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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Y35
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y35
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y35
管理番号 1226709 
審判番号 無効2008-890024 
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-03-06 
確定日 2010-11-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4651762号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成21年2月10日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10074号、平成21年10月20日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4651762号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成14年6月12日に登録出願、第35類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成15年3月7日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は、以下のとおりであり、その商標権は、いずれも現に有効に存続しているものである。

1 登録第1373591号商標は、「INTEL」の文字を横書きしてなり、昭和46年1月6日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、昭和54年2月27日に設定登録され、その後、三回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成21年8月26日に、指定商品を第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第1415771号商標は、「INTEL」の文字を横書きしてなり、昭和51年3月22日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、昭和55年4月30日に設定登録され、その後、三回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
3 登録第2332545号商標は、別掲(2)のとおりの構成よりなり、昭和63年8月19日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成3年8月30日に設定登録され、その後、商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成15年1月8日に、指定商品を第7類、第8類、第9類、第10類、第11類、第12類、第17類及び第21類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品とする指定商品の書換登録がされたものである。
4 登録第4456379号商標は、「INTEL」の文字を横書きしてなり、平成11年1月7日に登録出願、第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、平成13年3月2日に設定登録されたものである。
5 登録第4456379号商標の防護標章登録第1号は、「INTEL」の文字を横書きしてなり、平成13年3月21日に登録出願、第1類、第2類、第3類、第4類、第5類、第6類、第7類、第8類、第10類、第11類、第12類、第13類、第15類、第17類、第19類、第20類、第22類、第23類、第26類、第27類、第29類、第30類、第31類、第32類、第33類、第34類、第35類、第37類、第39類、第40類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成14年9月6日に設定登録されたものである。
6 登録第1415772号商標は、「インテル」の文字を横書きしてなり、昭和51年3月22日に登録出願、第11類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、昭和55年4月30日に設定登録され、その後、三回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
7 登録第4614499号商標は、「INTEL」の文字を標準文字で書してなり、平成10年7月27日に登録出願、第37類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として、平成14年10月18日に設定登録されたものである。
8 登録第4634154号商標は、「INTEL」の文字を標準文字で書してなり、平成12年3月30日に登録出願、第9類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成15年1月10日に設定登録されたものである。
(上記1?8の登録商標(登録防護標章を含む。)を引用する場合において、欧文字よりなる商標を総称して「『INTEL』商標」といい、すべての登録商標をまとめていうときは、以下、単に「引用商標」という。)

第3 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証?甲第129号証(枝番を含む。)を提出した(なお、甲各号証及び乙各号証において、枝番が付されているもので枝番のすべてを引用する場合は、以下、枝番の記載を省略する。)。

1 請求の理由
(1)無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第8号及び同第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
(2)利害関係
請求人は、世界的に広く知られている半導体メーカーであり、「INTEL」商標は、請求人の商号商標、ハウスマークとして同人の取扱いに係る商品・役務の出所識別標識として継続使用されており、本件商標の登録出願時には既に請求人の商品・役務を表示するものとして周知著名であった。
本件商標は、著名な「INTEL」商標の文字を看者の注意を最も強く引き付ける語頭部分に含み、かつ、請求人が実際に取り扱う役務と同一又は類似の役務を指定役務に含むものであるから、請求人の業務に係る役務と出所の混同を生ずるおそれがある。また、本件商標は、引用商標の世界的な名声、顧客吸引力に便乗するものであり、少なくとも、請求人と無関係の被請求人が本件商標を使用すれば、著名な引用商標の出所表示力が希釈化され、請求人に精神的及び経済的な損害を与えることが明らかである。
したがって、請求人は、本件審判を請求するについて利害関係を有する。
(3)無効理由
ア 商標法第4条第1項第15号について
(ア)引用商標の著名性について
a 請求人会社の沿革及び名声
請求人は、1968年7月18日にアメリカ合衆国カリフォルニア州において創業された世界最大の半導体製品メーカーである。請求人の日本での本格的な営業活動は、1971年10月開設の「インテルコーポレーション日本支社」(東京都渋谷区)により開始され、1976年4月28日には「インテルジャパン株式会社」(東京都世田谷区)として法人登記され、その後、つくば本社(茨城県つくば市東光台5丁目6番)及び東京本社(東京都千代田区丸の内3丁目1番1号)が設置された。同社は1997年に「インテル株式会社」と名称変更して現在に至る(甲第8号証?甲第16号証、甲第32号証、甲第89号証)。
半導体業界における請求人の名声は、1970年に世界初のICメモリ(商用DRAM)「1103」を、また、1971年に世界初のマイクロプロセッサ(以下「MPU」という。)「4004」を開発したことに始まり、これ以後、現在に至るまで、例えば、デスクトップ型パソコン向けMPUでは、「8008」「8086」「286」「INTEL386」「INTEL486」「Pentium」「Pentium II」「Celeron」「Pentium III」「Pentium 4」といったように、数年毎に先進技術のMPUを開発、製品化し(甲第17号証)、MPUの世界市場の約80%を専有する(甲第15号証、甲第16号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第21号証)。
請求人の世界半導体市場の売上ランキングは、1989年8位、1990年5位、1991年3位に続き、1992年に1位を獲得して以降、2003年まで12年間連続して1位を維持している(甲第15号証、甲第16号証、甲第32号証、甲第90号証)。
1990年末から1991年初頭、請求人は、「INTEL」商標を冒頭に冠した「INTEL INSIDE」の文字及び「intel inside」のロゴマーク(甲第47号証)を自己の商標として採択した。請求人は、当該商標に関して定めた「INTEL INSIDE PROGRAM」(インテル・インサイド・プログラム)(甲第72号証)と呼ばれるライセンスプログラムに基づき、これらの商標を世界中のOEMメーカーに使用許諾すると共に、ライセンシーの広告宣伝活動の支援を開始した。
請求人の上記商標は、日本国内では、日本電気、松下電器産業、日立製作所、シャープ、三菱電機、東芝、ソニー、富士通、日本IBM、セイコーエプソン、デルコンピュータといった日本を代表する大手電機・コンピュータメーカー等に使用許諾され、ライセンシーが製造販売する商品及びその広告に広く使用されている(甲第73号証)。
上記「INTEL INSIDE PROGRAM」の成功と請求人及びライセンシー各社による商標「INTEL INSIDE」及び「intel inside」の広範な使用により、一般消費者が請求人の半導体製品を搭載したパソコン等の最終製品を外部から認識することができるようになったと同時に、一般消費者が請求人の商号「INTEL」を取り込んだ商標「INTEL INSIDE」及び「intel inside」を直ちに目にする機会が増大したことで、一般消費者の間における請求人の知名度は大きく上昇した(甲第93号証、甲第94号証)。
加えて、1994年頃から急速に浸透した職場におけるパソコン一人一台時代の到来(甲第74号証)、一般家庭へのパソコンの普及、インターネット等情報通信技術産業の発展と相俟って、請求人及び引用商標は、半導体・コンピュータ関連の取引者、需要者のみならず、業種を越えて、一般消費者を含む広範囲の需要者の間でも広く知られるようになった。
輝かしい発展を遂げた請求人は経済産業界等からも高い評価を受け(甲第18号証?甲第23号証、甲第26号証、甲第28号証?甲第31号証、甲第34号証)、請求人とその取扱いに係る商品及び役務を紹介、賞賛する多数の特集記事が新聞及び雑誌に度々掲載されている。
b 辞書、用語集における掲載
「INTEL」商標及びその音訳である「インテル」は、請求人を意味するものとして英和辞典、コンピュータ用語辞典、カタカナ外来語辞典に掲載される程度まで広く認識されている(甲第95号証?甲第97号証)。
c 引用商標のブランド価値
請求人のハウスマーク「INTEL」のブランド評価額は、既に1993年の時点で178億1000万ドル(全米第3位)と推定された(甲第24号証)が、その後も上昇を続け、英国のブランド評価コンサルティング会社インターブランド(Interbrand)社が行った2000年度評価では、390億4900万ドル、世界第4位にランキングされている(甲第33号証)。インターブランド社による最新の評価でも、2003年は311億1000万ドルで世界第5位、2004年は334億9900万ドルで世界第5位にランキングされている(甲第91号証、甲第92号証)。
d 引用商標に関する商標登録
請求人は、「INTEL」商標を日本を含む世界106か国以上で商標登録している(甲第70号証)。
e 冒頭部分に「INTEL」の文字を有する商標の商標登録
請求人は「INTEL」の文字を冒頭部分に有する様々な商標についても、日本を含む世界各国で商標登録を取得している(甲第42号証?甲第69号証、甲第71号証、甲第103号証?甲第106号証)。これらは、実際に請求人が取り扱う商品・役務の商標として過去に使用され、あるいは現在使用中のものである(甲第15号証、甲第16号証)。
f 引用商標に関する防護標章登録の存在
「INTEL」の文字よりなる登録第4456379号商標は、商品・役務の区分全42区分中31区分において、防護標章登録(前記第2の5)がされており、「INTEL」商標は、特許庁ホームページで「日本国周知・著名商標」として掲載されている(甲第41号証)。
g 特許庁における著名性の認定
第三者が登録した「INTEL」の文字を冒頭部分に有する商標に対する登録無効審判及び登録異議申立ての事件における審決及び異議決定において、引用商標は、請求人の商品・役務の出所表示として著名なものであり、また、請求人の著名な略称であることが認定され(甲第35号証?甲第40号証)、これらの商標登録の無効又は取消しが確定している。
h 判決における著名性の認定
本件商標権者が所有する登録第4651763号商標(「INTELLASSET/GROUP」、以下「件外被請求人商標」という。)に対して請求人が提起した登録無効審判事件(無効2005-089032)の審決に対する審決取消請求事件(平19年(行ケ)10113号、以下「件外被請求人商標訴訟事件」という。)における平成19年12月20日付け判決は、請求人の事業活動並びに引用商標及び請求人の略称の著名性を認定している(甲第128号証)。そして、該判決は、件外被請求人商標は、請求人の著名な略称「INTEL」を包含するものであるから、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものであると認定して、審決を取り消した。
i 上記a?hより、引用商標及び請求人の著名な略称「INTEL」が、本件商標の登録出願時から登録査定時に至るまで、請求人の業務に係る商品・役務を表示するものとして取引者及び需要者の間で広く認識されていたこと、また、その著名性の程度が極めて高いものであることが明らかである。
(イ)本件商標と引用商標との類似性
本件商標は、英文字の「I」をデザインした四角形の図柄を上段に、「INTELLASSET」と横書きした文字を下段に配置してなる商標であり、それぞれが自他役務の識別標識として機能し得るものである。
上記「INTELLASSET」の文字は、全体としては何ら既成の意味を表さないものであるところ、「INTELL」の文字は、これに接する取引者、需要者の注目を最も強く惹く冒頭部分にあり、引用商標と同一の「INTEL」の文字を包含する。さらに、後半部分の「ASSET」の文字は、「資産、財産」等を意味する英単語として日本の取引者、需要者に親しまれており、その音訳の「アセット」もまた、上記意味合いの語として用いられることが多く、多数の辞書に掲載されている(甲第98号証、甲第112号証?甲第116号証)。また、これらの一般の辞書には、「アセット・アプローチ」、「アセットマネージメント」、「アセットアロケーション」、「アセットバックCP」、「アセットバック証券」、「アセット・ライアビリティ・マネージメント」、「アセットリッチ・ストック」といった業界用語も掲載されており、一般用語としてのみならず幅広い業種における一般用語としても広く親しまれている(甲第113号証?甲第127号証)。
上記事実から、「ASSET」「アセット」の語は、本件商標の登録出願前から、日常語として、さらには、各業界の一般用語としても普通に使用されていることが明らかであるから、「資産、財産」の意味で一般に広く親しまれている語ということができる。
したがって、本件商標の文字部分は、「INTELL」の文字と「ASSET」の文字を結合したものとして容易に認識理解することができるものであり、「インテルアセット」の称呼が生じる。
前半の文字部分「INTELL」は6文字からなり、最初の5文字がその配列を含めて「INTEL」商標と一致しており、両者は外観上類似する。
また、「INTELL」は「インテル」と発音されるものであり、引用商標は「インテル」と発音されるから、両者は称呼において同一である。
さらに、「INTELL」は、特定の意味、観念を生じないものであるところ、請求人の著名な商品・役務出所表示に相当する「INTEL」の文字を冒頭に包含するものであるから、引用商標及び請求人を想起、連想させ、引用商標と観念上も類似する。
したがって、本件商標の文字部分は、外観、称呼、観念のすべてにおいて、引用商標と類似性の程度が高いものである。
ちなみに、「INTEL」商標は、「INTegrated ELectronics」の大文字部分を採択して請求人が創造した創造標章であり、「INTEL」の文字が「intelligent」や「intellectual」等の英単語を直観させるものではないことは明らかである。
(ウ)引用商標が使用される役務と本件指定役務との関連性について
引用商標は、本件商標の登録出願前から、本件商標の指定役務(以下「本件指定役務」という。)と同一又は類似の役務、あるいは本件指定役務と密接に関連する役務に継続して使用されてきた。
請求人は、自己のウェブサイトにおいて、事業の管理・運営や市場調査に関する情報提供、他社の商品・役務の販売に関する情報提供を行っている。これは、請求人のビジネス向けサイト「インテル ビジネス・コンピューティング」で提供される「IT@Intel」と呼ばれるサービスであり、請求人のIT(情報通信)部門が、自己の顧客に対するサービスの経験を通じて蓄積したIT部門事業の運営・管理や経営に役立つ様々な情報を、他社のIT事業部門等向けに情報提供している(甲第77号証、甲第78号証)。
請求人が提供する上記情報は、IT事業部門の管理の戦略プラン、従業員の生産性の向上等のソリューション(課題解決方法)、ITリサーチ(市場動向の調査)、管理業務に関する情報といった、IT事業の経営に有益な様々な情報を含み(甲第79号証)、例えば、「ITの戦略的プランニング:情報技術ストラテジ」、「M&AプロセスにおけるIT管理」、「戦略的リーダーシップ:不確実な時代における戦略的管理」、「リソース計画へのアプローチ:企業環境に適合したローカライズ」、「ITについての顧客満足度を測る」、「e-Businessの価値を見極める:17の評価基準」、「生産性向上の価値:ITがもたらす生産性向上の価値を測る」、「インテルのTechnical Staff and Placement Services:スタッフ増強サービス」、「e-Businessへの進化:コミュニティ・ベースの組織の場合」、「企業IT向けのFlex Servicesモデル:受注生産方式のソリューションを実現し、企業全体におけるコスト管理を向上」、「顧客に満足感をもたらすインテルの発注と在庫の管理」等と題したホワイトペーパーや事例を紹介した資料の形で提供され、需要者がダウンロードして入手することができる(甲第80号証)。
また、上記「インテル ビジネス・コンピューティング」の中の「ソリューション・ブループリント」と呼ばれるサイトでは、デジタル・メディア、金融業、製造業、小売業、電気通信業といった業種別に、そのビジネス運営上の具体的な課題とその解決策(ソリューション)の成功事例を紹介し、顧客満足度の改善、運用コストの削減、生産性の向上等に資する情報を提供している(甲第82号証、甲第83号証)。当該サイトで情報提供される事例の詳細な資料は、需要者がダウンロードして入手することができる。それのみならず、この「ソリューション・ブループリント」では、ビジネス上の課題解決に有益な他社の商品・役務の販売に関する情報の提供も行われている(甲第84号証)。
これらに加え、請求人は、請求人の投資先企業に対して、事業の管理・運営・経営に関する助言・指導等のコンサルティング、業界の市場動向に関する情報の提供、マーケットリサーチ(市場調査)、事業効率の向上に資する商品・役務の販売に関する情報の提供等のサービスを提供している(甲第87号証)。
また、請求人は、前記第2の5のとおり、本件指定役務と同一又は類似の指定役務について登録された登録第4456379号商標の防護標章登録第1号の所有、及び本件指定役務中「求人情報の提供、自動販売機の貸与」と同一又は類似の指定役務について登録された商標登録第4634154号(甲第88号証)の所有をしている。
上記より、本件指定役務は、本件商標の登録出願前から請求人が引用商標を継続して使用している役務と同一又は類似の役務、あるいはこれらと密接に関連する役務を多く含むものであることが明らかである。
よって、本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知著名性及び独創性の程度、本件指定役務と請求人の業務に係る商品・役務との関連性の程度に照らし、本件指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標が請求人の業務に係る商品・役務と出所混同を生じるおそれがあることは明白である。
(エ)商標法第4条第1項第15号の適用について
a 出所混同のおそれの有無の認定基準は、本件商標の構成文字に基づき、本件商標が使用される指定役務を考慮して、客観的にしなければならないことは明らかである。また、被請求人の取り扱う役務や被請求人が株式会社インテラセットであること等を熟知している一部の業者や顧客のみを基準として認定すべきでないこともまた明らかである(昭和38年4月29日最高裁第二小法廷、昭和37年(オ)84号、甲第107号証)。商標法第4条第1項第15号は、本件商標と引用商標が類似するか否かという観点のみを基準として適用すべき規定ではない(東京高裁平成16年(行ケ)85号、甲第99号証)。
上述のとおり、引用商標は、本件商標が登録出願される前から本件指定役務と同一又は類似の役務、あるいは本件指定役務と密接に関連する役務に継続して使用されてきたものである。
さらに、請求人は、冒頭部分に「INTEL」の文字を包含し、「インテル」の称呼を冒頭音に含む商標を多数登録し(甲第42号証?甲第69号証、甲第103号証?甲第106号証)、かつ、これらを請求人の取り扱う個別の商品名又は役務名として実際に使用している(甲第15号証、甲第16号証)。
また、請求人の著名商標の一つである「intel inside」(甲第47号証)は、請求人のみならず、請求人から使用許諾を受けた多数のライセンシーによって使用されていることが取引者、需要者の間で広く知られている(甲第73号証)。
これらの事項に、引用商標が創造標章であり、かつ、引用商標が請求人の商品・役務出所表示として世界的に広く認識され、その著名性の程度が極めて高いものであることを加味して本件商標を考察すれば、本件商標に接した取引者、需要者はその構成中に含まれる「INTEL」の文字に着目して引用商標及び請求人を想起、連想し、請求人の業務に係る商品・役務とその出所について誤認混同するおそれがあるというべきである。
b 商標法第4条第1項第15号が、いわゆる狭義及び広義の出所混同を防止する趣旨にとどまらず、著名商標へのフリーライド、さらには、ダイリューションなどをも防止する趣旨であると解される(甲第99号証)。
本件商標は、著名商標「INTEL」の文字と「インテル」の発音を看者の注意を最も強く惹きつける冒頭部分に有することにより、引用商標の顧客吸引力にフリーライドし、あるいは、引用商標の有する強力な出所表示機能を稀釈化するものである。
引用商標は、本件商標の登録出願前から本件指定役務と同一又は類似の役務に使用されていたものである。本件指定役務を取り扱う被請求人が、本件商標の登録出願時に請求人のハウスマークとして世界的に広く知られている引用商標について不知であったとは考え難い。
本件商標は、引用商標が獲得している世界的な名声と顧客吸引力にフリーライドし、これにより、被請求人の市場参入を容易化し、不当に商業的利益を得んとする意図が窺える。それのみならず、本件商標は、引用商標の出所表示力を稀釈化して引用商標のブランド価値を低下させ、請求人の資産価値を毀損するものである。引用商標は辞書に無い創造語よりなるものであり、独創性の高い標章である。
また、引用商標は請求人の資産を形成する重要な要素となっている。近年、企業経営、企業戦略におけるブランドの重要性は一層高まっており、ブランドは無形資産として企業価値の重要な源泉とされている。企業経営におけるブランドの重要性が注目されることを背景として、わが国でも、平成14年6月24日付で経済産業省企業法制研究会から「ブランド価値評価研究会報告書」が公表されている(甲第76号証)。
このような状況の下で、取引者、需要者に請求人を容易に連想、想起させる本件商標を、請求人と無関係の被請求人が使用すれば、引用商標の出所表示力が希釈化され、これにより、世界的に著名な引用商標のブランド価値が低下し、請求人の資産に重大な損害を及ぼすことは避けられない。
本件商標は、引用商標の著名性へのフリーライド、出所表示力の稀釈化(ダイリューンョン)という観点からも本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することが明白である。
イ 商標法第4条第1項第8号について
商標法第4条第1項第8号の規定が他人の氏名・名称等及びこれらの著名な略称を含む商標の登録を禁じる趣旨は、「自己の氏名・名称等が他人によってその商品・役務の商標として使用され、これによって世人がそれらの氏名・名称等と商品・役務との間になんらかの関係があるかのように認識し、そのために氏名・名称を有する者がこれを不快としその人格権を毀損されたものであると感ずるであろうことが、社会通念上客観的に明らかであると認められる場合において」、その者の人格権を保護せんとするものであると解される(甲第75号証)。
よって、本件商標の構成文字が外観上一体的なものとして把握されているか否かを基準とすべきでなく、本件商標を見る者が本件商標から請求人を想起、連想するか否かを基準とすべきである。
引用商標が請求人の商品・役務を表示するものとして広く認識されている事実、並びに、引用商標が請求人の名称「INTEL CORPORATION」から法人格を表す「CORPOTATION」を除いた「INTEL」に相当するものであることに鑑みれば、引用商標が請求人を指し示すものとして一般に受け入れられていることは明らかである。
本件商標中、独立の自他役務識別標識として機能する「INTELLASSET」の文字部分は、請求人の著名な略称である「INTEL」の文字と「インテル」の発音を冒頭部分に含むから、本件商標に接する取引者、需要者は、冒頭部分の「INTEL」に強く惹きつけられ、請求人を想起、連想するというべきであって、本件商標の登録出願について請求人の承諾を得ていない被請求人が本件商標を本件指定役務に使用すれば、請求人の人格的利益が毀損することが明らかである。
この点につき、件外被請求人商標訴訟事件における判決は、「INTELASSET」の文字を構成中に包含する件外被請求人商標は、本号の規定に該当すると認定して審決を取り消している(甲第128号証)。
したがって、本件商標は、原告の著名な略称を含む商標というべきであるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、世界的に著名な引用商標と同じ「INTEL」の文字と「インテル」の発音を看者の注意、関心を強く引き付ける冒頭部分に有し、かつ、請求人が取り扱う商品・役務と同一又は類似の役務若しくはこれらと密接に関係する役務に使用するものであるから、請求人の業務に係る商品・役務と出所混同を生ずるおそれがあるのみならず、引用商標の著名性にフリーライドし、その出所表示力を毀損、稀釈化し、世界的に著名な引用商標の経済的な価値を低下させ、請求人に精神的及び経済的な損害を及ぼすものである。
したがって、本件商標は、公正な取引秩序の維持と需要者の利益保護を目指す商標法の目的、国際信義の精神に反するものであり、社会一般の道徳観念に反するものであって、公の秩序を害するおそれがある商標であることが明らかである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、請求人の商品や事業分野がMPUに特化した企業であって、請求人の商品や事業分野は、本件商標が指定する第35類の役務に関係せず、商標「INTEL」についての認識は、MPUの分野に限られたものである旨を主張するが、請求の理由(3)ア(ウ)で述べたとおり、請求人は、本件商標の登録出願前から、本件指定役務と同一又は類似の役務に引用商標を継続して使用している(甲第77号証?甲第85号証、甲第87号証)。また、引用商標の認知度及び著名性は、コンピューター産業界だけにとどまらず、様々な分野の産業界において、広範囲の消費者層又はユーザー層に浸透しており、「INTEL」商標の認知度及び著名性がMPUに限定されないことは疑う余地のない事実である。件外被請求人商標訴訟事件においても、「INTEL」がMPUやコンピューターを越えた広い分野で著名であることが確認されている(甲第128号証)。
よって、上記被請求人の主張には根拠がないことが明白である。
(2)被請求人は、「INTELLECT」、「INTELLECTUAL」、「INTELLIGENCE」、「INTELLIGENT」等、「INTELL」の文字を語頭に含んだ英単語が存在し、これらの単語は我が国において広く知られているから、本件商標中の文字部分と引用商標とは非類似である旨を主張し、また、引用商標は、上記既成の語の語頭部分の「I」「N」「T」「E」「L」に対応し、「INTEL」の文字を語頭に有する登録商標は多数存在するから、引用商標の独創性の程度は低い旨を主張する。
しかしながら、請求の理由(3)ア(イ)で述べたとおり、「INTEL」商標は、請求人が創造した標章であり、同等に論じることが不適切であり、造語として強い自他識別力を有しているものである(件外被請求人商標訴訟事件の判決参照)。
(3)件外被請求人商標は、原告の著名な略称である「INTEL」を含む商標と認められるから、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものに該当する、という判決が確定した(甲第129号証)。
なお、被請求人は、件外被請求人商標訴訟事件は、本件商標と全く異なる構成の商標についての判断であって参酌の余地がない旨を主張するが、本件商標は、件外被請求人商標と同様に、その構成中の主要部分として「INTELLASSET」の文字を顕著に有しており、該文字の冒頭部分の「INTELL」は、請求人の著名な略称を含んでいることが明らかである。
よって、件外被請求人商標訴訟事件の判決は、本件商標についても妥当するものである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証?乙第24号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の著名性について
ア 甲各号証によれば、引用商標は、本件指定役務とは何ら関連性のない商品であるMPUの出所表示として使用されているにとどまるものである。
(ア)甲第8号証には、「インテルの歴史はLSIの歴史です。」(2頁)との記載があり、請求人の日本法人の事業内容は「インテル社製品の販売/サービス/VLSI設計、メモリ素子、マイクロコンピュータ素子、OEMマイクロコンピュータ・ボード/システム、ソフトウエア、マイクロコンピュータ開発サポート・システム/カスタマ・トレーニング、VLSIの開発,設計」(19頁)と記載され、これら以外の業務を行っていることを窺わせる記述はない。
(イ)甲第9号証?甲第14号証は、「日経エレクトロニクス」(昭和60年発行、但し、甲第14号証は発行日不明)に掲載された広告記事であるが、同誌の主要購読者層は「製造業の先端技術者」とされており(乙第1号証)、当該雑誌が本件指定役務の分野の取引者・需要者において広く購読されているという事情はない。
(ウ)甲第17号証に、「インテルは、・・優れたマイクロプロセッサを提供し続けていきます。」(7頁)との記載があり、請求人がMPUに特化した特殊な製造業者であることが示されている。
(エ)甲第22号証?甲第27号証、甲第29号証、甲第30号証に徴しても、請求人の認知が「マイクロチップ、電子、電気機械」の分野に限定されているものであることは明らかである。
(オ)甲第73号証で使用されているのは、「intel inside」の文字を上下二段に書き、上部中央やや右寄りに空隙のある円で囲んだ図形商標であり、引用商標ではない。また、請求人ではなく、他社が製造販売するコンピューター端末機器の広告というこれらの証拠の趣旨及び「intel inside」から把握される「インテルが内側に」の意味合いからしても、これらの広告からは、上記図形商標が他社の電子計算機端末のMPUについて使用されていると認識されるにとどまる。
(カ)以上のとおり、甲各号証に照らしても、引用商標は、あくまで商品「MPU」の出所表示として使用されているにすぎない。
イ 引用商標は、MPUの出所表示として認知されているにとどまる。
(ア)甲第18号証によれば、請求人の事業がパソコン用MPUの開発・製造に集中特化したものであることが詳細に記載されている。例えば、「フオルサムに拠点を置くフラッシュメモリー部隊。(中略)売上高はMPUの10%に満たない・・」、「ただ、フラッシュメモリーや法務部門はあくまで脇役である。インテルのスピード戦略が今後も続く条件はただ一つ。パソコンの市場がこれからも高成長を続けていくことだ。」(25頁)、「MPU一本槍の戦略には危うさが付きまとう・・」(32頁)、「『パラノイア』と言われるほどインテルが新技術に固執するのは、MPUしかないという覚悟・・」(37頁)などの記載があり、請求人が半導体関連製品(乙第2号証)のなかでも専らパソコン用のMPUに特化した製造業者として紹介されている。請求人自身の主観的認識も請求人社長が「インテルの収益の基盤はMPUとMPU関連製品です。」(41頁)と述べているとおり、MPUのメーカーというものである。市場における客観的評価についても、請求人会長自らが「MPU以外の製品分野にも興味は持っています。・・ただマスコミの皆さんが注目しないだけで」(35頁)と述べているように、MPU以外の製品について請求人が認知されていないことが示されている。
(イ)甲第19号証には、「85年、インテルは日本メーカーとの競争に敗れ、半導体の主力品種であるDRAMから撤退。DRAMの開発チームをそっくりMPUに振り向けた」(89頁)や「・・MPUに経営資源を絞り込む戦略は真似できるものではない。」(90頁)との記載があり、甲第21号証には、「もちろん、翌85年にはDRAM事業から撤退するなど、インテル全体が、マイクロプロセッサに経営資源を集中して、総合半導体メーカーからの脱皮を図っていた・・」(89頁)との記載があり、請求人が半導体関連製品のなかでもパソコン用のMPUに特化した点に特徴を有する製造業者として紹介されている。
(ウ)乙第3号証によれば、「導入企業が価格以上に重視するのは問題が起こった時のサポート体制。半導体をただ供給するメーカーの発想から抜けきれないインテルには課題が多い」、「単なるMPUメーカーというビジネスモデルからの脱皮を迫られている今、インテルは第2の転期を迎えている。」等の記載がある。乙第4号証は、一般的かつ簡潔な半導体業界に関する解説書で、「インテル 悩めるMPUの巨人」の見出しのもとに、「インテルの収益の源泉はいうまでもなくパソコン用のマイクロプロセッサ。チップセットなど関連製品も含めると,売上高の8割以上を占める。」、「ただパソコン分野以外の事業で目立った成果が出ず。」、「パソコン以外ではインテルの強さをまったく発揮できず」、「インターネットブームに乗って参入したデータセンター事業はあえなく撤退。携帯電話機市場では最大手のテキサス・インスツルメンツの牙城を崩せずにいる。そのためパソコン向け事業を取り除いてしまうと、まるで万年赤字の企業。最近では成長著しいデジタル家電向け半導体への進出も狙っているが、これといった成果を上げられずにいる」と解説されている。乙第3号証は本件商標出願日前の刊行物であり、乙第4号証は本件商標登録後の刊行物であって、本件商標の登録出願時及び登録査定時を通じて請求人は、例えば、総合家電メーカーなどが多種多彩な製品を製造販売しているのとは全く対照的に、半導体関連製品の中でも、パソコンの中に格納されるMPUに特化した半導体製造業者であり、むしろ取扱い商品を「パソコン向けMPU」に特化集中している点に特徴を有する企業として認識されているのである。甲第93号証は、本件商標の登録後に発行された刊行物であるが、「今後、『インテル』ブランドの焦点をぼかさない形でプロセッサからの領域拡大を行わなければならないという課題はあるものの」と記載されている(31頁)。すなわち、本件商標が登録された後の時点で、MPU以外の領域へのブランド浸透は「今後の課題」とされている。
(エ)特許庁における従前の判断においても、引用商標の周知・著名性が及ぶ範囲が限定的に解釈されており(乙第5号証)、それは請求人の取扱い商品がMPUに限定されているからにほかならない。
ウ 請求人は多角的企業ではない。
(ア)半導体分野においてすらパソコン向けMPUにのみ特化した請求人の事業が、コンピューター向けMPUとは関係のない分野にその経営を多角化しようとしている事実を窺わせる資料は何ら存在しない。それどころか、請求人の事業展開上の転機となった85年のDRAM事業からの撤退について請求人副社長が用いている「総合半導体メーカーからの脱皮」(甲第21号証)という言葉に象徴されているとおり、請求人自ら「総花的な」経営のあり方は否定している。甲第18号証においても、「リスク回避のためにさまざまな分野に進出するようなことはしない。あくまでパソコン関連分野で高効率の経営を目指している。」(33頁)と明確に記載されている。このような企業が他業種、しかもマイクロチップやコンピューターとは何ら関係のない経営コンサルティング業務その他の本件指定役務の提供を行いうるとの一般的認識があるとは考えられない。
(イ)引用商標は、防護標章登録(前記第2の5)を除き、いずれも旧分類の第11類、現行分類の第9類、第37類、第42類に属する商品・役務について登録されているにとどまる。本件指定役務を含む商標は一件もない。甲第42号証?甲第69号証、甲第103号証?甲第106号証によれば、請求人は多数の商標登録を有しているが、甲第53号証、甲第56号証、甲第58号証を除いては、いずれも国際分類第9類ないし旧第10類?第12類に属する商品のみについて登録されている。請求人がこれらの区分に属する商品・役務については防護標章登録を有している事実から、MPUと関係を有する分野以外については使用することを前提としていないことが窺える。
エ まとめ
以上の次第で、引用商標は、請求人の業務に係る商品「MPU」の出所表示として使用され、認識されているにとどまる。また、請求人が多角的な事業展開を行っている企業と一般に認識されていることも認められず、むしろ、MPUに特化した企業として認識されているのである。
(2)本件商標は引用商標と類似しない。
ア 本件商標は図形と文字を不可分一体に結合した商標である。
本件商標は、下段に「INTELLASSET」の文字を同じ書体・同じ大きさ・等間隔で横書きした上に、当該文字部分と中心を一致させて、「I」の文字を図案化したロゴマークと把握される四角形図形を配置してなる商標である。そうすると、本件商標は、上部図形がモチーフとしている「I」の文字が下段の文字部分の頭文字である点において、観念上の関連性を看取させることに加え、外観上も、水平方向においては、図形部分と文字部分の中心線を一致させることによって左右対称にバランスよく、上下方向においては、上部の図形の幅に比較して下段の文字部分の幅が大きく、どっしりとした安定感を感じさせる纏まりのよい構成であり、全体として強い一体性を看取させるものである。
したがって、本件商標は、図形部分と文字部分とが観念上及び外観上強い一体性を有する不可分一体の商標であって、殊更図形部分と文字部分とに分離して観察しなければならない理由はない。
図形と文字を結合した商標の類否判断に関して、東京高裁平成6年(行ケ)第150号判決(乙第6号証)は、「図形と文字の結合商標にあっては、文字部分のみをいたずらに重視して図形部分の持つ情報伝達力を軽んずることは、特段の理由のない限り許されず、当該商標における図形部分と文字部分の相互関係を慎重に検討しなければならない」と判示している。
よって、本件商標と引用商標の類似性について、本件商標の文字部分のみに着目した請求人の主張は、その前提において誤りがある。
イ 本件商標の文字部分は、被請求人の英文名称の主要部を表したものにほかならない。被請求人は、経営コンサルティング・ファームとして平成7年1月に設立された株式会社インテラセットを平成18年4月に吸収合併し、同社の事業と共に本件商標及びその商号を一般承継した者である。株式会社インテラセットは、「インテラセット」の略称のもとに、多くの新聞・雑誌記事等に掲載された(乙第7号証)。
上記事実から、本件商標中の文字部分は、株式会社インテラセットの英文名称の主要部を表したものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくとも本件指定役務の属する分野においては広く認識されていたものである。
ウ 本件商標と引用商標との比較
(ア)外観
本件商標は、前記のとおり、文字と図形をバランスよく一体的に結合してなる商標である。
これに対して、引用商標は、「INTEL」若しくは「インテル」の文字よりなる構成、あるいは「in」の文字に続けて「t」、「e」及び「l」の各文字を、「t」の右下端部を伸ばして「e」の字体の中棒に結合し、その右端が「l」の下端部に接続している独特の構成からなるものであり、これらが本件商標と外観上類似するとみるべき理由は見出し得ない。
(イ)称呼
本件商標中の文字部分は、前記のとおり、被請求人の英文名称の主要部を表すものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、少なくとも本件指定役務の属する分野において広く認識されていたものである。また、本件商標の文字部分は、同じ大きさ、同じ書体で等間隔に表示されており、殊更これを「INTELL」と「ASSET」に分離して、それぞれを区切って称呼しなければならない理由はなく、本件商標の文字部分から生じる「インテラセット」の称呼は、全体で6音と簡潔であり、リズミカルに語呂よく滑らかに発音されるものである。
日本において最も広く親しまれている英語を音読する場合には、子音が母音を帯同するときは、ローマ字と同様に両者を結合した音を生じるものと理解されている(乙第8号証)。しかも、「intellectual」、「intelligence」、「intelligent」の語が「高校学習語」とされて、日本においても広く親しまれており(乙第9号証)、これらの語のように、「l(エル)」を重ねた後に母音を帯同する場合に、子音「l(エル)」に当該母音を結合した音が生じ、それぞれ「インテレクチュアル」、「インテリジェンス」、「インテリジェント」と発音されることもよく知られている。してみれば、同書同大で書かれた「INTELLASSET」の文字に接した取引者・需要者は、「LL」と「A」を結合してこれを「インテラセット」と読むとみるのが自然である。ましてや、簡易迅速を尊ぶ商取引の場面において、取引者・需要者が音数が多く、発音もしづらい「インテルアセット」の称呼をもって取引に資すると考えるのは不自然である。さらに、観念上、本件商標中の文字部分のいずれかが、本件指定役務との関係において役務の内容表示語であるなど特段自他識別力の程度が弱いという事情もない。
したがって、本件商標は、その文字部分より「インテラセット」の称呼が生じる。
他方、引用商標からは、それぞれの構成文字に応じて「インテル」の称呼が生じる。
そこで、「インテラセット」と「インテル」の称呼を対比するに、前者は6音、後者は4音と、前者が後者に対して明らかに長い称呼と認識されることに加え、前者の前半3音が後者の3音と一致するもの、後半3音は全く相違する音であって、それぞれ一連に称呼したときに聴覚上相紛れるおそれは全くないといえる。
(ウ)観念
本件商標の文字部分と引用商標は、それぞれ造語よりなるものであるから、観念上対比することはできない。故に、観念上、両者の間に相紛らわしい点もない。
(エ)まとめ
以上のとおり、本件商標の引用商標の間には外観、称呼及び観念のいずれの点においても類似する点は見出せない。
エ 取引の実情
商標法第4条第1項第15号における「具体的出所の混同のおそれ」の有無を検討するに当たっては、具体的な取引実情を考慮することは必要不可欠であるところ、本件商標は、登録出願前から登録査定日(平成15年2月19日)に至るまで継続して「インテラセット」の称呼をもって株式会社インテラセットの業務に係る商標として使用されてきたものである。また、製造者や第一次販売者の手を離れ転々流通する商品と異なり、役務の取引の場面では、商標が付された商品が役務提供の主体を離れて自由に市場を流通するということはない。とりわけ、「事業の管理又は運営,事業の管理又は運営に関するコンサルティング」をはじめとする本件指定役務の取引者・需要者にあっては、当該役務を提供する主体が何者であるか、その身元及び信用にも強い関心を有する。このため、取引者・需要者は、本件商標のみでなく、役務提供の主体の名称にも注意を払って取引に及ぶから、役務提供の主体の名称に応じて本件商標を「インテラセット」の称呼によって把握することとなる。このように、本件商標が使用される取引の実情を考慮すれば、本件商標から「インテルアセット」の称呼が生じる可能性はない。
なお、請求人は「ASSET」が既存の英単語であると述べているが、本件商標の文字部分は、各文字が同書・同大・等間隔に書してなるから、本件商標に接した取引者・需要者が後半の「ASSET」のみを分離抽出して認識することはない。
オ 件外被請求人商標訴訟事件における判決について
件外被請求人商標訴訟事件における判決は、本件商標とは全く異なる構成からなる商標について判断したものであるから、本件審判において参酌する余地はない。
カ 特許庁における登録事例
特許庁における登録事例に照らしてみても、「INTELLASSET」の文字部分が不可分一体の造語として把握されることは明らかである。
冒頭部分に「INTELL」の文字を有する語としては、「intellect」(知的機能)、「intellectual」(知的な)、「intelligence」(知性)、「intelligent」(高い知能を持つ)、「intelligentsia」(インテリ)等々多数存在し、いずれも英語が義務教育の対象とされているわが国においては広く親しまれたものである。本件指定役務、その他の役務の分野においても、冒頭部分に「INTELL」又は「INTEL」の文字を有する登録商標は多数存在する(乙第10号証)。これらの商標は、冒頭部分において「INTEL」の文字が共通するにもかかわらず、すべての文字が同書同大で等間隔に書かれているので、全体が不可分一体のものとして把握され、全体が一つの造語として自他役務識別機能を発揮するものと考えられる。
そうとすれば、同書・同大・等間隔に書してなる本件商標の文字部分にあっても、「INTEL」や「INTELL」の部分のみが分離・抽出されるとみる理由はなく、全体が不可分一体の造語と認識・把握されるとみるのが自然である。
(3)本件指定役務とMPUとの間に関連性はない。
ア 請求人は、本件指定役務の分野においては引用商標を使用していない。
(ア)請求人による「情報提供」は業として提供される「役務」ではない。
請求人は、「自己のウエブサイトにおいて、事業の管理・運営や市場調査に関する情報提供、他社の商品・役務の販売に関する情報提供を行っている。」と主張する。しかしながら、甲第77号証?甲第85号証は、請求人事業活動と請求人が扱っているMPUの性能・有用性についての情報発信ないし広告であって、自社のホームページ上で一方的、かつ、無償で公開されているものにすぎず、請求人が、独立した取引の対象として、「事業の管理・運営や市場調査に関する情報提供,他社の商品・役務の販売に関する情報提供」の役務を提供し、これに対して顧客から対価を得ている事情は窺えない。商標法上の「役務」とは、他人のためにする労務又は便益であって、その労務、便益が独立して取引の対象となりうるものをいうと解される(東京高裁平成11年(行ケ)第390号判決、乙第11号証)から、請求人が行っている情報提供は、「取引を全体として観察して、『商品』(ここでは「役務」)を対象にした取引が商取引といえるもの」(平成19年(行ケ)第10008号判決、乙第12号証)とはいい得ない。
(イ)「IT化に関する助言・相談」と本件指定役務とは別異の役務である。
仮に請求人が、件外被請求人商標訴訟事件の判決でいう「各企業のIT化に技術的なアドバイスの提供やコンサルテーション事業」を行っていたとしても、かかるアドバイスの提供やコンサルテーション(助言・相談)は、コンピュータシステムの開発や導入に関する助言・相談であって、第42類に分類される「科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウエアの設計及び開発」に属する役務であり、審査基準上、係る役務は、第35類に分類される「事業の管理及び運営」の範疇に包含される本件指定役務とは非類似の役務として扱われている(乙第13号証)。
(ウ)まとめ
以上の次第で、請求人が「事業の管理・運営」、「市場調査に関する情報提供」、「他社の商品・役務の販売に関する情報提供」等の役務を提供している事実は存在しない。故に、これらの役務について請求人が引用商標を使用している事実もありえない。したがって、「引用商標が、本件商標の登録出願前から、本件指定役務と同一又は類似の役務に使用されている」との請求人主張は、事実に反する。
イ 本件指定役務と商品「MPU」の間に関連性はない。
前述のとおり、引用商標は、MPUの出所表示として使用されているものであるから、本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性を論じるにあたり問題とされるべきは、最高裁平成10年(行ヒ)第85号判決(乙第14号証)が説示するとおり、「当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性」、本件にあっては、本件指定役務と請求人の業務に係る商品「MPU」との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者、需要者の共通性である。
そこで、商標審査基準において掲げられている商品と役務の類否の判断基準に添って以下考察する。
(ア)MPUの製造・販売と「事業の管理又は運営,事業の管理又は運営に関するコンサルティング,経営の診断に関する助言及び指導」をはじめとする本件指定役務の提供が同一事業者によって行われるのが一般的であるという事実はない。請求人以外にMPUの製造・販売を行っている主たる事業者にアドバンスド・マイクロ・デバイシス(AMD)があるが、同社が「事業の管理又は運営,事業の管理又は運営に関するコンサルティング,経営の診断に関する助言及び指導」をはじめとする本件指定役務の提供を行っているという事実はない(乙第15号証)。
(イ)MPUとは、「コンピューターの中央処理装置の機能を大規模集積回路(LSI)に納めたもの」(乙第16号証)であって、電子計算機を制御するための部品として用いられるものである。他方、被請求人が提供する「業務内容は『バーチャルCFO(最高財務責任者)』。『企業価値=時価総額』と考え、これを増大させるための戦略を株主資本利益率(ROE)などの財務指標を念頭に置いてアドバイスする。」、「損益計算書、貸借対照表から企業の問題点を分析、財務指標の向上に最適な資本構成の計画などを提案しようというのが、インテラセットの業務だ。」、「インベスター・リレーションズ(投資家向け広報活動=IR)も得意とするサービスの1つ」(乙第7号証の1)、「インテラセットは日本では珍しい財務・資本戦略が柱のコンサルタント」(乙第7号証の8)というものであり、その役務の用途は、被請求人の有する財務知識・経営ノウハウを活用して、顧客企業における経営全般をより合理的、かつ、効率的に改善するための事業計画の立案・指導である。両者の用途に一致点はない。
(ウ)MPUの販売場所と本件指定役務の提供場所が一致することがないことはいうまでもない。
(エ)請求人の主たる取引先は、甲第8号証末尾の「インテルジャパン株式会社の概要」によれば、「ファナック株式会社、日本電気株式会社、富士通株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社、株式会社日立製作所、沖電気工業株式会社、松下電器産業株式会社、株式会社リコー、三菱電機株式会社、株式会社東芝」であって、いずれも電子産業の分野において、大規模な製造設備を有しコンピューター端末を製造し、部品としてのMPUを必要とする大企業の購買部門である。他方、被請求人が提供する役務の需要者は、「ベンチャー企業向け」、「オーナー系金融機関」、「インテラセットはいま20社の顧客を抱えている。公開会社8社、未公開・ベンチャー企業12社という内訳だ」、「中堅・ベンチャー企業向け」(乙第7号証の5、乙第7号証の8、乙第7号証の11)であり、被請求人が有する財務知識・経営ノウハウを必要とする金融機関、中堅企業及びベンチャー企業の経営者である。本件指定役務の需要者と請求人商品の需要者の間に一致点はない。
してみれば,本件指定役務と請求人の業務に係る商品「MPU」との間には、何ら関連性はないという他ない。
ウ 「I」「N」「T」「E」「L」の文字列の独創性の程度は低い。
「I」「N」「T」「E」「L」の文字列は、「intelligent」や「intellectual」等、我が国において親しまれた英単語の語頭部分に見られる文字列である上、「I」「N」「T」「E」「L」の5文字を語頭に含む商標は多数採択され、登録されている実情がある(乙第10号証、乙第24号証)。そうすると、当該文字列自体は、これに接する取引者・需要者に特異な印象を与えるような独創性の高いものとはいえない。
エ 本件商標と引用商標との間に出所混同のおそれはない。
以上のとおり、本件商標と引用商標の間には何ら類似性が認められない。引用商標はあくまでMPUの出所表示として使用されているにとどまり、むしろ請求人は、その取扱い製品をMPUに特化した点に特徴を有し、そのような企業と認識されている。本件指定役務と請求人の業務に係る商品「MPU」の間に、その性質、用途若しくは目的又はその取引者及び需要者における関連性は何ら認められない。「I」「N」「T」「E」「L」の文字列を語頭に有する成語や商標はありふれており、その独創性の程度は低い。加えて、本件指定役務の取引者・需要者は、金融機関、中堅企業、ベンチャー企業等の経営者であって、その経営戦略の策定を委ねるコンサルティング会社を選定するに当たって払う注意力は極めて高いものである。以上を総合して判断すれば、本件商標が請求人の業務に係る商品「MPU」との間で出所混同を生じるおそれは全く認められない。
(4)本件商標によってフリーライド、ダイリューションは生じない。
ア 前述のとおり、本件商標が請求人の業務に係る商品「MPU」との間で出所混同を生じるおそれは認められないから、本件商標を使用することによって、引用商標へのフリーライドは生じず、引用商標の出所表示力が希釈化されることもない。
被請求人は、代表取締役の強力なリーダーシップの下、少数精鋭のプロフェッショナルの集合する独立系のコンサルティング会社であることを標榜しており、請求人との関連性について問合せを受けたことや請求人との関係があるかのごとく誤解されたことは一度もない。この点、「金融財政」(1998年6月22日、乙第7号証の13)の記載からもわかるように、特定の企業との関連性を示唆し、あるいは誤認されることは被請求人の設立動機からして、全く望むところではなく、むしろ請求人のような大企業、しかも、MPUという限定された事業分野に特化した企業との関係性を誤認されることは、潜在的な顧客範囲を狭めることになって、事業分野を問わず経営やM&Aの全般についてのコンサルティング業務を行う被請求人にとっては消極的な効果しかなく、そのような誤解を生じるような商標やロゴマークを採択することはありえないから、被請求人が引用商標にフリーライドする動機はない。
イ ところで、平成11年11月11日経済対策閣僚会議において「経済新生対策」が策定・発表され、「日本経済のダイナミズム発揮のための施策」の筆頭に「中小企業・ベンチャー企業振興」が掲げられ、「近年の開業率の趨勢的低下に見られるように、我が国経済の活力の減退が懸念される状況にある。日本経済のダイナミズムを発揮するためには、多数の中小企業が創意工夫を生かして活躍し、日本経済の牽引車となることが期待される。」とされ、中小企業・ベンチャー企業の起業・育成の援助が国策上の重要課題とされているのである(乙第17号証)。このような中で、被請求人は、まさに中小企業・ベンチャー企業に対して、高度な財務知識・金融知識及び経営ノウハウに裏打ちされたアドバイスを提供する経営コンサルタントとして活躍し、日本経済の再起・復興に貢献してきた企業である。
このような被請求人の事業活動に対して、引用商標の「顧客吸引力にフリーライドし、これにより被請求人の市場参入を容易にし、不当に商業的利益を得んとする意図が窺える」との請求人主張は、何ら根拠のない誹謗であって到底容認できない。
(5)まとめ
以上の次第で、本件商標は、引用商標等との関係において商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第8号について
(1)商標法第4条第1項第8号の立法趣旨が同号にいう「他人」の人格的利益の保護にあることからすれば、同号にいう「著名」の判断基準は形式的・画一的に適用しうるものではなく、各事案のもとで、第三者による商標における使用が人格的利益を害するに至る性質のものであるか否かの観点から、個別的に判断する必要がある(乙第18号証、乙第19号証)。
本件において、請求人はその売上の80%をMPUによるものが占め、取扱い商品をMPUに特化したことによって成功した企業として認識されていること、本件商標は、MPUとは何ら関連性の認められない「経営コンサルタント」の役務の分野について使用されるものであるという事情がある。また、「INTEL」の文字のみからなるものであれば、本件指定役務の分野においてもこれを請求人略称と認識する者がいるかもしれないが、本件において問題とされているのは、同書・同大・等間隔で書かれた造語「INTELLASSET」である。これらの事情を総合考慮すれば、被請求人が、本件指定役務について本件商標を使用したとしても、世人がこれから請求人を想起・連想し、請求人の人格的利益を害するに至るとは到底考えられない。仮に請求人主張のように、請求人略称が請求人本人を指し示すものとして一般に受け入れられているとしても、それはMPUの製造業者の略称として受け入れられているにすぎず、しかも請求人はMPUの分野に特化している点に特徴を有する企業として知られているのであるから、MPUとは何ら関連性のない本件指定役務の分野の取引者・需要者を基準として考察した場合に、本件商標から請求人を想起、認識することはない。したがって、本件事案においては、引用商標が8号にいう「著名」の要件、すなわち、本件商標が本件指定役務について使用された場合において、「人格的利益を害するに至る性質のもの」であるとするに足る著名性を有するものとはいい得ない。
(2)本件商標は請求人略称を「含む」商標ではない。
ア 立法趣旨からみた「含む」の意義
上記商標法第4条第1項第8号の立法趣旨に照らせば、同号にいう「含む」の文言は、単に物理的に「包含する」状態をもって足りるとするのは適切ではなく、問題とされる商標において、その部分がその他人の略称等として客観的に把握しうるものであることを必要とすると解する。その理由は以下のとおりである。
(ア)8号の登録阻却効が商品・役務の同一・類似を問わず全ての商品及び役務について一律に及ぶものであることや、同一のものが複数存在することを想定しがたい「他人の肖像」は別論として、商標を構成する文字が有限であることなどからすると、単に物理的に他人の略称等と同一の文字列を包含するという理由だけで、商標登録が阻却されるとすれば、他人の略称等が商標登録を阻却しうる範囲は過度に広いものとなり、自己の商品や役務について商標を使用しようとする者がその商標を採択し、登録する自由を不当に圧迫することとなる。したがって、「含む」の意義を物理的に「包含する」という意味で形式的に捉えるのは適切ではなく、8号の趣旨に照らし合目的的に限定解釈する必要性が認められるのである。
(イ)8号の立法趣旨が他人の人格的利益の保護にある以上、客観的にみてその部分が他人の略称等であると認識されないのであれば、そもそも当該他人の人格的利益が毀損されるおそれはない。すなわち、8号の「含む」の意義を合目的的に限定解釈したとしても、同号の法趣旨を没却することにはならないから、かかる限定解釈は許容されうるのである。学説上も、8号の「含む」の意義については、単に物理的に「包含する」ことをいうと解すべきとの説はなく、同号の法趣旨に照らし、人格的利益の毀損が生じることが客観的に是認されるか否かという観点から、合目的的に限定解釈すべきであるとされているのである(乙第20号証?乙第22号証)。
(ウ)以上のとおり、8号の立法趣旨に照らして同号の「含む」の意義を考察するに、全体に埋没した一部の文字列を無律的・恣意的に抽出してその登録を須く阻却することを8号が意図したものと解するべきではない。これに反して、他人の略称等を物理的に「包含する」からといって同号を理由としてその商標登録を阻却することを許すのは、商標採択の自由を不当に圧迫する一方で、人格的利益について過度に広範な保護を与えることとなって妥当ではない。
イ 本件商標への当てはめ
本件商標は、文字及び図形が結合した不可分一体の商標であって、かかる構成は、「INTELLASSET」の造語又は「I」をモチーフにした四角形図形を「含む」と評価しうるものであるとしても、これらの構成を更に分解して「INTEL」を「含む」と解釈することはできない。また、本件商標は、被請求人の名称に基づく商号商標であり、文字と図形が有機的に結合して構成全体として強い一体性を有する商標であるから、本件商標の「INTEL」の部分のみが殊更に分離、抽出されて、請求人を想起させることはない。
請求人は、「『INTELLASSET』の文字部分は、看者の注意、関心を惹きつける冒頭部分に請求人の著名な略称に相当する『INTEL』の文字と『インテル』の発音を含むから、本件商標に接した取引者、需要者は、冒頭の文字『INTEL』に強く惹きつけられる」と主張するが、前述のとおり、本件商標の文字部分から「インテルアセット」の称呼は生じない。請求人主張は、本件商標の文字部分が物理的に「INTEL」の5文字を包含することをいうにすぎず、8号の立法趣旨に照らしてなされるべき法的評価が欠落しているといわざるを得ない。請求人の論法を是とするならば、語頭部分に「INTEL」の文字を物理的に含む商標(現在有効に存続しているものの中から、「INTELLI」及び「INTELLE」を語頭に含むものを除いても44件存在する。乙第23号証)は、本来全て無効とされることになる。8号が法人の名称の略称について、そのような広範な保護を予定したものとは到底考えられない。
以上のとおり、8号の立法趣旨に照らして考察すれば、本件商標が物理的に「INTEL」の文字を包含するからといって8号に該当するということはできない。本件商標において当該部分が同書・同大・等間隔で書かれていることからすれば、これに接した取引者・需要者が語頭の「INTEL」の文字のみを分離・抽出して、請求人を指し示すものと認識、把握することはないから、「問題とされる部分がその他人の略称等として客観的に把握しうるものであって当該他人の人格権の毀損が認められるもの」とはいえない。
なお、請求人は、件外被請求人商標訴訟事件の判決を部分的に引用するが、当該判決は、前述のとおり、本件商標とは全く異なる構成からなる商標について判断したものである。
ウ 特許庁における判断事例
本件商標が請求人の略称を「含む」商標ではないという被請求人主張は、特許庁における審決・決定の判断に照らしても首肯できるものである(乙第24号証)。すなわち、他人の氏名又は名称若しくはこれらの著名な略称を物理的に包含する商標であっても、商標の構成全体の中で当該部分が独立してその他人の略称として認識、把握されることがない場合には、8号には該当しないものとして扱われているのである。本件商標にあっても、その文字部分は外観構成上全体として特定の観念を有しない一種の造語よりなるものと認識・把握されるものであるから、一連一体に構成された中から「INTEL」の文字部分のみが独立して認識されることはなく、その一部を分離・抽出し、他人の名称の略称であると認識されることもないとみるのが相当である。
エ まとめ
以上の次第で、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第7号について
(1)7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、A.その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、B.当該商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、C.他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、D.特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標が含まれるとされる(商標審査基準第3 五、参照)。本件商標がA及びCのいずれに該当するものでもないことは、明らかである。
Bについて、東京高等裁判所昭和27年10月10日判決は、「右商標法第2条第1項第4号の規定は、商標自体が矯激な文字や卑猥な図形等秩序又は風俗をみだすおそれのある文字図形、記号又はその結合等から構成されている場合及び商標自体はそのようなものでなくても、これを指定商品に商標として使用することが、社会公共の利益に反し、又は、社会の一般的道徳感念に反するような場合に、その登録を拒否すべきことを定めているものと解するのを相当とする」と述べているが、これは例えば「ボーイスカウト」の商標を特殊の汚物容器に使用するものであるような場合を想定したものと解される。本件商標はそのような商品等に使用されるものではない。
Dについて、本件商標の構成が特定の国の国民を侮辱するようなものではないことは明らかである。ある商標が「国際信義」に反するとされる場合について知的財産高等裁判所平成18年9月20日判決は、「商標登録が特定の国との国際信義に反するかどうかは、当該商標の文字・図形等の構成,指定商品又は役務の内容、当該商標の対象とされたものがその国において有する意義や重要性、我が国とその国の関係、当該商標の登録を認めた場合にその国に及ぶ影響,当該商標登録を認めることについての我が国の公益、国際的に認められた一般原則や商慣習等を考慮して判断すべきである。」と説示している。しかるに、請求人はこれらの事情について何ら述べることなく単に「国際信義の精神に反する」などと主張するにとどまり、何をもって本件商標が本号に該当すると主張するのか不明である。本件商標と引用商標の間に何ら類似性が認められないことに照らせば、本件商標登録によっていずれかの国に何らかの影響が及ぶものとは到底考えられないし、我が国の公益を損ねたり、国際的に認められた一般原則や商慣習を蔑ろにするものでもない。
してみれば、本件商標に、公正な取引秩序の維持と需要者の利益保護を目的とする商標法の目的に反する点はない。
よって、商標法第4条第1項第7号に関する請求人主張は、主張自体失当として退けられるべきである。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第8号及び同第7号のいずれにも該当しない。

第5 当審の判断
1 請求人略称「INTEL」及び引用商標の著名性について
請求人は、集積回路の研究、開発、製造及び販売を事業の主軸とする企業として、1968年(昭和43年)7月にアメリカ合衆国カリフォルニア州で設立された会社で、その社名である「Intel Corporation」のうちの「Intel」の部分は、「INTegrated ELectronics(集積されたエレクトロニクス)」の2語の語頭部分(大文字で表記)を語源として造語されたものである。そして、請求人は、1970年(昭和45年)には世界初の商用DRAM「1103」を開発・発売し、1971年11月(昭和46年)には世界初のMPU(マイクロプロセッサ)「4004」を発売した。その後、請求人はMPUの開発を推し進め、1985年(昭和60年)にはDRAM事業から撤退してMPU事業へと経営資源を集中し、その売上高は、1992年(平成4年)から2002年(平成14年)にかけて半導体製造分野において1位となり、パソコン用MPUの80パーセントのシェアを占めるなど、世界的規模で事業展開している(甲8、甲15、甲16、甲19)。
また、請求人は、別掲(2)の構成からなる商標を請求人の代表的出所標識として使用し(甲8?甲12、甲14?甲19ほか)、引用商標「Intel」をMPUの商標として使用していることが認められる(甲15、甲16、甲93)。
さらに、「INTEL」は、インターブランド社のブランド評価において、2003年及び2004年のいずれも世界5位にランキングされている(甲91、甲92)。
日本におけるパソコンの国内出荷台数は、1989年(平成元年)に200万台であったが1994年(平成6年)には300万台と見込まれ、さらに1998年(平成10年)には600万台を超えることが予想されるなど急速に拡大した(甲74)。このような状況の中で、日本の多数のパソコンメーカーの販売に係るパソコンに、請求人製品であるMPUが使用されていることを示す「intel inside」の文字を円状輪郭で囲んだロゴ・マークを表示した結果、このロゴ・マークを目にしたパソコンのエンド・ユーザーは、当該パソコンに請求人製のMPUが搭載されていることを知り得たと同時に、MPUメーカーとしての請求人の知名度もエンド・ユーザーの間においても急速に高まった(甲72、甲73)。
以上よりすれば、請求人の略称である「INTEL」及び引用商標は、本件商標が出願された平成14年(2002年)6月12日時点及び登録査定がされた平成15年2月19日の各時点において、パソコン関連の商品及び役務を取り扱う業界においてはもとより、パソコンを職場や家庭等において使用する我が国の一般消費者の間においても、請求人の略称及び請求人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されているということができる。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は、別掲(1)のとおり、図形部分と「INTELLASSET」の文字部分から成るものであるところ、図形部分は青い縁取りのある正方形内の中央に欧文字の「I」を白色で表し、「I」の文字の背景には全体として青色と白色とが混ざり合った色彩が施されており、「I」の文字の左側部分は青色が勝っているものの、同右側部分は上部において白色が青色をぼかしたように白色が強調されて描かれており、白色で表された「I」の文字は右上部から中間部にかけて背景と同じような色から成る図形である。一方、「INTELLASSET」の文字部分は、このような図形の下部に、黒字の活字体で大きく明瞭に、各文字を同一の書体・同一の大きさ・同一の間隔で配置されている。そして、本件商標の文字部分が、黒色の活字体で大きく明瞭に、かつ各文字を同一の書体・同一の大きさ・同一の間隔で表されていることに照らすと、「INTELLASSET」の文字部分は外観上一体として把握されるとみるのが自然である上、「INTELLASSET」が日本においてなじみのない語であり、一見して造語と理解されるものであるから、該文字部分は、構成全体が一体不可分のものとして認識されるものである。そうすると、本件商標は、上記図形部分からは格別の称呼及び観念を生じないもので、上記文字部分より構成文字全体に相応した「インテラセット」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと認められる。
これに対して、引用商標は、「INTEL」若しくは「インテル」の文字、又は別掲(2)のとおりの構成よりなるところ、その構成に相応し、いずれも「インテル」の称呼を生じるものである。
そこで、本件商標と引用商標を比較するに、両商標は、前記のとおりの構成よりなるから、外観上、顕著な差異を有するものである。また、本件商標より生ずる「インテラセット」の称呼と、引用商標より生ずる「インテル」の称呼とは、それぞれの音構成及び構成音数に顕著な差異を有するものであるから、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、称呼上相紛れるおそれはないものというべきである。さらに、本件商標よりは特定の観念を生じないから、本件商標と引用商標とは、観念上比較することができない。
そうとすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼、及び観念いずれの点においても相紛れるおそれはない。
なお、請求人は、本件商標の後半部分の「ASSET」の文字は、「資産、財産」等を意味する単語として幅広い業種における一般用語として広く親しまれているから、本件商標の文字部分は、「INTEL」の文字と「ASSET」の文字を結合したものと認識し、本件商標から「インテルアセット」の称呼を生ずるものであり、さらに、外観上、前半の文字部分「INTELL」は、最初の5文字「INTEL」が共通であること、該文字から「インテル」の称呼及び引用商標及び請求人に係る観念を生ずる旨主張し、本件商標と引用商標の類似性は高いと主張しているが、「INTELLASSET」の文字部分は同一の書体・同一の色・同一の大きさ・同一の間隔で表されており、「INTELL」と「ASSET」の間に空白(スペース)はないうえ、「ASSET」の部分の「A」の文字が他の文字よりも大きいなど他の文字と異なる特徴を有していることはないことにかんがみると、本件商標を見た者が「INTELLASSET」の文字部分のうち「ASSET」の部分を独立して認識すること、ひいては「INTELL」ないし「INTEL」の部分を独立して認識することは困難というべきであって、本件商標から、「インテルアセット」及び「インテル」の称呼が生じたり、請求人若しくは引用商標に係る観念が生じることもないというべきである。
そして、被請求人が本件商標を使用する「事業の管理又は運営,事業の管理又は運営に関するコンサルティング」を含む本件商標の指定役務と引用商標に係るMPU分野の商品とは、その需要者、用途等において関連性が薄いものと認められる。
してみれば、引用商標が著名な商標であることを考慮しても、本件商標をその指定役務に使用した場合に、引用商標を連想、想起するとはいえず、その役務が請求人若しくは請求人と関係のある者の業務に係る役務であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれはないものとみるのが相当である。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第8号該当性について
本件商標の文字部分「INTELLASSET」のうち冒頭の5文字は請求人の略称である「INTEL」と同一であるから、本件商標は物理的には請求人略称を含んでいることになる。
ところで、商標法4条1項8号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標はその他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護すること、すなわち、人(法人等の団体を含む)は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決)、問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず、当該他人を想起、連想できないのであれば、他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられる。そうすると、他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては、単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく、その部分が他人の略称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである。
かかる見地からみると、本件商標は、上記2において述べたとおり、「INTELLASSET」の文字部分は外観上一体として把握されるとみるのが自然である上、「INTELLASSET」が日本においてなじみのない語であり、一見して造語と理解されるものであって、特定の読み方や観念を生じないと解されるから、請求人の略称である「INTEL」は、文字列の中に埋没して客観的に把握されず、請求人を想起・連想させるものではないと認めるのが相当である。
そうすると、本件商標は物理的には請求人の略称である「INTEL」を包含するものの、「他人の氏名・・・の著名な略称を含む商標」(商標法4条1項8号)には当たらないというべきである。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は、その構成自体が矯激、卑猥及び差別的な印象を与えるような文字又は図形からなるものでなく、これをその指定役務について使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものでもないし、かつ、商標権者が本件商標を採択使用する行為に不正の目的があったものとは認められないところである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当するものではない。
5 むすび
以上のとおりであり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第15号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)

(色彩については、原本参照)

別掲(2)


審理終結日 2009-01-22 
結審通知日 2009-01-28 
審決日 2010-06-29 
出願番号 商願2002-48742(T2002-48742) 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (Y35)
T 1 11・ 23- Y (Y35)
T 1 11・ 22- Y (Y35)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 熊谷 道夫 
特許庁審判長 内山 進
特許庁審判官 板谷 玲子
瀧本 佐代子
登録日 2003-03-07 
登録番号 商標登録第4651762号(T4651762) 
商標の称呼 インテラセット 
代理人 前田 大輔 
代理人 田中 克郎 
代理人 中村 知公 
代理人 伊藤 孝太郎 
代理人 廣中 健 
代理人 宮川 美津子 
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