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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Z17
管理番号 1228335 
審判番号 取消2009-301149 
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-10-14 
確定日 2010-11-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第4492521号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4492521号商標(以下「本件商標」という。)は、「BISCO」の欧名文字を標準文字で書してなり、第17類「シート状のシリコーン発泡ゴム,その他のシート状のシリコーンゴム,その他のゴム,ゴム製包装用容器,ゴム製栓,ゴム製ふた,シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品,電気絶縁材料,ガスケット,パッキング」を指定商品として、平成12年3月7日に登録出願され、同13年7月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁ばくを要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによってもその指定商品のうち「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」について使用された事実が存在しないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により、取り消されるべきものである。
2 弁ばく
(1)乙各号証について
(ア)乙第2号証は本件商標の商標登録原簿であるが、専用使用権又は通常使用権が登録された形跡はない。
(イ)乙第3号証は、答弁書「9.証拠方法」の記載によると、「被請求人と使用権者のライセンス契約書(要部 写)(1997年7月29日付)」とあるが、答弁書本文中における説明は「被請求人ワールド・プロパティーズ・インコーポレイテッドは、米国法人『ロジャーズ・コーポレーション』に対し、本件商標について独占的な通常使用権を許諾している(両者の関係については乙第3号証参照)。」との1文のみで、ライセンス契約書の訳文も添付されていない。請求人が見たところ、被請求人が印を付けている部分には、被請求人が「ロジャーズ・コーポレーション」(以下「米国ロジャーズ」という。)に対し、「当該契約の第9項の条件に基づいて、被請求人が現在所有する、又は今後取得するありとあらゆる商標の使用について、世界的な、ロイヤリティを負担する、独占的なライセンスを付与する」との文言があるが、かかる独占的なライセンスは、まったく内容が明らかにされていない「第9項」の条件に基づいており、本件商標を日本法人ロジャースジャパンインコーポレーテッド(以下「ロジャースジャパン」という。)が使用することまで含まれた内容であることは証明できていない。特に、本件契約はロイヤリティを負担して使用する契約であるので、当然ながら、どの権利にどれだけのロイヤリティが課されるかが極めて重要であり、この取決めがなされないことには、まったく機能しないものである。
そもそもライセンス契約書というものは、全文が提出されるべきであり、その定義条項には、「子会社は含まれない」と記載されているかもしれないから、この乙第3号証によって特定の国において特定の商標権の通常使用権を許諾しているとは到底認めることができない。
(ウ)乙第6号証は、2010年1月19日現在のロジャースジャパンのホームページ中の取扱商品を紹介している箇所の印刷である。商標「BISCO」は、商品「高性能シリコンラバー/フォーム」、すなわち、「シリコーンゴム及びシリコーン発泡ゴム(類似群コード:34B01)」の使用が明記されているが、商品「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品(類似群コード:34A01)」について使用を示す記載はない。
なお、「シリコーンゴム(Silicone rubber)」が類似群コード34B01の商品であり、34A01の商品でないことは、「類似商品・役務審査基準」からも明らかである(甲第1号証)。
(エ)乙第7号証は、米国ロジャーズが2008年に発行した商品カタログであり、被請求人は、ロジャースジャパンがかかる英語表記のカタログを日本での営業活動で使用していると述べているところ、本件カタログ裏表紙の表示より、本件カタログが2008年に米国で発行されたことは窺えるが、これが実際に日本国内において、どのような時期に、誰に対して、どのような方法で頒布されたか等の具体的な取扱いについては一切明らかにされていないので証拠として認められない(取消2008-300122審決(甲第2号証)参照)。
本件カタログには「BISCO」の表示があることから、仮に、該カタログが商標「BISCO」の使用を証明するものであったとしても、掲載されている商品及び貼付されている実物サンプルより、さまざまな厚さと硬さのシリコーンゴム及びシリコーン発泡ゴムであることが明白であるので、「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」についての使用証明にはならない。
(オ)乙第8号証は、ロジャースジャパンが作成した日本語の資料であり、乙第7号証と併せて使用されるものであるところ、両者を照合すると、乙第7号証のカタログ内で「Cellular Silicones」「Solid Silicones」「Specialty Silicones」と紹介されている商品を、乙第8号証においてそれぞれ「シリコンフォーム」「シリコンラバー」「特殊シリコン」と表示していることが明らかである。
かかる日本市場を対象とする営業活動のために作成された乙第8号証は、「シリコーンゴム及びシリコーン発泡ゴム」に関するカタログである乙第7号証と併せて使用されることにかんがみると、当然ながら「シリコーンゴム及びシリコーン発泡ゴム」に関するもので、「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」に関するものでないことは明らかである。
また、かかる資料についても、いつ発行され、どのように日本国内で頒布されたのか等は一切明らかにされていない。
(カ)乙第9号証は、米国ロジャーズが発行した商品サンプル集の写真であるが、このサンプル集に付されている品番は、「HT-6000 Series」の表示以外は乙第7号証に掲載されている商品と一致することから、「シリコーンゴム及びシリコーン発泡ゴム」に関するものである。また、表記に日本語は見当たらず、日本での営業活動で使用されているものなのか不明であるし、仮に日本国内で使用されているとしても、いつどのように頒布されたものであるか等が一切明らかにされていない。
なお、乙第9号証からかかるサンプル集の発行年月日を読み取ることができない。
(キ)乙第10号証は、「Invoice Date:17-Jun-09」及び「Ship date:17-June-2008」の記載より、2008年6月17日に出荷された「Bisco BF-2005(S)」と表示したシート状の商品について、ロジャースジャパンが日本ブレディ株式会社(以下「ブレディ」という。)に2009年1月17日に発行した請求書であることはわかるが、提出されたカタログにかかる品番の商品が掲載されていないため、どのような商品が取引されたのかは不明である。
仮に、被請求人の説明どおり、「Bisco BF-2005(S)」の商品が「BF-2000シリーズの特注品のシリコンフォームシート」であるならば、「シリコーン発泡ゴム」の取引の事実を証明するものであり、「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」の取引の事実を証明するものではない。
(ク)乙第11号証は、ブレディからロジャースジャパンに宛てた2009年6月24日付けの注文書のようであるが、「BISCO」の表示はどこにも見当たらず、本件とは無関係の資料と考える。
なお、被請求人は、乙第10号証と乙第11号証が対になっているかのように述べているが、2008年6月17日に出荷され、2009年1月17日に請求書が発行されている商品の発注日が2009年6月24日であるとは考え難いものである。
(ケ)乙第12号証は、この取引書類からは、記載された品番より乙第7号証のカタログに掲載されている商品が、米国ロジャーズから日本の株式会社イノアックインターナショナル(以下「イノアック」という。)ヘ2006年12月21日と2009年10月27日の2度、輸出されていることがわかる。
しかしながら、かかる取引は、被請求人が米国登録商標第2600075号「BISCO」(甲第3号証)を所有していること、及び、日本での営業活動は米国ロジャーズの日本支社であるロジャースジャパンが行っていることにかんがみて、米国ロジャーズが米国登録商標「BISCO」を付した商品を販売したとみるのが自然である。また、かかる販売が、日本国内の流通経路に乗っていないことも明らかである。したがって、かかる取引は本件商標の使用には該当しない。
仮に、商品を購入したイノアックが「譲渡又は引渡しのために輸入(商標法第2条第3項第2号)」したのであれば本件商標の使用である可能性があるが、イノアックが被請求人から使用を許諾されたことは証明されていないし、輸入後に譲渡又は引渡しをしたことも証明されていない。
さらに、これが仮に本件商標の使用であるとしても、取引された商品は答弁書の説明によれば乙第7号証のカタログに記載されている商品であるので、「シリコーンゴム及びシリコーン発泡ゴム」であることが明らかであり、「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」についての使用証明にはなり得ない。
(2)以上のとおり、提出されたライセンス契約書からは、ロジャースジャパンが本件商標の通常使用権を有するのかどうか不明である。また、仮にロジャースジャパンが本件商標の通常使用権を有していたとしても、提出されたカタログ等の証拠資料からは、本件商標が、類似群コード34B01の「シリコーン発泡ゴム,その他のシリコーンゴム,その他のゴム」に該当する商品に使用されていることが証明されたのみであり、本件取消にかかる類似群コード34A01の「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」に該当する商品について使用されていることは証明されていない。
(3)結び
以上のとおり、本件商標は、取消請求に係る指定商品について、乙各号証によっては審判請求登録前3年以内の商標権者、専用使用権者、通常使用権者による登録商標の使用を証明したものとは認められないから、商標法第50条第1項の規定により、その登録は取消されるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由の要旨を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第16号証を提出している。
1 答弁の理由
(1)被請求人は、米国ロジャーズに対し、本件商標について独占的な通常使用権を許諾している(両者の関係については乙第3号証参照)。また、ロジャースジャパンは、米国ロジャーズが100%出資する日本支社である(乙第4号証)。
米国ロジャーズは、高分子科学技術を基礎として、先端的電子材料・部品を製造販売することを主たる事業としており(乙第5号証)、本件商標をシリコーン材料について現在においても使用している。
また、ロジャースジャパンは、日本において、電子部品・機能樹脂材料の輸出入・製造販売、技術サービスを主たる事業内容としており(乙第6号証)、本件商標をシリコーン材料について現在においても使用している。
すなわち、本件商標は、被請求人の独占的な通常使用権者である米国ロジャーズ及びその日本支社であるロジャースジャパンによって、請求に係る商品について現在においても使用されている。
(2)乙第7号証ないし同第12号証は、本件商標の使用事実を立証するものである。
(ア)乙第7号証は、本件商標の通常使用権者である米国ロジャーズが発行し、日本においてロジャースジャパンが営業活動に使用している商品カタログである。
(イ)発行年月日は、乙第7号証の裏表紙右下部に表示されているとおり、2008年であり、これは本審判請求登録日である平成21年11月5日前3年以内である。
(ウ)乙第7号証の表紙には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標「BISCO」が表示されている。
(エ)乙第7号証の表紙には、「Silicones」、「Silicone Material Selection Guide」と表示され、このカタログの中には「Cellular Silicones」、「Solid Silicones」、「Specialty Silicones」の商品がサンプルと共に記載されている。
これらの商品は、請求に係る商品である「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」の範ちゅうに属するものである。
(オ)乙第8号証は、ロジャースジャパンが作成した、商品宣伝用の資料である。
ロジャースジャパンは、乙第7号証の商品カタログと乙第8号証の資料とを併せて営業活動を行っており、乙第8号証は日本語で作成されていることにかんがみると、ロジャースジャパンが日本国内において日本市場を対象として営業していることは明らかである。
(カ)乙第9号証は、米国ロジャーズが発行し、日本においてロジャースジャパンが営業活動に使用している商品サンプル集である。
(キ)発行年月日は、裏表紙下部に表示されているとおり、2006年及び2007年であり、いずれも本審判請求登録日である平成21年11月5日前3年以内である。
(ク)乙第9号証の表紙には、上記の商品カタログと同様に、本件商標と社会通念上同一と認められる商標「BISCO」が表示されている。
(ケ)乙第9号証の表紙には、「Silicones」と表示され、このサンプル集の中には「Silicone Foam」、「Solid Silicones」、「Silicone Rubber」、「Silicone Press Pad」、「Silicone Fire Barrier」、「Silicone HeatShield」、「Silicone EMI Shields」、「Silicone Sound Barrier」の商品がサンプルと共に記載されている。
これらの商品は、請求に係る商品中の「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」の範ちゅうに属するものである。
なお、物件保存の簡便さのために上記サンプル集を撮影した。撮影日は2010年1月21日、撮影場所は武蔵野市吉祥寺本町1-34-12YKI国際特許事務所、撮影者は同所内担当者である。
(コ)乙第10号証は、ロジャースジャパンが上記商品を販売した日本ブレディに送付した納品書(請求書)である。
(サ)乙第10号証の品名欄には本件商標と社会通念上同一と認められる商標「Bisco」、商品の品番の「BF-2005(S)」、シートの厚みを示す「3.18mm」、「9.53mm」、注文の数量、金額が記載されている。
ここで、この商品の品番「BF-2005(S)」は、上記商品カタログ及びサンプル集内に記載されている「BF-2000」シリーズの特注品であり、シリコンフォームシートを示す。
(シ)乙第11号証は、ブレディがロジャースジャパンに送付した注文書である。
(ス)乙第11号証の品名欄には、上記商品の品番「BF-2005(S)」、シートの厚みを示す「3.18mm」、「9.53mm」、注文の数量、金額が記載されており、上記ロジャースジャパンの請求書の表記と一致する。
以上によれば、ロジャースジャパンが、ブレディに対し、商標「Bisco」の名において、3.18mm及び9.53mmのシリコンフォームシートを各3シートずつ販売した事実が明らかである。
(セ)乙第10号証及び乙第11号証の書類の日付は、2009年6月24日及び2009年1月17日であり、いずれも本審判請求登録日である平成21年11月5日前3年以内である。
(ソ)乙第12号証は、米国ロジャーズが上記商品を販売したイノアックに送付した納品書(請求書)である。
(タ)乙第12号証の品名欄には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標「BISCO」、品番の「HT800」、「BF1000」、「HT820」、商品の色、シートの厚み、注文の数量、金額等が記載されている。
ここで、この商品の品番「HT800」等は、上記商品カタログ及びサンプル内に記載されており、シリコンフォームシートを示す。
以上によれば、米国ロジャーズが、イノアックに対し、商標「BISCO」の名において、シリコンフォームシートを販売した事実が明らかである。
(チ)乙第12号証の注文日付は、それぞれ2006年12月21日及び2009年10月27日であり、いずれも本審判請求登録日(平成21年11月5日)前3年以内である。
(3)以上のとおり、本件商標が、被請求人の通常使用権者によって、本件審判請求登録日前3年以内に、請求に係る商品について日本国内において使用されていることは明らかである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきでない。
2 第2答弁
(1)乙第3号証のライセンス契約書について
請求人は、「乙第3号証は、まったく内容が明らかにされていない第9項の条件に基づいており、本件登録商標をロジャースジャパンが使用することまで含まれた内容であることが証明できていない」旨主張している。
しかしながら、そもそも取消審判において、ライセンス契約書は全文提出されなければ有効な証拠として認められないなどということはなく、乙第3号証においては、披請求人が確かに米国ロジャーズに対し、被請求人の現在所有している,又は今後取得する商標に関する独占的なライセンスを付与していることが証明されており、また、このライセンス契約の効力は、乙第3号証に示す「SECOND AMENDMENT TO LICENSE AGREEMENT」において2012年7月29日まで維持されることが明記され、すなわち現時点でも有効であることが証明されていることから、乙第3号証は、本件商標を米国ロジャーズの100%子会社であるロジャースジャパンが日本において使用する権利を有していることを証明するには十分であると判断される。
なお、念のため第9項に記載されている内容を、添付する乙第13号証にて明らかにするが、ここにはもちろんロジャースジャパンが本件登録商標を使用できない旨の内容は含まれていない。
(2)ロジャースジャパンの取扱商品について
まず、シリコーン樹脂とシリコーンゴムについて以下のとおり詳述する。
乙第14号証「理化学辞典」では、「シロキサン結合の繰り返し、-(Si-O)n-を主鎖とし、側基としてアルキル、アリール基などをもつ重合体をシリコーンと総称する。・・・液状、グリース状、ゴム状、樹脂状のものがある。・・・高重合度の線状ポリジメチルシロキサンあるいはその共重合体を中程度に橋かけしてゴム状弾性を示すようにしたものをシリコーンゴムという。クロロシラン誘導体RnC1(4-n)の加水分解、重縮合によってつくられる3次元網目構造を高度にもったものは固体状でシリコーン樹脂あるいはケイ素樹脂とも呼ばれている。」と記載されている。
これより、シリコーンのうち、ゴム弾性を示さず硬いものをシリコーン樹脂(プラスチック)、ゴム弾性を示すものをシリコーンゴムと呼ぶものと判断される。
ここで、ゴム弾性とは、乙第15号証に示すとおり、非常に小さなヤング率を示し、破断限界の伸びが非常に大きな弾性をいい、その弾性の原因が伸縮に応じたエントロピー変化によるもので、通常の内部エネルギーの変化による弾性と異なっている。簡単にいえば、輪ゴムのような大変形の弾性がゴム弾性である。
タイヤのゴムなどは、輪ゴムのような大変形をしなくともゴムと呼ばれるが、シリコーンについていえば、上述のような定義であり、ゴム弾性を示すものがシリコーンゴムと呼ばれる。
シリコーンゴムは、その材料そのものがゴム状弾性を示すものであり、シリコーン製の輪ゴムであればこれは明らかにシリコーンゴムである。
しかし、被請求人が提出した乙第7号証に示すカタログに添付されている見本をみれば明らかなように、ロジャースジャパンの販売するシリコーンラバー以外のシリコーン製品は基本的に大変形するものではなく、厳密にはシリコーン樹脂(プラスチック)であって、シリコーンゴムではない。
また、ロジャースジャパンの販売しているシリコーンフォームは、大きな変形が可能であるが、これは発泡しているからであって、シリコーン自体が大変形す るものではなく、シリコーンゴムではない。
さらに、このシリコーン樹脂を発泡した製品は、スポンジ体に該当するかも知れないが、ゴムではない。
このように、ロジャースジャパンは、シリコーン樹脂のシート(シリコーン製プラスチックシート)を販売していることは明らかである。
さらに、実際に販売されている商品について、シリコーン樹脂(プラスチック)であるか、シリコーンゴムであるかは、必ずしも一義的に決定できない場合も多い。上述したゴム弾性を有するか否かは1つの基準といえるが、実際の取引者において、必ずシリコーンゴムと、シリコーン樹脂を明確に区別しているかは疑わしい。被請求人の実際の販売を証明した商品は、厳密にはシリコーン樹脂に分類されるべきとは考えるが、各種の商品には多面性があり、1つの商品が取引者によっては異なる分類の商品として認識されている場合も存在する。このような場合において、不使用取消審判の場で、請求人のいうように、1つの分類に属する商品と断定して、その商品についての使用はないと認定するのは誤りであり、複数の分類に属する商品について使用していると認定されるべきと考える。そもそも、商標法における商品区分は、市場で流通する膨大な種類の商品を、商標登録出願に際しての出願人の便宜及び審査の便宜を図るという行政的見地から分類したものであり、いずれの分類に属するか判断の極めて困難な商品も存するのみならず、時代の推移とともに、その分類のなされた当時には存在しなかった種類の商品が出現し、この商品分類自体が現実の流通市場の実態にあわせて改訂されてきたことを鑑みれば、上記のように解したとしても、商品類別ないし商品区分の趣旨に反することにはならない(東京高裁 昭和57年(行ケ)第67号参照)。
(3)ロジャースジャパンとブレディとの取引書類について
請求人は、乙第10号証及び乙第11号証に示す、ロジャースジャパンとブレディ社との取引書類について、両書類は対になっておらず、また、商品の発注日に疑義がある旨主張している。
しかしながら、添付する乙第16号証にて、ロジャースジャパンの代表者が証言しているとおり、ロジャースジャパンはブレディから注文を受け、ブレディに対し、ロジャースジャパンの取扱製品BISCO(BF-2005S)の3.18mm及び9.533mmのシリコーン製シートを各3枚ずつ、2008年6月17日付で納入したことに相違ない。乙第10号証および乙第11号証には、それぞれ上記シート各3枚ずつについての取引明細が記載されており、この取引があったことを示す書類以外の何物でもない。また、この商品の発注日については、乙第11号証に示すブレディからの注文書左下部に、「その他:納入済みです。」と記載されているとおり、ロジャースジャパンが商品を納入した後に注文書が送付されたものである。このような取引は、実際の商取引において一般的に行われ得るものであり、発注日の先後は、ロジャースジャパンがブレディに対し、商標「BISCO」の名の下において、該商品を取引したことを否定する根拠とはならない。
さらに、上記取引の支払いについては、ブレディからロジャースジャパンの口座へ、2009年8月31日付けで確かに入金されており、この入金の事実は、上記取引が実際に行われたことを明らかに示している。

第4 当審の判断
1 被請求人の答弁及び乙各号証によれば、以下の事実が認められる。
乙第3号証は、商標権者と米国ロジャーズの間の1997年7月29日付けライセンス契約書の抜粋(写し)であり、契約内容として、「当該契約の第9項の条件に基づいて、被請求人が現在所有する、又は今後取得するありとあらゆる商標の使用について、世界的な、ロイヤリティを負担する、独占的なライセンスを付与する」旨記載されている。
乙第4号証及び乙第5号証は、いずれもロジャースジャパン及び米国ロジャーズのホームページである。
ロジャースジャパンのホームページの「会社概要」(乙第4号証)に「資本関係」として「Rogers Corporation 100%出資」の記載があり、「本社・親会社」として「Rogers Corporation(NY証券取引上場)」の記載があり、米国ロジャーズのホームページ(乙第4号証)には、「Global Locations」の項に活動拠点として、東京、名古屋等が記載されている。
また、ロジャースジャパンのホームページの「会社沿革」(乙第5号証)に「ロジャースジャパンは米国法人ロジャーズコーポレーションの100%出資の日本支社であります。」の記載がある。
乙第6号証は、ロジャースジャパンのホームページであり、「取扱商品」のページには商品写真の上に「BISCO」の文字と「シリコン材料」の文字が併記され、商品写真の右側には「高機能シリコンラバー/フォーム。ガスケット、シーリング、クッション、断熱、遮音。プレスパッド用途。」などと掲載されている。
乙第7号証は、米国ロジャーズが2008年に発行した英文商品カタログ(以下「本件カタログ」という。)であり、ロジャースジャパンが我が国において使用しているものと認められるものである。
表紙左上部には米国ロジャーズのロゴマークと認められるマークと「ROGERS/CORPORATION」及び「BISCO Silicons」の表示がなされ、下部には「Silicon Material Selection Guide」の表示がなされている。
カタログ内容ではシリコン材を「Cellular Silicones」「Solid Silicones」「Specialty Silicones」に分類し商品の特徴を記載した一覧表と一部商品については商品見本が貼付されている。
また、裏表紙には米国ロジャーズの名称及び連絡先及び米国以外の連絡先として、日本については、ロジャースジャパンの名称及び電話番号等が記載されている。
乙第8号証は、ロジャースジャパンの、乙第7号証のカタログと共に商品説明用に使用している資料であり、1枚目上部には乙第7号証と同様のロゴマークと「ROGERS/CORPORATION」、及び「Rogers Japan,Inc.」の表示がなされ、見出しの冒頭に「Bisco シリコン」と記載され、説明文には「ロジャースのビスコシリコン材は、シーリング、クッション保護などの高い要求に応えます。お客様の用途に合わせて最適なソリューションを提供いたします。」と記載され、その下には「Bisco」をシリコンフォーム、シリコンラバー、特殊シリコンの3つに分けてその各用途が図示され、さらに航空機用途、車両用途、自動車用途について、図示し、説明されている。
乙第10号証は、ロジャースジャパンからブレディに2008年6月17日に「Bisco BF-2005(S)」の(厚さ)3.18mm、及び9.53mmのA4サイズのものと同じく(厚さ)9.53mm、のA4サイズのもの各3枚を納品し、その代金の2009年6月17日付けの請求書と認められる。
2 前記1で認定した事実によれば、以下の事実が認められる。
(1)通常使用権者について
乙第3号証のライセンス契約書によれば、商標権者と米国ロジャーズの間において、あらゆる商標について独占的なライセンスを付与する旨の契約がされていることが認められるから、商標権者は、本件商標についても米国ロジャースにその使用を許諾したものであり、米国ロジャーズは、本件商標の通常使用権者と認められる。
また、ロジャースジャパンは、米国ロジャーズの100%子会社であり、実質的に米国ロジャーズの日本支社と位置づけられているところである(乙第4号証及び乙第5号証)から、ロジャースジャパンも本件商標の通常使用権者とみて差し支えないものということができる。
この点について、請求人は、本件商標の商標登録原簿に専用使用権又は通常使用権の登録がないこと、また、乙第3号証の契約書の抜粋には、本件商標の使用及び子会社による使用について明記されていないことから、商標権者が我が国における本件商標の使用について通常使用権を許諾していることは認められない旨主張している。
しかしながら、上記ライセンス契約書には「あらゆる権利」と記載されていることに加え、本件商標に係る許諾を認めることについて何ら不自然な点はなく、本件商標についても使用許諾があったものと推認できるものであるから、請求人の上記主張は採用できない。
(2)本件商標の使用について
乙第6号証ないし乙第8号証によれば、米国ロジャーズは、シリコンフォーム、シリコンラバー、特殊シリコンなどのシリコン製品(以下「使用商品1」という。)を掲載し、本件商標と実質的に同一と認められる「BISCO」の文字からなる商標を表示した本件カタログを2008年に作成し、ロジャースジャパンを通じて我が国において使用されたことが認められ、その使用の時期は、本件審判の請求の登録(平成(2009)年11月5日)前3年以内であるものと推認できるものである。
なお、乙第10号証によれば、ロジャースジャパンは、2008年6月17日に本件商標と実質的に同一と認められる「BISCO」の文字を使用して型番「BF-2005(s)」の厚さ3.18mm及び9.53mmのシリコンフォームシート(以下「使用商品2」という。)各3枚をブレディに納品し、2009年6月17日にそれに係る代金の支払いを請求をしたことが認められる(当該型番の商品は、本件カタログに掲載はないものの、該カタログ中「CELLULAR SILICONES」として、型番「BF-2000」及び「BF-1000」が掲載され、やや仕様を変更した商品に型番数字の一部を変えた型番を使用することは商取引上普通に行われていることから、「BF-2005(s)が本件カタログの型番{BF-2000」の商品と同様の商品であると推認できる。)。
(3)使用商品について
ア 被請求人は、本件カタログ中に「Cellular Silicones」、「Solid Silicones」、「Specialty Silicones」として商品サンプルと共に掲載されている使用商品は、本件審判請求に係る「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」の範ちゅうに属する商品であると主張し、請求人は、使用商品は、「シリコーンゴム及びシリコーン発砲ゴム」であるので、本件審判請求に係る商品には属さないと主張しているので、この点について、以下、検討する。
イ 類似商品・役務審査基準(国際分類第7版)によれば、第17類「プラスチック基礎製品」には、「金属泊を蒸着したプラスチックシート」「反射基盤を有するプラスチックシート」及び「スポンジ体」などが例示され、弾力性のある商品を含むものである。
また、第17類「ゴム」には、「天然ゴム」、「合成ゴム」などが包括的に記載され、「合成ゴム」中に「シリコーンゴム」が表示されている。そうすると、「合成ゴム」に属する商品は、主として天然ゴムと同様にゴムの特性、機能による用途を重んじて分類されているということができる。
ウ シリコーンは、「岩波 理化学辞典第4版」(岩波書店 1995年9月8日発行)によれば、「シロキサン結合の繰り返し,-(Si-O)n-を主鎖とし,側基としてアルキル,アリール基などをもつ重合体をシリコーンと総称する.・・・重合度,測基の種類,橋かけの程度などによって液状,グリース状,ゴム状,樹脂状のものがある.・・・高重合度の線状ポリジメチルシロキサンあるいはその共重合体を中程度に橋かけしてゴム状弾性を示すようにしたものをシリコーンゴムという.クロロシラン誘導体RnC1(4-n)の加水分解,重縮合によってつくられる3次元網目構造を高度にもったものは固体状でシリコーン樹脂あるいはケイ素樹脂とも呼ばれている.」であり(乙第14号証)、シリコーンは、上記のように弾性の程度などの違いによって、その形状により、樹脂状、ゴム状のように区分けされることがあることが認められる。
エ 以上によれば、シリコーン製品には、ゴム弾性を示すものを含まれるがこれら弾性を示す商品については、シリコーンゴムとして、合成ゴム製品として取引される場合もあるが、シリコーン樹脂として取引される場合があるということができる。
そして、使用商品1及び2については、そのゴム状弾性が明らかでないが、ゴム状弾性の観点から仮にシリコーンゴムといえるとしても、乙第6号証及び乙第8号証によれば、その用途から、合成ゴムとしてのみ取引されているとはいえないし、使用商標1に係る商品サンプルにはシリコンに他の材質のシートを積層したものも見受けられる。そうとすると、使用商品1及び2は、シリコーン製プラスチックシートととして取引したものとみて差し支えないものといえる。
(4)以上によれば、本件審判の請求の登録前3年以内に、本件商標の通常使用権者である米国ロジャーズ及びロジャースジャパンは、「シリコーン製プラスチックシート」を掲載したカタログに、本件商標と実質的に同一と認められる商標を表示して、頒布したことを認めることができる。そして、通常使用権者の上記行為は、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布・・する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当するものである。
3 結論
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、通常使用権者が本件請求に係る指定商品中の「シリコーン製プラスチックシート」について、本件商標の使用をしていたことを証明したと認め得るところである。
したがって、本件商標の指定商品中「シリコーン製プラスチックシート,その他のプラスチック基礎製品」についての登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-09-03 
結審通知日 2010-09-13 
審決日 2010-10-08 
出願番号 商願2000-21437(T2000-21437) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Z17)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 海老名 友子今田 尊恵 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 井出 英一郎
内山 進
登録日 2001-07-19 
登録番号 商標登録第4492521号(T4492521) 
商標の称呼 ビスコ 
代理人 原田 洋平 
代理人 森本 義弘 
代理人 吉田 研二 
代理人 石田 純 

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