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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X05
管理番号 1228274 
審判番号 無効2009-890097 
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-08-18 
確定日 2010-11-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第5217925号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第5217925号商標(以下「本件商標」という。)は、「SUVAN」の文字を横書きしてなり、2008年4月25日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成20年7月15日に登録出願、第5類「必須脂肪酸入り栄養補給用ドリンク剤,必須脂肪酸及びミネラル入り栄養補給用ドリンク剤,医療用栄養添加剤,食品添加用ミネラル(医療用のものに限る。),医療用ミネラルウォーター,薬剤」を指定商品として、平成21年3月27日に設定登録されたものである。

2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する国際登録第927379号商標(以下「引用商標」という。)は、「KUVAN」の文字を横書きしてなり、2007年5月29日に国際登録され、第5類「Pharmaceutical preparations, namely pharmaceuticals comprising tetrahydrobiopterin (BH4) and related compounds for treatment of phenylketonuria. 」を指定商品として、平成20年7月11日に日本国において設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第24号証を提出した。
(1)請求の理由
ア 本件商標と引用商標との類似性
(ア)称呼について
本件商標からは、「スバン」、「サバン」若しくは「スヴァン」の称呼が生じるところ、本件商標の商標権者(以下「商標権者」という。)の日本法人であるトリヴァニジャパン株式会社(以下「トリヴァニジャパン」という。)のホームページにおいて、「SUVAN」を「スヴァン」と称呼している(甲第3号証)。このように、商標権者が称呼を自らのホームページに記載することで称呼が特定され、その称呼が需要者及び取引者の間に浸透していく。したがって、本件商標の称呼は、「スヴァン」と特定され、少なくとも「サバン」という称呼は生じない。
一方、引用商標から生じる称呼は、「クバン」又は「クヴァン」であり、元来、日本語には「ヴ」の発音はないため、「クヴァン」と「クバン」は同一の称呼として取り扱ってよい。
商標権者が「スヴァン」という称呼を特定しているため、引用商標についても、本件商標との比較においては、「クヴァン」の称呼を使用する。
本件商標「スヴァン」と引用商標「クヴァン」では、異なる音は語頭の「ス」と「ク」のみである。「ス」と「ク」は、母音「u」を共通にしており、「ス」は、舌の先を上歯茎に近づけて、隙間から息を摩擦させて通すときに出る音(歯茎摩擦音)であり、「ク」は、舌の後部を口蓋の奥の部分(軟口蓋)に押しあて一旦閉鎖した上で破裂させることで発する音(軟口蓋破裂音)という微妙な違いはあるが、両者共に無声音であり、たとえ相違する語が語頭であるとしても、全体の音感が近似して聴覚されることとなり、取引者や需要者が両者を聞き誤るおそれがないとはいえない。
また、両商標共に3音で構成されており、語尾が「ン」であることも共通している。語尾の「ン」にアクセントがくることは通常ありえないので、第1音目又は第2音目にアクセントがくる。すなわち、第1音目にアクセントがくるか第2音目にアクセントがくるかは個人で異なるが、同じ3音構成で語頭の母音及び語尾音が共通する「スヴァン」又は「クヴァン」を称呼する際には、同一人物が称呼するのであれば、通常同じ位置にアクセントを置いて称呼する。上記のように「ス」と「ク」は明確に区別し難い音であるため、同じアクセントで称呼すれば、それを聞く人が両者を聞き誤る可能性は非常に高くなる。
さらに、両商標の語頭音の「ス」と「ク」以外の称呼は、「ヴァン」である。この「ヴァン」は、濁音と撥音を組み合わせたもので、語頭の清音「ス」や「ク」と比べて耳障りであり、より印象に残りやすい。したがって、両商標は、語頭音の母音が共通することで語頭音の印象が弱いことを考慮すると、商標全体として非常に似通った印象を与え、両者を聞き誤る可能性は否定できない。
「ス」と「ク」の音が近似する音であることは、過去の審決例からも明らかである(甲第4号証)。
したがって、本件商標と引用商標は称呼上類似する商標である。
(イ)外観について
本件商標及び引用商標は、共に欧文字5文字からなり、異なる部分が語頭の「S」と「K」のみであり、他の「UVAN」は共通する。しかも、両者は、タイムズニューローマンというフォントを利用しており、取引者や需要者が、時と所を異にした場合に、見誤る可能性は否定できない。
(ウ)観念について
両者共に特定の意味を持たない造語であり、観念上の類否は判断できないが、逆に親しみのない造語であることが、両商標の称呼上及び外観上の類似性を助長することになる。
すなわち、商標の観念において明瞭な相違がある場合、称呼や外観に多少の類似性があったとしても、観念の相違によって混同を防止することができるが、造語商標であるため観念による識別ができない場合には、需要者及び取引者は、称呼及び外観のみによって識別せざるを得なくなる。
特に日本人にほとんど馴染みのない造語商標の場合、それらが覚えやすいようなものでない限り、漠然とした音の感じやスペリングの印象によって商標を記憶することになるので、勢い混同を生ずるおそれが高くなるのである。
本件の場合、「スヴァン」、「クヴァン」という称呼や、「SUVAN」、「KUVAN」というスペリングは、他の既成語に近似する語がないことも相まって、後からの記憶だけによると明瞭な判別ができず、その結果、混同を生じるのである。
(エ)よって、本件商標は、引用商標に称呼及び外観において類似するものにもかかわらず、登録されたものであり、本件商標は無効とされるべきである。
イ 取引の実情
(ア)請求人について
請求人は、米国カリフォルニア州ノバトを本拠地とする生物工学会社であり、米国内や南米、ヨーロッパを中心に支社等を有している。請求人の主幹事業は、酵素補充療法であり、請求人は、該酵素補充療法により、ムコ多糖症I型の治療法やフェニルケトン尿症(以下「本件疾患」という。)の治療法で実績を上げている企業である(甲第5号証、甲第6号証)。酵素補充療法とは、先天的に欠損している体内の必須酵素を体外から定期的に補充することにより、酵素不足から引き起こされる様々な疾患の治療を行う方法である(甲第7号証)。特に、本件疾患の治療については、2007年に世界で初めて治療薬を開発し、高い評価を得ている。請求人の業務に係る本件疾患の治療薬(以下「請求人商品」という。)は、「KUVAN」(引用商標)の名称で製造販売されており、希少疾患協会(The National Organization for Rare Disorders)から、本件疾患の治療に貢献したことが評価され、2009年の企業賞(The 2009 Corporate Award)を受賞した(甲第8号証、甲第9号証)。
(イ)請求人商品について
請求人商品は、請求人の主要製品の一つであり、本件疾患の唯一、かつ、最初の治療薬である(甲第10号証)。
本件疾患は、先天的な酵素(又は補酵素)の異常によってフェニルアラニンの代謝が阻害される疾病である(甲第11号証、甲第12号証)。フェニルアラニンは食品の中に含まれる必須アミノ酸の一種であり、人間の体には必要なものであるが、これが排出されず血中のフェニルアラニン濃度が高くなり、その状態が維持されると、大脳の神経細胞の成長を妨げ、精神遅滞をきたすおそれがある。特に、血液脳関門が未発達である乳幼児期にフェニルアラニンが蓄積すると、重篤な精神遅滞を引き起こすため、現在では、全新生児を対象に検査を行い、早期発見を目指している。たとえフェニルケトン値の異常が発見されても、乳幼児期より適切な治療を行い、フェニルアラニンの血中濃度が低いまま維持されれば、正常に発育する。ただし、脳発達が終わった後でも生涯治療を継続することが望ましいとされており、難病の一種である。
本件疾患を根治する方法は現在まだ確立されてはいない。一般的な治療法としては、フェニルアラニンのもととなる蛋白質を含む一般の食事を、厳密な計算のもと過不足なく摂取することにより、血中のフェニルアラニンの濃度を一定に保つ方法がある。しかし、上記のような食事療法のみでは、人間の体に必要なビタミン類が不足するため、不足しがちなビタミン類、つまり、ビタミンB、オメガ3脂肪酸や中性脂肪酸をサプリメントで補うことが行われている(甲第13号証)。現在使用されているものとしてはフェニルアラニンを含まない特殊な栄養ミルクを摂取することである。この栄養ミルクは、医薬品として医師より処方されている(甲第14号証)。
今までは食事療法とサプリメント(栄養ミルク)の療法のみであった本件疾患の治療法に画期的な進歩をもたらしたのが請求人商品である。請求人商品は、血中のフェニルアラニンの濃度を下げる効果があり(甲第15号証)、現在、食事療法等と併用して使用されている。
(ウ)商標権者及びトリヴァニジャパンのホームページでは、本件商標を付した商品「栄養補助ドリンク」が紹介されている(甲第3号証、甲第16号証)。これらの製品紹介のうち、日本語のものでは、「特徴・植物由来の各種オメガ脂肪酸やミネラル類をバランスよく摂取することができるユニークなドリンクタイプの補助食品です。」との記載がある(甲第3号証)。また、英文でも、「KEY INGREDIENTS(主成分)」として、「Proprietary Omega blend(Omega 3,6,7 and 9 fatty acids)(オメガ3、6、7、9混合脂肪酸)」が記載されており、現在、本件商標を付した商品は、上述の栄養補助食品としてのドリンク剤(以下「被請求人商品」という。)のみが販売されているようである(甲第17号証)。
(エ)被請求人商品と請求人商品の混同について
請求人商品は、本件疾患の画期的な治療薬として医療関係者や患者の間で著名である。しかも、本件疾患の治療は、投薬だけでなく食事療法及びミネラル補給等を組み合わせた方法が採用されていることは上記のとおりである。さらに、食事療法や投薬では不足しがちなビタミン類としてオメガ3脂肪酸が挙げられ、これらは栄養ミルク等のサプリメントとして患者が摂取する可能性が高いものである(甲第13号証)。
上記オメガ3脂肪酸を含む栄養補助ドリンクが被請求人商品である。本件疾患の治療に必要な投薬名と治療に必要な成分を含む製品名が類似関係にあれば、医療関係者はともかく、医薬品の知識がそれほどあるとはいえない患者やその家族が両者を混同するおそれは非常に高いといえる。完全な食事制限や投薬治療が必要な乳幼児であれば、親が管理することも可能であるが、食事制限等も自分で行う年齢になれば、市販されているサプリメント等を自ら手に入れて摂取することも大いにあり得る。そういう場合に、本件商標と引用商標が造語であること、スペルが近似していること、称呼上類似することを考慮すると、医師から処方された投薬と類似の商標が付されているサプリメントを混同して購入する可能性は非常に高い。
本件疾患は、乳幼児から徹底した治療を行えば、成長後、指導されている食品以外のものを摂取してしまっても、アレルギー症状のようにすぐに症状として現れることはないが、長期にわたって高タンパクの食事をとり続けると、精神的に不安定になったり、けいれんの発作を起こす場合もあり、摂取する食品等には十分に注意が必要である。
さらに、本件商標の指定商品中には「薬剤」も含まれており、もし医薬品に本件商標が使用された場合には、引用商標との間に混同が生じるおそれは非常に高くなるといえよう。実際に、類似した名称の別の薬と取り違えによる死亡事故が起きている(甲第18号証)。このような取り違えミスが、医師、看護師や薬剤師など、医薬品に精通しているはずの医療関係者の間で実際に起こっていることを考慮すると、本件商標が薬剤の名称として使用された場合、引用商標と混同を生じる可能性は非常に高いといわざるを得ない。
現在販売されている商品は、栄養補助ドリンク剤のみであるが、医療関係者よりはるかに知識のない患者やその家族が、実際の取引の現場で本件商標と引用商標を見誤る可能性は非常に高いといえる。
このように、医薬品など人間の生命に影響のある商品については、類似の範囲を広く確保する社会的な要請があるといえよう。
ウ むすび
以上のように、本件商標と引用商標は、称呼及び外観において極めて類似した商標であり、指定商品の特殊性を考慮すると、引用商標の取引者及び需要者が混同を生じるおそれは非常に高い。
さらに、請求人は、様々な難病指定されている疾病の治療薬の開発を手掛ける会社であり、引用商標を含め、このような治療薬の名称として使用される商標は厚く保護されるべきであり、この治療薬の名称に類似する商標は登録されるべきではない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、同法第46条の規定により、無効とすべきである。
(2)答弁に対する弁駁
ア 本件商標と引用商標との類似性
本件商標と引用商標とが称呼及び外観において相紛らわしい商標であることは、前記(1)アで述べたとおりである。
被請求人は、審決例を挙げて反論するも、本件における商標の構成がこれらの審決例とは異なっているため、単純に両者を比較することはできない。具体的には、本件商標及び引用商標は、語頭音である「ク」及び「ス」の直後に濁音と撥音を組み合わせた語が連結された構成となっている。濁音は、清音の「ス」や「ク」と比べて耳障りであり、より印象に残りやすい。また、濁音をはっきり発音しようとするために、語頭音である「ク」や「ス」は比較的弱く発音されがちであり、また、両語の頭音の母音が共通するため、更に聴別しにくくなるのである。一方、被請求人の挙げた審決例での商標は、「ス」や「ク」の後に続く語はすべて清音や単なる撥音であり、その前音である「ク」や「ス」も比較的はっきりと発音されるため比較的聞き取りやすくなると判断されたのであろう。さらに、乙第6号証では、一方の語「SELECT/セレクト」が意味を持つ言葉であるため、印象に残りやすく、両者の聴別は他の審決例より更に容易といえるが、本件では、両商標共に無意味な造語であるため、勢い称呼によって識別しようとすることになり、強い音である「ヴァン」が特に強調され、必然的に「ク」と「ス」の印象が薄くなるため、両者の聴別はよりしにくくなるのである。
イ 取引の実情について
被請求人は、「そもそも取引の実情を述べるのであれば、本件商標を付した商品が引用商標を付した商品と誤認混同の事実又はクレームがあった等の事実を示すべき」と主張するが、取引の実情を考慮することについては、実際に誤認混同が生じていることのみならず、その商標を付した商品が実際に市場で取引されており、両者を誤認混同が生じる蓋然性があることのみをもって足りるとすべきである。特に、本件商標や引用商標の指定商品の分野である医薬品では、医療事故は人命にかかわる一大事であるため、実際の誤認混同が生じることは未然に防ぐことは非常に大切なことである。
ウ 指定商品の特殊性について
被請求人は、「昨今の医療現場における投薬ミスにおける薬の取り違いは、医薬品の名称が紛らわしいのではなく、薬を処方する際に、パソコン両面に薬剤名の最初の数文字を入力しただけで、自動的に薬剤名が表示され、その薬剤名リストから選択する際に、患者の病気から使用してはならない薬剤を選択できなくしたり、注意を喚起するシステムになっていない安易な医療システムが、本来の原因なのである。」と主張する。これらの投薬ミスは、医療システムが改良されれば、減る可能性は高まるかもしれない。しかしながら、すべての医療機関の現在の医療システムを改良するということは、時間的にも金銭的にも各医療機関への負担が非常に大きい。しかも、薬剤名を実際に入力するのは人間であり、正しい薬剤名を選択するのも人間の行う作業であるため、人的ミスを100%防ぐことは不可能でもある。甲第18号証で示した薬の取り違えるミスで死亡事故が契機となり、その後、医薬品の名称の変更を行う事例が少なくない(甲第19号証ないし甲第23号証)。さらに、平成20年12月4日付で厚生労働省から各都道府県の知事へ「医薬品の販売名の類似性等による医療事故防止対策の強化・徹底について」という注意喚起がされた(甲第24号証)。
したがって、前記(1)で述べたように、このような取り違えミスが、医師、看護師や薬剤師など、医薬品に精通しているはずの医療関係者の間で実際に起こっていることを考慮すると、本件商標が薬剤の名称として使用された場合、引用商標と混同を生じる可能性は非常に高いといわざるを得ない。

4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
(1)本件商標と引用商標の類否
ア 称呼について
本件商標は、その構成上及び実際の取引においても、「スヴァン」の称呼をもって取り扱われている。
一方、引用商標は、その構成上、「クバン」又は「クヴァン」の称呼をもって取り扱われるのを自然とするものと認められる。
してみると、両者は、第2音「ヴァ(バ)」及び第3音「ン」を共通にしているが、商標の称呼における識別上最も重要な要素である語頭音において、本件商標の「ス」音が、舌端を前硬口蓋に寄せて発する摩擦音であるのに対して、引用商標の「ク」音は、後舌面を軟口蓋に破裂させて発する破裂音であることから、音質、音感を異にし、明瞭に聴別し得る。しかも、両者は、共に僅か3音と極めて短い音構成であることからも、上記差異が、その称呼全体に及ぼす影響は極めて大きく、彼此判然と区別し得る称呼上非類似の商標であるといわなければならない。
上記主張が正当であることは、過去の審決及び異議決定からも明らかである(乙第1ないし7号証)。
イ 外観について
本件商標と引用商標は、取引者や需要者の最も注意を引く語頭において「S」と「K」の明らかな相違があるから、通常の注意力を有する需要者を基準に考えれば、互いに見誤ることはあり得ない。
したがって、本件商標と引用商標は、外観においても、彼此判然と区別し得る非類似の商標であることは明らかである。
ウ 観念について
両者は、共に何ら意味を有しない造語であることから、観念上において比較すべくもない。この点において、請求人は、独断と偏見に満ちた主張をしているが、当該主張は、全くの暴論であり到底採用し得ないことは多言を要しない。
エ 以上述べたとおり、本件商標は、引用商標と称呼、外観及び観念のおいても彼此判然と区別し得る非類似の商標であって、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。
(2)取引の実情について
請求人は、取引の実情として、「医薬品など人間の生命に影響のある商品については、類似の範囲を広く確保する社会的要請があるから、指定商品の特殊性を考慮すると、本件商標は登録されるべきではない。」旨主張する。
しかしながら、そもそも取引の実情を述べるのであれば、本件商標を付した商品が引用商標を付した商品と誤認混同の事実又はクレームがあった等の事実を示すべきであろうところ、そのような事実は、全く報告されていない。したがって、取引の実情を考慮するならば、本件商標と引用商標が取引の現場において誤認混同の事実は全くなく、判然と区別されて取り扱われている実情から、両者は非類似の商標であるといわなければならない。
現実の取引において誤認混同されたとの事実があって、その取引の実情を考慮して、引用商標の類似範囲を広く解すべきであるとの主張ならばともかく、昨今の医療現場における医療ミスをして類似範囲を広く解すべきとの主張は、事実の表面だけを捉え、当該医療ミスがいかなる状況において生じたのかを理解していない軽率極まりない行為であるといわなければならない。昨今の医療現場における投薬ミスにおける薬の取り違いは、医薬品の名称が紛らわしいのではなく、薬を処方する際に、パソコン画面に薬剤名の最初の数文字を入力しただけで、自動的に薬剤名が表示され、その薬剤名リストから選択する際に、患者の病気から使用してはならない薬剤を選択できなくしたり、注意を喚起するシステムになっていない安易な医療システムが、本来の原因なのである。表面的な結果だけを見て、根本的な原因を究明しないで、議論することの愚かさは、絶対にあってはならないことである。
以上のとおり、請求人の主張は、悉く不当なものであり、到底採用できないものである。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標と称呼、外観及び観念のおいても彼此判然と区別し得る非類似の商標であって、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。したがって、本件審判の請求は、理由がないものであり、棄却されるべきものである。

5 当審の判断
(1)本件商標と引用商標の類否について
ア 称呼
本件商標は、前記1のとおり、「SUVAN」の文字を横書きしてなるものであるところ、該文字は、特定の読みをもって親しまれた成語を表したものとは認められないから、これに接する取引者、需要者は、ローマ字読み風に称呼して、商品の取引に当たる場合が多いとみるのが相当である。
そうすると、本件商標は、その構成文字より生ずる自然の称呼は、「スヴァン」又は「スバン」であるということができる。
これに対して、引用商標は、前記2のとおり、「KUVAN」の文字を横書きしてなるものであるところ、該文字は、本件商標と同様に、特定の読みをもって親しまれた成語を表したものとは認められないから、本件商標と同様の理由により、その構成文字より生ずる自然の称呼は、「クヴァン」又は「クバン」であるといえる。
そこで、本件商標より生ずる「スヴァン」又は「スバン」の称呼と引用商標より生ずる「クヴァン」又は「クバン」の称呼を比較すると、両称呼は、いずれも3音よりなり、第1音において、「ス」の音と「ク」の音の差異を有し、第2音の「ヴァ(バ)」の音及び第3音の「ン」の音を同じくするものである。
そして、差異音のうち「ス」は、舌端を前硬口蓋に寄せて発する無声摩擦子音「s」と母音「u」との結合した音節であり、上下の歯の隙間から呼気と共に発する比較的響きの弱い音といえるのに対し、他方の差異音「ク」は、後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する無声子音「k」と母音「u」との結合した音節であり、一気に破裂させた呼気と共に発する比較的響きの鋭い音といえる。
そうすると、上記差異音は、帯有する母音「u」を共通にするものであるとしても、調音の方法・位置などが相違し、したがって、その音感、音質においても必然的に相違するものであって、その相違の程度は著しいものといえる。
加えて、上記差異音は、いずれも短い部類に属する3音構成中、称呼における識別において重要な要素を占める語頭に位置するものである。
してみると、上記差異音が両称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、両称呼は、これらをそれぞれ一連に称呼した場合においても、全体の語調、語感が相違したものとなり、互いに聞き誤るおそれはないというべきである。
したがって、本件商標と引用商標は、称呼上類似する商標と認めることはできない。
イ 外観
本件商標を構成する「SUVAN」の文字と引用商標を構成する「KUVAN」の文字は、いずれも欧文字5文字といった比較的簡潔な構成よりなるものであり、しかも、看者の注意を引きやすい語頭部において、字形が著しく異なる「S」と「K」の差異を有するばかりでなく、語頭部の文字より生ずる称呼が「ス」と「ク」の音の顕著な差異を有することも相俟って、両商標を時と所を異にして離隔的に観察した場合においても、外観上互いに紛れるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標と引用商標は、外観上類似する商標と認めることはできない。
ウ 観念
本件商標と引用商標は、いずれも特定の語義を有しない造語よりなるものと認められるから、観念においては比較することができない。
エ まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(2)取引の実情
ア 請求人は、請求人商品及びその治療対象となる本件疾患について述べ、さらに、請求人商品と被請求人商品とが出所の混同を生ずるおそれがあるとして、以下のように主張する。
請求人は、先天的な酵素(又は補酵素)の異常によってフェニルアラニンの代謝が阻害される疾病である本件疾患の治療薬(請求人商品)を、2007年に最初に開発した米国の企業であり、請求人商品は、本件疾患の画期的な治療薬として、医療関係者や患者の間で著名となっている。本件疾患の治療には、投薬のみならず、食事療法等のほか、不足しがちなビタミン類、オメガ3脂肪酸等を補給するためにサプリメント(治療ミルク)で補うことが行われている。一方、被請求人商品は、オメガ3脂肪酸を含む栄養補助食品(ドリンク)がであるから、本件疾患の治療に必要な投薬名と治療に必要な成分を含む製品名が類似関係にあれば、医療関係者はともかく、医薬品の知識がそれほどあるとはいえない患者やその家族が両者を混同するおそれは非常に高いといえる。さらに、本件商標がその指定商品中の「薬剤」に使用された場合は、医薬品の取り違えが起こっている医療現場の実際を考慮すれば、引用商標との間に混同が生じるおそれは非常に高くなるといえる。
イ 甲第5号証ないし甲第15号証によれば、請求人が開発した本件疾患の治療薬である請求人商品は、2007年(平成19年)12月に、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得たこと(甲第5号証ないし甲第8号証、甲第13号証、甲第15号証等)、本件疾患は、タンパク質を形成する20数種のアミノ酸のうち、フェニルアラニンというアミノ酸は通常体内で酵素によって代謝されてチロシンという別のアミノ酸に変わるが、この代謝を行う酵素の活性が生まれつき低いためにフェニルアラニンが代謝されずに体内に蓄積してしまう疾患であり、その治療は、食事療法を中心に行われるが、タンパク質の摂取を制限された食事だけでは、栄養不足となるため、フェニルアラニン以外のアミノ酸等を、医師が処方した「治療ミルク」(以下「本件疾患用治療ミルク」という。)により補充する方法が採られること(甲第12号証、甲第14号証)、患者そのものの数は多くなく、日本では新生児8万人に1人の割合で発症する希少遺伝子疾患の一つであること(甲第11号証、甲第12号証、甲第14号証。ちなみに米国では、12,000人から15,000人に1人の割合で発症する:甲第8号証)、請求人商品は、患者の血中フェニルアラニン濃度を下げる働きのあり、食事療法と合わせて使用される治療薬であること(甲第8号証、甲第10号証)、請求人は、請求人商品を本件疾患の治療薬として最初に開発し商品化した企業として米国の希少疾患協会に評価され、2009年(平成21年)5月に、2009年の企業賞を受賞したこと(甲第8号証、甲第9号証)、などを認めることができる。
ウ 上記イで認定した事実によれば、請求人商品は、医師によって処方される医療用医薬品であって、患者がこれを服用するに際しても、医師の指示に従って行われることが優に推認されること、また、請求人商品と併用される食事療法以外の、栄養補給のための本件疾患用治療ミルクもまた医師が処方するものであることが認められる(本件疾患用治療ミルクが市場において広く販売されている事実を裏付ける証拠の提出はない。)。さらに、請求人商品は、少なくとも米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た2007年(平成19年)12月以降に、米国において販売が開始されたものと推認することができる。
しかし、請求人商品が、本件商標が米国で登録出願された2008年(平成20年)4月25日から我が国において登録査定がされた平成21年2月16日までの間に、米国においてどの程度の販売数量があったのかなどを明らかにする証拠の提出はなく、また、我が国における請求人商品の販売時期や販売数量等を明らかにする証拠の提出も一切なく、そもそも販売の前提となる厚生労働省大臣の承認を得たと認められる証拠の提出がない。
してみると、請求人商品に付される引用商標の著名性を客観的に立証するための証拠は必ずしも十分であるとはいえず、請求人商品及びこれに付される引用商標は、その治療対象が希少遺伝子疾患の一つであることも併せ考慮すると、医療分野の極めて限られた範囲内においては、一定の周知性を有していたとしても、本件商標の登録出願時ないしその登録査定時に、我が国の需要者の間に広く認識されていたとまでは認めることができない。
したがって、取引の実情の一要素として、請求人商品及び引用商標の著名性をいう請求人の主張は採用することができない。
エ 次に、請求人商品と被請求人商品とが出所の誤認混同を生ずるおそれがあるか否かについてみるに、甲第3号証、甲第16号証及び甲第17号証によれば、被請求人商品は、インターネット上で広告された事実(その掲載日は不明である。)が認められ、これらの広告には、「スヴァンは健康に欠かせないオメガ脂肪酸やミネラル類をおいしく手軽に摂っていただけるよう開発されました。」、「特長/植物由来の各種オメガ脂肪酸やミネラル類をバランスよく摂取することができるユニークなドリンクタイプの栄養補助食品です。」、「お召し上がり方/栄養補給のため、1日1?2回、1回25ml程度を目安にお召し上がりください。」(甲第3号証、甲第16号証)、「SUVAN/4種類のオメガアミノ酸と微量ミネラルサプリメント」、「SUVANは、あなたを元気いっぱいにしてくれるイオン化ミネラルと必須アミノ酸を多く含んだ栄養サプリメントです。」(甲第17号証)などと記載されている。
上記のようにインターネット上で広告された被請求人商品は、薬局やドラッグストア等で販売され、一般の消費者が普通に購入することができる日常的な商品ということができる(広告に記載された文面からすると、被請求人商品は、医薬品や医薬部外品の範ちゅうに属する商品ではなく、「健康補助食品」、「栄養補助食品」、「健康飲料」、「サプリメント」等様々な名称で市場に出回っている、いわゆる健康食品といわれる商品の範ちゅうに属する商品と考えられる。)。
これに対して、請求人商品及び本件疾患用治療ミルクは、高度な専門知識を有する医師や薬剤師によって商品が選定され処方される医療用医薬品又はこれに準ずるものであって、およそ一般の消費者自らが商品の選択をし得るような商品ではない。
そうすると、被請求人商品と、請求人商品及び本件疾患用治療ミルクとは、商品の流通経路、取引の方法、販売場所、使用の方法等において著しく異なる商品といえる。加えて、本件疾患用治療ミルクの投与を受けている本件疾患のすべての患者は、その症状の程度が必ずしも同じとは限らず、それぞれの症状に合わせ患者一人一人にそれぞれ異なった成分や分量が医師や薬剤師によって選定され処方されると考えられるところ、このような本件疾患の患者やその家族が、市販のサプリメントを安易に購入することは一般的には考えにくいところでもある。
そして、被請求人商品と、請求人商品と併用される本件疾患用治療ミルクとが、その原材料の一部において、オメガ3脂肪酸を共通にするものであるとしても、「商標の類否判断に当たり考慮することのできる取引の実情とは、その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれをさすものであって、単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではない。」(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷、昭和47年(行ツ)第33号判決)ことは明らかである。
そうすると、被請求人商品がインターネット上で広告された事実のみをもってしては、本件商標の指定商品全般について、一般的、恒常的に本件商標が使用されていると認めることができず、したがって、取引の実情においても、前記(1)で認定した本件商標と引用商標とが類似しないとの判断を左右するような特段の事情はうかがわれない。
以上によれば、本件商標は、これをその指定商品について使用しても、その取引者、需要者をして、該商品が請求人商品と同一の生産者より流出した商品であるかのように、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれはないというべきである。他に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとみるべき特段の事情は見出せない。
なお、請求人は、本件商標がその指定商品中の「薬剤」に使用された場合は、医薬品の取り違えが起こっている医療現場の実際を考慮すれば、引用商標との間に混同が生じるおそれは非常に高くなる旨主張するが、取り違えの事故が発生した事実が存在するとしても、それは各事故ごとに様々な個別具体的な事情が原因となっていると考えられるばかりか、本件商標と引用商標とは、前記(1)認定のとおり、その称呼、外観及び観念のいずれの点においても非類似の商標というべきものであるから、高度な専門知識・注意力を必要とする医療従事者のみならず、患者等の一般の需要者の有する通常の注意力をもってすれば、本件商標をその指定商品について使用しても、請求人商品との間に混同が生じるおそれはないとみるのが相当である。
オ まとめ
したがって、取引の実情に関する請求人の主張は、いずれも理由がない。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2010-06-22 
結審通知日 2010-06-24 
審決日 2010-07-07 
出願番号 商願2008-57743(T2008-57743) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (X05)
最終処分 不成立 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 内山 進
井出 英一郎
登録日 2009-03-27 
登録番号 商標登録第5217925号(T5217925) 
商標の称呼 スバン、サバン 
代理人 柳生 征男 
代理人 井上 博人 
代理人 木村 吉宏 
代理人 小谷 武 
代理人 中田 和博 
代理人 伊東 美穂 
代理人 森川 正仁 
代理人 青木 博通 
代理人 足立 泉 
代理人 奥村 陽子 
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