の企業規模を考慮すれば、引用商標が商標権者の業務に係る商品であるとの混同が生じる可能性はあっても、その逆はあり得ない。すなわち、本件商標が医療用機械器具に使用された場合に、それが請求人のものであると誤認されるおそれがあるとは到底考えられない。
三貴工業所は、昭和40年に設立され、ミキは、平成6年に設立されたにも関わらず、自己のハウスマーク商標の登録を怠っていた。請求人は、平成20年になってようやく商標登録出願をしたところ、本件商標を引用した拒絶理由通知を受け、意見書提出段階では、自己の出願の指定商品(車いす)と本件商標の指定商品(医療用機械器具)が非類似であるとの主張をしている。そして、当該主張が受け入れられず拒絶査定となったため、やむなく請求人及び請求人使用商標が周知であるとして本件商標に無効理由があるかのような主張に切り替えたものと思料する。したがって、このような場合にまで、登録主義の例外を適用し、本件商標の登録が無効にされるような不合理があってはならない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号のいずれにも該当するものではない。

4 当審の判断
本件審判の請求人である三貴工業所及びミキ(両者をまとめていうときは、以下「請求人」という。)が本件審判を請求するにつき法律上の利益を有することについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
(1)請求人の名称及び引用商標の著名・周知性について
ア 甲第4号証、甲第6号証ないし甲第21号証、甲第25号証ないし甲第29号証、甲第31号証、甲第33号証、甲第34号証、甲第39号証ないし甲第47号証、甲第49号証ないし甲第52号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)三貴工業所は、「車いす及び福祉用具・医療用具の製造・販売・輸出入業・レンタル業」等を目的として、昭和40年に、愛知県名古屋市南区豊四丁目26番3号(平成5年11月22日住居表示変更)に設立された会社であり、また、ミキは、三貴工業所の卸販売部門を独立して、平成6年に、愛知県名古屋市南区豊三丁目38番10号に設立された会社であって、その主たる業務は、「車いす及び福祉用具・医療用具の製造・卸販売業」等である(甲第4号証、甲第7号証、甲第8号証)。
(イ)作成者は不明ではあるが、「事業所過去製造・販売台数資料」(2010年2月23日作成)によれば、車いすについての三貴工業所の製造台数及びミキの販売台数は、2002年(平成14年)が、前者が20,610台、後者が25,640台、2003年(平成15年)が、前者が18,667台、後者が27,274台、2004年(平成16年)が、前者が16,276台、後者が29,109台、2005年(平成17年)が、前者が13,735台、後者が38,786台、2006年(平成18年)が、前者が9,871台、後者が36,870台、2007年(平成19年)が、前者が11,542台であり、後者が48,105台であったことが記載されている(甲第6号証)。
(ウ)請求人の1995年(平成7年)ないし2007年(平成19年)の車いすのカタログには、引用商標が表示され(甲第9号証ないし甲第18号証)、また、カタログに掲載された車いすにも引用商標が表示されている(甲第10号証ないし甲第18号証)。
(エ)ミキは、2004年(平成16年)に開催された「第31回国際福祉機器展」(開催期間は不明)、2005年(平成17年)9月27日?29日の間に開催された「第32回国際福祉機器展」及び2006年(平成18年)9月27日?29日の間に開催された「第33回国際福祉機器展」に、車いすの出展をした。上記「国際福祉機器展」の「福祉機器企業要覧」のミキの項目には、「平成7年、年間販売台数1万4,000台を突破。平成11年度、年間販売台数6万台達成。」と記載された(甲第19号証ないし甲第21号証)。また、例えば、「福祉機器企業要覧2006」(甲第21号証)の奥付には、「第33回国際福祉機器展H.C.R.2006に出展する国内企業554社・団体、海外78社の企業情報を掲載しております。」と記載されている。
(オ)2002年(平成14年)11月16日発行の健康・福祉の総合情報季刊誌「Fit-Wel」(2002年冬)の表紙には、「台湾特集」、「台湾福祉機器・有力企業一覧」、「ミキ・中国進出で多角的生/販体制が確立」などと記載され、同誌12頁には、「(株)ミキ、上海進出で世界戦略が本格化」、「来春2月“ミキ上海”製車いす日本に見参!」の見出しのもと、「(株)ミキの上海工場の来春稼働が決定的となった。これによって業界でカワムラサイクル、松永製作所に次いで3番目の中国進出となり、頑固なほどに閉鎖的といわれた車いす業界にも、より低コストを求めての拠点シフトが一般化しはじめてきた。」などと記載された。なお、同誌における上記ミキの記事は、頁の上半分が日本語で記載され、下半分が英語で記載されており、その裏表紙に掲載されたミキの取扱いに係る車いすの広告も英語で記載されている(甲第25号証)。
(カ)2004年(平成16年)3月31日発行の「中部経済新聞」には、「跡継ぎの平成」と題する記事において、請求人の代表取締役である佐藤永佳が「二代目社長」として紹介され、同時に、請求人についても、「安全性と高品質誇る“車いす”」、「日・韓・中で製造販売 レンタル、メンテナンスも」などと紹介され、三貴工業所の生産台数については、「平成7年には月産2000台突破、翌8年には3000台突破」と記載された(甲第26号証)。
また、2005年(平成17年)9月16日発行の「中日新聞」にも、「創る人びと」と題する記事において、「車いす製造『三貴工業所』社長」として佐藤永佳が紹介された(甲第27号証)。
さらに、2006年(平成18年)12月16日発行の「中日新聞」には、「名古屋のメーカー」として三貴工業所が、「日系企業で初めて中国で車いすの販売を始めた車いすメーカー、三貴工業所が順調に売り上げを伸ばしている。」などと紹介された(甲第28号証)。
(キ)日本貿易振興機構(ジェトロ)が2007年(平成19年)3月に発行した「中国大連市における車椅子市場参入のための調査報告書」の「表1 大連市で販売されている車椅子の主要ブランドの一覧表」(6頁)には、10ブランドのうちに、「三貴(Miki)」が含まれていたこと、また、「V.成功企業の事例分析」における「1.三貴康復器材(上海)有限公司」の項目(29頁)の「1.2 出資者情報」には、「日本 株式会社三貴工業所 100%」などの記載があり、「1.4 主要製品」には、「三貴康復器材(上海)有限公司(以下、「三貴社」という。)は主に普通型車椅子、多功能型車椅子及びスポーツ車椅子を生産している。」などと記載され、「1.5 経営現状」には、「ブランドイメージ」として、「三貴社の車椅子は、日本のリハビリ器材メーカートップ3に入る親会社の優れた技術と設計をもとに生産され、中国の車椅子市場で有名ブランドになり、高く評価されている。」と記載された(甲第29号証)。
(ク)ミキは、2007年(平成19年)8月21日発行の「第26回日本リハビリテーション工学協会車いすSIG講習会テキスト」の「第26回車いすSIG講習会 in 名古屋 テキスト広告掲載企業一覧」に、広告を掲載した31社のうちの1社として記載され、かつ、車いすの広告を掲載した(甲第31号証)。
(ケ)ミキは、平成18年に鹿児島県介護保健課の支援依頼に対して車いすを寄付し、平成19年6月2日に、鹿児島県福祉用具協会から感謝状を受けた。また、平成11年4月29日に、近畿車椅子バスケットボール連盟より車椅子バスケットボール活動の支援をしたことに対し、感謝状を受けた(甲第33号証、甲第34号証)。
(コ)ミキは、1999年(平成11年)から2007年(平成19年)までの各年に、他社の作成したレンタルを主とした福祉用具カタログに引用商標が付された車いすが掲載された(甲第39号証ないし甲第47号証、甲第49号証ないし甲第51号証)。なお、上記カタログ中の車いすの商品名や商品番号(記号)の脇に小さく表示された「(ミキ)」や「ミキ」の表示は、他社の取扱いに係る車いすとの関係からみると(例えば、「(松永製作所)」、「日進医療器」など。)、社名の略称を表示したものといえる。
(サ)2002年(平成14年)9月10日発行の「Fit-Wel」(2002年秋)の「日本の車イス最新情報」には、少なくとも抜粋して提出された頁において、「ホンダ」、「GS-クレオス」、「アルバジャパン」、「アルケアコーポレーション」、「今仙技術研究所」、「アラコ(株)特車営業部」の取扱いに係る車いすと並び、「ミキ」の取扱いに係る車いすが紹介され、「車いす 自走式・介護式」の頁にも、他社7社の車いすと並んで、ミキの車いすが掲載された(甲第52号証)。
イ 前記アで認定した事実によれば、以下のとおり判断するのが相当である。
(ア)「事業所過去製造・販売台数資料」(甲第6号証)には、本件商標の登録出願日(平成19年1月9日)及び査定日(平成19年12月12日)と同年である2007年(平成19年)における三貴工業所の車いすの製造台数が11,542台であり、ミキの車いすの販売台数が48,105台であったことの記載が認められるものの、この数字が他社の製造・販売台数と比較して極めて多いものであるか否かは不明であり、また、その数値を裏付ける証拠の提出はない(ちなみに、2004年(平成16年)3月31日発行の「中部経済新聞」の「跡継ぎの平成」に記載された「平成7年には月産2000台突破、翌8年には3000台突破」(甲第26号証)をもとに、例えば、平成8年の年間生産台数を単純に計算すると、3万6000台であり、この数字は、2002年(平成14年)以降の製造台数(甲第6号証)と比較して、極めて多いことになる。また、「国際福祉機器展」の「福祉機器企業要覧」のミキの項目に記載された「平成7年、年間販売台数1万4,000台を突破。平成11年度、年間販売台数6万台達成。」(甲第19号証ないし甲第21号証)と2002年(平成14年)以降の販売台数(甲第6号証)とを比較すると、その数字に大きな開きがある。新聞記事や「福祉機器企業要覧」等に記載された数字は、広告等の意味から、多少大きな数字を書くことも考えられるが、このことを考慮しても、請求人の製造・販売台数を記載した証拠と請求人らの主張する生産・販売台数(甲第6号証)を比較すると、大きな開きがあり、裏付け証拠のない甲第6号証における生産・販売台数を直ちに信用することはできない。)。
(イ)ミキは、本件商標の登録出願前である1995年(平成7年)から本件商標の査定前である2007年4月に至るまで、その取扱いに係る車いすについてのカタログを発行していることを認めることができるが、企業が自己の製品の宣伝・広告をするために、カタログ類を作成し頒布することは、ごく一般的な行為であり、したがって、ミキが自己の取扱いに係る車いすをカタログに掲載すること自体は、ミキの名称及び引用商標の周知・著名性に直接結びつくものではなく、むしろ、これらのカタログが、どの程度の数量をどの程度の地域に頒布されたかが重要であるところ、これらについては証拠の提出もなく明らかでない。
(ウ)ミキが本件商標の登録出願前である平成16年から「国際福祉機器展」に、その取扱いに係る車いすを出展したことは認められるが、この展示会は、630以上の国内外の企業・団体がその取扱いに係る商品を出展するものであり、ミキもそのうちの一企業にすぎず、他に、ミキが「国際福祉機器展」にその取扱いに係る車いすを出展したことが、ミキの名称及び引用商標の周知・著名性に基づくものであると認めるに足りる証拠はなく、また、ミキの名称及び引用商標の周知・著名性の獲得に大きく影響したと認めるに足りる証拠も見出せない。
(エ)請求人の代表取締役である佐藤永佳は、平成13年7月ころに、台湾に支社を設け、さらに、平成14年ころから上海工場を設立し、平成15年2月ころから車いすの生産を開始し、中国国内向けに出荷したこと、2005年(平成17年)には、三貴工業所の100%出資の子会社である三貴康復器材(上海)有限公司の製造に係る車いすに使用される「三貴(MiKi)ブランド」が、大連で販売されている車いす主要ブランド10のうちの1つにあげられたことなどが認められ、中国の極限られた一部の地域において、「三貴(MiKi)ブランド」を使用した三貴康復器材(上海)有限公司の製造に係る車いすが、その需要者の間にある程度知られていたことを推認することができる。
(オ)その他、ミキは、名古屋で開催された「第26回日本リハビリテーション工学協会車いすSIG講習会」のテキスト、他社の作成したレンタルを主とした福祉用具カタログ等に、その取扱いに係る車いすについて、広告をしたことや掲載されたことが認められるが、これらは、多数のうちの一つとして掲載されたものであって、ミキの車いすが特別に看者の注意を惹くような態様での掲載であるとはいえない。また、ミキが全国福祉用具専門相談員協会等の会員であるとしても、多数の会員が入会している状況において、ミキの名称のみが特段に印象に残るものであると認めることができる事情は見いだせない。したがって、これらは、ミキの名称及び引用商標の周知・著名性の判断に大きく影響するものとはいえない。
(カ)そして、「ミキ株式会社」中の「ミキ」が「三木」、「三貴」などの片仮名表記と理解され、ありふれた氏に通ずるもの、ないし、企業名称の一部として多用されているものであることは、「NTT東日本 ハローページ 東京23区全区版」(乙第2号証)などから明らかであるから、「ミキ株式会社」の名称及びその略称「ミキ」が需要者に与える印象の度合いは極めて低いものといえる。また、三貴工業所は、ミキと比べて、その周知・著名性を証明する証拠が少ない上に、これが単に「三貴」と省略されて、福祉用具関連の分野において、その需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる証拠の提出はない。
さらに、引用商標を構成する「MiKi」は、ありふれた氏「三木」などが想起される場合もあり、また、その態様についても、特別に看者の注意を引くような特異なものともいえず、むしろ、普通に用いられる方法で表した程度のものといえるから、格別強い識別力を有する商標ではなく、独創性を有する商標とはいえない。
(キ)他に請求人の名称及び引用商標が、本件商標の登録査定時までに、福祉用具関連分野の需要者の間に広く認識されるに至ったと認めるに足りる事情も見いだせない。
(ク)以上を総合すれば、請求人の名称は、本件商標の登録出願前から、福祉用具関連の分野において、車いすの製造、販売をする企業として、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。また、引用商標は、請求人の業務に係る車いすを表示するものとして、本件商標の登録出願前から、福祉用具関連分野の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第10号の該当性について
ア 引用商標の周知性
前記(1)認定のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る車いすを表示するものとして、本件商標の登録出願前よりその査定時に至るまで、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
イ 本件商標と引用商標との類否
本件商標は、別掲(1)のとおり、「m」を図案化した図形(以下「m図形」という。)を左端に大きく表し、その右に、「m図形」と同じ高さで、小さく表した「MIKI CORPORETOIN」の文字と「株式会社」の文字とを二段に横書きし、さらに、これらの文字の右に、「三貴」の文字を、各文字が「m図形」とほぼ同じ高さ・幅で大きく表してなるものであって、外観上、看者に構成全体がバランスよく一体的に表されているものとして印象づけられるものである。
そして、本件商標は、その構成中の「MIKI CORPORETOIN」の文字部分及び「株式会社三貴」の文字部分から、それぞれ「ミキコーポレーション」及び「カブシキガイシャミキ」の称呼を生じ、さらに、これらの文字部分中の「MIKI」及び「三貴」の文字部分より単に「ミキ」の称呼をも生ずる場合があるとしても、前記認定のとおり、「MIKI」及び「三貴」は、ありふれた氏「三木」に由来する文字、及び企業名称の一部として多用されている文字であるから、本件商標に接する取引者、需要者は、「ミキ」の称呼に印象づけられるとはいえない。
これに対して、引用商標は、「MiKi」の文字からなるものであるから、これより「ミキ」の称呼を生ずるものであって、ありふれた「三木」、企業名称の一部として多用されている「三貴」などを想起する場合のほか、「幹」、「神酒」などを想起する場合もあるといえるから、特定の観念は生じ
ないというのが相当である。
してみると、本件商標と引用商標は、「ミキ」の称呼において共通にする場合があるとしても、該称呼からは、ありふれた氏「三木」などが想起される蓋然性が高く、そのような場合は、取引者、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないから、本件商標と引用商標との類否判断に当たっては、外観上の類否が重要な要素を占めるといえるところ、両商標は、外観において著しい差異を有するものである。また、本件商標は、構成全体をもって、商号としての「株式会社三貴」の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標は、特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上比較することができず、観念上互いに紛れるおそれはないというべ
きである。
したがって、本件商標と引用商標は、その外観、観念及び称呼を総合して全体的に考察すれば、非類似の商標といわなければならない。
ウ 以上によれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものと認めることはできない。
(3)商標法第4条第1項第15号の該当性について
前記(1)認定のとおり、請求人の名称は、車いすを製造、販売する企業名として、本件商標の登録出願前より、我が国の福祉用具関連の分野の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
また、本件商標と「株式会社ミキ」及び「株式会社三貴工業所」とは、前記(2)で認定した本件商標と引用商標との類否判断と同様に、「ミキ」の称呼を共通にする場合があるとしても、外観において著しい差異を有するものであり、また、本件商標と「株式会社ミキ」及び「株式会社三貴工業所」は、いずれも構成全体をもって、商号商標と理解され、異なる企業として認識されるものであるから、観念上互いに紛れるおそれはない。したがって、本件商標と「株式会社ミキ」及び「株式会社三貴工業所」とは、非類似の商標であって、別異の商標というべきである。
さらに、本件商標と引用商標とは、前記(2)イ認定のとおり非類似の商標であって、別異の商標というべきである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品中の「医療用機械器具」について使用しても、これに接する取引者、需要者をして、請求人又は引用商標を想起させるとは認められず、該商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものと認めることはできない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、その指定商品中の「医療用機械器具」について、商標法第4条第1項第10号及び同第15号のいずれの規定にも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標




(2)引用商標




審理終結日 2010-11-16 
結審通知日 2010-11-19 
審決日 2010-11-30 
出願番号 商願2007-500(T2007-500) 
審決分類 T 1 12・ 25- Y (X10)
T 1 12・ 271- Y (X10)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 文宏 
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 瀧本 佐代子
小畑 恵一
登録日 2007-12-28 
登録番号 商標登録第5102315号(T5102315) 
商標の称呼 ミキコーポレーション、ミキ、サンキ、エム 
代理人 特許業務法人 浅村特許事務所 
代理人 前川 砂織 
代理人 浅村 皓 
代理人 岩田 康利 
代理人 高原 千鶴子 
代理人 岩田 康利 
代理人 宇佐見 忠男 
代理人 岡野 光男 
代理人 浅村 肇 
代理人 宇佐見 忠男 
代理人 土屋 良弘 

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