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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X43
管理番号 1226590 
審判番号 無効2010-890015 
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-02-22 
確定日 2010-10-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第5274738号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5274738号商標(以下「本件商標」という。)は,「ボーン・グランデ」の文字と「Buon Grande」の文字を二段に横書きしてなり,平成20年12月16日に登録出願,第43類「飲食物の提供」を指定役務として,平成21年10月23日に設定登録されたものであり,その商標権は,現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は,「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て,その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第16号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標の登録は,以下の理由により,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから,商標法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
(1)本件商標の出願の経緯
請求人は,平成20年9月9日に,大阪市中央区淡路町1-4-8ホテルマイステイズインの1階に開業した「Ristorante&Dining Bar Buon Grande 北浜店」(以下「請求人レストラン」という。)の商標として,本件商標の一部と全く同一の商標を使用している(甲第1,2号証)。
本件商標の商標権者(以下,単に「商標権者」という。)は,請求人より依頼を受けコンサルタントとして,請求人レストランの出店及び営業に関し,平成19年4月ころより同店の経営・企画等全般的な業務について助言及び指導等を行っていた。請求人は,商標権者に対し,平成19年5月ころから平成20年8月ころまで,合計6,095,000円の上記業務の報酬及び実費を支払っていた(甲第3,7,8号証)。このような経緯から,請求人と商標権者は,遅くとも平成20年8月ころまでには,商標権者が請求人に対し,上記店舗の経営・企画等の全般的な業務について助言・指導を行うサービスを提供するという内容のコンサルティング契約(以下「本件コンサルティング契約」という。)を締結した。
しかしながら,平成20年9月の請求人レストランのオープン以降,商標権者が本件コンサルティング契約に基づく委任事務の処理の状況について虚偽の報告をしていたこと等が明らかとなり,請求人は,平成20年12月9日付け内容証明郵便をもって,商標権者の不完全履行ないし債務不履行及び報告義務違反を理由として,本件コンサルティング契約を解除する旨の意思表示を行った(甲第4号証の1及び2)。また,請求人は,平成20年12月16日に,大阪簡易裁判所に適正損害賠償額算定請求調停を申し立てたが(甲第5号証の1),同調停は平成21年6月12日に不成立に終わった。商標権者は,上記調停における平成21年1月30日付けの答弁書において,請求人に対し,本件商標の無断使用禁止及び使用料相当額の損害金の支払いを求めた(甲第5号証の2,甲第6号証)。そして,請求人は,平成21年6月16日に,商標権者及びその代表取締役である牛膓透(以下「牛膓」という。)に対し,本件コンサルティング契約の解除と詐欺取消に基づき,支払い済みの報酬金等の返還及び損害賠償を求めて訴訟を提起した(甲第7号証)。
本件商標の出願日は,請求人が商標権者に対して上記調停を申し立てた日付と同日である。したがって,商標権者は,請求人との関係が悪化したことを契機として,自己の名義で本件商標の出願を行い,登録を得たことは明らかである。つまり,商標権者は,請求人のコンサルタントとして,請求人が本件商標と全く同一の商標を使用して上記店舗を営業していることを熟知していたにも関わらず,請求人の営業を妨害する意図をもって無断で本件商標の登録を行ったといえる。そこで,請求人は,平成21年5月11日付けの刊行物等提出書により本件商標について情報提供を行った。しかしながら,平成21年10月23日に本件商標が登録されたため,本件無効審判の請求を行ったものである。
なお,請求人は,「Buon」と「Grande」の文字を二段に書した構成よりなる商標を平成21年3月11日に出願しており,本件商標が引用された拒絶理由通知を受けている(甲第9号証)。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 上述のとおり,商標権者は,平成19年4月ころより,請求人のコンサルタントとして,請求人レストランの経営・企画等全般的な業務について助言及び指導等にあたっており,請求人が本件商標の一部と全く同一の商標を使用していることを熟知していた。このため,商標権者は,請求人との関係が悪化したことを契機として,請求人の営業を妨害することを意図して,無断で自己の名義で本件商標の出願を行い,登録を得たものであることは明らかである。
商標法第4条第1項第7号は,「同規定の趣旨からすれば・・特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど,当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も,この規定に該当すると解するのが相当である。」(東京高裁平成16年(行ケ)第7号審決取消請求事件判決:甲第10号証)。
そして,商標権者と請求人は,上述した関係からすれば,「商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情」に該当する。
したがって,本件商標は,登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合に該当し,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあるものである。
イ 上記と同様の判決例等を挙げると以下のとおりである。
(ア)東京高裁平成15年(行ケ)第492号判決(甲第11号証)
「原告の主張2(公序良俗違反とした認定の誤り)について・・本件登録に関し,時期を問わず,原告が,補助参加人の承諾を得たと認めるに足りる証拠はない。また・・当時,原告は補助参加人の従業員であったと認められるから,補助参加人の有する財産権を侵害しないようにすべきは当然であった。・・引用標章に係る補助参加人の財産権を尊重すべき原告が,補助参加人に無断でした本件登録が,公序良俗に反することは明らかである。」と判示している。つまり,上記判決において,会社の従業員であった者が会社の使用している商標を無断で商標登録することは,公序良俗に反するとして,商標法第4条第1項第7号に該当すると判示している。
(イ)平成6年審判第13733号審決(甲第12号証)
「本件商標と引用商標とが,図形のみならず文字を含めて同一の構成からなる点に鑑みれば,本願商標は,偶然に採択されたものではなく,表示標章をそのまま流用したものと認めるのが相当であり,この認定を左右する証左もない。・・請求人が本願商標を採択使用することは,取引の競争秩序を乱すおそれがあり,ひいては社会の一般的道徳観念に反するものというべきであるから,かかる行為は,社会的妥当性を欠くものと判断するのが相当である。したがって,本願商標は,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあり,商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから,同規定に該当するとして本願を拒絶した原査定は,妥当であって取り消すことはできない。」と説示している。つまり,上記審判において,出願日以前から他人が使用している商標と,図形の構成並びに文字及び書体が同一の構成よりなる商標は,偶然に採択されたものではなく,表示標章をそのまま流用したものと認めるのが相当であるとして,商標法第4条第1項第7号に該当すると判断している。
(ウ)商願2007-104524の拒絶理由通知書等(甲第13号証)
商願2007-104524は,「Xtec.」の文字をデザイン化した商標である(2頁)。その拒絶理由には,「この商標登録出願に係る商標は・・株式会社X線技術研究所が自己を表すために用いている標章と色彩を除いて同一の構成よりなるものであり,出願人が上記の標章と色彩を除いて同一の構成よりなる本願商標を偶然に採択したものとは考えられないことから・・この商標登録出願に係る商標は,商標法第4条第1項第7号の規定に該当します。」と記載され(2頁),株式会社X線技術研究所のウェブサイトの上部には,2頁の商標と,色彩を除いて同一の構成よりなる標章が記載されている(3頁)。この審査では,他人が自己を表すために用いている標章と,色彩を除いて同一の構成よりなる商標でさえ,偶然に採択したものとは考えられないとして,商標法第4条第1項第7号の規定により拒絶理由通知が通知された。
2 答弁に対する弁駁
被請求人は,「本件商標は,牛膓が創作し,店舗名称及び商標として提案したものにもかかわらず,請求人は,当該商標の使用及び取得について商標権者又は牛膓との間で,何らの取り決めもすることなく,何らの費用も支払うことなく,勝手に使用しているものである。・・商標権者は,本件商標創作に関する牛膓の正当な権利を擁護して本件商標の創作料,取得料若しくは使用料を求めると共に,未払いの日当・交通費・宿泊費等の支払いを求め,請求人の不当な行為の数々に対抗する必要から,本件商標の登録出願に踏み切ったものであり,本件商標登録の取得について,商標権者は,正当な権利,利益を有しており,何ら公序良俗に反するところはない。」と主張する。
しかしながら,被請求人がいうような事実が仮に存在していたとしても,そのことをもって,本件商標登録が公序良俗に反せず,無効理由を有しないということはできない。
(1)商標の創作者と商標登録の正当性の関係について
商標法は,商標法第1条の規定よりすれば,商標に化体した信用を保護することを目的とするものであって,商標を創作した者を保護することを目的とするものではなく,その保護対象は選択物であって創作物ではない。このため,商標の創作者であることをもって,直ちに商標登録を受けることについて正当な理由を有しているということはできない。
また,牛膓は商標権者ではないから,仮に牛膓が本件商標の創作者であったとしても,商標権者が本件商標の登録を受けることに正当な理由を有しているということはできない。
なお,被請求人は,本件商標を創作すること等により本件商標の登録を受けることについて「正当な権利」を有していると主張するが,被請求人がいう「正当な権利」とはいかなる権利を意味しているのかが明らかではない。
(2)本件商標の著作物性について
上述のとおり,商標の創作者であることをもって,直ちに商標登録を受けることについて正当な理由を有しているということはできない。ただし,他人の著作物からなる商標について,その著作権者等に無断で商標登録を受けた場合,その商標を「著作権者等に無断で使用することは,商標法第29条による規制の対象となるものであり・・商標法第4条第1項第7号の運用指針の1つである『他の法律によって,その使用等が禁止されている商標」に該当するものであると解される。』」(昭和58年審判第19123号審決:甲第14号証)。つまり,著作物からなる商標であれば,その創作者(著作者)であることが,その商標について登録を受ける正当な理由となり得る。しかしながら,本件商標は,著作物には該当せず,商標権者が商標登録を受けることについて正当な理由を有しないことは次のとおりである。
本件商標は,「ボーン・グランデ」及び「Buon Grande」の文字を2段に表記して構成されている。そして,これらの文字は,印刷用書体又はデザイン書体で表記されている。このような印刷用書体又はデザイン書体が著作物に該当するかどうかについての判断基準が以下の判決に示されている。
ア 最高裁平成10年(受)第332号著作権侵害差止等請求本訴,同反訴事件判決(甲第15号証)
「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには,それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり,かつ,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。」
イ 東京高裁平成6年(行ネ)第1470号不正競争行為差止請求控訴事件判決(甲第16号証)
「文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは,一般的には困難であると考えられる。仮に,デザイン書体に著作物性を認め得る場合があるとしても,それは,当該書体のデザイン的要素が『美術』の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることは当然である。」
本件商標を構成する文字は,従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性も,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性も備えておらず,また,書体のデザイン的要素が美術の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合にも該当しないことは明らかである。このため,本件商標を構成する文字は著作物には該当せず,本件商標は,著作物からなる商標に該当しない。
したがって,牛膓が,仮に本件商標の創作者であったとしても,商標権者は本件商標の登録を受けることについて正当な理由を有しているということはできず,被請求人の主張は失当である。
(3)本件商標の提案費用の支払いについて
商標権者と請求人は,コンサルタントとクライアントの関係にあった。本件商標に係る文字の組み合わせは,商標権者が請求人へ指導及び助言業務を提供する中で,請求人レストランの名称として使用するために牛膓から提案されたものである。このため,本件商標はそもそも請求人が使用することを前提としていたことは明らかである。
また,請求人は,当該商標の提案に対して商標権者が請求した費用を支払い済みである。すなわち,牛膓は,商標権者の代表取締役として,請求人からその都度求められた事項について指導を行い,それに対する費用を請求人へその都度請求している。そして,本件商標に係る文字の組み合わせは,平成19年ころに提案されており,請求人は,上記の期間を含む平成19年5月ころから平成20年8月ころまで,商標権者が指導・助言業務に対して請求した費用を支払っている。したがって,被請求人は,未払いであるというが,請求人は,当該商標に係る文字の組み合わせの提案に対して商標権者が請求した費用を既に支払っており,商標権者は本件商標の登録を受けることについて正当な理由を有しているということはできない。したがって,被請求人の主張は失当である。
(4)コンサルティング費用の未払い等について
請求人は,商標権者への平成20年9月分,10月分の日当・交通費・宿泊費の支払いをしていないことは認めるが,当該未払いは,商標権者の行為に起因するものであり,当該経緯については,現在民事訴訟にて係争中である。また,商標権者は答弁の理由中で請求人が民事訴訟において主張している内容について,不当である旨を種々述べているが,本件審判及び上記民事訴訟のいずれにおいても,その根拠を示していない。なお,平成20年11月13日に牛膓へ罵言雑言を浴びせたという商標権者の主張についても根拠のない不当なものであり,請求人は必要ならば上記のやりとりを録音した資料を提出する準備がある。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
1 本件商標の出願の経緯
本件商標は,牛膓が創作した標章であり,商標登録を受けることについて正当な権利を有している。
すなわち,商標権者は,請求人が平成20年9月9日に大阪市中央区淡路町にあるホテルマイステインズインの1階に開業した請求人レストランについて,平成19年4月ころよりその業務,経営,運営等について請求人より依頼を受けその指導及び助言にあたっていた。当該指導・助言業務は,総合的なコンサルティング契約を締結することなく,請求人からの要請を受けて牛膓が大阪に出張し,若しくは東京,横浜で,その都度求められた事項について指導・助言を行ってきたものである。請求人から商標権者に支払われた費用も,牛膓の出張の日当・交通費・宿泊費が出張日数に応じて支払われているにすぎない。しかも,この日当・交通費・宿泊費についても,未払いのものが残っており,全額の支払いはなされていない。かかる指導・助言業務提供の中で,本件商標も牛膓により創作され,店舗名称及び商標として請求人に提案されたものであるが,請求人は,本件商標の使用に際して,牛膓との間で何らの取り決めもすることなく,勝手に使用を開始したものであり,創作料はもちろんのこと,取得料又は使用料について,何らの支払いも行っていない。のみならず,逆に商標権者及び牛膓に対して,提供した指導・助言業務について,不完全履行,債務不履行及び報告義務違反を理由として,請求人と商標権者との間に存在したとするコンサルティング契約の解除と詐欺取消を主張し,支払い済みの日当等の返還及び損害賠償を求めて訴訟を提起した。
したがって,商標権者としては,以下の事情とも相俟って,牛膓が創作した本件商標について正当な権利を擁護し,正当な創作料,取得料又は使用料の支払いを請求人に求める必要があった。
すなわち,請求人は,請求人レストランを開業した平成20年9月9日以降も,商標権者にコンサルティング業務遂行を求め,商標権者もその都度,請求人の求めに応じてきたが,請求人は,商標権者に支払うべき平成20年9月分,10月分の日当(計16回分)・交通費・宿泊費を支払うことを怠ったものである(合計104万5000円の未払い)。そればかりか,請求人による突如の料金未払いに戸惑う牛膓を,請求人は,平成20年11月13日に大阪本社に呼びつけ,牛膓に対して罵詈雑言を浴びせた。
この事件以降,牛膓は,請求人と料金未払いにつき冷静に対話することを不可能と感じ,商標権者は,本件商標の創作に関する牛膓の正当な権利を擁護して本件商標の創作料,取得料又は使用料を求めると共に,未払いの日当・交通費・宿泊費等の支払いを求め,請求人の不当な行為の数々に対抗する必要から,本件商標の登録出願に踏み切ったものであり,本件商標の登録の取得について,商標権者は,正当な権利,利益を有しており,何ら公序良俗に反するところはない。
奇しくも,牛膓が本件商標の登録出願を行った平成20年12月16日は,請求人が牛膓に対して大阪簡易裁判所へ損害賠償請求などを求める民事調停を申し立てた日と同日であった。当該民事調停は,不調により終了した後,現在,大阪地方裁判所における訴訟に発展しているが,調停・訴訟における請求人の主張は,後述のとおり,根拠のない不当なものである。
2 本件商標の創作について
本件商標は,請求人が経営するパチンコ店の地下1階の和食店「大よし」の「大」のイタリア語「grande」と「よし(良)」のイタリア語「buon」を組み合わせてなる標章「Buon Grande」を,平成19年7月ころに牛膓が創作し,更に縦長六角形の枠図形と「Buon Grande」の頭文字「BG」を組み合わせた図形を考案し,これらを結合した標章を請求人に提案した(乙第1号証)。その後,この標章は,請求人の内装業者である株式会社マコト商事から依頼を受けたデザイナーの若松和之(コープデザインラボ,神戸市中央区波止場町6-8篠崎倉庫2階。以下「若林」という。)と,牛膓との間で数回の修正(前後5回)のやり取りがなされ,現在の態様となった(乙第2,3号証)。
乙第1号証は,牛膓が作成し,請求人に提案した「大一興業株式会社飲食店舗名称・ロゴマーク案」と題する書面の写しであり,1頁には,その作成日(1-20070731)及び修正日(2-20070811,2-20070822)を示す記号が記載されており,3頁には,本店B1「大よし」から「Buon Grande」の標章が創作されたことが示されており,5,6頁には,本件標章の図案の原案が示されている。また,書面の下欄には,「2007-2012 Clear Wise M lnc,All Right Reserved」との記載があり,当該書面が商標権者により2007年に作成されたものであることが理解できる。
乙第2号証は,牛膓が作成した「大一興業コンサルティング一覧表」と題する書面の写し及び標章の修正を指示する書面の写しであり,若松に対して標章の修正指示が記載されており,乙第1号証で示した原案のロゴマークが,最終的に請求人レストランで使用するロゴマーク(以下「本件ロゴ」という。別掲参照。)に至る過程が理解できる。
乙第3号証は,平成21年4月7日に牛膓と若松との間でやり取りされたEメールと若松からのEメールに添付された2008年1月7日付けの指示書と同内容の書面の写しであり,該書面には本件ロゴヘの修正を求める牛膓からの修正指示内容が記載されている。
したがって,本件商標は,牛膓が創作したものである。
3 費用の支払いについて
請求人は,牛膓の出張や打ち合わせごとの日当・交通費・宿泊費を支払ったのみであり,商標の創作,取得,使用についての費用を全く支払っていない。また,請求人が支払ったとする日当等についても,開店の当月時である平成20年9月分(12回大阪に出張,東京で打ち合わせ1回)及び翌月10月分(3回大阪に出張)の日当・交通費・宿泊費の支払いがなされていない。
4 請求人が提起した訴訟の件
(1)請求人が商標権者に対して,平成20年12月16日に大阪簡易裁判所に申し立てた民事調停が,平成21年6月12日に不成立(不調)に終わったことを受けて,請求人は,平成21年6月16日に,商標権者に対して,支払済みのコンサルティング料金等の返還及び損害賠償金支払いを求めて訴えを大阪地方裁判所に提起した(平成21年(ワ)第8697号)。上記訴訟における請求人の主張内容は,大要,以下のとおりである。
ア 請求人レストランの出店に関し,商標権者の債務不履行を理由として,請求人は,本件コンサルティング契約を解除するとして,既払のコンサルティング料金等の返還を求める。
イ 牛膓が請求人に対して,「イタリアンのプロ」,「建築士の資格をもっている」等と自己の経歴を縷々説明して,請求人レストラン出店を強く勧めたので,請求人は請求人レストラン出店に踏み切ったところ,牛膓の言辞に虚偽があったとして,本件コンサルティング契約の詐欺取消を主張して,既払報酬金等の返還を求めた。
ウ 請求人レストランの入る建物の建築工事に追加工事料金がかかったことについて,請求人の代理人として建築業者と請負工事を交渉した牛膓に落ち度があるとして,不法行為による損害賠償請求を主張した。
(2)しかしながら,請求人の主張は,以下の理由で,全く不当なものといわざるを得ない。
ア 商標権者は,請求人に対して,継続的コンサルティング契約の締結を希望したが,請求人がこれを拒絶したため,商標権者としてはやむを得ず,請求人が必要とする際,その都度,請求人の依頼に応える形で個別(スポット)的に日当等の支払いを受けてアドバイスを与えていたものであり,請求人が,どの個別契約による債務不履行を理由として解除するものか全く特定ができていない。したがって,解除を主張する個別契約と債務不履行内容を特定できない以上,契約解除をなすことはできない。
事実をみれば,商標権者により,請求人レストランの開業が達成されたものであり,そもそもコンサルティングサービスが,レストランの初年度からの黒字を保証するものではないことは,商慣習から言っても常識論としても当然のことであり,そもそも債務不履行や損害の発生などなかったというほかない。
さらに,個別(スポット)的なコンサルティング契約が多数回,長期間に渡り継続的に締結されたときには,その継続的供給契約にあって,仮にその中に解除事由が存したとしても,解除の効果を過去に遡及し得ないとするのが判例である。それゆえ,既に締結され終了した個別的契約における債務不履行は,その特定ができない以上,解除はなし得ないばかりか,かつ,解除の効果を遡及し得るものではないのである。
イ 牛膓は,自らを「イタリアンのプロ」,「建築士の資格をもっている」等と説明したことがなかったばかりか,請求人に対し,当初,無国籍料理店等の出店を勧めており,請求人の事実主張自体に誤りがある。
また,請求人は,牛膓が請求人からコンサルティング業務提供の依頼を受けることにして,請求人から事情聴取をすることにした平成19年5月9日ころに,牛膓による欺罔行為が行われたものと主張するが,同時点では,商標権者としては,請求人レストラン開業の話はその詳細が未だ分からず,請求人からの事情聴取(ヒアリング)が主体のコンサルティング・ミーティングが行われたものであった。この事情を聴取するという,商標権者にとって請求人側の事情について右も左も分からない時期であって,牛膓が請求人に対し欺罔行為をするということ自体ありえない。当然のことながら,請求人が錯誤を生じてこれに基づいて損害が生じることもあり得ず,詐欺取消の要件事実が充足されることは本来的にありえない。そもそもかかる要件事実に該当する具体的事実が請求人から主張されていない。
ウ 請求人が,自らの意思で締結した請負契約の相手方建築業者が追加工事料金を求めてきたからといって,これを商標権者に支払わせようとするのは,筋違いとしか言いようがない。
(3)以上のとおり,請求人は,正当なコンサルティング料金(日当・交通費・宿泊費)について支払いを拒絶するばかりか,本件商標の創作料・取得料若しくは使用料を支払わないまま本件商標の使用を続けている上,牛膓に対して罵詈雑言を浴びせ,深刻な恐怖心を植え付けるや,これまで支払ってきたコンサルティング料金すら全額返せと民事調停・訴訟を提起してきた。かような強硬手段を採ってくる請求人に対して,商標権者としては,法的手続(訴訟や登録)を通じなければ,その権利確保は非常に困難であり,牛膓が創作した本件商標に関する正当な権利を擁護すると共に,請求人による上記のとおりの不当な行為の数々に対抗するために,本件商標の登録を取得し,維持する正当な権利を有しているものである。
5 むすび
したがって,本件審判請求理由は,成り立たないものであり,本件商標の登録は,無効とされるべきものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
請求人は,本件商標は,請求人レストランの名称として使用している商標とその一部を全く同じくするものであり,商標権者は,請求人が本件商標とほぼ同一の文字よりなる商標を請求人レストランの名称として使用していることを知りながら,本件商標を請求人に無断で出願し,登録を得たものであるから,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものである旨主張するので,以下検討する。
(1)甲第1号証ないし甲第8号証によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 甲第1号証は,請求人レストランのリーフレットと認められるところ,その表面の右上には,「2008.9.9.Tuesday Debut!」,「リストランテ&ダイニングバー『ボーン・グランデ』ホテルマイステイズイン1Fにオープン!」と表示され,同左上には,本件ロゴが表示されている。また,同右下には,「Ristorante & Dining Bar」,「Buon Grante北浜店」の文字(「Buon Grante 北浜店」の文字部分は大きく表されている。)が表示されている。さらに,同裏面の左下にも,「Buon Grante」の文字が独立して看取される態様で表示されている。
イ 甲第2号証は,請求人レストランのウエブサイトと認められるところ,その1頁中央には,「2008.9.9.Debut!/北浜店」と表示され,同2頁には,「Buon Grante」の文字及び本件ロゴが表示されている。
ウ 甲第3号証は,「牛膓氏への顧問報酬料支払状況」との表題のある書面及び商標権者から請求人へ宛てた平成19年4月26日から2008年8月31日までの請求書である。上記「牛膓氏への顧問報酬料支払状況」における「支払日」は,「19.05.02」から「20.09.05」までとするものであり,合計金額は,6,095,000円であって,当該合計金額は,上記請求書の個々の金額を合計した金額と一致する。なお,上記請求書のうち,平成19年4月26日から平成19年11月30日までは,請求の「品名」として「コンサルティング料,交通費,宿泊費」と記載され,また,2007年(平成19年)12月29日から2008年(平成20年)8月31日までは,「業務名」を「Buon Grande 新規店舗構築 経営指導」とする「コンサルティング料,交通費,宿泊費」等が記載されている。
エ 甲第4号証の1及び2は,請求人から商標権者の代表取締役である牛膓に宛てた平成20年12月9日付け通知書及び郵便物等配達証明書である。上記通知書の内容の要旨は,請求人と商標権者との間で締結した,請求人レストランの経営・規格等業務全般についての助言・指導を内容とするコンサルティング契約(本件コンサルティング契約)について,商標権者の債務不履行等を原因として解除する旨のものである。そして,該通知書は,平成20年12月11日に牛膓に送達された。
オ 甲第5号証の1及び2は,大阪簡易裁判所が平成20年12月16日に受け付けをした調停申立書及びこれに添付された甲第1号証である。当該調停申立ては,請求人が,商標権者を相手方として,「適正損害賠償額算定請求調停」を申し立てたものであり,これに添付された甲第1号証には,黒塗り横長長方形内に,「Buon Grande」の文字を白抜きで大きく横書きし,該文字の上に「Dining Bar & Restrant Cafe」の文字を白抜きで小さく横書きした商標及び本件ロゴが表示されている(なお,上記調停申立書は抜粋であるため,申立ての趣旨・原因等は不明である。)。
カ 甲第6号証は,「平成20年(メ)第301号 損害賠償等請求事件」における商標権者の提出した平成21年1月30日付け答弁書である。商標権者は,上記オの調停申立てに対し,「第2 申立の理由に対する認否・反論」において,申立人(請求人)に対し,「相手方は,申立人に対し,甲1号証,甲2号証の各表紙に表示されたボーングランデの商標(本件商標)の無断使用をしないように求めると共に,本件コンサルタント契約終了の日以降の使用料相当損害金の支払いを求める。」などと主張した(なお,上記答弁書は抜粋であるため,答弁の詳細については不明である。)。
キ 甲第7号証は,請求人を原告とし,商標権者及び牛膓を被告とする「損害賠償等請求事件」について,大阪地方裁判所に提訴した平成21年6月16日付け訴状である。請求人は,訴状の「請求の原因」中の「第5 報酬の支払い」において,「本件コンサルタント契約に基づいて,原告は,平成19年5月2日から平成20年9月5日までの間,合計金6,095,000円を支払った。」と主張した(なお,上記訴状は抜粋であるため,請求の原因の詳細については不明である。)。
ク 甲第8号証は,「平成21年(ワ)第8697号 損害賠償請求事件」における商標権者及び牛膓の提出した平成21年8月26日付け答弁書である。商標権者及び牛膓は,上記キの訴えに対し,「第2 請求原因に対する認否・反論」中の「5 第5(報酬の支払い)について」において,「第5は,金額を除き,否認する。原告が被告に対し支払った金員は,平成19年5月9日から平成20年8月31日までの分である。」と主張した(なお,上記答弁書は抜粋であるため,答弁の詳細については不明である。)。
(2)乙第1号証ないし乙第3号証によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 乙第1号証は,商標権者の作成に係る「大一興業 株式会社/飲食店舗 名称・ロゴマーク案」,「LEVEL 1ー2」との表題のある書面であるところ,その作成日は,2007年(平成19年)7月31日であり,その修正日は,2007年(平成19年)8月11日及び同22日である(当事者間に争いのない事実)。
同書面は,「0,ブランディング1」,「0,ブランディング」,「1,CI 1・・・コーポレート・アイディンティティー」,「2,CI 2・・・コーポレート・アイディンティティー」,「3,ボーングランデコンセプトワーク」,「4,ボーングランデ ロゴマークラッシュナル」,「5,事業展開」の項目から構成されており,上記「0,ブランディング1」(1頁)には,「ブランドの管理手法」として,「1 目標に到達しているかどうか」,「2 狙ったポジショニングにいるのかどうか」,「3 狙ったユーザーが獲得できているのか」,「4 狙ったイメージが維持できているか」,「5 新しい競合,新しい諸費者ニーズが発生していないか」と項を立て,それぞれの項目ごとに説明が記載されている。同「0,ブランディング」(2頁)には,「ブランドの根本は・・」と題して,ブランドに関する説明が記載され,同「1,CI 1・・・コーポレート・アイディンティティー」(3頁)には,「本店B1階『大よし』は,1934年創業し,75年を経過して新生『大よし』が『欧風レストラン』としてオープンする。」と記載され,「店舗名」として,「Buon Grande」の文字及び「ボーン・グランデ」の文字が二段に横書にして表され(「ボーン・グランデ」の文字部分は,小さく表されている。),さらに,「店舗名の意味 大…Grande よい…Buon」の文字が記載されている。同「2,CI 2・・・コーポレート・アイディンティティー」(4頁)には,「BG」の文字を四隅を丸くした矩形輪郭で囲んだ標章と,該標章の下に,「BuonGrande」の文字が横書きにして表されている。また,同「5,事業展開」(7頁)には,「ダイイチコーポレーションの飲食事業部門から独立事業へ・・」として,「LEVEL1」?「LEVEL4」に分けて,請求人レストランの開店後の経営戦略・展開が記載されている。
イ 乙第2号証は,牛膓の作成に係る「大一興業株式会社 コンサルティング 一覧表…1」との表題のある書面及び請求人レストランに使用されると認められるロゴに関するデザインの完成に至るまでの変遷を示す指示書である(当事者間に争いのない事実)ところ,2007年(平成19年)10月1日付け指示書には,「BG」の文字を縦長8角形の輪郭で囲んだ標章と,該標章の下に,「Buon」の文字と「Grande」の文字が二段に横書きにして表されている。その後,同年同月17日付け,同年11月1日付け,2008年(平成20年)1月7日付け,のそれぞれの指示書に表されたロゴを経て,2008年1月24日付け指示書には,本件ロゴと同一のデザインのロゴが表示されている。
ウ 乙第3号証は,2009年(平成21年)4月7日に,牛膓と若松との間でやり取りされたEメール及び若松からのEメールに添付されたと認められる2008年1月7日付けのロゴのデザイン(乙第2号証)に関する指示書である。
(3)上記(1)及び(2)で認定した事実並びに当事者双方の主張を総合すれば,以下のとおり判断するのが相当である。
ア 請求人は,請求人レストランを開店するにあたり,商標権者との間で,商標権者が請求人レストランの経営・企画等業務全般についての助言・指導を行うことを内容とするコンサルティング契約(本件コンサルティング契約)を平成19年4月ころに締結した(当事者間に争いのない事実)。請求人は,本件コンサルティング契約に基づいて,商標権者に対し,平成19年4月26日から平成20年8月31日までの「コンサルティング料,交通費,宿泊費」として,合計6,095,000円を支払った。その後,請求人は,商標権者に対し,平成20年12月9日付け通知書をもって,商標権者の債務不履行等を原因として本件コンサルティング契約の解除を通知をした。また,請求人は,商標権者を相手方として,平成20年12月16日に「適正損害賠償額算定請求調停」を申し立て,さらに,請求人は,商標権者及び牛膓を被告として,平成21年6月16日に,請求人が商標権者に支払った本件コンサルティング契約に基づくコンサルティング料等(合計6,095,000円)の金員の返還等を求め,損害賠償請求の訴えを提起をした。
なお,商標権者は,本件コンサルティング契約について,継続的供給契約であった旨主張するが,本件コンサルティング契約は,商標権者が主張するように,「継続的コンサルティング契約の締結ではなく,商標権者は,請求人が必要とする際,その都度,請求人の依頼に応える形で個別(スポット)的に日当等の支払いを受けてアドバイスを与えていた」形態のものであった(当事者間に争いのない事実)といえるところ,該契約がその解除について制限されるべき継続的供給契約であったか否か,あるいは,それ以前の問題として,そもそも契約の解除・解約の条件,その他契約の内容等がどのようなものであったかなどについて,契約書が書証として提出されていない本件においては,これを認定することができない。したがって,本件コンサルティング契約が継続的供給契約であったと認めることもできない。そして,本件コンサルティング契約は,少なくとも個別的に日当等の支払いが清算された2008年8月31日までは継続していたと推認することができる(甲第3,8号証)。
イ 請求人レストランの名称は,商標権者の作成に係る「大一興業 株式会社/飲食店舗 名称・ロゴマーク案」(乙第1号証)と題する書面において,企業の有するブランドのあり方や請求人の飲食事業の今後の展開等を示す事項と共に,初めて示されたものと推認でき(他にこれを覆す証拠の提出はない。),したがって,遅くとも2007年(平成19年)8月22日(乙第1号証の2回目の修正日)には,「Buon Grante」の文字及びその片仮名表記である「ボーングランデ」の文字が請求人レストランの名称に使用されることが決定されていたとみることができる。また,それと同時に,「Buon Grante」の文字を含む請求人レストランのロゴの創作も商標権者において開始されたものといえる。そして,請求人は,2008年(平成20年)9月9日に請求人レストランを開店して以来,「Buon Grante」の文字及び「ボーングランデ」の文字(これらをまとめて,以下「引用商標」という。)を独立して自他役務の識別機能を発揮する態様で使用し,かつ,別掲のとおりの構成からなる本件ロゴを上記店舗のロゴとして使用していたことを推認することができる(甲第1,2号証)。
また,商標権者は,引用商標が請求人レストランの名称として採択された2007年(平成19年)8月22日以降の2007年12月29日から2008年(平成20年)8月31日までの請求書に,「Buon Grande 新規店舗構築 経営指導」として「コンサルティング料」等を請求していた(甲第3号証)。
ウ 上記イよりすると,引用商標及び本件ロゴ(これらをまとめていうときは,以下「引用商標等」という。)を創作したのは,商標権者ないしその代表者である牛膓と推認することができる。そして,引用商標等が請求人レストランに使用されるものであるとの事情は,商標権者においても十分に熟知していたものと認めることができる。
しかしながら,上記ア認定のとおり,本件コンサルティング契約に関する契約書は書証として提出されておらず,該契約の内容に,引用商標等の制作に関する事項が含まれていたのか否かは不明であるといわざるを得ない。また,引用商標等の制作に対する報酬に関しても,当事者双方より,いかなる証拠の提出もなく,本件コンサルティング契約に基づく報酬とは別個に支払われるべき取り決めがあったのか否かも不明といわざるを得ない。さらに,商標権者は,請求人レストランの開店前後に,請求人に対し,引用商標等についての使用許諾をしたという事実を窺わせる証拠を一切提出していない。要するに,引用商標等の制作に関し,請求人は,本件コンサルティング契約に含まれており,引用商標等の使用は当然に請求人にあると,一方,商標権者は,本件コンサルティング契約には含まれておらず,それ自体独立して提供した役務であると,それぞれの思惑の下に,当事者双方は,いずれも何らの取り決めをしていなかったと推測せざるを得ないのである。
(4)ところで,商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」のある商標は商標登録をすることができないと規定しているところ,同規定は,商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
さらに,同規定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである(平成19年(行ケ)第10391号)。
これを本件についてみると,本件商標は,商標それ自体には公序良俗違反がないことは明らかである。
一方,請求人は,引用商標を店舗名とした請求人レストランを平成20年9月9日に開店をしたのであるから,その前後において,引用商標について,商標登録出願をすることが可能であったにもかかわらず,これを怠っていたといわざるを得ない。また,商標権者の代表取締役である牛膓は,引用商標の創作をしたことが事実であるとしても,請求人との間で締結したコンサルティング契約に起因してこれを創作したのであり,仮に引用商標の制作がコンサルティング契約に含まれていないものであるとすれば,請求人に対し,引用商標の使用許諾や譲渡の申出をすることなども可能であったにもかかわらず,これをしたと認めるに足りる証拠の提出はない。そして,制作後における引用商標の帰属に関しては,請求人であるか,商標権者であるかを明らかにする証拠の提出が当事者双方から何ら提出されていない本件審判においては,これを認定することは困難であるというべきである。したがって,本件商標は,引用商標を剽窃して出願,登録されたものと,直ちに認めることはできないことは明らかである。
そして,本件のような商標権者と本来商標登録を受けるべきと主張する請求人との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであることは,上記判決が判示するところであるから,そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でないというべきである。
なお,請求人は,審判決等を示し,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害する商標である旨主張するが,上記認定のとおり,本件は,私的な権利の調整の問題であって,商標制度に関する公的な秩序の維持を図る商標法第4条第1項第7号の規定に関わる問題と解することはできず,請求人の示す審判決例等の判断に拘束されるべきものではない。
(5)以上によれば,本件商標は,商標自体が公の秩序又は善良の風俗を害する商標でないことは明らかであり,また,その出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認めることができないような場合にも該当しないというべきである。
したがって,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項第1号の規定により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 (別掲)
本件ロゴ



審理終結日 2010-08-23 
結審通知日 2010-08-25 
審決日 2010-09-08 
出願番号 商願2008-101273(T2008-101273) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (X43)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 幸一 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小川 きみえ
小林 由美子
登録日 2009-10-23 
登録番号 商標登録第5274738号(T5274738) 
商標の称呼 ボーングランデ、ボーン、グランデ、ブオン 
代理人 竹内 裕 
代理人 大槻 聡 
代理人 駒井 知会 
代理人 木村 浩幸 
代理人 小長井 雅晴 

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